(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】情報処理装置、交通信号制御システムおよび交通信号制御方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/081 20060101AFI20230616BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
G08G1/081
G08G1/00 A
(21)【出願番号】P 2018134902
(22)【出願日】2018-07-18
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 浩一郎
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-59615(JP,A)
【文献】特開平7-29087(JP,A)
【文献】特開平10-312497(JP,A)
【文献】特開平7-6292(JP,A)
【文献】特開平4-51399(JP,A)
【文献】特開平5-166094(JP,A)
【文献】特開2016-126449(JP,A)
【文献】特開2016-110242(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101465058(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象エリアに設置された信号機を制御する各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する情報処理装置であって、
前記対象エリアの最近の交通状況情報を取得し、
前記対象エリアの気象情報を取得し、
交通需要の程度に応じた交通状況ごとに設定された信号制御情報の汎用設定情報と、前記対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離に基づいて、前記対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、
前記信号制御情報の候補と、前記交通状況情報と、前記気象情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、
前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、
選定した前記信号制御情報に基づいて、前記運用計画情報を生成する制御部を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
対象エリアに設置された信号機を制御する各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する情報処理装置であって、
前記対象エリアの最近の交通状況情報を取得し、
前記対象エリアの事象規制情報を取得し、
交通需要の程度に応じた交通状況ごとに設定された信号制御情報の汎用設定情報と、前記対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離に基づいて、前記対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、
前記信号制御情報の候補と、前記交通状況情報と、前記事象規制情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、
前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、
選定した前記信号制御情報に基づいて、前記運用計画情報を生成する制御部を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、
各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する情報処理装置を備え、
この情報処理装置は、
交通需要の程度に応じた交通状況ごとに設定された信号制御情報の汎用設定情報と、前記対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離に基づいて、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、
前記信号制御情報の候補と、前記対象エリアの各交差点の最近の交通状況情報と、前記対象エリアの気象情報を取得とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、
前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、
選定した前記信号制御情報に基づいて、前記運用計画情報を生成する制御部を備えることを特徴とする交通信号制御システム。
【請求項4】
対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御方法であって、
情報処理装置において、
交通需要の程度に応じた交通状況ごとに設定された信号制御情報の汎用設定情報と、前記対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離に基づいて、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、
前記信号制御情報の候補と、前記対象エリアの各交差点の最近の交通状況情報と、前記対象エリアの事象規制情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、
前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、
