(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】桑葉の苦味低減用組成物および桑葉含有加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20230616BHJP
A23L 5/20 20160101ALI20230616BHJP
A23F 3/34 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L5/20
A23F3/34
(21)【出願番号】P 2019088037
(22)【出願日】2019-05-08
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593012228
【氏名又は名称】株式会社希松
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝紹
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】大嶽 亜季
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉純
(72)【発明者】
【氏名】小松 令以子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-97465(JP,A)
【文献】特開2004-357584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 5/20
A23F 3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-ケストースを有効成分とする、桑葉の苦味低減用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物を、桑葉を含む飲食物材料に添加する工程を有する、桑葉の苦味が低減された桑葉含有加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-ケストースを有効成分とする、桑葉の苦味低減用組成物およびこれを用いる桑葉の苦味が低減された桑葉含有加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クワ科クワ属の落葉性高木である桑の葉(桑葉)は、血糖値抑制、高血圧抑制、血中脂質抑制、便通改善などの生理機能を有することが知られており、天ぷらやお浸し、味噌汁の具などとしてそのまま食用されるほか、茶や青汁、サプリメント等、桑葉を含有する加工食品も広く販売されている。
【0003】
その一方で、桑葉は一般に、特有の苦味や渋味、青臭さといった不快味を有することから、飲食物として摂取する場合に嗜好性に悪影響をもたらすという問題がある。そこで、桑葉特有の不快味を低減する技術が研究開発されており、例えば、特許文献1には、煎茶や紅茶等の基材茶と桑葉茶とを混合する混合茶の製造方法が開示され、係る混合茶は、桑葉由来の青臭さがとれて飲みやすいことが記載されている。また、特許文献2には、水、アルコールあるいはその混合溶液により桑葉から抽出した桑葉エキスを陽イオン交換樹脂あるいは活性炭で脱色、脱臭処理して本精製桑葉エキスを作成する方法が開示されており、係る本精製桑葉エキスは、血糖値抑制効果を奏する有効成分の1-デオキシノジリマイシン(DNJ)の含有量はそのままに、桑葉独特の苦味・渋味、匂いおよび色が除去されていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-155539号公報
【文献】特開2001-333728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の混合茶の製造方法は、桑葉以外の茶を50%以上配合するものであるため(段落[0005]等)、桑葉の効能が限定的となってしまう上、桑葉含有製品全般には適用できず、汎用性に欠ける。また、特許文献2に記載の本精製桑葉エキスの作成方法も、特殊な精製工程を必要とするため簡便性に欠ける上、桑葉の色や香りを生かすような桑葉含有製品には適用できず、汎用性に欠ける。すなわち、これら特許文献を鑑みても、桑葉特有の不快味を簡便かつ効果的に低減する汎用性の高い技術は未だ十分に提供されておらず、そのような技術が求められていた。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、桑葉特有の不快味のうち特に苦味を効果的に低減する、簡便かつ汎用性の高い技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、1-ケストースが桑葉特有の苦味を効果的に低減できることを見出した。そこで、係る知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)本発明に係る桑葉の苦味低減用組成物(以下、「本組成物」という場合がある。)は、1-ケストースを有効成分とする。
【0009】
(2)本発明に係る桑葉の苦味が低減された桑葉含有加工食品の製造方法は、本発明の苦味低減用組成物を、桑葉を含む飲食物材料に添加する工程を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、桑葉を含む原材料に1-ケストースを添加するという簡便な工程により、桑葉特有の苦味を効果的に低減することができる。また、1-ケストースは、桑葉の味や香り、色などをほとんど変化させない添加量で用いても桑葉特有の苦味を低減できることから、本発明は、種々の態様の桑葉含有製品(食品や医薬品、飼料等)に汎用することができる。さらに、1-ケストースは、水溶性が高く、ショ糖と同様の味質や物性(着色性、耐熱性、吸湿性、水分活性など)を有するため、種々の態様の桑葉含有製品に容易に配合することができる。
【0011】
また、本発明が有効成分とする1-ケストースは、タマネギやニンニク、大麦、ライ麦などの野菜や穀物にも含まれているオリゴ糖の一種であり、古来より食経験を有する物質であることや、変異原性試験、急性毒性試験、亜慢性毒性試験および慢性毒性試験のいずれにおいても毒性が認められていないことから、安全性は極めて高い(食品と開発、Vol.49、No.12、第9頁、2014年)。したがって、本発明によれば、安全性への懸念を全く生じさせずに桑葉特有の苦味を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
桑葉は、クワ属(Morus)に属する木本植物の葉をいう。クワ属の主な種としては、ログワ(M. Ihou)、ヤマグワ(M. bombycis)、ナガミグワ(M. laevigata)、ケグワ(M. tiliaefolia)、オガサワラグワ(M. boninensis)、テンジクグワ(M. serrata)、レッドマルベリー(M. rubra)、カラヤマグワ(M. alba)、クロミグワ(M. nigra)、ブラックマルベリー(M. mesozygia)などを例示することができるが、本発明においては、これらのいずれの葉も用いることができる。
