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特許7296956摩耗検出に適しているスチールコードを含むベルト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】摩耗検出に適しているスチールコードを含むベルト
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/06 20060101AFI20230616BHJP
   B66B 7/06 20060101ALI20230616BHJP
   F16G 1/00 20060101ALI20230616BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20230616BHJP
   F16G 1/28 20060101ALI20230616BHJP
   B66B 5/02 20060101ALN20230616BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
B66B7/06 H
F16G1/00 C
F16G1/08 A
F16G1/28 E
B66B5/02 C
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020523292
(86)(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2018078854
(87)【国際公開番号】W WO2019081412
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】17198950.2
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519460959
【氏名又は名称】ベカルト アドバンスド コーズ アールテル エンベー
【氏名又は名称原語表記】BEKAERT ADVANCED CORDS AALTER NV
【住所又は居所原語表記】Leon Bekaertlaan 5, 9880 Aalter, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】ゲード モレン
(72)【発明者】
【氏名】ワウター ファンレイテン
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-338753(JP,A)
【文献】特開2010-204113(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01034328(GB,A)
【文献】特開2014-145136(JP,A)
【文献】特開2016-069774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/00- 9/00
B66B 5/00- 5/28,
7/00- 7/12
F16G 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマージャケットによって互いに平行配置で保持されているスチールコードを含むベルトであって、前記スチールコードは、コード撚り方向及びコード撚り長で撚り合わせられているストランドを含み、前記ストランドは、撚り合わせられているスチールフィラメントを含み、前記スチールフィラメントの各々は、フィラメント直径を有する、ベルトにおいて、
前記スチールコードにおいて、複数の最大直径フィラメントは、前記フィラメントの残りのものよりも厳密に大きいフィラメント直径を有し、前記最大直径フィラメントの各々は、前記スチールコードの半径方向外側に少なくとも間欠的に存在すること、並びに、
前記ベルトの面と前記スチールコードのいずれか1つとの間の最近接距離は、前記最大直径フィラメントの前記直径の半分よりも大きく、且つ前記最大直径フィラメントの前記直径の10倍よりも小さいこと、
を特徴とする、ベルト。
【請求項2】
エラストマージャケットによって互いに平行配置で保持されているスチールコードを含むベルトであって、前記スチールコードは、コード撚り方向及びコード撚り長で撚り合わせられているストランド及び金属製のモノフィラメントを含み、前記ストランドは、撚り合わせられているスチールフィラメントを含み、前記スチールフィラメントの各々は、フィラメント直径を有し、前記モノフィラメントは、前記スチールコードの前記半径方向外側において、隣接ストランド間の谷の一部又は全部を満たし、前記モノフィラメントの直径は、前記隣接ストランド間の隙間よりも大きい、ベルトにおいて、
前記スチールコードにおいて、前記モノフィラメントを含む複数の最大直径フィラメントは、前記フィラメントの残りのものよりも厳密に大きいフィラメント直径を有し、前記最大直径フィラメントの各々は、前記スチールコードの半径方向外側に少なくとも間欠的に存在すること、並びに、
前記ベルトの面と前記スチールコードのいずれか1つとの間の最近接距離は、前記最大直径フィラメントの前記直径の半分よりも大きく、且つ前記最大直径フィラメントの前記直径の10倍よりも小さいこと、
を特徴とする、ベルト。
【請求項3】
前記モノフィラメントは、前記スチールコードの前記ストランドに対する外接円内にとどまる、請求項2に記載のベルト。
【請求項4】
前記スチールコードの前記複数の最大直径フィラメントは、前記モノフィラメントからなる、請求項2又は3に記載のベルト。
【請求項5】
前記モノフィラメントは、モノフィラメント引張強度を有し、前記モノフィラメント引張強度は、前記スチールコードにおける前記スチールフィラメントのいずれか他のものの引張強度よりも低い、請求項2~4のいずれか一項に記載のベルト。
【請求項6】
前記スチールコードの前記モノフィラメントは、総モノフィラメント破壊荷重を有し、前記総モノフィラメント破壊荷重は、前記スチールコードの破壊荷重の20%未満である、請求項2~5のいずれか一項に記載のベルト。
【請求項7】
前記スチールコードの少なくとも1つの前記モノフィラメントの少なくとも1つは、電気絶縁層で覆われている、請求項2~6のいずれか一項に記載のベルト。
【請求項8】
前記スチールコードの少なくとも1つの前記モノフィラメントの少なくとも1つは、間隔を置いて局所的に弱められている、請求項2~7のいずれか一項に記載のベルト。
【請求項9】
前記複数の最大直径フィラメントは、50を超える比透磁率を有する鋼製であり、少なくとも前記最大直径フィラメントは、残留磁化を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項10】
