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特許7296232中実球状粉末の製造方法及び造形製品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】中実球状粉末の製造方法及び造形製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/14 20060101AFI20230615BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20230615BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20230615BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20230615BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230615BHJP
【FI】
B22F9/14 Z
B22F3/105
B22F3/16
B33Y40/00
B33Y10/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019061338
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158851
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】阿野 元貴
(72)【発明者】
【氏名】丸子 智弘
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 智明
(72)【発明者】
【氏名】岩本 祐一
(72)【発明者】
【氏名】北 聡司
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-518939(JP,A)
【文献】特開2018-009240(JP,A)
【文献】特開2004-091843(JP,A)
【文献】特開平06-240309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00-9/30
B22F 3/00-3/26
B29C 64/00-64/40
B01J 2/00- 2/30
B33Y 40/00
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径1μm~1000μmの凝集粒子及び/又は固結粒子を含む第1の粉末原料を準備し、前記第1の粉末原料をプラズマ炎中に導入し、厚さ1μm~50μmの表層殻を有する中空球状粉末を作製するA工程と、
前記中空球状粉末を粉砕処理し、該中空球状粉末の中空形状を粉砕して、中実の第2の粉末原料を得るB工程と、
前記第2の粉末原料をプラズマ炎中に導入し、溶融させ、固化させて中実球状粉末を得るC工程とを有し、
前記第1の粉末原料がIr、Ru、Ir基合金及びRu基合金のうちいずれか1つからなることを特徴とする中実球状粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第2の粉末原料を分級するD工程及び/又は前記中実球状粉末を分級するE工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の中実球状粉末の製造方法。
【請求項3】
前記中実球状粉末のJIS Z 2504:2012「金属粉‐見掛密度測定方法」に規定される見掛密度が真密度に対して50%以上である請求項1又は2に記載の中実球状粉末の製造方法。
【請求項4】
前記中空球状粉末の粉砕処理は、衝撃粉砕であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の中実球状粉末の製造方法。
【請求項5】
前記第1の粉末原料が、電解粉、還元粉、メカニカルアロイ粉及び被覆粉のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の中実球状粉末の製造方法。
【請求項6】
高エネルギー照射によって、被照射粉末を少なくとも部分的に溶融して固化させた層を積層して造形製品を形成する工程を有する付加製造法において、前記被照射粉末が、請求項1~のいずれか1つに記載の中実球状粉末の製造方法により製造した中実球状粉末であることを特徴とする造形製品の製造方法。
【請求項7】
前記造形製品の相対密度が99%以上であることを特徴とする請求項に記載の造形製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中実球状粉末の製造方法及び造形製品の製造方法に関し、例えば、高融点かつ難加工金属からなる高流動性の中実球状粉末の歩留まりが高い製造方法、及びその中実球状粉末を付加製造用材料として使用する高い相対密度の造形製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イリジウムやルテニウムなどに代表される高温特性に優れた難加工金属材料を工業用製品へ利用する場合、機械加工やプレス加工は困難であり、加工に要する時間が長く、労力や材料ロスが非常に多いため、複雑形状を有した製品の製造は極めて困難であるという問題がある。
【0003】
近年、新たな製造技術として金属の付加製造法が注目を集めている。特に電子ビーム溶融法(Electron Beam Melting、EBM)や選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting、SLM)、レーザー金属堆積法(Laser Metal Deposition、LMD)がよく知られており、いずれの手法も、複雑形状製品を完成品に近い形状で製造するニアネットシェイプ成形を可能としている。イリジウムやルテニウムなどの高温特性に優れた難加工金属材料にこの技術を用いることで、従来技術では困難であった高温特性に優れた複雑形状製品を製造することができ、より広い用途へと展開することができる。
【0004】
付加製造法において、材料となる粉末の性質は、製品品質に影響する非常に重要な要素となっている。材料となる粉末の供給において、粉末が細かすぎたり、粗すぎたりする場合、凝集による流動性の阻害や、偏析を示すことから、付加製造プロセスが不安定となり、相対密度の低い造形製品となる(例えば、非特許文献1を参照。)。したがって、品質に優れた造形製品を得るためには、高い流動性と粒子径分布(粒度分布と同義)の狭さが、材料となる粉末に要求される。一般的に、材料となる粉末としては、粒子径が揃った球状粉末が使用される。
【0005】
付加製造法で用いられる球状粉末の作製方法では、生産性の高さから、溶湯の細流を供給する方式のガスアトマイズ法が主流をなしている。この作製方法は、供給する溶湯を貯めておくタンディッシュや、溶湯の細流を流出させるオリフィスを必要とする。
【0006】
タンディッシュのような容器や、オリフィスのような冶具を用いずに、高融点金属の球状粉末を作製する方法として、電極誘導溶解ガスアトマイズ法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0007】
一般的に、ガスアトマイズ法や、電極誘導溶解ガスアトマイズ法は溶湯へガスを噴射した球状粉末製造方式であるため、自然と溶湯内部に噴射ガスが入り込み、その結果、球状粉末において意図しない粒子内孔が残ってしまう問題が生じる。この問題は、造形製品の空孔や欠陥の要因となると敬遠されており、球状粉末において粒子内孔が残らないようにする対策が課題となっている(問題については、例えば、非特許文献2を参照。)。
【0008】
タンディッシュのような容器や、オリフィスのような冶具を用いずに、高融点金属の球状粉末を製造する方法として、ワイヤー供給方式のプラズマアトマイズ法が提案されている(例えば、非特許文献3を参照。)。
【0009】
さらに、タンディッシュのような容器や、オリフィスのような冶具を用いずに、高融点金属の球状粉末を製造する方法として、粉末供給式のプラズマ処理技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。この技術では、供給した原料粉末の粒度に応じて球状粉末が仕上がるため、原料粉末の大きさが調整できれば、歩留まり良く球状粉末の製造が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平01‐062404号公報
【文献】特開平04‐246104号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】A. Simchi,Metallurgical and Materials Transactions B,35B,2004,pp.937‐948.
【文献】京極秀樹、外21名、技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構編「~設計者・技術者のための~金属積層造形技術入門」技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構、株式会社ウィザップ、2016年9月、pp.63‐66.
