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特許7296877癌幹細胞を含む癌を治療するためのルテニウム錯体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】癌幹細胞を含む癌を治療するためのルテニウム錯体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/444 20060101AFI20230616BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230616BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20230616BHJP
   A61K 31/525 20060101ALI20230616BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
A61K31/444
A61P35/00
A61K47/55
A61K31/525
A61K45/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019524182
(86)(22)【出願日】2017-11-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 ES2017070745
(87)【国際公開番号】W WO2018087413
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】P201631426
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】517286630
【氏名又は名称】ウニヴェルシダーデ デ サンティアゴ デ コンポステーラ
(73)【特許権者】
【識別番号】506255603
【氏名又は名称】ウニベルシダッド アウトノマ デ マドリッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ヘシカ、ロドリゲス、ビジャール
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、ルイス、マスカレニャス、シド
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、ロドリゲス、コウセイロ
(72)【発明者】
【氏名】ヘスス、モスケラ、モスケラ
(72)【発明者】
【氏名】マルコス、エウヘニオ、バスケス、センティス
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ、サインス、アンディング
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/052821(WO,A1)
【文献】Chem. Eur. J.,2016年07月04日,Vol. 22,pp. 10960-10968,Supporting Information, pp. 1-15
【文献】Dalton Trans.,2016年05月25日,Vol. 45,pp. 13135-13145
【文献】Chem. Eur. J.,2011年,Vol. 17,pp. 9924-9929
【文献】New J. Chem.,2014年,Vol. 38,pp. 4049-4059
【文献】Biotherapy,2007年,Vol. 21, No. 4,pp. 209-216
【文献】日放腫会誌,2009年,Vol. 21,pp. 1-11
【文献】Cytometry Research,2016年12月15日,Vol. 26, No. 2,pp. 7-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 33/00-33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌が癌幹細胞を含む癌である場合の、癌を治療するための医薬組成物であって、式(I):
【化1】
[式中、
-N-Nは、以下
【化2】
からなる群から選択されるN,N,N-三座アザ芳香族配位子を表し;
-Nは、以下
【化3】
からなる群から選択されるN,N-二座アザ芳香族配位子を表し;
Xは、OH、Cl、Br、I、およびSRから選択され;
およびRは、独立に、ハロゲン、OR’’、N(R’’)、N(R’’)COR’’、CN、NO、COR’’、COR’’、OCOR’’、OCOR’’、OCONHR’’、OCON(R’’)、CONHR’’、CON(R’’)、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C14アリール、および3員~10員のヘテロシクリルから選択される1個以上の基で置換されていてよいC-C12アルキルから選択され;
R’は、独立に、水素、置換されていてよいC-Cアルキル、置換されていてよいC-C14アリール、置換されていてよい5員~10員のヘテロアリール、およびハロゲンから選択され;
R’’は、独立に、水素、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C14アリール、および3員~10員のヘテロシクリルからなる群から選択され;
は、一価のアニオンであり;かつ
nは、1または2である]
のルテニウム錯体を含んでなる、医薬組成物。
【請求項2】
-N-N
【化4】
を表し、かつN-N
【化5】
を表し、式中、各基R’は、独立に、水素、置換されていてよいC-Cアルキル、置換されていてよいC-C14アリール、置換されていてよい5員~10員のヘテロアリール、およびハロゲンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ルテニウム錯体が、下式:
【化6】
[式中、
Xは、OH、Cl、Br、I、およびSRから選択され;
およびRは、独立に、ハロゲン、OR’’、N(R’’)、N(R’’)COR’’、CN、NO、COR’’、COR’’、OCOR’’、OCOR’’、OCONHR’’、OCON(R’’)、CONHR’’、CON(R’’)、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C14アリール、および3員~10員のヘテロシクリルから選択される1個以上の基で置換されていてよいC-C12アルキルから選択され;
は、一価のアニオンであり;かつ
nは、1または2である]
を有する、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ルテニウム錯体が、以下:
【化7】
(式中、Yは、一価のアニオンである)
からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記癌が、乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵臓癌、子宮頸癌、および腎臓癌から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記癌が、膵臓癌、好ましくは膵腺癌である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ルテニウム錯体が、リンカーを介して、ABCG2基体または抗腫瘍薬に共有結合し、コンジュゲートを形成している、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ABCG2基体が、イマチニブ、ゲフィチニブ、フラボピロドール、トポテカン、イリノテカン、SN-38、ミトキサントロン、シメチジン、プラゾシン、スタチン類、ジドブジン、エストロン、17β-エストラジオール、プロトポルフィリンIX、2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミダゾ[4,5-b]ピリジン、アムサクリン、アスパラギナーゼ、アザチオプリン、ビサントレン、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロランブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、フラボピリドール、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ヒドロキシ尿素、ロイコボリン、リポソームダウノルビシン、リポソームドキソルビシン、ロムスチン、クロルメチン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プロカルバジン、サトラプラチン、ストレプトゾトシン、テガフール・ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオグアニン、チオテパ、トレオスルファン、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、SN-38、ビノレルビン、リボフラビン、D-ルシフェリン、ローダミン123、フェオホルビドa、BODIPY-プラゾシン、およびヘキスト33342から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ABCG2基体がリボフラビンである、請求項7または8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ルテニウム錯体が式(I’):
【化8】
[式中、X、n、およびYは、請求項1~のいずれか一項に記載のとおりである]
の錯体である、請求項7~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
さらなる治療薬剤と組み合わせて使用するための、請求項1~6のいずれか一項または請求項7~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記さらなる治療薬剤が抗腫瘍薬である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記さらなる治療薬剤を含んでなる、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物および前記さらなる治療薬剤が2つの剤形で別々に製剤化されている、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記さらなる治療薬剤と同時に、個別に、または逐次投与するための、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌幹細胞を含む癌を治療するための、ルテニウム錯体またはそれを含有する医薬組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
白金を含有する金属性化合物は抗腫瘍活性を示すことが知られている。これらの金属性化合物の中で最もよく知られているものはシスプラチンであり、これは今日様々な癌の臨床治療に使用されている。
【0003】
それにもかかわらず、この種の化合物に基づく抗腫瘍治療はしばしば重篤な副作用を引き起こす。従って、シスプラチンよりも選択的で毒性が低い抗腫瘍活性を有する金属性化合物を開発することに大きな関心が寄せられている。この意味で、ルテニウム錯体は、それらの動力学的安定性ならびにそれらの酸化還元特性および光化学的特性により有望な代替物である。非共有結合により二本鎖DNAを認識し、また、DNAと共有結合性付加体も形成するルテニウム錯体が記載されている。これらの錯体の大部分はDNAの二本鎖と結合する。しかしながら、グアニン四重鎖(GQ)の機能的関連性のために、これらの構造との結合によって作用することが可能な錯体を開発することは非常に興味深いであろう。この意味で、Wu et al., Inorg. Chem. 2013, 2, 11332は、GQ構造を共有結合的に金属化することが可能なルテニウム錯体を記載しているが、この反応はどちらかといえば非選択的である。
【0004】
腫瘍の発生および転移の開始に関連して、異なる細胞種に分化し自己複製することが可能な「癌幹細胞」と呼ばれる細胞集団が最近同定されたため、これらの細胞は、抗腫瘍治療後の再発プロセスおよび転移の開始に関連している可能性が高いと考えられる。従って、この細胞種に作用することが可能な新しい抗腫瘍療法を提供することは非常に興味深い。
【0005】
癌の治療における別の課題は、活性化合物を作用部位に選択的に送達することを可能にし、それによって、必要な用量を減らし、かつ癌細胞に特異的に作用することを可能にし、正常細胞の損傷を防ぐ標的療法を達成することからなる。
【0006】
従って、最先端にある技術の欠陥を解決することを可能にする、癌を治療するための代替方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、本明細書において定義されるルテニウム(II)錯体が、平行したグアニン四重鎖(GQ)中に存在する不対グアニンを選択的に金属化することが可能であることを見出した。観察されたように、この選択的金属化は、多くの細胞プロセスに関与しているc-MYC癌遺伝子の発現の増加を引き起こす。加えて、本発明者らは、c-MYCの割合のこの増加は癌幹細胞の分化を促進する可能性があり、このことからこれらのルテニウム錯体は生物学および医学における重要なツールとなることを見出した。さらに、光を照射すると、金属化反応は錯体の種類に応じて多かれ少なかれ増加することが観察されている。
【0008】
これを考慮して、第1の側面において、本発明は、癌幹細胞を含む癌を治療するための医薬品を製造するための、式(I):
【化1】
[式中、
-N-Nは、N,N,N-三座アザ芳香族配位子を表し;
-Nは、N,N-二座アザ芳香族配位子を表し;
Xは、OH、Cl、Br、I、およびSRから選択され;
およびRは、独立に、置換されていてよいC-C12アルキルから選択され;
は、一価のアニオンであり;かつ
nは、1または2である]
のルテニウム錯体に関する。
【0009】
第2の側面では、本発明は、癌幹細胞を含む癌の治療において使用するための、本明細書において定義される式(I)のルテニウム錯体を含んでなる医薬組成物または医薬品に関する。
【0010】
第3の側面では、本発明は、癌幹細胞を含む癌を治療するための方法に関し、この方法は、治療上有効な量の、本明細書において定義される式(I)のルテニウム錯体を投与することおよび光を照射することを含んでなる。
【0011】
別の側面では、本発明は、以下を含んでなるコンジュゲートに関する:
・式(I)のルテニウム錯体、および
・ABCG2基体。
【0012】
別の側面では、本発明は、以下を含んでなるコンジュゲートに関する:
・式(I)のルテニウム錯体、および
・抗腫瘍薬。
【0013】
