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特許7296905モデル付加部分を用いた説明変数推定方法、プログラム及び装置
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  • 特許-モデル付加部分を用いた説明変数推定方法、プログラム及び装置 図1
  • 特許-モデル付加部分を用いた説明変数推定方法、プログラム及び装置 図2
  • 特許-モデル付加部分を用いた説明変数推定方法、プログラム及び装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】モデル付加部分を用いた説明変数推定方法、プログラム及び装置
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20230616BHJP
【FI】
G06N20/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020038798
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021140552
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】小西 達也
【審査官】渡辺 順哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-266692(JP,A)
【文献】特開平03-095664(JP,A)
【文献】特開2009-048353(JP,A)
【文献】特開2019-012488(JP,A)
【文献】icoxfog417,ディープラーニングの判断根拠を理解する手法,Qiita[online],2018年03月09日, [retrieved on 2022.11.30], Retrieved from the Internet: <URL: https://qiita.com/icoxfog417/items/8689f943fd1225e24358>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
説明変数から目的変数を推定する構築済みのモデルに対し、
予め設定された変数値範囲から外れている当該説明変数の値における変動によって生じる、前記構築済みのモデルの出力である当該目的変数の値における変動を、所定微小閾値以下としての概ねゼロ若しくはゼロに抑えることになるモデル付加部分であって、当該説明変数の関数で表現されるモデル付加部
付加することにより生成された説明変数推定用モデルにおいて、入力となる当該説明変数の値を変動させた際に生じる、出力される当該目的変数の値における変動に基づいて、所定条件を満たす目的変数値を出力させると推定される説明変数値を決定する説明変数決定手段
としてコンピュータを機能させることを特徴とする説明変数推定プログラム
【請求項2】
当該所定条件は、当該目的変数値が最大となる、最小となる、極大若しくは所定範囲で最大となる、又は、極小若しくは所定範囲で最小となるとの条件に設定されることを特徴とする請求項1に記載の説明変数推定プログラム
【請求項3】
前記モデル付加部分は、当該変数値範囲内となる当該説明変数の値については、該値と同じ値を出力するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の説明変数推定プログラム
【請求項4】
前記モデル付加部分は、前記構築済みのモデルの前段に付加されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の説明変数推定プログラム
【請求項5】
当該説明変数は複数存在しており、そのうちの少なくとも1つの説明変数についての当該変数値範囲は、他の説明変数のとる値によってその範囲が決定される、又はその有無が決定されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の説明変数推定プログラム
【請求項6】
前記関数は、当該変数値範囲が第1の値からそれよりも大きい第2の値までの範囲である場合、当該変数値範囲内では当該説明変数による偏微分値が1となって、当該変数値範囲外では当該説明変数による偏微分値がゼロとなる関数に設定され、また、当該変数値範囲が1つの値のみの範囲である場合、当該変数値範囲内外において当該説明変数による偏微分値がゼロとなる関数に設定され、さらに、予め変数値範囲の設定されていない当該説明変数については、当該説明変数による偏微分値が1となる関数に設定されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の説明変数推定プログラム
【請求項7】
前記説明変数推定用モデルにおいて、当該目的変数についての勾配を用いる勾配法によって、当該推定される説明変数値を決定することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の説明変数推定プログラム
【請求項8】
当該目的変数は、所定の事象若しくは事物に係る確率、スコア又は度合いであって、当該説明変数は、当該所定の事象若しくは事物に関係し得る事象若しくは事物に係る量であり、
前記説明変数推定用モデルにおいて、当該確率、スコア若しくは度合いにおける所定条件を満たす値を出力させると推定される、当該事象若しくは事物に係る量の値を決定することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の説明変数推定プログラム
【請求項9】
説明変数から目的変数を推定する構築済みのモデルに対し、
予め設定された変数値範囲から外れている当該説明変数の値における変動によって生じる、前記構築済みのモデルの出力である当該目的変数の値における変動を、所定微小閾値以下としての概ねゼロ若しくはゼロに抑えることになるモデル付加部分であって、当該説明変数の関数で表現されるモデル付加部
付加することにより生成された説明変数推定用モデルにおいて、入力となる当該説明変数の値を変動させた際に生じる、出力される当該目的変数の値における変動に基づいて、所定条件を満たす目的変数値を出力させると推定される説明変数値を決定する説明変数決定手段
を有することを特徴とする説明変数推定装置
【請求項10】
説明変数から目的変数を推定する構築済みのモデルに対し、
予め設定された変数値範囲から外れている当該説明変数の値における変動によって生じる、前記構築済みのモデルの出力である当該目的変数の値における変動を、所定微小閾値以下としての概ねゼロ若しくはゼロに抑えることになるモデル付加部分であって、当該説明変数の関数で表現されるモデル付加部
