(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】タブリード用フィルム、及びこれを用いたタブリード
(51)【国際特許分類】
H01M 50/184 20210101AFI20230616BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20230616BHJP
H01M 50/195 20210101ALI20230616BHJP
H01M 50/197 20210101ALI20230616BHJP
H01M 50/198 20210101ALI20230616BHJP
H01M 50/562 20210101ALI20230616BHJP
H01M 50/564 20210101ALI20230616BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230616BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20230616BHJP
H01G 11/74 20130101ALI20230616BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20230616BHJP
【FI】
H01M50/184 C
H01M50/193
H01M50/195
H01M50/197
H01M50/198
H01M50/562
H01M50/564
B32B27/32 E
H01G11/06
H01G11/74
H01G11/78
(21)【出願番号】P 2019549266
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2018038311
(87)【国際公開番号】W WO2019078155
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017201178
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大山 正道
(72)【発明者】
【氏名】大澤 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 由明
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-016337(JP,A)
【文献】特開2014-120390(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020721(WO,A1)
【文献】特開2016-091939(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063764(WO,A1)
【文献】特開2014-026980(JP,A)
【文献】特開2016-129113(JP,A)
【文献】特開2017-033820(JP,A)
【文献】特開2015-215960(JP,A)
【文献】特開2014-123445(JP,A)
【文献】特開2015-141832(JP,A)
【文献】特開2012-022821(JP,A)
【文献】特開2010-245000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10
H01M 50/50
B32B 27/32
H01G 11/06
H01G 11/78
H01G 11/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分とする表面層(A)、炭酸カルシウムとポリオレフィン系樹脂を含み、前記炭酸カルシウム及び/又は前記ポリオレフィン系樹脂が主成分であるコア層(B)、酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系樹脂を主成分とする表面層(C)を順に備えるタブリード用フィルムにおいて、
前記表面層(A)における炭酸カルシウムの含有量、及び前記表面層(C)における炭酸カルシウムの含有量が、それぞれ0~10重量%で、
前記表面層(A)の厚さが23μm以上であって、
前記タブリード用フィルムが炭酸カルシウムを9.0重量%以上含有
し、
前記表面層(A)の厚さをt1、前記コア層(B)の厚さをt2、前記表面層(C)の厚さをt3としたとき、下記の式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とするタブリード用フィルム。
式(1) t1>t3
式(2) t1:t2:t3=33~80:20~60:15~30
【請求項2】
前記タブリード用フィルムが炭酸カルシウムを9.6重量%以上含有することを特徴とする請求項1記載のタブリード用フィルム。
【請求項3】
前記タブリード用フィルム中の炭酸カルシウムのメジアン径が1.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のタブリード用フィルム。
