(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 647Z
H01L21/304 643A
H01L21/304 651B
H01L21/304 647A
(21)【出願番号】P 2019217611
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】張 松
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-62171(JP,A)
【文献】特開2017-216431(JP,A)
【文献】特開2018-190854(JP,A)
【文献】特開2007-201100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定物質が露出する露出領域と前記露出領域以外の非露出領域とを有する表面を有する基板を処理する基板処理方法であって、
処理液を基板の表面に供給する処理液供給工程と、
前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面の前記非露出領域に存在する第1除去対象物を保持し、前記非露出領域を被覆する剥離対象膜と、前記露出領域を被覆し保護する保護膜とを前記基板の表面に形成する膜形成工程と、
前記基板の表面に剥離液を供給して、前記第1除去対象物を保持している状態の前記剥離対象膜を前記基板の表面から剥離する剥離対象膜剥離工程と、
前記剥離対象膜剥離工程の後、前記基板の表面に洗浄液を供給して、前記洗浄液によって前記基板の表面に存在する第2除去対象物を除去する洗浄工程と、
前記洗浄工程の後、前記基板の表面に除去液を供給して、前記保護膜を前記基板の表面から除去する保護膜除去工程とを含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記処理液が、第1溶質と、前記第1溶質を溶解させる第1溶媒とを有し、
前記第1溶質が、第1高溶解性成分と、前記第1高溶解性成分よりも前記剥離液に溶解しにくい第1低溶解性成分とを有し、
前記保護膜は、前記特定物質に接触する位置に配置され固体状態の前記第1低溶解性成分からなる低溶解性層と、前記低溶解性層に対して前記特定物質の反対側に配置され固体状態の前記第1高溶解性成分からなる高溶解性層とを有する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記処理液が、第1溶質と、前記第1溶質を溶解させる第1溶媒とを有し、
前記第1溶質が、第1高溶解性成分と、前記第1高溶解性成分よりも前記剥離液に溶解しにくい第1低溶解性成分とを有し、
前記膜形成工程が、固体状態の前記第1高溶解性成分と固体状態の前記第1低溶解性成分とを有する前記剥離対象膜を形成する工程を含み、
前記剥離対象膜剥離工程が、固体状態の前記第1高溶解性成分を前記剥離液に選択的に溶解させる工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記剥離対象膜剥離工程が、前記剥離対象膜を前記剥離液に部分的に溶解させて前記剥離対象膜に貫通孔を形成する第1貫通孔形成工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記処理液供給工程よりも前に、前処理液を基板の表面に供給する前処理液供給工程と、
前記処理液供給工程よりも前に、前記基板の表面に供給された前記前処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面の前記露出領域に存在する前記第1除去対象物を保持する前処理膜を前記基板の表面に形成する前処理膜形成工程と、
前記処理液供給工程よりも前に、前記基板の表面に剥離液を供給して、前記基板の表面の前記露出領域から前記第1除去対象物とともに前記前処理膜を剥離する前処理膜剥離工程とをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記前処理液が、第2溶質と、前記第2溶質を溶解させる第2溶媒とを有し、
前記第2溶質が、第2高溶解性成分と、前記第2高溶解性成分よりも前記剥離液に溶解しにくい第2低溶解性成分とを有し、
前記前処理膜形成工程が、固体状態の前記第2高溶解性成分、および、固体状態の前記第2低溶解性成分を有する前記前処理膜を形成する工程を含み、
前記前処理膜剥離工程が、前記前処理膜中の固体状態の前記第2高溶解性成分を前記剥離液に選択的に溶解させる工程を含む、請求項5に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記前処理膜剥離工程が、前記剥離液に前記前処理膜を部分的に溶解させて前記前処理膜に第2貫通孔を形成する第2貫通孔形成工程を含む、請求項5または6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記特定物質が金属であり、
前記洗浄液は、前記基板の表面において露出する前記金属を酸化させる酸化力を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記第1除去対象物および前記第2除去対象物は、ドライエッチング処理によって生じた残渣である、請求項8に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記第1除去対象物は、粒状残渣であり、
前記第2除去対象物が、前記基板の表面の前記非露出領域の少なくとも一部を覆う膜状残渣である、請求項9に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記除去液は、前記保護膜および前記剥離対象膜を溶解させる性質を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
特定物質が露出する露出領域と前記露出領域以外の非露出領域とを有する表面を有する基板を処理する基板処理装置であって、
前記基板の表面に処理液を供給する処理液供給ユニットと、
処理液を固化または硬化させて固形の膜を形成する膜形成ユニットと、
前記基板の表面に剥離液を供給する剥離液供給ユニットと、
前記基板の表面に洗浄液を供給する洗浄液供給ユニットと、
前記基板の表面に除去液を供給する除去液供給ユニットと、
前記処理液供給ユニット、前記膜形成ユニット、前記剥離液供給ユニット、前記洗浄液供給ユニット、および、前記除去液供給ユニットを制御するコントローラとを含み、
前記コントローラが、
前記処理液供給ユニットから前記基板の表面に向けて前記処理液を供給させ、
前記膜形成ユニットによって前記基板の表面上の前記処理液を固化または硬化させ、前記基板の表面に存在する第1除去対象物を保持し前記非露出領域を被覆する剥離対象膜と、前記露出領域を被覆し保護する保護膜とを前記基板の表面に形成させ、
前記剥離液供給ユニットから前記基板の表面に向けて前記剥離液を供給することによって、前記第1除去対象物とともに前記剥離対象膜を前記基板の表面から剥離させ、前記剥離対象膜を剥離した後、前記洗浄液供給ユニットから前記基板の表面に向けて洗浄液を供給して、前記基板の表面に存在する第2除去対象物を除去させ、
前記洗浄液を供給した後、前記除去液供給ユニットから前記基板の表面に向けて除去液を供給して、前記保護膜を前記基板の表面から除去させるようにプログラムされている、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を処理する基板処理方法および基板処理装置に関する。処理対象になる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、有機EL(Electroluminescence)表示装置等のFPD(Flat Panel Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板等の基板が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、基板に付着した各種汚染物、前工程で使用した処理液やレジスト等の残渣、あるいは各種パーティクル等(以下「除去対象物」と総称する場合がある。)を除去する工程が行われる。
具体的には、脱イオン水(DIW:Deionized Water)等を基板に供給することにより、除去対象物をDIWの物理的作用によって除去したり、除去対象物と化学的に反応する薬液を基板に供給することにより、当該除去対象物を化学的に除去したりすることが一般的である。
【0003】
しかし、基板上に形成される凹凸パターンの微細化および複雑化が進んでいる。そのため、凹凸パターンの損傷を抑制しながら除去対象物をDIWまたは薬液によって除去することが容易でなくなりつつある。
そこで、基板の表面に処理液を供給し、基板上の処理液を固めることで基板上に存在する除去対象物を保持する保持層を形成した後、基板の上面に剥離液を供給することによって、除去対象物とともに保持層を基板の表面から剥離して除去する手法が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板の表面に付着する除去対象物の種類は、前工程の内容によって異なる。前工程の内容によっては、複数種類の除去対象物が基板の表面に付着している場合がある。基板の表面から露出する金属等の特定物質を変質させる程の強い除去力を有する液体を用いなければ除去できない除去対象物も存在する。
そこで、この発明の1つの目的は、基板の表面において露出する特定物質の変質を抑制しつつ、基板から除去対象物を効率良く除去することができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、特定物質が露出する露出領域と前記露出領域以外の非露出領域とを有する表面を有する基板を処理する基板処理方法を提供する。前記基板処理方法は、処理液を基板の表面に供給する処理液供給工程と、前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面の前記非露出領域に存在する第1除去対象物を保持し、前記非露出領域を被覆する剥離対象膜と、前記露出領域を被覆し保護する保護膜とを前記基板の表面に形成する膜形成工程と、前記基板の表面に剥離液を供給して、前記第1除去対象物を保持している状態の前記剥離対象膜を前記基板の表面から剥離する剥離対象膜剥離工程と、前記剥離対象膜剥離工程の後、前記基板の表面に洗浄液を供給して、前記洗浄液によって前記基板の表面に存在する第2除去対象物を除去する洗浄工程と、前記洗浄工程の後、前記基板の表面に除去液を供給して、前記保護膜を前記基板の表面から除去する保護膜除去工程とを含む。
【0007】
この方法によれば、基板の表面に供給された処理液が固化または硬化されることで基板の表面の非露出領域を被覆する剥離対象膜と、基板の表面の露出領域を被覆する保護膜とが形成される。剥離対象膜は、非露出領域に存在する第1除去対象物を保持している。
剥離対象膜および保護膜が形成された状態の基板の表面に剥離液を供給することによって、第1除去対象物を保持している状態の剥離対象膜が基板の表面から剥離される。そのため、第1除去対象物が非露出領域から除去される。剥離液によって剥離対象膜が剥離された後においても、第2除去対象物は基板の表面に残留する。
【0008】
その後、洗浄液によって、第2除去対象物が基板の表面から除去され、さらにその後、除去液によって、保護膜が基板の表面から除去される。基板の表面に洗浄液を供給する際、基板の表面において特定物質が露出する露出領域は保護膜によって被覆されている。そのため、仮に、洗浄液が基板の表面において露出する特定物質を変質(たとえば、酸化)させる性質を有している場合であっても、当該特定物質を変質させることなく第2除去対象物を除去することができる。
【0009】
以上のように、基板の表面において露出する特定物質の変質を抑制しつつ、複数種の除去対象物(第1除去対象物および第2除去対象物)を基板の表面から効率良く除去することができる。
この発明の一実施形態では、前記処理液が、第1溶質と、前記第1溶質を溶解させる第1溶媒とを有する。前記第1溶質が、第1高溶解性成分と、前記第1高溶解性成分よりも前記剥離液に溶解しにくい第1低溶解性成分とを有する。前記保護膜は、前記特定物質に接触する位置に配置され固体状態の前記第1低溶解性成分からなる低溶解性層と、前記低溶解性層に対して前記特定物質の反対側に配置され固体状態の前記第1高溶解性成分からなる高溶解性層とを有する。
【0010】
そのため、保護膜中において、固体状態の第1高溶解性成分からなる高溶解性層が剥離液によって溶解されるが、固体状態の第1低溶解性成分からなる低溶解性層は剥離液によって殆ど溶解されない。そのため、剥離液が、低溶解性層と基板の表面との間には進入しにくい。したがって、保護膜は、剥離液によって剥離されずに露出領域上に留まる。よって、基板の表面から露出する特定物質を適切に保護した状態で基板の表面に洗浄液を供給することができる。
【0011】
その結果、基板の表面において露出する特定物質の変質を抑制しつつ、第2除去対象物を基板の表面から効率良く除去することができる。
この発明の一実施形態では、前記処理液が、第1溶質と、前記第1溶質を溶解させる第1溶媒とを有する。前記第1溶質が、第1高溶解性成分と、前記第1高溶解性成分よりも前記剥離液に溶解しにくい第1低溶解性成分とを有する。前記剥離対象膜形成工程が、固体状態の前記第1高溶解性成分と固体状態の前記第1低溶解性成分とを有する前記処理膜を形成する工程を含む。そして、前記剥離対象膜剥離工程が、固体状態の前記第1高溶解性成分を前記剥離液に選択的に溶解させる工程を含む。
【0012】
この方法によれば、剥離対象膜中の固体状態の第1高溶解性成分が剥離液で選択的に溶解される。「固体状態の第1高溶解性成分が選択的に溶解される」とは、固体状態の第1高溶解性成分のみが溶解されるという意味ではない。「固体状態の第1高溶解性成分が選択的に溶解される」とは、固体状態の第1低溶解性成分も僅かに溶解されるが、大部分の固体状態の第1高溶解性成分が溶解されるという意味である。
【0013】
固体状態の第1高溶解性成分を剥離液に溶解させることによって、固体状態の第1高溶解性成分が存在していた跡を通って剥離液が剥離対象膜内を通過する。これにより、剥離対象膜と基板との接触界面に剥離液を作用させることができる。一方、剥離対象膜中の第1低溶解性成分は、溶解されずに固体状態で維持される。したがって、固体状態の第1低溶解性成分で第1除去対象物を保持しながら、固体状態の第1低溶解性成分と基板との接触界面に剥離液を作用させることができる。その結果、剥離対象膜を基板の表面から速やかに除去し、剥離対象膜とともに第1除去対象物を基板の表面から効率良く除去することができる。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記剥離対象膜剥離工程が、前記剥離対象膜を前記剥離液に部分的に溶解させて前記剥離対象膜に第1通孔を形成する第1貫通孔形成工程を含む。
そのため、剥離液が、第1貫通孔を介して処理膜を通過し、剥離対象膜と基板の表面の非露出領域との界面付近に速やかに到達することができる。したがって、剥離対象膜と基板との界面に剥離液を作用させて剥離対象膜を基板から効率良く剥離することができる。その結果、基板の表面から第1除去対象物を効率良く除去することができる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記基板処理方法が、前記処理液供給工程よりも前に、前処理液を基板の表面に供給する前処理液供給工程と、前記処理液供給工程よりも前に、前記基板の表面に供給された前記前処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面の前記露出領域に存在する前記第1除去対象物を保持する前処理膜を前記基板の表面に形成する前処理膜形成工程と、前記処理液供給工程よりも前に、前記基板の表面に剥離液を供給して、前記基板の表面の前記露出領域から前記第1除去対象物とともに前記前処理膜を剥離する前処理膜剥離工程とをさらに含む。
【0016】
この方法によれば、基板の表面に処理液を供給するよりも前に、基板の表面における露出領域に存在する第1除去対象物を除去することができる。すなわち、露出領域から第1除去対象物を除去した後に、露出領域に保護膜を形成することができる。そのため、その後の保護膜除去工程において保護膜が除去されるまでの間、基板の表面の露出領域から第1除去対象物が除去された状態を維持することができる。したがって、保護膜が除去液に溶解する場合であっても、保護膜の除去後に露出領域に第1除去対象物が残留することを抑制できる。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記前処理液が、第2溶質と、前記第2溶質を溶解させる第2溶媒とを有する。前記第2溶質が、第2高溶解性成分と、前記第2高溶解性成分よりも前記剥離液に溶解しにくい第2低溶解性成分とを有する。前記前処理膜形成工程が、固体状態の前記第2高溶解性成分、および、固体状態の前記第2低溶解性成分を有する前記前処理膜を形成する工程を含む。そして、前記前処理膜剥離工程が、前記前処理膜中の固体状態の前記第2高溶解性成分を前記剥離液に選択的に溶解させる工程を含む。
【0018】
この方法によれば、前処理膜中の固体状態の第2高溶解性成分が剥離液で選択的に溶解される。「固体状態の第2高溶解性成分が選択的に溶解される」とは、固体状態の第2高溶解性成分のみが溶解されるという意味ではない。「固体状態の第2高溶解性成分が選択的に溶解される」とは、固体状態の第2低溶解性成分も僅かに溶解されるが、大部分の固体状態の第2高溶解性成分が溶解されるという意味である。