付加することによって説明変数推定用モデルを生成するステップと、
前記説明変数推定用モデルにおいて、入力となる当該説明変数の値を変動させた際に生じる、出力される当該目的変数の値における変動に基づいて、所定条件を満たす目的変数値を出力させると推定される説明変数値を決定するステップと
を有することを特徴とする、コンピュータによって実施される説明変数推定方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的変数の状況から説明変数を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な事象又は事物について、その原因又は要因を解析し、当該解析結果に基づいて所望の若しくは制御された事象又は事物を実現しようとする試みは、様々な分野で実施されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、従業員の勤務データと、実際の休職の有無を示すデータとの関係を解析して、従業員が所定の時期に休職するか否かを予測し、当該予測結果を業務管理や勤怠管理に活用しようとするシステムが開示されている。ここでこのシステムでは、従業員の休職に係る予測に際し、勤務データのどの部分が休職リスクの算出に寄与したか、すなわち如何なる要素が休職の原因として作用したのかを導出することができるとしている。
【0004】
またこのように、勤務データといったような説明変数が、休職の有無といったような目的変数に対して如何に影響しているかを解析する手法として、非特許文献1は、昨今、各分野で盛んに利用されている深層学習(ディープラーニング)において、出力(すなわち目的変数)を最小化又は最大化させる入力(すなわち説明変数)を算出する手法であるActivation Maximizationを紹介し、解説している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-135662号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Qiita,「ディープラーニングの判断根拠を理解する手法」,[令和2年2月25日検索],インターネット<URL: https://qiita.com/icoxfog417/items/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで引用文献1に記載されたシステムは、休職の有無に係る目的変数を予測する予測モデルとして、線形識別器を利用している。この線形識別器は、休職の要因となり得る各要素(説明変数)における係数の正負によって、当該要素(説明変数)が休職する方向に作用するか又はその逆かを判断可能な単調な関数をもって表現されるものである。
【0008】
1つの単純な例として、線形識別器の判別式をy=a_1*x_1+a_2*x_2とする。ここで、x_1及びx_2は説明変数(勤務データ)であってyは目的変数(休職リスク)であり、a_1及びa_2はそれぞれx_1及びx_2の係数である。この場合、算出される休職リスクを低減させるような勤務データ(説明変数)の値を具体的に示すことが可能となる。
【0009】
例えば、yの値が大きいほど休職リスクが高いと定義すると、a_1>0であれば、勤務データ(説明変数)x_1をできるだけ小さくすることによって休職リスクを低減させることができると判断される。すなわち、線形識別器であれば、休職要因となる勤務データ(説明変数)における休職抑制への最適値の算出が容易に可能となるのである。
【0010】
しかしながら、例えばより複雑若しくはより曖昧な事象又は事物に対してのより高精度な予測が期待される深層学習モデルを利用する場合、その要因抽出は自明ではなく、通常相当に困難なものとなる。
【0011】
一般に、深層学習モデルは、多数のパラメータを含み、多層の写像関数で表現されるものとなっており、その表現は線形識別器のように単調ではなく、さらに多数のパラメータ間の関係も予測に使用されることから、例えば休職リスク(目的変数)を最小化する勤務データ(説明変数)の最適値の算出は、全く容易ではない。
【0012】
これに対し、非特許文献1に紹介されているActivation Maximizationはたしかに、深層学習において、出力(目的変数)を最小化又は最大化する入力(説明変数)値を算出する手法となっている。
【0013】
しかしながら、Activation Maximizationによって算出される入力(説明変数)値は、あくまで学習済みニューラルネットワークにおける最適な値であって、現実世界に即した値、すなわち実際に適用可能な値となっている保障はないという問題を抱えている。例えば、算出された値が「(休職リスクを最小化するため)四半期で20日分の有給休暇(を取得すること)」といったような結果が出力されることもあり得るのであり、現実に適用可能である有用な結果を得られないケースも少なからず生じてしまうのである。
【0014】
そこで、本発明は、予め設定された変数値範囲内の値をとる説明変数であって、所定条件を満たす目的変数値を出力させる説明変数を推定可能な説明変数推定方法、プログラム及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、説明変数から目的変数を推定する構築済みのモデルに対し、
予め設定された変数値範囲から外れている当該説明変数の値における変動によって生じる、前記構築済みのモデルの出力である当該目的変数の値における変動を、所定微小閾値以下としての概ねゼロ若しくはゼロに抑えることになるモデル付加部分であって、当該説明変数の関数で表現されるモデル付加部
付加することにより生成された説明変数推定用モデルにおいて、入力となる当該説明変数の値を変動させた際に生じる、出力される当該目的変数の値における変動に基づいて、所定条件を満たす目的変数値を出力させると推定される説明変数値を決定する説明変数決定手段
としてコンピュータを機能させる説明変数推定プログラムが提供される。
【0016】
ここで、当該所定条件は、当該目的変数値が最大となる、最小となる、極大若しくは所定範囲で最大となる、又は、極小若しくは所定範囲で最小となるとの条件に設定されることも好ましい。
【0017】
また、この本発明による説明変数推定プログラムにおいて、モデル付加部分は、当該変数値範囲内となる当該説明変数の値については、この値と同じ値を出力するものであることも好ましい。
【0018】
さらに、本発明による説明変数推定プログラムにおいて、モデル付加部分は、構築済みのモデルの前段に付加されることも好ましい。
【0019】
