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特許7296669測量方法、ターゲットマーカ、及び測量システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】測量方法、ターゲットマーカ、及び測量システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20230616BHJP
   G01C 15/06 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
G01C15/00 103Z
G01C15/06 T
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022029042
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2023-04-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505466295
【氏名又は名称】株式会社イクシス
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 文敬
(72)【発明者】
【氏名】狩野 高志
(72)【発明者】
【氏名】前田 幸祐
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0124850(US,A1)
【文献】特開2018-048866(JP,A)
【文献】特開2018-197949(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0355499(US,A1)
【文献】国際公開第2017/208396(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0160115(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカを配置するマーカ配置工程と、
レーザスキャナの測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に前記レーザスキャナを配置して、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得する測量工程と、
コンピュータ装置が、前記測量工程において取得された点群データにおいて測定不能だった範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するマーカ特定工程と、
を含み、
前記マーカ特定工程において、前記コンピュータ装置は、前記エラーマップに表されている測定不能な範囲の形状が、所定の形状であるものを前記ターゲットマーカの存在位置として特定する、
ことを特徴とする測量方法。
【請求項2】
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカを配置するマーカ配置工程と、
レーザスキャナの測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に前記レーザスキャナを配置して、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得する測量工程と、
コンピュータ装置が、前記測量工程において取得された点群データにおいて測定不能だった範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するマーカ特定工程と、
を含み、
前記マーカ特定工程において、前記コンピュータ装置は、前記エラーマップに表されている測定不能だった範囲のうち、当該範囲の大きさが所定の閾値に収まるものを前記ターゲットマーカの存在位置として特定する、
ことを特徴とする測量方法。
【請求項3】
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカを配置するマーカ配置工程と、
レーザスキャナの測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に前記レーザスキャナを配置して、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得する測量工程と、
コンピュータ装置が、前記測量工程において取得された点群データにおいて測定不能だった範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するマーカ特定工程と、
を含み、
前記マーカ配置工程において、三つ以上の前記ターゲットマーカが配置され、
前記ターゲットマーカは、当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域を有しており、
前記ターゲットマーカは平板であり、前記平板の両面が前記第一領域を有しており、いずれの面の前記第一領域も同一である、
ことを特徴とする測量方法。
【請求項4】
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカを配置するマーカ配置工程と、
レーザスキャナの測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に前記レーザスキャナを配置して、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得する測量工程と、
