(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
B60R 21/23 20060101AFI20230616BHJP
【FI】
B60R21/23
(21)【出願番号】P 2019058203
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】小寺 翔太
(72)【発明者】
【氏名】蓬莱谷 剛士
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-041652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0133437(US,A1)
【文献】特表2013-514943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのパネルを備え、
前記各パネルの周縁同士が縫合糸によって縫合される縫合部により、袋状に形成され、
前記縫合部の少なくとも一部には、当該縫合の進行方向と同じ方向に縫合される少なくとも1つの前進縫合と、前記進行方向とは反対方向に縫合され、前記前進縫合と連続する少なくとも1つの後退縫合と、を含む縫合ユニットが前記進行方向に複数並ぶように形成されており、
前記各縫合ユニットに含まれる前記前進縫合及び前記後退縫合は、少なくとも一部が重なるように配置されてお
り、
前記各縫合ユニットには、一の前記前進縫合と、一の前記後退縫合とが含まれており、
前記進行方向に隣接する前記縫合ユニットにおいては、前記前進縫合における前記進行方向とは反対側の後端と、前記後退縫合の前記後端とが連結されており、
前記縫合部において、隣接する前記縫合ユニットにおいては、前記前進縫合及び前記後退縫合が合計で5以上の奇数で、重なるように配置されている、エアバッグ。
【請求項2】
前記各縫合ユニットにおいては、前記前進縫合の前記進行方向の長さに対する、前記後退縫合の前記長さの割合が、
0.5より大きく0.66以下である、請求項
1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
少なくとも2つのパネルを備え、
前記各パネルの周縁同士が縫合糸によって縫合される縫合部により、袋状に形成され、
前記縫合部の少なくとも一部には、当該縫合の進行方向と同じ方向に縫合される少なくとも1つの前進縫合と、前記進行方向とは反対方向に縫合され、前記前進縫合と連続する少なくとも1つの後退縫合と、を含む縫合ユニットが前記進行方向に複数並ぶように形成されており、
前記各縫合ユニットに含まれる前記前進縫合及び前記後退縫合は、少なくとも一部が重なるように配置されており、
前記各縫合ユニットには、複数の前記前進縫合と、前記前進縫合の数よりも1少ない前記後退縫合とが含まれており、
前記進行方向に隣接する前記縫合ユニットにおいては、前記前進縫合における前記進行方向の先端と、前記前進縫合の前記進行方向とは反対の後端とが連結されてい
る、エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が衝突した時の衝撃から乗員を保護する乗員保護用の安全装置として、車両へのエアバッグ装置搭載が普及している。従来は、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグと言った、前方からの衝突に備えたエアバッグのみが搭載されていることが多かったが、近年ではサイドエアバッグ、カーテンエアバッグと言った側方からの衝突に備えたエアバッグの搭載も増加している。また、要求される安全性能の多様化の影響で、前方からの衝突に備えるエアバッグの形状が複雑化されている。
【0003】
側方からの衝突に備えるエアバッグは、衝突物と乗員の距離が近いことからより迅速な展開を求められ、さらには十分な保護性能を得るためにエアバッグ内の圧力も高くなる傾向にある。その為、側方からの衝突に備えるエアバッグの縫製部には、負荷がかかりやすく、展開時に縫目が拡大してインフレーターガスが漏れてしまう虞がある。
【0004】
また、形状の複雑化に伴いエアバッグを形成するパーツが多くなり、これに伴って縫製も多くなる傾向にある。結果、展開時に縫製部へかかる負荷は、これまで以上に課題となっている。
【0005】
