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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】基準電圧回路、及び、電子機器
(51)【国際特許分類】
   G05F 3/26 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
G05F3/26
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020538319
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2019031619
(87)【国際公開番号】W WO2020039978
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018157158
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118290
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 正明
(74)【代理人】
【氏名又は名称】山本 孝久
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕之
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-283258(JP,A)
【文献】特開2017-126280(JP,A)
【文献】特表2009-522661(JP,A)
【文献】特開平07-193442(JP,A)
【文献】Tetsuya Hirose et al.,"A CMOS Bandgap and Sub-Bandgap Voltage Reference Circuits for Nanowatt Power LSIs",IEEE Asian Solid-State Circuits Conference,米国,IEEE,2010年11月,pp. 77-80
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度係数が正の電圧を生成するPTAT電圧生成回路と、
温度係数が負の電圧を生成するCTAT電圧生成回路と、
温度特性を調整するための電圧を生成する温度特性調整回路と、
を含んでおり、
前記PTAT電圧生成回路の出力と、前記CTAT電圧生成回路の出力と、前記温度特性調整回路の出力とから算出されて成る基準電圧を出力する、
基準電圧回路であって、
前記温度特性調整回路は、入力側と出力側との電圧差が一対のMOSFETのゲート電圧差となるように構成されており、
入力側に配置される一方のMOSFETと、出力側に配置される他方のMOSFETとにおけるドレイン電流の電流密度比が調整可能に構成されている、
基準電圧回路。
【請求項2】
前記一方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFET、及び/又は、前記他方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項3】
前記複数のMOSFETは並列に配置されている、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項4】
W/L比が同じMOSFETが複数配置されている、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項5】
W/L比が異なるMOSFETが複数配置されている、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項6】
前記複数のMOSFETは直列に配置されている、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項7】
W/L比が同じMOSFETが複数配置されている、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項8】
W/L比が異なるMOSFETが複数配置されている、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項9】
前記温度特性調整回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項10】
前記温度特性調整回路は、前記一対のMOSFETのそれぞれにドレイン電流を流すためのカレントミラー回路を含んでおり、
前記カレントミラー回路はミラー比が調整可能に構成されている、
請求項に記載の基準電圧回路。
【請求項11】
前記カレントミラー回路には、ミラー電流を流すMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている、
請求項10に記載の基準電圧回路。
【請求項12】
前記PTAT電圧生成回路は、ペアとなる2つのMOSFETのゲート電圧差を取り出す構造が多段接続されて構成されている、
