(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】材料の微細構造のモデリングおよびシミュレーション
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230616BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20230616BHJP
【FI】
G06F30/20
G16C60/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021164449
(22)【出願日】2021-10-06
【審査請求日】2021-11-17
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514180812
【氏名又は名称】ダッソー システムズ アメリカス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェリクス ハンケ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ ウェスコット
(72)【発明者】
【氏名】サビーヌ シュヴァイツァー
(72)【発明者】
【氏名】ラリサ スブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】クワン スキナー
(72)【発明者】
【氏名】レイニア アッカーマンズ
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-218787(JP,A)
【文献】特開2016-024178(JP,A)
【文献】特開2013-152658(JP,A)
【文献】特開2020-004356(JP,A)
【文献】Ngandjong, A.C. et al. ,Multiscale simulation platform linking lithium ion battery electrode fabrication process with performance at the cell level,Journal of Physical Chemistry Letters [online],American Chemical Society,2017年,Vol. 8,pp. 5966-5972,[検索日 2022.09.29], インターネット,URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.jpclett.7b02647
【文献】小野寺真里 外8名,色素増感太陽電池マルチスケールシミュレーションによるデバイス特性理論解析,第50回電池討論会 講演要旨集,(社)電気化学会電池技術委員会,2009年11月30日,p. 268
【文献】BERTEI, A. et al.,Microstructural modeling for prediction of transport properties and electrochemical performance in SOFC composite electrodes,Chemical Engineering Science [online],Elsevier,2013年,Vol. 101,pp. 175-190,[検索日 2022.12.06], インターネット,URL:https://sciencedirect.com/science/article/pii/S0009250913004399
【文献】YUAN, J. et al.,On mechanisms and models of multi-component gas diffusion in porous structures of fuel cell electrodes,International Journal of Heat and Mass Transfer [online],Elsevier,2014年,Vol. 69,pp. 358-374,[検索日 2022.12.06], インターネット,URL:https://sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0017931013008922
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
G16C 10/00 -99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料のモデルを生成する
ためにコンピュータ
が実行する方法であって、
前記コンピュータが、
材料の単位を表すモデルの少なくとも1つのセクションを選択する
ステップと、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更、および前記材料の単位を表す前記モデルの残りの部分に対する提案された変更に基づいて、前記モデルの少なくとも1つの物理的特性を推定する
ステップであって、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションを、前記少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たすことと、
前記残りの部分を、前記残りの部分の材料を表すビーズで満たすことと
によって、前記選択された少なくとも1つのセクションに対する前記提案された変更、および前記残りの部分に対する前記提案された変更に従って、前記モデルを更新することと、
前記更新されたモデルを使用して前記少なくとも1つの物理的特性を計算することにより、前記少なくとも1つの物理的特性を推定することと
を含む、ステップと、
