(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】偏光依存フィルタ、同フィルタを用いるシステム、および関連キットおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20230616BHJP
G02B 23/24 20060101ALI20230616BHJP
G02B 23/26 20060101ALI20230616BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
A61B1/00 730
G02B23/24 B
G02B23/26 A
G02B5/30
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020179950
(22)【出願日】2020-10-27
(62)【分割の表示】P 2018510932の分割
【原出願日】2016-08-30
【審査請求日】2020-11-18
(32)【優先日】2015-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521535973
【氏名又は名称】ストライカー ヨーロピアン オペレーションズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Stryker European Operations Limited
【住所又は居所原語表記】Anngrove, IDA Business & Technology Park, Carrigtwohill, County Cork, T45HX08 Ireland
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムーア, フレデリック アレン
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0159701(US,A1)
【文献】特開2003-098570(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0083386(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イメージングシステムであって、
複屈折レンズと、
前記複屈折レンズを透過した後に形成される、第1偏光状態についての第1イメージと、異なる第2偏光状態についての第2イメージとを含む2つのイメージを有するイメージ
センサと、
偏光フィルタであって、
前記偏光フィルタの中央領域において、前記複屈折レンズから出力されたまたは前記複屈折レンズに入力される前記第1偏光および第2偏光の光を透過し、
前記偏光フィルタの前記中央領域の外側において、前記イメージングシステムの前記イメージ
センサの光軸から離れた位置にイメージを形成する前記第2偏光の光の全部または一部をフィルタリングするように、前記第2偏光の光をフィルタリングし、前記第1偏光の光を透過するように構成された偏光フィルタと、
前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の距離を変更するための移動機構と、
を備える、イメージングシステム。
【請求項2】
前記偏光フィルタは、システム開口またはその共役から離れている面内にある、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の距離を変えるように構成された移動機構、および/または前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の相対角度を変えるように構成された回転機構をさらに備え、前記複屈折レンズは固定され、前記回転機構は前記偏光フィルタを回転するように構成される、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記複屈折レンズからの光を受けるように構成されたカメラ光学系を有するカメラシステムをさらに備える、請求項1乃至3の何れか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記偏光フィルタは、前記カメラシステムのシステム開口とその前記イメージ
センサとの間にある、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記偏光フィルタは、前記複屈折レンズと前記カメラ光学系との間にある、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記複屈折レンズ