コンピュータ装置が、前記測量工程において取得された点群データにおいて測定不能だった範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するマーカ特定工程と、
を含み、
前記マーカ配置工程において、三つ以上の前記ターゲットマーカが配置され、
前記ターゲットマーカは、
当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域と、当該ターゲットマーカの中心位置を表す形状、模様又は色彩を含む第二領域と、を有しており、
前記第一領域及び前記第二領域が前記再帰性反射材を設けた領域によって囲まれている、
ことを特徴とする測量方法。
【請求項5】
レーザスキャナによる測量に用いられるターゲットマーカであって、
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されており、
当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域を有しており、
前記ターゲットマーカは平板であり、前記平板の両面が前記第一領域を有しており、いずれの面の前記第一領域も同一である、
ことを特徴とするターゲットマーカ。
【請求項6】
レーザスキャナによる測量に用いられるターゲットマーカであって、
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されており、
当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域と、当該ターゲットマーカの中心位置を表す形状、模様又は色彩を含む第二領域と、を有しており、
前記第一領域及び前記第二領域が前記再帰性反射材を設けた領域によって囲まれている、
ことを特徴とするターゲットマーカ。
【請求項7】
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカと、
測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に配置され、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得するレーザスキャナと、
前記レーザスキャナによって取得された点群データから測定不能な範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するコンピュータ装置と、
を備え
前記コンピュータ装置は、前記エラーマップに表されている測定不能な範囲の形状が、所定の形状であるものを前記ターゲットマーカの存在位置として特定する、
ことを特徴とする測量システム。
【請求項8】
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカと、
測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に配置され、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得するレーザスキャナと、
前記レーザスキャナによって取得された点群データから測定不能な範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するコンピュータ装置と、
を備え
前記コンピュータ装置は、前記エラーマップに表されている測定不能だった範囲のうち、当該範囲の大きさが所定の閾値に収まるものを前記ターゲットマーカの存在位置として特定する、
ことを特徴とする測量システム。
【請求項9】
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカと、
測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に配置され、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得するレーザスキャナと、
前記レーザスキャナによって取得された点群データから測定不能な範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するコンピュータ装置と、
を備え
三つ以上の前記ターゲットマーカが配置され、
前記ターゲットマーカは、当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域を有しており、
前記ターゲットマーカは平板であり、前記平板の両面が前記第一領域を有しており、いずれの面の前記第一領域も同一である、
ことを特徴とする測量システム。
【請求項10】
少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカと、
測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に配置され、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得するレーザスキャナと、
前記レーザスキャナによって取得された点群データから測定不能な範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するコンピュータ装置と、
を備え
三つ以上の前記ターゲットマーカが配置され、
前記ターゲットマーカは、