【0019】
固体状態の第2高溶解性成分を剥離液に溶解させることによって、固体状態の第2高溶解性成分が存在していた跡を通って剥離液が前処理膜内を通過する。これにより、前処理膜と基板との接触界面に剥離液を作用させることができる。一方、前処理膜中の第2低溶解性成分は、溶解されずに固体状態で維持される。したがって、固体状態の第2低溶解性成分で第1除去対象物を保持しながら、固体状態の第2低溶解性成分と基板との接触界面に剥離液を作用させることができる。その結果、前処理膜を基板の表面から速やかに除去し、前処理膜とともに第1除去対象物を基板の表面から効率良く除去することができる。
【0020】
この発明の一実施形態では、前記前処理膜剥離工程が、前記剥離液に前記前処理膜を部分的に溶解させて前記前処理膜に第2貫通孔を形成する第2貫通孔形成工程を含む。
そのため、剥離液が、第2貫通孔を介して前処理膜を通過し、前処理膜と基板の表面との界面付近に速やかに到達することができる。したがって、前処理膜と基板との界面に剥離液を作用させて剥離対象膜を基板から効率良く剥離することができる。その結果、基板の表面から第1除去対象物を効率良く除去することができる。
【0021】
この発明の一実施形態では、前記特定物質が金属であり、前記洗浄液は、前記基板の表面において露出する前記金属を酸化させる酸化力を有する。基板の表面に洗浄液を供給する際、基板の表面において金属が露出する露出領域が保護膜によって被覆される構成であれば、洗浄液による金属の酸化を回避しつつ第2除去対象物を除去することができる。
この発明の一実施形態では、前記第1除去対象物および前記第2除去対象物は、ドライエッチングによって生じた残渣である。
【0022】
基板の表面に多層の金属層を形成するバックエンドプロセス(BEOL:Back End of the Line)において、ドライエッチング処理が実行されることで、基板の表面に金属が露出する。すなわち、金属が露出する露出領域と露出領域以外の非露出領域とが、基板の表面に形成される。
ドライエッチング処理において用いられるCFx(たとえば、四フッ化炭素(CF4))等のエッチングガスと、基板において非露出領域を構成している部分との反応物が、ドライエッチング処理後の残渣として、基板の表面に付着している。基板において非露出領域を構成している部分には、Low-k膜(低誘電率層間絶縁膜)、酸化膜、メタルハードマスク等が含まれる。
【0023】
詳しくは、基板の表面の非露出領域には、エッチングガスと低誘電率層間絶縁膜との膜状の反応物(膜状残渣)と、エッチングガスと低誘電率層間絶縁膜、酸化膜、またはメタルハードマスクとの粒状の反応物(粒状残渣)とが付着している。粒状とは、球状、楕円体状、多面体状等のことである。粒状残渣は、基板の表面の露出領域にも付着している。
粒状残渣は、物理力によって引き剥がすことが可能であるが、膜状残渣は、非露出領域の少なくとも一部を覆っており、粒状残渣と比較して、基板の表面から物理力によって引き剥がすことが困難である。
【0024】
そこで、第1除去対象物としての粒状残渣を剥離対象膜の剥離で除去し、第2除去対象物としての膜状残渣を洗浄液で除去する構成であれば、基板の表面において露出する金属の酸化を抑制しつつ、基板から除去対象物を効率良く除去することができる。
詳しくは、剥離対象膜および保護膜が形成された状態の基板の表面に剥離液を供給することによって、粒状残渣を保持している状態の剥離対象膜を基板の表面から剥離することができる。そのため、第1除去対象物が非露出領域から除去される。
【0025】
その後、洗浄液によって、膜状残渣が基板の表面から除去され、さらにその後、除去液によって、保護膜が基板の表面から除去される。基板の表面に洗浄液を供給する際、基板の表面において金属が露出する露出領域は保護膜によって被覆されている。そのため、洗浄液が基板の表面において露出する金属を酸化させる性質を有しているにもかかわらず、当該金属を酸化させることなく膜状残渣を除去することができる。
【0026】
この発明の一実施形態では、前記除去液は、前記保護膜および前記剥離対象膜を溶解させる性質を有する。そのため、保護膜を除去液に溶解させて基板の上面から保護膜をスムーズに除去することができる。さらに、除去液は、剥離対象膜を溶解させることができる。そのため、剥離対象膜が剥離液によって剥離された後に、剥離対象膜の残渣が基板の表面に付着している場合であっても、除去液によって当該残渣を除去することができる。
【0027】
この発明の他の実施形態は、特定物質が露出する露出領域と前記露出領域以外の非露出領域とを有する表面を有する基板を処理する基板処理装置を提供する。前記基板処理装置は、前記基板の表面に処理液を供給する処理液供給ユニットと、処理液を固化または硬化させて固形の膜を形成する膜形成ユニットと、前記基板の表面に剥離液を供給する剥離液供給ユニットと、前記基板の表面に洗浄液を供給する洗浄液供給ユニットと、前記基板の表面に除去液を供給する除去液供給ユニットと、前記処理液供給ユニット、前記膜形成ユニット、前記剥離液供給ユニット、前記洗浄液供給ユニット、および、前記除去液供給ユニットを制御するコントローラとを含む。
【0028】
そして、前記コントローラが、前記処理液供給ユニットから前記基板の表面に向けて前記処理液を供給させ、前記膜形成ユニットによって前記基板の表面上の前記処理液を固化または硬化させ、前記基板の表面に存在する第1除去対象物を保持し前記非露出領域を被覆する剥離対象膜と、前記露出領域を被覆し保護する保護膜とを前記基板の表面に形成させ、前記剥離液供給ユニットから前記基板の表面に向けて前記剥離液を供給することによって、前記第1除去対象物とともに前記剥離対象膜を前記基板の表面から剥離させ、前記剥離対象膜を剥離した後、前記洗浄液供給ユニットから前記基板の表面に向けて洗浄液を供給して、前記基板の表面に存在する第2除去対象物を除去させ、前記洗浄液を供給した後、前記除去液供給ユニットから前記基板の表面に向けて除去液を供給して、前記保護膜を前記基板の表面から除去させるようにプログラムされている。この構成によれば、上述した基板処理方法と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置のレイアウトを示す模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、前記基板処理装置で処理される基板の表層の断面図の一例である。
【
図3】
図3は、前記基板処理装置に備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式的な部分断面図である。
【
図4】
図4は、前記基板処理装置に備えられたコントローラのハードウェアを示すブロック図である。
【
図5】
図5は、前記基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
【
図6A】
図6Aは、前記基板処理の処理液供給工程(ステップS2)の様子を説明するための模式図である。
【
図6B】
図6Bは、前記基板処理の処理膜形成工程(ステップS3)の様子を説明するための模式図である。
【
図6C】
図6Cは、前記処理膜形成工程(ステップS3)の様子を説明するための模式図である。
【
図6D】
図6Dは、前記基板処理の剥離対象膜剥離工程(ステップS4)の様子を説明するための模式図である。
【
図6E】
図6Eは、前記基板処理の剥離液除去工程(ステップS5)の様子を説明するための模式図である。
【
図6F】
図6Fは、前記基板処理の洗浄工程(ステップS6)の様子を説明するための模式図である。
【
図6G】
図6Gは、前記基板処理の洗浄液除去工程(ステップS7)の様子を説明するための模式図である。
【
図6H】
図6Hは、前記基板処理の保護膜除去工程(ステップS8)の様子を説明するための模式図である。
【
図6I】
図6Iは、前記基板処理のスピンドライ工程(ステップS9)の様子を説明するための模式図である。
【
図7A】
図7Aは、前記処理膜形成工程(ステップS3)の実行によって処理膜が形成された状態の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図7B】
図7Bは、前記剥離対象膜剥離工程(ステップS4)の実行中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図7C】
図7Cは、前記洗浄工程(ステップS6)の実行中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図7D】
図7Dは、前記保護膜除去工程(ステップS8)の実行中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図8A】
図8Aは、剥離対象膜が基板から剥離される様子を説明するための模式図である。
【
図8B】
図8Bは、前記剥離対象膜が基板から剥離される様子を説明するための模式図である。
【
図8C】
図8Cは、前記剥離対象膜が基板から剥離される様子を説明するための模式図である。
【
図9A】
図9Aは、保護膜が基板から除去される様子を説明するための模式図である。
【
図9B】
図9Bは、前記保護膜が基板から除去される様子を説明するための模式図である。
【
図9C】
図9Cは、前記保護膜が基板から除去される様子を説明するための模式図である。
【
図9D】
図9Dは、前記保護膜が基板から除去される様子を説明するための模式図である。
【
図10】
図10は、この発明の第2実施形態に係るに備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式的な部分断面図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
【
図12A】
図12Aは、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理の前処理液供給工程(ステップS11)の様子を説明するための模式図である。
【
図12B】
図12Bは、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理の前処理膜形成工程(ステップS12)の様子を説明するための模式図である。
【
図12C】
図12Cは、前記前処理膜形成工程(ステップS12)の様子を説明するための模式図である。
【
図12D】
図12Dは、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理の前処理膜剥離工程(ステップS13)の様子を説明するための模式図である。
【
図12E】
図12Eは、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理の剥離液除去工程(ステップS14)の様子を説明するための模式図である。
【
図12F】
図12Fは、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理の前処理膜残渣除去工程(ステップS15)の様子を説明するための模式図である。
【
図13A】
図13Aは、前記前処理膜形成工程(ステップS12)の実行によって処理膜が形成された状態の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図13B】
図13Bは、前記前処理膜剥離工程(ステップS13)の実行中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図13C】
図13Cは、前記前処理膜剥離工程(ステップS13)後の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図13D】
図13Dは、前記剥離対象膜剥離工程(ステップS4)後の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【
図14A】
図14Aは、前処理膜が基板から剥離される様子を説明するための模式図である。
【
図14B】
図14Bは、前記前処理膜が基板から剥離される様子を説明するための模式図である。
【
図14C】
図14Cは、前記前処理膜が基板から剥離される様子を説明するための模式図である。
【
図15】
図15は、処理液および前処理液として用いられるポリマー含有液中の高溶解性成分の第1成分と第2成分との割合を変更することに起因する銅膜からのパーティクル除去力の変化を検証するための実験の結果を説明するためのテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の一実施形態にかかる基板処理装置1のレイアウトを示す模式的な平面図である。
基板処理装置1は、シリコンウエハ等の基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。この実施形態では、基板Wは、円板状の基板である。
【0031】
基板処理装置1は、基板Wを流体で処理する複数の処理ユニット2と、処理ユニット2で処理される複数枚の基板Wを収容するキャリヤCが載置されるロードポートLPと、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送ロボットIRおよびCRと、基板処理装置1を制御するコントローラ3とを含む。
搬送ロボットIRは、キャリヤCと搬送ロボットCRとの間で基板Wを搬送する。搬送ロボットCRは、搬送ロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。複数の処理ユニット2は、たとえば、同様の構成を有している。詳しくは後述するが、処理ユニット2内で基板Wに供給される処理流体には、リンス液、処理液、剥離液、洗浄液、除去液、熱媒、不活性ガス(気体)等が含まれる。
【0032】
各処理ユニット2は、チャンバ4と、チャンバ4内に配置された処理カップ7とを備えており、処理カップ7内で基板Wに対する処理を実行する。チャンバ4には、搬送ロボットCRによって、基板Wを搬入したり基板Wを搬出したりするための出入口(図示せず)が形成されている。チャンバ4には、この出入口を開閉するシャッタユニット(図示せず)が備えられている。各処理ユニット2には、たとえば、ドライエッチング処理が行われた基板Wが搬入される。
【0033】
図2は、基板処理装置1で処理される基板Wの表層の断面図の一例である。基板Wの表層とは、基板Wの表面近傍の部分のことである。
処理ユニット2で処理される前の未処理の基板Wの表面には、微細な凹凸パターン160が形成されている。凹凸パターン160は、基板Wの表面に形成された微細な凸状の構造体161と、隣接する構造体161の間に形成された凹部(溝)162とを含む。構造体161は、エッチングストッパー膜161A、低誘電率層間絶縁膜161B、酸化膜161C、メタルハードマスク161D等によって構成されている。
【0034】
凹凸パターン160の表面、すなわち、構造体161(凸部)の表面および凹部162の表面は、凹凸のあるパターン面165を形成している。パターン面165は、基板Wの表面に含まれる。
図2に示す例では、凹部162の底部から銅膜等の金属膜163が露出している。基板Wのパターン面165には、金属膜163(特定物質)の表面が露出している露出領域170と、露出領域170以外の非露出領域171とが含まれる。非露出領域171は、基板Wのパターン面165において露出領域170以外の領域である。
【0035】
非露出領域171および露出領域170の両方に、第1除去対象物103が付着している。第1除去対象物103は、前工程のドライエッチング処理によって生じた残渣である。第1除去対象物103は、粒状の残渣である。粒状とは、球状、楕円体状、多面体状等のことである。ドライエッチング処理において用いられるCFx(たとえば、四フッ化炭素(CF4))等のエッチングガスと、構造体161との反応物である。
【0036】
非露出領域171には、第2除去対象物104が付着している。第2除去対象物104も、ドライエッチング処理によって生じた残渣である。第2除去対象物104は、非露出領域171の少なくとも一部を覆う膜状の残渣である。
図2の例では、第2除去対象物104は、低誘電率層間絶縁膜161Bの表面を覆っている。第2除去対象物104は、エッチングガスと低誘電率層間絶縁膜161Bとの反応物である。
【0037】
図3は、処理ユニット2の構成例を説明するための模式図である。処理ユニット2は、スピンチャック5と、対向部材6と、処理カップ7と、第1移動ノズル9と、第2移動ノズル10と、第3移動ノズル11と、中央ノズル12と、下面ノズル13とを含む。
スピンチャック5は、基板Wを水平に保持しながら、基板Wの中央部を通る鉛直な回転軸線A1(鉛直軸線)まわりに基板Wを回転させる。スピンチャック5は、複数のチャックピン20と、スピンベース21と、回転軸22と、スピンモータ23とを含む。
【0038】
スピンベース21は、水平方向に沿う円板形状を有している。スピンベース21の上面には、基板Wの周縁を把持する複数のチャックピン20が、スピンベース21の周方向に間隔を空けて配置されている。スピンベース21および複数のチャックピン20は、基板Wを水平に保持する基板保持ユニットを構成している。基板保持ユニットは、基板ホルダともいう。
【0039】