を含む内視鏡システムをさらに備える、請求項4乃至6の何れか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記内視鏡システムは、リレーシステムと接眼システムとを含み、
‐前記偏光フィルタは、前記リレーシステム内にあるか、
‐前記偏光フィルタは、前記リレーシステムと前記接眼システムとの間にあるか、または
‐前記偏光フィルタは、前記複屈折レンズと前記リレーシステムとの間にある、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
‐前記偏光フィルタは、前記内視鏡システム内にあり、固定されたフィルタであるか、または
‐前記偏光フィルタは、前記カメラシステム内にあり、調整可能なフィルタである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
イメージングシステムにおいて偏光された光をフィルタリングする方法であって、
複屈折レンズを通じて光を透過することと、
前記複屈折レンズを透過した後に形成される、第1偏光状態についての第1イメージと、異なる第2偏光状態についての第2イメージとを含む2つのイメージをイメージ
センサに形成するために、偏光フィルタの中央領域において、前記複屈折レンズから出力されたまたは前記複屈折レンズに入力される前記第1偏光および第2偏光の光を透過し、前記偏光フィルタの前記中央領域の外側において、前記複屈折レンズから出力されたまたは前記複屈折レンズに入力される前記第1偏光の光を透過することと、
前記イメージングシステムの前記イメージ
センサの光軸から離れた位置にイメージを形成する前記第2偏光の光の全部または一部をフィルタリングするように、前記偏光フィルタの中央位置の外側において、前記複屈折レンズから出力されたまたは前記複屈折レンズに入力される前記第2偏光の光をフィルタリングすることと、
前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の距離を変更することと、
を有する、方法。
【請求項11】
前記方法は、システム開口またはその共役から離れている面内に前記偏光フィルタを配置することをさらに有する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は主に光学レンズシステムの分野に関する。特に、本開示は、複屈折レンズを有するイメージングシステムにおける軸外性能を改善するために用いられてもよい偏光フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスや結晶などの光学材料は、光学的性能および応用適切性の両方に影響を与える多くの異なる性質を示す。光学材料の屈折率は、その材料を通じた光速を決める。光学材料の分散は、その屈折率の波長依存性を説明する。光学材料の硬さは、その物理的接触に対する機械的耐性を説明する。光学材料の化学耐性は、湿気および化学的攻撃に対するその耐性を説明する。光学材料の電気光学特性は、形態や屈折率などのある特徴が局所的な電磁場の変化に伴ってどのように変化するかを説明する。
【0003】
イメージングシステムは、例えば、レンズ、鏡、窓、フィルタ、結晶、等を含んでもよい。光は光学系を通過し、各物質と、その物質に特有の態様で相互作用する。イメージングシステムは、多くの場合、視野内のオブジェクトからの空間情報を、イメージフィールドにおけるイメージへと転換する。オブジェクト面およびイメージ面の一方または両方はシステムの内側にあってもよいし、外側にあってもよい。例えば、カメラは、システムの外側にオブジェクトフィールドを有し、システムの内側にイメージ面を有するものとして説明されてもよい。しかしながら、プロジェクタは、システムの内側にオブジェクトフィールドを有し、システムの外側にイメージ面を有するものとして説明されてもよい。
【0004】
光学材料の部分集合、ほとんどの場合結晶材料、は、複屈折性を示す。複屈折材料では、屈折率は波長だけでなく光の偏光状態にも依存する。複屈折材料は、ある偏光状態の光を、別の偏光状態の光とは異なる態様で屈折させるであろう。レンズが複屈折材料を用いて作られる場合、および、複屈折レンズに入射する光がランダムに偏光している場合、複屈折レンズは二つのイメージを生成するであろう。それらのイメージは重なり合っており、一方のイメージが他方のイメージよりも少し大きい。光軸上では、二つのイメージのフィーチャは同心的であろう。しかしながら、二つの偏光依存ビーム経路についてレンズが少し異なるパワーや倍率を示すので、光軸から離れると、細かい詳細にぼけが生じる可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
