(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】イオン導電体を含む構造体の電気的特性の評価方法及びそのための評価デバイス
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20230615BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20230615BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20230615BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230615BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
G01R27/02 R
H01M8/12 101
H01M8/124
H01B13/00 C
G01N27/04 Z
(21)【出願番号】P 2019034849
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-11-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 理子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-236128(JP,A)
【文献】特開2011-213588(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107219400(CN,A)
【文献】特開2008-070226(JP,A)
【文献】特開2004-047232(JP,A)
【文献】特開2012-042283(JP,A)
【文献】特開2011-119178(JP,A)
【文献】特開平02-116761(JP,A)
【文献】特開2007-298388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 27/00-27/32、
G01N 27/00-27/10、
27/14-27/24、
H01M 8/00-8/0297、
8/08-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン導電体を含む構造体の電気的特性の評価方法であって、
前記イオン導電体を含む2つの第1の固相体と、前記第1の固相体と界面を形成し、セラミックスを含む第2の固相体とを、前記第2の固相体を介して前記2つの前記第1の固相体が接続されるように接合した接合領域を備える接合体を準備し、
一方の前記第1の固相体、前記第2の固相体及び他方の前記第1の固相体を通過する複数の異なる端子間距離で交流インピーダンス法によって抵抗を測定する、方法。
【請求項2】
前記接合体は、層状体である前記第2の固相体の表面及び裏面のそれぞれ少なくとも一部に接続されるように前記2つの前記第1の固相体が接合されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接合体は、前記2つの前記第1の固相体のうち少なくとも一方が長尺体であって前記接合領域から遠位方向に延在している接合体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン導電体は、固体酸化物形電解質であり、前記セラミックスは、固体酸化物形燃料電池の電極材料である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記イオン導電体は、固体酸化物形電解質であり、前記セラミックスは、固体酸化物形電解セルの電極材料である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記交流インピーダンス
法は、
前記抵抗を4端子法
により測定する、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
イオン導電体を含む構造体の電気的特性の評価用デバイスであって、
前記イオン導電体を含む2つの第1の固相体と、セラミックスを含む第2の固相体とを、前記第2の固相体を介して前記2つの前記第1の固相体が接続されるように接合した接合領域を有する接合体と、
一方の前記第1の固相体、前記第2の固相体及び他方の前記第1の固相体を通過する複数の異なる端子間距離を設定可能に前記2つの前記第1の固相体に対して配置される2以上の電極と、
を備える、デバイス。
【請求項8】
