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特許7296548作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20230616BHJP
   G06Q 10/0639 20230101ALI20230616BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q10/0639
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020572119
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000450
(87)【国際公開番号】W WO2020166236
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2019023823
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】沖本 純幸
(72)【発明者】
【氏名】市村 大治郎
(72)【発明者】
【氏名】秦 秀彦
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116545(JP,A)
【文献】特開2000-123085(JP,A)
【文献】特開2014-092799(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013225(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 10/0639
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶部から、所定の作業時間及び作業量を含む作業に関する稼働データに基づいて生成された、作業の効率を評価するためのモデルデータを読み出すステップと、
前記モデルデータにより、作業に要した時間及び作業量に関するデータに基づいて、作業効率の低下の影響度を算出するステップと、
前記影響度に応じて、作業効率の低下を評価するステップと、
を含み、
前記モデルデータは、前記作業が理想的に実行された場合の指標である理想指標と、前記作業が実際に実行された場合の指標である実効指標と、前記作業が停止した時間である停止時間と、前記作業によって得られた不良な結果に要した時間を特定する不良時間とに基づいて生成されたデータであり、
前記影響度を算出するステップは、前記理想指標に前記停止時間または前記不良時間を考慮して前記実効指標の推定値を推定し、前記推定値と前記実効指標を比較して前記影響度を算出する
作業効率評価方法。
【請求項2】
前記影響度を算出するステップは、所定の要因を考慮しない場合の前記実効指標の値の第1の発生確率分布と、前記所定の要因を考慮した場合の前記実効指標の値の第2の発生確率分布とを求め、前記第1の発生確率分布と前記第2の発生確率分布から得られる情報量の差を前記影響度とする
請求項1に記載の作業効率評価方法。
【請求項3】
前記理想指標は、製品の理想的な生産指標として製品の製造時間及び製造数によって求められ、
前記実効指標は、前記製品を実際に生産した際の製造に使用する機械が停止した場合を含む前記機械の稼働時間及び良品として製造された製品の数である良品数によって求められ、
前記停止時間は、前記機械が停止した時間であり、
前記不良時間は、生産された製品のうち不良品の生産時間を特定する
請求項1又は2に記載の作業効率評価方法。
【請求項4】
前記モデルデータを読み出すステップの前に、
前記機械から前記稼働データを取得するステップと、
前記稼働データから、前記理想指標、前記実効指標、前記停止時間及び前記不良時間を算出するステップと、
前記理想指標、前記実効指標、前記停止時間及び前記不良時間から、前記モデルデータを生成するステップと、
前記モデルデータを前記記憶部に格納させるステップと、
をさらに含む請求項3の作業効率評価方法。
【請求項5】
前記稼働データは、前記機械の生産条件を特定するパラメータ、製品の生産に要した時間及び生産された製品の個数に関する情報である
請求項4に記載の作業効率評価方法。
【請求項6】
前記モデルデータに基づいて、前記機械から新たに取得される稼働データから、前記機械の作業効率である生産性能の低下を検出するステップと、
をさらに含む請求項4又は5に記載の作業効率評価方法。
【請求項7】
前記影響度として、前記機械におけるエラーが作業効率の低下に与える影響を特定する値を求める
請求項3乃至6のいずれか1に記載の作業効率評価方法。
【請求項8】
前記影響度として、前記理想指標が作業効率の低下に関する影響を特定する値を求める
請求項3乃至7のいずれか1に記載の作業効率評価方法。
【請求項9】
前記影響度として、前記不良時間が作業効率の低下に関する影響を特定する値を求める
請求項3乃至8のいずれか1に記載の作業効率評価方法。
【請求項10】
前記影響度として複数の影響度が得られた場合、前記複数の影響度のなかから値が高い所定の影響度から作業効率の低下に与える影響を選択する
請求項3乃至9のいずれか1に記載の作業効率評価方法。
【請求項11】
前記モデルデータを生成するステップでは、ベイズ推定により、モデルデータの変動の確率分布を算出し、モデルデータとする
請求項1乃至10のいずれか1に記載の作業効率評価方法。
【請求項13】
記憶部から、所定の作業時間及び作業量を含む作業に関する稼働データに基づいて生成された作業に要した時間及び作業量を評価するモデルデータを読み出し、前記モデルデータにより、作業に要した時間及び作業に関するデータに基づいて、作業効率の低下の影響度を算出し、前記影響度に応じて、作業効率の低下を評価する評価部を備え、
前記モデルデータは、前記作業が理想的に実行された場合の指標である理想指標と、前記作業が実際に実行された場合の指標である実効指標と、前記作業が停止した時間である停止時間と、前記作業によって得られた不良な結果に要した時間を特定する不良時間とに基づいて生成されたデータであり、
前記評価部は、前記理想指標に前記停止時間または前記不良時間を考慮して前記実効指標の推定値を推定し、前記推定値と前記実効指標を比較して前記影響度を算出する
作業効率評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、対象とする装置の異常予兆の検知時または異常の発生時に、異常の予兆もしくは原因を推定することが開示される。特許文献1の装置異常診断方法は、保守作業とそれに関連する稼働イベントまたはアラームの少なくとも一方との間の因果関係を因果関係モデルとして生成し、これを用いて異常診断処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5129725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、製品の製造、修理、選別等の機械や人による作業の効率を評価する作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の作業効率評価方法は、記憶部から、所定の作業時間及び作業量を含む作業に関する稼働データに基づいて生成された、作業の効率を評価するためのモデルデータを読み出すステップと、モデルデータにより、作業に要した時間及び作業量に関するデータに基づいて、作業効率の低下の影響度を算出するステップと、影響度に応じて、作業効率の低下を評価するステップとを含む。
【0006】
これらの概括的かつ特定の態様は、システム、方法、及びコンピュータプログラム、並びに、それらの組み合わせにより、実現されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本開示の作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラムによれば、作業の効率の低下を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る生産性能評価装置の構成を示すブロック図である。
