(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】硬貨繰出装置及び硬貨処理機
(51)【国際特許分類】
G07D 1/00 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
G07D1/00 Z GBL
(21)【出願番号】P 2019083006
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001432
【氏名又は名称】グローリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 美津男
【審査官】小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-309834(JP,A)
【文献】特開昭51-023799(JP,A)
【文献】特開平11-250297(JP,A)
【文献】特開平08-007142(JP,A)
【文献】特開2006-178850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07D 1/00- 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜円盤が正回転することにより前記傾斜円盤とその周縁部に設けられた係合部によって硬貨を掻き上げて1枚ずつ繰り出す硬貨繰出装置において、
前記傾斜円盤の中央部で前記係合部が設けられた前記周縁部以外の部分に配置され、前記傾斜円盤とは異なる部材で構成され、前記傾斜円盤による硬貨の掻き上げ時に、回転しない、又は、逆回転する中央部材を設け、
前記傾斜円盤による硬貨の繰り出し異常時には、前記傾斜円盤と前記中央部材が逆回転する
、硬貨繰出装置。
【請求項2】
前記傾斜円盤による硬貨の繰り出し異常時には、前記中央部材は、前記傾斜円盤の回転速度とは異なる速度で回転する、請求項1に記載の硬貨繰出装置。
【請求項3】
前記傾斜円盤の前記周縁部の表面と前記中央部材の表面との高さ位置は等しい、請求項1又は2に記載の硬貨繰出装置。
【請求項4】
前記係合部の係合面よりも前記傾斜円盤の径方向内側には、複数の硬貨が係合したときに、前記傾斜円盤の回転に伴って、硬貨の周縁を前記傾斜円盤の表面から浮き上がらせる傾斜ガイド部が設けられている、請求項3に記載の硬貨繰出装置。
【請求項5】
前記傾斜円盤で所定高さ位置にある硬貨を検知する検知部を更に備える、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の硬貨繰出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の硬貨繰出装置を備えた、硬貨処理機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬貨繰出用の傾斜円盤を備えた硬貨繰出装置と、その硬貨繰出装置を用いた硬貨処理機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外部から投入された硬貨を貯留するとともにこの貯留された硬貨の繰出を行う硬貨繰出装置及びその硬貨繰出装置を用いた硬貨処理装置が知られている。
【0003】
このような硬貨繰出装置及び硬貨処理装置として、特許文献1に開示された装置がある。以下、特許文献1に開示された装置について、
図8を参照して説明する。
図8は、特許文献1に開示された硬貨繰出装置の正面図である。
【0004】
図8に示す硬貨繰出装置100では、単一の部材により構成される傾斜円盤101の上部が背面側(
図8の紙面裏側)に倒れるような傾斜姿勢で設置されている。そして、図外の硬貨投入口より投入された複数の硬貨Cが、重力により落下して、傾斜円盤101の下部領域に貯留する。傾斜円盤101が回転すると、傾斜円盤101の下部に貯留した硬貨Cは、傾斜円盤101の外周の縁部近傍に設けられた係合部102により係止される。硬貨Cは、縁部を支持されながら、矢印A1で示されるように傾斜円盤101の上方へ繰り上げられる。繰り上げられた硬貨Cは、矢印A2で示されるように傾斜円盤101の上部に配置されている案内部材103へ誘導されて、矢印A3で示されるように搬送路104へと原則1枚ずつ搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、
