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特許7296320保護されたグラファイトカーボンのカソード層を有する多価金属イオン電池及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】保護されたグラファイトカーボンのカソード層を有する多価金属イオン電池及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20230615BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20230615BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230615BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230615BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230615BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20230615BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230615BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230615BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230615BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230615BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/36 A
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/80 C
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M4/62 Z
H01M10/058
H01M4/66 A
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019551670
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 US2018020557
(87)【国際公開番号】W WO2018175087
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】15/466,286
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-165857(JP,A)
【文献】特表2016-513354(JP,A)
【文献】特表2015-519719(JP,A)
【文献】特開2014-093192(JP,A)
【文献】特開2011-198600(JP,A)
【文献】特表2013-516037(JP,A)
【文献】特開平06-124708(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0301096(US,A1)
【文献】特開2002-373643(JP,A)
【文献】米国特許第05874166(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノードにおけるNi、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In又はその組合せから選択される多価金属の可逆性の堆積及び溶解を支持するための前記アノード及び前記カソードとイオン接触する電解質とを含む多価金属イオン電池において、前記アノードがアノード活物質として前記多価金属又はその合金を含有し、且つ前記カソードが、前記多価金属のイオンをインターカレーション/脱インターカレーションするカソード活物質としてグラファイトカーボン粒子又は繊維のカソード活性層を含み、且つ前記グラファイトカーボン粒子又は繊維が、前記多価金属のイオン又は前記電解質中に溶出したイオンに対して透過性である保護層でコーティングされ、そして前記保護層が、前記グラファイトカーボン粒子又は繊維におけるグラファイト平面のはく離を防ぐか、又は減少させ、
前記保護層が、導電性ポリマーを含有し、
前記導電性ポリマーが、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、その誘導体又はその組合せから選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項2】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、カソード活性層中のグラファイトカーボン粒子又は繊維が、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、グラファイト微結晶子を含有する非晶質グラファイト、互いに平行に配向される複数のグラフェン平面を含む高度に配向された熱分解グラファイト、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せから選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項3】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記カソード活性層中の前記グラファイトカーボン繊維が、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維又はその組合せであり、且つ前記グラファイトカーボン繊維が、10μmより短い長さを有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項4】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記導電性ポリマーが、スルホン化ポリマー、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス(phosphazenex)、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)又はその組合せから選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項5】
請求項4に記載の多価金属イオン電池において、前記スルホン化ポリマーが、ポリ(ペルフルオロスルホン酸)、スルホン化ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリテトラフルオロエチレンのスルホン化ペルフルオロアルコキシ誘導体、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化スチレン-ブタジエンコポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリクロロ-トリフルオロエチレン(PCTFE)、スルホン化ペルフルオロエチレン-プロピレンコポリマー(FEP)、スルホン化エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、スルホン化ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペン及びテトラフルオロエチレンとのスルホン化コポリマー、エチレン及びテトラフルオロエチレンのスルホン化コポリマー(ETFE)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、それらの化学誘導体、コポリマー、ブレンド及びその組合せからなる群から選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項6】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記多価金属又はその合金を支持するアノード集電体をさらに含むか、或いはグラファイト又はカーボン材料の前記カソード活性層を支持するカソード集電体をさらに含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項7】
請求項6に記載の多価金属イオン電池において、前記アノード集電体が、相互連結細孔を含む電子伝達路の多孔性ネットワークを形成するように相互連結している導電性のナノメートルスケールのフィラメントの集積ナノ構造を含有し、前記フィラメントが500nm未満の横断寸法を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項8】