また、本発明に係る説明変数についての一実施形態として、当該説明変数は複数存在しており、そのうちの少なくとも1つの説明変数についての当該変数値範囲は、他の説明変数のとる値によってその範囲が決定される、又はその有無が決定されることも好ましい。
【0020】
さらに、本発明による説明変数推定プログラムにおいて、上記の関数は、
(a)当該変数値範囲が第1の値からそれよりも大きい第2の値までの範囲である場合、当該変数値範囲内では当該説明変数による偏微分値が1となって、当該変数値範囲外では当該説明変数による偏微分値がゼロとなる関数に設定され、また、
(b)当該変数値範囲が1つの値のみの範囲である場合、当該変数値範囲内外において当該説明変数による偏微分値がゼロとなる関数に設定され、さらに、
(c)予め変数値範囲の設定されていない当該説明変数については、当該説明変数による偏微分値が1となる関数に設定される
ことも好ましい。
【0021】
また、本発明に係る説明変数推定用モデルにおいては、当該目的変数についての勾配を用いる勾配法によって、当該推定される説明変数値を決定することも好ましい。
【0022】
さらに、本発明による説明変数推定プログラムにおいては具体的に、
当該目的変数は、所定の事象若しくは事物に係る確率、スコア又は度合いであって、当該説明変数は、当該所定の事象若しくは事物に関係し得る事象若しくは事物に係る量であり、
説明変数推定用モデルにおいて、当該確率、スコア若しくは度合いにおける所定条件を満たす値を出力させると推定される、当該事象若しくは事物に係る量の値を決定する
ことも好ましい。
【0023】
本発明によれば、また、
説明変数から目的変数を推定する構築済みのモデルに対し、
予め設定された変数値範囲から外れている当該説明変数の値における変動によって生じる、前記構築済みのモデルの出力である当該目的変数の値における変動を、所定微小閾値以下としての概ねゼロ若しくはゼロに抑えることになるモデル付加部分であって、当該説明変数の関数で表現されるモデル付加部
付加することにより生成された説明変数推定用モデルにおいて、入力となる当該説明変数の値を変動させた際に生じる、出力される当該目的変数の値における変動に基づいて、所定条件を満たす目的変数値を出力させると推定される説明変数値を決定する説明変数決定手段
を有する説明変数推定装置が提供される。
【0024】
本発明によれば、さらに、コンピュータによって実施される説明変数推定方法であって、
説明変数から目的変数を推定する構築済みのモデルに対し、
予め設定された変数値範囲から外れている当該説明変数の値における変動によって生じる、前記構築済みのモデルの出力である当該目的変数の値における変動を、所定微小閾値以下としての概ねゼロ若しくはゼロに抑えることになるモデル付加部分であって、当該説明変数の関数で表現されるモデル付加部
付加することによって説明変数推定用モデルを生成するステップと、
前記説明変数推定用モデルにおいて、入力となる当該説明変数の値を変動させた際に生じる、出力される当該目的変数の値における変動に基づいて、所定条件を満たす目的変数値を出力させると推定される説明変数値を決定するステップと
を有する説明変数推定方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の説明変数推定方法、プログラム及び装置によれば、予め設定された変数値範囲内の値をとる説明変数であって、所定条件を満たす目的変数値を出力させる説明変数を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る説明変数推定用モデルを用いて説明変数推定処理を実施する説明変数推定装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明に係るモデル付加部分を表現する制約条件関数が取り得る態様を説明するためのグラフである。
図3】本発明に係るモデル付加部分を表現する制約条件関数が取り得る他の態様を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0028】
[説明変数推定方法,装置]
図1は、本発明に係る説明変数推定用モデルを用いて説明変数推定処理を実施する説明変数推定装置の一実施形態を示す模式図である。
【0029】
図1に示した本実施形態の説明変数推定装置2は、
(a)説明変数推定用モデル1を備えており、
(b)この説明変数推定用モデル1において、入力となる「説明変数」の値を変動させた際に生じる、出力される「目的変数」の値における変動に基づいて、所定条件を満たす「目的変数」値を出力させると推定される「説明変数」値を決定する
ことの可能な装置となっている。
【0030】
またここで、上記(b)において、所定条件を満たす「目的変数」をもたらすと推定される「説明変数」が、予め設定された「変数値範囲」内の値をとるように規定された説明変数を含む場合、決定される当該説明変数の値は、当該「変数値範囲」を逸脱しないようになっているのである。
【0031】
例えば1つのケースとして、説明変数推定装置2は、推定対象である1人の従業員について、「目的変数」としての休職リスクを最小化するような、「説明変数」としての勤怠パターン(勤怠データ群)を出力することができる。すなわちこのケースでは、予測される休職リスクを最小化するような、最適な若しくは理想的な勤怠パターンを提案することが可能となるのである。
【0032】
また説明変数推定装置2は、このケースにおいて、出力・提案する勤怠パターンに、例えば四半期において取得すべき有給休暇の日数が含まれている場合、実際上取得可能な、予め設定された日数範囲(例えばゼロから5日までの範囲)内の有給休暇日数を、休職リスクを最小化する上で最適な若しくは理想的な日数として、出力することが可能となる。
【0033】
すなわち、例えば「(休職リスクを最小化するため)四半期で20日分の有給休暇(を取得すること)」といったような現実では実施不可能な出力・提案を行ってしまう事態を回避し、実際に有用となるような説明変数に係る出力・提案を行うことが可能となるのである。
【0034】
ここで、以上に述べたような出力・提案を可能にするべく、説明変数推定装置2においては、
(A)「説明変数」から「目的変数」を推定する構築済みの目的変数推定モデル10に対し、
予め設定された「変数値範囲」から外れている「説明変数」の値における変動によって生じる、構築済みの目的変数推定モデル10の出力である「目的変数」の値における変動を、所定以下に抑える(例えば所定微小閾値以下に抑える,すなわち概ねゼロに抑える)ことになるモデル付加部分であって、「説明変数」の関数で表現されるモデル付加部分である制約条件層11を
付加することによって説明変数推定用モデル1を生成するステップと、