図2A】生産性能評価装置で利用されるログデータの一部を説明する図である。
図2B図2Aに続いて生産性能評価装置で利用されるログデータの一部を説明する図である。
図3A】生産性能評価装置でログデータから得られる値を説明する図である。
図3B図3Aに続いて生産性能評価装置でログデータから得られる値を説明する図である。
図4】理想タクトタイムモデル、チョコ停時間モデル、不良製造時間モデル及び実効タクトタイムモデルの関係を説明する図である。
図5A】点推定で求める確率を説明するグラフである。
図5B】ベイズ推定で求める確率分布を説明するグラフである。
図6A】最尤推定で求める確率分布を説明するグラフである。
図6B図6Aと比較して、ベイズ推定で求める確率分布を説明するグラフである。
図7A】対数指数分布の一例を示すグラフである。
図7B】0過剰指数分布の一例を示すグラフである。
図7C】指数分布の一例を示すグラフである。
図8A図1の性能評価装置で生成されるモデルデータの一例である。
図8B図8Aのモデルデータから得られる分布である。
図9】実効タクトタイムの確率分布の一例である。
図10A】理想タクトタイム及びエラー時間を利用しない場合に推定された実効タクトタイムの一例である。
図10B】理想タクトタイムを利用して推定された実効タクトタイムの一例である。
図10C】エラー時間を利用して推定された実効タクトタイムの一例である。
図11A】求めた各情報量の一例である。
図11B図11Aの情報量からの性能低下の原因の評価を説明する図である。
図12A】生産性能評価方法を説明するフローチャートである。
図12B図12Aに続いて生産性能評価方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の基礎となった知見]
工場の生産性能の指標の1つとして、タクトタイムと呼ばれる1生産あたりの時間が用いられる。ところで、一の生産設備を利用して、生産に要する時間が異なる複数種の製品をそれぞれ異なるタイミングで生産することもある。すなわち、製造した製品を考慮しなければ、タクトタイムによって生産性能を評価することが適切ではない場合もある。
【0010】
また、生産設備では、さまざまな理由で設備の稼働の停止(以下、「チョコ停」として記載する。)が発生し、これが原因となって生産数が低下する場合もある。各設備についてチョコ停の原因となるエラーの数は非常に多く(例えば、250種類等)、仮に生産性能の低下した設備を特定できたとしても、その低下原因はまちまちである。また、生産性能が低下した原因まで特定できなければ、生産性能を改善することはできないため、原因の特定が望まれる場合もある。
【0011】
さらに、普段から頻繁に起こるエラーが普段通りの頻度で発生した場合と、めったに起こらないエラーが何度か発生した場合、生産性能の低下にどちらが強く影響したのか、単純にエラーの時間や回数のみから判断することは難しい。
【0012】
また、製品の生産において生じる「歩留まり」も製品の生産性能の低下に影響すると考えられるが、歩留まりは良品数/製造数で個数比率であるため、チョコ停等の時間と単純に比較することは難しい。
【0013】
製品の製造の他にも、機械や人による様々な作業の効率の低下を評価することがあるが、その効率の低下の発生や効率の低下の要因を特定することは困難である。
【0014】
本開示は、作業の効率の評価に利用する作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラムを提供する。なお、以下の実施形態では、作業効率として、製品の生産を一例とし、製品の生産性能の低下を評価する生産性能評価方法、生産性能評価装置、及びプログラムを用いて説明する。具体的には、製造部品の種別など、作業内容に応じたタクトタイムを推定し、これと行われた作業の作業時間および作業量を比較することで作業効率の低下を評価する。またエラーによる作業停止時間及び不良品の生産に関わるロス時間を考慮し、どの要因が推定したタクトタイムからの低下を説明できるかによって、作業効率低下の要因を推定する。例えば、本開示の生産性能評価方法、生産性能評価装置、及びプログラムは、製品を生産する工場において、設備の問題を早期に発見及び解決することができる。これにより、本開示の生産性能評価方法、生産性能評価装置、及びプログラムを使用する工場では、製品の生産性能の向上を達成することができる。
【0015】
なお、本開示に係る作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラムで効率の評価方法の対象となる「作業」としては、製品の製造に関する生産効率の他、物品を修理する際の作業の効率、物品を検査する際の作業の効率、物品をパッキングする際の作業の効率、物品を選別する際の作業の効率等の種々の作業があげられる。また、作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラムによる作業の対象は、機械によって作業されるものに限定されず、冶具によって作業されるものや人によって作業されるものであってもよい。
【0016】
[実施形態]
実施形態に係る生産性能評価装置及び生産性能評価方法は、製品を生産する工場において、生産に使用される機械の性能を評価するものである。ここで、生産性能評価装置は、評価の対象となる機械と有線または無線で接続されている。そして、生産性能評価装置は、接続される機械の操作に用いるパラメータ、機械の計測値(観測値)、生産される製品の構造を特定するパラメータ、製品の生産に要した時間、生産された製品の良品および不良品の数である、良品数・不良品数等のログデータを取得し、取得したログデータを用いて機械の性能を評価する。以下に、図面を参照して実施形態に係る生産性能評価装置、生産性能評価方法及びプログラムについて説明する。
【0017】
本出願において、「タクトタイム」は、製品を1つ生産するのに必要な時間を意味するものとする。
「チョコ停」は、製品の生産において、製品の生産に利用される機械が何らかのエラーにより、短時間(例えば、1~30分程度)停止していることを意味するものとする。また、「チョコ停時間」は、エラーが発生して機械がある時間停止し、作業員等により復旧して機械が再稼働するまでの時間を意味する。
「ロット」は、製品を生産する際、同一条件の下でひとまとめに複数個生産される生産単位を意味するものとする。以下の説明では、ロット毎に生産に関わる情報が付されるものとする。
「歩留まり」は、製品の生産において、原料の投入量から期待される製品の生産量に対して、実際に生産された良品数の比率であるとする。
なお、本出願において、「生産」と「製造」との用語が利用されるが、同義とする。
【0018】
〈生産性能評価装置〉
図1に示すように、生産性能評価装置1Aは、取得部111、計算部112、モデル構築部113、検出部114、評価部115及び出力処理部116を備える。また、生産性能評価装置1Aは、データの処理を実行するCPU等の制御部11、ネットワークを介して外部の装置等との間でデータの送受信を実行する通信部12、データを記憶するRAMやROM等の記憶部13、データの入力に利用される入力部14及びデータの出力に利用される出力部15を備えるコンピュータである。また、記憶部13は、生産性能評価プログラムPや、ログデータD1、モデルデータD2を記憶する。
【0019】
例えば、生産性能評価装置1Aでは、記憶部13に記憶される生産性能評価プログラムPが読み出されて実行されることで、制御部11が、取得部111、計算部112、モデル構築部113、検出部114、評価部115及び出力処理部116としての処理を実行する。
【0020】
ここで、生産性能評価装置1Aは、1台のコンピュータにより実現されてもよいし、ネットワークを介して接続される複数台のコンピュータの組み合わせにより実現されてもよい。例えば、記憶部13に記憶されるデータの一部が、ネットワークを介して接続される外部の記憶媒体に記憶され、生産性能評価装置1Aは、外部の記憶媒体に記憶されるデータを使用するように構成されていてもよい。具体的には、後述する処理で用いられるログデータD1や、モデルデータD2を外部の記憶媒体に記憶してもよい。また、取得部111を外部の装置で実現しても良い。
