(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】膝関節治療用固定具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/72 20060101AFI20230616BHJP
A61B 17/80 20060101ALI20230616BHJP
A61B 17/86 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
A61B17/72
A61B17/80
A61B17/86
(21)【出願番号】P 2023500407
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2022040581
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2021178477
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521478142
【氏名又は名称】AUSPICIOUS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000693
【氏名又は名称】弁護士法人滝田三良法律事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦田 光也
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第209301279(CN,U)
【文献】国際公開第2015/146866(WO,A1)
【文献】特表2006-506197(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101874749(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/72
A61B 17/80
A61B 17/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
請求項1記載の膝関節治療用固定具において、
前記髄内釘部は、脛骨に挿入された状態において、前記本体挿入部に対する前記延出部の屈曲方向が側面像で膝関節中心より前方に傾斜し且つ正面像で膝関節中心より内側に傾斜して延びる形状に形成され、
前記髄内釘部の前記本体挿入部を鉛直方向に延びる姿勢として平面視したとき、前記第1スクリューは、
螺合方向に沿った当該第1スクリューの軸線が前記髄内釘部の前記延出部に対して10°~70°の角度をもって交差するように前記フレーム部に螺合されることを特徴とする膝関節治療用固定具。
【請求項3】
請求項1記載の膝関節治療用固定具において、
前記髄内釘部は、脛骨に挿入された状態において、前記本体挿入部に対する前記延出部の屈曲方向が側面像で膝関節中心より前方に傾斜し且つ正面像で膝関節中心より内側に傾斜して延びる形状に形成され、
前記髄内釘部の前記本体挿入部の先端部同士からそれぞれ1cmの位置にある断面中心部を結ぶ方向に対して、前記第1スクリューは、
螺合方向に沿った当該第1スクリューの軸線が10°~70°の角度をもって交差するように前記フレーム部に螺合されることを特徴とする膝関節治療用固定具。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項記載の膝関節治療用固定具において、
前記髄内釘部の前記延出部は、該
延出部の長手方向を回転軸として前記本体挿入部に対して回転可能とされていることを特徴とする膝関節治療用固定具。
【請求項8】
請求項7記載の膝関節治療用固定具において、
前記フレーム部には、2つ以上のスクリュー穴が形成されており、少なくとも一対のスクリュー穴は、脛骨の長軸方向に並設されていることを特徴とする膝関節治療用固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術において脛骨の切断部位を固定する膝関節治療用固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性膝関節症の治療法としては、関節内注射、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術などが挙げられる。初期或いは軽度の変形性膝関節症である場合には、関節内注射によって、ヒアルロン酸を膝関節に注射することにより、痛みを軽減させることができる。また、変形性膝関節症の症状が進行した場合には、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術や人工膝関節置換術が行われる。
【0003】
高位脛骨骨切り術は、膝関節の屈曲を外科的手術によって矯正するものであり、膝関節側の脛骨に切り込みを入れ、この切り込み部分を金属製のプレートで固定する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