当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域と、当該ターゲットマーカの中心位置を表す形状、模様又は色彩を含む第二領域と、を有しており、
前記第一領域及び前記第二領域が前記再帰性反射材を設けた領域によって囲まれている、
ことを特徴とする測量システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザスキャナを用いる測量方法、並びに、その測量方法に利用可能なターゲットマーカ及び測量システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築や土木の分野において、測量は欠くことのできない重要技術である。
近年、レーザスキャナを活用した測量が普及しており、このような測量に用いられる種々の技術が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、追尾機能を有するトータルステーションを活用した測量方法が開示されている。
同文献に係る測量方法は、上記のトータルステーションの他に、移動式測定器(レーザ測距器、撮影装置を具備したもの)を活用し、トータルステーションと移動式測定器のそれぞれの測定結果を合わせることによって、トータルステーションの設置替えを行わずとも測量の死角となる箇所を減らすことができる。これにより、同文献に係る測量方法は、トータルステーション単体で行う測量に比べて、より広範囲の測量を高精度に実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-087307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る測量方法は、主たる測定器(トータルステーション)の測定結果に基づいて生成された三次元モデルと、従たる測定器(移動式測定器)の測定結果に基づいて生成された三次元モデルと、を結合するにあたって、何らかの特徴点を基準位置として位置合わせをする必要がある。しかしながら、特許文献1には、その点について詳細な言及はない。
【0006】
ところで、レーザスキャナによる測量において、現実空間における所定の位置にターゲットマーカを配置し、測量結果(点群データ)の中から検出されたターゲットマーカに相当する点群の位置を基準として後処理を行うことは既知の技術である。
特許文献1に係る測量方法に対して、上記の技術を応用することによって、位置合わせの基準位置を定め、その基準位置に基づいて結合処理を行うことは可能である。しかしながら、上記の技術において、測量結果の中からターゲットマーカに相当する点群を検出する処理は、ターゲットマーカの背景に存在する別の物体と区別が困難になる場合があり、このような場合には十分な精度で基準位置を定めることができず、正しい測量をすることができない。
【0007】
本発明は、上記のような事情を鑑みて発明されたものであり、レーザスキャナを用いた測量を高精度に行うことができる測量方法、並びに、その測量方法に利用可能なターゲットマーカ及び測量システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカを配置するマーカ配置工程と、レーザスキャナの測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に前記レーザスキャナを配置して、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得する測量工程と、コンピュータ装置が、前記測量工程において取得された点群データにおいて測定不能だった範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するマーカ特定工程と、を含むことを特徴とする測量方法が提供される。
【0009】
本発明によれば、レーザスキャナによる測量に用いられるターゲットマーカであって、少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されており、当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域を有している、ことを特徴とするターゲットマーカが提供される。
【0010】
本発明によれば、少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカと、測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に配置され、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得するレーザスキャナと、前記レーザスキャナによって取得された点群データから測定不能な範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するコンピュータ装置と、を備えることを特徴とする測量システムが提供される。
【0011】
レーザスキャナが再帰性反射材を測定すると、その再帰性反射材に対する入射光と、その再帰性反射材から受ける反射光と、の位相が揃ってしまうため、その再帰性反射材が存在する箇所については測定不能となりエラーとして処理されるのが一般的である。
本発明は、上記の現象を逆手に取った技術であり、レーザスキャナによる測定によって取得された点群データの中から測定不能だった範囲を示すエラーマップを生成し、生成したエラーマップに基づいてターゲットマーカの存在位置を特定する(例えば、測定不能箇所が集中している場所をターゲットマーカの存在位置として特定する)コンピュータ処理を実行する。