さらに、一方の前記第1の固相体、前記第2の固相体及び他方の前記第1の固相体を通過する複数の異なる端子間距離を設定可能に前記2つの前記第1の固相体に対して配置される2以上の電極、を備える、請求項7に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、イオン導電体を含む構造体の電気的特性の評価方法及びそのための評価デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン導電体である固体酸化物形電解質を用いた固体酸化物形燃料電池(SOFC)や固体酸化物形電解セル(SOEC)の開発が進められている。これらはいずれも、セラミックス材料を積層一体化した構造体をセルとして用いている。こうした固体酸化物形電解質を用いたセル(以下、単に、固体酸化物形電解質セルともいう。)の性能は、電極材料や電解質材料の個々の特性だけでなく、電極/電解質界面における拡散や中間化合物の生成などの様々な挙動によっても影響を受けることがわかっている。典型的には、こうした界面に形成される抵抗層の影響が挙げられる。したがって、固体酸化物形電解質と電極との界面に由来する抵抗(界面由来抵抗)の評価は極めて重要である。
【0003】
従来、この種の界面由来抵抗の評価には、固体酸化物形電解質を含む固体酸化物形電解質セルを構築し、その発電特性又は電解特性を評価することにより、間接的に界面由来抵抗を評価していた(例えば、特許文献1,非特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/1100970号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【文献】橋本真一ら、Electrochemistry,75,No5(2007)、426-432「SOFCの電気化学的測定法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のごとく、セル自体の発電特性や電解特性を評価する方法では、界面由来抵抗に由来する抵抗成分に加えて、電極反応抵抗も影響することから、界面由来抵抗を直接的に評価することが困難であった。
【0007】
本明細書は、固体酸化物形電解質などのイオン導電体と当該イオン導電体と接する電極などのセラミックスとの間の界面由来抵抗をより直接的に評価する方法及びデバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、固体酸化物形電解質と電極との積層形態に着目して種々検討したところ、ある種の形態を採ることにより、これらの層間の界面由来抵抗をより直接的に測定できるという知見を得た。こうした知見に基づき、本明細書の開示は、以下の手段を提供する。
【0009】
[1]イオン導電体を含む構造体の電気的特性の評価方法であって、
イオン導電体を含む2つの第1の固相体と、前記第1の層と界面を形成し、セラミックスを含む第2の固相体とを、前記第2の固相体を介して前記2つの前記第1の固相体が接続されるように接合した接合領域を備える接合体を準備し、
一方の前記第1の固相体、前記第2の固相体及び他方の前記第1の固相体を通過する端子間距離で交流インピーダンス法によって抵抗を測定する、方法。
[2]複数の異なる前記端子間距離で抵抗を測定する、[1]に記載の方法。
[3]前記接合体は、層状体である前記第2の固相体の表面及び裏面のそれぞれ少なくとも一部に接続されるように前記2つの第1の固相体が接合されている、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記接合体は、前記2つの第1の固相体のうち少なくとも一方が長尺体であって前記接合領域から遠位方向に延在している接合体である、[1]~[3]に記載の方法。
[5]前記イオン導電体は、固体酸化物形電解質であり、前記セラミックスは、固体酸化物形燃料電池の電極材料である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記イオン導電体は、固体酸化物形電解質であり、前記セラミックスは、固体酸化物形電解セルの電極材料である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記交流インピータンスは、4端子法で測定する、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]2以上の異なる前記端子間距離で電気抵抗を測定する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]イオン導電体を含む構造体の電気的特性の評価用デバイスであって、
イオン導電体を含む2つの第1の固相体と、セラミックスを含む第2の固相体とを、前記第2の固相体を介して前記2つの第1の固相体が接続されるように接合した接合領域を有する接合体、を備える、デバイス。
[10]さらに、一方の前記第1の固相体、前記第2の固相体及び他方の前記第1の固相体を通過する複数の異なる端子間距離を設定可能に前記2つの第1の固相体に対して配置される2以上の電極、を備える、[9]に記載のデバイス。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本明細書に開示される評価方法によって得られる複素インピーダンスプロット(a)とボードプロットの一例の概要(b)を示す図である。
