(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】油圧装置
(51)【国際特許分類】
F15B 11/00 20060101AFI20230616BHJP
【FI】
F15B11/00 F
(21)【出願番号】P 2019043264
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000241267
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトフルードパワーシステム
(72)【発明者】
【氏名】本多 央憲
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-130003(JP,A)
【文献】特開2005-308047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00-11/22;21/14
F04B 49/00-51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油を吸入吐出して負荷側に供給し、吐出圧力と吐出量との積が略一定となる定馬力制御の可変容量型油圧ポンプと、可変容量型油圧ポンプを回転駆動して回転数を可変速にする電動機と、電動機の回転数を低速と高速とに切換制御するインバータとを備え、インバータは電動機の低速の回転数を500rp
mに設定すると共に
高速の回転数を1800rpmに設定
すると低速の回転数から高速の回転数に切換える加速時間を0.030秒から0.301秒の間に設定し、電動機の低速の回転数を750rpmに設定すると共に高速の回転数を1800rpmに設定すると前記加速時間を0.024秒から0.243秒の間に設定し、電動機の低速の回転数を750rpmに設定すると共に高速の回転数を1500rpmに設定すると前記加速時間を0.017秒から0.
174秒の間に設定することを特徴とする油圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変速の電動機で油圧ポンプを回転駆動し、油圧ポンプで作動油を吸入吐出する油圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の油圧装置は、吐出圧力がカットオフ開始圧力に達すると吐出量を最大吐出量から減少し、吐出圧力がフルカット圧力に達すると吐出量を略零にするカットオフ特性の可変容量型油圧ポンプと、この可変容量型油圧ポンプを回転駆動する可変速の電動機とを備え、可変容量型油圧ポンプのカットオフ開始圧力からフルカット圧力までの間において、吐出圧力の上昇に応じて吐出量を減少し、電動機の消費電力を低減して省エネ化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、かかる従来の油圧装置では、可変容量型油圧ポンプのカットオフ開始圧力にいたるまでの吐出量が必要以上に多いため、電動機の消費電力の低減がいまだ十分ではなく、満足のいく省エネ化を図ることができなかった。そこで、省エネ化を図るために、吐出圧力と吐出量との積が略一定となる定馬力制御の可変容量型油圧ポンプを用いると、負荷側に供給する作動油量が減少してしまう問題点があった。
【0005】
本発明の課題は、電動機の消費電力を低減して省エネ化を図りつつ、負荷側に供給する作動油量の減少を抑制し得る油圧装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は次の手段をとった。即ち、
作動油を吸入吐出して負荷側に供給し、吐出圧力と吐出量との積が略一定となる定馬力制御の可変容量型油圧ポンプと、可変容量型油圧ポンプを回転駆動して回転数を可変速にする電動機と、電動機の回転数を低速と高速とに切換制御するインバータとを備え、インバータは電動機の低速の回転数を500rpmに設定すると共に高速の回転数を1800rpmに設定すると低速の回転数から高速の回転数に切換える加速時間を0.030秒から0.301秒の間に設定し、電動機の低速の回転数を750rpmに設定すると共に高速の回転数を1800rpmに設定すると前記加速時間を0.024秒から0.243秒の間に設定し、電動機の低速の回転数を750rpmに設定すると共に高速の回転数を1500rpmに設定すると前記加速時間を0.017秒から0.174秒の間に設定することを特徴とする油圧装置がそれである。