測定不能であるという特徴はターゲットマーカの配置環境に依存する影響が少ないので、本発明は、既知の技術で着目されていた特徴(例えば、ターゲットマーカの形状や色彩など)に基づくコンピュータ処理に比べて、高い精度でターゲットマーカに相当する点群を検出することができ、その結果として正確な測量を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーザスキャナを用いた測量を高精度に行うことができる測量方法、並びに、その測量方法に利用可能なターゲットマーカ及び測量システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による測量方法の概念を表す模式図である。
図2】本発明に係るターゲットマーカを示す図である。
図3図2のターゲットマーカに対する測定結果から生成されるエラーマップを示す図である。
図4】本発明に係る測量方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0015】
<本発明に係る測量方法に用いられるシステム構成>
先ず、本発明に係る測量方法に用いられるシステム構成について説明する。
本発明に係る測量方法には、測量対象となる現実空間に配置されるターゲットマーカ10と、ターゲットマーカ10の周囲空間を測定して三次元の点群データを取得するレーザスキャナ20と、レーザスキャナ20によって取得された点群データを解析するコンピュータ装置30と、が用いられる。
なお、本実施形態に係るターゲットマーカ10と、レーザスキャナ20と、コンピュータ装置30と、を備えるシステムが、本発明に係る「測量システム」に相当する。
【0016】
レーザスキャナ20は、測定を行う際に、レーザ光によって測定範囲をスキャンすると共に、カメラによって当該測定範囲を撮影することによって画像データを得ることが好ましい。
【0017】
コンピュータ装置30は、本実施形態において図示省略するが、レーザスキャナ20との間で通信接続しており、レーザスキャナ20が点群データ及び画像データを取得するごとに、これらのデータを受信することができる。ただし、本発明の実施において、レーザスキャナ20とコンピュータ装置30は、必ずしも測量中に通信接続している必要はない。例えば、測量中にレーザスキャナ20が保存した点群データ及び画像データを、測量に係る一連の作業が終わった後にコンピュータ装置30が読み込む等して、レーザスキャナ20とコンピュータ装置30の間のデータ授受を実現してもよい。
また、コンピュータ装置30は、本発明の目的に照らして十分な性能のハードウェア資源(CPU、ROM、RAM等)を有しており、レーザスキャナ20から取得した点群データ及び画像データを解析することによって、それぞれの点群の色彩を判定可能であることが好ましい。
【0018】
図1は、本発明による測量方法の概念を表す模式図である。図1に示すエリアA1はレーザスキャナ20aの測定範囲を表しており、図1に示すエリアA2はレーザスキャナ20bの測定範囲を表している。ここで、エリアA1及びエリアA2は、それぞれ一回の測定によって点群データが取得できる範囲と言うことができる。
測量の対象となる領域が、一回の測定範囲を超える広さである場合、図1に示すように、複数回の測定範囲(エリアA1及びエリアA2)が重畳するように測定を行い、それぞれの測定によって取得された点群データ同士を結合することによって、対象となる領域全体の点群データを得ることができる。
【0019】
それぞれの測定範囲が重畳する位置には、ターゲットマーカ10(ターゲットマーカ10a、ターゲットマーカ10b、ターゲットマーカ10c)を配置し、それぞれのターゲットマーカ10の測定位置を結合処理における位置合わせの基準とする。このとき、配置されるターゲットマーカ10は、三次元を表す点群データ同士の結合処理を高い精度で実現する場合には、3つであることが好ましい。3つのターゲットマーカ10a、ターゲットマーカ10b、ターゲットマーカ10cは、それぞれを識別する識別情報が付されることが好ましい。本実施形態では便宜的に、ターゲットマーカ10aの識別情報を「1」、ターゲットマーカ10bの識別情報を「2」、ターゲットマーカ10cの識別情報を「3」とする(図1では、それぞれ「ID=1」、「ID=2」、「ID=3」と表記する)。
【0020】
なお、本発明に係る測量方法の実施において、ターゲットマーカ10の数は三つに限定されず、一つや二つであっても実現可能である。また、図1は二回の測定範囲を重畳させる概念を表したが、所望の領域を測量するために三回以上の測定を行う必要がある場合には、それぞれの測定範囲の重畳部分にターゲットマーカ10を配置させる必要があり、測定回数の増加に応じてターゲットマーカ10の数も増加するので、ターゲットマーカ10の数が三つを超える実施例もあり得る。
【0021】
コンピュータ装置30によって上記の結合処理を実現する場合、それぞれの測定結果として得られる点群データの中からターゲットマーカ10に相当する点群を検出する必要がある。しかしながら、ターゲットマーカ10の形状や色彩の特徴に基づいて、ターゲットマーカ10に相当する点群を検出しようとすると、ターゲットマーカ10の背景に存在する他の物体に相当する点群の中に溶け込んでしまうことがあり、十分な精度で点群データ同士の位置合わせをすることができなかった。
【0022】
