(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、光センサおよび熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/857 20230101AFI20230615BHJP
H10N 10/851 20230101ALI20230615BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20230615BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
H10N10/857
H10N10/851
H10N10/01
G01J1/02 B
(21)【出願番号】P 2020525274
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019012835
(87)【国際公開番号】W WO2019244428
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2018115276
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構エネルギー・環境新技術先導プログラム/超高性能バルク熱電材料(ZT20以上)の創製、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】松浦 尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒博
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-523579(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196475(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057237(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043478(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1937272(CN,A)
【文献】国際公開第2017/002514(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/037884(WO,A1)
【文献】特開2003-031860(JP,A)
【文献】特開2017-050505(JP,A)
【文献】特表2018-523294(JP,A)
【文献】特開2011-134989(JP,A)
【文献】特表2010-537430(JP,A)
【文献】特開2017-216388(JP,A)
【文献】特開2015-135939(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196233(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208505(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/093207(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/857
H10N 10/851
H10N 10/01
G01J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の母材元素を含む化合物半導体からなり、
アモルファス相と、
平均粒径が5nm以上
10nm以下である粒状の結晶相とを備え、
前記複数の母材元素は、濃度を増加させることによりバンドギャップが大きくなる特定母材元素を含み、
前記結晶相に含まれる前記複数の母材元素全体に対する、前記結晶相に含まれる前記特定母材元素の原子濃度は、前記化合物半導体に含まれる前記複数の母材元素全体に対する、前記化合物半導体に含まれる前記特定母材元素の原子濃度よりも高く、
前記化合物半導体に含まれる前記複数の母材元素全体に対する、前記化合物半導体に含まれる前記特定母材元素の原子濃度と、前記結晶相に含まれる前記複数の母材元素全体に対する、前記結晶相に含まれる前記特定母材元素の原子濃度と、の差は、3at%以上
20at%以下であ
り、
前記化合物半導体は、SiGe系材料である、熱電変換材料。
【請求項2】
前記特定母材元素は、前記複数の母材元素のうちの最も格子定数が小さい元素である、請求項
1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記化合物半導体の全体に占める前記結晶相の割合は、20体積%以上74体積%以下である、請求項1
または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記特定母材元素は、IV族元素である、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記化合物半導体は、バンドギャップ中に位置するエネルギー準位を形成する第一の添加元素およびフェルミ準位を伝導帯または価電子帯に近づける第二の添加元素のうちの少なくともいずれか一方をさらに含む、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
前記第一の添加元素は、Au、CuおよびFeからなる群から選択される一以上の物質である、請求項
5に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
前記第二の添加元素は、BおよびPの少なくともいずれか一方である、請求項
5または請求項
6に記載の熱電変換材料。
【請求項8】
熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、
前記熱電変換材料部に接触し、前記第1電極と離れて配置される第2電極と、を備え、
前記熱電変換材料部は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の熱電変換材料からなる、熱電変換素子。
