(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】半導体封止用組成物及び電子部品装置
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20230616BHJP
C08L 61/00 20060101ALI20230616BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20230616BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20230616BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20230616BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20230616BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230616BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08L61/00
C08K3/00
C08K5/10
C08K5/092
C08G59/40
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2019126532
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒山 千佳
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-135424(JP,A)
【文献】国際公開第2015/019407(WO,A1)
【文献】特開2009-215520(JP,A)
【文献】特開2004-059700(JP,A)
【文献】特開2002-322344(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0270664(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00 - 59/72
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
H01L 23/28 - 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物(A)
、フェノール化合物(B)
、無機充填材(C)
、離型剤(D)、及
び密着性付与剤(E
)を含有
する半導体封止用組成物であって、
前記(D)は、2つ以上の水酸基及び2つ以上のエステル基を有する脂肪酸エステル(D1)を含み、
天然カルナバを含まず、
前記(D1)は、下記式(1)で示される化合物を含み、
前記(D)の含有量は、前記半導体封止用組成物全量に対して0.05質量%以上5質量%以下であり、
前記(E)は、2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸及び酸無水物のうちの少なくとも一方(E1)を含
み、
前記(E1)は、無水トリメリット酸、及びグルタル酸からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み、
前記(E)の含有量は、前記半導体封止用組成物全量に対して0.05質量%以上3質量%以下である、
半導体封止用組成物。
【化1】
式(1)中、k、l、m、及びnはそれぞれ自然数を示す。
【請求項2】
前記(D1)の酸価は、5mg/KOH以下である、
請求項
1に記載の半導体封止用組成物。
【請求項3】
前記(D1)は、前記半導体封止用組成物中で懸濁状に分散している、
請求項1
又は2に記載の半導体封止用組成物。
【請求項4】
前記(E1)の含有量は、前記半導体封止用組成物全
量に対して0.05質量%以上である、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の半導体封止用組成物。
【請求項5】
式(1)中、k及びlのうちの少なくとも一方は10以上の自然数を示す、
請求項
1~4のいずれか一項に記載の半導体封止用組成物。
【請求項6】
半導体素子と、
前記半導体素子を封止する封止材と、を備え、
前記封止材は、請求項1~
5のいずれか一項に記載の半導体封止用組成物の硬化物を含む、
電子部品装置。
【請求項7】
前記半導体素子を固定するリードフレームを更に備え、
前記リードフレームの表面の少なくとも一部がニッケルメッキ層を有する、
請求項
6に記載の電子部品装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用組成物及び電子部品装置に関し、詳しくは、半導体素子を封止するために用いられる半導体封止用組成物及びこの半導体封止用組成物の硬化物を含む封止材を備える電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoTなどにより家電のスマート化が進み、パワーモジュールの需要が高まっている。中でも、エアコンや洗濯機といった家電製品や車などに、インテリジェントパワーモジュール(Intelligent Power Module、IPMともいう)が搭載されるようになり、IPMの需要が特に高まっている。IPMは、電力を制御するパワーMOSFETや絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などのパワーデバイスの駆動回路や自己保護機能を組み込んだ電力用半導体素子であり、非常に幅広い用途への使用が検討されている。
【0003】
