(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】一酸化窒素産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20230616BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230616BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20230616BHJP
A61K 125/00 20060101ALN20230616BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20230616BHJP
A61K 36/82 20060101ALN20230616BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20230616BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P43/00 111
A61P3/02
A61K125:00
A61K131:00
A61P43/00 121
A61K36/82
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2018147271
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-07-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500081990
【氏名又は名称】ビーエイチエヌ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】野崎 勉
(72)【発明者】
【氏名】石原 健夫
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265251(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105348375(CN,A)
【文献】特表2017-521482(JP,A)
【文献】特表2003-511094(JP,A)
【文献】特開2007-131609(JP,A)
【文献】特開2013-184974(JP,A)
【文献】特開2008-179592(JP,A)
【文献】特開2016-150910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A23L 31/00-31/15
A23L 33/00-33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チダケサシ属(Astilbe)に属する植物であるアカショウマの根茎の抽出物を有効成分として含有してなることを特徴とするNO(一酸化窒素)産生促進剤。(但し、チオクト酸類との併用、並びに、
皮膚の炎症抑制、美白、美肌、肌の柔軟性又は弾力性、シワの改善用途を除く。)
【請求項2】
抽出物がアカショウマの根茎の水及び/又は低級アルコールによる抽出物である請求項1に記載のNO産生促進剤。
【請求項3】
血管内皮細胞におけるNO産生促進である請求項1~2のいずれか1項に記載のNO産生促進剤。
【請求項4】
請求項1~3いずれか一項に記載のNO産生促進剤を含有してなる、
持久力を向上させ疲労を防止するためのものである経口組成物。
【請求項5】
アカショウマ根茎の抽出物を有効成分として含有せしめることを特徴とするNO産生促進剤
(但し、チオクト酸類との併用、並びに、皮膚の炎症抑制、美白、美肌、肌の柔軟性又は弾力性、シワの改善用途を除く。)の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法により得られるNO産生促進剤を配合してなる
、持久力を向上させ疲労を防止するためのものである経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の植物を原料として使用した一酸化窒素(NO)産生促進剤及びその利用に関するものである。より詳細には、ツバキ科ツバキ属に属するツバキの種子の脱脂粕の水性成分及び/又はアカショウマ等のチダケサシ属に属する植物の根茎の抽出物を有効成分として含有してなることを特徴とする血管内皮細胞でのNO産生促進剤、及び、該剤を含有してなることを特徴とする血管内皮機能を改善するための経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮は血管の拡張及び/又は収縮、血管平滑筋細胞の増殖及び/又は抗増殖、血液凝固及び/又は抗凝固、血管の炎症及び/又は抗炎症、酸化及び/又は抗酸化等の様々な作用に影響を及ぼすことが知られている。そのため、血管内皮機能の低下は、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満等の原因となる。更に、血管内皮機能の低下は、運動不足、喫煙、塩分の過剰摂取等により引き起こされるため、日常生活における血管内皮機能の維持・改善が重要である。
【0003】
NOは、NO合成酵素(NOS)によりアルギニンから産生される。NOSには、異なる3種のアイソフォームが存在し、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)及び血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)が存在する(非特許文献1)。iNOSは、カルシウム非依存性の酵素であり、炎症やストレスにより強く誘導され、主に免疫機能に関与している。iNOSによる過剰なNO産生は、敗血症や関節リウマチの原因となる。nNOSは、カルシウム依存性の酵素であり、脳においてシナプス可塑性の調節に関与している。eNOSは、カルシウム依存性の酵素であり、血管拡張に関与している。
【0004】