【0021】
取得部111は、所定のタイミングで、生産性能の評価の対象である機械から、機械の生産条件を特定するパラメータや、製品の生産に要した時間及び生産された製品の良品・不良品数に関する情報など、生産に関わるログデータを取得し、記憶部13に蓄積して記憶させる。例えば、取得部111は、定期的なタイミングでログデータを取得してもよいし、パラメータの値に変化が生じるタイミングでログデータを取得してもよいし、機械が利用されている間は常時、ログデータを取得してもよい。
【0022】
図2Aに、ログデータD1の一部であるロット情報D11の一例を示す。このロット情報D11は、製品の生産の際の機械の稼働や停止の時間、生産された製品の良品・不良品数等に関するデータである。ロット情報D11は、具体的には、生産対象の製品のロットの識別情報である「ロット番号」と、製品の生産に用いられた機械の識別情報である「機械番号」と、このロットで生産を開始した時刻である「開始時刻」と、このロットで製造した製品の製造パラメータの値である「パラメータl」及び「パラメータs」と、このロットの製品の生産に要した時間である「稼働時間」と、稼働時間のうち実際に機械が停止した時間を除いた時間である「製造時間」と、稼働時間のうち機械が停止した時間である「停止時間」と、このロットで生産された製品の数である「製造数」と、このロット番号で生成された製品うち、不良品を除いた良品の数である「良品数」とを関連付けるデータである。
【0023】
図2Bに、ログデータD1の一部であるチョコ停情報D12の一例を示す。このチョコ停情報D12は、製品の生産の際のいわゆるチョコ停に関するデータであって、あるロットでチョコ停が発生した回数である停止回数やチョコ停の時間である停止時間等の情報を含む。具体的には、チョコ停情報D12は、「ロット番号」と、製品の生産に用いられた機械の識別情報である「機械番号」と、このロット番号の製品の生産を開始した時刻である「開始時刻」と、「パラメータl」と、「パラメータs」と、このロット番号で製品を生成した際に発生したエラーの識別情報である「エラーコード」と、このエラーコードのエラーによって発生したチョコ停の総回数である「停止回数」と、このエラーコードのエラーによって発生したエラー毎のチョコ停の総停止時間の合計である「エラー停止時間」である。
【0024】
一のロット番号での生成において、複数種のエラーが発生することもあるため、図2Bに示すチョコ停情報D12は、一のロット番号に対して複数のレコードを有する。具体的には、図2Bのチョコ停情報D12からは、ロット番号「A318701094」の生成では、エラーコード「1」のエラーが1回、「21」のエラーが1回、「22」のエラーが1回、「25」のエラーが3回、「33」のエラーが1回、「55」のエラーが1回発生したことがわかる。
【0025】
なお、図2A及び図2Bに示すデータ構成は、一例であって、ログデータD1が生産性能評価装置1Aにおいて生産性能の評価に必要な各項目のデータを含んでいればその構成については限定されない。
【0026】
計算部112は、ログデータD1を用いて実効タクトタイムt1、理想タクトタイムt0、エラー時間tE、エラー毎の製品1個当たりのチョコ停時間fi及び不良製造時間yを算出する。なお、以下では、単に「チョコ停時間fi」と記載されるときであっても、「エラー毎の製品1個当たりのチョコ停時間fi」を意味するものとする。また、計算部112は、算出した実効タクトタイムt1、理想タクトタイムt0、エラー時間tE、エラー毎の製品1個当たりのチョコ停時間fi及び不良製造時間yを、モデル構築部113、検出部114及び評価部115に出力する。
【0027】
「実効タクトタイムt1」は、対象のロットに関して、チョコ停時間や、不良品の生産に要した時間も含むタクトタイムである。具体的には、良品数1個当たりの機械の稼働時間である。計算部112は、下記の式(1)を用いて、実効タクトタイムt1を算出する。

実効タクトタイムt1 = 稼働時間Mt/良品数Gc ・・・(1)
【0028】
「理想タクトタイムt0」は、対象のロットに関して、チョコ停時間を除き、全ての製品の生産に関するタクトタイムである。すなわち、対象のロットに関して、機械がエラーなしで生産でき、不良品もないと仮定した場合のタクトタイムである。具体的には、全体の製造数1個当たりの製造時間であり、全体の製造数は、生産された良品及び不良品を含み、製造時間は、生産の開始から終了までの時間である。計算部112は、下記の式(2)を用いて、理想タクトタイムt0を算出する。

理想タクトタイムt0 = 製造時間Ot/製造数Pc ・・・(2)
【0029】
図3Aに、図2Aの稼働時間、製造時間、製造数及び良品数から、式(1)により求めた実効タクトタイムt1と、式(2)により求めた理想タクトタイムt0を示す。具体的には、ロット番号「A318701094」について、903/1999(稼働時間/良品数)から、実効タクトタイムt1「0.452」が求められ、798/2000(製造時間/製造数)から、理想タクトタイムt0「0.399」が求められた。なお、図3Aの例では、小数第四位を四捨五入している。また、図3Aのデータの項目である「判定閾値」及び「判定結果」については後述する。
【0030】
図3Aに示すデータは、説明のためであり、計算部112は、図3Aに示す構成のデータを生成する必要はない。すなわち、ログデータを参照して開始時刻等の情報を特定することが可能であるため、計算部112は、ロット番号と関連づけて、求めた理想タクトタイムt0及び実効タクトタイムt1のみをモデル構築部113、検出部114及び評価部115に出力すれば足りる。
【0031】
「エラー時間tE」は、停止時間を、良品数で割った値である。計算部112は、下記の式(3)を用いて、エラー時間tEを算出する。

エラー時間tE = 停止時間Et/良品数Gc ・・・(3)
【0032】
「エラー毎の製品1個当たりのチョコ停時間fi」は、対象のロットについて、対象のエラーに関するチョコ停のエラー停止時間を、良品数で割った値である。計算部112は、下記の式(4)を用いて、エラー毎の製品1個当たりのチョコ停時間fiを算出する。

チョコ停時間fi = エラーiの停止時間Eti/良品数Gc ・・・(4)
【0033】
また、式(5)に示すように、全エラーの「チョコ停時間fi」の合計が、「エラー時間tE」となる。

E = Σfi ・・・(5)
したがって、計算部112は、式(3)に代えて、式(5)を用いてエラー時間tEを算出しても良い。
【0034】
図3Bに、図2Bのエラー停止時間及び製造数から、式(4)により求めた、エラー毎の製品1個当たりのチョコ停時間fiを示す。例えば、ロット番号「A318701094」のエラーコード「1」のエラーについて、11/1999(エラー停止時間/良品数)から、チョコ停時間fi「0.0055」が求められた。なお、図3Bのデータの項目である「情報量」については、後述する。
【0035】
図3Bに示すデータは、説明のためであり、計算部112は、図3Bに示す構成のデータを生成する必要はない。すなわち、ログデータを参照して開始時刻等の情報を特定することが可能であるため、計算部112は、ロット番号及びエラーコードと関連づけて、求めたチョコ停時間fiのみをモデル構築部113、検出部114及び評価部115に出力すれば足りる。
【0036】
「不良製造時間」は、不良品生産によるロスタイムに相当する時間、すなわち、良品1個の生産に対する、不良品の生産時間を表す値である。計算部112は、下記の式(6)を用いて、不良製造時間を算出する。この不良製造時間は、個数比率で表す「歩留り」を時間尺度に置き換えたもので、生産1個あたりの不良品製造時間という意味を持つ。

不良製造時間y =
製造時間Ot・{(製造数Pc-良品数Gc)/(製造数Pc・良品数Gc)}
・・・(6)
【0037】