このようなパワー半導体やパワーモジュールにおいて、半導体素子は金属製のリードフレームによって固定されることがある。リードフレーム接続される金属ワイヤのワイヤボンディング性を高めるため、リードフレームの表面の一部又は全体にニッケルなどを用いて金属メッキが施されることがある。
【0004】
この金属メッキの表層には不動態皮膜が形成されやすく、非常に安定である。そのため、加水分解が起こりにくく、金属メッキの表面に十分な水酸基が存在しにくい。これにより、封止材料と金属製のリードフレームとの密着力が低下しやすく、信頼性低下の要因の一つとなっている。適応電圧の上昇や使用用途の広がりから、信頼性の高いパワー半導体やパワーモジュールが求められている。
【0005】
特許文献1には、ニッケルメッキまたは銀メッキが施されたリードフレームと封止樹脂との密着性を高めるために、トリメリット酸無水物エステル混合物を硬化剤として添加したエポキシ樹脂組成物を、半導体素子を封止するための材料として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、封止材料に含まれるワックス成分が、封止材料の硬化物の表面に浮き出ることでリードフレームのメッキ表面を被覆してしまい、メッキの表層が活性化しにくく、水素結合が十分に形成されないおそれがある。このため、金属製のリードフレームと封止材料との密着性を十分に高めることはできない。
【0008】
本発明の課題は、金属材料との優れた密着性を有する硬化物を形成しうる半導体封止用組成物、及びこの半導体封止用組成物の硬化物を含む封止材を備える電子部品装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る半導体封止用組成物は、エポキシ化合物(A)、フェノール化合物(B)、無機充填材(C)、離型剤(D)、及び密着性付与剤(E)、を含有し、前記(D)は、2つ以上の水酸基及び2つ以上のエステル基を有する脂肪酸エステル(D1)を含み、前記(E)は、2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸及び酸無水物のうちの少なくとも一方(E1)を含む。
【0010】
本発明の一態様に係る電子部品装置は、半導体素子と、前記半導体素子を封止する封止材と、を備え、前記封止材は、前記半導体封止用組成物の硬化物を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、金属材料との優れた密着性を有する硬化物を形成しうる半導体封止用組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、説明する。
【0013】
本実施形態に係る半導体封止用組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、エポキシ化合物(A)、フェノール化合物(B)、無機充填材(C)、離型剤(D)、及び密着性付与剤(E)、を含有する。(D)は、2つ以上の水酸基及び2つ以上のエステル基を有する脂肪酸エステル(D1)を含む。(E)は、2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸及び酸無水物のうちの少なくとも一方(E1)を含む。
【0014】
組成物(X)は、2つ以上の水酸基及び2つ以上のエステル基を有する脂肪酸エステル(D1)(以下、単に「(D1)」ともいう)及び2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸及び酸無水物のうちの少なくとも一方(E1)(以下、単に「(E1)」ともいう)の両方を含有するため、組成物(X)の硬化物は、金属材料との優れた密着性を有する。これは、(D1)は組成物(X)中の樹脂成分から完全に分離も相溶もせず、組成物(X)中に分散されていると考えられる。そのため、例えば金型を用いて組成物(X)から硬化物を成形する際に、硬化物に金型からの良好な離型性を付与できると同時に、金属材料の表面に(D1)が付着しすぎることがないため、金属材料の表面の活性状態を維持しやすくなる。これにより、金属材料の表面に十分な水酸基が存在するため、(D1)と金属材料の表面に存在する水酸基とが水素結合しやすくなり、金属材料と組成物(X)の硬化物との密着性が高まると考えられる。また、組成物(X)中の(E1)も金属材料の表面を活性化することができるため、金属材料の表面に十分な水酸基を存在させやすくなる。これにより、(E1)と金属材料の表面に存在する水酸基とが水素結合しやすくなり、金属材料と組成物(X)の硬化物との密着性が高まると考えられる。このように、組成物(X)が(D1)及び(E1)の両方を含有することで、組成物(X)の硬化物と金属材料との優れた密着性を実現することができる。そのため、例えば、安定な不動態皮膜を形成しやすいニッケルを用いてリードフレームにメッキを施した場合でも、組成物(X)の硬化物を含む封止材と、リードフレームのニッケルメッキ表面との密着性を高めることができる。
【0015】
組成物(X)は、エポキシ化合物(A)(以下、単に「(A)」ともいう)を含有する。(A)は、組成物(X)に熱硬化性を付与することができる。(A)は、一分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物である。(A)は、モノマー、オリゴマー、及びポリマーのいずれを含んでいてもよい。また、(A)は、エポキシ樹脂を含んでいてもよい。(A)は、一分子中に2つ以上のエポキシ基を有する化合物を含むことが好ましい。(A)の分子量及び分子構造は特に限定されない。
【0016】
(A)の例は、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、及びオレフィン酸化型(脂環式)エポキシ樹脂を含む。
【0017】