前記推定された少なくとも1つの物理的特性が前記少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで、前記選択と前記推定を繰り返す
ステップと
を
実行する方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのセクションを満たす前記ビーズは固体を表す、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記残りの部分を満たす前記ビーズは流体を表す、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのセクションは、第1の閉鎖容積、および前記第1の閉鎖容積を包含する第2の閉鎖容積から構成され、前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションを、前記少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たすことは、
前記第1の閉鎖容積を、前記第1の閉鎖容積の材料を表すビーズで満たすことと、
前記第2の閉鎖容積を、前記第2の閉鎖容積の材料を表すビーズで満たすことと
を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の閉鎖容積を満たす前記ビーズが、前記第1の閉鎖容積を包含するコーティングを表す、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
材料のモデルを生成するためにコンピュータが実行する方法であって、前記コンピュータが、
材料の単位を表すモデルの少なくとも1つのセクションを選択するステップと、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更、および前記材料の単位を表す前記モデルの残りの部分に対する提案された変更に基づいて、テンプレートを使用して、前記モデルの少なくとも1つの物理的特性を推定するステップと、
前記推定された少なくとも1つの物理的特性が前記少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで、前記選択と前記推定を繰り返すステップと、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションを、前記少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たすことと、
前記残りの部分を
、前記残りの部分の材料を表すビーズで満たすことと
によって、前記推定された少なくとも1つの物理的特性が前記少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで前記選択および推定を繰り返した後、前記選択された少なくとも1つのセクションに対する前記提案された変更、および前記モデルの前記残りの部分に対する前記提案された変更に従って前記モデルを更新する
ステップと
を
実行する方法。
【請求項7】
前記単位は3次元(3D)繰り返し単位である、請求項1
乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記3D繰り返し単位は立方体または
直方体である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのセクションは閉鎖容積である、請求項1
乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記閉鎖容積は、球、円柱、または楕円体である、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの物理的特性は、多孔度および屈曲度のうちの少なくとも1つである、請求項1
乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
材料のモデルを生成するためのシステムであって、
プロセッサと、
コンピュータコード命令が格納されたメモリとを備え、前記プロセッサおよび前記メモリは、前記コンピュータコード命令を用いて、前記システムが、
材料の単位を表すモデルの少なくとも1つのセクションを選択し、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更、および前記材料の単位を表す前記モデルの残りの部分に対する提案された変更に基づいて、前記モデルの少なくとも1つの物理的特性を推定し、
前記推定は、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションを、前記少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たすことと、
前記残りの部分を、前記残りの部分の材料を表すビーズで満たすことと
によって、前記選択された少なくとも1つのセクションに対する前記提案された変更、および前記残りの部分に対する前記提案された変更に従って、前記モデルを更新することと、
前記更新されたモデルを使用して前記少なくとも1つの物理的特性を計算することにより、前記少なくとも1つの物理的特性を推定することと
を含み、
前記推定された少なくとも1つの物理的特性が前記少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで、前記選択と前記推定を繰り返す
ことをもたらすように構成されているシステム。
【請求項13】
前記少なくとも1つのセクションを満たす前記ビーズは固体を表し、前記残りの部分を満たす前記ビーズは液体または気体を表す、請求項