【請求項9】
請求項
8に記載の熱電変換素子を含む、熱電変換モジュール。
【請求項10】
光エネルギーを吸収する吸収体と、
前記吸収体に接続される熱電変換材料部と、を備え、
前記熱電変換材料部は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の熱電変換材料からなる、光センサ。
【請求項11】
請求項1に記載の熱電変換材料の製造方法であって、
主面を有する基板を準備する工程と、
前記主面の温度を200K以下として、前記主面上に
前記複数の母材元素を蒸着させて
前記化合物半導体からなるアモルファス層を形成する工程と、
前記アモルファス層を加熱して前記アモルファス層中に平均粒径が5nm以上
10nm以下の粒状の
前記結晶相を形成する工程と、を備える、熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、光センサおよび熱電変換材料の製造方法に関するものである。本出願は、2018年6月18日に出願した日本特許出願である特願2018-115276号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
近年、石油などの化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして、再生可能エネルギーが注目されている。再生可能エネルギーには、太陽光、水力および風力を利用した発電のほか、温度差を利用した熱電変換による発電で得られるエネルギーが含まれる。熱電変換においては、熱が電気へと直接変換されるため、変換の際に余分な廃棄物が排出されない。熱電変換は、モータなどの駆動部を必要としないため、装置のメンテナンスが容易であるなどの特長がある。
【0003】
熱電変換を実施するための材料(熱電変換材料)を用いた温度差(熱エネルギー)の電気エネルギーへの変換効率ηは以下の式(1)で与えられる。
【0004】
η=ΔT/Th・(M-1)/(M+Tc/Th)・・・(1)
ηは変換効率、ΔTはThとTcとの差、Thは高温側の温度、Tcは低温側の温度、Mは(1+ZT)1/2、ZTはα2ST/κ、ZTは無次元性能指数、αはゼーベック係数、Sは導電率、κは熱伝導率である。変換効率はZTの単調増加関数である。ZTを増大させることが、熱電変換材料の開発において重要である。
【0005】
熱電変換材料として、Si、Ge、Auを積層した後に得られた積層体を熱処理し、SiGe(シリコンゲルマニウム)中にAuのナノ粒子を形成する技術が報告されている(例えば、Hiroaki Takiguchi et al.、“Nano Structural and Thermoelectric Properties of SiGeAu Thin Films”、Japanese Journal of Applied Physics 50 (2011) 041301(非特許文献1))。
【0006】
国際公開2014/196475号(特許文献1)には、母材元素で構成される半導体材料からなる母材中に、母材元素と母材元素と異なる異種元素とを含むナノ粒子を含む熱電変換材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hiroaki Takiguchi et al.、“Nano Structural and Thermoelectric Properties of SiGeAu Thin Films”、Japanese Journal of Applied Physics 50 (2011) 041301
【発明の概要】
【0009】
本開示の熱電変換材料は、複数の母材元素を含む化合物半導体からなり、アモルファス相と、平均粒径が5nm以上である粒状の結晶相とを備える。複数の母材元素は、濃度を増加させることによりバンドギャップが大きくなる特定母材元素を含む。結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度は、化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度よりも高い。化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度と、結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度と、の差は、3at%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本願の実施の形態1に係る熱電変換材料の一部を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係る熱電変換材料の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、Siの原子濃度の組成ずれおよび結晶相の平均粒径とZTの値との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、Siの原子濃度の組成ずれとZTの値との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、Siの原子濃度の組成ずれが3at%未満である場合のバンド構造を示す図である。
【
図6】
図6は、Siの原子濃度の組成ずれが3at%以上である場合のバンド構造を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態2における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)の構造を示す概略図である。
【
図8】
図8は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、赤外線センサの構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
非特許文献1および特許文献1に開示の熱電変換材料よりも高い変換効率を有する熱電変換材料が求められている。ZTを増大させることができれば、熱電変換の効率を向上させることができる。導電率Sを高くすれば、ZTを増大させることができる。
【0012】
