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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】電気検査用基板
(51)【国際特許分類】
   G01R 1/073 20060101AFI20230616BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
G01R1/073 E
H01L21/66 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019100315
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020193896
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀 敬士
(72)【発明者】
【氏名】沓名 正樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 通孝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 達哉
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-271296(JP,A)
【文献】国際公開第2009/139272(WO,A1)
【文献】特開平06-029664(JP,A)
【文献】特開平02-177391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/06-1/073
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がガラス成分を含む複数のセラミック層が互いに積層されてなり、表面及び裏面を有するセラミック基板と、前記セラミック基板の前記表面及び前記裏面の少なくとも一方に形成された電極とを備える電気検査用基板であって、
複数の前記セラミック層のうち、前記表面及び前記裏面をそれぞれ構成するセラミック層からなる一対の最外低熱膨張セラミック層と、
複数の前記セラミック層のうち、一対の前記最外低熱膨張セラミック層のそれぞれ内側に配され、かつ互いに隣接しないように配されるセラミック層からなる一対の高熱膨張セラミック層と、
複数の前記セラミック層のうち、一対の前記高熱膨張セラミック層の間に配される少なくとも1つのセラミック層からなる中央低熱膨張セラミック層とを備え、
前記高熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数は、前記最外低熱膨張セラミック層及び前記中央低熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数よりも、大きく、
前記高熱膨張セラミック層における前記ガラス成分の前記熱膨張係数と、前記最外低熱膨張セラミック層及び前記中央低熱膨張セラミック層における前記ガラス成分の前記熱膨張係数との差は、30℃以上300℃以下の温度条件下において、1.0ppm/℃以上であり、
一対の前記高熱膨張セラミック層は、前記セラミック基板を構成する全てのセラミック層において、20体積%以上35体積%以下である電気検査用基板。
【請求項2】
前記高熱膨張セラミック層における前記ガラス成分の前記熱膨張係数と、前記最外低熱膨張セラミック層及び前記中央低熱膨張セラミック層における前記ガラス成分の前記熱膨張係数との差は、30℃以上300℃以下の温度条件下において、3.0ppm/℃以下である請求項1に記載の電気検査用基板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気検査用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、シリコンウエハの電気検査を行うための電気検査用冶具が知られている。この種の電気検査用冶具は、セラミック基板を含む電気検査用基板に、複数のプローブが形成されたものからなる。電気検査用基板に使用されるセラミック基板は、ガラス成分とセラミック成分との混合物を800~1050℃程度の低温で焼成した低温焼成のガラスセラミックからなる複数のセラミック層が積層されたものからなる。なお、セラミック基板の表面には樹脂層やスタッドが適宜、形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-271296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電気検査用基板では、セラミック基板の表面に樹脂層やスタッドが形成されること、それに起因して応力が発生し、セラミック基板にクラックが入って破損してしまう虞があった。
【0005】