12に記載のシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つのセクションは、第1の閉鎖容積、および前記第1の閉鎖容積を包含する第2の閉鎖容積から構成され、前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションを、前記少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たすために、
前記プロセッサおよび前記メモリは、前記コンピュータコード命令を用いて、前記システムが、
前記第1の閉鎖容積を、前記第1の閉鎖容積の材料を表すビーズで満たし、
前記第2の閉鎖容積を、前記第2の閉鎖容積の材料を表すビーズで満たす
ことをもたらすように
さらに構成されている、請求項
12または13に記載のシステム。
【請求項15】
前記第2の閉鎖容積を満たす前記ビーズは、前記第1の閉鎖容積を包含するコーティングを表す、請求項
14に記載のシステム。
【請求項16】
材料のモデルを生成するためのシステムであって、
プロセッサと、
コンピュータコード命令が格納されたメモリとを備え、前記プロセッサおよび前記メモリは、前記コンピュータコード命令を用いて、前記システムが、
材料の単位を表すモデルの少なくとも1つのセクションを選択し、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更、および前記材料の単位を表す前記モデルの残りの部分に対する提案された変更に基づいて、テンプレートを使用して、前記モデルの少なくとも1つの物理的特性を推定し、
前記推定された少なくとも1つの物理的特性が前記少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで、前記選択と前記推定を繰り返し、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションを、前記少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たし、
前記残りの部分を、前記残りの部分の材料を表すビーズで満たす
ことによって、前記推定された少なくとも1つの物理的特性が前記少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで前記選択および推定を繰り返した後、前記選択された少なくとも1つのセクションに対する前記提案された変更、および前記モデルの前記残りの部分に対する前記提案された変更に従って、前記モデルを更新する
ことをもたらすように構成されてい
るシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つの物理的特性は、多孔度および屈曲度のうちの少なくとも1つである、請求項
12乃至16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
コンピュータプログラムであって、
材料の単位を表すモデルの少なくとも1つのセクションを選択
するステップと、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更、および前記材料の単位を表す前記モデルの残りの部分に対する提案された変更に基づいて、前記モデルの少なくとも1つの物理的特性を推定
するステップであって、
前記モデルの前記選択された少なくとも1つのセクションを、前記少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たすことと、
前記モデルの前記残りの部分を、前記残りの部分の材料を表すビーズで満たすことと
によって、前記選択された少なくとも1つのセクションに対する前記提案された変更、および前記残りの部分に対する前記提案された変更に従って、前記モデルを更新することと、
前記更新されたモデルを使用して前記少なくとも1つの物理的特性を計算することにより、前記少なくとも1つの物理的特性を推定することと
を含む、ステップと、
前記推定された少なくとも1つの物理的特性が前記少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで、前記選択と推定を繰り返す
ステップと
をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラ
ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料の微細構造のモデリングおよびシミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願)
この出願は、2020年10月8日に出願された米国仮出願第63/089,087号の利益を主張する。上記出願の全教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
材料の微細構造のモデルを生成し、シミュレートするための既存のアプローチには、2つの一般的な種類、マクロスケールモデリングおよびメソスケールモデリングがある。マクロスケールモデリングの場合、要素は離散化されたシミュレーションボックスで「材料」または「材料」ではないと定義される。このマクロスケールモデリングは、マクロスケールモデルで微細構造を説明する方法を提供する。メソスケールモデリングは、シミュレーションセルをさまざまなサイズの球形粒子で満たし、メソ構造近似を提供する。ただし、メソスケールモデリングでは、最終的に、モデルは球形粒子のみを有する。これは大幅な近似である。マクロスケール法とメソスケール法はどちらも、現実世界の材料とその派生特性をほとんど表していない理想的な構造を生成する。微細多孔質構造モデルを生成するための原子論的アプローチが存在するが、原子論的レベルでは、処理可能なシステムのサイズと時間スケールは制限される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Jinliang Yuan, Bengt Sunden, On mechanisms and models of multi-component gas diffusion in porous structures of fuel cell electrodes, International Journal of Heat and Mass Transfer, Volume 69, 2014, pages 358-374,