選定した前記信号制御情報に基づいて、各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成することを特徴とする交通信号制御方法。
【請求項5】
対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、
各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する情報処理装置を備え、
この情報処理装置は、
交通需要の程度に応じた交通状況ごとに設定された信号制御情報の汎用設定情報と、前記対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離に基づいて、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、
前記信号制御情報の候補と、前記対象エリアの各交差点の最近の交通状況情報と、前記対象エリアの事象規制情報を取得とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、
前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、
選定した前記信号制御情報に基づいて、前記運用計画情報を生成する制御部を備えることを特徴とする交通信号制御システム。
【請求項6】
対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御方法であって、
情報処理装置において、
交通需要の程度に応じた交通状況ごとに設定された信号制御情報の汎用設定情報と、前記対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離に基づいて、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、
前記信号制御情報の候補と、前記対象エリアの各交差点の最近の交通状況情報と、前記対象エリアの気象情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、
前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、
選定した前記信号制御情報に基づいて、各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成することを特徴とする交通信号制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象エリアに設置された信号機を制御する運用計画を生成する情報処理装置、交通信号制御システムおよび交通信号制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交通管理システムでは、円滑な交通流の確保、交通安全の確保、交通公害の抑制などを目的として、対象とする道路網の交通状況に基づいて、交差点に設置された信号機を制御する交通信号制御が行われている。この交通信号制御では、道路に設置された車両感知器で収集した情報などに基づいて、サブエリア構成を決定し、また、信号制御パラメータ(サイクル長、オフセット、スプリット)を生成するようにしている。
【0003】
一方、このようなリアルタイム制御の他に、信号制御パラメータの運用計画を予め策定して、その運用計画に設定された信号制御パラメータで信号機を制御する簡易な信号制御方式がある。このような信号制御方式は、運用計画策定時における道路網の交通状況を前提としているため、その交通状況に経年変化が発生した場合、適切な交通信号制御を行うことができない。このため、定期的(例えば数ヶ月または1年ごと)に運用計画の見直しを行う必要がある。
【0004】
ところが、この運用計画の見直しには熟練技術者が必要であり、近年の労働者不足により熟練技術者を確保するのが難しいため、運用計画の見直しが遅滞しがちである。そこで、運用計画の見直しの自動化、すなわち、運用計画の見直しの作業を熟練技術者に代わって装置が行うようにするとよい。特に、運用計画の見直しは煩雑な作業となることから、運用計画の見直しの自動化には機械学習モデルを用いることが考えられる。
【0005】
このような機械学習を交通管理に応用した技術として、従来、機械学習モデル(ニューラルネットワーク)を用いて、入力情報としての交通量から、出力情報として将来の交通量や信号現示の設計情報を取得する技術が知られている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-6292号公報
【文献】特開平8-124085号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】社団法人 交通工学研究会 編,「交通信号の手引き」,社団法人 交通工学研究会,1994年7月,p.78,82-83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の技術では、交通需要の変化を予測したり、専門家がその経験と技術に基づいて行っていた現示設計を装置に行わせたりすることができるが、機械学習モデルを用いて信号制御パラメータを最適化するものではなく、最近の交通状況に基づいて最適化な信号制御パラメータを求めて、最近の交通状況に応じた適切な運用計画を策定することができないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、熟練技術者がいなくとも、交通状況の経年変化に対応した運用計画の見直しを行うことができる情報処理装置、交通信号制御システムおよび交通信号制御方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の情報処理装置は、対象エリアに設置された信号機を制御する各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する情報処理装置であって、前記対象エリアの最近の交通状況情報を取得し、前記対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、前記信号制御情報の候補と、前記交通状況情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、選定した前記信号制御情報に基づいて、前記運用計画情報を生成する制御部を備える構成とする。
