(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両
(51)【国際特許分類】
B62D 7/08 20060101AFI20230615BHJP
B60G 9/04 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B62D7/08 Z
B60G9/04 ZYW
(21)【出願番号】P 2020050684
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】伊東 貴志
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-52584(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065778(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102717696(CN,A)
【文献】国際公開第2018/235982(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/00-7/22
B60G 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪を支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、
後輪サスペンションに設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、
を備え、前記後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、
前記転舵軸と路面との交点が、前記後輪の滑りを生じない最大の後輪横すべり角におけるコーナリングフォースの作用線よりも、車両上方から見て後方に配置される操舵機能付ハブユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記転舵軸と路面との交点が、前記後輪の接地点よりも、車両上方から見て外側である操舵機能付ハブユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記転舵軸が車両の前後方向に傾きを有する操舵機能付ハブユニット。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記操舵用アクチュエータは、モータと、このモータの回転を減速する減速機と、この減速機の回転出力を直進運動に変換する直動機構とを有する操舵機能付ハブユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記直動機構は、台形ねじを用いた送りねじ機構である操舵機能付ハブユニット。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記ハブユニット本体は、前記転舵軸心回りに回転自在なように、上下二箇所で軸受を介して前記ユニット支持部材に支持され、前記上下の軸受が前記後輪のホイール内に位置する操舵機能付ハブユニット。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する操舵システム。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットを用いて前記後輪が支持された車両であって、前記後輪サスペンションがリジッドアクスルサスペンションである車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、左右の後輪を操舵する機能を備えた操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両に関し、操舵機能付ハブユニットの転舵軸と路面との交点と、タイヤ接地点の位置関係を調整することにより、走行安定性の向上と安全性の向上を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、トーションビーム式サスペンションにおいて、トレーリングアームとビームの間、およびトレーリングアームとホイールセンタの間でホイールセンタよりも後方に、剛性の低いブッシュを設ける。これにより、車輪に横力が入力された際に旋回外輪がトーイン状態となり、走行安定性および操縦安定性が向上する。
【0003】
特許文献2は、車輪を支持するハブベアリングを有するハブユニット内に転舵軸が設けられた装置であり、前輪のキングピン軸の接地点、前記装置の転舵軸接地点、およびタイヤの接地点が概ね一致することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-179757号公報
【文献】特開2019-6226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、横力作用時に車輪をトーイン状態とするために剛性の低いブッシュを採用しているが、ブッシュを設けない従来の構成と比べてロール剛性が低くなり、操舵応答性および乗り心地が悪化する。
【0006】
特許文献2のハブユニットは、車両の旋回時等において、部材の変形等により操舵角の検出値に微小な誤差が生じる可能性がある。但し、ハブユニットを前輪に搭載し、キングピン軸の接地点、ハブユニットの転舵軸接地点、およびタイヤの接地点が一致していれば、キングピン軸回りの回転等で誤差が相殺されるため、車両の挙動が乱れるおそれはない。
