(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】乗降補助装置
(51)【国際特許分類】
B61D 23/00 20060101AFI20230616BHJP
B61B 1/02 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
B61D23/00
B61B1/02
(21)【出願番号】P 2020163613
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】垂井 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】三谷 和也
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-525228(JP,A)
【文献】特開2009-227274(JP,A)
【文献】特開2020-037294(JP,A)
【文献】特開2012-201202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0366768(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 23/00
B61B 1/02
B60P 1/43
B60R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の台枠下に載置され、前記車両とプラットフォームの隙間を埋める乗降補助装置であって、
天板と、
前記天板に固定された蛇腹式伸縮部と、
前記蛇腹式伸縮部に空気を出し入れする空気制御部と、
前記天板
が前記台枠下から前記車両の乗降口と前記プラットフォームの隙間に向かって移動
するように規制するガイド部を有し、
前記天板は
、前記移動後に前記車両から前記プラットフォームに向かう方向で、前記車両と前記プラットフォームとの隙間に応じて長さが変化することを特徴とする乗降補助装置。
【請求項2】
前記天板は、第1部材と第2部材で構成され、前記第1部材と前記第2部材の間
で前記車両から前記プラットフォームに向かう方向に付勢をかける付勢手段を有することを特徴とする請求項1に記載された乗降補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道車両が駅に停車した際にプラットフォームと車両の隙間を埋める乗降補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が駅に停車する際に、プラットフォームと鉄道車両の間に干渉が生じないように、一定の隙間が設けられている。鉄道車両の利用者は、乗降する際には、この隙間を跨ぎ越えなければならない。
【0003】
しかし、体格が小柄な人(例えば一部の子供)や、歩幅が狭くなった人(例えば一部の老人)にとっては、この隙間を跨ぎ越える動作は容易でない場合もあり得る。また、車椅子乗客も、この隙間を超えることは容易ではない場合もあり得る。そこで、車両とプラットフォームの隙間を埋め、利用者の乗降に対する障害を少なくする発明が提案されている。
【0004】
例えば、車両の乗降口の下側からプラットフォームに向けて渡し板を突き出して渡す発明がある(特許文献1参照)。しかし、車両側から物体をプラットフォームに向けて突出させると、プラットフォームにいる人に干渉を起こす可能性がある。
【0005】
そこで、車両台枠に設けられ、ステップ部材を下方から上方に持ち上げることでプラットフォームと乗降口の隙間を埋める装置も提案されている(特許文献2)。特許文献2では、車両とプラットフォームの隙間を埋めるステップ部は、プラットフォームより下方の車両部分から一度幅方向に伸びだし、車両とプラットフォームの間に位置された後、ステップ部を下から上に移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-187547号公報
【文献】特開2011-110950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車両とプラットフォームの隙間(以後この隙間を「VP隙間」とも呼ぶ。)は、車いす等での乗降の際には実際に大きな障壁となる。また、跨ぎ越えることができる程度のVP隙間であっても、心理的な圧迫が高い。したがって、プラットフォームにいる乗客に干渉させないようにVP隙間を埋めることは、利用の利便性を高めるうえで重要である。
【0008】
この点特許文献2は、VP隙間の下方からステップ部が浮き上がってくるため、乗客に干渉することなくVP隙間を埋めることができる。
【0009】
しかしながら、特許文献2においてステップ部の長さは固定であるため、駅毎および車両の乗客数毎に変化するVP隙間を十分に埋めることができるとはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みて想到されたものであり、駅毎および車両の乗客数毎に変化するVP隙間を埋めることのできる乗降補助装置を提供するものである。
【0011】
より具体的に本発明に係る乗降補助装置は、
車両の台枠下に載置され、前記車両とプラットフォームの隙間を埋める乗降補助装置であって、
天板と、
前記天板に固定された蛇腹式伸縮部と、
前記蛇腹式伸縮部に空気を出し入れする空気制御部と、
前記天板が前記台枠下から前記車両の乗降口と前記プラットフォームの隙間に向かって移動するように規制するガイド部を有し、