そこで、本発明に係るターゲットマーカ10には、以下のような特徴を持たせている。図2は、本発明に係るターゲットマーカ10を示す図である。
図2に示すとおり、ターゲットマーカ10は、複数種類の領域に大別され、本実施形態ではそれぞれの領域を領域11、領域12、領域13、領域14と呼称する。なお、領域12は、図2に図示する領域12a、領域12b、領域12cの総称である。
【0023】
領域11は、ターゲットマーカ10の中心位置を表す形状、模様又は色彩を含む領域であり、本実施形態では2つの白色の三角と2つの黒色の三角を組み合わせた模様になっており、4つの三角の頂点が重なる箇所がターゲットマーカ10の中心位置に該当する。領域11は、本発明に係る「第二領域」に相当する。
領域12は、ターゲットマーカ10に割り当てられている識別情報をパターン化した領域(すなわち、他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む領域)である。領域12は、本発明に係る「第一領域」に相当する。ここで「識別情報のパターン化」とは、コンピュータ装置30が、レーザスキャナ20の測定結果(点群データと画像データ)から自動認識可能な態様(演算処理によって解読可能な態様)で、ターゲットマーカ10に識別情報を持たせることをいう。
領域13は、再帰性反射材が設けられている領域であり、上記の領域11及び領域12の周囲を囲っている。再帰性反射材とは、光源から来た光を、広い照射角にわたって、入射光の光路にほぼ沿う方向へ反射する素材をいい、正反射(鏡面反射)とは逆の性質を持っている。上述したように、レーザスキャナ20からの照射光と、再帰性反射材による反射光と、は位相が揃ってしまうため、その反射光を受け付けたレーザスキャナ20は、領域13の存在する範囲において処理可能な点群データを取得することができず、当該範囲について測定不能と処理する。
領域14は、ターゲットマーカ10の最縁部に設けられている領域であり、上記の領域11、領域12及び領域13の周囲を囲っている。
【0024】
本実施形態に用いられるターゲットマーカ10は平板であり、平板の両面に描かれている識別情報のパターン(領域12の形状、模様又は色彩)が同一であるため、レーザスキャナ20によっていずれの面から測定されたとしても、コンピュータ装置30は同じ識別情報を解読することができる。
また、領域11、領域12及び領域14は、再帰性反射材とは異なる性質の素材によって形成されていればよく、好ましくは正反射またはそれにほぼ等しい反射をする高反射強度材によって形成されることが好ましい。コンピュータ装置30による解析処理において、領域13と他の領域とを区別するのが容易になるからである。
【0025】
図3は、図2のターゲットマーカに対する測定結果から生成されるエラーマップを示す図である。
図3において黒色で表される部分が、レーザスキャナ20が測定不能だった箇所(エラーマップ)であり、コンピュータ装置30は、当該箇所が領域13に相当する範囲であり、当該箇所の近傍から取得された点群がターゲットマーカ10(領域11、領域12、及び領域14)の存在位置を表す点群であるものと判別する。
また、図3において、黒色で囲われている白抜きの部分が、領域11と領域12に相当する点群の存在範囲であり、コンピュータ装置30はこれらの点群が表す形状及び点群の色彩等を解析することによって、ターゲットマーカ10の中心位置や識別情報を判別する。
【0026】
コンピュータ装置30は、レーザスキャナ20が測定不能だった箇所の全てを領域13に相当する範囲と判別する必要はなく、他の条件に基づいて領域13に相当する範囲を絞り込むことが好ましい。
例えば、コンピュータ装置30は、エラーマップによって表されている測定不能な範囲の形状を解析し、解析した形状が所定の形状(本実施形態では、その外縁が正方形)であることを条件として、当該範囲をターゲットマーカ10(領域13)の存在位置として特定してもよい。
或いは、コンピュータ装置30は、ラーマップによって表されている測定不能な範囲の大きさを解析し、解析した大きさが所定の閾値に収まるもの(上限閾値より小さく、下限閾値より大きいもの)をターゲットマーカ10(領域13)の存在位置として特定してもよい。
なお、上記の基準は、本発明の目的を達成する範囲において適宜変更してもよく、本明細書に記載していない既知の条件を適用してもよい。
【0027】
以上説明したように、ターゲットマーカ10が上記の領域13を有しているので、コンピュータ装置30が、レーザスキャナ20の測定結果に基づいて、測定不能だった範囲を示すエラーマップを生成し、生成したエラーマップに基づいてターゲットマーカ10の存在位置を特定することができる。
そして、ターゲットマーカ10が上記の領域11を有しているので、コンピュータ装置30が領域11の形状、模様又は色彩を解析することによって、ターゲットマーカ10の中心位置をコンピュータ処理によって検出することができる。
そして、ターゲットマーカ10が上記の領域12を有しているので、コンピュータ装置30が領域12の形状、模様又は色彩を解析することによって、そのターゲットマーカ10に割り当てられている識別情報を判定することができる。
【0028】
<本発明に係る測量方法の処理手順について>
次に、本発明に係る測量方法の処理手順について説明する。
図4は、本発明に係る測量方法のフローチャートである。
【0029】
先ず、測量を実施する者は、測量の対象となる現実空間に、図2に図示したターゲットマーカ10を配置する(ステップS101)。ステップS101の処理は、本発明に係る「マーカ配置工程」に相当する。