【文献】A. Alagheband and C.Brown,Metal Powder Report 53(11),1988,pp.26‐28.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、溶湯の細流を供給する方式のガスアトマイズ法では、融点が1900℃を超えるような高融点金属の球状粉末の製造となると、供給する溶湯を貯めておくタンディッシュや、溶湯の細流を流出させるオリフィスなどに使用する材質が極めて高い温度に耐えられず、この方式のガスアトマイズ法は適用不可となる。
【0013】
また、特許文献1に記載の方法では、溶解に使用する原料を規定の丸棒の形状へ加工する必要があるため、イリジウムやルテニウムなどの難加工材料においては、原料の準備に多大な時間と労力が費やされてしまう問題が生じる。また、溶湯内部に噴射ガスが入り込むことにより、特許文献1に記載の方法で作製した粉末には、意図しない粒子内孔が残る問題が生じる。加えて、この作製した粉末は粒子径分布が広く、SLMやLMDに適した粒子径の球状粉末は、この作製した粉末の全量に対して10~20%程度しか得られない問題が生じる。
【0014】
非特許文献3に記載の方法では、溶解に使用する原料を規定のワイヤーの形状へ加工する必要があるため、イリジウムやルテニウムなどの難加工金属材料においては、原料の準備に多大な時間と労力が費やされてしまう。また、非特許文献3に記載の方法で作製した粉末は粒子径分布が広く、SLMやLMDに適した粒子径の球状粉末は、この作製した粉末の全量に対して10~20%程度しか得られない。
【0015】
特許文献2に記載の方法では、化学還元法で製造した粒子径の揃ったイリジウム原料粉末をプラズマ処理した際、得られたイリジウム球状粉末は、真球度が高く、流動性に優れ、粒子径は粉末原料と同程度に揃っていたことから、付加製造に適した粉末製造方法であると考えた。しかし、この球状粉末を使用し、付加製造によって製造した造形製品には、内部に多数の空孔が存在し、また、この造形製品の相対密度は90%と低いため、特許文献2に記載の方法では製品になり得ない問題がある。
【0016】
上記空孔の要因調査を進めるうちに、本発明者らは、造形に使用した球状粉末が1μm~10μm程度の意図しない粒子内孔を有することを見付け出し、この粒子内孔が造形時に造形製品に残留し、空孔が形成されると考察した。また、本発明者らは、多孔質体を原料に使用したことによって球状粉末において粒子内孔が発生したと考え、従って、中実粉末原料を用意することで、粒子内孔のない球状粉末を作製でき、相対密度の高い造形製品が作製可能となると考察した。
【0017】
上記考察を基に、本発明者らは気孔率の低い粉末原料の作製に取り組んだ。原料粉末の製法として切削加工を選択し、旋盤を用いてインゴットから切削粉末を作製した。しかし、イリジウムは切削負荷が高いことから、切削速度は極めて遅く、本発明者らの切削加工では1時間以内に50gの切削粉末を作製するのが限界であった。得られた切削粉末は粒子径分布が広いため、衝撃粉砕加工を採用し、ボールミルによりイリジウム切削粉末を細かく成形して、粒度を調整した。しかし、イリジウムは高強度であるため、衝撃粉砕加工には衝撃エネルギーの高いステンレス冶具を使う必要があった。結果、衝撃粉砕加工に使用した冶具が削れて、イリジウム粉末への混入が多くなってしまった。このように、イリジウムは難加工材料であることから、気孔率の低い粉末を歩留まり良く作製するのは非常に困難であった。
【0018】
そこで本開示は、高融点かつ難加工材料を原料とし、歩留まりが高く、所望の粒度に成形することが容易である、高流動性の中実球状粉末の製造方法、及びその中実球状粉末を付加製造用材料として使用する高い相対密度の造形製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、粉末を球状化した際に残存した粒子内孔に着目し、この粒子内孔をコントロールして、粉砕が容易な薄い表層殻を有する中空球状粉末を得て、この中空球状粉末を粉砕処理して中実粉末原料を作製し、この中実粉末原料を球状化することによって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明に係る中実球状粉末の製造方法は、粒子径1μm~1000μmの凝集粒子及び/又は固結粒子を含む第1の粉末原料を準備し、前記第1の粉末原料をプラズマ炎中に導入し、厚さ1μm~50μmの表層殻を有する中空球状粉末を作製するA工程と、前記中空球状粉末を粉砕処理し、該中空球状粉末の中空形状を粉砕して、中実の第2の粉末原料を得るB工程と、前記第2の粉末原料をプラズマ炎中に導入し、溶融させ、固化させて中実球状粉末を得るC工程とを有し、前記第1の粉末原料がIr、Ru、Ir基合金及びRu基合金のうちいずれか1つからなることを特徴とする。従来、球状粉末を製造するときは、粉末原料の融点以上の耐熱治具が必要であるが、本発明では、耐熱治具にあまり触れることなく球状粉末を製造することが可能であるため、熱による製造設備の損耗を抑えつつ、高硬度で加工が困難であった融点1900℃以上の高融点のIr、Ru、Ir基合金及びRu基合金でも中実球状粉末を製造することができる。
【0021】
本発明に係る中実球状粉末の製造方法では、前記第2の粉末原料を分級するD工程及び/又は前記中実球状粉末を分級するE工程をさらに有することが好ましい。所望の粒度の中実球状粉末にすることをより容易にし、中実球状粉末の流動性をより高めることができる。
【0022】
本発明に係る中実球状粉末の製造方法では、前記中実球状粉末のJIS Z 2504:2012「金属粉‐見掛密度測定方法」に規定される見掛密度が真密度に対して50%以上であることが好ましい。相対密度が高い造形製品の原料とすることができる。
【0023】
本発明に係る中実球状粉末の製造方法では、前記中空球状粉末の粉砕処理は、衝撃粉砕であることが好ましい。中空球状粉末を細かくし、粒度を調整した細かい第2の粉末原料を得ることができる。
【0026】
本発明に係る中実球状粉末の製造方法では、前記第1の粉末原料が、電解粉、還元粉、メカニカルアロイ粉及び被覆粉のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。粉砕が容易な中空球状粉末を容易に作製することができる。
【0027】
本発明の造形製品の製造方法は、高エネルギー照射によって、被照射粉末を少なくとも部分的に溶融して固化させた層を積層して造形製品を形成する工程を有する付加製造法において、前記被照射粉末が、本発明に係る中実球状粉末の製造方法により製造した中実球状粉末であることを特徴とする。
【0028】
本発明の造形製品の製造方法では、前記造形製品の相対密度が99%以上であることが好ましい。品質に優れた電極、加工用工具及びμ‐PD法用ルツボなどの複雑な形状の造形製品を製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
本開示によれば、高融点かつ難加工材料を原料とし、歩留まりが高く、所望の粒度に成形することが容易である、高流動性の中実球状粉末の製造方法、及びその中実球状粉末を付加製造用材料として使用する、高い相対密度の造形製品の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1(a)】実施例1における第1のIr粉末原料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、低倍率のSEM画像である。