図8に示す傾斜円盤101を用いた硬貨繰出装置100では、傾斜円盤101の下部領域に貯留している複数の硬貨Cを、係合部101により係止して掻き上げ、1枚ずつ案内部材103へと搬送している。
【0007】
しかしながら、硬貨処理の高速化にともなって傾斜円盤101の高速回転化が進んだ結果、係合部101に係止されていない硬貨Cが、傾斜円盤101により連れ上げられてしまうことがあった。この結果、矢印B1,B2及び矢印B3,B4で示されるように、係合部101が設けられていない傾斜円盤101の内周側の中央部を通って硬貨Cが不要に搬送路104へ繰り出され、複数の硬貨Cが同時に搬送路104へと繰り出されることがあった。
【0008】
このように同時に複数の硬貨Cが搬送路104に繰り出されてしまうと、搬送路104上での硬貨C同士の異常接近によるリジェクト(異常接近リジェクト)や、重なり硬貨によるジャムが発生し、この重なり硬貨によるジャムが硬貨繰出装置100の休止の原因となっていた。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するために創案されたものであり、硬貨の搬送処理の高速化のために、傾斜円盤の回転速度を上げても、係合部に係止されていない硬貨が不要に繰り出されることを防止できる硬貨繰出装置及び硬貨処理機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決するために、本発明の硬貨繰出装置は、傾斜円盤とその周縁部に設けられた係合部によって硬貨を掻き上げて1枚ずつ繰り出す硬貨繰出装置において、前記傾斜円盤の中央部で前記係合部が設けられた前記周縁部以外の部分に配置され、前記傾斜円盤とは異なる部材で構成され、前記傾斜円盤による硬貨の掻き上げ時に、同じ方向で、同じ速度では回転しない中央部材を設ける。
【0011】
上記従来の課題を解決するために、本発明の硬貨処理機は、前記硬貨繰出装置を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、傾斜円盤の回転速度を上げても、係合部に係止されていない硬貨が不要に繰り出されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】硬貨処理機を説明するための側面視による内部レイアウトを示す模式図。
【
図2】硬貨繰出装置の構成及び繰出処理の一例を説明するための図であって、硬貨繰出装置の正面図。
【
図3】硬貨繰出装置の構成及びブリッジ解消処理の一例を説明するための図であって、硬貨繰出装置の正面図。
【
図4】ブリッジ解消処理の他の例を説明するための図であって、硬貨繰出装置の正面図。
【
図5】繰出処理の他の例を説明するための図であって、硬貨繰出装置の正面図。
【
図6A】参考例としての従来の傾斜円盤の一部を示す正面図。
【
図6B】参考例としての従来の傾斜円盤の断面図であって
図6AのA-A断面図。
【
図8】特許文献1に開示された硬貨繰出装置の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る硬貨繰出装置及び硬貨処理機ついて、図面を参照しながら説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。また、実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに、実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0015】
以下の説明では、硬貨処理機1に関しては硬貨入出金口13が設けられている側を前側とする。また、傾斜円盤30に関しては、硬貨を搬送する側の面を正面とし、その反対側の面を背面とし、傾斜円盤30が硬貨を繰り出す時の回転を正回転とし、その反対方向の回転を逆回転として説明する。また、重力を基準に上下を定める。
【0016】
なお、実施形態を説明するための全図において、同一要素は原則として同一の符号を付し、その説明を省略することもある。
【0017】
[1.硬貨処理機]
以下、本発明の実施の形態の硬貨処理機について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態の硬貨処理機を説明するための側面視による内部レイアウトを示す模式図である。
