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特許7296306光フィルター用ガラスセラミックスおよび光フィルター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】光フィルター用ガラスセラミックスおよび光フィルター
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/04 20060101AFI20230615BHJP
   C03C 10/10 20060101ALI20230615BHJP
   C03C 10/08 20060101ALI20230615BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20230615BHJP
   C04B 35/443 20060101ALI20230615BHJP
   C04B 35/465 20060101ALI20230615BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C03C10/04
C03C10/10
C03C10/08
C03C10/02
C04B35/443
C04B35/465
G02B5/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019214104
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021084828
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 早矢
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-265234(JP,A)
【文献】特開2007-031180(JP,A)
【文献】特開2004-053997(JP,A)
【文献】特開2017-001937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0352221(US,A1)
【文献】特開2011-033714(JP,A)
【文献】特開2002-154841(JP,A)
【文献】特開2014-114200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C04B 35/00-35/84
G02B 5/20- 5/28
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長1550nmの光に対する厚さ1mmのときの内部透過率が0.970以上で、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分を40.0%~70.0%、
Al成分を11.0%~25.0%、
NaO成分を5.0%~19.0%、
O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、並びに
TiO成分を0.5%~12.0%、
含有する光フィルター用ガラスセラミックスであって、
主結晶相として、MgAl 、MgTi およびこれらの固溶体から選ばれる1以上を含有する光フィルター用ガラスセラミックス
【請求項2】
-30~+70℃における熱膨張係数が70×10-7/℃~95×10-7/℃である請求項1記載の光フィルター用ガラスセラミックス。
【請求項3】
ヤング率が78GPa以上である請求項1または2記載の光フィルター用ガラスセラミックス。
【請求項4】
主結晶相として、MgTi、MgTiO、MgSiO、MgAlSi、MgAlSi18、MgTiO、MgSiO 、FeAlおよびこれらの固溶体から選ばれる1以上を含有する請求項1~3のいずれか記載の光フィルター用ガラスセラミックス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか記載のガラスセラミックス上に誘電体を成膜してなる光フィルター。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のガラスセラミックス上に誘電体を成膜してなるバンドパスフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フィルター用ガラスセラミックスおよび該ガラスセラミックスを用いた光フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
光フィルターには、特定の波長をカットしたり透過するもの、波長によらず光強度を落とすもの等がある。前者の光フィルターには、特定の波長のみを透過するバンドパスフィルター、特定の波長のみをカットするノッチパスフィルター、特定の波長より短波長や長波長のみを透過するハイパスフィルター、ローパスフィルター等があり、後者の光フィルターには、NDフィルターがある。
【0003】