そこで、導電率を高くして熱電変換の効率を向上させた熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、光センサおよび熱電変換材料の製造方法を提供することを目的の1つとする。
[本開示の効果]
上記熱電変換材料によれば、導電率を高くして熱電変換の効率を向上させることができる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示の熱電変換材料は、複数の母材元素を含む化合物半導体からなり、アモルファス相と、平均粒径が5nm以上である粒状の結晶相とを備える。複数の母材元素は、濃度を増加させることによりバンドギャップが大きくなる特定母材元素を含む。結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度は、化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度よりも高い。化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度と、結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度と、の差は、3at%以上である。
【0014】
上記熱電変換材料は、結晶相の平均粒径が5nm以上であるため、導電率を高くすることができる。結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度は、化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度よりも高い。化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度と、結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度と、の差は、3at%以上である。ここで、at%は、原子百分率、すなわち、原子濃度を百分率で表示した単位をいう。そのため、結晶相のバンドギャップを大きくしてアモルファス相との間でエネルギー準位の差であるバンドオフセットを小さくすることができ、導電率を高くすることができる。その結果、ZTを増大させることができ、熱電変換の効率を向上させることができる。結晶相の平均粒径は、XRD(X-Ray Diffraction)により得られた結晶相のピークにおける半値幅から導出することができる。なお、XRDにおいては、測定結果から求められる後述する格子定数が、組成により線形に変化するというVegard則に基づいて後述する組成を決定している。
【0015】
上記熱電変換材料において、結晶相の平均粒径は、10nm以下であってもよい。こうすることにより、熱伝導率κの増加に起因してZTが低下するのを抑制することができる。
【0016】
上記熱電変換材料において、化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度と、結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度と、の差は、20at%以下であってもよい。こうすることにより、ゼーベック係数αの低下によりZTが低下するのを抑制することができる。
【0017】
上記熱電変換材料において、特定母材元素は、複数の母材元素のうちの最も格子定数が小さい元素であってもよい。格子定数の小さい元素では、正孔や電子といったキャリアのポテンシャルの障壁が高くなる。このような元素を結晶相に多く含めることによりバンドギャップを大きくしてバンドオフセットを小さくすることができる。したがって、導電率を高くして、ZTを増大させることができる。
【0018】
上記熱電変換材料において、化合物半導体の全体に占める結晶相の体積割合は、20体積%以上74体積%以下の範囲内であってもよい。結晶相の割合を20体積%以上とすることにより、結晶相の粒径を5nm以上とすることが容易となる。また、結晶相の割合を74体積%以下とすることにより、粒状の結晶相とすることが容易となる。なお、結晶相の割合は、30体積%以上とすることが好ましい。こうすることにより、ゼーベック係数αの低下によるZTの減少を抑えることができる。また、結晶相の割合は、50体積%以下とすることが好ましい。こうすることにより、熱伝導率κの増加によるZTの減少を抑えることができる。結晶相の体積割合は、ラマン散乱の測定を行い得られたスペクトルから結晶相のピークの面積とアモルファス層のピークの面積とを導出し、得られた二つのピークの面積を足し合わせたものに対する結晶相のピークの面積の割合を結晶相の体積割合として導出することができる。
【0019】
上記熱電変換材料において、特定母材元素は、IV族元素であってもよい。ここで、IV族元素とは、短周期律表におけるIV族元素をいい、長周期律表における第14族元素、すなわち、C(炭素)、Si(ケイ素)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(スズ)、Pb(鉛)などをいう。このような特定母材元素は、熱電変換材料に適した化合物半導体として有効に利用される。
【0020】
上記熱電変換材料において、化合物半導体は、SiGe系材料であってもよい。SiGe系材料は、熱電変換材料を構成する半導体材料として特に好適である。SiGe系材料とは、SiGe、およびSiGeにおいてSiおよびGeの少なくとも一方の一部が他の元素に置き換えられた材料であり、SiとGeの総量の含有割合が80at%以上のものを意味する。
【0021】
上記熱電変換材料において、化合物半導体は、バンドギャップ中に位置するエネルギー準位を形成する第一の添加元素およびフェルミ準位を伝導帯または価電子帯に近づける第二の添加元素のうちの少なくともいずれか一方をさらに含んでもよい。第一の添加元素によりバンドギャップ中に位置するエネルギー準位を形成して、導電率を高くしてZTを増大させることができる。第二の添加元素によりフェルミ準位を伝導帯または価電子帯に近づけ、導電率を高くしてZTを増大させることができる。
【0022】
上記熱電変換材料において、第一の添加元素は、Au、CuおよびFeからなる群から選択される一以上の物質であってもよい。このような第一の添加元素は、バンドギャップ中に位置するエネルギー準位を形成するため、導電率を高くしてZTを増大させることができる。