請求項7に記載の多価金属イオン電池において、前記フィラメントが、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケールグラフェンプレートレット、金属ナノワイヤー及びその組合せからなる群から選択される導電性材料を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項9】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、水性電解質、有機電解質、ポリマー電解質、溶融塩電解質、イオン液体電解質又はその組合せから選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項10】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、NiSO、ZnSO、MgSO、CaSO、BaSO、FeSO、MnSO、CoSO、VSO、TaSO、CrSO、CdSO、GaSO、Zr(SO、Nb(SO、La(SO、BeCl、BaCl、MgCl、AlCl、Be(ClO、Ca(ClO、Mg(ClO、Mg(BF、Ca(BF、Be(BF、トリ(3,5-ジメチルフェニルボラン、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボラン、グリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPh2Bu2)2、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu3)2)又はその組合せを含有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項11】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属窒化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項12】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、カルシウム、ベリリウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、窒化物、塩化物、臭化物又は過塩素酸塩から選択されて少なくとも1種の金属イオン塩を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項13】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項14】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、前記カソードにおけるカチオン、アニオン又は両方を含むイオンの可逆性のインターカレーション及び脱インターカレーションも支持することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項15】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、カーボン又はグラファイト材料の前記カソード活性層が、分離体又は追加のカソード集電体を含まない前記多価金属イオン電池の放電の間に電子を収集するためのカソード集電体として機能することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項16】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、カーボン又はグラファイトの前記カソード活性層が、前記カーボン又はグラファイト材料を一緒に結合してカソード電極層を形成する結合剤材料をさらに含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項17】
請求項16に記載の多価金属イオン電池において、前記結合剤が、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、導電性ポリマー、ポリマーカーボン又はその誘導体から選択される導電性材料であることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項18】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電池が1.0ボルト以上の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、200mAh/gより高いカソード比容量を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項19】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電池が2.0ボルト以上の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、300mAh/gより高いカソード比容量を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項20】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電池が3.0ボルト以上の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、200mAh/gより高いカソード比容量を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項21】
多価金属イオン電池の製造方法において、
(a)多価金属(又はその合金、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In若しくはその組合せから選択される)を含有するアノードを供給することと;
(b)イオンをインターカレーション/脱インターカレーションするカソード活物質としてグラファイトカーボン粒子又は繊維のカソード活性層を供給することと;
(c)前記アノードにおける前記多価金属の可逆性堆積及び溶解並びに前記カソードにおけるイオンの可逆性吸着/脱着及び/又はインターカレーション/脱インターカレーションを支持することができる電解質を供給することと
を含み、前記グラファイトカーボン粒子又は繊維が、前記多価金属のイオン又は前記電解質中に溶出したイオンに対して透過性である保護層でコーティングされ、そして前記保護層が、前記電池の充電/放電サイクルの間の前記グラファイトカーボン粒子又は繊維におけるグラファイト平面のはく離を防ぐか、又は減少させ、
前記グラファイトカーボン粒子又は繊維が、保護層でコーティングされる前に少なくとも部分的に除去される硬質カーボン又は非晶質カーボン表面を有することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、前記アノードにおいて多価金属又はその合金を支持するための導電性ナノフィラメントの多孔性ネットワークを供給することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項21に記載の多価金属イオン電池の製造方法において、前記カソード活性層中の前記グラファイトカーボン粒子又は繊維が、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、グラファイト微結晶子を含有する非晶質グラファイト、互いに平行に配向される複数のグラフェン平面を含む高度に配向された熱分解グラファイト、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項21に記載の多価金属イオン電池の製造方法において、前記カソード活性層を供給するステップが、グラファイトナノ繊維又はグラファイト繊維を切断して、10μmより短い平均長さを有するグラファイトカーボン繊維を得ることを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項21に記載の多価金属イオン電池の製造方法において、前記保護層が、還元グラフェン酸化物、炭化樹脂、イオン伝導性ポリマー、導電性ポリマー又はその組合せから選択される材料を含有することを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項21に記載の多価金属イオン電池の製造方法において、前記電解質が、水性電解質、有機電解質、ポリマー電解質、溶解塩電解質、イオン液体又はその組合せを含有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によって本明細書に組み込まれる、2017年3月22日出願の米国特許出願第15/466,286号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、再充電可能な多価金属電池(例えば、亜鉛、ニッケル、カルシウム又はマグネシウムイオン電池など)の分野、特にグラファイトカーボン粒子又は繊維を含有するカソード活性層、及び多価金属イオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