血管内皮細胞でのNO産生の低下は、骨格筋でのエネルギー消費を抑制し、肥満や糖尿病の進行を誘導することが報告されている(非特許文献2)。NOによる血管拡張以外の作用は、血小板凝集抑制作用、血管壁への単球・マクロファージの結合の抑制、血小板の接着・凝集の阻害による血栓形成の抑制等がある。血管内皮細胞から放出される他の血管拡張因子として、プロスタグランジンI2、内皮由来血管過分極因子等があり、血管収縮因子として、エンドセリン、アンジオテンシンII、トロンボキサンA2等の様々な生理活性物質が産生・分泌されることが明らかとなっている。これらの因子のバランスにより血管機能を調節・維持している。
【0005】
後述するツバキについては次のようなことが知られている。すなわち、ツバキは古くから観賞用園芸植物として利用されており、その種子から得られる油脂は燃料油、整髪料、高級食用油等に利用されてきた。又、木部は灰化し日本酒の醸造に利用され、実や種子の脱脂粕は農作物の肥料等に利用されてきた。実や種子の脱脂粕にはサポニンやタンニンが含まれ、この加工物を殺虫防虫剤(特許文献1)、農園芸用線虫防除剤(特許文献2)等に利用する提案がなされている。その他に、脂肪蓄積抑制作用(特許文献3)及び育毛作用(特許文献4)等が提案されている。しかしながら、ツバキの種子の脱脂粕に含まれる成分を経口的に摂取することにより、血管内皮細胞におけるNO産生を促進する知見は見当たらない。
【0006】
又、アカショウマ等のチダケサシ属に属する植物については、次のようなことが知られている。すなわち、チダケサシ属に属する植物はユキノシタ科に分類され、本発明に係るものは種々あるが、その代表例としてアカショウマ( 学名:Astilbe thunbe1rgii(SIEB.et ZUCC.)MIQ.)を挙げることができる。アカショウマは日本では本州、四国、九州各地の山地に自生する多年草で、その根茎を赤升麻とよび、升麻(キンポウゲ科のサラシナショウマ:Cimicifuga simplex WORMSKJORD等)の代用品として古来より下熱や解毒等の目的で利用されてきた。これまでに血中脂質改善剤(特許文献5)、血中コレステロール低減剤(特許文献6)、むくみ予防剤(特許文献7)、肥満抑制剤(特許文献8)等が提案されてきたが、アカショウマ等のチダケサシ属に属する植物の根茎に含まれる成分を経口的に摂取することにより、血管内皮細胞においてNO産生を促進させる報告は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第170071号明細書
【文献】特開平9-30916号公報
【文献】特許第5066725号明細書
【文献】特許第5617110号明細書
【文献】特開2003-146901号公報
【文献】特開2009-102419号公報
【文献】特開2010-001279号公報
【文献】特開2004-091464号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】松本明郎、一酸化窒素(NO)による生理機能調節とその破綻、2014年、基礎老化研究、第38巻、第11頁~第18頁
【文献】Yokoyama M等、“Inhibition of endothelial p53 improves metabolic abnormalities related to dietary obesity”(アメリカ)、2014年、Cell Rep.、第7巻、第2号、第1691頁~第1703頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かかる現状に鑑み、本発明は、血管内皮細胞でのNO産生を促進するための、安全かつ安定な新規素材を開発するとともに、これを産業上有効活用できる態様の組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明者らは、血管内皮細胞におけるNO産生を促進するための素材について鋭意検討を重ねた結果、意外にもツバキの実や種子、又、アカショウマ等のチダケサシ属に属する植物の根が極めて有効であり、これらの植物にはヒトや動物のNO産生を顕著に促進し得る成分が含まれており、これらの併用はより一層顕著に血管内皮細胞でのNO産生を促進すること、更に、これを飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の分野において有効利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、ツバキ科ツバキ属(Camellia)に属するツバキ(Camellia japonica)の種子から採取される脱脂粕の水性成分を有効成分として含有してなることを特徴とするNO産生促進剤が提供される。この水性成分は、前記脱脂粕を水及び/又は低級アルコールで抽出処理して得られる抽出物であることが望ましい。
【0012】
前記水性成分にはサポニン類が含まれており、該サポニン類はとりわけカメリアサポニン(Camelliasaponin)A1、カメリアサポニン(Camelliasaponin)A2、カメリアサポニン(Camelliasaponin)B1、カメリアサポニン(Camelliasaponin)B2、カメリアサポニン(Camelliasaponin)C1及び/又はカメリアサポニン(Camelliasaponin)C2であることがより好ましい。
【0013】
又、アカショウマ等のチダケサシ属(Astilbe)に属する植物あるいはその抽出物を有効成分として含有してなることを特徴とするNO産生促進剤が提供される。この抽出物は、アカショウマ等のチダケサシ属(Astilbe)に属する植物の根茎を水及び/又は低級アルコールで抽出処理して得られる抽出物であることが望ましい。
【0014】
前述のように処理して得られる抽出物は、量的な差はあるものの多種多様な成分を含有する複雑な組成物であり、ベルゲニン、アスチルビン、タキシフォリン、ポリフェノール類、タンニン類、各種水溶性成分(多糖、オリゴ糖、単糖、蛋白、ペプチド、アミノ酸、これらの複合体など)を含んでいる。
【0015】
本発明の前記NO産生促進剤は、血管内皮細胞においてNO産生を促進するものであることを特徴とする。
