(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20230615BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230615BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20230615BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20230615BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230615BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M10/0585
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019200154
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水野 善文
(72)【発明者】
【氏名】和田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高市 哲
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-114787(JP,A)
【文献】特開2020-115425(JP,A)
【文献】特開2012-094445(JP,A)
【文献】特開2019-192490(JP,A)
【文献】特開2015-065029(JP,A)
【文献】特開2019-096610(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141241(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/40
H01M 10/0562
H01M 10/0585
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の表面に、正極活物質を含有する正極活物質層が配置された正極と、
負極集電体の表面に、金属リチウムまたはリチウム含有合金を含む負極活物質を含有する負極活物質層が配置された負極と、
前記正極活物質層および前記負極活物質層との間に介在し、硫化物固体電解質を含む固体電解質層と、
を有する発電要素を備え、
前記固体電解質層が、前記負極活物質層側の表面の少なくとも一部に、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)および酸素(O)を含有し、硫黄(S)原子に対する酸素(O)原子の原子比率(O/S比)が0.4よりも大きく0.8未満である領域を有する、全固体電池。
【請求項2】
前記固体電解質層は、前記負極活物質層側の表面の全体にわたって前記領域を有する、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
平面視した際に、前記固体電解質層の外周端が前記正極活物質層の外周端と一致し、前記負極活物質層の外周端の少なくとも一部が前記固体電解質層の外周端より内側に位置する、請求項1または2に記載の全固体電池。
【請求項4】
平面視した際に、前記負極活物質層の外周端が前記領域に含まれている、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記負極活物質層は、
金属リチウムまたはリチウム含有合金を含む第1活物質層と、
リチウムと合金化しうる材料を含む第2活物質層と、
を有し、前記第2活物質層が前記固体電解質層と前記第1活物質層との間に配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項6】
全固体リチウムイオン二次電池である、請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウムイオン二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池等の全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウムイオン二次電池においては、従来の液系リチウムイオン二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。正極活物質として硫黄単体(S)や硫化物系材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、その有望な候補である。
【0006】
ここで、全固体電池を構成する固体電解質層は、液系電池を構成するセパレータとは異なり、塗布法や蒸着法といった手法によって正負極のいずれかの活物質層の表面に形成されることがある。このような手法により形成された固体電解質層は薄膜化が可能である。その結果、固体電解質層におけるオーミック抵抗が低減でき、かつ、セル容積も低減できることから、全固体電池の高出力化および高容量化に有利である。
【0007】
一方、上述したような固体電解質層の形成手法によると、固体電解質層は自立膜として存在することができず、固体電解質層を形成する際の下地層となる正負極のいずれかの活物質層によって支持される必要がある。そのため、全固体電池を平面視した際に、固体電解質層の外周端は、下地層となる活物質層の外周端と一致することになる。
【0008】
ところで、リチウムイオン二次電池においては、その充電の進行に伴って負極電位が低下する。負極電位が低下して0V(vs. Li/Li+)を下回ると、負極において金属リチウムが析出してデンドライト(樹枝状)結晶が析出する(この現象を金属リチウムの電析とも称する)。特に、金属リチウムやリチウム含有合金を負極活物質として用いた全固体電池においては、金属リチウムの電析が充電反応そのものである。ここで、全固体電池において金属リチウムの電析が過剰に発生すると、析出したデンドライトが固体電解質層を貫通して電池の内部短絡が引き起こされる場合がある。
【0009】
全固体電池におけるこのような金属リチウムの電析を防止することを目的として、例えば特許文献1には、固体電解質層と負極活物質層との界面を長期間にわたって安定化させて金属リチウムの電析に起因する内部短絡の発生を防止することを目的として、これらの層間にリチウムイオン伝導性を有し、かつ、負極活物質層と合金化しうる材料からなる犠牲層を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2018/0123181号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、特許文献1に開示されている技術では、固体電解質層と負極活物質層との間の接触抵抗を十分に低減させることができず、電池の内部抵抗が上昇してしまう場合がある。
【0012】