また、光フィルターには吸収型と干渉型等がある。吸収型光フィルターには代表的なものとしてNDフィルター等があり、干渉型光フィルターには、代表的なものとしてバンドパスフィルターが挙げられる。写真用等の吸収型光フィルターには基体としてプラスチックが用いられているが、強いレーザーが用いられる光フィルターの基板には、耐久性・耐熱性が要求されるのでガラスが用いられている。
【0004】
バンドパスフィルターは、ガラス等の基板材上に例えば、高い屈折率を持つ誘電体薄膜(H層)と低い屈折率を持つ誘電体薄膜(L層)を交互に積層した構造の誘電体多層膜を形成したものが用いられる。
【0005】
WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重方式)光通信システムに用いられるバンドパスフィルターにおいては、通過波長のバンド幅を狭く設定し、より高密度波長に適用しようとする場合、バンドの中心波長の温度安定性が問題となっている。すなわち、わずかな温度変化に対してもバンドの中心波長が変動してしまう敏感な素子であるため、その使用においては温度コントローラーで温度補償を行うべきであるが、用いる際のスペース的な問題により事実上温度コントローラーをつけることができない。この中心波長の温度安定性は、光情報量が増加するに従いバンド幅を狭くする必要があるため、その重要さを増す。
【0006】
通常の光学ガラスは、耐熱性に劣るためバンドパスフィルターの基板材に適さない。特許文献1には、バンドパスフィルターの基板材として、ガラスセラミックスが開示されている。このガラスセラミックスは、熱膨張特性、機械的強度に優れるが、硬度が高く、加工性に劣っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-318222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術に見られる諸欠点を解消し、フィルター部材の使用温度における屈折率変動を回避するための熱膨張特性と、耐久性を考慮した機械的特性を兼ね備え、さらに加工性に優れた光フィルター用ガラスセラミックスおよび光フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意試験研究を重ねた結果、上記課題を解決するには、所定の組成を有するガラスセラミックスが、光線透過率、熱膨張特性、機械的特性に優れ光フィルターとして好適に使用でき、さらに適度な硬度を有して加工性にも優れることを見い出し、本発明に至った。
本発明は以下を提供する。
(構成1)
波長1550nmの光に対する厚さ1mmのときの内部透過率が0.970以上で、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分を40.0%~70.0%、
Al成分を11.0%~25.0%、
NaO成分を5.0%~19.0%、
O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、並びに
TiO成分を0.5%~12.0%、
含有する光フィルター用ガラスセラミックス。
(構成2)
-30~+70℃における熱膨張係数が70×10-7/℃~95×10-7/℃である構成1記載の光フィルター用ガラスセラミックス。
(構成3)
ヤング率が78GPa以上である構成1または2記載の光フィルター用ガラスセラミックス。
(構成4)
主結晶相として、MgAl、MgTi、MgTi、MgTiO、MgSiO、MgAlSi、MgAlSi18、MgTiO、MgSiO、NaAlSiO、FeAlおよびこれらの固溶体から選ばれる1以上を含有する構成1~3のいずれか記載の光フィルター用ガラスセラミックス。
(構成5)
構成1~4のいずれか記載のガラスセラミックス上に誘電体を成膜してなる光フィルター。
(構成6)
構成1~4のいずれかに記載のガラスセラミックス上に誘電体を成膜してなるバンドパスフィルター。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フィルター部材の使用温度における屈折率変動を回避するための熱膨張特性と、耐久性を考慮した機械的特性を兼ね備え、さらに加工性に優れた光フィルター用ガラスセラミックスおよび光フィルターを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態および実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算の質量%で表示する。ここで、「酸化物換算」とは、ガラスセラミックス構成成分が全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総質量を100質量%としたときの、ガラスセラミックス中に含有される各成分の酸化物の量を、質量%で表記したものである。本明細書において、A~B%はA%以上B%以下を表す。また、0%~C%の0%は、含有量が0%であることを意味する。
【0013】
本発明のガラスセラミックスは、酸化物換算の質量%で、
SiO成分を40.0%~70.0%、
Al成分を11.0%~25.0%、
NaO成分を5.0%~19.0%、
O成分を0%~9.0%、