【0016】
本発明の他の特徴は、前記のNO産生促進剤を含有してなる経口組成物が提供される点にある。この経口組成物の態様は飲食品であることが望ましい。
【0017】
又、本発明によれば、前記NO産生促進剤を含有してなることを特徴とする抗疲労のための経口組成物あるいは飲食品が提供される。
【0018】
本発明のさらなる他の特徴は、ツバキ科ツバキ属に属するツバキの種子の脱脂物を水及び/又は低級アルコールで処理した水性成分、及び/又は、アカショウマ等のチダケサシ属に属する植物の根茎を水及び/又は低級アルコールで処理した抽出物を有効成分として含有せしめるNO産生促進剤の製造方法にある。
【0019】
本発明のさらなる他の特徴は、血管内皮細胞でのNO産生を促進するために前記NO産生促進剤あるいは経口組成物を経口投与又は摂取する方法にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るツバキの種子の脱脂粕から抽出された水性成分及び/又はアカショウマ等のチダケサシ属に属する植物の根茎の抽出物は、品質安定性に優れ、血管内皮細胞におけるNO産生を促進することにより、レイノー症、動脈硬化症、バージャー病、高血圧症、脳血栓、脳梗塞、心筋梗塞、充血、鬱血、出血、貧血、認知症、免疫力の低下、脱毛症、倦怠感、疲労、筋肉痛、疲れ目、むくみ、肩こり、腰痛、皮膚のかゆみ、くま、くすみ、しもやけ、凍傷、シワ、肌の弾力低下、歯周病等の血管機能の障害により引き起される症状を予防及び/又は改善する効果、及び、発毛、育毛、養毛、滋養強壮、美肌等の効果を奏する。かかる効果は、前記加工物を有効成分として含有してなるNO産生促進剤を経口的に摂取又は投与することによって顕著に発現される。したがって、本発明によれば、ツバキの種子の脱脂粕から抽出された水性成分及び/又はアカショウマ等のチダケサシ属に属する植物の根茎の抽出物を有効成分として含有してなる経口用組成物が提供され、これを血管内皮細胞でのNO産生の低下により引き起こされる諸症状を予防及び/又は改善するための飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等として有効利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を詳細に説明する。まず、本発明のNO産生促進剤は、ヒトや動物の血管内皮細胞でのNO産生を促進する機能を有するものであり、ツバキ科(Theaceae)のツバキ属(Camellia)に属するツバキ(Camellia japonica)の種子から得られる脱脂粕の水性成分及び/又はアカショウマ等のチダケサシ属(Astilbe)に属する植物の根茎の抽出物を有効成分として含有してなることを特徴とする。
【0022】
ツバキ属に属する植物として、一般に、ツバキ節に属するツバキ(Camellia japonica)等、チャ節に属するチャ(C.sinensis)等、サザンカ節に属するサザンカ(C.sasanqua)等、カワリバツバキ節に属するグランサムツバキ(C.granthamiana)等、ヤナギバサザンカ節に属するヤナギバサザンカ(C.salicifolia)等、ヒメサザンカ節に属するヒメサザンカ(C.lutchuensis)等が知られているが、本発明ではツバキ節に属するものを用いる。この例としてヤブツバキ(C.japonica var.japonica)、ユキツバキ(C.japonica subsp.rusticana)、リンゴツバキ(C.japonica var.macrocarpa)、ホウザンツバキ(C.japonica subsp.hozanensis)、ホンコンツバキ(C.hongkongenesis)、トウツバキ(C.reticulata)、サルウィンツバキ(C.saluenensis)、ピタールツバキのピタルディー種(C.pitardii var.pitardii)及びユンナン種(C.pitardii var.yunnanica)、金花茶(C.nitidissima)、ヤマツバキ(ヤブツバキと同種)、山茶花(ヤブツバキと同種)、ヤクシマツバキ(リンゴツバキと同種)等を挙げることができる。これらのツバキは日本列島、中国山東半島、朝鮮半島等で自生し又は栽培されているものを適宜に利用すればよい。
【0023】
本発明では、前記のツバキの種子を圧搾処理、ヘキサンやヘプタン等の疎水性有機溶媒又は液化二酸化炭素、液化プロパン等の液化ガスを用いた超臨界抽出処理等に供して、常法により油分を抽出した残渣である脱脂物を、前記水性成分を採取するための原料とすることが望ましい。ここで、ツバキの種子は早熟実及び成熟実のいずれから採取されるものでもよく、これらの種子を含む実全体を用いてもよいが、脱脂物及び有効成分の収量の点から成熟実又はその種子を用いることが望ましい。より好ましくは成熟ないしは完熟した種子を用いる。本発明では、成熟実から得られる種子を1~2週間程度、天日等で乾燥させたものを用いるのがよい。
【0024】
前記脱脂粕の水性成分は任意の方法で製造することができるが、水及び/又は低級アルコールを用いて抽出処理するのが好ましい。低級アルコールは、その炭素数が大きくなると脱脂粕中の油性物質が抽出される傾向が大きくなるため、炭素数が5程度までのものが望ましく、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール等を例示できる。炭素数が大きい低級アルコールを使用する場合は、脱脂粕中の油性成分の抽出を抑制するために含水率を高めるのがよい。例えば、n-プロパノールの場合の含水率は約20質量%~約50質量%とし、n-ブタノールの場合の含水率は約40質量%~約70質量%とする。望ましい抽出溶媒は水、メタノール及びエタノール、及び、これらの含水アルコール(含水率:0~100質量%)である。
【0025】
