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特許7296572交通信号制御システム、交通信号制御装置、制御エンジン構築装置、交通信号制御方法および制御エンジン構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】交通信号制御システム、交通信号制御装置、制御エンジン構築装置、交通信号制御方法および制御エンジン構築方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/07 20060101AFI20230616BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
G08G1/07 C
G08G1/00 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019026839
(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公開番号】P2020135315
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 浩一郎
【審査官】稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-131589(JP,A)
【文献】特開平8-124085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00- 3/12
7/00-99/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を収集する情報収集装置と、
この情報収集装置で収集した前記交通状況情報に基づいて信号制御情報を生成する交通信号制御装置と、
この交通信号制御装置から取得した前記信号制御情報に基づいて前記信号機を制御する信号制御機と、
を備え、
前記交通信号制御装置は、
前記交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、
この制御エンジンが、制御エリアのネットワーク構造に基づいて類型化されたタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものであり、
前記ネットワーク構造は、
交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置のうち少なくとも2つを含むことを特徴とする交通信号制御システム。
【請求項2】
対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、
対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を収集する情報収集装置と、
この情報収集装置で収集した前記交通状況情報に基づいて信号制御情報を生成する交通信号制御装置と、
この交通信号制御装置から取得した前記信号制御情報に基づいて前記信号機を制御する信号制御機と、
を備え、
前記交通信号制御装置は、
前記交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、
この制御エンジンが、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものであり、
前記制御エンジンは、
制御エリアに含まれる交差点の現示構成に基づいて類型化されたタイプごとに構築されていることを特徴とする交通信号制御システム。
【請求項3】
対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、
対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を収集する情報収集装置と、
この情報収集装置で収集した前記交通状況情報に基づいて信号制御情報を生成する交通信号制御装置と、
この交通信号制御装置から取得した前記信号制御情報に基づいて前記信号機を制御する信号制御機と、
を備え、
前記交通信号制御装置は、
前記交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、
この制御エンジンが、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものであり、
前記制御エンジンは、
制御エリアの交通状況に基づいて類型化されたタイプごとに構築されていることを特徴とする交通信号制御システム。
【請求項4】
対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を収集する情報収集装置と、
この情報収集装置で収集した前記交通状況情報に基づいて信号制御情報を生成する交通信号制御装置と、
この交通信号制御装置から取得した前記信号制御情報に基づいて前記信号機を制御する信号制御機と、
を備え、
前記交通信号制御装置は、
前記交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、
この制御エンジンが、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものであり、
前記制御エンジンは、
共通のサイクル長で運用される複数の交差点を含むサブエリア単位で類型化されたタイプごとに構築されていることを特徴とする交通信号制御システム。
【請求項5】
対象となる制御エリアに設置された信号機を制御するための信号制御情報を生成して信号制御機に送信する交通信号制御装置であって、
情報収集装置で収集した最新の交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、
この制御エンジンは、
類型化された制御エリアのネットワーク構造に基づいて類型化されたタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものであり、
前記ネットワーク構造は、
交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置のうち少なくとも2つを含むことを特徴とする交通信号制御装置。
【請求項6】
交通信号制御装置に実装される制御エンジンを構築する制御エンジン構築装置であって、
最新の交通状況情報を入力することで信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる前記制御エンジンを構築する制御部を備え、
この制御部は、
制御エリアのネットワーク構造に基づいて類型化されたタイプごとに前記機械学習モデルに対する学習処理を実行して、制御エリアのタイプごとの複数の制御エンジンを構築し、
前記ネットワーク構造は、
交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置のうち少なくとも2つを含むことを特徴とする制御エンジン構築装置。
【請求項7】
前記制御部は、