この課題に対し、特許文献1には、縫い代部分にパターン縫製を施して縫製強度を向上させたエアバッグが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、織物の片面に機能性化合物を付着させることで糸と糸の間の摩擦作用を高め、これによって抗目ズレを向上させたエアバッグ用基布が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、織物を縫製して形成されたエアバッグの縫製部に、この織物とは別の補助織物とが一体に縫製された、展開時の目開きを防止し、展開時のエアバッグバーストを防止できるエアバッグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平5-229393号公報
【文献】特開2002-220780号公報
【文献】特開2005-14841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記各特許文献に開示されたエアバッグは、次のような問題があった。まず、特許文献1に開示されたエアバッグは、バッグを形成する為の縫製とは別の位置に補強用の縫製をする必要があり、生産性の低下を招くことは明白である。
【0010】
特許文献2に開示されたエアバッグ用基布は、糸と糸の摩擦作用を高める機能性化合物が付与されている為、この付与された機能性化合物によって縫製針が摩耗する虞がある。
【0011】
また、特許文献3に開示されたエアバッグは、補強織物を追加している為、エアバッグ重量の増加や、縫製部が嵩高くなることは避けられず、エアバッグの収納性が悪くなる虞がある。また、補強織物を一体で縫製する為、生産性の低下を招くことは明白である。
【0012】
したがって、生産性、収納性を悪化させることなく、目開き(目ズレともいう)を抑制することができる技術が求められている。
【0013】
本発明は、生産性、収納性に優れ、かつ、エアバッグ展開時に縫合部における目開きを抑制したエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るエアバッグは、少なくとも2つのパネルを備え、前記各パネルの周縁同士が縫合糸によって縫合される縫合部により、袋状に形成され、前記縫合部の少なくとも一部には、当該縫合の進行方向と同じ方向に縫合される少なくとも1つの前進縫合と、前記進行方向とは反対方向に縫合され、前記前進縫合と連続する少なくとも1つの後退縫合と、を含む縫合ユニットが前記進行方向に複数並ぶように形成されており、前記各縫合ユニットに含まれる前記前進縫合及び前記後退縫合は、少なくとも一部が重なるように配置されている。
【0015】
上記エアバッグでは、隣接する前記縫合ユニットにおいては、前記前進縫合及び前記後退縫合が合計で3以上、重なるように配置することができる。
【0016】
上記エアバッグにおいて、前記各縫合ユニットには、一の前記前進縫合と、一の前記後退縫合とが含まれており、前記進行方向に隣接する前記縫合ユニットにおいては、前記前進縫合における前記進行方向とは反対側の後端と、前記後退縫合の前記後端とが連結されるように構成できる。
【0017】
上記エアバッグでは、前記各縫合ユニットにおいて、前記前進縫合の前記進行方向の長さに対する、前記後退縫合の前記長さの割合を、0.33~0.70とすることができる。
【0018】
上記エアバッグにおいて、前記各縫合ユニットには、複数の前記前進縫合と、前記前進縫合の数よりも1少ない前記後退縫合とが含むことができ、前記進行方向に隣接する前記縫合ユニットにおいては、前記前進縫合における前記進行方向の先端と、前記前進縫合の前記進行方向とは反対の後端とが連結されるように構成できる。
【0019】
上記エアバッグでは、前記縫合において、前記複数の縫合ユニットが並んでいる箇所は、100mmあたりの前記前進縫合及び前記後退縫合の合計数をNとしたとき、100/Nが2.5以下とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
生産性、収納性に優れ、かつ、エアバッグ展開時に縫合部における目開きを抑制したエアバッグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るエアバッグの一実施形態を示す平面図である。
【
図2】パネルの縫合の第1パターンAを示す概略図である。
【
図3】パネルの縫合の第1パターンBを示す概略図である。
【
図4】パネルの縫合の第1パターンCを示す概略図である。
【
図5】パネルの縫合の第1パターンDを示す概略図である。
【
図6】パネルの縫合の第1パターンEを示す概略図である。
【
図7】パネルの縫合の第2パターンAを示す概略図である。
【
図8】パネルの縫合の第2パターンBを示す概略図である。
【
図9】展開時にエアバッグに作用する力を説明する図である。
【
図10】展開時にエアバッグに作用する力を説明する図である。
【
図11A】展開時にエアバッグに作用する力を説明する図である。
【