本発明の目的は、強度を向上させた電気検査用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 各々がガラス成分を含む複数のセラミック層が互いに積層されてなり、表面及び裏面を有するセラミック基板と、前記セラミック基板の前記表面及び前記裏面の少なくとも一方に形成された電極とを備える電気検査用基板であって、複数の前記セラミック層のうち、前記表面及び前記裏面をそれぞれ構成するセラミック層からなる一対の最外低熱膨張セラミック層と、複数の前記セラミック層のうち、一対の前記最外低熱膨張セラミック層のそれぞれ内側に配され、かつ互いに隣接しないように配されるセラミック層からなる一対の高熱膨張セラミック層と、複数の前記セラミック層のうち、一対の前記高熱膨張セラミック層の間に配される少なくとも1つのセラミック層からなる中央低熱膨張セラミック層とを備え、前記高熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数は、前記最外低熱膨張セラミック層及び前記中央低熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数よりも、大きい電気検査用基板。
【0007】
<2> 前記高熱膨張セラミック層における前記ガラス成分の前記熱膨張係数は、前記最外低熱膨張セラミック層及び前記中央低熱膨張セラミック層における前記ガラス成分の前記熱膨張係数よりも、30℃以上300℃以下の温度条件下において、1.0ppm/℃以上大きい前記<1>に記載の電気検査用基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強度を向上させた電気検査用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の電気検査用冶具の使用方法を示す説明図
図2】電気検査用基板の断面を模式的に表した説明図
図3】グリーンシート積層体の構成を模式的に表した説明図
図4】グリーンシート積層体を積層方向に圧縮した状態で焼成することにより得られる積層焼結体の構成を模式的に表した説明図
図5】実施例1のセラミック基板の構成を模式的に表した説明図
図6】各実施例及び各比較例の試験片表面の残留応力を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態1>
以下、本発明の実施形態1を、図1及び図2を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態の電気検査用冶具100の使用方法を示す説明図である。本実施形態の電気検査用冶具100は、図1に示されるように、電気検査用基板1と、導電性の複数のプローブ2とを備える。
【0011】
電気検査用冶具100は、例えば直径が300mmのシリコンウエハSWに対応したものである。シリコンウエハSWには、複数のデバイス(IC等)が形成されている。このようなシリコンウエハSWに形成された複数の端子TMにプローブ2を接触させることにより、シリコンウエハSWに形成された複数のデバイスの電気的な検査が一度にまとめて行われる。
【0012】
図2は、電気検査用基板1の断面を模式的に表した説明図である。電気検査用基板1は、図2に示されるように、多層状のセラミック基板3と、セラミック基板3の表面3a及び裏面3bに形成された電極4,5とを備える。なお、セラミック基板3の表面(表側の面)3aが図2の上側に示され、その裏面(裏側の面)3bが図2の下側に示される。セラミック基板3は、例えば、厚み5mm×縦300mm×横300mmの直方体状に形成されている。セラミック基板3は、7層のセラミック層11,12,13,14,15,16,17と、6層の配線層21,22,23,24,25,26とを備える。
【0013】
セラミック層11~17と、配線層21~26とは、積層方向SDに沿って交互に積層される。これにより、配線層21はセラミック層11とセラミック層12との間に配置され、配線層22はセラミック層12とセラミック層13との間に配置され、配線層23はセラミック層13とセラミック層14との間に配置される。また、配線層24はセラミック層14とセラミック層15との間に配置され、配線層25はセラミック層15とセラミック層16との間に配置され、配線層26はセラミック層16とセラミック層17との間に配置される。
【0014】
また、各セラミック層11~17の内部には、積層方向SD(厚み方向)に延びて各セラミック層11~17を貫通するビア導体31,32,33,34,35,36,37が形成される。これにより、セラミック層11を挟むようにセラミック層11の両面に形成されている電極5と配線層21とがビア導体31により電気的に接続される。また、セラミック層12を挟むようにセラミック層12の両面に形成されている配線層21と配線層22とがビア導体32により電気的に接続される。また、セラミック層13を挟むようにセラミック層13の両面に形成されている配線層22と配線層23とがビア導体33により電気的に接続される。また、セラミック層14を挟むようにセラミック層14の両面に形成されている配線層23と配線層24とがビア導体34により電気的に接続される。また、セラミック層15を挟むようにセラミック層15の両面に形成されている配線層24と配線層25とがビア導体35により電気的に接続される。また、セラミック層16を挟むようにセラミック層16の両面に形成されている配線層25と配線層26とがビア導体36により電気的に接続される。また、セラミック層17を挟むようにセラミック層17の両面に形成されている配線層26と電極4とがビア導体37により電気的に接続される。
