(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】給糸装置
(51)【国際特許分類】
D04B 15/48 20060101AFI20230616BHJP
D04B 15/30 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
D04B15/48
D04B15/30
(21)【出願番号】P 2018193894
(22)【出願日】2018-10-12
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昌紀
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-090665(JP,A)
【文献】特開2001-064854(JP,A)
【文献】中国特許第103614854(CN,B)
【文献】特開平08-176942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B3/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つが歯口を挟んで前後に対向し、前後の方向に垂直な長手方向に編針が並設される針床と、
針床の長手方向に沿って往復移動可能で、編針を順次選択して編地編成のための駆動を行う編成用カムを搭載するキャリッジと、
歯口の上方に架設され、針床の長手方向に延びる糸道レールを備える横編機で、
糸道レールに沿って長手方向への走行が可能で、編成用カムで選択された編針に、編糸を供給する経路の一部となる走行部材を含み、
糸道レール
には、前後方向となる側方に、走行部材を長手方向に走行可能な状態で支持するトラックが形成され、
走行部材は、連行部材を介してキャリッジに連行さ
れる連行式の走行部材と、キャリッジに連行されないで走行可能な自走式の走行部材と
を含む給糸装置において、
該長手方向に延びる移動部分を有し、該移動部分は、該トラックに装着される該走行部材を該トラックとの間で挟むことが可能な間隔を該前後の方向にあけて、該走行部材に対して内側となる該トラックに対し、該走行部材の外側に並行するように配置される移動部材と、
自走式の走行部材を該移動部分に連結する連結部材と、
該長手方向の端部側に設けられ、該移動部材および該連結部材を介して、該自走式の走行部材を、走行させるように駆動可能な移動用駆動部を含み、
移動部材は、トラックとの前後の方向の間隔が異なるように、並行する二つの移動部分を有し、該二つの移動部分は相互に逆の方向に移動するように、長手方向の両端でそれぞれ連結される、
ことを特徴とする給糸装置。
【請求項2】
前記
連結部材は、
前記トラックとの間隔が狭い方の
前記移動部分を前記自走式の走行部材に連結する
ことを特徴とする請求項1記載の給糸装置。
【請求項3】
前記糸道レールは、前記前後の方向の両側に前記トラックを有して、該前後の方向に複数が並設され、
前記自走式の走行部材は、少なくとも二つが隣接する糸道レールで対向するトラックの一方と他方とにそれぞれ装着され、
前記移動部材は、少なくとも二つが隣接する糸道レール間の上下に分けて配置されて、それぞれ該一方のトラックと該他方のトラックとに装着される走行部材を移動させる
ことを特徴とする請求項1または2記載の給糸装置。
【請求項4】
前記キャリッジは、
前記連行部材を備え、
連行部材は、前記連行式の走行部材と係合可能で、係合すると該連行式の走行部材を連行して走行させ
、
前記自走式の走行部材は、
該連行式の走行部材と同一のトラックに装着可能で、
該連行式の走行部材が該同一トラックで予め定める距離まで接近すると、該連行式の走行部材と該連行部材との係合を解くように作用して該キャリッジによる該連行式の部材との連行を解除する連行解除部を有する
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の給糸装置。
【請求項5】
前記連結部材は、前記移動部材に取付けられ、前記自走式の走行部材に対し、上下方向に着脱可能である