【請求項4】
前記コア層(B)における炭酸カルシウムの含有量が13~60重量%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタブリード用フィルム。
【請求項5】
前記炭酸カルシウムが、合成炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のタブリード用フィルム。
【請求項6】
厚さが50μm以上400μm以下の金属端子用であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のタブリード用フィルム。
【請求項7】
金属端子の少なくとも一方の表面に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のタブリード用フィルムが熱融着されたタブリードであって、前記金属端子の表面と前記タブリード用フィルムの前記表面層(A)を熱融着したことを特徴とするタブリード。
【請求項8】
前記金属端子の厚さをT(mt)、前記タブリード用フィルムの厚さをT(tf)としたとき、0.5T(mt)≦T(tf)であることを特徴とする請求項7記載のタブリード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラミネートフィルムを外包材とするリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタ等において、内部から電気を取り出すためのタブリードに熱融着されるタブリード用フィルムに関する。また該タブリード用フィルムを用いたタブリードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の電子機器の電源やハイブリッド自動車や電気自動車等のバッテリー等として、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタ(以下、単に「リチウム電池等」と略称する)が採用されている。これらリチウム電池等の多くは、アルミニウム箔等の金属箔にポリオレフィン等からなるシーラント層等を積層したラミネートフィルムを外包材とし、該外包材の内部に、正極、負極、セパレーター及び非水電解質等が封入され、更にリチウム電池等の内部と外部とを電気的に繋ぐ為のタブリードが取り付けられて成る。
【0003】
特許文献1は、水の浸入により発生するフッ化水素(フッ酸)により、金属端子(リード線)が腐食し、タブリード用フィルム(リード線の絶縁材料)が剥がれることを防止する為に、該タブリード用フィルムに酸をトラップさせる機能を付加することを提案するものである。具体的には熱可塑性樹脂100重量部と、カルボン酸金属塩、金属酸化物、ハイドロタルサイト類より選ばれた1種あるいは複数種類を合計で20重量部以上100重量部以下と、を主体とする樹脂組成物をタブリード用フィルムとして使用することを提案する。
【0004】
しかしながらここで開示されているタブリード用フィルムは単層のフィルムであり、フィルム表面に多量の充填剤(カルボン酸金属塩、金属酸化物、ハイドロタルサイト類等)が存在する。その為、フィルム表面から充填剤が脱落し、タブリードの製造ラインやリチウム電池等の製造ラインを汚染する恐れがあった。
また該充填剤がフィルム表面に多く存在すると、金属端子とタブリード用フィルムの接着力が低下するという問題もあった。通常、タブリード用フィルムは金属端子にヒートシールにより熱融着するが、前記充填剤はヒートシール温度(通常、150~250℃)においても溶融せず、金属端子と熱融着しないのである。
【0005】
特許文献2も、フッ化水素により金属端子(リード端子)が腐食し、金属端子とタブリード用フィルム(端子接着用テープ)の間の接着力が低下する問題を解決する発明である。
特許文献2には、タブリード用フィルムを三層構成とし、無機充填剤を含有する層を中間層とし、該中間層の一方に金属端子との接着性が良好な樹脂層を、他方に外包材との接着性が良好な樹脂層を設けることが開示されている。
特許文献2に開示された三層構成のタブリード用フィルムは、フィルム表面に無機充填剤が存在しない為、タブリードの製造ラインやリチウム電池等の製造ラインを汚染することはない。しかしながら該三層構成のタブリード用フィルムであっても、金属端子の種類によっては、端子との接着力が低いものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-354087公報
【文献】特開2014-120390公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はフッ化水素の影響により金属端子とタブリード用フィルムの間の接着力が低下することを防止するタブリード用フィルムであって、タブリードの製造ラインやリチウム電池等の製造ラインを汚染することがなく、更に金属端子の種類によって端子との接着性が低下することのないタブリード用フィルムの提供を課題とする。併せて該タブリード用フィルムを用いたタブリードの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは特許文献2に開示された三層構成のタブリード用フィルムにおいて、金属端子の種類により端子との接着力が低下する理由について検討した。