【0011】
本発明の交通信号制御システムは、対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する情報処理装置を備え、この情報処理装置は、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、前記信号制御情報の候補と、前記対象エリアの各交差点の最近の交通状況情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、選定した前記信号制御情報に基づいて、前記運用計画情報を生成する制御部を備える構成とする。
【0012】
また、本発明の交通信号制御方法は、対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御方法であって、情報処理装置において、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、前記信号制御情報の候補と、前記対象エリアの各交差点の最近の交通状況情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、選定した前記信号制御情報に基づいて、各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する構成とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機械学習モデルを用いて、最近の交通状況情報に基づいて、信号制御情報の候補に応じた交通情報を取得して、その交通情報を評価指標として、適切な信号制御情報を選定して、運用計画情報を生成する。これにより、熟練技術者がいなくとも、交通状況の経年変化に対応した運用計画の見直しを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る交通信号制御システムの全体構成図
【
図3】標準的交通状況情報生成部24、信号制御パラメータ候補設定部25、シミュレーション部26、信号制御パラメータ選定部27、および運用計画情報生成部28で行われる処理の概要を示す説明図
【
図4】学習情報収集部21、学習処理部22、および機械学習モデル構築部23で行われる処理の手順を示すフロー図
【
図5】パターン制御の制御方式で用いるパラメータ候補構成パターンおよびパターン選択概要を示す説明図
【
図6】パターン制御の制御方式で用いるパラメータ候補構成パターンおよびパターン選択概要を示す説明図
【
図8】標準的交通状況情報生成部24、信号制御パラメータ候補設定部25、シミュレーション部26、信号制御パラメータ選定部27、および運用計画情報生成部28で行われる処理の手順を示すフロー図
【
図9】信号制御部29で行われる処理の手順を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、対象エリアに設置された信号機を制御する各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する情報処理装置であって、前記対象エリアの最近の交通状況情報を取得し、前記対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、前記信号制御情報の候補と、前記交通状況情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、選定した前記信号制御情報に基づいて、前記運用計画情報を生成する制御部を備える構成とする。
【0016】
これによると、機械学習モデルを用いて、最近の交通状況情報に基づいて、信号制御情報の候補に応じた交通情報を取得して、その交通情報を評価指標として、適切な信号制御情報を選定して、運用計画情報を生成する。これにより、熟練技術者がいなくとも、交通状況の経年変化に対応した運用計画の見直しを行うことができる。
【0017】
また、第2の発明は、前記制御部は、信号制御情報の汎用的な設定値が予め登録された汎用設定情報と、対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離とに基づいて、前記信号制御情報の候補を設定する構成とする。
【0018】
これによると、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を適切にかつ簡易に設定することができる。
【0019】
また、第3の発明は、前記制御部は、直近の所定期間における信号制御で取得した交通状況情報に対して統計処理を行って、標準的な交通状況情報を生成し、前記標準的な交通状況情報と、前記信号制御情報の候補とを入力情報として、前記機械学習モデルを実行する構成とする。
【0020】
これによると、最近の交通状況を反映した標準的な交通状況情報で機械学習モデルを実行するため、処理負荷を軽減するとともに、必要な精度で適切な信号制御情報を選定することができる。
【0021】
