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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】テイクソバクチンを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/15 20060101AFI20230615BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230615BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230615BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230615BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
A61K38/15
A61K47/24
A61K47/34
A61K47/26
A61P31/04
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020543489
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 US2019016796
(87)【国際公開番号】W WO2019160719
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】62/687,950
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/631,100
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513295261
【氏名又は名称】ノボバイオティック ファーマシューティカルズ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カデテ ピレス, アナ クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】デュアン, アランダ レイ
(72)【発明者】
【氏名】リン, ロシー ルーシー
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-529638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0116360(US,A1)
【文献】Indian Journal of Pharmaceutical Sciences,2016年,78(1),8-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テイクソバクチン(TXB)およびペグ化リン脂質(PPL)を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記PPLが、少なくとも1つの脂質鎖に共有結合により結合したホスホエタノールアミン部分を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記PPLが、式(I)の化合物
【化13】

[式中、
およびRは、独立に、4~50個の炭素原子、0~10個の二重結合または0から10個の三重結合を含むアルキル鎖であり、
前記アルキル鎖は、置換されていないか、またはハロゲン、-NO、-COH、-OR’、-COR’、-OCOR’、-COOR’、-CONR’および-SO(R’は水素またはC1~C6アルキルである)からなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されており、
nは、5~1000の整数であり、
Xは、水素、一価のカチオンまたは二価のカチオンである]
である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
とRが異なる、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
とRが同一である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
および/またはRがそれぞれ、10~20個の炭素原子を含む、請求項3から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
および/またはRがそれぞれ、二重結合も三重結合も含まない、請求項3から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
および/またはRがそれぞれ、少なくとも1つの二重結合を含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
nが、30~150の整数である、請求項3から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
Xが、水素、Na、K、NH 、Ca2+およびMg2+からなる群から選択される、請求項3から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記PPLが、以下の構造の1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]および1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]:
【化14】

1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、
【化15】

1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、
【化16】

1,2-ジオレオイルsn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
【化17】

1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
からなる群から選択される化合物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項12】
Xが、NH である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
炭水化物をさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記炭水化物が、デキストロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、リボース、キシロース、トレオース、マンノースおよびマンニトールからなる群から選択される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
1:1の重量比またはそれを超えるPPLのテイクソバクチンに対する重量比でPPLおよびテイクソバクチンを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
PPLのテイクソバクチンに対する重量比が、1:1(w/w)から10:1(w/w)の間である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
PPLのテイクソバクチンに対する重量比が、1:1(w/w)、1.5:1(w/w)、2:1(w/w)、2.5:1(w/w)、3:1(w/w)、3.5:1(w/w)、4:1(w/w)、4.5:1(w/w)、5:1(w/w)、5.5:1(w/w)、6:1(w/w)、6.5:1(w/w)、7:1(w/w)、7.5:1(w/w)、8:1(w/w)、8.5:1(w/w)、9:1(w/w)、9.5:1(w/w)および10:1(w/w)のPPL:TXBからなる群から選択される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の医薬組成物を調製する方法であって、以下のステップ、
PPLを含む水溶液を提供するステップと、
PPLを含む前記水溶液にテイクソバクチンを添加するステップと
を含む、方法。
【請求項19】
以下のステップ、
PPLを含む水溶液を提供するステップと、
PPLを含む水溶液にテイクソバクチンを添加するステップと、
PPLおよびテイクソバクチンを含む前記水溶液に炭水化物を添加するステップと
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
細菌感染の処置を必要としている被験体の細菌感染を処置するための、請求項1から16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記医薬組成物が、静脈内投与されるものであることを特徴とする、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記細菌感染が、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)によって引き起こされる、請求項20または21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記細菌感染が、Mycobacterium tuberculosisによって引き起こされる、請求項20または21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記被験体が、ヒトである、請求項20から23のいずれか一項に記載の医薬組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2018年2月15日に出願された米国仮出願第62/631,100号および2018年6月21日に出願された米国仮出願第62/687,950号に基づく優先権の利益を主張する。前記出願それぞれの内容全体が、参照によって本明細書に援用される。
【0002】
政府援助
本発明は、国立衛生研究所により授与されたSBIR補助金番号第R44AI118000-01号のもとの政府援助により行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
近年の医薬品の大きな業績として、疾患を引き起こす微生物に対する抗菌剤の開発およびその使用の成功が挙げられる。抗菌剤は、多くの生命を救い、多くの疾患および感染症の合併症を低減してきた。しかし、現在利用可能な抗菌剤は、かつてほどは有効でなくなっている。
【0004】
経時的に、多くの微生物が、公知の抗菌剤の抗菌作用を逃れるように発達してきており、近年、複数の抗菌剤に耐性がある微生物によって引き起こされる感染症が、世界的に増大している。世界旅行の利用率が増大し、容易になってきたため、世界中での薬物耐性微生物の急速な拡大が、深刻な問題になっている。地域社会においては、微生物の耐性は、薬物耐性病原体(例えば、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)およびバンコマイシン耐性Enterococci(VRE))の院内感染;地域社会における抗生物質の使用による耐性出現(例えば、ペニシリン耐性およびキノロン耐性Neisseria gonorrheae);旅行の結果による耐性病原体(例えば、抗生剤耐性Shigella)への感染;または動物に抗菌剤を使用し、その後耐性病原体がヒトに伝染した結果による耐性病原体(例えば、抗生物質耐性Salmonella)への感染から生じる場合がある。院内の抗生物質耐性は、通常は抗生物質の過剰使用から生じ、MRSA、VREおよび多剤耐性のグラム陰性桿菌(MDR-GNB)(例えば、Enterobacter、Klebsiella、Serratia、Citrobacter、PseudomonasおよびE.coli)について深刻な問題となっている。特に、細菌によるカテーテルに関係する血流感染、ならびに皮膚および軟組織感染症(SSTI)は、大きな問題になりつつある。
【0005】
細菌、ウイルス、真菌および寄生生物はすべて、公知の抗菌剤に対して耐性を発達させている。耐性は、通常は、(i)薬物の標的が変化し、その結果抗菌剤が結合しにくくなり、それによって感染症を制御する効果が低下すること、(ii)薬物浸透または該薬物の能動的流出が損なわれた結果として、該薬物がその標的に接近しにくくなること、および(iii)微生物によって産生される酵素によって、該薬物が酵素的に不活化されることの3つの機構から生じる。抗菌剤耐性によって微生物は生存しやすくなり、それにより身体から微生物感染症を排除しにくくなっている。このように微生物感染症との闘いが増々困難になっていることから、院内および他の実践場面における感染症発生の危険性が高まってきた。現在、結核、マラリア、淋病および小児期耳感染症などの疾患は、わずか数十年前よりも処置が困難になっている。薬物耐性は、抗生物質を利用しなければ感染症に罹患しやすくなっている重症疾患の患者を抱える病院にとっては、重大な問題である。残念ながら、こうした患者には、薬物耐性を生じる微生物を変化させるために、抗生物質を多量に使用することが選択される。これらの薬物耐性菌は、最も強力な抗生物質に対して耐性があり、感染しやすい入院患者が依然として犠牲になっている。入院患者の5~10パーセントが入院中に感染症に罹患していること、およびこの危険性はここ数十年で確実に増大していることが報告されている。
【0006】
こうした問題に関して、微生物感染症および薬物耐性増大の問題と闘うために、新規な抗菌剤の必要性が高まっている。利用可能な薬物に対して病原体が耐性を発達させているため、再度抗菌薬の発見に取り組むことは非常に重要である。
【0007】
これまでに、合成化合物では天然抗生物質を置き換えることができず、組合せの合成、ハイスループットスクリーニング、先進医薬品化学、ゲノミクスおよびプロテオミクス、ならびに合理的薬物設計を組み合わせた研究でも、新規な種類の広域スペクトルの化合物を生成するには至っていない。新しい合成抗生物質を得る上での問題は、合成抗生物質が、多剤耐性ポンプ(MDR)によって細菌の外膜障壁を通して一様に送り出されるという事実に一部関連し得るということである。細菌の外膜は、両親媒性化合物に対する障壁であり(本質的にすべての薬物が両親媒性化合物である)、MDRは、この障壁を通して薬物を追い出す。進化により、この二重障壁/追い出し機構を大部分回避することができる抗生物質が生成されてはいるが、合成化合物は、ほとんどの場合、一様に成功に至っていない。
【0008】
例えば、米国特許第9,163,065号および米国特許第9,402,878号に記載されているテイクソバクチン(TXB)は、グラム陽性病原体、MRSA、VRE、バンコマイシン中程度感受性S.aureus(VISA)、リネゾリド耐性S.aureus、ダプトマイシン非感受性S.aureus、ペニシリン耐性S.pneumoniaeおよびM.tuberculosisの広域スペクトルの新たに発見された阻害剤である。TXBは、細胞壁構成成分の前駆体である脂質II上の非変異点および脂質IIに結合することによって、ペプチドグリカン合成および壁タイコ酸合成の両方を阻害する非常に効果の高い殺菌化合物である。結核(TB)の原因微生物であるM.tuberculosisに対するTXBの優れた活性は、この病原体におけるペプチドグリカンおよびアラビノガラクタンのウンデカプレニル結合脂質中間体に結合することに起因するようである。非変異点において複数の細胞壁標的に結合することにより、TXBに対する抵抗性が発生しにくいことが示唆される。
【0009】
TXBは、マウスの肺、大腿および血液感染モデルにおける有効性などの、多くの好ましい薬物特性を示している。しかし、高濃度では、TXBは、血清に曝露された場合にゲル化する可能性がある。したがって、TXBおよびTXBアナログの新規医薬組成物、例えば、高濃度でのTXBのゲル化が妨げられるかまたは有意に低減される医薬組成物が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第9,163,065号明細書
【文献】米国特許第9,402,878号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
したがって、本発明は、TXBのゲル化が妨げられるかまたは有意に低減される、TXBおよびTXBアナログの医薬組成物を提供する。これらのTXBの医薬組成物は、本発明者らが、TXBの医薬組成物中に存在する場合のTXBのゲル化を妨げるかまたは低減する能力に関して、1,000を超える構造的に異なったビヒクルおよびビヒクルの組合せをスクリーニングした後に予想外に発見された。実施例1に記載されているスクリーニングの結果は、TXBのゲル化を妨げるかまたは低減するビヒクルまたはビヒクルの組合せの能力が、たとえ、TXBのような疎水性分子を可溶化するその能力について公知であるビヒクルまたはビヒクルの組合せに関してであっても、予測不能であることを示す。広範囲に及ぶ実験の後に、本発明者らは、ペグ化リン脂質(PPL)がTXBの医薬組成物中に存在する場合に、TXBのゲル化が妨げられるかまたは低減され得ることを発見した。
【0012】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、TXBまたはそのアナログおよびPPLを含む医薬組成物を提供する。
【0013】
いくつかの局面では、PPLは、少なくとも1つの脂質鎖に共有結合により結合したホスホエタノールアミン部分を含む。いくつかの実施形態では、PPLは、式(I)の化合物
【化1】

[式中、
およびRは、独立に、4~50個の炭素原子、0~10個の二重結合または0から10個の三重結合を含むアルキル鎖であり、
前記アルキル鎖は、置換されていないか、またはハロゲン、-NO、-COH、-OR’、-COR’、-OCOR’、-COOR’、-CONR’および-SO(R’は水素またはC1~C6アルキルである)からなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されており、
nは、5~1000の整数であり、
Xは、水素、一価のカチオンまたは二価のカチオンである]である。

