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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】密封構造及び密封構造の組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20230615BHJP
   F02M 61/16 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
F16J15/10 A
F02M61/16 K
F16J15/10 Q
F16J15/10 R
F16J15/10 T
F16J15/10 X
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022563616
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021036940
(87)【国際公開番号】W WO2022107472
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2020193761
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 健一
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-174287(JP,A)
【文献】特開2005-226517(JP,A)
【文献】特開2006-170379(JP,A)
【文献】特表2004-506135(JP,A)
【文献】特表2003-536019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
F02M 61/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付孔を有する被取付部材と、
前記取付孔に取り付けられる取付部品と、
前記取付孔と前記取付部品との間の環状隙間に配されることで、密封対象流体の圧力により高圧になる加圧側とその反対側の反加圧側との間を封止する円筒状の樹脂製ガスケットと、
を備える密封構造であって、
前記取付部品には、前記樹脂製ガスケットが装着される環状の装着溝が設けられる共に、
前記装着溝の底には、前記加圧側から前記反加圧側に向けて拡径するテーパ面と、前記加圧側から前記反加圧側に向けて縮径するテーパ面とを有する環状突起が設けられており、前記環状突起の先端は、前記装着溝における溝幅方向の中心よりも前記加圧側に片寄るように配されていることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
前記樹脂製ガスケットは前記装着溝内において前記加圧側に片寄った位置に装着され、前記加圧側から圧力が作用していない状態においては、前記装着溝における前記反加圧側の側壁面と前記樹脂製ガスケットとの間には隙間が設けられることを特徴とする請求項1に記載の密封構造。
【請求項3】
前記装着溝における前記加圧側の側壁面は前記樹脂製ガスケットの中心軸線に対して垂直な面で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の密封構造。
【請求項4】
請求項1,2または3に記載の密封構造の組立方法であって、
前記取付部品に対して前記加圧側から前記樹脂製ガスケットを嵌めた後に、前記樹脂製ガスケットにおける前記加圧側の端面が、前記装着溝における前記加圧側の側壁面を通過する位置まで、前記樹脂製ガスケットを前記装着溝に向けてスライドさせることにより前記樹脂製ガスケットを前記装着溝に装着させる工程と、
前記樹脂製ガスケットが装着された前記取付部品を、前記被取付部材の前記取付孔に取り付ける工程と、
を有することを特徴とする密封構造の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ガスケットを備える密封構造及び密封構造の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダーヘッドに対してインジェクタが取り付けられる部位においては、シリンダーヘッドに形成された取付孔とインジェクタとの間の環状隙間から高圧の燃焼ガスが漏れてしまうことを防止するために樹脂製ガスケットが設けられている。例えば、耐熱性及び耐圧性に優れたPTFE製のガスケットが好適に用いられている。しかしながら、このようなガスケットの場合には、長期使用によりクリープ現象が進み、経時的に熱収縮が進行して、徐々に密封性が低下してしまう。そこで、インジェクタに設けられるガスケット装着溝の溝底面に、高圧側から低圧側に向けて拡径するテーパ面を設けることで、高圧側から低圧側に向かうにつれて隙間を狭くする技術が知られている(特許文献1参照)。このような構成を採用することで、経時的にガスケットの熱収縮が進行してしまった状態においても、燃焼ガスによる圧力が作用した際に、セルフシール機能を発揮させることで、密封性を維持させることができる。
