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特許7296563発光装置並びにそれを用いた電子機器及び検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】発光装置並びにそれを用いた電子機器及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/042 20060101AFI20230616BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20230616BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20230616BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20230616BHJP
   F21V 9/00 20180101ALI20230616BHJP
   F21V 9/32 20180101ALI20230616BHJP
   F21V 9/38 20180101ALI20230616BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20230616BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20230616BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20230616BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230616BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20230616BHJP
【FI】
H01S5/042
H01S5/022
H01L33/50
C09K11/80
F21V9/00 100
F21V9/32
F21V9/38
F21S2/00 600
G02B5/20
G01N21/17 A
F21Y115:10
F21Y115:30
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021522706
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017164
(87)【国際公開番号】W WO2020241119
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019098537
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】新田 充
(72)【発明者】
【氏名】阿部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】大塩 祥三
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/103671(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008282(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/063309(WO,A1)
【文献】特表2016-504044(JP,A)
【文献】特開2009-231483(JP,A)
【文献】特開平05-156246(JP,A)
【文献】特表昭57-500922(JP,A)
【文献】特開平04-289483(JP,A)
【文献】特開2007-186399(JP,A)
【文献】特開平07-324187(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163830(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/217671(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187637(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/217669(WO,A1)
【文献】特表2020-512422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 33/00-33/64
C09K 11/80
G01N 21/64
A61B 1/00
A61B 1/07
G02B 5/20
F21S 2/00
F21V 9/00
F21V 9/32
F21V 9/38
F21V 13/02
G01N 21/17
F21Y 115/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光エネルギー密度が0.5W/mmを超える一次光を放射する光源と、
前記一次光を吸収して前記一次光よりも長波長の第一の波長変換光に変換する第一の蛍光体と、
を備え、
前記第一の蛍光体の母体となる化合物は、種類が異なる複数の単純酸化物を端成分としてなる複合酸化物であり、前記単純酸化物は、金属元素が一種類である酸化物であり、
前記第一の蛍光体は、組成式が以下の一般式(I)で表される蛍光体であり、
(Gd 1-x La (Ga 1-y-z Sc Cr Ga 12 (I)
(式中、x、y及びzは、0<x<1、0<y≦0.60、0<z<0.2を満たす。)
前記一次光のピーク波長のエネルギー換算値をE1電子ボルトとし、前記第一の波長変換光の蛍光ピーク波長のエネルギー換算値をE2電子ボルトとしたとき、前記単純酸化物の結晶のバンドギャップエネルギーはE1とE2との和よりも大きい、発光装置。
【請求項2】
前記単純酸化物の結晶のバンドギャップエネルギーは4.6eV以上である、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記第一の波長変換光は、遷移金属イオンの電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含み、
前記遷移金属イオンはCr3+である、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第一の蛍光体において、母体となる前記化合物の結晶におけるカチオン元素は、3価の価数をとる元素のみからなる、請求項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記一次光は、380nm以上435nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ紫色光、又は、435nm以上470nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ青色光である、請求項1からのいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記一次光はレーザー光である、請求項1からのいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記第一の波長変換光は、700nm以上1000nm未満の波長範囲内に蛍光ピークを持つ近赤外光である、請求項1からのいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記一次光を吸収して、前記一次光よりも長波長でかつ前記第一の波長変換光とは異なる第二の波長変換光に変換する第二の蛍光体をさらに備える、請求項1からのいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
医療用光源又は医療用照明装置である、請求項1からのいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項10】
蛍光イメージング法又は光線力学療法に使用される医療用発光装置である、請求項1からのいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項11】
センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムである、請求項1からのいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の発光装置を備える、電子機器。
【請求項13】
情報認識装置、分別装置、検知装置、又は検査装置のいずれかである、請求項12に記載の電子機器。
【請求項14】
前記検査装置は、医療用検査装置、農畜産業用検査装置、漁業用検査装置、又は工業用検査装置のいずれかである、請求項13に記載の電子機器。
【請求項15】
請求項1からのいずれか一項に記載の発光装置を利用する、検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置並びにそれを用いた電子機器及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザー光を放射する励起光源と、複数種類の蛍光体を含む波長変換体とを組み合わせてなる発光装置が知られている。このようなレーザー光を放射する光源を有する発光装置としては、例えば、レーザー照明装置やレーザープロジェクターが知られている。そして、レーザー光を放射する光源を有する発光装置では、一般的に、蛍光体の高光密度励起が行われる。
【0003】
このような発光装置では、通常、励起光源からのレーザー光のエネルギー密度が増加するにつれて、蛍光体から発せられる光の強度(輝度)が増加する傾向がある。ただ、レーザー光のエネルギー密度が所定値を上回った場合、蛍光体から発せられる光の強度が増加し難くなる。すなわち、蛍光体から発せられる光の出力が飽和する現象が生じる。このような蛍光の出力飽和は、蛍光体の発光寿命に依存すると考えられてきた。そのため、比較的長い発光寿命を有する蛍光体は、短い発光寿命を有する蛍光体に比べて、高い強度の蛍光を発することが難しいと考えられてきた。
【0004】
そのため、特許文献1では、発光寿命が短い蛍光体を用いることにより、高い輝度を有し、かつ、演色性に優れる出力光が得られる光源装置を開示している。具体的には、励起光源と当該励起光源からの励起光を受けて蛍光を発する蛍光体層とを備え、蛍光体層は、所定の第1蛍光体及び/又は第2蛍光体を含み、第1蛍光体及び第2蛍光体の発光寿命が0.1ナノ秒以上250ナノ秒以下である光源装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/163830号
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、レーザー光を用いる発光装置において、蛍光体から発せられる蛍光の波長選択の自由度や、蛍光の残光性を高めるためには、発光寿命が短い蛍光体だけでなく、発光寿命が長い蛍光体を使用できることが望まれている。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、発光寿命が長い蛍光体を用いた場合でも、当該蛍光体から発せられる蛍光の出力飽和を抑制することが可能な発光装置、並びに当該発光装置を用いた電子機器及び検査方法を提供することにある。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る発光装置は、光エネルギー密度が0.5W/mmを超える一次光を放射する光源と、一次光を吸収して一次光よりも長波長の第一の波長変換光に変換する第一の蛍光体と、を備える。第一の蛍光体の母体となる化合物は、金属元素が一種類である単純酸化物、又は、種類が異なる複数の単純酸化物を端成分としてなる複合酸化物である。そして、一次光のピーク波長のエネルギー換算値をE1電子ボルトとし、第一の波長変換光の蛍光ピーク波長のエネルギー換算値をE2電子ボルトとしたとき、単純酸化物の結晶のバンドギャップエネルギーはE1とE2との和よりも大きい。
