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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】転写用紙
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/26 20060101AFI20230616BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20230616BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230616BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20230616BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20230616BHJP
   B44C 1/17 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
D06P5/26
B32B27/10
B41M5/00 100
B41M5/52 110
B41M5/00 120
B41M5/50 120
B44C1/17 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019225617
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2020165071
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019058090
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 彰
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139183(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/204167(WO,A1)
【文献】特開2016-102283(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125651(WO,A1)
【文献】特開2016-104916(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093276(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02500464(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/26
B32B 27/10
B41M 5/00
B41M 5/52
B41M 5/50
B44C 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料を含むインクで図柄を印刷して得た転写紙と繊維材料とを密着させて加熱及び加圧することによって染料を転写紙から繊維材料へ転写させ、転写後に繊維材料から転写紙を剥離し、剥離後の繊維材料について染料の固着処理をする転写捺染法に用いる、図柄を印刷する前の転写用紙であって、原紙の片面に1層又は2層以上の非水系樹脂ラミネート層を有する基材と、前記基材のラミネート層上に1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層において前記基材を基準として最外に位置する最外塗工層が白色顔料と、バインダーと、尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドから成る群から選ばれる二種以上とを含有しかつ最外塗工層中の白色顔料20質量部に対して尿素が0質量部以上3質量部以下、チオ尿素が20質量部以上50質量部以下、及びジシアンジアミドが20質量部以上50質量部以下であり、前記バインダーが水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及び多糖類を少なくとも含み、最外塗工層において最外塗工層中の白色顔料20質量部に対してバインダーが50質量部以上125質量部以下であり、水を用いた浸透時間4秒における転写用紙の動的浸透性測定装置を用いた温度23℃及び相対湿度50%の条件下での測定による超音波透過減衰率の値が25%以上である転写用紙。
【請求項2】
最外塗工層の前記白色顔料が非晶質シリカを少なくとも含み、前記非晶質シリカの平均粒子径が10μm以上28μm以下である請求項1に記載の転写用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料に図柄を形成する転写捺染法において、図柄を転写するために使用される転写用紙に関する。特に、繊維材料が綿である場合に好適な転写用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
精細な捺染図柄の表現と卓越した均染性及び柔軟な繊維の風合を再現性良く得る捺染用紙において、捺染用紙に染料を含むインクで図柄を印刷して捺染紙を得て、繊維材料又は皮革材料に捺染紙を密着して加熱及び加圧することによって染料を転写し、繊維材料又は皮革材料に捺染紙が貼付けた状態で染料の固着処理をする転写捺染法に用いる捺染用紙であって、水溶性合成系バインダーに対する天然系糊剤の配合割合が固形分換算で5%~0%の範囲であって、更に各種助剤が配合された親水性混合物を原紙に塗布、噴霧或いは浸漬後、乾燥することによって紙に吸収或いは積層されたインク受容層兼接着層を有する捺染用紙が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
転写捺染時におけるインクの裏抜けを抑制でき、シート形状で使用した場合にもシワが入りにくい昇華型インクジェット捺染転写紙として、基材上に昇華型捺染インク受容層が形成されてなり、前記昇華型捺染インク受容層が水溶性樹脂と微細粒子Aと微細粒子Bとを含有したインク受容層塗料からなり、前記微細粒子Aが平板結晶構造を有し、0.4~2.3μmの範囲にメジアン径d50を有し、アスペクト比5以上である無機微粒子であり、前記微細粒子Bがシリカ粒子であり、前記微細粒子Aと前記微細粒子Bとの割合(微細粒子A/微細粒子B)が質量比で15/85~90/10であり、前記水溶性樹脂がカルボキシメチルセルロースナトリウムであり、前記インク受容層塗料中、前記カルボキシメチルセルロースナトリウムが前記微細粒子A及び前記微細粒子Bの合計100質量部に対して10~80質量部の割合で含有され、前記インク受容層塗料の塗工量(乾燥)が3~13g/mであり、JIS P 8117:2009に準拠した透気度測定法による透気度が100~10000秒であり、表面・サイズ度テスター(EST12)で測定した初期吸水特性の超音波透過強度が100%に達するまでの時間が0.1~3.0秒である前記基材であることを特徴とする昇華型インクジェット捺染転写紙が公知である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-102283号公報