図11B】展開時にエアバッグに作用する力を説明する図である。
【
図12A】本発明に係る縫製における針穴の位置を説明する図である。
【
図12B】従来の縫製における針穴の位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るエアバッグの実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係るエアバッグの一例を示す平面図である。
【0023】
<1.エアバッグの概要>
図1に示すように、本実施形態のエアバッグは、円形に裁断された2枚パネル1を有しており、これら2枚のパネル1の周縁部同士を縫合糸6によって縫合した縫合部を設けることで袋状に形成されている。一方のパネル1の中央には取付口2が形成されており、この取付口2を囲むように、このパネル1には、環状の第1補強パッチ4が取り付けられている。この第1補強パッチ4は、同心円状に配置された2箇所において縫合糸7a,7bによってパネル1に縫製されており、取付口2を補強している。また、このパネル1において、取付口2よりも径方向外方には、取付口2よりも小さい2つのベントホール3が形成されている。そして、取付口2と同様に、各ベントホール3にも、環状の第2補強パッチ5が縫合糸7cによってパネル1に縫製されており、ベントホール3を補強している。
【0024】
上述した2枚のパネル、第1補強パッチ4、及び第2補強パッチ5は、レーザー裁断機もしくはナイフ裁断機を用いてエアバッグ用の織物から裁断された織物片によって形成されている。なお、前述の構成はもっとも簡易な形状の例であり、複雑な形状であれば3以上のパネルを接合することで袋状とする他、形状を調整する織物片であるベルトを接合するなど、乗員保護の要求に応じて選択可能である。また、パネル1の形状、補強パッチ4,5の形状、取付口2やベントホール3の形状、位置などは用途に合わせて適宜変更が可能である。さらに、各補強パッチ4,5は必須ではなく、必要に応じて設ければよい。
【0025】
<2.縫合>
上述したように、本発明のエアバッグは、パネル1間の接合が縫合によってなされるが、縫合は、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫いなどの通常のエアバッグに適用されている縫い方により行うことができる。また、運針数は、2~10針/cmとすることができる。
【0026】
そして、本発明において、縫合部は少なくとも一部が前進および後退することで形成される。前進と後退によって形成された縫合は縫合糸の重なり(パネル1の重なる方向の重なり)を有し、これによって縫合強度が向上し、目開きが抑制可能となる。この理由から、このような前進と後退による縫合を、縫合部全体の一部にのみ形成する場合は、エアバッグ展開時に負荷が高い位置に形成するのが好ましい。ここで、前進は縫合の進行方向へ進むことを言い、後退は縫合の進行方向に対して180度反転した方向へ進むことを言う。
【0027】
前進および後退することで形成される縫合は、2以上の繰り返し単位(縫合ユニットともいう)を有することが肝要である。繰り返し単位を有することで、展開時の負荷が該当縫合部分に(偏ることなく)均等にかかり、局所的な目開きの発生を抑制することができる。その結果、エアバッグバーストを防ぐことができる。なお、目開きとは、エアバッグの展開時にパネル1が膨張することにより、縫合糸の針穴(隣接する経糸または緯糸間の距離)が拡大することをいう。縫合ユニットのパターンは、任意に選択することができるが、以下、例として2つのパターン、つまり第1パターン及び第2パターンを示す。
【0028】
<2-1.第1パターン>
図2~
図6に示すように、第1パターンとして、5種類のパターン(第1パターンA~E)を示す。まず、第1パターンAについて説明する。なお、以下では、各図の左側から右側へ縫合が進むものとし(進行方向)、左側から右側への縫合を前進縫合、右側から左側への縫合を後退縫合と称し、これらの縫合に対し、進行方向へ順に番号を付すこととする。例えば、
図2に示す第1パターンAでは、最も左側の前進縫合を第1前進縫合811と称し、最も右側の前進縫合を第5前進縫合815と称することとする。この点は、後退縫合も同様である。また、各図の右側を「先端」側、左側を「後端」側と称することとする。さらに、各パターンを示す図では、複数の縫合ユニットを図面の上下方向にずらして説明しているが、これは説明の便宜のためであり、実際には、前後に隣接する縫合ユニットがパネル1の厚み方向に重なって縫合されている。このとき、隣接する縫合ユニットは、原則として、上下方向に同じ針穴を通るように重なるが、多少であれば、他の針穴を通ったり、あるいは面方向にずれるように重なっていてもよい。この点は、本発明に係る全てのパターンで同じである。