回転軸22は、回転軸線A1に沿って鉛直方向に延びている。回転軸22の上端部は、スピンベース21の下面中央に結合されている。スピンモータ23は、回転軸22に回転力を与える。スピンモータ23によって回転軸22が回転されることにより、スピンベース21が回転される。これにより、基板Wが回転軸線A1のまわりに回転される。スピンモータ23は、回転軸線A1まわりに基板Wを回転させる基板回転ユニットの一例である。
【0040】
対向部材6は、スピンチャック5に保持された基板Wに上方から対向する。対向部材6は、基板Wとほぼ同じ径またはそれ以上の径を有する円板状に形成されている。対向部材6は、基板Wの上面(上側の表面)に対向する対向面6aを有する。対向面6aは、スピンチャック5よりも上方でほぼ水平面に沿って配置されている。
対向部材6において対向面6aとは反対側には、中空軸60が固定されている。対向部材6において平面視で回転軸線A1と重なる部分には、対向部材6を上下に貫通する連通孔6bが形成されている。連通孔6bは、中空軸60の内部空間60aと連通する。
【0041】
対向部材6は、対向面6aと基板Wの上面との間の空間内の雰囲気を当該空間の外部の雰囲気から遮断する。そのため、対向部材6は、遮断板ともいう。
処理ユニット2は、対向部材6の昇降を駆動する対向部材昇降ユニット61をさらに含む。対向部材昇降ユニット61は、下位置から上位置までの任意の位置(高さ)に対向部材6を鉛直方向に位置させることができる。下位置とは、対向部材6の可動範囲において、対向面6aが基板Wに最も近接する位置である。上位置とは、対向部材6の可動範囲において対向面6aが基板Wから最も離間する位置である。対向部材6が上位置に位置するときに、基板Wの搬入および搬出のために搬送ロボットCRがスピンチャック5にアクセスすることができる。
【0042】
対向部材昇降ユニット61は、たとえば、中空軸60を支持する支持部材(図示せず)に結合されたボールねじ機構(図示せず)と、当該ボールねじ機構に駆動力を与える電動モータ(図示せず)とを含む。対向部材昇降ユニット61は、対向部材リフタ(遮断板リフタ)ともいう。
処理カップ7は、スピンチャック5に保持された基板Wから外方に飛散する液体を受け止める複数のガード71と、複数のガード71によって下方に案内された液体を受け止める複数のカップ72と、複数のガード71と複数のカップ72とを取り囲む円筒状の外壁部材73とを含む。
【0043】
この実施形態では、2つのガード71(第1ガード71Aおよび第2ガード71B)と、2つのカップ72(第1カップ72Aおよび第2カップ72B)とが設けられている例を示している。
第1カップ72Aおよび第2カップ72Bのそれぞれは、上向きに開放された環状溝の形態を有している。
【0044】
第1ガード71Aは、スピンベース21を取り囲むように配置されている。第2ガード71Bは、第1ガード71Aよりも基板Wの回転径方向外方でスピンベース21を取り囲むように配置されている。
第1ガード71Aおよび第2ガード71Bは、それぞれ、ほぼ円筒形状を有している。各ガード71の上端部は、スピンベース21に向かうように内方に傾斜している。
【0045】
第1カップ72Aは、第1ガード71Aによって下方に案内された液体を受け止める。第2カップ72Bは、第1ガード71Aと一体に形成されており、第2ガード71Bによって下方に案内された液体を受け止める。
処理ユニット2は、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを別々に鉛直方向に昇降させるガード昇降ユニット74を含む。ガード昇降ユニット74は、下位置と上位置との間で第1ガード71Aを昇降させる。ガード昇降ユニット74は、下位置と上位置との間で第2ガード71Bを昇降させる。
【0046】
第1ガード71Aおよび第2ガード71Bがともに上位置に位置するとき、基板Wから飛散する液体は、第1ガード71Aによって受けられる。第1ガード71Aが下位置に位置し、第2ガード71Bが上位置に位置するとき、基板Wから飛散する液体は、第2ガード71Bによって受けられる。第1ガード71Aおよび第2ガード71Bがともに下位置に位置するときに、基板Wの搬入および搬出のために搬送ロボットCRがスピンチャック5にアクセスすることが可能である。
【0047】
ガード昇降ユニット74は、たとえば、第1ガード71Aに結合された第1ボールねじ機構(図示せず)と、第1ボールねじ機構に駆動力を与える第1モータ(図示せず)と、第2ガード71Bに結合された第2ボールねじ機構(図示せず)と、第2ボールねじ機構に駆動力を与える第2モータ(図示せず)とを含む。ガード昇降ユニット74は、ガードリフタともいう。
【0048】
第1移動ノズル9は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて処理液を供給(吐出)する処理液ノズル(処理液供給ユニット)の一例である。
第1移動ノズル9は、第1ノズル移動ユニット35によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第1移動ノズル9は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。第1移動ノズル9は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の回転中心に対向する。基板Wの上面の回転中心とは、基板Wの上面における回転軸線A1との交差位置である。
【0049】
第1移動ノズル9は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第1移動ノズル9は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
第1ノズル移動ユニット35は、たとえば、第1移動ノズル9に結合され水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って伸びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含む。
【0050】
回動軸駆動ユニットは、鉛直な回動軸線まわりに回動軸を回動させることによってアームを揺動させる。さらに、回動軸駆動ユニットは、回動軸を鉛直方向に沿って昇降することにより、アームを上下動させる。アームの揺動および昇降に応じて、第1移動ノズル9が水平方向および鉛直方向に移動する。
第1移動ノズル9は、処理液を案内する処理液配管40に接続されている。処理液配管40に介装された処理液バルブ50が開かれると、処理液が、第1移動ノズル9から下方に連続流で吐出される。
【0051】
第1移動ノズル9から吐出される処理液は、溶質および溶媒を含んでいる。処理液は、溶媒の少なくとも一部が揮発(蒸発)することによって固化または硬化する。処理液は、基板W上で固化または硬化することによって、基板W上に存在する第1除去対象物103を保持する固形の処理膜を形成する。処理膜は、膜状の第2除去対象物104を充分に保持することができない。
【0052】
ここで、「固化」とは、たとえば、溶媒の揮発に伴い、分子間や原子間に作用する力等によって溶質が固まることを指す。「硬化」とは、たとえば、重合や架橋等の化学的な変化によって、溶質が固まることを指す。したがって、「固化または硬化」とは、様々な要因によって溶質が「固まる」ことを表している。
第1移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶質は、低溶解性成分と、高溶解性成分とを含む。
【0053】
基板Wの表面に金属が露出している場合には、第1移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶質に腐食防止成分が含まれていることが好ましい。詳しくは後述するが、腐食防止成分は、たとえば、BTA(ベンゾトリアゾール)である。
第1移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる低溶解性成分および高溶解性成分としては、剥離液に対する溶解性が互いに異なる物質を用いることができる。第1移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる低溶解性成分は、たとえば、ノボラックである。第1移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる高溶解性成分は、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンである。処理液は、ポリマー含有液ともいい、処理膜は、ポリマー膜ともいう。
【0054】
第1移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶媒は、低溶解性成分および高溶解性成分を溶解させる液体であればよい。処理液に含まれる溶媒は、剥離液と相溶性を有する(混和可能である)液体であることが好ましい。
処理液に含まれる溶媒を第1溶媒といい、処理液に含まれる溶質を第1溶質という。処理液に含まれる低溶解性成分を第1低溶解性成分といい、処理液に含まれる高溶解性成分を第1高溶解性成分という。
【0055】
第1移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶媒、低溶解性成分、高溶解性成分および腐食防止成分の詳細については後述する。
第2移動ノズル10は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けてアンモニア水等の剥離液を連続流で供給(吐出)する剥離液ノズル(剥離液供給ユニット)の一例である。剥離液は、第1除去対象物103を保持している状態の処理膜を、基板Wの上面から剥離するための液体である。詳しくは、処理膜において、非露出領域171を被覆する部分のみが、剥離液によって基板W上から剥離される。処理膜が膜状の第2除去対象物104を充分な力で保持していないため、第2除去対象物104は、処理膜において非露出領域171を被覆する部分を剥離した後も、基板Wの上面に残留する。
【0056】
第2移動ノズル10は、第2ノズル移動ユニット36によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第2移動ノズル10は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
第2移動ノズル10は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の回転中心に対向する。第2移動ノズル10は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第2移動ノズル10は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
【0057】
第2ノズル移動ユニット36は、第1ノズル移動ユニット35と同様の構成を有している。すなわち、第2ノズル移動ユニット36は、たとえば、第2移動ノズル10に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って伸びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含む。
【0058】
第2移動ノズル10から吐出される剥離液は、処理液の溶質に含まれる低溶解性成分よりも処理液の溶質に含まれる高溶解性成分を溶解させやすい液体が用いられる。第2移動ノズル10から吐出される剥離液は、アンモニア水に限られない。
第2移動ノズル10から吐出される剥離液は、たとえば、アンモニア水以外のアルカリ性水溶液(アルカリ性液体)であってもよい。アンモニア水以外のアルカリ性水溶液の具体例としては、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)水溶液、および、コリン水溶液、ならびにこれらのいずれかの組合せが挙げられる。
【0059】
第2移動ノズル10から吐出される剥離液は、純水(好ましくはDIW)であってもよいし、中性または酸性の水溶液(非アルカリ性水溶液)であってもよい。
第2移動ノズル10は、第2移動ノズル10に剥離液を案内する上側剥離液配管41に接続されている。上側剥離液配管41に介装された上側剥離液バルブ51が開かれると、剥離液が、第2移動ノズル10の吐出口から下方に連続流で吐出される。
【0060】
第3移動ノズル11は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けてSC1等の洗浄液を連続流で供給(吐出)する洗浄液ノズル(洗浄液供給ユニット)の一例である。洗浄液は、剥離液では基板Wの上面から剥離することができない第2除去対象物104を溶解して基板Wの上面から除去するための液体である。
第3移動ノズル11は、第3ノズル移動ユニット37によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第3移動ノズル11は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
【0061】
第3移動ノズル11は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の回転中心に対向する。第3移動ノズル11は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第3移動ノズル11は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
第3ノズル移動ユニット37は、第1ノズル移動ユニット35と同様の構成を有している。すなわち、第3ノズル移動ユニット37は、たとえば、第3移動ノズル11に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って伸びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含む。
【0062】
第3移動ノズル11は、第3移動ノズル11に洗浄液を案内する洗浄液配管42に接続されている。洗浄液配管42に介装された洗浄液バルブ52が開かれると、洗浄液が、第3移動ノズル11の吐出口から下方に連続流で吐出される。
第3移動ノズル11から吐出される洗浄液は、剥離液よりも酸化力が高い液体であることが好ましい。第3移動ノズル11から吐出される洗浄液は、SC1に限られず、フッ酸や希釈アンモニア水(dNH4OH)であってもよい。
【0063】
中央ノズル12は、対向部材6の中空軸60の内部空間60aに収容されている。中央ノズル12の先端に設けられた吐出口12aは、基板Wの上面の中央領域に上方から対向する。基板Wの上面の中央領域とは、基板Wの上面において基板Wの回転中心およびその周囲を含む領域のことである。
中央ノズル12は、流体を下方に吐出する複数のチューブ(第1チューブ31、第2チューブ32および第3チューブ33)と、複数のチューブを取り囲む筒状のケーシング30とを含む。複数のチューブおよびケーシング30は、回転軸線A1に沿って上下方向に延びている。中央ノズル12の吐出口12aは、第1チューブ31の吐出口でもあり、第2チューブ32の吐出口でもあり、第3チューブ33の吐出口でもある。
【0064】
第1チューブ31(中央ノズル12)は、DIW等のリンス液を基板Wの上面に供給するリンス液供給ユニットの一例である。第2チューブ32(中央ノズル12)は、IPA等の除去液を基板Wの上面に供給する除去液供給ユニットの一例である。第3チューブ33(中央ノズル12)は、窒素ガス(N2)等の気体を基板Wの上面と対向部材6の対向面6aとの間に供給する気体供給ユニットの一例である。中央ノズル12は、リンス液ノズルでもあり、除去液ノズルでもあり、気体ノズルでもある。
【0065】
第1チューブ31は、リンス液を第1チューブ31に案内する上側リンス液配管43に接続されている。上側リンス液配管43に介装された上側リンス液バルブ53が開かれると、リンス液が、第1チューブ31(中央ノズル12)から基板Wの上面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
リンス液としては、DIW、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)のアンモニア水、還元水(水素水)等が挙げられる。
【0066】
第2チューブ32は、除去液を第2チューブ32に案内する除去液配管44に接続されている。除去液配管44に介装された除去液バルブ54が開かれると、除去液が、第2チューブ32(中央ノズル12)から基板Wの上面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
第2チューブ32から吐出される除去液は、処理膜において剥離液によって基板Wの上面から剥離されなかった部分を除去するための液体である。除去液は、リンス液よりも揮発性が高い液体であることが好ましい。第2チューブ32から吐出される除去液は、リンス液と相溶性を有することが好ましい。
【0067】
第2チューブ32から吐出される除去液は、たとえば、有機溶剤である。第2チューブ32から吐出される有機溶剤としては、IPA、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、メタノール、エタノール、アセトン、PGEE(プロピレングリコールモノエチルエーテル)およびTrans-1,2-ジクロロエチレンのうちの少なくとも1つを含む液等が挙げられる。