前記最大直径フィラメントは、次に小さい直径のスチールフィラメントに対して少なくとも1%及び最大40%だけ直径において異なる、請求項1~9のいずれか1項に記載のベルト。
【請求項11】
前記複数の最大直径スチールフィラメントからの前記フィラメントのそれぞれの1つの断面積は、前記スチールコードの全断面積の2%~10%である、請求項1~10のいずれか一項に記載のベルト。
【請求項12】
前記スチールコードは、芯を更に含み、前記ストランドは、前記芯の周りに撚られている、請求項1~11のいずれか一項に記載のベルト。
【請求項13】
前記スチールコードの前記芯は、芯ストランドを形成するスチールフィラメントを含む、請求項12に記載のベルト。
【請求項14】
前記芯ストランドは、芯ストランド直径を有し、前記ストランドは、ストランド直径を有し、前記芯ストランド直径は、前記ストランド直径よりも小さい、請求項13に記載のベルト。
【請求項15】
前記スチールコードにおけるストランドの数は、3つ、4つ又は5つである、請求項12~14のいずれか一項に記載のベルト。
【請求項16】
エラストマージャケットによって互いに平行配置で保持されているスチールコードを含むベルトであって、前記スチールコードは、コード撚り方向及びコード撚り長で撚り合わせられているストランド及び金属製のモノフィラメントを含み、前記ストランドは、撚り合わせられているスチールフィラメントを含み、前記スチールフィラメントの各々は、フィラメント直径を有し、前記モノフィラメントは、前記スチールコードの前記半径方向外側において、隣接ストランド間の谷の一部又は全部を満たし、前記モノフィラメントの直径は、前記隣接ストランド間の隙間よりも大きい、ベルトにおいて、
前記スチールコードにおいて、前記モノフィラメントを含む複数の最大直径フィラメントは、前記フィラメントの残りのものよりも厳密に大きいフィラメント直径を有し、前記最大直径フィラメントの各々は、前記スチールコードの半径方向外側に少なくとも間欠的に存在すること、並びに、
下記の(i)及び/又は(ii):
(i)前記モノフィラメントは、モノフィラメント引張強度を有し、前記モノフィラメント引張強度は、前記スチールコードにおける前記スチールフィラメントのいずれか他のものの引張強度よりも低い、
(ii)前記スチールコードの前記モノフィラメントは、総モノフィラメント破壊荷重を有し、前記総モノフィラメント破壊荷重は、前記スチールコードの破壊荷重の20%未満である、
を満たすこと、
を特徴とする、ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター及びクレーンなどにおける巻き上げ用途のために使用されるようなスチールコードを含むベルトに関する。しかし、本発明は、平ベルト、同期若しくは歯付きベルト又はコンベヤベルトにおいて同様によく使用可能である。
【背景技術】
【0002】
世紀が変わって以来、スチールコード強化ベルトは、例えば、エレベーターのような巻き上げ用途のために載荷部材として一層使用されている。この分野において、ベルトの幅よりもかなり薄いベルトの導入は、低い高さ~中位の高さのエレベーター区分に革命をもたらしている。実際に、高張力撚フィラメントで形成された薄いスチールコードを使用することにより、ベルトの破壊荷重を、従来のエレベータースチールロープの重量の数分の一で従来のエレベータースチールロープの破壊荷重よりも増加させることができる。
【0003】
細いスチールフィラメントにより、ベルトを、先行技術スチールロープよりも非常に小さい曲げ半径で抑えることができる。従って、駆動滑車は、直接駆動電動機に接続されたより小さい駆動プーリーの使用を可能にするより小さい直径を有することができる。電動機と駆動滑車との間の歯車機構を必要としないため、駆動設備全体を小型にすることができ、従って上述のエレベーターシャフト機械室を除去することができる。
【0004】
エレベーターのユーザの関心事の1つは、載荷部材の状態の監視である。先行技術エレベータースチールロープで線破壊又は線のよじれなどの欠陥を視覚的に点検して評価検討している間、この手法は、エレベーターベルトに対してもはや適用できない。実際に、ベルトにおいて、スチールコードは、一般的に不透明なエラストマージャケット内に互いに平行に保持されている。更に、多くのスチールコードが存在するために辛うじて見える、細いフィラメントの破壊の評価検討は、もはやオプションではない。従って、載荷部材の状態を監視するために、異なる戦略がエレベーター製造業者によって提案されている。
【0005】
ベルトの状態を監視する第1の一般的な考えは、エラストマージャケットの非伝導性と組み合わせてスチールコードの電気伝導性を使用することである。米国特許第8686747号明細書では、いずれのスチールコードが実際に破壊しているのかを区別可能にするために個々のスチールコードと直列に識別抵抗器を追加することが提案されている。ジャケットによって破壊フィラメントの貫通を検出するために、この提案を接地接触と組み合わせることができる。例えば、同じ出願人の欧州特許第2 172 410号明細書、欧州特許第1 275 608号明細書に更に詳細に記載されているように、スチールコード間の追加の短絡を検出して評価検討することもできる。その出願人の欧州特許第2 367 747号明細書の更なる開示では、単位時間当たりの抵抗の変化を単に検出して数えることが提案されている。
【0006】
代わりに、フィラメント破壊を識別可能にするために磁気特性を考慮する。このために、ベルトにおけるスチールコードを局所的に磁化する。フィラメントの途切れは、検出コイル、ホールセンサー又は磁気抵抗センサーによって検出可能な漂遊磁場になる。エレベーターの分野におけるこのような方法論の例は、欧州特許第1 173 740号明細書に記載されている。スチールロープを解析するための磁場変化の検出に基づくシステムは、長い間、既知である(例えば、欧州特許第0 845 672号明細書を参照されたい)。
【0007】
行われている他の提案は、下記の通りである。
・荷重状態及び/又はベルトの摩耗に関する情報を間隔の変化が与える規則正しいマーキングをベルトに与えること(米国特許第7,117,981号明細書を参照されたい)。
・表面被覆層と平行である、表面被覆層の下に埋設された着色指示層をベルトに与えること。この指示層は、ベルトの摩耗が進むにつれて目に見えるようになる(欧州特許第1 275 608号明細書)。
【0008】