モデル構築部113は、機械の稼働、生産状況に関するデータである稼働データに基づいて、機械の生産性能を評価するためのモデルデータD2を構築する。モデル構築部113が構築するモデルは、使用機械や生産製品の品番などの生産条件に対する、期待される性能値の分布を推定する。性能値とは、上述した「理想タクトタイムt0」、「実効タクトタイムt1」、「チョコ停時間fi」及び「不良製造時間y」である。これら4つの性能値には、以下の式(7)の関係が成立する。

実効タクトタイムt1
理想タクトタイムt0 + 各エラーのチョコ停時間fiの合計 + 不良製造時間y
・・・(7)
【0038】
モデル構築部113は、これらの性能値の推定分布を表すためのパラメータを推定し、モデルデータD2として記憶部13に格納する。またこのモデルは、各性能値のサブモデルから構成される。すなわち、理想タクトタイムを推定するための理想タクトタイムモデルIと、チョコ停時間を推定するためのチョコ停時間モデルIIと、不良製造時間を推定するための不良製造時間モデルIIIと、実効タクトタイムを推定するための実効タクトタイムモデルIVである。これを図4に示す。
【0039】
モデルI~IVは、タクトタイムなどの性能値の変動を確率的事象と捕らえるモデルであり、図4は各変数間の確率的な依存関係をDAGと呼ばれる矢印つきグラフで表現したものである。図4で白丸中の黒字で表されたパラメータΚ,Θ,ws,we,wl,γ,θ,σ0,σ1がモデルデータD2に格納されるパラメータで、ベイズ推定によって推定する。
【0040】
図4に示す変数y,t0,fi,t1(黒丸中の白抜き文字のパラメータ)は、上述の性能値である。既に述べたようにログデータD1を用いて計算部112で算出された性能値は、具体的に計測された値として「観測値」と呼ぶこととする。計算部112で算出された観測値は、モデル構築部113、検出部114及び評価部115に出力される。また、変数y,t0,fi,t1は、モデル構築部113が構築したモデルによって、ある生産条件の下でどのような値を取りうるか分布が推定される。これらを変数y,t0,fi,t1の「推定値」とする。
【0041】
図4に示す小さな黒丸のパラメータは、外部から指定するパラメータで、s,e、lは使用する機械や生産される製品等の条件に応じ定まるパラメータである。Κ0,Θ0,γ0,θ0,β0,β1 は、ハイパーパラメータと呼ばれるパラメータでモデルの推定を制御する。これらは、例えば、通信部12を介して機械や外部の装置から入力されたり、オペレータにより入力部14を介して入力される。図4に示す例では、パラメータs,lは、「製造される製品の特性」によって決定され、パラメータeは「機械番号」によって決定されるものとする。
【0042】
図4に示す例で、値Nは、各モデルを構築する際の学習データの数である。また、値Mは、対象のロットでチョコ停の原因となったエラー番号の種類の数である。
【0043】
なお、以下の説明及び式において、理想タクトタイムt0、実効タクトタイムt、チョコ停時間fi及び不良製造時間yの各変数について、便宜的に以下のように表現するものとする。なお、単に変数として使用する場合には、t0、t1、fi、yとして装飾記号を用いずに表現する。
【0044】
《ベイズ推定》
モデル構築部113ではベイズ推定によってモデルの構築を行う。ここでベイズ推定について概説する。ベイズ推定は興味のある変数(例えばタクトタイム)を、値の分布として推定するものである。ベイズ推定では、分布を表すパラメータ(正規分布であれば、平均や分散)を推定することで変数の分布を表す。ベイズ推定は、変数の値について事前知識があれば、これを事前分布として表現することで推定結果をコントロールすることができる。また、ベイズ推定では、平均μや標準偏差σ等のパラメータも分布として推定するため、区間推定が可能である。このため帰無仮説を必要としない仮説検定を行うことができる特徴がある。すなわち、図5Aに示すようにある特定の平均値μを推定する点推定ではなく、図5Bに示すような平均μの分布を推定する分布推定(区間推定)で特定する。
【0045】
ベイズ推定によるパラメータ推定の一例を示す。ある推定したい確率変数xがあり、これが2つのパラメータ平均μ,分散σによって表される正規分布に従って変動するとする。ベイズ推定では、このパラメータμ,σを推定する。この時、次の関係が成り立つ。
【数1】
【0046】
式(8)において左辺は、確率変数xの実際の観測値x1,x2,・・・xNが得られた下で、パラメータμ及びσが取りうる値の確率分布を意味し、事後確率分布と呼ぶ。右辺分子第1項のp(x|μ,σ)は、観測値x1乃至xNがパラメータμ,σによる正規分布から生成されたとした場合の尤もらしさを表す指標で尤度と呼ぶ。p(μ,σ)は、パラメータμ,σに関する事前知識(事前分布)であり、観測値x1,x2,・・・xNを得る前に、確率変数μ,σについて予想される確率分布である。また、右辺の分母p(x)は、固定であるため、モデル構築部113では、分母を除いて式(8)に示すような比例式とする。
【0047】
上式(8)ベイズ推定に基づくパラメータμ及びσの事後分布の推定は、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)等のサンプリング法や、VB-EMアルゴリズム等の変分推定によって求めることができる。
【0048】
平均μ及び標準偏差σの事後確率分布が得られると、観測値xが得られた条件の下で、xの推定分布(事後確率分布)は、以下の式(9)で表すことができる。
【数2】
【0049】
式(8)(9)及び以下の説明において、
は、観測値xを示す。式(9)の右辺の
は、新たに観測値xが、平均μ及び標準偏差σで表される分布から発生する確率を示し、仮定した確率分布(この例では正規分布)から直接求めることができる。さらに、右辺のp(μ,σ|x)は、ベイズ推定で特定された確率分布である。式(9)では、あらゆる平均μ及び標準偏差σで積分消去することで、観測値xの事後確率分布を求める。
【0050】
図6Aは、最尤推定(最小二乗法)を利用して求めた変数xの分布(実線)である。また、図6Bは、ベイズ推定を利用して求めた変数xの分布(実線)である。なお、図6A及び図6Bにおいて、破線は、変数xの実際の分布である。仮に、実際の分布が破線で示すような場合であるとき、観測値x1,x2,x3,x4が取得されたとすると、最尤推定では事前分布が考慮されないことから、図6Aの実線で示すような確率分布の推定結果が得られる。一方、図6Bに示すように、ベイズ推定では、実際の分布及び観測値x1,x2,x3,x4図6Aと同様の場合であっても、事前分布を考慮することができるため、実際の分布に近い確率分布を得ることができる。なお本例は極端な例で、一般には、最尤推定法であっても充分な数の観測値に基づいてパラメータ推定を行えば、実際の分布に近い分布を表すパラメータを得ることができる。ベイズ推定との本質的な違いは、最尤推定により得られるパラメータ(μ,σ)は1組のみであるのに対し、ベイズ推定ではパラメータも分布として得られる点である。
【0051】
《理想タクトタイムモデル》
モデル構築部113における理想タクトタイムモデルIの構築について説明する。理想タクトタイムモデルIは、図4に示す破線部分を表すモデルである。このモデルは、理想タクトタイムt0がとる値の分布を推定するために用いられる。
【0052】
理想タクトタイムモデルIの構築は、パラメータws、we、wl、σ0を推定することで行う。パラメータs、e、lは生産条件に相当し、所与の値として指定する。モデル構築部113には、ログデータD1から計算部112によって算出された過去の理想タクトタイムt0の観測値を用いて、以下の式(10)で、パラメータws、we、wl、σ0の分布を推定する。
【0053】
【数3】
ここで、右辺第2式一項目のLogN(x;μ,σ)は、xが対数正規分布に従うことを表わす。
【0054】
図7Aに対数正規分布の一例を示す。「対数指数分布」は、確率変数xの対数をとったもの(log(x))が正規分布に従う時のxの分布であり、ここでは理想タクトタイムt0が観測値xに対応する。この対数正規分布は、正規分布とは異なり、負の値をとらない変数に利用することができる。理想タクトタイムt0は負の値とらないため、ここでは、対数正規分布を利用する。図7Aに示すように、対数正規分布は、分布は左に厚くなる。