【0068】
また、第2チューブ32から吐出される有機溶剤は、単体成分のみからなる必要はなく、他の成分と混合した液体であってもよい。たとえば、IPAとDIWとの混合液であってもよいし、IPAとHFEとの混合液であってもよい。
第3チューブ33は、気体を第3チューブ33に案内する気体配管45に接続されている。気体配管45に介装された気体バルブ55が開かれると、気体が、第3チューブ33(中央ノズル12)から下方に連続流で吐出される。
【0069】
第3チューブ33から吐出される気体は、たとえば、窒素ガス等の不活性ガスである。第3チューブ33から吐出される気体は、空気であってもよい。不活性ガスとは、窒素ガスに限られず、基板Wの上面や、基板Wの上面に形成された凹凸パターン160(
図2を参照)に対して不活性なガスのことである。不活性ガスの例としては、窒素ガスの他に、アルゴン等の希ガス類が挙げられる。
【0070】
下面ノズル13は、スピンベース21の上面中央部で開口する貫通孔21aに挿入されている。下面ノズル13の吐出口13aは、スピンベース21の上面から露出されている。下面ノズル13の吐出口13aは、基板Wの下面(下側の表面)の中央領域に下方から対向する。基板Wの下面の中央領域とは、基板Wの下面において基板Wの回転中心を含む領域のことである。
【0071】
下面ノズル13には、リンス液、剥離液、および熱媒を下面ノズル13に共通に案内する共通配管80の一端が接続されている。共通配管80の他端には、共通配管80にリンス液を案内する下側リンス液配管81と、共通配管80に剥離液を案内する下側剥離液配管82と、共通配管80に熱媒を案内する熱媒配管83とが接続されている。
下側リンス液配管81に介装された下側リンス液バルブ86が開かれると、リンス液が、下面ノズル13から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。下側剥離液配管82に介装された下側剥離液バルブ87が開かれると、剥離液が、下面ノズル13から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。熱媒配管83に介装された熱媒バルブ88が開かれると、熱媒が、下面ノズル13から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
【0072】
下面ノズル13は、基板Wの下面にリンス液を供給する下側リンス液供給ユニットの一例である。また、下面ノズル13は、基板Wの下面に剥離液を供給する下側剥離液供給ユニットの一例である。また、下面ノズル13は、基板Wを加熱するための熱媒を基板Wに供給する熱媒供給ユニットの一例である。下面ノズル13は、基板Wを加熱する基板加熱ユニットでもある。
【0073】
下面ノズル13から吐出される熱媒は、たとえば、室温よりも高く、処理液に含まれる溶媒の沸点よりも低い温度の高温DIWである。処理液に含まれる溶媒がIPAである場合、熱媒としては、たとえば、60℃~80℃のDIWが用いられる。下面ノズル13から吐出される熱媒は、高温DIWには限られず、室温よりも高く、処理液に含有される溶媒の沸点よりも低い温度の高温不活性ガスや高温空気等の高温気体であってもよい。
【0074】
図4は、コントローラ3のハードウェアを示すブロック図である。コントローラ3は、コンピュータ本体3aと、コンピュータ本体3aに接続された周辺装置3dとを含む、コンピュータである。コンピュータ本体3aは、各種の命令を実行するCPU3b(central processing unit:中央処理装置)と、情報を記憶する主記憶装置3cとを含む。周辺装置3dは、プログラムP等の情報を記憶する補助記憶装置3eと、リムーバブルメディアRMから情報を読み取る読取装置3fと、ホストコンピュータ等の他の装置と通信する通信装置3gとを含む。
【0075】
コントローラ3は、入力装置3A、表示装置3B、および警報装置3Cに接続されている。入力装置3Aは、ユーザーやメンテナンス担当者等の操作者が基板処理装置1に情報を入力するときに操作される。情報は、表示装置3Bの画面に表示される。入力装置3Aは、キーボード、ポインティングデバイス、およびタッチパネルのいずれかであってもよいし、これら以外の装置であってもよい。入力装置3Aおよび表示装置3Bを兼ねるタッチパネルディスプレイが基板処理装置1に設けられていてもよい。警報装置3Cは、光、音、文字、および図形のうちの1つ以上を用いて警報を発する。入力装置3Aがタッチパネルディスプレイの場合、入力装置3Aが、警報装置3Cを兼ねていてもよい。
【0076】
CPU3bは、補助記憶装置3eに記憶されたプログラムPを実行する。補助記憶装置3e内のプログラムPは、コントローラ3に予めインストールされたものであってもよいし、読取装置3fを通じてリムーバブルメディアRMから補助記憶装置3eに送られたものであってもよいし、ホストコンピュータ等の外部装置から通信装置3gを通じて補助記憶装置3eに送られたものであってもよい。
【0077】
補助記憶装置3eおよびリムーバブルメディアRMは、電力が供給されていなくても記憶を保持する不揮発性メモリである。補助記憶装置3eは、たとえば、ハードディスクドライブ等の磁気記憶装置である。リムーバブルメディアRMは、たとえば、コンパクトディスク等の光ディスクまたはメモリーカード等の半導体メモリである。リムーバブルメディアRMは、プログラムPが記録された、コンピュータ読取可能な記録媒体の一例である。リムーバブルメディアRMは、一時的ではない有形の記録媒体である。
【0078】
補助記憶装置3eは、複数のレシピを記憶している。レシピは、基板Wの処理内容、処理条件、および処理手順を規定する情報である。複数のレシピは、基板Wの処理内容、処理条件、および処理手順の少なくとも一つにおいて互いに異なる。コントローラ3は、ホストコンピュータによって指定されたレシピにしたがって基板Wが処理されるように基板処理装置1を制御する。以下の各工程は、コントローラ3が基板処理装置1を制御することにより実行される。言い換えると、コントローラ3は、以下の各工程を実行するようにプログラムされている。
【0079】
図5は、基板処理装置1による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
図5には、主として、コントローラ3がプログラムを実行することによって実現される処理が示されている。
図6A~
図6Iは、基板処理の各工程の様子を説明するための模式図である。
図7A~
図7Dは、基板処理中の基板Wの表面付近の様子を説明するための模式図である。
【0080】
基板処理装置1による基板処理では、
図5に示すように、基板搬入工程(ステップS1)、処理液供給工程(ステップS2)、処理膜形成工程(ステップS3)、剥離対象膜剥離工程(ステップS4)、剥離液除去工程(ステップS5)、洗浄工程(ステップS6)、洗浄液除去工程(ステップS7)、保護膜除去工程(ステップS8)、スピンドライ工程(ステップS9)および基板搬出工程(ステップS10)がこの順番で実行される。
【0081】
以下では、主に
図3および
図5を参照する。
図6A~
図6Iおよび
図7A~
図7Dについては適宜参照する。
まず、ドライエッチング処理後の基板Wが、搬送ロボットIR,CR(
図1参照)によってキャリヤCから処理ユニット2に搬入され、スピンチャック5に渡される(ステップS1)。これにより、基板Wは、スピンチャック5によって水平に保持される(基板保持工程)。基板Wは、パターン面165が上面となるように保持される。基板Wの搬入時には、対向部材6は、上位置に退避している。
【0082】
スピンチャック5による基板Wの保持は、スピンドライ工程(ステップS9)が終了するまで継続される。ガード昇降ユニット74は、基板保持工程が開始されてからスピンドライ工程(ステップS9)が終了するまでの間、少なくとも一つのガード71が上位置に位置するように、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bの高さ位置を調整する。
次に、搬送ロボットCRが処理ユニット2外に退避した後、処理液供給工程(ステップS2)が開始される。処理液供給工程では、まず、スピンモータ23が、スピンベース21を回転させる。これにより、水平に保持された基板Wが回転される(基板回転工程)。
【0083】
対向部材6が上位置に位置する状態で、第1ノズル移動ユニット35が、第1移動ノズル9を処理位置に移動させる。第1移動ノズル9の処理位置は、たとえば、中央位置である。そして、処理液バルブ50が開かれる。これにより、
図6Aに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第1移動ノズル9から処理液が供給(吐出)される(処理液供給工程、処理液吐出工程)。これにより、基板W上に処理液の液膜101(処理液膜)が形成される(処理液膜形成工程)。
【0084】
第1移動ノズル9からの処理液の供給は、所定時間、たとえば、2秒~4秒の間継続される。処理液供給工程において、基板Wは、所定の処理液回転速度、たとえば、10rpm~1500rpmで回転される。
次に、処理膜形成工程(ステップS3)が実行される。処理膜形成工程では、基板W上の処理液が固化または硬化されて、基板W上に存在する第1除去対象物103を保持する処理膜100(
図7Aを参照)が基板Wの上面に形成される。
【0085】
処理膜形成工程では、まず、基板W上の処理液の液膜101の厚さを薄くする処理液薄膜化工程(処理液スピンオフ工程)が実行される。具体的には、処理液バルブ50が閉じられる。これにより、基板Wに対する処理液の供給が停止される。そして、第1ノズル移動ユニット35によって第1移動ノズル9がホーム位置に移動される。
図6Bに示すように、処理液薄膜化工程では、基板W上の液膜101の厚さが適切な厚さになるように、基板Wの上面への処理液の供給が停止された状態で遠心力によって基板Wの上面から処理液の一部が排除される。
【0086】
第1移動ノズル9がホーム位置に移動した後も、対向部材6は、上位置に維持される。
処理液薄膜化工程では、スピンモータ23が、基板Wの回転速度を所定の処理液薄膜化速度に変更する。処理液薄膜化速度は、たとえば、300rpm~1500rpmである。基板Wの回転速度は、300rpm~1500rpmの範囲内で一定に保たれてもよいし、処理液薄膜化工程の途中で300rpm~1500rpmの範囲内で適宜変更されてもよい。処理液薄膜化工程は、所定時間、たとえば、30秒間実行される。
【0087】
処理膜形成工程では、処理液薄膜化工程後に、処理液の液膜101から溶媒の一部を蒸発(揮発)させる処理液溶媒蒸発工程が実行される。処理液溶媒蒸発工程では、基板W上の処理液の溶媒の一部を蒸発させるために、基板W上の液膜101を加熱する。
具体的には、
図6Cに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を、上位置と下位置との間の近接位置に移動させる。近接位置は、下位置であってもよい。近接位置は、基板Wの上面から対向面6aまでの距離がたとえば1mmの位置である。
【0088】
そして、気体バルブ55が開かれる。これにより、基板Wの上面(液膜101の上面)と、対向部材6の対向面6aとの間の空間に気体が供給される(気体供給工程)。
基板W上の液膜101に気体が吹き付けられることによって、液膜101中の溶媒の蒸発(揮発)が促進される(処理液溶媒蒸発工程、処理液溶媒蒸発促進工程)。そのため、処理膜100(
図7Aを参照)の形成に必要な時間を短縮することができる。中央ノズル12は、処理液中の溶媒を蒸発させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0089】
また、熱媒バルブ88が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13から熱媒が供給(吐出)される(熱媒供給工程、熱媒吐出工程)。下面ノズル13から基板Wの下面に供給された熱媒は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの下面の全体に行き渡る。基板Wに対する熱媒の供給は、所定時間、たとえば、60秒間継続される。処理液溶媒蒸発工程において、基板Wは、所定の蒸発回転速度、たとえば、1000rpmで回転される。
【0090】
基板Wの下面に熱媒が供給されることによって、基板Wを介して、基板W上の液膜101が加熱される。これにより、液膜101中の溶媒の蒸発(揮発)が促進される(処理液溶媒蒸発工程、処理液溶媒蒸発促進工程)。そのため、処理膜100(
図7Aを参照)の形成に必要な時間を短縮することができる。下面ノズル13は、処理液中の溶媒を蒸発(揮発)させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0091】
処理液薄膜化工程および処理液溶媒蒸発工程が実行されることによって、処理液が固化または硬化される。これにより、
図7Aに示すように、第1除去対象物103を保持する処理膜100が基板Wの上面全体に形成される。このように、基板回転ユニット(スピンモータ23)、中央ノズル12および下面ノズル13は、処理液を固化または硬化させて固形の膜(処理膜100)を形成する処理膜形成ユニット(膜形成ユニット)を構成している。
【0092】
処理液溶媒蒸発工程では、基板W上の処理液の温度が溶媒の沸点未満となるように、基板Wが加熱されることが好ましい。処理液を、溶媒の沸点未満の温度に加熱することにより、処理膜100中に溶媒を適度に残留させることができる。これにより、処理膜100内に溶媒が残留していない場合と比較して、その後の剥離対象膜剥離工程(ステップS4)において、剥離液を処理膜100になじませやすい。
【0093】
次に、処理膜100において非露出領域171を被覆する剥離対象膜100Aを剥離する剥離対象膜剥離工程(ステップS4)が実行される。具体的には、熱媒バルブ88が閉じられる。これにより、基板Wの下面に対する熱媒の供給が停止される。また、気体バルブ55が閉じられる。これにより、対向部材6の対向面6aと基板Wの上面との間の空間への気体の供給が停止される。
【0094】
そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置に移動させる。対向部材6が上位置に位置する状態で、第2ノズル移動ユニット36が、第2移動ノズル10を処理位置に移動させる。第2移動ノズル10の処理位置は、たとえば、中央位置である。
そして、第2移動ノズル10が処理位置に位置する状態で、上側剥離液バルブ51が開かれる。これにより、
図6Dに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第2移動ノズル10から剥離液が供給(吐出)される(上側剥離液供給工程、上側剥離液吐出工程)。基板Wの上面に供給された剥離液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。剥離対象膜剥離工程において、基板Wは、所定の剥離対象膜剥離回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
【0095】
上側剥離液バルブ51が開かれると同時に、下側剥離液バルブ87が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13から剥離液が供給(吐出)される(下側剥離液供給工程、下側剥離液吐出工程)。基板Wの下面に供給された剥離液は、遠心力により、基板Wの下面の全体に広がる。
基板Wの上面に剥離液が供給されることによって、
図7Bに示すように、剥離液の剥離作用によって、剥離対象膜100Aが第1除去対象物103とともに基板Wの上面の非露出領域171から剥離される。剥離対象膜100Aは、基板Wの上面から剥離される際に分裂して膜片105となる。
【0096】
剥離対象膜100Aの剥離後、基板Wの上面への剥離液の供給が継続されることによって、剥離対象膜100Aの膜片105は、剥離液とともに基板W外へ排除される。これにより、第1除去対象物103を保持している状態の剥離対象膜100Aの膜片105が、基板Wの上面から除去される。
剥離対象膜100Aが非露出領域171から剥離される一方で、処理膜100において露出領域170を被覆(保護)する保護膜100Bは、剥離されずに露出領域170を被覆している状態に維持される。
【0097】
ここで、
図6Aに示す処理液供給工程(ステップS2)で基板Wの上面に供給された処理液は、基板Wの周縁を伝って基板Wの下面に回り込むことがある。また、基板Wから飛散した処理液が、ガード71から跳ね返って基板Wの下面に付着することがある。このような場合であっても、
図6Cに示すように、処理膜形成工程において基板Wの下面に熱媒が供給される。そのため、その熱媒の流れによって、基板Wの下面から処理液を排除することができる。
【0098】
さらに、処理液供給工程(ステップS2)に起因して基板Wの下面に付着した処理液が、固化または硬化して固体を形成することがある。このような場合であっても、
図6Dに示すように、剥離対象膜剥離工程(ステップS4)において基板Wの上面に剥離液が供給されている間、基板Wの下面に剥離液が供給(吐出)されるため、その固体を基板Wの下面から剥離し除去することができる。
【0099】