請求項1に記載の基準電圧回路。
【請求項13】
前記PTAT電圧生成回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する、
請求項12に記載の基準電圧回路。
【請求項14】
前記CTAT電圧生成回路は、バイポーラトランジスタのベース-エミッタ間電圧を出力するように構成されている、
請求項1に記載の基準電圧回路。
【請求項15】
温度係数が正の電圧を生成するPTAT電圧生成回路と、
温度係数が負の電圧を生成するCTAT電圧生成回路と、
温度特性を調整するための電圧を生成する温度特性調整回路と、
を含み、
前記PTAT電圧生成回路の出力と、前記CTAT電圧生成回路の出力と、前記温度特性調整回路の出力とから算出されて成る基準電圧を出力する、
基準電圧回路を備え、
前記基準電圧回路においては、
前記温度特性調整回路は、入力側と出力側との電圧差が一対のMOSFETのゲート電圧差となるように構成されており、
入力側に配置される一方のMOSFETと、出力側に配置される他方のMOSFETとにおけるドレイン電流の電流密度比が調整可能に構成されている、
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基準電圧回路、及び、電子機器に関する。より詳しくは、例えば超低消費電力の回路システムに用いて好適な基準電圧回路、及び、係る基準電圧回路を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
コイン電池によって長時間駆動される機器を構成する要素回路や、熱や振動などの散逸されるエネルギーを利用する環境発電(エナジーハーベスティング)によって電力供給されるような超低消費電力の機器を構成する要素回路にあっては、ナノワット級の低消費電力であることが求められている。
【0003】
あらゆる機器に含まれる要素回路のひとつとして基準電圧回路(VREF回路)が存在する。図9に一般的な基準電圧回路の原理を示す。基準電圧回路9は、温度係数が正のPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電圧と、温度係数が負のCTAT(Complementary to Absolute Temperature)電圧とが、必要に応じて所定の係数倍された上で、それぞれの温度特性を打ち消すように加算されることで、温度特性のない基準電圧を生成する。一般的には、係数βPTATと係数βCTATの少なくとも一方は「1」とされ、PTAT電圧(VPTAT)とCTAT電圧(VCTAT)の少なくとも一方はそのまま加算されるといった場合が多い。
【0004】
基準電圧回路にはいくつかの形式がある。近年、MOSFETをサブスレッショルド領域で動作させることによって低消費電力を実現する基準電圧回路が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。図10は、このような構成の基準電圧回路9Aの模式的な回路図である。この基準電圧回路9Aは、PNPトランジスタQのベース及びコレクタが接地された回路から成るCTAT電圧生成回路10と、ペアとなる2つのMOSFETのゲート電圧差を取り出す構造が多段接続された構成のPTAT電圧生成回路20を有する。符号MPは電流源となるトランジスタ、符号MNは負荷抵抗として作用するトランジスタである。この基準電圧回路9Aは、MOSFETのサブスレッショルド特性を出力電圧の温度係数補償に利用することができ、他の形式に比べ、省面積かつ低消費電流化を両立することができる。
【0005】
電圧VBEはバイポーラトランジスタQのベース-エミッタ間電圧であって、後述するように温度係数が負のCTAT電圧に該当する。温度係数が正のPTAT電圧はMOSFETのゲート電圧差を多段接続することによって生成されており、出力電圧VREF1は以下の式(1)によって表される。ここで、符号ηはMOSFETのスロープファクタと呼ばれデバイス特性を表す係数、符号kBはボルツマン定数、符号qは電気素量、符号W2jと符号L2jとは、トランジスタM2jのゲート幅とゲート長を示す。符号W2j-1と符号L2j-1についても同様である。図10に示す例では、1≦j≦5である。式(1)の第1項は、温度係数が負のCTAT電圧に対応し、第2項は、温度係数が正のPTAT電圧に対応する。
【0006】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Tetsuya Hirose et al., "A CMOS Bandgap and Sub-Bandgap Voltage Reference Circuits for Nanowatt Power LSIs", IEEE Asian Solid-state Circuits Conference, pp. 77-80, November 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した式(1)の第2項に注目すると、MOSFETのゲート電圧差は、スロープファクタηに依存する。スロープファクタηは、MOSFETのサブスレッショルド領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を特徴づける値であり、ゲート酸化膜静電容量を符号Coxと表し、空乏層容量を符号Cdepで表すとき、η=(Cox+Cdep)/Coxといった式で表される。したがって、基本的には、スロープファクタηは、半導体製造プロセスに依存した値となる。