交通量シミュレータによって、
前記最新の交通状況情報および前記信号制御情報を入力してシミュレーションを行い、制御エリア内の混雑雑状況を表す指標値が出力され、
前記機械学習モデルに対して、
前記指標値を誤差とした誤差逆伝播法による学習処理を実施し、誤差が所定値を下回るように、モデルパラメータを調整することを特徴とする請求項6に記載の制御エンジン構築装置。
【請求項8】
前記指標値は、 行列台数、渋滞長、遅れ時間、および停止回数の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項7に記載の制御エンジン構築装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記交通状況情報を微小変動させながら、前記指標値を取得するシミュレーションと、
前記指標値を誤差とした学習処理とを、所定回数繰り返す強化学習処理を実行することを特徴とする請求項7に記載の制御エンジン構築装置。
【請求項10】
前記制御部は、所定の信号制御方式を実行するように設定された交通流シミュレータを用いて、交通状況情報を入力情報としたシミュレーションを実行して、出力情報として信号制御情報を取得し、
前記交通状況情報および前記信号制御情報を学習情報として、前記機械学習モデルに対する学習処理を実行することを特徴とする請求項6に記載の制御エンジン構築装置。
【請求項11】
対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御方法であって、
交通信号制御装置において、
対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を情報収集装置から取得し、
機械学習モデルからなる制御エンジンに対して前記交通状況情報を入力して、前記制御エンジンから出力される信号制御情報を取得し、
前記制御エンジンが、制御エリアのネットワーク構造に基づいて類型化されたタイプごとに予め構築された複数の前記制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものであり、
前記ネットワーク構造は、
交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置のうち少なくとも2つを含むことを特徴とする交通信号制御方法。
【請求項12】
交通信号制御装置に実装され、最新の交通状況情報を入力することで信号制御情報を出力する制御エンジンを構築する制御エンジン構築方法であって、
情報処理装置において、
前記制御エンジンを構成する機械学習モデルに対する学習処理を、制御エリアのネットワーク構造に基づいて類型化されたタイプごとに実行して、制御エリアのタイプごとの複数の前記制御エンジンを構築し、
前記ネットワーク構造は、
交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置のうち少なくとも2つを含むことを特徴とする制御エンジン構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システム、交通信号制御装置および交通信号制御方法と、交通信号制御システムにおける情報収集装置および信号制御機と、交通信号制御装置に実装される制御エンジンを構築する制御エンジン構築装置および制御エンジン構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交通管理システムでは、円滑な交通流の確保、交通安全の確保、交通公害の抑制などを目的として、対象とする道路網の交通状況に基づいて、交差点に設置された信号機を制御する交通信号制御が行われている。この交通信号制御では、道路に設置された車両感知器で収集した情報などに基づいて、サブエリア構成を決定し、また、信号制御パラメータ(サイクル長、オフセット、スプリット)を生成するようにしている。
【0003】
このような交通信号制御では、信号制御方式としてパターン制御やMODERATO(Management by Origin-Destination Related Adaptation for Traffic Optimization)制御が採用されているが、車両感知器整備の制約からパターン制御を適用している交差点も多数存在する。このパターン制御を適用するためには、熟練技術者による交通状況の類型化および類型化した交通状況毎の最適制御パラメータ値設計を実施する必要がある。しかし、近年の熟練技術者減少のため、交通状況の経年変化に応じた制御設計見直し(交通状況類型化、最適制御パラメータ設計)が遅滞し、現在の交通状況と制御設計との間に不整合が生じて渋滞発生している箇所が多くある。
【0004】
そこで、機械学習を用いた交通状況推計と汎用制御パラメータを用いて、熟練技術者がいなくても制御設計の見直しを可能とする手法が考えられる。このような機械学習を交通管理に応用した技術として、従来、機械学習モデル(ニューラルネットワーク)を用いて、入力情報としての交通量から、出力情報として将来の交通量や信号現示の設計情報を取得する技術が知られている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-6292号公報
【文献】特開平8-124085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の技術では、交通需要の変化を予測したり、専門家がその経験と技術に基づいて行っていた現示設計を装置に行わせたりすることができるが、機械学習モデルを用いて信号制御パラメータを最適化するものではなく、現在の交通状況に対応する最適な信号制御パラメータを求めることができないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、県内数交差点しかない重度の渋滞が発生するクリティカルな交差点以外の大多数の交差点群に対して、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる交通信号制御システム、情報収集装置、信号制御機、交通信号制御装置、制御エンジン構築装置、交通信号制御方法および制御エンジン構築方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の交通信号制御システムは、対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を収集する情報収集装置と、この情報収集装置で収集した前記交通状況情報に基づいて信号制御情報を生成する交通信号制御装置と、この交通信号制御装置から取得した前記信号制御情報に基づいて前記信号機を制御する信号制御機と、を備え、前記交通信号制御装置は、前記交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、この制御エンジンが、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものである構成とする。
【0009】