図9は比較的厚い金属端子2を採用したタブリードTLの模式的平面図(A)と、そのα-α断面図(B)、そのβ-β断面図(C)である。本発明者らは一般的な三層構成のタブリード用フィルム1を比較的厚い金属端子2にヒートシールした場合、金属端子2の角部2aにおいて、しばしばタブリード用フィルム1の表面層11が途切れ、金属端子2がコア層12と接することを発見した。
一般的なタブリード用フィルム1の表面層11は酸変性ポリオレフィンから成り、コア層12はポリオレフィン系樹脂から成る為、通常、コア層12は表面層11よりも金属端子2との熱融着性に劣る。特に特許文献2に開示されたタブリード用フィルムのようにコア層に無機充填剤を含むものは、該無機充填剤の影響により、コア層と金属端子との熱融着性は非常に乏しい。そのため特許文献2に開示された三層のタブリード用フィルムは、金属端子の角部において端子に熱融着せず、その結果、金属端子とタブリード用フィルムとの接着力が低下したものと思われる。
【0009】
そこで本発明者らはタブリード用フィルムにおける一方の表面層(A)の厚さまたは厚さ割合を十分に大きくし、金属端子の角部において、タブリード用フィルムの表面層(A)が途切れることを防止することとした。この場合、表面層(A)の厚さまたは厚さ割合の増加に伴い、コア層(B)や、もう一方の表面層(C)の厚さが低減することとなるが、コア層(B)の厚さが低減すると該層に含まれる無機充填剤の量も低減することとなる。よって本発明者らは無機充填剤の添加量とフッ化水素への影響についても検討を進め、本発明に至った。
【0010】
即ち本発明によると上記課題を解決する為の手段として、酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分とする表面層(A)、フッ化水素と反応する無機充填剤とポリオレフィン系樹脂を含み、前記フッ化水素と反応する無機充填剤及び/又は前記ポリオレフィン系樹脂が主成分であるコア層(B)、酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系樹脂を主成分とする表面層(C)を順に備えるタブリード用フィルムにおいて、前記表面層(A)における無機充填剤の含有量、及び前記表面層(C)における無機充填剤の含有量が、それぞれ0~10重量%で、前記タブリード用フィルムがフッ化水素と反応する無機充填剤を9.0重量%以上含有することを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
また、前記タブリード用フィルムがフッ化水素と反応する無機充填剤を9.6重量%以上含有することを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
更に、前記タブリード用フィルム中のフッ化水素と反応する無機充填剤のメジアン径が1.0μm以下であることを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
また、前記表面層(A)の厚さが23μm以上であることを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
更に、前記表面層(A)の厚さがタブリードフィルム全体の厚さの23%以上であることを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
【0011】
また、前記コア層における前記フッ化水素と反応する無機充填剤の含有量が13~60重量%であることを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
更に、前記表面層(A)の厚さをt1、前記コア層(B)の厚さをt2、前記表面層(C)の厚さをt3としたとき、下記の式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
式(1) t1≧t3
式(2) t1:t2:t3=23~80:15~72:5~62
また、前記フッ化水素と反応する無機充填剤が金属炭酸塩であることを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
更に、前記金属炭酸塩が、炭酸カルシウムであることを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
また、前記炭酸カルシウムが、合成炭酸カルシウムであることを特徴とするタブリード用フィルムが提供される。
【0012】
また、金属端子の少なくとも一方の表面に、前記タブリード用フィルムが熱融着されたタブリードであって、前記金属端子の表面と前記タブリード用フィルムの前記表面層(A)を熱融着したことを特徴とするタブリードが提供される。
