(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/38 20120101AFI20230615BHJP
G03F 1/48 20120101ALI20230615BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20230615BHJP
G03F 1/24 20120101ALI20230615BHJP
【FI】
G03F1/38
G03F1/48
G03F7/20 503
G03F7/20 521
G03F1/24
(21)【出願番号】P 2022043344
(22)【出願日】2022-03-18
(62)【分割の表示】P 2020182324の分割
【原出願日】2016-06-08
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2015121712
(32)【優先日】2015-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】小林 巧
(72)【発明者】
【氏名】浜本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】淺川 竜男
(72)【発明者】
【氏名】笑喜 勉
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532313(JP,A)
【文献】特開2001-358055(JP,A)
【文献】特開2015-126127(JP,A)
【文献】特開2013-225662(JP,A)
【文献】特開2015-028999(JP,A)
【文献】特開2011-124612(JP,A)
【文献】特開2012-178577(JP,A)
【文献】山本隆司,摩擦の発生機構と真実接触面積,JTEKT Engineering Journal,日本,株式会社ジェイテクト 研究開発センター,2007年03月,No. 1003,2-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00 - 1/86
G03F 7/20
H01L 21/027
C03C 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電膜付き基板であって、
前記導電膜付き基板が、
2つの主表面を有する基板と、
前記基板の主表面上の一方に形成された導電膜と、
を備え、
前記導電膜は、TaB、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、CrN及びCrONから選択される少なくとも一つを含む材料からなり、
測定子を押圧した状態で、前記導電膜表面を摺動させることにより測定した前記導電膜表面の静摩擦係数が0.25以上であ
り、
前記測定子の前記導電膜に当接する部分の素材が、前記基板が静電チャックされる露光装置の面に使用される素材と同じ素材からなることを特徴とする導電膜付き基板。
【請求項2】
前記導電膜は、TaB、TaO及びTaBOから選択される少なくとも一つを含む材料からなることを特徴とする請求項1に記載の導電膜付き基板。
【請求項3】
前記導電膜は、前記基板側における窒素含有量が表面側における窒素含有量よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の導電膜付き基板。
【請求項4】
前記導電膜
の表面粗さ(Rms)は、
0.60nm以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の導電膜付き基板。
【請求項5】
前記基板と前記導電膜との間に中間膜を更に有する請求項1乃至4の何れかに記載の導電膜付き基板。
【請求項6】
前記測定子は凸形状であり、前記測定子が前記導電膜に当接する部分の前記測定子の形状は、曲率半径322mmの球面であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに導電膜付き基板。
【請求項7】
請求項1乃至
6の何れかに記載の導電膜付き基板の前記導電膜が形成されている側とは反対側の主表面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成されていることを特徴とする多層反射膜付き基板。
【請求項8】
前記多層反射膜上に保護膜が形成されていることを特徴とする請求項
7に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項9】
請求項
7に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上、又は請求項
8に記載の前記保護膜上に、吸収体膜が形成されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項10】
請求項
9に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターニングして、前記多層反射膜上に吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項11】
請求項
10に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVリソグラフィーに用いるための導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体装置の高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィ法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターン形成を可能とするため、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィーが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィーにおいて用いられる転写用マスクとして反射型マスクが提案されている。このような反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。
【0003】
当該反射型マスクは、基板と、当該基板上に形成された多層反射膜と、当該多層反射膜上に形成された吸収体膜とを有する反射型マスクブランクから、フォトリソグラフィ法等により吸収体膜パターンを形成することによって製造される。
【0004】
多層反射膜及び吸収層の成膜は、スパッタリング等の成膜方法を用いて成膜されることが一般的である。その成膜の際、反射型マスクブランク用基板は、成膜装置内に、支持手段によって支持される。基板の支持手段として、静電チャックが用いられている。そのため、ガラス基板等の絶縁性の反射型マスクブランク用基板の裏面(多層反射膜等が形成される表面とは反対側の面)には、静電チャックによる基板の固定を促進するために、導電膜(裏面導電膜)が形成される。
【0005】
導電膜付き基板の例として、特許文献1には、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造に使用される導電膜付き基板であって、前記導電膜はクロム(Cr)及び窒素(N)を含有し、前記導電膜におけるNの平均濃度が0.1at%以上40at%未満であり、前記導電膜の少なくとも表面の結晶状態がアモルファスであり、前記導電膜の表面粗さ(rms)が0.5nm以下であり、前記導電膜は、基板側におけるN濃度が低く、表面側におけるN濃度が高くなるように、導電膜中のN濃度が該導電膜の厚さ方向に沿って変化した傾斜組成膜であることを特徴とする導電膜付き基板が記載されている。
【0006】
特許文献2には、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造に使用される導電膜付基板であって、前記導電膜の主材料は、Cr、Ti、Zr、Nb、Ni及びVからなる群から選択される少なくとも1つよりなり、前記導電膜は平均濃度1~70at%でB(ホウ素)を含有し、前記導電膜は、基板側におけるB平均濃度が低く、表面側におけるB平均濃度が高くなるように、導電膜中のBの濃度が該導電膜の厚さ方向に沿って変化した傾斜組成膜である導電膜付基板が記載されている。
【0007】
特許文献3には、摩擦力発生手段と、圧縮荷重を発生させる圧縮荷重発生手段と、を含む擦係数測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4978626号公報
【文献】特許第5082857号公報
【文献】特許第4994405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
パターン転写を行う露光機において、露光機に搭載された反射型マスクに入射した光は、吸収体膜パターンのある部分では吸収され、吸収体膜パターンのない部分では多層反射膜により反射される。そして反射された光像が反射光学系を通してシリコンウェハ等の半導体基板上に転写される。反射型マスク(レチクル)を搭載したパターン転写装置の転写方法は、半導体基板上の被転写領域を次々とずらしながら繰り返しパターンを露光するステップ・アンド・リピート方式、又はレチクルとウェハを投影光学系に対して同期走査し、繰り返しパターンを投影露光するステップ・アンド・スキャン方式が主流となっている。これらの方法により、半導体基板内に所定個数分の集積回路チップ領域を形成する。
【0010】
上記パターン転写装置において、反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くして生産効率を上げようとすると、パターン転写の際に反射型マスクの位置ずれが大きくなり、高精度なパターン転写を行えないという問題が生じることがある。
【0011】
そこで本発明は、パターン転写装置において、反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くした場合、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを防止することができる反射型マスクを得ることを目的とする。また、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを防止することができる反射型マスクを製造するための反射型マスクブランク、多層反射膜付き基板、及び導電膜付き基板を得ることを目的とする。
【0012】
また、本発明は、パターン転写装置において、反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くした場合、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを抑制することができる半導体装置の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
パターン転写装置は通常、ステージに搭載される反射型マスクを固定するための静電チャックを備えている。反射型マスクの裏面に形成された裏面導電膜は、静電チャックにより、パターン転写装置のステージに固定される。
【0014】