前記天板は、前記移動後に前記車両から前記プラットフォームに向かう方向で、前記車両と前記プラットフォームとの隙間に応じて長さが変化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る乗降補助装置は、車両とプラットフォームの隙間を埋める天板の長さを、VP隙間に応じて変化するようにしたので、駅毎および乗客数に変化する隙間長にかかわらず、VP隙間を埋めることができ、車椅子での乗降を物理的に助け、また跨ぎ越える際の心理的な圧迫を減少させるものである。
【0013】
また、本発明に係る乗降補助装置は、機構が簡単なため、既存の車両の台枠を切り欠いたり、切除することなく、後から取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】乗降補助装置と車両とプラットフォームの位置関係を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係る乗降補助装置について図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0016】
図1(a)および
図1(b)に本発明に係る乗降補助装置1が展開している状態を示す。また、
図2に本発明に係る乗降補助装置1を車両52に搭載し、展開した際の車両52とプラットフォーム50を含めた関係を示す断面図を示す。本発明に係る乗降補助装置1は、天板16と、蛇腹式伸縮部12と、空気制御部14と、ガイド部10を有する。また、乗降補助装置1の動作を制御する操作パネル20が含まれていてもよい。
【0017】
また、本発明の乗降補助装置1は台枠56の下側に挿着され、使用する際に
図1および
図2の展開状態になる。なお、乗降補助装置1は全ての乗降口に装備される必要はない。乗降補助装置1はある程度の大きさを有するので、台車のない車両中央に設けられた乗降口の下方に設けるのが好適である。以下乗降補助装置1について詳細に説明する。
【0018】
<ガイド部>
図1を参照して、ガイド部10は固定ガイド10aと遊動ガイド10bで構成されている。固定ガイド10aは左右一対のレールで構成されている。また固定ガイド10aは軌道中心側に固定される。遊動ガイド10bは、固定ガイド10aに沿って移動可能に連結されている。固定ガイド10aと遊動ガイド10bの連結方法は特に限定されない。ここでは、固定ガイド10aを挟持するローラー10brで固定ガイド10aと連結している例を示す。
【0019】
遊動ガイド10bは、左右一対の断面L字部材で構成されている。遊動ガイド10bの一端には、天板16が固定されている。また、遊動ガイド10b同士は連結バー10baで固定されている。連結バー10baは、断面L字部材同士を連結するとともに、後述する蛇腹式伸縮部12が膨張する際に遊動ガイド10bの動きを保証する役を担う。この作用については動作説明の際に詳説する。
【0020】
<蛇腹式伸縮部>
図3に蛇腹式伸縮部12を示す。
図3(a)は、蛇腹式伸縮部12が伸長した状態を、天板16と共に示し、
図3(b)は、蛇腹式伸縮部12が収縮した状態を示す。蛇腹式伸縮部12は、このように伸縮が可能で、膨張した際に体積が固定される形態のものが好適に利用できる。本発明に係る乗降補助装置1は、蛇腹式伸縮部12が天板16にかかる重量を支えるので、天板16に対して上方向からかかる荷重に対抗する圧力を空気圧で得る必要がある。そのため、蛇腹式伸縮部12は、膨張した際には、ほぼ体積が変化しないものが必要とされる。
【0021】
例えば、交互に並べられた断面積の異なる金属や硬質プラスチック等のフレーム間を気密フィルムで連結して形成されたものが蛇腹式伸縮部12として好適に利用できる。
【0022】
蛇腹式伸縮部12の一方の端は天板16に気密に接続されている。他方の端は、略平面の底部12bに気密に接合されている。底部12bには、空気の出し入れを行う空気孔12bhが形成されている。
【0023】
<空気制御部>
図2を参照して、空気制御部14は、空気入出孔14aを有しており、蛇腹式伸縮部12の底部12bの空気孔12bhと気密に連通している。空気制御部14は蛇腹式伸縮部12に空気を入れたり、抜いたりする。この際に車両52が貯留している圧縮空気を利用してもよい。
【0024】
なお、蛇腹式伸縮部12は空気を抜けば収納位置に戻る。しかし、走行中は危険回避のために、乗降補助装置1は必ず車両限界60より内側になければならない(
図5(b)参照)。したがって、収納位置に天板16が確実に位置し、さらに走行中の振動で動かないように、強制的に空気制御部14が蛇腹式伸縮部12内の空気を吸いだすのが望ましい。そのため、空気制御部14には真空ポンプが含まれていてもよい。なお、収納してから機械的に天板16や遊動ガイド10bの動きを固定する機構を設けてもよい。
【0025】
<天板>
図4には、天板16だけの構成を示す。天板16は、1面に開口16aoを有する筐体16aと、筐体16aの開口16aoに挿入可能なプレート16bで構成されている。プレート16bは、筐体16aの開口16aoに挿入されており、筐体16a内に設けられたストッパー(図示せず)によって、一定以上には筐体16aから突出しない。筐体16aを第1部材、プレート16bを第2部材と呼んでもよい。
【0026】
また、筐体16a内にはばね等の付勢手段(図示せず)が配置されており、常にプレート16bを筐体16aから押し出すように付勢がかけられている。つまり、プレート16bと筐体16aは互いに天板16の長さ方向に付勢がかけられている。筐体16aとプレート16bは乗降の際のステップとなる。
