(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】着脱自在な病変部を有する医用画像評価用ファントム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20230616BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20230616BHJP
G21G 4/08 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
G01T1/161 Z
G01T7/00 C
G21G4/08 Z
(21)【出願番号】P 2019033315
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】518068235
【氏名又は名称】菊池 明泰
(73)【特許権者】
【識別番号】518068246
【氏名又は名称】株式会社ホリモトモールド
(74)【代理人】
【識別番号】110002181
【氏名又は名称】弁理士法人IP-FOCUS
(72)【発明者】
【氏名】菊池 明泰
(72)【発明者】
【氏名】桃井 義弘
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-060674(JP,U)
【文献】特開2013-097368(JP,A)
【文献】特開2015-018130(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0091966(US,A1)
【文献】特開2008-132021(JP,A)
【文献】米国特許第06744039(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161 - 1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも核医学画像を撮影する核医学画像撮影機器の校正を行うためのファントムであって、
内容器及び前記内容器を収納した外容器を有し、放射性同位体を含んだ液体が注入される注入空間が前記内容器と前記外容器の間に形成される容器と、
前記注入空間において前記内容器から前記外容器に向かって突出し、前記内容器に着脱自在に形成された模擬病変部材とを備え、
前記内容器には、前記模擬病変部材を位置決めする内容器側位置決め部が形成され、
前記模擬病変部材には前記内容器側位置決め部に係合する病変部側位置決め部が形成され
、
前記内容器側位置決め部は、前記外容器側に向かって突出し、外周が円形に形成された円形突出部と、前記円形突出部に対する前記模擬病変部材の取り付け位置を規制する位置規制部とを備え、
前記病変部側位置決め部は、前記円形突出部と係合する円形凹部を備えていることを特徴とするファントム。
【請求項2】
請求項
1に記載のファントムであって、
前記位置規制部は、前記円形突出部の両側に平行に延びる一対の壁面を有し、
前記模擬病変部材は、前記一対の壁面に対面する平面部を有していることを特徴とするファントム。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載のファントムであって、
前記円形突出部又は前記円形凹部に弾性を有するOリングが取り付けられ、前記円形突出部及び前記円形凹部が前記Oリングを介して係合していることを特徴とするファントム。
【請求項4】
請求項
3に記載のファントムであって、
内容器側位置決め部は、前記位置規制部が前記円形突出部と同一の方向に突出し、
前記模擬病変部材の病変部側位置決め部を前記内容器側位置決め部に係合させる際に、前記位置規制部が前記模擬病変部材を案内するよう形成されていることを特徴とするファントム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像評価用のファントムに関し、特に着脱自在な病変部を有するファントムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓核医学画像およびCT(Computed Tomography)画像(特に心臓血管CT)は、心血管の異常疾患に対する診断のために広く用いられている画像である。これら2つの画像は心臓の機能(主に心筋の機能)および血管の狭窄度合い(主に冠動脈)を評価するために用いられ、その後の治療方針を決める大きな役割を担っている。
【0003】
核医学画像は体内にガンマ線を放出する医薬品を専用の検査機器で捕らえ、それを画像化することで視覚的に異常領域を同定することができる。一方のCT画像はX線を用いて体内の臓器等を視覚化するものであり、特に心臓の血管画像は血管の狭窄や石灰化などをこちらも視覚的、数値的に評価することができる。