本発明者らは、静電チャックによってステージに吸着される反射型マスクの導電膜表面(裏面導電膜表面)の静摩擦係数に着目し、導電膜表面の静摩擦係数を所定値以上にすることによって、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを抑制することができることを見出し、本発明に至った。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。本発明は、下記の構成1~4の導電膜付き基板、下記の構成5~6である多層反射膜付き基板、下記の構成7である反射型マスクブランク、下記の構成8である反射型マスク、及び下記の構成9である半導体装置の製造方法である。
【0016】
(構成1)
本発明の構成1は、リソグラフィーに使用されるマスクブランク用基板の主表面上の一方の表面に、導電膜が形成された導電膜付き基板であって、前記導電膜表面の静摩擦係数が0.25以上であることを特徴とする導電膜付き基板である。
【0017】
本発明の構成1の導電膜付き基板を用いて反射型マスクを製造することができる。本発明の構成1の導電膜表面の静摩擦係数は所定の範囲の値であるため、パターン転写装置において、この反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くした場合であっても、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを抑制することができる。
【0018】
(構成2)
本発明の構成2は、前記導電膜は、タンタル及びクロムから選択される少なくとも一つを含む材料からなることを特徴とする構成1に記載の導電膜付き基板である。
【0019】
本発明の構成2によれば、導電膜が、タンタル及びクロムから選択される少なくとも一つを含む材料からなることにより、反射型マスクの裏面導電膜として求められる電気的特性(シート抵抗)の導電膜を得ることができる。
【0020】
(構成3)
本発明の構成3は、前記導電膜は、タンタル及びホウ素を含む材料からなることを特徴とする構成1に記載の導電膜付き基板である。
【0021】
本発明の構成3のように、導電膜が、タンタル及びホウ素を含む材料からなることにより、耐摩耗性及び薬液耐性を有する導電膜を得ることができる。
【0022】
(構成4)
本発明の構成4は、前記導電膜の表面粗さ(Rms)は、0.60nm以下であることを特徴とする構成1乃至3の何れかに記載の導電膜付き基板である。
【0023】
本発明の構成4の導電膜付き基板において、導電膜の表面粗さ(Rms)が0.60nm以下であることにより、静電チャックと導電膜との擦れによるパーティクルの発生を防止することができる。
【0024】
(構成5)
本発明の構成5は、構成1乃至4の何れかに記載の導電膜付き基板の前記導電膜が形成されている側とは反対側の主表面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成されていることを特徴とする多層反射膜付き基板である。
【0025】
本発明の構成5によれば、所定の多層反射膜によって所定の波長のEUV光を反射することができる。
【0026】
(構成6)
本発明の構成6は、前記多層反射膜上に保護膜が形成されていることを特徴とする構成5に記載の多層反射膜付き基板である。
【0027】
本発明の構成6によれば、多層反射膜上に保護膜が形成されていることにより、多層反射膜付き基板を用いて反射型マスク(EUVマスク)を製造する際の多層反射膜表面へのダメージを抑制することができるので、EUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0028】
(構成7)
本発明の構成7は、構成5に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上、又は構成6に記載の前記保護膜上に、吸収体膜が形成されていることを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0029】
本発明の構成7によれば、反射型マスクブランクの吸収体膜がEUV光を吸収することができるため、反射型マスクブランクの吸収体膜をパターニングすることによって、反射型マスク(EUVマスク)を製造することができる。
【0030】
(構成8)
本発明の構成8は、構成7に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターニングして、前記多層反射膜上に吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスクである。尚、「多層反射膜上に吸収体パターンを有する」とは、多層反射膜上の保護膜を介している場合も含む。すなわち、多層反射膜上に保護膜を形成し、その保護膜上に吸収体パターンを有する場合も含む。
【0031】
本発明の構成8の反射型マスクによれば、多層反射膜上に吸収体パターンを有することにより、EUV光を用いて所定のパターンを被転写体に転写することができる。また、パターン転写装置において、この反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くした場合であっても、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを抑制することができる。
【0032】
(構成9)
本発明の構成9は、構成8に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0033】
本発明の構成9の半導体装置の製造方法によれば、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを抑制することができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、パターン転写装置において、反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くした場合、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを抑制することができる反射型マスクを得ることができる。また、本発明によれば、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを抑制することができる反射型マスクを製造するための反射型マスクブランク、多層反射膜付き基板、及び導電膜付き基板を得ることができる。
【0035】
また、本発明は、パターン転写装置において、反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くした場合、パターン転写の際の反射型マスクの位置ずれを抑制することができる半導体装置の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1(a)は、マスクブランク用基板を示す斜視図である。
図1(b)は、マスクブランク用基板を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る導電膜付き基板の構成の一例を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る多層反射膜付き基板の構成の一例を示す断面模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る多層反射膜付き基板の構成の一例を示す断面模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る反射型マスクブランクの構成の一例を示す断面模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る反射型マスクの一例を示す断面模式図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る反射型マスクブランクの構成の別の一例を示す断面模式図である。
【
図8】摩擦係数の測定のために印加する圧縮荷重及び摩擦力の説明図である。
【
図9】摩擦係数測定装置の構成を示す斜視図である。
【
図10】
図9に示す装置により測定した摩擦係数の測定結果の一例を示す図である。
【
図11】パターン転写装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、マスクブランク用基板の主表面上の一方の表面に、導電膜が形成された導電膜付き基板である。マスクブランク用基板の主表面のうち、導電膜(「裏面導電膜」ともいう。)が形成される主表面を、「裏面」という。また、本発明は、導電膜付き基板の導電膜が形成されていない主表面(単に、「表面」という場合がある。)の上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成された多層反射膜付き基板である。
【0038】
また、本発明は、多層反射膜付き基板の多層反射膜の上に吸収体膜を含むマスクブランク用多層膜を有する反射型マスクブランクである。
【0039】
図2は、本発明の導電膜付き基板50の一例を示す模式図である。本発明の導電膜付き基板50は、マスクブランク用基板10の裏面の上に、裏面導電膜23が形成された構造を有する。尚、本明細書において、導電膜付き基板50とは、少なくともマスクブランク用基板10の裏面に裏面導電膜23が形成されたものであり、他の主表面の上に多層反射膜21が形成されたもの(多層反射膜付き基板20)、及び更に吸収体膜24が形成されたもの(反射型マスクブランク30)等も、導電膜付き基板50に含まれる。本明細書では、裏面導電膜23を、単に導電膜23という場合がある。
【0040】
図7は、本発明の反射型マスクブランク30の一例を示す模式図である。本発明の反射型マスクブランク30は、マスクブランク用基板10の主表面の上に、マスクブランク用多層膜26を有する。本明細書において、マスクブランク用多層膜26とは、反射型マスクブランク30において、マスクブランク用基板10の主表面の上に積層して形成される、多層反射膜21及び吸収体膜24を含む複数の膜である。マスクブランク用多層膜26は、更に、多層反射膜21及び吸収体膜24の間に形成される保護膜22、及び/又は吸収体膜24の表面に形成されるエッチングマスク膜25を含むことができる。
図7に示す反射型マスクブランク30の場合には、マスクブランク用基板10の主表面の上のマスクブランク用多層膜26が、多層反射膜21、保護膜22、吸収体膜24及びエッチングマスク膜25を有している。尚、エッチングマスク膜25を有する反射型マスクブランク30を用いる場合、後述のように、吸収体膜24に転写パターンを形成した後、エッチングマスク膜25を剥離してもよい。また、エッチングマスク膜25を形成しない反射型マスクブランク30において、吸収体膜24を複数層の積層構造とし、この複数層を構成する材料が互いに異なるエッチング特性を有する材料にして、エッチングマスク機能を持った吸収体膜24とした反射型マスクブランク30としてもよい。また、本発明の反射型マスクブランク30は、その裏面に、裏面導電膜23を含む。したがって、
図7に示す反射型マスクブランク30は、導電膜付き基板50の一種である。
【0041】
本明細書において、「マスクブランク用基板10の主表面の上に、マスクブランク用多層膜26を有する」とは、マスクブランク用多層膜26が、マスクブランク用基板10の表面に接して配置されることを意味する場合の他、マスクブランク用基板10と、マスクブランク用多層膜26との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0042】
図5は、本発明の反射型マスクブランク30の別の一例を示す模式図である。
図5の反射型マスクブランク30の場合には、マスクブランク用多層膜26が、多層反射膜21、保護膜22及び吸収体膜24を有しているが、エッチングマスク膜25を有していない。また、