歴史的に、今日最も好まれている再充電可能なエネルギー貯蔵デバイスであるリチウムイオン電池は、アノードとしてリチウム(Li)金属及びカソードとしてLiインターカレーション化合物(例えば、MoS)を使用する再充電可能な「リチウム金属電池」から実際に発展した。Li金属は、その軽量(最軽量金属)、高い電気陰性度(-3.04V対標準水素電極)及び高い理論的容量(3,860mAh/g)のため、理想的なアノード材料である。これらの秀逸な特性に基づき、リチウム金属電池は高エネルギー密度応用のための理想的なシステムとして40年前に提案された。
【0004】
純粋なリチウム金属のいくつかの安全性における問題点のため、現在はリチウムイオン電池を製造するために、リチウム金属の代わりにアノード活物質としてグラファイトが導入されている。これまでの20年間、エネルギー密度、レート能力及び安全性に関してLiイオン電池において絶え間ない改良が見られている。しかしながら、Liイオン電池でのグラファイトベースのアノードの使用には、いくつかの重要な欠点がある:低い比容量(Li金属に関する3,860mAh/gとは対照的な372mAh/gの理論的容量)、長い再充電時間(例えば、電気自動車電池に関して7時間)を必要とする長いLiインターカレーション時間(例えば、グラファイト及び無機酸化物粒子内及び外のLiの低いソリッドステート拡散係数)、高いパルス電力をもたらすことが不可能であること、並びにプレリチウム化カソード(例えば、酸化コバルトに対してリチウム酸化コバルト)を使用することが必要であること。それによって利用可能なカソード材料の選択が制限される。さらに、これらの一般に使用されるカソード活物質は、比較的低いリチウム拡散係数を有する(典型的にD約10-16~10-11cm/秒)。これらのファクターは、現在のLiイオン電池の1つの主要な欠点、中程度のエネルギー密度(典型的に150~220Wh/kgセル)であるが、非常に低い電力密度(典型的に<0.5kW/kg)に寄与している。
【0005】
電気自動車(EV)、再生可能なエネルギー貯蔵及び現代のグリッドアプリケーションに関して、スーパーキャパシタが考えられている。(電解コンデンサよりも10~100倍高い)スーパーキャパシタの比較的高い体積容量密度は、多孔性電極を使用して、拡散二重層電荷の形成を補助する大きい表面積を作成することから生じる。この電気二重層容量(EDLC)は、電圧が印加される時に固体電解質界面において自然に生じる。これは、スーパーキャパシタの比容量が、電極材料、例えば活性炭の比表面積に正比例することを意味する。この表面積は電解質が接近可能でなければならず、且つ得られる界面の区域はEDLC電荷を受け入れるために十分大きくなければならない。
【0006】
このEDLCの機構は表面イオン吸着に基づくものである。必要とされるイオンは液体電解質中に前もって存在し、そして反対側の電極から到達しない。言い替えれば、陰極(アノード)活物質(例えば、活性炭粒子)の表面で堆積する、必要とされるイオンは、陽極(カソード)側から到達せず、そしてカソード活物質の表面で堆積する、必要とされるイオンは、アノード側から到達しない。スーパーキャパシタが再充電される場合、局所的な陽イオンが陰極の表面付近に堆積し、それらのマッティング陰イオンが(典型的に局所的分子又は電荷のイオン分極によって)並列して付近に留まっている。他の電極においては、陰イオンが、この陽極の表面付近に堆積し、マッティング陽イオンが並列して付近に留まる。再び、アノード活物質及びカソード活物質間のイオンの交換はない。
【0007】
いくつかのスーパーキャパシタにおいて、貯蔵されたエネルギーは、いくつかの局所的電気化学反応(例えば、酸化還元)による擬似容量の効果によってさらに増大する。そのような擬似コンデンサにおいても、酸化還元対に関与するイオンは、同一電極に前もって存在する。再び、アノード及びカソード間のイオンの交換はない。
【0008】
EDLCの形成には化学反応又は2つの対電極間のイオンの交換を伴わないため、EDLスーパーキャパシタの充電又は放電プロセスは非常に速く、典型的に数秒であり、非常に高い電力密度(典型的に3~10kW/kg)をもたらすことが可能である。電池と比較して、スーパーキャパシタはより高い電力密度を提供し、維持管理を必要とせず、より高いサイクル寿命をもたらし、非常に単純な充電回線を必要とし、そして一般により安全である。化学的というよりもむしろ物理的なエネルギー貯蔵は、それらの安全な作動及び極めて高いサイクル寿命の主要な理由である。
【0009】
スーパーキャパシタの肯定的な特質にもかかわらず、種々の工業的応用のためのスーパーキャパシタの広範囲にわたる実行には、いくつかの技術的な障壁がある。例えば、電池と比較した場合、スーパーキャパシタは非常に低いエネルギー密度を有する(例えば、鉛酸電池に関して10~30Wh/kg及びNiMH電池に関して50~100Wh/kgであるのに対して、市販のスーパーキャパシタに関しては5~8Wh/kg)。現代のリチウムイオン電池は、セル重量に基づき、典型的に150~220Wh/kgの範囲のより高いエネルギー密度を有する。
【0010】
リチウムイオンセルに加えて、他の異なるタイプの電池:アルカリZn/MnO、ニッケル金属水素化物(Ni-MH)、鉛-酸(Pb酸)及びニッケル-カドミウム(Ni-Cd)電池が社会で広く使用されている。1860年のそれらの発明から、アルカリZn/MnO電池が高度に一般的な一次(再充電不可)電池となった。酸性塩電解質が、塩基性(アルカリ性)塩電解質の代わりに利用される場合、Zn/MnO対が再充電可能な電池を構成することができることが今や知られている。しかしながら、アルカリ二酸化マンガンの再充電可能な電池のサイクル寿命は、深放電におけるMnOと関連する不可逆性及び電気化学的に不活性な相の形成のため、典型的に20~30サイクルに限定される。
【0011】
さらに、放電の間のヘテロライト(haeterolite)(ZnO:Mn)相の形成によって、ZnがMnOの格子構造を貫入する場合、電池サイクルが逆転不可能となる。Znアノードも、内部の短絡を起こして、再充電の間のZn活物質の再分配及び樹枝状結晶の形成のため、サイクル寿命に限界がある。Ohらによって[S.M.Oh及びS.H.Kim、「Aqueous Zinc Sulfate(II)Rechargeable Cell Containing Manganese(II)Salt and Carbon Powder」、米国特許第6,187,475号明細書、2001年2月13日]、並びにKangらによって[F.Kangら、「Rechargeable Zinc Ion Battery」、米国特許第8,663,844号明細書、2014年3月4日]、これらの問題のいくつかを解決する試みがなされている。しかしながら、長期サイクル安定性及び電力密度の問題が解決されなければならない。これらの理由のため、この電池の商業化は制限されている。
【0012】
Xuらの米国特許出願公開第20160372795号明細書(12/22/2016)及び米国特許出願公開第20150255792号明細書(09/10/2015)には、カソード活物質として両方ともグラフェンシート又はカーボンナノチューブ(CNT)を利用するNi-イオン及びZn-イオンセルがそれぞれ報告された。これらの2つの特許出願は、カソード活物質重量に基づいて789~2500mAh/gの異常に高い比容量を主張するが、これらの2つのセルと関連していくつかの重大な問題がある:
(1)典型的なリチウムイオン電池とは異なり、充電又は放電曲線(電圧対時間又は電圧対比容量)における平坦域部分がない。電圧曲線平坦域のこの欠如は、出力電圧が一定ではない(非常に変化する)ことを意味し、そして一定レベルのセル出力電圧を持続するために複雑な電圧調節アルゴリズムが必要とされるであろう。
(2)実際に、Ni-イオンセルの放電曲線は、放電プロセスが開始するとすぐに、そして放電プロセスのほとんどの間、1.5ボルトから0.6ボルト未満への電圧の極めて急激な低下を示し、セル出力は0.6ボルト未満であり、これは非常に有用ではない。参照として、アルカリセル(一次電池)は1.5ボルトの出力電圧を供給する。