【文献】特開2018-030342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転写捺染法では、転写紙と繊維材料とを密着させて、転写紙が受理した染料を繊維材料へ転写する。転写捺染法を活用した捺染産業では、作業効率及び繊維材料に形成された図柄の品質の観点から、以下の事項が要求される。
(1)転写紙間における耐ブロッキング性を有すること。
(2)繊維材料に対する転写紙の密着性が良好であること。
(3)繊維材料に形成された図柄の色濃度が良好であること。
(4)転写紙が、染料の転写後に繊維材料からの剥離が良好であること。
(1)に関して有しない場合は、捺染産業で通常扱われるロール状の転写紙を繊維材料へ密着させるべく巻き出しするとブロッキングによって塗工層に欠落を発生する場合がある。図柄が形成された部分の塗工層に重大な欠落があると、転写によって形成された繊維材料の図柄にも欠落が存在することになる。また、転写紙の図柄に重大な欠落が無い場合でも、最終的に繊維材料に形成された図柄に色ムラを発生することがある。(2)に関して良好でない場合は、転写捺染の作業効率が低下、又は形成された図柄に歪みもしくはピンボケが発生する。(3)に関して良好でない場合は、商品として成立しない。(4)に関して良好でない場合は、転写捺染の作業効率の低下又は繊維材料に形成された図柄に欠落が発生する。
【0006】
特許文献1に記載されるが如くの捺染転写法では、転写紙を繊維材料に密着した状態で、スチーミング処理などの染料の固着処理を行う。この理由は、スチーミング処理によって水溶性合成系バインダー及び天然系糊剤が軟化して、転写紙が繊維材料から剥離し易くなるからである。しかしながら、転写紙を繊維材料に密着した状態で染料の固着処理では、転写紙と繊維材料との密着物が厚さに富むために固着処理装置内での搬送問題及び取り扱いに難がある。また、転写紙を繊維材料に密着した状態で染料の固着処理では、転写紙に残存する染料によって染料の固着処理時にカブリを発生する場合がある。「カブリ」とは、本来図柄が存在しない領域に染料が転写する現象である。代表的なカブリは、図柄が存在しない領域に斑点状に染料の転写が発生した斑点カブリである。一方、繊維材料に転写紙を密着して加熱及び加圧した後かつスチーミング処理などの染料の固着処理を行う前に、繊維材料から転写紙を剥離することは困難である。剥離ができた場合であっても、繊維材料に形成された図柄には欠落などの不具合を発生することがある。
【0007】
特許文献2に記載されるが如くの転写用紙は、昇華型捺染インクに用いるものである。昇華型捺染インクで捺染できる繊維材料はポリエステル繊維からなるものに限られ、綿など植物由来の繊維材料を捺染することができない。反応染料を含むインクが、綿の捺染に使用される。しかしながら、綿などの植物由来の繊維材料はアニオン性又はカチオン性の電荷に乏しく、通常電荷を帯びる染料が吸着し難い。その結果、綿などの植物由来の繊維材料の捺染は困難である。
【0008】
上記を鑑みて本発明の目的は、繊維材料と転写紙とを密着させて加熱及び加圧した後かつ染料の固着処理前に転写紙を繊維材料から剥離することができ、すなわち上記(4)を満足する、並びに上記(1)~(3)を満足する転写用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明の目的は、以下により達成される。
【0010】
[1]染料を含むインクで図柄を印刷して得た転写紙と繊維材料とを密着させて加熱及び加圧することによって染料を転写紙から繊維材料へ転写させ、転写後に繊維材料から転写紙を剥離し、剥離後の繊維材料について染料の固着処理をする転写捺染法に用いる、図柄を印刷する前の転写用紙であって、原紙の片面に1層又は2層以上の非水系樹脂ラミネート層を有する基材と、前記基材のラミネート層上に1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層において前記基材を基準として最外に位置する最外塗工層が白色顔料と、バインダーと、尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドから成る群から選ばれる二種以上とを含有し、前記バインダーが水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及び多糖類を少なくとも含み、最外塗工層において最外塗工層中の白色顔料20質量部に対してバインダーが50質量部以上125質量部以下であり、最外塗工層において最外塗工層中の白色顔料20質量部に対して尿素が0質量部以上3質量部以下、チオ尿素が20質量部以上50質量部以下、及びジシアンジアミドが20質量部以上50質量部以下で含有し、水を用いた浸透時間4秒における転写用紙の超音波透過減衰率の値が25%以上である転写用紙。
【0011】
[2]最外塗工層の前記白色顔料が非晶質シリカを少なくとも含み、前記非晶質シリカの平均粒子径が10μm以上28μm以下である前記[1]に記載の転写用紙。
最外塗工層の白色顔料の平均粒子径が前記範囲を満足すると、転写用紙は、繊維材料に対する転写紙の密着性及び/又は染料の転写後に繊維材料からの転写紙の剥離が、良化する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、(1)転写紙間における耐ブロッキング性を有すること、(2)繊維材料に対する転写紙の密着性が良好であること、(3)繊維材料に形成された図柄の色濃度が良好であること、及び(4)転写紙が、染料の転写後に繊維材料からの剥離が良好であること、を満足する転写用紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、「転写用紙」とは、転写する図柄が印刷される前の白紙状態にある用紙をいう。「転写紙」とは、転写用紙に対して転写する図柄が印刷された状態にある用紙をいう。
また本発明において、「層を有する」とは、転写用紙の断面を電子顕微鏡によって観察した際に、原紙又は基材と区別できる明確な層を有することを指す。例えば、樹脂成分やポリマー成分を塗工し、塗工された前記成分が少量であって原紙又は基材に吸収され、結果として、転写用紙の断面を電子顕微鏡によって観察した際に原紙又は基材と区別できる明確な層を有しない場合、「層を有する」に該当しない。
【0014】