【0009】
本発明の第二の態様に係る電子機器は、第一の態様に係る発光装置を備える。
【0010】
本発明の第三の態様に係る検査方法は、第一の態様に係る発光装置を利用する。
【0011】
本発明の第四の態様に係る蛍光体は、組成式が以下の一般式(I)で表される蛍光体である。
(Gd1-xLa(Ga1-y-zScCrGa12 (I)
(式中、x、y及びzは、0<x<1、0<y≦0.60、0<z<0.2を満たす。)
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、Ce3+賦活蛍光体及びEu2+賦活蛍光体における蛍光飽和特性(外部量子効率維持率)と発光寿命(1/e減衰時間)との関係を示すグラフである。
図2図2は、蛍光体の出力飽和特性を説明するためのエネルギー準位を示す図である。
図3図3(a)は、YAl12:Ce3+蛍光体の出力飽和特性を説明するためのエネルギー準位を示す図である。図3(b)は、YAl12:Cr3+蛍光体の出力飽和特性を説明するためのエネルギー準位を示す図である。
図4図4は、本実施形態の発光装置で使用する第一の蛍光体の出力飽和特性を説明するためのエネルギー準位を示す図である。
図5図5は、本実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
図6図6は、本実施形態に係る発光装置の他の例を示す概略断面図である。
図7図7は、本実施形態に係る発光装置の他の例を示す概略断面図である。
図8図8は、本実施形態に係る発光装置の他の例を示す概略断面図である。
図9図9は、本実施形態に係る内視鏡の構成を概略的に示す図である。
図10図10は、本実施形態に係る内視鏡システムの構成を概略的に示す図である。
図11図11は、実施例1-1~1-3及び参考例1-1~1-2の蛍光体の発光寿命(1/e減衰時間)を示すグラフである。
図12図12は、実施例1における蛍光出力飽和特性の評価で使用する波長変換デバイスを示す概略図である。図12(a)は波長変換デバイスの平面図を示し、図12(b)は波長変換デバイスの側面図を示す。
図13図13は、実施例1において、実施例1-1~1-3及び参考例1-1~1-2の各蛍光体の発光強度を測定するための装置を示す概略図である。
図14図14は、実施例1における蛍光出力飽和特性の評価で使用する青色レーザー光のduty比を説明するためのグラフである。
図15図15は、実施例1-1~1-3及び参考例1-1~1-2の蛍光体における相対発光強度と励起光の光エネルギー密度との関係を示すグラフである。
図16図16は、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体のX線回折パターン、並びにICSDに登録されたガーネット化合物GdGaGa12のX線回折パターンを示すグラフである。
図17図17は、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体の発光スペクトルを示すグラフである。
図18図18は、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体のICG吸収効率相対値を示すグラフである。
図19図19は、インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素の励起スペクトル及び蛍光スペクトルを示すグラフである。また、図19は、ICG吸収効率相対値を求める際の、蛍光体の蛍光ピーク波長におけるICGの励起スペクトルの強度相対値を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本実施形態に係る発光装置、並びに当該発光装置を用いた電子機器及び検査方法について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
[発光装置]
励起光を放射する光源と、蛍光体を含む波長変換体とを組み合わせてなる発光装置は、通常、励起光のエネルギーが増加するにつれて、蛍光体から発せられる蛍光の強度(輝度)が増加する。ただ、励起光のエネルギーが所定値を上回った場合、蛍光体から発せられる蛍光の出力が飽和し、蛍光の強度が増加し難くなる。このような、蛍光体から発せられる蛍光の出力飽和は、蛍光体の発光寿命に依存すると考えられている。
【0015】
図1では、Ce3+賦活蛍光体及びEu2+賦活蛍光体における外部量子効率維持率と発光寿命(1/e減衰時間)との関係を示している。なお、当該外部量子効率維持率とは、蛍光体に対して、エネルギー密度が0.5W/mmの励起光を照射したときの外部量子効率に対する、エネルギー密度が15W/mmの励起光を照射したときの外部量子効率の割合をいう。外部量子効率維持率が高い蛍光体ほど、蛍光出力飽和が小さい蛍光体といえる。図1に示すように、1/e減衰時間、つまり発光寿命が短くなるにつれて、蛍光体の外部量子効率維持率が高まり、蛍光出力飽和が小さくなる傾向があることが分かる。そのため、従来より、比較的長い発光寿命を有する蛍光体は、短い発光寿命を有する蛍光体に比べて、蛍光出力飽和が大きく、高い強度の光を発することが難しいと考えられている。
【0016】
このような蛍光出力飽和が生じるメカニズムは、次のように考えられる。まず、蛍光体に対して、発光イオン固有の吸収帯に相当する波長の励起光を照射すると、図2(a)に示す、発光イオンにおける基底状態にある電子が、図2の(b)に示すように励起状態に上がる。当該電子が高い励起準位に励起されたときには、通常、内部転換によって最低励起一重項状態まで非輻射緩和をした後、基底状態に戻り、その際に蛍光を発する。ここで、遷移確率の低い電子が、励起準位から基底準位へ緩和する前に励起光をさらに吸収した場合、図2(c)に示すように、当該電子が励起準位から伝導帯(CB)に遷移する励起状態吸収(ESA)が生じ、光イオン化する。このように、電子の遷移確率が低い場合には励起状態吸収が生じて、最低励起一重項状態から基底状態への緩和が減少するため、蛍光体から発せられる蛍光の強度(輝度)は増加し難くなる(O.B.Shchekin et al., Phys. Status Solidi, RRL 10 (2016)、及びA. Lenef et al., Proc. SPIE 8841, Current Developments in Lens Design and Optical Engineering XIV, 884107 (2013)参照)。
【0017】
ここで、図3(a)では、発光寿命が短いCe3+イオンを賦活した蛍光体であるYAl12:Ce3+のエネルギー準位を示している。図3(b)では、発光寿命が長いCr3+イオンを賦活した蛍光体であるYAl12:Cr3+のエネルギー準位を示している。なお、Ce3+イオンの発光寿命(1/e減衰時間)は通常10-9~10-8秒であり、Cr3+イオンの発光寿命は通常10-4~10-3秒である。
【0018】
図3(a)に示すように、YAl12:Ce3+蛍光体に励起光を照射した場合、Ce3+イオンにおける基底状態にある電子が励起状態に上がる(図3(a)中の(1)参照)。励起状態の電子は、内部転換によって最低励起一重項状態まで非輻射緩和する(図3(a)中の(2)参照)。そして、当該電子はストークスシフトした後、励起準位から基底準位へ緩和し、その際に蛍光を放射する(図3(a)中の(3)参照)。ここで、Ce3+イオンの電子は励起準位から基底準位への遷移確率が高く、エネルギー緩和しやすい。そのため、励起準位から基底準位へ緩和する前に励起状態吸収(ESA)が生じ難いことから、YAl12:Ce3+蛍光体は蛍光出力飽和が小さくなる。
【0019】
同様に、YAl12:Cr3+蛍光体に励起光を照射した場合、図3(b)に示すように、Cr3+イオンにおける基底状態にある電子が励起状態に上がる(図3(b)中の(1)参照)。励起状態の電子は、内部転換によって最低励起一重項状態まで非輻射緩和する(図3(b)中の(2)参照)。そして、当該電子は励起準位から基底準位へ緩和し、その際に蛍光を放射する(図3(b)中の(3)参照)。ここで、Cr3+イオンの電子は励起準位から基底準位への遷移確率が低く、エネルギー緩和し難い。そのため、励起準位から基底準位へ緩和する前に励起光をさらに吸収し、励起状態吸収が生じやすい。その結果、最低励起一重項状態から基底状態への緩和が減少するため、YAl12:Cr3+蛍光体は蛍光出力飽和が大きくなる。
【0020】
ここで、図3(b)の(3)に示すように、最低励起一重項状態の電子がさらに吸収する励起光のピーク波長のエネルギー換算値をE1電子ボルトとし、蛍光ピーク波長のエネルギー換算値をE2電子ボルトとする。光エネルギーは、次の数式1で求めることができる。
[数1]
E=hν=h×c/λ
h:プランク定数、E:光エネルギー、ν:光の振動数、c:光の速さ、λ:光の波長
そして、最低励起一重項状態の電子がさらに吸収する励起光のエネルギーE1が小さければ、励起準位から伝導帯(CB)に遷移する恐れが小さくなると考えられる。つまり、励起光のピーク波長のエネルギーE1と、発光(蛍光)のピーク波長のエネルギーE2との和(E1+E2)が、蛍光体の母体を構成する結晶のバンドギャップエネルギー(Eg)よりも小さければ、励起状態吸収が生じる恐れが小さくなると考えられる。
【0021】
具体的には、図4に示すように、蛍光体の蛍光ピーク波長が700nmの場合、蛍光のエネルギーE2は1.77eVとなる。また、蛍光体を励起する励起光のピーク波長が450nmの場合、励起光のエネルギーE1は2.76eVとなる。そのため、励起光のエネルギーE1と蛍光のエネルギーE2との和(E1+E2)は、4.53eVとなる。そして、蛍光体を構成する母体結晶のバンドギャップエネルギーEgが4.53eVを超える場合には、最低励起一重項状態の電子が励起光を吸収したとしても、伝導帯(CB)に遷移し難いことから、励起状態吸収が生じる恐れを小さくすることが可能となる。
【0022】
本実施形態の発光装置は、励起光である一次光を放射する光源と、一次光を吸収して一次光よりも長波長の第一の波長変換光(蛍光)に変換する第一の蛍光体とを備える。そして、励起光のエネルギーE1と蛍光のエネルギーE2との和(E1+E2)が、第一の蛍光体を構成する母体結晶のバンドギャップエネルギーEgよりも小さくなるように、励起光と蛍光体とを適切に選択することを特徴としている。
【0023】
本実施形態に係る発光装置1,1A,1B,1Cは、図5から図8に示すように、一次光6を放つ光源2と、第一の波長変換光7を放つ第一の蛍光体4を含む波長変換体3,3Aとを少なくとも備えている。発光装置1,1A,1B,1Cは、光源2から放射された一次光6が波長変換体3,3Aに入射すると、波長変換体3,3Aが蛍光である第一の波長変換光7を放射するものである。