(B)生成した説明変数推定用モデル1において、入力となる「説明変数」の値を変動させた際に生じる、出力される「目的変数」の値における変動に基づいて、「所定条件」を満たす「目的変数」値を出力させると推定される「説明変数」値を決定するステップと
を有することを特徴とする説明変数推定方法が実施されるのである。
【0035】
このうち、上記(A)において目的変数推定モデル10に付加されるモデル付加部分である制約条件層11は、上述したように「変数値範囲」から外れている「説明変数」の変動の「目的変数」への影響を抑制しているので、上記(B)の処理によって結局、
(a)予め設定された「変数値範囲」内の値をとり、且つ
(b)「所定条件」を満たす「目的変数」値を出力させる
ような「説明変数」を推定することが可能となるのである。
【0036】
ここで、上記(b)の「所定条件」は、目的変数値が最大となる、最小となる、極大若しくは所定範囲で最大となる、又は、極小若しくは所定範囲で最小となるとの条件に設定することができる。例えば、「所定条件」が「休職リスクを最小化する」であって、「変数値」範囲が「(取得有給休暇について)ゼロから5日までの範囲」である場合、休職リスク(目的変数)を最小化するような取得有給休暇日数(説明変数)を、例えば「4日」とした推定結果を出力することができる。
【0037】
ちなみに本実施形態では、上記(B)の説明変数推定用モデル1において、「目的変数」についての勾配を用いる勾配法によって、推定される「説明変数」値を決定している。
【0038】
さらに変更態様として、上記(A)の説明変数推定用モデル1を生成するステップは、説明変数推定装置2の外部で実施されてもよい。すなわち、説明変数推定装置2は、外部で生成された説明変数推定用モデル1を取り込み、上記(B)のステップを実施してもよいのである。
【0039】
また、説明変数推定装置2(における説明変数推定方法)の適用ケースとして、「説明変数」を従業員の勤怠パターン(勤怠データ群)とし、「目的変数」を休職リスクとしたケースをすでに説明したが、この場合上述したように、勤怠における様々な「制約条件」を加味した上で、休職リスクをできるだけ抑えることの可能な勤怠パターンを求めることができるのである。ここで、「制約条件」としては、例えば取得可能な有給休暇日数に上限があることや、性別や年齢は決まっていること(入力される説明変数としての性別値や年齢値は変更不可であること)等が設定され得る。
【0040】
さらに、このように求められた勤怠パターンを利用することによって、例えば社内カウンセラが、従業員との面談において、従来属人的なアドバイスとならざるを得なかった「働き方(勤怠パターン)」の提案を、定量的なエビデンスをもって提示することも可能となるのである。さらに言えば、カウンセラとの面談という形をとることもなく、好適な「働き方(勤怠パターン)」を自動的に提示することも可能となる。
【0041】
なお当然に、説明変数推定装置2(における説明変数推定方法)の適用ケースは上記のものに限定されるものではない。例えば、他の適用ケースとして以下の(ア)~(オ)を挙げることができる。
【0042】
(ア)「説明変数」としてのライフログ(睡眠時間や、歩行量、食事内容及び食事量や、運動内容及び運動量等)から、「目的変数」としての死亡リスクや依存症リスクを推定して保険料の算定に利用する保険事業のケース。この場合、「制約条件(説明変数値範囲)」として例えば、説明変数推定対象となる個人の生活リズムから決定される条件(起床時刻の取り得る時間範囲、1週間にうち運動可能な日数範囲や、取り得る食物の範囲(食事の好み)等)を採用することができる。
【0043】
ここで、説明変数推定装置2(における説明変数推定方法)をこのようなケースに適用することによって、例えば、説明変数推定対象となる各個人に対し、当該個人の生活リズムにおいて無理のない範囲で、死亡リスクや依存症リスクを下げるライフスタイル、例えば「起床時間を1時間早めて午前6時半にすること」を提案することも可能となる。
【0044】
なお、後に詳細に説明を行う関数g(x)についてではあるが、このケースにおける(個人毎に設定される)制約条件層11を表現する制約条件関数g(x)として、例えば「起床時刻を表す説明変数xiにおける∂g(xi)/∂xi=1となる範囲が、6<xi<8(午前6時~午前8時)である関数」を採用することもできる。
【0045】
(イ)「説明変数」としての音声データから、「目的変数」としての発音評価スコアを算出して利用する英会話教育のケース。この場合、「制約条件(説明変数値範囲)」として例えば、説明変数推定対象となる生徒における単語毎の音声データについてのある特徴量の値が、理想的な(例えばネイティブの)当該特徴量の値を中心とした所定範囲内にあるとの条件を採用することができる。
【0046】
ここで、説明変数推定装置2(における説明変数推定方法)をこのようなケースに適用することによって、例えば、説明変数推定対象となる各生徒に対し、理想的な(例えばネイティブの)発音を具体的に提示することも可能となる。
【0047】
なお、後に詳細に説明を行う関数g(x)についてではあるが、このケースにおける(全ての生徒に共通して設定される)制約条件層11を表現する制約条件関数g(x)として、例えば「当該特徴量を表す説明変数xiにおける∂g(xi)/∂xi=1となる範囲が、理想的な(例えばネイティブの)当該特徴量の値をμとし所定の(例えば不可避の)誤差をεとして、μ-ε<xi<μ+εである関数」を採用することもできる。
【0048】
(ウ)「説明変数」としての選手のバイタルデータ及びセンシングデータから、「目的変数」としての所定競技におけるパフォーマンスを算出して利用するスポーツ業界のケース。この場合、「制約条件(説明変数値範囲)」として例えば、所定の体力値や瞬発力値が上限(最大値)を有することや、睡眠時間が上限(最大値)及び下限(最小値)を有すること、さらには、随意に変化させることのできない心拍数等のバイタルデータが所定値(を中心とした誤差範囲)をとること等の条件を採用することができる。
【0049】
ここで、説明変数推定装置2(における説明変数推定方法)をこのようなケースに適用することによって、例えば、説明変数推定対象となる各選手に対し、当該選手の現状の条件・環境の下、実施可能な範囲で、パフォーマンスを最大化するトレーニングスタイルを提案することも可能になる。
【0050】
なお、後に詳細に説明を行う関数g(x)についてではあるが、このケースにおける(選手毎に設定される)制約条件層11を表現する制約条件関数g(x)として、例えば「睡眠時間を表す説明変数xiにおける∂g(xi)/∂xi=1となる範囲が、5<xi<9(5時間~9時間)である関数」を採用することもできる。