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の給糸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機の針床の上方を針床の長手方向に自走可能で、針床の編針に編地を編成するための編糸を供給する経路の一部となる走行部材を含む給糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機は、長手方向に編針が並設される針床と、針床の上方に架設されて針床の長手方向に延びる糸道レールとを備えている。編地は、糸道レールに設けるトラックに装着され、長手方向に走行するヤーンフィーダーを経て編針に供給される編糸で編成される。今日では、針床の長手方向に沿って往復移動可能なキャリッジを備え、編地を編成するための編針の駆動を、キャリッジに搭載するカムで行う形式の横編機が多く使用されている。キャリッジを備える横編機では、ヤーンフィーダーもキャリッジに連行される連行式のものが多く使用されるけれども、キャリッジに連行されないで走行可能な自走式のヤーンフィーダーも使用される。
【0003】
連行式のヤーンフィーダーを使用する場合、キャリッジにはヤーンフィーダーと選択的に係合して、連行するか否かを切替え可能な連行ピンなどの連行部材が設けられる。しかしながら、連行式のヤーンフィーダーを使用すると、編地を編成するコースの途中で走行するヤーンフィーダーを切替えるなど、キャリッジの走行停止や反転移動が必要になって、編地の編成効率が低下する場合がある。このような場合、自走式のヤーンフィーダーを使用すれば、編成効率を低下させないようにすることができる。ただし、自走式のヤーンフィーダーを使用する場合、ヤーンフィーダーを糸道レールに沿って走行させるためのベルトなどの移動部材と、移動部材を駆動する機構とが必要となる。このため、自走式のヤーンフィーダーのみを使用する横編機は、連行式のヤーンフィーダーのみを使用する横編機よりも構成が複雑となり、製造コストが上昇してしまう。
【0004】
本件出願人は、連行式のヤーンフィーダーを自走させることも可能な横編機の糸供給装置を開示している(たとえば、特許文献1参照)。この糸供給装置は、糸道レールの長手方向に移動部材を設け、連行式のヤーンフィーダーを移動部材と係合可能にして、係合状態のヤーンフィーダーの自走も可能にしている。連行式のヤーンフィーダーと自走式のヤーンフィーダーとを、異なる構造の糸道レールに装着して、併用する構成の横編機も開示されている(たとえば、特許文献2参照)。特許文献2の
図3cおよび
図3dには、連行式のヤーンフィーダー(40)と自走式のヤーンフィーダー(50)とを、一側面に混在させる糸道レール(60')の例、および上下に分けて配置する糸道レール(60")の例がそれぞれ示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2903152号公報
【文献】欧州特許公開第3115491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自走式のヤーンフィーダーを走行させるための移動部材は、糸道レールの内部など、トラックに装着されるヤーンフィーダーの内側に配置される。移動部材を内部に配置可能な自走式用の糸道レールは、移動部材を配置しないで、連行式のヤーンフィーダーを走行させるために使用することも可能である。自走式用の糸道レールに連行式のヤーンフィーダーのみを使用しておき、横編機としての製造後の仕様変更で、連行式のヤーンフィーダーと自走式のヤーンフィーダーとを交換したり、混在させたりすることも可能である。このような場合、移動部材や駆動部を追加する必要がある。しかしながら、取付け済みの糸道レール間で対向するトラックに移動部材などを追加する作業は、レール間のスペースが狭いので困難である。このような作業は、一旦、糸道レールを取外して行う方が容易になる。また、連行式のヤーンフィーダーのみ使用する場合に、自走式用の糸道レールを使用するとコスト高となってしまうので、連行式のヤーンフィーダーのみを使用可能な糸道レールを使用しておき、仕様変更などの必要に応じて取外して、自走式用の糸道レールや駆動部を含むユニットに交換することも考えられる。ただし、取外した糸道レールや交換した糸道レールを架設する作業は、水平、平行、相互間隔などの調整を要するので、困難で手間がかかる。
【0007】
本発明の目的は、ヤーンフィーダーなどの走行部材に関し、連行式と自走式との仕様変更や混在などの工程に必要な作業を、糸道レール間のスペースを利用して行うことが容易な給糸装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも二つが歯口を挟んで前後に対向し、前後の方向に垂直な長手方向に編針が並設される針床と、
針床の長手方向に沿って往復移動可能で、編針を順次選択して編地編成のための駆動を行う編成用カムを搭載するキャリッジと、
歯口の上方に架設され、針床の長手方向に延びる糸道レールを備える横編機で、