一方、特許文献2のようなハブユニットを後輪に搭載する場合は、タイヤはハブユニットの転舵軸のみを中心に回転するため、検出値の誤差による車両の挙動への影響が大きい。
【0007】
また、特許文献2によれば、前輪に搭載したハブユニットにおいて、キングピン軸の接地点、ハブユニットの転舵軸接地点、およびタイヤの接地点が一致しない場合、キングピン軸回りの回転とハブユニットの転舵軸回りの回転が同時に発生すると、タイヤに横方向のすべりが生じる。
一方、特許文献2のようなハブユニットを後輪に搭載する場合は、タイヤはハブユニットの転舵軸のみを中心に回転するため、タイヤに横方向のすべりは発生しない。そのため、ハブユニットの転舵軸接地点とタイヤの接地点が一致しない構造としても問題ない。
【0008】
この発明の目的は、後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットにおいて、走行安定性の向上等を図ることができる操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の操舵機能付ハブユニットは、後輪を支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、
後輪サスペンションに設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、
を備え、前記後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、
前記転舵軸と路面との交点が、前記後輪の滑りを生じない最大の後輪横すべり角におけるコーナリングフォースの作用線よりも、車両上方から見て後方に配置される。
【0010】
この構成によると、このハブユニットの転舵軸と路面との交点が、後輪の滑りを生じない最大の後輪横すべり角におけるコーナリングフォースの作用線よりも、車両上方から見て後方に配置される。このため、車両の旋回により後輪にコーナリングフォースが作用すると、旋回外輪はトーイン方向に、旋回内輪はトーアウト方向に操舵させる力のモーメントが発生する。このとき、旋回内輪に対し、旋回外輪の方がコーナリングフォースが大きく、より力のモーメントが大きくなる。したがって、後輪に転舵軸を設けた車両の受動的な走行安定性を改善することができる。前記受動的な走行安定性とは、制御則等に従って積極的に後輪を操舵した場合の走行安定性と異なり、後輪を意図的に操舵しない場合、つまり、足回りの剛性またはガタ等によってタイヤ角度が変化した場合の走行安定性を指す。
【0011】
前記転舵軸と路面との交点が、前記後輪の接地点よりも、車両上方から見て外側であってもよい。
この構成によると、車両の制動時には、制動力により左右の後輪を共にトーイン方向に操舵させる力のモーメントが発生する。これにより、後輪の支持剛性が小さい場合でも、走行安定性を維持または向上することができる。
【0012】
前記転舵軸が車両の前後方向に傾きを有してもよい。この場合、転舵軸と路面との交点と、タイヤ接地点との位置関係を容易に且つ確実に調整することができる。
【0013】
前記操舵用アクチュエータは、モータと、このモータの回転を減速する減速機と、この減速機の回転出力を直進運動に変換する直動機構とを有してもよい。このように直動機構が減速機の回転出力を直進運動に変換することで、ハブユニット本体が転舵軸心回りに回転駆動されることにより操舵される。
【0014】
前記直動機構は、台形ねじを用いた送りねじ機構であってもよい。この場合、台形ねじのいわゆるセルフロック機能によりタイヤからの逆入力の防止効果を高めることができる。
【0015】
前記ハブユニット本体は、前記転舵軸心回りに回転自在なように、上下二箇所で軸受を介して前記ユニット支持部材に支持され、前記上下の軸受が前記後輪のホイール内に位置してもよい。この場合、高剛性で且つ小型化を図ることができる操舵機能付ハブユニットを車両に容易に装備することができる。したがって、既存の車両に操舵機能付ハブユニットを容易に装備し得ることから、この操舵機能付ハブユニットの汎用性を高めることができる。
【0016】
この発明の操舵システムは、前述のいずれかに記載の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する。
【0017】
この構成によると、操舵制御部は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する。アクチュエータ駆動制御部は、操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータを駆動制御する。したがって、運転者の操舵入力部の操作による前輪の操舵に付加して後輪の操舵角度を任意に変更することができる。
【0018】