【0051】
(エ)「説明変数」としての住宅物件の立地条件や間取りに係る各項目から、「目的変数」としての当該物件の価格や、事業における粗利を算出して利用する不動産業界のケース。この場合、「制約条件(説明変数値範囲)」として例えば、事業上変更できない立地条件の所定項目や間取りの所定項目については所定値に固定すること等の条件を採用することができる。
【0052】
ここで、説明変数推定装置2(における説明変数推定方法)をこのようなケースに適用することによって、例えば、説明変数推定対象となる各住宅物件に対し、事業上変更できない制約条件を満たしつつ事業利益を最大化するような間取り等の変更案を提示することも可能になる。
【0053】
なお、後に詳細に説明を行う関数g(x)についてではあるが、このケースにおける(住宅物件毎に設定される)制約条件層11を表現する制約条件関数g(x)として、例えば「立地条件として角地であるか否かを表す説明変数xiの値が予め設定された値cである場合にc値をとり、且つ説明変数xiの値がc以外の範囲では∂g(xi)/∂xi=0となる関数」を採用することもできる。
【0054】
(オ)「説明変数」としての、掲載商品についての説明文章や写真(の特徴量)や、サイトの主要提示先であるユーザの購買履歴情報及び属性情報等から、「目的変数」としてのクリックやコンバージョン(例えば購買)の有無を推定してサイト運営に利用するEC(Electronic Commerce)業界のケース。この場合、「制約条件(説明変数値範囲)」として例えば、ユーザの購買履歴や属性情報の値は(システムからは当然に制御できないので)所定値に固定すること等の条件を採用することができる。
【0055】
ここで、説明変数推定装置2(における説明変数推定方法)をこのようなケースに適用することによって、説明変数推定対象となる各掲載商品に対し、前提となる制約条件の下、購買可能性の最も高まる掲載文章や写真の態様等を決定することも可能になる。
【0056】
なお、後に詳細に説明を行う関数g(x)についてではあるが、このケースにおける(掲載商品毎に設定される)制約条件層11を表現する制約条件関数g(x)として、例えば「ユーザの購買履歴を表す説明変数xiの値が予め設定された値cである場合にc値をとり、且つ説明変数xiの値がc以外の範囲では∂g(xi)/∂xi=0となる関数」を採用することもできる。
【0057】
いずれにしても、説明変数推定装置2(における説明変数推定方法)は、
(a)「目的変数」を、所定の事象若しくは事物に係る「確率、スコア又は度合い」とし、
(b)「説明変数」は、上記の所定の事象若しくは事物に関係し得る「事象若しくは事物に係る量」とした上で、
(c)説明変数推定用モデル1において、当該「確率、スコア若しくは度合い」における所定条件を満たす値を出力させると推定される、当該「事象若しくは事物に係る量」の値を決定する
ことができるのであり、種々様々な分野・事業・現場に対し適用可能となっているのである。
【0058】
[モデル構成,装置構成.説明変数推定プログラム]
同じく図1によれば、説明変数推定用モデル1は、
(a)入力層と、
(b)モデル付加部分である制約条件層11と、
(c)目的変数推定モデル10と
を有している。ここで、目的変数推定モデル10、制約条件層11(モデル付加部分)、及びこれらから生成される説明変数推定用モデル1は、機械学習アルゴリズムによって具現されるモデル(部分)とすることができる。なお本実施形態では、深層ニューラルネットワーク(DNN,Deep Neural Networks)アルゴリズムによるモデル(部分)となっている。
【0059】
同じく図1において、説明変数推定装置2は、入力部21と、モデル構築部22と、説明変数決定部23と、出力部24とを備えており、このうちモデル構築部22は、
・(上記(A)で示したように)目的変数推定モデル10に対し、モデル付加部分である制約条件層11を付加することによって説明変数推定用モデル1を生成するステップ
を実施する機能構成部であり、一方、説明変数決定部23は、
・(上記(B)で示したように)「所定条件」を満たす目的変数値を出力させると推定される説明変数値を決定するステップ
を実施する機能構成部となっている。
【0060】
すなわち、モデル構築部22及び説明変数決定部23は、本発明による説明変数推定方法の一実施形態を実施する主要部であり、また、本発明による説明変数推定プログラムの一実施形態を保存したプロセッサ・メモリの機能と捉えることもできる。またこのことから、説明変数推定装置2は、説明変数推定の専用装置であってもよいが、本発明による説明変数推定プログラムを搭載した、例えばクラウドサーバ、非クラウドのサーバ装置、パーソナル・コンピュータ(PC)、ノート型若しくはタブレット型コンピュータ、又はスマートフォン等とすることも可能である。
【0061】
<目的変数推定モデル>
以下、上述した各構成要素について説明を行う。最初に、目的変数推定モデル10は、入力としてのm(mは正の整数)個の説明変数の組x(=(x1,x2,・・・,xm))から、出力としての目的変数yを推定する構築済みのモデルである。なお勿論、yも目的変数の組、すなわちy=(y1,y2,・・・,yl)(lは正の整数)であってもよい。
【0062】
具体的に、目的変数推定モデル10において、当該モデルを構成する層k(=1,2,・・・,N)の写像関数をf_k(・)とする。ここで添字kは層のインデックスであり、Nはモデル10を構成する層の数である。この場合、モデル出力である目的変数yは、次式
(1) y=F(x)
=(f_1*f_2*・・・*f_N)(x)
をもって表現される。ここで、f_p*f_qは、f_pとf_qとの合成関数である。
【0063】
ちなみに、DNNによるモデルは、上式(1)以外にも様々な層構成に対応した関数形をとり得るが、いずれにしても、目的変数推定モデル10は、y=F(x)として記述可能なモデルとなる。
【0064】
目的変数推定モデル10は、上式(1)で表現されるモデルに対し、先頭に付与した入力層から学習データを入力し、誤差逆伝播等を用いて、当該モデル内の各層の内部パラメータを学習させて構築したものである(ちなみに「目的変数推定モデル10」は、先頭に付与した入力層以外のモデル本体を指すものとする)。したがって以後、目的変数推定モデル10を表現する関数を、学習済みを表す「*」を用いてF*(・)とする。この場合、目的変数推定モデル10による出力、すなわち目的変数yは、次式
(2) y=F*(x)
をもって算出されるのである。
【0065】