【
図2】本明細書に開示される評価方法に用いる評価用デバイスの一例の概要を示す図である。
【
図3】本明細書に開示される評価方法に用いる評価用デバイスの他の例(a)~(d)の概要を示す図である。
【
図4】本明細書に開示される評価方法によって評価された電解質層と電極層との界面に由来する界面由来抵抗と端子間距離と焼成温度との関係を示す図である。上段が、複素インピーダンスプロットであり、下段がボードプロットである。
【
図5】本明細書に開示される評価方法によって評価された電解質層と電極層との界面に由来する界面由来抵抗と端子間距離と積層領域の面積との関係を示す図である。上段が、複素インピーダンスプロットであり、下段がボードプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の開示は、イオン導電体を含む構造体の評価方法並びに評価用デバイスに関する。
【0012】
本明細書に開示されるイオン導電体を含む構造体の評価方法(以下、本評価方法ともいう。)によれば、例えば、本評価方法に規定される接合体を用いて、2つの第1の固相体、第1の固相体を通過する複数の異なる端子間距離で交流インピーダンス法により抵抗を測定することにより、第1の固相と第2の固相との間の界面に由来する抵抗成分、すなわち、界面由来抵抗を容易に直接的に取得することができる。
【0013】
本評価方法をイオン導電体に適用して得られる複素インピーダンスプロットとボードプロットの一例の概要を
図1に示す。本評価方法を用いてイオン導電体を含む回路について交流インピーダンス測定を行うことで、
図1(a)に示す、複素インピーダンスプロットを得ることができる。この複素インピーダンスプロットからバルク抵抗及び粒界抵抗を検出することができる。本評価方法において規定する接合体にて交流インピーダンス法により抵抗を測定することで、粒界抵抗よりも低周波側、すなわち、緩和時間が長くなる側に、大きな円弧状のピークを観察することができる。この低周波側における円弧状のピークが第1の固相体と第2の固相体との界面由来抵抗であることは、本評価方法に規定する接合体を利用して異なる端子間距離を設定して交流インピーダンス法にて抵抗を測定することで同定することができたものである。
【0014】
すなわち、本評価方法によって、端子間距離A及びB(ただし、A>B)で、交流インピーダンス測定を行うことで、
図1(b)に示すボードプロット(例えば、横軸に、周波数の対数をとり、縦軸に、インピーダンスの虚成分をとる。)を得ることができる。このボードプロットによれば、プロットの低周波数側に、緩和時間の長い抵抗成分が現れ、順次、より高周波側に緩和時間が短い抵抗が現れる。また、このボードプロットの低周波数側の抵抗成分は、端子間距離A、Bに依存せずに同等程度のインピーダンス虚成分を有する抵抗成分として現れている。端子間距離に関わらず同じ周波数位置で同等程度のインピーダンス虚成分を採るピークは、界面由来抵抗であると考えられ、その周波数から、
図1(a)の低周波側の円弧状ピークであることが同定される。
【0015】
以上のことから、本評価方法によれば、第1の固相体と第2の固相体との界面由来抵抗を直接的に容易に取得できる。
【0016】
さらに、本評価方法によれば、異なる端子間距離A及びB(ただし、A>B)で、交流インピーダンス測定を行うことで、
図1(b)のボードプロットに示すように、界面由来抵抗を、ボードプロットの低周波数側に、端子間距離に依存しないピークとして、その周波数及びインピーダンス虚成分を取得できる。このため、異なる端子間距離で交流インピーダンス測定により抵抗を測定することにより、確実に、界面由来抵抗を同定できる。その結果、高い精度で正確に、イオン導電体とセラミックスとの間の界面由来抵抗などの電気的特性を直接的に評価することができる。
【0017】
異なる端子間距離で抵抗を測定するには、例えば、異なる端子間距離となるように複数の電極対を構成可能な電極群を設けたり、異なる端子間距離となるように配置可能な可動型電極対を備えることが有利である。
【0018】
また、
図1(b)に示すように、本評価方法によれば、例えば異なる焼成温度C及びD(ただし、C>D)で焼成して得られた接合体について交流インピーダンス測定を行うことで、焼成温度C、Dに依存して、界面由来抵抗が変化した(
図1(b)の場合においては、焼成温度が高い場合(焼成温度C)において、界面由来抵抗(ここでは、インピーダンス虚成分として表す。)が増大することが容易に判定できる。)。
【0019】
さらに、本評価方法によれば、