(3)放電曲線は、イオンインターカレーションと反対に、カソードにおいて表面吸着又は電気めっき機構の特徴を示す。さらに、電池放電の間にカソードにおいて生じる主要な事象が電気めっきであるように思われる。Xuによって報告された高い比容量値は、グラフェン又はCNTの表面上で電気めっきされたNi又はZn金属の高い量を単に反映するものである。アノード中に過剰量のNi又はZnがあるため、放電時間が増加すると、電気めっきされた金属の量は増加する。残念なことに、アノード及びカソードの間の金属量の差異が減少し続けるため(より多くのZn又はNiがアノードから溶解し、そしてカソード表面で電気めっきされる)、アノード及びカソードの間の電気化学ポテンシャルの差は減少し続ける。これは、おそらくセル出力電圧が減少し続ける理由である。2つの電極における金属の量が実質的に等しくなるか、又は同一となる時、セル電圧出力は本質的にゼロになるであろう。この電気めっき機構の別の意味は、カソードの大表面上に堆積可能な金属の全量が、セル作成時にアノードに導入された金属の量によって規定されるという概念である。カソードにおけるグラフェンシートの高い比容量(最高2,500mAh/g)は、アノードで提供されるZnの過度に高い量を単に反映する。グラフェン又はCNTがなぜそれほど多くの金属を「貯蔵する」ことが可能であったかという他のいかなる理由又は機構もない。Xuらによって報告される異常に高い比容量値は、非常に低い電圧値で残念なことに生じ、そしてほとんど有用性値を有さないカソード材料表面上に電気めっきされたNi又はZnの高い量に基づいて不自然に得られたものである。
【0013】
明らかに、多価金属二次電池に関して(放電の間に高い平均電圧及び/又は高い平坦域電圧を有する)適切な放電電圧プロフィール、(低レートのみならず)高及び低充電/放電レートの両方における高い比容量、並びに長いサイクル寿命を提供する新規カソード材料に関する切迫した必要性が存在する。願わくは、得られる電池は、スーパーキャパシタのいくつかの好ましい特質(例えば、長いサイクル寿命及び高い電力密度)並びにリチウムイオン電池のいくつかの好ましい特質(例えば、中程度のエネルギー密度)を付与することが可能である。これらは本発明の主要目的である。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、アノードと、カソードと、アノードにおけるNi、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In又はその組合せから選択される多価金属の可逆性の堆積及び溶解を支持するためのアノード及びカソードとイオン接触する電解質とを含む多価金属イオン電池において、アノードがアノード活物質として多価金属又はその合金を含有し、且つカソードが、多価金属のイオン(及び/又は電解質から溶出したイオン)をインターカレーション/脱インターカレーションするカソード活物質としてグラファイトカーボン粒子又は繊維のカソード活性層を含み、且つグラファイトカーボン粒子又は繊維が、多価金属のイオン又は電解質中に溶出したイオンに対して透過性である保護層でコーティングされ、そして保護層が、電池充電/放電の間のグラファイトカーボン粒子又は繊維におけるグラファイト平面のはく離を防ぐか、又は減少させる、多価金属イオン電池を提供する。
【0015】
カソード活性層中のグラファイトカーボン粒子又は繊維は、好ましくは、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子/ニードル、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、グラファイト微結晶子を含有する非晶質グラファイト、高度に配向された熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せから選択されてもよい。
【0016】
いくつかの好ましい実施形態において、カソード活性層中のグラファイトカーボン繊維は、ニードルコークス、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維又はマルチウォールカーボンナノチューブであって、10μmより短い、好ましくは5μmより短い、より好ましくは1μmより短い長さを有するものを含有する。長さがより短いほど、より高いレート能力及びより高い出力密度が導かれることが見出された。
【0017】
驚くべきことに、グラファイトカーボン構造の内外へのイオンのインターカレーション及び脱インターカレーションが、カソード電極の構造完全性を損なうグラファイト平面(グラフェン平面)の膨張及び分離(はく離)を誘発する可能性があることが観察された。したがって、電池充電/放電の間のグラファイトカーボン粒子又は繊維のフラファイト平面のはく離を防ぐか、又は減少させるための保護コーティングをグラファイトカーボン粒子又は繊維の表面上に堆積させる。保護層は、還元グラフェン酸化物、炭化樹脂、イオン伝導性ポリマー、導電性ポリマー又はその組合せから選択される材料を含有し得る。保護コーティングは、イオンがグラファイト構造中にインターカレーションすることが可能であるように、なおイオンを透過性にさせながら、(粒子/繊維の構造完全性を維持する目的で)グラファイト平面を一緒に保持するためにグラファイトカーボン粒子又は繊維の全表面を部分的又は完全に被覆することができる。
【0018】
この保護材料は、(グラファイトカーボン粒子の周囲を包囲する)還元グラフェン酸化物、炭化樹脂(又はポリマーカーボン)、イオン伝導性ポリマー(例えばスルホン化ポリマー)及び導電性ポリマーから選択されてよい。ポリマーカーボンは、1~10時間、500~1500℃において熱処理される低炭素含有量(例えばエポキシ樹脂若しくはポリエチレン)又は高炭素含有量(例えばフェノール樹脂若しくはポリアクリロニトリル)のポリマーから選択されてよい。導電性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、その誘導体(例えばスルホン化型)又はその組合せから選択されてよい。
【0019】
いくつかの実施形態において、イオン伝導性ポリマーは、スルホン化ポリマー、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス(phosphazenex)、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)及びその組合せから選択される。
【0020】
スルホン化ポリマーは、ポリ(ペルフルオロスルホン酸)、スルホン化ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリテトラフルオロエチレンのスルホン化ペルフルオロアルコキシ誘導体、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化スチレン-ブタジエンコポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリクロロ-トリフルオロエチレン(PCTFE)、スルホン化ペルフルオロエチレン-プロピレンコポリマー(FEP)、スルホン化エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、スルホン化ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペン及びテトラフルオロエチレンとのスルホン化コポリマー、エチレン及びテトラフルオロエチレンのスルホン化コポリマー(ETFE)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、それらの化学誘導体、コポリマー、ブレンド及びその組合せからなる群から選択されてよい。
【0021】
特定の実施形態において、グラファイトカーボン粒子又は繊維は、保護層でコーティングされる前に少なくとも部分的に除去される硬質カーボン又は非晶質カーボン表面を有する。硬質カーボン表面は、特定のイオン(より大きいカチオン又はアニオン)に対して非透過性であり、したがって、少なくとも部分的に除去されなければならない。多くのグラファイト材料は本質的に硬質カーボン表面を有する。これらには、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ、ニードルコークス、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維及びグラファイト繊維が含まれる。
【0022】
我々は、選択された多価金属(例えば、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Ga、In又はCr)が、本発明のグラファイトカーボン材料と組み合わせた場合、約1.0ボルト以上(たとえば0.85~3.8ボルト)において放電曲線平坦域を示すことができることを観察した。放電電圧対時間(又は容量)曲線のこの平坦域レジームによって、電池セルが有用な定電圧出力を提供することが可能となる。1ボルトより有意に低い電圧出力が一般に望ましくないと考えられる。この平坦域レジームに対応する比容量は、典型的に約100mAh/g~600mAh/gより高くまでである。