【0003】
しかしながら、上記のような構成を採用した場合であっても、クリープ現象が進行したガスケットにおいては、低温環境下では、ガスケットの外周面と取付孔の内周面との間には隙間が生じる。この隙間は、経時的に徐々に広くなってしまうため、密封性が徐々に低下してしまうことは避けられない。そのため、より一層、長期に亘って安定的に密封性が発揮されることが可能なガスケットが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3830896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、長期に亘って安定した密封性を発揮させることを可能とする密封構造及び密封構造の組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明の密封構造は、
取付孔を有する被取付部材と、
前記取付孔に取り付けられる取付部品と、
前記取付孔と前記取付部品との間の環状隙間に配されることで、密封対象流体の圧力により高圧になる加圧側とその反対側の反加圧側との間を封止する円筒状の樹脂製ガスケットと、
を備える密封構造であって、
前記取付部品には、前記樹脂製ガスケットが装着される環状の装着溝が設けられる共に、
前記装着溝の底には、前記加圧側から前記反加圧側に向けて拡径するテーパ面と、前記加圧側から前記反加圧側に向けて縮径するテーパ面とを有する環状突起が設けられており、前記環状突起の先端は、前記装着溝における溝幅方向の中心よりも前記加圧側に片寄るように配されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、加圧側からの圧力が樹脂製ガスケットに作用すると、加圧側から反加圧側に向けて拡径するテーパ面からの抗力を受けて、樹脂製ガスケットは外周面側に向かって押し付けられて、セルフシール機能が発揮される。また、環状突起の先端は、装着溝における溝幅方向の中心よりも加圧側に片寄るように配されているため、ガスケットの外周面のうち、特に加圧側に片寄った付近で、取付孔の内周面との間に隙間が発生することを抑制することができる。これにより、クリープ現象が進行したガスケットにおいても、低温環境下で、ガスケットの外周面と取付孔の内周面との間に形成される隙間について、加圧側に片寄った付近で狭くすることができる。従って、ガスケットの外周面のうち、加圧側の付近と取付孔の内周面との間にできる隙間が狭いことで、当該隙間が広い場合に比べて、密封対象流体の漏れを抑制することができる。
【0009】
前記樹脂製ガスケットは前記装着溝内において前記加圧側に片寄った位置に装着され、前記加圧側から圧力が作用していない状態においては、前記装着溝における前記反加圧側の側壁面と前記樹脂製ガスケットとの間には隙間が設けられるとよい。
【0010】
これにより、加圧側からの圧力により樹脂製ガスケットに対して働く抗力の分散を抑制することができ、樹脂製ガスケットが加圧側から反加圧側に向けて拡径するテーパ面から受ける抗力を高めることができ、セルフシール機能を十分に発揮させることができる。
【0011】
前記装着溝における前記加圧側の側壁面は前記樹脂製ガスケットの中心軸線に対して垂直な面で構成されているとよい。
【0012】
これにより、樹脂製ガスケットの装着溝への装着作業性を高めることができる。
【0013】
そして、本発明の密封構造の組立方法は、
前記取付部品に対して前記加圧側から前記樹脂製ガスケットを嵌めた後に、前記樹脂製ガスケットにおける前記加圧側の端面が、前記装着溝における前記加圧側の側壁面を通過する位置まで、前記樹脂製ガスケットを前記装着溝に向けてスライドさせることにより前記樹脂製ガスケットを前記装着溝に装着させる工程と、
前記樹脂製ガスケットが装着された前記取付部品を、前記被取付部材の前記取付孔に取り付ける工程と、
を有することを特徴とする。
【0014】
このように、取付部品に対して樹脂製ガスケットを嵌めた後に、樹脂製ガスケットを装着溝に向けてスライドさせることで、樹脂製ガスケットを装着溝に装着させることができる。そして、樹脂製ガスケットをスライドさせる過程で、樹脂製ガスケットの先端は装着溝に設けられた環状突起のテーパ面に突き当たる。このテーパ面は加圧側から反加圧側に向けて拡径するように構成されているので、加圧側から反加圧側に向けてスライドさせる際に、樹脂製ガスケットをスムーズにスライドさせることができる。また、装着溝における加圧側の側壁面が樹脂製ガスケットの中心軸線に対して垂直な面で構成される場合には、樹脂製ガスケットにおける加圧側の端面が、装着溝における加圧側の側壁面を通過すると、樹脂製ガスケットは当該側壁面の抵抗力を受けることなく、装着溝内に装着される。これにより、樹脂製ガスケットを、装着溝内の所定の位置に、簡単に位置決めさせることができる。