本発明の他の側面は、医療において使用するための、および癌幹細胞を含む癌の治療において使用するための、本発明のコンジュゲートに関する。最後に、本発明の別の側面は、癌幹細胞を含む癌を治療するための方法に関し、この方法は、治療上有効な量の、本明細書において定義されるコンジュゲートを投与することおよび光を照射することを含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(上)錯体1でのGMPの金属化反応およびアコ2誘導体の形成。(左下)10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中での錯体1(250μM)とGMP(750μM)との反応のHPLC:(a)t=0時点で暗所内;(b)暗所で30分後;(c)455nmで30分照射した後の初期混合物;(d)暗所で2時間後の初期混合物。(右下)モノ付加体3の質量スペクトル。
図2】10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中での錯体1(250μM)と、GMP(3当量、750μM)、AMP(3当量、750μM)、TMP(3当量、750μM)、およびCMP(3当量、750μM)との反応についてのHPLCクロマトグラム:(a)錯体1;(b)455nmで30分照射した後の混合物。溶出剤:ACN/HO勾配1、0.1%TFA。λobs=222。
図3】a)10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中、H-Lys(Boc)-OH(3当量、750μM)の存在下での錯体1(250μM)とGMP(3当量、750μM)との反応についてのHPLCクロマトグラム:455nmで30分照射した後の錯体1、GMP、およびH-Lys(Boc)-OH。溶出剤:TFAの存在下でACN/HO勾配1。λobs=222。GMPは、異性体2’-モノホスフェートおよび3’-モノホスフェートの混合物であるため、2つのピークとして現れる。b)10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中、Ac-Cys-OH(3当量、750μM)の存在下での錯体1(250μM)とGMP(3当量、750μM)との反応についてのHPLCクロマトグラム:455nmで30分照射した後の錯体1、GMP、およびAc-Cys-OH。溶出剤:TFAの存在下でACN/HO勾配1。λobs=222。
図4】(左)10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM KCl中、室温でのc-MYC(10μM)と錯体1(5当量)との混合物のHPLC:(a)t=0時点で暗所内;(b)暗所で30分後;(c)455nmで30分照射した後の初期混合物、溶出剤:TEAAの存在下でACN/HO勾配3。λobs=260nm。(右)金属化生成物(MYC-[Ru])の質量スペクトルは錯体(m/z=8089)および脱金属化フラグメント(m/z=7600)に対応するピークを示している。
図5】10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中での錯体4(250μM)とGMP(750μM)との反応についてのHPLCクロマトグラム:(a)錯体4;(b)暗所で30分後;(c)455nmで30分照射した後の同じ混合物。溶出剤:TFAの存在下でACN/HO勾配1。λobs=222nm。
図6】10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM KCl中、室温でのc-MYC(10μM)と錯体4(5当量)との混合物のHPLC:(a)錯体4;(b)暗所で30分後;(c)455nmで30分照射した後の同じ混合物。溶出剤:TEAAの存在下でACN/HO勾配3。λobs=260nm。
図7】10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中での錯体5(250μM)とGMP(750μM)との反応についてのHPLCクロマトグラム:(a)錯体5;(b)暗所で30分後;(c)455nmで30分照射した後の同じ混合物。溶出剤:TFAの存在下でACN/HO勾配1。λobs=260nm。
図8】10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM KCl中、室温でのc-MYC(10μM)と錯体5(5当量)との混合物のHPLC:(a)錯体5;(b)暗所で30分後;(c)455nmで30分照射した後の同じ混合物。溶出剤:TEAAの存在下でACN/HO勾配3。λobs=260nm。
図9】10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中、室温での錯体1(250μM)についてのHPLCクロマトグラム:(a)t=0時点で暗所内;(b)暗所で30分後;(c)455nmで30分照射した後の同じ混合物。溶出剤:TEAAの存在下でACN/HO勾配2。λobs=222nm。
図10】10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中、室温での錯体2(250μM)とGMP(750μM)との反応についてのHPLCクロマトグラム:(a)t=0時点で暗所内;(b)暗所で30分後;(c)455nmで30分照射した後の初期混合物。溶出剤:TEAAの存在下でACN/HO勾配2。λobs=222nm。
図11】(左)qRT-PCRによるc-MYC(薄色のバー)およびALAS1(濃色のバー)の発現レベルの解析。HeLa細胞を、100μMの錯体1(RuCl)、TMPyP4、または50μMの5-FUともに16時間または48時間インキュベートした。発現レベルは、GAPDH遺伝子の発現レベルと比較して表される。値は3回の実験の平均であり、エラーバーは標準誤差を示す。(右)ウエスタンブロットによるc-MYCの発現の解析。HeLa細胞を、100μMの錯体1(RuCl)とともに16時間インキュベートした後溶解し、c-MYCを、SDS-PAGE、続いて、抗MYC抗体を用いるウエスタンブロットによって検出した(右、上のパネル)。2つの独立した実験におけるタンパク質の相対量を、デンシトメトリーによって定量した(右、下のパネル)。データは、未処理の対照に対する変化率として表される。エラーバーは、未処理の対照に対する変化率の標準偏差を示す。
図12】qRT-PCRによるc-MYCの発現レベルの解析。Vero細胞を、100μMの錯体2(アコ)とともに16時間インキュベートした。相対レベルは、GAPDHの発現レベルと比較して表される。結果は3回の実験の平均値に相当し、エラーバーは標準偏差を示す。
図13】錯体1(RuCl)で処理した異なる細胞株の生存率アッセイ。不死化Vero細胞株(白色バー)、A549細胞株(薄灰色バー)、およびHeLa細胞株(濃灰色バー)を、100μMのRuClまたはTMPyP4、または50μMの5-FUとともに3日間インキュベートした。細胞生存率は、標準的なMTTアッセイを用いることによって解析した。値は、未処理の細胞(黒色バー)に対する変化率を表し、3つの異なる実験の平均結果であり、それらの各々は三連で実施された。エラーバーは標準偏差を表す。
図14】(左)暗所(黒色バー)または照射後(60分、白色バー)のqRT-PCRによって決定されたc-MYCの転写レベル。HeLa細胞を、100μMの錯体5(RuMet)または錯体2(アコ)とともに16時間インキュベートした。発現値は、GAPDH遺伝子の発現と比較している。(右)錯体5の存在または不在下でのウエスタンブロットによって決定されたc-MYCタンパク質の発現レベル。β-アクチンの発現レベルに対するタンパク質の相対量を、デンシトメトリーによって定量した(下のパネル)。実験方法は、図11に記載したものと同様であった。
図15】錯体5(RuMet)、錯体1(RuCl)、または錯体2(アコ)の存在または不在下でのウエスタンブロットによって決定されたc-MYCタンパク質の発現レベル。薄色のバーは、照射条件下でのc-MYCの発現レベルに対応し、一方、濃色のバーは、暗条件に対応する。c-MYCの発現は、未処理のサンプルにおける発現に対する変化率として表される。β-アクチンの発現レベルに対するタンパク質の相対レベルを、デンシトメトリーによって定量した。
図16】錯体5(RuMet)で処理した異なる細胞株の生存率アッセイ。Vero細胞株およびHeLa細胞株を、100μMの錯体5とともに3日間インキュベートした。細胞生存率は、標準的なMTTアッセイを用いることによって解析した。薄灰色バーは、照射条件下での実験値を示し、黒色バーは、暗所で決定された値を示す。値は、暗所での未処理の細胞(対照)に対する変化率を表し、3つの異なる実験の平均であり、各々は三連で実施された。エラーバーは標準偏差を表す。
図17】膵管腺癌(PDAC)細胞に対する錯体2(RuHO)の効果。(A)異なる濃度の錯体2で処理したPDACにおいて、異なる時間にわたって、ウエスタンブロットによって決定されたように、錯体2(RuHO)は、PDAC細胞におけるc-MYCの発現を増加させる。(B)錯体2(RuHO)は、PDAC癌幹細胞の自己複製能を低下させる。上のパネルは、実験計画を示している。下のパネルは、各処理群の播種後7日目に決定されるスフェア数/mLの定量を示している。
図18】c-MYCの発現と、パス数の少ない患者由来の異種移植片に基づいて確立された接着性PDAC培養物における細胞増殖に対するRuHO(250μM)の効果。RuHOでの処理の24時間後および48時間後の培養物におけるc-MYCの発現のウエスタンブロット解析。
図19】パス数の少ない患者由来の異種移植片に基づいて確立された接着性PDAC培養物における遺伝子発現に対するRuHOの効果。Panc185細胞およびPancA6L細胞のRNAを、100μMのRuHOでの処理の24時間後に抽出した。処理したサンプルから生成されたcDNAにおいてOct3/4、Sox2、およびPGC1αのqRT-PCR解析を実施した。データは、HPRT mRNAの発現レベルに対して正規化されている。Panc185細胞はまた、本明細書において185および185 scdと互換的に呼ばれ、Pacn6AL細胞はまた、本明細書においてA6Lと互換的に呼ばれる。
図20】PDAC培養物に対するRuHOの細胞毒性効果。指示された用量のRuHOでの処理の24時間後、48時間後、および72時間後に、Panc185(A)および PancA6L(B)の接着性培養物(CSCが少ない)およびスフェア(CSC豊富)において相対的な細胞死を決定した。
図21】PDACスフェア培養物に対するRuHOの細胞毒性効果。100μMのRuHOで72時間処理した後のPanc185細胞およびPancA6L細胞の光学顕微鏡写真およびアネキシンV染色。
図22】PDACスフェア形成に対するRuHOの効果。(A)PDAC CSCにおけるRuHOの効果を評価するための実験の作業順序(B)250μMのRuHOで10日間処理した後のPanc185細胞およびPancA6L細胞から誘導されたスフェアの光学顕微鏡写真
図23】in vivoでのPDAC造腫瘍性に対するRuHOの効果。NOD-SCID(非肥満性糖尿病、重症複合免疫不全)マウスへの皮下注射の前にPanc185細胞をRuHOで前処理した。注射の12週間後に腫瘍を摘出し、解析した。(A)10または10個のPanc185細胞を注射し、対照(CTL)または250μMのRuHOで前処理した12週間後にNOD-SCIDマウスから摘出された腫瘍の写真。(B)10または10個のPanc185細胞の各注射で検出された、対照(CTL)または250μMのRuHOで前処理した腫瘍の数の概略。(C)10または10個のPanc185細胞を注射し、対照(CTL)または250μMのRuHOで前処理した12週間後にNOD-SCIDマウスから摘出した腫瘍の重量。
図24】PDAC細胞におけるアポトーシスの誘導。100μMまたは250μMのRuHOで48時間処理したPDAC細胞のアネキシンV染色。
図25】RuHO処理後のPDAC細胞のクローン産生性。(上)培養10日後に形成されたPanc185コロニーおよびPancA6Lコロニーの光学顕微鏡写真。コロニーをクリスタルバイオレット染色で可視化した。(下)コロニー効率の定量。コロニーをPBS-1%トリトン-Xで溶解し、色強度をプレートリーダーで測定した。
図26】RuHO処理後のPDAC細胞のスフェア形成能。
図27】RuHO処理後のPDAC細胞の造腫瘍性。PDAC細胞を指示された濃度のRuHOで48時間処理した後、NOD-SCIDマウスに皮下注射した。注射の7週間または11週間後に腫瘍を摘出した。
図28】PDAC CSCにおけるRu-リボフラビンコンジュゲートの効果を評価するための実験の作業順序。
図29】遺伝子発現に対するRu-リボフラビンコンジュゲート(RuRbf)(250μM)の効果およびPDAC CSCの自家蛍光。(A)対照(Ctr)、250μMのRu-Rbf、または250μMのRu-Rbf+FTCでの処理の24時間後にPanc185細胞のRNAを抽出した。処理したサンプルから生成されたcDNAにおいてC-MYC、Klf4、およびOCT3/4のqRT-PCR解析を実施した。データは、HPRT mRNAの発現レベルに対して正規化されている。(B)フローサイトメトリーによる自家蛍光測定。
図30】PDAC CSCの腫瘍形成に対するRu-リボフラビンコンジュゲート(250μM)の効果。
【発明の具体的説明】
【0015】
研究者らは、XがClである式(I)ルテニウム錯体は、活性なアコ錯体(X=HO)への事前変換によって、グアノシン一リン酸(GMP)を選択的に金属化することが可能であることを見出した。この反応は光照射によって加速され得る。
【0016】
また、これらの錯体がc-MYC癌遺伝子の発現レベルの増加を引き起こし、それ故転写活性化因子として作用することも観察されている。XがSRから選択されるルテニウム錯体の場合、これらの錯体は暗所で安定しているが、チオエーテル配位子は光照射によって容易に相互変換することができ、活性なアコ錯体を生じる。その場合、XがSRから選択されるルテニウム錯体は、光の不在下では完全に不活性であるが、光照射後にc-MYCレベルの増加を引き起こすことが確認された。さらに、XがHOである本発明のルテニウム錯体(アコ錯体)の場合、暗所でも光照射によってもc-MYC癌遺伝子レベルを増加させることが可能であることが確認された。
【0017】
第1の側面において、本発明は、癌幹細胞を含む癌を治療するための医薬品を製造するための、式(I):
【化2】
[式中、
-N-Nは、N,N,N-三座アザ芳香族配位子を表し;
-Nは、N,N-二座アザ芳香族配位子を表し;
Xは、OH、Cl、Br、I、およびSRから選択され;
およびRは、独立に、置換されていてよいC-C12アルキルから選択され;
は、一価のアニオンであり;かつ
nは、1または2である]
のRu(II)錯体に関する。
【0018】
ルテニウム錯体