図5の反射型マスクブランク30は、その裏面に、裏面導電膜23を含む。したがって、
図5に示す反射型マスクブランク30は、導電膜付き基板50の一種である。
【0043】
図3に、多層反射膜付き基板20の一例を示す。
図3に示す多層反射膜付き基板20の主表面に多層反射膜21が形成されている。
図4に、裏面に裏面導電膜23が形成された多層反射膜付き基板20を示す。
図4に示す多層反射膜付き基板20は、その裏面に、裏面導電膜23を含むので、導電膜付き基板50の一種である。
【0044】
次に、本発明の導電膜付き基板50について説明する。
【0045】
本発明は、リソグラフィーに使用されるマスクブランク用基板10の主表面上の一方の表面(裏面)に、導電膜23(裏面導電膜23)が形成された導電膜付き基板50である。本発明の導電膜付き基板50は、導電膜23の表面の静摩擦係数が0.25以上、好ましくは0.30以上であることを特徴とする。導電膜23の表面の静摩擦係数の上限は、特に限定されない。
【0046】
本発明の導電膜付き基板50を用いて反射型マスク40を製造することができる。本発明の導電膜付き基板50の導電膜23の表面の静摩擦係数は所定の範囲の値である。そのため、パターン転写装置において、この反射型マスク40を搭載するステージの移動速度を速くした場合であっても、パターン転写の際の反射型マスク40の位置ずれを抑制することができる。導電膜23の表面の静摩擦係数の測定方法については、後述する。
【0047】
導電膜23の表面の静摩擦係数は、導電膜23の成膜条件を変えることによって制御することができる。一般的に、導電膜23はスパッタリング法により成膜することができる。例えば、同一の材料の導電膜23であっても、成膜の際のスパッタリング成膜中のガスの種類及び圧力を制御することにより、導電膜23の表面の静摩擦係数を制御することができる。具体的には、スパッタリング成膜中のガスとして希ガスを用いる場合には、アルゴン(Ar)よりも原子量が大きいクリプトン(Kr)及び/又はキセノン(Xe)を用いることにより、導電膜23の表面の真実接触面積を大きくすることができ、静摩擦係数を大きくすることができると考えられる。これにより、導電膜23の表面と、静電チャックの吸着保持面との間の摩擦力を大きくすることができ、パターン転写の際の反射型マスク40の位置ずれを抑制することができる。
【0048】
また、スパッタリング成膜中のガスの種類の他、ガス流量比(複数種類のガスを用いる場合)、ガス圧等の制御を行うことにより、導電膜23の表面の静摩擦係数を制御することが可能である。また、導電膜23の膜厚を制御することにより、導電膜23の表面の静摩擦係数を制御することが可能である。
【0049】
また、導電膜23を形成するマスクブランク用基板10の主表面の状態を制御することにより、導電膜23の表面の静摩擦係数を制御することが可能である。すなわち、マスクブランク用基板10の材料、主表面の研磨等の基板表面の加工条件及び処理方法を適宜選択することによって、主表面の表面形態を制御し、導電膜23の表面の静摩擦係数を制御することが可能である。
【0050】
また、マスクブランク用基板10と導電膜23との間に配置することのできる水素侵入抑制膜等の中間膜を制御することにより、導電膜23の表面の静摩擦係数を制御することが可能である。すなわち、中間膜の組成、膜厚、スパッタリング成膜中のガスの種類、ガス流量比、ガス圧等を適宜選択することによって中間膜を制御し、中間膜上に形成する導電膜23の表面の静摩擦係数を制御することが可能である。
【0051】
次に、導電膜23(裏面導電膜23)の表面形態を示すパラメーターである表面粗さ(Rms)について以下に説明する。
【0052】
まず、代表的な表面粗さの指標であるRms(Root means square)は、二乗平均平方根粗さであり、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根である。Rmsは下式(1)で表される。
【0053】
【数1】
式(1)において、lは基準長さであり、Zは平均線から測定曲線までの高さである。
【0054】
Rmsは、従来からマスクブランク用基板10の表面粗さの管理に用いられており、表面粗さを数値で把握できる。
【0055】
裏面導電膜23の表面の、1μm×1μmの領域を原子間力顕微鏡で測定して得られる二乗平均平方根粗さ(Rms)は、0.60nm以下が好ましく、0.40nm以下とすることが更に好ましい。
【0056】
次に、本発明における静摩擦係数の測定方法について説明する。裏面導電膜23の静摩擦係数は、以下に述べる方法及び装置で測定することができる。
【0057】
図8に、摩擦係数測定の説明図を示す。
図8に示すように、本発明では、導電膜付き基板50(被測定物101)の導電膜23(裏面導電膜23)の表面に測定子103を押圧した状態で、被測定物101又は測定子103の少なくとも一方を他方に対して摺動させることにより摩擦係数を測定する。例えば測定子103に対し被測定物101を摺動させてもよく、被測定物101に対して測定子103を摺動させてもよい。以下、摩擦係数の測定対象となる膜(導電膜23)を、「測定対象膜」ともいう。
【0058】
図8に示すように、摩擦係数は、被押圧面(導電膜23である被測定物101の表面)に垂直方向に圧縮荷重(垂直荷重)を印加した状態で、測定子103を被押圧面上で摺動させた際に生じる摩擦力から、
摩擦係数=摩擦力/圧縮荷重
として測定される。静止している物体を動かそうとする際に働く摩擦力を静止摩擦力といい、静止摩擦力に関する摩擦係数を、静摩擦係数という。本発明では、静摩擦係数を測定する。
【0059】
以下、本発明において好適に使用される摩擦係数測定装置について説明するが、本発明は、下記の態様に限定されるものではない。
【0060】
図9は、本発明において好適に使用される摩擦係数測定装置の概略図である。
図9に示す装置は、摩擦力発生手段と、圧縮荷重を発生させる圧縮荷重発生手段と、を含む。以下、各手段の詳細を説明する。
【0061】
摩擦力発生手段は、最表面に測定対象膜を有する試料を固定保持する試料保持台の役割と、試料を任意方向に移動させる移動台の役割を果たす。例えば、測定対象面に測定子103が押圧された状態で、試料を測定対象面に対して水平方向(
図9中のY方向)に移動させることにより、摩擦力を発生させることができる。摩擦力発生手段を、任意方向、例えば
図9中のY方向に往復移動可能な構成とすることにより、測定対象面上で測定子103を繰り返し摺動させることができる。
図9に示す装置では、試料支持体104に固定保持された被測定物101の測定対象面に測定子103が押圧された状態で、せん断動作用Yステージ102をY方向に往復移動する動作を繰り返すことにより、測定対象面上で測定子103を繰り返し摺動させることができる。又は、せん断動作用Yステージ102の往復移動によらず、測定子103を往復移動させることにより、測定対象面上で測定子103を繰り返し摺動させることも可能である。
【0062】
圧縮荷重発生手段は、任意方向、例えば
図9中のX方向に往復移動可能な構成を有することにより、測定子103を測定対象面に押圧させること、又は押圧を解除することができる。測定子103の位置調整のため、粗移動と微調整用の2段式の構成とすることも可能である。例えば
図9に示す装置では、上方の面圧印加用Xステージ105が精動(微調整用)ステージであり、下方の面圧印加用Xステージ105が粗動(粗移動用)ステージである。
【0063】
図9に示す装置中、圧縮荷重発生手段は、X方向弾性変形部材及びY方向弾性変形部材を介して測定子103を固定することができる。両弾性変形部材は、単枚構成とすることもできるが、一対の板バネからなるものを採用することが好ましい。これは、一対の板バネからなるものは、垂直圧縮応力とせん断応力とによる弾性変形部材のねじれを回避することができるからである。
図9中、面圧変位板バネ106がX方向弾性変形部材としての一対の板バネに相当し、摩擦力変位板バネ108が、Y方向弾性変形部材としての一対の板バネに相当する。
【0064】
測定子103としては、押圧時に測定対象膜に当接する部分が、露光装置に反射型マスク40が静電チャックされる面に使用される素材と同じ素材からなるものを使用することが好ましい。反射型マスク40が露光装置に置かれる状態により近い状態で静摩擦係数を測定できるためである。尚、本発明において、測定子103の、押圧時に測定対象膜に当接する部分の素材は、石英平凸レンズ表面に成膜されたTiN薄膜とすることができる。後述する実施例においても、測定子103の押圧時に測定対象膜に当接する部分の素材として、TiN薄膜(厚さ2.3μm)を用いている。
【0065】
また、本発明では、測定子103が測定対象膜に当接する部分の形状は、曲率半径322mmの球面である。
【0066】
前述のように、被測定物101の測定対象膜は、マスクブランク用基板10の表面に形成された導電膜23(裏面導電膜23)である。尚、
図9の装置では、摩擦係数測定の単純化(
図9中、測定子103のX方向における圧縮荷重の印加及びY方向への移動により発生する摩擦力の測定の単純化)の観点からは、平面上に形成されたサンプル膜の摩擦係数を測定することが好ましい。マスクブランク用基板10は平面なので、摩擦係数測定を単純化することができる。
【0067】
圧縮荷重及びせん断応力測定手段として、X及びY方向弾性変形部材の各々にその変位量を測定可能な変位センサーを配設することができる。変位センサーにより各弾性変形部材の変位量を検出し、検量線(変位量と応力との相関データ)によって、測定対象面に加わる垂直圧縮応力及び発生したせん断応力、即ち摩擦力を測定することができる。又は、前記垂直圧縮応力及び摩擦力はロードセル等の歪測定器を使用することにより測定することもできる。
図9に示す装置中、面圧検出用変位センサー107及び摩擦力検出用変位センサー109が、上記変位センサーに相当する。
【0068】
また、測定対象膜と測定子103との摺動時の相対移動速度はサーボモーター等を用いることで、その値を制御することができる。
【0069】
以上により、摩擦係数測定装置の動作状態と、測定対象面に加わる垂直圧縮応力及び発生する摩擦力との相関データを得ることができる。
【0070】
次に、測定対象膜(裏面導電膜23)の摩擦係数を測定する方法について説明する。
【0071】
まず、
図9に示す摩擦係数測定装置に、測定対象膜が最表面に配置されるように試料(導電膜付き基板50等の導電膜23を有する被測定物101)を固定保持する。次に、測定子103が試料の所望の位置に当接するように、圧縮荷重発生手段を調節する。
【0072】
本発明では、測定子103が押圧された際に測定対象膜に加わる圧縮応力を、被測定物101の測定対象膜(導電膜23)に生じる面圧に基づき決定する。
【0073】
図9に示す装置の測定対象膜と測定子103との相対移動速度の設定速度としては、その上限は1mm/sec程度までが好ましい。また、相対移動速度の設定速度の下限は摺動時の相対移動速度があれば(0でなければ)測定可能である。再現性のある測定結果を得る観点から、本発明では、相対移動速度を0.1mm/secに設定して測定する。また、露光装置に反射型マスク40の裏面導電膜23が静電チャックされる場合の条件を考慮すると、本発明では、垂直圧縮応力を与えるための荷重は10mNに設定する。
【0074】
本発明による摩擦係数の測定の環境は、温度20~23℃、湿度(RH)20~30%の大気中である。
【0075】
摩擦係数測定時の測定条件の決定後、決定された圧縮応力が測定対象面に対して垂直方向(