【0024】
(光源)
光源2は、一次光6を放射する発光素子である。そして、一次光6は、レーザー光であることが好ましい。これにより、第一の蛍光体4に高密度のスポット光を照射する仕様になるため、高出力の点光源とすることが容易で、固体照明の産業利用の範囲を広げる発光装置となる。
【0025】
このような光源2としては、例えば、面発光レーザーダイオード等のレーザー素子が用いられる。1つのレーザー素子が放射するレーザー光の出力エネルギーは、例えば、0.1W以上であることが好ましく、1W以上であることがより好ましく、5W以上であることがさらに好ましい。また、光源2が放射するレーザー光の光エネルギー密度は、例えば、0.5W/mmを超えることが好ましく、2W/mm以上であることがより好ましく、10W/mm以上であることがさらに好ましい。後述するように、波長変換体3,3A中の蛍光体は、高出力のレーザー光を高効率で波長変換できる。そのため、光源2が放射するレーザー光の光エネルギー密度が0.5W/mmを超えることにより、発光装置は高出力な近赤外光を放射することが可能となる。
【0026】
発光装置1,1A,1B,1Cに備えられる光源2は、発光ダイオード(LED)であってもよい。例えば、光源2として100mW以上のエネルギーの光を放つLEDを利用すことにより、波長変換体3,3A中の蛍光体を高出力の光で励起することができる。その結果、発光装置1,1A,1B,1Cは高出力な近赤外光を放射することが可能となり、レーザー素子を利用する場合と同様の効果を発揮することが可能となる。
【0027】
上述のように、発光装置1,1A,1B,1Cにおいて、光源2は、レーザー素子及び発光ダイオードの少なくとも一方であることが好ましい。ただ、光源2はこれらに限定されず、高いエネルギー密度を有する一次光6を放つことが可能ならば、あらゆる発光素子を用いることができる。具体的には、光源2は、光エネルギー密度が0.5W/mmを超える一次光6を放つ発光素子であることが好ましい。この場合、発光装置1,1A,1B,1Cは高出力な近赤外光を放射することから、波長変換体3,3A中の蛍光体を高出力の光で励起することが可能となる。なお、光源2が放つ一次光6のエネルギー密度は、2W/mm以上であることがより好ましく、10W/mm以上であることがさらに好ましい。光源2が放つ一次光6の光エネルギー密度の上限は特に限定されないが、例えば50W/mmとすることができる。
【0028】
光源2が放つ一次光6は、380nm以上435nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ紫色光、又は、435nm以上470nm未満の波長範囲内に発光ピークを持つ青色光であることが好ましい。これにより、入手が容易で比較的安価な半導体発光素子(発光ダイオードやレーザーダイオード)を光源2として利用できるので、工業生産する上で有利な発光装置になる。また、波長変換体3,3A中の蛍光体を高効率で励起することから、発光装置は高出力な近赤外光を放射することが可能となる。
【0029】
光源2は、500nm以上560nm以下の波長範囲内に発光ピークを有する一次光6を放射するものであってもよい。これにより、高出力の一次光6で、波長変換体3,3A中の蛍光体を励起できることから、発光装置は高出力な近赤外光を放射することが可能となる。
【0030】
光源2は、600nm以上700nm以下の波長範囲内に発光ピークを有する一次光6を放射するものであってもよい。これにより、比較的低エネルギーの赤色系光で、波長変換体3,3A中の蛍光体を励起できるようになるので、蛍光体のストークスロスによる発熱の少ない、高出力の近赤外光を放つ発光装置を得ることができる。
【0031】
上述のように、発光装置1,1A,1B,1Cに備えられる光源2の種類は、特に限定されない。ただ、発光装置1,1A,1B,1Cに備えられる光源2の種類は、三種以下であることが好ましく、二種以下であることがより好ましく、一種であることがさらに好ましい。このような構成にすることで、光源2の種類が少ない簡易な構成になるため、コンパクトな発光装置1,1A,1B,1Cを得ることができる。
【0032】
発光装置1,1A,1B,1Cに備えられる光源は、同一の種類のものを、複数個備えることが好ましい。このような構成にすることで、波長変換体3,3Aをさらに強いエネルギーの光で励起することができるため、より高出力の近赤外光を放つ発光装置を得ることができる。
【0033】
(波長変換体)
図5から図8に示すように、波長変換体3,3Aは、一次光6の受光により、一次光6よりも長波長の蛍光を放射する。図5及び図6に示す波長変換体3,3Aは、正面3aで一次光6を受光し、背面3bから蛍光を放射する構成となっている。これに対し、図7及び図8に示す波長変換体3,3Aは、正面3aで一次光6を受光し、同じ正面3aで蛍光を放射する構成となっている。
【0034】
波長変換体3,3Aは、一次光6を吸収して一次光6よりも長波長の第一の波長変換光7に変換する第一の蛍光体4を含んでいる。第一の蛍光体4の母体となる化合物は、金属元素が一種類である単純酸化物、又は、種類が異なる複数の当該単純酸化物を端成分としてなる複合酸化物であることが好ましい。これにより、励起光である一次光6のエネルギーE1と第一の蛍光体4が発する第一の波長変換光7のエネルギーE2との和(E1+E2)を、第一の蛍光体4を構成する母体結晶のバンドギャップエネルギーEgよりも小さくすることが容易となる。
【0035】
第一の蛍光体4の母体を構成する単純酸化物は、E1+E2がEgよりも小さくなるならば、特に限定されない。単純酸化物は、例えば表1に示すように、Al、Ga、Sc、Y、La、Gd、Lu、Eu、Ho、Er、Tm、ZrO又はHfOであることが好ましい。なお、表1には、当該単純酸化物の結晶のバンドギャップエネルギー、及び当該バンドギャップエネルギーが記載された文献も合わせて示す。
【0036】
【表1】
【0037】
第一の蛍光体4の母体を構成する複合酸化物は、E1+E2がEgよりも小さくなるならば、特に限定されない。複合酸化物は、Al、Ga、Sc、Y、La、Gd、Lu、Eu、Ho、Er、Tm、ZrO及びHfOからなる群より選ばれる少なくとも二つの単純酸化物を任意に複合化した酸化物であることが好ましい。なお、表2には、当該複合酸化物の結晶のバンドギャップエネルギー、及びバンドギャップエネルギーが記載された文献を示す。本発明者が調査した限りでは、結晶のバンドギャップエネルギーが大きい単純酸化物を端成分としてなる複合酸化物は、いずれもバンドギャップエネルギーが高くなる傾向にある。例えば、結晶のバンドギャップエネルギーが4.6eV以上の単純酸化物を端成分としてなる複合酸化物は、結晶のバンドギャップエネルギーが4.6eV以上になる傾向がある。そのため、第一の蛍光体4の母体を構成する複合酸化物は、バンドギャップエネルギーが大きい単純酸化物を端成分としてなるものであることが好ましい。
【0038】
【表2】
【0039】
第一の蛍光体4の母体となる単純酸化物の結晶のバンドギャップエネルギーEgは、4.6eV以上であることが好ましい。例えば、第一の蛍光体4の賦活剤としてCr3+を用いた場合、第一の蛍光体4の発光ピーク波長は690nm程度以上となる。また、光源2から発せられる励起光(一次光6)は、ピーク波長が450nmの青色光を用いる構成が一般的である。そのため、励起光のピーク波長のエネルギーE1は2.756eVとなり、発光(蛍光)のピーク波長のエネルギーE2は1.797eV以下となり、E1とE2の和は4.553eV以下となる。そのため、結晶のバンドギャップエネルギーEgが4.6eV以上の化合物を第一の蛍光体4の母体に用いることで、蛍光飽和し難い蛍光体に成り易くなる。
【0040】
第一の蛍光体4は、母体となる化合物の結晶中に、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びスカンジウム(Sc)からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むことが好ましい。母体化合物の結晶中において、Al3+、Ga3+、Sc3+は、賦活剤であるCr3+に近い大きさを持つ。つまり、Al3+は6配位のときのイオン半径が0.675Åであり、Ga3+は6配位のときのイオン半径が0.62Åであり、Sc3+は6配位のときのイオン半径が0.745Åであり、Cr3+は6配位のときのイオン半径が0.615Åである。そのため、母体化合物の結晶中において、Al3+、Ga3+、Sc3+は、Cr3+により容易に部分置換される。さらに、Cr3+のイオン半径は、Al3+、Ga3+、Sc3+のイオン半径よりも小さいため、部分置換した結晶中でCr3+に作用する結晶場が小さくなるように作用する。そのため、ブロードな蛍光スペクトルを得ることが容易になることから、蛍光イメージング法や光線力学療法(PDT法)を利用する医療照明に有利な発光装置を得ることができる。
【0041】
第一の蛍光体4に含まれる賦活剤は、発光寿命が長い元素を用いることができる。上述のように、一次光6のエネルギーE1と第一の波長変換光7のエネルギーE2との和を、第一の蛍光体4の母体結晶のバンドギャップエネルギーEgよりも小さくすることで、蛍光出力飽和を抑制して、蛍光体から発せられる蛍光の強度を高めることができる。そのため、発光寿命が短い元素だけでなく、発光寿命が長い元素も賦活剤として好適に用いることができる。第一の蛍光体4に含まれる賦活剤は、1/e減衰時間が10-4秒以上である元素を用いることができる。このような賦活剤としては、例えば、Cr3+、V2+、Mn4+及びFe5+からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0042】
なお、第一の蛍光体4に含まれる賦活剤は、発光寿命が短い元素も用いることができる。具体的には、第一の蛍光体4に含まれる賦活剤は、1/e減衰時間が10-9~10-8秒であるCe3+、及び1/e減衰時間が10-7~10-6秒であるEu2+の少なくとも一方であってもよい。
【0043】
第一の蛍光体4が発する第一の波長変換光7は、遷移金属イオンの電子エネルギー遷移に基づく蛍光を含み、当該遷移金属イオンはCr3+であることが好ましい。つまり、第一の蛍光体4は、Cr3+賦活蛍光体であることが好ましい。Cr3+は、d-d遷移に基づく光吸収と発光のメカニズムをとる。そのため、Cr3+が賦活される母体結晶によって吸収および発光の波長が変化する。したがって、Cr3+を発光中心とし適切な母体結晶を選択することで、用途に応じて赤色から近赤外の波長領域の分光分布をカスタマイズしやすい発光装置とすることができる。また、Cr3+賦活蛍光体は、高エネルギー密度のレーザー光を高効率で近赤外光に変換することができる。そのため、Cr3+賦活蛍光体を用いることで、さらに高出力の近赤外光を放つ発光装置を得ることができる。
【0044】
第一の蛍光体4において、母体となる化合物の結晶におけるカチオン元素は、3価の価数をとる元素のみからなることが好ましい。賦活剤であるCrは、Cr3+だけでなく、Cr2+やCr4+の価数もとりうる。そして、第一の蛍光体4において、Crの価数が混在した状態になると、Cr3+による近赤外光の発光効率を低下させるように働く可能性がある。そのため、母体結晶におけるカチオン元素を3価の価数をとる元素のみとすることにより、Crが、Cr2+やCr4+の価数になれないように作用し、高出力化が可能な発光装置を得ることができる。また、3価のカチオン元素の酸化物はバンドギャップエネルギーEgも広いため、蛍光出力飽和を起こし難い発光装置を得ることができる。