転写用紙は、原紙の片面に1層又は2層以上の非水系樹脂ラミネート層を有する基材と、前記基材のラミネート層上に1層又は2層以上の塗工層を有する。塗工層中、基材を基準として最も外側に位置する塗工層を最外塗工層という。塗工層が1層の場合は該塗工層が最外塗工層になる。最外塗工層は、白色顔料と、バインダーと、尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドから成る群から選ばれる二種以上とを含有する。前記バインダーは水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及び多糖類を少なくとも含む。塗工層が2層以上である場合において、基材と最外塗工層との間に存在する塗工層は、塗工紙分野で従来公知の塗工層であって、白色顔料の有無及び種類、バインダーの有無及び種類、並びに尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドの有無について特に限定されない。また、基材と最外塗工層との間に存在する塗工層は、塗工紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。
【0015】
転写用紙の製造コストの観点から、塗工層は1層が好ましい。また、塗工層は、基材の片面又は両面に有してよい。塗工層は、基材のラミネート層を有する側に少なくとも設ける。転写用紙は、本発明に係る最外塗工層が基材の片面に有する場合、基材の裏面に従来公知のバックコート層を有してよい。
【0016】
塗工層の塗工量は特に限定されない。転写用紙の製造コスト及び取り扱い易さの観点から、塗工量は、片面あたり乾燥固形分量で5g/m以上70g/m以下が好ましい。塗工量の上限は30g/m以下がより好ましい。さらに、製造コストを削減する観点及び転写紙と繊維材料との密着時における塗工層の欠落を防止する観点から、塗工量は、片面あたり10g/m以上30g/m以下が最も好ましい。塗工量は、片面あたり塗工層が複数存在する場合、それら合計の値である。
【0017】
基材は、原紙の少なくとも最外塗工層を設ける面側に1層もしくは2層以上の非水系樹脂ラミネート層を有するラミネート紙である。
転写紙の最外塗工層と繊維材料とが剥離困難に陥ると、基材と最外塗工層を含む塗工層との間で剥離することによって、塗工層の全部又は一部が繊維材料に付着した状態を含み、繊維材料が転写紙から上手く剥離できる。繊維材料から転写紙を剥離してから繊維材料を染料の固着処理する転写捺染法であれば、固着処理装置内での搬送問題及び取り扱い難は改善される。さらに基材がラミネート紙の場合、染料を含むインクで転写用紙に図柄を印刷する場合、非水系樹脂ラミネート層が染料の原紙までの到達を防止することによって、繊維材料に形成された図柄に欠点の発生及び色濃度の低下が、より抑えられる。
【0018】
前記原紙は、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)、NBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)などの化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)、CGP(ChemiGroundwood Pulp)などの機械パルプ、及びDIP(DeInked Pulp)などの古紙パルプから選ばれる少なくとも一種のパルプに、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン及び焼成カオリンなどの各種填料、さらに、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化剤、紙力剤などの各種添加剤を必要に応じて配合した紙料を抄造した抄造紙である。さらに原紙には、抄造紙にカレンダー処理、澱粉やポリビニルアルコール等で表面サイズ処理、あるいは表面処理等を施した上質紙が含まれる。さらに原紙には、表面サイズ処理や表面処理を施した後にカレンダー処理した上質紙が含まれる。
【0019】
抄造は、紙料を酸性、中性又はアルカリ性に調整して、従来公知の抄紙機を用いて行われる。抄紙機の例としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機、ヤンキー抄紙機等を挙げることができる。
【0020】
原紙の坪量は特に限定されない。用紙の取り扱い易さの観点から、原紙の坪量は10g/m以上100g/m以下が好ましく、30g/m以上100g/m以下がさらに好ましい。
【0021】
紙料中には、その他の添加剤としてバインダー、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤及び乾燥紙力増強剤などから選ばれる一種又は二種以上を、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜配合することができる。
【0022】
原紙の少なくとも最外塗工層を設ける面側に非水系樹脂ラミネート層を有する基材は、上記原紙の片面に非水系樹脂ラミネート層を設けることによって得ることができる。非水系樹脂ラミネート層は、転写紙と繊維材料との剥離を支援する機能及び染料の原紙への浸透を防止する機能を有するものである。
【0023】
非水系樹脂ラミネート層を形成する非水系樹脂とは、水に不溶性である層を原紙上に形成する、ポリオレフィン樹脂、ビニル樹脂又は電子線で硬化する樹脂等である。非水系樹脂は、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン;アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチック、それらの混合物、エチレンとのランダム共重合体及びブロック共重合体等のポリプロピレン;その他に、ポリメチルペンテン、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体等を挙げることができる。非水系樹脂には、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上を使用できる。
【0024】
原紙に非水系樹脂ラミネート層を設ける方法は特に限定されない。例えば、一般の溶融押し出しダイ、Tダイ、多層同時押し出しダイ等の従来公知のラミネーター装置を用いる方法を挙げることができる。原紙の片面に、非水系樹脂ラミネート層は1層又は2層以上である。製造コストの観点から、非水系樹脂ラミネート層は1層が好ましい。非水系樹脂ラミネート層は、厚さが10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。この理由は、原紙に対して十分な被覆性を有して且つ非水系樹脂ラミネート層の上記機能が得られるからである。また、非水系樹脂ラミネート層の厚さは、30μm以下が好ましい。この理由は、30μmで上記機能が飽和して、30μmを超えると材料コストがかかるからである。