【0018】
硬貨処理機1の機体11の前側上部には、シャッタ12で開閉される硬貨入出金口13が設けられ、この硬貨入出金口13の下方に硬貨を受け入れる硬貨受皿14が配設されている。硬貨受皿14は硬貨を下方へ放出可能に構成されている。硬貨受皿14の下方には硬貨受皿14から放出される硬貨を受け入れて1枚ずつ繰り出す硬貨繰出装置15が配設されている。
【0019】
硬貨繰出装置15の下部には回収通路17の始端が接続され、この回収通路17の終端には残留物回収箱16が接続されている。硬貨繰出装置15から繰り出すことのできない異物や、硬貨処理機1に回収されるべき硬貨は、回収通路17を介して残留物回収箱16へ送られて硬貨処理機1に回収される。
【0020】
硬貨繰出装置15の上部には、この硬貨繰出装置15から1枚ずつ繰り出される硬貨を受け入れて搬送する硬貨通路18の始端が接続されている。この硬貨通路18には、硬貨を識別する識別部19、硬貨を金種別に分類する分類部20、硬貨通路18の後流部分であって終端が硬貨受皿14に接続される返却通路部21が設けられている。
【0021】
また、硬貨通路18の分類部20の下方には、金種別に分類された硬貨を金種別に一時保留する一時保留部22が配設されている。この一時保留部22の下方にはさらに硬貨を金種別に収納する収納部23が配設されている。収納部23は、入金承認時や補充時には、一時保留部22から硬貨を受け入れて収納するとともに、出金時や回収時などの硬貨投出時には、硬貨を上部から側方へ1枚ずつ投出するように構成されている。収納部23の側部には、収納部23から投出される硬貨と、一時保留部22から返却のために放出される硬貨と、を受け入れて、硬貨繰出装置15に搬送するコンベヤ24が配設されている。
【0022】
なお、
図1中において、符合25が付されている構成要素は、予め補充された硬貨を収納して補充処理時にこの予め補充された硬貨をコンベヤ24上に供給する補充カセット25である。また、符合26が付されている構成要素は、硬貨の回収処理の際に、機体11内の全ての硬貨を回収する回収箱26である。これら補充カセット25および回収箱26は機体11に対して着脱可能となっている。
【0023】
[2.硬貨繰出装置]
以下、本発明の実施形態の硬貨繰出装置について、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
図2は、硬貨繰出装置の構成及び硬貨を繰り出すための処理(以下「繰出処理」という)の一例を説明するための図であって、硬貨繰出装置の正面図である。
図3は、硬貨繰出装置の構成及び硬貨の詰まり、いわゆるブリッジ、を崩すための処理(以下「ブリッジ解消処理」という)の一例を説明するための図であって、硬貨繰出装置の正面図である。
【0024】
図2及び
図3に示す硬貨繰出装置15は、上部を背面側に傾けた傾斜円盤30を備えている。この傾斜円盤30の正面側には、傾斜円盤30の係合部32が設けられていない中央部に、傾斜円盤30よりも小径で且つ傾斜円盤30と同じ姿勢で傾斜した中央円盤31が配置されている。詳しくは、傾斜円盤30は、正面の中心部に凹部が形成されており、中央円盤31は、その正面が傾斜円盤30の正面と高さ位置が等しくなるように、この凹部内に配設されている。ここで説明した「高さ位置が等しい」とは、水平方向の高さ位置、つまり傾斜円盤30及び中央円盤31の正面と直交する方向の高さ位置が等しいことを意味する。中央円盤31と傾斜円盤30とは、同じ軸心線CL上に配置され、この軸心線CLを中心に回転可能に設けられている。
【0025】
傾斜円盤30及び中央円盤31の正面下部には硬貨Cを貯留するためのホッパ(図示略)が設けられている。そして、傾斜円盤30における中央円盤31よりも外周側にはみ出す周縁部30aの正面には、繰出処理時に、前記ホッパ内に貯留された硬貨Cを掻き上げて硬貨通路18へと繰り出すための複数の係合部32が設けられている。係合部32は、周縁部30aの周方向に間隔をあけて周縁部30aの正面に設けられている。
【0026】
傾斜円盤30と中央円盤31とは互いに独立した別部材として構成されており、互いに独立して動作可能となっている。また、中央円盤31は、硬貨Cの掻き上げ時、傾斜円盤30とは、同じ方向且つ同じ速度では回転しない。
【0027】