【0045】
第一の蛍光体4は、二種類以上のCr3+賦活蛍光体を含むことが好ましい。これにより、少なくとも近赤外の波長領域における出力光成分の分光分布を制御することが可能になる。そのため、近赤外の蛍光成分を利用する用途に応じて分光分布の調整が容易な発光装置を得ることができる。
【0046】
第一の蛍光体4は、ガーネットの結晶構造を有することが好ましい。また、第一の蛍光体4は、ガーネットの結晶構造を有する酸化物蛍光体であることも好ましい。ガーネット構造を有する蛍光体、特に酸化物蛍光体は、球に近い多面体の粒子形状を持ち、蛍光体粒子群の分散性に優れる。このため、波長変換体3,3Aに含まれる蛍光体がガーネット構造を有する場合には、光透過性に優れる波長変換体を比較的容易に製造できるようになり、発光装置の高出力化が可能となる。また、ガーネットの結晶構造を有する蛍光体はLED用蛍光体として実用実績があることから、第一の蛍光体4がガーネットの結晶構造を有することにより、信頼性の高い発光装置を得ることができる。
【0047】
第一の蛍光体4は、組成式が以下の一般式(I)で表される蛍光体であることが好ましい。
(Gd1-xLa(Ga1-y-zScCrGa12 (I)
なお、式(I)中、x、y及びzは、0<x<1、0<y≦0.60、0<z<0.2を満たす。
【0048】
一般式(I)で表される蛍光体は、(Gd1-xLa(Ga1-y-zScGa12を母体とし、Cr3+を賦活剤とした蛍光体である。そして、(Gd1-xLa(Ga1-y-zScGa12は、金属元素が一種類の単純酸化物であるGd、La、Ga及びScを端成分としてなる複合酸化物である。ここで表1より、Gdのバンドギャップエネルギーは5.6eVであり、Laのバンドギャップエネルギーは6.1eVであり、Gaのバンドギャップエネルギーは4.8eVであり、Scのバンドギャップエネルギーは6.0eVである。また、本発明者が調査した限りでは、結晶のバンドギャップエネルギーが大きい単純酸化物を端成分としてなる複合酸化物は、いずれもバンドギャップエネルギーが高くなる傾向にある。そのため、(Gd1-xLa(Ga1-y-zScGa12の結晶のバンドギャップエネルギーは、4.8eV以上になるものと推測される。
【0049】
一般式(I)で表される蛍光体は、賦活剤としてCr3+を用いているため、高エネルギー密度のレーザー光を高効率で近赤外光に変換することができ、さらにレーザー光を利用した場合であっても蛍光出力が飽和し難い。そのため、高出力の近赤外光を放つ発光装置を得ることができる。さらに、母体化合物として(Gd1-xLa(Ga1-y-zScGa12を用いることにより、770nm付近の光成分が多い蛍光を放つことが可能となる。
【0050】
第一の蛍光体4の一般式(I)において、xは、0.05≦x≦0.25を満たすことがより好ましい。また、一般式(I)において、yは、0.06≦y≦0.60を満たすことがより好ましく、0.20≦y≦0.60を満たすことがさらに好ましく、0.20≦y≦0.50を満たすことが特に好ましい。一般式(I)中のx及びyがこの範囲内であることにより、蛍光イメージング法に用いられる蛍光薬剤に対する、近赤外光の吸収効率を高めることができる。そのため、第一の蛍光体4として一般式(I)で表される蛍光体を用いることにより、蛍光イメージング法に好適な発光装置を得ることが可能となる。
【0051】
第一の蛍光体4が放つ第一の波長変換光7は、700nm以上1000nm未満の波長範囲内に蛍光ピークを持つ近赤外光であることが好ましい。650nm以上1400nm未満の波長範囲にある光は、特に生体を透過し易く、当該波長範囲は一般に「生体の窓」と呼ばれている。そして、第一の波長変換光7が近赤外光であることにより、体外から体内への光導入が容易で医用応用に有利な発光装置の提供が可能となる。また、このような第一の波長変換光7は、エネルギー換算値E2が1.77eV未満1.24eV以上の低エネルギー光となる。そのため、仮に、一次光6を高エネルギーの紫色光(380nm以上435nm未満:3.26eV未満2.85eV以上)とした場合でも、E1とE2の和は、5.03eV未満4.09以上となる。そのため、高い工業実績を持つオーソドックスな酸化物や複合酸化物をベースとする蛍光体の利用が容易であり、かつ、蛍光体の選択の幅も広がるため、工業生産に有利な発光装置となる。
【0052】
第一の波長変換光7は、750nmを超える波長領域に蛍光ピークを有していることがより好ましく、770nmを超える波長領域に蛍光ピークを有していることがさらに好ましい。これにより、発光装置1,1A,1B,1Cが放つ近赤外光がさらに生体を透過しやすいものになるので、医療用照明用途に適した近赤外光発光装置を提供することができる。
【0053】
第一の波長変換光7は、少なくとも700nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を持つことが好ましい。これにより、後述するように、蛍光イメージング法や光線力学療法で使用する薬剤が、第一の波長変換光7の光成分を効率よく吸収できる構成になる。また、光吸収特性の異なる、様々な種類の薬剤に対応できる構成になる。
【0054】
第一の波長変換光7は、少なくとも750nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を持つことがより好ましい。また、第一の波長変換光7は、600nm以上800nm以下の波長範囲全体に亘って光成分を持つことも好ましい。これにより、蛍光イメージング法や光線力学療法で使用する薬剤が、第一の波長変換光7の光成分を効率よく吸収できる構成になる。また、光吸収特性の異なる、様々な種類の薬剤に対応できる構成になる。
【0055】
波長変換体3は、図5に示すように、第一の蛍光体4に加え、第一の蛍光体4を分散させる封止材5をさらに有することが好ましい。そして、波長変換体3において、第一の蛍光体4は封止材5中に分散していることが好ましい。第一の蛍光体4を封止材5中に分散させることにより、光源2が放つ一次光6を効率的に吸収し、近赤外光に波長変換することが可能となる。また、波長変換体3をシート状やフィルム状に成形しやすくすることができる。
【0056】
封止材5は、有機材料及び無機材料の少なくとも一方、特に、透明(透光性)有機材料及び透明(透光性)無機材料の少なくとも一方であることが好ましい。有機材料の封止材としては、例えば、シリコーン樹脂などの透明有機材料が挙げられる。無機材料の封止材としては、例えば、低融点ガラスなどの透明無機材料が挙げられる。
【0057】
図5に示すように、波長変換体3は、第一の波長変換光7を放つ第一の蛍光体4を含んでいる。ただ、波長変換体は、図6及び図8に示すように、光源2が発する一次光6を吸収して可視光である第二の波長変換光9を放つ第二の蛍光体8をさらに含むことが好ましい。言い換えれば、発光装置1A,1Cは、一次光6を吸収して、一次光6よりも長波長でかつ第一の波長変換光7とは異なる第二の波長変換光9に変換する第二の蛍光体8をさらに備えることが好ましい。複数種類の任意の蛍光体を適宜組み合わせることによって、蛍光スペクトルの形状や励起特性を制御できるようになるので、使用用途に応じて出力光の分光分布の調整が容易な発光装置1A,1Cを得ることができる。また、波長変換体3Aが第二の蛍光体8を含むことにより、光源2が発する一次光6、例えば青色レーザー光と第二の波長変換光9との加法混色により、白色の出力光を放射することが可能となる。
【0058】
波長変換体3Aに含まれる第二の蛍光体8は、光源2が発する一次光6を吸収して可視光である第二の波長変換光9を放射できるものであれば特に限定されない。第二の蛍光体8は、ガーネット型の結晶構造、カルシウムフェライト型の結晶構造、及びランタンシリコンナイトライド(LaSi11)型の結晶構造からなる化合物群より選ばれる少なくとも一つを主成分とする化合物を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。または、第二の蛍光体8は、ガーネット型の結晶構造、カルシウムフェライト型の結晶構造、及びランタンシリコンナイトライド型の結晶構造からなる化合物群より選ばれる少なくとも一つの化合物を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。このような第二の蛍光体8を用いることで、緑色系から黄色系の光成分を多く持つ出力光を得ることができるようになる。
【0059】
具体的には、第二の蛍光体8は、MRE(SiO、REAl(AlO、MRE、及びRESi11からなる群より選ばれる少なくとも一つを主成分とする化合物(B)を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。若しくは、第二の蛍光体8は、MRE(SiO、REAl(AlO、MRE、及びRESi11からなる群より選ばれる少なくとも一つを母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。または、第二の蛍光体8は、当該化合物(B)を端成分とする固溶体を母体としてなるCe3+賦活蛍光体であることが好ましい。なお、Mはアルカリ土類金属であり、REは希土類元素である。
【0060】
このような第二の蛍光体8は、430nm以上480nm以下の波長範囲内の光をよく吸収し、540nm以上590nm以下の波長範囲内に強度最大値を有する緑色~黄色系の光に高効率に変換する。そのため、このような蛍光体を第二の蛍光体8として用いることにより、可視光成分を容易に得ることが可能となる。
【0061】
波長変換体3,3Aは無機材料からなることが好ましい。ここで無機材料とは、有機材料以外の材料を意味し、セラミックスや金属を含む概念である。波長変換体3,3Aが無機材料からなることにより、封止樹脂等の有機材料を含む波長変換体と比較して熱伝導性が高くなるため、放熱設計が容易となる。このため、光源2から放射された一次光6により蛍光体が高密度で光励起された場合でも、波長変換体3,3Aの温度上昇を効果的に抑制することができる。その結果、波長変換体3,3A中の蛍光体の温度消光が抑制され、発光の高出力化が可能となる。
【0062】
上述のように、波長変換体3,3Aは無機材料からなることが好ましいことから、封止材5は無機材料からなることが好ましい。また、封止材5の無機材料としては、酸化亜鉛(ZnO)を用いることが好ましい。これにより、蛍光体の放熱性がさらに高まるため、温度消光による蛍光体の出力低下が抑制され、高出力の近赤外光を放つ発光装置を得ることができる。
【0063】
波長変換体3,3Aは、封止材5を使用しない波長変換体とすることもできる。この場合、波長変換体3,3Aは、蛍光体のみから構成されていてもよいし、有機または無機の結着剤を利用して、蛍光体同士を固着したものであってもよい。結着剤としては、一般的に利用される樹脂系の接着剤、またはセラミックス微粒子や低融点ガラスなどを使用することができる。封止材5を利用しない波長変換体は厚みを薄くすることができるため、発光装置に好適に用いることができる。
【0064】