【発明の概要】
【0005】
したがって、材料の微細構造を正確にモデル化およびシミュレートするための機能が必要である。実施形態は、そのような機能を提供する。本発明の実施形態は、材料の多孔質微細構造のための化学的および物理的に現実的なコンピュータモデルを生成するための効率的な方法を提供する。これは、ナノメートルスケール以上での材料性能のシミュレーションを改善するのに役立つ。他の例の中でもとりわけ、実施形態は、電池電極をモデル化およびシミュレートするために実施することができる。さらに、実施形態は、他の例の中でもとりわけ、コーティング、複合材料、配合物、石油増進回収、および触媒作用など、ナノスケールで多孔質の任意の材料をモデル化およびシミュレートするために使用することができる。実施形態では、モデルが生成された後、生成されたモデルを使用して、モデルが表す材料の実世界での使用をシミュレートすることができる。例示的な実施形態では、構築されたモデルは、当業者に知られている原理に従ってシミュレーションで使用される。
【0006】
実施形態はまた、複数の材料(例えば、他の例の中でもとりわけ、表面コーティングまたは不均一構造を有する材料)から構成される実世界の材料構造をより良くモデル化およびシミュレートするために使用することができる。
【0007】
例示的な実施形態は、反復的かつ確率的プロセスを実行して、材料の微細構造の現実的なコンピュータモデルを取得する計算方法を提供する。そのような実施形態は、モデル化される材料の3次元(3D)繰り返し単位を表す空のボックスから始まり、そのボックスの1つまたは複数の小さなセクションがランダムに選択される(ステップ1)。次に、そのボックスのランダムに選択されたセクションは、所定の密度の材料を表すビーズで満たされる(ステップ2)。次に、結果のモデルの物理的特性、たとえば、多孔度(固体の割合と流体の割合)と屈曲度とが計算される(ステップ3)。計算された物理的特性に応じて、ステップ1の結果が使用され、ボックスの1つまたは複数の新しいセクションがランダムに選択されて材料を表し、ビーズで満たされる(ステップ1と2を繰り返す)。このプロセスは、所望の物理的特性が達成されるまで繰り返される。上記プロセスを繰り返すことにより、さまざまなモデルが生成され、目的の物理的特性を持つ(すなわち、非限定的な例についての実世界の既知の材料特性と適合する)多孔質材料の最終的な統計的に平均化されたモデルを取得できる。
【0008】
代替の実施形態は、適切な設計が識別された後、ステップ1および3を繰り返し、ステップ2を実行して、実際のモデルを作成する。そのような実施形態では、ボックスの1つまたは複数の小さなセクションがランダムに選択される(ステップ1)。次に、選択されたセクションが仮に固体で満たされ、選択されていない領域が流体(例えば、気体および/または液体)であるモデルの物理的特性が推定される。推定された物理的特性が所望の物理的特性(関心のある物理的特性)に適合する場合、方法は続行し(選択されたセクションをビーズで関連付けるか、そうでなければ満たす)、モデルを作成する。所望の物理的特性が所望の基準を満たしていない場合は、プロセスが繰り返される。
【0009】
さらに別の実施形態は、材料のモデルを生成するためのコンピュータ実装方法を対象とする。そのような実施形態は、材料の単位を表すモデルの少なくとも1つのセクションを選択することから始まる。次に、モデルの少なくとも1つの物理的特性は、(i)モデルの選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更、および(ii)材料の単位を表すモデルの残りの部分に対する提案された変更に基づいて推定される。推定された少なくとも1つの物理的特性が要件を満たしている場合、たとえば、ユーザまたはシステムが指定した少なくとも1つの特性の値の場合、方法は終了するか(少なくとも1つの物理的特性を推定するためにモデルが作成された場合)、または方法は提案された変更に従ってモデルを作成することによって続行する。推定された特性が要件を満たさない場合、推定された少なくとも1つの物理的特性が少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで、選択および推定のステップが反復される。実施形態は、モデルの任意の所望の物理的特性(関心のある物理的特性)を推定することができる。例えば、実施形態は、多孔度および/または屈曲度を考慮することができる。
【0010】
一実施形態によれば、モデルの少なくとも1つの物理的特性を推定することは、選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更に従って、およびモデルの残りの部分に対する提案された変更に従ってモデルを更新することを含む。そのような実施形態では、モデルの選択された少なくとも1つのセクションを少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たし、材料の単位を表すモデルの残りの部分を、材料の単位の残りの部分の材料を表すビーズで満たすことによって、モデルは更新される。さらに、そのような実施形態では、少なくとも1つの物理的特性は、更新されたモデルを使用して少なくとも1つの物理的特性を計算することによって推定される。