人工膝関節置換術は、外科的手術によって摩耗した膝関節を除去して人工の膝関節を形成するものであり、膝関節の大腿骨側を削って大腿骨コンポーネントを装着し、膝関節の脛骨側を削って脛骨コンポーネントを装着する(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術や人工膝関節置換術によれば、変形性膝関節症の症状が進行して歩行困難な状態になっていた場合であっても、術後に歩行が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-175197号公報
【文献】特開2020-93063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術や人工膝関節置換術では、術後に膝関節及び下腿近位外側に感覚障害が生じることがある。例えば、高位脛骨骨切り術における正中縦切開によると伏在神経膝蓋下枝が切断され、これによって、膝外側の感覚麻痺が生じてしまう。
【0008】
また、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術において脛骨の切断位置を固定しているプレートは、スクリューによって脛骨の側面に固定されるが、外部から付与される荷重によってスクリューの先端側が撓んで固定性が低下したり、スクリューとプレートとの連結部分で破損が生じる場合がある。或いは、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術によって設けたプレートの反対側の脛骨外側が、荷重を支え切れず、脛骨に摩耗や骨折が生じるおそれがあり、場合によっては、プレート自体が破損するおそれもある。
【0009】
また、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術によって脛骨に切り込みが形成されるため、運動や歩行時の回旋力が、切り込みの反対側の脛骨外側に伝達されて骨癒合に悪影響を及ぼしたり、疼痛を生じさせたりするおそれがある。
【0010】
一方、人工膝関節置換術ではプレートを用ず、脛骨コンポーネントの下方に延びる突起が脛骨の中央に挿入されて固定されているが、人工関節と骨との異種接合によって、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術による治療に比べて術後の活動性に制限が生じ、現状では激しいスポーツや重労働、正座が可能となるまでの治癒が望み難い。
【0011】
上記の点に鑑み、本発明は、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術に用いて感覚麻痺や脛骨の損傷、矯正後の転位を防止することができ、高い耐久性の有する膝関節治療用固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明は、膝関節治療の際に脛骨の切り込み部位を固定する固定具であって、脛骨に挿入される髄内釘部と、脛骨近位部内側にあてがわれるフレーム部と、前記フレーム部に形成されたスクリュー穴に貫通もしくは貫通螺合してプレスフィットさせて前記フレーム部を脛骨に固定する第1スクリューと、前記髄内釘部に形成されたスクリュー穴に貫通もしくは貫通螺合して前記髄内釘部を脛骨に固定する第2スクリューとを備え、前記髄内釘部は、脛骨骨幹部髄腔に脛骨近位部前内側から挿入されて脛骨骨軸方向に延びる本体挿入部と、前記本体挿入部の一端に連設されて前記本体挿入部に対して屈曲して延びる延出部とを備え、前記フレーム部は、前記髄内釘部の前記延出部近位端に連結もしくは連設されていることを特徴とする。
【0013】
なお、本明細書において貫通螺合はねじ込むものであり、貫通はねじ込まずに挿入されるものをいう。また、本明細書において連結は別体のものを取り付けたものであり、連設は一体に設けられているものをいう。
【0014】
また、本発明において、前記髄内釘部は、脛骨に挿入された状態において、前記本体挿入部に対する前記延出部の屈曲方向が側面像で膝関節中心より前方に傾斜し且つ正面像で膝関節中心より内側に傾斜して延びる形状に形成され、前記髄内釘部の前記本体挿入部の先端部同士からそれぞれ1cmの位置にある断面中心部を結ぶ方向に対して、前記第1スクリューは、螺合方向に沿った当該第1スクリューの軸線が10°~70°の角度をもって交差するように前記フレーム部に螺合されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明において、前記髄内釘部は、脛骨に挿入された状態において、前記本体挿入部に対する前記延出部の屈曲方向が側面像で膝関節中心より前方に傾斜し且つ正面像で膝関節中心より内側に傾斜して延びる形状に形成され、前記髄内釘部の前記本体挿入部の先端部同士からそれぞれ1cmの位置にある断面中心部を結ぶ方向に対して、前記第1スクリューは、螺合方向に沿った当該第1スクリューの軸線が10°~70°の角度をもって交差するように前記フレーム部に螺合されることを特徴とする。