【発明の効果】
【0007】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明は、可変容量型油圧ポンプは吐出圧力と吐出量との積が略一定となる定馬力制御とし、電動機の回転数を低速と高速とに切換制御するインバータは、電動機の低速の回転数を500rpmに設定すると共に高速の回転数を1800rpmに設定すると低速の回転数から高速の回転数に切換える加速時間を0.030秒から0.301秒の間に設定し、電動機の低速の回転数を750rpmに設定すると共に高速の回転数を1800rpmに設定すると前記加速時間を0.024秒から0.243秒の間に設定し、電動機の低速の回転数を750rpmに設定すると共に高速の回転数を1500rpmに設定すると前記加速時間を0.017秒から0.174秒の間に設定する。このため、可変容量型油圧ポンプは定馬力制御であるから、必要とする吐出圧力における吐出量を余分に多くすることなくでき、可変容量型油圧ポンプを回転駆動する電動機の消費電力を低減することができて省エネ化を図ることができる。そして、電動機の回転数を低速から高速に切換える加速時間を下限値0.017秒から上限値0.301秒の間に設定しているから、電動機で回転駆動する可変容量型油圧ポンプを短時間で加速することができ、可変容量型油圧ポンプから負荷側に供給する作動油量が減少することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態を示し、油圧装置に油圧シリンダを接続した回路図である。
【
図2】
図1の特性を示し、吐出圧力―吐出量および吐出圧力―消費電力の特性図である。
【
図3】
図1の特性を示し、時間―回転数の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1において、1は作動油を吸入吐出する可変容量型油圧ポンプとしての可変容量型ベーンポンプで、吐出量可変要素2をカムリングとし、ロータの回転でベーンをカムリングに摺接して作動油を吸入吐出し、吐出量可変要素2の可動に応じて吐出量を増減自在にする。可変容量型ベーンポンプ1は、
図2にグラフ線Aで示す如く、吐出圧力と吐出量との積が略一定となる定馬力制御で、吐出圧力の上昇に応じて吐出量が減少して最大吐出圧力で吐出量が略0となると共に、吐出圧力の低下に応じて吐出量が増加して最少吐出圧力で吐出量が最大となる。3は可変容量型ベーンポンプ1を回転駆動する可変速の電動機で、ロータに永久磁石を内蔵して固定子の回転磁界に永久磁石が引っ張られてロータが同期回転するIPMモータを用いている。Tは油タンクで、可変容量型ベーンポンプ1で吸入吐出する作動油を貯蔵している。4は可変容量型ベーンポンプ1の吸入流路で、油タンクTから可変容量型ベーンポンプ1に吸入される作動油が流通する。5は可変容量型ベーンポンプ1の吐出流路で、電磁切換弁6に接続し、可変容量型ベーンポンプ1から吐出する作動油が流通する。
【0010】
7は吐出流路5に配設した逆止め弁で、可変容量型ベーンポンプ1側から電磁切換弁6側への流れを自由流れとし、電磁切換弁6側から可変容量型ベーンポンプ1側への流れを微少流れにする。8は圧力計で、吐出流路5における可変容量型ベーンポンプ1と逆止め弁7との間に分岐接続し、可変容量型ベーンポンプ1の吐出圧力を表示する。9は負荷としての油圧シリンダで、ピストン9Aで内部にロッド側室9Bとキャップ側室9Cとを区画形成し、ロッド側室9Bを挿通してピストンロッド9Dを
図1左方向に突出すると共に、キャップ側室9Cを挿通してピストン9Aの位置を検知する位置検知棒9Eを
図1右方向に突出している。油圧シリンダ9はロッド側室9Bを第1負荷流路10により電磁切換弁6に接続し、キャップ側室9Cを第2負荷流路11により電磁切換弁6に接続している。12は油タンクTに接続した戻り流路で、電磁切換弁6に接続し、油圧シリンダ9からの作動油を流通して油タンクTに還流する。