【0023】
上記熱電変換材料において、第二の添加元素は、BおよびPの少なくともいずれか一方であってもよい。このような第二の添加元素は、フェルミ準位を伝導帯または価電子帯に近づけるため、導電率を高くしてZTを増大させることができる。
【0024】
本願の熱電変換素子は、熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、を備える。熱電変換材料部は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記本願の熱電変換材料からなる。
【0025】
本願の熱電変換素子は、熱電変換材料部が、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記熱電変換特性に優れた熱電変換材料からなる。そのため、変換効率に優れた熱電変換素子を提供することができる。
【0026】
本願の熱電変換モジュールは、上記熱電変換素子を含む。本願の熱電変換モジュールによれば、熱電変換の効率に優れた本願の熱電変換素子を含むことにより、熱電変換の効率を向上させた熱電変換モジュールを得ることができる。
【0027】
本願の光センサは、光エネルギーを吸収する吸収体と、吸収体に接続される熱電変換材料部と、を備える。熱電変換材料部は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記本願の熱電変換材料からなる。
【0028】
本願の光センサは、熱電変換材料部が、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記熱電変換特性に優れた熱電変換材料からなる。そのため、高感度な光センサを提供することができる。
【0029】
本願の熱電変換材料の製造方法は、主面を有する基板を準備する工程と、主面の温度を200K以下として、主面上に複数の母材元素を蒸着させて化合物半導体からなるアモルファス層を形成する工程と、アモルファス層を加熱してアモルファス層中に平均粒径が5nm以上の粒状の結晶相を形成する工程と、を備える。
【0030】
このような熱電変換材料の製造方法によれば、アモルファス層を形成する際に主面の温度を200K以下としているため、結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度を、化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度よりも高くし、かつ、化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度と、結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度と、の差を、3at%以上とすることが容易となる。その結果、導電性を高くすることができる。また、平均粒径が5nm以上の粒状の結晶相が形成されているため、導電率を高くすることができる。したがって、本願の熱電変換材料の製造方法によれば、導電率を上昇させてZTを増大させ、熱電効率を向上させた熱電変換材料を効率的に製造することができる。
【0031】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の熱電変換材料の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0032】
(実施の形態1)
本願の実施の形態1に係る熱電変換材料の構成について説明する。
図1は、本願の実施の形態1に係る熱電変換材料の一部を示す概略断面図である。
図1を参照して、本願の実施の形態1に係る熱電変換材料11は、基板、具体的には、例えば、サファイア基板12の主面13上に配置される。熱電変換材料11は、複数の母材元素を含む化合物半導体からなる。化合物半導体に含まれる複数の母材元素は、SiとGeとを含む。本実施の形態では、化合物半導体は、SiGe系材料である。実施の形態1において、母材元素としてのSiは、濃度を増加させることによりバンドギャップが大きくなる特定母材元素である。なお、化合物半導体は、新基準位を形成する第一の添加元素としてのAuを含む。本実施の形態においては、母材元素はSiとGeであり、第一の添加元素は、Auである。第二の添加元素は、含まない。
【0033】
熱電変換材料11は、アモルファス相14と、結晶相15とを含む。結晶相15は、熱電変換材料11に複数含まれており、それぞれ粒状である。結晶相15は、第一の添加元素であるAuを結晶核とした析出相であり、アモルファス相14内に分散している。結晶相15は、アモルファス相14内において分散された微結晶の状態で存在する。Auにより、バンドギャップ中に位置するエネルギー準位を形成することができる。
【0034】
結晶相15の平均粒径は、5nm以上である。好ましくは、結晶相15の平均粒径は、6nm以上である。なお、結晶相15の平均粒径は、10nm以下である。こうすることにより、熱伝導率κの増加に起因してZTが低下するのを抑制することができる。好ましくは、結晶相15の平均粒径は、7nm以下である。また、結晶相15に含まれるSiとGeの全体に対する、結晶相15に含まれるSiの原子濃度は、化合物半導体に含まれるSiとGeの全体に対する、化合物半導体に含まれるSiの原子濃度よりも高い。化合物半導体に含まれるSiとGeの全体に対する、化合物半導体に含まれるSiの原子濃度と、結晶相15に含まれるSiとGeの全体に対する、結晶相15に含まれるSiの原子濃度と、の差は、3at%以上である。このようにすることにより、結晶相15のバンドギャップを大きくしてアモルファス相との間でエネルギー準位の差であるバンドオフセットを小さくすることができ、導電率を高くすることができる。その結果、ZTを増大させることができ、熱電変換の効率を向上させることができる。これについては、後述する。好ましくは、化合物半導体に含まれるSiとGeの全体に対する、化合物半導体に含まれるSiの原子濃度と、結晶相15に含まれるSiとGeの全体に対する、結晶相15に含まれるSiの原子濃度と、の差は、4at%以上である。なお、化合物半導体に含まれるSiとGeの全体に対する、化合物半導体に含まれるSiの原子濃度と、結晶相15に含まれるSiとGeの全体に対する、結晶相15に含まれるSiの原子濃度と、の差を、20at%以下とすることにより、ゼーベック係数αの低下によって、ZTが低下するのを抑制することができる。化合物半導体に含まれるSiとGeの全体に対する、化合物半導体に含まれるSiの原子濃度と、結晶相15に含まれるSiとGeの全体に対する、結晶相15に含まれるSiの原子濃度と、の差を、13at%以下とすると、さらに好適である。