しかし、上述の全ての開示は、ベルトを監視する方法に関連してそれらのベルトのために使用されるスチールコード構成について言及していない。ベルトのために考慮された一連の可能なスチールコード組立体が米国特許出願公開第2012/021130号明細書に開示されている。更に、7×7構成のエレベーターベルトでよく使用されるスチールコード構成が米国特許第6295799号明細書に開示されている。これらのスチールコード設計は、記載の技法によってフィラメント破壊を検出するために最適化されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、ベルトにおけるフィラメント破壊の早期検出を可能にするためにスチールコードが最適化されているベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、請求項1の前文のようなベルトを提示する。このベルトは、エラストマージャケットによって互いに平行配置で保持されているスチールコードを含む。エラストマージャケットは、スチールコードを適所に包み、囲み、保持する。ベルトは、互いに局所的に相互直交する長さ、幅及び厚さ寸法を有し、長さは、幅よりも非常に長く、幅も同様に厚さより大きい。スチールコードは、長さ寸法において全て平行であり、厚さ寸法と垂直な単一層で幅寸法に並んで配置されている。
【0011】
スチールコードは、コード撚り方向及びコード撚り長で撚り合わせられているストランドを含む。巻きストランドは、撚り合わせられているスチールフィラメントを含み、スチールフィラメントの各々は、フィラメント直径を有する。好ましい実施形態において、スチールフィラメントは、スチールフィラメントの局所軸と垂直に切断された場合、円形の断面を有する。スチールフィラメントの直径は、この円形の断面の平均直径に対応する。この平均直径は、平アンビルを有するマイクロメーターを用いて測定されるような最大及び最小直径の合計の半分である。スチールコードにおける全スチールフィラメントをスチールフィラメントのフィラメント直径に従って順序付けることができる。この用途のために、8マイクロメートル未満の距離を置いて限界の範囲内にあるフィラメント直径のグループは、等しいと考えられ、限界の平均に等しい公称値を有する。
【0012】
ここで、スチールコードの特徴は、フィラメントの残りのものよりも厳密に大きいフィラメント直径を有する最大直径フィラメントのグループを識別できることである。これは、空でない残りがあること、即ち全てのフィラメントが同じ最大直径を有するわけではないことを必然的に意味する。本発明の更なる特徴は、前記最大直径フィラメントの各々が、スチールコードの半径方向外側に少なくとも間欠的に存在することである。
【0013】
この用途のために、「スチールコードの半径方向外側」は、エラストマージャケットが存在しなかった場合、外側から見えるスチールコードの側である。従って、最大直径フィラメントのそれぞれの1つは、外側から少なくとも間欠的に見える。換言すれば、最大直径スチールフィラメントのそれぞれの1つは、スチールコード外側で表面に出て、その後、それがスチールコードの内側に入り、その後、外側に再び現れる等であり得る。
【0014】
更に他の表現では、最大直径フィラメントは、スチールコードの内側になく、スチールコードの面に少なくとも間欠的に現れる。従って、最大直径フィラメントは、スチールコードの外層を形成するストランドの外側に存在する。従って、この特徴の代替の均等な表現は、「前記最大直径フィラメントが前記ストランドの外スチールフィラメントのグループに含まれ、属する」という表現である。
【0015】
代替の好ましい実施形態において、スチールストランドは、スチールフィラメントからなり、且つ/又はスチールコードは、ストランドからなる。
【0016】
ストランドのための例示的な構成は、下記の通りである。
・単一撚り長及び方向で撚り合わせられた例えば2つ、3つ、4つ又は5つのフィラメントの空の芯を有するストランド。
・タイプ「C+n×F」の単一層ストランド。芯フィラメント「C」は、特定の直径の「n」個の外フィラメント「F」で囲まれている。「n」は、3、4、5、6又は7であり得るが、最も好ましいのは、3、4又は5であり、その場合、より太いフィラメントを外側に置いた状態で、外フィラメント直径は、芯フィラメント直径よりも大きい。
・タイプ「|×d+n×d+m×d」の層状コード構成(但し、直径は、芯から外側に半径方向に増大する)。例示的な配置は、d<d<dで1×d+5×d+10×dである。
・単一撚り長及び方向で1つの作業中に形成された単一撚り構成(但し、フィラメント直径は、芯から半径方向に外側に増大する)。例は、d<d<dで3×d|3×d|3×d又はウォリントン又はシールタイプのd<d<d<dで1×d|5×d|5×d|5×dである。
【0017】
エレベーターベルトの強化及びベルトのために使用されるスチールコードの既知の実施形態において、一般的に、最大フィラメントを有するフィラメントは、スチールコードの内側に常に位置している。例えば、米国特許出願公開第2012/0211310号明細書の図7図8a、図8b、図9図10図11及び図12又は米国特許第6295799号明細書の図5を参照されたい。これは、スチールコードの異なるストランド間にエラストマーが十分進入することを望むことに基づいているように見える。更に、最大フィラメントは、使用中に曲げ応力の大部分を受け、その結果、最初に破壊すると予期されることが一般的に認められる。フィラメント端部がスチールコード及びベルトから出ることを防止するために、スチールコードの内側に破壊を保つことを望むため、より太いフィラメントをスチールコードの内側に位置決めする。
【0018】
上述と対照的に、本発明者らは、請求項1に記載のベルトを用いて全く異なる手法を提案する。エレベーターベルトの標準的な手法と逆に、本発明者らは、スチールコードの外側に最大フィラメントを意図的且つ故意に置く。この異なる手法は、下記の理由で有益である。
・最大直径フィラメントは、スチールコードの外側に位置しているため、最大直径フィラメントは、最初に破壊し、容易に検出可能である。破壊最大直径フィラメントを検出する様々なシステムを後述する。
・最大直径フィラメントは、ここで、外側に見付けられることになるため、より細いフィラメントは、スチールコードの芯又はストランドの芯に位置している。これらの細いフィラメントは、より小さい直径を有するため、それらのフィラメントで引き起こされる曲げ応力は、より小さく、従って、それらのフィラメントは、最大直径を有するフィラメントのグループよりも長く持続すると予期される。