なお、非水系樹脂ラミネート層が1層では当該層の厚さを示し、非水系樹脂ラミネート層が2層以上ではこれら層の合計厚さを示す。
【0025】
塗工層は、基材又は下位の塗工層に対して塗工層塗工液を塗工及び乾燥することによって設けることができる。
塗工層を設ける方法は特に限定されない。例えば、製紙分野で従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いて塗工及び乾燥する方法を挙げることができる。塗工装置の例としては、サイズプレス、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、バーコーター、Eバーコーター、カーテンコーター等を挙げることができる。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等を挙げることができる。
また、塗工層には、塗工及び乾燥後にカレンダー処理を施すことができる。
【0026】
最外塗工層のバインダーは、水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及び多糖類を少なくとも含む。最外塗工層の塗工層塗工液にこれらバインダーを配合することによって、最外塗工層は、水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及び多糖類を含有することができる。
【0027】
水溶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸とポリオールとから重縮合反応して得られる樹脂であって、構成成分として多価カルボン酸とポリオールとが樹脂の60質量%以上を占めるものをいう。多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸などを挙げることができ、これらから成る群から一種又は二種以上を選択して用いることが好ましい。ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールなどを挙げることができ、これらから成る群から一種又は二種以上を選択して用いることが好ましい。また、水溶性ポリエステル樹脂は、水溶性を高めるためにカルボキシル基やスルホン酸基等の親水性基を有する成分を共重合させることができる。
水溶性ポリエステル樹脂は、互応化学工業社、高松油脂社及びユニチカ社などから市販されており、これらの市販品を本発明に用いることができる。なお、「水溶性」とは、最終的に20℃の水に1質量%以上溶解することができることを指す。
【0028】
ポリビニルアルコール樹脂は、種々ケン化度及び種々重合度を有する各種ポリビニルアルコール、並びに各種変性ポリビニルアルコールである。変性ポリビニルアルコールの例としては、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、リン酸変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、エポキシ変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール及びアセトアセチル変性ポリビニルアルコール等を挙げることができる。さらには、エチレン、長鎖アルキル基を有するビニルエーテル、アクリルアミド、メタクリルアミド等を共重合した変性ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0029】
ポリビニルアルコール樹脂は、カルボン酸変性ポリビニルアルコールが好ましい。この理由は、繊維材料に対する転写紙の密着性が良化及び繊維材料から転写紙の剥離が良化するからである。カルボン酸変性ポリビニルアルコールは、カルボキシル基が導入されてカルボン酸変性されたポリビニルアルコール部位を有するものである。
カルボン酸変性ポリビニルアルコールとしては、ポリビニルアルコールとビニルカルボン酸化合物とのグラフト重合又はブロック重合により得られるもの、ビニルエステル化合物とビニルカルボン酸化合物とを共重合した後、けん化することにより得られるもの、及びポリビニルアルコールにカルボキシル化剤を反応させて得られるものなどを挙げることができる。前記ビニルカルボン酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)フタル酸、(無水)イタコン酸、及び(無水)トリメリット酸などのカルボキシル基又はその無水物含有化合物を挙げることができる。前記ビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、及びビバリン酸ビニルなどを挙げることができる。前記カルボキシル化剤としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水グルタル酸、水添フタル酸無水物、及びナフタレンジカルボン酸無水物などを挙げることができる。
カルボン酸変性ポリビニルアルコールは、日本合成化学工業社、日本酢ビ・ポバール社及びクラレ社などから市販されており、これら市販品を本発明に用いることができる。
カルボン酸変性ポリビニルアルコールは、数平均重合度が1000以上3000以下であることが好ましい。また、カルボン酸変性ポリビニルアルコールは、ケン化度が85mol%以上90mol%以下であることが好ましい。これらの理由は、他の樹脂との相溶性に優れるからである。
【0030】
アクリル樹脂は、アクリル酸及びそのエステルなどの誘導体、並びにメタクリル酸及びそのエステルなどの誘導体を主体とする重合体又は共重合体の総称である。アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ジメチルアミノエチル及びアクリル酸2-ヒドロキシエチルなどを挙げることができる。また、メタクリル酸エステルは、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ジメチルアミノエチル及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどを挙げることができる。本発明では、アクリロニトリル、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドなどの共重合体もアクリル樹脂に含める。
アクリル樹脂は、東亞合成社、日本触媒社、新中村化学工業社、出光興産社及び三菱ケミカル社などから市販されており、これら市販品を本発明に用いることができる。
【0031】