更に、前記金属端子の厚さをT(mt)、前記タブリード用フィルムの厚さをT(tf)としたとき、0.5T(mt)≦T(tf)であることを特徴とするタブリードが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタブリード用フィルムは、酸変性ポリオレフィン系樹脂を主成分とする表面層(A)、フッ化水素と反応する無機充填剤及び/又はポリオレフィン系樹脂を主成分とするコア層(B)、酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系樹脂を主成分とする表面層(C)を順に備え、表面層(A)における無機充填剤の含有量、及び表面層(C)における無機充填剤の含有量が、それぞれ0~10重量%である為、タブリードの製造ラインやリチウム電池等の製造ラインを汚染することがない。
また該フィルムがフッ化水素と反応する無機充填剤を9.0重量%以上含有する為、電池内部からフッ化水素が発生しても、該フッ化水素による金属端子の腐食や、腐食に起因する接着性の低下を効率よく抑制することができる。
加えて、該フィルムがフッ化水素と反応する無機充填剤を9.6重量%以上含有することで、フッ化水素によるタブリード用フィルムと金属端子の接着力低下をより抑制することができる。
特に、フッ化水素と反応する無機充填剤のメジアン径が1.0μm以下であることによりフッ化水素による接着性低下の抑制に適している。
【0014】
更に表面層(A)の厚さが、23μm以上、又はフィルム全体の厚さの23%以上である為、金属端子と熱融着される際に、端子の角部において該樹脂層が途切れることが抑制される。
またコア層におけるフッ化水素と反応する無機充填剤の含有量が13~60重量%であると、フッ化水素による金属端子の腐食を効果的に抑制でき、尚且つタブリード用フィルムの製膜性も安定する。
更にまたフッ化水素と反応する無機充填剤が金属炭酸塩であると、高価な充填剤を用いることなく、フッ化水素による接着性の低下を特に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のタブリード用フィルムの模式的断面図である。
【
図2】本発明のタブリードの模式的平面図(A)と、そのα-α断面図(B)、そのβ-β断面図(C)である。
【
図3】試験例1のタブリード断面のデジタルマイクロスコープの写真である。
【
図4】試験例2のタブリード断面のデジタルマイクロスコープの写真である。
【
図5】試験例3のタブリード断面のデジタルマイクロスコープの写真である。
【
図6】試験例4のタブリード断面のデジタルマイクロスコープの写真である。
【
図7】試験例5のタブリード断面のデジタルマイクロスコープの写真である。
【
図8】実施例1~5、比較例1~3のタブリード用フィルムにおける炭酸カルシウムの添加量と電解液浸漬後の試験片の接着強度の関係を表すグラフである。
【
図9】従来のタブリード用フィルムを用いたタブリードの模式的平面図(A)と、そのα-α断面図(B)、そのβ-β断面図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。尚、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。また、本発明は以下の形態に限定されるものではなく、種々の形態をとることができる。
【0017】
図1は本発明のタブリード用フィルム1の模式的断面図である。本発明のタブリード用フィルム1は、表面層(A)11、コア層(B)12、表面層(C)13を順に備える。
[表面層(A)]
表面層(A)11は、後述するタブリードにおいて金属端子と接する層で、金属接着性に優れる酸変性ポリオレフィンを主成分とする。該酸変性ポリオレフィンは、酸変性されたポリオレフィンであれば特に制限されないが、不飽和カルボン酸又はその無水物でグラフト変性されたポリオレフィンが好適に用いられる。
【0018】
酸変性されるポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー等のポリプロピレン、エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマー等を例示することができる。これらのポリオレフィンの中でも、ポリエチレン及びポリプロピレンが好適に用いられる。
またポリオレフィンの酸変性に使用される不飽和カルボン酸又はその無水物としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。
表面層(A)11は酸変性ポリオレフィンの一種或いはそれ以上を適宜選択し、これを主成分としていれば、変性されていないポリオレフィンや熱可塑性エラストマー等の他の樹脂を含んでいても良い。尚、本発明において「主成分」とは層を構成する成分のうち最も重量割合が大きい成分を意味する。
【0019】