【0016】
また、髄内釘部の脛骨への刺し込み開始位置を脛骨近位粗面部の中央位置から内側にずらした位置に定めることができ、脛骨近位粗面部の中央位置から刺し込み開始する場合に比べて、膝蓋腱を損傷することなく刺し込み開始位置を直視することができる。これによれば、髄内釘挿入に伴う組織侵襲を最小限に抑え安全に手術を行うことができる。
【0017】
更に、フレーム部に貫通螺合もしくは貫通してプレスフィット固定させたスクリューにより、膝関節の回旋による骨片間の動きを制御することができ、安定した固定が可能となる。しかも、髄内釘部によってフレーム部が小さくてよく、フレーム部による圧迫や刺激が最小限となるので、神経麻痺や刺激痛の発生を抑制することができる。
【0018】
また、本発明において、前記フレーム部は、前記髄内釘部に対して脛骨の長手方向に沿って揺動可能且つ固定可能に設けらていることを特徴とする。これによれば、骨形態に応じて骨の表面に沿ってフレーム部を設置することができる。
【0019】
また、本発明において、前記髄内釘部の前記延出部は、該延出部の長手方向に沿って伸縮自在とされていることを特徴とする。これによれば、フレーム部と本体挿入部との距離を適宜調整することができ、骨の大きさによらず適切な位置に設置することができる。
【0020】
また、本発明において、前記髄内釘部の前記延出部は、該延出部の長手方向を回転軸として前記本体挿入部に対して回転可能とされていることを特徴とする。これによれば、矯正度合いに応じて延出部の向きを変化させることができ、骨の矯正に応じて適切な位置に髄内釘部を挿入することができる。
【0021】
また、本発明において、前記フレーム部の最上位のスクリュー穴に挿入される前記第1スクリューは、側面視した脛骨の関節面に対して0~10°の角度をもって挿入されることを特徴とする。これにより、適切な位置に第1スクリューを挿入して矯正状態を良好に保持することできる。
【0022】
また、本発明において、前記フレーム部には、2つ以上のスクリュー穴が形成されており、少なくとも一対のスクリュー穴は、脛骨の長軸方向に並設されていることを特徴とする。これによれば、より強固な固定状態を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態の膝関節治療用固定具の使用状態を示す説明図。
【
図2】本実施形態の膝関節治療用固定具の挿入方向を示す説明図。
【
図3】
図1において、脛骨を平面視して第1スクリューによる固定状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1A及び
図1Bに示すように、本実施形態の膝関節治療用固定具1(以下、固定具1)は、変形性膝関節症の治療法である高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術において、脛骨aに形成した切り込みに人工骨b等のスペーサーを差し込んだ状態を固定するために用いられるものである。
【0025】
先ず、本実施形態の固定具1の構成について説明する。固定具1は、髄内釘部2と、フレーム部3と、フレーム部3のスクリュー穴4に貫通螺合もしくは貫通してプレスフィット固定する第1スクリュー5と、髄内釘部2のスクリュー穴6に貫通もしくは貫通螺合する第2スクリュー7とを備えている。
【0026】
髄内釘部2は、脛骨aの骨幹部髄腔で脛骨aの長軸方向に延びる本体挿入部21と、本体挿入部21の上端に屈曲部22を介して連設された延出部23とを備えている。
【0027】
フレーム部3は、髄内釘部2の延出部23の近位端に固設されている。フレーム部3には1か所もしくは複数のスクリュー穴4が形成可能な面積と厚みを有しており、各スクリ
ュー穴4には、第1スクリュー5が貫通螺合もしくは貫通してプレスフィット固定される。
【0028】
髄内釘部2には、1か所もしくは複数のスクリュー穴6が形成されている。そして、各
スクリュー穴6には、第2スクリュー7が貫通もしくは貫通螺合される。
【0029】
髄内釘部2は、
図2A及び
図2Bに示すように、側面像で膝関節中央部よりも前方であって、正面像で膝関節cの内側の斜め上方から脛骨aに挿入される(挿入位置及び方向を図中矢印Pで示す)。
【0030】
こうすることにより、髄内釘部2を、膝関節cから脛骨aの中央位置(図中一点鎖線Sで示す)からずらして脛骨aに挿入することができ、膝関節cの前方を通る伏在神経(図示省略)の損傷を防止することができる。
【0031】
各第1スクリュー5は、
図3A、
図3Bに示すように、それぞれ、延出部23の平面視した軸線X1に対する挿入方向(仮想線X2で示す)の交差角度θが10°~70°の範囲内になるように設定される。
【0032】
こうすることにより、フレーム部3の固定位置において伏在神経の損傷リスクを最小限に抑えて、確実に脛骨aの切り込み位置を固定することができる。