・最大フィラメント直径フィラメントのグループは、荷重の大部分を支えるため、それらの最大直径フィラメントが破壊されない限り、破壊荷重の損失の危険性がない。最大直径フィラメントの完全性を容易に理解することができ、従って最大直径フィラメントが無傷のままである限り、大幅な破壊損失がないと予期される。
・最大フィラメント直径フィラメントが破壊した場合、これを容易に検出して、評価検討することができる。
・最大直径フィラメント破壊の数及び分布が特定の基準を超えた場合、ベルトを交換することにより、破壊荷重の更なる損失を防止することができる。
・ストランド間への十分なエラストマー進入を確保しながら、最大直径フィラメントがスチールコードの外側に位置しているスチールコードの構成が依然として可能である。
【0019】
ストランドのスチールフィラメントが形成されたスチールは、0.40%(例えば、0.65%を超える)の最小炭素含有率、0.40%~0.70%のマンガン含有率、0.15%~0.30%のケイ素含有率、0.03%の最大硫黄含有率、0.30%の最大リン含有率(全てのパーセントは、重量パーセントである)を有する典型的な組成を有する通常の高炭素鋼である。微量の銅、ニッケル及び/又はクロムが存在するのみである。最小炭素含有率が約0.80重量%(例えば、0.775~0.825重量%)である場合、高張力鋼を指す。
【0020】
ストランドのスチールフィラメントは、少なくとも2000MPaの引張強度、好ましくは2700MPaを超える引張強度を有する一方、3500MPaなどの3000MPaを超える強度が受け入れられている。現在、最高4200MPaが非常に細い線で得られている。炭素含有率が0.65wt%を超える炭素を有する鋼からフィラメントを十分な程度まで冷間延伸することにより、このような高い引張強度を得ることができる。引張強度は、フィラメントの垂直断面積(平方ミリメートル(mm))で割られたフィラメントの破壊荷重(ニュートン(N))の比である。
【0021】
電解腐食(例えば、フィラメントが銅製である場合)、破壊荷重の低下(鋼は、最高予想引張強度を有する金属の1つであるため)、不均等荷重などの他の問題を引き起こさないように、最大直径フィラメントは、鋼製であることが非常に好ましい。しかし、これは、最大直径フィラメントが、有利な特性を有し得る他の金属製であることを先験的に排除しない。
【0022】
この用途に関連して、「エラストマー」は、熱硬化性(加硫又は熱処理を必要とする)又は熱可塑性であり得る弾性エラストマー材料である。
【0023】
熱硬化性エラストマーは、典型的に、天然ゴム又は合成ゴムなどのゴム材料である。NBR(アクリロニトリルブタジエン)、SBR(スチレンブタジエン)、EPDM(エチレンプロピレンジエン単量体)若しくはCR(ポリクロロプレン)又はシリコーンゴムのような合成ゴムが好ましい。当然のことながら、異なる添加剤を重合体に加えて、ゴム材料の特性を変更することができる。
【0024】
熱可塑性エラストマー材料は、例えば、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリアミド、ポリオレフィン混合物、熱可塑性共ポリエステル、熱可塑性フッ素重合体(例えば、ポリビニリデンジフルオリド又はポリオキシメチレン(POM))であり得る。これらの中で、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールから得られるか又はポリカーボネートから得られる熱可塑性ポリウレタンが最も好ましい。更に、これらの熱可塑性材料は、難燃性、摩耗改善充填材、有機又は無機性の摩擦制御充填材で完全なものにすることができる。
【0025】
更に好ましい実施形態において、少なくとも最大直径フィラメントは、磁化可能であり、即ち強磁性材料製である。強磁性材料は、1を上回る、好ましくは50を超える比透磁率を有する。低炭素鋼及び高炭素鋼は、磁化可能材料である。好ましくは、少なくとも最大直径スチールフィラメントは、残留磁化を示す。「残留磁化」は、磁場が除去されると残っている磁化である。
【0026】
スチールコードと平行に方向付けられた強い一定磁場にベルトを導くことにより、ベルトにおけるスチールコードを容易に磁化することができる。永久磁石を用いて又は定電流によって供給された電磁石により、磁場を生成することができる。ベルトにおけるスチールコードを磁化する代替方法は、エラストマーのベルトの少なくとも一方の端部を自由にして、電磁石又は永久磁石であり得る磁石の一方の極とスチールコードを接触させることである。高透磁率のために、磁場は、スチールコード内に閉じ込められたままである。更に、ベルトの他方の端部でスチールコードを反対側の磁極と接触させることができる。
【0027】
破壊が最大直径フィラメントで発生した場合、磁気的検出手段によって容易に検出可能な磁気双極子場(破壊フィラメントの一方の端部がS極であり、破壊フィラメントの他方の端部がN極である)が形成される。破壊最大直径フィラメントは、スチールコードの外周に主に位置しているため、フィラメントを重ね合わせることにより、スチールコードをより少なく磁気遮蔽するか又は磁気遮蔽しない。これは、最大直径フィラメントがスチールコードの内側に埋設されている先行技術コードと逆である。
【0028】
この磁気効果を最大化するために、局所磁気双極子の強度は、磁化質量と共に増加するため、最大直径フィラメントは、十分な質量を有するべきである。フィラメントの単位長さ当たりの質量は、フィラメントの直径の二乗と共に増加する。残りのフィラメントと十分異なる質量、従ってまた破壊荷重及び軸方向剛性に対する最大直径スチールフィラメントの寄与を行うために、最大直径フィラメントは、次に小さい直径のスチールフィラメントに対して少なくとも1%及び最大40%だけ又は5%~30%若しくは5%~25%だけ直径において大きくする必要がある。次に小さい直径のスチールフィラメントは、最大フィラメント直径の真下の直径を有するスチールフィラメントである。
【0029】
上述の推論に対する代替洞察は、スチールコードにおける全スチールフィラメントの全金属断面積に対する最大直径スチールフィラメントのそれぞれの1つの断面積の比が2%~10%又は3%~10%、例えば3%~7%であることである。このような比は、検出可能な磁気及び電気特性の十分な局所ひずみになる。
【0030】