【0014】
いくつかの態様では、RとRは異なる。他の態様では、RとRは同一である。
【0015】
いくつかの実施形態では、Rおよび/またはRはそれぞれ、10~20個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、Rおよび/またはRはそれぞれ、二重結合も三重結合も含まない。他の実施形態では、RまたはRは、少なくとも1つの二重結合を含む。さらに他の実施形態では、RおよびRはそれぞれ、少なくとも1つの二重結合を含む。
【0016】
いくつかの態様では、nは、30~150の整数である。いくつかの実施形態では、Xは、水素、Na、K、NH 、Ca2+およびMg2+からなる群から選択される。いくつかの態様では、Xは、NH である。
【0017】
いくつかの実施形態では、nは、5~500、5~50、10~200、40~120、5~150、または50~120の整数である。一実施形態では、nは、45である。別の実施形態では、nは、112である。別の実施形態では、nは、67である。さらに別の実施形態では、nは、23である。さらに別の実施形態では、nは、17である。さらに別の実施形態では、nは、8である。
【0018】
いくつかの実施形態では、PPLは、以下の構造の1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]および1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]:
【化2】

1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、
【化3】

1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、
【化4】

1,2-ジオレオイルsn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
【化5】

1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
からなる群から選択される化合物である。

【0019】
一実施形態では、PPLは、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]であり、例えば、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]は、図2の番号2に示されている16:0 PEG2000 PEとも称される。
【0020】
一実施形態では、PPLは、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]であり、例えば、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]は、図2の番号3に示されているように、14:0 PEG2000 PEとも称される。
【0021】
一実施形態では、PPLは、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]であり、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]は、図2の番号4に示されているように、18:1 PEG2000 PEとも称される。
【0022】
一実施形態では、PPLは、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]であり、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000]は、図2の番号1に示されているように、18:1 PEG5000 PEとも称される。
【0023】
一実施形態では、PPLは、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]であり、例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]は、図2の番号5に示されているように、18:0 PEG2000 PEとも称される。
【0024】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、炭水化物をさらに含み、例えば、炭水化物は、デキストロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、リボース、キシロース、トレオース、マンノースおよびマンニトールからなる群から選択される。
【0025】
いくつかの実施形態では、医薬組成物中のPPLのテイクソバクチンに対する重量比は、約1:1(w/w)のPPL:TXBであるかまたはそれを超える比である。例えば、いくつかの実施形態では、PPLのテイクソバクチンに対する重量比は、約1:1(w/w)から約10:1(w/w)の間のPPL:TXB、例えば、約1:1(w/w)、約1.5:1(w/w)、約2:1(w/w)、約2.5:1(w/w)、約3:1(w/w)、約3.5:1(w/w)、約4:1(w/w)、約4.5:1(w/w)、約5:1(w/w)、約5.5:1(w/w)、約6:1(w/w)、約6.5:1(w/w)、約7:1(w/w)、約7.5:1(w/w)、約8:1(w/w)、約8.5:1(w/w)、約9:1(w/w)、約9.5:1(w/w)または約10:1(w/w)のPPL:TXBである。
【0026】
いくつかの態様では、PPLのテイクソバクチンに対するモル比は、約0.1:1であるかまたはそれを超えるPPL:TXBである。例えば、いくつかの実施形態では、医薬組成物中のPPLのTXBに対するモル比は、約0.1:1から約10:1の間のPPL:TXB、例えば、約0.1:1、約0.2:1、約0.3:1、約0.4:1、約0.5:1、約0.6:1、約0.7:1、約0.8:1、約0.9:1、約1:1、約1.5:1、約2:1、約2.5:1、約3:1、約3.5:1、約4:1、約4.5:1、約5:1、約5.5:1、約6:1、約6.5:1、約7:1、約7.5:1、約8:1、約8.5:1、約9:1、約9.5:1または約10:1のPPL:TXBである。
【0027】
いくつかの実施形態では、本発明は、TXBの医薬組成物を調製する方法であって、以下のステップ、
PPLを含む水溶液を提供するステップと、
PPLを含む水溶液にテイクソバクチンを添加するステップと
を含む方法も提供する。
【0028】
いくつかの実施形態では、方法は、以下のステップ、
PPLを含む水溶液を提供するステップと、
PPLを含む水溶液にテイクソバクチンを添加するステップと、
PPLおよびテイクソバクチンを含む水溶液に炭水化物を添加するステップと
を含む。
【0029】
いくつかの態様では、本発明は、細菌感染の処置を必要としている被験体の細菌感染を処置するための方法であって、前記被験体に、TXBを含む本発明の医薬組成物を投与するステップを含む方法も提供する。一実施形態では、医薬組成物は、静脈内投与される。
【0030】
さらなる実施形態では、細菌感染は、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)によってまたはMycobacterium tuberculosisによって引き起こされる。
【0031】
いくつかの実施形態では、被験体は、ヒトである。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
テイクソバクチン(TXB)およびペグ化リン脂質(PPL)を含む医薬組成物。
(項目2)
前記PPLが、少なくとも1つの脂質鎖に共有結合により結合したホスホエタノールアミン部分を含む、項目1に記載の医薬組成物。
(項目3)
前記PPLが、式(I)の化合物
【化13】

[式中、
およびR は、独立に、4~50個の炭素原子、0~10個の二重結合または0から10個の三重結合を含むアルキル鎖であり、
前記アルキル鎖は、置換されていないか、またはハロゲン、-NO 、-COH、-OR’、-COR’、-OCOR’、-COOR’、-CONR’および-SO (R’は水素またはC1~C6アルキルである)からなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されており、
nは、5~1000の整数であり、
Xは、水素、一価のカチオンまたは二価のカチオンである]
である、項目2に記載の医薬組成物。
(項目4)
とR が異なる、項目3に記載の医薬組成物。
(項目5)
とR が同一である、項目3に記載の医薬組成物。
(項目6)
および/またはR がそれぞれ、10~20個の炭素原子を含む、項目3から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目7)
および/またはR がそれぞれ、二重結合も三重結合も含まない、項目3から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目8)
および/またはR がそれぞれ、少なくとも1つの二重結合を含む、項目3から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目9)
nが、30~150の整数である、項目3から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目10)
Xが、水素、Na 、K 、NH 、Ca 2+ およびMg 2+ からなる群から選択される、項目3から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目11)
前記PPLが、以下の構造の1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]および1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]:
【化14】