次に、本実施形態に係る発光装置の作用について説明する。図5に示す発光装置1では、はじめに、光源2から放射された一次光6が波長変換体3の正面3aに照射される。照射された一次光6は、波長変換体3を透過する。そして、一次光6が波長変換体3を透過する際に、波長変換体3に含まれる第一の蛍光体4が一次光6の一部を吸収して第一の波長変換光7を放射する。このようにして、波長変換体3の背面3bから、出力光として一次光6と第一の波長変換光7とを含む光を放射する。
【0065】
図6に示す発光装置1Aでは、はじめに、光源2から放射された一次光6が波長変換体3Aの正面3aに照射される。照射された一次光6は、波長変換体3Aを透過する。そして、一次光6が波長変換体3Aを透過する際に、波長変換体3Aに含まれる第二の蛍光体8が一次光6の一部を吸収して第二の波長変換光9を放射する。さらに、波長変換体3Aに含まれる第一の蛍光体4が一次光6の一部を吸収して第一の波長変換光7を放射する。このようにして、波長変換体3Aの背面3bから、出力光として一次光6と第一の波長変換光7と第二の波長変換光9とを含む光を放射する。
【0066】
図7に示す発光装置1Bでは、はじめに、光源2から放射された一次光6が波長変換体3の正面3aに照射される。一次光6は、多くが波長変換体3の正面3aから波長変換体3内に入射し、残部が正面3aで反射する。波長変換体3では、一次光6で励起された第一の蛍光体4から第一の波長変換光7が放射され、第一の波長変換光7は正面3aから放射される。
【0067】
図8に示す発光装置1Cでは、はじめに、光源2から放射された一次光6が波長変換体3Aの正面3aに照射される。一次光6は、多くが波長変換体3Aの正面3aから波長変換体3A内に入射し、残部が正面3aで反射する。波長変換体3Aでは、一次光6で励起された第二の蛍光体8から第二の波長変換光9が放射され、一次光6で励起された第一の蛍光体4から第一の波長変換光7が放射される。そして、第一の波長変換光7および第二の波長変換光9は正面3aから放射される。
【0068】
本実施形態の発光装置は、光源2から発せられる励起光のエネルギーE1と、第一の蛍光体4から発せられる蛍光のエネルギーE2との和が、第一の蛍光体4を構成する母体結晶のバンドギャップエネルギーEgよりも小さくなっている。これにより、光エネルギー密度が高い励起光を照射したとしても、賦活剤の電子が励起準位から伝導帯(CB)に遷移する恐れが小さくなる。そのため、第一の蛍光体4として発光寿命が長い蛍光体を用いた場合でも、当該蛍光体から発せられる蛍光の出力飽和を抑制し、蛍光体から発せられる光の強度(輝度)を高めることが可能となる。
【0069】
このように、本実施形態の発光装置1,1A,1B,1Cは、光エネルギー密度が0.5W/mmを超える一次光6を放射する光源2と、一次光6を吸収して一次光6よりも長波長の第一の波長変換光7に変換する第一の蛍光体4と、を備える。第一の蛍光体4の母体となる化合物は、金属元素が一種類である単純酸化物、又は、種類が異なる複数の当該単純酸化物を端成分としてなる複合酸化物である。そして、一次光6のピーク波長のエネルギー換算値をE1電子ボルトとし、第一の波長変換光7の蛍光ピーク波長のエネルギー換算値をE2電子ボルトとしたとき、単純酸化物の結晶のバンドギャップエネルギーEgはE1とE2との和よりも大きい。発光装置では、第一の蛍光体4の母体化合物として、賦活剤における励起状態にある電子に、一次光6が持つエネルギーが高い密度で加わっても、励起電子が母体となる化合物の伝導帯にまで励起されて失活する現象が生じ難い化合物を使用している。そのため、励起状態から基底状態へとエネルギー緩和し難い性質を持つ長残光性の蛍光体を利用する場合であっても、蛍光出力飽和(蛍光体に照射する光密度を高くした時に、蛍光体の蛍光強度が飽和する現象)が小さな発光装置になる。
【0070】
本実施形態の発光装置1,1A,1B,1Cは、医療用光源又は医療用照明装置であることが好ましい。発光装置1,1A,1B,1Cは、高出力でブロードな近赤外光を放出し、「生体の窓」を通して生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を励起させることができる。そのため、発光装置1,1A,1B,1Cを医療用光源又は医療用照明装置として用いることにより、蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させ、大きな治療効果を得ることが可能となる。
【0071】
本実施形態の発光装置1,1A,1B,1Cは、光干渉断層法(OCT)などに利用されていてもよい。また、発光装置1,1A,1B,1Cは、蛍光イメージング法又は光線力学療法に使用される医療用発光装置であることが好ましい。蛍光イメージング法及び光線力学療法は、幅広い応用が期待されている医療技術であり、実用性が高い。そして、発光装置1,1A,1B,1Cは、「生体の窓」を通して、生体内部を、近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができるので、大きな治療効果が期待できる。
【0072】
蛍光イメージング法は、腫瘍等の病巣と選択的に結合する蛍光薬剤を被検体に投与した後に、蛍光薬剤を特定の光によって励起し、蛍光薬剤から発せられた蛍光をイメージセンサで検出及び画像化することにより、病巣を観察する手法である。蛍光イメージング法によれば、一般的な照明のみでは観察が困難な病巣を観察することができる。蛍光薬剤としては、近赤外光領域の励起光を吸収し、さらに当該励起光よりも長波長であり、かつ、近赤外光領域の蛍光を放射する薬剤を用いることができる。蛍光薬剤としては、例えば、インドシアニングリーン(ICG)、フタロシアニン系の化合物、タラポルフィンナトリウム系の化合物、及びDipicolylcyanine(DIPCY)系の化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0073】
光線力学療法は、標的となる生体組織に選択的に結合する光感受性薬剤を被検体に投与した後に、光感受性薬剤に近赤外線を照射する治療方法である。光感受性薬剤に近赤外線が照射されると、光感受性薬剤から活性酸素が発生し、これによって腫瘍や感染症などの病巣を治療することができる。光感受性薬剤としては、例えば、フタロシアニン系の化合物、ポルフィリン系の化合物、クロリン系の化合物、バクテリオクロリン系の化合物、ソラレン系の化合物、ポルフィマーナトリウム系の化合物、タラポルフィンナトリウム系の化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0074】
本実施形態の発光装置1,1A,1B,1Cは、センシングシステム用光源又はセンシングシステム用照明システムとすることもできる。発光装置1,1A,1B,1Cでは、近赤外の波長領域に受光感度を有する、オーソドックスな受光素子を用いて、高感度のセンシングシステムを構成することができる。このため、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にする発光装置を得ることができる。
【0075】
また、本実施形態において、蛍光体(第一の蛍光体)は、組成式が以下の一般式(I)で表される蛍光体であることが好ましい。
(Gd1-xLa(Ga1-y-zScCrGa12 (I)
(式中、x、y及びzは、0<x<1、0<y≦0.60、0<z<0.2を満たす。)
このような蛍光体は、賦活剤としてCr3+を用いているため、高エネルギー密度のレーザー光を高効率で近赤外光に変換することができ、さらにレーザー光を利用した場合であっても蛍光出力が飽和し難い。さらに、当該蛍光体は、770nm付近の光成分が多い蛍光を放つことができるため、例えば蛍光イメージング法に好適な発光装置を得ることが可能となる。
【0076】
なお、一般式(I)で表される蛍光体は、発光装置1,1A,1B,1Cに好適に用いることができるが、発光装置はこれらに限定されない。つまり、一般式(I)で表される蛍光体は、一次光を波長変換して近赤外光を放つ、あらゆる発光装置に用いることができる。言い換えれば、当該発光装置は、一般式(I)で表される蛍光体を備えることができる。また、このような発光装置は、近赤外光を放射する、あらゆる医療装置に用いることができる。言い換えれば、当該医療装置は、一般式(I)で表される蛍光体を有する発光装置を備えることができる。
【0077】
[電子機器]
次に、本実施形態に係る電子機器について説明する。本実施形態に係る電子機器は、本実施形態に係る発光装置1,1A,1B,1Cのいずれかを備える。発光装置1,1A,1B,1Cは、上述のように、大きな治療効果を期待することができ、センシングシステムの小型化等が容易である。本実施形態に係る電子機器は上述の発光装置を備えるため、医療機器やセンシング機器用に用いると、大きな治療効果やセンシングシステムの小型化等を期待することができる。
【0078】
電子機器は、例えば、発光装置1,1A,1B,1Cと、受光素子とを備える。受光素子は、例えば、近赤外の波長領域の光を検知する赤外線センサなどのセンサである。そして、電子機器は、情報認識装置、分別装置、検知装置、又は検査装置のいずれかであることが好ましい。これらの装置も、上述のように、センシングシステムの小型化やセンシング範囲の広域化を容易にすることができる。
【0079】
情報認識装置は、例えば、放射した赤外線の反射成分を検知し、周囲状況を認識するドライバー支援システムである。
【0080】
分別装置は、例えば、照射光と、被照射物で反射された反射光との間における赤外光成分の違いを利用して、被照射物を予め定められた区分に分別する装置である。
【0081】
検知装置は、例えば、液体を検知する装置である。液体としては、水分、及び航空機などでの輸送が禁じられている引火性液体などが挙げられる。検知装置は、具体的には、ガラスに付着した水分、並びに、スポンジ及び微粉末などの物体に吸水された水分を検知する装置であってもよい。検知装置は、検知された液体を可視化してもよい。具体的には、検知装置は、検知された液体の分布情報を可視化してもよい。
【0082】
検査装置は、医療用検査装置、農畜産業用検査装置、漁業用検査装置、又は工業用検査装置のいずれかであってもよい。これらの装置は、各産業において検査対象物を検査するのに有用である。
【0083】
医療用検査装置は、例えば、人又は人以外の動物の健康状態を検査する検査装置である。人以外の動物は、例えば家畜である。医療用検査装置は、例えば、眼底検査及び血中酸素飽和度検査などの生体検査に用いられる装置、並びに、血管及び臓器などの器官の検査に用いられる装置である。医療用検査装置は、生体の内部を検査する装置であってもよく、生体の外部を検査する装置であってもよい。
【0084】
農畜産業用検査装置は、例えば、農産物及び畜産物を含む農畜産物を検査する装置である。農産物は、例えば、青果物及び穀類のように食品として用いられてもよく、油などの燃料に用いられてもよい。畜産物は、例えば、食肉及び乳製品等である。農畜産業用検査装置は、農畜産物の内部又は外部を非破壊で検査する装置であってもよい。農畜産業用検査装置は、例えば、青果物の糖度を検査する装置、青果物の酸味を検査する装置、葉脈などの可視化によって青果物の鮮度を検査する装置、傷及び内部欠損の可視化によって青果物の品質を検査する装置、食肉の品質を検査する装置、乳及び食肉などを原料として加工した加工食品の品質を検査する装置などである。
【0085】
漁業用検査装置は、例えば、マグロなどの魚類の肉質を検査する装置、又は貝類の貝殻内における中身の有無を検査する装置などである。