用語「アルキル」とは、1~12個(「C-C12アルキル」)、好ましくは1~6個(「C-Cアルキル」)、より好ましくは1~3個(「C-Cアルキル」)の炭素原子を含有し、一重結合を通じて分子の残りの部分と結合している直鎖状または分岐状アルカン誘導体を指す。例えば、アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシルが挙げられる。
【0019】
用語「アルケニル」とは、2~6個(「C-Cアルケニル」)、より好ましくは2~3個(「C-Cアルケニル」)の炭素原子を含有し、少なくとも1つの二重結合を含み、一重結合によって分子の残りの部分と結合している直鎖状または分岐状炭化水素鎖基を指す。例えば、エテニル、プロペニル、アリル、ブテニル、1-メチル-2-ブテン-1-イルなどが挙げられる。
【0020】
用語「アルキニル」とは、2~6個(「C-Cアルキニル」)、より好ましくは2~3個(「C-C」アルキニル)の炭素原子を含有し、少なくとも1つの三重結合を含み、一重結合によって分子の残りの部分と結合している直鎖状または分岐状炭化水素鎖基を指す。例えば、エチニル、プロピニル、ブチニルなどが挙げられる。
【0021】
用語「アリール」とは、相互に縮合した1または2個の芳香核を含んでなる、6~14個、好ましくは6~10個の炭素原子を有する芳香族基を指す。例えば、アリール基としては、フェニル、ナフチル、インデニル、フェナントリルなどが挙げられる。
【0022】
用語「ヘテロシクリル」とは、独立に、N、O、およびSから選択される1個以上、具体的には、1個、2個、3個、または4個の環ヘテロ原子を含む、3~10個、好ましくは5~10個、より好ましくは5~7個の環原子を含有し、残りの環原子が炭素である、完全にもしくは部分的に飽和していてよくまたは芳香族(「ヘテロアリール」)であり得る単環系または二環系を指す。
【0023】
用語「ハロゲン」とは、臭素、塩素、ヨウ素、またはフッ素を指す。
【0024】
用語N,N-二座またはN,N,N-三座アザ芳香族配位子とは、窒素原子単独を通じた配位によってRu(II)金属中心の2つ(二座)または3つ(三座)の配位部位を占めることができる芳香族分子を指す。好ましくは、この芳香族分子は、炭素原子と、2個(二座)または3個(三座)から6個まで、好ましくは、2個、3個、4個、または5個、の窒素原子とによって形成される、10~32員、好ましくは12~28員、より好ましくは12~20員を有する(二座)かまたは15~32員、好ましくは18~30員、より好ましくは18~26員を有する(三座)、安定なヘテロアリールである。本明細書において使用される場合、表現「10~32員を有するかまたは15~32員を有するヘテロアリール」とは、10~32個の原子または15~32個の原子の主鎖を有するヘテロアリール基を意味する。本発明の目的のために、複素環は、縮合(fused or condensed)環系を含み得る多環系であり得る。N,N-二座および N,N,N-三座アザ芳香族配位子の例としては、限定されるものではないが、2,2’-ビピリジン、2,2’-ビピラジン、2,2’-ビピリミジン、1,10-フェナントロリン、バソフェナントロリン、2,2’-ビスキノリン、1,1’-ビスイソキノリン、2-ピリジニル-2-キノリン、3-ピリジニル-2-キノリン、1-ピリジニル-2-イソキノリン、2-ピリジニル-2-[1,8]-ナフチリジン、2,2’:6’,2’’-テルピリジン、2,6-ビス(2’-ベンズイミダゾリ)ピリジン、2,6-ビス(8’-キノリニル)ピリジン、2,6-ビス(2’-[1,8]-ナフチリジニル)ピリジン、2-ピリジニル-2-[1,10]-フェナントロリン、2-キノリニル-8-[1,10]-フェナントロリンなどが挙げられる。これらのアザ芳香族配位子は、置換されていてよい。
【0025】
前述の基は、1つ以上の利用可能な位置で、OR、SR、SOR、SOR、OSOR、SOR、SO 、NO、N(R)、N(R)COR、N(R)SOR、CN、ハロゲン、COR、COR、CO 、OCOR、OCOR、OCONHR、OCON(R)、CONHR、CON(R)、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C14アリール、および3員~10員のヘテロシクリルなどの1個以上の好適な基で置換されていてよく、ここで、基Rの各々は、独立に、水素、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C14アリール、および3員~10員のヘテロシクリルからなる群から選択され、かつ、Zは、好ましくは、例えば、ナトリウムまたはカリウムのカチオンなどの無機一価カチオンである。特定の実施態様では、式(I)の化合物中の1~5個、好ましくは2個または3個、のアザ芳香族配位子は、パラ位でスルホネート(SO )またはカルボキシレート(CO )基で置換されている。
【0026】
本明細書において、「一価のアニオン」とは、Ru(II)錯体のカチオンとイオン結合を形成することができる、単一の負電荷を有する無機または有機のアニオンを指す。好ましくは、一価のアニオンは無機である。一価のアニオンの例としては、PF 、Cl、Br、I、F、BF 、CFSO 、CHSO 、CHSONO 、NO 、SCN、BrO 、IO 、HCO 、HCOO、CHCOO、CFCO 、HSO 、HSO 、およびHPO が挙げられる。
【0027】
特定の実施態様では、N-N-Nは、置換されていてよい2,2’:6’,2’’-テルピリジン、2,6-ビス(2’-ベンズイミダゾリ)ピリジン、2,6-ビス(8’-キノリニル)ピリジン、2,6-ビス(2’-[1,8]-ナフチリジニル)ピリジン、2-ピリジニル-2-[1,10]-フェナントロリン、および2-キノリニル-8-[1,10]-フェナントロリンからなる群から選択されるN,N,N-三座アザ芳香族配位子である。
【0028】
一つの実施態様では、N-N-Nは、以下:
【化3】
からなる群から選択され、式中、各基R’は、独立に、水素、置換されていてよいC-Cアルキル、置換されていてよいC-C14アリール、置換されていてよい5員~10員のヘテロアリール、およびハロゲンから選択される]。好ましくは、各基R’は、独立に、水素、ハロゲン、スルホネート、カルボキシレート、非置換C-Cアルキル、非置換C-C14アリール、および非置換5員~10員ヘテロアリールから選択される。より好ましくは、各基R’は、独立に、水素、Cl、Br、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、およびt-ブチルから選択される。特定の実施態様では、各基R’は水素である。
【0029】
特定の実施態様によれば、N-N-Nは、以下からなる群から選択される。
【化4】
【0030】
別の実施態様では、N-N-Nは、置換されていてよい2,2’:6’,2’’-テルピリジンを表す。好ましくは、N-N-Nは、C-Cアルキル、C-C14アリール、5員~10員のヘテロアリール、スルホネート、カルボキシレート、またはハロゲンで置換されていてよい2,2’:6’,2’’-テルピリジン;より好ましくは、Cl、Br、スルホネート、カルボキシレート、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、およびt-ブチルで置換されていてよい2,2’:6’,2’’-テルピリジンから選択される。特定の実施態様では、N-N-Nは、2,2’:6’,2’’-テルピリジンを表す。
【0031】
本発明の特定の実施態様によれば、N-Nは、置換されていてよい2,2’-ビピリジン、2,2’-ビピラジン、2,2’-ビピリミジン、1,10-フェナントロリン、バソフェナントロリン、2,2’-ビスキノリン、1,1’-ビスイソキノリン、2-ピリジニル-2-キノリン、3-ピリジニル-2-キノリン、1-ピリジニル-2-イソキノリン、および2-ピリジニル-2-[1,8]-ナフチリジンからなる群から選択されるN,N-二座アザ芳香族配位子である。
【0032】
一つの実施態様では、N-Nは、以下:
【化5】
からなる群から選択され、式中、各基R’は、独立に、水素、スルホネート、カルボキシレート、置換されていてよいC-Cアルキル、置換されていてよいC-C14アリール、置換されていてよい5員~10員のヘテロアリール、およびハロゲンから選択される]。好ましくは、各基R’は、独立に、水素、ハロゲン、非置換C-Cアルキル、非置換C-C14アリール、および非置換5員~10員ヘテロアリールから選択される。より好ましくは、各基R’は、独立に、水素、Cl、Br、スルホネート、カルボキシレート、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、およびt-ブチルから選択される。特定の実施態様では、各基R’は水素である。
【0033】
特定の実施態様によれば、N-Nは、以下からなる群から選択される。
【化6】
【0034】
別の実施態様では、N-Nは、置換されていてよい2,2’-ビピリジンを表す。好ましくは、N-Nは、C-Cアルキル、C-C14アリール、5員~10員のヘテロアリール、スルホネート、カルボキシレート、またはハロゲンで置換されていてよい2,2’-ビピリジン;より好ましくは、Cl、Br、スルホネート、カルボキシレート、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、およびt-ブチルで置換されていてよい2,2’-ビピリジンから選択される。特定の実施態様では、N-Nは、2,2’-ビピリジンを表す。
【0035】
本発明の一つの実施態様によれば、N-N-N
【化7】
を表し、かつN―N
【化8】
を表し、ここで、各基R’は、独立に、水素、スルホネート、カルボキシレート、置換されていてよいC-Cアルキル、置換されていてよいC-C14アリール、置換されていてよい5員~10員のヘテロアリール、およびハロゲンから選択される。
【0036】
特定の実施態様では、前記Ru(II)錯体は、下式:
【化9】
[式中、X、Y、およびnは、本明細書において定義される通りである]
を有する。
【0037】
nの値は、選択された配位子の化学構造および電荷、ならびに中心のRu(II)原子の2+電荷によって決定される。従って、XがOHまたはSRを表す場合、nは2である。XがCl、Br、またはIを表す場合、nの値は1である。式(I)の錯体は中性であり、すなわち、全体の電荷がゼロである。
【0038】
特定の実施態様では、XはOHを表す。好ましくは、N-N-Nは、上記で定義された置換されていてよい2,2’:6’,2’’-テルピリジンを表し、N-Nは、上記で定義された置換されていてよい2,2’-ビピリジンを表し、かつXはOHを表す。
【0039】
別の特定の実施態様では、XはCl、Br、またはI、好ましくは、Clを表す。特定の実施態様では、N-N-Nは、上記で定義された置換されていてよい2,2’:6’,2’’-テルピリジンを表し、N-Nは、上記で定義された置換されていてよい2,2’-ビピリジンを表し、かつXは、Cl、Br、またはI、好ましくは、Clを表す。
【0040】
一つの実施態様では、Xは、SRを表し、ここで、RおよびRは、独立に、置換されていてよいC-C12アルキルから選択される。好ましくは、RおよびRは、独立に、C-C12アルキル、好ましくは、ハロゲン、OR’’、N(R’’)、N(R’’)COR’’、CN、NO、COR’’、COR’’、OCOR’’、OCOR’’、OCONHR’’、OCON(R’’)、CONHR’’、CON(R’’)、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C14アリール、および3員~10員のヘテロシクリルから選択される1個以上の基で置換されていてよいC-Cアルキルから選択され、ここで、各基R’’は、独立に、水素、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C14アリール、および3員~10員のヘテロシクリルからなる群から選択される。より好ましくは、RおよびRは、独立に、OR’’、N(R’’)COR’’、およびCOR’’から選択される1個以上の基で置換されていてよいC-Cアルキルから選択され、ここで、各基R’’は、独立に、水素、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C14アリール、および3員~10員のヘテロシクリルから選択される。より好ましくは、RおよびRは、独立に、OH、N(H)COCH、およびCOHから選択される1個以上の基で置換されていてよいC-Cアルキルから選択される。一つの実施態様では、RおよびRは、独立に、CH、CHCHOH、およびCHCHCH(COOH)N(H)COCHから選択される。
【0041】
本発明の一つの実施態様では、前記ルテニウム錯体は、以下:
【化10】
からなる群から選択され、式中、Yは、本明細書において定義される通りである。
【0042】
特定の実施態様では、Yは、PF 、Cl、Br、I、F、BF 、CFSO 、CHSO 、CHSONO 、NO 、SCN、BrO 、IO 、HCO 、HCOO、CHCOO、HSO 、HSO 、およびHPO からなる群から選択される。好ましくは、Yは、PF 、Cl、Br、BF 、CFSO 、CHSO 、およびCHSO からなる群から選択される。一つの実施態様では、Yは、ClまたはPF 、好ましくは、PF である。
【0043】
本発明のルテニウム錯体は、当業者に公知の方法によって、例えば、本明細書の実施例に記載の方法または当業者に公知のその変形によって得ることができる。
【0044】
Ru錯体とABCG2基体とからなるコンジュゲート
本発明者らは、リボフラビンなどのABCG2基体へのルテニウム錯体の結合が、例えば、ルテニウム錯体を癌幹細胞に向けることを可能にすることを観察した。
【0045】
従って、別の側面では、本発明は、以下を含んでなるコンジュゲートに関する:
・式(I)のルテニウム錯体、および
・ABCG2基体。
【0046】
本明細書において使用される場合、「ABCG2」とは、癌化学療法における多剤耐性(MDR)の一因となることが知られているATP輸送体のスーパーファミリーのメンバーを指す。ヒトのABCG2遺伝子によってコードされるタンパク質配列は、2016年11月5日の日付のUniprotデータベースの受託番号Q9UNQ0を有する配列と一致する。
【0047】
本明細書において使用される場合、「ABCG2基体」とは、ABCG2輸送体によって輸送され得る化合物、特に親水性共役アニオン、さらに特に硫酸化アニオンまたは疎水性分子を指す。当業者は、例えば、Sf9膜を使用するATPアーゼアッセイを使用することによってまたはGlavinas H. et al., Drug Metab Dispos. 2007 Sep;35(9):1533-42に開示されているアッセイ(essay)において、化合物がABCG2基体であるかどうかを同定することができるであろう。
【0048】
