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特許7296662治療薬を含有する生体適合性ポリマーコーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】治療薬を含有する生体適合性ポリマーコーティング
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/34 20060101AFI20230616BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230616BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20230616BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20230616BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20230616BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L27/54
A61L29/08 100
A61L29/16
A61L31/10
A61L31/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021547717
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 US2020018286
(87)【国際公開番号】W WO2020168188
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】62/806,336
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520514562
【氏名又は名称】アキュイティー ポリマーズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボナフィニ、ジェイムズ、エイ.、ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】フェラー、ウェイン、トーマス
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/014698(WO,A1)
【文献】特表2008-500104(JP,A)
【文献】特表2019-501270(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0088259(US,A1)
【文献】特表2016-526060(JP,A)
【文献】Transactions of the Materials Research Society of Japan,2011年,Vol.36, No.4,pp.573-576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性ポリマーコーティングを調製する方法であって、
a)i)メタクリル酸(MAA);
ii)メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC);並びに
iii)ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリラート(PEGMA)、及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラート(MAPEG)からなる一覧から選択される、少なくとも1つのメタクリラート
を接触及び反応させることにより、ポリマー水溶液であって、モノマー原料ii)およびiii)の重量全体を100重量%とした場合のMPCの重量%が少なくとも60%であり、残りの重量%がHEMA、PEGMA、及びMAPEGのうちの1つまたは複数であるポリマー水溶液を調製することと、
b)このポリマー水溶液内の反応生成物をアセトンの付加によって沈殿させて、透明な固体ポリマー材料を製造することと、
c)この透明固体ポリマー材料をアルコール又は水に溶解させて、精製されたポリマー溶液を製造することと、
d)ポリアジリジンカップリング剤水溶液を調製することと、
e)前記の精製されたポリマー溶液と、前記ポリアジリジンカップリング剤溶液を混合し、前記生体適合性ポリマーコーティングを形成することと、
を含む、方法。
【請求項2】
生体適合性ポリマーコーティングを基材表面に塗布する方法であって、前記方法が、
A)請求項1に記載の方法に従って、前記生体適合性ポリマーコーティングを調製することと、
B)前記コーティングの溶液を前記基材表面と接触及び反応させ、前記生体適合性ポリマーコーティングで前記表面をコーティングすることと、
を含む、方法。
【請求項3】
C)前記混合工程前に第1シリンジ中に前記の精製されたポリマー溶液を充填することと、
D)前記混合工程前に第2シリンジ中に前記ポリアジリジンカップリング剤溶液を充填することと、
を更に含み、