ベルトにおける破壊の検出能を更に向上させるために、本発明者らは、スチールコードにモノフィラメントを追加することを提案する。モノフィラメントは、金属製であり、最大直径フィラメントのグループに属する。モノフィラメントは、ストランドと同じコード撚り長及び方向でスチールコードに撚られている。モノフィラメントは、スチールコードの半径方向外側に位置しており、ストランド間の谷の一部又は全部を満たす。モノフィラメントの直径は、隣接ストランド間の隙間よりも大きい。これにより、隣接ストランドと接触しており、隣接ストランドによって支持され、支えられるモノフィラメントが得られる。隣接ストランド間の隙間は、ストランドに外接させる2つの円間の最短距離である。本発明の利点を得るために、1つのみのモノフィラメントが存在すれば十分である。しかし、スチールコードの安定性のために、ストランド間の谷の全部を1つのモノフィラメントで満たすことが好ましい。モノフィラメントの数は、従って、ストランドの数と等しい。モノフィラメントは、スチールコードの全強度に更に寄与しながら、ベルトの摩耗に対する「指標線」としての機能を果たす。
【0031】
最大直径フィラメントがスチールコードの半径方向外側に間欠的に存在する上述の実施形態と対照的に、これらのモノフィラメントは、スチールコードの外側に常に見付けられるはずである。従って、これらのフィラメントが破壊した場合、これらのフィラメントを常に容易に検出可能であり、これは、利点である。
【0032】
選択される検出方法により、モノフィラメントは、異なる金属製であり得る。例えば、電気的検出を選択する場合、高電気抵抗を有するように線を選択し得る。その点において、AISI 316、AISI 304(「AISI」は、「米国鉄鋼協会(American Iron and Steel Institute)」を表す)などのステンレス鋼は、通常の炭素鋼よりも4~5倍高い抵抗率を有するため、これらのステンレス鋼の使用が推奨される。付随して、抵抗の変化は、炭素鋼を使用する場合よりも大きい。しかし、上述のステンレス鋼は、強磁性でなく、破壊を磁気的手段によって検出することができない。代わりに、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金フィラメントのような非スチールフィラメントを想定することもできる。しかし、その場合、破壊時の抵抗の変化が小さく、この抵抗の変化を検出するのが一層困難である。
【0033】
電気抵抗を例えば個々のスチールコードに沿って追跡することができる(米国特許第8,686,747B1号明細書)。しかし、全フィラメントが平行に接触しているため、単一フィラメントの破壊は、抵抗の微小な変化を引き起こすのみである。同じ場所で破壊した幾つかのフィラメントがある場合に限り、例えばスチールコードの完全な破壊の場合、異常を検出する。従って、抵抗自体ではなく、抵抗の変化を検出する方法は、より適切である場合がある(欧州特許第2 367 747B1号明細書)。
【0034】
より好ましい電気的方法は、接地部材とベルトにおけるスチールコードとの間の任意の接触を検出することであり得(欧州特許第2 172 410B1号明細書)、この電気的方法は、当然のことながら、エラストマージャケットが破壊フィラメントによって貫通されているか、又はスチールコードが表面に存在する程度までジャケットが摩耗していると仮定する。この検出方法を使用する場合、本発明者らは、強くて若干脆いモノフィラメントのための鋼の使用を提案する。例えば、非常に高い引張強度(例えば、3700MPaを超える)まで延伸されている炭素鋼フィラメントである。代わりに、マルテンサイト金属組織を有するスチールフィラメントを使用することができる。
【0035】
磁気的検出方法を使用する場合、モノフィラメントのための低炭素鋼は、この低炭素鋼の透磁率が、比較的高い残留磁気と組み合わせて高いため、非常に好ましい。低炭素鋼は、0.04wt%~0.20wt%の炭素含有率を有する組成を有する。全組成は、下記のように、0.06wt%の炭素含有率、0.166wt%のケイ素含有率、0.042wt%のクロム含有率、0.173wt%の銅含有率、0.382wt%のマンガン含有率、0.013wt%のモリブデン含有率、0.006wt%の窒素含有率、0.077wt%のニッケル含有率、0.007wt%のリン含有率、0.013wt%の硫黄含有率であり得る。可能な磁気的検出システムは、欧州特許第1 173 740B1号明細書に記載されている。
【0036】
当然のことながら、モノフィラメントは、ストランドのフィラメントと同じ鋼製であり得る。これは、スチールコードを製造しやすくし、更にフィラメントの破壊の検出を可能にする。なぜなら、フィラメントは、十分大きい直径を有し、且つ/又はスチールコードの全断面積の十分な断面積を占めるからである。その上、フィラメントは、高透磁率を有し、電気伝導性を有する。
【0037】
好ましくは、モノフィラメントの直径は、ストランドの直径よりも小さく、例えばストランドの直径の半分よりも小さいか又はストランドの直径の40%よりも小さい。上述のように、いずれの場合にも、モノフィラメントの直径は、隣接ストランド間の隙間よりも大きくする必要があり、モノフィラメントは、最大直径フィラメントのグループに属するため、モノフィラメントの直径は、スチールコードにおける任意の他のフィラメントよりも大きい。
【0038】
更に好ましい実施形態において、モノフィラメントは、スチールコードのストランドに対する外接円内にとどまる。「スチールコードのストランドに対する外接円」は、全ストランドを依然として囲み、モノフィラメントを必ずしも囲まない最小直径を有する円である。しかし、エラストマー製品に加工するのを一層容易にするより丸い全断面をスチールコードが得るように、モノフィラメントは、その円内にとどまることが好ましい。
【0039】
別の好ましい実施形態において、前記スチールコードの最大直径フィラメントのグループは、モノフィラメントからなり、モノフィラメントと等しく、一致する。これは、モノフィラメントがスチールコードにおいて最大フィラメントであることを意味する。従って、モノフィラメントは、スチールコード、従ってベルトの状態の早期警告としての機能を果たす。1つのモノフィラメントも破壊していない限り、ベルトは、依然として良好な状態である。
【0040】
特定の実施形態において、モノフィラメントは、2000MPa未満の引張強度を有する。より小さい冷間延伸変形を与えることにより、且つ/又はより低い炭素含有率、例えば0.40wt%の炭素を有する鋼若しくは0.10wt%の炭素などのより低い炭素鋼を使用することにより、例えば2000MPa未満(例えば、500MPa~2000MPa)の引張強度としてより低い強度を得ることができる。これらのモノフィラメントは、フィラメントの最大直径だけでなく最低引張強度も有するため、モノフィラメントは、繰り返し曲げの下で最初に破壊することになる。