この発明の車両は、前述のいずれかに記載の操舵機能付ハブユニットを用いて前記後輪が支持された車両であって、前記後輪サスペンションがリジッドアクスルサスペンションである。この構成によると、リジッドアクスルサスペンションに、操舵機能付ハブユニットのユニット支持部材を設けることで、大掛かりな構造変更を行うことなく操舵機能付ハブユニットを容易に設置することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明の操舵機能付ハブユニットは、後輪を支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、後輪サスペンションに設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、前記後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、前記転舵軸と路面との交点が、前記後輪の滑りを生じない最大の後輪横すべり角におけるコーナリングフォースの作用線よりも、車両上方から見て後方に配置される。このため、後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットにおいて、走行安定性の向上等を図ることができる。
【0020】
この発明の操舵システムは、前述のいずれかに記載の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する。このため、後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットにおいて、走行安定性の向上等を図ることができる。
【0021】
この発明の車両は、前述のいずれかに記載の操舵機能付ハブユニットを用いて前記後輪が支持された車両であって、前記後輪サスペンションがリジッドアクスルサスペンションであるため、後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットにおいて、走行安定性の向上等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの車載搭載時の全体の外観を示す斜視図である。
【
図2】同操舵機能付ハブユニットおよびその周辺の構成を示す水平断面図である。
【
図3】同操舵機能付ハブユニットの外観を示す斜視図である。
【
図7】同操舵機能付ハブユニットの車載搭載時の側面図である。
【
図8】同操舵機能付ハブユニットの車載搭載時の部分平面図である。
【
図9】車両の旋回時に作用するコーナリングフォース等を示す図である。
【
図10】転舵軸と路面との交点と、コーナリングフォースの作用線との位置関係を説明する図である。
【
図11】転舵軸と路面の交点と、タイヤ接地点との位置関係を示す操舵機能付ハブユニット等の側面図である。
【
図12】転舵軸と路面の交点と、タイヤ接地点との位置関係を示す操舵機能付ハブユニット等の側面図である。
【
図13】旋回時に旋回外輪がトーインとなる、転舵軸と路面の交点の領域を表す図である。
【
図14】旋回時かつ制動時に旋回外輪がトーインとなる、転舵軸と路面の交点の領域を表す図である。
【
図15】いずれかの操舵機能付ハブユニットを備えた車両の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施形態]
この発明の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットを
図1ないし
図15と共に説明する。
図15に示すように、実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1は、左右の後輪9R,9Rを各輪独立して操舵する機能を有し、前輪操舵付きの車両10の後輪9R,9Rに適用される。操舵機能付ハブユニット1は、この転舵軸と路面との交点(以下、「転舵軸接地点」)と、タイヤ接地点の位置関係を調整することにより、走行安定性の向上と安全性の向上を図る。
【0024】
<操舵機能付ハブユニットの概略構造>
図3に示すように、操舵機能付ハブユニット1は、ハブユニット本体2と、ユニット支持部材3と、回転許容支持部品である軸受4と、操舵用アクチュエータ5とを備える。
図15に示すように、この操舵機能付ハブユニット1を備えた車両10は、ハンドル操作等による左右の前輪9F,9Fの操舵と共に、左右の後輪9R,9Rを微小な角度(約±5deg)独立して操舵可能である。但し、操舵機能付ハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前記微小な角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
【0025】
図5に示すように、ユニット支持部材3のアウトボード側に、ハブユニット本体2が設けられる。ユニット支持部材3のインボード側に、操舵用アクチュエータ5が設けられる。操舵機能付ハブユニット1(
図15)を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0026】
ハブユニット本体2と、操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aとはジョイント部8により連結されている。通常、このジョイント部8は、防水、防塵のために図示外のブーツが取り付けられている。
図6に示すように、ハブユニット本体2は、上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で軸受4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。転舵軸心Aは、後輪9Rの回転軸心Oとは異なる軸心である。後輪9Rは、ホイール9aとタイヤ9bとを備える。
【0027】
<ユニット支持部材3の設置箇所>
図1に示すように、ユニット支持部材3は、車両10における後輪サスペンションであるリジッドアクスルサスペンションRsに固定される。この例では、リジッドアクスルサスペンションRsのうちトーションビーム式サスペンションが適用されている。