図1(b)】実施例1における第1のIr粉末原料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、高倍率のSEM画像である。
図2】実施例1における第1のIr粉末原料の積算粒子径分布及びIr中空球状粉末の積算粒子径分布を示すグラフである。
図3】実施例1におけるIr中空球状粉末のSEM画像である。
図4】実施例1におけるIr中空球状粉末断面の光学顕微鏡画像である。
図5】実施例1における分級後の第2のIr粉末原料断面の光学顕微鏡画像である。
図6】実施例1における分級後の第2のIr粉末原料の積算粒子径分布及びIr中実球状粉末の積算粒子径分布を示すグラフである。
図7】実施例1における分級後のIr中実球状粉末のSEM画像である。
図8】実施例1における分級後のIr中実球状粉末断面の光学顕微鏡画像である。
図9(a)】実施例2における第1のRu粉末原料のSEM画像であり、低倍率のSEM画像である。
図9(b)】実施例2における第1のRu粉末原料のSEM画像であり、高倍率のSEM画像である。
図10】実施例2における第1のRu粉末原料の積算粒子径分布及びRu中空球状粉末の積算粒子径分布を示すグラフである。
図11】実施例2におけるRu中空球状粉末のSEM画像である。
図12】実施例2におけるRu中空球状粉末断面の光学顕微鏡画像である。
図13】実施例2における分級後の第2のRu粉末原料断面の光学顕微鏡画像である。
図14】実施例2における分級後の第2のRu粉末原料の積算粒子径分布及びRu中実球状粉末の積算粒子径分布を示すグラフである。
図15】実施例2における分級後のRu中実球状粉末のSEM画像である。
図16】実施例2における分級後のRu中実球状粉末断面の光学顕微鏡画像である。
図17】比較例1におけるIr中実球状粉末のSEM画像である。
図18】比較例1におけるIr中実球状粉末の積算粒子径分布を示すグラフである。
図19(a)】比較例2における篩下のPt-10Rh中実球状粉末のSEM画像であり、低倍率のSEM画像である。
図19(b)】比較例2における篩下のPt-10Rh中実球状粉末のSEM画像であり、高倍率のSEM画像である。
図20】比較例2における篩上のPt-10Rh粉末の外観の画像である。
図21】比較例2における篩下のPt-10Rh中実球状粉末の積算粒子径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0032】
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法は、粒子径1μm~1000μmの凝集粒子及び/又は固結粒子を含む第1の粉末原料を準備し、第1の粉末原料をプラズマ炎中に導入し、厚さ1μm~50μmの表層殻を有する中空球状粉末を作製するA工程と、中空球状粉末を粉砕処理し、該中空球状粉末の中空形状を粉砕して、中実の第2の粉末原料を得るB工程と、第2の粉末原料をプラズマ炎中に導入し、溶融させ、固化させて中実球状粉末を得るC工程とを有する。
【0033】
〈A工程〉
凝集粒子は、微粒子が互いに凝集して形成した粒子であり、固結粒子は、微粒子が互いに固結して形成した粒子である。ここで、凝集とは、互いの引力によって集合することをいう。固結とは、固く結びついていることをいう。微粒子とは、1次粒子そのもの、或いは1次粒子が互いに凝集又は固結して形成した粒子をいう。微粒子が1次粒子そのものである場合、工業的に粉末を製造する際の1次粒子の粒子径の観点から、微粒子の粒子径は、例えば1nm~100nmである。微粒子が、1次粒子が凝集又は固結して形成した粒子である場合、凝集粒子及び固結粒子は気孔率の高い多孔質体であることが好ましいため、1次粒子の粒子径は、1nm~100nmであり、微粒子の粒子径は、20nm~1000nmであることが好ましい。凝集粒子及び/又は固結粒子を含む第1の粉末原料の形態としては、凝集粒子を含み、固結粒子を含まない第1の粉末原料の形態、固結粒子を含み、凝集粒子を含まない第1の粉末原料の形態、又は凝集粒子と固結粒子との両方を含む第1の粉末原料の形態がある。
【0034】
第1の粉末原料に含まれる凝集粒子及び/又は固結粒子の粒子径は、1μm~1000μmである。好ましくは10μm~500μmであり、より好ましくは50μm~300μmである。粒子径が1μm未満であると、A工程で得られる中空球状粉末の粒子径は小さすぎるため、粉砕が困難である。粒子径が1000μmを超えると、A工程にて中空球状粉末を作製する際に、より大きなプラズマ炎が必要となり製造効率が悪くなる。凝集粒子及び/又は固結粒子の粒子径は、例えば、粒度分布測定装置によって測定可能である。
【0035】
凝集粒子では、微粒子同士が間隙を有して凝集し、固結粒子では、微粒子同士が間隙を有して固結する。したがって、凝集粒子内部及び/又は固結粒子内部には、微粒子間の孔が存在する。さらに、微粒子が、1次粒子の凝集及び/又は固結によって形成した2次粒子である場合、1次粒子同士が間隙を有して凝集及び/又は固結することによって、2次粒子である微粒子内部には、微粒子内部の孔が存在する。これらの微粒子間の孔及び微粒子内部の孔によって凝集粒子内部及び/又は固結粒子内部には、気孔が形成される。気孔は、例えば、SEM画像の解析によって確認可能である。
【0036】
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法では、第1の粉末原料が融点1900℃以上の金属又は合金からなることが好ましい。工業的に用いられる金属及び合金の観点から、融点の上限値は3500℃である。本実施形態では、プラズマ炎で溶けた液滴が耐熱冶具にあまり触れることなく、球状粉末を製造することが可能である。従って、溶湯や液滴が冶具に触れる従来の球状粉末製造法では困難であった融点1900℃以上の金属又は合金を、第1の粉末原料として選択することができる。
【0037】
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法では、融点1900℃以上の金属又は合金がIr、Ru、Ir基合金及びRu基合金のいずれか1つであることが好ましい。Ir、Ru、Ir基合金及びRu基合金は高硬度であるため、高融点かつ高硬度の中実球状粉末を製造することができる。Ir基合金の好ましい具体例としては、Ir-Sc、Ir-Ti、Ir-Mn、Ir-Fe、Ir-Zr、Ir-Mo、Ir-Ru、Ir-Rh、Ir-Hf、Ir-W、Ir-Re、Ir-Pt及びIr-Re-Zr等が挙げられる。Ru基合金の好ましい具体例としては、Ru-Cr、Ru-Mn、Ru-Fe、Ru-Co、Ru-Nb、Ru-Ir、Ru-Pt、Ru-Cr-Co、Ru-Cr-Mn及びRu-Mn-Co等が挙げられる。なお、本実施形態において、「M基合金」(MはIr、Ruなどの金属元素を示す。)という用語は、Mが合金を構成する元素のうち最も含有量(質量%)が多い合金をいい、好ましくはMの含有量が50質量%以上である合金をいう。
【0038】