図1(c)に示すように、第1の固相体と第2の固相体との界面(接合領域)の大きさ(面積)を異ならせて、交流インピーダンス測定により抵抗を測定しても、ボードプロットの低周波側に接合領域の大きさや端子間距離にかかわらず同等の周波数位置に、異なる大きさのインピーダンス虚成分を有する界面由来抵抗に基づくピークが現れる。すなわち、接合領域の面積が変動しても、接合領域面積に依存しない周波数の抵抗成分として安定的に同等の周波数位置のピークとして取得できる。したがって、接合領域の形成状況により接合領域面積が変動しても安定的に界面由来抵抗を見出すことができ、簡易にかつ再現性よく界面由来抵抗を評価できる。
【0020】
なお、本明細書において、イオン伝導体とは、特に限定するものではないが、公知の電子以外のイオンを伝導するイオン伝導体や新たに評価対象とすべき新規のイオン伝導体が挙げられる。典型的には、固体酸化物形燃料電池、固体酸化物形電解セル、固体酸化物形電解質を用いたセンサなどに適用される、酸化物イオン伝導体などが挙げられる。
【0021】
また、本明細書において、イオン伝導体を含む構造体とは、評価の目的である、固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルなどの構造体のほか、本明細書に開示される評価デバイスを含んでいる。本評価方法によれば、固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルにおける一部の構造を模した評価用デバイスについて電気的特性を評価することで、固体酸化物形燃料電池等におけるイオン伝導体とセラミックス間の反応性や、固体酸化物形燃料電池等自体の性能や製造条件、イオン伝導体自体の特性を、いずれも容易に評価することができる。
【0022】
また、本評価方法は、イオン伝導体のみならず、当該イオン導電体と界面を形成する第2の層としてのセラミックス固相体についても、固体酸化物形燃料電池等におけるセラミックスとイオン伝導体との間の反応性や、当該セラミックスを用いた場合の固体酸化物形燃料電池等自体の性能や製造条件、当該セラミックス自体の特性を、いずれも容易に評価することができる。すなわち、本評価方法は、イオン伝導体と界面を形成する第2の固相体の評価方法としても実施できる。
【0023】
以下、本評価方法に用いるデバイス及び当該デバイスを用いた評価方法について、適宜図面を参照しながら説明する。
【0024】
(イオン導電体を含む構造体の電気的特性の評価用デバイス)
図2に、本明細書に開示される評価用デバイス(以下、単に、本デバイスともいう。)の一例の概要を示す。
【0025】
(接合体)
図2に示すように、本デバイス2は、イオン導電体を含む2つの第1の固相体6a、6bと、セラミックスを含む第2の固相体8と、を、少なくとも備える接合体4を備えている。
【0026】
第1の固相体6a、6bは、それぞれ、1種又は2種以上のイオン伝導体を含むことができる。第1の固相体6a、6bは、互いに同じ組成であってもよいが、異なっていてもよい。第1の固相体6a、6bは、イオン伝導体のほか、評価目的に応じて種々の材料や添加剤を含むことができる。第1の固相体6a、6bは、緻密質体であってもよいし多孔質体であってもよいが、概して緻密質体である。第1の固相体6a、6bは、例えば、固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルの固体酸化物形電解質である。
【0027】
第1の固相体6a、6bの形状や大きさ等は特に限定するものではないが、例えばそれぞれ、種々の断面形状を有する角柱状体、円柱状体等が挙げられる。角柱状体の場合には、いわゆるシート状体のように扁平な層状体が含まれる。
【0028】
なお、第1の固相体6a、6bが、第2の固相体8と接する領域において、第2の固相体8に当接する面を超える面積を備えていることを排除するものではない。
【0029】
第2の固相体8は、1種又は2種以上のセラミックスを含むことができる。第2の固相体8は、セラミックスのほか、評価目的に応じて種々の材料や添加剤を含むことができる。第2の固相体8は、緻密質体であってもよいし多孔質体であってもよいが、概して多孔質体である。第2の固相体8は、例えば、固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルの電極(正極又は負極)である。
【0030】
第2の固相体8の形状や大きさ等は特に限定するものではないが、例えば、種々の断面形状を有する角柱状体、円柱状体等が挙げられる。角柱状体の場合には、いわゆるシート状体のように扁平な層状体が含まれる。
【0031】
接合体4は、第2の固相体8を介して2つの第1の固相体6a、6bが接続されるように接合した接合領域10a、10bを有することができる。第1の固相体6a、6bや第2の固相体8のそれぞれの形状等にもよるが、例えば、