【0004】
ところで、上記の検査が可能な病院施設は全国に多数あるが、検査の質を担保するため、各施設において、検査機器によって取得される画像の画質を評価することが行われている。この画質評価には、人体を模擬したファントムと呼ばれる装置が用いられる。
【0005】
かかる医用画像評価用のファントムの一例として、特許文献1に記載されたファントムがある。特許文献1のファントムは心臓を模擬した装置である。この心臓ファントムは、先端に向けて径が小さくなる略円錐形状の外容器及び内容器を有している。外容器と内容器との聞の空間には、内容器から外容器に向かつて突出する病変部模型片が設けられている。
【0006】
医用画像の評価に当たっては、外容器と内容器との聞の上記空間に放射性同位体を含む液体が注入される。この液体は、放射性医薬品を投与された人体の血液に対応する。液体が注入されたファントムは、医用画像を取得するためのSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)撮影装置に設置される。この装置により、医用画像評価用の画像としてファントムのSPECT画像が取得される。
【0007】
特許文献1のファントムにおいて、上記病変部模型片が形成された領域は、放射性同位体を含む液体が存在しない領域となる。このため、特許文献1のファントムのSPECT画像においては、病変部模型片に対応する領域は、血液が全く存在しない病変部分、つまり、血管が完全に狭窄した心筋梗塞の病変部分に対応した領域となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のファントムでは、病変部模型片は、内容器の表面に両面テープで着脱自在に固定される。このように、病変部模型片を着脱自在とすることにより、心臓ファントムに対して病変部分の位置を変更することができ、種々の条件下におけるSPECT画像の撮影が可能となる。
【0010】
一方で、特許文献1に記載のファントムでは、外容器と内容器の間に放射性同位体を含む液体が注入されるため、病変部模型片を固定している両面テープが変質して病変部模型片の位置がずれることがある。
【0011】
また、医用画像を評価する際に、ファントムでの撮影を複数回行うことがあり、内容器に対して病変部模型片を同じ場所に固定することが必要となる場合がある。しかしながら、特許文献1に記載の構成では、正確に同じ位置に複数回病変部模型片を固定することは困難である。
【0012】
このように、従来のファントムにおいては、病変部模型片の位置ずれが生じるおそれがあり、さらに複数回画像評価を行う際に正確に同じ位置に病変部模型片を固定することができないという不都合がある。
【0013】
本発明は、上記不都合を解消するために、病変部を着脱自在としたファントムにおいて、病変部のずれを生じさせることなく、病変部を正しく位置合わせすることができる医用画像評価用のファントムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のファントムは、少なくとも核医学画像を撮影する核医学画像撮影機器の校正を行うためのファントムであって、内容器及び前記内容器を収納した外容器を有し、放射性同位体を含んだ液体が注入される注入空間が前記内容器と前記外容器の間に形成される容器と、前記注入空間において前記内容器から前記外容器に向かって突出し、前記内容器に着脱自在に形成された模擬病変部材とを備え、前記内容器には、前記模擬病変部材を位置決めする内容器側位置決め部が形成され、前記模擬病変部材には前記内容器側位置決め部に係合する病変部側位置決め部が形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明のファントムによれば、模擬病変部材に設けられた病変部側位置決め部が内容器に設けられた内容器位置決め部により位置決めされるので、模擬病変部材を内容器に取り付ける際には、常に同じ位置に取り付けられる。従って、特許文献1に記載のファントムのように、病変部材の取り付け位置が異なる位置となることはない。また、特許文献1のような両面テープを用いることなく模擬病変部材を内容器に取り付けることができるので、放射性同位体を含んだ水溶液の影響を受けることがない。
【0016】
また、本発明のファントムにおいて、前記内容器側位置決め部は、前記外容器側に向かって突出し、外周が円形に形成された円形突出部と、前記円形突出部に対する前記模擬病変部材の取り付け位置を規制する位置規制部とを備え、前記病変部側位置決め部は、前記円形突出部と係合する円形凹部を備えている。
【0017】