そして、剥離対象膜剥離工程(ステップS4)の後、リンス液の供給によって、基板Wから剥離液を除去する剥離液除去工程(ステップS5)が実行される。具体的には、上側剥離液バルブ51および下側剥離液バルブ87が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面への剥離液の供給が停止される。そして、第2ノズル移動ユニット36が、第2移動ノズル10をホーム位置に移動させる。そして、
図6Eに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を処理位置に移動させる。
【0100】
そして、対向部材6が処理位置に位置する状態で、上側リンス液バルブ53が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12からリンス液が供給(吐出)される(上側リンス液供給工程、上側リンス液吐出工程)。
剥離液除去工程において、基板Wは、所定の剥離液除去回転速度、たとえば、800rpmで回転される。処理位置は、近接位置よりも基板Wの上面から上方に離間した位置である。対向部材6が処理位置に位置するとき、基板Wの上面と対向面6aとの間の距離は、たとえば、30mmである。
【0101】
基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面に付着していた剥離液がリンス液で洗い流される(リンス工程)。
また、上側リンス液バルブ53が開かれると同時に、下側リンス液バルブ86が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13からリンス液が供給(吐出)される(下側リンス液供給工程、下側リンス液吐出工程)。これにより、基板Wの下面に付着していた剥離液がリンス液で洗い流される。基板Wの上面および下面へのリンス液の供給は、所定時間、たとえば、35秒間継続される。
【0102】
次に、基板Wの上面に付着している第2除去対象物104を除去して基板Wの上面を洗浄する洗浄工程(ステップS6)が実行される。具体的には、上側リンス液バルブ53および下側リンス液バルブ86が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対するリンス液の供給が停止される。
そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置に移動させる。対向部材6が上位置に位置する状態で、第3ノズル移動ユニット37が、第3移動ノズル11を処理位置に移動させる。第3移動ノズル11の処理位置は、たとえば、中央位置である。
【0103】
そして、第3移動ノズル11が処理位置に位置する状態で、洗浄液バルブ52が開かれる。これにより、
図6Fに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第3移動ノズル11から洗浄液が供給(吐出)される(洗浄液供給工程、洗浄液吐出工程)。基板Wの上面に供給された洗浄液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。洗浄工程において、基板Wは、所定の洗浄回転速度で回転される。洗浄回転速度は、たとえば、10rpm~1000rpmの範囲内の速度である。洗浄回転速度は、好ましくは、800rpmである。
【0104】
基板Wの上面に供給された洗浄液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面のリンス液が洗浄液で置換される。
図7Cに示すように、基板Wの上面に供給された洗浄液は、基板Wの上面に存在する第2除去対象物104(
図7Bを参照)を溶解する。第2除去対象物104を溶解させた洗浄液は、基板Wの上面の周縁から排出される。
【0105】
洗浄工程(ステップS6)の後、リンス液の供給によって、基板Wから洗浄液を除去する洗浄液除去工程(ステップS7)が実行される。具体的には、洗浄液バルブ52が閉じられる。これにより、基板Wの上面に対する洗浄液の供給が停止される。そして、第3ノズル移動ユニット37が、第3移動ノズル11がホーム位置に移動させる。そして、
図6Gに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を処理位置に移動させる。
【0106】
そして、対向部材6が処理位置に位置する状態で、上側リンス液バルブ53が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12からリンス液が供給(吐出)される(上側リンス液供給工程、上側リンス液吐出工程)。洗浄液除去工程において、基板Wは、所定の洗浄液除去回転転速度、たとえば、800rpmで回転される。
【0107】
基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面に付着していた洗浄液がリンス液で洗い流される。
また、上側リンス液バルブ53が開かれると同時に、下側リンス液バルブ86が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13からリンス液が供給(吐出)される(下側リンス液供給工程、下側リンス液吐出工程)。これにより、基板Wの上面から基板Wの下面に回り込んで基板Wの下面に洗浄液が付着している場合であっても、基板Wの下面に付着していた洗浄液がリンス液で洗い流される。基板Wの上面および下面へのリンス液の供給は、所定時間、たとえば、35秒間継続される。
【0108】
次に、処理膜100において露出領域170を被覆する保護膜100Bを除去する保護膜除去工程(ステップS9)が実行される。具体的には、上側リンス液バルブ53および下側リンス液バルブ86が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対するリンス液の供給が停止される。
そして、対向部材6が処理位置に位置する状態で、除去液バルブ54が開かれる。これにより、
図6Hに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12から除去液が供給(吐出)される(除去液供給工程、除去液吐出工程)。基板Wの上面への除去液の供給は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。保護膜除去工程において、基板Wは、所定の除去回転速度、たとえば、300rpmで回転される。
【0109】
基板Wの上面に供給された除去液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面のリンス液が除去液で置換される。
図7Dに示すように、基板Wの上面に供給された除去液は、基板Wの上面に残る保護膜100B(
図7Cを参照)を溶解した後、基板Wの上面の周縁から排出される。
次に、基板Wを高速回転させて基板Wの上面を乾燥させるスピンドライ工程(ステップS9)が実行される。具体的には、除去液バルブ54が閉じられる。これにより、基板Wの上面への除去液の供給が停止される。そして、
図6Iに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を処理位置よりも下方の乾燥位置に移動させる。対向部材6が乾燥位置に位置するとき、対向部材6の対向面6aと基板Wの上面との間の距離は、たとえば、1.5mmである。そして、気体バルブ55が開かれる。これにより、基板Wの上面と、対向部材6の対向面6aとの間の空間に気体が供給される。
【0110】
そして、スピンモータ23が基板Wの回転を加速し、基板Wを高速回転させる。スピンドライ工程における基板Wは、乾燥速度、たとえば、1500rpmで回転される。スピンドライ工程は、所定時間、たとえば、30秒間の間実行される。それによって、大きな遠心力が基板W上の除去液に作用し、基板W上の除去液が基板Wの周囲に振り切られる。スピンドライ工程では、基板Wの上面と、対向部材6の対向面6aとの間の空間への気体の供給によって除去液の蒸発が促進される。
【0111】
そして、スピンモータ23が基板Wの回転を停止させる。ガード昇降ユニット74が第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを下位置に移動させる。気体バルブ55が閉じられる。そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置に移動させる。
搬送ロボットCRが、処理ユニット2に進入して、スピンチャック5のチャックピン20から処理済みの基板Wをすくい取って、処理ユニット2外へと搬出する(ステップS10)。その基板Wは、搬送ロボットCRから搬送ロボットIRへと渡され、搬送ロボットIRによって、キャリヤCに収納される。
【0112】
この基板処理のスピンドライ工程では、基板W上のDIW等のリンス液が振り切られることによって、基板Wの上面が乾燥されるのではなく、基板W上のリンス液がIPA等の除去液によって置換された後に、基板W上の除去液が振り切られることによって基板Wの上面が乾燥される。すなわち、DIWよりも表面張力が低いIPAによって置換されてからスピンドライ工程が実行されるため、基板Wの上面が乾燥される際に基板Wの上面の凹凸パターン160(
図2を参照)に作用する表面張力を低減することができる。
【0113】
図8A~
図8Cを用いて、剥離対象膜100Aの剥離の様子を詳細に説明する。
図8A~
図8Cは、非露出領域171を被覆する剥離対象膜100Aが基板Wの上面から剥離される様子を説明するための模式図である。
剥離対象膜100Aは、
図8Aに示すように、第1除去対象物103を保持している。詳しくは、剥離対象膜100Aは、高溶解性固体110(固体状態の高溶解性成分)と、低溶解性固体111(固体状態の低溶解性成分)とを有する。高溶解性固体110および低溶解性固体111は、処理液に含有される溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって形成される。
【0114】
剥離対象膜100A中には、高溶解性固体110と低溶解性固体111とが混在している。厳密には、剥離対象膜100Aは、高溶解性固体110と低溶解性固体111とが処理膜100の全体に均一に分布しているわけではなく、高溶解性固体110が偏在している部分と、低溶解性固体111が偏在している部分とが存在している。
図8Bを参照して、剥離液の供給に起因して、高溶解性固体110が溶解される。すなわち、剥離対象膜100Aが部分的に溶解される。高溶解性固体110が溶解されることによって、剥離対象膜100Aにおいて高溶解性固体110が偏在している部分に貫通孔102(第1貫通孔)が形成される(第1貫通孔形成工程)。
【0115】
貫通孔102は、特に、パターン面165の法線方向T(処理膜100の厚さ方向でもある)に高溶解性固体110が延びている部分に形成されやすい。貫通孔102は、平面視で、たとえば、直径数nmの大きさである。
剥離液に対する低溶解性成分の溶解性は低く、低溶解性固体111は剥離液によって殆ど溶解されない。そのため、低溶解性固体111は、剥離液によってその表面付近が僅かに溶解されるだけである。そのため、貫通孔102を介して基板Wの上面付近まで到達した剥離液は、低溶解性固体111において基板Wの上面付近の部分を僅かに溶解させる。これにより、
図8Bの拡大図に示すように、剥離液が、基板Wの上面付近の低溶解性固体111を徐々に溶解させながら、剥離対象膜100Aと基板Wの上面との間の隙間G1に進入していく(剥離液進入工程)。
【0116】
そして、たとえば、貫通孔102の周縁を起点として剥離対象膜100Aが分裂して膜片105となり、
図8Cに示すように、剥離対象膜100Aの膜片105が第1除去対象物103を保持している状態で基板Wから剥離される(剥離対象膜分裂工程、剥離対象膜剥離工程)。そして、剥離液の供給を継続することによって、膜片105となった剥離対象膜100Aが、第1除去対象物103を保持している状態で、洗い流されて(基板W外に押し出されて)基板Wの上面から除去される(第1除去対象物除去工程)。
【0117】
次に、
図9A~
図9Dを用いて、保護膜100Bの除去の様子を詳細に説明する。
図9A~
図9Dは、露出領域170を被覆する保護膜100Bが基板Wの上面から除去される様子を説明するための模式図である。
保護膜100Bは、
図9Aに示すように、第1除去対象物103を保持している。詳しくは、保護膜100Bは、高溶解性固体110(固体状態の高溶解性成分)と、低溶解性固体111(固体状態の低溶解性成分)とを有する。高溶解性固体110および低溶解性固体111は、処理液に含有される溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって形成される。
【0118】
保護膜100Bは、金属膜163に接触する位置に配置され低溶解性固体111からなる低溶解性層180と、低溶解性層180に対して金属膜163の反対側に配置され高溶解性固体110からなる高溶解性層181とを有する。つまり、金属膜163と高溶解性層181との間に低溶解性層180が位置する。
高溶解性固体110は、剥離液に溶解されるが、低溶解性固体111は、剥離液に殆ど溶解されない。そのため、剥離対象膜剥離工程(ステップS4)において基板Wの上面に剥離液が供給されると、
図9Bに示すように、高溶解性層181は、剥離液によって溶解される。一方、低溶解性層180は、その表面が僅かに溶解されるものの、金属膜163を露出させることなく、露出領域170を被覆する状態で維持される。そのため、剥離液が、低溶解性層180と基板Wの上面との間には進入しにくい。したがって、保護膜100Bの低溶解性層180は、剥離液によって剥離されずに露出領域170上に留まる。そのため、処理膜100は、露出領域170において、前処理膜200よりも剥離性が低い。
【0119】
金属膜163が保護膜100Bによって被覆されているため、その後の洗浄工程(ステップS6)において基板Wの上面に洗浄液が供給されている間、
図9Cに示すように、金属膜163は、洗浄液に晒されずに保護される。
したがって、
図7Cに示すように、基板Wの上面から露出する金属膜163を適切に保護している状態で基板Wの表面に洗浄液を供給して第2除去対象物104を基板Wから除去することができる。その後の保護膜除去工程(ステップS8)によって、
図9Dに示すように、保護膜100Bを除去液に溶解させて基板Wの上面から保護膜100Bをスムーズに除去することができる。
【0120】
露出領域170に付着していた第1除去対象物103は、保護膜100Bが形成される際に露出領域170から引き離される。洗浄工程(ステップS6)の後の保護膜除去工程(ステップS8)では、保護膜100Bが除去液に溶解される。除去液によって保護膜100Bが溶解されると、第1除去対象物103は、露出領域170から引き離された状態で除去液中を浮遊する。したがって、除去液の供給を継続することによって、除去液中を浮遊する第1除去対象物103は、除去液とともに基板Wの上面から排除される。
【0121】
さらに、除去液は、剥離対象膜100Aを溶解させることもできる。そのため、剥離液によって剥離された後に、剥離対象膜100Aの残渣が基板Wの上面に付着している場合であっても、除去液によって当該残渣を除去することができる。
第1実施形態によれば、基板Wの上面に供給された処理液が固化または硬化されることで基板Wの上面の非露出領域171を被覆する剥離対象膜100Aと、基板Wの上面の露出領域170を被覆する保護膜100Bとが形成される。
【0122】
剥離対象膜100Aおよび保護膜100Bが形成された状態の基板Wの上面に剥離液を供給することによって、剥離対象膜100Aが第1除去対象物103を保持している状態で基板Wの上面から剥離される。そのため、第1除去対象物103が基板Wの上面から除去される。その一方で、基板Wの上面に第2除去対象物104が残留する。その後、洗浄液によって、第2除去対象物104が基板Wの上面から除去され、さらにその後、除去液によって、保護膜100Bが基板Wの上面から除去される。
【0123】
基板Wの上面に洗浄液を供給する際、基板Wの上面の露出領域170は保護膜100Bによって被覆されている。そのため、第2除去対象物104を除去するために用いられる洗浄液が金属膜163を酸化させる酸化力を有しているにもかかわらず、金属膜163を酸化させることなく第2除去対象物104を除去することができる。
したがって、金属膜163の酸化を抑制しつつ、複数種の除去対象物(第1除去対象物103および第2除去対象物104)を基板Wの上面から効率良く除去することができる。
【0124】
また第1実施形態によれば、剥離対象膜100A中には、高溶解性固体110と低溶解性固体111とが混在している。そして、剥離対象膜剥離工程(ステップS4)において、高溶解性固体110が剥離液に選択的に溶解される。「高溶解性固体110が選択的に溶解される」とは、高溶解性固体110のみが溶解されるという意味ではない。「高溶解性固体110が選択的に溶解される」とは、低溶解性固体111も僅かに溶解されるが、大部分の高溶解性固体110が溶解されるという意味である。
【0125】
高溶解性固体110を剥離液に溶解させることによって、高溶解性固体110が存在していた跡(貫通孔102)を通って剥離液が剥離対象膜100A内を通過する。これにより、剥離対象膜100Aと基板Wの表面の非露出領域171との界面付近に速やかに到達することができる。