(A)の具体例は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のアルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格及びビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;フェニレン骨格及びビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂及びアルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂等のブロム含有エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタン及びイソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;フタル酸及びダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;並びに硫黄原子含有エポキシ樹脂を含む。(A)は、これらのうちの一種を単独で含んでもよく、二種以上を含んでもよい。
【0018】
(A)は、ナトリウムイオン及び塩素イオン等のイオン性不純物を含まないことが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物の耐湿性を向上させることができるため、組成物(X)の硬化物を含む封止材を用いて半導体素子を封止した場合に、耐湿信頼性を向上させることができる。
【0019】
(A)の含有量は、組成物(X)全量に対して7質量%以上35質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)は優れた流動性を有しうるとともに、組成物(X)の硬化物の物性をより向上させることができる。
【0020】
組成物(X)は、フェノール化合物(B)(以下、単に「(B)」ともいう)を含む。(B)は、フェノール樹脂を含んでもよい。(B)は、硬化剤として機能する。
【0021】
(B)の例は、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、及びナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂及びフェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;トリフェノールメタン型樹脂等の多官能型フェノール樹脂;ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック樹脂及びジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂等のジシクロペンタジエン型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;ビスフェノールA及びビスフェノールF等のビスフェノール型樹脂;ビスフェノールS等の硫黄原子含有型フェノール樹脂;並びにトリアジン変性ノボラック樹脂を含む。(B)は、これらのうちの一種を単独で含んでもよく、二種以上を含んでもよい。(B)は、ノボラック型フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、及びビフェニルアラルキル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。
【0022】
(B)は、組成物(X)において、(A)のエポキシ当量1に対して、(B)の活性水素当量が0.5以上1.5以下の範囲内となるように含有されていることが好ましい。(B)の活性水素当量が0.5以上であることで、組成物(X)の硬化物は優れた接着強度及び耐熱性を有しうるとともに、硬化物の吸湿量を低減し、耐湿性を向上させることができる。また、(B)の活性水素当量が1.5以下であることで、組成物(X)は優れた硬化性を有するとともに、組成物(X)の硬化物の耐熱性及び強度を向上させることができる。(B)は、組成物(X)において、(A)のエポキシ当量1に対して、(B)の活性水素当量が0.6以上1.4以下の範囲内となるように含有されていることがより好ましい。なお、エポキシ当量とは、(A)の分子中に含まれるエポキシ基の数に対するエポキシ化合物の分子量の比である。また、活性水素当量とは、硬化剤として用いる(B)中の活性水素の数に対する(B)の分子量の比である。
【0023】
組成物(X)は、無機充填材(C)(以下、単に「(C)」ともいう)を含有する。組成物(X)が(C)を含有することで、組成物(X)の硬化物の熱膨張係数を小さくすることができる。これにより、組成物(X)の硬化物を含む封止材を用いて半導体素子を封止した電子部品装置において、熱時に発生する封止材と半導体素子との応力差が小さくなる。そのため、電子部品装置は、高温の環境下においても優れた信頼性を有しうる。
【0024】
(C)は、特に限定されないが、(C)の例は、溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、及び窒化珪素を含む。(C)は、これらのうちの一種のみを単独で含んでもよく、二種以上を含んでもよい。
【0025】
(C)は、結晶シリカを含むことが好ましい。この場合、組成物(X)の充填性、流動性、及び熱伝導性を向上することができる。
【0026】
(C)の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.2μm以上70μm以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の流動性をより向上させることができる。(C)の平均粒径は、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。なお、(C)の平均粒径は、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径(d50、体積基準)として求めることができる。