本実施形態では、繰出処理時には、
図2に示すように硬貨繰出装置15が動作する。すなわち、傾斜円盤30は、矢印P(以下、正回転方向Pとも表記する)で示す方向に正回転して、下部に貯留した硬貨Cを掻き上げて矢印D1,D2で示すように硬貨Cを繰り出して硬貨通路18へと搬送している間、中央円盤31は回転しないか、又は後述するように、逆方向に回転する。
【0028】
このように、傾斜円盤30を正回転させて硬貨Cを繰り出す際、中央円盤31が回転せず停止しているか、又は後述するように逆方向に回転している。したがって、中央円盤31の下側に滞留している硬貨Cが、上述した
図8に示される従来装置のように傾斜円盤101の回転により連れ上がることがない。このため、硬貨通路18へ複数の硬貨Cが同時に繰り出されてしまうことが防止される。
【0029】
また、硬貨繰出装置15では、傾斜円盤30や中央円盤31の下方に貯留した複数の硬貨Cが互いに干渉して滞留する塊状の所謂ブリッジが発生することがある。ブリッジが発生すると、このブリッジにより傾斜円盤30の回転が阻害されて当該傾斜円盤30が回転しなくなる。そこで、ブリッジが発生した場合、
図3に示されるブリッジ解消処理が行われる。
【0030】
すなわち、傾斜円盤30は矢印Rで示す方向に逆回転し、中央円盤31もまた矢印Rで示す方向に回転する。これにより、ブリッジを崩すことができる。つまり、傾斜円盤30と中央円盤31を互いに矢印Rの方向に回転させることで、傾斜円盤30の正回転により形成された硬貨Cの配列に起因したブリッジを、崩すことができる。傾斜円盤30の回転速度V1と、中央円盤31の回転速度V2とに差ΔVをつけることで、この差ΔVだけ、傾斜円盤30の硬貨Cと中央円盤31上の硬貨Cとに異なる大きさの力が作用して、一層効果的にブリッジを崩すことができる。
【0031】
このように、傾斜円盤30と中央円盤31との両方が回転する場合には、一つの駆動源が傾斜円盤30と中央円盤31との両方を回転駆動するようにしてもよい。或いは、傾斜円盤30と中央円盤31とに個別に設けられた駆動源が、傾斜円盤30と中央円盤31とを回転駆動するようにしてもよい。一つの駆動源により傾斜円盤30と中央円盤31との両方を回転駆動する場合、駆動源から中央円盤31に動力を伝達させる機構にワンウェイギアを用いることが考えられる。ワンウェイギアを用いれば、繰出処理時には、駆動源の正回転方向の駆動力を傾斜円盤30だけに伝達して中央円盤31には伝達せず、ブリッジ解消処理時には、駆動源の逆回転方向の駆動力を傾斜円盤30と中央円盤31との両方に伝達することができる。
【0032】
なお、硬貨繰出時に、傾斜円盤30を正回転させて、中央円盤31を逆回転させて、硬貨の連れ上がりを防止する場合には、
図3に示されるブリッジ解消処理において、傾斜円盤30及び中央円盤31の一方だけが矢印Rで示す方向に逆回転し、傾斜円盤30及び中央円盤31の他方は非回転としてもよい。
【0033】
また、上述のブリッジ解消処理は、ブリッジを検出する検出部を設け、この検出部によりブリッジが検出された場合に硬貨処理機1の制御装置(図示略)が、傾斜円盤30と中央円盤31との駆動源を制御してブリッジ解消処理を行わせればよい。または、オペレータが目視によりブリッジを確認したときに、オペレータが手動操作により、前記駆動源を制御して、ブリッジ解消処理を行わせるようにしてもよい。或いは、前記制御装置が、傾斜円盤30と中央円盤31との駆動源を制御して、傾斜円盤30と中央円盤31とを周期的に逆回転させて、ブリッジを崩す又はブリッジの発生を未然に防止するようにしてもよい。なお、ブリッジを検出する検出部は、例えば、傾斜円盤30又は中央円盤31上において、鉛直方向の所定高さ位置にある硬貨Cを検知することでブリッジを検出する検知部であってもよく、傾斜円盤30上の所定の高さ位置にある硬貨Cを検知する検知部であってもよい。
【0034】
なお、硬貨Cの繰出処理時及びブリッジ解消処理時における傾斜円盤30と中央円盤31との回転の態様は前記したものに限定されず、例えば
図4及び
図5に示される態様により行ってもよい。
図4は、ブリッジ解消処理の他の例を説明するための図であって、硬貨繰出装置の正面図である。
図5は、繰出処理の他の例を説明するための図であって、硬貨繰出装置の正面図である。
【0035】