【0086】
工業用検査装置は、例えば、異物検査装置、内容量検査装置、状態検査装置、又は構造物の検査装置などである。
【0087】
異物検査装置は、例えば、飲料及び液体薬剤などの容器に入っている液体中の異物を検査する装置、包装材中の異物を検査する装置、印刷画像中の異物を検査する装置、半導体及び電子部品中の異物を検査する装置、食品中の残骨、ごみ及び機械油などの異物を検査する装置、容器内の加工食品の異物を検査する装置、並びに、絆創膏などの医療機器、医薬品及び医薬部外品の内部の異物を検査する装置などである。
【0088】
内容量検査装置は、例えば、飲料及び液体薬剤などの容器に入っている液体の内容量を検査する装置、容器に入っている加工食品の内容量を検査する装置、並びに建材中のアスベストの含有量を検査する装置などである。
【0089】
状態検査装置は、例えば、包装材の包装状態を検査する装置、及び包装材の印刷状態を検査する装置などである。
【0090】
構造物の検査装置は、例えば、樹脂製品等の複合部材又は複合部品の内部非破壊検査装置及び外部非破壊検査装置などである。樹脂製品等の具体例としては、例えば、樹脂中に金属ワイヤの一部を埋設させた金属ブラシであり、検査装置によって樹脂と金属の接合状態を検査することができる。
【0091】
本実施形態の電子機器は、カラー暗視技術を利用してもよい。カラー暗視技術は、可視光と赤外線の反射強度の相関関係を利用して、赤外線を波長ごとにRGB信号に割り当てることによって、画像をカラー化する技術である。カラー暗視技術によれば、赤外線のみでカラー画像を得ることができるので、とりわけ防犯装置などに適している。
【0092】
以上のように、電子機器は、発光装置1,1A,1B,1Cを備える。なお、発光装置1,1A,1B,1Cが、電源と光源2と波長変換体3,3Aとを備えている場合、これらの全てを一つの筐体内に収容させる必要はない。したがって、本実施形態に係る電子機器は、操作性に優れ、高精度でコンパクトな検査方法等を提供することも可能である。
【0093】
[検査方法]
次に、本実施形態に係る検査方法について説明する。上述のように、発光装置1,1A,1B,1Cを備える電子機器は、検査装置として利用することもできる。すなわち、本実施形態に係る検査方法は、発光装置1,1A,1B,1Cを利用することができる。これにより、操作性に優れ、高精度でコンパクトな検査方法を提供することが可能になる。
【0094】
[医療装置]
次に、本実施形態に係る医療装置について説明する。具体的には、医療装置の一例として、発光装置を備えた内視鏡、及び当該内視鏡を用いた内視鏡システムについて説明する。
【0095】
本実施形態に係る内視鏡は、上述の発光装置1,1A,1B,1Cを備えるものである。図9に示すように、内視鏡11は、スコープ110、光源コネクタ111、マウントアダプタ112、リレーレンズ113、カメラヘッド114、及び操作スイッチ115を備えている。
【0096】
スコープ110は、末端から先端まで光を導くことが可能な細長い導光部材であり、使用時には体内に挿入される。スコープ110は先端に撮像窓110zを備えており、撮像窓110zには光学ガラスや光学プラスチック等の光学材料が用いられる。スコープ110は、さらに、光源コネクタ111から導入された光を先端まで導く光ファイバーと、撮像窓110zから入射した光学像が伝送される光ファイバーとを有する。
【0097】
マウントアダプタ112は、スコープ110をカメラヘッド114に取り付けるための部材である。マウントアダプタ112には、種々のスコープ110が着脱自在に装着される。
【0098】
光源コネクタ111は、発光装置から、体内の患部等に照射される照明光を導入する。本実施形態では、照明光は可視光及び近赤外光を含んでいる。光源コネクタ111に導入された光は、光ファイバーを介してスコープ110の先端まで導かれ、撮像窓110zから体内の患部等に照射される。なお、図9に示すように、光源コネクタ111には、発光装置からスコープ110に照明光を導くための伝送ケーブル111zが接続されている。伝送ケーブル111zには、光ファイバーが含まれていてもよい。
【0099】
リレーレンズ113は、スコープ110を通して伝達される光学像を、イメージセンサの撮像面に収束させる。なお、リレーレンズ113は、操作スイッチ115の操作量に応じてレンズを移動させて、焦点調整及び倍率調整を行ってもよい。
【0100】
カメラヘッド114は、色分解プリズムを内部に有する。色分解プリズムは、例えば、リレーレンズ113で収束された光を、R光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)に分解する。なお、色分解プリズムは、IR光(近赤外光)をさらに分解できるものであってもよい。これによって、近赤外光を用いる蛍光イメージング法を利用した、病巣部の特定が可能な内視鏡11にもなる。
【0101】
カメラヘッド114は、さらに、検出器としてのイメージセンサを内部に有する。イメージセンサは、各々の撮像面に結像した光学像を電気信号に変換する。イメージセンサは特に限定されないが、CCD(Charge Coupled Device)及びCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)の少なくとも一方を用いることができる。イメージセンサは、例えば、B成分(青色成分)、R成分(赤色成分)、及びG成分(緑色成分)の光をそれぞれ受光する専用のセンサである。なお、カメラヘッド114には、IR成分(近赤外光成分)を受光する専用のセンサをさらに有していてもよい。これによって、近赤外光を用いる蛍光イメージング法を利用した、病巣部の特定が可能な内視鏡11にもなる。
【0102】
カメラヘッド114は、色分解プリズムの替わりに、カラーフィルターを内部に有していてもよい。カラーフィルターは、イメージセンサの撮像面に備えられる。カラーフィルターは、例えば3つ備えられており、3つのカラーフィルターは、リレーレンズ113で収束された光を受けて、R光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)をそれぞれ選択的に透過する。なお、IR光(近赤外光)を選択的に透過するカラーフィルターがさらに備えられることで、近赤外光を用いる蛍光イメージング法を利用した、病巣部の特定が可能な内視鏡11にもなる。
【0103】
近赤外光を用いる蛍光イメージング法を利用する場合、IR光を選択的に透過するカラーフィルターには、照明光に含まれる近赤外光(IR光)の反射成分をカットするバリアフィルムが備えられていることが好ましい。これにより、蛍光イメージング法で使用される蛍光薬剤から発せられたIR光からなる蛍光のみが、IR光用のイメージセンサの撮像面に結像するようになる。そのため、蛍光薬剤により発光した患部を明瞭に観察し易くなる。
【0104】
なお、図9に示すように、カメラヘッド114には、イメージセンサからの電気信号を、後述するCCU12に伝送するための信号ケーブル114zが接続されている。
【0105】
このような構成の内視鏡11では、被検体からの光は、スコープ110を通ってリレーレンズ113に導かれ、さらにカメラヘッド114内の色分解プリズムを透過してイメージセンサに結像する。
【0106】
本実施形態に係る内視鏡システム100は、図10に示すように、被検体内を撮像する内視鏡11、CCU(Camera Control Unit)12、発光装置1,1A,1B,1C、及びディスプレイなどの表示装置13を備えている。
【0107】
CCU12は、少なくとも、RGB信号処理部、IR信号処理部、及び出力部を備えている。そして、CCU12は、CCU12の内部又は外部のメモリが保持するプログラムを実行することで、RGB信号処理部、IR信号処理部、及び出力部の各機能を実現する。
【0108】
RGB信号処理部は、イメージセンサからのB成分、R成分、G成分の電気信号を、表示装置13に表示可能な映像信号に変換し、出力部に出力する。また、IR信号処理部は、イメージセンサからのIR成分の電気信号を映像信号に変換し、出力部に出力する。
【0109】
出力部は、RGB各色成分の映像信号及びIR成分の映像信号の少なくとも一方を表示装置13に出力する。例えば、出力部は、同時出力モード及び重畳出力モードのいずれかに基づいて、映像信号を出力する。
【0110】
同時出力モードでは、出力部は、RGB画像とIR画像とを別画面により同時に出力する。同時出力モードにより、RGB画像とIR画像とを別画面で比較して、患部を観察できる。重畳出力モードでは、出力部は、RGB画像とIR画像とが重畳された合成画像を出力する。重畳出力モードにより、例えば、RGB画像内で、蛍光イメージング法で使用される蛍光薬剤により発光した患部を明瞭に観察できる。
【0111】
表示装置13は、CCU12からの映像信号に基づいて、患部等の対象物の画像を画面に表示する。同時出力モードの場合、表示装置13は、画面を複数に分割し、各画面にRGB画像及びIR画像を並べて表示する。重畳出力モードの場合、表示装置13は、RGB画像とIR画像とが重ねられた合成画像を1画面で表示する。
【0112】
上述のように、本実施形態に係る内視鏡11は、発光装置1,1A,1B,1Cを備えており、スコープ110の撮像窓110zから第一の波長変換光7を放射する。そのため、内視鏡11を用いることにより、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を効率的に励起して、蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分に機能させることが可能となる。
【0113】
また、内視鏡11が第二の蛍光体8を含む発光装置1A,1Cを備えている場合、内視鏡11は、第一の波長変換光7に加えて、可視光である第二の波長変換光9を放射する。そのため、内視鏡システム100を用いることで、患部の位置を特定しつつ、患部に第一の波長変換光7を照射することが可能となる。
【0114】
本実施形態の内視鏡11は、第一の波長変換光7を吸収した蛍光薬剤から発せられる蛍光を検出する検出器をさらに備えることが好ましい。内視鏡11が発光装置1,1A,1B,1Cに加えて、蛍光薬剤から発せられた蛍光を検出する検出器を備えることにより、内視鏡のみで患部を特定することができる。そのため、従来のように大きく開腹して患部を特定する必要がないことから、患者の負担が少ない診察及び治療を行うことが可能となる。また、内視鏡11を使用する医師は患部を正確に把握できることから、治療効率を向上させることが可能となる。
【0115】
本実施形態の医療装置は、蛍光イメージング法又は光線力学療法のいずれかに利用されることが好ましい。当該医療装置は、生体内部を近赤外のブロードな高出力光で照らし、生体内に取り込んだ蛍光薬剤や光感受性薬剤を十分機能させることができるので、大きな治療効果が期待できる。また、このような医療装置は、比較的単純な構成の発光装置1,1A,1B,1Cを利用しているので、小型化や低価格化を図る上で有利である。
【実施例1】
【0116】
次に、実施例1により本実施形態の発光装置をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0117】
[蛍光体の調製]
(実施例1-1)