【0015】
本実施形態において、複数のセラミック層11~17のうち、表側に配されるセラミック層17は、セラミック基板3の表面3aを構成し、裏側に配されるセラミック層11は、セラミック基板3の裏面3bを構成する。このような一対のセラミック層17,11を、それぞれ「最外低熱膨張セラミック層17,11」と称する。
【0016】
また、複数のセラミック層11~17のうち、表側の最外低熱膨張セラミック層17の内側にセラミック層16が配され、裏側の最外低熱膨張セラミック層11の内側にセラミック層12が配される。このように一対の最外低熱膨張セラミック層17,11のそれぞれ内側に配されるセラミック層16,12を、それぞれ「高熱膨張セラミック層16,12」と称する。これらの高熱膨張セラミック層16,12同士は、互いに隣接しないように配されている。
【0017】
また、複数のセラミック層11~17のうち、一対の高熱膨張セラミック層16,12の間に配されるセラミック層13,14,15を、それぞれ「中央低熱膨張セラミック層13,14,15」と称する。
【0018】
また、本明細書において、「最外低熱膨張セラミック層17,11」と「中央低熱膨張セラミック層13,14,15」とをまとめて「低熱膨張セラミック層」と称する場合がある。
【0019】
セラミック層11~17は、ガラス成分とセラミック成分との混合物を焼成したガラスセラミックで形成されている。なお、各セラミック層11~17の製造過程で添加されるバインダ成分、溶剤等の他の成分は、基本的に、焼成時に焼失する。そして、高熱膨張セラミック層16,12におけるガラス成分の熱膨張係数は、低熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数よりも、大きくなるように設定されている。
【0020】
例えば、高熱膨張セラミック層16,12におけるガラス成分の熱膨張係数と、低熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数との差は、30℃以上300℃以下の温度条件下において、1.0ppm/℃以上であることが好ましい。つまり、高熱膨張セラミック層16,12におけるガラス成分の熱膨張係数は、低熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数よりも、30℃以上300℃以下の温度条件下において、1.0ppm/℃以上大きい。高熱膨張セラミック層16,12の熱膨張係数と、低熱膨張セラミック層の熱膨張係数との差がこのような条件を満たすと、セラミック基板3の表面3a側の最外低熱膨張セラミック層17と、裏面3b側の最外低熱膨張セラミック層11とに対して、それぞれ面方向に縮む向きの応力(圧縮応力)が発生し、セラミック基板3にクラック等が生じ難くなる。例えば、小さなクラックが発生しても、そのクラックの成長が上記応力により、抑制される。
【0021】
なお、高熱膨張セラミック層16,12におけるガラス成分の熱膨張係数と、低熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数との差は、セラミック基板3全体の熱膨張の上昇を抑制する等の理由により、30℃以上300℃以下の温度条件下において、3.0ppm/℃以下であることがこのましい。
【0022】
高熱膨張セラミック層16,12におけるガラス成分の熱膨張係数は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、30℃以上300℃以下の温度条件下において、5.5ppm/℃以上、好ましくは6.0ppm/℃以上、7.8ppm/℃以下、好ましくは7.5ppm/℃以下である。
【0023】
低熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、30℃以上300℃以下の温度条件下において、4.3ppm/℃以上、好ましくは4.5ppm/℃以上、5.0ppm/℃以下、好ましくは4.8ppm/℃以下である。
【0024】
なお、最外低熱膨張セラミック層17,11におけるガラス成分の熱膨張係数と、中央低熱膨張セラミック層13,14,15におけるガラス成分の熱膨張係数とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0025】
高熱膨張セラミック層16,12におけるガラス成分の含有割合(質量%)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、40質量%以上70質量%以下が好ましい。
【0026】