そこで本発明は、全固体電池において、固体電解質層と負極活物質層との間の接触抵抗の上昇を最小限に抑制し、電池の内部抵抗の上昇を防止しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、負極活物質として金属リチウムまたはリチウム含有合金を含み、固体電解質層が硫化物固体電解質を含む全固体電池において、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)および酸素(O)を含有し、硫黄(S)原子に対する酸素(O)原子の原子比率(O/S比)が0.4よりも大きく0.8未満である領域を固体電解質層の負極活物質層側の表面に設けることにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の一形態によれば、正極集電体の表面に、正極活物質を含有する正極活物質層が配置された正極と、負極集電体の表面に、金属リチウムまたはリチウム含有合金を含む負極活物質を含有する負極活物質層が配置された負極と、前記正極活物質層および前記負極活物質層との間に介在し、硫化物固体電解質を含む固体電解質層とを有する発電要素を備える全固体電池が提供される。そして、当該固体電解質層は、前記負極活物質層側の表面の少なくとも一部に、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)および酸素(O)を含有し、硫黄(S)原子に対する酸素(O)原子の原子比率(O/S比)が0.4よりも大きく0.8未満である領域を有する点に特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る全固体電池を構成する固体電解質層において、O/S比が0.4よりも大きく0.8未満である領域は、負極活物質層との接触抵抗が低く、しかもリチウムイオンとの濡れ性が良好であるために界面の均一化に寄与しうる。したがって、このような領域が固体電解質層の負極活物質層側の表面に存在することにより、固体電解質層と負極活物質層との間の接触抵抗が低減され、電池の内部抵抗の上昇が防止されるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である扁平積層型電池の外観を表した斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池(双極型二次電池)を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一形態は、正極集電体の表面に、正極活物質を含有する正極活物質層が配置された正極と、負極集電体の表面に、金属リチウムまたはリチウム含有合金を含む負極活物質を含有する負極活物質層が配置された負極と、前記正極活物質層および前記負極活物質層との間に介在し、硫化物固体電解質を含む固体電解質層とを有する発電要素を備え、前記固体電解質層が、前記負極活物質層側の表面の少なくとも一部に、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)および酸素(O)を含有し、硫黄(S)原子に対する酸素(O)原子の原子比率(O/S比)が0.4よりも大きく0.8未満である領域を有する、全固体電池である。
【0018】
以下、図面を参照しながら、上述した本形態の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0019】
図1は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である扁平積層型電池の外観を表した斜視図である。
図2は、
図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、
図1および
図2に示す扁平積層型の双極型でないリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係る全固体電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0020】
図2に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電板25、負極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、正極集電板25および負極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0021】
なお、本形態に係る全固体電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型の全固体電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0022】
また、
図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電板25と負極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電板25と負極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、
図1および
図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0023】
図2に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。本実施形態において、固体電解質層17は、硫化物固体電解質の1種であるLi
3PS
4を含んでいる。正極は、正極集電体11’の両面に正極活物質を含有する正極活物質層13が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11”の両面に負極活物質(ここでは、金属リチウム)を含有する負極活物質層15が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層および負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、
図2に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0024】
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。
【0025】
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板(タブ)25および負極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体13に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0026】
上述したように、固体電解質層17は、硫化物固体電解質の1種であるLi3PS4を含んでいるが、本実施形態においては、固体電解質層17を構成するLi3PS4の組成(具体的には、O/S比)が特定の組成に制御されている(なお、この「特定の組成」の詳細については、後述する)。これにより、固体電解質層と負極活物質層との間の接触抵抗が低減され、電池の内部抵抗の上昇が防止されるという利点が得られる。
【0027】
なお、本実施形態に係る積層型電池10aにおいて、固体電解質層17の外周端は、平面視した際に、正極活物質層13の外周端と一致するように配置されている。このような構成は、固体電解質層17を塗布法や蒸着法といった手法によって正極活物質層13の表面に形成すると得られる。ここでは、正極集電体11’の外周端もまた、その一部が外側へ向かって延在されて正極集電板25と電気的に接続される部位を除き、平面視した際に、固体電解質層17(および正極活物質層13)の外周端と一致するように配置されている。