多糖類は、従来公知のものであって、単糖類が数個以上グリコシド結合によって脱水縮合して、単糖類及び単糖類が二分子から数分子が縮合したオリゴ糖に分類されない糖類である。また、多糖類には、化学的に修飾されたものも含む。多糖類の例としては、カラギーナン、寒天、ペクチン、キサンタンガム、グアガム、ジェランガム、アルギン酸及びその塩、タラガム、トラガントガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラヤガム、澱粉及び各種変性澱粉、アミロース、プルラン、デキストラン、カードラン、レンチナン、アミロペクチン、グリコーゲン、キシラン、ガラクタン、マンナン、グルコマンナン、グルコマンノグリカン、ガラクトグルコマンノグリカン、グアラン等を挙げることができ、さらに、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース類を挙げることができる。
【0032】
多糖類は、澱粉及び各種変性澱粉が好ましい。変性澱粉は、天然植物から精製した澱粉を加工して得ることができる。変性澱粉の例としては、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉や、それらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉である。
【0033】
多糖類は、ヒドロキシプロピル澱粉が好ましい。この理由は、繊維材料に対する転写紙の密着性が良化及び繊維材料に形成された図柄の色濃度が良化するからである。ヒドロキシプロピル澱粉は、グルコースがグリコシド結合によって重合した多糖類においてグルコースが有する水酸基の一部又は全部を酸化プロピレンでエーテル化してヒドロキシプロピル基を導入した変性澱粉である。
ヒドロキシプロピル澱粉は、日澱化學社、松谷化学工業社及びイングレディオン・ジャパン社などから市販されており、これら市販品を本発明に用いることができる。
【0034】
最外塗工層において、水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及び多糖類の各々の含有量は、最外塗工層中の白色顔料20質量部に対して、水溶性ポリエステル樹脂が5質量部以上30質量部以下、ポリビニルアルコール樹脂が10質量部以上35質量部以下、アクリル樹脂が5質量部以上25質量部以下、多糖類が10質量部以上50質量部以下であることが好ましい。また最外塗工層において、バインダー合計の含有量は、最外塗工層中の白色顔料20質量部に対して50質量部以上125質量部以下である。
【0035】
最外塗工層は、水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及び多糖類以外に、塗工紙分野で従来公知のバインダーを含有することができる。バインダーは、例えば、水溶性合成樹脂、水分散性合成樹脂、天然成分に由来する樹脂及びそれらの物理的もしくは化学的に変性して得られる樹脂などである。バインダーの具体例としては、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレンブタジエン系共重合体樹脂、スチレンアクリル酸系共重合体樹脂、スチレンマレイン酸系共重合体樹脂、スチレンアクリルマレイン酸系共重合体樹脂、非水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、タンパク質、カゼイン、ゼラチンなどを挙げることができる。
【0036】
最外塗工層は、水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂及び多糖類の合計が、最外塗工層中のバインダーに対して85質量%以上を占めることが好ましい。
【0037】
白色顔料は、塗工紙分野で従来公知の白色顔料である。白色顔料は、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、各種カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、アルミナ水和物、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、スチレン-アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂などの有機顔料などを挙げることができる。
【0038】
最外塗工層の白色顔料は、非晶質シリカを少なくとも含むことが好ましい。この理由は、繊維材料に対する転写紙の密着性が良化及び繊維材料から転写紙の剥離が良化するからである。
非晶質シリカは、製造法によって湿式法シリカと気相法シリカとに大別することができる。さらに湿式法シリカは、製造方法によって、沈降法シリカとゲル法シリカとに分類できる。沈降法シリカは、珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過・水洗・乾燥・粉砕・分級の工程を経て製造される。沈降法シリカは、例えば、東ソー・シリカ社からニップシール(登録商標)、Oriental Silicas Corporation(OSC)社からファインシール(登録商標)及びトクシール(登録商標)、並びに水澤化学工業社からミズカシル(登録商標)として市販される。ゲル法シリカは、珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造される。微小粒子は、熟成中に溶解し、他の一次粒子どうしを結合するように再析出するため、ゲル法シリカは、明確な一次粒子が消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。ゲル法シリカは、例えば、東ソー・シリカ社からニップゲル(登録商標)、並びにグレースジャパン社からサイロイド(登録商標)及びサイロジェット(登録商標)として市販される。気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって製造される。具体的には、四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られている。四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類を単独又は四塩化ケイ素と併用して使用することができる。気相法シリカは、例えば、日本アエロジル社からアエロジル(登録商標)、及びトクヤマ社からレオロシール(登録商標)として市販される。
白色顔料は、沈降法シリカがより好ましい。
【0039】