また、高熱膨張セラミック層16,12におけるセラミック成分の含有割合(質量%)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、30質量%以上60質量%以下が好ましい。高熱膨張セラミック層16,12に使用されるセラミック成分としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、アルミナ等が挙げられる。
【0027】
低熱膨張セラミック層におけるガラス成分の含有割合(質量%)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、40質量%以上70質量%以下が好ましい。
【0028】
また、低熱膨張セラミック層におけるセラミック成分の含有割合(質量%)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、30質量%以上60質量%以下が好ましい。低熱膨張セラミック層に使用されるセラミック成分としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、ムライト、アルミナ等が挙げられる。なお、低熱膨張セラミック層のセラミック成分として、ムライトとアルミナとを含む場合、ムライトの含有量は、アルミナの含有量よりも多いことが好ましい。低熱膨張セラミック層におけるムライトの含有量は、アルミナの含有量の1.5倍以上であることが好ましい。
【0029】
各セラミック層11~17の厚みは、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、70μm以上340μm以下に設定される。
【0030】
最外低熱膨張セラミック層17,11及び中央低熱膨張セラミック層13,14,15は、後述するように、低熱膨張グリーンシートから形成される。また、高熱膨張セラミック層16,12は、後述するように、高熱膨張グリーンシートから形成される。
【0031】
配線層21~26及びビア導体31~37は、例えば、ガラスセラミックの焼成の際に低温で同時焼成可能な、Ag、Ag/Pt合金、Ag/Pd合金、Cu、Cu合金等の導体で形成されている。
【0032】
電極4,5は、Ti、Cr、Mo、Cu、Ni及びAuの少なくとも1つの導体で形成されている。
【0033】
ここで、電気検査用基板1の製造方法を説明する。電気検査用基板1を製造するために、先ず、最外低熱膨張セラミック層17,11及び中央低熱膨張セラミック層13,14,15を形成するための低熱膨張グリーンシートを用意する。また、高熱膨張セラミック層16,12を形成するための高熱膨張グリーンシートを用意する。また、拘束シートを用意する。低熱膨張グリーンシート、高熱膨張グリーンシート及び拘束シートの具体的な作製方法は後述する。
【0034】
次いで、用意された低熱膨張グリーンシート及び高熱膨張グリーンシートの所定箇所に、パンチにより、例えば直径が0.12mmのビアホールを形成する。その後、低熱膨張グリーンシート及び高熱膨張グリーンシートに形成されたビアホールの内部に、導電性ペーストを充填する。導電性ペーストは、銀粉末100質量部に対して、軟化点が700℃のホウケイ酸系ガラス粉末を2質量部添加した粉末原料に、エチルセルロース樹脂を加えると共に、溶剤としてターピネオールを加え、3本ロールミルに混練して作製される。
【0035】
次に、低熱膨張グリーンシート及び高熱膨張グリーンシートの表面における必要な箇所に、導電性ペーストを用いて、印刷により、配線層21~26となる配線パターンを形成する。
【0036】
その後、低熱膨張グリーンシート、高熱膨張グリーンシート及び拘束シートを積層して、グリーンシート積層体を作製する。具体的には、3つの低熱膨張グリーンシートを積層することにより、第1グリーンシート積層体を作製する。続いて、その第1グリーンシート積層体の表面及び裏面のそれぞれに、1つずつ高熱膨張グリーンシートを積層することにより、第2グリーンシート積層体を作製する。また、第2グリーンシート積層体の表面及び裏面のそれぞれに、1つずつ低熱膨張グリーンシートを積層することにより、第3グリーンシート積層体を作製する。そして、その第3グリーンシート積層体の表面及び裏面のそれぞれに、1つずつ拘束シートを積層することにより、目的とするグリーンシート積層体が得られる。
【0037】
その後、プレス機を用いて、積層方向SDの両側からグリーンシート積層体を挟んで、グリーンシート積層体に0.2MPaの圧力を加えながら、そのグリーンシート積層体を850℃にて30分間焼成(即ち、脱脂焼成)して、積層焼結体を作製する。
【0038】
その後、プレス機による加圧が解除され、積層焼結体の表面及び裏面に残っている未焼結の拘束シートを、水を媒体とした超音波洗浄機により除去する。そして、アルミナ質砥粒を用いたラップ研磨により、積層焼結体の表面及び裏面を研磨する。次いで、研磨した積層焼結体の表面及び裏面におけるビア導体31,37に対応する位置に、例えば、Ti膜をスパッタ法により形成した後に順次Cuメッキ、Niメッキ及びAuメッキを施して、電極4,5を形成し、電気検査用基板1の製造を終了する。