前記混合工程が、前記第1シリンジから第1の体積の精製されたポリマー溶液を分注することと、前記第2シリンジから第2の体積のポリアジリジンカップリング剤溶液を分注することと、を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1シリンジ及び前記第2シリンジが、デュアルカートリッジのシリンジを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の体積が前記第2の体積と同じである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
治療薬溶液が、工程A)及び工程B)のうち少なくとも1つの間に更に加えられる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
C)前記基材表面を前処理し、ポリアジリジンカップリング剤水溶液及び/又はコーティング溶液と反応させるために前記基材表面を官能化することを更に含み、工程C)は工程B)の前に行われる、
請求項2に記載の方法。
【請求項8】
生体適合性ポリマーコーティングを基材表面に塗布する方法であって、前記方法が、
a)i)メタクリル酸(MAA);
ii)メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC);並びに
iii)ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリラート(PEGMA)、及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラート(MAPEG)からなる一覧から選択される、少なくとも1つのメタクリラート
を接触及び反応させることにより、ポリマー水溶液であって、モノマー原料ii)およびiii)の重量全体を100重量%とした場合のMPCの重量%が少なくとも60%であり、残りの重量%がHEMA、PEGMA、及びMAPEGのうちの1つまたは複数であるポリマー水溶液を調製することと、
b)このポリマー水溶液内の反応生成物をアセトンの付加によって沈殿させて、透明な固体ポリマー材料を製造することと、
c)この透明固体ポリマー材料をアルコール又は水に再溶解させて、精製されたポリマー溶液を製造することと、
d)ポリアジリジンカップリング剤水溶液を調製することと、
e)前記ポリアジリジンカップリング剤水溶液と前記基材表面を接触及び反応させ、下塗りされた基材表面を形成することと、
f)前記の精製されたポリマー溶液を、前記下塗りされた基材表面と接触及び反応させ、前記生体適合性ポリマーコーティングで前記表面をコーティングすることと、
を含む、方法。
【請求項9】
g)前記基材表面を前処理し、ポリアジリジンカップリング剤水溶液と反応させるために前記基材表面を官能化することを更に含み、工程g)は工程e)の前に行われる、
請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年2月15日に出願され、「BIOCOMPATIBLE POLYMERIC COATING CONTAINING THERAPEUTIC AGENTS」と題する米国仮特許出願番号第62/806,336号の恩典を主張し、その内容が本明細書に全て組み入れられる。
【0002】
本発明は、生体適合性ポリマーコーティング、より具体的には治療薬を含有する生体適合性ポリマーコーティングに関し、更により具体的には、含有された治療薬の、伸張し、制御された放出を呈する生体適合性ポリマーコーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、限定することなく例として、眼内レンズ、心臓弁、電気リード線及びカテーテルなどを含む医療デバイス及び植込み可能なデバイスといったこうした物品で使用する、生体適合性ポリマーコーティング及びそのコーティングを製造する方法を開示する。更なる例において、生体適合性コーティングは、創傷ドレッシングと併せて使用されてもよく、又はそれ自身創傷ケアドレッシング若しくはバンデージコンタクトレンスとして動作してもよい。生体適合性コーティングは、ポリマーマトリックス内部に1つ又は複数の治療薬を含むように更に官能化されてもよく、又はポリマーネットワークに共有結合されてもよい。こうした治療薬の徐放性はまた、ポリマーネットワークの選択的な化学的性質により実現されてもよい。本発明の一態様において、生体適合性コーティングは水に相溶性のある環境を含み、約10分未満の反応時間で、室温にて基材に塗布されてもよい。
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様に従い、生体適合性ポリマーコーティングを調製する方法は、メタクリル酸(MAA)と、ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、ポリエチレングリコールモノメタクリラート(PEGMA)及びメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)のうち少なくとも1つとを接触及び反応させてポリマー溶液を形成することで、コポリマー水溶液を調製することと、カップリング剤水溶液を調製することと、ポリマー溶液をカップリング剤溶液と混合及び反応させ、コーティング溶液を形成することと、を含む。次いでコーティング溶液は基材表面へと塗布されてもよい。本発明の一態様において、カップリング剤溶液内のカップリング剤は、ポリアジリジン、アゼチジニウム官能化水溶性ポリマー、水溶性カルボジイミド、ジイソシアナート又はイソシアナートポリマーのうち1つ又は複数であってもよい。
【0005】