糸道レールに沿って長手方向への走行が可能で、編成用カムで選択された編針に、編糸を供給する経路の一部となる走行部材を含み、
糸道レールには、前後方向となる側方に、走行部材を長手方向に走行可能な状態で支持するトラックが形成され、
走行部材は、連行部材を介してキャリッジに連行される連行式の走行部材と、キャリッジに連行されないで走行可能な自走式の走行部材と
を含む給糸装置において、
該長手方向に延びる移動部分を有し、該Z間隔を該前後の方向にあけて、該走行部材に対して内側となる該トラックに対し、該走行部材の外側に並行するように配置される移動部材と、
自走式の走行部材を該移動部分に連結する連結部材と、
該長手方向の端部側に設けられ、該移動部材および該連結部材を介して、該自走式の走行部材を、走行させるように駆動可能な移動用駆動部をさらに含み、
移動部材は、トラックとの前後の方向の間隔が異なるように、並行する二つの移動部分を有し、該二つの移動部分は相互に逆の方向に移動するように、長手方向の両端でそれぞれ連結される、
ことを特徴とする給糸装置である。
【0009】
また本発明で、前記連結部材は、前記トラックとの間隔が狭い方の前記移動部分を前記自走式の走行部材に連結する
ことを特徴とする。
【0010】
また本発明で、前記糸道レールは、前記前後の方向の両側に前記トラックを有して、該前後の方向に複数が並設され、
前記自走式の走行部材は、少なくとも二つが隣接する糸道レールで対向するトラックの一方と他方とにそれぞれ装着され、
前記移動部材は、少なくとも二つが隣接する糸道レール間の上下に分けて配置されて、それぞれ該一方のトラックと該他方のトラックとに装着される走行部材を移動させる
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記キャリッジは、前記連行部材を備え、
連行部材は、前記連行式の走行部材と係合可能で、係合すると該連行式の走行部材を連行して走行させ、
前記自走式の走行部材は、
該連行式の走行部材と同一のトラックに装着可能で、
該連行式の走行部材が該同一トラックで予め定める距離まで接近すると、該連行式の走行部材と該連行部材との係合を解くように作用して該キャリッジによる該連行式の部材との連行を解除する連行解除部を有する
ことを特徴とする。
【0012】
また本発明の前記連結部材は、前記移動部材に取付けられ、前記自走式の走行部材に対し、上下方向に着脱可能である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、編針に編糸を供給する経路の一部となって糸道レールに装着される自走式の走行部材は、移動用駆動部が移動部材および連結部材を介して移動するように駆動する。移動部材は糸道レールのトラックの外側に間隔をあけて並行するように配置され、移動用駆動部は移動部材を糸道レールの長手方向の端部側で駆動する。長手方向の端部間の糸道レール相互間を、移動部材を配置するスペースとして利用することで、連行部材を介してキャリッジに連行される連行式と自走式との仕様変更や混在などの工程に必要な作業を容易に行うことができる。連行式から自走式や連行式と自走式との混在などへの仕様変更の工程に必要な手間が軽減可能となる。連行式の走行部材を装着するために架設する糸道レールを、自走式の走行部材を装着する糸道レールとしても使用することができるので、糸道レールの交換に伴う再調整も不要となる。また、移動部材は二つの移動部分が長手方向の両端で連結されて相互に逆の方向に移動する。移動用駆動部は糸道レールの一つの端部で移動部材を駆動すればよい。
【0014】
また本発明によれば、連結部材と走行部材との連結は、トラックとの間隔が狭い方の走行部材との間で行うので、連結の作業を容易に行うことができる。
【0015】
また本発明によれば、隣接する糸道レール間の上下に分けて配置される移動部材は、隣接する糸道レール間で対向するトラックの一方と他方とにそれぞれ装着される自走式の走行部材を走行させる。糸道レール間の隙間が狭くても、二つの移動部材を上下に配置して効率よく収めることができる。
【0016】
また本発明によれば、糸道レールの同一のトラックに連行式の走行部材と自走式の走行部材とを混在させる場合に、連行式の走行部材がキャリッジに連行されて自走式の走行部材に予め定める距離まで接近すると、連行解除部で連行が解除される。キャリッジが走行を続けても、連行式の走行部材は連行が解除されるので、衝突を回避するか、衝突しても衝撃を緩和することができる。衝突事故を防ぐために自走式の走行部材の位置を、キャリッジの位置に応じて変えるような制御を行う必要もなく、制御の簡易化も図ることができる。