【0039】
このように構成された電気検査用基板1は、表面3a及び裏面3bをそれぞれ構成し、かつ低熱膨張グリーンシートより形成される一対の最外低熱膨張セラミック層17,11を備える。
【0040】
また、電気検査用基板1は、一対の最外低熱膨張セラミック層17,11のそれぞれ内側に配され、かつ互いに隣接しないように配される、高熱膨張グリーンシートより形成される一対の高熱膨張セラミック層16,12を備える。
【0041】
また、電気検査用基板1は、一対の高熱膨張セラミック層16,12の間に配され、低熱膨張グリーンシートより形成される中央低熱膨張セラミック層13,14,15を備える。
【0042】
以上のような電気検査用基板1において、セラミック基板3は、高熱膨張セラミック層16,12におけるガラス成分の熱膨張係数が、低熱膨張セラミック層(最外低熱膨張セラミック層17,11及び中央低熱膨張セラミック層13,14,15)におけるガラス成分の熱膨張係数よりも、1.0ppm/℃以上大きくなるように設定されている。そのため、セラミック基板3の表面3a側の最外低熱膨張セラミック層17と、裏面3b側の最外低熱膨張セラミック層11とに対して、それぞれ面方向に縮む向きの応力(圧縮応力)が発生し、セラミック基板3にクラック等が生じ難くなる。このようなセラミック基板3を有する電気検査用基板1は、強度が向上する。なお、電気検査用基板1では、セラミック基板3の変形を最小限とするために、高熱膨張セラミック層16,12の使用が最小限に留められており、セラミック基板3全体における熱膨張係数の増加が抑制されている。高熱膨張セラミック層16,12は、セラミック基板3を構成する全てのセラミック層11~17において、例えば、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下に設定されることが好ましい。
【実施例
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0044】
〔実施例1〕
(低熱膨張グリーンシートの作製)
セラミック原料粉末として、平均粒径が3.0μmであり、SiO、Al、Bを主成分とするホウケイ酸系ガラス粉末1(熱膨張係数:4.7ppm/℃(30~300℃))と、平均粒径が2.0μmであるムライト粉末と、平均粒径が2.0μmであるアルミナ粉末とを用意した。また、バインダ成分としてのアクリル系バインダと、成形後のグリーンシートに適度な柔軟性を与える可塑剤成分としてのジオクチルフタレート(以下、DOP)と、適当なスラリー粘度とシート強度を持たせる溶剤としてのメチルエチルケトン(以下、MEK)及びトルエンを用意した。
【0045】
ホウケイ酸系ガラス粉末1、ムライト粉末及びアルミナ粉末を、それぞれ所定量秤量して、アルミナ製のポットに入れた。ホウケイ酸系ガラス粉末1、ムライト粉末及びアルミナ粉末の混合割合は質量比で、50:30:20であり、ホウケイ酸系ガラス粉末1、ムライト粉末及びアルミナ粉末の総量は1000gである。更に、アクリル系バインダ(固形分:120g)と、適量のDOP及びMEKを上記ポットに入れて3時間混合することにより、セラミックスラリー1を得た。そして、ドクターブレード法により、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)からなるキャリアフィルム上で、得られたセラミックスラリー1をシート状とし、厚みが0.25mmの低熱膨張グリーンシートを得た。
【0046】
(高熱膨張グリーンシートの作製)
セラミック原料粉末として、平均粒径が3.0μmであり、SiO、NaO、Bを主成分とするホウケイ酸系ガラス粉末2(熱膨張係数:6.1ppm/℃(30~300℃))と、平均粒径が2.0μmのアルミナ粉末とを用意した。また、バインダ成分としてのアクリル系バインダと、可塑剤としてのDOPと、溶剤としてのMEK及びトルエンを用意した。
【0047】
ホウケイ酸系ガラス粉末2及びアルミナ粉末を、それぞれ所定量秤量して、アルミナ製のポットに入れた。ホウケイ酸系ガラス粉末2及びアルミナ粉末の混合割合は質量比で、50:50であり、ホウケイ酸系ガラス粉末2及びアルミナ粉末の総量は1000gである。更に、アクリル系バインダ(固形分:120g)と、適量のDOP及びMEKを上記ポットに入れて3時間混合することにより、セラミックスラリー2を得た。そして、ドクターブレード法により、PETからなるキャリアフィルム上で、得られたセラミックスラリー2をシート状とし、厚みが0.25mmの高熱膨張グリーンシートを得た。
【0048】
(拘束シートの作製)
セラミック原料粉末として、平均粒径が2.0μmのアルミナ粉末を用意した。また、バインダ成分としてのアクリル系バインダ、可塑剤としてのDOPと、溶剤としてのMEK及びトルエンを用意した。そして、アルミナ粉末1000gを、アルミナ製のポットに入れ、更に、アクリル系バインダ(固形分:120g)と、適量のDOP及びMEKを上記ポットに入れて3時間混合することにより、セラミックスラリー3を得た。そして、ドクターブレード法により、PETからなるキャリアフィルム上で、得られたセラミックスラリー3をシート状とし、厚みが0.50mmの拘束シートを得た。