【0011】
電磁切換弁6は、中立位置Xと第1切換位置Yと第2切換位置Zとの3位置を有し、一方の電磁石6Aへの通電で第1切換位置Yに切換り、他方の電磁石6Bへの通電で第2位置Yに切換り、両電磁石6A、6Bの非通電で中立位置Xに位置する。第1切換位置Yは第1負荷流路10を戻り流路12に切換連通すると共に、第2負荷流路11を供給流路5に切換連通する。第2切換位置Zは第1負荷流路10を供給流路5に切換連通すると共に、第2負荷流路11を戻り流路12に切換連通する。中立位置Xは供給流路5を遮断し、第1負荷流路10、第2負荷流路11を戻り流路12に連通する。13は第1位置センサ、14は第2位置センサで、それぞれ油圧シリンダ9の位置検知棒9Eに対向して配置している。第1位置センサ13はピストン9A、ピストンロッド9Dが
図1に示す原位置に位置することを検知して検知信号を出力する。第2位置センサ14はピストン9A、ピストンロッド9Dが
図1の左方向に移動して左端に位置することを検知して検知信号を出力する。
【0012】
15は電動機3の回転数を制御するインバータで、電動機3の回転数を低速と高速とに切換制御する。インバータ15は電磁切換弁6の電磁石6A、6Bへの通電信号を受けて電動機3の回転数を低速から高速に切換制御すると共に、第1位置センサ13、第2位置センサ14からの検知信号を受けて電動機3の回転数を高速から低速に切換制御する。
図3に示す如く、電動機3の低速の回転数は750rpmに、高速の回転数は1800rpmにそれぞれ設定している。Bは電動機3の回転数を低速(750rpm)から高速(1800rpm)に切換えを開始する開示時点である。Cは電動機3の回転数を低速(750rpm)から高速(1800rpm)に切換える加速時間で、0.024秒から0.243秒の間に設定している。Dは電動機3の回転数を高速(1800rpm)から低速(750rpm)に復帰する復帰時点である。油圧シリンダ9は、ピストン9Aが開始時点Bで移動を開始し、復帰時点Dの約1秒前に停止する。
【0013】
電動機3の低速の回転数は、500rpmから750rpmの間に設定する。低速の回転数が500rpm未満だと、吐出量が最少状態で、遠心力が不足して可変容量型ベーンポンプ1のベーンが十分に飛び出さず作動不良が生じ、低速の回転数が750rpmを超えると、可変容量型ベーンポンプ1を回転駆動する電動機3の消費電力が増加する欠点がある。電動機3の高速の回転数は1500rpmから1800rpmの間に設定する。高速の回転数が1500rpm未満だと、吐出量が最大状態で、可変容量型ベーンポンプ1のベーンが十分に飛び出さず作動不良が生じ、高速の回転数が1800rpmを超えると、ロータと側板との摺接個所の摩耗が促進する欠点がある。加速時間は、低速の回転数を750rpm、高速の回転数を1500rpmに設定すると0.017秒から0.174秒の間に設定する。また、低速の回転数を500rpm、高速の回転数を1800rpmに設定すると0.030秒から0.301秒の間に設定する。このため、電動機3の低速の回転数を500rpmから750rpmの間に設定し、高速の回転数を1500rpmから1800rpmの間に設定すると、加速時間は下限値0.017秒から上限値0.301秒の間に設定する。加速時間が0.017秒未満では高速の回転数に到達しないため設定できない。加速時間が0.301秒を超えると、可変容量型ベーンポンプ1が最大吐出量になるまでの時間を要し、油圧シリンダ9の作動が遅くなる欠点がある。
【0014】
次に、かかる構成の作動を説明する。
図1は、油圧シリンダ9の停止状態を示し、電磁切換弁6は中立位置Xに位置して吐出流路5が遮断され、可変容量型ベーンポンプ1は電動機3により低速で回転駆動され、吐出圧力が最大で、吐出量可変要素2が吐出量を略0にしている。
【0015】
この状態で、電磁切換弁6を一方の電磁石6Aに通電して第1切換位置Yに切換えると、インバータ15は電磁石6Aへの通電信号を受けて電動機3の回転数を低速から高速に切換制御する。可変容量型ベーンポンプ1は電動機3により高速で回転駆動され、吐出量可変要素2が可動して吐出量を最大にする。可変容量型ベーンポンプ1から吐出した作動油は吐出流路5、電磁切換弁6、第2負荷流路11を流れて油圧シリンダ9のキャップ側室9Cに供給され、油圧シリンダ9はピストンロッド9Dがピストン9Aとともに