該表面層(A)11は、無機充填剤の含有量が10重量%以下である。無機充填剤の含有量が10重量%を超えると、タブリード用フィルムと金属端子との接着性が低下する恐れがある。またタブリードを製造する工程において無機充填剤が脱落し、該製造ラインを汚染する恐れがある。表面層(A)11における無機充填剤の量は5重量%以下が好ましく、3重量%以下が好ましく、特に1重量%以下であることが好ましい。
尚、無機充填剤としては、後述するフッ化水素と反応する無機充填剤に限るものではなく、アンチブロッキング剤なども無機充填剤に含まれる。
【0020】
本発明のタブリード用フィルム1は、表面層(A)11の厚さt1が、23μm以上、特に27μm以上、更には30μm以上が好ましい。表面層(A)11の厚さt1が23μm未満であると金属端子の角部において表面層(A)11が途切れ、金属端子がタブリード用フィルムのコア層と接する恐れがある。
【0021】
また、タブリード用フィルム全体における表面層(A)11の厚さt1の割合は、タブリード用フィルム1全体の厚さT(tf)の23%以上(t1≧0.23T(tf))、80%以下(t1≦0.8T(tf))が好ましい。特に27%、30%、33%、35%、40%または45%の下限値から、75%、70%、65%、60%、55%または50%の上限値であることが好ましい。一般的なタブリードでは、タブリード用フィルム1の厚さT(tf)と、金属端子の厚さT(mt)がほぼ同等であるが、この場合、表面層(A)11の厚さt1が、フィルム1の厚さT(tf)の23%未満であると、上述したように、金属端子の角部において表面層(A)11が途切れ、金属端子がタブリード用フィルム1のコア層(B)12と接する恐れがある。また表面層(A)11の厚さt1が、フィルム1の80%を超えると、コア層(B)12が薄くなり過ぎ、十分な無機充填剤を含有できなくなったり、もう一方の表面層(C)13が薄くなり過ぎ、リチウム電池等の外包材との接着性が低下したりする恐れがある。
【0022】
[コア層(B)]
本発明のタブリード用フィルム1におけるコア層(B)12は、フッ化水素と反応する無機充填剤とポリオレフィン系樹脂からなり、これらのうちのいずれか一方、若しくは双方を主成分とする。
フッ化水素と反応する無機充填剤は特に限定されるものではないが、特に、メジアン径が1.0μm以下のフッ化水素と反応する無機充填剤であることが好ましい。メジアン径が1.0μm以下のフッ化水素と反応する無機充填剤は、メジアン径が1.0μmを超えるフッ化水素と反応する無機充填剤と比較して、同量の無機充填剤をタブリード用フィルムに含有させた場合に、フッ化水素による接着性低下をより抑制することができる。換言すれば、フッ化水素による接着性低下(接着性保持率)を同程度する際、メジアン径が1.0μm以下のフッ化水素と反応する無機充填剤は、メジアン径が1.0μmを超えるフッ化水素と反応する無機充填剤よりも、タブリード用フィルムに含有させる量を少量とすることができる。このように、タブリード用フィルム中の含有量を少量にすることができることで、無機充填剤による製造時の不具合(押出工程での樹脂圧変動やスクリュー摩耗など)をより抑制することができる。
尚、フッ化水素と反応する無機充填剤は、極めて小径に製造することが困難であることから、メジアン径の下限値は0.05μm、0.1μmまたは0.2μmであることが好ましい。また、メジアン径の上限値は、0.8μm、0.6μmまたは0.5μmであることがフッ化水素による接着性低下をより抑制することができる点から特に好ましい。
【0023】
フッ化水素と反応する無機充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩を例示することができる。該金属炭酸塩の中でも炭酸カルシウムは安価で入手し易い為、好適に用いることができる。特に、合成炭酸カルシウムはフッ化水素をキャッチする機能に優れており、好適に利用することができる。該合成炭酸カルシウムは、例えば水酸化カルシウムを炭酸ガスと反応させることによって製造することができ、重質炭酸カルシウムよりも粒径(メジアン径)が小さい粒子を製造することが可能である。
【0024】
コア層(B)12に用いられるポリオレフィン系樹脂も特に限定されるものではないが、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー等のポリプロピレン、エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマー等を用いることができる。これらのポリオレフィンの中でも、ポリエチレン及びポリプロピレンが好ましくは用いられる。これらの一種あるいは複数種を選択して、コア層(B)12を形成するポリオレフィン系樹脂とすればよい。
尚、該コア層(B)12は上述したポリオレフィン系樹脂の他に、熱可塑性エラストマー等の他の樹脂や着色剤等を含んでいても良い。しかしながら酸変性ポリオレフィンのような酸変性樹脂を含んでいると、親水性が高まり、耐水性が低下し、フッ化水素の発生を促進させる恐れがある。
【0025】