図9中、X方向)に加わるように、測定子103を測定対象面に押圧する。そしてこの状態で、決定された相対移動速度で測定子103を測定対象面上で往復移動させることによって摩擦力を(例えば
図9中のY方向に)発生させる。ここで発生する摩擦力は、例えば板バネのバネ定数に変位センサーで得られた撓み量を乗ずることによって算出することができる。そして摩擦係数は、先に説明したように、下記式により算出することができる。
摩擦係数=算出された摩擦力/測定された垂直圧縮応力
【0076】
静摩擦係数は、測定子103が測定対象面に対して相対的に動いた時の摩擦力から求めることができる。具体的には、
図10に示すように、直線的な増加の後のスパイク状の波形になっているところのスパイクの頂点(時間1秒付近の単調増加後に減少に転じる直前の極大値)を静摩擦係数とする。
図10に示す測定で得られた静摩擦係数は、1回目測定(
図10中のA)が0.366、2回目測定(
図10中のB)が0.310、3回目測定(
図10中のC)が0.352であり、3回の測定の平均が0.343である。本発明では、静摩擦係数の3回の測定結果の平均値をとり、その測定の静摩擦係数とする。したがって、
図10に示す例の静摩擦係数は、0.343である。
【0077】
次に、本発明の導電膜付き基板50、多層反射膜付き基板20及び反射型マスクブランク30及び反射型マスク40について、具体的に説明する。
【0078】
[マスクブランク用基板10]
まず、本発明の導電膜付き基板50等の製造に用いることのできるマスクブランク用基板10について以下に説明する。
【0079】
図1(a)は、本発明の導電膜付き基板50等の製造に用いることのできるマスクブランク用基板10の一例を示す斜視図である。
図1(b)は、
図1(a)に示すマスクブランク用基板10の断面模式図である。
【0080】
マスクブランク用基板10(又は、単に基板10と称す場合がある。)は、矩形状の板状体であり、2つの対向主表面2と、端面1とを有する。2つの対向主表面2は、この板状体の上面及び下面であり、互いに対向するように形成されている。また、2つの対向主表面2の少なくとも一方は、転写パターンが形成されるべき主表面である。
【0081】
端面1は、この板状体の側面であり、対向主表面2の外縁に隣接する。端面1は、平面状の端面部分1d、及び曲面状の端面部分1fを有する。平面状の端面部分1dは、一方の対向主表面2の辺と、他方の対向主表面2の辺とを接続する面であり、側面部1a、及び面取斜面部1bを含む。側面部1aは、平面状の端面部分1dにおける、対向主表面2とほぼ垂直な部分(T面)である。面取斜面部1bは、側面部1aと対向主表面2との間における面取りされた部分(C面)であり、側面部1aと対向主表面2との間に形成される。
【0082】
曲面状の端面部分1fは、基板10を平面視したときに、基板10の角部10a近傍に隣接する部分(R部)であり、側面部1c及び面取斜面部1eを含む。ここで、基板10を平面視するとは、例えば、対向主表面2と垂直な方向から、基板10を見ることである。また、基板10の角部10aとは、例えば、対向主表面2の外縁における、2辺の交点近傍である。2辺の交点とは、2辺のそれぞれの延長線の交点であってよい。本例において、曲面状の端面部分1fは、基板10の角部10aを丸めることにより、曲面状に形成されている。
【0083】
また、マスクブランク用基板10の主表面は、触媒基準エッチングにより表面加工された表面とすることが好ましい。触媒基準エッチング(Catalyst Referred Etching:以下、CAREともいう)とは、被加工物(マスクブランク用基板10)と触媒を処理液中に配置するか、被加工物と触媒との間に処理液を供給し、被加工物と触媒を接触させ、そのときに触媒上に吸着している処理液中の分子から生成された活性種によって被加工物を加工する表面加工方法である。尚、被加工物がガラスなどの固体酸化物からなる場合には、処理液を水とし、水の存在下で被加工物と触媒を接触させ、触媒と被加工物表面とを相対運動させる等することにより、加水分解による分解生成物を被加工物表面から除去し加工するものである。
【0084】
マスクブランク用基板10の主表面が、触媒基準エッチングにより、基準面である触媒表面に接触する凸部から選択的に表面加工される。そのため、主表面を構成する凹凸(表面粗さ)が、非常に高い平滑性を維持しつつ、非常に揃った表面形態となり、しかも、基準面に対して凸部よりも凹部を構成する割合が多い表面形態となる。したがって、前記主表面上に複数の薄膜を積層する場合においては、主表面の欠陥サイズが小さくなる傾向となるので、触媒基準エッチングによって表面処理することが欠陥品質上好ましい。特に、前記主表面上に、後述する多層反射膜21及び裏面導電膜23を形成する場合に特に効果が発揮される。
【0085】
尚、基板10の材料がガラス材料の場合、触媒としては、白金、金、遷移金属及びこれらのうち少なくとも一つを含む合金からなる群より選ばれる少なくとも一種の材料を使用することができる。また、処理液としては、純水、オゾン水や水素水等の機能水、低濃度のアルカリ水溶液、低濃度の酸性水溶液からなる群より選択される少なくとも一種の処理液を使用することができる。
【0086】
本発明の裏面導電膜23に用いるマスクブランク用基板10は、転写パターンが形成される側の主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されていることが好ましい。EUVの反射型マスクブランク用基板10の場合、基板10の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域、又は142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、特に好ましくは0.05μm以下である。更に好ましくは、基板10の転写パターンが形成される側の主表面132mm×132mmの領域において、平坦度が0.03μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の主表面は、露光装置にセットするときの静電チャックされる面であって、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。
【0087】
EUV露光用の反射型マスクブランク用基板10の材料としては、低熱膨張の特性を有するものであれば何でもよい。例えば、低熱膨張の特性を有するSiO2-TiO2系ガラス(2元系(SiO2-TiO2)及び3元系(SiO2-TiO2-SnO2等))、例えばSiO2-Al2O3-Li2O系の結晶化ガラスなどの所謂、多成分系ガラスを使用することができる。また、上記ガラス以外にシリコンや金属などの基板10を用いることもできる。前記金属の基板10の例としては、インバー合金(Fe-Ni系合金)などが挙げられる。
【0088】
また、極めて小さいサイズのマスクパターン欠陥を低減するためには、超微細パターンに対して極めて高い検査感度を有する電子線によるパターン欠陥検査が必要になってきている。この欠陥検査では、チャージアップを起こすと検査感度の低下や誤検出を起こすおそれがあるので、チャージアップを防止することが重要となる。しかしながら、多層反射膜21をエッチングすることにより遮光帯を形成する反射型マスク40では、導電体である吸収体膜24や多層反射膜21が遮光帯によって分断され、回路パターン形成部が電気的に孤立してしまいアースを確保できなくなるため、欠陥検査時の電子線照射によってチャージアップを起こすおそれがある。更に、多層反射膜21の欠陥を低減するためには、多層反射膜21直下の下地表面の平滑性を極めて高くする必要がある。その理由は、反射型マスク40には位相欠陥という透過型光マスクにはなかった問題があるためである。多層反射膜21直下の下地表面に微小な凹凸があると、それが源になってその上に形成される多層反射膜層21に乱れ(うねり)が生じ、部分的に位相差が発生する。それに伴ってEUV光の反射率が部分的に変わって致命欠陥源となるおそれがあるからである。又、多層反射膜21の欠陥低減のためには、多層反射膜21の欠陥を極めて高い感度で検査する必要がある。このためには、検査時のノイズや疑似欠陥を低減する必要があり、多層反射膜21表面の平滑性も高いものが要求される。
【0089】
そのため、電子線によるマスクパターン欠陥検査時のチャージアップを防止するとともに、多層反射膜21の位相欠陥が少なく、高い表面平滑性を得ることを目的で、基板10の表面に下地膜を形成することが好適である。このような下地膜の材料として、ルテニウム又はタンタルを主成分として含む材料が好ましく用いられる。例えば、Ru金属単体、Ta金属単体でも良いし、Ru又はTaにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)及びレニウム(Re)等から選択される金属を含有したRu合金又はTa合金であっても良い。下地膜の膜厚は、例えば1nm~10nmの範囲が好ましい。
【0090】
[多層反射膜付き基板20]
次に、本発明の導電膜付き基板50及び反射型マスクブランク30に用いることのできる多層反射膜付き基板20について以下に説明する。
【0091】
図3は、本発明の裏面導電膜23及び反射型マスクブランク30に用いることのできる多層反射膜付き基板20の一例を示す模式図である。また、
図4に、本発明の多層反射膜付き基板20の別の一例の模式図を示す。
図4に示すように、多層反射膜付き基板20が所定の裏面導電膜23を有する場合には、この多層反射膜付き基板20は、本発明の裏面導電膜23の一種である。本明細書では、
図3及び
図4の両方に示す多層反射膜付き基板20を、本実施形態の多層反射膜付き基板20という。
【0092】
本発明の多層反射膜付き基板20は、裏面導電膜23が形成される側とは反対側の主表面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜21が形成されている。本発明の多層反射膜付き基板20は、所定の多層反射膜21を有することにより、所定の波長のEUV光を反射することができる。
【0093】
尚、
図3に示すように、本発明では、裏面導電膜23を形成する前に多層反射膜21を形成することができる。また、
図2に示すように裏面導電膜23を形成し、その後、
図4に示すように多層反射膜21を形成してもよい。
【0094】
多層反射膜21は、EUVリソグラフィー用反射型マスク40においてEUV光を反射する機能を付与するものであり、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層反射膜21の構成をとっている。
【0095】
多層反射膜21はEUV光を反射する限りその材質は特に限定されないが、その単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。このような多層反射膜21は、一般的には、高屈折率の材料からなる薄膜(高屈折率層)と、低屈折率の材料からなる薄膜(低屈折率層)とが、交互に40~60周期程度積層された多層反射膜21とすることができる。
【0096】
例えば、波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜21としては、Mo膜とSi膜とを交互に40周期程度積層したMo/Si周期多層膜とすることが好ましい。その他、EUV光の領域で使用される多層反射膜21として、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、及びSi/Ru/Mo/Ru周期多層膜などとすることが可能である。