【0027】
プレート16bの筐体16aと反対側は、L字型に曲げられている。また、L字に曲げられたコーナー部分16baと、腕部分16bbにはそれぞれコマ17が設けられている。
【0028】
図1、
図2も再度参照する。筐体16aの底面16adには蛇腹式伸縮部12が固定されている。また筐体16aの左右は遊動ガイド10bに固定されている。したがって、遊動ガイド10bの動きと共に、天板16も動く。
【0029】
<操作部>
図2を参照する。本発明に係る乗降補助装置1は、車両52内外の少なくとも何れか、好ましくは両方に操作パネル20を有することが望ましい。
図2では側構体58の内側および外側に操作パネル20が設けられた状態を示している。乗降補助装置1は、必要となった場合に利用できればよく、乗降口の扉と同期して常に展開しなくてもよい。操作パネル20は空気制御部14と電気的に接続されている。操作パネル20からの指示信号Scによって、乗降補助装置1を収納状態から展開状態に移行させ、展開状態から収納状態に移行させることができる。
【0030】
<乗降補助装置の動作>
次に乗降補助装置1の動作について説明する。
図5(b)は、乗降補助装置1が収納状態の場合を示し、
図5(a)は乗降補助装置1が展開状態を示す。収納状態にある場合は、遊動ガイド10bは固定ガイド10aに沿って、引き入れられている。この時、天板16は、車両限界60より内側(軌道中心側)に収納されており、他の建築物に干渉することなく車両52は走行することができる。
【0031】
車両52が駅に停車した後に側構体58外若しくは側構体58内の操作パネル20の指示信号Scによって、乗降補助装置1は、駆動する。指示信号Scによって空気制御部14が、蛇腹式伸縮部12内に空気を送る。蛇腹式伸縮部12は内部に注入された空気の量にしたがって、伸長する。この際、蛇腹式伸縮部12は、先端が天板16に固定されているので、遊動ガイド10bを押し上げながら伸長する。また、連結バー10baがあるために、蛇腹式伸縮部12が遊動ガイド10bからプラットフォーム50側に飛び出すことはない。これは連結バー10baは、蛇腹式伸縮部12の動きを保証していると言える。
【0032】
遊動ガイド10bは固定ガイド10aに従って伸長し、天板16の先端側がプラットフォーム50に突き当たると、コマ17が天板16とプラットフォーム50間の摩擦を低減する。さらに、プレート16bは筐体16a内部の付勢に逆らって、筐体16a内部に侵入できるので、天板16の長さは車両52とプラットフォーム50の隙間(VP隙間5)に応じて変化することができる。
【0033】
遊動ガイド10bは、固定ガイド10aの先端で停止する。この時、天板16の上面は車両52の乗降口の床面54と同等か低い位置に配置される。なお、この際乗降口の床面54とプラットフォーム50の上面の間には50mm以上の高さの違いがあるので、天板16と乗降口の床面54の高さは0mm~50mmの範囲が好適である。
【0034】
天板16が停止しても、空気制御部14はさらに空気を入れる。蛇腹式伸縮部12は、蛇腹部分がほとんど伸びないので、体積が固定され、天板16に所望の圧力を加えることができる。通常成人男子の片足の靴底面積が約230cm2として体重が80kgとすると、片足で体重を支えた時の足にかかる圧力は0.35kg/cm2となる。したがって、0.5kg/cm2から1kg/cm2の圧力を蛇腹式伸長部12にかけることで、天板16は乗客が乗ってもほとんど凹むことはなく、安全にVP隙間5を充填することができる。
【0035】
乗客の乗降が終了したら、乗降補助装置1は、操作パネル20の指示信号Scによって収納位置まで移動する。具体的には、空気制御部14が蛇腹式伸縮部12から空気を排出する。この排出は少なくとも蛇腹式伸縮部12内が大気圧になった以後は、強制的に排出するのが望ましい。天板16の位置を車両限界60より内側に素早く収納するのと、蛇腹式伸縮部12内を大気圧以下にしておくことで、遊動ガイド10bの動きを固定させるためである。
【0036】
図6を参照する。
図6は、天板16の厚み(筐体16aの厚み)の展開位置がプラットフォーム50よりも、高い場合を示している。このような場合は、ステップとなる筐体16aとプラットフォーム50の間に隙間があき、乗客がつま先をひっかけるおそれがある。しかし、プレート16bの腕部分16bbがこの隙間を塞ぎ、乗客がつま先をひっかけるおそれを回避することができる。
【0037】
以上のように、本発明に係る乗降補助装置1は、VP隙間5を好適に埋めることができ、しかもVP隙間5が駅毎や、乗客数毎で変化してもVP隙間5を充足することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は鉄道車両に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 乗降補助装置
5 VP隙間
10 ガイド部
10a 固定ガイド
10b 遊動ガイド
10ba 連結バー
10br ローラー
12 蛇腹式伸縮部
12b 底部
12bh 空気孔
14 空気制御部
14a 空気入出孔
16 天板
16a 筐体
16ad 底面
16ao 開口
16b プレート
16ba コーナー部分
16bb 腕部分
17 コマ
20 操作パネル
50 プラットフォーム
52 車両
56 台枠
58 側構体
60 車両限界
Sc 指示信号