【0015】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、長期に亘って安定した密封性を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の実施例に係る樹脂製ガスケットの概略構成図である。
図2図2は本発明の実施例に係る被取付部材と取付部品の概略構成図である。
図3図3は本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
図4図4は取付部品への樹脂製ガスケットの装着方法の説明図である。
図5図5は評価試験装置の概略構成図である。
図6図6は本発明の実施例に係る密封構造の評価試験結果を示すグラフである。
図7図7は本発明の実施例に係る密封構造の評価試験結果を示すグラフである。
図8図8は本発明の実施例に係る密封構造の評価試験結果を示すグラフである。
図9図9は本発明の実施例に係る密封構造の評価試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
以下の説明においては、被取付部材がエンジンのシリンダーヘッドで、取付部品がシリンダーヘッドに形成された取付孔に取り付けられるインジェクタの場合を例にして説明する。特に、本実施例に係る密封構造は、直噴ガソリンエンジンに備えられる燃料噴射装置に好適に適用することができる。ただし、本発明は、シリンダーヘッドに限らず、特に、高圧の密封対象流体に曝される部材(被取付部材)に形成された取付孔と、この取付孔に取り付けられる各種取付部品との間の環状隙間を封止する密封構造に適用することができる。
【0020】
(実施例)
図1図9を参照して、本発明の実施例に係る密封構造及び密封構造の組立方法について説明する。図1は本発明の実施例に係る樹脂製ガスケットの概略構成図であり、樹脂製ガスケットの一部(図中、上半分)を切断した一部破断断面図を示している。図2は本発明の実施例に係る被取付部材と取付部品の概略構成図であり、密封構造において、樹脂製ガスケットを省略した状態の概略構成を模式的断面図にて示している。図3は本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。図4は取付部品への樹脂製ガスケットの装着方法の説明図であり、取付部品に対して樹脂製ガスケットを装着する際の様子を模式的断面図にて示している。図5は評価試験装置の概略構成図である。図6図9は本発明の実施例に係る密封構造の評価試験結果を示すグラフである。
【0021】
<樹脂製ガスケット>
特に、図1を参照して、本実施例に係る樹脂製ガスケット(以下、ガスケット100と称する)について説明する。本実施例に係るガスケット100は、円筒状の部材により構成される。ガスケット100の中心軸線を含む面でガスケット100を切断した断面の形状は矩形である。また、ガスケット100の材料としては、耐熱性かつ耐圧性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を好適に適用することができる。PTFEにより、ガスケット100を製造する場合には、充填材の配合量を20vol%以上とすることにより、低温収縮を抑制することができる。なお、添加する充填材の粒径を20μm以下にすることで、シール面の隙間から密封対象流体(本実施例においては、エンジン気筒内の燃焼時に発生する燃焼ガスに相当する)の漏れを抑制することができる。
【0022】
<被取付部材及び取付部品>
特に、図2を参照して、本実施例に係る被取付部材200と取付部品300について説明する。被取付部材200(本実施例の場合にはシリンダーヘッド)には、円柱面状の取付孔210が設けられている。そして、この取付孔210に取り付けられる取付部品300(本実施例の場合にはインジェクタ)には、ガスケット100が装着される環状の装着溝310が設けられている。図2図3及び図4も同様)においては、右側が装置(本実施例の場合にはエンジン)の使用時に密封対象流体(燃焼ガス)により高圧になる側(以下、加圧側(H)と称する)であり、左側がその反対側(以下、反加圧側(L)と称する)である。なお、ガスケット100は、取付孔210と取付部品300との間の環状隙間に配されることで、加圧側(H)とその反対側の反加圧側(L)との間を封止する役割を担っている。
【0023】
取付部品300に設けられた装着溝310の底には、環状突起311が設けられている。この環状突起311は、加圧側(H)から反加圧側(L)に向けて拡径するテーパ面(断面で見たときに直線となる円錐面)311aと、加圧側(H)から反加圧側(L)に向けて縮径するテーパ面311bにより構成されている。加圧側(H)のテーパ面311aのテーパ角度の方が、反加圧側(L)のテーパ面311bのテーパ角度よりも大きく構成され、かつ、前者の軸線方向(取付部品300の中心軸線方向)の長さの方が後者の軸線方向の長さよりも短く構成されている。なお、テーパ角度とは、一つの軸断面における円錐の二つの母線の間の角度である。そして、環状突起311の先端(テーパ面311aとテーパ面311bとの境界部分)は、装着溝310における溝幅方向の中心よりも加圧側