【0029】
図2に示すように、第1パターンAでは、各前進縫合と各後退縫合の長さは同じであり、各前進縫合811~815の後に、前進縫合811~815の長さの25%の後退縫合911~915を行い、これを1ユニットとして繰り返している。ここでは、前進縫合811~815の長さに対する後退縫合911~915の長さをピッチ比と称することとし、第1パターンAでは、ピッチ比は、0.25である。また、この例では、複数のユニットが並ぶことによって、前進縫合811~815と後退縫合911~915は、最大で3つが重なっている。
【0030】
図3は、第1パターンBを示している。第1パターンBが第1パターンAと相違するのは、ピッチ比であり、第1パターンBでは、ピッチ比は0.33である。また、第1パターンBにおいても、前進縫合821~825と後退縫合921~925は、最大で3つが重なっている。
【0031】
図4は、第1パターンCを示している。第1パターンCが第1パターンAと相違するのは、ピッチ比であり、第1パターンCでは、ピッチ比は0.5である。また、第1パターンCにおいても、前進縫合831~835と後退縫合931~935は、最大で3つが重なっている。
【0032】
図5は、第1パターンDを示している。第1パターンDが第1パターンAと相違するのは、ピッチ比であり、第1パターンDでは、ピッチ比は0.66である。また、第1パターンDにおいて、前進縫合841~845と後退縫合941~945は、最大で5つが重なっている。
【0033】
図6は、第1パターンEを示している。第1パターンEが第1パターンAと相違するのは、ピッチ比であり、第1パターンEでは、ピッチ比は0.7である。また、第1パターンDにおいて、前進縫合841~845と後退縫合941~945は、最大で7つが重なっている。
【0034】
以上、5種類の第1パターンについて説明したが、第1パターンは、1つの前進縫合と1つの後退縫合とで、1つのユニットを形成している。ピッチ比は、特には限定されないが、例えば、0.33~0.70が好ましく、より好ましくは0.50~0.66であり、さらに好ましくは0.50~0.60である。ピッチ比が0.33以上であれば、縫合糸の重なり部が縫合の50%を占めるため、目開きの抑制が期待できる。すなわち、重なりの数が多くなると、目開き抑制効果が向上する。一方、重なりの数が多すぎると、収納性が低下する。これに対して、ピッチ比が0.66以下であれば、縫合糸の重なりの最大数が5本以下となり、優れた収納性が得られる。以上より、ピッチ比が0.50であれば、縫合糸の重なりが3本となり、目開きの抑制および収納性の点で最も良い。
【0035】
<2-2.第2パターン>
次に、第2パターンについて説明する。
図7及び
図8に示すように、第2パターンとして、2種類のパターン(第2パターンA,B)を示す。
図7に示すように、第2パターンAは、1つの縫合ユニットにおいて、前進縫合、後退縫合、及び前進縫合を、この順で連続的に行うようになっている。すなわち、1つの縫合ユニットにおいて、2回の前進縫合と1回の後退縫合が行われ、これらの縫合は長さが同じである。そのため、最大の重なりは、3である。そして、1つの縫合ユニットの縫合が終了すると、次の縫合ユニットの形成が開始される。第2パターンAでは、前進縫合と後退縫合の長さが同じであるが、1縫合ユニットには、2つの前進縫合と1つの後退縫合が含まれるため、ピッチ比は、0.5である。
【0036】
次に、第2パターンBについて説明する。
図8に示すように、第2パターンBが、第2パターンAと相違するのは、1つの縫合ユニットにおいて、2つの前進縫合871、872の長さが、後退縫合971の長さよりも長いことである。したがって、1つの縫合ユニットにおいては、後退縫合の先端よりも、2つめの前進縫合の先端がより前方に位置する。
図8に示す第2パターンBの例では、両前進縫合の長さが、後退縫合の2倍の長さになっているため、ピッチ比は、0.25となる。なお、1の縫合ユニットに含まれる前進縫合及び後退縫合の長さは、適宜変更することができる。また、1の縫合ユニットに含まれる2つの前進縫合の長さが相違していてもよい。
【0037】
以上、2つのパターンについて説明したが、パネル1同士の周縁の縫合において、これらのパターンは、適宜組み合わせることができる。すなわち、各パターンの数、組合せの順序は特には限定されない。また、前進縫合だけの縫合部分を組み合わせることもできる。なお、各前進縫合及び各後退縫合に含まれる縫い目(進行方向に隣接する針穴の間の部分)の数は、特には限定されず、1であってもよい。
【0038】