【0027】
(C)は、粒径の異なる2種以上の無機充填材を含むことが好ましい。この場合、組成物(X)は、良好な粘度を有しうるとともに、組成物(X)の硬化物の物性を向上させることができる。
【0028】
(C)の含有量は、組成物(X)全量に対して60質量%以上93質量%以下であることが好ましい。(C)の含有量が60質量%以上であることで、線膨張係数が大きくなりすぎることを防ぐことができ、リフロー時の組成物(X)の硬化物の反りの変化量を小さくすることができる。また、(C)の含有量が93質量%以下であることで、組成物(X)は優れた流動性を有することができ、ワイヤースイープを低減することができる。(C)の含有量は、組成物(X)全量に対して70質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
組成物(X)は、(D1)を含む離型剤(D)(以下、単に「(D)」ともいう)を含有する。上述のように、(D1)は組成物(X)中の樹脂成分から完全に分離も相溶もせず、組成物(X)中に分散されていると考えられる。そのため、組成物(X)の硬化物の成形時に、金型からの良好な離型性を付与できると同時に、金属材料の表面に(D1)が付着しすぎることがないため、金属材料の表面の活性状態を維持しやすくなり、金属材料の表面に十分な水酸基が存在しうる。(D1)は、2つ以上の水酸基及び2つ以上のエステル基を有するため、(D1)と金属材料の表面に存在する水酸基とが水素結合しやすくなり、金属材料と組成物(X)の硬化物との密着性が向上する。
【0030】
(D1)の例は、ペンタエリストリールテトラモンタン酸エステル、ジペンタエリストリールヘキサベヘン酸エステル、及びペンタエリトリトールジステアラートを含む。
【0031】
(D1)は、下記式(1)で示される化合物を含むことが好ましい。
【0032】
【化1】
式(1)中、k、l、m、及びnはそれぞれ自然数を示す。
【0033】
(D1)が式(1)で示される化合物を含むことで、組成物(X)の硬化物は、金属材料に対してより優れた密着性を有しうる。そのため、組成物(X)の硬化物は、例えばニッケル等の表面に不導体膜を形成しやすく活性状態が保たれにくい金属材料ともより優れた密着性を有しうる。
【0034】
式(1)中、k及びlのうちの少なくとも一方は10以上の自然数を示すことが好ましい。すなわち、(D1)は、2つ以上の水酸基及び2つ以上のエステル基を有する長鎖脂肪酸エステルを含むことが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は、金属材料に対してより優れた密着性を有しうる。式(1)中、k及びlの内の両方が10以上の自然数を示すことがより好ましい。式(1)中のk及びlのそれぞれの上限は特に限定されないが、例えば、20以下の自然数を示すことが好ましい。
【0035】
式(1)中、m及びnは、それぞれ1以上5以下の自然数を示すことが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は、金属材料に対してより優れた密着性を有しうる。式(1)中、m及びnは、それぞれ1以上3以下の自然数を示すことがより好ましい。
【0036】
(D1)の酸価は、5mg/KOH以下であることが好ましい。この場合、(D1)中の遊離脂肪酸が少なくなるため、金属材料の表面に(D1)が付着しすぎることをより防ぎやすく、金属材料と組成物(X)の硬化物との密着性を特に向上することができる。(D1)の酸価は、3mg/KOH以下であることがより好ましい。(D1)の酸価の下限は特に限定されないが、例えば0.2mg/KOH以上であることが好ましく、0.5mg/KOH以上であることがより好ましい。
【0037】
(D1)は、組成物(X)中で懸濁状に分散していることが好ましい。懸濁状に分散しているとは、(D1)が組成物(X)中において均一に分散しており、分離していないことを意味する。この場合、(D1)が組成物(X)中で良好に分散されることで、組成物(X)の硬化物の表面上に(D1)が多く浮き上がることを防ぎやすい。そのため、組成物(X)の硬化物の表面に浮き出た(D1)が金属材料の表面に付着しすぎることで金属材料の表面の活性状態が阻害されることを防ぎやすくなる。
【0038】
(D1)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.05質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は、より優れた離型性を有しうるとともに、金属材料との密着性をより高めることができる。(D1)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.05質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
(D)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
(D)は、(D1)以外の離型剤(D2)(以下、単に「(D2)」ともいう)を更に含有してもよい。(D2)の例は、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン、モンタン酸ビスアマイド、オレイン酸アマイド、及び酸化ポリエチレンを含む。
【0041】