【0023】
この多価金属イオン電池は、多価金属又はその合金を支持するアノード集電体をさらに含むか、或いはカソード活性層を支持するカソード集電体をさらに含むことができる。集電体は、電子伝導路の3Dネットワークを形成するグラフェンシート、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せなどの導電性ナノフィラメントから構成されるマット、紙、布、箔又は発泡体であることが可能である。そのようなアノード集電体の高い表面積は、金属イオンの急速且つ均一の溶解及び堆積を促進するのみならず、交換電流密度を減少するようにも作用し、したがって、さもなければ内部短絡を引き起こす可能性のある金属樹枝状結晶を形成する傾向を減少するように作用する。
【0024】
本発明の多価金属イオン電池において、電解質は、NiSO、ZnSO、MgSO、CaSO、BaSO、FeSO、MnSO、CoSO、VSO、TaSO、CrSO、CdSO、GaSO、Zr(SO、Nb(SO、La(SO、BeCl、BaCl、MgCl、AlCl、Be(ClO、Ca(ClO、Mg(ClO、Mg(BF、Ca(BF、Be(BF、トリ(3,5-ジメチルフェニルボラン、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボラン、アルキルグリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPh2Bu2)2、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu3)2)又はその組合せを含有し得る。
【0025】
本発明の特定の実施形態において、電解質は、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0026】
特定の実施形態において、電解質は、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ベリリウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、塩化物、臭化物又は過塩素酸塩から選択されて少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0027】
多価金属イオン電池において、電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含む。
【0028】
特定の実施形態において、カーボン又はグラファイト材料の層は、分離体又は追加のカソード集電体を含まない電池の放電の間に電子を収集するためのカソード集電体として機能する。
【0029】
グラファイトのカソード活性層は、カーボン又はグラファイト材料の粒子又は繊維を一緒に結合させてカソード電極層を形成する導電性結合剤材料をさらに含み得る。導電性結合剤材料は、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、伝導性ポリマー、ポリマーカーボン又はその誘導体から選択されてよい。
【0030】
典型的に、本発明の二次電池は、1ボルト以上(典型的に、1.0~3.8ボルト)の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、200mAh/gより高い(好ましくは、且つより典型的に>300mAh/g、より好ましくは>400mAh/g、最も好ましくは>500mAh/gの)カソード比容量を有する。いくつかのセルは、比容量>600mAh/gを有する。
【0031】
好ましくは、二次電池は、2ボルト以上(好ましくは>2.5ボルト、より好ましくは>3.0ボルト)の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、100mAh/gより高い(好ましくは、且つより典型的に>300mAh/g、より好ましくは>400mAh/g、最も好ましくは>500mAh/gの)カソード比容量を有する。
【0032】
本発明は、多価金属イオン電池の製造方法も提供する。この方法は、(a)(Ni、Zn、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In若しくはその組合せから選択される)多価金属又はその合金を含有するアノードを供給すること;(b)イオンをインターカレーション/脱インターカレーションするカソード活物質としてグラファイトカーボン粒子又は繊維のカソード活性層を供給すること;及び(c)アノードにおける多価金属の可逆性堆積及び溶解並びにカソードにおけるイオンの可逆性吸着/脱着及び/又はインターカレーション/脱インターカレーションを支持することができる電解質を供給することを含み、グラファイトカーボン粒子又は繊維が、多価金属のイオン又は電解質中に溶出したイオンに対して透過性である保護層でコーティングされ、そして保護層が、電池の充電/放電サイクルの間のグラファイトカーボン粒子又は繊維におけるグラファイト平面のはく離を防ぐか、又は減少させる。
【0033】
この方法において、カソード活性層中のグラファイトカーボン粒子又は繊維は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子/ニードル、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、グラファイト微結晶子を含有する非晶質グラファイト、高度に配向された熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せから選択される。
【0034】
カソード活性層を供給するステップは、ニードルコークス、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維又はマルチウォールカーボンナノチューブを切断して、10μmより短い(好ましくは5μmより短い、より好ましくは1μmより短い)平均長さを有するグラファイトカーボン繊維を得ることを含み得る。長さが短いほど、得られる金属イオンセルのより高い出力密度が可能なことが見出された。
【0035】
保護層は、還元グラフェン酸化物、炭化樹脂、イオン伝導性ポリマー、導電性ポリマー又はその組合せから選択される材料を含有し得る。グラファイトカーボン粒子又は繊維は、保護層でコーティングされる前に少なくとも部分的に除去される硬質カーボン又は非晶質カーボン表面を有してもよい。電解質は、水性電解質、有機電解質、ポリマー電解質、溶解塩電解質、イオン液体又はその組合せを含有する。
【0036】
この方法は、多価金属又はその合金を支持するために導電性ナノフィラメントの多孔性ネットワークを供給することをさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1A図1(A)は、アノード層が、多価金属薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、保護コーティングを有するグラファイトカーボン粒子又は繊維の層を含有する多価金属二次電池の略図である。
図1B図1(B)は、アノード層が、多価金属薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、保護コーティングを有するグラファイトカーボン粒子又は繊維、(図示されない)導電性添加剤及び(図示されない)樹脂結合剤から構成される多価金属二次電池セルの略図である。
図2図2は、2つのZn箔アノードベースセルの放電曲線であり;一方は、初期のグラファイト繊維のカソード層を含有し、他方は、硬質カーボン表面が除去された、表面処理グラファイト繊維のカソード層を含有する。
図3図3は、2つのCa-イオンセルの放電曲線であり;一方は、(表面が化学的にエッチング除去された)硬質カーボン表面を有さないカーボンナノ繊維(CNF)のカソード層を含有し、他方は、硬質カーボン表面を有するCNFのカソード層を含有する。
図4図4は、2つのNiメッシュアノードベースセルの放電曲線であり;一方は、初期のMCMB粒子のカソード層を含有し、且つ他方は、表面処理されたMCMB粒子のカソード層を含有する。
図5図5は、充電/放電サイクル数の関数としてプロットされた(一方は、スルホン化PVDF-保護ニードルコークスのカソードを含有し、他方は未保護である)2つのV-ニードルコークスセルの比容量である。
図6図6は、一方は、炭化フェノール樹脂によって保護されたMWCNTのカソード層を含有し、他方は未保護である、2つのMg-イオンセルの比容量である。使用された電解質は、モノグライム中1MのMgCl:AlCl(2:1)であった。