特定の実施態様では、前記ABCG2基体は、イマチニブおよびゲフィチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬、フラボピリドールならびにカンプトセシン類であるトポテカン、イリノテカン、およびその活性代謝物SN-38である[7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトセシン]、またはミトキサントロンである。他の基体としては、シメチジン、プラゾシン、スタチン類、およびジドブジンなどの薬物が挙げられる。加えて、他のABCG2基体は、エストロン、17βエストラジオール、ヘムなどのポルフィリン類、プロトポルフィリンIX、および2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミダゾ[4,5-b]ピリジンである。別の実施態様では、前記ABCG2基体は、アムサクリン、アスパラギナーゼ、アザチオプリン、ビサントレン、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロランブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、フラボピリドール、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ヒドロキシ尿素、ロイコボリン、リポソームダウノルビシン、リポソームドキソルビシン、ロムスチン、クロルメチン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プロカルバジン、サトラプラチン、ストレプトゾトシン、テガフール・ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオグアニン、チオテパ、トレオスルファン、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、SN-38、およびビノレルビンなどの化学療法薬である。
【0049】
特定の実施態様では、前記ABCG2基体は蛍光化合物である。限定されるものではないが、例えば、前記蛍光化合物は、リボフラビン、D-ルシフェリン、ローダミン123、フェオホルビドa、BODIPY-プラゾシン、ヘキスト33342であり得る。さらに好ましい実施態様では、前記蛍光ABCG2基体はリボフラビンである。本明細書において使用される場合、「リボフラビン」とは、CAS番号83-88-5を有するビタミンB2を指す。
【0050】
好ましくは、前記ルテニウム錯体と前記ABCG2基体は、共有結合により相互に結合する。前記ルテニウム錯体と前記ABCG2基体は、相互に直接結合することができるし、あるいはリンカーまたはスペーサーを介して結合することもできる。従って、特定の実施態様では、前記コンジュゲートは、式(I)のルテニウム錯体と、ABCG2基体と、リンカーとを含んでなる。
【0051】
本明細書において使用される場合、用語「リンカー」とは、「スペーサー」とも呼ばれ、前記ルテニウム錯体およびABCG2基体と共有結合により結合する化学基または部分を指す。リンカーには、アルキレン、アリーレン、またはヘテロアリーレンなどの、二価基を含んでなるかまたはそれから誘導される化合物が含まれる。
【0052】
特定の実施態様では、前記ルテニウム錯体と前記ABCG2基体は、リンカーを介して結合される。特定の実施態様では、前記リンカーは、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~6個の原子長の炭化水素鎖であり、ここで、前記鎖の炭素原子の1個以上は、NR’、O、およびSから選択されるヘテロ原子で置き換えられ得、ここで、R’は、H、C-Cアルキル、およびアセチルから選択され;かつ前記鎖の炭素原子の1個以上は、=O、OH、SH、NH、COOH、CH、およびPhから選択される置換基で置換され得る。
【0053】
特定の実施態様では、前記リンカーは、アミノ酸またはペプチド結合を介して結合している複数のアミノ酸、好ましくは、1~5個のアミノ酸の配列である。用語「アミノ酸」とは、1個のアミノ基と1個のカルボン酸基を有する化合物を指し、天然アミノ酸と非天然アミノ酸の両方を含む。アミノ酸の立体配置はL、D、またはラセミ混合物であり得る。
【0054】
当業者は、使用されるルテニウム錯体およびABCG2基体に応じて、前記リンカー中に存在する官能基と、リンカーをルテニウム錯体およびABCG2基体と結合する方法とを決定することができる。好ましくは、前記リンカーは、前記ルテニウム錯体および前記ABCG2基体と、アミド型、アミン型、エーテル型、またはエステル型の結合を介して結合される。
【0055】
好ましくは、前記コンジュゲート中のルテニウム錯体は、式(I)(式中、XはSRであり、ここで、RおよびRは、上記で定義された通りである)の錯体である。前記コンジュゲートが作用部位に存在するかまたはそこに近づくと、本明細書において記載されるように光照射によって活性アコ錯体(X=OH)が放出され得る。それによって、容易に取り扱うことができ、かつ、所望の作動時間および場所で制御された方法により活性化することができる不活性誘導体を提供することができる。特定の実施態様では、SRはメチオニンまたはその誘導体である。
【0056】
用語「メチオニン誘導体」とは、基本的に、メチオニンのアミノ基および/またはカルボン酸基において好ましくは置換されている誘導体を指す。メチオニン誘導体としては、メチオニンのC-Cアルキルエステル、アセテート、アミド、C-Cアルキルアミン、およびC-Cジアルキルアミンが挙げられる。
【0057】
好ましい実施態様では、前記メチオニン誘導体は、式:
【化11】
[式中、
Raは、OH、C-C O-アルキル、OAc、NH、NH-C-Cアルキル、N(C-Cアルキル)、およびNHAcから選択され;かつ
各Rbは、独立に、H、C-Cアルキル、およびAcから選択される]
の化合物である。
【0058】
一つの実施態様では、前記ルテニウム錯体は、式(I’)
【化12】
(式中、Xは、上記で定義されたSRであり、好ましくは、Xは、メチオニンまたはその誘導体である)の錯体である。
【0059】
特定の実施態様では、前記ルテニウム錯体は、SRがメチオニンまたはその誘導体、好ましくはメチオニンである式(I’)の錯体であり、好ましくは、アミノ基またはカルボン酸基を介して前記ABCG2基体と直接結合される。
【0060】
別の実施態様では、前記ルテニウム錯体は、SRがメチオニンまたはその誘導体、好ましくはメチオニンである式(I’)の錯体であり、リンカーによって、好ましくは、アミノ基またはカルボン酸基を介して前記ABCG2基体と結合される。
【0061】
特定の実施態様では、前記コンジュゲートは、以下を含んでなる:
・式(I)のルテニウム錯体(式中、Xは、メチオニンである)、
・リボフラビン、および
・場合により、前記ルテニウム錯体の前記メチオニンと、リボフラビンとに共有結合しているリンカー。
【0062】
一つの実施態様では、前記コンジュゲートは、以下:
【化13】
であり、式中、Yは、上記で定義された通りであり、好ましくは、YはCFCO である。
【0063】
本発明のコンジュゲートは様々な利点を有する。このコンジュゲートは、作用部位への活性錯体の正確な輸送を可能にして必要な用量を減らし、癌細胞に対して選択的に作用することを可能にして正常細胞への攻撃を防ぐ。
【0064】
これらのコンジュゲートは、当業者に公知の従来の技術によって得ることができる。前記ルテニウム錯体と前記ABCG2基体とが、相互に化学的に結合するのに好適な官能基を含まない場合、それらは、所望の結合を達成するために誘導体化することができる。あるいは、前記ルテニウム錯体と前記ABCG2基体とは、当業者に公知の反応によって二官能性リンカーを介して(直接または誘導体化後に)相互に結合することができる。
【0065】
医薬組成物
本発明のRu錯体およびコンジュゲートは、癌幹細胞を含む癌を治療するための医薬組成物を調製するために使用することができる。従って、本発明の別の側面は、癌幹細胞を含む癌の治療において使用するための、本明細書において定義される式(I)のルテニウム錯体またはコンジュゲートを含んでなる医薬組成物である。
【0066】
本明細書において使用される場合、表現「医薬組成物」とは、1種以上の有用な治療薬の所定の用量を細胞、細胞群、器官、組織、または生物に投与するのに適した処方物を指す。
【0067】
前記ルテニウム錯体または前記コンジュゲートは、治療上有効な量で投与される。「治療上有効な量」とは、治療効果を提供することができ、かつ一般的に用いられる手段を用いて当業者が決定することができる量であると理解される。この有効な量は、医療従事者の知識および経験の範囲内で、処置する特定の障害、処置を受ける対象の年齢および身体状態、その障害の急性度、治療期間、(もしあれば)同時または併用療法の性質、特定の投与経路、ならびに同様の因子によって変動する。一般的には、最大用量、すなわち、妥当な医学的判断による最大安全用量が、好ましくは用いられる。例えば、対象が腫瘍を有する場合、その有効な量は(例えば、腫瘍の画像を取得することによって決定されるように)腫瘍量または体積を減少させる量であり得る。その有効な量はまた、血液または別の体液もしくは組織中の癌細胞の存在および/または頻度(例えば、生検)によっても評価することができる。腫瘍が通常の組織または器官の働きに影響を及ぼす場合、その有効な量は、その通常の組織または器官の働きを測定することよって評価することができる。当業者ならば、Goodman and GilmanのThe Pharmacological Basis of Therapeutics, 9th edition (1996), Annex II, pages 1707-1711およびGoodman and GilmanのThe Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th edition (2001), Annex II, pages 475-493に見られるガイドラインを用いて投与量を決定することができることが分かるであろう。
【0068】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1種の薬学上許容されるビヒクルを含み得る。本明細書において使用される場合、用語「薬学上許容されるビヒクル」とは、固体、半固体、または液体の処方物用の増量剤、希釈液、カプセル化材料、または補助剤、すなわち、薬理学的/毒物学的観点から患者に許容され、かつ組成、処方物、安定性、患者の受容、およびバイオアベイラビリティに関する物理的/化学的観点から製薬化学者に許容される任意の不活性非毒性型のものを意味する。Gennaro(Mack Publishing、ペンシルバニア州イーストン、1995年)により編集された「Remington’s Pharmaceutical Sciences」には、医薬組成物の処方に使用される様々なビヒクルおよびそれを調製するための既知技術が記載されている。薬学上許容されるビヒクルとして使用することができる材料のいくつかの例としては、限定されるものではないが、ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖類;コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン類;セルロース、ならびにナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどのその誘導体;トラガント粉末;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオバターおよび坐剤用ワックスなどの賦形剤;落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、および大豆油などの油類;プロピレングリコールなどのグリコール類;オレイン酸エチルおよび ラウリン酸エチルなどのエステル類;寒天;ツイン(商標)80などの洗剤;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張生理食塩液;リンゲル液;エチルアルコール;およびリン酸緩衝液、ならびにラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの適合性のある他の非毒性滑沢剤が挙げられ;さらに、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤および香料、防腐剤、および酸化防止剤もまた、処方調製者の基準に従って、組成物中に存在することができる。濾過または他の最終滅菌方法が実行可能ではない場合、無菌条件下で処方物を製造することができる。
【0069】
本発明の医薬組成物は、任意の固体組成物(錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒など)、半固体組成物(クリーム、軟膏など)、または液体組成物(溶液、懸濁液、またはエマルション)を含む。
【0070】
本発明の医薬組成物は、経口および非経口経路を含む、当技術分野で公知の手段を用いることによって患者に投与することができる。そのような実施態様によれば、本発明の組成物は、注射(例えば、静脈内、皮下または筋肉内、腹膜内の注射)によって投与することができる。特定の実施態様では、本発明のルテニウム錯体またはコンジュゲートは、例えば静脈内注入または注射によって、全身投与される。注射用調製物、例えば、水性または油性の滅菌注射用懸濁液は、好適な懸濁化剤および分散剤または湿潤剤を用いる既知の技術に従って処方することができる。滅菌注射用調製物はまた、非経口経路によって許容される、非毒性希釈液または溶媒中の、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液としての、滅菌注射用溶液、懸濁液、またはエマルションでもあり得る。使用することができる許容されるビヒクルおよび溶媒としては、とりわけ、水、リンゲル液、米国薬局方、および等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。さらに、滅菌固定油は、溶媒または懸濁媒体として従来から使用されている。合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の軽質固定油をこの目的に使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸は、注射用製品の調製に使用されている。注射用処方物は、例えば、細菌保持フィルターで濾過することによって、または使用前に滅菌水もしくは別の滅菌注射用媒体中に溶解するかもしくは分散させることができる滅菌固体組成物の形態で殺菌薬を組み込むことによって、滅菌処理することができる。
【0071】
前記組成物は、前記ルテニウム錯体または前記コンジュゲートを単剤としてまたは抗腫瘍薬などの別の治療薬と組み合わせて含んでなり得る。一つの実施態様では、本発明の医薬組成物または医薬品は、式(I)のルテニウム錯体またはコンジュゲートと、同時投与、個別投与、または逐次投与用に処方された抗腫瘍薬との組合せを含んでなる。これは、2種の化合物の組合せを、