図4に示されるブリッジ解消処理では、傾斜円盤30は矢印Rで示す方向に逆回転し、中央円盤31は矢印Pで示す方向に正回転する。このように傾斜円盤30と中央円盤31とが互いに逆方向に回転することで、互いに逆向きの力を同時にブリッジに作用させることができ、ブリッジを効果的に崩すことができる。傾斜円盤30と中央円盤31の回転方向が異なる場合は、回転速度は同じでもよいが、傾斜円盤30の回転速度と、中央円盤31の回転速度との差ΔVが大きいほどブリッジを効果的に崩すことができる。なお、傾斜円盤30が停止し、中央円盤31だけが逆回転するようにしてもよい。
【0036】
図5に示される繰出処理では、傾斜円盤30は矢印Pで示す方向に正回転し、中央円盤31は矢印Rで示す方向に逆回転する。したがって、傾斜円盤30により硬貨Cを繰り出すと同時に、中央円盤31によりブリッジを崩し、又はブリッジの発生を抑制している。
【0037】
次に、
図6A,
図6B,
図7A、
図7B及び
図7Cを参照して、傾斜円盤30の周縁部30aに設けられた係合部32及びその周辺部について説明する。
図6Aは、参考例としての従来の傾斜円盤の一部を示す正面図である。
図6Bは、参考例としての従来の傾斜円盤の断面図であって
図6AのA-A断面図である。
図7Aは、本発明の一実施形態の傾斜円盤の一部を示す正面図である。
図7Bは、本発明の一実施形態の傾斜円盤の断面図であって、
図7AのB-B断面図である。
図7Cは、本発明の一実施形態に係る係合部の斜視図である。
【0038】
図6A及び
図6Bに示される従来の傾斜円盤130には、本発明の一実施形態の傾斜円盤30とは異なり、中央円盤が組み付けられていなかった。詳しくは、傾斜円盤130は、硬貨Cを掻き上げる係合部132が設けられる周縁部130aと、この周縁部130aよりも正面側に突出した中央部130bとを一体に備えて構成されていた。このため、周縁部130aと中央部130bとの間に段差130cが形成され、ひいては、傾斜円盤130を囲う壁面部140と中央部130bとの間に、凹所150が形成されていた。この傾斜円盤130を装備した硬貨処理機において、処理可能な最大径の硬貨(大径硬貨)の径が、処理可能な最小径の硬貨(小径硬貨)の径の2倍以上の場合、繰出処理時に、壁面部140と中央部130bとの間で硬貨Cが噛み込まれてしまうことがあった。つまり、
図6Aに示すように、2枚の小径硬貨Cが、凹所150内で、傾斜円盤130の径方向に並んで壁面部140と段差130cとの間で押圧された状態となってしまい、この2枚の小径硬貨Cが傾斜円盤130の回転を阻害することがあった。また、凹所150内に金属片などの硬貨ではない異物が入りこんでしまうこともあった。
【0039】
本発明の一実施形態の傾斜円盤30は、
図7Bに示すように、上述したとおりその周縁部30aの正面と中央円盤31の正面とが同じ高さ位置に揃えられている。この結果、従来の傾斜円盤130(
図6A及び
図6B参照)とは異なり、傾斜円盤30を囲う壁面部40と傾斜円盤30及び中央円盤31との間に凹所が形成されない。この結果、最大径硬貨の径が最小径硬貨の径の2倍以上ある場合でも、従来の傾斜円盤130のように凹所内に複数の硬貨Cが押圧された状態で径方向に並ぶことがない。したがって、硬貨Cの噛み込みによる傾斜円盤30の停止が未然に防止される。
【0040】
その反面、壁面部40と中央円盤31との間には凹所が形成されないと、
図7Aに示すように、傾斜円盤130の径方向外側の硬貨Aによって、傾斜円盤130の径方向内側の硬貨Bが支持されて、傾斜円盤30により搬送されることがある。そこで、係合部32の形状を
図7A及び
図7Cに示すように形状としている。
【0041】
具体的には、係合部32は、傾斜円盤30の径方向外側に位置する箇所に、傾斜円盤30の正面側に突出した突部が形成されている。この突部の正回転方向Pに向かう端面32a(以下「係合面32a」ともいう)が、硬貨Aを下方から支持する。また、係合部32は、係合面32aよりも傾斜円盤30の径方向内側に、傾斜ガイド部32bが設けられている。傾斜ガイド部32bは、正回転方向Pの下流側の端部が、周縁部30aの正面と高さ位置が等しく、正回転方向Pの上流側になるほど前記正面側から大きく突出する傾斜面である。ここで説明した「高さ位置が等しい」とは、水平方向の高さ位置が等しいことを意味する。繰り出し時、係合面32aが上方を向くようになると、硬貨Bは、