脱脂粕を抽出するには、脱脂粕1質量部に対して前記抽出溶媒を約1質量倍~約30質量倍加え、常圧下又は1~5気圧の加圧下、常温ないしは約120℃で、約10分~約3時間、必要に応じて撹拌して混合後、常温に冷却して濾過し、濾液を減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の適当な手段により濃縮、乾燥する。尚、乾燥物は適宜に粉砕処理してもよい。このようにして本発明に係る脱脂粕の水性成分である淡黄色ないし黄赤色の固体を得ることができる。前記抽出方法は、一旦抽出処理した抽出残渣を繰り返し抽出処理したり、1~3気圧の加圧下、約100℃~約130℃で行うことが望ましい。これにより本発明に係る水性成分の収量が増える。この水性成分はサポニン、タンニン等の多種成分を含む。
【0026】
水性成分に含まれるサポニンとして、3β-[2-O-β-D-ガラクトピラノシル-3-O-(2-O-β-D-グルコピラノシル-α-L-アラビノピラノシル)-β-D-グルコピラヌロノシルオキシ]オレアナ-12-エン-16α,22α,28-トリオール22-[(Z)-2-メチル-2-ブテノアート]であるカメリアサポニン(Camelliasaponin)A1、3β-[2-O-β-D-ガラクトピラノシル-3-O-(2-O-β-D-グルコピラノシル-α-L-アラビノピラノシル)-β-D-グルコピラヌロノシルオキシ)オレアナ-12-エン-16α,22α,28-トリオール22-[(E)-2-メチル-2-ブテノアート]であるカメリアサポニン(Camelliasaponin)A2、3β-[2-O-β-D-ガラクトピラノシル-3-O-(2-O-β-D-グルコピラノシル-α-L-アラビノピラノシル)-β-D-グルコピラヌロノシルオキシ)-16α,28-ジヒドロキシ-22α-[[(Z)-2-メチル-2-プテノイル]オキシ]オレアナ-12-エン-23-アールであるカメリアサポニン(Camelliasaponin)B1、3β-[[2-O-β-D-ガラクトピラノシル-3-O-(2-O-β-D-グルコピラノシル-α-L-アラビノピラノシル)-β-D-グルコピラヌロノシル)オキシ]-16α,28-ジヒドロキシ-22α-[[(E)-2-メチル-2-ブテノイル]オキシ]オレアナ-12-エン-23-アールであるカメリアサポニン(Camelliasaponin)B2、3β-[2-O-β-D-ガラクトピラノシル-3-O-(2-O-β-D-グルコピラノシル-α-L-アラビノピラノシル)-β-D-グルコピラヌロノシルオキシ]オレアナ-12-エン-16α,22α,23,28-テトラオール22-[(Z)-2-メチル-2-ブテノアート]であるカメリアサポニン(Camelliasaponin)C1、及び、3β-[2-O-β-D-ガラクトピラノシル-3-O-(2-O-β-D-グルコピラノシル-α-L-アラビノピラノシル)-β-D-グルコピラヌロノシルオキシ]オレアナ-12-エン-16α,22α,23,28-テトラオール22-[(E)-2-メチル-2-ブテノアート]であるカメリアサポニン(Camelliasaponin)C2等を例示することができ、これらのサポニンはツバキに特異的に含まれている。
【0027】
一方、アカショウマ等のチダケサシ属に属する植物は、生の植物体あるいはその乾燥物を使用することができるが、その部位は根あるいは根茎が望ましく、根茎を含む根全体でもよく、その態様は根あるいは根茎に乾燥、細断あるいは粉砕等の加工処理を適宜に施したものが望ましい。
【0028】
チダケサシ属に属する植物として、アカショウマ(Astilbe thunbergii(SIEB.et ZUCC.)Miq.)、トリアシショウマ(A.thunbergii(SIEB.et ZUCC.)MIQ.var.congesta BOISS.(=A.odontophylla MIQ.))、アワモリショウマ(A.japonica(MORR.et DECNE.)A.GRAY)、チダケサシ(A.microphylla KNOLL)等を例示することができる。本発明においてはアカショウマ、トリアシショウマが好適であり、望ましくはアカショウマである。
【0029】
前記抽出処理にあたって、抽出溶媒としては水、親水性有機溶剤又はこれらの混合溶剤を用いるのがよい。親水性有機溶剤としてメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級一価アルコール類、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、グリセリン等の多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、エーテル、石油エーテル、酢酸エチル及びこれらの含水物や混合物を例示することができる。本発明の所望の効果を奏するための抽出物(エキス)を効率的に得るには、エタノール、アセトン、及びこれらの含水物を抽出用溶媒とすることが望ましい。なお、該含水物の水分含量は、例えば、エタノールの場合では1~99質量%、より好ましくは10~50質量%であり、アセトンの場合には1~50質量%、より好ましくは10~30質量%である。これらの範囲を外れると本発明の所望の効果が減少し又は抽出物(エキス)の収量が低下する。又、以下に述べる精製物を簡便かつ効率的に得るには、例えば、含水エタノール又は含水アセトンで抽出し、該抽出物(エキス)を採取するのがよい。
【0030】
抽出処理は前記原料に対して1~100質量倍程度の抽出溶媒を加え、常圧もしくは加圧下、常温又は加熱状態で、適宜に攪拌して10分~数日間抽出処理する。ついで不溶物を濾過又は遠心分離して除き本発明に係るエキス液を得ることができ、さらに該エキス液から減圧蒸留、噴霧乾燥、凍結乾燥等の公知の手段で溶媒を除去することによって本発明に係る抽出物(エキス)を得ることができる。又、前記抽出物を常法により、吸着剤(シリカゲル、ケイ酸マグネシウム、イオン交換樹脂、活性アルミナ、セルロース、活性炭等)による分画、溶剤分別、これらの組み合わせ等の公知の精製処理に供することによって精製物を得ることができる。本発明ではいずれの処理物も使用することができるが、後述する用途の利便性や本発明の効果の点から前記の抽出物あるいはその精製物が望ましい。
【0031】