MgO成分およびZnO成分から選択される1以上を1.0%~18.0%、
CaO成分を0%~3.0%、並びに
TiO成分を0.5%~12.0%、
含有する。
【0014】
SiO成分は、ガラスの網目構造を形成するガラス形成成分である。SiO成分は、好ましくは45.0%~65.0%、より好ましくは50.0%~60.0%含まれる。
【0015】
Al成分は、機械的強度を向上させるのに好適な成分である。Al成分は、好ましくは13.0%~23.0%含まれる。
【0016】
NaO成分とKO成分は、化学強化の際イオン交換に関与する成分である。NaO成分は、好ましくは8.0%~16.0%含まれる。9.0%以上または10.5%以上としてもよい。KO成分は、好ましくは0.1%~7.0%、より好ましくは1.0%~5.0%含まれる。
【0017】
MgO成分とZnO成分は、機械的強度に寄与する成分である。ZnO成分は、ガラスの低粘性化にも有効な成分である。MgO成分およびZnO成分から選択される1以上は、好ましくは2.0%~15.0%、より好ましくは3.0%~13.0%、特に好ましくは5.0%~11.0%含まれる。MgO成分およびZnO成分から選択される1以上は、MgO成分単独、ZnO成分単独またはその両方でよいが、好ましくはMgO成分のみである。
【0018】
CaO成分は、ガラスの安定化に寄与する成分である。CaO成分は、好ましくは0.01%~3.0%、より好ましくは0.1%~2.0%含まれる。
【0019】
TiO成分は、結晶化の核剤となり得る成分である。TiO成分は、好ましくは1.0%~10.0%、より好ましくは2.0%~8.0%含まれる。
【0020】
ガラスセラミックスは、清澄剤として、Sb成分、SnO成分およびCeO成分から選択される1以上を0.01%~3.0%(好ましくは0.03%~2.0%、さらに好ましくは0.05%~1.0%)含むことができる。
【0021】
上記の配合量は適宜組み合わせることができる。
【0022】
SiO成分、Al成分、NaO成分、MgO成分およびZnO成分から選択される1以上、TiO成分を合わせて90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは98.5%以上とできる。
SiO成分、Al成分、NaO成分、KO成分、MgO成分およびZnO成分から選択される1以上、CaO成分、TiO成分、並びにSb成分、SnO成分およびCeO成分から選択される1以上を合わせて90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上とできる。これら成分で100%を占めてもよい。
【0023】
ガラスセラミックスは、本発明の効果を損なわない範囲で、ZrO成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。配合量は、0~5.0%、0~3.0%または0~2.0%とできる。
また、ガラスセラミックスは、本発明の効果を損なわない範囲で、B成分、P成分、BaO成分、FeO成分、LiO成分、SrO成分、La成分、Y成分、Nb成分、Ta成分、WO成分、TeO成分、Bi成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。配合量は、各々、0~2.0%、0以上2.0%未満または0~1.0%とできる。
【0024】
本発明のガラスセラミックスには、上述されていない他の成分を、本発明のガラスセラミックスの特性を損なわない範囲で、必要に応じ、添加することができる。例えば、本発明のガラスセラミックスは無色透明であってよいが、ガラスセラミックスの特性を損なわない範囲にてガラスを着色することができる。
【0025】
さらに、Pb、Th、Tl、Os、BeおよびSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあるため、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0026】
本発明のガラスセラミックスは、例えば、主結晶相として、ZnAl、ZnTi、ZnSiO、ZnTiO、MgSiO、MgAlSi18、NaAlSiO、NaZnSiO、NaAlSi、LaTiOおよびこれらの固溶体から選ばれる1以上を含有する。
本明細書における「主結晶相」は、X線解析図形のピークから判定される、ガラスセラミックス中に多く含有される結晶相に相当する。
【0027】
ガラスセラミックスを光フィルターに用いるとき、光線透過率が低ければ当然信号の取り出しに不都合(S/N比の低下)を生じるので、その値は大きい方が好ましく、最低でも60%以上である必要がある。本発明のガラスセラミックスは、波長1550nmの光に対する試料厚1mmでの内部透過率が、0.970以上である。好ましくは0.980以上であり、より好ましくは0.985以上であり、さらに好ましくは0.990以上であり、特に好ましくは0.995以上である。上限は通常1.000未満であり、例えば0.999以下である。光線透過率は実施例記載の方法で測定できる。
【0028】