【0055】
式(10)は、上述のベイズ推定の説明の式(8)に対応する式で、これに基づくパラメータ推定を今後、以下の(11)と表記する。
【数4】
【0056】
モデル構築部113で理想タクトタイム推定のためのパラメータws、we、wl、σ0が得られると、以下の式(12)により、理想タクトタイムt0の事後確率分布を推定することができる。
【数5】
これは、上述のベイズ推定の説明の式(9)に対応する式で、この計算は後述する検出部114で行われる。
【0057】
すなわち、式(12)は、過去に観測された(モデル推定に使われた)理想タクトタイムの観測値t0と、s、e、lの生産条件から推定された、理想タクトタイムの分布(事後確率分布)を表す。これによりあるロットの理想タクトタイムが計算部112で(新たに)計算された時に、上記確率分布と照らし合わせることで、その時の性能が良いか悪いかを評価することができる。
【0058】
《チョコ停時間モデル》
次に、モデル構築部113におけるチョコ停時間モデルIIの構築について説明する。チョコ停時間モデルIIは、図4に示す一点鎖線部分を表すモデルである。モデル対象であるエラー毎のチョコ停時間fiの確率分布は、観測値されたチョコ停時間fiと、生産条件e、l、ハイパーパラメータγ0、θ0により求めたパラメータγ、θの分布から推定する。なおハイパーパラメータγ0、θ0は、パラメータγ、θの事前分布を表現するためのパラメータで、一般にはあまり偏りのない分布となる値を指定する。なお、図4に示すように、対象の機械群でエラーの種類数がMであるとすると、モデル構築部113は、そのM種類のエラー毎に、チョコ停時間fiを入力する。
【0059】
モデル構築部113には、ログデータD1から計算部112によって算出されたチョコ停時間fiの観測値が入力され、さらに生産条件e、l、およびハイパーパラメータγ0、θ0,を用いて、以下の式(13)により、各M個のエラーのチョコ停時間fiの確率分布を表すためのパラメータγ、θを推定する。
【0060】
【数6】
ここで、Exp0()は、0過剰指数分布である。また、γi及びθiは、e、l及びiごとに推定されるパラメータである。すなわち、γi及びθiは、iごとにe×lの組み合わせの数のパラメータとなるが、NMF(非負値行列因子分解)などの行列分解の手法を使ってパラメータの圧縮を行い、より少ないパラメータから実質的に、e×l通りのパラメータが求まるようにしてもよい。この場合、モデルデータD2の容量を減らすことができるという利点に加え、モデル構築時には存在しない生産条件e、lの組み合わせ条件についても、パラメータが推定できるという利点を有する。iは、エラーの種類を識別するインデックスであり、例えばエラーコードに対応し、1~Mの自然数を取る。
【0061】
図7Bに0過剰指数分布の一例を示し、図7Cに指数分布の一例を示す。0過剰指数分布は、通常の指数分布とベルヌイ分布の合成分布であり、確率変数が、以下の式(14)にしたがって生起するとみなす。
【数7】
【0062】
上記の関数で求められるため、図7B図7Cに示すように、0過剰指数分布は通常の指数分布と比較すると0が多く発生する分布となる。
【0063】
《不良製造時間モデル》
モデル構築部113における不良製造時間モデルIIIの構築について説明する。不良製造時間モデルIIIは、図4に示す二点鎖線部分を表すモデルである。ここでは観測された不良製造時間yと、生産条件e、lおよびハイパーパラメータΚ0、Θ0から、以下の式(15)によりパラメータΚ、Θの分布を推定する。ここでも、Κ、Θはe、lごとに推定される。しかし、チョコ停時間モデルにおけるγi及びθiと同じように、NMF等によりパラメータの圧縮を行ってもよい。
【数8】
ここで、Γ()は、ガンマ分布を示すものとする。
【0064】
《実効タクトタイムモデル》
モデル構築部113における実効タクトタイムモデルIVの構築について説明する。図4に示すように、実効タクトタイムモデルIVは、理想タクトタイムt0と、エラー毎のチョコ停時間fiと、不良製造時間yの総和として考えることができ、以下の式(16)により、パラメータσ1を推定する。
【数9】
【0065】
モデル構築部113は、このようにして求められた理想タクトタイムモデルI、チョコ停時間モデルII、不良製造時間モデルIII、実効タクトタイムモデルIVのモデルパラメータを、モデルデータD2として記憶部13に記憶させる。図8Aに、モデルパラメータで構成されるモデルデータD2の一例を示す。このように、モデルデータD2は、例えば、サンプリング法等で得られたサンプル群によって、パラメータの確率分布が表現される。図8Aの例では、サンプリング法等を用いてそれぞれS個の推定値が得られた例である。図8Aでは、パラメータ名「wl」のパラメータは、1~5(lサフィックスの数、5次元)あり、パラメータ名「we」のパラメータは、1~6(6次元)あるが、これは一例である。例えば、図8Aにおいてパラメータ名w[2]のサンプル群(横方向)からは、図8Bに示すような分布が得られる。
【0066】
検出部114は、新たな観測値として生産条件s,e,lで生産が行われた時の実効タクトタイムt1が計算部112を介して入力される。検出部114は、この生産条件s,e,lに対する実効タクトタイムの事後確率分布p(t1|s,e,l)を、記憶部13に記憶されるモデルデータD2のパラメータを用いて推定する。さらに、推定された事後確率分布p(t1|s,e,l)と比較して、観測された実効タクトタイムt1が所定条件となった場合に、この機械について性能の低下を検出する。
【0067】
図9は、検出部114における性能低下の検出について説明する図である。図9における左側のグラフは、縦軸をタクトタイムとし、横軸をヒストグラムの確率密度として、モデルデータD2から推定された実効タクトタイムの事後確率分布p(t1|s,e,l)を示すものである。また、図9における右側のグラフは、横軸を時間(例えば、日)とし、縦軸をタクトタイムとしたときの、観測された実効タクトタイムt1のグラフである。また、このグラフでは、推定された実効タクトタイムの確率分布p(t1|s,e,l)の95%点を破線で示す。95%点とは、実効タクトタイムの確率分布で、下側からの累積確率が95%となる時のタクトタイムである。また、累積確率が50%となるタクトタイム(中央値)を一点鎖線で示す。例えば、右側のグラフのTxで示す時点の95%点及び50%点の値は、左側のヒストグラムから得られたものである。このように各時点の確率分布から、右側のグラフに示される95%点及び50%点の値が特定される。タクトタイムは値が大きいほど生産性能が低いので、右グラフでは上に上がるほど、性能が低下している。なお、実効タクトタイムの確率分布の算出方法については、後述する。
【0068】
検出部114は、推定された実効タクトタイムt1の確率分布p(t1|s,e,l)から求めた95%点の値を判定閾値とし、観測された実効タクトタイムt1がこの判定閾値より小さい場合には性能の低下はないと判定し、観測された実効タクトタイムt1が95%点よりも大きな値となった場合に性能が低下したと検出する。
このように本願では、ベイズ推定を用いて実効タクトタイムの推定を行うことで、過去の性能分布と比較して、どの程度性能が低下しているかを確率尺度で直接的に求めることができる。
【0069】
図3Aの「判定閾値」は、検出部114によって求められた実効タクトタイムt1の閾値である。また、「判定結果」は、検出部114によって「判定閾値」を利用して得られた性能の低下の検出の結果に応じて判定された、警告の必要の有無を表すものである。図3Aに示す例では、ロット番号「A318701094」のロットについて、理想タクトタイムt0として「0.339」が得られ、実効タクトタイムt1として「0.452」が得られた場合、検出部114により、判定閾値には「0.463」が得られている。この場合、実効タクトタイムt1「0.452」は、判定閾値「0.463」より大きくないため、検出部114は、性能の低下と検出せず、「警告なし」と判定する。