1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、
【化15】

1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、
【化16】

1,2-ジオレオイルsn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
【化17】

1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
からなる群から選択される化合物である、項目3に記載の医薬組成物。
(項目12)
Xが、NH である、項目11に記載の医薬組成物。
(項目13)
炭水化物をさらに含む、項目1から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目14)
前記炭水化物が、デキストロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、リボース、キシロース、トレオース、マンノースおよびマンニトールからなる群から選択される、項目13に記載の医薬組成物。
(項目15)
PPLのテイクソバクチンに対する重量比が、約1:1(w/w)またはそれを超えるPPL:TXBである、項目1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(項目16)
PPLのテイクソバクチンに対する重量比が、約1:1(w/w)から約10:1(w/w)の間のPPL:TXBである、項目15に記載の医薬組成物。
(項目17)
PPLのテイクソバクチンに対する重量比が、約1:1(w/w)、約1.5:1(w/w)、約2:1(w/w)、約2.5:1(w/w)、約3:1(w/w)、約3.5:1(w/w)、約4:1(w/w)、約4.5:1(w/w)、約5:1(w/w)、約5.5:1(w/w)、約6:1(w/w)、約6.5:1(w/w)、約7:1(w/w)、約7.5:1(w/w)、約8:1(w/w)、約8.5:1(w/w)、約9:1(w/w)、約9.5:1(w/w)および約10:1(w/w)のPPL:TXBからなる群から選択される、項目16に記載の医薬組成物。
(項目18)
項目1から17のいずれか一項に記載の医薬組成物を調製する方法であって、以下のステップ、
PPLを含む水溶液を提供するステップと、
PPLを含む前記水溶液にテイクソバクチンを添加するステップと
を含む、方法。
(項目19)
以下のステップ、
PPLを含む水溶液を提供するステップと、
PPLを含む水溶液にテイクソバクチンを添加するステップと、
PPLおよびテイクソバクチンを含む前記水溶液に炭水化物を添加するステップと
を含む、項目18に記載の方法。
(項目20)
細菌感染の処置を必要としている被験体の細菌感染を処置するための方法であって、前記被験体に、項目1から16のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与し、それによって、前記被験体の前記細菌感染を処置するステップを含む方法。
(項目21)
前記医薬組成物が、静脈内投与される、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記細菌感染が、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)によって引き起こされる、項目20または21に記載の方法。
(項目23)
前記細菌感染が、Mycobacterium tuberculosisによって引き起こされる、項目20または21に記載の方法。
(項目24)
前記被験体が、ヒトである、項目20から23のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、テイクソバクチンの医薬組成物を調製するためのビヒクルをスクリーニングするために使用される手順の略図である。
【0033】
図2図2は、アンモニウム塩の形態の例示的なPPLの名称および構造を示す図である。
【0034】
図3図3は、TXB-PPLおよびTXB-水に対する、経時的な循環血液中のTXB濃度を示すグラフである。
【0035】
図4図4は、PPL中TXBの単回投与または5日間連続投与の最大8時間後までの、CD-1マウスにおける循環血液中のTXB濃度を示すグラフである。
【0036】
図5図5は、12.5mg/kg/日または25.0mg/kg/日用量のTXB-PPLの投与後8時間にわたる、Sprague-Dawleyラットの血中におけるTXB濃度を示すグラフである。
【0037】
図6図6は、10mg/kg/日または20mg/kg/日用量のTXB-PPLの投与後24時間にわたる、New Zealand Whiteウサギの血中におけるTXB濃度を示すグラフである。
【0038】
図7図7は、様々な処置群および未処置群に関する大腿組織1グラム当たりのlog10CFUを示す棒グラフである。「n/a」と標識した棒グラフは、感染したが、感染の2時間後に未処置の対照群に対応する。破線は、投与時の感染レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、TXBのゲル化、例えば、血清中のTXBのゲル化が、TXBがペグ化リン脂質(PPL)も含む医薬組成物の一部として被験体に投与される場合に、妨げられるかまたは有意に低減され得るという驚くべき発見に基づく。
【0040】
本発明の医薬組成物
いくつかの実施形態では、本発明は、テイクソバクチン(TXB)またはテイクソバクチンアナログ(TXBアナログ)およびペグ化リン脂質(PPL)を含む医薬組成物を提供する。本明細書で使用される場合、用語「テイクソバクチン」は、用語「TXB」と交換可能に使用され、以下の構造式のデプシペプチド
【化6】
を包含する。
【0041】
TXBは、例えば、米国特許第9,163,065号および米国特許第9,402,878号に記載されており、それらの文書はそれぞれ、内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる。用語「テイクソバクチン」は、テイクソバクチンの互変異性体またはテイクソバクチンの塩、例えば、テイクソバクチンの薬学的に許容される塩も含む。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「テイクソバクチンアナログ」は、用語「TXBアナログ」と交換可能に使用され、TXBの化学構造と類似する化学構造を有し、かつ抗菌活性を示す任意の化合物を包含する。いくつかの実施形態では、TXBアナログは、TXBの化学構造を改変することによって得られる。本発明に包含されるTXBアナログの非限定的な例には、例えば、Yang et al., Chem Commun(Camb). 2017 Feb 28;53(18):2772-2775;Jin et al., Bioorg Med Chem. 2017 Sep 15;25(18):4990-4995;Parmar et al., Chem Commun(Camb). 2017 Jul 6;53(55):7788-7791;Fiers et al., ACS Infect Dis. 2017 Oct 13;3(10):688-690;Abdel Monaim et al., J Med Chem. 2017 Sep 14;60(17):7476-7482;Monaim et al., Molecules. 2017 Sep 28;22(10);Chen et al., Chem Commun(Camb). 2017 Oct 12;53(82):11357-11359;Guo et al., Chemistry. 2017 Oct 9. doi: 10.1002/chem.201704167;Schumacher et al., Org Biomol Chem. 2017 Oct 25;15(41):8755-8760;Abdel Monaim et al., Bioorg Med Chem. 2017 Sep 30. pii: S0968-0896(17)31609-7;Singh, Future Med Chem. 2018 Jan;10(2):133-134;Mandalapu et al., J Org Chem. 2018 Jan 31. doi: 10.1021/acs.joc.7b02462;Parmar et al., J Med Chem. 2018 Jan 24. doi: 10.1021/acs.jmedchem.7b01634;Jin et al., Bioorg Med Chem. 2018 Feb 1. pii: S0968-0896(18)30002-6;Parmar et al., Chem Commun(Camb). 2016 Apr 26;52(36):6060-3;Parmar et al., Chem Commun(Camb). 2017 Feb 7;53(12):2016-2019;およびYad et al., Org Lett. 2015 Dec 18;17(24):6182-5に記載されているTXBアナログを含み、これらのそれぞれの内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0043】
用語「塩」または「複数の塩」は、本明細書で使用される場合、無機酸および/または有機酸で形成される酸性塩を包含する。一実施形態では、塩は、薬学的に許容される塩、例えば、非毒性の塩であり得る。TXBの塩は、例えば、塩がその中で沈殿するものなどの媒体中または水性媒体もしくは水性有機媒体中で、TXBを、一定量の、例えば、等量の酸と反応させ、凍結乾燥させることによって形成することができる。
【0044】
TXBはまた、塩基性部分(例えば、アミンまたはグアニジン)を含有し、従って、様々な有機酸および無機酸と塩を形成し得る。例示的な酸付加塩には、酢酸塩(酢酸またはトリハロ酢酸、例えばトリフルオロ酢酸を用いて形成されるものなど)、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、ヒドロキシエタンスルホン酸塩(例えば、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩(例えば、2-ナフタレンスルホン酸塩)、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニルプロピオン酸塩(例えば、3-フェニルプロピオン酸塩)、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩(硫酸を用いて形成されるものなど)、スルホン酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、例えばトシル酸塩、ウンデカン酸塩等が含まれる。いくつかの実施形態では、TXBは、塩化物塩、例えば、二塩化物塩の形態であり得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、TXBは、細菌種から単離された天然産物、例えば、細菌単離株ISO18629の天然産物である。細菌単離株ISO18629は、2013年9月6日に、Agricultural Research Service Culture Collection(NRRL)、National Center for Agricultural Utilization Research、Agricultural Research Service、U.S. Department of Agriculture、1815 North University Street、Peoria,Illinois 61604に寄託され、NRRL受託番号B-50868を割り当てられた。特定の実施形態では、テイクソバクチンは、細菌単離株ISO18629のin vitro培養物から単離され得る。
【0046】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1つのペグ化リン脂質(PPL)を含む。用語「ペグ化リン脂質」は、用語「PPL」と交換可能に使用され、リン脂質およびポリエチレングリコール(PEG)を含む分子を指す。いくつかの実施形態では、リン脂質は、PEGに共有結合により結合されていてもよい。いくつかの実施形態では、リン脂質は、少なくとも1つの二重結合または少なくとも1つの三重結合をさらに含む脂質尾部を含み得る。
【0047】
PPLは、本発明の医薬組成物中に、塩、例えば、薬学的に許容される塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩またはアンモニウム塩の形態で存在し得る。特定の一実施形態では、PPLは、本発明の医薬組成物中に、アンモニウム塩の形態で存在する。別の特定の実施形態では、PPLは、本発明の医薬組成物中に、ナトリウム塩として存在する。
【0048】
PPLの一部であるリン脂質は、当技術分野で公知の任意のリン脂質であってもよい。本発明の文脈で有用なリン脂質の非限定的な例には、グリセロリン脂質、例えば、ホスファチジン酸(ホスファチデート、PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン、PE)、ホスファチジルコリン(レシチン、PC)、ホスファチジルセリン(PS)およびホスホイノシチド、例えば、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトールビスリン酸(PIP2)およびホスファチジルイノシトールトリホスフェート(PIP3)が含まれる。リン脂質の非限定的な例には、スフィンゴリン脂質、例えば、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン、SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン、Cer-PE)およびセラミドホスホリル脂質(ceramide phosphoryllipid)も含まれる。
【0049】
PPLの一部であり得るリン脂質の非限定的な例には、少なくとも1つの脂質鎖、例えば、4~50個の炭素原子、0~10個の二重結合または0~10個の三重結合を含むアルキル鎖に共有結合により結合されているホスホエタノールアミン部分を含むリン脂質も含まれる。
【0050】
用語「ポリエチレングリコール」は、用語「PEG」と交換可能に使用され、エチレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーを指す。いくつかの実施形態では、PEGは、リン脂質に共有結合により結合し、ペグ化リン脂質(PPL)を生じる。いくつかの態様では、PEGは、少なくとも5つのエチレンオキシド単位、例えば、少なくとも10単位、少なくとも20単位、少なくとも40単位、少なくとも50単位、少なくとも100単位、少なくとも200単位、少なくとも300単位、少なくとも500単位、少なくとも600単位、少なくとも700単位、少なくとも800単位、少なくとも900単位または少なくとも1000単位を含む。いくつかの実施形態では、PEGは、少なくとも約50ダルトン(Da)、少なくとも約100Da、少なくとも約200Da、少なくとも約300Da、少なくとも約400Da、少なくとも約500Da、少なくとも約600Da、少なくとも約700Da、少なくとも約800Da、少なくとも約900Da、少なくとも約1000Da、少なくとも約1500Da、少なくとも約2000Da、少なくとも約2500Da、少なくとも約3000Da、少なくとも約3500Da、少なくとも約4000Da、少なくとも約4500Da、少なくとも約5000Da、少なくとも約5500Da、少なくとも約6000Da、少なくとも約6500Da、少なくとも約7000Da、少なくとも約7500Da、少なくとも約8000Da、少なくとも約8500Da、少なくとも約9000Da、少なくとも約9500Daまたは少なくとも約10000Daの平均分子量(平均MW)を有する。特定の一実施形態では、本発明の文脈において有用なPEGの平均MWは、2000Daである。別の特定の実施形態では、PEGの平均MWは、5000Daである。
【0051】
いくつかの例では、PPLは、ホスホエタノールアミン部分およびPEGを含むリン脂質を含み、式(I)の化合物
【化7】

[式中、
およびRは、独立に、4~50個の炭素原子、0~10個の二重結合または0から10個の三重結合を含むアルキル鎖であり、
アルキル鎖は、置換されていないか、またはハロゲン、-NO、-COH、-OR’、-COR’、-OCOR’、-COOR’、-CONR’および-SO(R’は水素またはC1~C6アルキルである)からなる群から選択される1つまたは複数の置換基で置換されており、
nは、5~1000の整数であり、
Xは、水素、一価のカチオンまたは二価のカチオンである]
である。

【0052】
いくつかの例では、RとRは、異なっていてもよい。他の例では、RとRは、同一であってもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、RおよびRは、10~20個の炭素原子を含み得る。ある特定の実施形態では、RおよびRは、二重結合も三重結合も含まない場合があり、またはそれぞれ、少なくとも1つの二重結合を含み得る。
【0054】
式(I)では、nは、エチレングリコール単位の数を示し、30~150、例えば、30~50、40~100、60~80、70~120または100~150の整数であり得る。
【0055】
式(I)では、Xは、水素、Na、K、NH 、Ca およびMg からなる群から選択され得る。特定の一実施形態では、Xは、NH である。別の特定の実施形態では、Xは、Naである。
【0056】
いくつかの例では、式(I)のPPLは、以下の構造の1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]および1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]:
【化8】

1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、
【化9】

1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、
【化10】

1,2-ジオレオイルsn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
【化11】

1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
からなる群から選択される化合物であり得る。

【0057】
特定の一実施形態では、式(I)のPPLは、以下の構造の1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]:
【化12】