【0017】
また本発明によれば、自走式の走行部材を糸道レールのトラックに装着してから、移動部材をトラックに対して走行部材の外側に配置する。この配置作業は、移動部材を糸道レール間の隙間などの狭いスペースに上方から挿入して行うことができ、その際に、連結部材で移動部材を走行部材に連結する作業も容易に行うことができる。移動部材と自走式の走行部材の連結の解除は、移動部材とともに連結部材を上方に離脱させて行うことができる。走行部材を連行式から自走式に変えたり、連行式とともに自走式を追加したりする仕様変更の作業は、一層容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例である給糸装置1の概略的な構成を示す左側面図である。
【
図2】
図2は、
図1の給糸装置1を含む横編機10の部分的な平面図である。
【
図3】
図3は、
図1の給糸装置1に走行部材として含まれるヤーンフィーダー3の平面図および正面図である。
【
図4】
図4は、
図1の給糸装置1に含まれる連結部材5aの平面図および正面図である。
【
図5】
図5は、ヤーンフィーダーに
図4の連結部材5aを装着した状態を示す簡略化した平面図および正面図である。
【
図6】
図6は、
図1の給糸装置1に含まれる移動用駆動部12bの平面図、正面図および右側面図である。
【
図7】
図7は、
図1の給糸装置1に含まれる移動用駆動部12aの平面図、正面図および左側面図である。
【
図8】
図8は、
図3のヤーンフィーダー3aの連行解除部6aによる連行式のヤーンフィーダー60に対する連行解除の動作を示す簡略化した平面図および正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1から
図8で、本発明の一実施例である給糸装置1の概略的な構成について説明する。説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。参照符のうち、"a","b","c","d"が付加されているものは、基本的に同等であり、付加しない参照符で総称することもある。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明の一実施例である給糸装置1の概略的な側面構成を示す。本実施例の給糸装置1は、糸道レール2a,2bと、ヤーンフィーダー3a,3bと、移動用ベルト4a,4bと、連結部材5a,5bを含み、横編機で編地編成用の編糸を編針に供給するために使用される。そのような横編機は、長手方向に編針が並設される針床と、針床の長手方向に沿って往復移動可能で、編針を順次選択して編地編成のための駆動を行う編成用カムを搭載するキャリッジを含む。針床は、長手方向と垂直な前後の方向に、少なくとも前針床と後針床との二つが対向して設けられる。糸道レール2a,2bは、針床間の隙間となる歯口の上方に架設され、針床の長手方向に延びる。
【0021】
糸道レール2a,2bは、図の左右両側にヤーンフィーダー3a,3bを装着するためのトラック2aB,2aF,2bB,2bFを有する。図の左方と右方とは、横編機として後針床と前針床とがそれぞれ設けられる後Bと前Fの方向とする。本実施例のヤーンフィーダー3a,3bは、糸道レール2aの右側のトラック2aFと、糸道レール2bの左側のトラック2bBとにそれぞれ装着される。トラック2aF,2bBに装着されたヤーンフィーダー3a,3bは、長手方向への走行が可能な自走式の走行部材となり、編成用カムによって駆動される編針に編地編成用の編糸を供給する経路の一部となる。移動用ベルト4a,4bは、糸道レール2a,2bの長手方向に延びる移動部材であり、糸道レール2a,2bのトラック2aF,2bBに装着されるヤーンフィーダー3a,3bの外側のスペースに配置され、ヤーンフィーダー3a,3bをトラック2aF,2bBとの間に挟む。このスペースは、ヤーンフィーダー3a,3bの走行に支障が生じないように、元々、空けておく必要がある。連結部材5a,5bで移動用ベルト4a,4bをヤーンフィーダー3a,3bにそれぞれ連結すると、移動用ベルト4a,4bによる移動で、ヤーンフィーダー3a,3bは、針床の長手方向に移動可能な自走式の走行部材となる。
【0022】