【0035】
次に、実施の形態1に係る熱電変換材料11の製造方法について説明する。
図2は、実施の形態1に係る熱電変換材料の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
図2を参照して、主面を有する基板を準備する(
図2において、ステップS11。以下、ステップを省略する)。この場合、例えば、ベースとなる基板として、主面13を有するサファイア基板12を準備する。次に、主面13の温度を200K以下として、主面上に複数の母材元素を蒸着させて化合物半導体からなるアモルファス層を形成する(S12)。この場合、例えば、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法により、所定の厚みとなるまで原料元素を主面13に照射するようにして行う。次に、アモルファス層を加熱してアモルファス層中に平均粒径が5nm以上の粒状の結晶相を形成する(S13)。この場合、例えば、所定の温度となるまでサファイア基板12を加熱し、その温度を所定時間維持することにより行う。このようにして、実施の形態1に係る熱電変換材料を得る。
【0036】
具体的な例としては、例えば、S12において、Siを1nm/分、Geを1nm/分、Auを0.1nm/分の割合で同時に主面13に対して照射する。そして、総厚みが200nm以上のアモルファス層をサファイア基板12の主面13上に蒸着させ、成膜を行う。S13において、得られた生成物に対して、例えば500℃に加熱し、15分間保持する熱処理を行う。
【0037】
上記条件で作製した熱電変換材料11のサンプルについて、その特性を調査した。熱電特性については、熱電特性測定装置(オザワ科学株式会社製RZ2001i)で測定した。また、熱電変換材料11の組成については、XRD(X-Ray Diffraction)およびEDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry)により求めた。XRDについては、熱電変換材料11のうちの結晶化した部分、すなわち、結晶相15のピークを対象として、半値幅により結晶相15のSiの原子濃度を求めた。EDXについては、結晶相15とアモルファス相14の両方のピークを対象として、それぞれの半値幅により化合物半導体の全体のSiの原子濃度を求めた。
【0038】
図3は、Siの原子濃度の組成ずれおよび結晶相の平均粒径とZTの値との関係を示すグラフである。なお、組成ずれとは、化合物半導体に含まれる複数の母材元素全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素の原子濃度と、結晶相に含まれる複数の母材元素全体に対する、結晶相に含まれる特定母材元素の原子濃度と、の差をいう。
図3において、横軸はSiの原子濃度の組成ずれ(at%)を示し、縦軸は結晶相の平均粒径(nm)を示す。
図3において、白四角印は、主面13の温度を200K以下として作製した場合を示し、白丸印で主面13の温度を200Kよりも高くして作製した場合を示す。ZTの値が1よりも大きいのは、組成ずれが3at%以上であり、結晶相の平均粒径が5nm以上の範囲である。
図4は、Siの原子濃度の組成ずれとZTの値との関係を示すグラフである。
図4において、横軸はSiの原子濃度の組成ずれ(at%)を示し、縦軸は熱電変換材料11のZTの値を示す。
【0039】
ここで、Siの原子濃度の組成ずれについては、SiXRD/(SiXRD+GeXRD)-SiEDX/(SiEDX+GeEDX)と定義する。SiXRDは、XRDにより求められたSiの原子濃度である。GeXRDは、XRDにより求められたGeの原子濃度である。SiEDXは、EDXにより求められたSiの原子濃度である。GeEDXは、EDXにより求められたGeの原子濃度である。SiXRD/(SiXRD+GeXRD)では、結晶相15に含まれる複数の母材元素であるSiとGeの全体に対する、結晶相15に含まれる特定母材元素であるSiの原子濃度が導出される。SiEDX/(SiEDX+GeEDX)では、化合物半導体に含まれる複数の母材元素であるSiとGeの全体に対する、化合物半導体に含まれる特定母材元素であるSiの原子濃度が導出される。なお、第一の添加元素であるAuは上記式における分母には含まないものとする。
【0040】
図3および
図4を参照して、結晶相15の平均粒径が5nm以上であり、Siの原子濃度の組成ずれが3at%以上であれば、ZTの値を1よりも大きくすることができる。したがって、このような熱電変換材料11は、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0041】
ここで、実施の形態1に係る熱電変換材料11が優れた熱電特性を有する理由について説明する。
図5は、Siの原子濃度の組成ずれが3at%未満である場合のバンド構造を示す図である。
図6は、Siの原子濃度の組成ずれが3at%以上である場合のバンド構造を示す図である。
図5および
図6において、アモルファス相14に対応する領域21aおよび結晶相15に対応する領域21bのそれぞれにおける伝導帯のエネルギー準位Ec22aおよび価電子帯のエネルギー準位Ev22bが示されている。
図5および
図6において、矢印Dで示す方向にエネルギーが高くなる。
図5および
図6を参照して、結晶相15に対応する領域21bにおけるバンドギャップはアモルファス相14に対応する領域21aのバンドギャップよりも小さい。ここで、
図5を参照して、Siの原子濃度の組成ずれが3at%未満である場合、価電子帯側におけるアモルファス相14とのエネルギー準位の差であるバンドオフセットH