図7および
図8に示すように、トーションビーム式サスペンションにおける車体取付部35が車体に支持されている。トーションビーム式サスペンションにおけるビーム33の左右両端部に設けられた取付部34,34に、それぞれユニット支持部材3が固定されている。図示しないが、後輪のサスペンション形式として、マルチリンク式サスペンション機構など、他のサスペンション機構に、操舵機能付ハブユニット1のユニット支持部材3を固定してもよい。
【0028】
<ハブユニット本体2について>
図2に示すように、ハブユニット本体2は、後輪9Rを支持するハブベアリング15と、アウターリング16と、操舵力受け部であるアーム部17とを備える。ハブベアリング15は、内輪18と、外輪19と、これら内外輪18,19間に介在したボール等の転動体20とを有し、車体側の部材と後輪9Rとを繋ぐ役目をしている。
【0029】
図6に示すように、このハブベアリング15は、図示の例では、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪となり、転動体20が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内輪18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。
図2に示すように、ハブフランジ18aaに、後輪9Rのホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内輪18は、回転軸心O回りに回転する。
【0030】
図6に示すように、アウターリング16は、外輪19の外周面に嵌合された円環部16aと、この円環部16aの外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の取付軸部16b,16bとを有する。各取付軸部16bは、転舵軸心Aに同軸に設けられる。
図2に示すように、ブレーキ21は、ブレーキロータ21aと、ブレーキキャリパ21bとを有する。ブレーキキャリパ21は、外輪19に一体にアーム状に突出して形成された上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22(
図4)に取付けられる。
【0031】
<回転許容支持部品およびユニット支持部材について>
図6に示すように、各回転許容支持部品である軸受4は転がり軸受が適用され、転がり軸受として、この例では、テーパころ軸受が適用されている。軸受4は、取付軸部16bの外周に嵌合された内輪と、ユニット支持部材3に嵌合された外輪と、内外輪間に介在する複数の転動体とを有する。上下の軸受4,4はホイール9a内に位置するように設けられている。ユニット支持部材3の上下の部分には、それぞれ嵌合孔が形成され、各嵌合孔に前記外輪が嵌合固定されている。前記各嵌合孔は、前記転舵軸心Aに同軸に設けられる。
【0032】
アウターリング16における各取付軸部16bには、雌ねじ部が径方向に延びるように形成され、この雌ねじ部に螺合するボルト23が設けられている。前記内輪の端面に円板状の押圧部材24を介在させ、前記雌ねじ部に螺合するボルト23により、前記内輪の端面に押圧力を付与することで、各軸受4にそれぞれ予圧を与えている。これにより各軸受4の剛性を高め得る。車両の重量がこのハブユニット1に作用した場合でも初期予圧が抜けないように設定される。このため、この操舵機能付ハブユニット1は操舵装置としての剛性を確保することができる。なお、軸受4は、テーパころ軸受に限るものではなく、最大負荷等の使用条件によってはアンギュラ玉軸受を用いることも可能である。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。
【0033】
図2に示すように、アーム部17は、ハブベアリング15の外輪19に補助的な操舵力を与える作用点となる部位であり、外輪19の外周の一部に一体に半径方向外方に突出する。このアーム部17は、ジョイント部8を介して、操舵用アクチュエータ5の直動出力部である出力ロッド25aに回転自在に連結されている。操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aが進退することで、ハブベアリング15が転舵軸心A回りに回転、つまり操舵させられる。
【0034】
<操舵用アクチュエータ5>
操舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A回りに回転駆動させる。操舵用アクチュエータ5は、モータ26と、モータ26の回転を減速する減速機27と、この減速機27の正逆の回転出力を出力ロッド25aの往復直線動作に変換する直動機構25とを備える。モータ26は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。
【0035】
減速機27は、ベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構またはギヤ列等を用いることができ、
図2の例ではベルト伝達機構が用いられている。減速機27は、ドライブプーリ27a,ドリブンプーリ27bと、ベルト27cとを有する。モータ26のモータ軸にドライブプーリ27aが結合され、直動機構25にドリブンプーリ27bが設けられている。このドリブンプーリ27bは、前記モータ軸に平行に配置されている。モータ26の駆動力は、ドライブプーリ27aからベルト27cを介してドリブンプーリ27bに伝達される。前記各ドライブプーリ27a,ドリブンプーリ27bとベルト27cとで、巻き掛け式の減速機27が構成される。