少なくとも二つの移動用ベルト4a,4bは、隣接する糸道レール2a,2b間に上下に分けて配置される。上方と下方の移動用ベルト4a,4bは、糸道レール2a,2b間で対向するトラック2aF,2bBにそれぞれ装着されるヤーンフィーダー3a,3bを、並行する二つの帯状の移動部分のうちの近い方の移動部分で、ヤーンフィーダー3a,3bを移動させる。給糸装置1に含まれる連結部材5a,5bは、ヤーンフィーダー3a,3bを移動用ベルト4a,4bの近い方、すなわちトラック2aF,2bBとの間隔が狭い方の移動部分にそれぞれ連結する。ヤーンフィーダー3a,3bは、連行解除部6a,6b、基体7a,7b、フィーダーロッド8a,8b、段付ねじ9a,9bを有する。基体7a,7bの上部には、糸道レール2a,2bのトラックの上部と係合する摺動部31a,31bがそれぞれ設けられる。基体7a,7bの下部には、トラックの下部と係合する摺動材32a,32bを、トラックへの装着後に取付けることができる。
【0023】
図2は、
図1の給糸装置1を含む横編機10の部分的な平面構成を示す。針床の長手方向の一端側には、糸道レール2a,2b,2c,2dの一端を支持する支持部材11が設けられる。移動用ベルト4a,4bは、トラック2aF,2bBとの前後方向の間隔が異なるように、並行する二つの帯状の移動部分を有し、長手方向の両端で二つの移動部分がそれぞれ連結される。移動用ベルト4a,4bは、糸道レール2a,2b間の対向するトラック2aF,2bB間のみに配置しているけれども、糸道レール2b,2c間や糸道レール2c,2d間などの内側や、糸道レール2aのトラック2aBなどの外側に配置することもできる。自走式の走行部材となるヤーンフィーダー3a,3bが装着されないトラックには、キャリッジで連行される連行式のヤーンフィーダーを装着することができる。
【0024】
移動用駆動部12bは、支持部材11を利用して装着される。移動用駆動部12bは、糸道レール2a,2b,2c,2dの長手方向の一端で直接に、または一端の外方で部材を介して間接に支持することもできる。移動用駆動部12bは、移動用ベルト4bおよび連結部材5bを介してヤーンフィーダー3bを走行させるように駆動する。移動用ベルト4aは、糸道レール2a,2b,2c,2dの他端側に、一端側の移動用駆動部12bと同様に設ける移動用駆動部12aで駆動する。このように移動用駆動部12a,12bを、長手方向の一端と他端との端部またはその外方に設けることで、移動用ベルト4a,4bは、長手方向の端部間の糸道レール2a,2b,2c,2dの相互間に生じるスペースを利用して配置可能になる。給糸装置1は、移動用駆動部12a,12bを含み、ヤーンフィーダー3a,3bを自走式の走行部材として、キャリッジの走行に合せて給糸のために走行させたり、キャリッジと独立に給糸の準備のために走行させたりすることができる。
【0025】
移動用駆動部12bは、駆動源となる移動用モーター13b、傘歯車14b,15b、駆動プーリー16b、およびアイドルローラー17bを含む。移動用モーター13bは、たとえばサーボモーターが使用され、出力軸が水平方向となるように取付けられ、傘歯車14b,15bで回転方向を上下方向に変換して駆動プーリー16bを回転駆動する。移動用ベルト4bの端部は駆動プーリー16bに巻き掛けられる。アイドルローラー17bは、糸道レール2a,2b間での移動用ベルト4bの間隔を、駆動プーリー16bの径よりも狭めるために設けられる。移動用駆動部12bには、移動用ベルト4aの端部が巻き掛けられる従動プーリー18aおよび移動用ベルト4aの間隔を従動プーリー18aの径よりも狭めるためのアイドルプーリー19aも設けられる。カバー20bは、移動用駆動部12bの各部を覆う。傘歯車14b,15bを介する回転駆動力の伝達は、移動用モーター13bの出力軸を上下方向にすれば、駆動プーリー16bの直接駆動や、平歯車の組合せによる伝達駆動や、プーリーとベルトによる伝達駆動に置換えることもできる。
【0026】
図3は、
図1の給糸装置1のヤーンフィーダー3の平面図を(a)で、正面図を(b)でそれぞれ示す。ヤーンフィーダー3は、基体7、フィーダーロッド8、段付ねじ9、摺動材32、給糸部33、給糸口34を部品として含む。給糸口34は、給糸部33を介してフィーダーロッド8の下端に取付けられ、編糸を編針に案内して供給する。段付ねじ9は、フィーダーロッド8を基体7に高さ調整して取付ける際の固定に用いる。
【0027】
図4は、
図1の給糸装置1の連結部材5aの平面図を(a)で、正面図を(b)でそれ
ぞれ示す。連結部材5aは、基板50および取付板51を含む。移動用ベルト4aは、歯付のベルトであり、取付板51には移動用ベルト4aの歯に適合する凹凸を設けておく。基板50には、移動用ベルト4を収容する二つのベルト溝52が上下二段に設けられ、下方から上方に向けてU溝53が設けられている。連結部材5aは、上段のベルト溝52に上の移動用ベルト4aを収容した状態で、取付板51をねじ止めして移動用ベルト4aと基板50とを固定する。同様に、