・前記2種の化合物を同時に投与する、同じ医薬調製物または医薬品の一部である組合せとして;または
・同時投与、逐次投与、または個別投与の可能性を生じさせる、各々が一方の物質を含有する2種の投与形の組合せとして
投与することができるということを意味する。
【0072】
特定の実施態様では、式(I)のルテニウム錯体またはコンジュゲートおよび前記抗腫瘍薬は、独立して(すなわち、2種の投与形で)投与されるが同時に投与される。別の特定の実施態様では、式(I)のルテニウム錯体またはコンジュゲートが最初に投与され、次いで、もう一方の抗腫瘍薬が個別にまたは逐次に投与される。さらなる特定の実施態様では、もう一方の抗腫瘍薬が最初に投与され、次いで、式(I)の化合物またはコンジュゲートが、定義されたように、個別にまたは逐次に投与される。
【0073】
本明細書において使用される場合、用語「抗癌薬」または「抗腫瘍薬」とは、「抗癌剤」、「抗腫瘍剤」、または「抗悪性腫瘍剤」とも呼ばれ、癌の治療において有用な薬剤を指す。本発明による抗腫瘍剤としては、限定されるものではないが、アルキル化剤、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬、およびアントラサイクリンが挙げられる。
【0074】
本明細書において使用される場合、用語「アルキル化剤」とは、「抗悪性腫瘍アルキル化剤」とも呼ばれ、分子からDNAへのアルキル基の転移を媒介する薬剤を指す。アルキル基は、アルキルカルボカチオン、フリーラジカル、カルボアニオン、またはカルベン(またはそれらの等価物)として転移させることができる。アルキル化剤は、癌細胞のDNAに損傷を与えるために化学療法において用いられる。アルキル化剤は、一般的に、6種類に分類される:
・ナイトロジェンマスタード、例えば、クロルメチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロランブシルなど;
・アルトレタミン、チオテパなどを含む、エチレンアミンおよびメチレンアミン誘導体;
・スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファンなど;
・ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、ロムスチンなど;
・トリアゼン、例えば、ダカルバジン、プロカルバジン、テモゾロミドなど;ならびに
・白金を含有する抗悪性腫瘍剤、例えば、アルキル化剤として一般的に分類されるが、DNAをアルキル化するのではなく、異なる方法によってDNAとともに共有結合性金属性付加体を形成することになる、シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサリプラチンなど。
【0075】
本明細書において使用される場合、用語「代謝拮抗薬」とは、代謝産物の使用を阻害する化学物質を指し、これは正常な代謝の一部である別の化学物質である。そのような物質は、葉酸の使用を妨げる葉酸代謝拮抗薬など、それらが妨害する代謝産物の構造と類似の構造を有する場合が多い。代謝拮抗薬の存在は、細胞増殖および細胞分裂の停止などの細胞に対する毒性作用を有する可能性があるため、これらの化合物は癌化学療法に使用される。代謝拮抗薬は、プリンまたはピリミジンのふりをし、(細胞周期の)S期の間のそれらのDNAへの取り込みを妨げ、DNA、正常な発生および分裂を停止させる。また、代謝拮抗薬はRNA合成にも影響を及ぼす。しかしながら、チミジンがDNAに使用されるがRNA(代わりにウラシルが使用される)には使用されないことを考えると、チミジル酸シンターゼによるチミジン合成の阻害は、RNA合成に対してDNA合成を選択的に阻害する。代謝拮抗薬は、以下から選択することができる:
・プリン類似体、例えば、アザチオプリン、メルカプトプリン、チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチン、クラドリビンなど;
・ピリミジン類似体、例えば、5-フルオロウラシル(5FU)、フロクスウリジン(FUDR)、シトシンアラビノシド(シタラビン)、6-アザウラシル(6-AU)など;または
・葉酸代謝拮抗薬、例えば、メトトレキサート、ペメトレキセド、プログアニル、ピリメタミン、トリメトプリムなど。
【0076】
本明細書において使用される場合、用語「トポイソメラーゼ阻害薬」とは、トポイソメラーゼ酵素(トポイソメラーゼIおよびII)の作用を妨害するために設計された薬剤を指す。トポイソメラーゼ阻害薬は、細胞周期のライゲーション工程を遮断し、ゲノムの完全性を損なう一本鎖および二本鎖の切断を生じさせると考えられている。これらの切断の導入に続いて、アポトーシスおよび細胞死がもたらされる。限定されるものではないが、例えば、トポイソメラーゼ阻害薬としては、エトポシド、テニポシド、トポテカン、イリノテカン、ジフロモテカン、またはエロモテカン(elomotecan)が挙げられる。
【0077】
本明細書において使用される場合、用語「アントラサイクリン」とは、ストレプトマイセス属(Streptomyces)細菌株由来の、癌化学療法において使用される(CCNSまたは細胞周期非特異的)薬物の種類を指す。限定されるものではないが、例えば、アントラサイクリンとしては、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、ミトキサントロンなどが挙げられる。
【0078】
本発明による他の抗癌剤または抗腫瘍剤としては、限定されるものではないが、以下の薬剤が挙げられる:
・血管新生阻害薬、例えば、アンギオスタチン、エンドスタチン、フマギリン、ゲニステイン、ミノサイクリン、およびスタウロスポリン;
・DNA合成阻害薬、例えば、アミノプテリン、ガンシクロビル、およびヒドロキシ尿素;
・酵素阻害薬、例えば、S(+)-カンプトセシン、クルクミン、2-イミノ-1-イミダゾリジン酢酸(シクロクレアチン)、ヒスピジン、ホルメスタン、およびメビノリン;
・微小管阻害薬、例えば、コルヒチンおよびドラスタチン15;ならびに
・他の抗腫瘍剤、例えば、17-(アリルアミノ)-17-デメトキシゲルダナマイシン、アピゲニン、シメチジン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、およびピフィスリンα。
【0079】
あるいは、前記ルテニウム錯体および前記抗腫瘍薬は、相互に結合してコンジュゲートを形成することができる。従って、別の側面では、本発明は、以下を含んでなるコンジュゲートに関する:
・式(I)のルテニウム錯体、および
・抗腫瘍薬。
【0080】
好ましくは、前記ルテニウム錯体と前記抗腫瘍薬は、相互に直接共有結合しているかまたはリンカーまたはスペーサーを介して共有結合している。従って、特定の実施態様では、前記コンジュゲートは、式(I)のルテニウム錯体、抗腫瘍薬、およびリンカーを含んでなる。
【0081】
リンカー、ルテニウム錯体、および結合方法についての特定の好ましい実施態様は、ルテニウム錯体-ABCG2基体コンジュゲートに関して上記で定義される。
【0082】
使用
本発明の一側面は、癌幹細胞を含む癌を治療するための医薬品を製造するための、本明細書において定義される、ルテニウム錯体またはコンジュゲートの使用である。
【0083】
本発明の別の側面は、癌幹細胞を含む癌の治療において使用するための、本明細書において定義されるルテニウム錯体またはコンジュゲートに関する。
【0084】
本発明の別の側面は、癌幹細胞を含む癌を治療するための方法に関し、この方法は、前記治療を必要とする患者に治療上有効な量の、本明細書において定義されるルテニウム錯体またはコンジュゲートを投与することを含んでなる。
【0085】
本明細書において使用される場合、用語「治療(treat, treating, and treatment)」とは、一般的に、発症後の癌の根絶、排除、復帰、救済、緩和、または管理を含む。
【0086】
本明細書において使用される場合、用語「癌」は、「癌腫」とも呼ばれ、隣接する組織に侵入し、遠隔臓器に広がることが可能な異常な細胞の制御されない増殖を特徴とする疾患を指す。本発明の文脈内で、この用語は、任意の種類の癌または腫瘍を含む。限定されるものではないが、例えば、前記癌または腫瘍としては、血液癌(例えば、白血病またはリンパ腫)、神経学的腫瘍(例えば、星状細胞腫または膠芽腫)、黒色腫、乳癌、肺癌、頭頸部癌、胃腸腫瘍(例えば、胃癌、膵臓癌、または結腸直腸癌(CRC))、肝臓癌(例えば、肝細胞癌)、腎細胞癌、泌尿生殖器腫瘍(例えば、卵巣癌、膣癌、子宮頸癌、膀胱癌、精巣癌、前立腺癌)、骨腫瘍、血管腫瘍などが挙げられる。
【0087】
本明細書において使用される場合、用語「癌幹細胞」とは、「CSC」としても知られ、自己複製能および分化能を保存し、さらに、腫瘍を引き起こすことが可能である幹細胞の種類を指す。癌幹細胞は、腫瘍形成性が高く、化学的抵抗性を有する。これらの細胞は、化学療法後の腫瘍再発プロセスおよび/または転移に関連している可能性があると考えられている。この種の細胞の存在は、限定されるものではないが、血液系新生物(Lapidot T et al. 1994 Nature 367(6464): 645-648)、乳癌(Al-Hajj M et al. 2003 Proc Natl Acad Sci USA 100(7): 3983-3988)、肺癌(Kim CF et al. 2005 Cell 121(6): 823-835)、結腸癌(O’Brien CA et al. 2007 Nature 445(7123): 106-110)、前立腺癌(Collins AT et al. 2005 Cancer Res 65(23): 10946-10951)、卵巣癌(Szotec PP et al. 2006 Proc Natl Acad Sci USA 103(30): 11154-11159)、および膵臓癌(Li C et al. 2007 Cancer Res 67(3): 1030-1037)を含む様々な種類の腫瘍において記載されている。
【0088】
特定の実施態様では、癌幹細胞を含んでなる前記癌は、血液系新生物、乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、卵巣癌、膵臓癌、子宮頸癌、および腎臓癌から選択される。さらに特定の実施態様では、前記癌は、膵臓癌、好ましくは膵腺癌である。
【0089】
本明細書において使用される場合、用語「血液系新生物」とは、血液、骨髄、およびリンパ節に影響を及ぼしている癌の不均質群を指す。この用語には、白血病(骨髄に影響を及ぼし、末梢血に広がる)およびリンパ腫(異なるリンパ組織に由来する:リンパ節、脾臓、および粘膜関連リンパ組織)が含まれる。血液系新生物は、その起源に応じて骨髄性またはリンパ系新生物であり得る。
【0090】
骨髄性血液系新生物には、以下が含まれる:
・慢性骨髄増殖性腫瘍(MPN):慢性骨髄性白血病BCR-ABL陽性、慢性好中球性白血病、真性赤血球増加症、原発性骨髄線維症、本態性血小板減少症、慢性好酸球性白血病、全身性肥満細胞症、および分類不能の骨髄増殖性腫瘍を含む。
・好酸球増加症およびPDGFRAPDGFRB、またはFGFR1異常を伴う骨髄性およびリンパ系新生物。
・骨髄異形成症候群(MDS):単系統異形成を伴う不応性血球減少症、鉄芽球性不応性貧血、多系統異形成を伴う不応性血球減少症、芽球増加を伴う不応性貧血、単独del(5q)染色体異常を伴う骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome with isolated del(5q))、分類不能の骨髄異形成症候群、および小児骨髄異形成症候群を含む。
・骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN):慢性骨髄単球性白血病、非定型慢性骨髄性白血病BCR-ABL陰性、若年性骨髄単球性白血病、および分類不能の 骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍を含む。
・急性骨髄性白血病(AML):反復する遺伝子異常を伴うAML、t(8;21)(q22;q22)RUNX1を伴うAML、骨髄異形成に関連した変化を伴うAML、治療関連AML、前述のカテゴリーに典型的な特徴をもたないAML、骨髄様肉腫、ダウン症候群関連骨髄増殖、および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍を含む。
・系統不明な急性白血病。
【0091】
リンパ性血液系新生物は以下を含む:
・前駆細胞のリンパ系新生物:B細胞リンパ芽球性リンパ腫/白血病およびT細胞リンパ芽球性リンパ腫/白血病を含む。
・成熟B細胞新生物。
・成熟T細胞およびNJ細胞新生物。
・ホジキンリンパ腫。
【0092】
本明細書において使用される場合、用語「乳癌」とは、「悪性乳房新生物」または「乳房腫瘍」としても知られ、乳房組織、通常は乳管の内壁または乳管に乳汁を供給する小葉で生じる癌を指す。免疫組織化学によって検出される受容体状況、特にエストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)の存在または不在、およびHER2/neuの発現レベル(過剰発現に対して正常発現/過少発現)に応じて、乳癌は、ER陽性(ER+)乳癌、ER陰性(ER-)乳癌、PR陽性(PR+)乳癌、PR陰性(PR-)乳癌、HER2陽性(HER2+)乳癌(HER2を過剰発現する癌)、HER2陰性(HER2-)乳癌(正常レベルのHER2を発現するか、またはHER2を過少発現するか、または検出可能なレベルのHER2を発現しない癌)、ホルモン受容体陰性乳癌、すなわち、エストロゲンまたはプロゲステロンの受容体が認められない乳癌(ER-/PR-乳癌と略される);およびトリプルネガティブ乳癌、すなわち、エストロゲンまたはプロゲステロンの受容体は認められないが、HER2の正常発現/過少発現が認められる(または検出可能な発現レベルに満たない)乳癌(ER-/PR-/HER2-乳癌と略される)に分類することができる。
【0093】
本明細書において使用される場合、用語「肺癌」は、「肺にできる癌」または「肺にできる腫瘍」とも呼ばれ、肺組織における任意の制御されない細胞増殖を指し、限定されるものではないが、小球性肺癌、複合型小球性癌腫、非小球性肺癌、肉腫様癌、唾液腺腫瘍、カルチノイド腫瘍、腺扁平上皮癌、胸膜肺芽腫、およびカルチノイド腫瘍が含まれる。
【0094】
本明細書において使用される場合、用語「前立腺癌」とは、前立腺から生じる細胞の制御されない(悪性)増殖を指す。
【0095】
本明細書において使用される場合、用語「卵巣癌」は、「卵巣腫瘍」とも呼ばれ、卵巣で生じる腫瘍群を指し、限定されるものではないが、漿液性卵巣癌、非浸潤性卵巣癌、混合表現型卵巣癌、粘液性卵巣癌、類内膜性卵巣癌、卵巣明細胞癌、卵巣漿液性乳頭癌、卵巣ブレンネル腫瘍、および未分化腺癌を含む。
【0096】