また、上記パネル1同士の縫合において、前進縫合と後退縫合によって形成される縫合の、平均縫合ピッチは2.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0mm以下であり、さらに好ましくは1.5mm以下である。平均縫合ピッチとは、100mmの縫合内に含まれる前進縫合と後退縫合の合計数を計数し、100mmを合計数で割ることで算出される値である。
【0039】
例えば、100mm内に、前進縫合の数が20、後退縫合の数が10含まれていれば、縫合数は30と計数し、100/30=3.3となり、平均縫合ピッチは3.3mmとなる。以上のように、平均縫合ピッチが2.5mm以下であれば、エアバッグ展開時における目開きをより抑制することができる。ここで平均縫合ピッチとは、100mmの縫合内に含まれる縫い目(針穴と針穴の間)の数を計数し、100mmを縫い目数で割ることで算出される値である。
【0040】
<2-3.縫い糸>
縫合に使用する縫い糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているものの中から適宜選定すればよい。たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエステル、高分子ポリオレフィン、含フッ素、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラス、スチールなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸またはフィラメント樹脂加工糸のいずれでもよい。また、縫合糸の太さは、特には限定されないが、例えば、700dtex(20番手相当)~2800dtex(0番手相当)とすることができる。
【0041】
本発明に記載の縫合は、裁断片同士の接合、主にエアバッグ展開時に負荷のかかる部位であるパネル同士の接合に適用されるが、エアバッグの形状調整の為のベルトを有するエアバッグの場合はパネルとベルトとの接合部位にも高い負荷がかかる為、本発明の縫合を適用するとよい。また、パネルとパッチの接合など他の部位に適用してもよい。
【0042】
<3.エアバッグの各種物性>
【0043】
本発明のエアバッグに使用する織物は、そのカバーファクターが2000~2800であることが好ましく、2200~2650であることがより好ましい。この範囲にすることで、優れた強度、低通気性、柔軟性、生産性、及び平滑性を得ることができる。カバーファクター(CF)は以下のように定義する。カバーファクター(CF)は、織物の経糸および緯糸のそれぞれの織密度Nと総繊度Dとの積で求められ、下式にて表される。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df
ここで、Nw,Nfは、経糸および緯糸の織密度(本/2.54cm)であり、Dw,Dfは、経糸および緯糸の総繊度(dtex)である。
【0044】
本発明のエアバッグに使用する織物を構成する糸の総繊度は310dtex以上であることが好ましい。糸の総繊度が310dtex以上であると、織物の強力がエアバッグとして優れた水準となる。また、軽量な織物が得られやすい面で、総繊度は560dtex以下であることが好ましく、470dtex以下であることがより好ましい。
【0045】
本発明のエアバッグに使用する織物の通気性は、フラジール法によって測定される通気性が0.5ml/cm2・sec以下であることが好ましく、0.3ml/cm2・sec以下であることがより好ましい。上記の値とすることで、エアバッグ展開時に基布表面からのガス漏れが少なくなり、インフレーターの小型化や迅速な展開が可能となる。また、20kPa差圧下における通気量は、0.9L/cm2・min以下であることが好ましい。このような通気量とすることで、インフレーターから噴出するガスをロスすることなく、エアバッグを展開することができる。また、乗員を迅速に保護するのに適した展開速度を得ることができる。
【0046】
織物を構成する糸の単繊維繊度は、同一のものを使用しても異なっていてもいずれでもよく、たとえば、1.0~7.0dtexの範囲であることが好ましく、より好ましくは1.0~3.5である。単繊維繊度は7.0dtex以下であれば、エアバッグを折畳む際に影響が無く、3.5dtex以下であれば、織物の柔軟性が向上しエアバッグの折畳み性が改良され、通気性を低くすることもできる。また、紡糸工程、製織工程などで単繊維切れが起こりにくいため、1.0dtex以上であることが好ましい。
【0047】