(D)は、天然カルナバを含まないことが好ましい。すなわち、(D2)は、天然カルナバを含まないことが好ましい。組成物(X)が天然カルナバを含有しないことで、(D)中の遊離ワックス成分が金属材料の表面に付着しにくくなるため、金属材料の表面の活性化が阻害されにくくなる。(D)が、天然カルナバを含まないとは、天然カルナバを(D)に意図的に含ませないことを意味する。なお、(D)に天然カルナバを意図的に含ませない場合でも、製造過程において他の原料等から不可避的に天然カルナバが(D)に混入することがあり得る。これは、(D)が天然カルナバを含まないと同視される。
【0042】
(D)が、(D1)及び(D2)の両方を含む場合、(D)全量に対する(D1)の含有量は、0.03質量%以上4質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物と金属材料との密着性をより高めることができる。(D)全量に対する(D1)の含有量は、0.05質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
組成物(X)は、(E1)を含む密着性付与剤(E)(以下、単に「(E)」ともいう)を含有する。(E1)は、2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸(例えばジカルボン酸)及び酸無水物のうちの少なくとも一方であるため、(E1)と金属材料の表面に存在する水酸基とが水素結合しやすくなる。これにより、金属材料と組成物(X)の硬化物との密着性が高まる。
【0044】
(E1)の例は、無水トリメリット酸、無水フタル酸、グルタル酸、コハク酸、及びフタル酸を含む。
【0045】
(E1)は、無水トリメリット酸、及びグルタル酸からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は、金属材料との特にすぐれた硬化性を有しうる。
【0046】
(E1)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.05質量%以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は、金属材料とのより優れた密着性を有しうる。(E1)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.15質量%以上であることがより好ましい。(E1)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.5質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)は、優れた硬化性を有しうる。(E1)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.3質量%以下であることが好ましい。
【0047】
(E)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.05質量%以上3質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物は、金属材料とのより優れた密着性を有する。(E)の含有量は、組成物(X)全量に対して0.15質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
(E)は、(E1)以外の密着性付与剤(E2)(以下、単に「(E2)」ともいう)を更に含有してもよい。(E2)の例は、酢酸、メラミン、4,4-ジチオジモルホリン、及び安息香酸を含む。
【0049】
(E)が、(E1)及び(E2)の両方を含む場合、(E)全量に対する(E1)の含有量は、0.03質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物と金属材料との密着性をより高めることができる。(E)全量に対する(E1)の含有量は、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
組成物(X)は上記以外の成分を必要に応じて添加剤として更に含有してもよい。
【0051】
組成物(X)は、硬化促進剤を含有してもよい。硬化促進剤の例は、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7及び1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等のシクロアミジン類;2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、及びトリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3級アミン類;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルフォスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、及びフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、及びテトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート;並びに2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート及びN-メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩を含む。硬化促進剤として、これらのうちの一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0052】