本発明の追加的な一実施形態において、生体適合性ポリマーコーティングを基材表面に塗布する方法は、メタクリル酸(MAA)及び限定するわけではないが、ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、ポリエチレングリコールモノメタクリラート(PEGMA)、及びメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)などのメタクリラート又はホスホリルコリンのうち少なくとも1つを接触及び反応させることでポリマー水溶液を調製することと、ポリアジリジン、水溶性カルボジイミド、ジイソシアナート又はイソシアナートポリマーのうち1つ又は複数を含有するカップリング水溶液を調製することと、ポリマー溶液とカップリング溶液を混合してコーティング溶液を形成することと、コーティング溶液と基材表面を接触及び反応させて、生体適合性ポリマーコーティングで基材を覆うことと、を含む。本発明の一態様において、水溶性カルボジイミド溶液は1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)を含み、ジイソシアナートはトルエンジイソシアナート、メチレンジフェニルジイソシアナート及びヘキサメチレンジイソシアナートのうち1つ又は複数を含む。
【0006】
更なる工程は、混合工程前に第1シリンジ中にポリマー溶液を充填することと、混合工程前に第2シリンジ中にカップリング剤溶液を充填することと、を含んでもよい。混合工程は、第1シリンジから第1の体積のポリマー溶液を分注することと、第2シリンジから第2の体積のカップリング剤溶液を分注することと、を含んでもよい。本発明の一態様において、第1シリンジ及び第2シリンジは、デュアルカートリッジのシリンジを含んでもよく、第1の体積は、第2の体積と同じとなるように選択されてもよく、又はこの溶液は基材に対して好ましい反応に最適化された比率にて分注されてもよい。
【0007】
ホスホリルコリンは、哺乳動物の細胞膜におけるホスファチジルコリンに基づいた双性イオン性頭部基である。これは、共重合して生物学的コーティングを作製するアクリラートモノマーへと組み込まれる。コモノマーは多くの場合、自然状態では疎水性である。PMB30は、30モル%のMPC及び70モル%のn-ブチルメタクリラートからなり、生物学的用途の種々の基材に浸漬コーティングされ得る。
【0008】
ホスホリルコリンを眼用の材料へと組み込むことがいくつかの発明における目標である。MPCは、ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)ヒドロゲルへと最大20重量%組み込まれる。ただし、シリコンヒドロゲルへと組み込まれるMPCの量は、レンズを作製するために使用されるシリコーンモノマー及びポリマーとの不適合性により低い。シリコンヒドロゲルは、それらが標準的なヒドロゲルよりも高い酸素透過性を有することから有利である。シリコン含有レンズのMPCレベルを増加させるために種々の方法が提案されているが、そのどれもがタンパク質の沈着を防止しつつ、同時に表面に共有結合するのに必要とされる高いMPCレベルを得るための要件を満足してはいない。
【0009】
本発明のコーティングは、2-メタクリロイルオキシホスホリルコリン(MPC)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラート(MAPEG)、及びメタクリル酸(MAA)のtertポリマーに基づく。このコーティングは、コンタクトレンズに組み込まれたアクリル酸基及びMPCtertポリマーコーティングのアクリル酸基の両方に結合する活性歪み環を含有するプライマーの反応によって、レンズ表面に共有結合される。
【0010】
発明者らは、ホスホリルコリンが材料の半分の重量を構成するときには、このポリマーが非極性溶媒に不溶であることを見いだした。これは、PEG単位よりもMPC単位が優勢であることを反映することから重要な特性である。高濃度のホスホリルコリンは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)よりもより効果的にタンパク質の吸収を防止する。タンパク質はまた、PEG表面では更に変性しやすい。これは、PEG表面にて水層の構造が変性され得るように水はポリマー鎖により大幅に影響を受け、タンパク質を変性させるからである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に従う、生体適合性ポリマーコーティングを調製する方法のフローチャートである。
【0012】
図2】本発明の代替的な実施形態に従う、生体適合性ポリマーコーティングを調製する方法のフローチャートである。
【0013】
図3図1及び図2で示される生体適合性ポリマーコーティングを調製する方法の中で使用するのに好適なデュアルカートリッジのシリンジの概略断面図である。
【0014】
図4】本発明の一態様に従い製造されたいくつかのコーティングに対する、下塗りされた基材なしでの接触角対MPC含有量における変化を表すグラフである。
【0015】
図5】本発明の別の態様に従い製造されたいくつかのコーティングに対する、下塗りされた基材との接触角対MPC含有量における変化を表すグラフである。
【0016】
図6】本発明の一態様に従い製造された60%MPC含有ポリマーの1H NMR(500MHz)スペクトラムである。