当該構成によれば、円形突出部と円形凹部とを係合させることにより、内容器に対して模擬病変部材を取り付ける際に、例えば四角柱のようなものに比べて容易に係合させることができる。また、模擬病変部材は、内容器側位置決め部の位置規制部によって取り付け位置が規制されるため、内容器に対して正確な位置に固定することができる。
【0018】
また、本発明のファントムにおいて、前記位置規制部は、前記円形突出部の両側に平行に延びる一対の壁面を有し、前記模擬病変部材は、前記一対の壁面に対面する平面部を有していてもよい。当該構成によれば、模擬病変部材の平面部が一対の壁面によって正確に位置決めされる。
【0019】
また、本発明のファントムにおいて、前記円形突出部又は前記円形凹部に弾性を有するOリングが取り付けられ、前記円形突出部及び前記円形凹部が前記Oリングを介して係合するようにしてもよい。当該構成によれば、内容器に対して模擬病変部材を取り付ける際に、多少の位置ずれがあった場合でもOリングによって正確な位置決めを行うことができる。
【0020】
また、本発明のファントムにおいて、内容器側位置決め部は、前記位置規制部が前記円形突出部と同一の方向に突出し、前記模擬病変部材の病変部側位置決め部を前記内容器側位置決め部に係合させる際に、前記位置規制部が前記模擬病変部材を案内するよう形成されていてもよい。当該構成によれば、位置規制部により模擬病変部材が案内されるので、模擬病変部材を容易に且つ正確に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態であるファントム(心臓ファントム)が体幹容器内に設置されている状態を示す説明図。
【
図2】
図1の心臓ファントムを分解した状態を示す説明図。
【
図3】
図2の心臓ファントムの内容器と、模擬病変部材及び基準位置部材を示す説明図。
【
図4】(A)は模擬病変部材の取付構造を示す
図2のIV-IV線断面図、(B)は凹凸のない模擬病変部材の取付構造を示す断面図。
【
図5】(A)は、
図1の状態から心臓ファントムを取り外した状態を示す説明図、(B)は心臓ファントムを固定する固定部材を示す説明図。
【
図6】(A)は本実施形態のファントムの核医学画像の例を示す説明図、(B)は本実施形態のファントムのCT画像の例を示す説明図、(C)は撮影機器に位置ずれのない状態のフュージョン画像の例を示す説明図、(D)は撮影機器に位置ずれのある状態のフュージョン画像の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の一例である医用画像評価用のファントム1として、心臓を模した心臓ファントム2が体幹容器3内に収納されたものを例にして、
図1~
図6を参照して説明する。
図1は、本実施形態であるファントム1において、心臓ファントム2が体幹容器3内に設置されている状態を示す説明図であり、体幹容器3の前面部分を切り欠いた状態を示している。
図2は、
図1の心臓ファントム2を分解した状態を示す説明図である。
【0023】
心臓ファントム2は、
図1に示すように、全体として下方に向けて径が小さくなる大略円錐形状に形成されている。また、心臓ファントム2は、体幹容器3の収納部31内に設けられた背骨(脊椎)に相当する支柱32に、固定部材33によって固定されている。心臓ファントム2は、この固定部材33によって、支柱32に対して所定の角度で傾斜した状態で固定されている。
【0024】
心臓ファントム2は、
図2に示すように、共にアクリル樹脂等の透明な素材で形成された内容器4と外容器5とから構成される容器6を備えている。内容器4は、外容器5の内径よりも小径に形成された外径を有している。この内容器4と外容器5との間に注入空間7が形成される(
図1参照)。また、外容器5の外周面には、血管を模した模擬血管9を有する血管ユニット8が取り付けられている。
【0025】
略円錐形の内容器4の表面には、上方位置の円周方向の3か所に基準位置部材10が取り付けられている。また、内容器4の下方の表面には、表裏の4箇所に模擬病変部材11が設けられている。このように、容器6は、模擬病変部材11を収納可能となっている。なお、
図1においては、見やすさを考慮して背面側の2個の模擬病変部材11の図示を省略している。
【0026】
図1及び
図2において、符号Sの矢印の方向は、心臓ファントム2の軸方向を示す方向であり、心臓ファントム2を用いて核医学画像撮影機器及び第2画像撮影機器(本実施形態ではCT画像撮影機器)との位置関係を調整するために撮影を行う際の基準姿勢の方向を示している。
【0027】
内容器4の上端には、円盤状の天板部材12が設けられている。この天板部材12は、内容器4の上端の開口部を覆っており、内部の空間に連通する内容器用開口13と、注入空間7に連通する2箇所の注入空間用開口14が設けられている。内容器用開口13は、
図2に示すように、第1閉塞栓15によって閉塞されている。また、同様に、注入空間用開口14は2個の第2閉塞栓16によって閉塞されている。