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法では、第1の粉末原料が、電解粉、還元粉、メカニカルアロイ粉及び被覆粉のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。A工程において、厚さ1μm~50μmの表層殻を有する中空球状粉末が作製しやすい粒子径及び気孔率となり、したがって、B工程において、粉砕が容易な中空球状粉末を容易に作製することができる。電解粉、還元粉、メカニカルアロイ粉及び被覆粉の定義は、JIS Z 2500:2000「粉末や(冶)金用語」に規定される定義である。
【0039】
電解粉は、好ましくは電解法を用いて、粉末を陰極に析出させ、この粉末を洗浄、脱水、乾燥させることによって得られる。
【0040】
還元粉は、好ましくは酸化物還元法又は塩化物還元法を用いて、生成した粉末を洗浄、脱水、乾燥させることによって得られる。
【0041】
メカニカルアロイ粉は、好ましくはメカニカルアロイング法を用いて、複数種の固体物質を粉砕しつつ合金化することによって得られる。
【0042】
被覆粉の粒子は、内部と、内部を覆う表面層とを有する。内部の粒子形態としては、例えば内部が凝集粒子及び/又は固結粒子である形態、或いは内部が微粒子である形態がある。内部が凝集粒子及び/又は固結粒子である形態の場合、この凝集粒子及び/又は固結粒子は、凝集粒子自身及び/又は固結粒子自身を覆う表面層を備えて、さらなる凝集も固結もせずに1つの粒子として振る舞う。内部が微粒子である形態の場合、この微粒子は、微粒子自身を覆う表面層を備えて、この微粒子と同様に表面層を備える他の微粒子と共に凝集及び/又は固結して、凝集粒子及び/又は固結粒子を形成する。組成として、内部は、例えば金属又は合金からなり、表面層は、例えば金属、合金、セラミックス又は有機物からなる。内部及び表面層の組成形態として、金属からなる内部‐金属からなる表面層、金属からなる内部‐合金からなる表面層、金属からなる内部‐セラミックスからなる表面層、金属からなる内部‐有機物からなる表面層、合金からなる内部‐金属からなる表面層、合金からなる内部‐合金からなる表面層、合金からなる内部‐セラミックスからなる表面層、合金からなる内部‐有機物からなる表面層などの内部と表面層との組合せが適宜採用できる。内部と表面層との組合せが、金属からなる内部‐金属からなる表面層又は合金からなる内部‐合金からなる表面層である場合、金属又は合金の組成は内部と表面層とで異なる。被覆粉は、好ましくはスプレーコーティング、めっき、スパッタリング又は濃縮で被覆する方法を用いて、露出した凝集粒子及び/又は固結粒子、或いは微粒子の表面に金属、合金、セラミックス又は有機物が覆われることによって得られる。
【0043】
第1の粉末原料をプラズマ炎中に導入するとき、好ましくは、第1の粉末原料の供給方向をプラズマ炎の流れの方向と同一にすること以外は、特許文献2に記載の高周波プラズマによる球状化粒子の製造方法と同様の方法を採用する。特許文献2では、高周波プラズマ反応装置内においてプラズマ炎の流れの方向と向流的に第1の粉末原料が供給されることが必須であるが、この同様の方法では、第1の粉末原料の供給方向を逆方向にしている。第1の粉末原料の粒子は、好ましくは、プラズマ炎中で溶融して、気孔内のガスを含んだ球状の液滴に変化する。球状の液滴は、好ましくは、プラズマ炎外で固化し、1μm~50μmの気孔率の低い表層殻を有する中空球状粉末の粒子に変化する。プラズマ用ガスは、好ましくは、Arを主体とし、状況に応じてH、N及び/又はOを添加する。プラズマ炎は、好ましくは、プラズマ発生装置の高周波コイルに高周波電流を流すことによって発生させる。この改良方法では、第1の粉末原料の成分、第1の粉末原料の粒子径、第1の粉末原料の粒子の気孔率、第1の粉末原料の供給に用いるキャリアガス流量及びプラズマの出力、及びプラズマ用ガスの成分を調整することによって、中空球状粉末の表層殻の厚さを制御できる。ここで、第1の粉末原料の粒子の気孔率とは、第1の粉末原料の粒子全体における気孔の体積比率を指す。気孔率は、例えば、SEM画像の解析によって確認可能である。
【0044】
中空球状粉末とは、外側に表層殻が覆い、内側に空間を有し、かつ表層殻の全表面が外側に凸の曲面を形成している粒子(以下、中空球状粒子という)を含む粉末を指す。中空球状粉末の粒子の形状は、例えば球体又は楕円体である。中空球状粒子は、表層殻に割れ、角及び凹みを有しない。中空球状粉末は、表層殻に割れを有する粒子、表層殻に角を有する粒子及び表層殻に凹みを有する粒子を含んでもよい。表層殻に角を有する粒子としては、例えば、A工程でのプラズマ炎中において、角を有する第1の粉末材料が球状の液滴に変化せず、第1の粉末材料の形状が維持された粒子である。本実施形態の中空球状粉末では、SEMの視野内に中空球状粉末の全粒子が少なくとも100個入るとき、当該SEMの視野内の中空球状粉末の全粒子における、表面が外側に凸の曲面を形成しており、角又は凹みを有せず、数1に示される「円さ度」が0.5~1の範囲にある粒子(以下、球状粒子ともいう。)の比率が50%以上であり、かつ光学顕微鏡(Optical Microscope:OM)の視野内に中空球状粉末の全粒子断面が少なくとも10個入るとき、当該光学顕微鏡の視野内の中空球状粉末の全粒子における、外側に表層殻が覆い、内側に空間を有する粒子(以下、中空粒子ともいう。)の比率が50%以上であることが好ましい。両比率において、より好ましくは70%であり、さらに好ましくは90%である。球状粒子の比率及び/又は中空粒子の比率が50%未満であると、B工程にて粉砕処理が困難になる可能性がある。中空球状粉末の全粒子は、SEM画像及び画像解析ソフト、並びに光学顕微鏡画像によって評価可能である。数1において、Sは粒子の面積であり、Pは粒子の周長である。円さ度は、完全な円形の場合1となる。
[数1]円さ度=4πS/P
【0045】
中空球状粉末が有する表層殻の厚さは、1μm~50μmである。より好ましくは1μm~30μmであり、さらに好ましくは5μm~20μmである。厚さが1μm未満であると、B工程で得られる第2の粉末原料の体積が小さくなる。結果、C工程にて、所望の粒子径よりも小さい粒子径の中実球状粉末が生じること及び/又は中実球状粉末の粒子同士が凝集することが発生する。厚さが50μmを超えると、表層殻の強度が上がって、中空球状粉末の粉砕処理が困難となる。また、B工程で得られる第2の粉末原料の体積が大きくなる。結果、C工程後の中実球状粉末に中空球状粒子が多量に残存してしまうことや所望の粒子径よりも大きい粒子径の中実球状粉末が生じることが発生する。表層殻の厚さは、例えば、粉末の粒子断面を光学顕微鏡で観察することで測定可能である。また、表層殻の厚さは、表層殻が割れた粒子でも確認可能である。なお、表層殻が割れた粒子でも、次のB工程に供給することができる。
【0046】
中空球状粉末の粒子径分布は、体積基準でD10≧10μm、D90≦1000μmであることが好ましく、より好ましくはD10≧30μm、D90≦600μmであり、さらに好ましくはD10≧50μm、D90≦200μmである。中空球状粉末の粒度は、第1の粉末原料の粒度に依存する。中空球状粉末の粒子径分布は、例えば、粒度分布測定装置によって測定可能である。
【0047】
〈B工程〉