また、本発明の情報収集装置は、前記交通信号制御システムにおける情報収集装置とする。
【0010】
また、本発明の信号制御機は、前記交通信号制御システムにおける信号制御機とする。
【0011】
また、本発明の交通信号制御装置は、対象となる制御エリアに設置された信号機を制御するための信号制御情報を生成して信号制御機に送信する交通信号制御装置であって、情報収集装置で収集した最新の交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、この制御エンジンは、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものである構成とする。
【0012】
また、本発明の制御エンジン構築装置は、交通信号制御装置に実装される制御エンジンを構築する制御エンジン構築装置であって、最新の交通状況情報を入力することで信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる前記制御エンジンを構築する制御部を備え、この制御部は、類型化された制御エリアのタイプごとに前記機械学習モデルに対する学習処理を実行して、制御エリアのタイプごとの複数の制御エンジンを構築する構成とする。
【0013】
また、本発明の交通信号制御方法は、対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御方法であって、交通信号制御装置において、対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を情報収集装置から取得し、機械学習モデルからなる制御エンジンに対して前記交通状況情報を入力して、前記制御エンジンから出力される信号制御情報を取得し、前記制御エンジンが、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の前記制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものである構成とする。
【0014】
また、本発明の制御エンジン構築方法は、交通信号制御装置に実装され、最新の交通状況情報を入力することで信号制御情報を出力する制御エンジンを構築する制御エンジン構築方法であって、情報処理装置において、前記制御エンジンを構成する機械学習モデルに対する学習処理を、類型化された制御エリアのタイプごとに実行して、制御エリアのタイプごとの複数の前記制御エンジンを構築する構成とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、予め制御エリアの特徴に応じて類型化されたタイプごとに制御エンジンを構築し、対象とする制御エリアのタイプに該当する機械学習モデルを選択して、信号制御を実行する。これにより、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる。特に、対象となる制御エリアごとに現場の交通状況を学習情報として収集するなどして、対象となる制御エリアごとに機械学習を行う必要がないため、人手を掛けずに、制御エリアの特徴に適した制御を行うことができる制御エンジンを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る交通信号制御システムの全体構成図
図2】交通管理装置3で構築される制御エンジンを構成する機械学習モデルの概要を示す説明図
図3】制御エリアの類型化の概要を示す説明図
図4】制御エリアのネットワーク構造に関する類型化の一例を示す説明図
図5】交差点の現示構成に関する類型化の一例を示す説明図
図6】制御エリアの類型化の一例を示す説明図
図7】交通管理装置3の概略構成を示すブロック図
図8】学習処理部21で行われる処理の手順を示すフロー図
図9】学習処理部21で行われる処理の概要を示す説明図
図10】学習処理において誤差を算出する要領を示す説明図
図11】学習処理部21で行われる強化学習処理の手順を示すフロー図
図12】制御エンジン構築部22および信号制御情報生成部23で行われる処理の手順を示すフロー図
図13】第2実施形態に係る学習処理部21で行われる処理の概要を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システムであって、対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を収集する情報収集装置と、この情報収集装置で収集した前記交通状況情報に基づいて信号制御情報を生成する交通信号制御装置と、この交通信号制御装置から取得した前記信号制御情報に基づいて前記信号機を制御する信号制御機と、を備え、前記交通信号制御装置は、前記交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、この制御エンジンが、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものである構成とする。
【0018】
これによると、予め制御エリアの特徴に応じて類型化されたタイプごとに制御エンジンを構築し、対象とする制御エリアのタイプに該当する機械学習モデルを選択して、信号制御を実行する。これにより、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる。特に、対象となる制御エリアごとに現場の交通状況を学習情報として収集するなどして、対象となる制御エリアごとに機械学習を行う必要がないため、人手を掛けずに、制御エリアの特徴に適した制御を行うことができる制御エンジンを構築することができる。
【0019】
また、第2の発明は、前記制御エンジンは、制御エリアのネットワーク構造に基づいて類型化されたタイプごとに構築されている構成とする。
【0020】
これによると、制御エリアのネットワーク構造に基づく類型化により、制御エリアを適切に類型化することができる。
【0021】
また、第3の発明は、前記ネットワーク構造は、交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置の少なくともいずれかを含む構成とする。
【0022】
これによると、交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置に基づく類型化により、制御エリアを適切に類型化することができる。
【0023】
また、第4の発明は、前記制御エンジンは、制御エリアに含まれる交差点の現示構成に基づいて類型化されたタイプごとに構築されている構成とする。
【0024】
これによると、制御エリアに含まれる交差点の現示構成に基づく類型化により、制御エリアを適切に類型化することができる。
【0025】
また、第5の発明は、前記制御エンジンは、制御エリアの交通状況に基づいて類型化されたタイプごとに構築されている構成とする。
【0026】
これによると、制御エリアの交通状況に基づく類型化により、制御エリアを適切に類型化することができる。
【0027】