図1の連結部材5bは、下段のベルト溝52に下の移動用ベルト4bを収容して取付板51とねじで固定する。移動用ベルト4a,4bは、
図1のように上下二段ではなく、三段以上を上下に配置することもでき、その場合はベルト溝52の段数を対応して増やせばよい。
【0028】
図5は、ヤーンフィーダー3aに連結部材5aを装着した状態の平面図を(a)で、正面図を(b)でそれぞれ示す。
図1に示すトラック2aFにヤーンフィーダー3aを装着する際には、
図1に示す下方の摺動材32aを外して、上方から摺動部31aがトラック2aFの上部に掛るようにすればよい。下方の摺動材32aの取付けは、歯口側から行えばよい。並行する他の糸道レール2のトラック2B,2Fにヤーンフィーダー3が装着されていても、長手方向に位置をずらせば、取付けの作業に支障がない。したがって、狭いスペースでも最小限の手間で作業を行うことができ、糸道レール2の取外しや交換は不要となる。トラック2aFに装着したヤーンフィーダー3aに対し、移動用ベルト4aを取付けた連結部材5aは、上方から装着する。装着は、U溝53に段付ねじ9aが差込まれるように行う。装着した状態から上方に引抜けば、連結部材5aはヤーンフィーダー3aから容易に離脱させることもできる。トラック2aFに装着したヤーンフィーダー3aに対して、移動用ベルト4を直接ねじで取付けることも可能であるけれども、ねじで固定する作業を、糸道レール2間などの狭いスペースで行う必要がある。本実施例のように、ヤーンフィーダー3aに対して上下に着脱可能で移動用ベルト4aが取付けられている連結部材5aを用いれば、着脱作業が容易となる。
【0029】
図6は、
図2の移動用駆動部12bの構成を、カバー20bを除いた状態で、平面図を(a)、正面図を(b)、右側面図を(c)でそれぞれ示す。正面図では、(a)に示す切断線B-Bに沿う断面を示す。(a)に示すアイドルローラー19aは、断面よりも手前側に存在するので、(b)には図示しない。
【0030】
図7は、
図2の横編機10で、糸道レール2a,2b,2c,2dに対する長手方向の他端側に設ける移動用駆動部12aの平面図を(a)、左側面図を(b)、正面図を(c)でそれぞれ示す。正面図では、(a)に示す切断線C-Cに沿う断面を示す。移動用駆動部12aは、移動用モーター13a、傘歯車14a,15a、駆動プーリー16a、アイドルローラー17a、従動プーリー18bおよびアイドルローラー19bを含む。移動用モーター13a、傘歯車14a,15a、駆動プーリー16aおよびアイドルローラー17aは、移動用ベルト4aを駆動するために設けられ、移動用ベルト4bを駆動するための構成と基本的に同等である。従動プーリー18bおよびアイドルローラー19bには、移動用ベルト4bが掛けられる。
【0031】
移動部材である移動用ベルト4は、二つの並行する移動部分を長手方向の両端でそれぞれ連続させる。走行部材であるヤーンフィーダー3を走行させる際には、二つの移動部分は相互に逆方向に移動して循環するので、移動部材の移動を駆動する移動用駆動部12は糸道レール2の一端側に設け、他端側には支持のための従動部を設ければよい。本実施例では、往復の移動用ベルト4を横に並べるので、移動用駆動部12での駆動プーリー、歯車、モーター等の配置をコンパクトにすることができる。移動用ベルト4は、二つの帯状の移動部分を縦にして用いることができるので垂れ難くすることができる。上下に配置する移動用ベルト4a,4bの移動用駆動部12a,12bを糸道レール2の長手方向両端部側に分けて設けている。支持部材11などへの移動用駆動部12a,12bの取付けは、糸道レール2の長手方向の両端部外のスペースを利用して行うことができ、取付けに要する手間も軽減される。移動部材としては、循環する環状のチェーンやワイヤなどの部材を用いることもできる。往復する二つの移動部分は、移動用ベルト4のように横に並べると、糸道レール2に近い方を走行部材に連結し易いけれども、糸道レール2に遠い方を連結することも可能である。往復する二つの移動部分を縦に並べることもでき、二つの移動部分から走行部材への連結は同等に可能となる。また、環状の部材ではなく、柔軟な線状のワイヤなどを、一端で巻取りと繰出し、他端で繰出しと巻取りをそれぞれ行いながら走行部材を移動させることもできる。剛性のあるラックなど移動部材として、一端側で進退駆動し、他端側では支持することも可能である。
【0032】