【0041】
このような低引張強度のモノフィラメントを使用することにより、全強度が減少するが、これは、必ずしも問題ではない。例えば、まず、スチールコードは、モノフィラメントなしでベルトの所要破壊荷重を満たすように設計可能である。次に、そのスチールコードにモノフィラメントを追加することにより、ベルトの破壊荷重は、単純に増加され得る。ロープ又はベルトなどのエレベーターの引張部材の破壊荷重は、元の破壊荷重の80%を決して下回るべきではないという許容安全基準である。全モノフィラメントの破壊荷重の総計がスチールコード(モノフィラメントを含む)の破壊荷重の20%未満のままであるように、モノフィラメントの数、直径及び引張強度を選択することにより、全モノフィラメントが全く同じ場所で破壊した場合でも、上述の安全基準を満たすことを保証する。これは、(ベルト締め具において又はベルトの非常に局所的な損傷によってでない限り)実際にはめったに起こり得ない。また、ベルトにおける全スチールコードの全モノフィラメントが同じ場所で破壊した場合でも、エレベーター内の乗客の安全性を損なわない。
【0042】
通常、モノフィラメントの破壊は、異なるスチールコードにわたって及びベルトの長さにわたって点在しているはずである。孤立した破壊において、ベルトの破壊荷重は、1つのモノフィラメントの破壊荷重で局所的に低下する。破壊からある程度(例えば、10のコード撚り長)離れた場所において、破壊フィラメントがエラストマーによってスチールコードに保持され、スチールコードに撚られているため、ベルトの破壊荷重は、正常なレベルに既に戻される。モノフィラメントは、破壊するように特別に設計されているが、エレベーター内の乗客に決して危険はない。この直観に反した設計手法をとることが本発明者らの利点である。通常の設計基準は、強くて破壊しないフィラメントを有するスチールコードを設計することである。
【0043】
更に好ましい実施形態において、モノフィラメントを、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン(TPU)、ポリオキシメチレン(POM)を含む電気絶縁層で覆い得るか、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペロフルオロアルコキシ(PFA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)などのポリフッ化炭素又は同様の重合体を、ホモ重合体又はこれらの混合物として使用することができる。このようにして、個々のモノフィラメントの破壊を、そのモノフィラメント上の抵抗を監視することを条件として検出することができる。この絶縁層が摩耗した場合、モノフィラメントとケーブルとの間の接触を検出することもできる。
【0044】
更に好ましい実施形態において、モノフィラメントの少なくとも1つ、又は2つ以上、又は全部を、間隔を置いて局所的に弱める。「局所的に弱める」は、短い長さにわたり、例えばモノフィラメントの直径の5倍未満又は2倍未満にわたり破壊荷重を局所的に低下させることを意味する。局所的に線を機械的に変形させることにより、例えば線を挟む、絞る又は平坦化することにより、このような弱めることを行うことができる。代わりに、鋼の金属組織を局所的に変更することにより、例えばレーザーパルスを用いて線を局所的に加熱することにより、この弱めることを行うことができる。「間隔を置いて」は、モノフィラメントの長さに沿って弱めることが繰り返されることを意味する。繰り返しは、不規則、即ちランダムであり得るが、好ましくは、規則正しい又は周期的である。局所的に弱められた場所間の距離は、コード撚り長の1/10~100であり得る。弱めることの目的は、充填材線が望ましく制御可能に破壊する制御された弱い場所を有することである。
【0045】
更に非常に好ましい実施形態によれば、ベルトは、ストランドが場合によりモノフィラメントと一緒に撚られている芯を含むスチールコードを含む。芯は、糸に撚られている合成若しくは天然有機繊維を含むか又は合成若しくは天然有機繊維からなり得る。更に、糸は、コアロープに撚られ得る。有機繊維は、純炭素を含む炭素化学ベースの重合体で形成されている繊維を意味する。これらの繊維は、綿、亜麻、麻、羊毛、サイザル麻又は同様の材料などの天然起源であり得る。代わりに、糸は、炭素繊維、ポリプロピレン、ナイロン又はポリエステルで形成可能である。好ましくは、糸は、液晶高分子(LCP)、アラミド、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール及びこれらの混合物の繊維で形成されている。
【0046】
より好ましくは、芯は、芯ストランドに撚り合わせられているスチールフィラメントを含むか又はスチールフィラメントからなる。可能な芯ストランドは、下記の通りであり得る。
・単一スチールフィラメント。
・芯ストランドに撚り合わせられた2つ、3つ、4つ又は5つのスチールフィラメント。
・3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は「n」個のフィラメントがそれぞれ撚られた単一スチールフィラメントを表す1+3、1+4、1+5、1+6、1+7又は1+nなどの単一層ストランド。
・各連続層がより多くのフィラメントを含む、3+6、3+9、1+6+12、3+9+15、4+10+16などの層状型コード。層は、順に重ねて撚られ、各層は、撚り長及び/又は撚り方向で少なくとも異なる。
・全フィラメントが同じ撚り方向及び撚り長で撚られた単一撚りコード(例えば、3|9、3|3|6、1|5|5|5、1|6|6|6などの小型コード、ウォリントンストランド、シールストランド)。
【0047】
平行円形アンビルを有するマイクロメーターにより、芯直径を測定することができ、このアンビルは、少なくとも撚り長(例えば、14mm)の直径を有する。芯直径としてのこの用途のために、最大直径は、ストランドと垂直な面を横切る異なる角度にわたって判定されると見なされる。同じように、ストランドの直径を判定することができる。好ましい実施形態において、芯直径は、ストランド直径よりも小さい。
【0048】
外ストランドの数を3つ、4つ又は5つに限定すると、使用中に安定しているスチールコードを得たい場合、芯直径は、外ストランド直径よりも必然的に小さい。「使用中に安定している」は、フィラメント及びストランドが使用中に互いに過度に動かないことを意味する。更に、ストランドの数が3つ、4つ又は5つである場合、ストランド間に形成された谷がより大きいため、モノフィラメントの直径が最大である。例えば、6つのストランドを使用する場合、ストランドの各々は、7×7構成として一般に知られている、6つの外スチールフィラメントが撚られたスチールフィラメントを含み、モノフィラメントの直径は、外スチールフィラメントと略等しく、あまり好ましくない状況である。