組成物(X)は、カップリング剤を含有してもよい。組成物(X)がカップリング剤を含有する場合、(C)の組成物(X)中の濡れ性を高めることができるとともに、組成物(X)の硬化物の金属材料に対する密着性をより向上することができる。カップリング剤の例は、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及びβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のグリシドキシシラン;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン;N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;アルキルシラン、ウレイドシラン、及びビニルシラン等のシランカップリング剤;チタネートカップリング剤;アルミニウムカップリング剤;並びにアルミニウム/ジルコニウムカップリング剤を含む。カップリング剤として、これらのうちの一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0053】
組成物(X)がカップリング剤を含有する場合、カップリング剤の含有量は、(C)とカップリング剤との合計量に対して、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。カップリング剤の含有量がこの範囲内である場合、組成物(X)の硬化物は、金属材料に対してより優れた密着性を有しうる。
【0054】
組成物(X)は、難燃剤を含有してもよい。難燃剤の例は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、及び赤リンを含む。難燃剤として、これらのうちの一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0055】
組成物(X)は、着色剤を含有してもよい。着色剤の例は、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン、フタロシアニン、及びペリレンブラックを含む。着色剤として、これらのうちの一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0056】
組成物(X)は、低応力化剤を含有してもよい。低応力化剤の例は、シリコーンエラストマー;シリコーンオイル;並びにアクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体及びメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体等のブタジエン系ゴムを含む。低応力化剤として、これらのうちの一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0057】
組成物(X)は、イオントラップ剤を含有してもよい。イオントラップ剤の例は、ハイドロタルサイト類化合物;並びにアルミニウム、ビスマス、チタン、およびジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素の含水酸化物を含む。イオントラップ剤として、これらのうちの一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0058】
組成物(X)は、例えば、次のようにして製造することができる。(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、及び必要に応じて添加剤を配合し、ミキサー及びブレンダー等を用いて均一になるまで混合する。その後、熱ロール及びニーダー等の混練機を用いて混合物を加熱しながら溶融混合させ、この混合物を室温に冷却した後、公知の手段により粉砕することにより組成物(X)を製造することができる。
【0059】
(E)が無水トリメリット酸を含有する場合には、(B)と無水トリメリット酸とを事前に混合溶融してから、他の成分と混合することが好ましい。無水トリメリット酸と(B)とを事前に溶融混合することで、混合物を混練する際に、無水トリメリット酸の分散性を高めることができる。
【0060】
このようにして得られた組成物(X)を用いて、トランスファーモールド及び圧縮成形等の方法で半導体素子を封止することができる。これにより、半導体素子と、半導体素子を封止する、組成物(X)の硬化物を含む封止材を有する電子部品装置を製造することができる。
【0061】
電子部品装置に用いられる半導体素子の例は、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、及び固体撮像素子を含む。また、SiC及びGaN等の新規のパワーデバイスを半導体素子として用いてもよい。
【0062】
電子部品装置のパッケージ形態は、特に限定されないが、パッケージ形態の例は、Mini、Dパック、D2パック、To220、To3P、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)等の挿入型パッケージ;並びにクワッド・フラット・パッケージ(QFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)等の表面実装型のパッケージを含む。
【0063】
電子部品装置は、半導体素子を固定するリードフレームを有することが好ましい。例えば、リードフレームのダイパッド上に、ダイボンド材硬化物を介して半導体素子を固定し、半導体素子の電極パッドとリードフレームとの間を金線等のワイヤにより電気的に接続し、半導体素子を、組成物(X)の硬化物によって封止した電子部品装置であってよい。
【0064】