【0028】
上述したように、本実施形態においては、固体電解質層17を構成するLi3PS4の組成(具体的には、O/S比)が特定の組成に制御されている。すなわち、固体電解質層17は、負極活物質層15側の表面の全体にわたって、Li3PS4の組成(具体的には、O/S比)が特定の組成に制御されている。その結果、負極活物質層15の外周端は、平面視した際に、Li3PS4の組成(具体的には、O/S比)が特定の組成に制御されている領域に含まれている。このような構成とすることにより、負極活物質層15の露出表面の全面が、固体電解質層との間で優れた界面接触状態を示すこととなり、電池の内部抵抗の低減に有効に寄与しうる。さらに、本実施形態に係る積層型電池10aにおいて、負極活物質層15の外周端は、その全周にわたって固体電解質層17の外周端より内側に位置している。その結果として、平面視した際に、負極活物質層15の外周端は、固体電解質層17においてO/S比が特定の組成に制御された領域に含まれていることになる。このような構成とすることで、充放電に関与する負極活物質層15の全面が固体電解質層17との間で良好な界面を形成して接触抵抗を低減することに寄与することができる。
【0029】
以下、本形態に係る全固体電池の主要な構成部材について説明する。
【0030】
[集電体]
集電体は、正極活物質層と接する一方の面から、負極活物質層と接する他方の面へと電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0031】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0032】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0033】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0034】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
【0035】
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(商標登録)、ブラックパール(商標登録)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(商標登録)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
【0036】
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5~80質量%である。
【0037】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。
【0038】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。本発明において、負極活物質は、金属リチウム単体(Li)またはリチウム含有合金を必須に含む。これらの負極活物質の種類としては、特に制限されないが、リチウム含有合金としては、例えば、リチウムと、リチウムと合金化しうる材料の少なくとも1種との合金が挙げられる。ここで、リチウムと合金化しうる材料としては、例えば、Si、Au、In、Ge、Sn、Pb、Al、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、リチウムと合金化しうる材料は、Si、Au、In、Ge、Sn、Pb、AlおよびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、Si、AuまたはInを含むことがより好ましい。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、金属リチウムまたはリチウム含有合金を必須に含むのであれば、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0039】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられるが、薄膜状であることが好ましい。なお、負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0040】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
負極活物質層は、固体電解質をさらに含んでもよい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0042】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0043】
硫化物固体電解質は、例えば、Li3PS4骨格を有していてもよく、Li4P2S7骨格を有していてもよく、Li4P2S6骨格を有していてもよい。Li3PS4骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4が挙げられる。また、Li4P2S7骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li7P3S11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)PxS4(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、Li2S-P2S5を主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。
【0044】
また、硫化物固体電解質がLi2S-P2S5系である場合、Li2SおよびP2S5の割合は、モル比で、Li2S:P2S5=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLi2S:P2S5=70:30~80:20であることが好ましい。
【0045】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0046】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO3)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.3N0.46)、LiLaZrO(例えば、Li7La3Zr2O12)等が挙げられる。
【0047】
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0048】
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、0~60質量%の範囲内であることが好ましく、0~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0049】
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
【0050】