【0097】
多層反射膜21の形成方法は当該技術分野において公知であるが、例えば、マグネトロンスパッタリング法や、イオンビームスパッタリング法などにより、各層を成膜することにより形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えば、イオンビームスパッタリング法により、まずSiターゲットを用いて厚さ数nm程度のSi膜を基板10上に成膜し、その後、Moターゲットを用いて厚さ数nm程度のMo膜を成膜し、これを一周期として、40~60周期積層して、多層反射膜21を形成する。
【0098】
本実施形態の多層反射膜付き基板20を製造する際、多層反射膜21は、高屈折率材料のスパッタリングターゲット及び低屈折率材料のスパッタリングターゲットにイオンビームを交互に照射して、イオンビームスパッタリング法により形成されることが好ましい。所定のイオンビームスパッタリング法で多層反射膜21を形成することにより、EUV光に対する反射率特性が良好な多層反射膜21を確実に得ることができる。
【0099】
本実施形態の多層反射膜付き基板20は、マスクブランク用多層膜26が、多層反射膜21の表面のうち、マスクブランク用基板10とは反対側の表面に接して配置される保護膜22を更に含むことが好ましい。
【0100】
上述のように形成された多層反射膜21の上に、EUVリソグラフィー用反射型マスク40の製造工程におけるドライエッチングやウェット洗浄からの多層反射膜21の保護のため、保護膜22(
図5を参照)を形成することができる。このように、マスクブランク用基板10上に、多層反射膜21と、保護膜22とを有する形態も、本実施形態の多層反射膜付き基板20とすることができる。
【0101】
本発明の多層反射膜付き基板20において、多層反射膜21上に保護膜22が形成されていることにより、多層反射膜付き基板20を用いて反射型マスク40(EUVマスク)を製造する際の多層反射膜21表面へのダメージを抑制することができるので、EUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0102】
尚、上記保護膜22の材料としては、例えば、Ru、Ru-(Nb,Zr,Y,B,Ti,La,Mo)、Si-(Ru,Rh,Cr,B)、又はSi、Zr、Nb、La、B等の材料を使用することができるが、これらのうち、ルテニウム(Ru)を含む材料を適用すると、多層反射膜21の反射率特性がより良好となる。具体的には、保護膜22の材料は、Ru、又はRu-(Nb,Zr,Y,B,Ti,La,Mo)であることが好ましい。このような保護膜22は、特に、吸収体膜24をTa系材料とし、Cl系ガスのドライエッチングで当該吸収体膜24をパターニングする場合に有効である。
【0103】
多層反射膜21又は保護膜22の表面の形状を良好なものとするために、多層反射膜21の成膜の際に、基板10の主表面の法線に対して斜めに高屈折率層と低屈折率層とが堆積するように、スパッタリング法により成膜することが好ましい。より具体的には、Mo等の低屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子の入射角度と、Si等の高屈折率層の成膜のためのスパッタ粒子の入射角度は、0度超45度以下にして成膜すると良い。より好ましくは、0度超40度以下、更に好ましくは、0度超30度以下が望ましい。更には、多層反射膜21上に形成する保護膜22も多層反射膜21の成膜後、連続して、基板10の主表面の法線に対して斜めに保護膜22が堆積するようにイオンビームスパッタリング法により形成することが好ましい。
【0104】
また、本発明の導電膜付き基板50では、基板10と多層反射膜21との間に下地層を形成しても良い。下地層は、基板10の主表面の平滑性向上の目的、欠陥低減の目的、多層反射膜21の反射率増強効果の目的、並びに多層反射膜21の応力補正の目的で形成することができる。
【0105】
[導電膜付き基板50]
次に、本発明の導電膜付き基板50について、説明する。
図3に示す多層反射膜付き基板20において、基板10の多層反射膜21と接する面と反対側の面に、所定の裏面導電膜23を形成することによって、
図4に示すような本発明の導電膜付き基板50を得ることができる。尚、本発明の導電膜付き基板50は、必ずしも多層反射膜を有する必要はない。
図2に示すように、マスクブランク用基板10の主表面上の一方の表面に、所定の裏面導電膜23を形成することによって、本発明の導電膜付き基板50を得ることもできる。本発明の導電膜付き基板50は、導電膜23の表面の静摩擦係数が所定の範囲の値であることに特徴がある。
【0106】
裏面導電膜23の形成方法は公知であり、例えば、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法により、Cr、若しくはTa等の金属又は合金のターゲットを使用して形成することができる。
【0107】
本発明の導電膜付き基板50において、導電膜23は、タンタル及びクロムから選択される少なくとも一つを含む材料からなることが好ましい。本発明の導電膜付き基板50において、導電膜23が、タンタル及びクロムから選択される少なくとも一つを含む材料からなることにより、反射型マスク40の裏面導電膜23として求められる電気的特性(シート抵抗)の導電膜23を得ることができる。
【0108】
導電膜23のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。
【0109】
導電膜23のクロム(Cr)を含む材料は、Crにホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択した少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrBN、CrBO、CrBON、CrBC、CrBCN、CrBOC及びCrBOCNなどを挙げることができる。
【0110】
導電膜23として、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含む材料としては、その表層に存在する窒素(N)が少ないことが好ましい。具体的には、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含む材料の導電膜23の表層の窒素の含有量は、5原子%未満であることが好ましく、実質的に表層に窒素を含有しないことがより好ましい。タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含む材料の導電膜23において、表層の窒素の含有量が少ない方が、静摩擦係数又は耐摩耗性が高くなるためである。
【0111】
導電膜23は、少なくとも表面から膜厚10nmの部分における窒素含有量が少ないことが好ましく、表面から膜厚30nmの部分における窒素含有量が少ないことがより好ましい。また、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含む材料の導電膜23において、静摩擦係数の観点からは、膜全体に窒素を含まないことがより好ましい。
【0112】
導電膜23は、基板10側における窒素の含有量が多く、表面側における窒素の含有量が少なくなるように、導電膜23中の窒素の含有量が導電膜23の厚さ方向に沿って変化した傾斜組成膜としてもよい。
【0113】
本発明の導電膜付き基板50において、導電膜23は、タンタル及びホウ素を含む材料からなることが好ましい。導電膜23が、タンタル及びホウ素を含む材料からなることにより、耐摩耗性及び薬液耐性を有する導電膜23を得ることができる。
【0114】
導電膜23が、タンタル(Ta)及びホウ素(B)を含む場合、B含有量は5~30原子%であることが好ましい。導電膜23の成膜に用いるスパッタリングターゲット中のTa及びBの比率(Ta:B)は95:5~70:30であることが好ましい。
【0115】
静電チャックが適性に動作するために、導電膜23のシート抵抗は好ましくは200Ω/□以下、より好ましくは100Ω/□以下、更に好ましくは75Ω/□以下、特に好ましくは50Ω/□以下であることができる。シート抵抗は、導電膜23の組成及び膜厚を調整することにより、適切なシート抵抗の導電膜23を得ることができる。
【0116】
導電膜23の膜厚は、上述のシート抵抗を得ることができる範囲で、適宜、制御することができる。導電膜23の膜厚は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。また、表面粗さの観点から、導電膜23の膜厚は、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。
【0117】
裏面導電膜23の形成方法は、導電膜材料である金属を含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜することが好ましい。具体的には、裏面導電膜23を形成するための基板10の被成膜面を上方に向けて、基板10を水平面上で回転させ、基板10の中心軸と、スパッタリングターゲットの中心を通り基板10の中心軸とは平行な直線とがずれた位置で、被成膜面に対して所定の角度傾斜して対向したスパッタリングターゲットをスパッタリングすることによって裏面導電膜23を成膜することが好ましい。所定の角度は、スパッタリングターゲットの傾斜角度が5度以上30度以下の角度であることが好ましい。またスパッタリング成膜中のガス圧は、0.03Pa以上0.5Pa以下であることが好ましい。このような方法によって裏面導電膜23を成膜することにより、裏面導電膜23の摩擦係数及び表面粗さ(Rms)を所定の範囲とすることができる。
【0118】
スパッタリング成膜に用いるガスとして希ガスを用いる場合には、アルゴン(Ar)よりも原子量が大きいクリプトン(Kr)及びキセノン(Xe)を用いることにより、導電膜23の表面の真実接触面積を大きくすることができ、この結果、静摩擦係数を大きくすることができると考えられる。これにより、導電膜23の表面と、露光装置の静電チャックの吸着保持面との間の摩擦力(静摩擦係数)を大きくすることができ、パターン転写の際の反射型マスク40の位置ずれを抑制することができる。
【0119】
本発明の導電膜付き基板50、多層反射膜付き基板20及び反射型マスクブランク30は、マスクブランク用基板10であるガラス基板と、タンタル又はクロムを含有する導電膜23との間に、基板10(ガラス基板)から導電膜23へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜を備えることが好ましい。水素侵入抑制膜の存在により、導電膜23中に水素が取り込まれることを抑制でき、導電膜23の圧縮応力の増大を抑制することができる。
【0120】
水素侵入抑制膜の材料は、水素が透過しにくく、基板10(ガラス基板)から導電膜23への水素の侵入を抑制することができる材料であればどのような種類であってもよい。水素侵入抑制膜の材料としては、具体的には、例えば、Si、SiO2、SiON、SiCO、SiCON、SiBO、SiBON、Cr、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、Mo、MoSi、MoSiN、MoSiO、MoSiCO、MoSiON、MoSiCON、TaO及びTaON等を挙げることができる。水素侵入抑制膜は、これらの材料の単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
【0121】