ひとつ以上の実施の形態は、複屈折レンズと、前記複屈折レンズから第1方向に出力された第1偏光の光を透過させ、前記複屈折レンズから前記第1方向に沿って出力された第2偏光の光をフィルタアウトする偏光フィルタと、を含むシステムを指向する。
【0006】
システムは、前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の距離を変えるための移動機構をさらに備えてもよい。
【0007】
システムは、前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の相対角度を変えるための回転機構をさらに備えてもよい。
【0008】
前記偏光フィルタはシステムストップ位置またはその任意の共役にまたはその近くに配置されてもよい。
【0009】
前記偏光フィルタはそれに入射する全ての光をフィルタしてもよい。
【0010】
前記偏光フィルタはその中央領域に入射する光を透過させ、前記中央領域の外側の光をフィルタしてもよい。
【0011】
システムは、前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の相対角度を変えるための回転機構をさらに備えてもよい。
【0012】
前記複屈折レンズは固定され、前記回転機構は前記偏光フィルタを回転させるものであってもよい。
【0013】
システムは前記複屈折レンズからの光を受けるカメラ光学系を有するカメラシステムを含んでもよい。
【0014】
前記偏光フィルタは前記カメラシステムのシステム開口とそのイメージ面との間にあってもよい。
【0015】
前記偏光フィルタは前記イメージ面よりも前記システム開口に近くてもよい。
【0016】
前記偏光フィルタは前記イメージ面からよりも前記システム開口から遠くてもよい。
【0017】
前記偏光フィルタは部分偏光フィルタであってもよい。
【0018】
システムは、前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の相対角度を変えるための回転機構をさらに備えてもよい。
【0019】
前記複屈折レンズは固定され、前記回転機構は前記偏光フィルタを回転させるものであってもよい。
【0020】
前記偏光フィルタはその中央領域に入射する光を透過させ、前記中央領域の外側の光をフィルタしてもよい。
【0021】
前記偏光フィルタは前記複屈折レンズと前記カメラ光学系との間にあってもよい。
【0022】
前記偏光フィルタはその中央領域に入射する光を透過させ、前記中央領域の外側の光をフィルタしてもよい。
【0023】
システムは、前記偏光フィルタと前記複屈折レンズとの間の相対角度を変えるための回転機構をさらに備えてもよい。
【0024】
前記複屈折レンズは固定され、前記回転機構は前記偏光フィルタを回転させるものであってもよい。
【0025】
前記偏光フィルタは前記カメラのシステム開口にあってもよい。
【0026】
前記偏光フィルタは完全偏光フィルタであってもよい。
【0027】
前記システムは、カメラシステムと、前記複屈折レンズと前記カメラシステムとの間の内視鏡システムと、を含んでもよい。
【0028】
前記内視鏡システムはリレーシステムと接眼システムとを含んでもよい。
【0029】
前記偏光フィルタは前記リレーシステム内にあってもよい。
【0030】
前記偏光フィルタは前記リレーシステムと前記接眼システムとの間にあってもよい。
【0031】
前記偏光フィルタは前記複屈折レンズと前記リレーシステムとの間にあってもよい。
【0032】
前記偏光フィルタは前記内視鏡システム内にあり、固定の、偏光依存部分フィルタであってもよい。
【0033】
前記偏光フィルタは前記カメラシステム内にあり、調整可能な、偏光依存部分フィルタであってもよい。
【0034】
前記偏光フィルタは前記内視鏡システムの後部窓の後ろであって前記カメラシステムの前方窓の前にあり、偏光依存完全フィルタであってもよい。
【0035】
ひとつ以上の実施の形態は偏光をフィルタリングする方法を指向し、該方法は、複屈折レンズから光を受けることと、前記複屈折レンズから第1方向に出力された第1偏光の光を透過させることで、イメージを形成することと、前記複屈折レンズから前記第1方向に沿って出力される第2偏光の光をフィルタアウトすることと、を含む。
【0036】
光をフィルタアウトすることは、前記第2偏光の光を完全にフィルタアウトすることを含んでもよい。
【0037】
光をフィルタアウトすることは、前記第2偏光の光の中央部分を透過させることと、前記第2偏光の光の残りをフィルタアウトすることと、を含んでもよい。
【0038】