(H)に片寄るように配されている。なお、テーパ面311aとテーパ面311bとの境界部分については、図示の例では、面取りが設けられていないが、R面などの面取りを設けることもできる。
【0024】
また、装着溝310における加圧側(H)の側壁面312はガスケット100の中心軸線に対して垂直な面で構成されている。同様に、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313もガスケット100の中心軸線に対して垂直な面で構成されている。ただし、この反加圧側(L)の側壁面313については、テーパ面などの傾斜面により構成してもよい。なお、本実施例においては、環状突起311のテーパ面311aと、加圧側(H)の側壁面312とは湾曲面で繋がっており、環状突起311のテーパ面311bと反加圧側(L)の側壁面313も湾曲面で繋がっている。
【0025】
<各部材の寸法関係>
密封構造を構成する各部材の寸法関係について説明する。ガスケット100の中心軸線方向の幅をW10、ガスケット100の内径をD11、ガスケット100の外径をD12とする(図1参照)。また、被取付部材200の取付孔210の内径をD20とする(図2参照)。更に、装着溝310における溝幅(中心軸線方向の幅)をW31、装着溝310における加圧側(H)の側壁面312から環状突起311の先端(テーパ面311aとテーパ面311bとの境界部分)までの距離をW32とする。そして、取付部品300における装着溝310の外側近傍の外径をD31、装着溝310の底のうち径の最も小さな部分の外径をD32、環状突起311の先端の外径をD33とする(図2参照)。
【0026】
すると、
D11<D32<D33<D12<D31<D20
W32<W10<W31
を満たす。なお、本実施例では、D12<D31<D20の関係を満たす構成を採用している。しかしながら、D11<D32<D33の関係を満たすため、ガスケット100が装着溝310に装着された状態においては、ガスケット100が拡径して、ガスケット100の外周面が取付孔210の内周面に密着する。
【0027】
<密封構造>
特に、図3を参照して、本実施例に係る密封構造について説明する。ガスケット100は、装着溝310に装着された状態で、取付孔210と取付部品300との間の環状隙間を封止する。上記のような寸法関係を満たすことにより、ガスケット100は、装着溝310に設けられた環状突起311により径方向外側に押圧され、かつ取付孔210の内周面により径方向内側に押圧されることで、径方向に圧縮された状態となる。また、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313とガスケット100との間には隙間Sが設けられる。本実施例においては、ガスケット100は加圧側(H)に片寄った位置に装着される。すなわち、ガスケット100における中心軸線方向の幅の中心位置が、装着溝310の溝幅の中心位置よりも加圧側(H)に位置するように、ガスケット100は装着溝310に装着される。なお、使用環境条件において、加圧側(H)から圧力が作用した状態でも上記の隙間Sが維持されるように、各部の寸法などが設定されるのが望ましい。
【0028】
<密封構造の組立方法>
特に、図4を参照して、本実施例に係る密封構造の組立方法について説明する。本実施例に係る組立方法は、ガスケット100を取付部品300の装着溝310に装着させる工程と、ガスケット100が装着された取付部品300を、被取付部材200の取付孔210に取り付ける工程とからなる。以下、前者の工程について、より詳細に説明する。
【0029】
まず、取付部品300とガスケット100とを同軸上に位置決めさせた状態(図4(a)参照)から、取付部品300に対して加圧側(H)からガスケット100が嵌められる
(同図(b)参照)。その後、ガスケット100は装着溝310に向けてスライドされる。この過程で、ガスケット100の先端は、環状突起311におけるテーパ面311aに対して摺動する(同図(c)参照)。そして、ガスケット100における加圧側(H)の端面が、装着溝310における加圧側(H)の側壁面312を通過すると、ガスケット100は自己の弾性復元力により縮径して、装着溝310に装着された状態となる(同図(d)参照)。なお、ガスケット100が装着された際に、ガスケット100における加圧側(H)の側面と、装着溝310における側壁面312との間は、密接していてもよいし、隙間が設けられていてもよい。
【0030】
<本実施例に係る密封構造及び密封構造の組立方法の優れた点>
本実施例によれば、加圧側(H)からの圧力がガスケット100に作用すると、テーパ面311aからの抗力を受けて、ガスケット100は外周面側に向かって押し付けられて、セルフシール機能が発揮される。つまり、ガスケット100は、テーパ面311aと、取付孔210の内周面のうちテーパ面311aと対向する付近との間で圧縮され、セルフシール機能が発揮される。また、ガスケット100が反加圧側(L)に移動してしまうことも抑制される。