【0036】
直動機構25は、滑りねじまたはボールねじ等の送りねじ機構、またはラック・ピニオン機構等を用いることができ、この例では台形ねじTsの滑りねじを用いた送りねじ機構が用いられている。直動機構25は、前記台形ねじTsの滑りねじを用いた送りねじ機構を備えるため、タイヤ9bからの逆入力の防止効果を高め得る。モータ26、減速機27および直動機構25を備えた操舵用アクチュエータ5は、準組立品として組み立てられてケース6bにボルト等により着脱自在に取り付けられる。なおモータ26の駆動力を、減速機を介さず直接直動機構25へ伝達する機構も可能である。
【0037】
<その他の機構的構成>
図3に示すように、ケース6bは、ユニット支持部材3の一部として、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ケース6bは有底筒状に形成され、モータ26を支持するモータ収容部と、直動機構25を支持する直動機構収容部が設けられている。前記モータ収容部には、モータ26をケース内所定位置に支持する嵌合孔が形成されている。前記直動機構収容部には、直動機構25をケース内所定位置に支持する嵌合孔、および、出力ロッド25aの進退を許す貫通孔等が形成されている。
【0038】
<旋回時に車輪に働くコーナリングフォース>
一般的に車両が旋回する場合、車両およびタイヤは横すべり角を持ち、タイヤには各輪の進行方向に垂直な方向にコーナリングフォースが働く。例えば、車両が左方向に旋回する場合の横すべり角とコーナリングフォースは
図9のように表される。
図9において、F、βはそれぞれコーナリングフォース、横すべり角であり、添字のFL、FR、RL、RRはそれぞれ左前輪、右前輪、左後輪、右後輪を示している。
図10についても同様である。コーナリングフォースは、通常であればタイヤの横すべり角と垂直荷重に比例するため、旋回内輪よりも垂直荷重の大きい旋回外輪(
図9では右側のタイヤ)の方がコーナリングフォースが大きい。
【0039】
<モーメントの大きさ>
特に後輪がコーナリングフォースを発生している状態で、転舵軸接地点が、コーナリングフォースの作用線上に位置するタイヤ接地点と一致しない場合、コーナリングフォースによって転舵軸を中心に力のモーメントが発生する。この力のモーメントによってこの発明品である操舵機能付ハブユニットのガタおよび微小変形分だけ、転舵軸を中心としてタイヤが操舵される。
力のモーメントは、コーナリングフォースに比例する。コーナリングフォースは、前述したように垂直荷重に比例するため、旋回内輪よりも旋回外輪の方が大きい。よって、力のモーメントも旋回外輪の方が大きく、操舵量も大きくなる。
【0040】
<モーメントの方向>
例えば、
図9のように車両が左方向に旋回している状態、つまり車輪の向きに対して左方向にコーナリングフォースが働いている状態では、コーナリングフォースの作用線Lsよりも後方に転舵軸接地点Ptがある場合は、
図10(a)のように鉛直上方から見て反時計回りの力のモーメントが車輪に発生する。逆に、コーナリングフォースの作用線Lsよりも前方に転舵軸接地点Ptがある場合は、
図10(b)のように鉛直上方から見て時計回りの力のモーメントが車輪に発生する。
図10において、Mはタイヤに発生する力のモーメントを表す。
【0041】
図10で表されるタイヤ接地点Pwと転舵軸接地点Ptの位置関係を適用した場合の、車両側方から車幅方向に見た後輪の例を
図11、
図12に示す。
図11(a)、
図11(b)はそれぞれ
図10(a)を適用した場合の左後輪、右後輪である。
図12(a)、
図12(b)はそれぞれ
図10(b)を適用した場合の左後輪、右後輪である。
図11、
図12のように、転舵軸を車両前方に傾けて、
図10のタイヤ接地点Pwと転舵軸接地点Ptの位置関係を実現してもよい。つまり
図11の例では、転舵軸が上方に向かうに従って車両前方に傾斜する傾きαを有することで、
図10(a)で表されるタイヤ接地点Pwと転舵軸接地点Ptの位置関係を実現し得る。
図12の例では、転舵軸が下方に向かうに従って車両前方に傾斜する傾きβを有することで、
図10(b)で表されるタイヤ接地点Pwと転舵軸接地点Ptの位置関係を実現し得る。
【0042】
<旋回時に旋回外輪がトーインとなる転舵軸接地点の位置>
以上より、車両が左方向に旋回している状態においては、旋回外輪(右後輪)の転舵軸接地点がコーナリングフォースの作用線よりも後方、つまり前記作用線を含まない作用線よりも後方位置であれば、旋回外輪(右後輪)は、力のモーメントにより、ガタおよび部材の変形に応じて車両上方から見て反時計回りに微小操舵する。旋回外輪がトーイン方向に操舵することで、車両の走行安定性が向上する。
同様に、車両が右方向に旋回している状態についても、旋回外輪(左後輪)の転舵軸接地点がコーナリングフォースの作用線より後方の場合に、旋回外輪がトーイン方向に操舵し、車両の走行安定性が向上する。
【0043】
ここで、左右後輪の横すべり角は車両速度および前輪の操舵角度等の走行状況によって変化し、それに伴ってコーナリングフォースの方向も変化する。走行状況に関わらず旋回時に旋回外輪をトーインとするには、最大の横すべり角におけるコーナリングフォースを基準に、そのコーナリングフォースの作用線よりも転舵軸接地点が後方であればよい。最大の横すべり角とは、車両がいわゆるスピンをしない領域の最大値、つまり後輪の滑りを生じない最大の後輪横すべり角であり、タイヤ材質、路面の状況等の条件によって変わるが、一般的な乗用車、ゴムタイヤ、アスファルト路であれば、概ね7~10°程度である。