【0028】
また、天板部材12の上面には、後述する固定部材33の固定ブラケット43に固定される固定用ボス17が4個設けられている。本実施形態においては、天板部材12と内容器4の上端部は、接着剤により固定されているが、嵌合構造により嵌合されるものであってもよく、ボルト等によって固定されるものであってもよい。
【0029】
次に、
図3及び
図4を参照して、内容器4、基準位置部材10及び模擬病変部材11について説明する。
図3は、
図2の心臓ファントム2の内容器4と、模擬病変部材11及び基準位置部材10を分離した状態を示す説明図である。また、
図4(A)は模擬病変部材の取付構造を示す
図2のIV-IV線断面図、(B)は凹凸のない模擬病変部材の取付構造を示す断面図である。
【0030】
図3に示すように、内容器4の上方位置の表面には、外周表面を一部平面状に切り欠く形で、基準位置部材10を固定するための基準位置取付部18が3箇所に形成されている。この基準位置取付部18の中央部分には、基準位置部材10に挿入される基準位置突出部19が設けられており、基準位置突出部19の表面には弾性を有するOリング20が取り付けられている。このように、基準位置部材10は、内容器4に設けられた基準位置取付部18に着脱自在となっている。
【0031】
基準位置部材10は、全体的に略円柱状であり、内容器4側には基準位置取付穴10aが設けられている。基準位置部材10は、この基準位置取付穴10aに基準位置突出部19を挿入させ、Oリング20の弾性力によって基準位置突出部19に保持されるものとなっている。なお、
図3においては、内容器4の裏側にある基準位置取付部18に基準位置部材10が取り付けられた状態を示している。
【0032】
この基準位置部材10は、核医学画像撮影機器によって撮影された際に、核医学画像50に基準位置画像52として表示される部材である(
図6(A)参照)。基準位置部材10は、この核医学画像50と、それとは異なる他の第2撮影画像と融合させたフュージョン画像70において、複数の撮影機器の位置ずれの有無を検証するために用いられる。
【0033】
一方で、
図3に示すように、内容器4の下方位置の表面には、円周部分を一部平面状に切り欠く形で、模擬病変部材11を固定するための内容器側位置決め部21が4箇所に設けられている。
【0034】
内容器側位置決め部21は、
図3及び
図4に示すように、内容器4から外容器5側に向かって突出し、外周が円形に形成された円形突出部22を備えている。この円形突出部22には、Oリング23を装着するための溝21aが設けられており、この溝21aにOリング23が装着されている。
【0035】
また、内容器側位置決め部21は、模擬病変部材11の一対の平面部11bに対面し、模擬病変部材11の取付角度(姿勢)を一定にするための、平行に延びる位置規制部24(一対の壁面)が設けられている。この位置規制部24は、内容器4の外周の円周部分を平面状に切り欠くことにより形成している。
【0036】
模擬病変部材11は、
図3及び
図4に示すように、平面視で楕円形状の合成樹脂製の部材であり、表面に櫛形の凹凸形状を有している。また、模擬病変部材11の内容器4側の面には、円形突出部22に係合する病変部側位置決め部である病変部側取付穴11a(円形凹部)が形成されている。この病変部側取付穴11aは、円形突出部22の外径よりも若干大きい内径を有している。
【0037】
図3において奥側に配置された模擬病変部材11nは、表面に凹凸形状が設けられていないタイプの模擬病変部材である。この模擬病変部材11nも、模擬病変部材11と同様に、病変部側取付穴11a及び一対の平面部11bを有している。
【0038】
模擬病変部材11を内容器4に装着する際には、内容器4の内容器側位置決め部21に設けられた円形突出部22に、模擬病変部材11の裏面に設けられた病変部側取付穴11aを嵌め込む。このとき、病変部側取付穴11aが円形突出部22に装着されたOリング23によって案内され、正確な位置決めがなされる。また、模擬病変部材11の平面部11bが内容器側位置決め部21の位置規制部24によって一定の取付角度に規制され、内容器4に取り付けられる。
【0039】
次に、
図1及び
図2を参照して、外容器5及び血管ユニット8について説明する。外容器5は、内容器4を収納する略円錐状の胴部25と、胴部25の上端部に設けられ、天板部材12に固定されるフランジ部26を備えている。
【0040】
血管ユニット8は、外容器5の外周面に固定される固定リング部27と、固定リング部27に先端部である上流始点9aが固定された模擬血管9とを備えている。また、固定リング部27には、外容器5のフランジ部26に固定される連結部27aが設けられている。血管ユニット8は、固定リング部27を外容器5の先端側から挿入し、連結部27aとフランジ部26とを固定することにより、外容器5に取り付けられる。