【0017】
図7】本発明の一態様に従い製造された60%MPC含有ポリマーの13C NMR(125MHz)スペクトラムである。
【0018】
図8図6及び図7に示される60%MPC含有ポリマーのFT-IR(フーリエ変換赤外線)スペクトラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここで図面に移ると、本発明の一態様に従い生体適合性ポリマーコーティングを調製する方法10が図1に示される。最初に、溶液A及び溶液Bを、それぞれの工程12及び14にて調製する。溶液Aはメタクリル酸(MAA)(C-CAS番号79-41-4)を含むが、一方で溶液Bは、限定するわけではないが、2-ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)(C10-CAS番号868-77-9)、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリラート(PEGMA)(HC=C(CH)CO(OCHCHOH-CAS番号25736-86-1)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラート(MAPEG)(HC=C(CH)CO(CHCHO)CH-CAS#26915-72-0)、及びメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(C1122NOP-CAS番号67881-98-5)といった少なくとも1つのメタクリラート及び/又はホスホリルコリンを含んでもよい。各溶液A及び溶液B内の構成成分の相対的な重量割合は、以下に記載されるように結果として生じるポリマーコーティングの望ましい特性に応じて選択的に変更されてもよい。
【0020】
次いで溶液A及び溶液Bを接触及び反応させ、工程16でコポリマー水溶液A-Bを形成する。カップリング剤水溶液を工程18で調製する。カップリング剤水溶液内のカップリング剤は、限定するわけではないが、ポリアジリジン(ポリエチレンイミン)((CN)、CAS番号9002-98-6)、1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)(EDAC)(C17、CAS番号25952-53-8)などのカルボジイミドであるがこれに限定されないものといったアジリジンベースのプライマー、又はジイソシアナート又はイソシアナートポリマーを含んでもよい。次いでカップリング剤溶液を工程20でコポリマー溶液A-Bと接触及び反応させ、コーティング溶液を形成する。このカップリング剤は、コポリマー溶液内で-OH基又は-COOH基と接触し、コポリマー溶液のポリマー構成成分及びカップリング剤溶液内のカップリング剤と架橋させてもよい。また、カップリング剤の選択及び重量割合は、所望のポリマーコーティングを製造するように選択的に制御されてもよい。次いでコーティング溶液は工程22で基材表面へと直接塗布されてもよく、カップリング剤の残存している反応部位は、基材表面で-OH基及び-COOH基と反応してもよい。
【0021】
本発明の代替的な態様に従い、図2に示されるように、方法10’はそれぞれの工程12’及び14’にて溶液A及び溶液Bの調製を含んでもよいが、カップリング剤水溶液は工程18’にて調製される。次いで工程16’にて溶液A及び溶液Bを接触及び反応させ、コポリマー水溶液A-Bを形成してもよい。ただし、上記の方法10とは異なり、基材表面に「下塗り」するように、カップリング剤水溶液をコポリマー水溶液A-Bに最初に加えることなく、工程19’にてカップリング剤水溶液を基材表面と接触及び反応させてもよい。すなわち、カップリング剤溶液中のカップリング剤は、コポリマー水溶液A-Bと反応及び架橋させるのに好適な、下塗りされた基材表面を形成するように、基材表面上で-OH基及び/又は-COOH基と反応させてもよい。このようにして、工程19’にてカップリング剤水溶液を基材表面と接触及び反応させると、次いで生体適合性ポリマーコーティングを形成するように、工程21’にて下塗りされた基材とコポリマー水溶液A-Bとをその後接触及び反応させる。
【0022】
本発明の別の態様に従い、基材は任意選択で、方法10の工程24にて、又は方法10’の工程24’にて、前処理を受けてもよい。例として、限定するものではないが、疎水性基材にプラズマエッチング前処理又は酸エッチング前処理を施し、上記のようなカップリング剤溶液中のカップリング剤とその後反応させることができる-OH基又は-COOH基を含むように表面を官能化させてもよい。
【0023】
本発明の更なる態様において、1つ又は複数の添加剤/治療薬を、生体適合性ポリマーネットワーク中に組み込まれる又はこれに共有結合させてもよい。治療薬の非限定例としては、抗炎症薬、抗血液凝固薬、止血薬若しくは他の止血薬又は鎮痛薬が挙げられる。生体適合性ポリマーコーティングからの1つ又は複数の治療薬の放出は、溶液A及び溶液B中の試薬の比率及びカップリング剤溶液中のカップリング剤の濃度を変更することなど、生体適合性ポリマーの特異性を調整することにより選択的に制御されてもよい。治療薬を加え、方法10、10’の範囲内の種々の時間にて反応させてもよい。例えば、治療薬を、工程26、26’及び工程20、21’前にコポリマー溶液へと加えてもよい。あるいは、治療薬溶液を工程28にてコーティング溶液と混合し、その後、方法10のポリマー溶液及びカップリング剤溶液を混合及び反応させてもよい。