また、第6の発明は、前記制御エンジンは、共通のサイクル長で運用される複数の交差点を含むサブエリア単位で類型化されたタイプごとに構築されている構成とする。
【0028】
これによると、信号制御の最小単位となるサブエリア単位の類型化により、制御エリアを適切に類型化することができる。
【0029】
また、第7の発明は、前記交通信号制御システムにおける情報収集装置である。
【0030】
これによると、第1の発明と同様に、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる。
【0031】
また、第8の発明は、前記交通信号制御システムにおける信号制御機である。
【0032】
これによると、第1の発明と同様に、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる。
【0033】
また、第9の発明は、対象となる制御エリアに設置された信号機を制御するための信号制御情報を生成して信号制御機に送信する交通信号制御装置であって、情報収集装置で収集した最新の交通状況情報を入力することで前記信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる制御エンジンを有し、この制御エンジンは、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものである構成とする。
【0034】
これによると、第1の発明と同様に、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる。
【0035】
また、第10の発明は、交通信号制御装置に実装される制御エンジンを構築する制御エンジン構築装置であって、最新の交通状況情報を入力することで信号制御情報を出力する機械学習モデルからなる前記制御エンジンを構築する制御部を備え、この制御部は、類型化された制御エリアのタイプごとに前記機械学習モデルに対する学習処理を実行して、制御エリアのタイプごとの複数の制御エンジンを構築する構成とする。
【0036】
これによると、第1の発明と同様に、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる。
【0037】
また、第11の発明は、前記制御部は、交通流シミュレータを用いたシミュレーションにより、制御エリア内の混雑状況を表す指標値を取得して、その指標値を誤差とした学習処理を実行して、その誤差が最小化するように、前記機械学習モデルのパラメータを調整する構成とする。
【0038】
これによると、混雑を緩和するような適切な信号制御パラメータを生成できる制御エンジンを構築することができる。
【0039】
また、第12の発明は、前記指標値は、行列台数、渋滞長、遅れ時間、および停止回数の少なくともいずれかを含む構成とする。
【0040】
これによると、より一層適切な学習処理を行うことができる。
【0041】
また、第13の発明は、前記制御部は、前記交通状況情報を微小変動させながら、前記指標値を取得するシミュレーションと、前記指標値を誤差とした学習処理とを、所定回数繰り返す強化学習処理を実行する構成とする。
【0042】
これによると、制御エリアの特徴に適したより一層適切な制御を行うことができる制御エンジンを構築することができる。
【0043】
また、第14の発明は、前記制御部は、所定の信号制御方式を実行するように設定された交通流シミュレータを用いて、交通状況情報を入力情報としたシミュレーションを実行して、出力情報として信号制御情報を取得し、前記交通状況情報および前記信号制御情報を学習情報として、前記機械学習モデルに対する学習処理を実行する構成とする。
【0044】
これによると、所定の信号制御方式を学習した機械学習モデルにより、所定の信号制御方式を模擬した信号制御を行うことができる。
【0045】
また、第15の発明は、対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御方法であって、交通信号制御装置において、対象となる制御エリアの最新の交通状況情報を情報収集装置から取得し、機械学習モデルからなる制御エンジンに対して前記交通状況情報を入力して、前記制御エンジンから出力される信号制御情報を取得し、前記制御エンジンが、類型化された制御エリアのタイプごとに予め構築された複数の前記制御エンジンの中から、対象となる制御エリアのタイプに基づいて選択されたものである構成とする。
【0046】
これによると、第1の発明と同様に、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる。
【0047】
また、第16の発明は、交通信号制御装置に実装され、最新の交通状況情報を入力することで信号制御情報を出力する制御エンジンを構築する制御エンジン構築方法であって、情報処理装置において、前記制御エンジンを構成する機械学習モデルに対する学習処理を、類型化された制御エリアのタイプごとに実行して、制御エリアのタイプごとの複数の前記制御エンジンを構築する構成とする。
【0048】
これによると、第1の発明と同様に、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる。
【0049】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0050】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る交通信号制御システムの全体構成図である。
【0051】
この交通信号制御システム(交通管制システム)は、制御エリアに設置された信号機を制御するものであり、車両感知器1(情報収集装置)と、信号制御機2と、交通管理装置3(交通信号制御装置、情報処理装置)と、を備えている。
【0052】
車両感知器1は、例えば超音波式車両感知器および光学式車両感知器(光ビーコン)などであり、道路上の車両を感知して、道路における車両の通行状況を表す車両感知器情報(交通状況情報)を生成する。この車両感知器情報は、車両感知器1から交通管理装置3に送信される。
【0053】
信号制御機2は、交通管理装置3から送信される信号制御パラメータ(信号制御情報)に基づいて、信号機(信号灯器)の動作を制御する。
【0054】
交通管理装置3は、交通管制センターの中央装置であり、車両感知器1から送信される車両感知器情報に基づいて、信号制御パラメータ(信号制御情報)を生成して、その信号制御パラメータを信号制御機2に送信する。
【0055】
なお、本実施形態では、交通管理装置3において、車両感知器情報を用いて信号制御を行うようにしたが、道路上に設置されたITSスポット、光ビーコン、および電波ビーコン(情報収集装置)および携帯電話網などの通信網により、走行中の車両に搭載された車載機から収集されるプローブ情報(交通状況情報)を用いて、信号制御を行うようにしてもよい。
【0056】
次に、交通管理装置3で構築される制御エンジンについて説明する。図2は、制御エンジンを構成する機械学習モデルの概要を示す説明図である。
【0057】