【0041】
模擬血管9は、CT画像撮影機器(図示省略)によって撮影された際に、血管の形状が画像としてくっきりと表れるような素材により形成されている。本実施形態においては、模擬血管9の素材として、CT画像撮影機器で撮影可能なX線の吸収率が高いアクリル樹脂を用いている。
【0042】
また、本実施形態においては、模擬血管9は3箇所の上流始点9aから下方に延びるように形成されており、その上流始点9aがCT画像60として撮影された際に位置の特定が可能な特徴的な形状をしている。このように、本実施形態においては、模擬血管9の上流始点9aが本発明における特徴部材となる。
【0043】
次に、
図1及び
図5を参照して、本実施形態における体幹容器3及び固定部材33について説明する。
図5(A)は、
図1の状態から心臓ファントム2を取り外した状態を示す説明図であり、体幹容器3の前面の一部を切り欠いた状態を示している。
図5(B)は、心臓ファントム2を固定する固定部材33を示す説明図である。
【0044】
図1に示すように、体幹容器3は、人体の胸部を模した容器であり、心臓ファントム2を収納する収納部31と、収納部31内に固定された支柱32と、人体の肺を模した模擬肺部34と、収納部31及び模擬肺部34を閉塞する蓋部材35を備えている。また、支柱32には、固定部材33が取り付けられており、この固定部材33によって支柱32に対して心臓ファントム2を傾斜させた状態で固定している。
【0045】
体幹容器3は、アクリル樹脂等の素材により形成され、平面視で角丸長方形に形成されている。収納部31は、平面視で略三角形状に形成されている。模擬肺部34は、平面視で半円状の容器を、収納部31を挟んで両側に配置した形状となっている。
【0046】
蓋部材35には、蓋部材35を体幹容器3の本体に固定するための固定ネジ36が複数設けられている。また、蓋部材35には、収納部31と外部とを連通する連通孔37が設けられ、この連通孔37は体幹用閉塞栓38が取り付けられている。
【0047】
支柱32は、アクリル樹脂等の素材により形成される円柱状の部材である。支柱32は、下方部分で体幹容器3に固定されており、上方位置には上下方向に固定部材33を位置決め固定するための位置決め穴39が3箇所に設けられている。なお、支柱32は円柱状である必要はなく、円筒状でもよく、平面視で多角形の柱部材又は筒状部材であってもよい。
【0048】
固定部材33は、
図5(B)に示すように、支柱32の周囲を囲む円筒部40と、円筒部40を支柱32に位置決めする固定ピン41(位置決め部材)を備えている。円筒部40には、固定ピン41が挿入される位置決め穴40aが設けられている。また、固定部材33は、円筒部40から前方に延びる略三角形状の傾斜保持板42と、心臓ファントム2の天板部材12を固定する固定ブラケット43を備えている。固定ブラケット43には、3個の取付穴43aが設けられている。
【0049】
次に、本実施形態のファントム1を用いて、核医学画像撮影機器とCT画像撮影機器(第2画像撮影機器)との位置ずれを検証する際の作動について説明する。なお、本願においては、核医学画像撮影機器及びCT画像撮影機器の図示を省略する。
【0050】
まず、本実施形態の心臓ファントム2と体幹容器3について、撮影前の準備を行う。心臓ファントム2においては、
図3に示す内容器4に、基準位置部材10及び模擬病変部材11を装着する。基準位置部材10は、内容器4の表面に設けられている基準位置取付部18に取り付ける。
【0051】
その際、基準位置部材10の基準位置取付穴10aを、基準位置取付部18に設けられている基準位置突出部19に装着することにより行う。このとき、基準位置部材10は、基準位置突出部19に装着されているOリング20によって、正確に位置決めされると共に、抜け止めが防止される。本実施形態においては、内容器4の3箇所の基準位置取付部18に、それぞれ基準位置部材10を取り付ける。
【0052】
また、模擬病変部材11及び11nを内容器4に装着する。模擬病変部材11及び11nは、内容器4に形成された4箇所の内容器側位置決め部21のそれぞれに装着する。
図3においては、模擬病変部材11は、いずれも同一の形状のものを用いているが、核医学画像撮影機器の性能等に応じて、形状の異なるものを組み合わせて用いてもよい。
【0053】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、内容器側位置決め部21に設けられた円形突出部22に、模擬病変部材11及び11nに設けられた病変部側取付穴11aを位置合わせして装着する。その際、病変部側取付穴11aと円形突出部22との間には、Oリング23が挟み込まれた状態となる。