一方、剥離対象膜100A中の低溶解性固体111は、溶解されずに固体状態で維持される。したがって、低溶解性固体111で第1除去対象物103を保持しながら、低溶解性固体111と基板Wとの接触界面に剥離液を作用させることができる。その結果、剥離対象膜100Aを基板Wの上面から速やかに除去し、剥離対象膜100Aとともに第1除去対象物103を基板Wの上面から効率良く除去することができる。
【0126】
<第2実施形態>
図10は、第2実施形態に係る基板処理装置1Pに備えられる処理ユニット2の概略構成を示す模式的な部分断面図である。
図10において、前述の
図1~
図9Dに示された構成と同等の構成については、
図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。後述する
図11~
図14Cにおいても同様に、
図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0127】
図10を参照して、第2実施形態に係る処理ユニット2が第1実施形態に係る処理ユニット2(
図3を参照)と主に異なる点は、第2実施形態に係る処理ユニット2が、第4移動ノズル14を含む点である。
第4移動ノズル14は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて前処理液を供給(吐出)する前処理液ノズル(前処理液供給ユニット)の一例である。
【0128】
第4移動ノズル14は、第4ノズル移動ユニット38によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第4移動ノズル14は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
第4移動ノズル14は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の回転中心に対向する。第4移動ノズル14は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第4移動ノズル14は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
【0129】
第4ノズル移動ユニット38は、第1ノズル移動ユニット35と同様の構成を有している。すなわち、第4ノズル移動ユニット38は、たとえば、第4移動ノズル14に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、アームに結合され鉛直方向に沿って伸びる回動軸(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含む。
【0130】
第4移動ノズル14から吐出される前処理液は、溶質および溶媒を含んでいる。前処理液は、溶媒の少なくとも一部が揮発(蒸発)することによって固化または硬化する。前処理液は、基板W上で固化または硬化することによって、基板W上に存在する第1除去対象物103を保持する前処理膜を形成する。
第4移動ノズル14から吐出される前処理液に含まれる溶質は、低溶解性成分と高溶解性成分とを含む。
【0131】
基板Wの表面に金属が露出している場合には、第4移動ノズル14から吐出される前処理液に含まれる溶質に腐食防止成分が含まれていることが好ましい。詳しくは後述するが、腐食防止成分は、たとえば、BTA(ベンゾトリアゾール)である。
前処理液に含まれる低溶解性成分および高溶解性成分は、剥離液に対する溶解性が互いに異なる物質を用いることができる。第4移動ノズル14から吐出される前処理液に含まれる低溶解性成分は、たとえば、ノボラックである。第4移動ノズル14から吐出される前処理液に含まれる高溶解性成分は、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(第1成分)および3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール(第2成分)を含む。前処理液は、ポリマー含有液ともいい、前処理膜は、ポリマー膜ともいう。
【0132】
第4移動ノズル14から吐出される前処理液に含まれる溶媒は、低溶解性成分および高溶解性成分を溶解させる液体であればよい。前処理液に含まれる溶媒は、剥離液と相溶性を有する(混和可能である)液体であることが好ましい。
前処理液に含まれる溶媒を第2溶媒といい、前処理液に含まれる溶質を第2溶質という。前処理液に含まれる低溶解性成分を第2低溶解性成分といい、前処理液に含まれる高溶解性成分を第2高溶解性成分という。
【0133】
第4移動ノズル14から吐出される前処理液に含まれる溶媒、低溶解性成分、高溶解性成分および腐食防止成分の詳細については後述する。
前処理膜において、露出領域170を被覆する部分および非露出領域171を被覆する部分の両方が、剥離液によって基板W上から剥離される。前処理膜は、処理膜と同様に、除去液によって溶解される。
【0134】
ポリマー膜が第1除去対象物103を除去する除去力は、除去対象物保持力および剥離性によって構成されている。除去対象物保持力とは、対象領域(露出領域170または非露出領域171)に存在する第1除去対象物103をポリマー膜の膜中および膜表面の少なくともいずれかに保持する能力である。剥離性とは、第1除去対象物103を保持している状態のポリマー膜が剥離液によって剥離される際の剥離されやすさを示す性質である。剥離性が高いとは、剥離液によって剥離されやすいことを意味する。ポリマー膜の除去力とは、対象領域に存在する第1除去対象物103を保持する状態でポリマー膜が剥離液によって剥離されるときに対象領域から第1除去対象物103を除去する能力である。
【0135】
前処理膜は、非露出領域171および露出領域170の両方において高い除去対象物保持力を発揮するが、処理膜は、非露出領域171および露出領域170の両方において前処理膜よりもさらに高い除去対象物保持力を発揮する。一方、前処理膜は、露出領域170において処理膜よりも剥離性が高い。そのため、露出領域170において前処理膜は処理膜より高い除去力を発揮し、非露出領域171において処理膜は前処理膜よりも高い除去力を発揮する。
【0136】
詳しくは、非露出領域171に存在する第1除去対象物103を処理膜が除去する除去力は、非露出領域171に存在する第1除去対象物103を前処理膜が除去する除去力よりも高い。露出領域170に存在する第1除去対象物103を前処理膜が除去する除去力は、露出領域170に存在する第1除去対象物103を処理膜が除去する除去力よりも高い。
【0137】
第4移動ノズル14は、第4移動ノズル14に前処理液を案内する前処理液配管46に接続されている。前処理液配管46に介装された前処理液バルブ56が開かれると、前処理液が、第4移動ノズル14の吐出口から下方に連続流で吐出される。
図11は、第2実施形態に係る基板処理装置1Pによる基板処理の一例を説明するための流れ図である。
図12A~
図12Fは、基板処理装置1Pによる基板処理の各工程の様子を説明するための模式図である。
図13A~
図13Dは、基板処理装置1Pによる基板処理中の基板の表面付近の様子を説明するための模式図である。
【0138】
図11に示すように、基板処理装置1Pによる基板処理は、基板処理装置1による基板処理(
図5を参照)とは異なり、処理液供給工程(ステップS2)よりも前に、前処理液供給工程(ステップS11)、前処理膜形成工程(ステップS12)、前処理膜剥離工程(ステップS13)、剥離液除去工程(ステップS14)および前処理膜残渣除去工程(ステップS15)がこの順番で実行される。
【0139】
基板処理装置1Pによる基板処理では、まず、ドライエッチング処理後の基板Wが、搬送ロボットIR,CR(
図1参照)によってキャリヤCから処理ユニット2に搬入され、スピンチャック5に渡される(ステップS1)。これにより、基板Wは、スピンチャック5によって水平に保持される(基板保持工程)。基板Wは、パターン面165が上面となるように保持される。基板Wの搬入時には、対向部材6は、上位置に退避している。
【0140】
スピンチャック5による基板Wの保持は、スピンドライ工程(ステップS9)が終了するまで継続される。ガード昇降ユニット74は、基板保持工程が開始されてからスピンドライ工程(ステップS9)が終了するまでの間、少なくとも一つのガード71が上位置に位置するように、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bの高さ位置を調整する。
次に、搬送ロボットCRが処理ユニット2外に退避した後、前処理液供給工程(ステップS11)が開始される。前処理液供給工程では、まず、スピンモータ23が、スピンベース21を回転させる。これにより、水平に保持された基板Wが回転される(基板回転工程)。
【0141】
対向部材6が上位置に位置する状態で、第4ノズル移動ユニット38が、第4移動ノズル14を処理位置に移動させる。第4移動ノズル14の処理位置は、たとえば、中央位置である。そして、前処理液バルブ56が開かれる。これにより、
図12Aに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第4移動ノズル14から前処理液が供給(吐出)される(前処理液供給工程、前処理液吐出工程)。これにより、基板W上に前処理液の液膜201(前処理液膜)が形成される(前処理液膜形成工程)。
【0142】
第4移動ノズル14からの前処理液の供給は、所定時間、たとえば、2秒~4秒の間継続される。前処理液供給工程において、基板Wは、所定の前処理液回転速度、たとえば、10rpm~1500rpmで回転される。
次に、前処理膜形成工程(ステップS12)が実行される。前処理膜形成工程では、基板W上の前処理液が固化または硬化されて、基板W上に存在する第1除去対象物103を保持する前処理膜200(
図13Aを参照)が基板Wの上面に形成される。
【0143】
前処理膜形成工程では、まず、基板W上の前処理液の液膜201の厚さを薄くする前処理液薄膜化工程(前処理液スピンオフ工程)が実行される。具体的には、前処理液バルブ56が閉じられる。これにより、基板Wに対する前処理液の供給が停止される。そして、第4ノズル移動ユニット38によって第4移動ノズル14がホーム位置に移動される。
図12Bに示すように、前処理液薄膜化工程では、基板W上の液膜201の厚さが適切な厚さになるように、基板Wの上面への前処理液の供給が停止された状態で遠心力によって基板Wの上面から前処理液の一部が排除される。
【0144】
第4移動ノズル14がホーム位置に移動した後も、対向部材6は、上位置に維持される。
前処理液薄膜化工程では、スピンモータ23が、基板Wの回転速度を所定の前処理液薄膜化速度に変更する。前処理液薄膜化速度は、たとえば、300rpm~1500rpmである。基板Wの回転速度は、300rpm~1500rpmの範囲内で一定に保たれてもよいし、前処理液薄膜化工程の途中で300rpm~1500rpmの範囲内で適宜変更されてもよい。前処理液薄膜化工程は、所定時間、たとえば、30秒間実行される。
【0145】
前処理膜形成工程では、前処理液薄膜化工程後に、前処理液の液膜201から溶媒の一部を蒸発(揮発)させる前処理液溶媒蒸発工程が実行される。前処理液溶媒蒸発工程では、基板W上の前処理液の溶媒の一部を蒸発させるために、基板W上の液膜201を加熱する。
具体的には、
図12Cに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を、近接位置に移動させる。
【0146】
そして、気体バルブ55が開かれる。これにより、基板Wの上面(液膜201の上面)と、対向部材6の対向面6aとの間の空間に気体が供給される(気体供給工程)。
基板W上の液膜201に気体が吹き付けられることによって、液膜201中の溶媒の蒸発(揮発)が促進される(前処理液溶媒蒸発工程、前処理液溶媒蒸発促進工程)。そのため、前処理膜200の形成に必要な時間を短縮することができる。前処理膜形成工程においても、中央ノズル12は、前処理液中の溶媒を蒸発させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0147】
また、熱媒バルブ88が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13から熱媒が供給(吐出)される(熱媒供給工程、熱媒吐出工程)。下面ノズル13から基板Wの下面に供給された熱媒は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの下面の全体に行き渡る。基板Wに対する熱媒の供給は、所定時間、たとえば、60秒間継続される。前処理液溶媒蒸発工程において、基板Wは、所定の蒸発回転速度、たとえば、1000rpmで回転される。
【0148】
基板Wの下面に熱媒が供給されることによって、基板Wを介して、基板W上の液膜201が加熱される。これにより、液膜201中の溶媒の蒸発(揮発)が促進される(前処理液溶媒蒸発工程、前処理液溶媒蒸発促進工程)。そのため、前処理膜200(
図13Aを参照)の形成に必要な時間を短縮することができる。前処理膜形成工程においても、下面ノズル13は、前処理液中の溶媒を蒸発(揮発)させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0149】
前処理液膜薄膜化工程および前処理液膜溶媒蒸発工程が実行されることによって、前処理液が固化または硬化されて、
図12Aに示すように、基板W上に前処理膜200が形成される。このように、基板回転ユニット(スピンモータ23)、中央ノズル12および下面ノズル13は、前処理液を固化または硬化させて固形の膜(前処理膜200)を形成する前処理膜形成ユニット(膜形成ユニット)を構成している。
【0150】
前処理液溶媒蒸発工程では、基板W上の前処理液の温度が溶媒の沸点未満となるように、基板Wが加熱されることが好ましい。前処理液を、溶媒の沸点未満の温度に加熱することにより、前処理膜200中に溶媒を適度に残留させることができる。これにより、前処理膜200内に溶媒が残留していない場合と比較して、その後の前処理膜剥膜離工程(ステップS13)において、剥離液を前処理膜200になじませやすい。
【0151】
次に、前処理膜200を剥離する前処理膜剥離工程(ステップS13)が実行される。具体的には、熱媒バルブ88が閉じられる。これにより、基板Wの下面に対する熱媒の供給が停止される。また、気体バルブ55が閉じられる。これにより、対向部材6の対向面6aと基板Wの上面との間の空間への気体の供給が停止される。
そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置に移動させる。対向部材6が上位置に位置する状態で、第2ノズル移動ユニット36が、第2移動ノズル10を処理位置に移動させる。第2移動ノズル10の処理位置は、たとえば、中央位置である。
【0152】
そして、第2移動ノズル10が処理位置に位置する状態で、上側剥離液バルブ51が開かれる。これにより、
図12Dに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第2移動ノズル10から剥離液が供給(吐出)される(上側剥離液供給工程、上側剥離液吐出工程)。基板Wの上面に供給された剥離液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。前処理膜剥離工程において、基板Wは、所定の前処理膜剥離回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
【0153】
上側剥離液バルブ51が開かれると同時に、下側剥離液バルブ87が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13から剥離液が供給(吐出)される(下側剥離液供給工程、下側剥離液吐出工程)。基板Wの下面に供給された剥離液は、遠心力により、基板Wの下面の全体に広がる。
基板Wの上面に剥離液が供給されることによって、
図13Bに示すように、剥離液の剥離作用によって、前処理膜200が第1除去対象物103とともに基板Wの上面から剥離される。前処理膜200は、基板Wの上面から剥離される際に分裂して膜片205となる。
【0154】
そして、前処理膜200の剥離後、基板Wの上面への剥離液の供給が継続されることによって、分裂した前処理膜200の膜片205は、剥離液とともに基板W外へ排除される。これにより、第1除去対象物103を保持している状態の前処理膜200の膜片205が、基板Wの上面から除去される。
ここで、
図12Aに示す前処理液供給工程(ステップS11)で基板Wの上面に供給された前処理液は、基板Wの周縁を伝って基板Wの下面に回り込むことがある。また、基板Wから飛散した前処理液が、ガード71から跳ね返って基板Wの下面に付着することがある。このような場合であっても、
図12Cに示すように、前処理膜形成工程において基板Wの下面に熱媒が供給される。そのため、その熱媒の流れによって、基板Wの下面から前処理液を排除することができる。
【0155】
さらに、前処理液供給工程(ステップS11)に起因して基板Wの下面に付着した前処理液が固化または硬化して固体を形成することがある。このような場合であっても、
図12Dに示すように、前処理膜剥離工程(ステップS13)において基板Wの上面に剥離液が供給されている間、下面ノズル13から基板Wの下面に剥離液が供給(吐出)される。これによって、その固体を基板Wの下面から剥離し除去することができる。
【0156】