本発明の多層反射膜付き基板20の水素侵入抑制膜は、珪素、クロム及びモリブデンから選択される少なくとも一つを含む材料、又はこれらの元素に更に酸素、窒素及び炭素から選択される少なくとも一つを含む材料であって、かつ水素を実質的に含有しない材料からなることが好ましい。水素侵入抑制膜が、上記の材料であることにより、水素侵入抑制膜の水素の透過を小さくすることができる。そのため、基板10(ガラス基板)から導電膜23への水素の侵入を、抑制することができる。その結果、本発明の多層反射膜付き基板20を用いることにより、平坦度が経時的に変化することをより抑制したEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板20(導電膜付き基板50)を得ることができる。
【0122】
水素侵入抑制膜は、珪素と酸素とを含有する材料で形成されてもよい。珪素と酸素とを含有する材料で形成される水素侵入抑制膜の場合、材料中における珪素と酸素の比率は、1:1~1:2であることが好ましい。材料中の珪素よりも酸素の比率が多いと、酸素と未結合状態の珪素の存在比率が高くなり、水素の侵入抑制効果が得られにくくなる。珪素と酸素とを含有する材料からなる水素侵入抑制膜をスパッタリング法で形成する場合、スパッタリングターゲットの導電性が低いため、形成される水素侵入抑制膜に欠陥が発生しやすい。この点を考慮する場合、水素侵入抑制膜はRFスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法で形成することが好ましい。
【0123】
導電膜23への水素の侵入を確実に抑制するために、水素侵入抑制膜の材料は、タンタル及び酸素を含有する材料であることが好ましい。水素侵入抑制膜の材料として好ましい材料は、TaO、TaON及びTaBOを挙げることができる。水素侵入抑制膜の材料は、TaO、TaON及びTaBOから選択される材料であって、酸素含有量が50原子%以上の材料であることがより好ましい。水素侵入抑制膜は、これらの材料の単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
【0124】
水素侵入抑制膜は、結晶構造が微結晶、好ましくは非晶質であることが望まれる。このような水素侵入抑制膜では、水素侵入抑制膜内の結晶構造が単一構造にはなりにくく、複数の結晶構造が混在した状態になりやすい。このため、水素侵入抑制膜は、酸素と未結合のTa、TaO結合、Ta2O3結合、TaO2結合及びTa2O5結合が混在する状態(混晶状態)になりやすい。膜中の酸素と未結合のTaの存在比率が多くなるに従い、水素を取り込みやすくなり、膜中を水素が通過しやすくなる。水素侵入抑制膜に酸素を50原子%以上含有させることで、理論上、膜中のタンタルはすべて酸素と結合していることになる。また、前記のような混晶状態であっても、酸素と未結合のタンタルが存在する比率を大幅に低く抑えることができると考えられる。したがって、基板10(ガラス基板)から導電膜23への水素の侵入を、更に確実に抑制するために、水素侵入抑制膜は、酸素を50原子%以上含有することが好ましい。
【0125】
水素侵入抑制膜の厚さは、1nm以上であることが好ましく、5nm以上、更には10nm以上であるとより好ましい。水素侵入抑制膜の厚さが1nm未満の場合には、水素侵入抑制膜が薄すぎて水素侵入を阻止する効果が期待できない。また、水素侵入抑制膜の厚さが1nm未満の場合には、スパッタリング法であっても基板10(ガラス基板)の主表面71上にほぼ均一な膜厚で、ほぼ均一な膜組成のものを形成することは容易ではない。
【0126】
導電膜23が基板10(ガラス基板)に接触しないように、基板10(ガラス基板)の主表面71における導電膜23の形成領域と同じか、又は導電膜23の形成領域よりも広い領域に水素侵入抑制膜が形成されていることが好ましい。
【0127】
[反射型マスクブランク30]
次に、本発明の反射型マスクブランク30について説明する。
図5は、本発明の反射型マスクブランク30の一例を示す模式図である。本発明の反射型マスクブランク30は、上記説明した多層反射膜付き基板20の多層反射膜21上又は保護膜22上に、転写パターンとなる吸収体膜24を形成した構造を有する。
【0128】
反射型マスクブランク30の吸収体膜24がEUV光を吸収することができるため、反射型マスクブランク30の吸収体膜24をパターニングすることによって、反射型マスク40(EUVマスク)を製造することができる。
【0129】
上記吸収体膜24は、露光光であるEUV光を吸収する機能を有するもので、反射型マスクブランク30を使用して作製される反射型マスク40において、上記多層反射膜21、保護膜22による反射光と、吸収体パターン27による反射光との間に所望の反射率差を有するものであればよい。
【0130】
例えば、EUV光に対する吸収体膜24の反射率は、0.1%以上40%以下の間で設定される。また、上記反射率差に加えて、上記多層反射膜21、保護膜22による反射光と、吸収体パターン27による反射光との間で所望の位相差を有するものであってもよい。尚、このような反射光間で所望の位相差を有する場合、反射型マスクブランク30における吸収体膜24を位相シフト膜と称する場合がある。上記反射光間で所望の位相差を設けて、得られる反射型マスク40の反射光のコントラストを向上させる場合、位相差は180度±10度の範囲に設定することが好ましく、吸収体膜24の絶対反射率で1.5%以上30%以下、多層反射膜21及び/又は保護膜22の表面に対する吸収体膜24の反射率は、2%以上40%以下に設定することが好ましい。
【0131】
上記吸収体膜24は、単層でも積層構造であってもよい。積層構造の場合、同一材料の積層膜、異種材料の積層膜のいずれでもよい。積層膜は、材料や組成が膜厚方向に段階的及び/又は連続的に変化したものとすることができる。
【0132】
上記吸収体膜24の材料は、特に限定されるものではない。例えば、EUV光を吸収する機能を有するもので、Ta(タンタル)単体、又はTaを主成分とする材料を用いることが好ましい。Taを主成分とする材料は、通常、Taの合金である。このような吸収体膜24の結晶状態は、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造を有しているものが好ましい。Taを主成分とする材料としては、例えば、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBを含み、更にOとNの少なくともいずれかを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、及びTaとGeとNを含む材料などから選択した材料を用いることができる。また例えば、TaにB、Si及び/又はGe等を加えることにより、アモルファス構造が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。更に、TaにN及び/又はOを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができる。吸収体膜24は、微結晶構造であるか、又はアモルファス構造であることが好ましい。結晶構造については、X線回折装置(XRD)により確認することができる。
【0133】
具体的には、吸収体膜24を形成するタンタルを含有する材料としては、例えば、タンタル金属、タンタルに、窒素、酸素、ホウ素及び炭素から選ばれる一以上の元素を含有し、水素を実質的に含有しない材料等が挙げられる。例えば、Ta、TaN、TaON、TaBN、TaBON、TaCN、TaCON、TaBCN及びTaBOCN等が挙げられる。前記材料については、本発明の効果が得られる範囲で、タンタル以外の金属を含有させてもよい。吸収体膜24を形成するタンタルを含有する材料にホウ素を含有させると、吸収体膜24をアモルファス構造(非晶質)になるように制御しやすい。
【0134】
本発明の反射型マスクブランク30の吸収体膜24は、タンタルと窒素を含有する材料で形成されることが好ましい。吸収体膜24中の窒素含有量は、30原子%以下であることが好ましく、25原子%以下であることがより好ましく、20原子%以下であることが更に好ましい。吸収体膜24中の窒素含有量は、5原子%以上であることが好ましい。
【0135】
本発明の反射型マスクブランク30では、吸収体膜24が、タンタルと窒素とを含有し、窒素の含有量が10原子%以上50原子%以下であることが好ましい。吸収体膜24がタンタルと窒素とを含有し、窒素の含有量が10原子%以上50原子%以下であることにより、吸収体膜24の表面において、吸収体膜24を構成する結晶粒子の拡大を抑制できるので、吸収体膜24をパターニングしたときのパターンエッジラフネスが低減できる。
【0136】
本発明の反射型マスクブランク30では、吸収体膜24の膜厚は、多層反射膜21又は保護膜22による反射光と、吸収体パターン27による反射光との間に所望の反射率差を有するものとするために必要な膜厚に設定する。吸収体膜24の膜厚は、シャドーイング効果を小さくするために、60nm以下であることが好ましい。
【0137】
また、本発明の反射型マスクブランク30では、上記吸収体膜24は、上記多層反射膜21又は保護膜22による反射光と、吸収体パターン27による反射光との間に所望の位相差を有する位相シフト機能を持たせることができる。その場合、EUV光による転写解像性が向上した反射型マスク40のための原版である反射型マスクブランク30が得られる。また、所望の転写解像性を得るのに必要な位相シフト効果を奏するため、必要な吸収体膜24の膜厚を従来よりも薄膜化することができるので、シャドーイング効果を小さくした反射型マスクブランク30が得られる。
【0138】
位相シフト機能を有する吸収体膜24の材料は、特に限定されるものではない。例えば、上記に挙げたTa単体、又はTaを主成分とする材料とすることができるし、それ以外の材料でも構わない。Ta以外の材料としては、Ti、Cr、Nb、Mo、Ru、Rh及びWが挙げられる。また、Ta、Ti、Cr、Nb、Mo、Ru、Rh及びWのうち2以上の元素を含む合金、又はこれらの元素の積層膜とすることができる。また、これらの材料に窒素、酸素及び炭素から選ばれる一以上の元素を含有しても良い。
【0139】
尚、吸収体膜24を積層膜とする場合、同一材料の層の積層膜や、異種材料の層の積層膜としても良い。吸収体膜24を異種材料の層の積層膜とした場合、この複数層を構成する材料が互いに異なるエッチング特性を有する材料にして、エッチングマスク機能を持った吸収体膜24としてもよい。
【0140】
尚、本発明の反射型マスクブランク30は、
図5に示す構成に限定されるものではない。例えば、上記吸収体膜24の上に、吸収体膜24をパターニングするためのマスクとなるレジスト膜を形成することもでき、レジスト膜付き反射型マスクブランク30も、本発明の反射型マスクブランク30とすることができる。尚、吸収体膜24の上に形成するレジスト膜は、ポジ型でもネガ型でも構わない。また、レジスト膜は、電子線描画用でもレーザー描画用でも構わない。更に、吸収体膜24と前記レジスト膜との間に、いわゆるハードマスク膜(エッチングマスク膜25)を形成することもでき、この態様も本発明における反射型マスクブランク30とすることができる。
【0141】
本発明の反射型マスクブランク30は、マスクブランク用多層膜26が、吸収体膜24の表面のうち、マスクブランク用基板10とは反対側の表面に接して配置されるエッチングマスク膜25を更に含むことが好ましい。
図7に示す反射型マスクブランク30の場合には、マスクブランク用基板10の主表面の上のマスクブランク用多層膜26が、多層反射膜21、保護膜22及び吸収体膜24に加えて、更にエッチングマスク膜25を有している。本発明の反射型マスクブランク30は、