ひとつ以上の実施の形態は、複屈折レンズを有するシステムと共に用いられるキットを指向する。該キットは、前記複屈折レンズから第1方向に出力された第1偏光の光を透過させ、前記複屈折レンズから前記第1方向に沿って出力された第2偏光の光をフィルタアウトする偏光フィルタを含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
例示的な実施の形態を添付の図面を参照して詳細に説明することにより、特徴が当業者に明らかになるであろう。
【0040】
【
図1A】
図1Aおよび1Bは、複屈折レンズがイメージングシステムにおいて軸上光線および軸外光線に対して有しうる影響を示す。
【
図1B】
図1Aおよび1Bは、複屈折レンズがイメージングシステムにおいて軸上光線および軸外光線に対して有しうる影響を示す。
【0041】
【
図2A】
図2Aおよび2Bは、ワイヤグリッド偏光器の基本的機能を示す。
【
図2B】
図2Aおよび2Bは、ワイヤグリッド偏光器の基本的機能を示す。
【0042】
【
図3A】
図3Aから3Cは、ワイヤグリッド偏光器基板の例を示す。
【
図3B】
図3Aから3Cは、ワイヤグリッド偏光器基板の例を示す。
【
図3C】
図3Aから3Cは、ワイヤグリッド偏光器基板の例を示す。
【0043】
【
図4A】
図4Aおよび4Bは、完全開口偏光要素および部分開口偏光要素についての機能的位置のいくつかを示す。
【
図4B】
図4Aおよび4Bは、完全開口偏光要素および部分開口偏光要素についての機能的位置のいくつかを示す。
【0044】
【
図5A】
図5Aから5Dは、カメラシステムにおける部分開口偏光器についてのいくつかの機能的位置と、そのような位置がイメージ面におけるソフト遷移やハード遷移にどのように影響を与えるか、を示す。
【
図5B】
図5Aから5Dは、カメラシステムにおける部分開口偏光器についてのいくつかの機能的位置と、そのような位置がイメージ面におけるソフト遷移やハード遷移にどのように影響を与えるか、を示す。
【
図5C】
図5Aから5Dは、カメラシステムにおける部分開口偏光器についてのいくつかの機能的位置と、そのような位置がイメージ面におけるソフト遷移やハード遷移にどのように影響を与えるか、を示す。
【
図5D】
図5Aから5Dは、カメラシステムにおける部分開口偏光器についてのいくつかの機能的位置と、そのような位置がイメージ面におけるソフト遷移やハード遷移にどのように影響を与えるか、を示す。
【0045】
【
図6A】
図6Aから6Cは、内視鏡システムにおける完全開口偏光器および部分開口偏光器についてのいくつかの機能的位置を示し、また、部分開口偏光器の位置がイメージ面におけるソフト遷移やハード遷移にどのように影響を与えるかを示す。
【
図6B】
図6Aから6Cは、内視鏡システムにおける完全開口偏光器および部分開口偏光器についてのいくつかの機能的位置を示し、また、部分開口偏光器の位置がイメージ面におけるソフト遷移やハード遷移にどのように影響を与えるかを示す。
【
図6C】
図6Aから6Cは、内視鏡システムにおける完全開口偏光器および部分開口偏光器についてのいくつかの機能的位置を示し、また、部分開口偏光器の位置がイメージ面におけるソフト遷移やハード遷移にどのように影響を与えるかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に添付の図面を参照して例示的な実施の形態をより十分に説明するが、例示的な実施の形態は異なる態様で実現されうるものであり、本明細書で説明されるものに限定されるとみなされるべきではない。むしろ、これらの実施の形態は、本開示が完全であり、当業者に例示的な実装を十分に伝えるように提供される。総じて、対応するかまたは同様な参照符号が、図面を通じて、同じまたは対応する部材を参照するために可能な場面で使用されるであろう。
【0047】
上述の種々の実施の形態の詳細が以下に詳述される。偏光フィルタ開口の領域のだいたいの輪郭は以下では丸として描かれるが、これらの領域は正方形や楕円形や直線的形状や他の任意の形状をとってもよい。加えて、領域が異なれば形状も異なってもよく、および/またはある領域は不連続であってもよい。さらに、図面は代表的であることを意図しており、正確であることは意図されていない。したがって、特にそうでないと述べられない限り、図面は構成要素の正確な比率やそれらの間の距離を表すわけではない。最後に、偏光依存開口フィルタを用いた応用の説明は、実施の形態のさらなる理解の助けにならない追加的要素や特定要素の詳細を省略することにより、明瞭性のために簡単化されている。その説明は当業者には理解される。
【0048】
定義
【0049】
「偏光依存完全フィルタ」は、フィルタの開口の全体に亘って光をフィルタするフィルタを指す。
【0050】