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(商標登録)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0051】
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
【0052】
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0053】
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
【0054】
一方、バインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0055】
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
【0056】
負極活物質層の好ましい実施形態の1つは、金属リチウムまたはリチウム含有合金を含む第1活物質層と、リチウムと合金化しうる材料を含む第2活物質層とを有し、前記第2活物質層が前記固体電解質層と前記第1活物質層との間に配置されている形態である。このような構成とすることにより、負極活物質層の容量の低下を最小限に抑制しつつ、固体電解質層への金属リチウムのデンドライトの成長による短絡の発生を防止することができる。ここで、リチウムと合金化しうる材料の具体例および好ましい形態については、上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0057】
負極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0058】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S8)またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物(Li2S8~Li2Sの各化合物のいずれか)が好ましく用いられる。ここで例えば、硫黄単体(S8)は、1670mAh/g程度と極めて大きい理論容量を有し、低コストで資源が豊富であるという利点を備えている。この場合、全固体電池が充電状態で提供される場合には、正極活物質として硫黄単体(S8)を含む。また、全固体電池が放電状態で提供される場合には、正極活物質としてリチウムを含有する硫黄の還元生成物(上述したLi2S8~Li2Sの各化合物のいずれか)を含有する。
【0059】
なお、正極活物質層は、上述した硫黄単体(S8)またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物(上述したLi2S8~Li2Sの各化合物のいずれか)以外の正極活物質を含んでもよい。ただし、正極活物質層に含まれる正極活物質に占める硫黄単体またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物の割合は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%であり、いっそう好ましくは95~100質量%であり、特に好ましくは98~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
【0060】
硫黄単体またはリチウムを含有する硫黄の還元生成物以外の正極活物質としては、例えば、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。また、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、NiS、NiS2、CuS、FeS2、MoS2、MoS3等の無機硫黄化合物も用いられうる。さらに、硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、Li(Ni-Mn-Co)O2等の層状岩塩型活物質、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4等のオリビン型活物質、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、Li4Ti5O12が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0061】
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0062】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0063】
正極活物質層もまた、負極活物質層と同様に導電助剤および/またはバインダをさらに含んでもよい。
【0064】
[固体電解質層]
本形態に係る全固体電池の固体電解質層は、固体電解質を主成分として含有し、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。また、本形態に係る全固体電池の固体電解質層は、硫化物固体電解質を必須に含むが、その他の固体電解質を含んでもよい。ただし、固体電解質層に含まれる固体電解質に占める硫化物固体電解質の割合は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%であり、いっそう好ましくは95~100質量%であり、特に好ましくは98~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。なお、固体電解質層に含有される硫化物固体電解質およびその他の固体電解質の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0065】
固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0066】
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダの具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0067】
固体電解質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、1~1000μmの範囲内であることが好ましく、10~300μmの範囲内であることがより好ましい。
【0068】
(O/S比が制御された領域)
上述したように、本形態に係る全固体電池において、固体電解質層17を構成するLi
3PS
4の組成(具体的には、O/S比)が特定の組成に制御されている。具体的に、本実施形態において、固体電解質層17を構成する固体電解質は、Li
3PS
4をベースとするものである。ただし、硫化物固体電解質は一般に製造の過程においてある程度の量の酸素(O)原子を不可避的に含むようになっている。このため、固体電解質層17を構成する固体電解質は、リチウム(Li)、リン(P)および硫黄(S)に加えて、酸素(O)原子をも不可避的に含有している。すなわち、本形態に係る全固体電池において、固体電解質層17は、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)および酸素(O)を必須に含有するものである。そして、
図1および