前処理膜剥離工程(ステップS13)の後、リンス液の供給によって、基板Wから剥離液を除去する剥離液除去工程(ステップS14)が実行される。具体的には、上側剥離液バルブ51および下側剥離液バルブ87が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対する剥離液の供給が停止される。そして、第2ノズル移動ユニット36が、第2移動ノズル10をホーム位置に移動させる。そして、
図12Eに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を処理位置に移動させる。
【0157】
そして、対向部材6が処理位置に位置する状態で、上側リンス液バルブ53が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12からリンス液が供給(吐出)される(上側リンス液供給工程、上側リンス液吐出工程)。
剥離液除去工程において、基板Wは、所定の剥離液除去回転速度、たとえば、800rpmで回転される。基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面に付着していた剥離液がリンス液で洗い流される。
【0158】
また、上側リンス液バルブ53が開かれると同時に、下側リンス液バルブ86が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル13からリンス液が供給(吐出)される(下側リンス液供給工程、下側リンス液吐出工程)。これにより、基板Wの下面に付着していた剥離液がリンス液で洗い流される。基板Wの上面および下面へのリンス液の供給は、所定時間、たとえば、35秒間継続される。
【0159】
剥離液除去工程(ステップS14)の後、基板Wの上面に存在する前処理膜200の残渣を除去液によって除去する前処理膜残渣除去工程(ステップS15)が実行される。具体的には、上側リンス液バルブ53および下側リンス液バルブ86が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対するリンス液の供給が停止される。そして、対向部材6を処理位置に維持した状態で、除去液バルブ54が開かれる。これにより、
図12Fに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル12から除去液が供給(吐出)される(除去液供給工程、除去液吐出工程)。基板Wの上面への除去液の供給は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。前処理膜残渣除去工程において、基板Wは、所定の前処理膜残渣除去回転速度、たとえば、300rpmで回転される。
【0160】
基板Wの上面に供給された除去液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面のリンス液が除去液で置換される。基板Wの上面に供給された除去液は、基板Wの上面に残る前処理膜の残渣を溶解した後、基板Wの上面の周縁から排出される。
そして、前処理膜残渣除去工程(ステップS15)の後、第1実施形態に係る基板処理と同様に、処理液供給工程(ステップS2)、処理膜形成工程(ステップS3)、剥離対象膜剥離工程(ステップS4)、剥離液除去工程(ステップS5)、洗浄工程(ステップS6)、洗浄液除去工程(ステップS7)、保護膜除去工程(ステップS8)、スピンドライ工程(ステップS9)および基板搬出工程(ステップS10)がこの順番で実行される。
【0161】
前述したように、前処理膜200は、露出領域170に存在する第1除去対象物103を除去する除去力が比較的(処理膜100と比較して)高い。そのため、
図13Cに示すように、前処理膜剥離工程(ステップS13)によっての露出領域170から大多数の第1除去対象物103を除去することができる。その一方で、前処理膜200は、非露出領域171に存在する第1除去対象物103を除去する除去力が比較的(処理膜100と比較して)低い。そのため、非露出領域171には、前処理膜200の除去対象物保持力で充分に保持できなかった第1除去対象物103が残留することがある。
【0162】
処理膜形成工程(ステップS3)で形成される処理膜100は、非露出領域171に存在する第1除去対象物103を除去する除去力が高い。そのため、前処理膜剥離工程(ステップS13)において、前処理膜200によって除去できなかった第1除去対象物103が非露出領域171上に残留することがある。そのような場合であっても、剥離対象膜剥離工程(ステップS4)の実行によって当該第1除去対象物103を基板Wから除去することができる(
図13Cを参照)。
【0163】
このように、基板Wの上面に処理液を供給するよりも前に、すなわち、露出領域170に保護膜100Bが形成される前に、前処理膜剥離工程(ステップS13)において、基板Wの上面における露出領域170に存在する第1除去対象物103が除去されている。
そのため、
図13Dに示すように、露出領域170から第1除去対象物103を除去している状態で、露出領域170に保護膜100Bを形成することができる。そのため、その後の保護膜除去工程において保護膜100Bが除去されるまでの間、基板Wの上面の露出領域170から第1除去対象物103が除去された状態を維持することができる。したがって、保護膜100Bの除去の際に保護膜100Bが除去液に溶解する場合であっても、露出領域170に第1除去対象物103を残留させることを抑制できる。
【0164】
保護膜100Bが除去液に溶解される場合、保護膜100Bによる保持から解放された第1除去対象物103が露出領域170に再付着するおそれがある。しかしながら、そもそも、露出領域170に付着していた第1除去対象物103の大多数が前処理膜200の剥離によって除去されている。そのため、保護膜100Bの溶解による露出領域170への第1除去対象物103の再付着を抑制することができる。
【0165】
図14A~
図14Cを用いて前処理膜200の除去の詳細について説明する。
図14A~
図14Cは、前処理膜200が基板Wの上面から剥離される様子を説明するための模式図である。
前処理膜200は、
図14Aに示すように、第1除去対象物103を保持している。詳しくは、前処理膜200は、高溶解性固体210(固体状態の高溶解性成分)と、低溶解性固体211(固体状態の低溶解性成分)とを有する。高溶解性固体210および低溶解性固体211は、前処理液に含有される溶媒の少なくとも一部の蒸発によって形成される。
【0166】
前処理膜200中には、高溶解性固体210と低溶解性固体211とが単一の層内に混在している。厳密には、前処理膜200は、高溶解性固体110と低溶解性固体111とが前処理膜200の全体に均一に分布しているわけではなく、高溶解性固体210が偏在している部分と、低溶解性固体211が偏在している部分とが存在している。
前処理膜200は、基板Wの上面において前処理膜200が形成される領域にかかわらず、高溶解性固体210と低溶解性固体211とが単一の層内に混在した構造である。言い換えると、前処理膜200は、露出領域170および非露出領域171のうちのいずれの領域においても、高溶解性固体210と低溶解性固体211とが単一の層内に混在した構造である。
【0167】
図14Bを参照して、剥離液の供給に起因して、高溶解性固体210が溶解される。すなわち、前処理膜200が部分的に溶解される。高溶解性固体210が溶解されることによって、前処理膜200において高溶解性固体210が偏在している部分に貫通孔202(第2貫通孔)が形成される(第2貫通孔形成工程)。
貫通孔202は、特に、パターン面165の法線方向T(処理膜100の厚さ方向でもある)に高溶解性固体210が延びている部分に形成されやすい。貫通孔202は、平面視で、たとえば、直径数nmの大きさである。
【0168】
剥離液に対する低溶解性成分の溶解性は低く、低溶解性固体211は剥離液によって殆ど溶解されない。そのため、低溶解性固体211は、剥離液によってその表面付近が僅かに溶解されるだけである。そのため、貫通孔202を介して基板Wの上面付近まで到達した剥離液は、低溶解性固体211において基板Wの上面付近の部分を僅かに溶解させる。これにより、
図14Bの拡大図に示すように、剥離液が、基板Wの上面付近の低溶解性固体211を徐々に溶解させながら、前処理膜200と基板Wの上面との間の隙間G2に進入していく(剥離液進入工程)。
【0169】
そして、たとえば、貫通孔202の周縁を起点として前処理膜200が分裂して膜片205となり、
図14Cに示すように、前処理膜200の膜片205が第1除去対象物103を保持している状態で基板Wから剥離される(前処理膜分裂工程、前処理膜剥離工程)。そして、剥離液の供給を継続することによって、膜片205となった前処理膜200が、第1除去対象物103を保持している状態で、洗い流されて(基板W外に押し出されて)基板Wの上面から除去される(第1除去対象物除去工程)。
【0170】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
さらに、第2実施形態によれば、前処理膜200中の固体状態の第2高溶解性成分が剥離液で選択的に溶解される。高溶解性固体210を剥離液に溶解させることによって、高溶解性固体210が存在していた跡(貫通孔202)を通って剥離液が前処理膜200内を通過する。これにより、前処理膜200と基板Wの表面との界面付近に速やかに到達することができる。
【0171】
一方、前処理膜200中の低溶解性固体211は、溶解されずに固体状態で維持される。したがって、低溶解性固体211で第1除去対象物103を保持しながら、低溶解性固体211と基板Wとの接触界面に剥離液を作用させることができる。その結果、前処理膜200を基板Wの上面から速やかに除去し、前処理膜200とともに第1除去対象物103を基板Wの上面から効率良く除去することができる。
【0172】
<処理液の詳細>
以下では、上述の実施形態に用いられる処理液中の各成分について説明する。
以下では、「Cx~y」、「Cx~Cy」および「Cx」等の記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1~6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル鎖(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
【0173】
ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。特に限定されて言及されない限り、これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。ポリマーや樹脂を構造式で示す際、括弧に併記されるnやm等は繰り返し数を示す。
<低溶解性成分>
(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸誘導体、ポリマレイン酸誘導体、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含む。好ましくは、(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリアクリル酸誘導体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸誘導体、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含んでいてもよい。さらに好ましくは、(A)低溶解性成分は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリカーボネート、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含んでいてもよい。ノボラックはフェノールノボラックであってもよい。
【0174】
処理液は(A)低溶解性成分として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでも良い。たとえば、(A)低溶解性成分はノボラックとポリヒドロキシスチレンの双方を含んでもよい。
(A)低溶解性成分は乾燥されることで膜化し、前記膜は剥離液で大部分が溶解されることなく除去対象物を保持したまま剥がされることが、好適な一態様である。なお、剥離液によって(A)低溶解性成分のごく一部が溶解される態様は許容される。
【0175】
好ましくは、(A)低溶解性成分はフッ素および/またはケイ素を含有せず、より好ましくは双方を含有しない。
前記共重合はランダム共重合、ブロック共重合が好ましい。
権利範囲を限定する意図はないが、(A)低溶解性成分の具体例として、下記化学式1~化学式7に示す各化合物が挙げられる。
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
(アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0180】
【0181】
(RはC1~4アルキル等の置換基を意味する。アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
(Meは、メチル基を意味する。)
(A)低溶解性成分の重量平均分子量(Mw)は好ましくは150~500,000であり、より好ましくは300~300,000であり、さらに好ましくは500~100,000であり、よりさらに好ましくは1,000~50,000である。
(A)低溶解性成分は合成することで入手可能である。また、購入することもできる。購入する場合、例として供給先は以下が挙げられる。供給先が(A)ポリマーを合成することも可能である。
ノボラック:昭和化成(株)、旭有機材(株)、群栄化学工業(株)、住友ベークライト(株)
ポリヒドロキシスチレン:日本曹達(株)、丸善石油化学(株)、東邦化学工業(株)
ポリアクリル酸誘導体:(株)日本触媒
ポリカーボネート:シグマアルドリッチ
ポリメタクリル酸誘導体:シグマアルドリッチ
処理液の全質量と比較して、(A)低溶解性成分が0.1~50質量%であり、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは1~10質量%である。つまり、処理液の全質量を100質量%とし、これを基準として(A)低溶解性成分が0.1~50質量%である。すなわち、「と比較して」は「を基準として」と言い換えることが可能である。特に言及しない限り、以下においても同様である。
【0186】
溶解性は公知の方法で評価することができる。例えば、20℃~35℃(さらに好ましくは25±2℃)の条件において、フラスコに前記(A)または後述の(B)を5.0質量%アンモニア水に100ppm添加し、蓋をし、振とう器で3時間振とうすることで、(A)または(B)が溶解したかで求めることができる。振とうは攪拌であっても良い。溶解は目視で判断することもできる。溶解しなければ溶解性100ppm未満、溶解すれば溶解性100ppm以上とする。溶解性が100ppm未満は不溶または難溶、溶解性が100ppm以上は可溶とする。広義には、可溶は微溶を含む。不溶、難溶、可溶の順で溶解性が低い。狭義には、微溶は可溶よりも溶解性が低く、難溶よりも溶解性が高い。
【0187】
<高溶解性成分>
(B)高溶解性成分は(B’)クラック促進成分である。(B’)クラック促進成分は、炭化水素を含んでおり、さらにヒドロキシ基(-OH)および/またはカルボニル基(-C(=O)-)を含んでいる。(B’)クラック促進成分がポリマーである場合、構成単位の1種が1単位ごとに炭化水素を含んでおり、さらに、ヒドロキシ基および/またはカルボニル基を有する。カルボニル基とは、カルボン酸(-COOH)、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、エノンが挙げられ、カルボン酸が好ましい。
【0188】
権利範囲を限定する意図はなく、理論に拘束されないが、処理液が乾燥され基板上に処理膜を形成し、剥離液が処理膜を剥離する際に(B)高溶解性成分が、処理膜が剥がれるきっかけとなる部分を生むと考えられる。このために、(B)高溶解性成分は剥離液に対する溶解性が、(A)低溶解性成分よりも高いものであることが好ましい。(B’)クラック促進成分がカルボニル基としてケトンを含む態様として環形の炭化水素が挙げられる。具体例として、1,2-シクロヘキサンジオンや1,3-シクロヘキサンジオンが挙げられる。
【0189】
より具体的な態様として、(B)高溶解性成分は下記化学式8を構成単位として1~6つ含んでなり(好適には1~4つ)、各構成単位が連結基(リンカー)L1で結合される化合物である。ここで、リンカーL1は、単結合であってもよいし、C1~6アルキレンであってもよい。前記C1~6アルキレンはリンカーとして構成単位を連結し、2価の基に限定されない。好ましくは2~4価である。前記C1~6アルキレンは直鎖、分岐のいずれであっても良い。
【0190】
【0191】
Cy1はC5~30の炭化水素環であり、好ましくはフェニル、シクロヘキサンまたはナフチルであり、より好ましくはフェニルである。好適な態様として、リンカーL1は複数のCy1を連結する。
R1はそれぞれ独立にC1~5アルキルであり、好ましくはメチル、エチル、プロピル、またはブチルである。前記C1~5アルキルは直鎖、分岐のいずれであっても良い。
【0192】