図2に示すように、接合体4は、層状体である第2の固相体8の表面及び裏面のそれぞれ少なくとも一部に接続されるように2つの第1の固相体6a、6bが接合されている形態を採ることができる。この形態において、接合領域10aは、第1の固相体6aと第2の固相体8の一方の表面との界面を構成しており、接合領域10bは、第1の固相体6bと第2の固相体8の他方の表面との界面を構成している。
【0032】
なお、第2の固相体8が、第1の固相体6a、6bと接する界面を超える面を備えていることを排除するものではない。
【0033】
また、第1の固相体6a、6bと第2の固相体8との間には、中間相を備えるようにしてもよい。例えば、固体酸化物形電解質と電極などのセラミックスとの中間化合物の生成を抑制する中間層を導入して、界面抵抗由来の抑制程度を評価する場合において、かかる中間相が介在されうる。
【0034】
図2に例示する形態では、第1の固相体6aは、接合領域10aから遠位方向に向かってその長軸方向に沿ってそのまま延在する長尺体であり、第1の固相体6bは、接合領域10bから遠位方向であって、前記第1の固相体6aの延在方向とは反対方向にその長軸方向に沿って延在する長尺体に構成されている。この形態においては、第1の固相体6a、6bを用いた、複数の異なる端子間距離を容易に設定することができる。
【0035】
例えば、この形態では、第1の固相体6a、6bは、それぞれ、幅0.3mm、厚み0.1mm、長さ25mmの長尺のシート状体であり、第2の固相体8は第1の固相体6a、6bの重複方向に沿って5mm~10mm程度とすることができる。また、端子間距離A~Cは、例えば、40mm~20mmの範囲において設定可能となっている。
【0036】
接合体4は、
図2に例示されるもののほか、最終的には、一方の第1の固相体6a、第2の固相体8及び他方の第1の固相体6bを通過するように1以上の端子間距離を設定することができれば特に限定するものではない。
【0037】
例えば、
図3(a)に示すように、一方の第1の固相体6aが長尺状体であるが、他方の第1の固相体6bは、第2の固相体8に対する界面と同等程度の面を有する第1の固相体6aよりも短尺状体とすることができる。なお、第1の固相体6bを任意の長さの短尺体とすることができる。この形態によれば、複数の異なる端子間距離は、第1の固相体6a側で設定することが容易である。
【0038】
また例えば、
図3(b)に示すように、双方の第1の固相体6aが長尺状体であるが、第2の固相体8の側面に他方の第1の固相体6bが接続された接合体4とすることができる。なお、第1の固相体6bを任意の長さの短尺体とすることもできる。この形態によれば、第2の固相体8の表面とその側面にイオン伝導体が接続されるような構造体の評価に有用である。
【0039】
また例えば、
図3(c)に示すように、双方の第1の固相体6a、6bが長尺状体であるが、第2の固相体8を、これらの長軸方向に沿って挟持するように接合領域10を形成した接合体4となっている。なお、第1の固相体6bを任意の長さの短尺体とすることもできる。この形態によれば、こうした第1の固相体6a、6bのそれぞれの長軸に沿った接合領域10を備える構造体の評価に有用である。この形態においては、第1の固相体6a、6bを用いた、複数の異なる端子間距離を容易に設定することができる。
【0040】
また例えば、
図3(d)に示すように、接合体4は、第1の固相体6a、6bの間に第2の固相体8を任意の形態で介在させたものであってもよい。こうした接合体4は、異なる端子間距離を設定しないで、界面由来抵抗を評価するのに適している。
【0041】
このような接合体4は、公知の方法で製造することができる。例えば、第1の固相体6a、6b及び第2の固相体8をそれぞれ評価しようとする材料で形成されたものを所定の形態で一体化して焼成して接合体4とすることができる。また、こうした材料の原料層を積層して焼成してセラミックスを合成するとともに一体化してもよい。さらに、第1の固相体6a、6bの一方の特定領域に対して、公知の物理化学的な方法、例えば、CVD、ALD、電気化学蒸着、イオンビーム、マグネトロン、電子ビームを利用したスパッタリング又は物理蒸着(PVD)、各種の印刷法、ゾルゲル法などにより、第2の固相体8を形成して、さらに、第1の固相体6bを一体化することもできる。接合体4は、必要に応じて適宜追加焼成等することができる。
【0042】
(電極)
本デバイス2は、この接合体4に対して、一方の第1の固相体6a、第2の固相体8及び他方の第1の固相体6bを通過する端子間距離を設定可能な2以上の電極群を備えることができる。例えば、
図2に示す形態では、2つの第1の固相体6a、6bに対してそれぞれ少なくとも1個配置される6個の電極20a~20fを備えている。
【0043】
こうした電極群を構成する複数の電極は、第1の固相体6aに少なくとも1個、第1の固相体6bの少なくとも1個備えられる。一対の電圧印加のための電極を備えることで、第1の固相体6a、第2の固相体8及び第1の固相体6bについて、一つの端子間距離で交流インピーダンスを測定することができる。一つの端子間距離で交流インピーダンスを測定することで、例えば、ボードプロットの低周波数側に、第1の固相体6a、6bと第2の固相体8との間の界面由来抵抗を同定できる。