また、単繊維の断面形状は、円形、楕円、扁平、多角形、中空、その他の異型などから選定すればよい。必要に応じて、これらの混繊、合糸、併用、混用(経糸と緯糸で異なる)などを用いればよく、紡糸工程、織物の製造工程、あるいは織物の物性などに支障のない範囲で適宜選定すればよい。
【0048】
これら繊維には、紡糸性や、加工性、耐久性などを改善するために通常使用されている各種の添加剤、たとえば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を使用してもよい。
【0049】
織物の組織は、平織、斜子織(バスケット織)、格子織(リップストップ織)、綾織、畝織、絡み織、模紗織、あるいはこれらの複合組織などいずれでもよい。必要に応じて、経糸、緯糸の二軸以外に、斜め60度を含む多軸設計としてもよく、その場合の糸の配列は、経糸または緯糸と同じ配列に準じればよい。なかでも構造の緻密さ、物理特性や性能の均等性が確保できる点で、平織が好ましい。
【0050】
本発明のエアバッグに使用する織物は、ノンコート布であることが好ましいがインフレーターの出力やインフレーターから発生するガスの温度に応じて、エアバッグを構成する裁断片の一部、もしくは、全てにコート布を適用してもよい。ノンコート布であれば、エアバッグの軽量化、収納性面で優れたエアバッグが得られる。
【0051】
本発明のエアバッグは、各種の乗員保護用バッグ、たとえば、運転席および助手席の前面衝突保護用、側面衝突保護用のサイドバッグ、センターバッグ、後部座席着座者保護用(前突、後突)、後突保護用のヘッドレストバッグ、脚部・足部保護用のニーバッグおよびフットバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、エアーベルト用袋体、歩行者保護用などの乗用車、商業車、バス、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車・電車、飛行機、遊園地設備など多用途に適用することができる。
【0052】
<4.特徴>
【0053】
以上のように構成される本発明のエアバッグは、少なくとも1つの前進縫合及び後退縫合を含む縫合ユニットによりパネル間の縫製が行われるため、縫合部に補強織物などを適用することなく目開きの抑制が可能である。この点について、詳細に説明する。
【0054】
まず、エアバッグが展開すると、
図9に示すように、力が作用する。
図10及び
図11は、説明の便宜のため、パネルの表面側と縫い代とをまっすぐに延ばした状態を示す図である。
図10では、一例として経糸の延びる方向に力が生じたとする。これにより、縫合糸が縫合されている箇所において、隣接する緯糸が離れ、その結果、目開きが発生する。これとともに、縫い代側では、緯糸がずれて、緯糸の間隔が狭くなる。
【0055】
これに対して、本実施形態では、前進縫合と後退縫合とを組合せ、パネル同士を強固に縫い合わせているため、力が作用したときに基布が動きにくくなり、その結果、目開きを抑制することができる。
【0056】
また、前進縫合と後退縫合とが重ねられているため、縫い目のピッチが狭くなる。例えば、
図11Aの例では、作用する力Fに対し6個の縫合糸によって力を受けているが、
図11Bの例では、作用する力Fに対し、11個の縫合糸によって力を受けている。その結果、本実施形態のような
図11Bの例では、各縫合糸に作用する作用する力が分散され、これによって、目開きを抑制することができる。
【0057】
さらに、本発明においては、前進縫合と後退縫合を所定の条件下で繰り返し行っているため、縫い目のピッチを揃えやすい。そのため、例えば、
図12Aに示すように、縫い目のピッチを揃えるように縫製を制御でき、これによって、同じ針穴Zを用いて縫製を行うことができる。したがって、針穴の数を増やさないで縫製ができるため、パネルの強度が低下するのを抑制し、強固な縫製を実現することができる。なお、
図12Aは、
図4の例を用いて説明している。一方、単に、複数回の縫製を重ねた場合には、
図12Bに示すように、針穴の位置がずれる可能性があるため、1回目から3回目の各縫製において、それぞれ異なる針穴Zが形成されるおそれがある。すなわち、パネルに多数の針穴Zが形成されるため、パネルの強度が低下し、縫製を複数回行っても、強度が低下するおそれがある。したがって、本発明に係るエアバッグによれば、強固な縫製を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 パネル
811~815,821~825、831~835,841~845,851~855,861~876 前進縫合
911~915,921~925,931~935,941~945,951~955,961~965,971~973 後退縫合