また、第4の発明は、前記制御部は、前記交通情報としての渋滞長および旅行時間の少なくともいずれかに基づいて、適切な信号制御情報を選定する構成とする。
【0022】
これによると、適切な信号制御情報を選定することができる。
【0023】
また、第5の発明は、対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する情報処理装置を備え、この情報処理装置は、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、前記信号制御情報の候補と、前記対象エリアの各交差点の最近の交通状況情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、選定した前記信号制御情報に基づいて、前記運用計画情報を生成する制御部を備える構成とする。
【0024】
これによると、第1の発明と同様に、熟練技術者がいなくとも、交通状況の経年変化に対応した運用計画の見直しを行うことができる。
【0025】
また、第6の発明は、対象エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御方法であって、情報処理装置において、対象エリアの各交差点の信号制御情報の候補を設定し、前記信号制御情報の候補と、前記対象エリアの各交差点の最近の交通状況情報とを入力情報として、機械学習モデルを実行して、出力情報として、前記信号制御情報の候補で前記信号機を制御した場合に予測される交通情報を取得し、前記交通情報を評価指標として前記信号制御情報の候補を評価して、前記信号制御情報の候補の中から適切な信号制御情報を選定し、選定した前記信号制御情報に基づいて、各時刻の信号制御情報を規定した運用計画情報を生成する構成とする。
【0026】
これによると、第1の発明と同様に、熟練技術者がいなくとも、交通状況の経年変化に対応した運用計画の見直しを行うことができる。
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る交通信号制御システムの全体構成図である。
【0029】
この交通信号制御システム(交通管制システム)は、対象エリアに設置された信号機を制御するものであり、車両感知器1(情報収集装置)と、信号制御機2と、交通管理装置(交通信号制御装置、情報処理装置)3と、を備えている。
【0030】
車両感知器1は、例えば超音波式車両感知器および光学式車両感知器(光ビーコン)などであり、道路上の車両を感知して、道路における車両の通行状況を表す車両感知器情報(交通状況情報)を生成する。この車両感知器情報は、車両感知器1から交通管理装置3に送信される。
【0031】
信号制御機2は、交通管理装置3から送信される信号制御パラメータ(信号制御情報)に基づいて、信号機(信号灯器)の動作を制御する。
【0032】
交通管理装置3は、交通管制センターの中央装置であり、車両感知器1から送信される車両感知器情報に基づいて、信号制御パラメータ(信号制御情報)を生成して、その信号制御パラメータを信号制御機2に送信する。
【0033】
なお、本実施形態では、交通管理装置3において、車両感知器情報を用いて信号制御を行うようにしたが、道路上に設置された光ビーコンやITSスポットや電波ビーコン(情報収集装置)により、走行中の車両に搭載された車載機から収集されるプローブ情報(交通状況情報)を用いて、信号制御を行うようにしてもよい。
【0034】
次に、交通管理装置3の概略構成について説明する。
図2は、交通管理装置3の概略構成を示すブロック図である。
図3は、標準的交通状況情報生成部24、信号制御パラメータ候補設定部25、シミュレーション部26、信号制御パラメータ選定部27、および運用計画情報生成部28で行われる処理の概要を示す説明図である。
【0035】
図2に示すように、交通管理装置3は、通信部11と、制御部12と、記憶部13と、を備えている。
【0036】
通信部11は、車両感知器1および信号制御機2と通信を行い、車両感知器1から送信される車両感知器情報を受信し、また、信号制御パラメータ(信号制御情報)を信号制御機2に送信する。
【0037】
記憶部13は、信号制御用設定情報、道路網構成情報、車両感知器情報、事象規制情報、気象情報、信号制御パラメータ(信号制御情報)、交通情報、信号制御パラメータの汎用設定情報、および信号制御パラメータの運用計画情報などを記憶する。また、記憶部13は、制御部12を構成するプロセッサで実行されるプログラムを記憶する。
【0038】
ここで、信号制御用設定情報は、対象エリアの各交差点の現示構成など、信号制御に関する設定情報である。
【0039】
道路網構成情報は、道路網を構成するノード(交差点)およびリンク(道路)の接続形態や、各リンクのリンク長(交差点間距離)などに関する情報である。
【0040】
車両感知器情報は、車両感知器1で収集された交通状況を表す情報であり、具体的には、交通量、すなわち、単位時間(例えば5分)ごとに車両感知器1の位置を通過した車両の台数や、占有率(時間占有率)、すなわち、単位時間内に車両感知器1の位置に車両が存在していた時間の割合などである。
【0041】
事象規制情報は、対象エリアの道路網における車線規制や通行止めなどに関する情報である。気象情報は、対象エリアの気象(降雨など)に関する情報である。この気象情報は、気象情報提供サーバから取得すればよいが、管理者が当日の気象を入力するようにしてもよい。
【0042】
信号制御パラメータ(信号制御情報)は、信号機における交通信号の表示タイミングを決定する要素となる情報であり、具体的には、サイクル長、スプリット、およびオフセットである。
【0043】
交通情報は、対象エリアの道路網の各リンクにおける旅行時間および渋滞長などに関する情報である。
【0044】
信号制御パラメータの汎用設定情報は、信号制御パラメータの汎用的な設定値が登録されたものである。