図2に示す実施形態に係る積層型電池10aにおいて、固体電解質層17を構成する固体電解質は、その全体において、硫黄(S)原子に対する酸素(O)原子の原子比率(O/S比)が0.4よりも大きく0.8未満とされている。なお、本実施形態のように固体電解質の全体においてO/S比がこの範囲内の値とされていてもよいが、固体電解質の全体におけるO/S比がこの範囲内の値である必要はない。この場合、固体電解質層の負極活物質層側の表面の少なくとも一部に、硫黄(S)原子に対する酸素(O)原子の原子比率(O/S比)が0.4よりも大きく0.8未満である領域が存在していればよい。なお、O/S比の値は、好ましくは0.4超0.75以下であり、より好ましくは0.4超0.7以下である。
【0069】
ここで、本発明者らの検討によれば、Li、P、SおよびOを含有し、上記O/S比が0.4よりも大きい硫化物固体電解質を固体電解質層に用いて電池の充放電試験を実施すると、O/S比が0.4以下である硫化物固体電解質を用いた場合と比較して、電流密度を一定としたときの平均充電電圧が小さくなることが判明した。このことは、オームの法則(V=I×R)に鑑みると、O/S比が0.4よりも大きい値となることで固体電解質における抵抗(リチウムイオンの拡散抵抗)が減少しているものと推測される。このようにリチウムイオンの拡散抵抗が減少した領域を固体電解質層の負極活物質層側の表面に設けることで、これらの層間における接触抵抗が低減され、電池の内部抵抗の低減に有効に寄与しうるものと考えられる。
【0070】
同様に、本発明者らの検討によれば、Li、P、SおよびOを含有し、上記O/S比が0.8未満である硫化物固体電解質は金属リチウムに対する濡れ性に優れることが判明した。この事実は、O/S比を変化させた硫化物固体電解質の表面に対して、真空蒸着法によって金属リチウムの薄膜を形成しようと試みた結果、O/S比が0.8以上となると薄膜の形成ができなかったことにより見出された。このように金属リチウムに対する濡れ性が改善された領域を固体電解質層の負極活物質層側の表面に設けることで、やはりこれらの層間における接触抵抗が低減され、電池の内部抵抗の低減に有効に寄与しうるものと考えられる。
【0071】
ここで、Li、P、SおよびOを含有し、上記O/S比が0.4よりも大きく0.8未満である硫化物固体電解質を得る手法について特に制限はなく、従来の技術常識が適宜参酌されうる。一例として、Li、PおよびSを含有する硫化物固体電解質(実際には不可避的に酸素(O)も含有している)に対するプレス処理の条件を調節するという手法が挙げられる。このような手法によれば、Li、PおよびS(並びにO)を含有する硫化物固体電解質におけるO/S比の値を制御することができる。このようなプレス処理の具体的な条件については特に制限はないが、例えば、酸素を含有する不活性ガス(例えば、アルゴン)の雰囲気下、室温付近の温度(例えば、0~100℃、好ましくは10~50℃)で、0.5分間~15分間、好ましくは1~10分間といった条件が挙げられる。ここで、プレス処理の際の加圧条件は、10~500MPa程度であればよく、好ましくは50~450MPaである。このようなプレス処理を固体電解質層の構成材料に対して施して固体電解質層を成形することにより、例えば
図1および
図2に示すように固体電解質層の全体におけるO/S比の値が制御された全固体電池を得ることができる。
【0072】
一方、Li、PおよびSを含有する硫化物固体電解質(実際には不可避的に酸素(O)も含有している)を酸素含有雰囲気中に放置しておくと、当該固体電解質の表面は酸化され、表面近傍における酸素(O)の量が増大する。したがって、Li、PおよびSを含有する硫化物固体電解質(実際には不可避的に酸素(O)も含有している)の表面に対して、サンドペーパーや研磨機などを用いて研磨処理を施すと、表面に存在していた酸化被膜が除去され、その結果、固体電解質の表面近傍における酸素(O)の量が減少し、ひいては硫化物固体電解質の表面近傍におけるO/S比の値を減少させることができる。このような研磨処理を、その程度を調節しながら固体電解質層の負極活物質層側の表面に対して施すことにより、所望のO/S比を有する領域を固体電解質層の負極活物質層側の表面に設けることができる。なお、所望のO/S比を有する領域が設けられるように、これらの処理を複数回実施してもよいし、上述したプレス処理と研磨処理とを組み合わせて実施してもよい。
【0073】
また、プレス処理によって固体電解質層を作製する際に使用する治具の種類を適宜選択することによっても、O/S比を制御することが可能である。例えば、後述する実施例の欄において採用されているようなSLD鋼(日立金属工具鋼株式会社製)製スリーブと、両端に硬質クロムめっき処理を施したSLD鋼製ピンを用いてプレス処理を施すことによりO/S比を本願所定の範囲に制御することが可能である。この際、プレス処理を施す固体電解質の両端にSUS箔を挟んだ状態で同様にプレス処理を施すと、O/S比を小さめに制御することが可能である。なお、SLD鋼は、JISによるSKD-11に相当する合金鋼であり、ダイス鋼とも称される。このSLD鋼は炭素量1.4~1.6%の高炭素鋼であり、これに加えてクロム11~13%、バナジウム0.2~0.5%、モリブデン0.8~1.2%が基本組成である。
【0074】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0075】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体(11、12)と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0076】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、
図1および
図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0077】
図2に示す実施形態に係る積層型電池は、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性に優れるものである。したがって、本実施形態に係る積層型電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0078】
以上、全固体電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0079】
例えば、本発明に係る全固体電池が適用される電池の種類として、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層とを有する双極型電極を含む、双極型(バイポーラ型)の電池も挙げられる。
【0080】
図3は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池(以下、単に「双極型二次電池」とも称する)を模式的に表した断面図である。
図3に示す双極型二次電池10bは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
【0081】