【0009】
シミュレーションモデルと実デバイスとに差があると、シミュレーションによって決定した設計上の温度特性と、実デバイスを用いて構成した回路との温度特性とに差が生ずる。試作や評価を繰り返すことによって特性の合わせ込みをするといった対処もできるが、例えば、他の製造設備で製造を行う場合には、その都度、特性の合わせ込みが必要となるなど、プロセスポータビリティに難がある。そこで、回路自体に温度特性を調整することができる機能を付加するといったことが考えられる。
【0010】
温度特性を調整するために、例えば図9における係数βPTATと係数βCTATを調整するといった方法が考えられる。しかしながら、上述したように、式(1)にあっては、正の温度特性を持つPTAT電圧に対応する第2項についてシミュレーションモデルとの差が生じやすい。従って、基本的には、PTAT電圧を生成するMOSFET回路を調整することが好ましい。しかしながら、PTAT電圧を生成するペアとなるMOSFETのW/L比は、対数関数の引数として作用する。従って、PTAT電圧において必要とされる調整範囲をカバーするとすれば、W/L比の調整範囲は広くなりすぎてしまい現実的ではない。また、PTAT電圧を生成するペアとなるMOSFETの段数を調整するとしても、離散的な調整となるので細かな調整はできない。
【0011】
従って、本開示の目的は、温度特性を良好に調整することができる基準電圧回路、及び、係る基準電圧回路を備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本開示の基準電圧回路は、
温度係数が正の電圧を生成するPTAT電圧生成回路と、
温度係数が負の電圧を生成するCTAT電圧生成回路と、
温度特性を調整するための電圧を生成する温度特性調整回路と、
を備えており、
PTAT電圧生成回路の出力と、CTAT電圧生成回路の出力と、温度特性調整回路の出力とから算出されて成る基準電圧を出力する、
基準電圧回路である。
【0013】
上記の目的を達成するための本開示の電子機器は、
温度係数が正の電圧を生成するPTAT電圧生成回路と、
温度係数が負の電圧を生成するCTAT電圧生成回路と、
温度特性を調整するための電圧を生成する温度特性調整回路と、
を含んでおり、
PTAT電圧生成回路の出力と、CTAT電圧生成回路の出力と、温度特性調整回路の出力とから算出されて成る基準電圧を出力する、
基準電圧回路を備えた電子機器である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、第1の実施形態に係る基準電圧回路の模式的な原理図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る基準電圧回路の回路図である。
図3図3は、温度特性調整回路の模式的な原理図である。
図4図4は、温度特性調整回路の第1例の模式的な原理図である。
図5図5は、温度特性調整回路の第1例の第1構成例である。
図6図6は、温度特性調整回路の第1例の第2構成例である。
図7図7は、温度特性調整回路の第2例の模式的な原理図である。
図8図8は、温度特性調整回路の第2例の構成例である。
図9図9は、基準電圧回路の模式的な原理図である。
図10図10は、MOSFETをサブスレッショルド領域で動作させる構成の基準電圧回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、実施形態に基づき本開示を説明する。本開示は実施形態に限定されるものではなく、実施形態における種々の数値や材料は例示である。以下の説明において、同一要素または同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示に係る、基準電圧回路、及び、電子機器、全般に関する説明
2.第1の実施形態
3.その他
【0016】
[本開示に係る、基準電圧回路、及び、電子機器、全般に関する説明]
本開示に係る基準電圧回路、あるいは又、本開示に係る電子機器に用いられる基準電圧回路(以下、これらを単に「本開示の基準電圧回路」と呼ぶ場合がある)において、温度特性調整回路は、入力側と出力側との電圧差が一対のMOSFETのゲート電圧差となるように構成されており、入力側に配置される一方のMOSFETと、出力側に配置される他方のMOSFEとにおけるドレイン電流の電流密度比が調整可能に構成されている態様とすることができる。
【0017】
この場合において、一方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFET、及び/又は、他方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている構成とすることができる。尚、調整の自由度を増やすといった観点からは、一方のMOSFETと他方のMOSFETの双方とも、選択可能な複数のMOSFETが配置されている構成とすることが好ましい。