ここで上式(2)を用いて逆に、目的変数yを最小化する又は最大化するような説明変数x*を導出することを考える。これは上述したように、説明変数xが「勤怠パターン(勤怠データ群)」であって目的変数yが「休職リスク」であるケースでは、例えば「休職リスクを最小化する(極力低減させる)勤怠パターン」であるx*を導出する問題となる。いずれにしてもこの場合、求めるべきx*は、次式
(3) x*=argmin_{x} F*(x),or x*=argmax_{x} F*(x)
をもって表すことができる。
【0066】
一般にDNNモデルにおいてこのような最適入力であるx*を求める際には、最急降下法や確率的勾配法(SGD)に代表される勾配法を使用することができ、本実施形態においても、この勾配法に基づきx*を算出する。ここで、勾配法は、上式(2)で表されるyに対しxについての偏微分を行い、∂y/∂x、すなわち∂F*(x)/∂xを計算して、このyの勾配を表す偏微分値を極力ゼロに収束させるようなxを、x*に決定する方法となっている。
【0067】
しかしながら、このようにして導出されたx*、例えば「(休職リスクを最小化する)理想的な勤怠パターン」はあくまで、学習済みニューラルネットワークでの最適結果、すなわちコンピュータ上のシミュレーションによる最適結果である。したがって従来、導出されたx*値そのものが、現実に即しておらず実際に実現・適用できない、すなわち有用とは全く言えない場合が少なからず生じていた。
【0068】
例えば、算出されたx*値が「(休職リスクを最小化するため)四半期で20日分の有給休暇(を取得すること)」となることもあり得るのであり、現実に適用可能である有用な結果を得られない事態も相当に生じていたのである。
【0069】
なお、このような導出されるx*値の問題は、勾配∂y/∂xを極力ゼロに収束させることを基本とし、xの定義域については基本的に考慮しない又は保証し難い(最急降下法やSGDを含む)勾配法ならではの問題となっている。
【0070】
また、このような問題の生じ得る説明変数xも、様々なケースにおいて種々存在し得るのであり、一般に、説明変数となり得る事象や事物に係る量は多くの場合、原理上の若しくは実際上の上限及び/又は下限等の制約を有しているのである。
【0071】
例えば、上述した目的変数yが「休職リスク」であるケースでは、説明変数xとして(a)リスク推定対象の属性情報である「性別」や「通勤時間」等、さらには(b)「月間の残業時間」や「四半期での有給休暇取得日数」等を採用することもできる。この場合、
(a’)上記(a)の説明変数(モデルへの入力)は、変更できない固定値、すなわちこの固定値のみを含む「変数値範囲」内の値をとり、導出されるx*値も、当該固定値となるべきであり、
(b’)上記(b)の説明変数(モデルへの入力)は、所定の上限及び/又は下限で規定される実際上の定義域、すなわち予め設定された「変数値範囲」を有しており、導出されるx*値も、当該「変数値範囲」内の値となるべきである。
【0072】
ここで、以上に説明したようなx*値の問題をまさに解決すべく、次のモデル付加部分である制約条件層11が機能するのである。
【0073】
<モデル付加部分、説明変数推定用モデル>
同じく図1において、制約条件層11は、入力層から、m個の説明変数(の組)x(=(x1,x2,・・・,xm))における各説明変数xiの値を、各ニューロンに取り込む。ここで、制約条件層11は取り込んだ説明変数xiについて、「変数値範囲」外のxi値であるxi_exにおける偏微分値∂g(x)/∂xi|xi=x_exが、ゼロとなるような制約条件関数g(x)によって表現される層となっている。
【0074】
この制約条件関数g(x)は、要するに、予め設定された「変数値範囲」から外れている説明変数xiの値における変動によって生じる、目的変数推定モデル10の出力である目的変数yの値における変動∂y/∂xiを、所定以下に抑える(例えば所定微小閾値以下に抑える、すなわち概ねゼロに抑える)関数となっているのである。
【0075】
本実施形態では、このような制約条件層11を、上述したx*値の問題を抱えた目的変数推定モデル10の前段であって入力層の直後に配置し、当該x*値の問題を解決するのである。
【0076】
具体的に、この制約条件層11を目的変数推定モデル10の前段に配置して生成された説明変数推定用モデル1は、次式
(4) y=(g*F*)(x)=F*(g(x))
をもって表現される。また、説明変数xiによるyの偏微分、すなわち勾配法で重要となるxiについてのyの勾配は、合成関数の微分公式に従い、次式
(5) ∂y/∂xi=∂F*(g(x))/∂g(x)・∂g(x)/∂xi
のように表される。
【0077】
ここで、説明変数xiが「変数値範囲」の設定された変数である場合を考える。上式(5)の右辺後半部分である∂g(x)/∂xiは、この説明変数xiが「変数値範囲」外の値をとる際、上述した関数g(x)の定義からゼロとなる。したがってこの場合、勾配∂y/∂xiも必ずゼロとなる。その結果、勾配法において、x*値を求めてxi値を「変数値範囲」外において変位させる際の、その(勾配に比例した)変位量がゼロとなるので、実質的に、xi値を「変数値範囲」外の値に仮設定してyの最小化/最大化へのトライを行うステップが作動しないのである。
【0078】
このように、制約条件層11(を表現する制約条件関数g(x))は、入力である各説明変数xi(例えば各勤怠データ)について、y(例えば休職リスク)を最小化又は最大化するようなxi *値を、当該説明変数に設定された「変数値範囲」(実際上の定義域)内に収めるように、yの勾配に適切な制限をかける重要なモデル部分である。言い換えると、勾配法の弱点を補って、実際に取り得る有用な説明変数を推定可能とするモデル部分となっている。
【0079】
また、これにより最終的に、「変数値範囲」の設定された説明変数xiについても、xi *値は、当該「変数値範囲」内の値として導出されるのである。その結果例えば、「(休職リスクを最小化するため)四半期で3.5日分の有給休暇(を取得すること)」といった実際に採用可能なxi *値を導出することも可能となるのである。
【0080】
以上まとめると、制約条件層11の付加された説明変数推定用モデル1においては、「変数値範囲」の設定された説明変数xiを変動させた際に生じる、出力される目的変数yにおける変動、すなわち勾配∂y/∂xiに基づき、「所定条件」を満たすy値を出力させると推定される、「変数値範囲」内のxi *値を決定することができるのである。
【0081】
ここで、上記の「所定条件」は、本実施形態で採用する勾配法の条件であって、目的変数yが(a)最大となること、(b)最小となること、(c)極大若しくは所定範囲で最大となること、又は、(d)極小若しくは所定範囲で最小となること、との条件に設定される。このうち、(c)及び(d)は、勾配法のもつ限界から、又は実際のケースへの適用上問題がない若しくは十分であるとの判断の下、設定されるものとなる。