次に、測量を実施する者は、レーザスキャナ20を所定の位置に配置して、当該位置から測定可能な領域を測定し、測定結果(点群データ及び画像データ)を取得する(ステップS103)。ステップS103の処理は、本発明に係る「測量工程」に相当する。
測定の対象となる領域についてレーザスキャナ20による測定結果を得ていない場合(ステップS105のNO)、測量を実施する者は、別の位置にレーザスキャナ20を移動させて、移動後の位置から測定可能な領域を測定する。
【0030】
測量を実施する者は、測定の対象となる全ての領域についてレーザスキャナ20による測定結果を取得するまで(ステップS105のYES)、レーザスキャナ20の位置を移動させてステップS103の処理を複数回繰り返す。
例えば、図1に図示した事例に則して言えば、先ず、レーザスキャナ20を配置した最初の位置からエリアA1について点群データを取得する。次に、レーザスキャナ20を移動して別の位置からエリアA2について点群データを取得する。ここでエリアA1に対するステップS103の処理は本発明に係る「第一測量工程」に相当し、エリアA2に対するステップS103の処理は本発明に係る「第二測量工程」に相当する。
【0031】
続いて、コンピュータ装置30は、ステップS101~ステップS105の処理によって取得されたレーザスキャナ20の測定結果を解析し、測定不能だった範囲を検出してエラーマップを生成し、生成したエラーマップに基づいてターゲットマーカ10の存在位置を特定する(ステップS107)。ステップS107の処理は、本発明に係る「マーカ特定工程」に相当する。
そして、コンピュータ装置30は、ステップS107において特定されたターゲットマーカ10の存在位置を基準として、レーザスキャナ20による測定ごとに存在する点群データ同士を結合する(ステップS109)。ステップS109の処理は、本発明に係る「結合工程」に相当する。
例えば、図1に図示した事例に則して言えば、コンピュータ装置30は、エリアA1の測定結果である点群データと、エリアA1の測定結果である点群データと、を、それぞれの点群データの中から特定されるターゲットマーカ10a、10b、10cの存在位置がそれぞれ重畳するように位置合わせをして結合することによって、測量の対象全体に係る点群データを生成する。
【0032】
以上説明したとおり、本発明に係る測量方法は、少なくとも一部の領域に再帰性反射材を設けたターゲットマーカ10を測量対象となる現実空間に配置して測量することによって、レーザスキャナ20にって測定不能扱いとなる位置を意図的に生み出している。そして、コンピュータ装置30は、この測定不能となる位置を表すエラーマップに基づいてターゲットマーカ10の存在位置を特定し、点群データ同士の結合に応用している。
上記のようなターゲットマーカ10を検出する手法は、従来にはない発想に基づくものであり、且つ、従来の手法に比べて高い精度でコンピュータ処理することができる。その結果として、実用に耐えうる精度で点群データ同士の結合の自動化を図ることができ、従来は手動で行っていた作業を削減して、測量において生じる人的コストの低減を図ることができる。
【0033】
<変形例>
以上に説明した本発明の実施形態は、本発明の目的と達成する範囲において、種々の変形が可能である。
以下、未だ説明していない本発明の変形例について、言及する。
【0034】
上述の実施形態において、本発明に係る測量システムの構成要素として、図1に図示したターゲットマーカ10(ターゲットマーカ10a、ターゲットマーカ10b、ターゲットマーカ10c)及びレーザスキャナ20(レーザスキャナ20a、レーザスキャナ20b)、並びに、不図示のコンピュータ装置30を挙げたが、これらは本発明を説明する上で必要な構成要素を列挙したに過ぎない。従って、本発明に係る測量システムは、他の構成要素を追加して実現されてもよい。
また、上述した実施形態における、各構成要素の数は一具体例に過ぎず、本発明の目的を達成する範囲において適宜変更されてもよい。
【0035】
図2に図示するターゲットマーカ10の態様は一具体例であり、他の態様のターゲットマーカによって本発明が実施されてもよい。
例えば、図2に図示するターゲットマーカ10は、その一部領域が再帰性反射材であるに過ぎないが、本発明に係るターゲットマーカは、その全体領域が再帰性反射材である態様であってもよい。また、本発明に係るターゲットマーカは、片面だけに各領域が設けられていてもよく、表面と裏面で異なる態様で各領域が配置されてもよい。
【0036】
図4のフローチャートに含まれる各処理のうち、本発明の目的を達成する範囲において、一部を省いてもよく、図示していない処理を追加してもよい。
例えば、図4のフローチャートは、ステップS103の処理(レーザスキャナ20による測定)を複数回行い、ステップS109において、それぞれの測定結果として得られた点群データ同士を結合することを前提とするものであるが、本発明は単一の測定に適用されてもよく、この変形例の場合、点群データ同士を結合する処理は不要である。
本発明を単一の測定に適用する変形例としては、例えば、ターゲットマーカの存在位置を原点座標(公共座標)とする測量などが考えられる。