1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]
である。
【0058】
一例では、PPLは、図2の番号2で示されている、16:0 PEG2000 PEとも称される、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、例えば、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]であり得る。16:0 PEG2000 PEは、平均分子量2000Daを有するPEGを含む。
【0059】
別の例では、PPLは、図2の番号3で示されている、14:0 PEG2000 PEとも称される、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、例えば、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]であり得る。14:0 PEG2000 PEは、平均分子量2000Daを有するPEGを含む。
【0060】
別の例では、PPLは、図2の番号4で示されている、18:1 PEG2000 PEとも称される、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]であり得る。18:1 PEG2000 PEは、平均分子量2000Daを有するPEGを含む。
【0061】
さらに別の例では、PPLは、図2の番号1で示されている、18:1 PEG5000 PEとも称される、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000]であり得る。18:1 PEG5000 PEは、平均分子量5000Daを有するPEGを含む。
【0062】
さらに別の例では、PPLは、図2の番号5に示されている、18:0 PEG2000 PEとも称される、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]、例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]であり得る。18:0 PEG2000 PEは、平均分子量2000Daを有するPEGを含む。
【0063】
PPLおよびTXBは、PPLのテイクソバクチンに対する重量比が、約1:1(w/w)またはそれを超えるPPL:TXBの重量比で、本発明の医薬組成物中に存在し得る。例えば、本発明の医薬組成物中のPPLのTXBに対する重量比は、約1:1(w/w)~約10:1(w/w)の間のPPL:TXB、例えば、約1:1(w/w)、約1.5:1(w/w)、約2:1(w/w)、約2.5:1(w/w)、約3:1(w/w)、約3.5:1(w/w)、約4:1(w/w)、約4.5:1(w/w)、約5:1(w/w)、約5.5:1(w/w)、約6:1(w/w)、約6.5:1(w/w)、約7:1(w/w)、約7.5:1(w/w)、約8:1(w/w)、約8.5:1(w/w)、約9:1(w/w)、約9.5:1(w/w)または約10:1(w/w)のPPL:TXBであり得る。特定の一実施形態では、本発明の医薬組成物中のPPLのTXBに対する重量比は、約1:1(w/w)である。本発明のある特定の実施形態では、PPLのTXBに対する重量比は、約1以上:1のPPL:TXB(w/w)である。PPLが1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)]である場合、出願人は、驚くべきことに、PPLのTXBに対する重量比が、約1未満:1のPPL:TXB(w/w)である場合に、TXBのゲル化が起こることを発見した。
【0064】
いくつかの実施形態では、PPLおよびTXBは、約0.1:1またはそれを超えるPPLのテイクソバクチンに対するモル比で、本発明の医薬組成物中に存在し得る。例えば、本発明の医薬組成物中のPPLのTXBに対するモル比は、約0.1:1~約10:1の間のPPL:TXB、例えば、約0.1:1、約0.2:1、約0.3:1、約0.4:1、約0.5:1、約0.6:1、約0.7:1、約0.8:1、約0.9:1、約1:1、約1.5:1、約2:1、約2.5:1、約3:1、約3.5:1、約4:1、約4.5:1、約5:1、約5.5:1、約6:1、約6.5:1、約7:1、約7.5:1、約8:1、約8.5:1、約9:1、約9.5:1または約10:1のPPL:TXBであり得る。一実施形態では、本発明の医薬組成物中のPPLのTXBに対するモル比は、約0.1:1のPPL:TXBである。別の実施形態では、本発明の医薬組成物中のPPLのTXBに対するモル比は、約0.5:1のPPL:TXBである。別の実施形態では、本発明の医薬組成物中のPPLのTXBに対するモル比は、約1:1のPPL:TXBである。さらに別の実施形態では、本発明の医薬組成物中のPPLのTXBに対するモル比は、約2:1のPPL:TXBである。さらに別の実施形態では、本発明の医薬組成物中のPPLのTXBに対するモル比は、約5:1のPPL:TXBである。本発明のある特定の実施形態では、PPLのTXBに対するモル比は、約1以上:1のPPL:TXBである。
【0065】
本発明の医薬組成物は、追加の成分をさらに含み得る。一実施形態では、追加の成分は、炭水化物である。本発明の医薬組成物において使用するのに適する炭水化物の非限定的な例には、デキストロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、リボース、キシロース、トレオース、マンノースおよびマンニトールが含まれる。特定の一例では、炭水化物は、キシロースである。別の特定の例では、炭水化物は、グルコースである。さらに別の特定の例では、炭水化物は、デキストロースである。さらに別の特定の例では、炭水化物は、スクロースである。さらに別の特定の例では、炭水化物は、ガラクトースである。
【0066】
本発明の医薬組成物は、TXBのゲル化を避けるかまたは有意に低減させながら、TXBの治療有効濃度が被験体において達成されるように、TXBを被験体に投与することを可能にする。ある特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、TXBが、約30μg/mLまたはそれより多い、例えば、約40μg/mLもしくは約50μg/mLまたはそれより多いTXB濃度で、被験体の血清中に存在する場合に、TXBのゲル化を妨げる。ある特定の実施形態では、TXBがPPLを含む本発明の医薬組成物中に存在する場合のTXBのゲル化は、TXBがPPLを含まない水溶液中に存在する場合のTXBのゲル化と比較して、少なくとも約10%、例えば、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%低減される。
【0067】
本発明の医薬組成物を調製する方法
本発明の医薬組成物は、当業者が、医薬組成物を調製するために適すると認識するであろう任意の方法によって調製することができる。本発明の医薬組成物を調製するための例示的な方法は、以下のステップ、
PPLを含む水溶液を提供するステップと、
PPLを含む水溶液にTXBを添加するステップと
を含み得る。
【0068】
さらなる例では、本発明の医薬組成物を調製するための方法は、以下のステップ、
PPLを含む水溶液を提供するステップと、
PPLを含む水溶液にTXBを添加するステップと、
PPLおよびTXBを含む水溶液に炭水化物を添加するステップと
を含み得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、炭水化物は、デキストロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、リボース、キシロース、トレオース、マンノースおよびマンニトールからなる群から選択され得る。
【0070】
本発明者らは、意外なことに、上記で概説されたステップの順序を維持すること、例えば、PPLを含む水溶液にTXBを添加すること、またはPPLを含む水溶液にTXBを添加し、次いでこの水溶液に炭水化物を添加することが、TXBの有効な医薬組成物が形成されるのを確実にするために重要であることを発見した。医薬組成物の成分、すなわち、PPL、TXBまたはPPL、TXB、および炭水化物が、上記で明示した順序と異なる順序で、一緒に添加される場合、TXBの有効な医薬組成物が形成されない場合がある。
【0071】
本発明の医薬組成物を使用する処置方法
本発明は、病原体による感染を処置する方法も提供する。この方法は、病原体による感染の処置を必要としている被験体に、本発明の医薬組成物を投与し、それによって、被験体の病原体による感染を処置するステップを含む。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、病原体の成長を阻害するステップも含む、および病原体を本発明の医薬組成物と接触させ、それによって病原体の成長を阻害するステップも含む。病原体の非限定的な例には、それらに限定されるものではないが、細菌、真菌、ウイルス、原生動物、蠕虫、寄生生物、およびそれらの組合せが含まれる。
【0072】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、それを必要としている被験体に有効な量で投与される。用語「有効量」は、本明細書で使用される場合、被験体、例えば、動物において所望の効果を生じるのに有効である医薬組成物の量を指す。薬剤が、治療効果を達成するのに使用される場合、「有効量」を含む実際の用量は、それらに限定されるものではないが、処置される特定の状態、疾患の重症度、患者の大きさおよび健康状態、ならびに投与経路を含むいくつかの条件に応じて変わることが認識されている。熟練した医療従事者であれば、医療分野で周知の方法を使用して、適切な用量を容易に決定することができる。いくつかの実施形態では、有効量は、障害の処置を必要としている被験体における障害を処置するため、例えば、病原体による感染を処置するために有効な量である。他の実施形態では、有効量は、例えば、本発明の医薬組成物が被験体に投与されない場合の病原体の成長と比較して、被験体における病原体の成長を阻害するのに有効な量である。さらに他の実施形態では、有効量は、例えば、本発明の医薬組成物が被験体に投与されない場合の病原体の成長と比較して、病原体の成長を低減することに有効な量も含む。さらに別の実施形態では、有効量は、病原体に感染した、または病原体と接触した被験体に投与された場合に、病原体の死滅をもたらす、本発明の医薬組成物の量である。
【0073】
さらに、本発明の医薬組成物の有効量は、微調整することによってかつ/または本発明の医薬組成物を単独で、もしくは別の治療剤(例えば、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、NSAID、DMARD、ステロイドなど)と併用して投与することによって低減または増大できることを、熟練した医療従事者は理解するであろう。有効量は、例えば経験的に、相対的に少ない量で開始し、段階的に増分すると同時に有益な効果(例えば、症状の低減)を評価することによって、決定することができる。実際の有効量は、当技術分野で標準的な方法を使用して、用量/応答アッセイによって確立される(Johnson et al., Diabetes. 42:1179,(1993))。当業者に公知の通り、上記有効量は、TXBおよびTXBを含む医薬組成物の生体利用能、生物活性、および生分解性に応じて決まる。
【0074】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物の有効量は、被験体の障害の症状、例えば、病原体による感染の症状を低減するのに十分な量である。したがって、この有効量は、処置を受ける被験体によって変わる場合がある。例えば、本発明の医薬組成物の有効量は、体重1kg当たり約1μg~体重1kg当たり約100mg、例えば、約1μg/kg~約100μg/kg、約50μg/kg~約500μg/kg、約200μg/kg~約1mg/kg、約800μg/kg~約10mg/kg、約1mg/kg~約10mg/kg、約5mg/kg~約20mg/kg、約15mg/kg~約40mg/kg、約25mg/kg~約50mg/kg、約30mg/kg~約65mg/kg/ 約50mg/kg~約75mg/kg、約60mg/kg~約80mg/kg、約75mg/kg~約95kgまたは約80mg/kg~約100mg/kgのTXBの用量を被検体に投与するのに十分なTXBの量を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物の有効量は、約1mg~約1000mgの間、例えば、約1mg~約10mg、約5mg~約20mg、約10mg~約50mg、約25mg~約70mg、約40mg~約85mg、約70mg~約100mg、約90mg~約200mg、約100mg~約250mg、約200mg~約500mg、約400mg~約700mg、約500mg~約750mgまたは約650mg~約1000mgであるTXBの用量を含む。
【0076】