交通管理装置3は、機械学習モデル(例えば深層学習モデル)からなる制御エンジンを備えている。図2に示す例は、深層学習モデルの場合であり、多層ニューラルネットワークで構成され、入力層と中間層と出力層とを備えている。入力層では、交通状況情報C1...CN(各リンクの交通量)が入力され、出力層では、信号制御パラメータP1...PN(各交差点の信号制御パラメータ)が出力される。
【0058】
本実施形態では、制御エリアの特徴に応じて制御エリアを類型化し、その制御エリアのタイプ(類型)ごとに、機械学習モデルに対する学習処理を実施して、制御エリアの特徴に適合した機械学習モデルを備えた制御エンジンを、制御エリアのタイプごとに構築する。そして、運用時には、対象となる制御エリアのタイプに該当する機械学習モデルを備えた制御エンジンを呼び出して、その制御エンジンにより信号制御を実行する。
【0059】
次に、制御エリアの類型化について説明する。図3は、制御エリアの類型化の概要を示す説明図である。
【0060】
本実施形態では、制御エリアを類型化する。また、信号制御の制御単位、特に、共通のサイクル長を有する交差点で構成されるサブエリアを、類型化の最小単位となる制御エリアとする。
【0061】
また、本実施形態では、制御エリアのネットワーク構造、具体的には、交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置に基づいて制御エリアを類型化する。また、制御エリアに含まれる交差点の現示構成に基づいて制御エリアを類型化する。また、制御エリアの交通状況に基づいて制御エリアを類型化する。
【0062】
次に、制御エリアのネットワーク構造に関する類型化について説明する。図4は、制御エリアのネットワーク構造に関する類型化の一例を示す説明図である。
【0063】
本実施形態では、制御エリア(サブエリア)のネットワーク構造、具体的には、交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置に基づいて、制御エリアを類型化する。制御エリアのネットワーク構造(交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置)は、交差点の信号制御パラメータ(オフセットなど)に影響を及ぼし、制御エリアのネットワーク構造に基づいて制御エリアを類型化することで、制御エリアに適した信号制御が可能になる。
【0064】
ネットワーク構造に関する類型化では、制御エリアの交差点数、リンク構成(リンク長)、車線数、重要交差点位置の各項目で指標を設定して、その指標に基づいて制御エリアを類型化する。
【0065】
交差点数に関する類型化では、交差点数(1~5)、すなわち、制御エリアに含まれる交差点の数そのものを指標とし、交差点数に応じて、制御エリアを類型化する。
【0066】
リンク構成に関する類型化では、リンク長(交差点間距離)に関するしきい値を指標とし、リンク長の大きさに応じて、複数のレベル、例えば、「短」、「中」、「長」の3つのレベルに分類して、そのリンク長のレベルに基づいて、制御エリアを類型化する。例えば、第1のしきい値(例えば200[m])および第2のしきい値(例えば400[m])を設定し、この第1のしきい値および第2のしきい値に基づいて、リンク長を「短」、「中」、「長」の3つのレベルに分類する。具体的には、例えば、0<リンク長<200の場合は「短」、200≦リンク長<400の場合は「中」、400≦リンク長の場合は「長」となる。
【0067】
車線数に関する類型化では、幹線側リンクの車線数と交差側リンクの車線数との組合せを指標とし、制御エリアを類型化する。なお、幹線側リンクの車線数が2で、交差側リンクの車線数が1の場合、「21」と表記する。
【0068】
重要交差点位置に関する類型化では、制御エリア内の重要交差点の位置を指標として、制御エリアを類型化する。制御エリア(サブエリア)には複数の交差点が含まれるが、このうちの1つが重要交差点に設定される。また、制御エリア内の最も西側の交差点を基準にして、制御エリア内の各交差点に1から順に番号を付与し、この交差点の番号により重要交差点の位置を表す。なお、この重要交差点では、交差側リンクにも車両感知器1を設置して交差点の負荷を監視する。
【0069】
なお、本実施形態では、制御エリアのリンク構成に関する類型化において、3つの交差点を含む制御エリアの場合に、2本のリンクの長さを指標としたが、隣接するサブエリアとの間でオフセットに関する制御を連携させるため、隣接するサブエリアの交差点との間のリンクをリンク構成に含めるようにしてもよい。この場合、3つの交差点を含む制御エリアでは、制御エリア内の2本のリンクとサブエリア間の1本のリンクとの合計3本のリンクに関するリンク構成で類型化を行う。
【0070】
図4に示す例は、3つの交差点を有する制御エリアの場合である。A-1,A-2,A-3に示す形態は、リンク構成が「短短」、すなわち、2つのリンクが共に短リンク(交差点間距離が所定値未満となる場合)である。また、A-1に示す形態は、重要交差点位置が「2」、すなわち、2番の交差点が重要交差点である。A-2に示す形態は、重要交差点位置が「3」、すなわち、3番の交差点が重要交差点である。A-3に示す形態は、重要交差点位置が「1」、すなわち、1番の交差点が重要交差点である。また、B-1に示す形態は、リンク構成が「短長」、すなわち、下り方向最下流のリンクが短リンクであり、他方が長リンク(交差点間距離が所定値以上となる場合)である。B-2に示す形態は、リンク構成が「長短」、すなわち、下り方向最下流のリンクが長リンクであり、他方が短リンクである。また、C-1に示す形態は、リンク構成が「長長」、すなわち、2つのリンクが共に長リンクである。
【0071】
なお、図4に示す例では、ネットワーク構造の1要素である交差点数が3の場合を示しているが、これ以外の交差点数の場合も当然ある。また、図4に示す例では、ネットワーク構造の2つの要素としてリンク構成および重要交差点位置を示しているが、ネットワーク構造には、この他に、車線数がある。また、図4に示す例では、「短」および「長」のリンク長を示しているが、リンク長を「短」、「中」、「長」の3つのレベルにレベル分けする。
【0072】
次に、交差点の現示構成に関する類型化について説明する。図5は、現示構成に関する類型化の一例を示す説明図である。
【0073】
本実施形態では、制御エリアに含まれる交差点の現示構成に基づいて、制御エリアを類型化する。交差点の現示構成は、スプリットなどの信号制御パラメータと直接関係するため、交差点の現示構成に基づいて制御エリアを類型化することで、制御エリアに適した信号制御が可能になる。
【0074】
対象となる現示構成には、2現示、3現示、4現示、セパレート式(4現示)などがある。図5(A)に示す2現示は、最も一般的な現示であり、幹線側および交差側に交互に通行権を与える。図5(B)に示す3現示は、幹線側に右折専用現示を有する。図5(C)に示す4現示は、幹線側および交差側の双方に右折専用現示を有する。図5(D)に示すセパレート式(4現示)は、直進および左折を右折と別現示にしたものである。