【0054】
模擬病変部材11は、このOリング23を介して、円形突出部22に対して正確に位置決めされる。また、模擬病変部材11を内容器4側に押しつけると、模擬病変部材11の側面が内容器側位置決め部21に設けられた位置規制部24によって案内され、最終的に
図4のように模擬病変部材11が内容器側位置決め部21に位置決め固定される。模擬病変部材11nも同様となる。
【0055】
このように、内容器4に基準位置部材10と模擬病変部材11及び11nを装着した後、内容器4を外容器5の内部に装着する。そして、外容器5のフランジ部26と内容器4の天板部材12とを図示しないボルト等の締結部材で固定する。これにより、内容器4の外周面、外容器5の内周面、及び天板部材12の裏面で囲まれる注入空間7が形成される。
【0056】
次に、外容器5に血管ユニット8を装着する。具体的には、外容器5の先端側から固定リング部27を装着し、固定リング部27の連結部27aを外容器5のフランジ部26にビス等を用いて固定する。これにより、血管ユニット8の模擬血管9が、外容器5に対して所定の位置に確実に配置される。また、基準位置部材10が、血管ユニット8の上流始点9aと隣接することになる。
【0057】
次に、注入空間用開口14から注入空間7に、テクネチウム等の放射性同位体を含む液体を注入し、注入空間用開口14を第2閉塞栓16によって閉塞する。また、内容器4の内部に放射性同位体を含む液体を入れる場合は、内容器用開口13から内部に注入し、第1閉塞栓15によって閉塞する。
【0058】
次に、固定部材33の固定ブラケット43に、心臓ファントム2の天板部材12を装着する。本実施形態では、
図5(B)に示すように、固定ブラケット43に設けられた3個の取付穴43aにビス等を通して、天板部材12に設けられた固定用ボス17にビス等をねじ込んで固定する。
【0059】
一方で、体幹容器3については、模擬肺部34に発泡スチロールの小球を充填するか、水等の液体を充填する。次に、収納部31の支柱32に心臓ファントム2を固定した固定部材33を取り付ける。まず、支柱32に対して、上方から固定部材33の円筒部40を装着し、支柱32の3箇所に設けられている位置決め穴39のうち、所望の位置決め穴39と円筒部40の位置決め穴40aの位置合わせを行う。
【0060】
位置決め穴39と位置決め穴40aの位置合わせができれば、ここに固定ピン41を挿入し、固定部材33の位置決め固定を行う。このように、本実施形態においては、心臓ファントム2は、固定部材33によって容易に体幹容器3に位置決め固定することができる。また、固定部材33が心臓ファントム2を支柱32に対して傾斜させて保持しており、これにより、心臓ファントム2が基準姿勢の状態で保たれる。
【0061】
このように、体幹容器3内に心臓ファントム2を設置した後、蓋部材35を体幹容器3に被せて固定ネジ36によって固定する。そして、必要に応じて、体幹容器3の収納部31内に液体等を充填し、体幹用閉塞栓38によって連通孔37を閉塞する。以上の作業により、心臓ファントム2が体幹容器3内に収納された本実施形態のファントム1が形成される。
【0062】
次に、
図6を参照して、本実施形態のファントム1を用いて、核医学画像撮影機器とCT画像撮影機器(第2画像撮影機器)との位置ずれを検証する際の作動について説明する。
図6(A)は本実施形態のファントム1の核医学画像50の例を示す説明図、(B)は本実施形態のファントム1のCT画像60の例を示す説明図、(C)は撮影機器に位置ずれのない状態のフュージョン画像70の例を示す説明図、(D)は撮影機器に位置ずれのある状態のフュージョン画像70の例を示す説明図である。
【0063】
まず、核医学画像撮影機器及びCT画像撮影機器にファントム1をセットし、それぞれ撮影を行う。まず、核医学画像撮影機器において画像の撮影を行う場合は、心臓ファントム2が基準姿勢となるように体幹容器3の姿勢を調整する。また、核医学画像撮影機器によって得られる核医学画像50の中心が内容器4の中心となるように心臓ファントム2を配置する。
【0064】
核医学画像撮影機器にファントム1を正しくセットした状態で撮影された画像が
図6(A)の画像である。
図6(A)において、円及び径方向に延びる線は、核医学画像撮影機器によって核医学画像50に描画されるエリア表示51である。
【0065】
図6(A)に示すように、核医学画像50には、基準位置部材10が撮影されて表示される基準位置画像52が3箇所と、模擬病変部材11及び11nが撮影されて表示される病変部画像53が2箇所に表示されている。
【0066】
心臓ファントム2の内容器4と外容器5の間に形成されている注入空間7には、放射性同位体を含む液体が充填されているが、基準位置部材10及び模擬病変部材11が設置されている箇所には放射性の液体は存在していない。この状態を核医学画像撮影装置で撮影すると、