【0070】
一方、図3Aに示す例では、ロット番号「A318701070」のロットについて、理想タクトタイムt0として「0.466」が得られ、実効タクトタイムとして「0.518」が得られた場合、検出部114により、判定閾値には「0.501」が得られている。この場合、実効タクトタイムt1「0.518」は、判定閾値「0.501」より大きく、検出部114は、性能が低下したと検出し、「警告」を出力する必要があると判定する。
【0071】
このように、検出部114は、実効タクトタイムの推定された確率分布を用いて判定閾値を求め、計算部112で得られる実効タクトタイムの観測値と比較して性能の低下を検出する。
【0072】
《実効タクトタイムの分布の算出》
図9左に示す実効タクトタイムt1の確率分布は、図8Aに例示したモデルデータD2を用いて求めることができる。例えば、検出部114は、以下の式(17i)~(17iv)により、理想タクトタイムt0、推定値のチョコ停時間fi、及び推定値の実効タクトタイムt1をn個生成する。
【数10】
ここで、「←」は、右辺に示した確率分布に従うサンプルをn個生成することを意味する(以下、同様)。
【0073】
すなわち、図8Aに例示されたS個のモデルパラメータのセットから、それぞれn個の推定値がサンプルされるため、全体で、S×n個のサンプルが得られる。このサンプルの集合全体が、各変数(理想タクトタイムなど)の事後確率分布を表す。これらの計算は、ベイズ推定の説明の式(9)に対応する計算を行っていることに等しい。なお、nの数は1であってもよい。
【0074】
評価部115は、記憶部13に記憶されるモデルデータD2と、計算部112を介して得られる機械の性能値の観測値に基づいて、機械の生産性能の低下の要因ごとの影響度を評価する。これは、注目する要因の観測値を考慮しない場合の実効タクトタイムの観測値の発生確率(第1の確率)と、この要因の観測値を考慮した場合の実効タクトタイムの観測値の発生確率(第2の確率)とを求め、それら確率から得られる情報量の差を性能低下の影響度として、性能低下の要因を評価する。
【0075】
図10A乃至図10Cを用いて、注目する要因として、「各エラーのチョコ停時間」及び「実効タクトタイム」を利用して性能低下の要因を評価する一例について説明する。図10A乃至図10Cは、横軸を時間とし、縦軸をタクトタイムとして、観測値の実効タクトタイムt1と、推定された実効タクトタイムの分布とを比較するグラフである。図10A乃至図10Cでは、実線のグラフが、観測値の実効タクトタイムt1である。また、破線は、推定された実効タクトタイムの分布から求めた95%区間の範囲であって、一点鎖線は、実効タクトタイムt1の分布の中央値である。
【0076】
図10Aは、理想タクトタイムt0やエラー時間tEの実測値を考慮利用しないで得られた実効タクトタイムの分布の95%区間を示す。図10Bは、理想タクトタイムt0の観測値を考慮して推定された実効タクトタイムの分布の95%区間を示す。図10Cは、i番目のエラーのチョコ停時間fiの観測値を考慮して得られた実効タクトタイムの分布の95%区間を示す。図10A乃至図10Cを比較すると、推定された実効タクトタイムの分布の95%区間が変化していることがわかる。これは、実効タクトタイムの推定に、理想タクトタイムt0やチョコ停時間fiなどの要因の実測値を考慮することで、推定の精度が向上するためである。推定の精度が向上するということは、その要因が実効タクトタイムの変化(悪化)に影響していることを意味する。すなわち、実効タクトタイムの推定分布と、実効タクトタイムの観測値を比較し、その差を性能低下の影響度の評価に利用することができる。なお、図示は省略するが、同様に、不良製造時間yを考慮した実効タクトタイムの推定を行う場合にも、実効タクトタイムの推定の精度を向上させることができる。
【0077】
《エラー毎の情報量の算出》
エラー毎の情報量の算出について、式(18)及び式(19)を用いて説明する。
【数11】
【0078】
ここで、
は、既知のs、e、lの生産条件の下で新たに生産した時に観測値の実効タクトタイムがtとなる上側確率である。上側確率とは、推定した確率分布で観測値の実効タクトタイムtより大きな値が発生する確率を意味する。
は、既知のs、e、lの生産条件の下で新たに生産した時にi番目のエラーの観測値のチョコ停時間がfiとなった時、観測値の実効タクトタイムがtとなる上側確率である。
【0079】
すなわちモデルデータD2を用いて、上述のように各パラメータのS組の値のセットから、S×n組の理想タクトタイムt0、チョコ停時間f、不良製造時間yのサンプルが得られる。
これを式(18)に当てはめると、観測値の実効タクトタイムに対してS×n個の上側確率
が得られる。これらの平均値を観測値の実効タクトタイムの上側確率として
とする。同様に、S×n組の理想タクトタイムt0、チョコ停時間fi、不良製造時間yのサンプルと、i番目のエラーに対応する観測値のチョコ停時間fiを用いて式(19)に当てはめると、観測値の実効タクトタイムに対してS×n個の
が得られる。これを平均して、観測値のチョコ停時間を考慮した観測値の実効タクトタイムの上側確率として
を得る。
【0080】
あるいは、上記上側確率は次のようにして求めることもできる。S×n組の理想タクトタイムt0、チョコ停時間fi、不良製造時間yのサンプルと、S個のサンプルで推定されたパラメータσ1を用いて、S×n個の実効タクトタイムtの事後確率分布にもとづくサンプルを得る。このサンプルのうち、観測値の実効タクトタイムtより大きな値を持つサンプルの個数をS×nで割った値を、
とする。同様に、S×n組の理想タクトタイムt0、チョコ停時間fi、不良製造時間yのサンプルと、S個のサンプルで推定されたパラメータσ1、さらに観測値のi番目のエラーのチョコ停時間fiを用いて、i番目のエラーのチョコ停時間fiが既知のときの、S×n個の実効タクトタイムtの事後確率分布に基づくサンプルを得る。このサンプルのうち、観測値の実効タクトタイムtより大きな値を持つサンプルの個数をS×nで割った値を、
とする。
【0081】
得られた発生確率を用いて、以下の式(20)によりエラー毎の情報量I(fi)を求めることで、各エラーが生産性能の低下に与えた影響度を測ることができる。
【数12】
【0082】
例えば、図10Aにおいて、時点Bでは、観測値の実効タクトタイムが、推定分布の95%区間から飛び出しており、観測値の実効タクトタイムの上側確率
は小さな値となっている。このため式(20)の右辺第1項の情報量
は大きな値となる。一方、エラー停止時間の観測値のチョコ停時間が得られた図10Cにおいて、推定分布の95%区間は、時点Bで大きく盛り上がっており、上側確率
は大きな値となる。そのため式(20)右辺第2項の情報量
が小さな値となり、式(20)のI(fi)は大きな値となる。
【0083】
一方、図10Aにおいて、時点Aでは、観測値の実効タクトタイムは、図10Aでも図10Cでも推定された実効タクトタイムより大きく出ており、いずれの場合でも上側確率は小さな値となる。その結果、式(20)では、右辺第1項も第2項もよく似た値となるため、I(fi)は小さな値となる。
【0084】
これによって、i番目のエラーによるチョコ停時間fから、i番目のエラーが、図10Aの時点Aでは性能低下への影響は小さいが、時点Bでは大きく関与していると判断することができる。
【0085】
すなわち、評価部115は、計算部112から入力された観測値の実効タクトタイム及び観測値のチョコ停時間と、モデルデータD2を用いて推定値の理想タクトタイム、推定値のチョコ停時間、推定値の不良製造時間と、パラメータσ1とから、エラー毎の生産性能に関する情報量を算出し、性能低下要因としての影響度を評価する。
【0086】
《理想タクトタイムの情報量の算出》
理想タクトタイムの情報量の算出について、式(18)及び式(21)を用いて説明する。
【数13】
ここで、
は、既知のs、e、lの生産条件の下で新たに生産した時に、観測値の理想タクトタイムがt0となった時に、観測値の実効タクトタイムがt1となる上側確率である。