【0075】
次に、交通状況に関する類型化について説明する。
【0076】
本実施形態では、制御エリアの交通状況、具体的には、リンクの最大交通量(1日のうちで最大となる単位時間あたりの交通量)に基づいて、制御エリアを類型化する。特に、最大交通量をレベル分けする指標としてしきい値を設定し、そのしきい値に基づいて、複数のレベル、例えば、「大」、「中」、「小」の3つのレベルに分類して、そのレベルに基づいて制御エリアを類型化する。
【0077】
このとき、幹線側リンクの交通量の他に、交差側リンクの交通量も考慮するとよい。また、幹線側リンクと交差側リンクとでは、交通状況に関する類型化の基準を変えるようにするとよい。この場合、幹線側リンクと交差側リンクとをそれぞれ「大」、「中」、「小」の3つのレベルに分類すると、合計で3×3の9通りにレベル分けされる。
【0078】
例えば、幹線側リンクでは、第1のしきい値(例えば100[台/15分])および第2のしきい値(例えば200[台/15分])を設定し、この第1のしきい値および第2のしきい値に基づいて、最大交通量を大中小の3つのレベルに分類する。具体的には、最大交通量<100の場合は「小」、100≦最大交通量<200の場合は「中」、200≦最大交通量の場合は「大」となる。一方、交差側リンクでは、第1のしきい値(例えば70[台/15分])および第2のしきい値(例えば140[台/15分])を設定し、この第1のしきい値および第2のしきい値に基づいて、最大交通量を3つのレベルに分類する。具体的には、最大交通量<70の場合は「小」、70≦最大交通量<140の場合は「中」、140≦最大交通量の場合は「大」となる。
【0079】
なお、最大交通量は、1車線当りの交通量とすればよい。また、最大交通量は、交通信号制御の制御サイクルの時間(例えば15分)単位、あるいはその整数分の1の時間(例えば5分)単位の交通量とすればよい。また、例えば、幹線側リンクが「大」で、交差側リンクが「小」である場合には、「大小」と表記し、幹線側リンクが「中」で、交差側リンクが「小」である場合には、「中小」と表記する。
【0080】
次に、制御エリアの類型化の一例について説明する。図6は、制御エリアの類型化の一例を示す説明図である。
【0081】
図6に示す例は、3つの交差点を含む制御エリアの場合であり、ネットワーク構造のリンク構成および重要交差点位置と、現示構成とに基づいて、制御エリアを類型化している。この場合、リンク構成と重要交差点位置と現示構成との組み合わせの数、すなわち、リンク構成(リンク長の組み合わせ)の数と重要交差点位置の数と現示構成の数とを掛け合わせた数だけタイプ(類型)が存在する。
【0082】
なお、現示構成の「222」は、3つの交差点がともに2現示であることを表し、「223」は、3つの交差点のうちの1番および2番の交差点が2現示であり、3番の交差点が3現示であることを表し、「S4S4S4」は、3つの交差点がともにセパレート式(4現示)であることを表す。
【0083】
また、類型化の項目には、ネットワーク構造のリンク構成および重要交差点位置ならびに現示構成の他に、ネットワーク構造の車線数および交通状況の項目があるが、図6に示す例では、これらの項目に関する類型化を省略している。
【0084】
次に、交通管理装置3の概略構成について説明する。図7は、交通管理装置3の概略構成を示すブロック図である。
【0085】
交通管理装置3は、通信部11と、制御部12と、記憶部13と、を備えている。
【0086】
通信部11は、車両感知器1および信号制御機2と通信を行い、車両感知器1から送信される車両感知器情報を受信し、また、信号制御パラメータ(信号制御情報)を信号制御機2に送信する。
【0087】
記憶部13は、ネットワーク構造情報、信号制御設定情報、交通状況情報、学習結果情報、車両感知器情報、信号制御パラメータ(信号制御情報)などを記憶する。また、記憶部13は、制御部12を構成するプロセッサで実行されるプログラムを記憶する。
【0088】
ここで、ネットワーク構造情報は、制御エリア(サブエリア)のネットワーク構造に関する情報、具体的には、制御エリアの交差点数、リンク構成、車線数、および重要交差点位置などである。このネットワーク構造情報は、制御エリアを類型化するために用いられる。
【0089】
信号制御設定情報は、信号制御に関する設定情報、具体的には、制御エリアの各交差点の現示構成などである。この信号制御設定情報は、制御エリアを類型化するために用いられる。
【0090】
交通状況情報は、制御エリアのタイプごとに設定される交通状況情報、具体的には、制御エリアに含まれる各リンクの交通量に関する情報である。この交通状況情報は、機械学習モデルの学習処理に用いられる。
【0091】
学習結果情報は、機械学習モデルに対する制御エリアのタイプごとの学習処理で取得した学習結果に関する情報、具体的には、制御エリアのタイプごとのモデルパラメータ(ニューラルネットワークパラメータ)である。このモデルパラメータを機械学習モデルに適用することで、制御エリアのタイプに対応した機械学習モデルからなる制御エンジンを構築することができる。
【0092】
車両感知器情報は、車両感知器1で収集された交通状況を表す情報であり、具体的には、交通量、すなわち、単位時間(例えば5分)ごとに車両感知器1の位置を通過した車両の台数や、占有率(時間占有率)、すなわち、単位時間内に車両感知器1の位置に車両が存在していた時間の割合などである。
【0093】
信号制御パラメータ(信号制御情報)は、信号機における交通信号の表示タイミングを決定する要素となる情報であり、具体的には、サイクル長、スプリット、およびオフセットである。
【0094】
制御部12は、学習処理部21と、制御エンジン構築部22と、信号制御情報生成部23と、を備えている。この制御部12は、プロセッサで構成され、制御部12の各部は、記憶部13に記憶されたプログラムをプロセッサで実行することで実現される。
【0095】
学習処理部21は、まず、学習用の交通状況情報を制御エリアのタイプごとに設定する(交通状況設定処理)。そして、その交通状況情報を用いて、制御エリアのタイプごとに機械学習モデルに対する学習処理を実施して、学習結果として、制御エリアのタイプごとのモデルパラメータ(ニューラルネットワークパラメータ)を取得する。
【0096】
制御エンジン構築部22は、学習処理部21で取得したモデルパラメータを機械学習モデルに適用して、学習結果が反映された機械学習モデルからなる制御エンジンを構築する。本実施形態では、制御エリアのタイプごとのモデルパラメータの中から、対象となる制御エリアのタイプに該当するモデルパラメータを選択して、そのモデルパラメータを用いて、対象となる制御エリアのタイプに対応する制御エンジンを構築する。
【0097】
なお、交通管理装置3では、対象となる制御エリア(サブエリア)が複数ある場合には、対象となる制御エリアごとの機械学習モデルを有する制御エンジンを構築する。
【0098】
信号制御情報生成部23は、最新の車両感知器情報を入力情報として、制御エンジン構築部22で構築された制御エンジンを実行して、制御エンジンから出力される信号制御パラメータ(信号制御情報)を取得する。