【0033】
しかも、脛骨aの切り込み位置に回旋応力が生じても、従来のプレートによる骨外からの固定に比べて、その回旋運動の軸中心に近い骨内での固定が可能となることによって高い安定性が得られ、髄内釘部2によって脛骨aの切り込み位置の損傷や矯正後の転位が防止でき、高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術による良好な回復が得られることから、激しいスポーツや重労働、正座が可能となる。
【0034】
なお、本実施形態においては、髄内釘部2とフレーム部3とが一体に形成されているものを示したが、髄内釘部2とフレーム部3とを別体に形成しておき、骨形状に応じてフレーム部3を選択、交換可能としてもよい。
【0035】
或いは、髄内釘部2に対してフレーム部3を枢着して回転自在とすると共に適宜角度で固定して用いるように構成してもよい。これによれば、骨形態に応じて骨表面に沿うように設置することができ、良好な矯正状態を形成することができる。
【0036】
また、
図4に示すように、延出部23に伸縮可能となる伸縮部24を介設してもよい。伸縮部24は、例えばテレスコピック構造等を採用することができる。更に、伸縮部24を所望の位置で固定するためのロック部(図示せず)を設ける。
【0037】
これにより、フレーム部3と本体挿入部21との距離が可変可能となり、骨の大きさ等に対応させて適切な位置にフレーム部3を設置することができる。或いはこれ以外に、延出部23の近位端とフレーム部3との連接部にスペーサー等を設置することで、同様の効果を得ることができる。
【0038】
また、フレーム部3に挿入される第一スクリュー5は可能な限り脛骨の関節面の直下に挿入される方が固定性に優れているため、第一スクリュー5が脛骨関節面から20mm以内に挿入されるように調整することが可能となる。
【0039】
また、
図5に示すように、延出部23に回転部25を設け、延出部23が本体挿入部21に対して回転可能となるように構成してもよい。この場合、回転部25を介して回転させた延出部23を所望の位置で固定するためのロック部(図示せず)を設ける。なお、伸縮部24に前述のテレスコピック構造を採用した場合には、回転部25を容易に形成することができる。
【0040】
これによれば、矯正度合いに応じて延出部23の向きを変化させることができ、骨の矯正に応じて適切な位置に髄内釘部2を挿入することができる。更にこのとき、回転部25が骨切り開大部付近に位置させることが好ましい。
【0041】
また、本実施形態においては、フレーム部3として板状のものを示したが、フレーム部3の形状は板状に限るものではなく、例えば、平面視円弧形状に形成されていてもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、フレーム部3のスクリュー穴4を横方向に2つ並べて形成したことにより、2本の第1スクリュー5を横並びに配置する構成を示したが、図示しないが、フレーム部3の複数(少なくとも一対)のスクリュー穴4を縦方向に(脛骨aの長手方向に)並べて形成してもよい。これにより、第1スクリュー5が縦方向に並び、一層強固な固定状態を形成することができる。
【0043】
このとき更に、フレーム部3の最上位のスクリュー穴4に挿入される第1スクリュー5が脛骨の関節面に平行若しくは0~10°の角度範囲で挿入されていることがよく、さらに好ましく平行若しくは0~3°の角度範囲で挿入されていることが望ましい。或いは、その方向に可変して第1スクリュー5を挿入して固定できる構造を採用してもよい。これにより、適切な位置に第1スクリュー5を挿入して良好な矯正を保持することできる。
【0044】
また、本実施形態においては、第1スクリュー5を2本用いた例を示したが、第1スクリュー5の本数はこれに限るものではなく、例えば、用いる第1スクリュー5は1本のみであってもよい。
【符号の説明】
【0045】
a…脛骨、c…膝関節、1…固定具(膝関節治療用固定具)、2…髄内釘部、3…フレーム部、4,6…スクリュー穴、5…第1スクリュー、7…第2スクリュー、21…本体挿入部、23…延出部。
【要約】
【課題】高位脛骨骨切り術等の矯正骨切り術に用いて感覚麻痺や脛骨の損傷、矯正後の転位を防止することができ、高い安定性と耐久性を有する膝関節治療用固定具を提供する。脛骨(a)に挿入される髄内釘部(2)と、脛骨(a)の近位部内側にあてがわれるフレーム部(3)と、フレーム部(3)のスクリュー穴(4)に貫通螺合もしくは貫通してプレスフィット固定してフレーム部(3)を脛骨(a)に固定する第1スクリュー(5)と、髄内釘部(2)のスクリュー穴(4)に貫通もしくは貫通螺合して髄内釘部(2)を脛骨(a)に固定する第2スクリュー(7)とを備える。髄内釘部(2)は、脛骨(a)の中央内腔に延びる本体挿入部(21)と、本体挿入部(21)に対して屈曲して延びる延出部(23)とを備える。フレーム部(3)は、髄内釘部(2)の延伸部(23)の近位端に連結もしくは連設されている。