【0087】
式(18)に示された観測値の実効タクトタイムの上側確率を推定する部分までは、上述の《エラー毎の情報量の算出》と同様であるため割愛する。
式(21)では、S×n組のチョコ停時間f、不良製造時間yのサンプルと、観測値の理想タクトタイムから、S×n個の観測値の実効タクトタイムの上側確率
が得られる。これらを平均することで、観測値の理想タクトタイムt0を考慮した観測値の実効タクトタイムの上側確率として
を得る。ここでも、S×n個の上側確率を求めるのではなく、観測値の理想タクトタイムt0を考慮したS×n個の実効タクトタイムのサンプルを生成し、観測値の実効タクトタイムより大きなサンプルの比率を、
とすることも可能である。
【0088】
得られた発生確率を用いて、以下の式(22)によりエラー毎の情報量I(t0)を求めることで、理想タクトタイムが生産性能の低下に与えた影響度を測ることができる。
【数14】
【0089】
すなわち評価部115は、計算部112から入力された観測値の実効タクトタイム及び観測値の理想タクトタイムと、モデルデータD2を用いて推定された推定値の理想タクトタイム、推定値のチョコ停時間、推定値の不良製造時間及び、パラメータσ1とから、理想タクトタイムの生産性能に関する情報量を算出し、性能低下要因としての影響度を評価する。
【0090】
《不良製造時間の情報量の算出》
不良製造時間の情報量の算出について、式(18)及び式(23)を用いて説明する。
【数15】
ここで、
は、既知のs、e、lの生産条件の下で新たに生産した時に、観測値の不良製造時間がyとなった時に、観測値の実効タクトタイムがt1となる上側確率である。
【0091】
式(18)に示された観測値の実効タクトタイムの上側確率を推定する部分までは、上述の《エラー毎の情報量の算出》と同様であるため割愛する。
式(23)では、S×n組の理想タクトタイムt0、チョコ停時間fのサンプルと、観測値の不良製造時間yから、S×n個の観測値の実効タクトタイムの上側確率
が得られる。これらを平均することで、観測値の不良製造時間yを考慮した観測値の実効タクトタイムの上側確率として
を得る。この上側確率は他の情報量同様、ここでもS×n個の上側確率の平均ではなく、観測値のタクトタイムより大きな値を持つタクトタイムのサンプルの比率を用いて求めても良い。
【0092】
また、得られた値を用いて、以下の式(24)により、不良製造時間の情報量I(y)を求めることで、不良製造時間が生産性能の低下に与えた影響度を測ることができる。
【数16】
【0093】
すなわち、評価部115は、計算部112から入力された観測値の実効タクトタイム及び観測値の不良製造時間と、モデルデータD2を用いて推定された推定値の理想タクトタイム及び推定値のチョコ停時間と、パラメータσ1とから、不良製造時間の生産性能に関する情報量を算出し、性能低下要因としての影響度を評価する。
【0094】
評価部115は、上記方法を用いて求めた情報量I(fi)、I(t0)及びI(y)が大きいもの程、機械の性能低下への寄与が大きいと判断する。したがって、評価部115は、例えば、情報量I(fi)、I(t0)及びI(y)を降順でソートし、情報量I(fi)、I(t0)及びI(y)が大きいものを生産性能の低下の原因として特定してもよい。
このように本願では、実効タクトタイムの上側確率に基づき、エラーコードごとのチョコ停時間や不良製造時間など、生産性能に関わる要因ごとの情報量を比較する。これによって、エラー停止と歩留まりのように従来異なる尺度で別々に評価されていた事象を、共通尺度で比較することができるようになり、生産性能低下に対する原因究明と対策が容易になるという効果を有する。
【0095】
図11Aは、式20、式22、及び式25で求めた情報量I(fi)、I(t0)及びI(y)の一例を示す。また、図11Bは、これらの各情報量I(fi)、I(t0)及びI(y)のうち降順でソートした結果、生産性能の低下の原因と特定された8種の情報量の一例である。図11Bに示す例では、評価部115は、「エラーコード223のエラー」、「エラーコード168のエラー」、「不良製造」、「エラーコード156のエラー」、「エラーコード159のエラー」、「エラーコード147のエラー」、「エラーコード033のエラー」及び「理想タクトタイム」を性能低下の原因と評価したことがわかる。
【0096】
〈生産性能評価方法〉
図12A及び図12Bは、生産性能評価方法を説明するフローチャートである。図12Aに示すように、まず、取得部111が、通信部12を介して生産性能の評価に利用するロット情報及びチョコ停情報を取得する(S1)。なお、取得したロット情報及びチョコ停情報は、ログデータD1として記憶部13に記憶される。
【0097】
続いて、計算部112は、ロット情報を用いて、実効タクトタイムt1を算出する(S2)。
計算部112は、ロット情報を用いて、理想タクトタイムt0を算出する(S3)。計算部112は、チョコ停情報から、チョコ停時間fiを算出する(S4)。
計算部112は、ロット情報から、エラー時間tEを算出する(S5)。
計算部112は、ロット情報から、不良製造時間yを算出する(S6)。
なお、これらステップS2~S6の処理については、その順序は問わず、例えば、順序を入れ替えてもよいし、同時に実行可能な処理については、同時に実行してもよい。
【0098】
また、モデル構築部113は、観測値の理想タクトタイムt0、パラメータs、e、l、β0を用いて、理想タクトタイムモデルIを構築する(S7)。
モデル構築部113は、観測値のチョコ停時間f、パラメータe、1、γ0、θ0を用いて、チョコ停時間モデルIIを構築する(S8)。
モデル構築部113は、観測値の不良製造時間y、パラメータΚ0、Θ0を用いて、不良製造時間モデルIIIを構築する(S9)。
モデル構築部113は、理想タクトタイムモデルI、チョコ停時間モデルII及び不良製造時間モデルIIIと、パラメータβ1を用いて、実効タクトタイムモデルIVを構築する(S10)。
モデル構築部113は、ステップS7~S10で構築したモデルのパラメータをモデルデータD2として記憶部13に格納する(S11)。
なお、これらステップS7~S11の処理については、その順序は問わず、例えば、順序を入れ替えてもよいし、同時に実行可能な処理については、同時に実行してもよい。また、モデルデータD2の格納は、ステップS7~S11において各モデルI~IVを構築する毎に実行してもよい。
【0099】
続いて、図12Bに示すように、検出部114は、記憶部13で記憶されるモデルデータD2を用いて、実効タクトタイムの確率分布を推定する(S12)。
検出部114は、ステップS12で得られた確率分布を用いて、判定閾値を特定する(S13)。
検出部114は、実効タクトタイムと判定閾値を比較し、生産性能の低下の発生を検出する(S14)。
【0100】
また、評価部115は、モデルデータD2を用いて、エラー毎の情報量を算出する(S15)。
評価部115は、モデルデータD2を用いて、理想タクトタイムの情報量を算出する(S16)。
評価部115は、モデルデータD2を用いて、不良製造時間の情報量を算出する(S17)。
評価部115は、ステップS15~S17で算出された情報量をソートする(S18)。
評価部115は、ステップS18でソートされた情報量から、性能低下の原因を評価する(S19)。
なお、ステップS15~S17の処理については、その順序は問わす、例えば、順序を入れ替えてもよいし、同時に実行可能な処理については、同時に実行してもよい。
【0101】
出力処理部116は、ステップS14の検出結果及びステップS19の評価結果を出力する(S20)。
【0102】
[効果及び補足]
上述した構成の生産性能評価装置によれば、製品の生産に影響する値を用いて確率分布を推定し、これによって得られるエラー毎チョコ停時間に関する情報量、理想タクトタイムに関する情報量及び歩留りに基づく不良製造時間に関する情報量を用いて、生産性能の原因を評価することができる。この場合、時間と個数比率という異なる観点から求める値について、個数比率である「歩留り」に関して時間に変換することで合わせて評価に用いることができる。また、上述した生産性能評価装置によれば、この確率分布を用いて生産性能の低下を検出することもできる。したがって、上述した生産性能評価装置によれば、生産対象の製品の種別に関わらず、生産性能の低下した機械を検出するとともに、その原因を特定することが可能である。