また、光フィルター用ガラスセラミックスは、前述のようにバンドの中心波長の温度安定性が求められ、膜構成物質の熱膨張係数より大きいことが好ましい。本発明のガラスセラミックスは、-30~+70℃における熱膨張係数が、通常70×10-7/℃~95×10-7/℃であり、例えば73×10-7/℃~93×10-7/℃、または75×10-7/℃~90×10-7/℃である。熱膨張係数は実施例記載の方法で測定できる。
【0029】
さらに、光フィルター用ガラスセラミックスは、過酷な使用条件を考慮して、機械的な変形等に対する強度が望まれ、さらに、基板材として成膜後に微小なチップ状に加工するため、高いヤング率が求められる。本発明のガラスセラミックスは、ヤング率が78GPa以上であることが好ましい。より好ましくは79GPa以上、さらに好ましくは80GPa以上である。上限は通常95GPa以下であり、例えば90GPa以下である。ヤング率は実施例記載の方法で測定できる。
【0030】
本発明のガラスセラミックスは、ビッカース硬度(200g重)が、550~700であることが好ましい。例えは580~650である。摩耗度は、50~100であることが好ましい。例えは70~95である。本発明のガラスセラミックスは、硬度が高すぎず、また摩耗度が低すぎず、加工性に優れる。ビッカース硬度および摩耗度は実施例記載の方法で測定できる。
【0031】
本発明のガラスセラミックスは、以下の方法で作製できる。すなわち、原料を均一に混合し、熔解成形して原ガラスを製造する。次にこの原ガラスを結晶化してガラスセラミックスを作製する。さらにガラスセラミックスを母材として圧縮応力層を形成して強化してもよい。
【0032】
原ガラスは、熱処理しガラス内部に結晶を析出させる。この熱処理は、1段階でもよく2段階の温度で熱処理してもよい。
2段階熱処理では、まず第1の温度で熱処理することにより核形成工程を行い、この核形成工程の後に、核形成工程より高い第2の温度で熱処理することにより結晶成長工程を行う。
1段階熱処理では、1段階の温度で核形成工程と結晶成長工程を連続的に行う。通常、所定の熱処理温度まで昇温し、当該熱処理温度に達した後に一定時間その温度を保持し、その後、降温する。
2段階熱処理の第1の温度は600℃~750℃が好ましい。第1の温度での保持時間は30分~2000分が好ましく、180分~1440分がより好ましい。
2段階熱処理の第2の温度は650℃~850℃が好ましい。第2の温度での保持時間は30分~600分が好ましく、60分~300分がより好ましい。
1段階の温度で熱処理する場合、熱処理の温度は600℃~800℃が好ましく、630℃~770℃がより好ましい。また、熱処理の温度での保持時間は、30分~500分が好ましく、120分~400分がより好ましい。
【0033】
基板に圧縮応力層を形成して強化するときは、通常、ガラスセラミックスから、例えば研削および研磨加工の手段等を用いて、薄板状のガラスセラミックスを作製する。この後、ガラスセラミックス基板に圧縮応力層を形成する。
【0034】
圧縮応力層の形成方法としては、例えばガラスセラミックスの表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面層に圧縮応力層を形成する化学強化法がある。また、ガラスセラミックスを加熱し、その後急冷する熱強化法、ガラスセラミックスの表面層にイオンを注入するイオン注入法がある。
【0035】
化学強化法は、例えば次のような工程で実施することができる。ガラスセラミックス母材を、カリウムまたはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)またはその混合塩や複合塩の溶融塩に接触または浸漬させる。この溶融塩に接触または浸漬させる処理(化学強化処理)は、1段階でもよく2段階で処理してもよい。
【0036】
例えば2段階化学強化処理の場合、第1工程で350℃~550℃に加熱したナトリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分、好ましくは90~800分接触または浸漬させる。続けて第2工程で350℃~550℃に加熱したカリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分、好ましくは60~800分接触または浸漬させる。
1段階化学強化処理の場合、350℃~550℃に加熱したカリウムまたはナトリウムを含有する塩、またはその混合塩に1~1440分、好ましくは60~800分接触または浸漬させる。
【0037】
熱強化法については、例えばガラスセラミックス母材を、300℃~600℃に加熱した後に、水冷および/または空冷等の急速冷却を実施することにより、ガラス基板の表面と内部の温度差によって、圧縮応力層を形成することができる。なお、上記化学処理法と組み合わせることにより、圧縮応力層をより効果的に形成することもできる。
【0038】
イオン注入法については、例えばガラスセラミックス母材表面に任意のイオンを母材表面が破壊しない程度の加速エネルギー、加速電圧にて衝突させることで母材表面にイオンを注入する。その後必要に応じて熱処理を行うことにより、他方法と同様に表面に圧縮応力層を形成することができる。