【0018】
この場合において、複数のMOSFETは並列に配置されている構成とすることができる。そして、W/L比が同じMOSFETが複数配置されている構成とすることもできる。この場合には例えば選択するMOSFETの個数を調整するといったことを行なえばよい。MOSFETの選択は、例えば基準電圧回路が形成された半導体素子にトリミングを施すなどといったことによって行なうことができる。
【0019】
あるいは又、W/L比が異なるMOSFETが複数配置されているとすることもできる。この場合には、所望のW/L比のMOSFETを単独で選択する、あるいは又、複数のMOSFETを選択してMOSFET群としてのW/L比が所望の値となるように選択するなどといったことを行えばよい。
【0020】
あるいは又、複数のMOSFETは直列に配置されている構成とすることもできる。この場合においても、W/L比が同じMOSFETが複数配置されている構成とすることができるし、あるいは又、W/L比が異なるMOSFETが複数配置されている構成とすることもできる。
【0021】
上述した各種の好ましい構成を含む本開示の基準電圧回路において、温度特性調整回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する構成とすることができる。
【0022】
上述した各種の好ましい構成を含む本開示の基準電圧回路にあっては、一対のMOSFETのそれぞれにドレイン電流を流すためのカレントミラー回路を含んでおり、カレントミラー回路はミラー比が調整可能に構成されている態様とすることができる。この場合において、カレントミラー回路には、ミラー電流を流すMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されているといった構成とすることができる。
【0023】
上述した各種の好ましい構成を含む本開示の基準電圧回路にあっては、PTAT電圧生成回路は、ペアとなる2つのMOSFETのゲート電圧差を取り出す構造が多段接続されて構成されている態様とすることができる。この場合において、PTAT電圧生成回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する構成とすることができる。
【0024】
上述した各種の好ましい構成を含む本開示の基準電圧回路にあっては、CTAT電圧生成回路は、バイポーラトランジスタのベース-エミッタ間電圧を出力するように構成されている態様とすることができる。
【0025】
本開示の基準電圧回路は携帯用電子機器などに用いて好適である。本開示の基準電圧回路を用いて好適なICとして、1.リセットIC、2.省電力リアルタイムクロックIC、3.電源IC、を例示することができる。
【0026】
本明細書に示す各種の条件は、厳密に成立する場合の他、実質的に成立する場合にも満たされる。設計上あるいは製造上生ずる種々のばらつきの存在は許容される。
【0027】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、本開示に係る基準電圧回路に関する。
【0028】
図1は、第1の実施形態に係る基準電圧回路の模式的な原理図である。
【0029】
第1の実施形態に係る基準電圧回路1は、
温度係数が正の電圧を生成するPTAT電圧生成回路20と、
温度係数が負の電圧を生成するCTAT電圧生成回路10と、
温度特性を調整するための電圧を生成する温度特性調整回路30と、
を含んでいる。
【0030】
そして、PTAT電圧生成回路20の出力と、CTAT電圧生成回路10の出力と、温度特性調整回路30の出力とから算出されて成る基準電圧を出力する。より具体的には、PTAT電圧生成回路20が生成する電圧と、CTAT電圧生成回路10が生成する電圧と、温度特性調整回路30が生成する電圧とが加算されて成る基準電圧を出力する。基準電圧回路1は、基本的には、図9に示す基準電圧回路1の出力電圧に、温度特性調整用に生成された電圧を加算するといった構成である。尚、PTAT電圧生成回路20が生成する電圧とCTAT電圧生成回路10が生成する電圧とは、必要に応じて所定の係数倍された上で加算されてもよい。
【0031】
図2は、第1の実施形態に係る基準電圧回路の回路図である。
【0032】
基準電圧回路1の具体的な構成例について説明する。CTAT電圧生成回路10は、PNPトランジスタQのベース及びコレクタが接地された回路から構成されている。トランジスタQにはトランジスタMPからミラー電流が流れるように構成されており、ベース-エミッタ間電圧VBEは温度係数が負のCTAT電圧(VCTAT)となる。
【0033】
PTAT電圧生成回路20は、図10で示した基準電圧回路9におけるPTAT電圧生成回路20と同様の構成であって、ペアとなる2つのMOSFETのゲート電圧差を取り出す構造が多段接続されて構成されている。PTAT電圧生成回路20のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する。PTAT電圧生成回路20が生成するPTAT電圧(VPTAT)は、上述した式(1)の第2項で表される。