【0037】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカを配置するマーカ配置工程と、レーザスキャナの測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に前記レーザスキャナを配置して、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得する測量工程と、コンピュータ装置が、前記測量工程において取得された点群データにおいて測定不能だった範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するマーカ特定工程と、を含むことを特徴とする測量方法。
(2)前記測量工程は、第一の位置に前記レーザスキャナを配置して、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して第一点群データを取得する第一測量工程と、前記第一の位置とは異なる第二の位置に前記レーザスキャナを配置して、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して第二点群データを取得する第二測量工程と、を含み、前記マーカ特定工程において、前記コンピュータ装置が、前記第一点群データ及び前記第二点群データのそれぞれについて前記エラーマップを生成して前記ターゲットマーカの存在位置を特定し、前記コンピュータ装置が、前記第一点群データから特定された前記ターゲットマーカの存在位置と、前記第二点群データから特定された前記ターゲットマーカの存在位置と、が重畳するように前記第一点群データと前記第二点群データを結合して第三点群データを生成する結合工程を更に含む、(1)に記載の測量方法。
(3)前記マーカ特定工程において、前記コンピュータ装置は、前記エラーマップに表されている測定不能な範囲の形状が、所定の形状であるものを前記ターゲットマーカの存在位置として特定する、(1)又は(2)に記載の測量方法。
(4)前記マーカ特定工程において、前記コンピュータ装置は、前記エラーマップに表されている測定不能だった範囲のうち、当該範囲の大きさが所定の閾値に収まるものを前記ターゲットマーカの存在位置として特定する、(1)から(3)のいずれか一つに記載の測量方法。
(5)前記マーカ配置工程において、三つ以上の前記ターゲットマーカが配置される、(1)から(4)のいずれか一つに記載の測量方法。
(6)前記ターゲットマーカは、当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域を有している、(5)に記載の測量方法。
(7)前記ターゲットマーカは平板であり、前記平板の両面が前記第一領域を有しており、いずれの面の前記第一領域も同一である、(6)に記載の測量方法。
(8)前記ターゲットマーカは、当該ターゲットマーカの中心位置を表す形状、模様又は色彩を含む第二領域を有している、(6)又は(7)に記載の測量方法。
(9)前記ターゲットマーカは、前記第一領域及び前記第二領域が前記再帰性反射材を設けた領域によって囲まれている、(8)に記載の測量方法。
(10)レーザスキャナによる測量に用いられるターゲットマーカであって、少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されており、当該ターゲットマーカを他のターゲットマーカと識別する形状、模様又は色彩を含む第一領域を有している、ことを特徴とするターゲットマーカ。
(11)前記ターゲットマーカは平板であり、前記平板の両面が前記第一領域を有しており、いずれの面の前記第一領域も同一である、(10)に記載のターゲットマーカ。
(12)前記ターゲットマーカは、当該ターゲットマーカの中心位置を表す形状、模様又は色彩を含む第二領域を有している、(10)又は(11)に記載のターゲットマーカ。
(13)前記ターゲットマーカは、前記第一領域及び前記第二領域が前記再帰性反射材を設けた領域によって囲まれている、(12)に記載のターゲットマーカ。
(14)少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカと、測定範囲に前記ターゲットマーカの存在位置を含む位置に配置され、前記ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得するレーザスキャナと、前記レーザスキャナによって取得された点群データから測定不能な範囲を検出してエラーマップを生成し、生成した前記エラーマップに基づいて前記ターゲットマーカの存在位置を特定するコンピュータ装置と、を備えることを特徴とする測量システム。
【符号の説明】
【0038】
10(10a、10b、10c) ターゲットマーカ
20(20a、20b) レーザスキャナ
30 コンピュータ装置
11、12、13、14 領域
A1、A2 エリア
【要約】
【課題】レーザスキャナを用いた測量を高精度に行うことができる測量方法、並びに、その測量方法に利用可能なターゲットマーカ及び測量システムを提供する。
【解決手段】少なくとも一部の領域が再帰性反射材によって形成されているターゲットマーカを配置する工程(ステップS101)と、レーザスキャナの測定範囲にターゲットマーカの存在位置を含む位置にレーザスキャナを配置して、ターゲットマーカの周囲空間を測量して点群データを取得する工程(ステップS103)と、コンピュータ装置が、測量工程において取得された点群データにおいて測定不能だった範囲を検出してエラーマップを生成し、生成したエラーマップに基づいてターゲットマーカの存在位置を特定する工程(ステップS107)と、を含むことを特徴とする測量方法。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4