【0039】
本発明のガラスセラミックスは光フィルターに用いることができ、基板表面に誘電体多層膜を成膜した干渉型光フィルター用に好適であり、特に、誘電体多層膜として、高い屈折率を持つ誘電体薄膜(H層)と低い屈折率を持つ誘電体薄膜(L層)を交互に積層した構造の、バンドパスフィルター用に好適である。
【0040】
上記誘電体としては、TiO2、Ta22、Nb25、SiO2等の無機酸化物が好ましい。さらに、波長範囲950nm~1600nmに用いるバンドパスフィルターにおいては、誘電体層としてH層/L層の組合せとして、TiO2/SiO2、Ta22/SiO2、Nb25/SiO2が好ましい。本発明の光フィルターは、ガラスセラミックス基板の表面に誘電体薄膜を成膜して得ることができる。成膜方法としては、蒸着法、RFイオンプレーティング法、マグネトロンスパッタリング法、プラズマイオンプレーティング法等がある。中でも蒸着法が好適である。
【実施例
【0041】
実施例1~5
1.ガラスセラミックスの製造
ガラスセラミックスの各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の原料を選定し、これらの原料を以下の組成の割合になるように秤量して均一に混合した。
(酸化物換算の質量%)
SiO成分を54%、Al成分を18%、NaO成分を12%、KO成分を2%、MgO成分を8%、CaO成分を1%、TiO成分を5%、Sb成分を0.1%
【0042】
次に、混合した原料を白金坩堝に投入し溶融した。その後、溶融したガラスを攪拌して均質化してから金型に鋳込み、徐冷して原ガラスを作製した。
【0043】
得られた原ガラスに対し、核形成および結晶化のために、1段階の熱処理(665~760℃、5時間)を施してガラスセラミックスを作製した。実施例1の結晶化温度は665℃、実施例2の結晶化温度は705℃、実施例3の結晶化温度は720℃、実施例4の結晶化温度は740℃、実施例5の結晶化温度は760℃であった。結晶相はX線回折分析装置(ブルカー社製、D8Dsicover)を用いたX線回折図形において現れるピークの角度から判別した。MgAl,MgTiの主結晶相が確認された。
【0044】
作製したガラスセラミックスを切断および研削し、さらに1mmの厚さとなるように対面平行研磨し、ガラスセラミックスの基板を得た。
【0045】
2.ガラスセラミックスの評価
得られたガラスセラミックスについて、以下の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(1)内部透過率
日本光学硝子工業会規格JOGIS17-2012「光学ガラスの内部透過率の測定方法」に従い、厚さ1mmおよび10mmの対面平行研磨品の反射損失を含む分光透過率を測定し、1mm厚の内部透過率(反射損失を含まない分光透過率)を計算により求めた。
【0047】
(2)熱膨張係数
日本光学硝子工業会規格JOGIS16-2003「光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法」に従い、温度と試料の伸びとの関係を測定することで得られる熱膨張曲線により求めた。
【0048】
(3)ヤング率
超音波法により測定した。
【0049】
(4)ビッカース硬度
対面角が136℃のダイヤモンド四角錘圧子を用いて、試験面にピラミッド形状のくぼみをつけたときの荷重を、くぼみの長さから算出した表面積(mm)で割った値で示した。明石製作所製微小硬度計MVK-Eを用い、試験荷重200gf、保持時間10秒で測定した。
【0050】
(5)摩耗度
日本光学硝子工業会規格JOGIS10-1994「光学ガラスの磨耗度の測定方法」に準じて測定した。すなわち、30×30×10mmの大きさのガラス角板の試料を水平に毎分60回転する鋳鉄製平面皿(250mmφ)の中心から80mmの定位置に乗せ、9.8N(1kgf)の荷重を垂直にかけながら、水20mLに#800(平均粒径20μm)のラップ材(アルミナ質A砥粒)を10g添加した研磨液を5分間一様に供給して摩擦させ、ラップ前後の試料質量を測定して、磨耗質量を求めた。同様にして、日本光学硝子工業会で指定された標準試料の磨耗質量を求め、
磨耗度={(試料の磨耗質量/比重)/(標準試料の磨耗質量/比重)}×100
により計算した。
【0051】
比較例1
ガラスセラミックスの組成を以下に変え、結晶化温度を750℃とした他は、実施例1と同様にガラスセラミックスを製造し評価した。結果を表1に示す。
(酸化物換算の質量%)
SiO成分を76.0%、Al成分を6.4%、P成分を2.0%、ZrO成分を3.0%、ZnO成分を0.6%、MgO成分を0.5%、CaO成分を0.3%、LiO成分を10.0%、KO成分を1.0%、Sb成分を0.2%
【0052】
比較例2
ガラスの組成を以下に変え、結晶化しない他は、実施例1と同様にガラスを製造し評価した。結果を表1に示す。
(酸化物換算の質量%)
SiO成分を65.0%、B成分を13.6%、Al成分を2.0%、ZnO成分を1.5%、BaO成分を3.0%、NaO成分を7.4%、KO成分を7.0%、Sb成分を0.5%
【0053】
【表1】