【0034】
引き続き、温度特性調整回路30について説明する。
【0035】
図3は、温度特性調整回路の模式的な原理図である。
【0036】
温度特性調整回路30は、入力側と出力側との電圧差が一対のMOSFETのゲート電圧差となるように構成されている。温度特性調整回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作するように構成されている。そして、入力側に配置される一方のMOSFETと、出力側に配置される他方のMOSFETとにおけるドレイン電流の電流密度比が調整可能に構成されている。
【0037】
2つのMOSFETのうち、入力側のMOSFET(符号T1で表す)のW/L比をW1/L1と表し、流れるドレイン電流を符号I1で表す。また、出力側のMOSFET(符号T2で表す)のW/L比をW2/L2とし、流れるドレイン電流を符号I2で表す。
【0038】
2つのMOSFET(T1,T2)のソース側は相互に接続されており、2つのMOSFET(T1,T2)のソース電流の和はI1+I2となる。このとき、2つのMOSFET(T1,T2)ゲート電圧差ΔVGSは、以下の式(2)で表される。
【0039】
【0040】
ここで、2つのMOSFET(T1,T2)の電流密度が等しい場合、換言すれば、以下の式(3)が成り立つ場合には、ゲート電圧差ΔVGSはゼロ・ボルトである。
【0041】
【0042】
上述した式(3)の条件付近では、上述した式(2)に示す対数関数の引数は略1である。従って、電流密度比の変化に対するゲート電圧差の変化率は、以下の式(4)のように表される。
【0043】
【0044】
ここで、例えば、スロープファクタη=1.5、温度T=300Kであるとすれば、式(4)の右辺は、以下の式(5)のように表される。
【0045】
【0046】
このように、温度特性調整回路30にあっては、温度に対して充分な感度で変化する電圧(図1に示すVCOMP)を生成することができる。また、その程度は、2つのMOSFET(T1,T2)のW/L比や、流れるドレイン電流の比を調整することで調整することが可能である。
【0047】
図4は、温度特性調整回路の第1例の模式的な原理図である。
【0048】
温度特性調整回路30Aは、ペアとなる2つのMOSFET(T1,T2)のドレイン電流を同じ電流として、MOSFET(T1,T2)のW/L比(M:N)を調整するといった構成である。温度特性調整回路30Aは、一対のMOSFETのそれぞれにドレイン電流を流すためのカレントミラー回路を含んでいる。カレントミラー回路を構成するトランジスタT3とトランジスタT4とは同じW/L比である。
【0049】
以下、図面を参照して、各種の構成例について詳しく説明する。図5は、温度特性調整回路の第1例の第1構成例である。
【0050】
温度特性調整回路30A1にあっては、一方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFET、及び、他方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている。より具体的には、複数のMOSFETは並列に配置されている。トランジスタT1_1ないしトランジスタT1_Jは、入力側の一方のMOSFETとして選択可能に設けられている。また、トランジスタT2_1ないしトランジスタT2_Kは、出力側の他方のMOSFETとして選択可能に設けられている。
【0051】
この構成にあっては、トランジスタT1_1ないしトランジスタT1_J、及び、トランジスタT2_1ないしトランジスタT2_Kとして、W/L比が同じMOSFETが配置されている構成とすることができる。この場合には例えば選択するMOSFETの個数を調整するといったことを行なえばよい。MOSFETの選択は、例えば基準電圧回路1が形成された半導体素子にトリミングを施すなどといったことによって行なうことができる。
【0052】
あるいは又、この構成にあっては、トランジスタT1_1ないしトランジスタT1_JやトランジスタT2_1ないしトランジスタT2_Kとして、W/L比が異なるMOSFETが配置されている構成とすることもできる。この場合には、所望のW/L比のMOSFETを単独で選択する、あるいは又、複数のMOSFETを選択してMOSFET群としてのW/L比が所望の値となるように選択するなどといったことを行えばよい。
【0053】
尚、温度特性調整回路30A1にあっては、一方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFET、及び、他方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されているとしたが、いずれか一方にのみ複数のMOSFETが配置されているといった構成とすることもできる。この場合、調整の自由度は低下するが、素子数を減らすことができるので回路の占有面積の縮小を図ることができる。