【0044】
図2に示す形態においては、4端子法による交流インピーダンス測定を意図しているため、これらの電極群は、いずれも、交流電圧が負荷されるインピーダンス測定用電極20a~20fを構成して、電子負荷用の一対の電極22a、22bを別途備えている。なお、2端子法を用いる場合には、電極群の電極を電子負荷用に兼用することができる。なお、当業者であれば、適宜、3端子法や5端子法にも適用することができる。
【0045】
これらの複数の電極20a~cと電極20d~fは、それぞれから一つの電極が選択されて一対の電を構成して、これらの電極間の交流インピーダンスが測定されるように構成されている。
図2に示す形態では、電極20a、20fを対として端子間距離Aで、電極20b、20eを対として端子間距離Bで、電極20c、20dを対として端子間距離Cで、交流インピーダンスが測定できるようになっている。なお、電極対は、種々の形態で設定することができる。複数の異なる端子間距離で交流インピーダンスを測定することにより、例えば、ボードプロットにより、端子間距離に依存しないで同等のインピーダンス虚成分を呈するピークを検出でき、当該ピークを、界面由来抵抗に対応していると同定できる。
【0046】
電極20a~20fの構成材料は、特に限定するものではないが、第1の固相体6a、6bとの反応性が抑制又は回避されている材料であることが好ましい。こうした構成材料としては、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)などの電気伝導性に優れる金属が好適である。これらの金属材料は、焼付け法、メッキ法及びペースト法により適宜形成される。
【0047】
なお、
図2においては、電極20a~20c及び電極20d~20fの3個ずつ、第1の固相体6a、6bに固定的に設けたが、これに限定するものではなく、それぞれの第1の固相体6a、6bに1個以上の任意数の電極を備えることができる。また、第2の固相体8を挟んで、第1の固相体6a、6bに対して可動電極を備えることもできる。例えば、プローブを備えるような触針式の可動電極を備えることで、1又は2以上の端子間距離で交流インピーダンス測定が可能となる。
【0048】
本デバイス2は、また、電圧印加するための電極22a、22bに対して、電圧印加するための周波数可変型交流負荷装置及び電流測定装置を備えていてもよい。また、本デバイス2は、電極20a~20fのうちの一対の電極間の電圧を測定するための電圧測定装置を備えることもできる。
【0049】
本デバイス2は、交流インピーダンス測定に際して、適宜加熱装置、温度制御装置、真空装置、不活性ガス供給装置、還元性ガス供給装置などを適宜備えることができる。
【0050】
(イオン導電体を含む構造体の評価方法)
本評価方法は、以上説明した本デバイス2を用いて、一方の第1の固相体6a、第2の固相体8及び他方の第1の固相体6bを通過する端子間距離で交流インピーダンス法によって抵抗(インピーダンス)を測定する。本評価方法によれば、既に説明したように、例えば、ボードプロットにより、容易に、第1の固相体6a、6bと第2の固相体8との間の界面由来抵抗を同定することができる。なお、本評価方法によれば、界面由来抵抗のほか、粒界抵抗及びバルク抵抗についても同定可能である。後段で詳述するが、交流インピーダンス法から得られた情報に基づいて、こうした抵抗成分を同定することができたのであれば、本デバイス2に基づく等価回路を構成し、フィッティングを行うことができる。
【0051】
本評価方法においては、複数の異なる前記端子間距離で抵抗を測定することが好適である。こうすることで、確実に、端子間距離に依存しない同等のインピーダンス虚成分を呈する界面由来抵抗を同定できるし、端子間距離に依存するインピーダンス虚成分を呈する粒界抵抗及びバルク抵抗を同定できる。
【0052】
本評価方法において用いる交流インピーダンス法は、2端子法、3端子法、4端子法及び5端子法など、いずれの形態で測定されてもよい。好ましくは、4端子法又は5端子法である。
【0053】
本評価方法に用いる交流インピータンス法は、特に限定するものではないが、一般的には、10Hzから1MHzオーダーの周波数帯で周波数スィープを行い、その際のインピーダンススペクトルを測定する。
【0054】
本評価方法によって、周波数の対数を横軸として、種々の縦軸(例えば、インピーダンスの虚数成分又はその対数、インピーダンスの実成分又はその対数、インピーダンスの絶対値又はその対数、位相差θ)を採るボードプロットにより、界面由来抵抗を容易に同定し検出することができる。特に、異なる複数の端子間距離を用いることによって、正確に界面由来抵抗を同定し検出することができる。これにより、本デバイス2の接合体4に用いたイオン伝導体の特性、焼結性、イオン伝導体とセラミックスとの界面での抵抗層の形成程度、セラミックスの特性、焼結性等など、種々の特性を評価することができるようになる。