【0049】
(グリーンシート積層体の作製)
図3は、グリーンシート積層体40の構成を模式的に表した説明図である。図3に示されるように、上記のようにして製造された低熱膨張グリーンシート50、高熱膨張グリーンシート60及び拘束シート70を積層して、グリーンシート積層体40を得た。具体的には、3枚の低熱膨張グリーンシート50を積層することにより、第1グリーンシート積層体41を作製した。続いて、その第1グリーンシート積層体41の表面及び裏面のそれぞれに、1枚ずつ高熱膨張グリーンシート60を積層することにより、第2グリーンシート積層体42を作製した。また、第2グリーンシート積層体42の表面及び裏面のそれぞれに、1つずつ低熱膨張グリーンシートを積層することにより、第3グリーンシート積層体43を得た。そして、その第3グリーンシート積層体43の表面及び裏面のそれぞれに、1枚ずつ拘束シート70を積層することにより、目的とするグリーンシート積層体40を得た。
【0050】
図4は、グリーンシート積層体40を積層方向SDに圧縮した状態で焼成することにより得られる積層焼結体41の構成を模式的に表した説明図である。図3に示されるグリーンシート積層体40を、プレス機を利用して、積層方向の両側(表面側及び裏面側)から、0.2MPaの押圧力を加えながら、850℃の温度条件で30分間焼成(脱脂焼成)し、図4に示されるような積層焼結体41を得た。
【0051】
図5は、実施例1のセラミック基板3の構成を模式的に表した説明図である。上記のようにして得られた積層焼結体41の両面に残っている未焼結の拘束シート70を、水を媒体として超音波洗浄機により除去することで、図5に示されるような実施例1の多層状のセラミック基板3を得た。なお、このセラミック基板3は、基本的な構成が、上述した図2に示されるセラミック基板3に対応するものである。
【0052】
〔実施例2〕
高熱膨張グリーンシートとして、以下に示されるものを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のセラミック基板を作製した。
【0053】
(実施例2の高熱膨張グリーンシート)
実施例1のホウケイ酸系ガラス粉末2に代えて、平均粒径が3.8μmであり、ZnO、NaO、Bを主成分とするホウ酸系ガラス粉末(熱膨張係数:7.3ppm/℃(30~300℃))を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の高熱膨張グリーンシート(厚み:0.25mm)を作製した。
【0054】
〔比較例1〕
高熱膨張グリーンシートに代えて、低熱膨張グリーンシートを使用したこと(つまり、拘束シート以外はすべて低熱膨張グリーンシートを使用したこと)以外は、実施例1と同様にして、比較例1のセラミック基板を作製した。
【0055】
〔比較例2〕
高熱膨張グリーンシートに代えて、以下に示される低熱膨張グリーンシートを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のセラミック基板を作製した。
【0056】
(比較例2の低熱膨張グリーンシート)
実施例1のホウケイ酸系ガラス粉末2に代えて、平均粒径が5.0μmであり、SiO、ZnO、Bを主成分とするホウケイ酸系ガラス粉末(熱膨張係数:4.0ppm/℃(30~300℃))を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の低熱膨張グリーンシート(厚み:0.25mm)を作製した。
【0057】
〔熱膨張係数の測定〕
各実施例及び各比較例のセラミック基板から、厚み2mm×長さ20mm×幅2mmの直方体状の試験片をそれぞれ作製した。これらの試験片について、TMA(熱機械分析装置)を用いて、-50℃~500℃の間の収縮量を測定した。そして、各試験片について、各温度の収縮量に基づいて、室温(25℃)~100℃の間の熱膨張係数を算出した。なお、この熱膨張係数は、試験片の長さが20mmの場合における変形量である。そのため、その熱膨張係数に基づいて、実製品を想定した長さ(直径:300mm)における変形量(300mm時の変形量)を、以下の換算式を利用して算出した。結果は表1に示した。なお、換算式は、以下の通りである。
(300mm時の変形量[mm])=(熱膨張係数の測定値)×(100-25)×(300/2)
【0058】
〔破壊靭性値の測定〕
各実施例及び各比較例のセラミック基板から、厚み4.0mm×長さ10mm×幅10mmの直方体状の試験片をそれぞれ作製した。これらの試験片について、以下に示される方法で、破壊靭性を評価した。なお、破壊靭性は、試験片に生じた亀裂の長さと、試験片のヤング率とから算出される。先ず、試験片の表面を研磨した。その試験片に対して、微小硬度計を用いて対面角136°のダイヤモンド製の圧子を、下降速度50μm/秒で当てることで、試験片に亀裂を発生させ、その亀裂の長さを測定した。そして、測定された亀裂の長さと、ヤング率(121GPa)とを用いて、各試験片の破壊靭性値を求めた。結果は、表1に示した。