タブリード用フィルム1全体中にフッ化水素と反応する無機充填剤が9.0重量%以上含まれていれば、コア層(B)12に配合されるフッ化水素と反応する無機充填剤の量は特に限定されない。しかしながらコア層(B)12に配合されるフッ化水素と反応する無機充填剤の含有量は13~60重量%が好ましい。
コア層(B)12における該無機充填剤の含有量が13重量%未満では、表面層(A)の膜厚を23%以上としながら、タブリード用フィルム1における該無機充填剤の含有量を9.0重量%以上とすることが困難となり、表面層(C)13を薄くしたり、表面層(A)11や表面層(C)13に該無機充填剤を添加したりする必要が生じる。
またコア層(B)12における該無機充填剤の含有量が60重量%を超えると、コア層(B)12用の樹脂組成物を押出機から押出す際に樹脂圧が変動し易く、該層の厚さが安定し難い。また無機充填剤によって押出機のスクリューが摩耗し、タブリード用フィルムに金属粉が混入する恐れが生じる。
【0026】
コア層(B)12の厚さt2は、フィルム全体の厚さT(tf)の15~72%であることが好ましく、特に20~60%、更には25~50%であることが好ましい。コア層(B)12の厚さt2がフィルム全体の厚さT(tf)の15%未満では、タブリード用フィルム1に9.0重量%以上のフッ化水素と反応する無機充填剤を配合することが困難となる。またコア層(B)12の厚さt2がフィルム全体厚さT(tf)の72%を超えると、表面層(A)11や表面層(C)13の厚さが薄くなり過ぎ、各層の機能を発揮できない恐れが生じる。
【0027】
[表面層(C)]
表面層(C)13は、後述するタブリードにおいて最表層(金属端子と接しない表面層)となる層であって、リチウム電池等において外包材であるラミネートフィルムと熱融着される層である。該表面層(C)13は酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はポリオレフィン系樹脂を主成分とする。ラミネートフィルムのシーラント層が、タブリード用フィルムとの接着性に乏しい樹脂から成る場合、表面層(C)13の主成分として酸変性ポリオレフィン系樹脂を選択するとよく、ラミネートフィルムのシーラント層が接着性に富む場合は、表面層(C)13の主成分としてポリオレフィン系樹脂を選択するとよい。
尚、酸変性ポリオレフィン系樹脂は、表面層(A)11の主成分として例示した樹脂と同様の樹脂を適宜採用することができ、ポリオレフィン系樹脂は、コア層(B)12において例示した樹脂と同様の樹脂を採用することができる。
【0028】
表面層(C)13の厚さt3は5μm以上であることが好ましい。5μm未満であると、製膜での厚み制御が困難であり、またラミネートフィルムのシーラント層との接着が不十分となる恐れがある。
また、タブリード用フィルム1全体における表面層(C)13の厚さt3の割合は、フィルム全体の厚さT(tf)の5~62%であることが好ましく、特に10~50%、更には15~30%であることが好ましい。表面層(C)13の厚さt3がフィルム全体の厚さT(tf)の5%未満では、ラミネートフィルムのシーラント層との接着が不十分となる恐れがある。また表面層(C)13の厚さt3がフィルム全体の厚さT(tf)の62%を超えると、表面層(A)11やコア層(B)12の厚さが薄くなり過ぎ、各層の機能を発揮できない恐れが生じる。
【0029】
表面層(C)13は、上述した表面層(A)11と同様に、無機充填剤の含有量が10重量%以下である。無機充填剤の含有量が10重量%を超えると、タブリード用フィルム1とラミネートフィルムとの接着性が低下する恐れがある。またタブリードを製造する工程やリチウム電池等を製造する工程において無機充填剤が脱落し、該製造ラインを汚染する恐れがある。表面層(C)13における無機充填剤の量は5重量%以下が好ましく、3重量%以下が好ましく、特に1重量%以下であることが望ましい。
【0030】
以上、タブリード用フィルム1が表面層(A)11/コア層12(B)/表面層(C)13の3層フィルムである場合について説明したが、該フィルム1は本発明の効果を奏する範囲において他の樹脂層を含んでいても良い。
【0031】
[タブリード]
図2は本発明のタブリードTLの平面図(A)とそのα―α断面図(B)である。
本発明のタブリードTLは、本発明のタブリード用フィルム1と金属端子2とからなる。
【0032】
[金属端子]
金属端子2は、リチウム電池等の電極(正極又は負極)に電気的に接続される部材であり、金属材料により構成されている。金属端子2を構成する金属材料としては、特に制限されず、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅等が挙げられる。尚、リチウム電池等の正極に接続される金属端子は、通常、アルミニウム等により構成されている。また、リチウム電池等の負極に接続される金属端子は、通常、銅、ニッケル等により構成されている。