【0055】
また、本評価方法に得られる界面由来抵抗は、第1の固相体6a、6bと第2の固相体8の接合領域の面積が変動しても、ボードプロット等において同等の周波数においてピークとして現れるため、接合体4の作製時において接合領域の大きさが変動しても、安定的に界面由来抵抗を見出すことができ、簡易にかつ再現性よく界面由来抵抗を評価できる。
【0056】
本評価方法は、交流インピーダンス法により、例えば、ボードプロット等を利用することで、簡易に、接合体4の界面における抵抗層の発生やその抵抗の程度を測定できる。本評価方法を用いて、界面由来抵抗のインピーダンスを正確に算出するには、さらに、例えば、等価回路に交流インピーダンス法によって得られた特性をフィッティングする工程を備えることができる。フィッティング工程を備えることにより、界面由来抵抗のほか、粒界抵抗及びバルク抵抗並びに合算抵抗を求めることができる。
【0057】
なお、等価回路としては、例えば、バルク抵抗のRC回路、粒界抵抗のRC回路及び界面由来抵抗のRC回路を直列で備える回路を想定することができる。等価回路は、用いる第1の固相体6a、6bや第2の固相体8等に応じて適宜設定される。
【実施例】
【0058】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0059】
本実施例では、イオン伝導体としての固体酸化物形燃料電池の固体酸化物形電解質である8YSZ、セラミックスとして固体酸化物形燃料電池の電極材料としてLSCFを用いて接合体を形成した。なお、接合体は、8YSZの長尺体(焼成後のサイズ幅0.3mm、厚み0.1mm、長さ25mm)を第1の固相体とし、一方の8YSZ長尺体の末端側に片面にLSCFペーストを、前記長尺体の幅一杯に乾燥後に概ね長さ5mmとなるように塗布して、当該ペーストを乾燥後、当該LCSF層に他方の8YSZ長尺体を一方の8YSZ長尺体に対して一続きの長尺体となるように積層して、1050℃及び1150℃で、空気中で2時間焼成した。これら2種の接合体に対して、
図2に示す形態で、Pt製の電極を付与し、端子間距離A~Cについて、それぞれ交流インピーダンス法により抵抗を測定した。この測定により得られた複素インピーダンスプロット及びボードプロットを
図4に示す。また、端子間距離及び接合領域面積(LCSF層の長さ及び幅に基づく)、測定結果に基づくバルク抵抗、粒界抵抗及び界面由来抵抗も併せて
図4に示す。
【0060】
図4に示すように、焼成温度によって抵抗成分のピーク位置(周波数)及び大きさ(インピーダンス虚成分)は異なるが、同じ焼成温度の場合には、端子間距離が異なっていても、同じ周波数及びインピーダンス虚成分が一致するピークが見出された(特に、
図4の下段のボードプロット、横軸:周波数の対数値、縦軸:インピーダンス虚成分)。一方、端子間距離に応じて、端子間距離が長いと、インピーダンス虚成分が大きく、端子間距離が短いと、インピーダンス虚成分が小さくなる、ピークが見出された(同ボードプロット)。これらのピークは、ボードプロットの低周波側が、界面由来抵抗に相当し、高周波側が、粒界抵抗に相当するものと考えられた。
【0061】
焼成温度に関してボードプロットを観察すると、焼成温度が1150℃のとき、すなわち、他方の焼成温度1050℃よりも100℃高くなることで、低周波側に見出される界面由来抵抗に相当するピークのインピーダンス虚成分は、9倍程度になっていることがわかった。すなわち、100℃の焼成温度の上昇で抵抗が9倍上昇する抵抗層が形成されていることがわかった。
【実施例2】
【0062】
本実施例では、乾燥後のLSCF層の塗布長を概ね10mmとし、焼成温度を1150℃2時間に規定する以外は、実施例1と同様にして接合体を作製し、端子間距離A~Bについて、それぞれ交流インピーダンス法により抵抗を測定した。実施例1で測定済みの塗布長5mmの結果と併せて
図5に示す。また、端子間距離及び接合領域面積(LCSF層の長さ及び幅に基づく)、測定結果に基づくバルク抵抗、粒界抵抗及び界面由来抵抗も併せて
図5に示す。
【0063】
図5に示すように、LSCF層(接合領域)の面積が2倍になると、抵抗は約半分となった。しかしながら、接合領域面積が変動しても、ボードプロットにおける低周波側のピーク位置は、端子間距離にかかわらず変わらなかった。以上のことから、本評価方法では、電極層などの介在層の面積の大小にかかわらず安定して界面由来抵抗を同定し検出できることがわかった。また、このような接合体作製操作によって変動しうるLSCFの面積によらないで安定的に界面由来抵抗を同定できることから、複数の異なる端子間距離での交流インピーダンス測定によらなくても、容易に、界面由来抵抗の変動を検出でき、一定以上の精度で界面由来抵抗を同定し検出できることがわかった。