本発明の医薬組成物の投与は、1時間毎、毎日、毎週、毎月、毎年行うことができ、または単回事象であってもよい。さらに、投与は、1日から1年またはそれを超える期間行うことができる。いくつかの実施形態では、投与は、一定期間、例えば、約1週間、2週間、3週間、1カ月間、3カ月間、6カ月間または1年間にわたって毎日投与することを指し得る。いくつかの実施形態では、投与は、一定期間、例えば、約1カ月、3カ月、6カ月、1年またはそれを超える期間にわたって毎週投与することを指し得る。
【0077】
本明細書に記載の通り、本発明の医薬組成物は、病原体による感染を処置する方法において、または病原体の成長を阻害する方法において有用である。いくつかの実施形態では、病原体は、細菌、例えば、グラム陽性細菌またはグラム陰性細菌であり得る。グラム陽性細菌の非限定的な例には、Streptococcus、Staphylococcus、Enterococcus、Corynebacteria、Listeria、Bacillus、Erysipelothrix、およびActinomycetesが含まれる。いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、以下の1種または複数種による感染を処置するために有用である:Helicobacter pylori、Legionella pneumophilia、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium avium、Mycobacterium intracellulare、Mycobacterium kansaii、Mycobacterium gordonae、Mycobacteriaスポロゾイト(Mycobacteria sporozoites)、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、Listeria monocytogenes、化膿性Streptococcus(Streptococcus pyogenes)(A群Streptococcus)、化膿性Streptococcus agalactiae(B群Streptococcus)、Streptococcus dysgalactia、Streptococcus faecalis、Streptococcus bovis、Streptococcus pneumoniae、病原性Campylobacter スポロゾイト、Enterococcusスポロゾイト、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Bacillus anthracis、Bacillus subtilis、Escherichia coli、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium jeikeium、Corynebacteriumスポロゾイト、Erysipelothrix rhusiopathiae、Clostridium perfringens、Clostridium tetani、Clostridium difficile、Enterobacter aerogenes、Klebsiella pneumoniae、Pasturella multocida、Bacteroides thetaiotamicron、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatus、Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、Leptospira、およびActinomyces israelli。特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)またはバンコマイシン耐性Entercocci(VRE)による感染を処置するために有用である。米国において、MRSAにより、年間およそ19,000人が死亡している。これらの死亡のほとんどは、院内MRSA(HA-MRSA)に起因するが、市中MRSA(CA-MRSA)の方が実際には病原性が高く、まだ健康な個体にとっても致死的となる可能性があることが公知である。CA-MRSAの毒性(virulence)は、部分的に、フェノール可溶性モジュリンまたはPSMペプチドの発現に起因する。したがって、CA-MRSAを処置するのに、本発明の医薬組成物を、それに限定されるものではないがPSMペプチドなどの毒性因子の発現および/または活性をモジュレートする薬剤と組み合わせて使用することができる。特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、Borelia burgdorferi、Treponema pallidium、およびTreponema pertenueなどのスピロヘータによる感染を処置するために有用であり得る。
【0078】
特定の一実施形態では、グラム陽性菌は、Staphylococcus(例えば、S.aureus spp.、S.epidermidis spp.、S.warneri spp.およびS.haemolyticus spp.を含む);Streptococcus(例えば、S.viridans spp.、S.pneumoniae spp.、S.agalactiae spp.およびS.pyogenes spp.を含む);Bacillus(例えば、B.anthracis spp.およびB.subtilis, spp.を含む);Clostridium(例えば、C.difficile spp.を含む);Propionibacterium(例えば、P.acnes spp.を含む);Enterococcus(例えば、E.faecium spp.、E.faecalis spp.、バンコマイシン耐性E.faecium spp.およびバンコマイシン耐性E.faecalis spp.を含む);およびMycobacterium(例えば、M.smegmatis spp.およびM.tuberculosis spp.を含む)からなる群より選択することができる。特定の実施形態では、細菌は、M.tuberculosisである。
【0079】
本明細書に記載の本発明の医薬組成物は、これらの細菌によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。このような障害の例には、急性の細菌性皮膚および皮膚組織感染症、C.difficileに関連する下痢、炭疽、敗血症、ボツリヌス中毒、尿路感染症、菌血症、細菌性心内膜炎、憩室炎、髄膜炎、肺炎、および結核が含まれる。
【0080】
本発明の医薬組成物は、これらの細菌によって引き起こされる障害を処置するのに有用である。このような障害の例には、インフルエンザ、菌血症、肺炎、急性の細菌性髄膜炎、淋疾、尿路感染症、気道感染症、カテーテルに関連する菌血症、創傷感染症、中耳炎、気管支炎、副鼻腔炎、および喉頭炎が含まれる。
【0081】
本発明の方法では、TXBを含む医薬組成物がそれを必要としている被検体に投与される。用語「被験体」は、本明細書で使用される場合、動物、例えば、それらに限定されるものではないが、ペット(例えば、ネコ、イヌ、フェレットなど)、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ヤギなど)、実験動物(例えば、ラット、マウス、サルなど)、および霊長類(例えば、チンパンジー、ヒトまたはゴリラ)を含む哺乳動物を含む。特定の実施形態では、被験体は、ヒトである。
【0082】
本発明の医薬組成物の投与
本発明の医薬組成物は、例えば、局所的または全身的に、当技術分野で公知の任意の方法によって投与されてもよい。例示的な投与経路には、経口、非経口、経皮、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内(例えば、ネブライザー、吸入器、エアロゾルディスペンサによる)、眼内(例えば、結膜炎の処置用)、耳内(例えば、耳の感染症の処置用)、結腸直腸、直腸、膣内、およびその任意の組合せが挙げられる。さらに、中枢神経系には、脳室内および髄腔内注入を含む任意の適切な経路によって、本発明の薬学的組成物を導入することが望ましい場合がある。脳室内注入は、例えばOmmayaリザーバーなどのリザーバーに取り付けた脳室内カテーテルによって容易になる場合がある。導入方法は、再充填可能なまたは生分解性デバイス、例えばデポーによって提供することもできる。さらに投与は、デバイス、移植片、ステントまたは人工器官をコーティングすることによって行うこともできることが意図される。特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、静脈内投与される。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、他の薬剤との併用療法の一部として投与することができる。併用療法とは、2種またはそれよりも多い異なる治療剤を併用する任意の投与形態を指す。いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、以前に投与された治療剤が依然として体内で有効である間に投与される(例えば、2つの治療剤が患者において同時に有効であり、2つの化合物の相乗効果を含むことができる)。例えば、異なる治療剤は、同じ製剤の一部としてまたは別々の製剤として、同時にまたは逐次的に、のいずれかで投与することができる。
【0084】
例えば、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの他の公知の抗生物質と併用して投与することができる。本発明の医薬組成物および少なくとも1つの他の公知の抗生物質は、逐次的にまたは実質的に同時に投与することができる。TXBもしくは他の公知の抗生物質、またはその両方に対する耐性を生じる上記病原体、例えば、細菌の能力を低減するのに、抗生物質を変更することは有益であり得る。本発明の医薬組成物と併用して投与することができる他の公知の抗生物質の非限定的な例には、ペニシリン(例えば、天然ペニシリン、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン、抗シュードモナスペニシリン、アミノペニシリン)、テトラサイクリン、マイクロライド(例えば、エリスロマイシン)、リンコサミド(例えば、クリンダマイシン)、ストレプトグラミン(例えば、Synercid)、アミノグリコシド、およびスルホンアミドが挙げられる。いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、それに限定されるものではないが、フェノール可溶性モジュリンなどの毒性因子を標的にする化合物と併用して投与され得る。他の実施形態では、本発明の医薬組成物は、上記病原体の排出ポンプを標的にする化合物と併用して投与され得る。
【0085】
本発明は、限定的なものと解釈されるべきではない以下の実施例によって、さらに例示される。本願を通して引用されるすべての参考文献、特許文書および公開された特許出願文書の内容は、その全体が本明細書において参照によって明示的に組み込まれる。
【実施例
【0086】
(実施例1)
TXBの医薬組成物において使用するためのビヒクルとしてのペグ化リン脂質(PPL)の識別
この研究の目的は、血清中のTXBのゲル化を妨げるかまたは有意に低減する、TXBの医薬組成物に含まれるのに適するビヒクルを識別することであった。この目標を達成するために、一般的に安全とみなされ(Generally Regarded as Safe)(GRAS)、FDAに承認された1,000を超えるビヒクルおよびビヒクルの組合せをスクリーニングした。ビヒクルは、構造的に多様であった。表1は例示的なスクリーニングしたビヒクルを列挙する。
【0087】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0088】
図1は、ビヒクルをスクリーニングするために使用される手順の略図である。第1のステップとして、TXBを可溶化する能力についてビヒクルをスクリーニングした。次に、ウサギ血清中におけるTXBのゲル化および沈殿を、立体画像の検出およびゼータサイザー分析を使用してモニターした。最後に、マウスおよびウサギに関するin vitroおよびin vivoアッセイを使用して、TXBに適するビヒクルのリストを絞った。
【0089】
ペグ化リン脂質(PPL)を、TXB製剤に対する先導的ビヒクル候補物質として識別した。図2は、アンモニウム塩の形態の例示的なPPLの名称および構造を示す。
【0090】
(実施例2)
TXBの例示的な医薬組成物の特徴付け
TXBを含む例示的な医薬組成物をPPLと共に調製し、以降で「TXB-PPL」と称する。この医薬組成物では、TXBは、最大2000μg/mLの濃度で血清に添加された場合に、顕著にゲル化しなかった。これは、以前の最良の製剤に対して約25倍を超える改善である。
【0091】
TXB-PPLの一部として試験した場合、TXBは、0.25μg/mLのMRSAに対して、および0.125μg/mLのM.tuberculosis株に対してMICを有した。これは、TXBが、PPLと共に製剤化された場合に、その抗菌的効能を失わなかったことを示す。この医薬組成物では、TXBは、脂質IIおよび脂質IIIにも結合し、Ling et al., Nature 2015, 517:455-459に記載の作用機序と一致した。