「偏光依存部分フィルタ」は、その開口の中央部分にフィルタされない領域を、その開口の残りにフィルタされる領域を、有するフィルタを指す。完全フィルタされた光だと検出器における光束損失が大きすぎる場合、したがって、イメージの品質が落ちる場合、部分フィルタされた光が用いられてもよい。部分フィルタは、入射光の一部を完全にフィルタされたものとして透過させ、その光の一部をフィルタされないものとして透過させてもよい。部分フィルタは、フィルタされる部分とフィルタされない部分とを空間的に区別してもよい:フィルタされる光は開口のあるゾーンを通過し、フィルタされない光は他の部分を通過する。この詳細は後述される。
【0051】
「主光線」は、オブジェクト上の点から発せられる光線を指し、その光線は開口ストップにおいてシステムの光軸と交差する。各オブジェクト点はひとつの主光線を発し、各主光線は広範囲の波長を有する。
【0052】
「周縁光線」は、オブジェクト上の点から発せられる光線を指し、その光線は光学システムの開口を、その開口のぎりぎり限界において通過する。各オブジェクト点は周縁光線のコーンを発し、周縁光線はそれがシステムストップを通過するとき、ストップサイズの幾何的限界と同等な周を描く。システムの下流のストップは、オブジェクト平面で発せられる周縁光線コーンによって張られる受容角度を低減させる。
【0053】
「レンズ」は光学力を伴う任意の要素である。
【0054】
概要
【0055】
イメージングシステム(例えば、内視鏡、ボアスコープ、カメラ等)の光学レンズとして複屈折材料が用いられる場合、イメージ面は二つのイメージI
1およびI
2を有するであろう。ひとつはある偏光状態P
1に対するものであり、もうひとつは他の偏光状態P
2に対するものである。
図1Aおよび1Bは、これらの二つのイメージI
1およびI
2が少し異なる倍率でどのように重ね合わされるかを示す。
【0056】
図1Aを参照すると、イメージ面において軸上光線は同心的である。一方、
図1Bを参照すると、軸外光線は空間分離を示す。この場合、あるタイプの偏光P
1に関連付けられた光線の焦点は別のタイプの偏光P
2の光線の焦点よりも光軸に少し近い。イメージを観測するか記録するセンサや他の手段に依存して、軸外フィーチャは知覚可能な劣化を示しうる。二つのイメージI
1およびI
2は重ね合わされ、一方の全体サイズが他方の全体サイズよりも少し大きいからである。
【0057】
イメージ面におけるこれらの問題があるにもかかわらず、イメージングシステムにおいて複屈折材料が使われうる。これらの材料は、光学ガラスでは得られない特性を示しうるからである。例えば、サファイアはとても硬く、化学耐性があり、光学ガラスのものとは異なる屈折率および分散特性を有する。
【0058】
複屈折材料からなるパワー化光学系を有するイメージングシステムでは、イメージフィールドに入射する前に、ある偏光状態の光の全てをフィルタリングして除去することが行われてもよい。そのような解は全体のイメージの品質を高めるであろうが、これはシステムがフィルタされた部分の損失を許容できる程度に十分な輝度を有する場合である。
【0059】
複屈折材料からなるパワー化光学系を有するイメージングシステムであって、フィルタリングに対する制限が輝度の制約からくるイメージングシステムでは、ある偏光状態の光の一部分のみをフィルタリングして除去することは、中央部分などのフィールドのある部分がフィルタせずに残し、軸外部分などのフィールドの他の部分がある偏光状態の光を完全にフィルタするものである。そのような解は、フィールドの中央部分に対する完全なスループットを許し、そこではイメージング性能が複屈折レンズの影響によって悪化することはほとんどなく、また同時に軸外イメージ品質を改善することができる。
【0060】
上述のシステムでは、フィールドの非フィルタ部分からフィールドを亘ってフィルタ部分に至るまでの遷移のレートを調整し、その結果そのような遷移がフィールドの領域に亘って生じ、かつ、急でなくなる場合、追加的な利点が生じうる。そのようなフィルタの例を以下に説明する。
【0061】
偏光依存フィルタ
【0062】
図2Aおよび2Bを参照すると、偏光依存フィルタ100は基板120上のワイヤグリッド110を含んでもよい。吸収性偏光器やビーム分割偏光器や複屈折偏光器や薄膜偏光器などの他の技術が総じて同じ結果を達成することができ、異なる条件について多かれ少なかれ実際的でありうることは、理解されるべきである。
【0063】
図2Aでは、線形偏光を有する光が偏光依存フィルタ100に入射する。その電気ベクトルがグリッドに揃っているビームは反射され(イメージングシステムの場合は拒否され)、残りのビームは通過する。
図2Bでは、円偏光の光が偏光依存フィルタ100に入射する。ビームはその線形偏光成分に分解され、それらは次いで
図2Aにしたがい拒否されるか通過する。
【0064】