1が大きくなる。そうすると、正孔23が破線の矢印に示すように捕捉され、正孔23が動きにくくなり、導電率が低くなってしまう。一方、
図6を参照して、Siの組成ずれが3at%以上である場合、価電子帯側におけるアモルファス相14とのエネルギー準位の差であるバンドオフセットH
2がバンドオフセットH
1よりも小さくなる。そうすると、正孔23が破線の矢印に示すように価電子帯を自由に移動しやすくなり、導電率を高くすることができる。その結果、ZTを増大させることができる。
【0042】
なお、熱電変換材料11において、化合物半導体の全体に占める結晶相15の割合は、20体積%以上74体積%以下の範囲内であってもよい。結晶相15の割合を20体積%以上とすることにより、結晶相15の粒径を5nm以上とすることが容易となる。また、結晶相15の割合を74体積%以下とすることにより、粒状の結晶相15とすることが容易となる。なお、結晶相15の割合は、30体積%以上50体積%以下とすることがより好ましい。
【0043】
熱電変換材料11において、特定母材元素は、IV族元素であってもよい。このような特定母材元素は、熱電変換材料11に適した化合物半導体として有効に利用される。
【0044】
熱電変換材料11において、化合物半導体は、SiGe系材料であることとしたが、これに限らず、他の化合物半導体、具体的には、例えば化合物半導体がAlMnSi、MnSi、SnSe、Cu2Seであってもよい。
【0045】
熱電変換材料11において、化合物半導体は、第一の添加元素としてAuを含むこととしたが、これに限らず、第一の添加元素は、Au、CuおよびFeからなる群から選択される一以上の物質であってもよい。このような第一の添加元素は、バンドギャップ中に位置するエネルギー準位を形成するため、導電率を高くしてZTを増大させることができる。
【0046】
また、熱電変換材料11は、フェルミ準位を伝導帯または価電子帯に近づける第二の添加元素を含んでもよい。すなわち、バンドギャップ中に位置するエネルギー準位を形成する第一の添加元素およびフェルミ準位を伝導帯または価電子帯に近づける第二の添加元素のうちの少なくともいずれか一方をさらに含んでもよい。第一の添加元素によりバンドギャップ中に位置するエネルギー準位を形成して、導電率を高くしてZTを増大させることができる。第二の添加元素によりフェルミ準位を伝導帯または価電子帯に近づけ、導電率を高くしてZTを増大させることができる。
【0047】
第二の添加元素は、BおよびPからなる群から選択される一以上の物質であってもよい。このような第二の添加元素は、フェルミ準位を伝導帯または価電子帯に近づけるため、導電率を高くしてZTを増大させることができる。
【0048】
(実施の形態2)
次に、本願の実施の形態1に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子及び熱電変換モジュールの一実施形態として、発電素子および発電モジュールについて説明する。
【0049】
図7は、実施の形態2における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)31の構造を示す概略図である。
図7を参照して、π型熱電変換素子31は、第1熱電変換材料部であるp型熱電変換材料部32と、第2熱電変換材料部であるn型熱電変換材料部33と、高温側電極34と、第1低温側電極35と、第2低温側電極36と、配線37とを備えている。
【0050】
p型熱電変換材料部32は、例えば導電型がp型となるように成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料からなる。p型熱電変換材料部32を構成する実施の形態1の熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるp型キャリア(正孔)を生成させるp型不純物がドープされることにより、p型熱電変換材料部32の導電型はp型となっている。
【0051】
n型熱電変換材料部33は、例えば導電型がn型となるように成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料からなる。n型熱電変換材料部33を構成する実施の形態1の熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされることにより、n型熱電変換材料部33の導電型はn型となっている。
【0052】
p型熱電変換材料部32とn型熱電変換材料部33とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極34は、p型熱電変換材料部32の一方の端部41からn型熱電変換材料部33の一方の端部42にまで延在するように配置される。高温側電極34は、p型熱電変換材料部32の一方の端部41およびn型熱電変換材料部33の一方の端部42の両方に接触するように配置される。高温側電極34は、p型熱電変換材料部32の一方の端部41とn型熱電変換材料部33の一方の端部42とを接続するように配置される。高温側電極34は、導電材料、例えば金属からなっている。高温側電極34は、p型熱電変換材料部32およびn型熱電変換材料部33にオーミック接触している。
【0053】
熱電変換材料部32もしくは熱電変換材料部33はp型あるいはn型であることが望ましいが、どちらかが金属導線としても良い。
【0054】
第1低温側電極35は、p型熱電変換材料部32の他方の端部43に接触して配置される。第1低温側電極35は、高温側電極34と離れて配置される。第1低温側電極35は、導電材料、例えば金属からなっている。第1低温側電極35は、p型熱電変換材料部32にオーミック接触している。
【0055】
第2低温側電極36は、n型熱電変換材料部33の他方の端部44に接触して配置される。第2低温側電極36は、高温側電極34および第1低温側電極35と離れて配置される。第2低温側電極36は、導電材料、例えば金属からなっている。第2低温側電極36は、n型熱電変換材料部33にオーミック接触している。
【0056】
配線37は、金属などの導電体からなる。配線37は、第1低温側電極35と第2低温側電極36とを電気的に接続する。
【0057】