前述のように処理して得られる生成物は、量的な差はあるものの多種多様な成分を含有する複雑な組成物であり、ベルゲニン、アスチルビン、タキシフォリン、ポリフェノール類、タンニン類、各種水溶性成分(多糖、オリゴ糖、単糖、蛋白、ペプチド、アミノ酸、これらの複合体等)を含んでいる。
【0032】
本発明のNO産生促進剤において、ツバキ由来の前記水性成分とアカショウマ等のチダケサシ属の植物に由来する前記抽出物を併用すると、血管内皮細胞でのNO産生促進作用がさらに顕著に発現する。この場合のNO産生促進剤における、両原料の配合比率は、所望の効果を奏するための使用目的と用途、製造コスト等により適宜に変動させることができる。ツバキ由来の前記水性成分とチダケサシ属植物由来の前記抽出物との好適な配合比率は、概ね20:1~1:20であり、望ましくは約10:1~約1:10である。
【0033】
本発明のNO産生促進剤は、その有効成分としての前記水性成分及び/又は前記抽出物を固体状、ペースト状又は液体状の形態となし、これをそのままNO産生促進剤としてよいが、必要に応じて本発明のNO産生促進剤が利用される用途における公知の添加物を併用して、常法により含有せしめて組成物として調製することもできる。ここで、公知の添加物は経口摂取するために通常利用されるものが望ましく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤剤、流動化剤、保存剤、界面活性剤、安定剤、希釈剤、溶解剤、等張化剤、殺菌剤、防腐剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤、香料等の添加物質を使用でき、又、NO産生促進効果を有する既知成分やその含有素材を併用してもよい。
【0034】
血管内皮細胞でのNO産生促進作用が既知の成分や素材としては、前記のもののほか黒酢、グルタチオン、イチョウ葉エキス、ヘスペリジン、シトルリン、ショウガ、黒ショウガ、ヒハツ、ブドウ茎抽出物、ブドウ果皮抽出物、トランスレスベラトロール、リンゴ果皮抽出物、ルチン、黒大豆ポリフェノール、ココアポリフェノール、ピクノジェノール、フラバンジェノール、ケイヒ、高麗人参、卵白ペプチド、鶏や豚又は魚由来のコラーゲンペプチド等を例示できる。尚、本発明はこれらの例示によって何ら限定されるものではない。
【0035】
本発明においては、前述したNO産生促進剤をそのままの形態で飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、その他産業分野の様々な製品として利用することができ、あるいは該各種製品の配合原料の一部として使用する態様でも利用できる。とりわけNO産生を促進するための経口組成物となすことが好ましく、この経口組成物の最も好適な態様は飲食品である。この例を以下に述べるが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0036】
本発明のNO産生促進剤を経口組成物とする場合の形態は、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤等の経口用製剤となすことが可能である。かかる製剤組成物における前記のツバキ由来水性成分やチダケサシ属植物由来抽出物の含有量は、併用原料の種類や含有量等により一律に規定し難いが、各々概ね0.001質量%~90質量%程度、より望ましくは約0.01質量%~約70質量%である。前記含有量が約0.001質量%を下回ると本発明の所望効果が認められなくなり、約90質量%を超えると実用的な製剤組成物を調製することが難しくなる。本発明のNO産生促進剤は、これを望ましくは経口的に摂取又は投与する態様で使用する。経口摂取又は投与する場合の本発明のNO産生促進剤の好適な量の目安は、該剤に含まれる前記水性成分ベースあるいは前記抽出物ベースで、ヒト成人1日あたり約10mg~約1,000mg、望ましくは約30mg~約500mg、更に望ましくは約50mg~約300mgである。
【0037】
本発明のNO産生促進剤は、これ自体を飲食品、医薬品、飼料その他産業分野の様々な形態の製品とすることができ、あるいは、かかる製品の配合原料の一部とする態様でも利用することができる。実用的な用途としては飲食品がよい。
【0038】
飲食品の具体例として、野菜ジュース、果汁飲料、清涼飲料、茶等の飲料類、即席麺、スープ、ゼリー、プリン、ヨーグルト、ケーキプレミックス製品、菓子類、ふりかけ、味噌、醤油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、植物性クリーム、焼肉用たれや麺つゆ等の調味料、麺類、うどん、蕎麦、スパゲッティ、ハムやソーセージ等の畜肉魚肉加工食品、ハンバーグ、コロッケ、ふりかけ、佃煮、ジャム、牛乳、クリーム、バター、スプレッドやチーズ等の粉末状、固形状又は液状の乳製品、マーガリン、パン、ケーキ、クッキー、チョコレート、キャンディー、グミ、ガム、ゼリー等の各種一般加工食品のほか、粉末状、顆粒状、丸剤状、錠剤状、ソフトカプセル状、ハードカプセル状、ペースト状又は液体状の栄養補助食品、特定保健用食品、機能性食品、健康食品、濃厚流動食や嚥下障害用食品の治療食等を挙げることができる。
【0039】
尚、本発明の飲食品においては、これがツバキ科(Theaceae)のツバキ属(Camellia)に属するツバキ(Camellia japonica)の種子の水性成分及び/又はアカショウマ等のチダケサシ属(Astilbe)に属する植物の根茎の抽出物を有効成分として含有してなる旨、血管内皮細胞でのNO産生を促進するためのものである旨のうち少なくとも1つの表示を付した態様とすることができる。
【0040】