金属端子2の表面は、耐電解液性を高める観点から、化成処理が施されていることが好ましい。例えば、金属端子がアルミニウムにより形成されている場合、化成処理の具体例としては、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、トリアジンチオール化合物等の耐酸性被膜を形成する公知の方法が挙げられる。
【0033】
金属端子2の大きさは、使用される電池の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。金属端子2の厚さT(mt)としては、好ましくは50μm以上400μm以下、より好ましくは100μm以上300μm以下が挙げられる。また、金属端子2の長さとしては、好ましくは1mm以上200mm以下、より好ましくは3mm以上150mm以下が挙げられる。また、金属端子2の幅としては、好ましくは1mm以上200mm以下、より好ましくは3mm以上150mm以下が挙げられる。
尚、本発明のタブリード用フィルム1を用いれば、金属端子2が角部2aにおいて面取りされていないものであっても、該角部2aにおいて表面層(A)11が途切れにくい。よって本発明は面取りされていない金属端子2を用いる場合に、特にその効果を発揮する。
【0034】
[タブリード用フィルム]
タブリード用フィルム1を構成する各層の樹脂組成や厚さ、厚さの比率は上述した通りである。
タブリード用フィルム1の全体の厚さT(tf)は特に限定されないが、電池の大きさ等により決定される金属端子2の厚さをT(mt)に基づき決定することが望ましい。詳しくは、0.5T(mt)≦T(tf)であることが望ましく、特に0.7T(mt)≦T(tf)であることが望ましく、更には0.8T(mt)≦T(tf)であることが望ましい。タブリード用フィルム1の厚さT(tf)が金属端子2の厚さT(mt)の0.5倍未満では、熱融着する際にタブリード用フィルム1が金属端子2の側辺部2bに回り込まず、該側辺部2bにおいてタブリード用フィルム1が端子2から浮き上がる恐れがある。
尚、タブリード用フィルム1の厚さT(tf)が、金属端子2の厚さT(mt)よりも十分に厚いと、金属端子2からタブリード用フィルム1が浮き上がる問題は解消されるが、リチウム電池等の外包材に熱融着される際に、タブリード用フィルム1の側辺部1aにおいて、外包材がタブリード用フィルム1から浮き上がる恐れがある。よってタブリード用フィルム1の厚さT(tf)は400μm以下、特に200μm以下、更には150μm以下であることが好ましい。
また、金属端子2及びラミネートフィルムのシーラント層との接着を十分保つためには、タブリード用フィルム1の厚さT(tf)は50μm以上、特に、70μm以上、更には、75μm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0035】
[試験例1]
図9に示す酸変性ポリオレフィンを主成分とする表面層(A)の途切れの問題を確認する為に、コア層(B)をグレーに着色したタブリード用フィルムを製造した。
詳しくは、表面層(A)が酸変性ポリプロピレンからなり、コア層(B)がポリプロピレンと着色剤(グレー顔料)とからなり、表面層(C)がポリプロピレンからなる三層構成のタブリード用フィルム(厚さ100μm)を製造した。尚、フィルムの製造は共押出成形法により行った。各層の厚さは、表面層(A)が50μm、コア層(B)が30μm、表面層(C)が20μmであった。
【0036】
[試験例2~5]
表1に記すように、重質炭酸カルシウムのコア層(B)中への添加の有無、且つ各層の厚さを変更した以外は、試験例1と同様にしてタブリード用フィルムを製造した。該フィルムを用いて途切れ性の評価を行った。
【0037】
<途切れ性の評価>
厚さ100μmのニッケル製端子の両面にタブリード用フィルムをヒートシールし、タブリードを作成する。尚、タブリード用フィルムは表面層(A)がニッケル製端子と接するように配置する。またヒートシールは、シールバー温度は上下共に160℃、シール面圧1.0MPa、シール時間2秒の条件で行う。
得られたタブリードを切断し、切断面をデジタルマイクロスコープにて観察する。金属端子がグレーに着色されたコア層(B)と接していたものを×、金属端子の角部において表面層(A)が薄くなっていたものを△、金属端子の角部においても表面層(A)が十分に厚く残っていたものを○と評価する。
【0038】
試験例1~5で製造したタブリード用フィルムの途切れ性の評価結果を表1に併せて記す。また試験例1のタブリード用フィルムを用いたタブリード断面のデジタルマイクロスコープの写真を
図3に、試験例2のデジタルマイクロスコープの写真を
図4に、試験例3のデジタルマイクロスコープの写真を
図5に、試験例4のデジタルマイクロスコープの写真を
図6に、試験例5のデジタルマイクロスコープの写真を
図7に記す。
【0039】
【0040】