【0024】
本発明の別の態様に従い、コポリマー溶液A-Bは、約0.5~約10重量%の範囲である重量パーセントのポリマーを有する水溶液を含んでもよい。この重量割合は、等量の部の溶液A及び溶液Bから構成されてもよく、又は結果として生じるコーティング溶液の所望の特性に応じて等量ではない部を含有してもよい。このようにして、ポリマー溶液の組成は、意図される最終使用用途に応じて選択的に制御されてもよい。
【0025】
本発明の一態様に従い、ポリマー水溶液、カップリング剤溶液及び/又は治療薬溶液は、それぞれのシリンジ内部に充填されてもよい。次いで各溶液は、コーティング溶液を形成するために混合及び反応させるために、そのそれぞれのシリンジから制御可能に分注されてもよい。図3に示されるように、一態様では、ポリマー溶液51及びカップリング剤溶液53を、共通プランジャ56を有するデュアルカートリッジのシリンジ54のそれぞれのカートリッジ50、52内に充填してもよい。プランジャ56を押し下げ、それによりポリマー溶液51及びカップリング剤溶液53の容量を押し出す(各構成成分の重量割合は、上記のように、所望されるように、同じ又は異なっていてもよい)。次いで組み合わせた溶液55を、シリンジ出口58及び/又はデュアルカートリッジのシリンジ54のシリンジ出口58上へと取り付けられたピペット先端部60内部で混合及び反応させてもよい。この混合により、上記のように、カップリング剤溶液とコポリマーの-OH基及び/又は-COOH基と架橋させることができるように、溶液間での反応が促進される。反応した溶液は、基材表面上へと直接分注されてもよい。
【0026】
本発明の一態様に従い、溶液のそれぞれを室温で混合及び反応させてもよい。反応時間は、2、3秒~最大で約5分ほどであってもよく、通常の反応は約1分以内に完了する。コーティング溶液又はコーティング溶液/カルボジイミド溶液又はコーティング溶液/カルボジイミド溶液/治療薬溶液を基材表面と接触及び反応させ、コーティング溶液(及び追加の治療薬)を基材と結合させた後、次いで清浄な水を用いて残存する未反応試薬をコーティングされた基材から洗い流してもよい。
【0027】
本発明はこれらの好ましい実施形態を参照して記載したが、続く特許請求の範囲によって規定されるように、発明の完全な精神及び発明の範囲から逸脱することなく種々の変更が行われてもよいことが理解される。
【0028】

新規親水性コーティングは、レンズに接触する用途のため、水溶液から開発されている。新規ポリマーは、アジリジンベースのプライマー上で架橋されるポリ(エチレンオキシド)に基づいている。MPCモノマーを種々の割合で組み込んだ。発明者らは60重量%超のMPCを有するポリマーは、更に良好な濡れ特性を有することを見いだした。これらのポリマーはアセトンに不溶であることが見いだされ、沈殿した透明な固体を得ることができた。固体のポリマーをアルコール又は水などの極性溶媒に再度溶解させることができた。低量のMPC含有量を有するポリマーはアセトンに可溶であった。
表1
【化1】

【表1】
【0029】
Vazo重合開始剤を用いて、3種類のポリマーを水中で調製した。ポリマーは、おおよそ20重量%、40重量%、60重量%、80重量%、100重量%のHEMA-PCを含有した。これは、より一般的にはMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)と呼ばれる。他の相補的なモノマーはMAPEGであり、この場合、PEGは500AMUの数平均分子量(M)を有する。全てのポリマーは、アジリジンベースのプライマーと架橋するため、5重量%のメタクリル酸を含有する。上の表1を参照されたい。水溶液を含有するポリマーは透明かつ粘性があった。粘度読取り値は時間がたっても一定を保ったため、経時的にゲル化している様子はなかった。(表2)
【0030】
2つの対照コーティングもまた調製した。比較例1を、アクリル酸部分を除き全てのPEG側基がないメタクリラート骨格から構成した。溶液の特性は例1~5のMPCポリマーと同様であった。
【0031】
比較例2を、80重量%のHEMA及び20重量%のMPCを用い、同様の方式で作製した。得られた生成物は不透明なゲルであった。
【0032】
ブルックフィールド粘度計
ポリマー溶液を、60℃でコーンスピンドルを有するブルックフィールド粘度計を用いて粘度により特徴付けた。MPC含有量の増加に伴い、粘度はわずかに増加した。粘度は、18日又は120日後のポリマー溶液の保管時には変化しないことが明らかとなった。
【表2】
【0033】
水接触角
浸漬コーティングにより、2組のレンズを調製した。レンズをポリマー溶液に浸漬させ、60℃で2~3時間乾燥させた。あるいは、レンズを2重量%のアジリジンベースのプライマー水溶液中に最初に浸漬させ、60℃で2~3時間乾燥させ、ポリマー溶液のうち1つの中に浸漬させることでコーティングし、60℃でこれを最後に乾燥させた。コーティングは透明であった。水接触角を使用してサンプルを比較した。結果を図4に示すが、これはレンズにおいてMPC含有量の増加に伴う水接触角の低下を示す。
【0034】
水接触角は全てのコーティングで低下した。水接触角の低下はMPC含有量がより高いことから大きくなるが、これはレンズの濡れがより良好であることを示している。コーティングされていないレンズは108°で開始し、約10分間の後に100°まで低下した。角度は約1時間後には更に80°に低下した。