【0049】
スチールコードの更に好ましい実施形態において、モノフィラメントは、少なくとも0.25mmの直径を有する。場合により、他の全フィラメントは、従って、0.25mmよりも小さく、モノフィラメントは、スチールコードにおいて最大になる。好ましくは、スチールコードの全直径は、3mm未満、又は2mm未満、又は1.8mm(例えば、約1.5mm)未満である。外ストランド間の谷の深さは、スチールコードの直径に対応するため、大き過ぎる直径は、初期故障及び過度の曲げ剛性を引き起こす非常に大きい充填材直径になる。従って、スチールコードを、他の特性で譲歩することなく、より大きい直径に単にサイズ変更することができない。従って、本発明者らは、0.50mm又は0.40mm未満(例えば、0.35mm以下)の最大直径を有するモノフィラメントに本発明の実際的な使用を限定する。他の全フィラメントも必然的にその直径未満である。
【0050】
ベルトにおける破壊フィラメントがエラストマージャケットを貫通して目に見えるようになるか、又は破壊を検出する接地にローラーを接触させることができるために、ベルトの面といずれか1つのスチールコードとの間の最近接距離が十分短いことが好ましい。例えば、この最近接距離は、最大直径スチールフィラメントの直径の10倍、5倍、4倍又は3倍よりも小さい。一方、この距離は、スチールコードに至るまでベルト面を摩耗させる時間がスチールコードにおける最初の破壊の発生よりも長くなる必要があるという意味で小さ過ぎるべきではない。例えば、最近接距離は、最大直径フィラメントの直径の半分、1倍又は2倍よりも大きくなるべきである。「ベルトの面といずれか1つのスチールコードとの間の最近接距離」は、ベルトの垂直断面で測定されるようなスチールコードの外面とベルトの外面との間の全ての最短距離を意味する。この設計基準を上述の全ての実施形態に適用することができる。
【0051】
ここで、フィラメント破壊が発生した場合、下記のように異なる評価検討基準を適用することができる。
・最大直径フィラメントの単一破壊は、ベルトが摩耗し始めたが、依然としてベルトを交換する理由ではないことを示す兆候である。
・破壊の局所的な集中をベルトに沿って特定の長さの範囲内で検出した場合、これは、ベルトが寿命末期に近づいていることを示す兆候である。
・ベルトにおける破壊の総数が規定の数を超えた場合、ベルト交換を必要とする。
当然のことながら、他の戦略を考慮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1a】本発明の原理を具体化するベルトの断面図である。
図1b図1aのベルトで使用されるスチールコードの断面の拡大図である。
図2】本発明のベルトで用いるモノフィラメントを有するスチールコードである。
図3】本発明のベルトのためのモノフィラメントを有する別のスチールコードである。
図4】局所的な平坦部を有するモノフィラメントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1aは、ベルトの断面を有する本発明のベルトを示す。このベルトは、「L」で示す長さ寸法、「W」で示す幅及び「t」で示す厚さを有する。スチールコード101は、「D」で示す直径を有する。スチールコードは、この場合、当技術分野で知られているようにエステルポリオールベースの熱可塑性ポリウレタンである重合体104で囲まれている。ベルトの面とスチールコードのいずれか1つとの間の最近接距離を「Δ」で示す。例えば、釣り合いのとれた物の見方をすれば、ベルトの長さは、数百メートルであり得る一方、ベルトの幅は、20mmであり、ベルトの厚さは、2.83mmである。スチールコードの直径「D」は、1.77mmである。ベルトの面とスチールコードのいずれか1つとの間の最短又は最近接距離「Δ」は、0.53mmである。
【0054】
スチールコード101の構造を図1bに拡大図で示す。スチールコード101は、S方向に17mmの撚り長を有する芯108に巻かれた5つのストランド102を含む。ストランド102は、5つの外スチールフィラメント106がZ方向に12mmの撚りで撚られた中心スチールフィラメント110からなる。外フィラメントの直径は、0.23mmである。中心フィラメント110の直径は、0.18mmである。ストランドの外フィラメントよりも大きいフィラメントを芯が含まない限り、芯の構造は、本発明にとってそれ自体重要でない。この場合、スチールフィラメントを含む芯であって、直径0.18mmの5つのフィラメントがZ方向に10mmの撚りで巻かれた直径0.15mmの中心フィラメントで形成された芯が選択されている。ストランド間の隙間は、0.028mmである。ベルトのねじり挙動は、隣接スチールコード間のスチールコードの撚り方向を反映するのが有利である。
【0055】
従って、最大直径フィラメントのグループを、サイズ0.18mm及び0.15mmの残りのフィラメントよりも大きいサイズ0.23mmの外スチールフィラメント106によって形成する。これらの最大直径フィラメントは、0.18mmの中心フィラメントの周りに螺旋を描く。それから、ストランド自体を螺旋形状で芯の周りに撚る。従って、最大直径フィラメントのそれぞれの1つは、スチールコードの特定の長さにわたってスチールコードの面になる。換言すれば、最大直径フィラメントは、スチールコードの半径方向外側に間欠的に存在する。
【0056】
この例において、0.23mmの最大直径フィラメントは、サイズ0.18mmの次に小さい直径のフィラメントに対して27.8%大きい。コードの全断面積は、1.31mmである一方、単一最大直径フィラメントの断面積は、0.0415mm、即ちコードの全断面積の3.2%である。ベルトの面とスチールコードのいずれか1つとの間の最近接距離は、最大直径フィラメントの直径の2.3倍であることに留意されたい。
【0057】
最大直径フィラメントは、炭素含有率約0.725wt%の炭素を有する炭素鋼製である。この鋼は、約100の比透磁率を有する。炭素鋼は、強磁性であるため、使用前又は使用中でも炭素鋼を容易に磁化することができる。使用中、例えば直流(DC)電磁石によって生成される一定磁場にベルトを通すことができる。直流(DC)磁石は、永続的にオンである必要がなく、ときに、例えばベルト検査前に、残留磁気の低下の復元は、磁気的検出器によって任意の破壊最大直径フィラメントを検出することができるのに十分である。