固相反応を利用する調製手法を用いて、実施例1-1で使用する酸化物蛍光体を合成した。実施例1-1の蛍光体は、(Al0.99,Cr0.01の組成式で表される酸化物蛍光体である。また、実施例1-1の蛍光体は、Cr3+賦活蛍光体である。
【0118】
実施例1-1の酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として使用した。
水酸化酸化アルミニウム(AlOOH):純度2N5、河合石灰工業株式会社製
酸化クロム(Cr):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0119】
まず、化学量論的組成の化合物(Al0.99,Cr0.01となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これにより、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0120】
次に、上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1500℃の大気中で4時間の焼成を行った。なお、焼成時の昇降温速度は400℃/hとした。これにより、(Al0.99,Cr0.01の組成式で表される実施例1-1の蛍光体を得た。
【0121】
(実施例1-2)
固相反応を利用する調製手法を用いて、実施例1-2で使用する酸化物蛍光体を合成した。実施例1-2の蛍光体は、Gd(Ga0.97,Cr0.0312の組成式で表される酸化物蛍光体である。また、実施例1-2の蛍光体は、Cr3+賦活蛍光体である。
【0122】
実施例1-2の酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として使用した。
酸化ガドリニウム(Gd):純度3N、和光純薬工業株式会社製
酸化ガリウム(Ga):純度4N、和光純薬工業株式会社製
酸化クロム(Cr):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0123】
まず、化学量論的組成の化合物Gd(Ga0.97,Cr0.0312となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これにより、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0124】
次に、上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1500℃の大気中で4時間の焼成を行った。なお、焼成時の昇降温速度は400℃/hとした。これにより、Gd(Ga0.97,Cr0.0312の組成式で表される実施例1-2の蛍光体を得た。
【0125】
(実施例1-3)
固相反応を利用する調製手法を用いて、実施例1-3で使用する酸化物蛍光体を合成した。実施例1-3の蛍光体は、(Ga0.99,Cr0.01の組成式で表される酸化物蛍光体である。また、実施例1-3の蛍光体は、Cr3+賦活蛍光体である。
【0126】
実施例1-3の酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として使用した。
酸化ガリウム(Ga):純度4N、和光純薬工業株式会社製
酸化クロム(Cr):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0127】
まず、化学量論的組成の化合物(Ga0.99,Cr0.01となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これにより、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0128】
次に、上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1500℃の大気中で4時間の焼成を行った。なお、焼成時の昇降温速度は400℃/hとした。これにより、(Ga0.99,Cr0.01の組成式で表される実施例1-3の蛍光体を得た。
【0129】
(参考例1-1)
参考例1-1の酸化物蛍光体として、(Y,Ce)Al12の組成式で表される蛍光体を使用した。参考例1-1の蛍光体は、Ce3+賦活蛍光体である。なお、当該蛍光体は、根本特殊化学株式会社製、品番Y996を使用した。
【0130】
(参考例1-2)
参考例1-2の酸化物蛍光体として、(Sr,Ca,Eu)AlSiNの組成式で表される蛍光体を使用した。参考例1-2の蛍光体は、Eu2+賦活蛍光体である。なお、当該蛍光体は、三菱ケミカル株式会社製、品番BR-102Cを使用した。
【0131】
[評価]
(発光寿命測定)
実施例1-1~1-3及び参考例1-1~1-2の蛍光体の発光寿命(1/e減衰時間)を、発光寿命測定装置(浜松ホトニクス株式会社製、Quantaurus-Tau小型発光寿命測定装置)により測定した。発光寿命の測定結果を表3及び図11に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
表3及び図11に示すように、実施例1-1~1-3の蛍光体は、発光寿命(1/e減衰時間)が77μs以上であり、参考例1-1のCe3+賦活蛍光体及び参考例1-2のEu2+賦活蛍光体よりも、発光寿命が100倍以上長いことが分かる。
【0134】
(分光特性)
次に、実施例1-1~1-3の蛍光体の蛍光スペクトルを、量子収率測定装置(絶対PL量子収率測定装置C9920-02、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて測定し、蛍光ピーク波長を求めた。なお、蛍光スペクトル測定時の励起波長は450nm(E1=2.76eV)とした。実施例1-1~1-3の蛍光体の蛍光ピーク波長、及び当該蛍光ピーク波長のエネルギー換算値(E2)を表4に示す。表4では、さらに、ピーク波長が450nmである励起光のエネルギー換算値(E1)と、実施例1-1~1-3の蛍光体における蛍光ピーク波長のエネルギー換算値(E2)との和(E1+E2)を合わせて示す。また、表4では、実施例1-1~1-3の蛍光体を構成する母体結晶のバンドギャップエネルギー(Eg)も合わせて示す。
【0135】
【表4】
【0136】
(蛍光出力飽和特性)
次に、実施例1-1~1-3及び参考例1-1~1-2の蛍光体を用いて波長変換デバイスを作成し、各蛍光体の蛍光出力飽和特性を評価した。具体的には、まず、蛍光体の充填率が40vol%となるように、各実施例及び参考例の蛍光体粉末と封止材を乳鉢および乳棒を用いて混合し、蛍光体ペーストを作製した。なお、封止材は、小西化学工業株式会社製、ポリシルセスシキオキサン(RSiO1.5)、グレード:SR-13を使用した。
【0137】
次いで、図12に示すように、一方の面にダイクロイックミラー201を設け、他方の面に反射防止コート(ARコート)202を設けたサファイア基板203(縦9mm、横9mm、厚み0.5mm)を準備した。そして、上述の蛍光体ペーストを、サファイア基板におけるダイクロイックミラー201の表面に、スクリーン印刷法により塗布した。スクリーン印刷の際に用いたメッシュ印刷版は、目開きが74μm(200メッシュ)であり、直径が7.8mmの円形のものを使用した。その後、蛍光体ペーストを塗布したサファイア基板203に対して、200℃で2時間の熱処理を施して封止材を硬化させることにより、各実施例及び参考例の蛍光体を含む蛍光体層204を備えた波長変換デバイス200を得た。
【0138】
次に、図13に示す評価装置を用いて、各蛍光体の発光強度を測定した。具体的には、まず、上述のようにして得られた、各実施例及び参考例に係る波長変換デバイス200を積分球300の中心に載置した。次に、積分球300の外に設置された青色レーザーダイオード素子301から放たれる青色レーザー光(ピーク波長:450nm)を、光ファイバー302を利用して積分球300の中心に導き、波長変換デバイス200に照射した。そして、光ファイバー303を介して積分球300に接続したマルチチャンネル分光器304により、波長変換デバイス200が放つ蛍光の発光特性を測定した。なお、図13に示すように、青色レーザーダイオード素子301と光ファイバー302の光入射端との間には、コリメートレンズ305を介在させた。
【0139】
ここで、一般的に、青色レーザーダイオード素子はCW駆動(Continuous Wave)である。そのため、励起光のパワー密度の増加に伴い蛍光体の発熱量が増加し、蛍光体が温度消光する。そこで、蛍光体の温度消光と光出力飽和を分離する目的で、ファンクションジェネレーター306及び電流増幅器307を用いて、青色レーザーダイオード素子301から放たれる青色レーザー光を周波数100Hz、duty比1%のパルス光に変換した。つまり、図14に示すように、10m秒の周期において、蛍光体に青色レーザー光が照射される時間を100μ秒とし、残りの時間を蛍光体の冷却時間とした。
【0140】
そして、波長変換デバイス200への青色レーザー光の照射面積は0.6mmΦとし、青色レーザー光の定格出力を0.16W/mmから4.00W/mmまで変化させることにより、各実施例及び参考例の蛍光体の蛍光出力飽和を評価した。
【0141】
図15では、レーザー光のエネルギーを0.16W/mmから4.00W/mmまで変化させたときの、蛍光体から放射された蛍光の相対強度を示している。図15に示すように、実施例1-1~1-3の蛍光体及び参考例1-1~1-2の蛍光体は、レーザー光のエネルギー密度を0.16W/mmから4.00W/mmまで高めた場合であっても、高いエネルギーの蛍光を放射した。つまり、発光寿命が短い参考例1-1~1-2の蛍光体だけでなく、発光寿命が長い実施例1-1~1-3の蛍光体も、蛍光出力飽和せず、高いエネルギーの蛍光を放射できることがわかる。
【0142】
また、表4に示すように、実施例1-1~1-3の蛍光体におけるE1とE2との和は、母体結晶のバンドギャップエネルギーEgよりも小さい。そのため、励起光の波長、並びに蛍光体のバンドギャップエネルギー及び発光波長を適切に調整することにより、励起光としてエネルギーが高いレーザー光を用いた場合でも、励起状態吸収(ESA)の発生を低減し、蛍光出力飽和を抑制できることが分かる。
【実施例2】
【0143】
次に、実施例2により本実施形態の発光装置に用いられ得る、上記一般式(I)で表される蛍光体をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0144】
[蛍光体の調製]
(参考例2-1)
固相反応を利用する調製手法を用いて、参考例2-1で使用する酸化物蛍光体を合成した。参考例2-1の蛍光体は、(Gd0.75La0.25(Ga0.97Cr0.03Ga12の組成式で表される酸化物蛍光体である。また、参考例2-1の蛍光体は、Cr3+賦活蛍光体である。
【0145】
参考例2-1の酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として使用した。
酸化ガドリニウム(Gd):純度3N、和光純薬工業株式会社製
酸化ランタン(La):純度4N、和光純薬工業株式会社製
酸化ガリウム(Ga):純度4N、和光純薬工業株式会社製
酸化クロム(Cr):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0146】