【0045】
信号制御パラメータの運用計画情報は、交差点ごとの各時刻(例えば5分間単位)における信号制御パラメータを規定したものである。
【0046】
制御部12は、学習情報収集部21と、学習処理部22と、機械学習モデル構築部23と、標準的交通状況情報生成部24と、信号制御パラメータ候補設定部25と、シミュレーション部26と、信号制御パラメータ選定部27と、運用計画情報生成部28と、信号制御部29と、を備えている。この制御部12は、プロセッサで構成され、制御部12の各部は、記憶部13に記憶されたプログラムをプロセッサで実行することで実現される。
【0047】
学習情報収集部21は、対象エリアの道路網に関する所定期間の情報を学習情報として記憶部13から収集する。この学習情報は、入力情報とこれに対応した出力情報とを組合せたものであり、入力情報は、信号制御パラメータ(信号制御情報)、車両感知器情報、事象規制情報(車線規制など)、および気象情報(降雨など)となり、出力情報は、交通情報(旅行時間、渋滞長など)となる。なお、学習情報となる各種の情報は、過去の信号制御で取得して記憶部13に蓄積されたものである。
【0048】
学習処理部22は、学習情報収集部21で取得した学習情報を用いて、機械学習モデルに対する学習処理を実行して、学習結果として、機械学習モデルに関するモデルパラメータを取得する。
【0049】
機械学習モデル構築部23は、学習処理部22で取得したモデルパラメータを機械学習モデルに適用して、学習結果が反映された機械学習モデルを構築する。この機械学習モデルは、対象エリアの道路網の特性が反映されたものであり、この機械学習モデルにより、対象エリアの道路網の挙動を再現することができる。
【0050】
なお、機械学習モデルは、特に限定されないが、例えばニューラルネットワーク、RBF(Radial Basis Function)ネットワーク、サポートベクターマシンなどを採用することができる。
【0051】
図3に示すように、標準的交通状況情報生成部24は、直近の所定期間(例えば、1年間、半年間)の車両感知器情報を記憶部13から取得して、その所定期間の車両感知器情報に対して統計処理(平均化など)を行って、対象エリアの標準的(平均的)な交通状況情報(交通量、速度など)を生成する。この標準的な交通状況情報は、信号制御パラメータの生成間隔(制御周期)となる単位期間(例えば5分間)ごとに取得する。
【0052】
信号制御パラメータ候補設定部25は、信号制御パラメータの汎用設定情報と、対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離とに基づいて、対象エリアの各交差点に関する信号制御パラメータの候補を設定する。なお、各交差点の現示構成は、記憶部13の信号制御用設定情報から取得すればよく、交差点間距離は道路網構成情報から取得すればよい。
【0053】
シミュレーション部26は、標準的交通状況情報生成部24で取得した標準的な交通状況情報(交通量、速度など)と、信号制御パラメータ候補設定部25で設定された信号制御パラメータの候補の組合せ(制御パターン)とを入力情報として、学習済みの機械学習モデルを実行して、出力情報として、設定された信号制御パラメータの候補で信号機を制御した場合に予測される交通情報(渋滞長、旅行時間)を生成する。この機械学習モデルによる交通情報の生成は、入力情報としての信号制御パラメータの候補の組合せ(制御パターン)を変えて繰り返し行われる。
【0054】
なお、標準的な交通状況情報に基づいてシミュレーションの対象となる交通状況(閑散時、通常時および混雑時)を絞り込まずに、全ての交通状況をシミュレーションの対象とするとよい。
【0055】
信号制御パラメータ選定部27は、シミュレーション部26で取得した交通情報に基づいて、最適な信号制御パラメータの組合せ(制御パターン)を選定する。機械学習モデルの出力情報としての交通情報は、入力情報としての信号制御パラメータの制御パターンの評価指標となり、交通情報に基づいて制御パターンを評価して、最適な制御パターンを選定する。
【0056】
具体的には、渋滞長が最も短くなる制御パターンを選定する。また、旅行時間が最も短くなる制御パターンを選定する。また、渋滞長および旅行時間の両方を考慮して、最適な制御パターンを選定する。なお、渋滞長や旅行時間は、リンク単位で求められるため、所要の統計処理を行って、対象エリア全体を対象にした評価を行う。
【0057】
なお、信号制御パラメータの制御パターンの全てに関して、機械学習モデルにより交通情報を生成して、制御パターンを評価するようにしてもよいが、メタヒューリスティックスにより制御パターンの探索を行い、十分なレベルの制御パターンが見つかるまで、機械学習モデルによる交通情報の生成と、制御パターンの探索とを繰り返すようにしてもよい。
【0058】
運用計画情報生成部28は、信号制御パラメータ選定部27で選定された信号制御パラメータの組合せ(制御パターン)に基づいて、対象エリアにおける信号制御パラメータの運用計画情報を生成して、その運用計画情報を記憶部13に格納する。この運用計画情報は、交差点ごとの各時刻(例えば5分間単位)の信号制御パラメータを規定したものである。
【0059】
なお、標準的な交通状況情報を曜日別に生成して、最適な信号制御パラメータの制御パターンを曜日別に選定して、運用計画情報を曜日別に生成するようにしてもよい。
【0060】
図2に示すように、信号制御部29は、運用計画情報生成部28で生成した信号制御パラメータの運用計画情報に基づいて、信号制御を実施する。具体的には、運用計画情報から、現在の時刻に該当する信号制御パラメータを選択して、その信号制御パラメータを通信部11から信号制御機2に送信する。
【0061】