図3Aから3Cを参照すると、ワイヤグリッドのパターン、位置およびエリアは連続的または基板に亘って変化可能であってもよく、その形状もまた可変である。そのようなパターンはワイヤグリッド形成プロセス中のマスク処理を通じて得られる。部分開口偏光器の同様なオプションが他のタイプの偏光ビーム分割に適用可能であることは理解されるべきである。例えば、薄膜偏光器は、複数層誘電膜コーティングプロセス中のマスク技術を用いることで、領域依存性を有する開口を生成してもよい。
【0065】
例えば、
図3Aに示されるように、偏光依存完全フィルタ210は円い基板212を含んでもよく、該基板212は完全開口フィルタとして用いられるべきワイヤグリッド214をその全体に亘って伴う。そのような完全開口フィルタを、システム内において複屈折レンズの前後のどこにでも用いることができ、イメージ面に亘る照射を変えないであろう。全ての光が同等に扱われるからである。
【0066】
図3Bに示されるように、偏光依存部分フィルタ220は円い基板222を含んでもよく、該基板222は、円い基板222を部分的にのみ覆い、フィルタされない領域226を残すワイヤグリッド224を伴う。
図3Bに示されるように、ワイヤグリッド224は円い基板222の周縁部にのみあり、一方、フィルタされない領域226はその中央円形領域にあってもよく、これは環状フィルタとして用いられる。偏光依存部分フィルタ230の他の例が
図3Cに示される。ここで、偏光依存部分フィルタ230は矩形の基板232を含み、該基板232は、矩形の基板232を部分的にのみ覆い、フィルタされない領域236を残すワイヤグリッド234を伴う。
図3Cに示されるように、ワイヤグリッド234は矩形の基板232の周縁部にのみあり、一方、フィルタされない領域236はその中央円形領域にあってもよく、これは環状フィルタとして用いられる。そのような偏光依存部分フィルタはイメージ面またはその共役でまたはその近くで用いられてもよく、イメージの中央部において光強度が減少しない。
【0067】
偏光依存開口を組み入れたシステム
【0068】
図4Aを参照すると、イメージングシステム300が模式的に示される。
オブジェクトフィールド302は図の左側である。イメージ形成を担当するレンズは境界320の中にあるが、明示的には示されていない。しかしながら、そのビーム形成に対する影響は示されている。イメージ340は右側に形成される。システムは複屈折レンズ304を用いる。オブジェクト照明が十分なもの以上であるというような条件であれば、偏光依存完全フィルタ310、すなわちその開口全体に亘って特定の偏光のみ通過させるフィルタ、を、システム開口やシステムストップ位置305やそれらの任意の共役にあるいはその近くに、または、全てのビームがフィルタを口径食なく通過できかつフィルタの挿入が光学処方(optical prescription)によって可能とされる任意の位置に、置いてもよい。加えて、偏光依存フィルタの複屈折レンズに対するフィルタリング機能は角度的なものでしかないから、偏光依存フィルタは複屈折レンズの前後いずれかに配置されてもよい。例えば、それはシステムの前方の308に配置されてもよい。
【0069】
対照的に、オブジェクト照明がいくらか劣化するような条件では、フィールドのうち複屈折レンズによって最も悪影響を受ける部分のみ、例えばイメージの軸外部分のみ、がフィルタされてもよい。そのような例において、偏光依存部分フィルタはある面に挿入されてもよいが、その面はシステム開口にあるわけでも、システム開口の近くにあるわけでもない。また、その面は、システム開口の共役にあるわけでも、その共役の近くにあるわけでもない。そのような偏光依存部分フィルタ330の例が
図4Bの右上部分に示される。フィルタ330はフィルタされない中央領域326とワイヤグリッド偏光フィルタ環324とを有する。
【0070】
フィルタ330は、システム開口305の近くでもシステム開口305の共役の近くでもない位置範囲に配置されてもよい。より具体的には、フィルタは、フィールド位置に関連付けられた光束が分離される(すなわち、イメージ340またはイメージ共役において)か部分的に分離される(すなわち、システム開口305とイメージ340との間、またはシステム開口305とオブジェクト302との間、または開口およびイメージの共役の間に配置された領域内)領域内に配置される。
図4Bでは、部分フィルタ330はシステムのイメージ空間306に配置される。加えて、偏光依存フィルタの複屈折レンズに対するフィルタリング機能は角度的なものでしかないから、偏光依存フィルタは複屈折レンズの前後いずれかに配置されてもよい。例えば、それはシステムの前方の308に配置されてもよい。
【0071】