以上をまとめると、車両の旋回方向または走行状況に関わらず車両の旋回時に旋回外輪がトーインとなる転舵軸接地点の領域は、
図13の斜線部Ldで表される。
【0044】
<制動時のトーイン>
図14の斜線部Ldに示すように、転舵軸接地点の位置を、最大の横すべり角におけるコーナリングフォースの作用線Lsよりも後方で、且つ、タイヤ接地点Pwよりも車両外側とすれば、車両の旋回時に旋回外輪がトーインとなる特性は保持され、さらに、制動時には、車両上方から見て左後輪は時計回りに操舵され、右後輪は反時計回りに操舵される。よって旋回時だけでなく制動時にも後輪がトーインとなり、走行安定性がさらに向上する。
【0045】
<作用効果>
以上説明した操舵機能付ハブユニット1によれば、このハブユニット1の転舵軸接地点Ptが、後輪の滑りを生じない最大の後輪横すべり角におけるコーナリングフォースの作用線Lsよりも、車両上方から見て後方に配置される。このため、車両の旋回により後輪9Rにコーナリングフォースが作用すると、旋回外輪はトーイン方向に、旋回内輪はトーアウト方向に操舵させる力のモーメントが発生する。このとき、旋回内輪に対し、旋回外輪の方がコーナリングフォースが大きく、より力のモーメントが大きくなる。したがって、後輪9Rに転舵軸を設けた車両の受動的な走行安定性を改善することができる。
【0046】
さらにハブユニット1の転舵軸接地点Ptが、後輪9Rの接地点Pwよりも、車両上方から見て外側に配置される。この場合、車両の制動時には、制動力により左右の後輪9R,9Rを共にトーイン方向に操舵させる力のモーメントが発生する。これにより、後輪9Rの支持剛性が小さい場合でも、走行安定性を維持または向上することができる。
【0047】
ハブユニット本体2は、転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で軸受4,4を介してユニット支持部材3に支持され、上下の軸受4,4が後輪9Rのホイール9a内に位置している。このため、高剛性で且つ小型化を図ることができる操舵機能付ハブユニット1を車両に容易に装備することができる。したがって、既存の車両に操舵機能付ハブユニット1を容易に装備し得ることから、この操舵機能付ハブユニット1の汎用性を高めることができる。
【0048】
<操舵システムについて>
図3に示すように、操舵システムは、実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1と、この操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備える。制御装置29は、操舵制御部30と、アクチュエータ駆動制御部31とを有する。
図15に示すように、運転者はハンドルによって前輪9Fの舵角を操作するが、上位制御部32ではハンドルである操舵入力部11aの操作角に応じ、さらに車両10の状況などを加味して算出した左右の後輪9R,9Rの操舵角指令信号を出力する。操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する。
【0049】
上位制御部32は操舵制御部30の上位の制御手段であり、上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU)が適用される。
図3に示すように、アクチュエータ駆動制御部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。このアクチュエータ駆動制御部31は、例えば、図示外のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、ユニット支持部材3に対するハブユニット本体2の角度を変化させて
図15に示す後輪9Rの操舵角を任意に変更することができる。車両10の走行条件に応じて、後輪9Rの操舵角を変更できるため、車両10の運動性能および燃費向上を図ることが可能となる。
【0050】
操舵システムは、運転者のハンドル操作に代えて、図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって操舵用アクチュエータ5,5を動作させてもよい。
【0051】
各回転許容支持部品4としてすべり軸受を適用してもよい。前記すべり軸受として、ラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重が負荷できる自動調心形の球面すべり軸受が適用可能である。この球面すべり軸受は、転舵軸16bの外周に嵌合された内輪と、ユニット支持部材3に嵌合された外輪とを有する。
【0052】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
2…ハブユニット本体、3…ユニット支持部材、4…軸受、5…操舵用アクチュエータ、9R…後輪、9a…ホイール、15…ハブベアリング、25…直動機構、26…モータ、27…減速機、29…制御装置、30…操舵制御部、31…アクチュエータ駆動制御部、A…転舵軸心、Ls…作用線、Pt…転舵軸接地点(転舵軸と路面との交点)、Pw…タイヤ接地点(後輪の接地点)、Rs…リジッドアクスルサスペンション(後輪サスペンション)、Ts…台形ねじ