【0082】
なお、説明変数xの「変数値範囲」は、具体的な適用ケースに合わせ、グループ(例えば会社)全体で共通のものとして設定されることもあり、または、サブグループ(例えば社内の部)毎に、若しくはグループ要素(例えば個々の従業員)毎に設定され得る。したがってこれに応じ、制約条件層11、すなわち制約条件関数g(x)も、グループ全体で共通のものを準備してもよく、または、サブグループ毎に若しくはグループ要素毎に用意することも好ましい。
【0083】
さらにこの場合、汎用の(例えば国内複数社のデータを含む学習データで構築された)目的変数推定モデル10を利用し、制約条件層11を、説明変数推定対象(例えば独自の理想的な勤怠パターンを模索する1つの会社)に合わせて設定・準備するだけで、当該説明変数推定対象専用の説明変数推定用モデル1を生成することも可能となるのである。またこれにより、個々のケースに合致した説明変数推定用モデル1を、比較的少ない処理負担で取得することもできる。
【0084】
またさらに、制約条件層11を目的変数推定モデル10の前段に配置する以上の実施形態とは別の実施形態とはなるが、目的変数推定モデル10を構成するある中間層において生成される特徴量がその制約条件を含め明確に捉えられる場合には、当該特徴量の制約条件を表現する制約条件層11を当該中間層の直後に付加することも好ましい。これにより、勾配法における逆伝播の作用を、当該中間層の直前において好適且つ確実に調整することも可能となるのである。
【0085】
以下、図2及び3を用いて、制約条件層11を表現する制約条件関数g(x)が取り得る種々の態様を説明する。
【0086】
図2は、制約条件層11を表現する制約条件関数g(x)が取り得る態様を説明するためのグラフである。
【0087】
最初に、図2(A)は、説明変数xiが固定値cをとる、すなわち1つの固定値cのみを含む変数値範囲(実際上の定義域)内の値をとる場合における、g(xi)、及び∂g(xi)/∂xiの関数形の一態様をグラフで示したものである。ここで、g(xi)は、制約条件関数g(x)で表現される制約条件層11における各ニューロンi(i=1,2,・・・,m)に対応する関数となっている。
【0088】
また、固定値cをとる説明変数xiの例として、上記の目的変数yを「休職リスク」としたケースにおいては、「性別」、「年齢」、「居住地」、「勤続年数」、「職階・職級」、「通勤時間」や、「アンケートの回答(選択した回答記号列)」等の静的な属性情報が、このような説明変数xiに該当する。
【0089】
図2(A)に示したように、この場合、g(xi)は、xi=cのみを受け取って値c(=g(c))をとる。一方、勾配法のアルゴリズムの中では、∂g(xi)/∂xiは、(値cを含め)取り得るxiの値の全てに対しゼロをとるように設定される。これにより上式(5)から、勾配∂y/∂xiは常にゼロとなるので、x*値を求めてxi値を変位させる際の、その(勾配に比例した)変位量がゼロとなり、結局、xi値を値cからずらしてyの最小化/最大化へのトライを行うステップが作動しない。その結果、値cをとるxi *値を決定することが可能となるのである。
【0090】
次に、図2(B)は、説明変数xiが所定の(第1の値である)下限値a及び(第2の値である)上限値bで規定される実際上の定義域、すなわち予め設定された変数値範囲(a≦xi≦b)を有している場合における、g(xi)、及び∂g(xi)/∂xiの関数形の一態様をグラフで示したものである。ここで、例えば目的変数yを「休職リスク」とした上記のケースにおいては、「月間の勤務時間」、「月間の残業時間」や、「四半期での有給休暇取得日数」等が、このような説明変数xiに該当する。
【0091】
図2(B)に示したように、この場合、g(xi)は、xiが変数値範囲(a≦xi≦b)内の値x_abをとるときには値x_ab(=g(x_ab))をとる。また、xiがa未満の値であるときには値aをとり、xiがbを超える値であるときには値bをとる。一方、∂g(xi)/∂xiは、xiがa<xi<bであるときには1であり、xiがxi≦a又はb≦xiであるときにはゼロとなるように設定される。
【0092】
これにより、説明変数xiが変数値範囲(a≦xi≦b)から外れた値をとる場合、上式(5)から∂g(x)/∂xiは常にゼロとなるので、x*値を求めてxi値を変数値範囲(a≦xi≦b)の外において変位させる際の、その(勾配に比例した)変位量がゼロとなり、結局、xi値を「変数値範囲」外の値に仮設定してyの最小化/最大化へのトライを行うステップが作動しない。その結果、変数値範囲(a≦xi≦b)内の値をとるxi *値を決定することが可能となるのである。
【0093】
ちなみに、設定される変数値範囲が下限値aのみで規定される範囲(a≦xi)である場合や、上限値bのみで規定される範囲(xi≦b)である場合も、g(xi)は、当該変数値範囲内において説明変数xiと同じ値をとり、一方、当該変数値範囲外では下限値a/上限値bと同じ値をとり、さらに、∂g(xi)/∂xiは、当該変数値範囲から端点を除いた範囲内では1となり、一方、当該変数値範囲外及び当該端点ではゼロとなるように設定することができる。
【0094】
最後に、図2(C)は、説明変数xiにおいて変数値範囲が設定されていない場合における、g(xi)、及び∂g(xi)/∂xiの関数形の一態様をグラフで示したものである。この場合、この説明変数xiについては上述したようなx*値の問題は発生しないので、g(・)を恒等写像の表現とし、g(xi)は常に説明変数xiの値に等しくなるように設定し、また、∂g(xi)/∂xiも常に1となるように設定することができる。
【0095】
すなわちこの場合、制約条件層11を、入力値と同等の値を出力するモデル部分に設定するのである。これにより、制約条件層11を付加しても、勾配法における説明変数推定のダイナミズムを変更することなく、好適に推定処理を実施することが可能となる。
【0096】
なお通常、g(・)は、複数の説明変数の組x(=(x1,x2,・・・,xm))の関数g(x)となっている。したがってこの場合、例えばg(x3),g(x5),・・・は、図2(A)のような態様の関数であって、g(x1),g(x2),・・・は、図2(B)のような態様の関数であり、さらにg(x4)は、図2(C)のような態様の関数であるといった具合に、関数g(x)において、説明変数xi毎に、当該説明変数の変数値範囲に応じた特定の態様が具現しているのである。
【0097】
<モデル付加部分の他の実施形態>
図3は、制約条件層11を表現する制約条件関数g(x)が取り得る他の態様を説明するためのグラフである。