図7図7は、一方は、表面処理されたMCMBのカソードを有し、他方は未処理のMCMBを有する、2つのTi-イオンセルのRagoneプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1(A)の上部に概略的に例示されるように、バルク天然グラファイトは、粒子境界(非晶質又は欠陥区域)が隣接するグラファイト単結晶を仕切っている状態で、それぞれのグラファイト粒子が複数の粒子(グラファイト単結晶又は結晶子である粒子)から構成されている3-Dグラファイト材料である。それぞれの粒子は、互いに平行に配向される複数のグラフェン平面から構成されている。グラファイト結晶子中のグラフェン平面又は六角炭素原子平面は、2次元の六角格子を占有する炭素原子から構成される。所与の粒子又は単結晶中、グラフェン平面は、(グラフェン平面又は底面に対して垂直である)結晶学的c方向のファンデルワールス力によって積層及び結合される。天然グラファイト材料中のグラフェン間の面間隔は約0.3354nmである。
【0039】
高度に配向された熱分解グラファイト(HOPG)などの人工グラファイト材料も成分グラフェン平面を含有するが、それらは、X線回折の測定によると、典型的に0.336nm~0.365nmのグラフェン間の面間隔d002を有する。天然グラファイト及び人工グラファイト両方とも、典型的に>2.1g/cm、より典型的に>2.2g/cm、最も典型的に2.25g/cmに非常に近い物理的密度を有する。
【0040】
多くのカーボン又は準グラファイト材料(本明細書中、グラファイトカーボンと記載する)も、それぞれ積層グラフェン平面から構成される(グラファイト結晶子、領域又は結晶粒子とも記載される)グラファイト結晶を含有する。しかしながら、この構造は典型的に、高い割合の非晶質又は欠損地帯を有する。これらには、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズカーボン、軟質カーボン、硬質カーボン、コークス(例えば、ニードルコークス)及びカーボン又はグラファイト繊維(気相成長カーボンナノ繊維若しくはグラファイトナノ繊維を含む)が含まれる。及びマルチウォールカーボンナノチューブ(MW-CNT)は非常にわずかな欠損又は非晶質の割合を有するが、それぞれのCNTが管状構造を有する。したがって、マルチウォールCNTは、約1.35g/cmの物理的密度を有する。他の種類のグラファイトカーボンは、2.1g/cm未満、そしてより典型的に2.0g/cm、さらにより典型的に<1.9g/cm、そして最も典型的に<1.8g/cmの密度を有する。
【0041】
「軟質カーボン」が、2,000℃より高い(又はより典型的に2,500℃より高い)温度まで加熱時にこれらの領域が一緒に容易に統合されることが可能であるように、1領域における六角炭素平面(又はグラフェン平面)の配向及び隣接するグラファイト領域における配向が互いから異なりすぎる又は不釣り合いすぎることがない、グラファイト領域を含有するカーボン材料を意味することが指摘され得る。そのような熱処理は、一般にグラファイト化と呼ばれる。したがって、軟質カーボンは、グラファイト化が可能であるカーボン材料として定義することができる。それとは対照的に、「硬質カーボン」は、より大きな領域を得るために一緒に熱的に統合できない高度に不適合に配向されたグラファイト領域を含有するカーボン材料として定義することができる。すなわち、硬質カーボンはグラファイト化が不可能である。
【0042】
本発明は、アノードと、カソードと、アノードとカソードを分ける任意選択のセパレータ、アノードにおける多価金属の可逆性の堆積及び溶解を支持するためのアノード及びカソードとイオン接触する電解質とを含む多価金属二次電池において、アノードがアノード活物質として多価金属又はその合金を含有し、且つカソードが、好ましくは、メソフェーズカーボン粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子又はニードル、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、グラファイト微結晶子を含有する非晶質グラファイト、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維又はその組み合わせから選択されるグラファイトカーボン粒子又は繊維(フィラメント)の層を含む、多価金属二次電池を提供する。これらのグラファイトカーボン繊維又は粒子は、保護材料の薄層でコーティングされる。
【0043】
我々は、あるグラファイトカーボン材料、たとえばメソフェーズカーボン粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子又はニードル、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維及びグラファイト繊維は、これらの合成グラファイトカーボン粒子又は繊維が製造される時に表面に自然に形成される硬質カーボンの薄い表面層を有することを観察した。驚くべきことに、それらの外面上の硬質カーボンのいくらか又は全てを除去するために、これらの粒子又は繊維に表面処理(例えば表面化学エッチング、表面プラズマクリーニングなど)を受けさせることは非常に有益であることを観察した。
【0044】
特定の好ましい実施形態において、グラファイトカーボン(例えばメソフェーズカーボン粒子、MCMB、コークス粒子又はニードル、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、非晶質グラファイト、マルチウォールカーボンナノチューブ及びカーボンナノ繊維)は、上記表面処理の有無にかかわらず、多価金属イオン又は電解質中に溶出したイオンに対して透過性であり、且つグラファイトカーボン粒子又は繊維のグラファイト平面のはく離を防ぐか、又は減少させる保護層でコーティングされてよい。我々は、驚くべきことに、グラファイト結晶子又は領域中及び外への多価金属イオン及び他の電解質誘導イオンの繰り返されたインターカレーション/脱インターカレーションにおいて、グラファイト平面間の面間隔の膨張及びグラファイト平面(六角炭素原子平面)のはく離が引き起こされる可能性があることを観察した。この影響は、最初はカソード材料の電荷貯蔵容量を増加させることができるが、その後、カソード層構造完全性が損なわれ、且つ電荷貯蔵容量が急速に崩壊する範囲までの重大なグラフェン平面はく離を引き起こす。グラファイトカーボン粒子又は繊維の表面上に保護材料の薄層を堆積することによって、カソード層の構造完全性及びサイクル安定性を有意に改善することができる。
【0045】
この保護材料は、(グラファイトカーボン粒子の周囲を包囲する)還元グラフェン酸化物、炭化樹脂(又はポリマーカーボン)、イオン伝導性ポリマー(例えばスルホン化ポリマー)及び導電性ポリマーから選択されてよい。還元グラフェン酸化物シートは多くの天然由来表面欠損(細孔)を有し、これは、興味深いイオンの全てに対して透過性である。ポリマーカーボンは、低炭素含有量(例えばエポキシ樹脂若しくはポリエチレン)又は高炭素含有量(例えばフェノール樹脂若しくはポリアクリロニトリル)のポリマーから選択されてよい。導電性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、二環式ポリマー、その誘導体(例えばスルホン化型)又はその組合せから選択されてよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、イオン伝導性ポリマーは、スルホン化ポリマー、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、ポリビス-メトキシエトキシエトキシド-ホスファゼネックス(phosphazenex)、ポリ塩化ビニル、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフロオロプロピレン(PVDF-HFP)、その組合せから選択される。
【0047】
スルホン化によっても、金属イオンに対して透過性である細孔が生じる。スルホン化ポリマーは、スルホン化ポリ(ペルフルオロスルホン酸)、スルホン化ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリテトラフルオロエチレンのスルホン化ペルフルオロアルコキシ誘導体、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリ(エーテルケトン)、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、スルホン化ポリイミド、スルホン化スチレン-ブタジエンコポリマー、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリクロロ-トリフルオロエチレン(PCTFE)、スルホン化ペルフルオロエチレン-プロピレンコポリマー(FEP)、スルホン化エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、スルホン化ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペン及びテトラフルオロエチレンとのスルホン化コポリマー、エチレン及びテトラフルオロエチレンのスルホン化コポリマー(ETFE)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、それらの化学誘導体、コポリマー、ブレンド及びその組合せからなる群から選択されてよい。