【0011】
一実施形態によれば、選択された少なくとも1つのセクションを満たすビーズは、固体を表す。別の実施形態では、残りの部分を満たすビーズは、流体、例えば、液体または気体を表す。さらに別の実施形態では、少なくとも1つのセクションは、第1の閉鎖容積と、第1の閉鎖容積を包含する第2の閉鎖容積とから構成される。そのような例示的な実施形態では、モデルの選択された少なくとも1つのセクションを、少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たすことは、第1の閉鎖容積を第1の閉鎖容積の材料を表すビーズで満たすこと、および第2の閉鎖容積を第2の閉鎖容積の材料を表すビーズで満たすことを含む。一実施形態では、第2の閉鎖容積を満たすビーズは、第1の閉鎖容積を包含するコーティングを表す。
【0012】
この方法の代替の実施形態では、モデルの少なくとも1つの物理的特性は、テンプレートを使用して推定される。そのような実施形態では、推定された物理的特性が要件を満たす場合、方法は、選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更に従って、およびモデルの残りの部分に対する提案された変更に従ってモデルを更新する。ただし、(テンプレートを使用して推定された)推定された物理的特性が要件、すなわちユーザ仕様を満たさない場合、そのような実施形態は、推定された少なくとも1つの物理的特性が少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで、選択および推定のステップを反復することによって続行する。反復により、推定された物理的特性が要件を満たしていると判断されると、選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更と、モデルの残りの部分に対する提案された変更に従って、モデルが更新または作成される。そのような実施形態では、モデルの選択された少なくとも1つのセクション(反復を通して選択されたすべてのセクションを含み得る)を少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たし、材料の単位を表すモデルの残りの部分(選択されたセクションを含まないモデルの容積)を、材料の単位の残りの部分の材料を表すビーズで満たすことによって、モデルは更新される。
【0013】
実施形態では、単位は、3次元(3D)繰り返し単位とすることができる。別の例示的な実施形態では、3D繰り返し単位は、立方体または長方形(例えば、直方体または長方形のプリズム)である。一実施形態によれば、選択された少なくとも1つのセクションは、閉鎖容積である。実施形態で利用することができる例示的な閉鎖容積には、球、円柱、および/または楕円体が含まれる。
【0014】
さらに別の実施形態は、プロセッサと、コンピュータコード命令が格納されたメモリとを含むシステムを対象とする。そのような実施形態では、プロセッサおよびメモリは、コンピュータコード命令とともに、システムに、本明細書に記載の任意の実施形態または実施形態の組み合わせを実装させるように構成される。
【0015】
本発明の別の実施形態は、材料のモデルを生成するためのクラウドコンピューティングの実装を対象とする。そのような実施形態は、1つまたは複数のクライアントとネットワークを介して通信するサーバによって実行されるコンピュータプログラム製品を対象とし、コンピュータプログラム製品は、1つまたは複数のプロセッサによって実行されると、本明細書に記載の任意の実施形態を1つまたは複数のプロセッサに実装させる命令を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラーの図面を含むこの特許または特許出願公開のコピーは、要求及び必要な料金の支払いにより、官庁により提供されよう。
【0017】
上記内容は、同様の参照文字が異なるビュー全体を通して同じ部分を参照する添付の図面に示されているように、例示的な実施形態の以下のより具体的な説明から明らかであろう。図面は必ずしも縮尺通りになっているとは限らず、代わりに実施形態を図示することに重点が置かれている。
【
図1】
図1は、一実施形態による材料のモデルを生成するための方法のフローチャートである。
【
図2】
図2は、材料のモデルを構築するための実施形態のステップを示す。
【
図3】
図3は、一実施形態におけるコーティングを有する材料の微細構造モデルを構築するためのプロセスのステップを示す。
【
図4】
図4は、一実施形態による材料のモデルを生成するためのコンピュータシステムの簡略化されたブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態を実施することができるコンピュータネットワーク環境の簡略化されたブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例示的な実施形態の説明が続く。
【0019】
本明細書で引用されたすべての特許、公開された出願および参考文献の教示は、その全体が参照により組み込まれる。
【0020】