【0054】
図6は、温度特性調整回路の第1例の第2構成例である。
【0055】
温度特性調整回路30A2においても、一方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFET、及び、他方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている。尚、複数のMOSFETは直列に配置されている。トランジスタT1_1ないしトランジスタT1_Jは、入力側の一方のMOSFETとして選択可能に設けられている。また、トランジスタT2_1ないしトランジスタT2_Kは、出力側の他方のMOSFETとして選択可能に設けられている。
【0056】
この構成にあっては、トランジスタT1_2ないしトランジスタT1_J、あるいは又、トランジスタT2_2ないしトランジスタT2_Kの各ソース/ドレイン領域間を短絡するか否かによって調整を行うことができる。この場合においても、W/L比が同じMOSFETが複数配置されている構成であってもよいし、W/L比が異なるMOSFETが複数配置されているであってもよい。
【0057】
以上、温度特性調整回路の第1例について説明した。引き続き、温度特性調整回路の第2例について説明する。
【0058】
図7は、温度特性調整回路の第2例の模式的な原理図である。
【0059】
第2例の温度特性調整回路30Bにあっては、ペアとなる2つのMOSFET(T1,T2)のW/L比を同じ(1:1)とし、流れるドレイン電流の比を調整するといった構成である。ドレイン電流比の調整は、トランジスタT3,T4によって構成されたカレントミラー回路のミラー比(M:N)を変化させることで調整する。
【0060】
図8は、温度特性調整回路の第2例の構成例である。
【0061】
温度特性調整回路30B1において、カレントミラー回路には、ミラー電流を流すMOSFETとして選択可能な複数のMOSFET(符号T3_1ないしT3_J、及び、符号T4_ 1ないしT4_K)が配置されている。MOSFETを適宜選択することによって、トランジスタT1とトランジスタT2に流れるドレイン電流比を調整することができる。この場合においても、W/L比が同じMOSFETが複数配置されている構成であってもよいし、W/L比が異なるMOSFETが複数配置されているであってもよい。MOSFETの選択は、例えば基準電圧回路1が形成された半導体素子にトリミングを施すなどといったことによって行なうことができる。
【0062】
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示の上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0063】
以上説明した本開示の基準電圧回路は、温度係数が正の電圧を生成するPTAT電圧生成回路と、温度係数が負の電圧を生成するCTAT電圧生成回路と、温度特性を調整するための電圧を生成する温度特性調整回路とを備えており、PTAT電圧生成回路の出力と、CTAT電圧生成回路の出力と、温度特性調整回路の出力とから算出されて成る基準電圧を出力する。温度特性調整回路によって調整範囲を広く設定しかつ細かい調整を行なうことができる。
【0064】
なお、本開示の技術は以下のような構成も取ることができる。
【0065】
[A1]
温度係数が正の電圧を生成するPTAT電圧生成回路と、
温度係数が負の電圧を生成するCTAT電圧生成回路と、
温度特性を調整するための電圧を生成する温度特性調整回路と、
を含んでおり、
PTAT電圧生成回路の出力と、CTAT電圧生成回路の出力と、温度特性調整回路の出力とから算出されて成る基準電圧を出力する、
基準電圧回路。
[A2]
温度特性調整回路は、入力側と出力側との電圧差が一対のMOSFETのゲート電圧差となるように構成されており、
入力側に配置される一方のMOSFETと、出力側に配置される他方のMOSFETとにおけるドレイン電流の電流密度比が調整可能に構成されている、
上記[A1]に記載の基準電圧回路。
[A3]
一方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFET、及び/又は、他方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている、
上記[A2]に記載の基準電圧回路。
[A4]
複数のMOSFETは並列に配置されている、
上記[A3]に記載の基準電圧回路。
[A5]
W/L比が同じMOSFETが複数配置されている、
上記[A4]に記載の基準電圧回路。
[A6]
W/L比が異なるMOSFETが複数配置されている、
上記[A5]に記載の基準電圧回路。
[A7]
複数のMOSFETは直列に配置されている、
上記[A4]に記載の基準電圧回路。
[A8]
W/L比が同じMOSFETが複数配置されている、
上記[A7]に記載の基準電圧回路。
[A9]
W/L比が異なるMOSFETが複数配置されている、
上記[A7]に記載の基準電圧回路。
[A10]