【0048】
多価金属二次電池の構造をこれより以下に議論する。
【0049】
多価金属イオン電池は、典型的に、陽極(カソード)と、陰極(アノード)と、金属塩及び溶媒を含む電解質とを含む。アノードは、多価金属、又は別の元素とのその合金;例えば、Zn中0~10重量%のSnの薄い箔又はフィルムであることが可能である。多価金属は、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In又はその組合せから選択されてよい。アノードは、アノード層を形成するために結合剤(好ましくは導電性結合剤)によって充てん及び結合された多価金属又は金属合金の粒子、繊維、ワイヤー又はディスクから構成されることが可能である。
【0050】
選択された多価金属(例えば、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Mn、V、Co、Fe、Cd、Ga又はCr)は、膨張したグラフェン間の平面間隔を有する本発明のグラファイト又はカーボン材料と組み合わせた場合、放電曲線平坦域又は約1.0ボルト以上の平均出力電圧を示すことができることが観察された。電圧対時間(又は容量)曲線のこのような平坦域によって、電池セルが有用な一定電圧出力を提供することが可能となる。1ボルト未満の電圧アウトプットが一般に望ましくないと考えられる。この平坦域レジームに対応する比容量は、典型的に約100mAh/g(例えばZr又はTaに関して)から600mAh/gより高く(例えばZn又はMgに関して)までである。
【0051】
所望のアノード層構造は、電子伝導路(例えばグラフェンシート、カーボンナノ繊維又はカーボンナノチューブのマット)のネットワーク及びこの導電性ネットワーク構造の表面上に堆積された多価金属又は合金コーティングの薄層から構成される。そのような集積化されたナノ構造は、相互連結細孔を含む電子伝達路の多孔性ネットワークを形成するように相互連結している導電性のナノメートルスケールのフィラメントから構成されてよい。このフィラメントは500nm未満の横断寸法を有する。そのようなフィラメントは、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケールグラフェンプレートレット、金属ナノワイヤー及びその組合せからなる群から選択される導電性材料を含んでもよい。多価金属のためのそのようなナノ構造化、多孔性支持材料は、アノードにおける金属堆積溶解動力学を有意に改善することができ、得られる多金属二次セルの高いレート能力を可能にする。
【0052】
図1(A)は、アノード層が、多価金属薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、保護コーティングを有するグラファイトカーボン繊維又は粒子、任意選択的な樹脂結合剤(図示されない)及び任意選択的な導電性添加剤(図示されない)の層を含有する多価金属二次電池の略図である。或いは図1(B)は、カソード活物質層が、グラファイトカーボン材料の粒子又は繊維、及び粒子又は繊維を一緒に結合して、構造完全性のカソード活性層を形成することを補助する(図示されない)樹脂結合剤から構成される多価金属二次電池セルの略図を示す。
【0053】
表面処理及び/又は表面保護されたグラファイトカーボン材料が、カソード活物質として導入される場合、多価金属イオンセルが一定電流密度において得られる放電電圧-時間又は電圧容量曲線において電圧平坦域部分を示すことが可能となる。この平均域部門は、典型的に所与の多価金属に本質的な比較的高い電圧値で生じ、そして典型的に、高い比容量をもたらしながら、長時間続く。
【0054】
充電放電反応のイオン輸送媒体として機能する電解質の組成は、電池性能に重大な影響を与える。多価金属二次電池を実用化するためには、比較的低い温度(例えば、室温)でさえ金属イオン堆積溶解反応が順調に、且つ十分に進むことを可能にする必要がある。
【0055】
本発明の多価金属イオン電池において、電解質は典型的に液体溶媒中に溶解された金属塩を含む。溶媒は、水、有機液体、イオン液体、有機イオン液体の混合物などであることが可能である。特定の望ましい実施形態において、金属塩は、NiSO、ZnSO、MgSO、CaSO、BaSO、FeSO、MnSO、CoSO、VSO、TaSO、CrSO、CdSO、GaSO、Zr(SO、Nb(SO、La(SO、MgCl、AlCl、Mg(ClO、Mg(BF、アルキルグリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPh2Bu2)2、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu3)2)又はその組合せから選択され得る。
【0056】
電解質は、一般に、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属窒化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含み得る。
【0057】
特定の実施形態において、電解質は、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、塩化物、臭化物、窒化物又は過塩素酸塩から選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0058】
多価金属イオン電池において、電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含む。
【0059】
本発明は、多価金属二次電池のための高容量カソード材料を含有するカソード活性層(正極層)に関する。本発明は、水性電解質、非水性電解質、溶融塩電解質、ポリマーゲル電解質(例えば、金属塩、液体及び液体中に溶解したポリマーを含有する)、イオン液体電解質をベースとするそのような電池をも提供する。多価金属二次電池の形状は、円筒状、正方形、ボタン様などであることが可能である。本発明は、いずれかの電池形状又は構造に限定されない。
【0060】
以下の実施例は本発明の実施の最良形態についてのいくつかの具体的な詳細を例示するために使用され、そして本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0061】
実施例1:ニードルコークスを含有するカソード層
商業的に入手可能なニードルコークス(Jinzhou Petrochemical Co.)を使用して、カソード活物質層を調製した。表面処理されたニードルコークス粉末及び未処置のニードルコークス粉末の両方を研究した。濃硫酸中にフィラメントを2時間含浸させ、硬質カーボン表面を除去することによって、表面処理されたニードルコークス(ニードル型コークスフィラメント)の試料を調製した。次いで、すすぎいで乾燥させた粉末を溶媒(NMP)中でPVDF結合剤と混合してスラリーを形成し、これを(集電体としての)カーボン紙のシート上にコーティングして、カソード層を形成した。
【0062】
実施例2:種々のグラファイトカーボン及びグラファイト材料
出発グラファイト材料が、それぞれ、高度に配向された熱分解グラファイト(HOPG)の粉末、天然グラファイト粉末、ピッチベースのグラファイト繊維、気相成長カーボンナノ繊維(VG-CNF)及び非晶質グラファイトであったことを除き、実施例1で使用されたものと同一の手順に従って、いくつかのカソード層を調製した。
【0063】
実施例3:修正されたHummersの方法を使用するグラファイト酸化物の調製及びその後のグラフェン酸化物シートによる非晶質グラファイトの包装
グラファイト酸化物は、Hummersの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]に従って、硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムを用いて、天然グラファイトフレークの酸化によって調製された。本実施例において、各1グラムのグラファイトに対して、22mlの濃硫酸、2.8グラムの過マンガン酸カリウム及び0.5グラムの硝酸ナトリウムの混合物が使用された。グラファイトフレークを混合物溶液中に含浸し、そして反応時間は35℃において約4時間であった。過熱及び他の安全性の問題を回避するために、十分制御された様式で過マンガン酸カリウムを硫酸に徐々に添加するように注意することは重要である。反応完了時に、次いで、ろ液のpHが約5になるまで、試料を繰り返し脱イオン水で洗浄した。溶液を30分間超音波処理し、グラフェン酸化物懸濁液を作成した。