表面層(A)の厚さが、タブリード用フィルムの厚さの23%以上である試験例1、2、4、5のタブリード用フィルムを用いたタブリードは、金属端子の角部においても酸変性ポリプロピレンからなる表面層(A)が金属端子と接していた。特に表面層(A)の厚さが50%である試験例1のタブリードは、表面層(A)がほとんど薄化していなかった。一方、表面層(A)の厚さが全体の20%である試験例3のタブリードは、金属端子の角部分がコア層(B)と接していた。コア層(B)はポリプロピレンを主成分とする為、接着性に劣る。
また、各層厚みが同じであり、コア層(B)中に炭酸カルシウムを含有する試験例4と、含有しない試験例5を比較すると、どちらも金属端子の角部において表面層(A)が同程度薄くなっており、炭酸カルシウムの有無による違いは見られなかった。
【0041】
[比較例1~3、実施例1~4]
表2に記す樹脂を用いて、表2に記す厚さのタブリード用フィルム(膜厚100μm)を製造した。各フィルムのフッ化水素による接着性低下の評価は、以下の方法にて行った。
また、使用する炭酸カルシウム(CaCO3)のメジアン径の測定方法を以下に記す。
【0042】
<フッ化水素による接着性低下の評価>
厚さ100μm、幅20mmのニッケル箔の両面に15mm幅のタブリード用フィルムをヒートシールして試験片とする。尚、タブリード用フィルムは表面層(A)がニッケル箔と接するように配置する。またヒートシールは、シールバー温度は上バー190℃、下バー220℃、シール面圧1.0MPa、シール時間3秒の条件で行った。
試験片は2組作成し、1組の試験片を電解液(エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1:1(v/v%)の溶媒にLiPF6を1mol/Lの割合で添加したもの)に浸漬し、85℃に加温して2時間保管する。
シール直後の試験片と、電解液に2時間浸漬後の試験片とを、それぞれ180°剥離し、引張試験機(オートグラフ/(株)島津製作所製)にて接着強度(剥離強度)を測定する。尚、引張試験機の引張速度は100mm/min、測定雰囲気は23℃、湿度50%RHとし、上バー側でヒートシールされたタブリード用フィルムを剥離して行う。
測定により得られたデータから、接着性保持率((「電解液に2時間浸漬後の接着強度」÷「シール直後の接着強度」)×100)を算出した。<炭酸カルシウムのメジアン径の測定方法>
使用する炭酸カルシウムのメジアン径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置を用いて測定し、体積基準の粒子径の累積分布曲線において10%、50%および90%に相当する粒子径を算出し、50%となる粒子径(メジアン径(D50))を求めた。
【0043】
【0044】
実施例1~4のタブリード用フィルムは接着保持率を50%以上保持するものであった。これはタブリード用フィルムに含まれる炭酸カルシウム(CaCO3)がフッ化水素(HF)と反応し、フッ化水素をフッ化カルシウム(CaF2)の形でタブリード用フィルム内に閉じ込めた為と思われる。
【0045】
一方、比較例1~3のタブリード用フィルムは、初期接着力は良好であったが、2時間浸漬後の接着強度が著しく低かった。これは電解液中に含まれるフッ化水素により、ニッケル箔表面が腐食したためと思われる。
【0046】
実施例1~4、比較例1~3のタブリード用フィルムにおける炭酸カルシウムの添加量と接着性保持率の関係を
図8に示す。タブリード用フィルム全体における炭酸カルシウムの添加量が0~7重量%の領域においては、添加量を増やしても接着強度は0でありタブリード用フィルムが金属端子から剥がれてしまった。また7~8.9重量%の領域においては、添加量が増えるに従い接着保持率は高くなっているが、接着保持率は50%未満であった。一方、9.0~11.5重量%の領域においては、添加量が増えるに従い接着保持率も高くなり、且つ接着性保持率も50%を上回っていた。そして、添加量が11.5重量%を超えると、接着性保持率が80%の状態であまり変化しなくなっている。
【0047】
[実施例5]
実施例4で使用した炭酸カルシウム(CaCO3-2)から別の炭酸カルシウム(CaCO3-3)を用いた以外は、実施例4と同様のタブリード用フィルムを製造し、シール直後の接着強度と電解液に2時間浸漬後の接着強度を測定し接着性保持率を算出した。実施例4で使用した炭酸カルシウム(CaCO3-2)と実施例5した炭酸カルシウム(CaCO3-3)の比較を表3に、実施例5の測定結果を表4に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
実施例5のタブリード用フィルムにおける炭酸カルシウムの添加量と接着保持率の関係を
図8に加える。
約60%の接着保持率を有するタブリード用フィルムとする場合、メジアン径が大きい炭酸カルシウムを用いた実施例5よりも、メジアン径が小さい炭酸カルシウムを用いた実施例1の方が、タブリード用フィルムに添加する炭酸カルシウムの量が3分の2の少量とすることができた。
【符号の説明】
【0051】
1 タブリード用フィルム
11 表面層(A)
12 コア層(B)
13 表面層(C)
1a 側辺部
2 金属端子
2a 角部
2b 側辺部
TL タブリード