π型熱電変換素子31において、例えばp型熱電変換材料部32の一方の端部41およびn型熱電変換材料部33の一方の端部42の側が高温、p型熱電変換材料部32の他方の端部43およびn型熱電変換材料部33の他方の端部44の側が低温、となるように温度差が形成されると、p型熱電変換材料部32においては、一方の端部41側から他方の端部43側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、n型熱電変換材料部33においては、一方の端部42側から他方の端部44側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線37には、矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、π型熱電変換素子31において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。すなわち、π型熱電変換素子31は発電素子である。
【0058】
そして、p型熱電変換材料部32およびn型熱電変換材料部33を構成する材料として、導電率を十分に高い値とすることによりZTの値が増大した実施の形態1の熱電変換材料11が採用される。その結果、π型熱電変換素子31は高効率な発電素子となっている。
【0059】
なお、上記実施の形態においては、本願の熱電変換素子の一例としてπ型熱電変換素子について説明したが、本願の熱電変換素子はこれに限られない。本願の熱電変換素子は、たとえばI型(ユニレグ型)熱電変換素子など、他の構造を有する熱電変換素子であってもよい。
【0060】
π型熱電変換素子31を複数個電気的に接続することにより、熱電変換モジュールとしての発電モジュールを得ることができる。本実施の形態の熱電変換モジュールである発電モジュール45は、π型熱電変換素子31が直列に複数個接続された構造を有する。
【0061】
図8は、発電モジュール45の構造の一例を示す図である。
図8を参照して、本実施の形態の発電モジュール45は、p型熱電変換材料部32と、n型熱電変換材料部33と、第1低温側電極35および第2低温側電極36に対応する低温側電極35、36と、高温側電極34と、低温側絶縁体基板46と、高温側絶縁体基板47とを備える。低温側絶縁体基板46および高温側絶縁体基板47は、アルミナなどのセラミックからなる。p型熱電変換材料部32とn型熱電変換材料部33とは、交互に並べて配置される。低温側電極35、36は、上述のπ型熱電変換素子31と同様にp型熱電変換材料部32およびn型熱電変換材料部33に接触して配置される。高温側電極34は、上述のπ型熱電変換素子31と同様にp型熱電変換材料部32およびn型熱電変換材料部33に接触して配置される。p型熱電変換材料部32は、一方側に隣接するn型熱電変換材料部33と共通の高温側電極34により接続される。また、p型熱電変換材料部32は、上記一方側とは異なる側に隣接するn型熱電変換材料部33と共通の低温側電極35、36により接続される。このようにして、全てのp型熱電変換材料部32とn型熱電変換材料部33とが直列に接続される。
【0062】
低温側絶縁体基板46は、板状の形状を有する低温側電極35、36のp型熱電変換材料部32およびn型熱電変換材料部33に接触する側とは反対側の主面側に配置される。低温側絶縁体基板46は、複数の(全ての)低温側電極35、36に対して1枚配置される。高温側絶縁体基板47は、板状の形状を有する高温側電極34のp型熱電変換材料部32およびn型熱電変換材料部33に接触する側とは反対側に配置される。高温側絶縁体基板47は、複数の(全ての)高温側電極34に対して1枚配置される。
【0063】
直列に接続されたp型熱電変換材料部32およびn型熱電変換材料部33のうち両端に位置するp型熱電変換材料部32またはn型熱電変換材料部33に接触する高温側電極34または低温側電極35、36に対して、配線48、49が接続される。そして、高温側絶縁体基板47側が高温、低温側絶縁体基板46側が低温となるように温度差が形成されると、直列に接続されたp型熱電変換材料部32およびn型熱電変換材料部33により、上記π型熱電変換素子31の場合と同様に矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、発電モジュール45において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
【0064】
(実施の形態3)
次に、実施の形態1に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の他の実施の形態として、光センサである赤外線センサについて説明する。
【0065】
図9は、赤外線センサ51の構造の一例を示す図である。
図9を参照して、赤外線センサ51は、隣接して配置されるp型熱電変換部52と、n型熱電変換部53とを備える。p型熱電変換部52とn型熱電変換部53とは、基板54上に形成される。
【0066】
赤外線センサ51は、基板54と、エッチングストップ層55と、n型熱電変換材料層56と、n+型オーミックコンタクト層57と、絶縁体層58と、p型熱電変換材料層59と、n側オーミックコンタクト電極61と、p側オーミックコンタクト電極62と、熱吸収用パッド63と、吸収体64と、保護膜65とを備えている。
【0067】
基板54は、二酸化珪素などの絶縁体からなる。基板54には、凹部66が形成されている。エッチングストップ層55は、基板54の表面を覆うように形成されている。エッチングストップ層55は、例えば窒化珪素などの絶縁体からなる。エッチングストップ層55と基板54の凹部66との間には空隙が形成される。
【0068】
n型熱電変換材料層56は、エッチングストップ層55の基板54とは反対側の主面上に形成される。n型熱電変換材料層56は、例えば導電型がn型となるように成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料からなる。n型熱電変換材料層56を構成する実施の形態1の熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされることにより、n型熱電変換材料層56の導電型はn型となっている。n+型オーミックコンタクト層57は、n型熱電変換材料層56のエッチングストップ層55とは反対側の主面上に形成される。n+型オーミックコンタクト層57は、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物が、n型熱電変換材料層56よりも高濃度でドープされる。これにより、n+型オーミックコンタクト層57の導電型はn型となっている。