【0092】
TXB-PPLのin vivoスクリーニングは、CD-1マウス敗血症モデルにおいて、尾静脈への静脈内投与によって実施した。TXB-PPLの最大耐用量(MTD)を少なくとも50mg/kgであると決定した。これは、水中に溶解したTXB(TXB-水)のMTDより約5倍多い。予備薬物動態(PK)研究を、遊離TXB(TXB-水)に対するTXB-PPLの血中レベルを比較するために、マウスにおいて実施した。第1の研究では、PPL中20mg/kgのTXBの単回用量を静脈内に投与し、循環血液中のTXB濃度を注射後8時間にわたり測定した。第2の研究では、PPL中50mg/kgのTXBの単回用量またはPPL中50mg/kgの複数回連続投与を5日間にわたり静脈内に投与し、循環血液中のTXB濃度を注射後8時間にわたり測定した。
【0093】
表2は、実験において決定した種々の薬物動態パラメーターを示す。
【0094】
【表2】
【0095】
図3は、TXB-PPLおよびTXB-水に対する、経時的な循環血液中のTXB濃度を示すグラフである。表2および図3に示した結果は、注射の0.5時間後の循環血液中のTXB濃度が、TXB-水の注射後より、TXB-PPLの注射後に約11倍高いことを示す。この結果は、TXB-PPLの注射により、最大8時間、M.tuberculosisに対する最少阻害濃度(MIC)よりも高い循環血液中のTXBレベルがもたらされることも示す。
【0096】
図4は、単回投与またはPPL中TXBの5日間連続投与の最大8時間後までの、循環血液中のTXB濃度を示すグラフである。この結果は、TXBの単回投与および複数回投与の両方の場合に、循環血液中のTXB濃度が、MICより約100倍高いレベルのままであることを示す。
【0097】
さらに、TXB-PPLを使用する5日間の耐性およびPK研究をSprague-Dawleyラットを使用して実施した。ラットは、以前のTXB組成物、例えば、20%のカプチゾールおよび5%のデキストロースを含むTXBの組成物を使用して達成された最大耐用量(MTD)よりも高い、12.5mg/kg/日および25mg/kg/日のTXB用量を受けた。血中におけるTXB濃度を、5回目(最終)投与の投与後8時間にわたり測定した。図5は、12.5mg/kg/日または25.0mg/kg/日用量のTXB-PPLの投与後8時間にわたる、Sprague-Dawleyラットの血中におけるTXB濃度を示すグラフである。図5で示した結果は、血中におけるTXB濃度が、数時間、MRSAに対するMICを十分上回ったままであることを示す。いずれの用量でも有害作用は観察されなかった。また、5日目の投与の直前に採取した試料においてTXBはほとんど検出されなかったかまたは検出されず、4日間の期間にわたり、血液中にTXBの有意な蓄積がなかったことを示す。
【0098】
次に、5日間の耐性およびPK研究を、ニュージーランド白ウサギにおいて、10および20mg/kg/日のTXB-PPLおよびTXB用量を使用して実施した。両用量は、5日間の期間にわたり十分に耐性であり、2頭の動物に各用量を注射した。血中におけるTXB濃度を、5回目(最終)投与の投与後24時間にわたり測定し、種々の薬物動態パラメーターを決定した。表3は、実験において決定した種々の薬物動態パラメーターを示す。
【0099】
【表3】
【0100】
図6は、10mg/kg/日または20mg/kg/日用量のTXB-PPLの投与後24時間にわたる、ウサギの血中におけるTXB濃度を示すグラフである。表3および図6に示した結果は、TXB濃度が、10mg/kg/日の用量の反復投与後12時間にわたり、かつ20mg/kg/日の用量の反復投与後24時間にわたり、M.tuberculosisに対するMICを十分に上回ったままであることを示す。PKパラメーターは、ほぼ用量に比例していた。比較すると、ウサギは、より古いTXB製剤、例えば、5%のデキストロースを含むTXB製剤(D5W)または20%のカプチゾールおよび5mg/kg/日のTXB濃度でD5Wを含むTXB製剤の複数日の注射に耐えることができなかった。よって、TXB-PPLは、D5WのTXBまたはTXBよりも耐性が良好である。
【0101】
(実施例3)
TXBの例示的な医薬組成物のin vivoでの有効性。
次に、TXBの有効性が、TXBがPPLと共に製剤化された場合に有害な影響を及ぼさないことを確実にするために、2匹の感染症マウスモデルにおいてTXB-PPLを試験した。第1に、TXB-PPLを標準的なマウスの敗血症保護モデルで試験し、良好な全身曝露を示す予備的な有効性情報を提供する。このモデルは、処置後48時間後に感染したマウスの50%生存率(PD50)をもたらす化合物用量を決定する。感染因子は、一般的に使用される臨床単離株、S.aureus MRSA ATCC 33591であった。雌のCD-1マウスを、腹腔内注射によって、感染後48時間以内に少なくとも90%の死亡率を達成する濃度の、0.5mLの細菌懸濁液(3.28×10CFU/マウス)で感染させた。感染の1時間後にTXBを、10mL/kgの投与体積を使用して、漸増単回用量で、TXB-PPLの一部として静脈内投与した。TXBは、以前に決定した値の0.19mg/kgと同様に(Ling et al., Nature 2015, 517:455-459)、0.24mg/kgの優れたPD50を示した。
【0102】
第2の研究では、MRSA ATCC 33591に感染した好中球減少性マウスの大腿感染モデルを使用した。このモデルは、ほとんどの宿主免疫系を排除した状態で、病原体への薬物の効果を測定するのに有用である。このモデルは、ヒトにおける投与を評価するために、薬物動態/薬力学的(PK/PD)パラメーターを決定するのにも有用である。最後に、これは、TXBに関する潜在的な臨床的適応である、急性細菌性皮膚および皮膚構造感染症(ABSSSI)に関する良好なモデルでもある。雌のCD-1マウス(1群当たり5匹のマウス)を、感染の4日前および1日前に、150mg/kgおよび100mg/kgの2回の連続用量を投与したシクロホスファミドによって好中球減少性であるとみなした。細菌をマウス1匹当たり2.8×10CFUで右大腿に注射した。感染の2時間後に、マウスに10mL/kgの投与体積で、TXB-PPLとして単回用量のTXBを静脈内投与した。マウスの2つの群を、感染したが未処置の対照群とした。感染の2時間後に、感染したが未処置のマウスの1群を安楽死させ、右大腿を無菌的に取り除き、秤量し、ホモジナイズし、連続希釈し、トリプチケースソイ寒天培地上にプレーティングした。48時間後に、コロニーを計数して、処置時の大腿組織1グラム当たりのコロニー形成単位(CFU)を定量した。感染の26時間後に、残りのマウス(処置した群および未処置の対照群)を安楽死させ、上記の通り右大腿を処理した。
【0103】
図7は、様々な処置群および未処置群に関する大腿組織1グラム当たりのlog10CFUを示す棒グラフである。「n/a」と標識した棒グラフは、感染したが、感染の2時間後に未処置の対照群に対応する。破線は、投与時の感染レベルを示す。
【0104】
図7に示した結果は、2.5mg/kgを超える単回静脈内投与としての、TXB-PPLをベースとする医薬組成物の一部として投与したTXBが、病原体負荷を有意に低減したことを示す。ビヒクル対照と比較して、TXB処置によりCFUの3logの低減がもたらされた。これらの結果を、バンコマイシン、および4~5mg/kgの有効用量を有する最近認可された薬物であるOrbactiv(登録商標)(オリタバンシン)と比較するのが好ましい。
【0105】
この研究は、TXBがPPLと共に製剤化される場合、生物活性を少しも損なうことなく、血清中のゲル化の問題が解消されるかまたは有意に低減されることを示す。
【0106】
(実施例4)
TXBの例示的な医薬組成物を使用する追加のin vitroおよびin vivo薬物動態(PK)および安全性薬理研究。
この研究において使用するための動物種。通常、ばらつきを低減するために、非GLPおよびGLP安全性薬理研究では、雄の動物が使用される。しかし、性差を考慮するために、毒性研究では、雄と雌の両方が使用される。約250グラムの体重であり、約7~8週齢のCrl:CD(登録商標)Sprague-Dawleyラット(Charles River Labからの)を、PK、体内分布、排除、安全性薬理および毒性研究のための齧歯類種として使用する。6~12kgの体重であり、7~15カ月齢のビーグル犬(Marshall BioResourcesからの)を、安全性薬理および毒性研究のための非齧歯類種として使用する。in vitro代謝プロファイリングが、他の種がヒトに対してより関連性がある可能性を示す場合は、他の種(例えば、カニクイザル)を使用する。
【0107】
2.2~2.6kgの体重であり、病原体フリーの、雌の、妊娠していないニュージーランド白ウサギ(Covance、Denver、PAからの)は、TB感染を処置する際の有効性を試験するための好ましい種である。この種は、M.tuberculosisへのエアロゾル曝露後に、肺肉芽腫を形成し、ヒトにおける疾患進行に類似する。肺病変の数および病原体負荷により、試験抗生物質の有効性の定量が可能になる。
【0108】
マウスは、PK/PD研究のために選択した齧歯類である。マウスは、ヒトへの細菌感染に関する良好なモデルを与える、最も下等な系統学的種としての長い歴史を有する。この研究では、妊娠していない雌の、約6週齢の、20~25グラムの体重の、病原体フリーICR(CD-1)マウス(Charles River Laboratoriesからの)を使用する。マウスにおける細菌感染は非常に再現し易く、細菌の正確な定量のために大腿を容易に取り除くことができるため、マウスは、この研究にも望ましい。この研究には多数の動物が必要であり、一緒にケージに入れた場合に雄は闘い、ストレス応答を誘発する可能性があるため、この研究では雌のマウスを使用する。また、雌のマウスはMRSAにより簡単に感染し、得られるデータについては、発情周期によるばらつきを考慮する。
【0109】
動物の数。計画された実験のそれぞれにおいて使用する動物の数は、PK、有効性および毒性パラメーターにおける個体間のばらつきを考慮して、科学的に妥当な結果を得るために必要な動物の最小数である。従来からの許容値を以下に対して適用した:1)「検出力」を0.8(存在する場合、処置効果が検出される確率が80%)に設定し、2)「p値」を0.05(偶然に有意差が生じる確率が5%)に設定する。
【0110】
以下の動物研究では、PPLと共に製剤化したTXBを、動物に静脈内投与する。各動物に対するTXBの用量を、最も直近の体重に基づいて計算する。各研究内での動物の年齢および体重は、可能な限り均一である。薬物動態(PK)、安全性薬理およびPK/PD研究には、ラットにおける単回用量PK研究、ラットにおけるPK用量範囲試験、ラットにおける複数用量PK評価、ラットにおける体内分布研究、ラットにおける排除研究、マウスにおけるPK/PD研究/イヌにおいて心機能および電気生理を評価するための心臓安全性薬理研究、ラットにおけるCNS安全性薬理研究、およびラットにおける呼吸器安全性薬理が含まれる。毒性研究には、ラットにおける急性用量範囲設定毒性研究および7日間の反復投与研究、イヌにおける急性用量範囲設定毒性研究および7日間の反復投与研究、ラットにおける28日間の毒性研究および回復期間、イヌにおける28日間の毒性研究および回復期間、ならびにマウスにおける遺伝毒性能研究が含まれる。反復投与および複数回の血液サンプリングを含む研究では、動物(ラットおよびイヌ)の頚静脈カニューレおよび大腿静脈カテーテルの外科的埋め込みを使用して、血液サンプリングおよび投与を容易にする。
【0111】
(実施例5)
TXBのin vivoでの消長を特徴付けるための薬物動態(PK)および薬物動態/薬力学的(PK/PD)研究。
この研究の目的は、PKおよび薬物消長に関する標準的な齧歯類モデルとしてのラットにおいて、PPLと共に製剤化したTXBのin vivoでの消長を特徴付けることである。加えて、複数種に由来する肝臓ミクロソームにおける代謝プロファイリングを実施して、任意の主要な代謝産物の産生を識別する。
【0112】
単回用量PK研究。この研究により、全身曝露、終末相半減期を含む滞留時間およびTXBの全身曝露が評価される。この研究には6匹の雄のラットが使用され、投与された用量は0.5MTDである。1時点当たり3匹のラットから、8時点について、採血する(例えば、投与前;投与の5および30分後;ならびに1、2、4、8および12時間後)。採血のために動物をローテーションさせ、カリウムEDTAチューブにおよそ0.1~0.2mLの血液を採血した。全血試料を、約4℃の冷却遠心機内で、約1500×gで最低10分間遠心分離する。採血および遠心分離の30分以内に血漿を標識したチューブに移し、LC-MSによるTXBの分析まで、チューブを暗所で-80℃で凍結保存する。最大(IVに対する初期)ピーク血漿中濃度(Cmax)、血漿中終末相半減期(t1/2)および血漿中濃度の時間曲線下面積(AUC)を血漿中濃度データから計算する。クリアランスおよび分布容積を、標準的な非区画分析による濃度-時間プロファイルから決定する。
【0113】