【0098】
図3に示した制約条件関数g(x)は、説明変数xi及び説明変数xjを含む複数の説明変数の関数となっており、そのうちの少なくとも1つの説明変数(図3では説明変数xi)についての変数値範囲は、他の説明変数(図3では説明変数xj)のとる値によってその範囲が決定される、又はその有無が決定されるものとなっている。
【0099】
ちなみにこのような説明変数の例として、例えば、説明変数xjが勤続年数を示す変数であって、説明変数xiが取得有給休暇日数を示す変数である場合に、勤続年数に応じた取得可能な有給休暇日数が取り決められているケースでは、説明変数xjの値によって、説明変数xiの変数値範囲が変化することになるのである。
【0100】
具体的に図3によれば、説明変数xiの変数値範囲(実際上の定義域)は、
(a)説明変数xjが、xj値設定範囲1内の値をとる場合(図3では値cである場合)、xi値設定範囲1(p≦xi≦q)となり、
(b)説明変数xjが、xj値設定範囲2内の値をとる場合(図3では値bである場合)、xi値設定範囲2(r≦xi≦s)となり、
(c)説明変数xjが値aをとる場合(値aのみを含む設定範囲内の値をとる場合)は、規定されない
設定となっている。
【0101】
またこれに伴い、制約条件関数g(x)について、上記(a)の場合、g(xi)は、xi値設定範囲1(p≦xi≦q)内では値xiをとり、一方、xi値設定範囲1(p≦xi≦q)の外ではxi<pのときに値pをとり、q<xiのときに値qをとるように設定される。また、g(xi)/∂xiは、xiがp<xi<qであるときは1となり、一方、xiがxi≦p又はq≦xiであるときはゼロとなるように設定されるのである。
【0102】
さらに、制約条件関数g(x)について、上記(b)の場合、g(xi)は、xi値設定範囲2(r≦xi≦s)内では値xiをとり、一方、xi値設定範囲2(r≦xi≦s)の外ではxi<rのときに値rをとり、s<xiのときに値sをとるように設定される。また、g(xi)/∂xiは、xiがr<xi<sであるときは1となり、一方、xiがxi≦r又はs≦xiであるときはゼロとなるように設定されるのである。
【0103】
またさらに、制約条件関数g(x)について、上記(c)の場合、g(xi)は常に説明変数xiの値に等しくなるように設定され、また、∂g(xi)/∂xiも常に1となるように設定されるのである。
【0104】
以上に述べたような制約条件関数g(x)の設定によって、その変数値範囲が他の説明変数の値の影響を受けるような説明変数についても、規定された変数値範囲内に収まっているx*値を決定することが可能となるのである。
【0105】
なお勿論、他の説明変数の値の影響を受ける説明変数の関数である制約条件関数g(x)は、図3に示した上記の態様に限定されるものではない。例えば、図3において説明変数xjの値によっては、説明変数xiが固定値cをとり、図2(A)に示したような態様の制約条件関数g(x)が設定されることもあり得るのである。また更なる変更態様として、1つの説明変数における変数値範囲又はその有無が、他の複数の説明変数の値によって決定されるような場合もあり得るのである。
【0106】
<説明変数推定装置,説明変数推定プログラム>
以下、図1に戻って、以上に説明したような説明変数推定用モデル1を搭載しており、目的変数(例えば休職リスク)を最小化(又は最大化)するような説明変数(例えば勤怠パターン)を推定可能とする説明変数推定装置2について説明する。
【0107】
図1において、説明変数推定装置2の入力部21は、通信機能を備えていて、例えば外部に設置されたサーバ(例えば社内の勤怠管理サーバ)のデータベースから、目的変数(例えば休職リスク)情報に係る正解ラベル(例えば休職の有無)の付された説明変数(例えば勤怠パターン)情報を受信し、所定のデータ形式に変換した上で、モデル構築部22に保存させる。
【0108】
また、入力部21は、例えばオペレータによって入力された、制約条件層11(制約条件関数g(x))を生成するための制約条件(各説明変数における変数値範囲に係る条件)情報を受け取り、モデル構築部22へ出力する。さらに、例えばオペレータによって入力された、説明変数推定の際の所定条件(例えば休職リスクの最小化)情報を受け取り、説明変数決定部23へ出力する。
【0109】
モデル構築部22は、
(a)自ら保存している正解ラベルの付された説明変数(例えば勤怠パターン)情報を用いて、目的変数推定モデル10を構築し、
(b)受け取った制約条件情報を用いて、推定対象(例えばα事業部の従業員)に合わせた制約条件層11を生成し、
(c)上記(b)の制約条件層11を上記(a)の目的変数推定モデル10に付加して、説明変数推定用モデル1を生成し、説明変数決定部23へ出力する。
【0110】
説明変数決定部23は、受け取った説明変数推定用モデル1を用いて、入力部21より受け取った、説明変数推定の際の所定条件(例えば休職リスクの最小化)を満たす説明変数(例えば理想的な勤怠パターン)情報を決定し、出力部94へ出力する。
【0111】
出力部94は、受け取った所定条件を満たす説明変数(例えば理想的な勤怠パターン)情報を例えば、ディスプレイに表示させたり、(通信機能を備えている場合に)外部の情報処理装置に送信したりする。ここで、表示・送信される説明変数情報は、例えば「α事業部の従業員に関し、(休職リスクを最小化するため)四半期において有給休暇を4日(以上)取得することが好ましい」といったような情報となる。
【0112】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、説明変数から目的変数を推定するモデルに対し「モデル付加部分」を付加して生成された「説明変数推定用モデル」を利用することによって、予め設定された変数値範囲内の値をとる説明変数であって、所定条件を満たす目的変数値を出力させる説明変数を推定することが可能となる。
【0113】
また、このような本発明による説明変数推定処理は、例えばある事象又は事物を所望の形に制御するべく、当該事象又は事物の原因・要因を如何に制御するかに係る情報を、提供可能となっている。したがって、本発明は、種々様々な分野・事業・現場、例えば働き方改革を進めている会社や、メンタルヘルスを含む次世代ヘルスケアを推進する病院や介護施設等、における課題を解決し得る高い汎用性を有しているのである。
【0114】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0115】
1 説明変数推定用モデル
10 目的変数推定モデル
11 制約条件層(モデル付加部分)
2 説明変数推定装置
21 入力部
22 モデル構築部
23 説明変数決定部
24 出力部
図1
図2
図3