B工程では、中空球状粉末の中空形状を粉砕する。中空球状粉末は溶融と固化を経て形成されることから、表層殻の気孔率は低く、相対密度は高いと考えられる。第2の粉末原料は、表層殻を粉砕して得られる粉末原料であるため、表層殻の相対密度を維持することができる。
【0048】
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法では、中空球状粉末の粉砕処理は、衝撃粉砕であることが好ましい。衝撃粉砕は、ミクロンオーダーの粒子でも効率よく粉砕できるため、中空球状粉末を細かくし、粒度を調整した第2の粉末原料を得ることができる。衝撃粉砕に使用する治具の材質は、治具が削れることによる混入がない材質が好ましく、例えば、メノウ及びジルコニア等である。
【0049】
第2の粉末原料の粒子径分布は、体積基準でD10≧10μm、D90≦900μmであることが好ましく、より好ましくはD10≧25μm、D90≦500μmであり、さらに好ましくはD10≧40μm、D90≦180μmである。第2の粉末原料の粒子径分布は、粉砕処理の形態に依存する。この第2の粉末原料の粒度を調整することによって、所望の粒度の中実球状粉末を作製できる。第2の粉末原料の粒子径分布は、例えば、粒度分布測定装置によって測定可能である。
【0050】
〈C工程〉
C工程では、好ましくは、第2の粉末原料の供給方向をプラズマ炎の流れの方向と同一にすること以外は、特許文献2に記載の高周波プラズマによる球状化粒子の製造方法と同様の方法を採用する。第2の粉末原料の粒子は、好ましくは、プラズマ炎中で溶融して、球状の液滴に変化する。球状の液滴は、好ましくは、プラズマ炎外で固化し、中実球状粉末の粒子に変化する。プラズマ用ガスは、好ましくは、Arを主体とし、状況に応じてH、N及び/又はOを添加する。プラズマ炎は、好ましくは、プラズマ発生装置の高周波コイルに高周波電流を流すことによって発生させる。この改良方法は、気孔率の低い第2の粉末原料を溶融した際、球状の液滴にガスが入り込むことがないため、中実球状粉末を作製することができる。
【0051】
本実施形態において、中実球状粉末とは、内側に空間を有せず、かつ表面全体が外側に凸の曲面を形成している粒子(以下、中実球状粒子という)を含む粉末を指す。中実球状粉末の形状は、例えば球体又は楕円体である。中実球状粒子は、欠け、角及び凹みを有しない。中実球状粉末は、表面に欠けを有する粒子、表面に角を有する粒子及び表面に凹みを有する粒子を含んでもよい。表層殻に角を有する粒子としては、例えば、C工程でのプラズマ炎中において、角を有する第2の粉末材料が球状の液滴に変化せず、第2の粉末材料の形状が維持された粒子である。本実施形態の中実球状粉末では、SEMの視野内に中実球状粉末の全粒子が少なくとも100個入るとき、当該SEMの視野内の中実球状粉末の全粒子における球状粒子の比率が80%以上であり、かつ光学顕微鏡の視野内に中実球状粉末の全粒子断面が少なくとも100個入るとき、当該光学顕微鏡の視野内の中実球状粉末の全粒子における、内側に空間を有しない粒子(以下、中実粒子ともいう。)の比率が80%以上であることが好ましい。両比率において、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。球状粒子の比率が80%未満であると、粉末の流動性が低下し、球形状由来の優位性が示せない可能性がある。中実粒子の比率が80%未満であると、相対密度が高い造形製品の原料とすることができない可能性がある。中実球状粉末の全粒子は、SEM画像及び画像解析ソフト、並びに光学顕微鏡画像によって評価可能である。
【0052】
中実球状粉末の粒度は、第2の粉末原料の粒度に依存する。中実球状粉末の粒子径分布は、例えば、粒度分布測定装置によって測定可能である。
【0053】
〈D工程及びE工程〉
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法では、第2の粉末原料を分級するD工程及び/又は中実球状粉末を分級するE工程をさらに有することが好ましい。D工程及び/又はE工程をさらに有する製造方法の形態は、A工程、B工程、D工程及びC工程を有する製造方法の形態、A工程、B工程、C工程及びE工程を有する製造方法の形態、又はA工程、B工程、D工程、C工程及びE工程を有する製造方法の形態である。分級によって、第2の粉末原料を構成する粒子径分布を狭め、所望の粒度の中実球状粉末にすることをより容易にし、中実球状粉末の流動性をより高めることができる。中実球状粉末の好適な粒子径は、用途によって範囲が異なり、一般的には、EBMの用途であれば、45~105μmであり、SLMの用途であれば、10~45μmであり、LMDの用途であれば、45~105μmであり、医療の用途であれば、200~300μmである。本実施形態において、中実球状粉末の好適な粒子径の範囲が、これらの各用途における一般的な範囲の幅より広い幅を有しても、中実球状粉末は、各用途に用いることができる。
【0054】
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法では、中実球状粉末のJIS Z 2504:2012「金属粉‐見掛密度測定方法」に規定される見掛密度が真密度に対して50%以上であることが好ましい。見掛密度が低くなる理由として、数1に示される円さ度の低さによる流動性の低さと、粒子内孔の存在とがある。流動性の低さは、付加製造プロセスにおいて粉末供給を不安定とする要因になり、粒子内孔の存在は、造形製品内部に空孔が残存する要因となる。これらの理由によって、見掛密度が真密度に対して50%未満である場合、相対密度の高い造形製品の原料とすることができない可能性がある。
【0055】
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法により製造した中実球状粉末中の不純物混入率は、1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下である。不純物混入率が高くなると、製造条件の最適範囲(プロセスウィンドウ)が変化するため、良質な造形製品の製造がコントロールしにくくなる。また、不純物が内部欠陥やクラックの発生に寄与し、相対密度が高い造形製品の原料とすることができない可能性がある。ここで不純物とは、粉砕処理に使用した治具の破片等の、A工程~E工程にて混入した物質のことを指す。不純物混入率の下限値は、測定の精度の観点から0.0001質量%である。不純物混入率は、例えば、第1の粉末原料の元素分析と、中実球状粉末の元素分析との比較によって測定可能である。
【0056】
本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法により製造した中実球状粉末中の酸素含有率は、0.1質量%以下であることが好ましい。酸素含有率が0.1質量%を超えると、酸化が生じて、品質が高い造形製品の原料とすることができない可能性がある。酸素含有率は、例えば、中実球状粉末のガス分析によって測定可能である。
【0057】
本実施形態の造形製品の製造方法は、高エネルギー照射によって、被照射粉末を少なくとも部分的に溶融して固化させた層を積層して造形製品を形成する工程を有する付加製造法において、被照射粉末が、本実施形態に係る中実球状粉末の製造方法により製造した中実球状粉末である。本実施形態では、高融点かつ難加工の金属又は合金でも、造形製品の製造が可能であるため、被照射粉末として、高融点かつ難加工の金属又は合金からなる中実球状粉末を選択することができる。