PK用量範囲設定研究。PKパラメーターの用量依存性および全身曝露の用量比例性を評価するために、24匹の雄のラットに単回の、漸増用量のTXBを静脈内投与し、血漿中薬物レベルを経時的にモニターする。TXBの用量レベルは、単回用量評価の結果に応じて変わる。最も用量の多いMTDに関して、最大4つの用量レベルを試験する。用量範囲設定研究は、十分に高レベルの(MICの数倍)薬物濃度を確保する、さらなる研究に適当な用量レベルを選択する際に必須である。PK分析のために、1時点毎に3匹のラットから、8時点について、採血し(例えば、投与前、投与の5および30分後、ならびに1、2、4、8および12時間後)、上記の通り処理する。異なる用量間のPKパラメーターの比較により、用量比例および用量依存性、個体間のばらつきならびに吸収プロファイルおよび機序についての情報も得られる。記述的統計分析、およびテューキーの事後検定による一元配置分散分析を実施して、処置群間のパラメーターの差を識別する。
【0114】
複数回投与のPK評価。薬物蓄積の程度およびクリアランス経路の潜在的な自己誘導または阻害を、複数回投与のPK評価において評価する。この研究には、12匹の雄のラットを使用し、TXBを10回連続IV投与する。用量および時間間隔を単回投与評価の結果によって決定する。1時点毎に3匹のラットから、8時点について、採血する(例えば、投与前、投与の5および30分後、ならびに1、2、4、8および12時間後)。連続投与による有害作用が認められる場合、用量を減らす。血液試料を、一連の投与のうちの最初の投与後と最終投与後の時点で採血し、1つの試料は、いずれかの蓄積を評価するために最終投与の直前に得る。試料の処理および分析を上記の通り実施する。
【0115】
体内分布研究。LC-MSを使用して、生体試料(肝臓、肺、心臓、腎臓、脳、脾臓、尿、糞便)中のTXBおよび任意の主要な代謝産物を定量する。生物源に応じて、試料の調製には、必要な場合、組織のホモジナイズ、有機抽出、およびカラムクロマトグラフィーが含まれる。TXBの基本的な体内分布および器官/組織での蓄積を評価するために、5匹の雄のラットに、10回の連続投与のために8時間毎にTXBを単回IV投与する。用量は、複数回投与のPK評価におけるものと同じである。最終投与の1時間後、動物を屠殺し、すべての主要な器官(肝臓、肺、心臓、腎臓、脳、および脾臓)を回収し、液体窒素中で凍結し、ホモジナイズまでに-80℃で保存する。総薬物レベルおよび遊離薬物レベル、ならびにTXBの任意の主要な代謝産物について、組織を分析する。
【0116】
排除研究。この研究の目的は、TXBの主要な代謝物および排除経路を評価することである。この研究では、5匹の雄のラットに、MTDでTXBを単回IV投与する。尿試料を投与前、0~8時間および8~24時間の間隔で、および48時間にわたり24時間間隔で回収する。糞便試料を投与前および24時間間隔で投与後最大48時間回収する。各回収間隔の終わりに、動物を新しいケージに移す。試料を、分析まで-20℃で凍結保存する。親TXBおよび任意の主要な代謝産物について、LC-MSによって試料を分析する。
【0117】
代謝物のプロファイリング。この研究の目的は、TXB代謝産物の相当量が、マウス、ラット、イヌ、サルまたはヒトにおいて生成され得るかどうかを決定することおよびin vivo研究のために選択された種の確認を補助することである。FDAの推奨に基づき、元の化合物の10%以上で存在する代謝産物を有意とみなす。相当の代謝産物がヒトに対して特異的であることが立証される場合、次に、代謝産物は、in vivo薬理および動物毒性研究に含まれる。
【0118】
TXBの代謝物の安定性をマウス、ラット、イヌ、サルおよびヒトのプールした肝臓のミクロソーム、S9および細胞質調製物において試験し、シトクロムP450による混合機能酸化システムおよび細胞質の可溶性第II相酵素によって代謝を捉える。簡潔には、マウス、ラット、イヌ、サルおよびヒトのプールした肝臓のミクロソーム、S9および細胞質調製物を37℃でTXBと共にインキュベートする。反応の終了後、遠心分離によって細胞内調製物から上清を分離し、代謝産物を単離してLC-MSにより特徴付ける。
【0119】
好中球減少性マウスの大腿モデルにおけるPK/PD。標準的な好中球減少性マウスの大腿モデルを使用して、PK/PD研究を行い、漸増用量での細菌活性の割合を決定する。病原体フリーICR(CD-1)マウスを、感染の前に、150mg/kgの用量で4日間および100mg/kgの用量で1日の、シクロホスファミドの腹腔内中注射によって、一過的に好中球減少性とみなす。細菌株S.aureus ATCC 33591(MRSA)を、580nmでの吸光度が0.3まで、Mueller-Hinton(MH)ブロス中で培養する。培養物をMHブロス中で1:10に希釈し、希釈物のアリコートをMH寒天プレート上にプレーティングし、送達されたCFUの実際の数を決定する。合計10個の細菌(0.1mL接種)をハロタンで麻酔したマウスの大腿中に直接注射する。この研究では、合計169匹のマウスを使用し、以下に記載の通り2つの部分に分ける。
【0120】
薬物動態研究(第1部)として、大腿感染動物にTXBを単回IV投与する(最大3種の濃度)。CO/O麻酔下で、心臓穿刺により投与当たり5分、30分および1、2、4、8時間の時点毎に、3匹のマウスから血液を取り除き、血漿TXBレベル(総および遊離)を測定する。非区画分析によりWinNonlin(Pharsight Corp)を使用して、PK計算を実施する。PKパラメーターをMICで積分することにより、3つのPK/PDパラメーターが得られ、抗生物質の活性を定量する:ピーク/MIC比(MICで除したCmax)、T>MIC(血清中レベルがMICを超える投与間隔のパーセンテージであるMICを超える時間)、および24時間のAUC/MIC比(MICで除した24時間のAUC)。合計54匹のマウスをこの研究で使用する(1時点当たり3種のTXB濃度6時点3匹のマウス)。
【0121】
どのPK/PDパラメーターが有効性と最も相関しているかを決定するために(第2部)、1、2、4または6回の投与に分けた、2倍に増加する総用量を使用して、20種の異なる投与レジメンにより、感染の2時間後に、IV投与によりマウスをTXBで処置する。感染時、処置時および感染の26時間後に未処置対照動物から、および治療の24時間後の処置動物から、大腿を採取する。大腿を秤量し、生理食塩水中でホモジナイズし、CFUを決定するためにMHA寒天にプレーティングする。非線形回帰分析を使用して、どのPK/PDパラメーターが有効性と最も相関するかを決定する。この研究では、合計115匹のマウスを使用する(20種の投与レジメン1群当たり5匹のマウス+感染直後の5匹の未処置マウス+処置時の5匹の未処置マウス+感染の26時間後の5匹の未処置マウス)。
【0122】
TXBの血漿中濃度および大腿当たりのCFUを処置用量に対して計算する。データを使用して、感染したマウスにおける用量レベル、TXBの血漿中濃度および大腿当たりのCFUの変化の間の関係を分析する。
【0123】
(実施例6)
安全性薬理(GLP)
この研究のセットは、TXBの薬理学的安全性を特徴付けることを目的とする。
【0124】
酵素と受容体パネルとの相互作用。in vitro薬理試験は、TXBの可能性のある副作用および存在する場合にはその主要な代謝産物を識別することを目的とする。具体的には、TXBがある特定の酵素または受容体と相互作用すると判明した場合、次いで、毒性研究における酵素または受容体の関連する機能に細心の注意が払われ、その機能を調査する追加の手順が実施される。潜在的有害事象の有用なマーカーである酵素のパネルへのin vitroでのTXBの可能性のある効果を評価する。このような例示的試験には、基本的な代謝酵素阻害(ATPase、カルニチントランスフェラーゼ、一酸化窒素合成、種々のペプチダーゼ、セリン/トレオニンキナーゼ)および基本的な生理機能に関与する受容体部位における活性(アデノシン、種々の神経伝達物質、カルシウムおよびナトリウムチャネル)に関するアッセイが含まれる。良好な動物における有効性が観察される血清中のTXBレベルの10~1,000倍の範囲の濃度でTXBを試験する。これらのin vitroアッセイのそれぞれには、標的への50%の応答または結合が惹起される陽性対照が含まれる。
【0125】
心臓安全性薬理:in vivoでの心機能および電気生理。この研究は、血液動態レベルと電気生理レベルの両方の心臓周期全体を調査することを目的とする。この研究は、以下のパラメーター、動脈圧波形(収縮期、弛緩期の脈拍および平均)、心拍数(動脈波形から得られる)、ECG波形(PR、QRS、RR、QT、およびQTc間隔)、および体温を測定するために、テレメトリープローブを外科的に埋め込まれた4頭の雄のイヌを使用する。各動物に、投与間にウォッシュアウト期間を含むラテン方格投与設計を使用して、ビヒクル対照および3つのTXBの静脈内用量レベルを投与する。中間用量および低用量と一緒に、高用量として、MTDに関して3つの用量を選択する。投与日に、TXB投与前の各パラメーターについて、60のミュートベースラインを記録する。テレメトリーデータを24時間以上集める。最大無毒性量(NOAEL)の評価を行う。NOAELは、研究される機能について検出可能な有害な変更を引き起こさず、ヒトに最初に投与される用量よりも少なくとも10倍多い、物質の最大量である。
【0126】
CNS安全性薬理。この研究の目的は、TXBの3つの用量レベルおよびビヒクル対照のIV投与後の40匹の雄のラットにおける、任意の有害な神経行動学的作用を評価することである。動物を、1群当たり1用量の4つの群(1群当たり10匹のラット)に無作為に分ける。高用量、中間用量、低用量、およびビヒクルのみの対照として、MTDに関して用量を選択する。Opto-Varimex(Columbus Instruments)活性モニタリングボックスを使用して、投与前およびピーク血中濃度に近い時点で運動活性を測定する。機能観察総合評価法(FOB)を、投与前および投与後の1時点(およそ60分)で行う。機能観察総合評価法には、4セットの観察が含まれる。第1の観察セット(姿勢、不随意運動、かみつき、眼瞼閉鎖状態および発声)は、動物がホームケージ内にいる間に実施する。第2の観察セット(動物をケージから移動させる容易さ、動物の取り扱い易さ、流涙、涙の色、唾液分泌、立毛、毛皮の外観、眼瞼閉鎖状態、眼球突出、呼吸)は、動物を最初に取り扱う際に実施する。第3の観察セット(移動性、姿勢、不随意運動、歩行障害、環境への覚醒の再活性化、常同行動、例えば、任意の反復運動、奇矯な行動、立ち上がりの回数、排便、排尿および発声)は、試験の場で実施する。第4の観察セット(接近応答、接触応答、聴覚応答、テールピンチ応答、瞬目応答、正向反射、後肢伸筋力応答、瞳孔の大きさ、体重)は、動物の取り扱い/特異的検査から構成される。CNSに関するTXBの影響を評価するために、各動物をスコア化する。
【0127】
呼吸器安全性薬理。安全性薬理に対する追加の規制条件には、呼吸機能の研究が含まれる。この研究には、研究の開始前の数日間、順化された16匹の雄のラットを使用する。研究の日に、動物を、1群当たり1用量の、4つの群(1群当たり4匹のラット)に無作為に分ける。高用量、中間用量、低用量、およびビヒクルのみの対照として、MTDに関して用量を選択する。研究の日に、動物の頭頚部をプレチスモグラフチャンバー内に密封する。すべてのデータ収集および計算は、BUXCO Pulmonary Mechanics Computerによって実施する。試験物の投与前の最低1時間、動物をチャンバー内で安定化させ、投与前にデータを収集する。TXBまたはビヒクルのみの投与後に、5時間データを収集する。各動物に1つの用量レベルのみ投与される。以下のパラメーター、呼吸数、一回呼吸量および毎分呼吸量を記録するかまたは計算し、報告する。2回の15分の投与前間隔について計算し、ベースラインとして報告する。投与後のデータを15分間隔に群分けし、平均を計算し、データを分析して、呼吸機能へのTXBの影響を調査する。毒性の欠如は、統計的または臨床的に有意(>25%)な機能変化がないものとして判断される。
【0128】
(実施例7)
毒性研究
毒性研究をラットおよびイヌにおいて行い、死亡率、体重の10%を超える減少、または毒性の明白な臨床徴候を生じない用量として定義される最大耐用量(MTD)を識別し、1週間の期間にわたり、反復投与MTDを識別する。この研究は、両方の種に対して2つの相(A相およびB相)から構成される。A相では、最大耐用量(MTD)が決定されるまで、単回用量レベルが増加される。B相では、反復投与MTDを推定するために、単回用量MTDの画分で7日間毎日、動物に投与される。詳細な身体検査、体重および摂食量の測定を毎日行う。剖検は、死亡が判明するか、死に際して安楽死されるか、または計画した剖検において、すべての動物について実施する。投与経路は、IVである。
【0129】
ラットにおける急性用量範囲設定毒性研究および7日間の反復投与研究(非GLP)。相Aでは、動物を群へと無作為化する(1群当たり3匹の雄と3匹の雌のラット)。動物数の内訳を表4に示す。
【0130】
【表4】
【0131】
各群には、最大耐用量(MTD)が決定されるまで、漸増用量を与える。最大4用量のTXBが試験され、投与の24時間後に動物は屠殺される。単回用量を決定するために、急性MTDは、反復投与研究(相B)における高用量を選択することが可能である。