本明細書において使用される場合、用語「膵臓癌」は、「膵臓腫瘍」とも呼ばれ、膵臓細胞由来の癌を指し、限定されるものではないが、腺癌、腺扁平上皮癌、印環 細胞癌、肝様癌、膠様癌、未分化癌腫、破骨細胞様巨細胞を伴う未分化癌腫、および膵島細胞癌が含まれる。
【0097】
本明細書において使用される場合、用語「子宮頸癌」は、「子宮頸部の癌腫」とも呼ばれ、膣内に突出する子宮の下部線維筋性部分で発生した悪性腫瘍を指す。
【0098】
本明細書において使用される場合、用語「腎臓癌」は、「腎癌」、「腎腺癌」、または「腎細胞癌」とも呼ばれ、腎臓細胞の任意の悪性増殖性障害、特に、腎臓の尿細管の悪性細胞によって形成された癌を指す。
【0099】
特定の実施態様では、癌幹細胞は、低c-MYC発現レベルを有する。
【0100】
本明細書において使用される場合、用語「c-MYC」とは、細胞周期進行、アポトーシス、および細胞形質転換に関与する多機能核リンタンパク質をコードする遺伝子を指す。ヒトのc-MYCタンパク質は、2016年11月2日の日付のUniprotデータベースの受託番号P01106で示された配列を有する。
【0101】
本明細書において使用される場合、遺伝子の「発現レベル」という用語は、細胞で測定することができる遺伝子産物の量を指し、その遺伝子産物は転写産物または翻訳産物であり得る。従って、発現レベルは、mRNAもしくはcDNAなどの遺伝子の核酸産物または遺伝子のポリペプチド産物に相当し得る。
【0102】
当業者に理解されるように、c-MYC遺伝子の発現レベルは、前記遺伝子、すなわち、c-MYCによってコードされるタンパク質の発現レベルを定量することによって、または前記タンパク質の活性を決定することによって定量することができる。c-MYCの活性は、当業者に公知の様々なアッセイを用いて、限定されるものではないが、例えば、転写活性を決定することによって決定することができる。
【0103】
タンパク質の発現レベルは、細胞中の前記タンパク質の検出および定量を可能にする任意の従来の方法、例えば、ウエスタンブロット(Western blot Western)、ELISA(酵素免疫測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、競合EIA(競合酵素イムノアッセイ)、DAS-ELISA(二重抗体サンドイッチELISA)、免疫細胞化学的および免疫組織化学的技術、特異的抗体を含むタンパク質マイクロアレイまたはバイオチップの使用に基づく技術またはディップスティックなどの形式でのコロイド沈殿に基づくアッセイによって定量することができる。
【0104】
さらに、遺伝子の発現レベルの定量は、その遺伝子の転写(メッセンジャーRNAまたはmRNA)から得られるRNAのレベルを測定することによって、あるいは、その遺伝子の相補的DNA(cDNA)から決定することができる。mRNAまたはその対応するcDNAのレベルを検出および定量するために、事実上、任意の従来の方法を本発明の観点から使用することができる。限定されるものではないが、例えば、その遺伝子によってコードされるmRNAレベルは、従来の方法、例えば、mRNAを増幅し、そのmRNAの増幅産物を定量することを含んでなる方法、例えば、電気泳動および染色を用いることによって、あるいは、サザンブロットおよび好適なプローブの使用、ノーザンブロットおよび目的の遺伝子のmRNAまたはその対応するcDNAに特異的なプローブの使用、ヌクレアーゼS1マッピング、RT-LCR、ハイブリダイゼーション、マイクロアレイ、RT-PCRなどによって定量することができる。
【0105】
本明細書において使用される場合、「低発現レベル」とは、基準値より低い遺伝子の発現レベルを指す。具体的には、細胞は、細胞内発現レベルが、基準値に対して、少なくとも1.1分の1、1.5分の1、5分の1、10分の1、20分の1、30分の1、40分の1、50分の1、60分の1、70分の1、80分の1、90分の1、または100分の1であるか、あるいはより低い場合に、低c-MYC発現レベルを有すると考えることができる。
【0106】
本明細書において使用される場合、「基準値」とは、実験室で得られた、c-MYCの発現値についての参照として使用される値を指す。基準値または基準レベルは、絶対値、相対値、上限および/または下限を有する値、値の範囲、平均値、中央値、中間値、または特定の対照もしくは基準値と比較した値であり得る。基準値は、例えば、対象の癌幹細胞サンプルから得られた値などの個々のサンプル値に基づくことができる。基準値は、対象の集団の癌幹細胞サンプルにおけるc-MYCの発現値などの多数のサンプルに基づくことができる。特定の実施態様では、基準値は、癌幹細胞を有さない癌における発現レベルに相当する。
【0107】
本発明者らは、金属化反応は光を照射すると増加することを観察した。従って、好ましい実施態様では、本発明のルテニウム錯体またはコンジュゲートは、癌の治療において光照射の存在下で使用される。一つの実施態様では、前記照射は、紫外線(UV)、可視光線、または近赤外線(IR)を用いて実施される。特定の実施態様では、照射は、200~1000nmの間、好ましくは300~800nmの間、より好ましくは400~600nmの間の波長を有する光を用いて実施される。好ましくは、照射は、400~500nmの間の波長を有する光を用いて実施される。
【0108】
従って、一つの実施態様では、本発明は、光照射、好ましくは200~1000nmの間、より好ましくは300~800nmの間、より好ましくは400~600nmの間の波長を有する光による照射を用いて、癌幹細胞を含む癌の治療において使用するための、本明細書において定義されるルテニウム錯体またはコンジュゲートに関する。特定の実施態様では、照射は、400~500nmの間の波長を有する光を用いて実施される。
【0109】
本発明の別の態様は、癌幹細胞を含む癌を治療するための方法に関し、この方法は、前記治療を必要とする患者に治療上有効な量の、本明細書において定義されるルテニウム錯体またはコンジュゲートを投与することを含んでなり、かつ、この方法は、前記ルテニウム錯体またはコンジュゲートに光を、好ましくは200~1000nmの間、より好ましくは300~800nmの間、より好ましくは400~600nmの間の波長を有する光を照射することを含んでなる。特定の実施態様では、照射は、400~500nmの間の波長を有する光を用いて実施される。
【0110】
所望の波長での照射を実施するのに好適な方法は当業者に公知である。
【0111】
加えて、XがSRから選択される式(I)のルテニウム錯体および対応するコンジュゲートは、運動学的に安定しているが、光照射を用いてのみc-MYCと反応することが観察されている。従って、これらの場合において、容易に取り扱うことができ、かつ、光照射によって所望の作動時間および場所で制御された方法により活性化することができる不活性誘導体を提供することが可能である。これは、癌治療における重要な利点を表す。従って、本発明の好ましい実施態様は、XがSRから選択される、本明細書において定義されるルテニウム錯体に関する。
【0112】
以下の限定されない例は、本発明を説明しようとするものであるが、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0113】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、Agilent 1100液体クロマトグラフィー-質量分析装置を用いて行った。分析HPLCは、Phenomenex Luna-C18逆相分析カラム(10×250mm、5μm)、1mL/分を用いて、異なる勾配で行った(下記参照)。付加体は、Phenomenex Luna-C18 逆相分析カラム(250×10mm)で精製した。エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI/MS)は、Agilent 1100シリーズLC/MSD VL G1956Aモデルを用いて陽極性モードで実施した。
【0114】
移動相:
a)A:0.1%TFAを含有するHO、B:0.1%TFAを含有するACN。
勾配1:40分間でB 0%→50%。
b)A:100mM TEAAを含有する95:5 HO:ACN、B:100mM TEAAを含有する70:30 ACN:HO。
勾配2:B 0%で5分間、続いて、55分間でB 0%→100%。
勾配3:40分間でB 10%→50%。
【0115】
実施例1.ルテニウム(II)錯体の合成
実施例1A.錯体1の合成
【化14】
【0116】
ルテニウム錯体1を、Kaveevivitchai et al., Inorg. Chem. 2012, 51, 2930に記載の方法に従って調製した。RuCl・3HO(500mg、2mmol)および2,2’:6’,2’’テルピリジン(460mg、1当量)を脱酸素化HO:EtOH 1:1混合物(20mL)に溶かし、暗所で4時間加熱還流した。得られた沈殿物をEtOH(×3)およびEtOで洗浄し、脱酸素化HO:EtOH 1:1混合物(20mL)中の2,2’-ビピリジン(312mg、1当量)での処理を含む第2の工程で直接使用し、一晩加熱還流した。過剰のKPFで沈殿させると、褐色の粉末として塩[Ru(terpy)(bpy)Cl]PF 1が生じ、全収率は60%(800mg)であった。EM-ESI(m/z):C2519ClNRuについての計算値:525.0。測定値:526.0[M+1H]
【0117】
実施例1B.錯体2の合成
【化15】
【0118】
ルテニウム錯体2を、文献(Takeuchi et al., Inorg. Chem. 1984, 23, 1845)の改良方法に従って調製した。錯体1(150mg、0.22mmol)を脱酸素化HO:EtOH 1:1混合物(20mL)に溶かし、1時間加熱還流した。粗生成物を濃縮し、この生成物を逆相HPLC(HPLC-FR)、4mL/分、35分間でB 5~95%の勾配(A:0.1%TFAを含有するHO、B:0.1%TFAを含むACN)によって精製し、質量分析によって目的生成物として同定した(収率78%)。EM-ESI(m/z):C2521ORuについての計算値:509.1。測定値:508.0[M-1H]
【0119】
実施例1C.錯体4の合成
【化16】
【0120】
ルテニウム錯体4を、文献(Bahreman et al., Eur. J. 2012, 18, 10271)の改良方法に従って調製した。錯体1(50mg、0.07mmol)をチオジエタノール(10μL、1.3当量)に溶かし、暗所で一晩加熱還流した。この生成物を、35分間でB 5~95%の勾配(A:0.1%TFAを含有するHO、B:0.1%TFAを含有するACN)で4mL/分でのHPLC-FRによって精製し、質量分析およびNMRによって目的生成物として同定した(33mg、収率65%)。1H NMR (500 MHz, D2O) δ 9.70 (m, 1H), 8.55 (m, 3H), 8.38 (m, 2H), 8.31 (m, 1H), 8.23 (m, 2H), 7.90 (m, 3H), 7.72 (m, 3H), 7.24 (ddd, J = 7.6, 5.6, 1.3 Hz, 2H), 7.13 (dt, J = 4.1, 2.0 Hz, 1H), 6.98 (ddd, J = 7.2, 4.8, 1.3 Hz, 1H), 3.20 (t, J = 5.9 Hz, 4H), 1.87 (m, 4H). 13C NMR (500 MHz, D2O) δ 157.68 (C), 157.15 (C), 156.62 (C), 152.96 (CH), 151.72 (CH), 149.42 (CH), 138.62 (CH), 138.02 (C), 137.56 (CH), 136.56 (CH), 128.01 (CH), 127.29 (CH), 126.52 (CH), 124.63 (C), 124.25 (CH), 123.77 (CH), 123.37 (CH), 57.57 (CH2), 35.01 (CH2)。EM-ESI(m/z):C2929RuSについての計算値:613.1。測定値:612.0[M-1H]
【0121】
実施例1D.錯体5の合成
【化17】
【0122】
ルテニウム錯体5を、文献(Goldbach et al., Chem. Eur. J. 2011, 17, 9924)の改良方法に従って調製した。錯体1(50mg、0.07mmol)およびN-アセチル-L-メチオニン(19mg、5当量)を脱酸素化HO:EtOH 1:1混合物(2mL)に溶かし、暗所で一晩加熱還流した。この生成物を、35分間でB 5~95%の勾配(A:0.1%TFAを含有するHO、B:0.1%TFAを含有するACN)で4mL/分でのHPLC-FRによって精製し、質量分析によって目的生成物として同定した(24mg、収率45%)。EM-ESI(m/z):C3232RuSについての計算値:682.1。測定値:681.0[M-1H]
【0123】
実施例1E.ルテニウム錯体-リボフラビン10コンジュゲートの合成
この合成では、暗所で80℃の水中でアコ錯体2と1のチオエーテル配位子の等量を混合する必要がある。反応の経過は、RP-HPLCを用いてモニタリングすることができる。RP-HPLCによる精製後、褐色の粉末として化合物[10]・TFAを得た。
【0124】
【化18】
【0125】
化合物7.室温の12mLの乾燥DMF中、リボフラビン6(2g、5.3mmol、1.0当量)、炭酸カリウム(1.5当量、8mmol、1.1g)の懸濁液を不活性雰囲気下で45分間撹拌した。次いで、4mLの乾燥DMF中ブロモ酢酸エチル溶液(2当量、10.6mmol、1.1mL)を滴下し、反応(24時間)が完了するまで撹拌を続けた。溶媒を蒸発させ、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(10%MeOH/CHCl)によって精製し、黄色の固体として7を得た(1.2g、50%)。1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 8.08 (s, 1H), 8.00 (s, 1H), 4.82 (s, 2H), 4.47 (m, 1H), 4.26 (q, J = 6.8 Hz, 2H), 3.85 (m, 4H), 3.69 (dd, J = 11.4, 6.0 Hz, 2H), 2.60 (s, 3H), 2.49 (s, 3H), 1.31 (t, J = 6.8 Hz, 3H)。EMAR(ESI):C2126についての計算値:462.18。測定値:463.2[M+1H]
【0126】
化合物8.化合物7(400mg、0.86mmol)を6M HCl(15mL)中に懸濁し、1時間加熱還流した。反応物を約pH7になるまでNaOHで中和し、水で希釈し、分取RP-Buechi Sepacore(勾配:B 5%、5分;B 15%→95%、40分)によって精製した。溶媒を減圧下で除去すると、黄色の固体が生じた(260mg、69%)。1H NMR (500 MHz, D2O) δ 7.71 (s, 1H), 7.64 (s, 1H), 4.87 (m, 1H), 4.59 (s, 2H), 4.23 (m, 1H), 3.78 (m, 4H), 3.60 (m, 1H), 2.40 (s, 3H), 2.28 (s, 3H)。EMAR(ESI): C1922についての計算値:434.14。測定値:435.2[M+1H]、457.1[M+1Na]