【0103】
また、上述の実施形態では、生産性能を評価する生産性能評価装置、生産性能評価方法及びプログラムを一例として説明したが、これに限定されない。例えば、製品の製造に関する生産効率の他、物品を修理する際の作業の効率、物品を検査する際の作業の効率、物品をパッキングする際の作業の効率、物品を選別する際の作業の効率等の種々の作業効率を評価する作業効率評価方法、作業効率評価装置、及びプログラムとして実現することができる。
【0104】
例えば、物品修理の作業効率を評価する場合、上述した「タクトタイム」は、修理に関する“単位作業量の作業をする時間”に置き換えられ、「チョコ停時間」は、修理の作業において何らかの“エラーで停止する時間”に置き換えられ、「不良製造時間」は、修理が失敗した場合の“ロスタイム(失敗時間)”に置き換えられて処理される。
【0105】
(他の実施形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、上記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。
【0106】
(実施形態の概要)
(1)本開示の作業効率評価方法は、記憶部から、所定の作業時間及び作業量を含む作業に関する稼働データに基づいて生成された、作業の効率を評価するためのモデルデータを読み出すステップと、モデルデータにより、作業に要した時間及び作業量に関するデータに基づいて、作業効率の低下の影響度を算出するステップと、影響度に応じて、生産性能の低下を評価するステップとを含む。
【0107】
これにより、対象の作業に関し、作業効率の低下の原因を特定することができる。
【0108】
(2)(1)の作業効率評価方法において、モデルデータは、作業が理想的に実効された場合の指標である理想指標と、作業が実際に実行された場合の指標である実効指標と、作業が停止した時間である停止時間と、作業によって得られた不良な結果に要した時間を特定する不良時間とに基づいて生成されたデータであってもよい。
【0109】
これにより、作業効率の低下を評価するにあたり、理想指標、停止時間、不良時間の影響を考慮することができる。
【0110】
(3)(1)の作業効率評価方法において、モデルデータは、製品の理想的な生産指標として製品の製造時間及び製造数によって求められる理想指標と、製品を実際に生産した際の製造に使用する機械が停止した場合を含む機械の稼働時間及び良品として製造された製品の数である良品数によって求められる実効指標と、機械が停止した時間である停止時間と、生産された製品のうち不良品の生産時間を特定する不良製造時間とに基づいて生成されたデータであってもよい。
【0111】
これにより、作業効率として生産性能の低下を評価するにあたり、理想指標、停止時間、不良時間の影響を考慮することができる。
【0112】
(4)(3)の作業効率評価方法において、モデルデータを読み出すステップの前に、機械から稼働データを取得するステップと、稼働データから、理想指標、実効指標、停止時間及び不良時間を算出するステップと、理想指標、実効指標、停止時間及び不良時間から、モデルデータを生成するステップと、モデルデータを記憶部に格納させるステップとをさらに含むことができる。
【0113】
これにより、稼働データを利用して、特定の機械の稼働データからモデルデータを生成することができ、製品の生産性能の評価の精度を向上させることができる。
【0114】
(5)(4)の作業効率評価方法において、稼働データは、機械の生産条件を特定するパラメータ、製品の生産に要した時間及び生産された製品の個数に関する情報であってもよい。
【0115】
これにより、作業効率として生産性能の低下を評価するにあたり、生産条件を特定するパラメータ、生産に要した時間、生産された個数等を利用することを明らかにする。
【0116】
(6)(4)の作業効率評価方法において、モデルデータに基づいて、機械から新たに取得される稼働データから、機械の生産性能の低下を検出してもよい。
【0117】
これにより、作業効率として生産性能の低下を評価するにあたり、現在の状況を把握することが可能な新たな稼働データを利用して、モデルデータを逐次更新することができ、製品の生産性能の評価の精度を向上させることができる。
【0118】
(7)(3)の作業効率評価方法において、影響度として、機械におけるエラーが生産性能の低下に与える影響を特定する値を求めてもよい。
【0119】
これにより、作業効率として生産性能の低下を評価するにあたり、エラーが性能の低下に与える影響を評価することができる。
【0120】
(8)(3)の作業効率評価方法において、影響度として、理想指標が作業効率の低下に関する影響を特定する値を求めてもよい。
【0121】
これにより、作業効率の低下を評価するにあたり、理想指標が性能の低下に与える影響を評価することができる。
【0122】
(9)(3)の作業効率評価方法において、影響度として、不良時間が作業効率の低下に関する影響を特定する値を求めてもよい。
【0123】
これにより、作業効率の低下を評価するにあたり、不良時間が作業効率の低下に与える影響を評価することができる。
【0124】
(10)(3)の作業効率評価方法において、影響度として複数の影響度が得られた場合、複数の影響度のなかから値が高い所定の影響度から作業効率の低下に与える影響を選択してもよい。
【0125】
これにより、作業効率の低下を評価するにあたり、複数の影響度の中から、実際に作業効率の低下に与える要因を特定することができる。
【0126】
(11)(1)の作業効率評価方法において、モデルデータを生成するステップでは、ベイズ推定により、モデルデータの変動の確率分布を算出し、モデルデータとすることができる。
【0127】
(11)本開示の作業効率評価プログラムは、記憶部から、所定の作業時間及び作業量を含む作業に関する稼働データに基づいて生成された作業の効率を評価するためのモデルデータを読み出すステップと、モデルデータにより、作業に要した時間及び作業量に関するデータに基づいて、作業効率の低下の影響度を算出するステップと、影響度に応じて、生産性能の低下を評価するステップとを含む作業効率評価方法をコンピュータに実行させる。
【0128】
これにより、対象の作業に関し、作業効率の低下の原因を特定することができる。
【0129】
(12)本開示の作業効率評価装置は、記憶部から、所定の作業時間及び作業量を含む作業に関する稼働データに基づいて生成された作業に要した時間及び作業量を評価するモデルデータを読み出し、モデルデータにより、作業に要した時間及び作業に関するデータに基づいて、作業効率の低下の影響度を算出し、影響度に応じて、作業効率の低下を評価する評価部を備える。
【0130】
これにより、対象の作業に関し、作業効率の低下の原因を特定することができる。
【0131】
本開示の全請求項に記載の生産性能評価方法、生産性能評価装置、及びプログラムは、ハードウェア資源、例えば、プロセッサ、メモリ、及びプログラムとの協働などによって、実現される。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本開示の生産性能評価方法、生産性能評価装置、及びプログラムは、例えば、工場等の設備にける生産性能の評価に有用である。
【符号の説明】
【0133】
1A 生産性能評価装置
11 制御部
111 取得部
112 計算部
113 モデル構築部
114 検出部
115 評価部
116 出力処理部
12 通信部
13 記憶部
14 入力部
15 出力部
D1 ログデータ
D2 モデルデータ
P 生産性能評価プログラム
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B