【0058】
付加製造法の形態としては、例えば、EBM、SLM及びLMD等の公知の付加製造法の形態が挙げられる。高融点かつ難加工金属からなる高流動性の中実球状粉末を付加製造用材料として使用した際、高い相対密度の造形製品を製造することができる。
【0059】
本実施形態の造形製品の製造方法では、造形製品の相対密度が99%以上であることが好ましい。99%未満であると、造形製品に必要な品質を満たさない可能性がある。造形製品の好ましい具体例としては、電極、加工用工具及びμ‐PD法用ルツボ等の複雑な形状の造形製品が挙げられる。相対密度は、例えば、JIS Z 8807:2012「固体の密度及び比重の測定方法」に記載の液中ひょう量法によって測定可能である。
【実施例
【0060】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0061】
〈第1の粉末原料の粒子径分布〉
粒度分布測定装置(レーザーマイクロンサイザー LMS-30、セイシン企業製)を用いて、レーザー回折により、第1の粉末原料の粒子径分布を測定した。体積基準で測定した積算粒子径分布の10%に対応した粒子径(D10)及び90%に対応した粒子径(D90)を読み取り、これらの箇所の区間を、第1の粉末原料の粒度の指標とした。
【0062】
〈第1の粉末原料の粒子の気孔率〉
第1の粉末原料の粒子をSEMで観察し、観察したSEM画像を画像解析ソフト(Quick Grain、イノテック製)によって解析することで前記粒子の気孔率を確認した。具体的には、SEM画像のコントラストを強調し、白黒の2値化を行い、全領域に対する粉末が存在しない領域の比率を導出し、気孔率とした。
【0063】
〈元素分析〉
グロー放電質量分析計(ELEMENT GD、Thermo Fisher Scientific製)を用いて、グロー放電質量分析法(Glow Discharge Mass Spectrometry:GDMS)を用いて元素分析を行った。
【0064】
〈SEMの視野内の中空球状粉末の全粒子における球状粒子の比率〉
SEMを用いて、SEMの視野内に中空球状粉末の全粒子が少なくとも100個入るようにし、画像解析ソフトにて、当該視野内の中空球状粉末の全粒子の個数と、その全粒子のうちの球状粒子の個数とをカウントして比率を求めた。
【0065】
<光学顕微鏡の視野内の中空球状粉末の全粒子における中空粒子の比率及び中空球状粉末の表層殻の厚さ>
中空球状粉末を透明樹脂(アロンアルファ(登録商標))で固め、♯800の研磨紙にて中空球状粉末の断面が見えるまで研磨した。光学顕微鏡(GX51、OLYMPUS製)を用いて、光学顕微鏡の視野内に中空球状粉末の全粒子断面が少なくとも10個入るようにし、当該視野内の中空球状粉末の全粒子の個数と、その全粒子のうちの中空粒子の個数とをカウントして、中空球状粉末の全粒子における中空粒子の比率を求めた。また、当該視野内に存在する全ての中空球状粒子の表層殻の厚さを測長し、平均値を算出して、中空球状粉末の表層殻の厚さとした。
【0066】
〈中空球状粉末の粒子径分布〉
粒度分布測定装置を用いて中空球状粉末の粒子径分布を測定した。体積基準で測定した積算粒子径分布の10%に対応した粒子径(D10)及び90%に対応した粒子径(D90)を読み取り、これらの箇所の区間を中空球状粉末の粒度の指標とした。
【0067】
〈第2の粉末原料の粒子径分布〉
粒度分布測定装置を用いて第2の粉末原料の粒子径分布を測定した。体積基準で測定した積算粒子径分布のD10及びD90を読み取り、これらの箇所の区間を第2の粉末原料の粒度の指標とした。
【0068】
〈SEMの視野内の中実球状粉末の全粒子における球状粒子の比率〉
SEMを用いて、SEMの視野内に中実球状粉末の全粒子が少なくとも100個入るようにし、当該視野内の中実球状粉末の全粒子の個数と、その全粒子のうちの球状粒子の個数とをカウントして比率を求めた。
【0069】
〈光学顕微鏡の視野内の中実球状粉末の全粒子における中実粒子の比率〉
光学顕微鏡の視野内の中空球状粉末の全粒子断面における中空粒子断面の比率を測定するときと同様に、中実球状粉末を固め、中実球状粉末の断面が見えるまで研磨した。光学顕微鏡の視野内に中実球状粉末の全粒子断面が少なくとも100個入るようにし、画像解析ソフトにて、当該視野内の中実球状粉末の全粒子の個数と、その全粒子のうちの中実粒子の個数とをカウントして比率を求めた。
【0070】
〈中実球状粉末の全粒子における中実球状粒子の比率〉
SEMの視野内の中実球状粉末の全粒子における球状粒子の比率と、光学顕微鏡の視野内の中実球状粉末の全粒子における中実粒子の比率とを乗ずることで当該比率を求めた。
【0071】
〈中実球状粉末の粒子径分布〉
粒度分布測定装置を用いて中実球状粉末の粒子径分布を測定した。体積基準で測定した積算粒子径分布のD10とD90を読み取り、これらの箇所の区間を中実球状粉末の粒度の指標とした。
【0072】
〈中実球状粉末の見掛密度〉
JIS Z 2504:2012「金属粉‐見掛密度測定方法」の規定を参考とし、JIS Z 2512:2012「金属粉‐タップ密度測定方法」の手法に倣って、0.2cmごとに25cmの容量まで目盛りが付いた測定容器(メスシリンダーカスタムA、容積25mL、柴田科学製)を使用し、中実球状粉末を100±0.5gではかりとった後、前記粉末を測定容器の縁から測定容器に入れ、振動が生じない方法でかつ試料を押し固めない方法で表層部を水平とし、直接、測定容器の目盛りで体積を読み取った。
【0073】
〈中実球状粉末の元素分析〉
グロー放電質量分析計を用いて、中実球状粉末の元素分析を行った。
【0074】
〈歩留まりの算出〉
{(所望の粒度の中実球状粉末の質量)/(投入した供給原料の質量)}×100(単位%)を歩留まりとした。ここにおいて、供給原料は、第1の原料粉末、ワイヤー又は丸棒である。所望の粒度の中実球状粉末の質量の値を得るには、分級後の中実球状粉末の質量を電子天秤にて測定する方法、及び/又は粒度分布測定の体積基準の比率より導出する方法を採用した。粒度分布測定は体積基準であるが、本実施例及び比較例では、中実球状粉末が十分に密(中実)と考え、体積基準の歩留まりと質量基準の歩留まりは同一とした。
【0075】
〈造形製品の相対密度〉
JIS Z 8807に記載の液中ひょう量法に基づき、天秤とXP/XS天びん用比重測定キット(METTLER TOLEDO製)を用いて、造形製品の相対密度を測定した。
【0076】
(実施例1)
〈A工程〉
粒子径1μm~1000μmのIr多孔質体の凝集粒子及び/又は固結粒子を含む第1のIr粉末原料(精製パウダー、フルヤ金属製)を準備した。第1のIr粉末原料のSEM画像を確認した。図1(a)に、2000×2500μmの視野における低倍率のSEM画像を示し、図1(b)に、9×12μmの視野における高倍率のSEM画像を示す。図1(a)より、第1のIr粉末原料の粒子径が1μm以上1000μm以下であることを確認するとともに、図1(b)より、第1のIr粉末原料の粒子内において気孔を確認した。図1(b)のSEM画像の解析によって、第1のIr粉末原料の粒子の気孔率を算出した。気孔率は43.39%であった。粒度分布測定装置を用いて、第1のIr粉末原料の粒子径分布を測定した。図2に積算粒子径分布のグラフを示す。測定の結果、第1のIr粉末原料の粒子径分布のD10が50.0μm、D90が244.7μmであった。グロー放電質量分析計を用いて、第1のIr粉末原料の元素分析を行った。不純物の合計含有量は0.0064質量%であった。