【0069】
n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面の中央部に接触するように、n側オーミックコンタクト電極61が配置される。n側オーミックコンタクト電極61は、n+型オーミックコンタクト層57に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上に、例えば二酸化珪素などの絶縁体からなる絶縁体層58が配置される。絶縁体層58は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換部52側のn+型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。
【0070】
n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面には、さらに保護膜65が配置される。保護膜65は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換部52とは反対側のn+型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上には、保護膜65を挟んで上記n側オーミックコンタクト電極61とは反対側に、他のn側オーミックコンタクト電極61が配置される。
【0071】
絶縁体層58のn+型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面上に、p型熱電変換材料層59が配置される。p型熱電変換材料層59は、例えば導電型がp型となるように成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料からなる。p型熱電変換材料層59を構成する実施の形態1の熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるp型キャリア(正孔)を生成させるp型不純物がドープされることにより、p型熱電変換材料層59の導電型はp型となっている。
【0072】
p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上の中央部には、保護膜65が配置される。p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上には、保護膜65を挟む一対のp側オーミックコンタクト電極62が配置される。p側オーミックコンタクト電極62は、p型熱電変換材料層59に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。一対のp側オーミックコンタクト電極62のうち、n型熱電変換部53側のp側オーミックコンタクト電極62は、n側オーミックコンタクト電極61に接続されている。
【0073】
互いに接続されたp側オーミックコンタクト電極61およびn側オーミックコンタクト電極62のn+型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面を覆うように、吸収体64が配置される。吸収体64は、例えばチタンからなる。n側オーミックコンタクト電極62に接続されない側のp側オーミックコンタクト電極61上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。また、p側オーミックコンタクト電極61に接続されない側のn側オーミックコンタクト電極62上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。熱吸収用パッド63を構成する材料としては、例えばAu(金)/Ti(チタン)が採用される。
【0074】
赤外線センサ51に赤外線が照射されると、吸収体64は赤外線のエネルギーを吸収する。その結果、吸収体64の温度が上昇する。一方、熱吸収用パッド63の温度上昇は抑制される。そのため、吸収体64と熱吸収用パッド63との間に温度差が形成される。そうすると、p型熱電変換材料層59においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。一方、n型熱電変換材料層56においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。そして、n側オーミックコンタクト電極61およびp側オーミックコンタクト電極62からキャリアの移動の結果として生じする電流を取り出すことにより、赤外線が検出される。
【0075】
本実施の形態の赤外線センサ51においては、p型熱電変換材料層59およびn型熱電変換材料層56を構成する材料として、導電率を十分に高い値とすることによりZTの値が増大した実施の形態1の熱電変換材料が採用される。その結果、赤外線センサ51は、高感度な赤外線センサとなっている。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
11 熱電変換材料、12 サファイア基板、13 主面、14 アモルファス相、15 結晶相、21a,21b 領域、22a エネルギー準位Ec、22b エネルギー準位Ev、23 正孔、31 π型熱電変換素子、32 p型熱電変換材料部、33 n型熱電変換材料部、34 高温側電極、35 第1低温側電極(低温側電極)、36 第2低温側電極(低温側電極)、37,48,49 配線、41,42,43,44 端部、45 発電モジュール、46 低温側絶縁体基板、47 高温側絶縁体基板、51 赤外線センサ、52 p型熱電変換部、53 n型熱電変換部、54 基板、55 エッチングストップ層、56 n型熱電変換材料層、57 N+型オーミックコンタクト層、58 絶縁体層、59 p型熱電変換材料層、61 n側オーミックコンタクト電極、62 p側オーミックコンタクト電極、63 熱吸収用パッド、64 吸収体、65 保護膜、66 凹部。