図7に示す反射型マスクブランク30のマスクブランク用多層膜26の最表面に、更にレジスト膜を有することができる。
【0142】
具体的には、本発明の反射型マスクブランク30は、吸収体膜24の材料が、Ta単体、又はTaを主成分とする材料を用いる場合、吸収体膜24上にクロムを含有する材料からなるエッチングマスク膜25が形成された構造となっていることが好ましい。このような構造の反射型マスクブランク30とすることにより、吸収体膜24に転写パターンを形成後、エッチングマスク膜25を塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングで剥離しても、吸収体パターン27の光学的特性が良好な反射型マスク40を作製することができる。また、吸収体膜24に形成された転写パターンのラインエッジラフネスが良好な反射型マスク40を作製することができる。
【0143】
エッチングマスク膜25を形成するクロムを含有する材料としては、例えば、クロムに、窒素、酸素、炭素及びホウ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料等が挙げられる。例えば、エッチングマスク膜25を形成するクロムを含有する材料としては、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCN等が挙げられる。前記材料については、本発明の効果が得られる範囲で、クロム以外の金属を含有させてもよい。エッチングマスク膜25の膜厚は、転写パターンを精度よく吸収体膜24に形成するエッチングマスクとしての機能を得る観点から、3nm以上であることが望ましい。また、エッチングマスク膜25の膜厚は、レジスト膜の膜厚を薄くする観点から、15nm以下であることが望ましい。
【0144】
次に、本発明の反射型マスクブランク30の製造方法について、
図4に示す多層反射膜付き基板20を出発材料として、説明する。本発明の反射型マスクブランク30の製造方法では、マスクブランク用基板10の主表面の上に形成された多層反射膜21の上に、吸収体膜24を形成する。尚、
図2に示す多層反射膜付き基板20を用いた場合には、更に基板10の裏面に、上述のように所定の裏面導電膜23を形成する。
【0145】
本発明の反射型マスクブランク30の製造方法では、吸収体膜24を形成する工程において、吸収体膜24は、吸収体膜24に含まれる材料からなるスパッタリングターゲットを用いる反応性スパッタリング法により形成され、反応性スパッタリングの際の雰囲気ガスに含まれる成分が含有されるように吸収体膜24が形成されることが好ましい。反応性スパッタリング法による成膜の際に、雰囲気ガスの流量を調節することにより、表面形状が所定の形状となるように、調節することができる。
【0146】
反応性スパッタリング法により吸収体膜24を形成する場合、雰囲気ガスは、不活性ガスと、窒素ガスとを含有する混合ガスであることが好ましい。この場合には、窒素の流量を調節することができるので、適切な組成を有する吸収体膜24を得ることができる。
【0147】
本発明の反射型マスクブランク30の製造方法では、吸収体膜24は、タンタルを含む材料のスパッタリングターゲットを用いて形成されることが好ましい。この結果、タンタルを含む、光を適切に吸収する吸収体膜24を形成することができる。
【0148】
本発明の反射型マスクブランク30の製造方法は、多層反射膜21の表面に接して配置される保護膜22を形成する工程を更に含むことが好ましい。保護膜22を形成することにより、反射型マスク40(EUVマスク)を製造する際の多層反射膜21の表面へのダメージを抑制することができるので、EUV光に対する反射率特性が更に良好となる。
【0149】
保護膜22は、保護膜22の材料のスパッタリングターゲットにイオンビームを照射する、イオンビームスパッタリング法により形成されることが好ましい。イオンビームスパッタリング法によって、保護膜22表面の平滑化が得られるので、保護膜22上に形成される吸収体膜24や、更に吸収体膜24上に形成されるエッチングマスク膜25の表面を平滑化させることができる。
【0150】
本発明の反射型マスクブランク30の製造方法は、吸収体膜24の表面に接して配置されるエッチングマスク膜25を形成する工程を更に含むことが好ましい。吸収体膜24とはドライエッチング特性が異なるエッチングマスク膜25を形成することにより、吸収体膜24に転写パターンを形成する際に、高精度の転写パターンを形成することができる。
【0151】
[反射型マスク40]
次に、本発明の一実施形態に係る反射型マスク40について以下に説明する。
図6は、本実施形態の反射型マスク40を示す模式図である。
【0152】
本発明の反射型マスク40は、上記の反射型マスクブランク30における吸収体膜24をパターニングして、上記多層反射膜21上又は上記保護膜22上に吸収体パターン27を形成した構造である。本実施形態の反射型マスク40は、EUV光等の露光光で露光すると、反射型マスク40の表面で吸収体膜24のある部分では露光光が吸収され、それ以外の吸収体膜24を除去した部分では露出した保護膜22及び多層反射膜21で露光光が反射されることにより、リソグラフィー用の反射型マスク40として使用することができる。
【0153】
本発明の反射型マスク40によれば、多層反射膜21上(又は保護膜22上)に吸収体パターン27を有することにより、EUV光を用いて所定のパターンを被転写体に転写することができる。また、パターン転写装置において、この反射型マスク40を搭載するステージの移動速度を速くした場合であっても、パターン転写の際の反射型マスク40の位置ずれを抑制することができる。
【0154】
[半導体装置の製造方法]
以上説明した反射型マスク40と、露光装置を使用したリソグラフィープロセスにより、半導体基板等の被転写体上に形成されたレジスト膜に、反射型マスク40の吸収体パターン27に基づく回路パターン等の転写パターンを転写し、その他種々の工程を経ることで、半導体基板等の被転写体上に種々の転写パターン等が形成された半導体装置を製造することができる。
【0155】
すなわち、本発明は、上述の反射型マスク40を用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有する半導体装置の製造方法である。
【0156】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、パターン転写の際の反射型マスク40の位置ずれを抑制することができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【実施例】
【0157】
以下、本発明の導電膜付き基板50、多層反射膜付き基板20、反射型マスクブランク30及び反射型マスク40を製造した例を実施例として説明する。
【0158】
<実施例1~5及び比較例1の導電膜付き基板50>
まず、EUV露光用のマスクブランク用基板10の表面に、多層反射膜21を以下に述べるように成膜して、実施例1~5、及び比較例1の導電膜付き基板50を製造した。
【0159】
<マスクブランク用基板10の作製>
実施例1~5、並びに比較例1の導電膜付き基板50の製造に用いるマスクブランク用基板10は、次のようにして製造した。
【0160】
マスクブランク用基板10として、大きさが152mm×152mm、厚さが6.35mmのSiO2-TiO2系のガラス基板を準備し、両面研磨装置を用いて、当該ガラス基板の表裏面を、酸化セリウム砥粒やコロイダルシリカ砥粒により段階的に研磨した後、低濃度のケイフッ酸で表面処理した。これにより得られたガラス基板表面の表面粗さを原子間力顕微鏡で測定したところ、二乗平均平方根粗さ(Rms)は0.5nmであった。
【0161】
当該ガラス基板の表裏面における148mm×148mmの領域の表面形状(表面形態、平坦度)、TTV(板厚ばらつき)を、波長変調レーザーを用いた波長シフト干渉計で測定した。その結果、ガラス基板の表裏面の平坦度は290nm(凸形状)であった。ガラス基板表面の表面形状(平坦度)の測定結果は、測定点ごとにある基準面に対する高さの情報としてコンピュータに保存するとともに、ガラス基板に必要な表面平坦度の基準値50nm(凸形状)、裏面平坦度の基準値50nmと比較し、その差分(必要除去量)をコンピュータで計算した。
【0162】
次いで、ガラス基板表面内を加工スポット形状領域ごとに、必要除去量に応じた局所表面加工の加工条件を設定した。事前にダミー基板を用いて、実際の加工と同じようにダミー基板を、一定時間基板を移動させずにスポットで加工し、その形状を上記表裏面の表面形状を測定する装置と同じ測定機にて測定し、単位時間当たりにおけるスポットの加工体積を算出する。そして、スポットの情報とガラス基板の表面形状の情報より得られた必要除去量に従い、ガラス基板をラスタ走査する際の走査スピードを決定した。
【0163】
設定した加工条件に従い、磁気粘弾性流体による基板仕上げ装置を用いて、磁気粘弾性流体研磨(Magneto Rheological Finishing : MRF)加工法により、ガラス基板の表裏面平坦度が上記の基準値以下となるように局所表面加工処理をして表面形状を調整した。尚、このとき使用した磁気粘弾性流体は、鉄成分を含んでおり、研磨スラリーは、研磨剤として酸化セリウムを約2wt%含むアルカリ水溶液を用いた。その後、ガラス基板を濃度約10%の塩酸水溶液(温度約25℃)が入った洗浄槽に約10分間浸漬した後、純水によるリンス、イソプロピルアルコール(IPA)乾燥を行った。
【0164】
得られたガラス基板表面の表面形状(表面形態、平坦度)を測定したところ、表裏面の平坦度は約40~50nmであった。また、ガラス基板表面の表面粗さを、転写パターン形成領域(132mm×132mm)の任意の箇所の1μm×1μmの領域において、原子間力顕微鏡を用いて測定したところ、二乗平均平方根粗さ(Rms)は0.37nmとなっており、MRFによる局所表面加工前の表面粗さより荒れた状態になっていた。
【0165】
そのため、ガラス基板の表裏面について、ガラス基板表面の表面形状が維持又は改善する研磨条件で両面研磨装置を用いて両面研磨を行った。この仕上げ研磨は、以下の研磨条件で行った。
加工液:アルカリ水溶液(NaOH)+研磨剤(濃度:約2wt%)
研磨剤:コロイダルシリカ、平均粒径:約70nm
研磨定盤回転数:約1~50rpm
加工圧力:約0.1~10kPa 研磨時間:約1~10分
【0166】
その後、ガラス基板をアルカリ水溶液(NaOH)で洗浄し、EUV露光用のマスクブランク用基板10を得た。
【0167】
得られたマスクブランク用基板10の表裏面の平坦度、表面粗さを測定したところ、表裏面平坦度は約40nmと両面研磨装置による加工前の状態を維持又は改善しており良好であった。また、得られたマスクブランク用基板10について、転写パターン形成領域(132mm×132mm)の任意の箇所の1μm×1μmの領域を、原子間力顕微鏡で測定したところ、その表面粗さ(Rms)は0.13nmであった。
【0168】
尚、本発明におけるマスクブランク用基板10の局所加工方法は、上述した磁気粘弾性流体研磨加工法に限定されるものではない。ガスクラスターイオンビーム(Gas Cluster Ion Beams : GCIB)や局所プラズマを使用した加工方法であってもよい。
【0169】
以上のようにして、実施例1~5及び比較例1に用いるマスクブランク用基板10を製造した。
【0170】
<裏面導電膜23の作製>