なお、運用計画情報を曜日別に生成した場合には、現在の曜日(平日、土曜日、日曜日)に対応する運用計画情報を記憶部13から取得して、その運用計画情報に基づいて信号制御を実施する。
【0062】
なお、本実施形態では、交通管理装置3が、学習情報収集部21と、学習処理部22と、機械学習モデル構築部23と、標準的交通状況情報生成部24と、信号制御パラメータ候補設定部25と、シミュレーション部26と、信号制御パラメータ選定部27と、運用計画情報生成部28と、信号制御部29と、を備えたものとしたが、信号制御の運用時には、信号制御部29のみを稼働させる。また、信号制御部29を除く各部を別の情報処理装置で構成し、交通管理装置3に信号制御部29のみを設けて、別の情報処理装置で生成した運用計画情報を、交通管理装置3に入力するようにしてもよい。
【0063】
次に、学習情報収集部21、学習処理部22、および機械学習モデル構築部23で行われる処理について説明する。
図4は、各部で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【0064】
図4(A)に示すように、まず、学習情報収集部21において、対象エリアの道路網に関する所定期間の学習情報を記憶部13から収集する(ST101)。この学習情報は、入力情報とこれに対応した出力情報とを組合せたものであり、入力情報は、信号制御パラメータ(信号制御情報)、車両感知器情報、事象規制情報(車線規制など)、および気象情報(降雨など)であり、出力情報は、交通情報(旅行時間、渋滞長など)である。
【0065】
次に、学習処理部22において、学習情報収集部21で収集した学習情報を用いて、所定の学習アルゴリズムにしたがって機械学習モデルに関する学習処理を行う(ST102)。そして、学習処理で取得したモデルパラメータを記憶部13に格納する(ST103)。
【0066】
図4(B)に示すように、機械学習モデル構築部23では、まず、学習処理部22で取得したモデルパラメータを記憶部13から取得する(ST201)。そして、モデルパラメータを未学習の深層学習モデルに適用して、学習結果が反映された深層学習モデルを構築する(ST202)。
【0067】
次に、信号制御パラメータ候補設定部25で行われる処理について説明する。
図5,
図6は、パターン制御という制御方式で用いるパラメータ候補構成パターンおよびパターン選択概要を説明したものである。本発明では、この図のうちパラメータ候補構成パターンの類型化の考え方を用いて、パラメータ候補を作成すればよい。
図7は、対象エリアの道路網の一例を示す説明図である。
【0068】
信号制御パラメータ候補設定部25では、信号制御パラメータの汎用設定情報(テンプレート)と、対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離とに基づいて、対象エリアの各交差点に関する信号制御パラメータの候補を設定する。
【0069】
図5(A)はパターン制御でのサイクル長選択を説明するための図である。サイクル長に関するパターン選択では、交差点負荷率ρに応じたサイクル長パターンC1~C5が定義されており、交差点負荷率ρからサイクル長パターンを選択して、そのサイクル長パターンで規定されたサイクル長を取得する。なお、交差点負荷率ρは、飽和交通量に対する交通量の割合である。本発明では、この図のうち、パラメータ類型化の考え方を参考にしてパラメータ候補を作成すればよい。
【0070】
図5(B)はパターン制御でのスプリット選択を説明するための図である。スプリットに関するパターン選択では、主道路交通状態量および従道路交通状態量に応じたスプリットパターンS1~S6が定義されており、主道路交通状態量および従道路交通状態量からスプリットパターンを選択して、そのスプリットパターンで規定されたスプリットを取得する。なお、交通状態量は、車両感知器1で収集される交通量と占有率との加重和である。本発明では、この図のうち、パラメータ類型化の考え方を参考にしてパラメータ候補を作成すればよい。
【0071】
図6はパターン制御でのオフセット選択を説明するための図である。オフセットに関するパターン選択では、上り交通量および下り交通量に応じたオフセットパターンO1~O10が定義されており、上り交通量および下り交通量からオフセットパターンを選択して、そのオフセットパターンで規定されたオフセットを取得する。また、オフセットパターンはサイクル長パターンと連動しており、オフセットパターンを選択することで、対応するサイクル長パターンが決定される。本発明では、この図のうち、パラメータ類型化の考え方を参考にしてパラメータ候補を作成すればよい。
【0072】
このように、信号制御パラメータ(サイクル長、オフセット、スプリット)に関するパターン選択に基づいて、信号制御パラメータの汎用設定情報(テンプレート)を生成するが、この信号制御パラメータの汎用設定情報には、交差点の現示構成および交差点間距離に応じて、信号制御パラメータの汎用的な設定値を登録する。
【0073】
具体的には、スプリットの汎用的な設定値を、現示構成(例えば、2現示、3現示(独立)、3現示(右折)、4現示(相互右折)など)で分類して登録する。また、オフセットの汎用的な設定値を、交差点間距離が所定距離(例えば200m)以上か否か、すなわち、短リンクと長リンクとのいずれであるかに応じて分類して登録する。
【0074】
図7に対象エリアの道路網の一例を示す。ここで、
図7(A)に示すように、サブエリアS1は、交差点I1,I2を有する。現示構成は、交差点I1で4現示(相互右折)、交差点I2で2現示となる。交差点I1,I2間の距離は所定距離未満となる(短リンク)。また、