これらの飲食品を製造するには、本発明のNO産生促進剤と公知の原材料を用い、あるいは公知の原材料の一部を前記のNO産生促進剤で置き換え、常法によって製造すればよい。例えば、本発明のNO産生促進剤を、必要に応じてグルコース(ブドウ糖)、デキストリン、乳糖、澱粉又はその加工物、セルロース粉末等の賦形剤、ビタミン、ミネラル、動植物や魚介類の油脂、たん白(動植物や酵母由来の蛋白質、その加水分解物等を含む)、糖質、色素、香料、酸化防止剤、界面活性剤、その他の食用添加物、各種栄養機能成分を含む粉末やエキス類等の食用素材とともに混合して粉末、顆粒、ペレット、錠剤等の形状に加工したり、常法により前記例の一般加工食品に加工処理したり、これらを混合した液状物をゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等の被覆剤で被覆してカプセルに成形したり、飲料(ドリンク類)の形態に加工して、栄養補助食品や健康食品として利用することは好適である。とりわけ錠剤、カプセル剤やドリンク剤が望ましい。
【0041】
かかる飲食品に配合する本発明のNO産生促進剤の比率は、飲食品の形態、本発明のNO産生促進剤中の前記水性成分(ツバキ科ツバキ属ツバキの種子の水性成分)及び/又は前記抽出物(アカショウマ等のチダケサシ属に属する植物の根茎の抽出物)の含量、他の配合原料の種類や成分や配合量等のちがいにより一律に規定しがたいが、飲食品中の前記水性成分及び/又は前記抽出物の含量が約0.01質量%~約90質量%、より望ましくは約1質量%~約50質量%となるように、本発明のNO産生促進剤をその他の飲食品製造用公知原料と適宜に組み合わせて処方を設計し、常法に従い目的とする飲食品を調製すればよい。本発明の飲食品は、ヒト成人の場合1日あたりの前記水性成分の摂取量の目安を約10mg~約1,000mg、望ましくは約30mg~約500mg、更に望ましくは約50mg~約300mgとして任意の方法、例えば、食事の摂取と同時又は前後に、経口摂取、経管投与等の方法で体内に取り込むことができる。
【0042】
本発明のNO産生促進剤を用いる医薬品は、前記のNO産生促進剤に本発明の趣旨に反しない公知の賦形剤や添加物を適宜に加え、常法により加工して錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等の製剤となすことができる。経口あるいは経腸投与して、NO産生の促進あるいは前記諸症状の予防又は治療のために適用する。本発明のNO産生促進剤の配合量はその形態や前記医薬製剤の種類、形態、用法及び用量等により一律に設定し難いが、前記水性成分及び/又は前記抽出物の含量として概ね0.001質量%~50質量%である。経口投与する場合の摂取量はとくに限定されるものではないが、例えば、前記水性成分をベースにして、ヒト成人1日あたり約0.1mg~約1,000mg、望ましくは約1mg~約500mg、更に望ましくは約10mg~約300mgである。
【0043】
又、本発明のNO産生促進剤をペットフードや家畜用飼料に適用するには、前記飲食品の場合と同様に、公知の各種飼料や飲用水に配合したり、公知の原材料、添加物とともに錠剤状、顆粒状、カプセル状等の製剤形態のものに加工することができる。これらの場合、本発明のNO産生促進剤の配合量及び摂取量は、前記水性成分の含量として約0.01質量%~約90質量%、より望ましくは約1質量%~約50質量%であり、1日あたりの摂取量の目安は、前記水性成分を基準として、適用動物の体重(kg)あたり約0.1mg~約100mg、より望ましくは約0.5mg~約50mgである。
【実施例】
【0044】
製造例1
長崎県五島産ヤブツバキ(C.japonica var.japonica)の乾燥種子を粗粉砕して蒸煮後、圧搾して圧搾油を分離した圧搾粕を得、次いで圧搾粕にノルマルヘキサンを加えて常法により抽出処理し、抽出液を分離して抽出粕を採取した。この抽出粕をノルマルヘキサンで洗浄して油分を取り除き脱脂物を採取した。この脱脂物100gに水300mLを加え、常圧下、85℃に加熱して1時間適宜に撹拌した後、室温まで冷却し、濾過して濾液を分離した。この濾過残渣に再度水200mLを加えて同様に加熱、攪拌、冷却後、濾過して濾液を採取した。両濾液を合わせて減圧下に濃縮し、凍結乾燥及び粉砕して、本発明に係る水性成分を含む粉末(試料T-1とする)16.4gを得た。この粉末は、これを加水分解してHPLC分析したところ、サポニンのアグリコンであるサポゲニンを16.8%、フラボノールの一種であるケンフェロールを2.1%含むものであった。
【0045】
製造例2
屋久島産ヤクシマツバキ(C.japonica var.macrocarpa)の乾燥種子を製造例1に記載の方法で脱脂して脱脂物を採取した。この脱脂物100gに水300mLを加え、2気圧の加圧下、120℃で25分間加熱した後、室温まで冷却し、濾過して濾液を分離した。この濾過残渣に再度水200mLを加えて同様に加熱、攪拌、冷却後、濾過して濾液を採取した。両濾液を合わせて減圧下に濃縮し、凍結乾燥及び粉砕して、本発明に係る水性成分を含む粉末(試料T-2とする)16.9gを得た。該粉末を製造例1と同様に加水分解してHPLC分析した結果、サポゲニン含量は15.1%であり、ケンフェロール含量は2.5%であった。
【0046】
製造例3
製造例1に記載の方法で得た脱脂物100gに含水エタノール(含水率50%)250mLを加え、80℃で1時間加熱還流した後、室温まで冷却し、濾過して濾液を分離した。この濾過残渣に再度含水エタノール(含水率50%)200mLを加えて同様に加熱し、冷却後、濾過して濾液を採取した。両濾液を合わせて減圧下に濃縮し、凍結乾燥及び粉砕して、本発明に係る水性成分を含む粉末(試料T-3とする)12.3gを得た。該粉末を製造例1と同様に加水分解してHPLC分析した結果、サポゲニン含量は12.5%であり、ケンフェロール含量は2.7%であった。
【0047】
製造例4
製造例1に記載の方法で得た脱脂物100gにエタノール(純度99.5%)200mLを加え、80℃で1時間加熱還流した後、室温まで冷却し、濾過して濾液を分離した。この濾過残渣に再度エタノール(純度99.5%)200mLを加えて同様に加熱し、冷却後、濾過して濾液を採取した。両濾液を合わせて減圧下に濃縮し、凍結乾燥及び粉砕して、本発明に係る水性成分を含む粉末(試料T-4とする)4.3gを得た。該粉末を製造例1と同様に加水分解してHPLC分析した結果、サポゲニン含量は14.0%であり、ケンフェロール含量は2.5%であった。
【0048】
製造例5