【0035】
レンズ上に20%のMPCポリマー(例1)を配置することで、接触角は直ちに90°へと低下した。ただし40重量%及び60重量%のMPC(それぞれ例2及び例3)コーティングは、接触角に関して大きく低下することで見られるようなより良好な濡れをもたらした。より高い含有量のコーティングは、時間によって影響を受けるようなものではなかったが、直ちに良好な濡れを示した。レンズ曲率は約34度であったが、これは濡れに対する下限を示している。
【0036】
水接触角の測定は、アジリジンベースのプライマーの頂部の20%及び60%のMPCコーティング上で行われた(図5)。40%のMPCコーティングは不十分な品質であり、報告しなかった。60重量%のMPCを有するポリマーは、下部の初期接触角及び1時間後の下部の角を有し、MPC含有量がより高いことでより良好な濡れをもたらすことを再び示した。アジリジンベースのプライマー上のコーティングは、プライマーなしのコーティングよりも良好な濡れ機械的完全性を有するようにも見えた。これは、アクリル酸官能性と反応してMPCポリマーを架橋するアジリジン環と一致する。図5に示されるように、レンズ上のアジリジンベースのプライマーに関してはMPC含有量を増加させつつ、水接触角は低下する。
【0037】
60%のMPCポリマーのNMR特性評価(例3)
サンプルを、1mLのDO中、約25mgの濃度で溶解させた。図6に示されるように、1H NMR(500MHz)を使用し、約60重量%のMPC及び40重量%のPEG及び残りの5重量%のメタクリル酸で作製された、例3由来のポリマーの組成を測定した。MPCモノマー(CAS#67881-98-5)、MAPEGモノマー(CAS#26915-72-0)の参照サンプル及びメタクリル酸を、化学シフト用の参照として使用した。メタクリル酸モノマー(CAS#79-41-4)は、NMRスペクトラムで検出するには低すぎるレベルである。
【表3】

13C NMRスペクトラムを図7に示す。
【0038】
MPC及びMAPEGといった2つのモノマースペクトルに従った、60MPCポリマーのフーリエ変換赤外スペクトラム(例3)
図7に示されるように、ポリマーは、MPCの官能性について観察された、約3400cm-1で中央値をとる双性イオンのストレッチ222、及びPEGの官能性について観察された、約2900cm-1で中央値をとるC-Hストレッチ224の両方を示している。モノマーのどちらもが、ポリマーについて観察された両方の赤外線域を示さない。このように、赤外スペクトラムは、どのくらいの60%のMPCポリマー(例3)が、MPC及びPEG官能性を含有する2つのアクリラートから構成されるかを示す。
【0039】
前述の内容から、本発明は、方法及び機器に対して明白であり、固有である他の利点と共に上にて規定された全ての目的及び目標を達成するために良好に適合されたものであることが理解されるだろう。ある特定の特徴及び部分的な組合せは有用であり、他の特徴及び部分的な組合せに対する参照なしに使用されてもよいことが理解されるであろう。これは特許請求の範囲によって企図され、そして特許請求の範囲内である。本発明の多くの可能な実施形態はその範囲から逸脱することなく作られ得るため、本明細書に規定され、又は添付の図面にて示される全ての問題は、例示として、制限されることなく解釈されるべきであることもまた理解される。
【0040】
上に記載され、図面に例示された構造は、単なる例として表され、本発明の概念及び原理を制限することを意図してはいない。本明細書に使用される場合、用語「有する」及び/又は「含む」及び包含の他の用語は、要件よりも包含を示す用語である。
【0041】
本発明は好ましい実施形態を参照して記載されているが、本発明の範囲から逸脱することなく特定の状況に適合するように種々の変更を行ってよく、かつ均等物をこれらの要素と置き換えてよいことが当業者によって理解されるだろう。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図された最良の形態として開示されている特定の実施形態に限定されず、本発明が添付の特許請求の範囲及び精神に該当する全ての実施形態を含み得ることが意図される。
なお、本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
生体適合性ポリマーコーティングを調製する方法であって、
a)i)メタクリル酸(MAA)並びに
ii)ヒドロキシエチルメタクリラート(HEMA)、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリラート(PEGMA)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリラート(MAPEG)、及びメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)からなる一覧から選択される、少なくとも1つのメタクリラート又はホスホリルコリン
を接触及び反応させることにより、ポリマー水溶液を調製することと、
b)ポリアジリジン、水溶性カルボジイミド、ジイソシアナート又はイソシアナートポリマーからなる一覧から選択される、カップリング剤水溶液を調製することと、
c)前記ポリマー溶液と、前記カップリング剤溶液を混合し、前記生体適合性ポリマーコーティングを形成することと、
を含む、方法。
[2].