図3に示すように、本形態の双極型二次電池10bの発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、固体電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、固体電解質層17は、固体電解質が層状に成形されてなる構成を有する。また、固体電解質層17は、硫化物固体電解質の1種であるLi
3PS
4を含んでおり、かつ、固体電解質層17を構成するLi
3PS
4の組成(具体的には、O/S比)が上述した「特定の組成」に制御されている。この際、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15とが固体電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極23および固体電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間に固体電解質層17が挟まれて配置されている。
【0082】
隣接する正極活物質層13、固体電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10bは、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
【0083】
さらに、
図3に示す双極型二次電池10bでは、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
【0084】
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型二次電池10bでは、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型二次電池10bでも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
【0085】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0086】
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0087】
[車両]
本発明に係る全固体電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記非水電解質二次電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0088】
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【実施例】
【0089】
[実験例1]
硫化物固体電解質(β-Li3PS4)を100mg秤量し、SLD鋼(日立金属工具鋼株式会社製、SKD-11相当鋼)製スリーブに入れ、両端を硬質CrめっきしたSLD製ピンで挟み、室温(25℃)にて390MPaの圧力で1分間プレスすることにより、本実験例の電解質ペレット(1)を得た。
【0090】
[実験例2]
上述した実験例1の手法によりプレスを行った後、さらに280℃にて90MPaの圧力で15分間ホットプレスすることにより、本実験例の電解質ペレット(2)を得た。
【0091】
[実験例3]
上述した実験例2の手法によりホットプレスを行った後、#600のサンドペーパーを用いてペレットの一方の表面に対して研磨処理を施すことにより、本実験例の電解質ペレット(3)を得た。
【0092】
[実験例4]
硫化物固体電解質(β-Li3PS4)を100mg秤量し、SLD製スリーブに入れ、両端をSUS箔で挟んだ状態で硬質CrめっきしたSLD製ピンで挟み、室温(25℃)にて390MPaの圧力で1分間プレスすることにより、本実験例の電解質ペレット(4)を得た。
【0093】
[評価例]
(XPS法による電解質ペレットの表面組成の分析)
X線光電子分光(XPS)法により、上述した実験例1~4においてそれぞれ得られた電解質ペレット(1)~電解質ペレット(4)の表面組成を分析した。また、得られた分析結果から、硫黄(S)原子の量に対する酸素(O)原子の量の比率(原子比率)を算出した。結果を下記の表1に示す。なお、表1に示す表面組成のうち、実験例3において得られた電解質ペレット(3)の値は、研磨処理を施された側の表面の組成である。
【0094】
(真空蒸着法による金属薄膜の形成)
上述した実験例1~3においてそれぞれ得られた電解質ペレット(1)~電解質ペレット(4)の表面(電解質ペレット(3)では研磨処理を施された側の表面)に、真空蒸着法により、Au薄膜(厚み30nm)およびLi薄膜(厚み1μm)の2層の金属薄膜を形成することを試みた。その結果、電解質ペレット(1)、電解質ペレット(3)および電解質ペレット(4)の表面にはこれらの金属薄膜を形成することができたが、電解質ペレット(2)の表面にはこれらの金属薄膜を形成することはできなかった。これは、電解質ペレット(2)の表面のO/S比率が0.8以上と大きい値を示した結果、当該表面と金属(AuおよびLi)との濡れ性が悪化したことによるものと考えられる。
【0095】
(充放電試験;限界電流密度の測定)
以下の手法により、電解質ペレット(1)または電解質ペレット(3)を固体電解質層として用いた評価用セルを作製し、充放電試験を行った。
【0096】
電解質ペレットをマコール管(電池保護管)に封入し、両面にそれぞれ金属リチウム箔(厚み200μm)を貼り付けた。そして、各金属リチウム箔をSKD-11製のピンで挟むことにより、Li対称セルを作製した。なお、セル組み付け時の拘束圧は0.2MPaとした。
【0097】
このようにして作製されたLi対称セルを用い、60℃の測定温度にて、0.1~10mA/cm2の範囲で電流密度を0.1mA/cm2ずつ変化させながら、1回ずつの充電および放電を1サイクルとして各電流密度において1サイクルずつの充放電試験を行った。そして、電流密度を大きくしても電池電圧が上昇しなくなった時点の電流密度(限界電流密度)を求めた。結果を下記の表1に示す。
【0098】
【0099】
表1に示すように、電解質ペレット(3)を用いた実験例3においては、限界電流密度が0.3mA/cm2と小さい値を示した。これは、電解質ペレット(3)の表面のO/S比率が0.4以下と小さい値を示した結果、電解質ペレットにおけるリチウムイオンの拡散抵抗が大きくなったことによるものと考えられる。
【0100】
以上のことから、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)および酸素(O)を含有し、硫黄(S)原子に対する酸素(O)原子の原子比率(O/S比)が0.4よりも大きく0.8未満である領域を固体電解質層の負極活物質層側の表面に設けることにより、固体電解質層と負極活物質層との間の接触抵抗の上昇が抑制され、電池の内部抵抗の上昇を防止することが可能となるものと期待される。
【符号の説明】
【0101】
10 全固体リチウムイオン二次電池、
10a、50 積層型二次電池、
10b 双極型二次電池、
11 集電体、
11’ 正極集電体、
11” 負極集電体、
11a 正極側の最外層集電体、
11b 負極側の最外層集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21、57 発電要素、
23 双極型電極、
25 正極集電板(正極タブ)、
27 負極集電板(負極タブ)、
29 ラミネートフィルム。