図8は、ヤーンフィーダー3aの連行解除部6aによる連行式のヤーンフィーダー60に対する連行解除の動作を示す。(a),(b)は、連行式のヤーンフィーダー60が自走式のヤーンフィーダー3aと同一のトラックに装着されて、相互に接近している状態を、平面図および正面図としてそれぞれ示す。ヤーンフィーダー60は、キャリッジに設けられる連行部材である連行ピン61と係合する凹部の壁面が係合部62となり、係合状態でキャリッジに連行されて走行する。ヤーンフィーダー60も、ヤーンフィーダー3aと同様な構成を有する。ヤーンフィーダー3aの連行解除部6aが形成される部分や、ヤーンフィーダー60の係合部62が形成されている部分は、上方に突出しているけれども、
図3に示すように左右で位置がずれている。
【0033】
図8(c)は、ヤーンフィーダー60がヤーンフィーダー3aに接近し、連行解除部6aの先端が連行ピン61の下に入り込む状態を示す。連行ピン61は、キャリッジ側で連行を解除するときは、上方に引上げられ、連行するときは、下降するようにばね付勢されている。下降した連行ピン61の下端は、ヤーンフィーダー60の凹部の底面との間に隙間があり、連行解除部6aの先端を隙間に差込むことができる。ヤーンフィーダー60がヤーンフィーダー3aにさらに接近すると、連行解除部6aの斜面で連行ピン61が押上げられ、(d)に示すように、係合部62よりも連行ピン61の下端が上昇する。このように、予め定める距離まで接近すると、連行解除部6aは、ヤーンフィーダー60と連行ピン61との係合を解くように作用して、連行を解除する。このような連行解除の動作は、従来からトラックの端部に設けられている連行解除用のストッパーにヤーンフィーダー60を当てて行う場合と同様である。
【0034】
なお、キャリッジに連行される同一トラックのヤーンフィーダー60が自走式のヤーンフィーダー3に接近すると、ヤーンフィーダー3が逃げるように制御して衝突を避けることは可能である。自走式のヤーンフィーダー3に連行式のヤーンフィーダー60が衝突しても、連行解除部6でヤーンフィーダー60の連行が解除されるので、衝撃は緩和される。したがって連行解除部6を設ければ、衝突事故を防ぐために自走式のヤーンフィーダー3の位置を、キャリッジの位置に応じて変えるような制御を行う必要もなく、制御の簡易化も図ることができる。また、トラックの端部に自走式のヤーンフィーダー3が止まっているような場合には、連行式のヤーンフィーダー60を自走式のヤーンフィーダー3に当てて、連行解除用のストッパーに当てる場合と同様に、連行を解除させることもできる。
【0035】
本実施例では、ヤーンフィーダー3を走行部材としているけれども、特開昭58-126351号公報に開示されている可動糸ガイドなど、編糸を供給する経路に設けて編糸を中継する部材を走行部材とすることもできる。このような編糸の中継のための走行部材は、自走式のヤーンフィーダー3や連行式のヤーンフィーダー60と同一のトラックに装着していても、ヤーンフィーダー3,60との衝突を避けるような走行を間欠的に行うように制御すればよい。
【0036】
移動用ベルト4などの移動部材は糸道レール2と間隔をあけて並行するように配置され、移動用駆動部12は糸道レール2を長手方向の端部で支持する支持部材11に装着するので、糸道レール2には移動部材や移動用駆動部12を支持する構成が不要となる。連行式のヤーンフィーダー60などの走行部材を装着するために架設する糸道レール2を、自走式の走行部材を装着する糸道レール2としても使用することができるので、連行式から自走式への仕様変更や、連行式と自走式との混在などが、糸道レール2の取外しや交換無しでも、容易に可能となる。なお、
図1では、糸道レール2a,2bが同じ高さに架設されているので、フィーダーロッド8a,8bが下方で曲って、給糸口34からの給糸が歯口の同一位置付近で行えるようにしている。たとえば、特開2011-106059号公報の
図1に示すように、糸道レールを扇形に配置し、少なくとも中央のフィーダーロッドを直線状にしてもよい。また、フィーダーロッドを上下動可能にして、給糸に使用するものだけを下降させ、使用しないものは上方で待機させてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 給糸装置
2,2a,2b,2c,2d 糸道レール
2B,2F,2aB,2aF,2bB,2bF トラック
3,3a,3b,60 ヤーンフィーダー
4,4a,4b 移動用ベルト
5,5a,5b 連結部材
6,6a,6b 連行解除部
7,7a,7b 基体
8,8a,8b フィーダーロッド
9,9a,9b 段付ねじ
10 横編機
11 支持部材
12,12a,12b 移動用駆動部
53 U溝
61 連行ピン