【0064】
微結晶子を含有する非晶質グラファイトの粉末をグラフェン酸化物懸濁液中に注ぎ入れ、スラリーを形成した。スラリーを噴霧乾燥させ、グラフェンの酸化物によって包装された非晶質グラファイト粒子(保護された粒状物)を形成した。保護された非晶質グラファイト粒状物のサイクル寿命(容量の20%減少に達した時の充電/放電サイクル数として定義される)が、未保護の非晶質グラファイト粒子のものよりも有意に長くなった(未保護の粒子に関しては<1,000サイクルであるのに対して、保護された粒状物に関しては>3,000サイクル)ことが観察された。
【0065】
実施例4:軟質カーボン粒子を含有するカソード活性層
軟質カーボンの粒子は、液晶芳香族樹脂から調製された。乳鉢で樹脂を粉砕し、そしてN雰囲気中で2時間、900℃において焼成し、グラファイト化カーボン又は軟質カーボンを調製した。次いで、軟質カーボン粒子を2時間、室温で30%硫酸水溶液によって表面処理し、硬質カーボン表面を除去した。次いで、すすいで乾燥させた軟質カーボン粒子にスルホン化PEEKをコーティングした。
【0066】
実施例5:石油ピッチ誘導硬質カーボン粒子
ピッチ試料(Ashland Chemical Co.からのA-500)を2時間、900℃において焼成し、続いて、4時間、1,200℃において炭化させた。ピッチベースの硬質カーボン粒子の表面カーボン層を除去する目的のため、KOH水溶液(5%濃度)を使用して硬質カーボン粒子を表面処理した。
【0067】
実施例6:メソフェーズ炭素
2時間、500℃においてピッチを熱処理することによって、石炭ベースのメソフェーズピッチから光学的異方球形カーボン(平均粒径:25μm、キノリン溶解性:5%)を調製し、これを2時間、900℃で炭化させ、次いで、1時間、2,500℃において部分的にグラファイト化した。次いで、グラファイトカーボン粒子にスルホン化ポリアニリンをコーティングした。
【0068】
実施例7:種々のチューブ長さのマルチウォールカーボンナノチューブ(MW-CNT)
0.5重量%の界面活性剤を用いて、MW-CNTの粉末試料(5重量%)を水中に分散させ、いくつかの懸濁液を形成した。次いで、懸濁液をそれぞれ30分、1時間及び3時間超音波処理した。試料の1つ(3時間)を高強度ミル中で5時間、さらにボールミル加工した。得られたCNT試料は、異なる平均CNT長さ(それぞれ、43.5μm、3.9μm及び0.32μm)を有する。いくつかのCNTは、炭化されたフェノール樹脂で保護された。
【0069】
実施例8:種々の多価金属イオンセルの調製及び試験
実施例1~7において調製したグラファイトカーボン材料の粒子又は繊維から別々にカソード層を製造し、そして金属イオン二次電池中に組み込んだ。次の方法でカソード層を調製した。一例として、まず第一に、表面処理又はコーティングの有無にかかわらず、95重量%がグラファイトカーボン繊維又は粒子をNMP中でPVDF(結合剤)と一緒に混合し、スラリー混合物を得た。次いで、スラリー混合物をガラス表面上にキャスティングし、湿潤層を形成し、これを乾燥させてカソード層を得た。
【0070】
2タイプの多価金属アノードを調製した。一方は20μm~300μmの厚さを有する金属箔であった。他方は、多価金属又はその合金を受け取るための細孔及び細孔の壁を有する電子伝導路の集積化された3Dネットワークを形成する導電性ナノフィラメント(例えばCNT)又はグラフェンシートの表面上に堆積させた金属薄コーティングであった。金属箔自体又は集積化された3Dナノ構造のいずれもアノード集電体として機能する。
【0071】
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定は、0.5~50mV/秒の典型的な走査速度でArbin電気化学ワークステーションを使用して実行した。加えて、50mA/g~10A/gの電流密度における定電流充電/放電サイクルによって、種々のセルの電気化学的性能を評価した。長期のサイクル試験のために、LANDによって製造されたマルチチャネル電池試験機を使用した。
【0072】
図2は、2つのZn箔アノードベースセルの充電及び放電曲線を示しており、一方のZnイオンセルは、初期のグラファイト繊維のカソード層を含有し、他方は、硬質カーボン表面が除去された、表面処理グラファイト繊維のカソード層を含有する。表面のないグラファイト繊維を特徴とするZn-イオンセルの放電曲線は、初期の未処理のグラファイト繊維(平坦域が20mAh/gで終わり、且つ全容量が35mAh/gである)のカソードを有するセルと比較して、1.15~1.35ボルトにおいてより長い平坦域レジームを示す。得られたセル準位エネルギー密度は約100Wh/kgであり、これはニッケル金属水素化物のものよりも高く、且つリチウムイオン電池のものに非常に近い。それにもかかわらず、亜鉛は、リチウムより豊富であり、より安全であり、且つ有意に安価である。
【0073】
図3は、2つのCa-イオンセルの放電曲線を示しており、一方は、(表面が化学的にエッチング除去された)硬質カーボン表面を有さないカーボンナノ繊維(CNF)のカソード層を含有し、他方は、硬質カーボン表面を有するCNFのカソード層を含有する。未処理のCNFを特徴とするセルの30mAh/gのみとは対照的に、表面なしのCNFでは、Ca-イオンセルが80mAh/gまでの放電曲線平坦域をもたらすことが可能となる。
【0074】
図4は、2つのNiメッシュアノードベースセルの放電曲線を示しており、一方のNi-イオンセルは、初期のMCMB粒子のカソード層を含有し、且つ他方は、表面処理されたMCMB粒子のカソード層を含有する。再び、グラファイトカーボン粒子から硬質カーボン表面を除去することによって、イオン貯蔵容量を有意に増加させることが可能であり、この場合、52mAh/gに対して105mAh/gである。
【0075】
以下の表1に、カソード活物質として表面なしの人工グラファイト、グラファイト繊維及びCNFを使用する広範囲の多価金属イオンセルの放電曲線の典型的な平坦域電圧範囲をまとめる。比容量は、典型的に100~250mAh/gである。それとは対照的に、それぞれの種類の電池セルに関して、硬質カーボン表面を有する対応するグラファイトカーボンは、非常に制限されたイオン貯蔵容量をもたらす(典型的に<50mAh/g)。
【0076】
図5は、充電/放電サイクル数の関数としてプロットされた(一方のV-イオンセルは、スルホン化PVDF-保護ニードルコークスのカソードを含有し、他方は未保護である)2つのV-ニードルコークスセルの比容量を示す。これらのデータは、選択されたコーティングによってニードルコークス粒子が保護される場合、V-イオンセルは2500サイクルを越えて90%の容量を維持することができることを示す。それとは対照的に、未保護のニードルコークスを含有するV-イオンセルは約1,000の充電/放電サイクル後に容量の20%減少を起こす。
【0077】
同様に、図6は、一方は、炭化フェノール樹脂によって保護されたMWCNTのカソード層を含有し、他方は未保護である、2つのMg-イオンセルの比容量を示す。保護されたものは有意により高レベルのサイクル安定性を可能にする。
【0078】
図7に、一方は、表面処理されたMCMBのカソードを有し、他方は未処理のMCMBを有する、2つのTi-イオンセルのRagoneプロットが要約される。それらの硬質カーボン表面が実質的に除去された、処理されたMCMBビーズによって、Ti-イオンセルがより高いエネルギー密度及びより高い出力密度をもたらすことが可能となる。
【0079】
また我々は、より短いカーボンナノチューブ又はカーボンナノ繊維が、カソード活物質として導入される場合、より高いエネルギー密度及びより高い出力密度を導くことを観察した。
【0080】
さらに我々は、相互連結カーボン又はグラファイトフィラメント(例えば、カーボンナノチューブ又はグラフェンシート)から構成されるナノ構造化ネットワーク上に(薄膜又はコーティング形態の)多価金属を支持することによって、金属イオンセルの出力密度及び高レート能力を有意に増加させることが可能であることを発見した。相互連結カーボンナノ繊維のこのナノ構造化ネットワークは、多価金属を支持して、そしてアノード側面における金属カチオンの迅速且つ均一な溶解及び堆積を促進するために、大きい表面積を提供する。そのようなネットワークを製造するために使用することが可能な他のナノフィラメント又はナノ構造としては、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、金属ナノワイヤー又はその組合せが含まれる。
図1A-1B】
図2
図3
図4
図5
図6
図7