製造例1において、乾燥種子を未熟実(種子を含む実全体)におきかえること以外は同様に処理して、脱脂粕を得た後、これから水性成分を含む粉末(試料T-5とする)12.8gを得た。該粉末を製造例1と同様に加水分解してHPLC分析した結果、サポゲニン含量は13.2%であり、ケンフェロール含量は2.4%であった。
【0049】
製造例6
アカショウマ(Astilbe thunbergii(SIEB.etZUCC.)MIQ.)の根茎を水洗し、長さ1~2cm、幅3~5mmにみじん切りした後、天日干しで乾燥してアカショウマ乾燥物を調製した。このアカショウマ乾燥物1Kgをステンレス製抽出釜に仕込み、含水率45%の含水エタノール9Lを加え、適宜に撹拌しながら70℃で6時間抽出処理した。この後、不溶の残渣を濾別してエキス液を採取し、該エキス液を減圧濃縮、凍結乾燥及び粉砕処理に供して赤褐色のエキス末(試料A-1)を得た。
【0050】
製造例7
製造例1で調製したアカショウマ乾燥物1Kgをステンレス製抽出釜に仕込み、水9Lを加え、適宜に撹拌しながら70℃で6時間抽出処理した。この後、不溶の残渣を濾別してエキス液を採取し、該エキス液を減圧濃縮、凍結乾燥及び粉砕処理に供して赤褐色のエキス末(試料A-2)を得た。
【0051】
製造例8
製造例1で調製したアカショウマ乾燥物1Kgをステンレス製抽出釜に仕込み、エタノール9Lを加え、適宜に撹拌しながら70℃で6時間抽出処理した。この後、不溶の残渣を濾別してエキス液を採取し、該エキス液を減圧濃縮、凍結乾燥及び粉砕処理に供して薄い赤褐色のエキス末(試料A-3)を得た。
【0052】
試験例
前記製造例で得た各試料のNO産生促進作用について以下に述べる方法で調べた。
【0053】
試験例1:ツバキ種子由来水性成分及びアカショウマ根茎由来抽出物によるウシ大動脈内皮細胞(BAEC)のNO産生促進作用
動物細胞でのNO産生促進作用を調べるため、BAECを使用した。BAECを96Wellプレートに1×104個/Wellずつ播種し、37℃で1日間培養した。その後、NO検出用蛍光プローブであるDAF-FM DAを細胞に取り込ませ、試料T-1又は試料A-1を10、25、50、100μg/mLで添加し、37℃で24時間インキュベートした。又、これらを10:1~1:10の割合で組み合わせた試料も10μg/mLで添加して同様に処理した。培養終了後、励起波長:490nm、蛍光波長:520nmの蛍光強度を測定し、試料無添加の場合のNO産生量を1としたときの相対値(活性)として、平均値±標準偏差(n=3)で表わした(表1)。
【0054】
この結果を表1に示す。表1のデータから、本発明に係るツバキ種子由来水性成分及びアカショウマ根茎由来抽出物は濃度依存的にウシ大動脈内皮細胞のNO産生促進作用を有することを確認した。更に、これらを10:1~1:10の割合で混合した混合物も、各試料を単独で添加した場合と比較してより強いNO産生促進作用を有することを確認した。
【0055】
【0056】
試験例2:ツバキ(種子、実)由来水性成分及びアカショウマ根茎由来抽出物によるウシ大動脈内皮細胞(BAEC)のNO産生促進作用
試験例1と同様にBAECを培養した後、NO検出用蛍光プローブであるDAF-FM DAを細胞に取り込ませた。試料T-1~試料5又は試料A-1~試料A-3を50μg/mLで添加し、37℃で24時間インキュベートした。培養終了後、励起波長:490nm、蛍光波長:520nmの蛍光強度を測定し、試料無添加の場合のNO産生量を1としたときの相対値(活性)として、平均値±標準偏差(n=3)で表わした(表2)。
【0057】
この結果を表2に示す。表2のデータから、本発明に係るツバキの種子と実から得られる各脱脂物の水性成分はいずれもウシ大動脈内皮細胞の強いNO産生促進作用を発現することを確認した。又、抽出溶媒が異なっても同様のNO産生促進作用を有することを確認した。アカショウマ根茎由来抽出物によるNO産生促進作用は、ツバキ由来水性成分と比べて小さかった。
【0058】
【0059】
試験例3:ツバキ種子由来水性成分及びアカショウマ根茎由来抽出物によるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のNO産生促進作用
ヒト細胞でのNO産生促進作用を調べるため、HUVECを用いた。HUVECを96Wellプレートに1×104個/Wellずつ播種し、37℃で1日間培養した。その後、NO検出用蛍光プローブであるDAF-FM DAを細胞に取り込ませ、試料T-1又は試料A-1を25、50、100μg/mLで添加し、37℃で24時間インキュベートした。又、これらを10:1~1:10の割合で混合した試料も25μg/mLで添加して同様処理した。培養終了後、励起波長:490nm、蛍光波長:520nmの蛍光強度を測定し、試料無添加の場合のNO産生量を1としたときの相対値(活性)として、平均値±標準偏差(n=3)で表わした(表3)。
【0060】
この結果を表3に示す。表3のデータから、本発明に係るツバキ種子由来水性成分及びアカショウマ根茎由来抽出物はヒト臍帯静脈内皮細胞においても濃度依存的にNO産生促進作用を有することを確認した。これらを10:1~1:10の割合で混合した混合物も又、各単独を添加した場合と比較してより強いNO産生促進作用を有することを確認した。
【0061】
【0062】
試験例4:他の植物由来抽出物によるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のNO産生促進作用
本試験において、本発明のツバキ由来水性成分と比較するNO産生促進物として、ヒハツエキスパウダー(Tie2ヒハツエキスパウダーMF、丸善製薬社製)(比較試料1とする。)、ポリフェノール抽出物(リンゴ及びブドウ由来)(Vinitrox J、ネキシラ社製)(比較試料2とする。)、ヘスペリジン(αGヘスペリジンPA-T、東洋精糖社製)(比較試料3とする。)及び大豆サポニン(サポニン,大豆由来、富士フィルム和光純薬社製)(比較試料4とする。)を用いた。大豆サポニンはサポゲニンとして8μg/mL(試料T-1 50μg/mLと同量のサポゲニン量)を添加した。NO産生量の測定は試験例3と同様の方法を用いて行い、試料を添加しない場合のNO産生量を1としたときの相対値(活性)として、平均値±標準偏差(n=3)で表わした(表4)。