図5Aから5Dに示されるように、イメージ面またはその共役に対する部分開口フィルタ、例えば環状偏光開口フィルタ、の位置は、フィルタされないものからフィルタされるものへの遷移が生じる領域、すなわちイメージのうちフィルタされないものからフィルタされるものへの遷移領域、のサイズを決める。
【0072】
図5Aを参照すると、偏光フィルタ330は上流複屈折レンズによって部分的に形成されたビームの中に配置される。フィルタは偏光依存部分324と透明開口部分326とによって定義される。フィルタ330は軸方向に移動してもよく、また回転してもよい。フィルタの回転は、入射光の電気ベクトルに対するフィルタの偏光フィーチャのアライメントを制御するであろう。この特徴は光学の分野で確立されており、ここでは詳述しない。
図5Aは、フィルタ330を軸方向に動かすことの影響を示す。フィルタ330は二つの位置531および532に示される。実際は任意の時刻においてただひとつのフィルタがひとつの位置にあるであろうことは理解されるべきである。フィルタ330がイメージ540から遠くの位置531に配置される場合、軸上点541を形成する光束はフィルタされずに通過し、したがって減衰されない。フィルタ330がイメージ540の近くの位置532へと動かされると、軸上点541に関連付けられた光はやはり変わらない。しかしながら、中間フィールド軸外点544を形成する光線および遠位フィールド軸外点547を形成する光線は、それぞれ、フィルタの位置によって異なる態様で影響される。フィルタ330が531に配置される場合、点544を形成する光線はわずかにフィルタされ、点547を形成する光線は部分的にフィルタされ、その影響は、547を形成する光線が544を形成する光線よりも多くフィルタされるようなものである。フィルタ330が532に配置される場合、点544を形成する光線はフィルタされず、点547を形成する光線は完全にフィルタされる。
図5Aは、部分的にはフィルタの位置の結果であり、また部分的には説明のために作られたイメージ空間ビームの分布特性の結果である、位置依存特性を示す。イメージ空間が収束光やテレセントリック光を用いる場合、これはシステムの特性に影響を与えるであろうことは理解されるべきである。これは以下に詳述される。
【0073】
図5Bを参照すると、光学システムが模式的に示される。光束が開口504を通じて生じており、イメージ空間内に光のコーンを形成し、540においてイメージを形成する。グループ551内の光線は軸上である。光束552、553、554、555、556および557は、次第に大きくなる軸外位置における光のコーンを示す。上述のフィルタ330はシステムのイメージ空間506内に配置される。フィルタは光軸の周りで回転可能であり、および/または光軸に沿って移動可能である。
図5Bは、三つの位置533、534および535に配置されたフィルタ330を示す。実際のシステムでは、任意の時刻において、ひとつの位置にあるただひとつのフィルタが用いられる。図は、比較を可能とするために、これらの位置を一緒に示している。フィルタが位置533にある場合、点551、552、553に向けられた光束はフィルタされずに通過し、残りの光束は軸外位置が増大するにつれて増大するフィルタ強度を経験する、すなわち、557は556よりも多くフィルタされ、556は555よりも多くフィルタされる等である。しかしながら、どの光束やイメージ空間コーンも完全にフィルタされることはない。フィルタが位置534にある場合、点551、552、553に向けられた光束はフィルタされずに通過し、光束554および555は部分的にフィルタされて通過し、光束556、557は完全にフィルタされて通過する。最後に、フィルタがイメージに近い位置535にある場合、光束551、552、533はフィルタされずに通過し、他の全ての光束は完全にフィルタされて通過する。まとめると、フィルタをイメージまたはイメージ共役から離すようにまたはそれに近づけるように動かすことによる主たる影響は、イメージ面において経験されるフィルタされない光とフィルタされる光との間の遷移領域の拡大または縮小である。フィルタを軸方向に動かすことの副次的な影響は、遷移領域自体の径方向シフトである。遷移領域の全体の径方向シフトの変化率および変化の向きはイメージ空間ビームの特性に直接左右される:テレセントリックイメージ空間は軸方向フィルタ移動を通じて遷移領域のサイズが変化しても径方向シフトを示さないであろう。また、発散イメージ空間(すなわち、
図5Aおよび5B)はフィルタがイメージ540に向けて動くにつれて、表示されたままのイメージにおいて、遷移領域の平均径方向サイズの低減を経験するであろう。また、収束イメージ空間ビームはこの逆を示すであろう。
【0074】