生体適合性ポリマーコーティングを基材表面に塗布する方法であって、前記方法が、
a)i)メタクリル酸(MAA)及び
(ii)少なくとも1つのメタクリラート又はホスホリルコリン
を接触及び反応させることにより、ポリマー水溶液を調製することと、
b)カップリング剤水溶液を調製することと、
c)前記ポリマー溶液と、前記カップリング剤水溶液を混合し、コーティング溶液を形成することと、
d)前記コーティング溶液を前記基材表面と接触及び反応させ、前記生体適合性ポリマーコーティングで前記表面をコーティングすることと、
を含む、方法。
[3].
e)前記混合工程前に第1シリンジ中に前記ポリマー溶液を充填することと、
f)前記混合工程前に第2シリンジ中に前記カップリング剤溶液を充填することと、
を更に含み、
前記混合工程が、前記第1シリンジから第1の体積のポリマー溶液を分注することと、前記第2シリンジから第2の体積のカップリング剤溶液を分注することと、を含む、上記項目2に記載の方法。
[4].
前記第1シリンジ及び前記第2シリンジが、デュアルカートリッジのシリンジを含む、上記項目3に記載の方法。
[5].
前記第1の体積が前記第2の体積と同じである、上記項目3に記載の方法。
[6].
前記水溶性カルボジイミドが、1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)を含む、上記項目2に記載の方法。
[7].
治療薬溶液が、工程c)及び工程d)のうち少なくとも1つの間に更に加えられる、上記項目2に記載の方法。
[8].
e)前記基材表面を前処理し、カップリング剤水溶液及び/又はコーティング溶液と反応させるために前記基材表面を官能化することを更に含み、工程e)は工程d)の前に行われる、
上記項目2に記載の方法。
[9].
前記少なくとも1つのメタクリラート又はホスホリルコリンがメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を含む、上記項目2に記載の方法。
[10].
前記MPCが、前記ポリマー水溶液の少なくとも40重量%を成す、上記項目9に記載の方法。
[11].
前記MPCが、前記ポリマー水溶液の少なくとも60重量%を成す、上記項目9に記載の方法。
[12].
生体適合性ポリマーコーティングを基材表面に塗布する方法であって、前記方法が、
a)i)メタクリル酸(MAA)及び
ii)少なくとも1つのメタクリラート又はホスホリルコリン
を接触及び反応させることにより、ポリマー水溶液を調製することと、
b)カップリング剤水溶液を調製することと、
c)前記カップリング剤水溶液と前記基材表面を接触及び反応させ、下塗りされた基材表面を形成することと、
d)前記ポリマー水溶液を、前記下塗りされた基材表面と接触及び反応させ、前記生体適合性ポリマーコーティングで前記表面をコーティングすることと、
を含む、方法。
[13].
e)前記基材表面を前処理し、カップリング剤水溶液と反応させるために前記基材表面を官能化することを更に含み、工程e)は工程c)の前に行われる、
上記項目12に記載の方法。
[14].
前記少なくとも1つのメタクリラート又はホスホリルコリンが、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を含む、上記項目12に記載の方法。
[15].
前記MPCが前記ポリマー水溶液の少なくとも40重量%を成す、上記項目12に記載の方法。
[16].
前記MPCが前記ポリマー水溶液の少なくとも60重量%を成す、上記項目12に記載の方法。
[17].
上記項目2に記載の方法に従って製造された生体材料。
[18].
上記項目12に記載の方法に従って製造された生体材料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8