リードフレームの表面の少なくとも一部がニッケルメッキ層を有することが好ましい。すなわち、リードフレームの表面の少なくとも一部にニッケルメッキが施されていることが好ましい。リードフレームの表面にニッケルメッキが施されていることで、ワイヤボンディング性をより高めることができる。また、本実施形態では、半導体素子を組成物(X)の硬化物で封止するため、表面に安定な不導体膜を形成しやすく活性化されにくいニッケルメッキ層が存在する場合でも、封止材とニッケルメッキ層との優れた密着性を実現することができるため、電子部品装置の耐湿性及び信頼性をより向上させることができる。
【0065】
本実施形態の電子部品装置は、例えば次のようにして製造することができる。半導体素子を搭載したリードフレームを金型キャビティ内に設置した後、組成物(X)を低圧トランスファ成形法、コンプレッション成形法、及びインジェクション成形法等の方法で成形硬化する。なお、組成物(X)を注入する際の注入圧力は、組成物(X)の物性や電子部品装置の種類に応じて適宜に設定することができるが、例えば4MPa以上7MPa以下であってよく、金型温度は、例えば160℃以上190℃以下であってよく、成形時間は、例えば30秒以上300秒以下であってよい。その後、金型を閉じたまま後硬化(ポストキュア)を行った後、型開きして電子部品装置(パッケージ)を取り出す。後硬化条件は、例えば160℃以上190℃以下であってよく、硬化時間は2時間以上8時間以下であってよい。これにより、電子部品装置を製造することができる。
【実施例】
【0066】
1.組成物の調製
後掲の表2及び3の「組成」の欄に示す成分を表に示す割合で混合し、ミキサーを用いて30分間混合して均一化した後、約100℃に加熱したニーダーで混練溶融させて押し出し、冷却した。その後、混合物を粉砕機で粉砕し、圧縮してタブレット化した組成物を得た。
【0067】
なお、表2及び3中に示す成分の詳細は以下の通りである。
・エポキシ化合物:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DIC株式会社製、N-665。
・フェノール化合物:フェノールノボラック樹脂、明和化成株式会社製、H-3M。
・無機充填材:結晶シリカ、フミテック株式会社製、S。
・離型剤A:長鎖脂肪酸エステル、大日化学工業株式会社製、EPL-6。
・離型剤B:モンタン酸エステル、オージー化学工業株式会社製、Licolub WE 4。
・離型剤C:天然カルナバワックス、大日化学工業株式会社製。
・密着性付与剤A:無水トリメリット酸、東京化成工業株式会社製。
・密着性付与剤B:グルタル酸、東京化成工業株式会社製。
・密着性付与剤C:酢酸、東京化成工業株式会社製。
・硬化促進剤:トリフェニルフォスフィン、北興化学工業株式会社製、TPP。
・シランカップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、KBM-403。
・顔料:カーボンブラック、三菱化学株式会社製、MA600。
【0068】
2.離型剤評価試験
実施例及び比較例で用いた離型剤A~Cについて、下記の評価試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0069】
(1)懸濁分散性
実施例及び比較例で用いたエポキシ化合物と、フェノール化合物と、離型剤A、離型剤B、及び離型剤Cのそれぞれと、を5.5:2.8:1.7の比率で配合し、150℃で15分間加熱溶融した後、十分に攪拌し、更に150℃で1時間加熱し、冷却硬化させた。得られた試料の断片を目視で観察し、離型剤の分散性を下記のように評価した。
A:懸濁状態であり、離型剤が均一に分散している。
B:離型剤が分離している。
【0070】
3.組成物評価試験
各実施例及び比較例について、次の評価試験を実施した。その結果を表2及び3に示す。
【0071】
(1)ショアD硬度
金型温度170℃、注入圧力6.9MPa、成形時間120秒の条件で組成物から50φ3mmの円板を成形し、金型から脱型10秒後の成形品のショアD硬度を、アスカーゴム硬度計D型を用いて測定した。
【0072】
(2)連続成形性(離型性)
エジェクトピンを有しない金型(30mm×30mm×1mm)を用い、金型温度175℃、注圧力9.8MPa、成形時間120秒の条件で熱時硬化させ、組成物の成形品を作製した。この成形品について、デジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製、型番:ZTA-DPU-50N)を用いて、脱型時の応力を測定した。同様の条件で成形硬化を繰り返し、脱型時の応力が30N以上、かつ3回連続になるまで成形硬化を行った。この成形回数を連続成形性として評価した。連続shot数が多いほど、離型性に優れていることを意味する。
【0073】
(3)成形品WAX汚れ
クリーニング材(パナソニック株式会社製、CV9700)を用いて金型で5shot成形を行った。その後、金型温度170℃、注入圧力6.9MPa、成形時間120秒の条件で組成物から50φ3mmの円板を、金型を用いて成形した。同様の条件で組成物の成形硬化を連続して行い、成形品にワックス成分のブリードが観察されることなく連続して成形することのできる連続shot数に応じて、成形品WAX汚れを下記のように評価した。
A:10shot連続成形してもワックス成分のブリードが観察されない。
B:8shot連続成形してもワックス成分のブリードは観察されないが、9shot以上連続成形するとワックス成分のブリードが観察される。
C:7shot連続成形してもワックス成分のブリードは観察されないが、8shot以上連続成形するとワックス成分のブリードが観察される。
【0074】
(4)ニッケルメッキ密着性
銅板(株式会社神戸製鋼所製、KFC-H)にニッケルメッキを施した基材上に、トランスファ成形により、3.6mmφの円柱状に組成物の成形品を作製した。成形後、175℃で6時間後硬化させ、得られたテストピースについて、ボンドテスターを用いてせん断密着力(円柱状成形品と基材とのシェア強度:MPa)を測定した。
【0075】
【0076】
【0077】