【0058】
図2は、図1aのベルトにおけるスチールコードのための代替の実施形態を説明する。スチールコード200は、S方向に16.3mmの撚り長を有する芯208に撚られた5つのストランド202を含む。ストランド202は、Z方向に12mmの撚りで直径0.17mmの中心スチールフィラメント210に撚られた直径0.23mmを有する5つの外スチールフィラメント206で形成されている。芯208は、Z方向に10mmの撚りで撚られた直径0.22mmの3つのスチールフィラメント209で形成されている。構成に関して特有であるのは、スチールコードの半径方向外側にストランド間の全部の谷を満たし、スチールコードにおけるストランドと同じ撚り及び方向を有する5つのモノフィラメント204、204’、204’’、204’’’及び204’’’’をスチールコードが含むことである。これらのモノフィラメントは、0.25mmの直径を有し、モノフィラメントは、最大フィラメントであるため、モノフィラメントは、最大直径フィラメントのグループである。
【0059】
このコードの構成を下記のようなコード式で適宜表すことができる。
[(3×0.22)10z+5×(0.17+5×0.23)12z|5×0.25]16.3S
スチールコードの鏡像では、あらゆる「z」を「s」と置換し、逆も同様である。
【0060】
この式を下記のように読み取る必要がある。
・小数は、フィラメントの直径を示し、整数は、フィラメント又はストランドの数を示す。
・括弧は、1ステップで撚り合わせられるフィラメント及び/又はストランドを含む。
・副添字は、撚り長(mm)及び方向を示す。
・プラス記号は、「+」の両側の項目が撚り合わされ、異なる撚り長及び/又は方向を有することを示す。
・一画は、「|」の両側の項目を同じ撚り長及び/又は方向で撚り合わせることを示す。
【0061】
ストランドの撚り方向「z」は、コードの撚り方向「S」と逆である。モノフィラメント204~204’’’’の全ては、滑らかな外面を有するスチールコードになるストランド202に接する外接円212内にとどまる。モノフィラメント204の直径は、0.25mmであり、この直径は、ストランドフィラメント206の次に小さい直径0.23mmよりも大きい。実際に、モノフィラメントの直径は、次に小さい直径のスチールフィラメントに対して8.7%大きい。更に、モノフィラメントの直径は、ストランド間の隙間(この場合、0.008mm)よりも大きい。
【0062】
モノフィラメントは、炭素鋼よりも5倍高い電気抵抗を有するAISI 304ステンレス鋼(SS)製である。更に、モノフィラメントは、他の炭素鋼フィラメントの引張強度よりも低い1750MPaの著しく低い引張強度を有する。従って、モノフィラメントは、ベルトに対する優れた摩耗指標である。しかし、AISI 304オーステナイトステンレス鋼の透磁率は、線延伸による冷間加工後でも10未満のままであるため、破壊を磁気的手段によって容易に検出することができない。
【0063】
簡単な計算によれば、エレベーターベルトにおけるスチールコードの全長での1つのモノフィラメントの破断は、スチールコードにわたって電気抵抗の僅かな変化を引き起こすのみであることが分かる。電気的手段による検出を向上させるために、電気絶縁プラスチックでステンレス鋼を覆うことがより好ましい。モノフィラメントは、従って、残りのスチールコードから電気的に絶縁されるようになるため、並行してとられた場合でも、個々のモノフィラメントの抵抗を測定することにより、モノフィラメントの破壊を容易に検出することができる。
【0064】
下記の比較表1は、モノフィラメントなしの0.725wt%の炭素の先行技術コード(「先行技術」)と比較して、0.725%の炭素鋼を使用した場合のコードの特徴を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
モノフィラメントのそれぞれの1つは、コードの全断面積の3.25%を占める。
【0067】
破壊荷重に対するモノフィラメントの寄与を下記の手順によって容易に評価することができる。
・まず、スチールコードの破壊荷重を判定する。その結果は、「A」ニュートンである。
・スチールコードからモノフィラメントを除去する。モノフィラメントは、スチールコードの外側にあるため、この除去を容易に実行することができる。
・残りのコードの破壊荷重を測定する。その結果は、「B」ニュートンである。
総破壊荷重に対するモノフィラメントの寄与は、従って、パーセントで100×(A-B)/Aである。0.725wt%Cの上述の場合、破壊荷重に対するモノフィラメントの寄与は、8.5%である。従って、全モノフィラメントが使用中に同じ場所で破壊した場合、元の破壊荷重の91.5%が依然として残る。モノフィラメントの破壊荷重を問わず、モノフィラメントは、スチールコードの破壊荷重に常に寄与することに留意すべきである。
【0068】
第2の実施形態によれば、下記の構成のコード300を提案し、このコードの断面を図3に示す。
[(3×0.15)9z+4×(0.19+5×0.265)14z|4×0.28]16.3S
鏡像は、全て逆の撚り方向を有する。ストランド間の隙間は、0.009mmである。
【0069】
この場合、制御された弱い場所を得るために、直径0.28mmのモノフィラメント304、304’、304’’、304’’’は、引張強度を局所的に減らすようにギザギザがつけられている。このために、互いに同期されて動く2つの歯車間にモノフィラメントを導く。歯車の歯が互いに面する(歯車のかみ合いがない)ように歯車間の相を調整する。歯車の歯間の隙間をモノフィラメントの直径の0.70~0.95に調整する。ここで、線を2つの歯車間に導くと、2つの平坦部が互いに直径方向に形をなす。これを図4に示し、線304は、平坦部320間で円形の断面324を示す。線の直径の2倍未満である平坦部において、断面326は、平坦化されている。
【0070】
平坦部320は、スチールコードの破壊荷重の全体的な低下が2%低くなるモノフィラメントの10%低い破壊荷重になる。平坦部は、制御された破壊場所になる。全モノフィラメントが同じ場所で破壊された場合、破壊荷重は、14.3%低下するのみであり、即ち元の破壊荷重の85.7%が依然として維持されている。
【0071】
モノフィラメントを局所的に平坦化するため、平坦部は、モノフィラメントと外ストランドとの間の隙間を維持する。このような隙間は、スチールコードの芯へのエラストマー浸透を向上させると期待され、更なる利点である。
図1a-1b】
図2
図3
図4