【0059】
〔表面応力値の測定〕
各実施例及び各比較例のセラミック基板から、厚み4.0mm×長さ100mm×幅100mmの直方体状の試験片をそれぞれ作製した。これらの試験片について、一方の面側の最表層を研磨により除去した。例えば、実施例1の場合、図1に示されるように、低熱膨張グリーンシート50より形成される最外低熱膨張セラミック層17を、切断線Xの位置まで、研磨により除去した。このように最表層を除去した状態の試験片について、微小部応力測定装置を用いて、最表層が除去された側の表面の応力(残留応力)を測定した。結果は、図6に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
なお、表1の「高熱膨張セラミック層等」は、実施例1,2の「高熱膨張セラミック層」、及び比較例1,2の低熱膨張グリーンシートより形成される、高熱膨張セラミック層の代わりの「セラミック層」を表す。
【0062】
表1に示されるように、実施例1,2は、高熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数が、低熱膨張セラミック層(最外低熱膨張セラミック層及び中央低熱膨張セラミック層)におけるガラス成分の熱膨張係数よりも大きい。特に、実施例1,2は、高熱膨張セラミック層におけるガラス成分の熱膨張係数は、低熱膨張セラミック層(最外低熱膨張セラミック層及び中央低熱膨張セラミック層)におけるガラス成分の熱膨張係数よりも、30℃以上300℃以下の温度条件下において、1.0ppm/℃以上大きい場合である。このような実施例1,2は、試験片の破壊靭性値が1.9以上であり、比較例1,2よりも優れた値(高い値)となっている。また、実施例1,2は、試験片の変形量も、0.050mm以下に抑えられており、熱安定性にも優れる。実施例1,2のように、試験片の変形量がこの程度に抑えられれば、試験片の熱的な挙動(膨張及び収縮)が、シリコン(Si)の熱的な挙動(膨張及び収縮)に近いと言える。
【0063】
図6は、各実施例及び各比較例の試験片表面の残留応力を示すグラフである。なお、残留応力の値は、試験片の表面(基板面)において、面方向に縮む向きが、マイナス(-)で表され、面方向に広がる向きが、プラス(+)で表される。図6に示されるように、実施例1の試験片における表面の残留応力は、-110MPaであり、また、実施例2の試験片における表面の残留応力は、-136MPaであった。このように実施例1,2では、試験片表面において、面方向に縮む向きに、所定の値(絶対値)以上の応力が発生していることが確かめられた。
【0064】
比較例1は、高熱膨張セラミック層に対応する層と、低熱膨張セラミック層との間において、使用するガラス成分の熱膨張係数の差が無い場合である。また、比較例2は、高熱膨張セラミック層に対応する層のガラス成分の熱膨張係数が、低熱膨張セラミック層のガラス成分の熱膨張係数よりも小さい場合である。比較例1では、図6のグラフに示されるように、面方向に縮む向きに、応力が-21MPa発生しているものの、その値(絶対値)は小さいものであった。また、比較例2については、実施例1等とは反対に、面方向に広がる向きに、応力(37MPa)が発生していることが確かめられた。このような比較例1,2の破壊靭性値は、表1に示されるように、実施例1,2よりも低い値となっており、比較例1,2は、実施例1,2よりもクラック等が発生し易く、破損し易いことが確かめられた。比較例1のように、試験片の面方向において縮む向きに応力が発生していても、その応力が小さ過ぎると、クラック等の発生を抑止する能力が十分でないことが確かめられた。また、比較例2のように、試験片の表面において、面方向に広がる向きに応力が発生していると、基板に生じたクラック等が成長し易くなると推測される。
【0065】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0066】
(1)上記実施形態では、中央低熱膨張セラミック層が、それぞれ低熱膨張グリーンシートから形成される3つのセラミック層より構成されていたが、本発明の目的を損なわない限り、他の実施形態においては、低熱膨張グリーンシートから形成される4つ以上のセラミック層より構成されてもよいし、低熱膨張グリーンシートから形成される2つ以下のセラミック層より構成されてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…電気検査用基板、2…プローブ、3…セラミック基板、3a…セラミック基板の表面、3b…セラミック基板の裏面、4,5…電極、11…最外低熱膨張セラミック層、12…高熱膨張セラミック層、13,14,15…中央低熱膨張セラミック層、16…高熱膨張セラミック層、17…最外低熱膨張セラミック層
図1
図2
図3
図4
図5
図6