【0014】
本発明において、桑葉の態様は特に限定されず、例えば、クワ属木本から採取したそのままでもよく、これに何らかの加工処理(例えば、乾燥、粉砕、抽出、加熱、発酵など)を施して得られたもの(例えば、粉末、乾燥粉末、エキスなど)であってもよい。
【0015】
1-ケストースは、1分子のグルコースと2分子のフルクトースからなる三糖類のオリゴ糖であり、試薬あるいは食品として市販されている。本発明において、1-ケストースは、簡便には、これら市販品を用いることができる。
【0016】
また、1-ケストースは、スクロースを基質として、特開昭58-201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより作ることができる。具体的には、まず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより酵素反応を行って、1-ケストース含有反応液を得る。この1-ケストース含有反応液を、特開2000-232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することよって、1-ケストースと他の糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、4糖以上のオリゴ糖)とを分離して精製し、高純度1-ケストース溶液を得る。続いて、この高純度1-ケストース溶液を濃縮した後、特公平6-70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1-ケストースを結晶として得ることができる。
【0017】
なお、本発明において、1-ケストースの「純度」とは、糖の総質量を100とした場合の、1-ケストースの質量%をいう。
【0018】
1-ケストースは、桑葉を原材料に含む製品の通常の製造過程で、原材料に添加して用いることができる。1-ケストースを添加するタイミングは特に限定されず、製造過程の最初、最後、加熱前あるいは加熱後などいずれのタイミングで添加してもよい。1-ケストースの甘味度は30で、上述のとおりその味質や物性はショ糖に近いことから、各種製品の製造過程において、糖質の一部または全部を1-ケストースに置き換えて用いることができる。各種製品における1-ケストースの添加量は、製品の態様や、当該製品における桑葉の含有量に応じて適宜設定することができるが、例えば、桑葉1重量部(乾燥重量)に対して、1-ケストースが0.5重量部以上、1重量部以上、2重量部以上、または5重量部以上の添加量を例示することができる。
【0019】
以上述べたように、本発明は、桑葉を含む飲食物材料に、本組成物を添加する工程を有する、桑葉の苦味が低減された桑葉含有加工食品の製造方法も提供する。
【0020】
なお、桑葉含有加工食品は、原材料に桑葉を含む加工食品をいう。桑葉含有加工食品の態様もまた、原材料に桑葉を含む限り特に限定されない。桑葉含有加工食品の具体例としては、例えば、サプリメントなどの健康食品、乳幼児食品、茶や青汁、野菜ジュースなどの飲料・酒類、菓子類、調味料、調理品、スープ、冷凍食品、缶詰、プレミックス、デザートの素、麺類、パン・シリアル類、総菜類、農産乾物などを挙げることができる。
【0021】
本発明により、桑葉の苦味が低減されたか否かは、官能試験により判断することができる。すなわち、一方は原材料に本組成物を添加して、他方はこれを添加せずに、同種の製品を同様に製造する。ここで、当該製品において、桑葉の含有量は同じとする。この両者を喫食する官能試験を行って比較する。その結果、本組成物を用いた方が苦味が弱いと感じられれば、本発明により桑葉の苦味が低減されたと判断することができる。
【0022】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0023】
(1)単位
本実施例では、特段の記載のない限り、パーセント(%)は質量%((w/w)%)を示す。
【0024】
(2)試料
本実施例において、桑葉は、市販の粉末状の桑葉(桑葉粉末100%)を用いた。また、1-ケストースは、純度98質量%以上で1-ケストースを含有する粉末(甘味度30、物産フードサイエンス社)を用いた。また、フラクトオリゴ糖は、市販のフラクトオリゴ糖粉末(「メイオリゴP」(株)明治;水分5%以下、フラクトオリゴ糖95%以上、単糖類およびショ糖5%以下、甘味度45)を用いた。
【0025】
(3)桑葉茶の調製
表1に示す配合で、桑葉、1-ケストースおよびフラクトオリゴ糖を水に溶解して、桑葉茶を調製した。すなわち、試験区1は桑葉のみからなる桑葉茶であり、試験区2は1-ケストースを添加した桑葉茶、試験区3はフラクトオリゴ糖を添加した桑葉茶である。なお、試験区2と試験区3とは同等の甘味度となるように、1-ケストースまたはフラクトオリゴ糖を添加した。
【表1】
【0026】
(4)官能試験
試験区1~3の桑葉茶について、10名の分析型パネル(A~J)により官能試験を行い、「苦味」および「甘さ」を評価した。評価基準は下記に示すとおりとした。すなわち、試験区1の苦味または甘さを3点として、試験区2および試験区3の苦味または甘さの強弱を、1点、1.5点、2点、2.5点、3点、3.5点、4点、4.5点および5点の9段階で各パネルが採点した。採点結果について、試験区ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第3位を四捨五入して評価点とした。評価点は、クラスカル・ウォリス検定により分散分析を行い、ボンフェローニ法により多重比較検定を行って、試験区1に対する有意差の有無を確認した。なお、有意水準はp=0.01とした。その結果を表2に示す。
《評価基準》
苦味:試験区1の苦味を3点とした場合に、1点=かなり弱い、2点=弱い、3点=同等、4点=強い、5点=かなり強い。
甘さ:試験区1の甘さを3点とした場合に、1点=かなり甘い、2点=甘い、3点=同等、4点=甘くない、5点=かなり甘くない。
【表2】
【0027】
表2に示すように、試験区2の苦味の平均点は2.15点であり、試験区1と比較して有意に苦味が弱かった。一方、試験区3の苦味の平均点は2.45点であり、試験区1と比較して優位差は無かった。すなわち、フラクトオリゴ糖を添加した桑葉茶では苦味が低減されなかったが、1-ケストースを添加した桑葉茶では、苦味が低減された。
【0028】
また、甘さの平均点は、試験区2および試験区3のいずれも2.55点で、試験区1と比較して優位差は無かった。すなわち、1-ケストースを添加した桑葉茶およびフラクトオリゴ糖を添加した桑葉茶のいずれも、これらを添加しない桑葉茶と同等の甘さであった。
【0029】
以上の結果から、1-ケストースは、桑葉茶の甘さに影響を与えない添加量であっても、桑葉茶の苦味を低減できることが明らかになった。換言すれば、1-ケストースによる桑葉の苦味低減効果は、甘味の付与によるものでない、特有の効果であることが明らかになった。