実施形態は、微細構造の詳細が製品の性能および挙動(例えば、経年劣化、製品のライフサイクル、他の物理的または化学的特性など)を理解するのに役立つ任意のモデリングおよびシミュレーションに使用することができる。非限定的な例として、実施形態は、他の例の中でもとりわけ、コーティング、複合材料、配合物、石油増進回収、および触媒作用のシミュレーションをモデル化し、可能にする。前述の用途の関心のある材料に基づいて、特定のパラメータを開発することができる。これらのパラメータは、本明細書に記載の実施形態で利用して、これらの用途、例えば、コーティング、複合材料、配合物、石油増進回収、および触媒作用のためのモデリングおよびシミュレーションを提供することができる。一実施形態によれば、用途固有のパラメータは、ビーズ間の相互作用を説明するパラメータであり、各ビーズは、材料の異なるセクションを表す。例示的な実施形態では、相互作用パラメータは、メソスケールダイナミクスシミュレーションのための力場を構成し、そこから、以下に説明するように、平均多孔度および屈曲度などの特性を測定し得る。相互作用パラメータは、ビーズタイプごとに定義することができ、各ビーズタイプは、材料(固体、液体、または気体など)内の1つの明確に定義された原子(または粒子)のセットを表す。ビーズへの原子のこのいわゆる「粗視化」により、全原子シミュレーションで通常可能であるよりも大きな長さと時間スケールをシミュレートすることができる 。例えば、実施形態を使用して、原子レベルではなくメソスケールレベルで電池材料をシミュレートすることができる。そのような実施形態は、電池の充電および放電中の電極の多孔度に関する重要な洞察を提供する。
【0021】
実施形態が以前に利用可能な方法に対して提供する1つの改善は、球の重ね合わせ-これが、これまでのコンピュータモデルの仕組みである、をもたらさない材料モデル(材料のモデル)を構築することである。代わりに、実施形態は、実験で観察される構造および特性(例えば、SEMデータ、BETデータ、組成)を正確に表すように調整することができる微細構造の詳細な計算モデルを生成する。具体的には、球形粒子近似(つまり、球のみを使用して材料をモデル化する既存の方法)から、実施形態によって提供される現実的な粒子構造への移行により、物理的に測定された特性を表すより正確なモデルが可能になる。本発明の実施形態は、最小限のユーザ入力で自動的に使用することができ、これにより、設計パラメータ空間の迅速な調査および改善されたユーザ体験が可能になる。本発明の実施形態は、他のワークフロー、例えば、シミュレーションワークフロー、ならびに既存のモデリングおよびシミュレーションプラットフォームにおける一般的なツールとして使用することができる。実施形態は、既存のソフトウェアスイートおよびパッケージに実装することができる。そのような実装では、既存のソフトウェアは、本明細書で説明される機能、例えば、方法100を実行するように変更される。
【0022】
実施形態は、電池電極材料などの材料の3Dナノスケールモデリングおよびシミュレーションのための機能を提供する。
図1は、関心のある材料のモデルを生成するためのそのようなコンピュータ実装方法100のフローチャートである。方法100は、対象材料の単位を表すモデルの少なくとも1つのセクションを選択することによって、ステップ101で開始する。方法100では、材料の単位は3D繰り返し単位とすることができる。方法100の実施形態では、3D繰り返し単位は、立方体または長方形とすることができる。方法100の例示的な実施形態では、少なくとも1つの選択されたセクションは、閉鎖容積である。方法100で利用することができる例示的な閉鎖容積には、球、円柱、および/または楕円体が含まれる。
【0023】
続いて、ステップ102で、モデルの少なくとも1つの物理的特性が、(1)ステップ101で選択されたモデルの少なくとも1つのセクションに対する提案された変更、および(2)材料の単位を表すモデルの残りの部分に対する提案された変更に基づいて推定される。実施形態は、ステップ102でモデルの任意の所望の物理的特性を推定することができる。例えば、実施形態は、多孔度および/または屈曲度を推定することができる。
【0024】
方法100の実施形態では、ステップ102でモデルの少なくとも1つの物理的特性を推定することは、提案された変更(ステップ101で選択された少なくとも1つのセクションに対する変更、およびモデルの残りの部分に対する提案された変更)に従ってモデルを更新することを含む。そのような実施形態では、モデルの選択された少なくとも1つのセクションを、選択された少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たし、材料の単位を表すモデルの残りの部分を、材料の単位の残りの部分の材料を表すビーズで満たすことによって、モデルは更新される。一実施形態によれば、ビーズは、メソスケールモデルであり、各ビーズが原子のグループを表す。一実施形態では、ビーズ表現自体は、材料モデリングの当業者に知られている標準的な技術(すなわち、ソフトウェアプログラミングおよびサポートデータ構造)を使用して実装される。さらに、そのような実施形態では、少なくとも1つの物理的特性は、更新されたモデルを使用して少なくとも1つの物理的特性を計算することによって推定される。そのような実施形態では、新しいモデルは、ステップ102のすべての反復で生成される。一実施形態によれば、少なくとも1つのセクションを満たすビーズは、固体を表す。別の実施形態では、残りの部分を満たすビーズは流体を表す。
【0025】
本明細書で説明されるように、物理的特性は、ステップ102で計算される。ステップ102で計算され得る例示的な物理的特性には、多孔度(εで示される)および屈曲度(τで示される)が含まれる。一実施形態では、多孔度は、材料の1つのセクションを別のセクションから(例えば、電池シミュレーションにおける電極を電解質から)分割する「容積表面」を計算することによって推定することができる。このような表面は、標準的な計算手法を使用して取得することができる。一実施形態では、表面は、シミュレーションセルを各材料が占める容積に分離する。材料(表面)が占める容積を、シミュレーションセルの総容積に関連して設定して、多孔度を取得することができる。屈曲度τは、バルク流体(D0)および実際の構造(De)のビーズの拡散係数を多孔度εとともに計算することによって取得することができる。屈曲度は次のようになる。