図7(B)に示すように、サブエリアS2は、交差点I3,I4,I5を有する。現示構成は、交差点I3,I4で3現示(右折)、交差点I5で3現示(独立)となる。また、交差点I3,I4間の距離は所定距離未満となり(短リンク)、交差点I4,I5間の距離は所定距離以上となる(長リンク)。
【0075】
なお、2現示は、各道路に交互に通行権を与えるものである。3現示(独立)は、直進、右折および左折の3方向を独立したものである。3現示(右折)は、主道路の右折を分離したものである。4現示(相互右折)は、主道路および従道路の双方の右折を分離したものである。
【0076】
また、信号制御パラメータの汎用設定情報では、交通需要の程度に応じた交通状況(例えば、閑散時、通常時、混雑時など)ごとに、信号制御パラメータ(サイクル長、オフセット、スプリット)の汎用的な設定値を登録するようにしてもよい。
【0077】
このように、信号制御パラメータの汎用設定情報には、交差点の現示構成および交差点間距離に応じて、信号制御パラメータの汎用的な設定値が登録されている。したがって、制御パラメータの汎用設定情報を、対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離に基づいて、対象エリアに適用すると、各交差点の信号制御パラメータの候補が設定される。
【0078】
具体的には、汎用設定情報に登録されたサイクル長の汎用的な設定値に基づいて、サイクル長の候補が設定される。また、汎用設定情報に登録された現示構成ごとのスプリットの汎用的な設定値に基づいて、対象エリアの各交差点の現示構成に対応するスプリットの候補が設定される。また、汎用設定情報に登録された交差点間距離ごとのオフセットの汎用的な設定値に基づいて、対象エリアの各交差点間の距離に対応するオフセットの候補が設定される。
【0079】
次に、標準的交通状況情報生成部24、信号制御パラメータ候補設定部25、シミュレーション部26、信号制御パラメータ選定部27、および運用計画情報生成部28で行われる処理について説明する。
図8は、各部で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【0080】
まず、標準的交通状況情報生成部24において、直近の所定期間の車両感知器情報を記憶部13から取得して、その所定期間の車両感知器情報に対して統計処理を行って、対象エリアの標準的な交通状況情報(交通量、速度など)を生成する(ST301)。
【0081】
つまり、単位時間(例えば5分)ごとに車両感知器1の位置を通過した車両の台数(交通量)や、単位時間内に車両感知器1の位置に車両が存在していた時間の割合(時間占有率)などの車両感知器情報から、単位時間(例えば5分)ごとの平均的な車両の台数、平均的な車両の速度を生成する。
【0082】
また、信号制御パラメータ候補設定部25において、信号制御パラメータの汎用設定情報と、対象エリアの各交差点の現示構成および交差点間距離とに基づいて、対象エリアの各交差点の信号制御パラメータの候補を設定する(ST302)。
【0083】
次に、シミュレーション部26において、標準的な交通状況情報(交通量、速度など)と、信号制御パラメータの候補の組合せ(制御パターン)とを入力情報として、学習済みの機械学習モデルを実行して、出力情報として、設定された信号制御パラメータの候補で信号機を制御した場合に予測される交通情報(渋滞長、旅行時間)を取得する(ST303)。
【0084】
次に、信号制御パラメータ選定部27において、機械学習モデルから出力された交通情報を評価指標として、信号制御パラメータの候補の組合せ(制御パターン)を評価して、最適な信号制御パラメータの候補の組合せ(制御パターン)を選定する(ST304)。つまり、機械学習モデルから出力された交通情報(渋滞長、旅行時間)の中から、渋滞長が最も短くなる制御パターンや旅行時間が最も短くなる制御パターンを選定する。
【0085】
次に、運用計画情報生成部28において、選定した信号制御パラメータの候補の組合せ(制御パターン)に基づいて、対象エリアの信号制御パラメータの運用計画情報を生成する(ST305)。運用計画情報は、その交差点における各時刻(例えば5分間単位)の信号制御パラメータを規定した情報である。
【0086】
次に、信号制御部29で行われる処理について説明する。
図9は、信号制御部29で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【0087】
信号制御部29では、まず、信号制御パラメータの運用計画情報を記憶部13から取得する(ST401)。次に、運用計画情報から、現在の時刻に該当する信号制御パラメータを選択する(ST402)。次に、選択した信号制御パラメータを通信部11から信号制御機2に送信する(ST403)。
【0088】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用できる。また、上記の実施形態で説明した各構成要素を組合せて、新たな実施形態とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る情報処理装置、交通信号制御システムおよび交通信号制御方法は、熟練技術者がいなくとも、交通状況の経年変化に対応した運用計画の見直しを行うことができる効果を有し、対象エリアに設置された信号機を制御する情報処理装置、交通信号制御システムおよび交通信号制御方法などとして有用である。
【符号の説明】
【0090】
1 車両感知器(情報収集装置)
2 信号制御機
3 交通管理装置(交通信号制御装置、情報処理装置)
11 通信部
12 制御部
13 記憶部
21 学習情報収集部
22 学習処理部
23 機械学習モデル構築部
24 標準的交通状況情報生成部
25 信号制御パラメータ候補設定部
26 シミュレーション部
27 信号制御パラメータ選定部
28 運用計画情報生成部
29 信号制御部