【0031】
そして、本実施例においては、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313とガスケット100との間には隙間Sが設けられている。そのため、加圧側(H)からの圧力によりガスケット100に対して働く抗力の分散を抑制することができ、ガスケット100がテーパ面311aから受ける抗力を高めることができ、セルフシール機能を十分に発揮させることができる。この点について、より詳細に説明する。装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313に接するようにガスケット100を配した場合には、加圧側(H)からの圧力によりガスケット100に対して働く抗力の大部分は側壁面313により発生する。そのため、テーパ面311aにより発生する抗力は小さくなってしまう。従って、テーパ面311aと、取付孔210の内周面のうちテーパ面311aと対向する付近との間で圧縮されることにより得られるセルフシール機能は、本実施例の場合に比べて、低下してしまう。
【0032】
以上のように、本実施例に係る密封構造によれば、長期使用によりガスケット100のクリープ現象が進み、経時的に熱収縮が進行しても、セルフシール機能が十分発揮されることによって、長期に亘って安定した密封性を発揮させることができる。
【0033】
また、本実施例においては、装着溝310における加圧側(H)の側壁面312はガスケット100の中心軸線に対して垂直な面で構成され、かつ装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313とガスケット100との間には隙間Sが設けられる構成が採用されている。これにより、ガスケット100の装着溝310への装着作業性を高めることができる。この点については、上記の密封構造の組立方法で説明した通りである。
【0034】
更に、本実施例においては、環状突起311の先端は、装着溝310における溝幅方向の中心よりも加圧側(H)に片寄るように配されている。そのため、ガスケット100の外周面のうち、特に加圧側(H)に片寄った付近で、取付孔210の内周面との間に隙間が発生することを抑制することができる。これにより、クリープ現象が進行したガスケット100においても、低温環境下で、ガスケット100の外周面と取付孔210の内周面との間に形成される隙間について、加圧側(H)に片寄った付近で狭くすることができる。従って、ガスケット100の外周面のうち、加圧側(H)の付近と取付孔210の内周面との間にできる隙間が狭いことで、当該隙間が広い場合に比べて、密封対象流体の漏れを抑制することができる。この点について、以下に説明する評価試験に基づいて、より詳細に説明する。
【0035】
以下、本実施例に係るガスケットに関する評価試験(リーク試験)と評価試験結果について、図5図9を参照して説明する。図5に示すように、評価試験装置は、恒温槽510と、シリンダーヘッドの取付孔付近の構造を模した被取付部材治具200Xと、インジェクタを模した取付部品治具300Xと、窒素ガスを送り込むポンプ520と、漏れ量を測定する流量計530とを備えている。この評価試験装置を用いて評価試験を行うことによって、シリンダーヘッドにインジェクタを取り付けた際の密封対象流体(燃焼ガス)の漏れ量を評価することができる。
【0036】
被取付部材治具200Xには取付孔210Xが設けられている。また、取付部品治具300Xには、ガスケット100が装着される装着溝310Xが設けられている。評価試験においては、装着溝310Xにガスケット100が装着された取付部品治具300Xが、取付孔210Xに取り付けられる。この状態で、ポンプ520から取付孔210Xに高圧の窒素ガスが供給され、被取付部材治具200Xに形成された横穴220Xから漏れ出る窒素ガスの流量を流量計530で測定することで、リーク量が測定される。
【0037】
評価試験においては、PTFE製のガスケット100のクリープ現象を十分に進行させるために、恒温槽510内の温度が230℃に設定された状態で、取付孔210X内に、高圧(14MPa)の窒素ガスが所定時間供給される。その後、恒温槽510内の温度が-40℃に設定され、かつ取付孔210X内に8MPaの窒素ガスが供給された状態で漏れ量が測定される。なお、「-40℃」は、実際の使用環境温度範囲の最低温度に基づき設定されている。
【0038】
取付部品治具300Xについて、装着溝310Xの構成が、溝底面に高圧側から低圧側に向けて拡径するテーパ面のみが設けられた従来例(背景技術の説明参照)の場合と、環状突起311が溝幅の中央に設けられた比較例(図2において、W32/W31=0.5)の場合と、環状突起311が高圧側(H)に片寄った本実施例(図2において、W32/W31=0.2)の場合について、それぞれ評価試験を行った。
【0039】