図1左方向へ移動する。油圧シリンダ9のロッド側室9Bの作動油は第1負荷流路10、電磁切換弁6、戻り流路12を流れてタンクTに還流する。ピストンロッド9Dの移動中には、ピストンロッド9Dに作用する荷重に応じて吐出圧力が増減し、吐出圧力の増減に応じて吐出量が減増する。
【0016】
ピストンロッド9Dが
図1左方端まで移動すると、インバータ15は第2位置センサ14からの検知信号を受け、電動機3の回転数を高速から低速に切換制御する。電磁切換弁6は電磁石6Aを非通電にして中立位置Xに復帰して吐出流路5を閉じる。可変容量型ベーンポンプ1は吐出圧力が最大になり吐出量を略0にする。油圧シリンダ9はロッド側室9B、キャップ側室9Cがともに油タンクTに連通し、ピストンロッド9Dが
図1左方端で停止する。
【0017】
ピストンロッド9Dが
図1左方端で停止した状態で、電磁切換弁6を他方の電磁石6Bに通電して第2切換位置Zに切換えると、インバータ15は電磁石6Bへの通電信号を受けて電動機3の回転数を低速から高速に切換制御する。可変容量型ベーンポンプ1は電動機3により高速で回転駆動され、吐出量可変要素2が可動して吐出量を最大にする。吐出流路5から電磁切換弁6に流れる作動油は、第1負荷流路10を流れて油圧シリンダ9のヘッド側室9Bに供給され、油圧シリンダ9はピストンロッド9Dがピストン9Aとともに
図1右方向へ移動する。油圧シリンダ9のキャップ側室9Cの作動油は第2負荷流路11、電磁切換弁6、戻り流路12を流れてタンクTに還流する。
【0018】
ピストンロッド9Dが
図1の原位置まで復帰移動すると、インバータ15は第1位置センサ13からの検知信号を受け、電動機3の回転数を高速から低速に切換制御する。電磁切換弁6は電磁石6Bを非通電にして中立位置Xに復帰して吐出流路5を閉じる。可変容量型ベーンポンプ1は吐出圧力が最大になり吐出量を略0にし、油圧シリンダ9はピストンロッド9Dが
図1の原位置で停止する。
【0019】
かかる作動で、可変容量型ベーンポンプ1は吐出圧力と吐出量との積が略一定となる定馬力制御とし、電動機3の回転数を低速と高速とに切換制御するインバータ15は、電動機3の低速の回転数を500rpmから750rpmの間に設定すると共に、高速の回転数を1500rpmから1800rpmの間に設定し、低速の回転数から高速の回転数に切換える加速時間を0.017秒から0.301秒の間に設定した。このため、可変容量型ベーンポンプ1は、
図2にグラフ線Aで示す如く定馬力制御であるから、
図2にグラフ線Fで示すカットオフ制御の従来の可変容量型油圧ポンプに比し、必要とする吐出圧力における吐出量を余分に多くすることなくでき、
図2にグラフ線Eで示す如く、可変容量型ベーンポンプ1を回転駆動する電動機3の消費電力を、
図2にグラフ線Gで示す如く、従来の電動機の消費電力に比し、低減することができて省エネ化を図ることができる。そして、電動機3の回転数を低速から高速に切換える加速時間Cを0.017秒から0.301秒の間に設定しているから、電動機3で回転駆動する可変容量型ベーンポンプ1を短時間で加速することができ、可変容量型ベーンポンプ1から油圧シリンダ9側に供給する作動油量が減少することを抑制できる。
【0020】
なお、前述の一実施形態では、インバータ15は、電磁切換弁6の電磁石6A、6Bへの通電信号を受けて電動機3の回転数を低速から高速に切換制御し、位置センサ13、14からの検知信号を受けて電動機3の回転数を高速から低速に切換制御したが、インバータは圧力センサや流量センサからの検知信号を受けて電動機の回転数を低速と高速とに切換制御してもよい。また、電動機3はIPMモータとしたが、三相誘導電動機やサーボモータでもよい。また、可変容量型油圧ポンプは可変容量型ベーンポンプ1としたが、可変容量型斜板式ピストンポンプでもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0021】
1:可変容量型ベーンポンプ(可変容量型油圧ポンプ)
3:電動機
9:油圧シリンダ(負荷)
15:インバータ