【0127】
化合物9.Fmoc-Met-OH(371mg、1mmol)およびDIEA(695μL、4mmol、4当量)の混合物を、2.5mLのCHCl中2-クロロトリチル樹脂(0.25mmol)の懸濁液に加え、この混合物を50分間撹拌した。樹脂をCHCl/MeOH/DIEA(17:2:1)(3×5mL、2分)、CHCl(3×5mL、2分)で洗浄し、DMF(1×5mL、10分)中20%ピペリジンで処理した。
【0128】
化合物8(170mg、0.4mmol)、DIEA/DMF 0.2M(8.2mL、1.6mmol、4当量)、およびHATU(152mg、0.4mmol、1当量)の溶液を前述の樹脂(0.4mmol)に加え、この懸濁液を50分間撹拌した。この樹脂をDMF(3×10mL、2分)およびCHCl(2×10mL、2分)で洗浄し、次いで、脱保護カクテル(TFA 900μL、CHCl 50μL、HO 25μLおよびTIS 25μL;1mLのカクテル/樹脂40mg)で1.5~2時間処理した。濾過後、粗生成物を減圧下で濃縮した。
【0129】
濃縮後に得られた残渣を分取RP-Buechi Sepacore、勾配:B 5%、5分;B 15%→95%、40分(A:0.1%TFAを含有するHO、B:0.1%TFAを含有するMeOH)によって精製した。好適な画分を収集し、濃縮し、凍結乾燥し、淡黄色の粉末として目的生成物9を得た(50mg、23%)。1H NMR (500 MHz, D2O) δ 8.00 (s, 1H), 7.97 (s, 1H), 5.13 (m, 1H), 4.97 (d, J = 14.0 Hz, 1H), 4.86 (m, 2H), 4.46 (m, 1H), 3.97 (m, 2H), 3.89 (d, J = 11.9 Hz, 1H), 3.75 (m, 1H), 3.01 (m, 2H), 2.76 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 2.61 (s, 3H), 2.50 (s, 3H), 2.26 (m, 2H), 2.09 (s, 3H)。EMAR(ESI):C2431Sについての計算値:565.18。測定値:566.19。
【0130】
化合物10.錯体2(35mg、0.07mmol)および化合物9(40mg、1当量)を脱酸素化HO:EtOH 1:1(2mL)に溶かし、暗所で一晩加熱還流した。この生成物を、35分間でB 5~95%の勾配(A:0.1%TFAを含有するHO、B:0.1%TFAを含有するACN)で4mL/分でのRP-HPLCによって精製した。好適な画分を収集し、濃縮し、凍結乾燥し、褐色の粉末として目的生成物10を得た(10mg、13%)。1H NMR (500 MHz, D2O) δ 8.64 (dd, J = 19.0, 8.2 Hz, 2H), 8.48 (dd, J = 24.0, 8.1 Hz, 2H), 8.32 (m, 2H), 8.09 (m, 3H), 7.98 (m, 2H), 7.81 (m, 3H), 7.62 (t, J = 5.4 Hz, 1H), 7.54 (m, 3H), 7.26 (m, 2H), 7.09 (t, J = 6 Hz, 1H), 5.15 (m, 1H), 4.91 (m, 2H), 4.60 (m, 1H), 4.50 (m, 2H), 3.97 (m, 2H), 3.86 (m, 1H), 3.73 (dd, J = 11.8, 5.8 Hz, 1H), 2.60 (s, 3H), 2.36 (s, 3H), 1.92 (m, 1H), 1.79 (m, 2H), 1.69 (m, 1H), 1.24 (s, 3H)。EMAR(ESI):C495010RuSについての計算値:1056.25。測定値:1055.25[M-1H]
【0131】
実施例2.GMPおよびc-MYCの結合アッセイ
照射を用いてDNAを金属化するためのアッセイの一般的方法
オリゴヌクレオチド(10μM)を、100mM KClを含む10mMリン酸カリウムバッファー(pH=7.5)中で室温で30分間ルテニウム錯体で処理した。この溶液を暗所でインキュベートするかまたは高出力LEDで照射した。照射のために、サンプルをサンプル支持体内の標準的な10mmキュベットに入れ、高出力LEDユニットを用いて900mWで455nmで30分間照射した(Thorlabs, Inc.、カタログ番号:M455L3)。LEDの光は、照射パワーを最大にする目的で短い焦点距離を有する平凸レンズによって視準する。
【0132】
実施例2A.錯体1-GMPの結合アッセイ
最初に、錯体1のグアノシン一リン酸(GMP)金属化能力を研究した。その目的で、錯体1(250μM)を、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中で3当量のGMP(750μM)と混合した。室温で30分後に、アコ[Ru(terpy)(bpy)HO]2+錯体(2)の部分的形成(50%を超える)が観察されたが、一方、GMPは本質的に未反応のままであった(図1、線b)。その後の2時間のサンプルインキュベーションによって、金属化生成物3およびアコ錯体2が生じ、開始時の塩素錯体は完全に消費された(図1、線d)。サンプルへの30分間の照射(λ=455nm)によって、モノ付加体3の排他的形成が起こった(GMPの消失に基づいて約80%の転化率、図1、線c)。
【0133】
GMP金属化が完全に直交していることを確認するために、他の3種のヌクレオチド(AMP、CMP、およびTMP)を用いて競合的実験を行った。具体的には、錯体1(250μM)を、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中で、GMP(3当量、750μM)、AMP(3当量、750μM)、TMP(3当量、750μM)、およびCMP(3当量、750μM)と混合した。455nmで30分間照射した後、アコ[Ru(terpy)(bpy)HO]2+錯体(2)の形成と、GMPの排他的修飾が観察され、モノ付加体3が生じた(図2)。
【0134】
リシンおよびシステインの誘導体の存在下でのGMP金属化の選択性もまた確認した。その目的で、錯体1(250μM)を、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中、H-Lys(Boc)-OH(3当量、750μM)またはAc-Cys-OH(3当量、750μM)の存在下でGMP(3当量、750μM)と混合した。455nmで30分間照射した後、GMPの排他的修飾が観察され、モノ付加体3が生じた(図3)。
【0135】
実施例2B.錯体1-c-MYCの結合アッセイ
平行c-MYC四重鎖d[TTGAGTGTAGTGTA](配列番号1)の10μM溶液を、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM KCl中で5当量のルテニウム錯体1で処理し、この混合物に室温で30分間照射した(λ=455nm)。81%の転化率での、モノ付加誘導体MYC-[Ru]に相当する質量を有する生成物の形成が観察された(図4、線c)。光不在下での反応もまた、室温で30分後に約41%の転化率で観察された(図4、線b)。
【0136】
実施例2C.錯体4-GMの結合アッセイ
錯体4(250μM)を、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中で3当量のGMP(750μM)と混合した。暗所、室温で30分後に、新たな生成物の形成は観察されなかった(図5、線b)。しかしながら、最初のサンプルに30分間照射すると(λ=455nm)、モノ付加体3の排他的形成が観察された(図5、線c)。
【0137】
実施例2D.錯体4-c-MYCの結合アッセイ
四重鎖c-MYCの10μM溶液を、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM KCl中で5当量のルテニウム錯体4で処理した。この混合物への室温で30分間の照射(λ=455nm)によって、生成物MYC-[Ru]の形成が起こった(図6、線c)。この反応を暗所で行った場合には、30分後に金属化生成物の形成は観察されなかった(図6、線b)。
【0138】
実施例2E.錯体5-GMPの結合アッセイ
錯体5(250μM)を、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中で3当量のGMP(750μM)と混合した。暗所、室温で30分後に、新たな生成物の形成は観察されなかった(図7、線b)。しかしながら、最初のサンプルに30分間照射すると(λ=455nm)、モノ付加体3の排他的形成が観察された(図7、線c)。
【0139】
実施例2F.錯体5-c-MYCの結合アッセイ
四重鎖c-MYCの10μM溶液を、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM KCl中で5当量のルテニウム錯体5で処理した。この混合物への室温で30分間の照射(λ=455nm)によって、生成物MYC-[Ru]の形成が起こった(図8、線c)。この反応を暗所で行った場合には、30分後に金属化生成物の形成は観察されなかった(図8、線b)。
【0140】
実施例3.[Ru]-Cl錯体(1)の[Ru]-H O(2)への加水分解
10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中の錯体1(250μM)は暗所でゆっくりとアコ2誘導体に変化することが観察された。30分後に完全な転化が観察されたことを考え合わせると、この加水分解は、照射(λ=455nm)によって著しく促進される(図9、線c)。暗所での、10mMリン酸バッファー(pH=7.5)および100mM NaCl中でのアコ2誘導体(250μM)と3当量のGMP(750μM)との反応によって、30分後に63%の転化が起こった(図10、線b)。光照射(λ=455nm)によってプロセスが加速され、30分後に完全な転化が起こった(図10、線c)。
【0141】
実施例4.c-MYC発現レベルの決定
材料と方法
細胞培養物
細胞株は、10%(v/v)のFCS(ウシ胎仔血清、Gibco)、ペニシリン(100U/mL)、およびストレプトマイシン(100U/mL)を添加したDMEM中で培養した。細胞培養物は、5%CO中、湿度を保ち、37℃で維持した。
【0142】
リアルタイム定量PCR(qRT-PCR)
1ウェルあたり3×10個のHeLa細胞(子宮頸癌細胞株)またはVero細胞(腎上皮細胞株)を6ウェルプレートに播種した。1日後、アッセイする化合物を細胞培養培地に添加し、細胞を16時間または48時間インキュベートした。市販のキット(Qiagen Rneasy Mini Kit)を用いて製造業者の推奨に従って全RNAを抽出した。RNAは、Nanodrop ND-1000で定量した。同量のRNAを、CFX96リアルタイムシステム装置(Bio-Rad)でのqRT-PCR(Promega Gotaq 1-Step RT-qPCR System)に使用した。使用したプライマーは以下の通りであった:c-MYC:センス:5’-CTG AGG AGG AAC AAG AAG ATG AG-3 '(配列番号2)、アンチセンス:5’-TGT GAG GA GGT TTG CTG TG-3’(配列番号3);ALAS:センス:5’-GTT TGG AGC AAT CAC CTT CG-3'(配列番号4)、アンチセンス:5’-ACC CTC CAA CAC AAC AAC AG-3’(配列番号5);GAPDH:センス:5’-GGT GTG AAC CAT GAG AAG TAT GA-3'(配列番号6)、アンチセンス:5’-GAG TCC TTC GAT CAC CAC AAA G-3'(配列番号7)。
【0143】
ウエスタンブロット
指示された濃度のアッセイする物質の存在下で、50%のコンフルエンスになるまでHeLa細胞を16時間インキュベートした。細胞をSDS-PAGE Laemmli法用バッファー中に溶解し、標準的な方法に従ってSDS-PAGEおよびウエスタンブロットに供した。c-MYCタンパク質は、抗MYC抗体(Santa-Cruz Biotechnologies)によって検出した。免疫反応性タンパク質のシグナルを検出するために、化学発光法に従った(ECL、Amersham Biosciences)。
【0144】
ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)
HeLa細胞を、1ウェルあたり3×10個の細胞の密度で6ウェルプレートに播種した。翌日、錯体1を100μMの濃度で細胞培養培地に添加し、細胞を16時間インキュベートした。細胞を新鮮培地で2回洗浄し、70%HNO/HO中に溶解した。サンプルを全容量3mLの水に希釈し、ICP-MS(7,700× Agilent)によって分析した。
【0145】
細胞毒性(MTT)アッセイ
1ウェルあたり4000個の細胞を96ウェルプレートに播種し、24時間インキュベートした。異なる濃度のアッセイする物質を培養培地に添加し、さらに72時間、細胞をインキュベーター内に残した。次いで、MTTを終濃度0.5mg/mlで添加し、4時間インキュベートした。細胞を溶解し、水中0.1M HClおよび10%SDSを含有する可溶化溶液をある容量添加することによってホルマザン沈殿物を可溶化した。吸光度は、Tecan Infinito F200 Proプレートリーダーにより570nmで決定した。
【0146】
細胞分画
HeLa細胞を、1ウェルあたり3×10個の細胞の密度で6ウェルプレートに播種した。翌日、錯体1を100μMの濃度で細胞培養培地に添加し、細胞を16時間インキュベートした。核の単離については以下のプロトコールに従った:細胞をPBSで洗浄し、遠心分離によって沈降させた。次いで、それらを細胞溶解バッファー[HEPES 10mM;pH=7.5、KCl 10mM、EDTA 0.1mM、ジチオトレイトール 1mM(DTT)、および0.5%ノニデット-40]中に再懸濁し、間欠的に混合しながら氷上で15~20分間放置した。チューブを激しく撹拌して細胞膜を破壊し、次に、4℃で10分間12,000gで遠心分離した。堆積した核の完全性は、Nikon Eclipse TiE装置の位相差顕微鏡によって確認した。細胞質を含有する上清画分および核を含有する沈降物を70%HNO/HO中でホモジナイズし、上記のように、ICP-MSによって分析した。クロマチン抽出のために、市販のキットを使用した(Chromatin Extraction Kit、Abcam)。単離したクロマチンを70%HNO/HO中に再懸濁し、ICP-MSによって分析した.