前記非晶質シリカは、平均粒子径6μm以上が好ましく、平均粒子径10μm以上がより好ましい。また、前記非晶質シリカは、平均粒子径40μm以下が好ましく、平均粒子径35μm以下がより好ましい。非晶質シリカは、平均粒子径10μm以上28μm以下がさらに好ましい。この理由は、繊維材料に対する転写紙の密着性及び/又は染料の転写後に繊維材料からの転写紙の剥離が、良化するからである。非晶質シリカの平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定で求められる体積基準の値である。レーザー回折・散乱式粒度分布測定で求められる体積基準である平均粒子径は、例えば、日機装社製レーザー回折・散乱式粒度分布測定器Microtrac MT3000IIを用いて測定し、算出することができる。前記平均粒子径を満足する非晶質シリカは、例えば、比較的大きい粒子を有する非晶質シリカを乾式粉砕及び/又は湿式粉砕と整粒とによって得ることができる。また、該非晶質シリカは、前記平均粒子径を満足する市販品を用いることができる。
【0040】
最外塗工層は、白色顔料及びバインダー以外に、必要に応じて塗工紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、分散剤、定着剤、カチオン化剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤等を挙げることができる。
また、最外塗工層は、転写捺染法で従来公知の各種助剤を含有することができる。助剤は、最外塗工層塗工液の各種物性を最適化する、あるいは被印刷物への染着性を向上させるため等に加えられるものである。助剤は、例えば、各種界面活性剤、pH調整剤、アルカリ剤、濃染化剤、保湿剤、脱気剤及び還元防止剤等を挙げることができる。
【0041】
最外塗工層は、尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドからなる群から選ばれる二種以上を含有する。最外塗工層において最外塗工層中の白色顔料20質量部に対して、尿素が0質量部以上3質量部以下、チオ尿素が20質量部以上50質量部以下、及びジシアンジアミドが20質量部以上50質量部以下で含有する。
尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドは、捺染分野において従来から、ヒドロトロピー剤として繊維材料の前処理剤又は捺染用インクに添加される。この理由は、染料の固着処理であるスチーミング処理において、尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドは、繊維材料への染料の染着を促進する効果が得られるからである。特に、尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドは反応染料に好適である。一方で、尿素及びチオ尿素は染料の溶解度を上げる染料溶媒、並びにジシアンジアミドは重縮合という性質を有する。これら性質によって、転写用紙の最外塗工層が、尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドから成る群から選ばれる二種以上を染料の染着を促進させるために含有した場合は、不具合を発生する場合があった。本発明者は、転写用紙の最外塗工層に尿素、チオ尿素及びジシアンジアミドを含有する場合の配合比率を見出し、上記特定のバインダー及び後記の特定範囲の超音波透過減衰率の値との相乗効果によって、本発明に至った。
【0042】
尿素の含有量が3質量部超であると、転写紙間における耐ブロッキング性及び/又は繊維材料に形成された図柄の色濃度が劣化する。チオ尿素の含有量が20質量部未満であると、繊維材料に対する転写紙の密着性及び/又は繊維材料から転写紙の剥離が劣化する。チオ尿素の含有量が50質量部超であると、繊維材料に形成された図柄の色濃度が劣化する。ジシアンジアミドの含有量が20質量部未満であると、繊維材料に対する転写紙の密着性及び/又は繊維材料に形成された図柄の色濃度が劣化する。ジシアンジアミドの含有量が50質量部超であると、繊維材料から転写紙の剥離が劣化する。
【0043】
転写用紙は、水を用いた浸透時間4秒における超音波透過減衰率の値が25%以上である。水を用いた浸透時間4秒における転写用紙の超音波透過減衰率の値は、25%以上90%以下が好ましい。一般的に超音波透過減衰率の値は100%を超音波透過減衰が最小として%値が小さくなる程に水の浸透が進むことを意味し、すなわちこの値が大きいほど水が浸透し難いことを意味する。本発明者は、この値が、転写紙と繊維材料との剥離及び密着、並びに転写紙の耐ブロッキング性に影響することを見出した。
紙を通過する超音波透過減衰率は、水の浸透によって経時変化する。超音波透過減衰率は、例えば、温度23℃及び相対湿度50%の条件下、Emco社の動的浸透性測定装置(DPM)を用いて測定することができる。DPMでは、サンプルホルダーに用紙を固定して、用紙の片面からのみ水を浸透するようにした被試験用紙を、水を満たした測定容器に入れる。容器の片面から発信された超音波は、水、ホルダー、ホルダーに固定された被試験用紙を透過して、もう片面に設置された受信機に到達する。水、ホルダーの超音波透過減衰率は一定であるから、超音波透過減衰率の経時変化は用紙への水の浸透による被試験用紙の超音波透過の変化によってのみ発生する。なお、転写用紙の超音波透過減衰率の測定では、転写用紙の最外塗工層を有する面が水側に来るように転写用紙をサンプルホルダーに固定して、行う。
【0044】
一般的に、塗工紙において超音波透過減衰率の値は以下のように経時変化する。測定開始時間域では、塗工紙表面が水に濡れるに従って塗工紙と水との界面での超音波の反射が減少し、また塗工紙の空隙に水が浸透して空気の超音波透過よりも水の超音波透過が良いために受信信号が増加し、結果として超音波透過減衰率の値は小さくなる。その後の時間域では、水が塗工紙に浸透するに従い、塗工紙内部に局所的に取り残された気泡によって超音波の散乱が発生して受信信号が減少するため、結果として超音波透過減衰率の値は大きくなる。水が塗工紙に完全に浸透すると超音波の吸収が減少して受信信号が増加するため、結果として超音波透過減衰率の値は小さくなる。
超音波透過減衰率の値は、例えば、カレンダー処理程度、坪量、塗工量、塗工層の白色顔料の種類及び含有量、バインダー種及び含有量、並びに白色顔料とバインダーとの含有比率、原紙の密度及びサイズ度、印刷適性向上剤等のイオン性化合物含有量によって調整することができる。カレンダー処理は、線圧が軽度であると表面の大きな空隙が潰れ及び内部の空隙は維持され、線圧が中度であると表面の空隙が潰れ及び内部の空隙は維持され、線圧が強度であると表面の空隙が潰れ及び内部も緻密化される。カレンダー処理は、処理の温度が高くなると、塗工層中のバインダーが軟化するために空隙が減って超音波透過減衰の値を小さくする傾向にある。前記軟化は、澱粉類及びセルロース類等の多糖類より水溶性ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びアクリル樹脂がし易い。塗工量が少ない場合、相対的にバインダー量が多い場合又は塗工紙の空隙が減少した場合は、測定開始時間域の超音波透過減衰率の値は小さくなる傾向を示す。塗工層において、白色顔料の含有量に対してバインダーの含有量が増す場合は、塗工層の空隙が少なくなるため、超音波透過減衰率の値を小さくする傾向にある。