【0077】
第1のIr粉末原料の供給方向をプラズマ炎の流れの方向と同一にすること以外は、特許文献2に記載の高周波プラズマによる球状化粒子の製造方法と同様の方法を採用した。粉末供給式の高周波プラズマ反応装置において、第1のIr粉末原料の供給量を6g/minにし、キャリアガス流量を5L/minにし、高周波プラズマ用ガスをArにNを添加した混合ガスにし、プラズマ出力を33.3kWにしてプラズマ炎中に導入してIr中空球状粉末を作製した。図3に、Ir中空球状粉末のSEM画像を示す。図4に、Ir中空球状粉末断面の光学顕微鏡画像を示す。図2に、Ir中空球状粉末の積算粒子径分布のグラフを示す。図3において、得られたIr中空球状粉末の全粒子における球状粒子の比率は95%以上であった。図4において、得られたIr中空球状粉末の全粒子における中空粒子の比率は75%以上であった。表層殻の厚さの範囲は5μm~25μmであり、表層殻の平均厚さは15μmであった。粒子径分布のD10は34.3μmであり、D90は210.0μmであった。グロー放電質量分析計を用いて、GDMSによってIr中空球状粉末中に含まれるSiの含有量を測定した。測定の結果、不純物としてのSiの含有量は、0.0003質量%であった。
【0078】
〈B工程及びD工程〉
メノウ製の遊星ミル容器に、容器の体積を100としたときに、Ir中空球状粉末を、体積が10以下になるように投入し、ボール直径が10mmのメノウボール100個を入れ、遊星回転ボールミル(LP-4、伊藤製作所製)にて200rpmの条件で1hr粉砕を行い、中空球状粉末の中空形状を粉砕して、第2のIr粉末原料を得た。その後、目開き38μmの金属篩と目開き63μmの金属篩を用いて、第2のIr粉末原料の粒子径の好適な範囲が38μm超63μm以下になるように分級した。図5に、分級後の第2のIr粉末原料断面の光学顕微鏡画像を示す。図6に、分級後の第2のIr粉末原料の積算粒子径分布のグラフを示す。測定の結果、粒子径分布のD10は38.1μmであり、D90は94.7μmであった。メノウボールに主に含まれるSiの影響を確認するために、グロー放電質量分析計を用いて、GDMSによって第2のIr粉末原料中に含まれるSiの含有量を測定した。測定の結果、不純物としてのSiの含有量は、0.0026質量%であり、メノウボールによる第2のIr粉末原料に含まれるSiの含有量の増加が微増に抑えられていることを確認した。
【0079】
〈C工程及びE工程〉
分級後の第2のIr粉末原料の供給方向をプラズマ炎の流れの方向と同一にすること以外は、特許文献2に記載の高周波プラズマによる球状化粒子の製造方法と同様の方法を採用した。粉末供給式の高周波プラズマ反応装置において、分級後の第2のIr粉末原料の供給量を6g/minにし、キャリアガス流量を5L/minにし、高周波プラズマ用ガスをArにNを添加した混合ガスにし、プラズマ出力の電圧を33.3kWにして、プラズマ炎中に導入してIr中実球状粉末を作製した。その後、目開き22μm金属篩と目開き63μmの金属篩とを用いて、粒子径の好適な範囲が22μm超63μm以下になるように分級し、目的のIr中実球状粉末を得た。図7に、分級後のIr中実球状粉末のSEM画像を示し、図8に、分級後のIr中実球状粉末断面の光学顕微鏡画像を示す。また、図6に、分級後のIr中実球状粉末の積算粒子径分布のグラフを示す。図7において、得られたIr中実球状粉末の全粒子における球状粒子の比率は99%以上であった。図8において、中実粒子の比率は94%以上であった。計算上、得られたIr中実球状粉末の全粒子における中実球状粒子の比率は、99×0.94=93.06%以上である。粒子径分布のD10は38.2μmであり、D90は79.2μmであった。見掛密度は13.16g/cmであり、真密度に対して58.3%であった。グロー放電質量分析計を用いて、GDMSによってIr中実球状粉末中に含まれる全元素の含有量を測定した。測定の結果、不純物の含有量は、0.0331質量%であった。したがって、不純物混入率は、{(Ir中実球状粉末における不純物の含有量)-(第1のIr粉末原料における不純物の含有量)}より、0.0267質量%であった。またガス分析装置(TS600、LECO製)より、酸素含有率は定量下限値の0.0014質量%未満であった。分級して得られた実施例1のIr中実球状粉末はSLMへ使用可能であり、質量測定の結果、79.5%の歩留まりを示した。参考までに積算粒子径分布を確認すると、分級して得られたIr中実球状粉末における粒子径10μm~45μmの中実球状粉末の比率は体積基準で約28%であることから、SLMに適した粒子径10μm~45μmの中実球状粉末の歩留まりは、体積基準で79.5×0.28≒22%であった。
【0080】
〈造形製品の作製〉
Ir中実球状粉末を用いて、SLM装置(SLM280HL、SLM製)により、φ3.8×19mmのサイズ、円柱形状の造形製品を作製した。その後、研削加工で外表面を整え、φ3.6×18.6mmの造形製品とし、XP/XS天びん用比重測定キットを用いて液中ひょう量法にて造形製品の相対密度を測定した。この造形製品の相対密度は99.5%であった。
【0081】
(実施例2)
〈A工程〉
実施例2では、造形製品の作製を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。粒子径1μm~1000μmのRu多孔質体の凝集粒子及び/又は固結粒子を含む第1のRu粉末原料(精製パウダー、フルヤ金属製)を準備した。第1のRu粉末原料のSEM画像を確認した。図9(a)に、2000×2500μmの視野における低倍率のSEM画像を示し、図9(b)に、9×12μmの視野における高倍率のSEM画像を示す。図9(a)のSEM画像より、第1のRu粉末原料の粒子径が1μm以上1000μm以下であることを確認するとともに、図9(b)のSEM画像より、第1のRu粉末原料の粒子内において気孔を確認した。図9(b)のSEM画像の解析によって、実施例1と同様に、第1のRu粉末原料の粒子の気孔率を算出した。気孔率は20.27%であった。粒度分布測定装置を用いて、第1のRu粉末原料の粒子径分布を測定した。図10に積算粒子径分布のグラフを示す。測定の結果、第1のRu粉末原料の粒子径分布のD10が106.5μm、D90が252.1μmであった。実施例1と同様に、第1のRu粉末原料の元素分析を行った。不純物の合計含有量は0.0138質量%であった。
【0082】