【0026】
【0027】
拡散係数は、所与の力場のメソスケールダイナミクスシミュレーションで測定されたビーズの平均二乗変位から計算することができる。一実施形態では、拡散係数は、非特許文献1に説明されたように計算することができ、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0028】
方法100のさらに別の実施形態では、ステップ101で選択される少なくとも1つのセクションは、第1の閉鎖容積と、第1の閉鎖容積を包含する第2の閉鎖容積とから構成される。そのような例示的な実施形態では、ステップ102で、モデルの選択された少なくとも1つのセクションを、少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たすことは、第1の閉鎖容積を第1の閉鎖容積の材料を表すビーズで満たすこと、および第2の閉鎖容積を 第2の閉鎖容積の材料を表すビーズで満たすことを含む。一実施形態では、第2の閉鎖容積を満たすビーズは、第1の閉鎖容積を包含するコーティングを表す。
【0029】
図1に戻り、ステップ102で、推定された少なくとも1つの物理的特性が要件、例えば、ユーザまたはシステム指定値を満たす場合、方法は終了するか(更新されたモデルが作成され、ステップ102でコンピュータメモリに保存されて、少なくとも1つの物理的特性が推定される)、または方法は、提案された変更に従ってモデルを作成することによって続行する。ただし、推定された特性が要件を満たさない場合、方法はステップ103に移動し、選択(ステップ101)および推定(ステップ102)が反復される、すなわち、所与の反復のステップ102で、推定された少なくとも1つの物理的特性が少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで繰り返される。各反復中に、ステップ101で、材料の単位を表すモデルの新しいセクションが選択され、ステップ102で、反復を通して選択されたすべてのセクションに対する提案された変更に基づいて特性が推定される。
【0030】
方法100の代替の実施形態では、モデルの少なくとも1つの物理的特性は、
図2および3に関連して以下に説明するテンプレート222および332などのテンプレートを使用して、ステップ102で推定される。したがって、実施形態では、特性計算は、テンプレートに基づくか、またはテンプレートから導出されたモデルに基づくことができる。一実施形態によれば、多孔度は、材料の1つのセクションを別のセクションから分割する「容積表面」を計算することによって上記のように計算され、屈曲度τは、バルク流体(D
0)および実際の構造(D
e)におけるビーズの拡散係数を多孔度εとともに計算することによって取得することができる。そのような実施形態では、テンプレートは表面を提供する。一実施形態によれば、推定された物理的特性が要件を満たすと、方法は、選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更に従って、およびモデルの残りの部分に対する提案された変更に従って、モデルを更新/作成する。ただし、ステップ102で、テンプレートを使用して推定された物理的特性が要件、すなわちユーザ仕様を満たさない場合、方法はステップ103に移り、推定された少なくとも1つの物理的特性が少なくとも1つの物理的特性のユーザ仕様に適合するまで、選択(ステップ102)および推定(ステップ103)が反復される。推定された物理的特性が要件を満たすと、選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更に従って、およびモデルの残りの部分に対する提案された変更に従って、モデルが更新される。そのような実施形態では、モデルの選択された少なくとも1つのセクションを、少なくとも1つのセクションの材料を表すビーズで満たし、材料の単位を表すモデルの残りの部分を、材料の単位の残りの部分の材料を表すビーズで満たすことによって、モデルは更新される。この実施形態では、要件を満たす設計(選択された少なくとも1つのセクションに対する提案された変更およびモデルの残りの部分に対する提案された変更)が識別された後、単一のモデルが生成される。
【0031】
図2は、電池電極またはセパレータ内の活物質などの多孔質微細構造材料のモデルを構築するための方法220のステップを示す。プロセス220は、ビーズタイプのシミュレーション(メソスケールモデル、またはサブモデル)を使用し、各ビーズが原子のグループを表す。一実施形態によれば、ビーズ表現自体は、材料モデリングの当業者に知られている標準的なプログラミング技術を使用して実装される。プロセス220によって構築された全体的なモデルにおいて、ビーズは、材料の固体部分をシミュレートするために接続され得る。方法220は、材料のユーザが望む物理的特性などのユーザ要件に適合する全体的なモデルが生成されるまで、繰り返し実行される。
【0032】
方法220は、モデルテンプレート222a、222b、222c、および222n(一般に222として参照される)を利用する。方法220の実施形態では、モデルテンプレート222のサイズは、方法220の反復プロセスを開始する前に選択される。別の実施形態では、テンプレート222はデフォルトサイズである。一実施形態によれば、テンプレート222は、材料を表す3次元(3D)繰り返し単位ボックスである。テンプレートは、立方体または長方形(例えば、直方体または長方形のプリズム)であり得ることに留意されたい。別の実施形態は、反復プロセスを開始する前に、各反復221a~nを選択するために新しい領域223の数を選択することによって、各反復221a~nのステップサイズも選択する。