まず、化学量論的組成の化合物(Gd0.75La0.25(Ga0.97Cr0.03Ga12となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これによって、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0147】
次に、上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1450℃の大気中で1時間の焼成を行った。なお、焼成時の昇降温速度は400℃/hとした。これにより、参考例2-1の蛍光体を得た。得られた蛍光体の体色は、濃い緑色であった。
【0148】
(実施例2-1)
固相反応を利用する調製手法を用いて、実施例2-1で使用する酸化物蛍光体を合成した。実施例2-1の蛍光体は、(Gd0.75La0.25(Ga0.90Sc0.07Cr0.03Ga12の組成式で表される酸化物蛍光体である。また、実施例2-1の蛍光体は、Cr3+賦活蛍光体である。
【0149】
実施例2-1の酸化物蛍光体を合成する際、以下の化合物粉末を主原料として使用した。
酸化ガドリニウム(Gd):純度3N、和光純薬工業株式会社製
酸化ランタン(La):純度4N、和光純薬工業株式会社製
酸化ガリウム(Ga):純度4N、和光純薬工業株式会社製
酸化スカンジウム(Sc):純度4N、信越化学工業株式会社製
酸化クロム(Cr):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
【0150】
まず、実施例2-1の蛍光体について、(Gd0.75La0.25(Ga0.90Sc0.07Cr0.03Ga12の化学量論的組成の化合物となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これによって、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を得た。その後、スラリー状の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0151】
次に、上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1450℃の大気中で1時間の焼成を行った。なお、焼成時の昇降温速度は400℃/hとした。これにより、実施例2-1の蛍光体を得た。得られた蛍光体の体色は、濃い緑色であった。
【0152】
(実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4及び参考例2-2)
固相反応を利用する調製手法を用いて、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4及び参考例2-2で使用する酸化物蛍光体を合成した。実施例2-2、実施例2-3及び実施例2-4の蛍光体は、各々、(Gd0.75La0.25(Ga0.75Sc0.22Cr0.03Ga12、(Gd0.75La0.25(Ga0.50Sc0.47Cr0.03Ga12、(Gd0.75La0.25(Ga0.38Sc0.59Cr0.03Ga12の組成式で表される酸化物蛍光体である。参考例2-2の蛍光体は、(Gd0.75La0.25(Ga0.25Sc0.72Cr0.03Ga12の組成式で表される酸化物蛍光体である。また、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4及び参考例2-2の蛍光体は、いずれもCr3+賦活蛍光体である。
【0153】
まず、実施例2-2、実施例2-3及び実施例2-4の蛍光体について、各々、(Gd0.75La0.25(Ga0.75Sc0.22Cr0.03Ga12、(Gd0.75La0.25(Ga0.50Sc0.47Cr0.03Ga12、(Gd0.75La0.25(Ga0.38Sc0.59Cr0.03Ga12の化学量論的組成の化合物となるように、上記原料を秤量した。さらに参考例2-2の蛍光体について、(Gd0.75La0.25(Ga0.25Sc0.72Cr0.03Ga12の化学量論的組成の化合物となるように、上記原料を秤量した。次に、秤量した原料を、純水を入れたビーカー中に投入し、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌した。これによって、純水と原料からなるスラリー状の混合原料を、各々得た。その後、スラリー状の各々の混合原料を、乾燥機を用いて全量乾燥させた。そして、乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。
【0154】
次に、上記焼成原料を小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を利用して、1550℃の大気中で1時間の焼成を行った。なお、焼成時の昇降温速度は400℃/hとした。これにより、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4及び参考例2-2の蛍光体を得た。得られた蛍光体の体色は、いずれも濃い緑色であった。
【0155】
[評価]
(結晶構造解析)
実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体の結晶構造を、X線回折装置(デスクトップX線回折装置MiniFlex(登録商標)、株式会社リガク製)を用いて評価した。
【0156】
図16では、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体のX線回折(XRD)パターンを各々示す。参考のため、図16では、ICSD(Inorganic Crystal Structure Database)に登録されたガーネット化合物GdGaGa12のパターンも示す。図16から判るように、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体のXRDパターンは、ICSDに登録されたGdGaGa12のパターンとほぼ一致した。このことは、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体が、いずれもGdGaGa12と同じガーネットの結晶構造を持つ化合物を主体にしてなることを示す。
【0157】
以上の結果から、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体は、各々、表5に示す組成式で表される化合物であるとみなされる。なお、表5には、各蛍光体中のスカンジウム濃度(y値)も合わせて示す。
【0158】
【表5】
【0159】
(分光特性)
次に、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体の蛍光スペクトル及び内部量子効率を、量子収率測定装置(絶対PL量子収率測定装置C9920-02、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて評価した。図17では、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体の蛍光スペクトルを示す。なお、蛍光スペクトル測定時の励起波長は450nmとした。また、図17において、蛍光スペクトルは、いずれも発光ピークを1として規格化して示している。
【0160】
実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体の蛍光スペクトルは、いずれも、Cr3+のd-d遷移に起因するとみなせるブロードなスペクトルであった。そして、実施例2-1~2-4の蛍光体の蛍光スペクトルのピーク波長は、表5に示すように、各々、759nm、760nm、766nm及び770nmであった。また、参考例2-1及び2-2の蛍光体の蛍光スペクトルのピーク波長は、各々、750nm及び766nmであった。このことは、実施例2-1~2-4及び参考例2-2の蛍光体の蛍光スペクトルが、参考例2-1の蛍光体の蛍光スペクトルよりも、インドシアニングリーン(ICG)の励起スペクトル(励起ピーク波長:約780nm)との重なりが大きいことを示す。
【0161】
なお、実施例2-1~2-4の蛍光体の内部量子効率は、表5に示すように、各々、69%、78%、76%及び61%であった。また、参考例2-1及び2-2の蛍光体の内部量子効率は、各々、80%及び46%であった。
【0162】
次に、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体の蛍光を、蛍光イメージング向けの薬剤であるインドシアニングリーン(ICG)が、どの程度吸収し得るかを算出した。図18では、実施例2-1~2-4及び参考例2-1~2-2の蛍光体のICG吸収効率相対値を示す。ここで、「ICG吸収効率相対値」とは、波長780nmにおけるICGの励起スペクトル強度を100とした場合の、各蛍光体の蛍光ピーク波長におけるICGの励起スペクトルの強度相対値に、各蛍光体の内部量子効率(%)を掛けた値である。
【0163】
具体的には、図19に示すように、実施例2-1の蛍光体の場合、蛍光ピーク波長は759nmであることから、当該蛍光ピーク波長におけるICGの励起スペクトルの強度相対値は80である。そして、実施例2-1の蛍光体の内部量子効率は、69%である。そのため、実施例2-2の蛍光体のICG吸収効率相対値は、55.2となる。実施例2-2の蛍光体の場合、蛍光ピーク波長は760nmであることから、当該蛍光ピーク波長におけるICGの励起スペクトルの強度相対値は80である。そして、実施例2-2の蛍光体の内部量子効率は、78%である。そのため、実施例2-2の蛍光体のICG吸収効率相対値は、62.4となる。実施例2-3及び2-4の蛍光体のICG吸収効率相対値も同様に計算した結果、各々、64.6及び54.9となる。参考例2-1及び2-2の蛍光体のICG吸収効率相対値も同様に計算した結果、各々、48.0及び39.1となる。
【0164】
図18に示すように、実施例2-1~2-4のICG吸収効率相対値は、参考例2-1及び2-2よりも高かった。この結果、実施例2-1~2-4の蛍光体、つまり一般式(I)で表される蛍光体は、ICGの吸収効率が高く、蛍光イメージング法を利用する発光装置向けとして、好ましいことを示唆している。
【0165】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0166】
特願2019-098537号(出願日:2019年5月27日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本開示によれば、発光寿命が長い蛍光体を用いた場合でも、当該蛍光体から発せられる蛍光の出力飽和を抑制することが可能な発光装置、並びに当該発光装置を用いた電子機器及び検査方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0168】
1,1A,1B,1C 発光装置
2 光源
3,3A 波長変換体
4 第一の蛍光体
6 一次光
7 第一の波長変換光
8 第二の蛍光体
9 第二の波長変換光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図17
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図19