【0045】
本発明の転写用紙は、染料を含むインクで図柄を印刷して転写紙とし、前記転写紙と繊維材料とを密着させて加熱及び加圧することによって染料を転写紙から繊維材料へ転写させ、転写後、繊維材料から転写紙を剥離してから繊維材料をスチーミング処理等の染料の固着処理を施す転写捺染法に用いる。
【0046】
染料を含むインクとしては、反応染料、酸性染料、金属錯塩型染料、直接染料、分散染料、硫化染料、バット染料及びカチオン染料から選ばれる染料を含むインクを挙げることができる。本発明の転写用紙は、反応染料を含むインクに好適である。
【0047】
反応染料を含むインクは、水及びアルコールなどの各種溶媒に色材である反応染料を加えて調製することができる。インクには、必要に応じて従来公知の、分散剤、樹脂、浸透剤、保湿剤、増粘剤、pH調整剤、酸化防止剤及び還元剤などの各種助剤を含有することができる。また、反応染料を含むインクは市販されており、入手することができる。
【0048】
転写紙は、転写用紙に図柄を染料を含むインクで印刷して得ることができる。印刷は、転写用紙の最外塗工層を有する側に行う。印刷する方法は、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式及びインクジェット印刷方式などを挙げることができる。図柄を印刷する方法は、画質及び使用するインクの自由度が比較的高いことから、インクジェット印刷方式が好ましい。
【0049】
転写紙と繊維材料とを密着させた加熱及び加圧は、図柄を印刷した転写紙の印刷面と繊維材料の捺染する面とを対向させて密着させ、密着状態で加熱及び加圧することである。密着させた加熱及び加圧の条件は、転写捺染法で従来公知の条件である。密着させて加熱及び加圧する方法は、例えば、プレス機、加熱ロール及び加熱ドラムなどを用いて転写紙を繊維材料に密着させて加熱及び加圧する方法を挙げることができる。
【0050】
繊維材料から転写紙の剥離は、密着状態の繊維材料と転写紙とから、物理的に転写紙を繊維材料から剥離することである。剥離する方法は、従来公知の方法であって、特に限定されない。方法は、例えば、転写紙と繊維材料とが貼り付けた状態にあるロール状の転写紙及び繊維材料を、各々個別にロールに巻き取る方法によって剥離する方法を挙げることができる。
【0051】
染料の固着処理は、転写紙から繊維材料に転写した染料を繊維材料に固着させる処理であって、捺染分野で従来公知の処理方法である。染料の固着処理は、例えば、スチーミング処理、加湿処理及び高温での乾熱処理などを挙げることができる。染料の固着処理は、スチーミング処理が好ましい。スチーミング処理は、湿式固着処理とも称され従来公知の処理である。スチーミング処理は、代表的に、常圧スチーミング法、HTスチーミング法及びHPスチーミング法がある。一般的に、常圧スチーミング法では約105℃、10分以上15分以下の湿熱処理、HTスチーミング法では150℃以上180℃以下、5分以上10分以下の湿熱処理、HPスチーミング法では120℃以上135℃以下、20分以上40分以下の湿熱処理によって染料の繊維材料への固着を行う。
【0052】
繊維材料は天然繊維材料及び合成繊維材料のいずれでも構わない。天然繊維材料の例としては、綿、麻、リヨセル、レーヨン、アセテート等のセルロース系繊維材料、絹、羊毛、獣毛等の蛋白質系繊維材料等を挙げることができる。合成繊維材料の例としては、ポリアミド繊維(ナイロン)、ビニロン、ポリエスエル、ポリアクリル等を挙げることができる。繊維材料の構造としては、織物、編物、不織布などの単独、混紡、混繊又は交織などを挙げることができる。さらに、これらの構成が複合化してもよい。
本発明の転写用紙は、天然繊維材料に適し、特に綿に対して好適である。
【実施例
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されない。ここで「質量部」及び「質量%」は、乾燥固形分量あるいは実質成分量の各々「質量部」及び「質量%」を表す。塗工層の塗工量は乾燥固形分量を表す。
【0054】
<原紙>
濾水度380mlcsfのLBKP100質量部からなるパルプスラリーに、填料として炭酸カルシウム10質量部、両性澱粉1.2質量部、硫酸バンド0.8質量部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤0.1質量部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面に、酸化澱粉を片面あたり1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量50g/mの原紙を作製した。
【0055】
<基材1>
上記原紙の片面に、高密度ポリエチレンを溶融押し出しダイを用いて厚さ15μmになるようにラミネートし、非水系樹脂ラミネート層を有する基材1を得た。
【0056】
<基材2>
上記原紙を基材2とした。
【0057】
<塗工層塗工液>
各実施例及び各比較例では、水を媒体として、下記の配合で塗工層塗工液を調製した。最終的に、塗工層塗工液の濃度は15質量%とした。
水溶性ポリエステル樹脂 部数は表1~4に記載
カルボン酸変性ポリビニルアルコール 部数は表1~4に記載
アクリル樹脂 部数は表1~4に記載
ヒドロキシプロピル澱粉 部数は表1~4に記載
非晶質シリカ 種類及び部数は表1~4に記載
脂肪酸エステル 10質量部
尿素 部数は表1~4に記載
チオ尿素 部数は表1~4に記載
ジシアンジアミド 部数は表1~4に記載
消泡剤 0.15質量部
炭酸ナトリウム 25質量部
【0058】
表1~表4において、水溶性ポリエステル樹脂には互応化学工業社のプラスコート(登録商標)RZ-142を用いた。ポリビニルアルコール樹脂としてのカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂にはクラレ社のクラレポバール(登録商標)25-88KLを用いた。アクリル樹脂には新中村化学工業社のNKバインダーM-302HNを用いた。多糖類としてのヒドロキシプロピル澱粉には日澱化學社のパイオスターチ(登録商標)Hを、非晶質シリカAには、水澤化学工業社のミズカシルP-603(平均粒子径6μm)を用いた。非晶質シリカBには、OSC社のトクシールNP(平均粒子径10.3μm)を用いた。非晶質シリカCには、水澤化学工業社のミズカシルP-78F(平均粒子径18μm)を用いた。非晶質シリカDには、OSC社のBM225(平均粒子径20.8μm)を用いた。非晶質シリカEには、平均粒子径約100μmである東ソー・シリカ社のニップシールAQを湿式粉砕処理及び整粒を施した非晶質シリカ(平均粒子径28μm)を用いた。非晶質シリカFには、平均粒子径約100μmである東ソー・シリカ社のニップシールAQを湿式粉砕処理及び整粒を施した非晶質シリカ(平均粒子径35μm)を用いた。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