【0099】
なお、本実施形態では、交通管理装置3に、学習処理部21と制御エンジン構築部22と信号制御情報生成部23とを設けたが、運用時には、信号制御情報生成部23のみを稼働させる。また、信号制御情報生成部23を除く各部を別の情報処理装置で構成し、交通管理装置3に信号制御情報生成部23のみを設けて、別の情報処理装置で構築した制御エンジンを交通管理装置3に導入するようにしてもよい。
【0100】
次に、学習処理部21で行われる処理の手順について説明する。図8は、学習処理部21で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【0101】
学習処理部21では、制御エリアのタイプごとに学習処理を実施して、学習結果として、制御エリアのタイプごとのモデルパラメータ(ニューラルネットワークパラメータ)を取得する。
【0102】
具体的には、まず、タイプ(類型)の番号iを初期化する(i=1)(ST101)。
【0103】
次に、番号iのタイプに関する学習処理の準備として、番号iのタイプに関する学習情報を設定する(ST102)。この処理では、ネットワーク構造情報および信号制御設定情報を記憶部13から取得して、これらの情報に基づいて、番号iのタイプに関する学習情報を生成する。
【0104】
次に、番号iのタイプに関する学習処理を実施する(ST103)。この学習処理では、番号iのタイプに関する学習情報を用いて、機械学習モデルに対する学習処理を実行して、学習結果として、モデルパラメータ(ニューラルネットワークパラメータ)を取得する。このモデルパラメータを機械学習モデルに適用することで、番号iのタイプに関する機械学習モデルからなる制御エンジンを構築することができる。
【0105】
次に、タイプの番号iが最終番号Nより小さい(i<N)、すなわち、全てのタイプに関する処理が終了していない場合には(ST104でYes)、タイプの番号iをインクリメントして(i=i+1)(ST105)、ST102に戻り、次の番号iのタイプに関する処理に進む。このような処理が、タイプの番号iが最終番号Nより小さくない、すなわち、全てのタイプに関する処理が終了するまで(ST104でNo)、繰り返される。
【0106】
次に、学習処理部21で行われる処理の概要について説明する。図9は、学習処理部21で行われる処理の概要を示す説明図である。図10は、学習処理において誤差を算出する要領を示す説明図である。
【0107】
学習処理部21では、まず、学習用の交通状況情報を制御エリアのタイプごとに設定する(交通状況設定処理)。この処理では、幹線側リンクの交通量の最大値および交差側リンクの交通量の最大値をそれぞれ設定して、0から最大値までの範囲で、幹線側リンクの交通量を段階的に複数設定するとともに、交差側リンクの交通量を段階的に複数設定して、その複数段階の幹線側リンクの交通量と複数段階の交差側リンクの交通量とを組み合わせたものを学習情報とする。これにより、想定される交通状況の範囲内で機械学習モデルを適切に動作させることができる。
【0108】
具体的には、まず、幹線側リンクの最大交通量MC、および交差側リンクの最大交通量SCをそれぞれ設定する。次に、幹線側リンクに関して、0から最大交通量MCまでの範囲内を等間隔に分割して、M+1段階(M=20程度)の交通量mc(m=1~M)を設定する。また、交差側リンクに関して、0から最大交通量SCまでの範囲内を等間隔に分割して、K+1段階(M=15程度)の交通量sc(k=0~K)を設定する。そして、幹線側リンクの交通量mc(m=1~M)と交差側リンクの交通量sc(k=0~K)との組合せCmk(m=1~M,k=0~K)の各々が、一つの交通状況を表している。
【0109】
次に、学習処理部21では、交通流シミュレータを用いたシミュレーションにより、制御エリアの混雑状況を表す指標値を取得し、この指標値を誤差として、機械学習モデルに対して、誤差逆伝播法による学習処理を実施する。
【0110】
ここで、誤差逆伝播法は、機械学習モデル(ニューラルネットワーク)の学習によく用いられる学習アルゴリズムであり、機械学習モデルの出力の誤差(誤差関数)を最小化するように、モデルパラメータ(ニューラルネットワークパラメータ)を調整する。
【0111】
また、誤差逆伝播法における誤差は、機械学習の進み具合を評価する指標となるものであり、通常は、機械学習モデルの理想的な出力値との差分を誤差として、値が小さくなるようにモデルパラメータを調整するが、本実施形態では、機械学習モデルの出力値を交通流シミュレータに入力することで得られる指標値を誤差として学習処理を実施する。この指標値は、具体的には、行列台数、渋滞長、遅れ時間(停止時間)、および停止回数のいずれか一つ、もしくはその複数を組み合わせたものとする。
【0112】
すなわち、交通流シミュレータでは、交通状況設定処理で設定した交通状況情報と、機械学習モデルから出力される信号制御パラメータとを入力情報としてシミュレーションを行い、指標値(行列台数など)を取得する。機械学習モデルでは、機械学習モデルのモデルパラメータを調整することで、出力される信号制御パラメータが変化し、機械学習モデルから出力される信号制御パラメータを交通流シミュレータに入力して指標値を取得する処理を繰り返して、指標値が最小化するように、機械学習モデルのモデルパラメータを調整する。
【0113】
また、誤差としての指標値は、制御エリアのリンク単位で求める。具体的には、図10に示すように、交差点に接続された各リンクの流入車線及び流出車線に関して誤差値を算出し、その誤差値の合計値を、対象となる交差点に関する誤差値とする。また、制御エリアに含まれる各交差点に関する誤差値の合計値を、制御エリアに関する誤差値とする。
【0114】
また、本実施形態では、強化学習処理を行うことができる。この強化学習処理では、初期の交通状況情報から交通状況情報Cmk(m=1~M,k=0~K)、すなわち、幹線側リンクの交通量mc(m=1~M)と交差側リンクの交通量sc(k=0~K)とを微小変動させながら、学習処理を繰り返し実施してモデルパラメータを調整する。
【0115】
具体的には、発生頻度が正規分布を表す乱数(正規乱数)を-αから+αの範囲で発生させて、その乱数により、前回の交通量に対して-αから+αの範囲で微小変動させて、新たな交通量を取得する。
【0116】
また、学習処理では、交通流シミュレータを用いて、交通状況情報(交通量)を入力情報としてシミュレーションを行い、制御エリアの混雑状況を表す指標値(行列台数など)を取得する。そして、その指標値を誤差として誤差逆伝播法により機械学習モデルに対して学習処理を実施し、誤差が所定値を下回るように、モデルパラメータを調整する。そして、再度、交通状況情報を微小変動させて、前記の処理を繰り返す。この処理を所定回数繰り返し実施する。
【0117】
次に、学習処理部21で行われる強化学習処理の手順について説明する。図11は、学習処理部21で行われる強化学習処理の手順を示すフロー図である。なお、このフローは、1つのタイプの処理を示しており、各タイプの処理が繰り返し行われる(図8参照)。