図7Aに矢印Fで示すように、重力の作用により傾斜ガイド部32b上を降下し、ホッパに落下する。その一方、硬貨Aは係合面32aにより係合・支持されて上方へと搬送される。なお、
図5に示すように、繰り上げ時に中央円盤31を逆回転させれば、硬貨Bが傾斜ガイド部32bへと送り出されて、より効率的に硬貨Bをホッパへと落下させることが可能となる。また、傾斜ガイド部32bを、係合部32とは別部材により構成してもよい。
【0042】
[3.効果]
(1)係合部32に係止されていない硬貨Cは、傾斜円盤30とは同じ方向且つ同じ速度では回転しない中央円盤31上にある。したがって、本発明の一実施形態によれば、中央円盤31上にあり係合部32に係止されていない硬貨Cは、硬貨Cの繰出処理の高速化のために、傾斜円盤の回転速度を上げても、係合部32に係止されていない硬貨Cが連れ周されて不要に繰り出されてしまうことを防止できる。
【0043】
(2)傾斜円盤30が正回転する繰出処理時に、中央円盤31を逆回転させた場合には、ホッパ内に貯留された硬貨Cに、傾斜円盤30と中央円盤31とで同時に逆方向に力を作用させることができる。したがって、互いに逆方向に作用する力により硬貨Cのブリッジを崩す又はブリッジの発生を未然に防止できる。
【0044】
(3)硬貨Cの詰まりにより硬貨Cの繰り出しを行えないブリッジ発生時に、傾斜円盤30と中央円盤31とを共に逆回転させることで、傾斜円盤30の繰り出し時の正回転により形成された硬貨Cの配列に起因したブリッジを崩すことができる。
【0045】
(4)繰出処理時又はブリッジ解消時に、傾斜円盤30と中央円盤31とを互いに異なる速度で回転させれば、傾斜円盤30上の硬貨Cと中央円盤31上の硬貨Cとに異なる大きさの力を作用させることができる。したがって、硬貨Cのブリッジを崩す又はブリッジの発生を未然に防止できる。
【0046】
(5)傾斜円盤30と中央円盤31との間に段差があると、この段差において硬貨Cの噛み込みが発生する可能性があるが、傾斜円盤30と中央円盤31との正面の高さ位置が等しいので、このような噛み込みを未然に防止できる。
【0047】
(6)傾斜円盤30と中央円盤31との間に段差がないと、係合部32上に複数枚の硬貨A,Bが並んでしまい、これらの複数枚の硬貨A,Bが同時に繰り上げられてしまう可能性がある。そこで、係合部32の係合面32aよりも傾斜円盤30の径方向内側には、傾斜円盤30の繰り出し時の回転方向で上流側になるほど傾斜円盤30の正面からの突出量が大きくなる、傾斜ガイド部32bが設けられている。当該径方向に並んだ複数枚の硬貨A,Bの内、この傾斜ガイド部32b上の硬貨Bが、傾斜ガイド部32bを滑り落ちて落下するので、複数枚の硬貨A,Bが同時に繰り上げられてしまうことを防止できる。
【0048】
(7)傾斜円盤30又は中央円盤31上において鉛直方向の所定高さ位置にある硬貨Cを検知することでブリッジを検出する検知部を設けた場合には、この検知部によりブリッジが検出された場合に自動でブリッジ解消処理を行わせることが可能となる。
【0049】
[4.変形例]
ブリッジ解消処理は前記実施形態の態様に限定されない。例えば、傾斜円盤30を正回転させると共に、中央円盤31を、傾斜円盤30の回転速度よりも遅い回転速度で正回転させてもよい。この場合も、ブリッジの傾斜円盤30上に位置する部分と中央円盤31上に位置する部分とに異なる大きさの力が作用するので、ブリッジを崩すことが可能である。
【0050】
あるいは、ブリッジ解消処理を、中央円盤31を前後方向に移動させることで行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、硬貨繰出装置と、その硬貨繰出装置を用いた硬貨処理装置とに適用できる。よって、その産業上の利用可能性は多大である。
【符号の説明】
【0052】
1 硬貨処理機
11 機体
12 シャッタ
13 硬貨入出金口
14 硬貨受皿
15 硬貨繰出装置
16 残留物回収箱
17 回収通路
18 硬貨通路
19 識別部
20 分類部
21 返却通路部
22 一時保留部
23 収納部
24 コンベヤ
25 補充カセット
26 回収箱
30 傾斜円盤
30a 傾斜円盤30の周縁部
31 中央円盤(中央部材)
32 係合部
32a 係合面
32b 傾斜ガイド部
130 傾斜円盤
132 係合部
A,B,C 硬貨
CL 軸心線
P 正回転方向