【0132】
相Bでは、3つの用量レベル、単回用量のMTD、0.5MTDおよび0.25MTDならびにビヒクルのみを受ける対照群に関して反復投与セグメント(7日間、1日1回の投与)を行う。さらに、見出される任意の毒性との相関を可能にする毒性動態(TK)分析のためにサテライト群が存在する。これらの群は、主要研究におけるものと同じ用量のTXBを受ける動物からなり、7日目の最終投与後の種々の時点で血液試料を回収するために使用される。すべての動物に関して、臨床徴候および死亡率チェックを毎日2回行う。ケージ側の観察は毎日1回行う。詳細な観察は、投与前期の間に1回、投与期の1、3、および7日目ならびに剖検の日に行う。摂食量(定量的、ケージ毎)を1~3、3~7日目に測定し、体重は、投与前期の間に1回、1、3、および7日目ならびに剖検の日に得る。試験物質含量および薬物動態パラメーター(Cmax、Tmax、T1/2、AUC、CL、Vol)について血液試料を分析する。反復投与動物の最期は、終末前臨床病理(血清化学、血液学に関する凝固および標準パネル)ならびに顕微鏡検査の標準的剖検ならびにすべての動物に関する、組織回収、器官重量(標準パネル)およびすべての組織に関する組織病理により、最終投与の24時間後である。
【0133】
イヌにおける急性用量範囲設定毒性研究および7日間の反復投与研究(非GLP)。イヌでは、相Aは、TXBに関する最大耐用量(MTD)を決定するための、動物の漸増投与からなる(1頭の動物/性別/用量/日)。動物の内訳を表4に示す。動物を保護するために、次の曝露の前に、薬物のクリアランスのために投与間に「ウォッシュアウト期間」を設け、同じ雄および雌のイヌをそれぞれ4つの用量レベルに曝露させる。
【0134】
この後に、1つの用量レベルを1日に1回7日間、同じ動物に投与する(2頭の動物/性別/用量)、反復投与セグメント(7日間、1日に1回の投与)である、相Bを行う。最大3つの用量レベルのTXBを、ビヒクルのみの対照と共に試験する。体重およびケージ側の観察(性質、発症、およびすべての著しいもしくは目に見える毒性作用または薬理作用の持続時間)を投与の1、2.5、および4時間後に記録し、摂食量を処置期間の間に測定する。
【0135】
動物毎に6~8時点で最初および最終の投与後に回収した血液試料に関して、毒性動態分析を行う。試験物質の含有量について試料を分析し、薬物動態パラメーター(Cmax、Tmax、T1/2、AUC、CL、Vol)を決定する。動物は、最終投与の24時間後に終末を迎える。臨床病理および全体の剖検を、ラットに関して上記の通り実施する。
【0136】
以下の研究は、7日間の研究におけるものと同じ種、年齢および性別を使用して、TXBの長期毒性を決定するために行う。これらの研究は、28日間投与し、その後すべての動物を安楽死させる以外は、7日間の毒性研究についての一般的概要に従う。動物の追加群を投与期間終了後さらに28日間観察下に置き、いずれかの潜伏性の毒性作用、および以前の投与からの回復速度を評価する。3つの用量レベルとビヒクルのみを受ける対照群を試験する。
【0137】
ラットにおける28日間の毒性研究および回復期間。表5に示すように、動物を群に無作為化する。
【0138】
【表5】
【0139】
TXBの3つの用量を試験し、動物には28日間、毎日1回投与する。瀕死および死亡率について、動物を1日に2回チェックし、毎週、詳細な臨床検査を受けさせ、摂食量および体重についてモニターする。毎週の詳細な臨床検査を伴う毎日の投与の1、2.5および4時間後に、ケージ側の観察を記録する。摂食量および体重を1日1回記録する。研究前および終末前の眼科検査を主要研究動物に関して行い、終末前臨床病理(血清化学、凝固、血液学および検尿)をすべての主要研究動物について分析する。主要研究における動物は、28日間の投与後に、すべての主要研究動物に関する完全な全体的剖検と器官重量と共に、終末を迎える。完全な組織リストのために、対照および高用量の主要研究動物に関して組織病理を行う(全体でおよそ2,560の組織試料)。低用量群における罹患した器官について、組織病理を行う。
【0140】
サテライト群(処置群当たり性別毎に9匹)も同様に投与され、毒性動態のために血液をサンプリングし、あるいは、投与の初日および約最終日に、1時点当たり性別毎に3匹の動物として、6時点においてサンプリングする。試料は、TK日に単一の時点において、対照群の動物からも得る。試験物質含有量について血漿試料を分析し、PKパラメーター(Cmax、Tmax、T1/2、AUC、CL、Vol)を決定する。
【0141】
さらに、対照の群(1群当たり5匹の雄と5匹の雌)および高用量群に28日間同様に投与し、28日間の回復動物として維持する。ケージ側の観察を毎日実施する。この動物のセットは、終末前臨床病理および眼科検査、ならびに標的組織に関する組織病理と共に、処置期間の完了の28日後に終末を迎える。
【0142】
イヌにおける28日間の毒性研究および回復期間。この研究は、上記の通り、ラットに関する研究を模倣し、追加の眼科的検査および心電図検査(ECG)を試験前および投与終了付近および回復期間に実施する。
【0143】
動物を表6に示すように群に無作為化する。
【0144】
【表6】
【0145】
TXBの3つの用量を試験し、動物には28日間、毎日1回投与する。生存能を毎日2回チェックする。ケージ側の観察を、投与の1、2.5および4時間後に、毎日記録する。毎週の詳細な臨床検査には、毎日の体重、イヌにおける毎日の食物摂取のモニタリング、研究前および終末前の眼科検査が含まれる。臨床病理(血清化学、凝固、血液学および検尿)を、すべてのイヌについて、処置前および終末前に行う。イヌでは、研究前および終末前のECG検査がある。
【0146】
毒性動態のサンプリング(血漿)を、投与の初日および最終日に、試験物の血漿中濃度について、6時点において行う(試料をすべての動物から回収し、すべての時点においてすべての処置動物からと、単一の時点において対照動物からとの試料に関して分析を実施した)。血漿試料を試験物質含量について分析し、薬物動態パラメーター(Cmax、Tmax、T1/2、AUC、CL、Vol)を決定する。終末は、完全な全体的剖検、器官重量およびすべての動物に関する完全な組織リストに関する組織病理と共に、投与の28日後である。
【0147】
28日間同様に投与する対照群および高用量群において追加の群が存在する。追加の28日間の回復後に、終末前臨床病理、眼科検査、およびECGに関して、動物を屠殺する。この群の回復動物に関する組織病理は標的組織に限定される。
【0148】
(実施例8)
変異原性および遺伝毒性試験(GLP)
変異原性および遺伝毒性試験は、エイムス試験、哺乳動物細胞遺伝子変異アッセイ、およびin vivoでの哺乳動物遺伝毒性アッセイを行うことによって達成される。Leadscope(Columbus、OH)によって以前に実施されたin silicoでの有望な研究では、予測モデルの総合評価法を使用するQuantitative Structure Activity Relationships(QSAR)分析により、TXBが遺伝毒性の潜在性について陰性であると予測されることが示された。
【0149】
エイムス試験。このアッセイでは、1プレート当たり17~5,000マイクログラムの範囲の濃度のSalmonella typhimurium株のTA1535、TA1537、TA98およびTA100ならびにE.coliのWP2uvrAにおける変異原性活性について試験する。この研究で使用される最も高い濃度は、ICHおよびOECDガイドラインにおいて推奨される最大試験濃度に相当する。Aroclor1254に誘導されるラットの肝臓調製物および混合機能オキシダーゼ活性に必要とされる補因子(S9ミックス)の存在下および非存在下で、寒天プレート上で、2つの変異アッセイ(1つは直接プレートおよび1つはプレインキュベーション)を行う。
【0150】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)/ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)の遺伝子変異アッセイ。培養CHO細胞におけるHGPRT遺伝子座の遺伝子変異の化学的誘導に関するCHO/HGPRTアッセイ試験。代謝活性の有無にかかわらず、初期用量範囲設定試験を、10用量レベルのTXBに関して実施する。活性の有無にかかわらず、最終的試験を、二連の培養物および並行毒性試験と共に、5用量レベルで実施する。この研究では、6-チオグアニン抵抗性(6-TG)変異細胞を、6-TGを補充した培養培地における発現期間後に、定量する。一致する陽性および陰性対照が含まれる。試験物の代謝作用を評価するために、添加される哺乳動物肝臓酵素調製物(S9)の存在下および非存在下で試験を実施する。この試験は、ビヒクルのみの対照と比較して、TXBインキュベート細胞における6-TG変異細胞数に有意な増加(P<0.025)が存在しない場合、陰性と判断される。
【0151】
in vivoでの遺伝毒性の潜在性。40匹の雄、40匹の雌(妊娠していない)、約6週齢、20~25グラムの体重、0時間および24時間の静脈内投与後ならびに最終投与の24時間および48時間後の2回のサンプリングポイントの病原体フリーICR(CD-1)マウスの骨髄赤血球の、小核試験において、TXBを評価する。この試験は、小核化した多染性赤血球が、処置動物対未処置動物の骨髄で見つかる頻度の間の統計的差についてスコア化する。陽性の染色体切断物質および陰性の(ビヒクル)対照と共に、3つの濃度のTXBをマウスの群(1群当たり性別毎に5匹)に投与する。TXB処置群では、各動物に、2用量(MTD、0.5MTD、0.25MTD)のTXBを、24時間の間隔を空けて投与する。陽性の染色体切断物質対照群に、1日目~4日目に、25mg/kgのシクロホスファミドを毎日投与する。ビヒクルのみの対照群が含まれる。毒性および/または薬理作用の徴候について、動物を観察する。TXB処置群では、一方の群は最終投与の24時間後に屠殺され、別の群は最終投与の48時間後に屠殺される。陽性対照群およびビヒクルのみの群は、投与の24時間後に屠殺される。大腿骨の骨髄を回収する。骨髄スメアを調査して、各群の動物当たり、およそ2,000個の未成熟赤血球と対応する数の成熟赤血球を計数する。染色体異常誘発能を小核化赤血球の割合として測定する。
【0152】
この試験は、対照(ビヒクルのみ)の群と比較して、毎日1回、2日間のMTDを動物に投与した後に、小核化多染性赤血球の数に有意な増加(P<0.025)が観察されない場合に、陰性と判断される。
【0153】
(実施例9)
結核(TB)の検証したウサギモデルにおけるTXBの有効性。
急性TB有効性研究を、IV投与を使用するTB有効性試験に好ましい種のうちの1つであるウサギにおいて行う。ウサギの感染では、リン酸緩衝生理食塩水中で、凍結病原体ストックを10CFU/mlまで希釈することによって、M.tuberculosis株H37Rvのエアロゾル接種物を調製する。合計20頭のウサギをこの研究において使用する。専用の生物学用安全キャビネット中に収容され、そこで操作される吸入装置に、フィルターを通した空気と6.4リットル/分のエアロゾルを送達するネブライザーを使用して、エアロゾルを生成する。IV薬物投与の容易さのために、頚静脈に外科的に挿入された内在カテーテルを有するウサギを、エアロゾルに10分間、続いて、清浄な空気に5分間曝露させ、それらのケージに戻す。この手順により、およそ100CFU/リットルの感染性エアロゾルが送達され、ウサギの肺当たりおよそ50個の肺気腫を生じる。
【0154】
感染は、9週間の発症を可能にし、その後、ウサギは、10mg/kg/日および20mg/kg/日で(以前に記載した耐性およびPK研究から決定された)、TXBの静脈内投与を毎日、4週間受ける。TXBの投与体積は、2mL/kgである。経口イソニアジド(50mg/kg/日)を陽性対照として使用し、喉の裏側に、シリンジで毎日送達する。2つのTXB投与溶液中で使用されるビヒクルの最も高い濃度である、20mg/kg/日で、ビヒクル対照(PPL)を送達する。研究アーム当たり5匹の動物が存在する。投与の終了時に、剖検により、個々の病変および肺の細菌負荷を回収し、代表的な病変を群間で比較する。群間の比較に対するエンドポイントには、肺重量、リンパ節重量、病変体積、病変の組織学的外観、および細菌負荷が含まれる。この目的は、ビヒクル対照と比較して、薬物で処置した動物において明らかな有害作用を有さない、肺および代表的な病変において1.5対数以上のCFUの低減を達成することである。
【0155】
均等物
前記した明細書は、当業者に本発明を実践させるのに十分であると考えられる。実施例は本発明の一態様の単一の例示として意図されているため、本発明は提供される実施例による範囲に限定されるべきではなく、他の機能的に均等な実施形態が本発明の範囲内にある。本明細書に示され、記載されているものに加えて、本発明の様々な改変が、前記した記載から当業者には明らかとなり、添付の特許請求の範囲の範囲内にある。本発明の利点および目的は、本発明の各実施形態に必ずしも包含される訳ではない。
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