温度特性調整回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する、
上記[A2]ないし[A9]に記載の基準電圧回路。
[A11]
温度特性調整回路は、一対のMOSFETのそれぞれにドレイン電流を流すためのカレントミラー回路を含んでおり、
カレントミラー回路はミラー比が調整可能に構成されている、
上記[A2]に記載の基準電圧回路。
[A12]
カレントミラー回路には、ミラー電流を流すMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている、
上記[A11]に記載の基準電圧回路。
[A13]
PTAT電圧生成回路は、ペアとなる2つのMOSFETのゲート電圧差を取り出す構造が多段接続されて構成されている、
上記[A1]ないし[A12]のいずれかに記載の基準電圧回路。
[A14]
PTAT電圧生成回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する、
上記[A13]に記載の基準電圧回路。
[A15]
CTAT電圧生成回路は、バイポーラトランジスタのベース-エミッタ間電圧を出力するように構成されている、
上記[A1]ないし[A14]のいずれかに記載の基準電圧回路。
【0066】
[B1]
温度係数が正の電圧を生成するPTAT電圧生成回路と、
温度係数が負の電圧を生成するCTAT電圧生成回路と、
温度特性を調整するための電圧を生成する温度特性調整回路と、
を含んでおり、
PTAT電圧生成回路の出力と、CTAT電圧生成回路の出力と、温度特性調整回路の出力とから算出されて成る基準電圧を出力する、
基準電圧回路を備えた電子機器。
[B2]
温度特性調整回路は、入力側と出力側との電圧差が一対のMOSFETのゲート電圧差となるように構成されており、
入力側に配置される一方のMOSFETと、出力側に配置される他方のMOSFETとにおけるドレイン電流の電流密度比が調整可能に構成されている、
上記[B1]に記載の電子機器。
[B3]
一方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFET、及び/又は、他方のMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている、
上記[B2]に記載の電子機器。
[B4]
複数のMOSFETは並列に配置されている、
上記[B3]に記載の電子機器。
[B5]
W/L比が同じMOSFETが複数配置されている、
上記[B4]に記載の電子機器。
[B6]
W/L比が異なるMOSFETが複数配置されている、
上記[B5]に記載の電子機器。
[B7]
複数のMOSFETは直列に配置されている、
上記[B4]に記載の電子機器。
[B8]
W/L比が同じMOSFETが複数配置されている、
上記[B7]に記載の電子機器。
[B9]
W/L比が異なるMOSFETが複数配置されている、
上記[B7]に記載の電子機器。
[B10]
温度特性調整回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する、
上記[B2]ないし[B9]に記載の電子機器。
[B11]
温度特性調整回路は、一対のMOSFETのそれぞれにドレイン電流を流すためのカレントミラー回路を含んでおり、
カレントミラー回路はミラー比が調整可能に構成されている、
上記[B2]に記載の電子機器。
[B12]
カレントミラー回路には、ミラー電流を流すMOSFETとして選択可能な複数のMOSFETが配置されている、
上記[B11]に記載の電子機器。
[B13]
PTAT電圧生成回路は、ペアとなる2つのMOSFETのゲート電圧差を取り出す構造が多段接続されて構成されている、
上記[B1]ないし[B12]のいずれかに記載の電子機器。
[B14]
PTAT電圧生成回路のMOSFETはサブスレッショルド領域で動作する、
上記[B13]に記載の電子機器。
[B15]
CTAT電圧生成回路は、バイポーラトランジスタのベース-エミッタ間電圧を出力するように構成されている、
上記[B1]ないし[B14]のいずれかに記載の電子機器。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,9,9A・・・基準電圧回路、10・・・CTAT電圧生成回路、20・・・PTAT電圧生成回路、30,30A,30A1,30A2,30B,30B1・・・温度特性調整回路、Q・・・PNPバイポーラトランジスタ、M1ないしM10,M1ないしM2J・・・PTAT電圧生成回路を構成するMOSFET群、MP・・・ミラー電流を流すMOSFET、MN・・・負荷抵抗として作用するMOSFET、T1,T1_1ないしT1_J・・・温度特性調整回路の入力側に配置される一方のMOSFET、T2,T2_1ないしT2_ K・・・温度特性調整回路の出力側に配置される他方のMOSFET、T3,T3_1ないしT3_J、T4,T4_1ないしT4_K・・・温度特性調整回路のカレントミラー回路を構成するMOSFET
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10