その結果、従来例の場合には、低温時のリーク量が約3000cc/minであった。これに対し、比較例の場合には、低温時のリーク量が約60cc/minで、本実施例の場合は、低温時のリークは殆ど認められなかった。比較例と本実施例とのリーク量の差異については、以下の理由に基づくものと考えられる。すなわち、ガスケット100のクリープ現象が十分進行した状態においては、ガスケット100の外周面と取付孔210Xの内周面との間の隙間は、環状突起311の先端付近で最も狭く(もしくは隙間がなく)、環状突起311の先端から軸線方向に離れるにつれて徐々に広くなる。この隙間は、加圧側(H)で広ければ広いほど漏れが生じ易くなる。従って、本実施例の場合には、加圧側
(H)における当該隙間を狭くすることができるため、比較例に比べて、リーク量を低減させることができたものと考えられる。
【0040】
また、ガスケット100や環状突起311に関する各部の寸法を色々変えたサンプルを用いて、上記の評価試験を行うことで、各部の好適な寸法についての検証を行った。その検証結果について、以下に説明する。なお、評価試験に用いたサンプルの基準となる寸法については、次の通りである。ガスケット100については、図1中のW10=3.09mm,D11=4.68mm,D12=5.97mmである。また、取付孔210Xの内径D20=6.2575mmで、環状溝310Xについては、図2中のW31=3.7mm,W32=0.74mm,D31=5.975mm,D32=4.89mm,D33=5.175mmである。
【0041】
環状突起311の先端の位置と、リーク量との関係を検証するために、環状突起311の先端の位置を変えた(W32/W31を変えた)複数のサンプル(取付部品治具300X)について評価試験を行った。なお、テーパ面311a及びテーパ面311bの各テーパ角度が異なることで、W32/W31のみが異なり、その他の寸法は同一(上記の基準の寸法)となるサンプルを用いて評価試験を行った。図6は、その評価結果を示すグラフであり、横軸が低温時のリーク量[cc/min]であり、縦軸が、W32/W31である。この評価結果から、品質的に支障のないリーク量(10cc/min以下)を満たすためには、W32/W31が、おおよそ、0.1以上0.45以下であれば良いことが分かった。
【0042】
また、ガスケット100のつぶし代と、リーク量との関係を検証するために、ガスケット100の外径D12のみを変えた複数のサンプルについて評価試験を行った。なお、「つぶし代」は、ガスケット100の厚みから、ガスケット100が装着される部位における最小隙間を引いたものに相当する。従って、「つぶし代」=(D12-D11)/2-
(D20-D33)/2となる(図1及び図2参照)。図7は、その評価結果を示すグラフであり、横軸が低温時のリーク量[cc/min]であり、縦軸が、つぶし代である。この評価結果から、品質的に支障のないリーク量(10cc/min以下)を満たすためには、つぶし代が、おおよそ、0.05以上0.23mm以下であれば良いことが分かった。
【0043】
また、環状突起311における加圧側(H)のテーパ面311aのテーパ角度と、リーク量との関係を検証するために、当該テーパ角度を変えた複数のサンプルについて評価試験を行った。なお、W31とW32/W31(=0.2)とD33は一定とし、D32が異なることで、テーパ面311aのテーパ角度が異なる複数のサンプルを用いて評価試験を行った(図2参照)。図8は、その評価結果を示すグラフであり、横軸が低温時のリーク量[cc/min]であり、縦軸が、テーパ角度である。この評価結果から、品質的に支障のないリーク量(10cc/min以下)を満たすためには、テーパ角度が、おおよそ、25°以上48°以下であれば良いことが分かった。
【0044】
更に、装着溝310における反加圧側(L)の側壁面313とガスケット100との間に形成される隙間S(流体圧力が作用していない場合の隙間)と、流体圧力が作用した際のリーク量との関係を検証するために、ガスケット100の軸線方向の寸法(W10)を変えた複数のサンプルについて評価試験を行った。なお、環状突起311については、W32/W31=0.2となるように設定した。図9は、その評価結果を示すグラフであり、横軸が低温時のリーク量[cc/min]であり、縦軸が、隙間Sである。この評価結果から、品質的に支障のないリーク量(10cc/min以下)を満たすためには、隙間Sが、おおよそ、0.17mm以上であれば良いことが分かった。
【符号の説明】
【0045】
100 ガスケット
200 被取付部材
200X 被取付部材治具
210,210X 取付孔
220X 横穴
300 取付部品
300X 取付部品治具
310,310X 装着溝
311 環状突起
311a (加圧側)テーパ面
311b (反加圧側)テーパ面
312 (加圧側)側壁面
313 (反加圧側) 側壁面
510 恒温槽
520 ポンプ
530 流量計
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9