【0118】
学習処理部21では、まず、実施回数tを初期化する(t=1)(ST201)。
【0119】
次に、幹線側リンクの交通量mcおよび交差側リンクの交通量scを微小変動する(ST202)。
【0120】
次に、微小変動した幹線側リンクの交通量mcおよび交差側リンクの交通量scを用いて、図9に示す、交通流シミュレータを利用した誤差逆伝播法による学習処理を実施する(ST203)。
【0121】
次に、実施回数tが試行回数Tに達していない場合には(t<T)(ST204でYes)、実施回数tをインクリメントして(t=t+1)(ST205)、ST101に戻る。このような処理が、実施回数tが試行回数T(例えばT=5,000程度)に達するまで(ST204でNo)、繰り返される。
【0122】
次に、制御エンジン構築部22および信号制御情報生成部23で行われる処理の手順について説明する。図12は、制御エンジン構築部22および信号制御情報生成部23で行われる処理の手順を示すフロー図である。
【0123】
制御エンジン構築部22では、図12(A)に示すように、まず、記憶部13に記憶された制御エリアのタイプごとのモデルパラメータ(学習結果情報)の中から、対象とする制御エリアのタイプに該当するモデルパラメータを選択して取得する(ST301)。そして、モデルパラメータを未学習の機械学習モデルに設定して、学習結果が反映された機械学習モデルを有する制御エンジンを構築する(ST302)。
【0124】
なお、対象とする制御エリアのタイプは管理者が判断し、対象とする制御エリアのタイプを指定する操作を管理者が交通管理装置3に対して行う。
【0125】
信号制御情報生成部23では、図12(B)に示すように、最新の車両感知器情報を記憶部13から取得する(ST401)。次に、車両感知器情報に対応する制御エリアのタイプに該当する制御エンジンに車両感知器情報を入力する(ST403)。次に、制御エンジンから出力される信号制御パラメータを、記憶部13に蓄積するとともに、信号制御機2に送信する(ST404)。
【0126】
なお、交通管理装置3では、対象となる制御エリアを複数有する場合もある。この場合、対象となる制御エリアごとに制御エンジン、すなわち、対象となる制御エリアのタイプに対応する学習情報で学習が行われた機械学習モデルからなる制御エンジンが交通管理装置3に構築され、最新の車両感知器情報(交通状況情報)が入力されると、その車両感知器1が設置された制御エリアに対応する制御エンジンにより、信号制御パラメータを生成する制御が行われる。
【0127】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。なお、ここで特に言及しない点は前記の実施形態と同様である。図13は、第2実施形態に係る学習処理部21で行われる処理の概要を示す説明図である。
【0128】
第1実施形態では、混雑状況を表す指標値(行列台数など)を誤差として混雑を緩和するような制御を行うようにしたが、本実施形態では、MODERATO制御やパターン制御などの一般的な信号制御方式を学習した制御エンジン(機械学習モデル)を構築することにより、所定の信号制御方式を模擬した信号制御を行う。本実施形態の意義は、一般的な制御方式を模擬することで、制御パラメータ算出の説明性を担保していると考えられることである。
【0129】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、入力の学習情報として交通状況情報を生成する。すなわち、まず、幹線側リンクの最大交通量MC、および交差側リンクの最大交通量SCをそれぞれ設定する。次に、幹線側リンクに関して、0から最大交通量MCまでの範囲内を等間隔に分割して、M+1段階(M=20程度)の交通量mc(m=1~M)を設定する。また、交差側リンクに関して、0から最大交通量SCまでの範囲内を等間隔に分割して、K+1段階(M=15程度)の交通量sc(k=0~K)を設定する。そして、幹線側リンクの交通量mc(m=1~M)と交差側リンクの交通量sc(k=0~K)との組合せCmk(m=1~M,k=0~K)の各々を、一つずつ交通状況の学習情報とする。
【0130】
また、本実施形態では、模擬する所定の信号制御方式を具備した交通流シミュレータを用いて、出力の学習情報として信号制御パラメータを生成する。このシミュレーションでは、交通状況情報Cmk(m=1~M,k=0~K)の一つずつが、シミュレーションの一つのシナリオとなり、交通状況情報を入力情報としてシミュレーションを実行することにより、所定の信号制御方式による制御結果としての信号制御パラメータが蓄積され、入力情報である交通状況情報と出力情報である信号制御パラメータとの組み合わせたものが学習情報となる。また、交通流シミュレータでは、機械学習モデルで模擬する信号制御方式に対応した設定値が、予め熟練技術者により交通状況情報の全てに対応するように決定されて、その設定値が交通流シミュレータに設定される。
【0131】
また、本実施形態では、第1実施形態と同様に、誤差逆伝播法により学習処理が行われる。この学習処理では、交通状況情報を入力することで交通流シミュレータで生成した理想的な信号制御パラメータと、同じく交通状況情報を入力することで機械学習モデルで生成した信号制御パラメータとの差分(絶対値もしくは二乗値)を誤差として、その誤差を最小化するように、機械学習モデルのモデルパラメータを調整する。
【0132】
なお、制御エリアの規模などに応じて、学習情報が不足する場合があるが、このような場合には、第1実施形態と同様に、交通状況情報としての交通量を微小変動させて、交通状況情報と信号制御パラメータとの組合せを多数生成して、機械学習モデルに対して強化学習を行うようにしてもよい。
【0133】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用できる。また、上記の実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係る交通信号制御システム、情報収集装置、信号制御機、交通信号制御装置、制御エンジン構築装置、交通信号制御方法および制御エンジン構築方法は、熟練技術者がいなくとも、交通状況の変化に対応した信号制御パラメータの最適化をリアルタイムに行うことができる効果を有し、対象となる制御エリアに設置された信号機を制御する交通信号制御システム、交通信号制御装置および交通信号制御方法と、交通信号制御システムにおける情報収集装置および信号制御機と、交通信号制御装置に実装される制御エンジンを構築する制御エンジン構築装置および制御エンジン構築方法などとして有用である。
【符号の説明】
【0135】
1 車両感知器(情報収集装置)
2 信号制御機
3 交通管理装置(交通信号制御装置、情報処理装置)
11 通信部
12 制御部
13 記憶部
21 学習処理部
22 制御エンジン構築部
23 信号制御情報生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13