次に、第1のIr粉末原料を第1のRu粉末原料に変更し、第1のRu粉末原料の供給量を8g/minにし、キャリアガス流量を10L/minにし、高周波プラズマ用ガスをArにHを添加した混合ガスにし、プラズマ出力を29.0kWにしたこと以外は、実施例1と同様にRu中空球状粉末を作製した。図11に、Ru中空球状粉末のSEM画像を示す。図12に、Ru中空球状粉末断面の光学顕微鏡画像を示す。図10に、Ru中空球状粉末の積算粒子径分布のグラフを示す。図11において、得られたRu中空球状粉末の全粒子における球状粒子の比率は99%以上であった。図12において、得られたRu中空球状粉末の全粒子における中空粒子の比率は85%以上であった。表層殻の厚さの範囲は10μm~30μmであり、表層殻の平均厚さは20μmであった。粒子径分布のD10は99.0μmであり、D90は230.0μmであった。実施例1と同様に、Ru中空球状粉末に含まれるSiの含有量を測定した。測定の結果、不純物としてのSiの含有量は、0.0013質量%であった。
【0083】
〈B工程及びD工程〉
第2のIr中空球状粉末を第2のRu中空球状粉末に変更したこと以外は、実施例1と同様に第2のRu粉末原料を得た。その後、目開き22μm金属篩と目開き63μmの金属篩とを用いて、第2のRu粉末原料の粒子径の好適な範囲が22μm超63μm以下になるように分級した。図13に、分級後の第2のRu粉末原料の光学顕微鏡画像を示す。図14に、分級後の第2のRu粉末原料の粉砕粉末の積算粒子径分布のグラフを示す。測定の結果、D10は31.0μmであり、D90は84.8μmであった。実施例1と同様に、第2のRu粉末原料中に含まれるSiの含有量を測定した。測定の結果、不純物としてのSiの含有量は、0.0620質量%であり、メノウボールによる第2のRu粉末原料に含まれるSiの含有量の増加が微増に抑えられていることを確認した。
【0084】
〈C工程及びE工程〉
分級後の第2のIr粉末原料を分級後の第2のRu粉末原料に変更し、分級後の第2のRu粉末原料の供給量を8g/minにし、キャリアガス流量を10L/minにし、高周波プラズマ用ガスをArにHを添加した混合ガスにし、プラズマ出力の電圧を29.0kWにしたこと以外は、実施例1と同様にRu中実球状粉末を作製した。その後、実施例1と同様に分級して、目的のRu中実球状粉末を得た。図15に、分級後のRu中実球状粉末のSEM画像を示し、図16に、分級後のRu中実球状粉末断面の光学顕微鏡画像を示す。また、図14に、分級後のRu中実球状粉末の積算粒子径分布のグラフを示す。図15において、得られたRu中実球状粉末の全粒子における球状粒子の比率は少なくとも95%以上であった。図16において、得られたRu中実球状粉末の全粒子における中実粒子の比率は99%以上であった。計算上、得られたRu中実球状粉末の全粒子における中実球状粒子の比率は、95×0.99=94.05%以上である。粒子径分布のD10は26.2μmであり、D90は60.4μmであった。見掛密度は7.30g/cmであり、真密度に対して58.6%であった。測定の結果、不純物の含有量は、0.0152質量%であった。したがって、実施例1と同様に算出すると、不純物混入率は0.0014質量%であった。またガス分析装置より、酸素含有率は0.0065質量%であった。実施例1と同様に、分級して得られたRu中実球状粉末の歩留まりを導出し、86.9%を示した。積算粒子径分布を確認すると、分級して得られたRu中実球状粉末における粒子径10μm~45μmのRu中実球状粉末の比率は体積基準で約67%であることから、SLMに適した粒子径10μm~45μmのRu中実球状粉末の歩留まりは、体積基準で86.9×0.67≒58%であった。
【0085】
(比較例1)
φ1.2mm、長さ3.4mのIrワイヤーを準備した。このIrワイヤーを用いてIr中実球状粉末を作製した。具体的には、中空球状粉末の作製及び粉砕処理を行わずに、ワイヤー供給方式のプラズマアトマイズ装置にワイヤーを供給して、Ir中実球状粉末を作製した。質量測定より、投入したIrワイヤーの91%がIr中実球状粉末となり、9%が揮発して消失した。図17に、Ir中実球状粉末のSEM画像を示す。また、図18に積算粒子径分布のグラフを示す。得られたIr中実球状粉末のSEM画像において球状粉末を確認すると共に、一部、粉末の粒子の凝集体を確認した。測定の結果、粒子径分布のD10は47.6μmであり、D90は237.6μmであり、粒子径分布の広い粉末となった。また、積算粒子径分布から、粒子径10μm~45μmのIr中実球状粉末の比率は体積基準で約9%を示した。したがって、SLMに適した粒子径10μm~45μmのIr中実球状粉末の歩留まりは、体積基準で91×0.09≒8%であった。歩留まりの悪さからこのIr中実球状粉末の作製方法はSLM用材料に適さなかった。
【0086】
(比較例2)
φ16.0~16.5、長さ550mmのPt‐10Rh丸棒を準備した。このPt‐10Rh丸棒を用いてPt‐10Rh中実球状粉末を作製した。具体的には、中空球状粉末の作製及び粉砕処理を行わずに、電極誘導溶解ガスアトマイズ装置に丸棒を供給して、Pt‐10Rh中実球状粉末を作製した。質量測定より、投入したPt‐10Rh丸棒の99.1%がPt‐10Rh中実球状粉末となり、0.6%が装置に固着し、0.3%が揮発して消失した。このPt‐10Rh中実球状粉末は明確に肉眼で確認できたため、Pt‐10Rh中実球状粉末を目開き150μmの金属篩を用いて分級して2つのグループに分けて観察した。図19(a)に、篩下のPt‐10Rh中実球状粉末の低倍率のSEM画像を示し、図19(b)に、高倍率のSEM画像を示す。また、図20に、篩上のPt‐10Rh粉末の外観の画像を示す。さらに、図21に、篩下のPt‐10Rh中実球状粉末の積算粒子径分布のグラフを示す。質量測定より、篩上のPt‐10Rh粉末の比率は70%であり、篩下のPt‐10Rh中実球状粉末の比率は30%だった。図20に示すように、篩上のPt‐10Rh粉末は、構成する粒子のほとんどがフレーク形状である粉末だった。一方、図19に示すように、篩下のPt‐10Rh中実球状粉末は、構成する粒子のほとんどが球状又は略球状である粉末であった。図21に示すように、粒子径分布のD10は36.7μmであり、D90は214.1μmであった。また、積算粒子径分布から、粒子径10μm~45μmのPt‐10Rh中実球状粉末の比率は体積基準で約18%を示した。したがって、SLMに適した粒子径10μm~45μmのPt‐10Rh中実球状粉末の歩留まりは、体積基準で99.1×0.3×0.18≒5%であり、全処理量に対して少量しか得られなかった。このPt‐10Rh中実球状粉末はSLM用材料に適さなかった。
【0087】
観察及び測定の結果から、実施例1~実施例2における中実球状粉末の製造方法では、高融点かつ難加工材料を原料とし、歩留まりが高く、所望の粒度に成形することが容易である、高流動性の中実球状粉末が得られることが示され、この中実球状粉末を付加製造用材料として使用することによって、高い相対密度の造形製品が得られることが示された。一方、比較例1の粉末製造法では、高融点かつ難加工材料のワイヤー成形に時間がかかり、困難であった。得られた中実球状粉末は、粒子径分布が広く、凝集が発生していることからも、比較例1は付加製造用材料の製造には不向きであった。比較例2では、丸棒の作製に時間がかかるため、困難であった。また、比較例2で得られた中実球状粉末は、融点が実施例の中実球状粉末の融点より低いとの違いはあるが、粒子径分布が広く、大半がフレーク化し、歩留まりが悪いため、比較例2は付加製造用材料の製造には不向きであった。
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19(a)】
図19(b)】
図20
図21