図5Cおよび5Dにさらに示されるように、フィルタ330とイメージ面、例えばセンサ、との距離が小さいほど、遷移領域はより鮮鋭になる。イメージ空間507はほぼテレセントリックである。したがって、上述の通り、イメージ面における遷移領域の拡大や縮小は、その領域自体の径方向位置の変化と関係しない。すなわち、テレセントリックイメージ空間ビーム内のフィルタの軸方向位置によらず、遷移の中間点は同じ軸外位置で生じる。
図5Cと
図5Dとを比較することで見られるように、フィルタされない領域と完全にフィルタされる領域との間の遷移領域338は、フィルタ330がイメージから遠い場合よりも、フィルタ330がイメージに近い場合のほうが、より鮮明となる。そのようなよりソフトな(すなわち、シャープでなく、急でない)遷移は、あるアプリケーションにおいて好まれうる。
【0075】
実施の形態に係る偏光依存フィルタを用いるシステムの他の例は
図6Aから6Cに示される。
図6Aに示されるように、システム400は内視鏡(またはボアスコープや潜望鏡)500とカメラシステム600とを含んでもよい。
【0076】
内視鏡500は対物レンズ510と接眼レンズ530とを含んでもよく、この対物レンズ510はリレーレンズ520にイメージを提供し、リレーレンズ520はひとつ以上のリレーレンズ522を含む。ビームは後部窓540を介して内視鏡500を出る。対物レンズ510のうちのひとつ、例えば内視鏡500の第1レンズ、は複屈折レンズ、例えばサファイアレンズであってもよい。内視鏡500は、複屈折の、例えばサファイアの、入口窓および出口窓を含んでもよい。カメラ600は、内視鏡500からの光を受けるための前方窓610と、カメラ光学系620と、イメージセンサ630と、を含んでもよい。
【0077】
上述の通り、照明要件に依存して、偏光依存完全フィルタ410をシステム400のどこに提供してもよい。既存のシステムにおいて偏光依存フィルタを用いる場合、すなわち、内視鏡500とカメラ600とが既に存在しかつ偏光依存フィルタを含まない場合、偏光依存完全フィルタ410は、内視鏡500の後部窓540とカメラ600の前方窓610との間に設けられてもよく、これは例えば内視鏡500とカメラ600との間のカプラの一部として設けられることであってもよく、内視鏡500への固定アドオンに設けられることであってもよく、またはカメラ600に組み付けられることであってもよい。
【0078】
上述の通り、偏光依存部分フィルタ420はシステム400のイメージ面またはその共役にまたはその近くに提供されてもよい。内視鏡500で用いられる場合、偏光依存部分フィルタ420の向きおよび位置は、複屈折レンズと揃うように固定されてもよい。カメラ600で用いられる場合、偏光依存部分フィルタ420は調整可能マウント650に取り付けられてもよい。調整可能マウント650は、光軸の周りで偏光依存部分フィルタ420を回転させるための回転機構および/または光軸に沿って偏光依存部分フィルタ420を動かすための移動機構を含んでもよい。したがって、カメラ600内の偏光依存部分フィルタ420はシステム400で用いられるべき内視鏡500にしたがって調整可能である。カメラと内視鏡との間、特に窓610と窓540との間、のカプラスペースにおいて偏光依存完全フィルタ410が用いられる場合、同様の回転機構を用いてもよい。
【0079】
内視鏡500で用いられる場合、
図6Bおよび6Cでさらに示されるように、偏光依存部分フィルタ420が内視鏡500においてイメージに近いほど、遷移領域はより鮮明となる。
図6Bと
図6Cとを比較することで見られるように、フィルタされない領域426と完全にフィルタされる領域424との間の遷移領域428は、フィルタ420がイメージから遠い場合よりも、フィルタ420がイメージに近い場合のほうが、より鮮明となる。そのようなよりソフトで急でない遷移は、あるアプリケーションにおいて好まれうる。
【0080】
まとめると、ひとつ以上の実施の形態は、第1偏光のイメージを低減または除去することで第2偏光のイメージの明確さを強化することにより、複屈折レンズの使用を促進する偏光依存フィルタを提供することができる。
【0081】
例示的な実施の形態が本明細書で開示され、具体的な用語が用いられたが、それらは概括的なものおよび説明的なものとしてのみ使用され、かつそのようなものとして解釈されるべきであって、限定を目的としていない。ある例では、本願の出願時点の当業者には明らかであるように、特定の実施の形態との関連で説明された特徴、特性、および/または要素は単体で用いられてもよく、またはそうでないと特に断らない限り、他の実施の形態との関連で説明された特徴、特性、および/または要素との組み合わせで用いられてもよい。したがって、以下の請求の範囲で規定される本発明の精神および範囲から逸脱すること無く、形態や詳細の種々の変更がなされうることは、当業者には理解されるであろう。