上述した実施例1~5及び比較例1のマスクブランク用基板10の一方の表面(多層反射膜21を形成しない裏面に相当する表面)に、DCマグネトロンスパッタリング法により、次のようにして、裏面導電膜23を形成した。表1に形成した裏面導電膜23の組成、成膜条件及び膜厚等を示す。尚、実施例1~4については、裏面導電膜23を形成の前に、表2に示す組成の水素侵入抑制膜をDCマグネトロンスパッタリング法により形成した。実施例5及び比較例1については、水素侵入抑制膜は形成しなかった。
【0171】
実施例1~5及び比較例1の裏面導電膜23は、次のようにして成膜した。すなわち、表1に示す組成のターゲットをマスクブランク用基板10の裏面(一方の表面)に対向させ、表1に示す所定のガスを成膜ガスとして用いて、スパッタリング(又は反応性スパッタリング)を行った。裏面導電膜23の成膜時間を調節することにより、裏面導電膜23の膜厚を70nmとした。このようにして、
図2に示す構造の導電膜付き基板50を作製した。
【0172】
【0173】
【0174】
<摩擦係数の測定>
図9に示す摩擦係数測定装置に、実施例1~5及び比較例1の導電膜付き基板50を被測定物101として配置した。測定子103として、曲率半径322mmの石英平凸レンズの表面にTiN薄膜(厚さ2.3μm)を形成したものを用いた。被測定物101の測定対象膜(導電膜23)と測定子103との相対移動速度の設定速度は0.1mm/secとした。また、垂直圧縮応力を与えるための荷重は10mNに設定した。これらの摩擦係数の測定は、温度20~23℃、湿度(RH)20~30%の大気中で行った。測定の一例として、
図10に、実施例3の導電膜付き基板50(TaNの導電膜23)の静摩擦係数の測定結果を示す。
図10において、0秒から単調増加後に減少に転じる直前の極大値の摩擦係数を、その測定の静摩擦係数とした。一つの試料あたり3回の測定を行い、その平均値をその試料の静摩擦係数とした。
【0175】
得られた実施例1~5及び比較例1の導電膜付き基板50の静摩擦係数及び表面粗さ(Rms)を、表1に示す。表1から明らかなように、実施例1~5の試料の静摩擦係数は、0.25以上だった。これに対して比較例1の試料の静摩擦係数は、0.25未満だった。また、露光装置にセットするときの静電チャックされる面であって、142mm×142mmの領域の任意の箇所の1μm×1μmの領域において、原子間力顕微鏡を用いて測定したところ、実施例1~5、比較例1の試料の表面粗さ(Rms)は、0.60nm以下であった。
【0176】
<比摩耗量の測定>
比摩耗量の算出方法は次の通りである。まず、圧子を一定荷重で平面の測定対象(導電膜付き基板50)に押し付けて一定距離の往復摺動を繰り返した。測定対象表面の摺動部の摩耗面積と摩耗深さを測定し、摩耗堆積を算出した。摩耗堆積を荷重と合計摺動距離で除した値が比摩耗量である。つまり、比摩耗量は、単位荷重、単位距離当たりの摩耗堆積である。
【0177】
得られた実施例1~5及び比較例1の導電膜付き基板50の比摩耗量を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1~3及び5の試料の比摩耗量は、0.00×10-7mm3/Nmmであり、耐摩耗性が高かった。これに対して、実施例4及び比較例1の試料の比摩耗量は、各々5.00×10-7mm3/Nmm、5.50×10-7mm3/Nmmであり、実施例1~3、5と比較して耐摩耗性が低めであった。
【0178】
<実施例1~5及び比較例1の多層反射膜付き基板20>
次に、実施例1~5及び比較例1の多層反射膜付き基板20を作製した。マスクブランク用基板10として、上述の実施例1~5及び比較例1の導電膜付き基板50の製造に用いたマスクブランク用基板10と同じものを用いた。マスクブランク用基板10の表面に、多層反射膜21を形成し、その後、裏面に導電膜23を形成した。
【0179】
<多層反射膜21の作製>
実施例1~5及び比較例1の多層反射膜付き基板20の多層反射膜21の成膜は次のようにして行った。すなわち、Moターゲット及びSiターゲットを使用して、イオンビームスパッタリング法によりMo層(低屈折率層、厚み2.8nm)及びSi層(高屈折率層、厚み4.2nm)を交互積層し(積層数40ペア)、多層反射膜21を上述のマスクブランク用基板10上に形成した。イオンビームスパッタリング法による多層反射膜21の成膜の際、イオンビームスパッタリング法におけるマスクブランク用基板10の主表面の法線に対するMo及びSiスパッタ粒子の入射角度は30度、イオンソースのガス流量は8sccmとした。
【0180】
多層反射膜21の成膜後、更に連続して多層反射膜21上にイオンビームスパッタリング法によりRu保護膜22(膜厚2.5nm)を成膜して多層反射膜付き基板20とした。イオンビームスパッタリング法によるRu保護膜22の成膜の際、基板10の主表面の法線に対するRuスパッタ粒子の入射角度は40度、イオンソースのガス流量は8sccmとした。以上のようにして、実施例1~5及び比較例1の多層反射膜付き基板20を製造した。
【0181】
<吸収体膜24の作製>
次に、上述した実施例1~5及び比較例1の多層反射膜付き基板20の保護膜22の表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、吸収体膜24を作成した。吸収体膜24は、吸収層であるTaBN膜及び低反射層であるTaBO膜の二層からなる積層膜の吸収体膜24とした。実施例1~5及び比較例1の吸収体膜24の成膜方法は、次の通りである。
【0182】
まず、上述した多層反射膜付き基板20の保護膜22表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、吸収層としてTaBN膜を成膜した。このTaBN膜は、TaB混合焼結ターゲット(Ta:B=80:20、原子比)に多層反射膜付き基板20を対向させ、Arガス及びN2ガスの混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行った。表3に、TaBN膜を成膜する際のArガス及びN2ガスの流量等の成膜条件を示す。成膜後、X線光電子分光法(XPS法)により、TaBN膜の元素組成を測定した。表3に、XPS法により測定したTaBN膜の元素組成を、TaBN膜の膜厚と共に示す。尚、上記TaBN膜の結晶構造をX線回折装置(XRD)により測定したところ、アモルファス構造であった。
【0183】
次に、TaBN膜の上に更に、Ta、B及びOを含むTaBO膜(低反射層)を、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。このTaBO膜は、第1膜のTaBN膜と同様に、TaB混合焼結ターゲット(Ta:B=80:20、原子比)に多層反射膜付き基板20を対向させ、Ar及びO2の混合ガス雰囲気中で反応性スパッタリングを行った。表3に、TaBO膜を成膜する際のArガス及びO2ガスの流量等の成膜条件を示す。成膜後、X線光電子分光法(XPS法)により、TaBO膜の元素組成を測定した。表3に、XPS法により測定したTaBO膜の元素組成を、TaBO膜の膜厚と共に示す。尚、上記TaBO膜の結晶構造をX線回折装置(XRD)により測定したところ、アモルファス構造であった。以上のようにして、実施例1~5及び比較例1の吸収体膜24(積層膜)を成膜した。このようにして、吸収体膜24を有する反射型マスクブランク30を製造した。
【0184】
【0185】
<裏面導電膜23の作製>
上述した反射型マスクブランク30の多層反射膜21を形成していない裏面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、上述の実施例1~5及び比較例1の導電膜付き基板50の場合と同様に、それぞれ異なる条件で水素侵入抑制膜及び裏面導電膜23を形成した。表1に、裏面導電膜23の組成及び膜厚等を示す。また、表2に、水素侵入抑制膜の組成及び膜厚等を示す。
【0186】
以上のようにして、実施例1~5及び比較例1の反射型マスクブランク30を得た。
【0187】
<反射型マスク40の作製>
実施例1~5及び比較例1の反射型マスクブランク30の吸収体膜24の表面に、スピンコート法によりレジストを塗布し、加熱及び冷却工程を経て、膜厚150nmのレジスト膜を成膜した。次いで、所望のパターンの描画及び現像工程を経て、レジストパターン形成した。当該レジストパターンをマスクにして、所定のドライエッチングにより、吸収体膜24のパターニングを行い、保護膜22上に吸収体パターン27を形成した。尚、吸収体膜24がTaBN膜である場合には、Cl2及びHeの混合ガスによりドライエッチングすることができる。また、吸収体膜24がTaBN膜及びTaBO膜の二層からなる積層膜である場合には、塩素(Cl2)及び酸素(O2)の混合ガス(塩素(Cl2)及び酸素(O2)の混合比(流量比)は8:2)によりドライエッチングすることができる。
【0188】
その後、レジスト膜を除去し、上記と同様の薬液洗浄を行い、実施例1~5及び比較例1の反射型マスク40を作製した。
【0189】
<半導体装置の製造>
作製した実施例1~5及び比較例1の反射型マスク40について、光干渉を利用した平坦度測定装置によりマスク裏面の平坦度を測定した結果、200nmの凸面の平坦度を有していることを確認した。
【0190】
作製した実施例1~5及び比較例1の反射型マスク40を用いて、
図11に示すような構成のパターン転写装置200により、半導体基板上へのパターン転写を行った。
図11に示すように、レーザープラズマX線源231から得られたEUV光(軟X線)を反射型マスク40に入射し、ここで反射された光を、小光学系232を通して例えばSiウェハ基板233上に転写する。
【0191】
縮小光学系232としてはX線反射ミラーを用いることができる、縮小光学系により反射型マスク40で反射されたパターンは通常1/4程度に縮小される。例えばSiウェハのSi基板233へのパターンの転写は、Si基板233上に形成させたレジスト膜にパターンを露光しこれを現像することによって行うことができる。露光波長として13~14nmの波長帯を使用する場合には、通常光路が真空中になるように転写が行われる。
【0192】
実施例1~5で得られた反射型マスク40を用いて、パターン転写装置200により、半導体基板上へのパターン転写を行った結果、反射型マスク40を搭載するステージの移動速度を速くした場合でも位置ずれを生じることなく、高精度な位置精度を有しているパターンを形成できることを確認した。
【0193】
一方、比較例1として作製した反射型マスク40を用いて、転写装置200により、半導体基板上へのパターン転写を行った結果、反射型マスク40を搭載するステージの移動速度を速くすると位置ずれが生じ、高精度なパターン転写を行えなかった。
【符号の説明】
【0194】
10 マスクブランク用基板
20 多層反射膜付き基板
21 多層反射膜
22 保護膜
23 導電膜(裏面導電膜)
24 吸収体膜
25 エッチングマスク膜
26 マスクブランク用多層膜
27 吸収体パターン
30 反射型マスクブランク
40 反射型マスク
50 導電膜付き基板
101 被測定物
102 せん断動作用Yステージ
103 測定子
104 試料支持体
105 面圧印加用Xステージ(2種/粗動、精動)
106 面圧変位板バネ
107 面圧検出用変位センサー
108 摩擦力変位板バネ
109 摩擦力検出用変位センサー
110 測定位置変更Zステージ
111 測定位置変更Yステージ
200 パターン転写装置
231 レーザープラズマX線源
232 縮小光学系
233 Si基板