【0147】
結果
本発明者らは、c-MYC癌遺伝子の発現レベルに対する本発明の錯体の効果を、メッセンジャー発現レベルおよびタンパク質発現レベルの両方において分析した。
【0148】
図11および図12は、それぞれ、HeLa細胞およびVero細胞におけるメッセンジャーRNA発現のデータを示している。グアニン四重鎖と結合し、c-MYC発現を阻害する化合物であるポルフィリンTMPyP4を対照として使用した。
【0149】
図11で示されるように、DMEM中錯体1(100μM)で処理したHeLa細胞は、未処理の細胞と比較して、c-MYC転写において中程度であるが有意な増加を示した(16時間時点で80%および48時間時点で200%)。予想されるように、TMPyP4での代替処理は48時間後に細胞のc-MYC mRNAレベルの60%の減少をもたらした。
【0150】
図11はc-MYCタンパク質発現のデータを示している。メッセンジャーレベルと比較して観察されるように、100μMの濃度の錯体1での細胞の処理によって、c-MYCのレベルの著しい増加が起こった(図11、平均40%の増加)。
【0151】
このデータによって、大部分の四重鎖標的化薬剤とは異なり、錯体1は遺伝子発現レベルの減少ではなく増加を促進し、それによって、転写活性化因子として作用することが確認される。
【0152】
下記表1および表2で分かるように、錯体1での処理後に得られた単離核およびクロマチンのICP-MS分析によって、錯体の効率的な細胞取り込みおよび核輸送に従って、比較的多量のルテニウムの存在が確認された。
【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
さらに、細胞生存率アッセイによって、錯体1は本質的に非細胞毒性であることが確認された(図13)。
【0156】
光活性化錯体(錯体5)に関して、c-MYC遺伝子のメッセンジャーRNAの発現のqRT-PCR分析によって、錯体2(アコ)で観察されたものと同様に、照射後にRNAレベルが増加することが示された。ウエスタンブロットタンパク質発現分析によって、c-MYCタンパク質発現の増加は光の存在下で起こること、そして暗所ではタンパク質レベルは変化しないことが確認された(図14および図15)。さらに、錯体2は暗所でも照射下でも活性である。追加の実験によって、放射線による細胞生存率への影響がないことが確認された(図16)。
【0157】
実施例5.膵臓の癌幹細胞におけるアッセイ
膵腺癌は、癌幹細胞(CSC)の亜集団を含む不均一な腫瘍細胞集団を含む膵臓癌である。
【0158】
本発明者らは、FACS(蛍光活性化細胞選別”)によって6つの患者由来原発腫瘍からCSCおよび 非CSCを単離した。ハイスループットRNA配列決定(RNAseq)を行った。対応する非CSC集団と比較したCSC集団のRNAseq分析により、共通の要素およびそれらの差次的発現に基づいて標的遺伝子のリストを作成した。負に調節された遺伝子の中で、c-MYCは、6つの腫瘍の部分CSC集団においてかなり下方調節されていると確認された。c-MYCの下方調節は、様々な腫瘍におけるc-MYCについて一般的に特徴付けられているものとは相反することを強調しなければならない。しかしながら、本発明者らは、c-MYCの発現は、そのより分化した同等物と比較して、CSCにおいて差次的に調節されることを発見した。
【0159】
一方で、本発明者らは、錯体2が膵臓CSCにおけるc-MYC発現を増加させ得るかどうか、他方で、c-MYC発現の増加がCSC表現型、例えば、CSC自己複製能に悪影響を与えるかどうかを分析した。この目的のために、パス数の少ない患者由来異種移植片から確立された膵管腺癌(PDAC)細胞を培養し、100μMおよび250μMの濃度のルテニウム錯体2(RuHO)で6時間、12時間、または24時間処理し、c-MYCタンパク質発現をウエスタンブロットによって評価した。図17(A)は、c-MYCの発現が処理後に増加し、効果は処理の24時間後に最も顕著であったことを示している。c-MYC発現の実質的な増加を達成した後に、CSC自己複製能が影響を受けるかどうかを分析した。要するに、その目的で、PDAC細胞を、100μMおよび250μMの濃度の錯体2(RuHO)で2回前処理した後、Cioffi M(Cioffi M et al. 2015 Gut 12: 1936-1948)に記載されている超接着性プレートでスフェア培養物を確立した。スフェア形成後4日目にスフェアを再び処理した。図17(B)で示されるように、錯体2(RuHO)で処理したPDAC細胞のスフェア形成能の有意な用量依存的低下が対照培養物と比較して観察された。このデータは、c-MYC発現の増加が、自己複製などのPDAC癌幹細胞の機能特性に悪影響を及ぼす細胞内状態を作り出すという本発明者らの仮説を裏付けるものである。
【0160】
本発明の錯体を使用して、HeLa細胞においてなされた観察を確認するために、RuHO錯体2が、パス数の少ない患者由来異種移植片に基づいて確立されたPDAC接着性培養物においてc-MYC発現を増加させるかどうかを試験した。前の観察と一致して、100μMのRuHOでのPanc185細胞およびPancA6L細胞の処理によって処理の24時間後にc-MYCタンパク質発現が増加した(図18)。処理の48時間後にc-MYCタンパク質レベルの有意な低下が観察されたため、その効果は一過性であった。
【0161】
さらに、100μMのRuHOで24時間処理した後、既知のc-MYC標的であるPGC1α発現の減少、および多能性関連遺伝子Oct3/4およびSox2の減少が観察された(図19)。
【0162】
次に、観察されたc-MYC発現の増加および表現型および転写の変化が細胞傷害性であるかどうかを調べた。この分析には、損傷細胞から放出されたアデニル酸キナーゼ(AK)酵素を測定するために設計された生物発光非破壊細胞溶解アッセイキットであるToxiLight(商標)BioAssayキットを使用した(図20)。接着性培養物(CSCが少ない)および培養スフェア(CSC豊富)を漸増用量のRuHOで処理し、細胞毒性を処理の24時間後、48時間後、および72時間後に測定した。接着性培養物およびアッセイした両方の細胞株では、細胞を250μMのRuHOで処理した場合、毒性は72時間時点でのみ観察された(死細胞の3倍増加)。これに対して、100μMの濃度では、RuHOは球状培養物で細胞死を誘導し、これは、Panc185細胞およびPancA6L細胞中のCSC集団の選択的選抜を示す。
【0163】
CSCを多く含む培養物に対する100μMのRuHOの効果は、顕微鏡レベルでもアネキシンV染色を測定することによっても確認された。図21で示されるように、100μMのRuHOで72時間処理したスフェアは視覚的に小さく、アポトーシス性であった。DAPI陰性細胞の割合によって決定される細胞生存率は50%低下した。
【0164】
次いで、ルテニウム錯体2が自己複製および造腫瘍性などのCSC表現型に悪影響を及ぼす可能性があるかどうかを評価した。その目的で、パス数の少ない患者由来異種移植片に基づいて確立されたPDAC接着性培養物を250μMのルテニウム錯体2(RuHO)で24時間処理した。処理済みおよび未処理の細胞をトリプシン処理し、標準的なプロトコール(Cioffi M et al. 2015 Gut 12: 1936-1948)に従ってスフェア培養物を確立した。細胞を、B27を添加した無血清DMEM/F12で7日間、超低接着性プレート中で培養した。これらの7日間、スフェア開始後1日目、3日目、および5日目にサンプルを250μMのRuHOで再び処理した。図22Aは前述の実験の作業順序を示している。図22Bで示されるように、対照で処理した培養物と比較して、RuHOで処理したPDAC細胞のスフェア形成能の有意な低下が観察された。CSCスフェアはRuHO群においてより小さく、あまり豊富ではなかった。
【0165】
次に、スフェアを分離し、同数の対照処理細胞およびRuHO処理細胞を免疫不全のNOD-SCIDマウスに皮下注射して、その造腫瘍性を評価した。注射の12週間後、腫瘍を摘出し、重量を測定した。図23Aは、摘出した腫瘍を示している。RuHOでの処理によってスフェア豊富なCSC(sphere-rich CSCs)の腫瘍形成能が有意に低下した。10,000個の対照処理細胞の4回の注射のうち4回、1,000個の対照処理細胞の6回の注射のうち5回は腫瘍をもたらしたが、10,000個のRuHO処理細胞の全6回の注射のうち1回だけが腫瘍をもたらした。10分の1のRuHO処理細胞を注射した場合には腫瘍は形成されなかった(図23B)。さらに、10,000個のRuHO処理細胞を注射したマウスで発生した唯一の腫瘍の重量は、対照処理マウスで形成された腫瘍の53分の1であった(0.3118gに対して0.0058g)。
【0166】
上述の効果が非特異的細胞毒性効果の結果として生じる可能性を排除するために、接着性培養物(CSCが少ない)を、単回用量のRuHO(100μMまたは250μM)で48時間処理し、それらのその後のクローン産生性、自己複製、および造腫瘍性を確かめた。これらの実験条件下では、このToxiLightアッセイを用いて毒性は観察されなかった(図20)。パス数の少ない患者由来異種移植片に基づいて確立されたPDAC接着性培養物を、100μMまたは250μMのRuHOで48時間処理した。次いで、処理済みおよび未処理の細胞をトリプシン処理し、アポトーシス細胞の割合を分析した。細胞毒性アッセイと一致して、100μMまたは250μMのRuHOでの処理後にアポトーシス細胞の割合の増加は観察されなかった(図24)。
【0167】
次いで、トリプシン処理した細胞を以下の通りにした:1)それらのクローン産生性を評価するために、低コンフルエントな状態でプレートに入れ(図25);2)複数世代にわたるスフェア形成能を評価するために、B27を添加した無血清DMEM/F12で超低接着性プレート中、7日間隔で繰り返し培養し(図26); 3)上記のように、それらの造腫瘍性を確かめるために、NOD-SCIDマウスに皮下注射した(図27)。この総てのデータは、RuHOでの処理がPDAC細胞のクローン産生性、自己再生、および造腫瘍性を妨げることを明確に示している。
【0168】
最後に、CSCを特異的に標的とする本発明の錯体の能力を調査するために、RuHOをメチオニンの硫黄を介してリボフラビンと結合させ(コンジュゲート10)、詳細に記載のとおり、この修飾化合物で細胞を処理した。この場合も、パス数の少ない患者由来異種移植片に基づいて確立されたPDAC接着性培養物を、250μMのRu-リボフラビンで処理した。ルテニウム錯体を活性化するために、細胞を可視光で処理して、RuHOを放出させ活性化した。処理の24時間後に、処理済みおよび未処理の細胞をトリプシン処理し、標準的なプロトコール(Cioffi M et al. 2015 Gut 12: 1936-1948)に従ってスフェア培養物を確立した。細胞を、B27を添加した無血清DMEM/F12で7日間、超低接着性プレート中で培養した。スフェア開始後3日目に、細胞を250μMのRu-リボフラビンで再び処理した。図28はこの実験の作業順序を示している。
【0169】
さらに、細胞を、特異的ABCG2阻害薬であるフミトレモルギンC(FTC)でも処理した。Ru-リボフラビンでの最初の処理および活性化の後、cMYC mRNAレベル、ならびに多能性関連遺伝子Klf4およびOct3/4などの既知CSC関連遺伝子の発現を評価するために、qRT-PCR分析を実施した。FTCの存在下または不在下でRu-リボフラビンで処理した細胞は、cMYC RNAレベルの増加と、Klf4およびOct3/4 CSC関連転写物の減少を示した(図29A)。Ru-リボフラビンがCSC中に蓄積可能であることを確認するために、Ru-リボフラビンで24時間処理した細胞においてフローサイトメトリーによって自家蛍光を測定した。自家蛍光CSC集団の増加が観察され、これはFTCで元に戻すことができた(図29B)。
【0170】
最後に、スフェア豊富なCSC (sphere-rich CSCs)の造腫瘍性を、上記のように調べた。摘出した腫瘍の分析によって、対照で処理した細胞およびRu-リボフラビン/FTCで処理した細胞と比較して、Ru-リボフラビンで処理した細胞の腫瘍減少および増殖の傾向が示された(図30)。
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