図6(A)に示すように、基準位置部材10及び模擬病変部材11の部分が基準位置画像52及び病変部画像53が浮かび上がった画像となる。
【0067】
基準位置部材10は、心臓ファントム2において内容器4の周方向の表面に3箇所設けられているため、心臓ファントム2を基準姿勢で撮影した場合、互いに重なることなく3箇所に基準位置画像52が表示される。
【0068】
一方で、模擬病変部材11は、
図2等に示すように、心臓ファントム2が基本姿勢となっている状態で上下の模擬病変部材11が重なる位置に設けられている。従って、
図6(A)においては、4個ある模擬病変部材11のうち、上下に位置する模擬病変部材11が重なって撮影されるため、病変部画像53は2箇所に表示される。
【0069】
また、本実施形態の心臓ファントム2では、天板部材12側から見たときに、
図6(A)において左側に配置されている2箇所の基準位置画像52と病変部画像53が重ならないように配置されている。また、
図6(A)の右側に配置されている基準位置画像52は、一部が病変部画像53と重なっているが、基準位置画像52の輪郭が明確となる配置となっている。
【0070】
また、
図6(B)には、本実施形態のファントム1をCT画像撮影機器で撮影したCT画像60において、模擬血管9が模擬血管画像61として写真に現れており、この模擬血管画像61の上流始点画像61aが特徴画像となる。
【0071】
これら、
図6(A)及び(B)に示される画像を、ワークステーション等を用いて合成し、
図6(C)又は(D)に示すようなフュージョン画像70とする。
図6(C)は核医学画像撮影機器とCT画像撮影機器との間に位置ずれがない状態を示しており、
図6(D)はこれらの撮影機器の間に位置ずれが生じている状態を示している。
【0072】
図6(C)を参照すると、模擬血管画像61の上流始点画像61aと、基準位置画像52の位置が一致している。この位置関係は、実際の心臓ファントム2を天板部材12の方向から見た場合の位置関係と一致している。即ち、核医学画像撮影機器で撮影した核医学画像50と、CT画像撮影機器で撮影したCT画像60との間に位置ずれがないことがわかる。
【0073】
一方で、
図6(D)においては、模擬血管画像61の上流始点画像61aと、基準位置画像52の位置にずれが生じている。この位置ずれは、核医学画像撮影機器とCT画像撮影機器との間に生じている位置ずれによって生じる。このように、本実施形態のファントム1は、核医学画像撮影機器及びCT画像撮影機器との間に生じる位置ずれが検証可能である。
【0074】
このような位置ずれが生じた場合、模擬血管画像61の上流始点画像61aと、基準位置画像52の位置に生じているずれを測定し、この両撮影機器による画像によってフュージョン画像70を作成する際に、上記ずれを考慮して両画像の位置関係を校正する。当該校正作業により、両撮影機器の位置ずれが解消され、正しいフュージョン画像70を得ることができる。
【0075】
なお、上記実施形態においては、ファントム1として、心臓を模した心臓ファントム2及び体幹容器3を例にして説明しているが、本発明におけるファントムは、これには限定されない。例えば、心臓以外に脳等の臓器の検証を行うファントムとしてもよい。
【0076】
また、上記実施形態においては、基準位置部材10は略円柱状に形成されているが、形状としては円柱状に限らず、多角形状等の任意の形状とすることができる。また、上記実施形態では、模擬病変部材11が表面に櫛形の凹凸形状を有しているものについて説明したが、模擬病変部材11nのように凹凸形状を有さないものであってもよい。また、模擬病変部材11の外形形状も、検証する病変部に応じて任意の形状とすることができる。
【符号の説明】
【0077】
1…ファントム
2…心臓ファントム
3…体幹容器
4…内容器
5…外容器
6…容器
7…注入空間
8…血管ユニット
9…模擬血管
9a…上流始点
10…基準位置部材
11,11n…模擬病変部材
11a…病変部側取付穴(円形凹部)
11b…平面部
12…天板部材
17…固定用ボス
18…基準位置取付部
19…基準位置突出部
20…Oリング
21…内容器側位置決め部
22…円形突出部
23…Oリング
24…位置規制部(一対の壁面)
25…胴部
26…フランジ部
31…収納部
32…支柱
33…固定部材
39…位置決め穴
40…円筒部
40a…位置決め穴
41…固定ピン(位置決め部材)
42…傾斜保持板
43…固定ブラケット
50…核医学画像
51…エリア表示
52…基準位置画像
53…病変部画像
60…CT画像
61…模擬血管画像
61a…上流始点画像(特徴画像)
70…フュージョン画像