<転写用紙>
塗工層塗工液を、基材の片面上にエアナイフコーターを用いて塗工及び熱風乾燥機を用いて乾燥し、当該塗工層を最外塗工層とした。その後に、カレンダー処理を施して、最終的にロール状の転写用紙を作製した。最外塗工層の塗工量は、実施例12及び13並びに比較例13を12g/m、実施例1~11及び14~18並びに比較例1~12を15g/mとし、超音波透過減衰率の値が所定の値となるようにカレンダー処理の線圧及び温度の条件を調整した。
非水系樹脂ラミネート層を有する基材1では、ラミネート層を有する側に最外塗工層を設けた。
比較例12及び13は、最外塗工層において、白色顔料の含有量に対するバインダーの含有量の割合が本発明の条件を満足しない。比較例12は、最外塗工層において、転写捺染法の分野で従来から存在する白色顔料の含有量に対してバインダーの含有比率がかなり高い設計である。比較例13は、塗工層において、インクジェット用紙の分野で従来から公知である白色顔料100質量部に対してバインダーが5質量部以上30質量部以下に範囲の設計である。
【0064】
<超音波透過減衰率の値>
水に対する転写用紙の超音波透過減衰率の値は、Emco社製のDPMを用いて測定した。サンプルホルダーへの転写用紙の固定は、転写用紙の最外塗工層を有する面が水側に位置するようにした。超音波周波数を2MHzとして測定開始後4秒後の値を読み取った。
【0065】
<転写紙>
ロール状の転写用紙に、反応染料を含むインクをセットしたインクジェットプリンター(ValueJet(登録商標) VJ-1628TD、武藤工業社製)を用いて、転写用紙の最外塗工層を有する側にインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)で評価用図柄を印刷し、最終的にシート状の転写紙を得た。反応染料を含むインクには、Huntsman製NOVACRON(登録商標)MIインクを用いた。
【0066】
<耐ブロッキング性の評価>
ロール状である転写紙をアンワインダーから巻き出した。巻き出された転写紙の図柄が印刷された部分について、転写紙の印刷された部分が接した転写紙の裏面へ塗工層の成分が付着することによる図柄の欠落状態及び繊維材料に形成された色ムラの発生状態を目視にて観察し、下記の基準により官能評価した。評価結果を表1~表4に記載する。本発明において、評価A、B又はCであれば、転写用紙は、耐ブロッキング性を有するものとする。
A:付着が無く、欠落が無く及び色ムラが無く、良好。
B:付着が極僅かにあるものの、重大な欠落が無く及び色ムラが無く、概ね良好。
C:付着が僅かにあるものの、重大な欠落が無く及び色ムラが極僅かで、実用可能。
D:付着があって、欠落があり及び色ムラがあり、実用不可。
【0067】
<転写捺染>
繊維材料として前処理をしていない巻き物の綿布を用いた。転写紙の印刷面と綿布の捺染する面とを対向させて搬送し、加熱ロールを備えるロールニップ方式で密着させて加熱及び加圧した。加熱及び加圧の条件は、温度120℃、線圧70kg/cm、時間0.5秒であった。
【0068】
<転写紙の剥離>
転写紙が貼り付けた状態にある綿布を、転写紙と綿布とを個別にロールに巻き取る方法によって、転写紙を綿布から引き剥がした。
【0069】
<剥離の評価>
転写紙を綿布から剥離した際に綿布の剥離面の状態及び水洗後の綿布の剥離面の状態を観察した。剥離面の状態から下記の基準で官能評価した。評価結果を表1~表4に記載する。本発明において、評価A又はBであれば、転写用紙は、綿布から剥離が良好であるものとする。
A:容易に剥離ができ、たとえ最外塗工層の成分の付着があっても、
後の水洗で容易に除去でき、形成された図柄に欠落がない。
B:最外塗工層の成分の付着があるものの剥離ができ、
後の水洗により、付着した成分が除去でき、形成された図柄に欠落がない。
C:剥離がし難く又はできず、転写紙が破れて密着したままの部分があり、
後の水洗でも除去し難く、又は形成された図柄に欠落がある。
【0070】
<綿布のスチーミング処理>
転写紙を剥離した巻き物の綿布を、アンワインダーからワインダーへ搬送し、その間に常圧スチーミング法によって105℃、10~15分の湿熱処理を行った。
【0071】
<水洗>
スチーミング後、得られた綿布に対して流水中で水洗を行った。
【0072】
<密着の評価>
綿布に形成された図柄の歪み及びピンボケの観点から、転写紙と繊維材料との密着の良好さを下記の基準で官能評価した。評価結果を表1~表4に記載する。本発明において評価がA、B又はCであれば、転写用紙は、繊維材料への密着が良好であるものとする。
A:図柄に歪み及びピンボケが認められない。良好。
B:図柄に歪み及び/又はピンボケが極僅かに認められる。
しかし、概ね良好。
C:上記Bより劣り、歪み及び/又はピンボケが僅かに認められる。
しかし、標準的レベル。
D:上記Cより劣り、歪み及び/又はピンボケが認められる。
しかし、実用可能なレベル。
E:上記Dより劣り、歪み及び/又はピンボケが認められる。実用不可のレベル。
【0073】
<色濃度の評価>
綿布に形成された3色(シアン、マゼンタ、イエロー)のベタ画像部を光学濃度計(X-rite(登録商標)530、エックス-ライト・インコーポレーテッド社)を用いて色濃度を測定し、3色の色濃度値を合計した。合計値から、色濃度を下記の基準で評価した。評価結果を表1~表4に記載する。本発明において、転写用紙は、A、B又はCの評価であれば色濃度が良好である繊維材料を提供できるものとする。
A:合計の値が4.8以上
B:合計の値が4.6以上4.8未満
C:合計の値が4.4以上4.6未満
D:合計の値が4.2以上4.4未満
E:合計の値が4.2未満
【0074】
それぞれの評価結果を表1~表4に記載する。
【0075】
表1~表4から、本発明に該当する実施例1~18の転写用紙は、(1)転写紙間における耐ブロッキング性を有し、(2)繊維材料に対する転写紙の密着性が良好であり、(3)繊維材料に形成された図柄の色濃度が良好であり、及び(4)転写紙が、染料の転写後に繊維材料からの剥離が良好であると分かる。一方、本発明の構成を満足しない比較例1~13は、本発明に係るこれら(1)~(4)の効果を同時に満足することができないと分かる。
主に、実施例1及び実施例14~18の間での対比から、最外塗工層の白色顔料は、平均粒子径が10μm以上28μm以下が好ましいと分かる。