nb1は1、2または3であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。nb1’は0、1、2、3または4であり、好ましくは0、1または2である。
下記化学式9は、化学式8に記載の構成単位を、リンカーL9を用いて表した化学式である。リンカーL9は単結合、メチレン、エチレン、またはプロピレンであることが好ましい。
【0193】
【0194】
権利範囲を限定する意図はないが、(B)高溶解性成分の好適例として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’-メチレンビス(4-メチルフェノール)、2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、1,3-シクロヘキサンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,6-ナフタレンジオール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが挙げられる。これらは、重合や縮合によって得てもよい。
【0195】
一例として下記化学式10に示す2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノールを取り上げ説明する。同化合物は(B)において、化学式8の構成単位を3つ有し、構成単位はリンカーL1(メチレン)で結合される。nb1=nb1’=1であり、R1はメチルである。
【0196】
【0197】
(B)高溶解性成分は、分子量80~10,000であってもよい。高溶解性成分は、好ましくは分子量90~5000であり、より好ましくは100~3000である。(B)高溶解性成分が樹脂、重合体またはポリマーの場合、分子量は重量平均分子量(Mw)で表す。
(B)高溶解性成分は合成しても購入しても入手することが可能である。供給先としては、シグマアルドリッチ、東京化成工業、日本触媒が挙げられる。
【0198】
処理液中において、(B)高溶解性成分は、(A)低溶解性成分の質量と比較して、好ましくは1~100質量%であり、より好ましくは1~50質量%である。処理液中において、(B)高溶解性成分は、(A)低溶解性成分の質量と比較して、さらに好ましくは1~30質量%である。
<溶媒>
(C)溶媒は有機溶媒を含むことが好ましい。(C)溶媒は揮発性を有していてもよい。揮発性を有するとは水と比較して揮発性が高いことを意味する。例えば、(C)1気圧における溶媒の沸点は、50~250℃であることが好ましい。1気圧における溶媒の沸点は、50~200℃であることがより好ましく、60~170℃であることがさらに好ましい。1気圧における溶媒の沸点は、70~150℃であることがよりさらに好ましい。(C)溶媒は、少量の純水を含むことも許容される。(C)溶媒に含まれる純水は、(C)溶媒全体と比較して、好ましくは30質量%以下である。溶媒に含まれる純水は、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。溶媒に含まれる純水は、よりさらに好ましくは5質量%以下である。溶媒が純水を含まない(0質量%)ことも、好適な一形態である。純水とは、好適にはDIWである。
【0199】
有機溶媒としては、イソプロパノール(IPA)等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGEE)等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)等の乳酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類等を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0200】
好ましい一態様として、(C)溶媒が含む有機溶媒は、IPA、PGME、PGEE、EL、PGMEA、これらのいかなる組合せから選ばれる。有機溶媒が2種の組合せである場合、その体積比は、好ましくは20:80~80:20であり、より好ましくは30:70~70:30である。
処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、0.1~99.9質量%である。処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、好ましくは50~99.9質量%であり、より好ましくは75~99.5質量%である。処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、さらに好ましくは80~99質量%であり、よりさらに好ましくは85~99質量%である。
【0201】
<その他の添加物>
本発明の処理液は、(D)その他の添加物をさらに含んでいてもよい。本発明の一態様として、(D)その他の添加物は、界面活性剤、酸、塩基、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、または抗真菌剤を含んでなり(好ましくは、界面活性剤)、これらのいずれの組合せを含んでいてもよい。
【0202】
本発明の一態様として、処理液中の(A)低溶解性成分の質量と比較して、(D)その他の添加物(複数の場合、その和)は、0~100質量(好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、さらに好ましくは0~3質量%、よりさらに好ましくは0~1質量%)である。処理液が(D)その他の添加剤を含まない(0質量%)ことも、本発明の態様の一つである。
【0203】
<腐食防止成分>
(E)腐食防止成分としては、BTA以外にも、尿酸、カフェイン、ブテリン、アデニン、グリオキシル酸、グルコース、フルクトース、マンノース等が挙げられる。
<前処理液の詳細>
以下では、上述の実施形態に用いられる前処理液中の各成分について説明する。前処理液に含まれる(A)低溶解性成分、(C)溶媒、(D)その他の添加物、(E)腐食防止成分は、処理膜に用いることができるものの中から選択することができる。
【0204】
前処理液に含まれる(B)高溶解性成分は、処理液に含まれるものと異なる。前処理液に含まれる(B)高溶解性成分は、処理液に含まれる高溶解性成分として例示されたもののうちから選択された第1成分と、以下の(B-1)および(B-2)の中から選択された第2成分とによって構成されている。補足しておくと、前述した処理液には、(B)高溶解性成分として第1成分のみが含まれている。
【0205】
(B-1)は下記化学式11で表される。
【0206】
【0207】
R21、R22、R23、およびR24は、それぞれ独立に水素またはC1~5のアルキルであり、好ましくは水素、メチル、エチル、t-ブチル、またはイソプロピルであり、より好ましくは水素、メチル、またはエチルであり、さらに好ましくはメチルまたはエチルである。
リンカーL21およびリンカーL22は、それぞれ独立に、C1~20のアルキレン、C1~20のシクロアルキレン、C2~4のアルケニレン、C2~4のアルキニレン、またはC6~20のアリーレンである。これらの基はC1~5のアルキルまたはヒドロキシで置換されていてもよい。ここで、アルケニレンとは、1以上の二重結合を有する二価の炭化水素を意味し、アルキニレンとは、1以上の三重結合を有する二価の炭化水素基を意味するものとする。リンカーL21およびリンカーL22は、好ましくはC2~4のアルキレン、アセチレン(C2のアルキニレン)またはフェニレンであり、より好ましくはC2~4のアルキレンまたはアセチレンであり、さらに好ましくはアセチレンである。
【0208】
nb2は0、1または2であり、好ましくは0または1、より好ましくは0である。
権利範囲を限定する意図はないが、(B-1)の好適例として、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオールが挙げられる。別の一形態として、3-ヘキシン-2,5-ジオール、1,4-ブチンジオール、2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオール、1,4-ブタンジオール、シス-1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、1,4-ベンゼンジメタノールも(B-1)の好適例として挙げられる。
【0209】
(B-2)は下記化学式12で表される構成単位を含んでなり、重量平均分子量 (Mw)が500~10,000のポリマーである。Mwは、好ましくは600~5,000であり、より好ましくは700~3,000である。
【0210】
【0211】
ここで、R25は-H、-CH3、または-COOHであり、好ましくは-H、または-COOHである。1つの(B-2)ポリマーが、それぞれ化学式12で表される2種以上の構成単位を含んでなることも許容される。
権利範囲を限定する意図はないが、(B-2)ポリマーの好適例として、アクリル酸、マレイン酸、またはこれらの組合せの重合体が挙げられる。ポリアクリル酸、マレイン酸アクリル酸コポリマーがさらに好適な例である。
【0212】
共重合の場合、好適にはランダム共重合またはブロック共重合であり、より好適にはランダム共重合である。
一例として、下記化学式13に示す、マレイン酸アクリル酸コポリマーを挙げて説明する。同コポリマーは(B-2)に含まれ、化学式12で表される2種の構成単位を有し、1の構成単位においてR25は-Hであり、別の構成単位においてR25は-COOHである。
【0213】
【0214】
<剥離実験>
処理液および前処理液として用いられるポリマー含有液中の高溶解性成分の第1成分と第2成分との割合を変更することによる、銅膜からのポリマー膜の剥離状態およびパーティクル除去力の変化を検証するために、銅膜からポリマー膜を剥離する剥離実験を行った。ポリマー膜とは、ポリマー含有液中の溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって形成される固形の膜のことである。
【0215】
まず、表面にSiO2等のパーティクルを付着させた小片状の基板(小片基板)を準備する。小片基板は、主面の法線方向から見て一辺が3cmの四角形状であり、表面の全体に銅膜が形成されているものを用いた。小片基板を回転可能な載置台に載せ、小片基板の表面にポリマー含有液を供給して、ポリマー膜を形成した。その後、載置台を回転させながら、小片基板の表面に希釈アンモニア水(dNH4OH 1:68)を供給してポリマー膜を剥離した。その後、炭酸水で小片基板の表面をリンスし、さらにその後、小片基板の表面にIPAを供給して、ポリマー膜の残渣を除去した。ポリマー膜の残渣を除去した後、小片基板を高速回転させてスピンドライを行った。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてパーティクルの除去度合(除去力)を確認した。
【0216】
図15は、剥離実験の結果を説明するためのテーブルである。
図15では、ポリマー含有液中の高溶解性成分の第1成分と第2成分との割合を添加量として示している。
図15には、
図16には、第1成分および第2成分の割合および添加量を変更した場合のパーティクルの除去度合を示している。
パーティクルが除去できない第1成分の添加量および第2成分の添加量の組み合わせには、除去力の評価として「D」を付与している。なお、
図16には、除去力の評価が「D」である組み合わせは存在しなかった。同様に、パーティクルが一部除去された第1成分の添加量および第2成分の添加量の組み合わせには、除去力の評価として「C」を付与している。パーティクルが概ね除去できた第1成分の添加量および第2成分の添加量の組み合わせには、除去力の評価として「B」を付与している。パーティクルが除去できている場合には、除去力の評価として「A」を付与している。そして、パーティクルが充分に除去できている場合には、除去力の評価として「AA」を付与している。
【0217】
たとえば、第1成分の添加量が0.1であり、第2成分の添加量が0.5である場合には、ポリマー含有液中における第2成分と第1成分との比率が5:1であることを意味する。また、第1成分および第2成分の添加量がともに0.5である場合のポリマー含有液中の第2成分と第1成分との比率は、1:1である。第1成分および第2成分の添加量がともに3.0である場合のポリマー含有液中の第2成分と第1成分との比率も1:1である。第1成分および第2成分の添加量がともに3.0であるときのポリマー含有液中における高溶解性成分(第1成分および第2成分の総量)の割合は、第1成分および第2成分の添加量がともに0.5であるときのポリマー含有液中における高溶解性成分(第1成分および第2成分の総量)の割合の6倍であることを意味する。
【0218】
図15に示すように、第2成分の添加量が0であるとき、除去力の評価は「C」であり、第1成分の添加量が0であるとき、除去力の評価は「B」であった。
第2成分の添加量が第1成分の添加量よりも少ない場合や第2成分の添加量が第1成分の添加量と同じである場合には、除去力の評価は「B」である場合が多かった。
たとえば、第2成分の添加量が0.5であり、かつ、第1成分の添加量が1.0である場合には、除去力の評価は「B」であった。第2成分および第1成分の添加量がともに0.5である場合においても、除去力の評価は「B」であった。第2成分および第1成分の添加量がともに1.0である場合おいても、除去力の評価は「B」であった。また、第1成分の添加量および第2成分の添加量がともに3.0である場合には、除去力の評価は「A」であった。
【0219】
第2成分の添加量が第1成分の添加量よりも多い場合には、いずれの実験結果においても、除去力の評価は「A」または「AA」であった。
以上の結果から、高溶解性成分として第1成分および第2成分を含むポリマー膜は、高溶解性成分として第1成分のみを含むポリマー膜よりも、銅膜(金属膜)からパーティクルを除去する除去力が高いことが推察される。銅膜からパーティクルを除去するために、ポリマー膜を用いる場合には、第1成分よりも第2成分の含有量が多くなるようにポリマー含有液を調製することが好ましいことが示唆された。
【0220】
<その他の実施形態>
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、さらに他の形態で実施することができる。
たとえば、処理膜形成工程(ステップS3)において、処理液の液膜101が薄膜化される際に溶媒が蒸発することによって液膜101が固化または硬化する場合がある。このような場合には、処理液の液膜101を薄膜化した後に処理液の液膜101を固化または硬化させるために、基板Wを加熱したり、基板Wの上面に気体を吹き付けたりする必要がない。
【0221】
前処理膜形成工程(ステップS12)において、前処理液の液膜201が薄膜化される際に溶媒が蒸発することによって前処理膜200が形成される場合にも同様である。すなわち、このような場合にも、基板Wの加熱や基板Wの上面への気体の吹き付けを省略することができる。
また、上述の基板処理では、洗浄工程(ステップS6)の後に洗浄液除去工程(ステップS7)が実行される。しかしながら、洗浄液除去工程を省略することも可能である。詳しくは、洗浄工程において基板Wに供給される洗浄液と、洗浄液除去工程の後に実行される保護膜除去工程(ステップS8)において基板Wに供給される処理膜残渣除去液とが相溶性を有する場合には、洗浄液除去工程を実行する必要がない。
【0222】
上述の実施形態に係る基板処理は、ドライエッチング処理後の基板に限られず、種々の基板に適用することができる。特に、複数種の除去対象物が基板に付着しており、そのうちの一種類の除去対象物が処理膜または前処理膜の剥離では除去できない場合には、上述の実施形態に係る基板処理は有用である。
また、露出領域170において表面が露出する金属膜163は、銅膜には限られない。金属膜163は、たとえば、アルミニウム膜、コバルト膜、ルテニウム膜、モリブデン膜、タングステン膜等であってもよい。また、露出領域170において表面が露出する膜は金属膜163でなくてもよく、たとえば、窒化シリコン膜や窒化チタン膜等の窒化物膜であってもよい。露出領域170において露出する特定物質が銅以外の金属や窒化物である基板に対して上述の実施形態に係る基板処理を行った場合、であっても、上述の実施形態と同様の効果を奏する。
【0223】
その他、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0224】
1 :基板処理装置
1P :基板処理装置
3 :コントローラ
9 :第1移動ノズル(処理液供給ユニット)
10 :第2移動ノズル(剥離液供給ユニット)
11 :第3移動ノズル(洗浄液供給ユニット)
12 :中央ノズル(除去液供給ユニット、膜形成ユニット)
13 :下面ノズル(膜形成ユニット)
23 :スピンモータ(膜形成ユニット)
100 :処理膜
100A :剥離対象膜
100B :保護膜
102 :貫通孔(第1貫通孔)
103 :第1除去対象物(粒状残渣)
104 :第2除去対象物(膜状残渣)
110 :高溶解性固体(固体状態の第1高溶解性成分)
111 :低溶解性固体(固体状態の第1低溶解性成分)
163 :金属膜(特定物質)
170 :露出領域
171 :非露出領域
180 :低溶解性層
181 :高溶解性層
200 :前処理膜
202 :貫通孔(第2貫通孔)
210 :高溶解性固体(固体状態の第2高溶解性成分)
211 :低溶解性固体(固体状態の第2低溶解性成分)
W :基板