【0063】
この結果を表4に示す。表4のデータから、本発明に係るツバキ種子の脱脂物はヒト臍帯静脈内皮細胞において他のNO産生促進剤よりも顕著なNO産生促進作用を有することを確認した。
【0064】
【0065】
試験例5:マウスにおけるNO産生促進試験及び抗疲労試験NO産生促進作用及び抗疲労作用を以下の方法で調べた。すなわち、6週齢ddy系雄マウス(三協ラボサービス株式会社)を1週間予備飼育した後、1群4匹とし、蒸留水を投与する対照群、試料T-1投与群、試料A-1投与群、及び、これらを1:1の割合で混合した試料投与群に群分けした。共通飼料(日本クレア株式会社製、商品名CE-2)を自由摂取させて、それぞれの試料200mg/kg体重/日を毎日経口投与し、全てのマウスに1週間3回の遊泳運動を実施させて4週間飼育した。飼育2週目にマウスの尾に2gの錘をつけ、水槽で遊泳させ、疲労困憊してマウスの頭頂部が水面下に沈み込むような遊泳運動が継続不能になるまでの時間(限界遊泳時間)を測定した。また、飼育終了後にマウスの血液を採取し、遠心分離して得た血漿中のNOをNO2/NO3 Assay Kit-C2(Colorimetric)~Griess Reagent Kit~(同仁化学研究所製)を用いて測定した。血中NO濃度は対照群の値を100としたときの相対値として、平均値±標準偏差で表わした(表5)。
【0066】
この結果を表5に示す。表5のデータから、本発明に係るツバキ種子由来水性成分及びアカショウマ根茎由来抽出物は血中のNO濃度を顕著に増加させること及び限界遊泳時間も著しく延長することを確認した。更に、これらを1:1の割合で混合した混合物の場合は、各単独での摂取と比較してより一層強い血中のNO増強作用及び限界遊泳時間の延長作用を有することを確認した。
【0067】
【0068】
試験例6:ヒトにおける抗疲労試験
試験に参加することに同意が得られた、日常的に運動を行う健常男性50名(21歳~28歳、平均年齢:22.8歳)を、1群10名で4群に分け、それぞれの群に各試料200mgを充填したゼラチンカプセルを1日1カプセル摂取してもらい、これを4週間続けた。被験者は、普段の生活通りに運動も継続的に実施し、疲労の評価として、Visual Analog Scale(VAS)アンケートを実施した。なお、本試験は、プラ
セボ(マルトデキストリン)、前記の試料T-1、試料A-1及び、これらを1:1の割合で混合した試料で行った。データは、平均値±標準偏差で表わした(表6)。
【0069】
この結果を表6に示す。表6のデータから、本発明に係るツバキ種子由来水性成分及びアカショウマ根茎由来抽出物は、疲労感を低減させることが明らかとなった。更に、これらを1:1の割合で混合した混合物は、混合前の以下の試料を単独摂取した場合と比較してより強い抗疲労効果を有することを確認した。
【0070】
【0071】
試作例1
本発明のNO産生促進剤としての試料T-1~5、試料A-1~3又は試料T-1/試料A-1(1/1)混合物のいずれか1種をカプセル充填機に供して、常法により1粒あたり内容量が200mgのゼラチン被覆ハードカプセル製剤を試作した。その他の試料についても同様に処理して5種類のゼラチン被覆ハードカプセル製剤を試作した。これらのカプセル製剤は経口摂取が可能な栄養補助食品、医薬品等として使用することができる。
【0072】
試作例2
本発明のNO産生促進剤として試料T-1、試料A-2又は試料T-1/試料A-2(2/1)混合物:150部(質量基準。以下同様)、ミツロウ:40部及び月見草油(英国エファモール社製):80部を約50℃に加熱混合して均質にした後、カプセル充填機に供して、常法により1粒あたり内容量が200mgのゼラチン被覆ソフトカプセル製剤を試作した。これらのカプセル製剤は経口摂取可能な栄養補助食品として使用することができる。
【0073】
試作例3
本発明のNO産生促進剤として試料T-3、試料A-1又は試料T-3/試料A-1(2/1)混合物:30部、緑茶抽出物(ビーエイチエヌ(株)製):0.5部、コーンスターチ(日本コーンスターチ(株)製):105部、リン酸三カルシウム(米山化学工業(株)製):50部及びリボフラビン(DSMニュートリション・ジャパン(株)製):7部を混合機に仕込み、10分間攪拌混合した。この混合物を直打式打錠機に供して直径7mm、高さ4mm、質量150mg/個の素錠を作成し、ついでコーティング機でシェラック被膜を形成させて錠剤形状の食品を試作した。
【0074】
試作例4
市販の栄養ドリンク100mLに本発明のNO産生促進剤として試料T-3、試料A-2又は試料T-1/試料A-2(1/2)混合物:200mg加えて十分に混合し飲料を試作した。これは冷蔵庫で1年間保存しても外観及び風味に異状及び違和感は認められなかった。尚、本品は、血管内皮細胞でのNO産生促進、持久力の向上、疲労防止のために使用することができる。
【0075】
試作例5
即席麺の製造工程において、公知の原料に本発明のNO産生促進剤として試料T-1、試料A-1又は試料T-2/試料A-2(1/1)混合物を300mg加えて即席麺を試作した。これは常温で6ヵ月間保存しても外観及び風味に異状及び違和感は認められなかった。尚、本品は、血管内皮細胞でのNO産生促進、持久力の向上、疲労防止のために使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の、ツバキ科ツバキ属に属するツバキの種子の脱脂粕の水性成分及び/又はアカショウマ等のチダケサシ属に属する植物の根茎の抽出物を有効成分として含有してなるNO産生促進剤は、これを経口摂取することにより血管内皮細胞でのNO産生を促進する作用を有するため、NO産生の促進及び/又は血管内皮細胞でのNO産生の低下に起因する症状を改善するための飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等に有効利用することができる。