【0033】
第1の反復221aのステップ1は、特定の材料で満たされるモデルテンプレート222aの新しい領域223a~cを選択することから始まる。
図2では、領域223a~cは、第1の反復221aの間に選択される。
図2では、領域223a~cは球形であるとして示されているが、本発明の実施形態はそのように限定されないことに留意されたい。選択された領域223a~cは、円柱、楕円体、または立方体などの任意の閉鎖容積であり得る。ステップ1で選択される領域223a~cのサイズおよび位置は、ランダムに選択され得るか、またはユーザ選択またはデフォルト設定に基づき得ることにも留意されたい。
【0034】
選択された領域がテンプレートボックス222aの境界を横切る場合(例えば、領域223b)、それは反対側から反射すると想定される。言い換えれば、方法220は、周期境界条件規則を適用する。そのため、選択された領域がテンプレートの境界を横切る場合、周期的な連続性を確保するために必要な数のコピーが作成される。説明のために、部分的にテンプレートボックス222aの外側にある領域223bを検討する。動作中、テンプレートボックス222は繰り返し単位であり、したがって、任意の数のボックスが組み合わされ、すなわち、互いに隣接して接続されて、シミュレートされている材料およびオブジェクト全体を表す。周期的な連続性を確保するために、各テンプレートボックスは、境界を横切る選択された領域を反映するように更新される。したがって、この例示的な図では、テンプレートボックス222aの境界の外側にある選択された領域223bの部分は、球(選択された領域223b)が重なるすべての隣接するボックスの内側に配置される。このように、テンプレートボックスが接続されて、シミュレートされているオブジェクト全体、例えば、実施形態によって作成されたモデルによって表される材料を備えたバッテリ端子、のモデルを作成する場合、テンプレートボックス222aの外側にある領域223bの部分は、ボックス222aに隣接する(接続されている)テンプレートボックスの内側にある。
【0035】
続いて、反復221aのステップ2は、固体材料領域(選択されたテンプレート領域223a~cに対応する)を固体ビーズ(例えば、
図2の黄色の領域225)で満たすことによってモデル224aを作成する。
図2のビーズは、球形として示されているが、実施形態はそのように限定されず、ビーズは異なった形状であり得ることに留意されたい。例えば、一実施形態では、ビーズは楕円形である。さらに、反復221aの間、モデル224aの残りの部分(選択された領域223a~cを含まない単位222aの容積に対応する)は、溶媒ビーズ(例えば、
図2に示される紫色の領域226)で満たされる。この時点(反復221aのステップ2)で、モデル224aは、モデル化されている材料の完全な表現である。
【0036】
プロセス220は、任意選択で、距離基準に従ってビーズを架橋するステップ(ステップ2a)を含み得る。そのような架橋(cross-linking)は、固体活物質を表す連続的な固体粒子を作成する。
【0037】
次に(反復221aのステップ3)、モデル224aの物理的特性、例えば、多孔度が計算され、要件と比較される。物理的特性が要件を満たしている場合、プロセス220は終了し、そうでない場合、プロセス220は、要件を満たすモデルが生成されるまで反復される。要件を満たすモデルが保存され、次いで、シミュレーションで使用して、モデルが表す材料の実世界の使用をシミュレートすることができる。モデルを保存することは、コンピュータメモリ内のデータ構造に保存することを含み得、他の例の中でもとりわけ、(a)選択された各領域223の座標、(b)モデルを満たすために使用されるビーズのタイプのインジケーション(たとえば、バインダー、固体、流体)、(c)ビーズ間の情報のリンク、(d)モデルの物理的または化学的特性、たとえば多孔度のインジケーションおよびそれを表す値、および(e)テンプレート(ボックス)のサイズを含む。
【0038】
図2に示されるように、プロセス220は、反復221aの後、反復221b~nを含む。各反復221b~nにおいて、テンプレート222の新しい領域、例えば、領域223d~f(他の中でもとりわけ)が選択される。各反復221b~nのステップ2において、モデル224b~nは、モデル224b~nの固体材料領域(選択されたテンプレート領域に対応する)を、
図2に黄色で示される固体ビーズで満たし、モデル224b~nの残りの部分を溶媒ビーズ(
図2に示される紫色)で満たすことによって作成される。反復221b~nのこの時点(ステップ2)で、モデル224a~nは、モデル化されている材料(対象材料)の完全な表現である。各反復221b~nのステップ3で、モデル224b~nの物理的特性が計算され、要件と比較される。反復221bおよび221cでは、それぞれのモデル224bおよび224cは要件を満たさず、プロセス220は次の反復に移る。ただし、反復221nにおいて、次に計算されたモデル224nの物理的特性および化学的特性は要件を満たし、プロセス220は終了する。
【0039】
プロセス220は、3つのステップ、すなわち、(ステップ1)モデルテンプレート222の領域223を選択すること、(ステップ2)選択されたテンプレート領域に対応するモデル領域を、固体材料を表すビーズで満たし、残りの部分を流体を表すビーズで満たすことによって、テンプレートからモデルを作成または生成すること、および(ステップ3)作成されたモデルの物理的および化学的特性を計算し、作成されたモデル(および現在のモデルの動作)が要件を満たしているかどうかを判断すること、を反復するものとして本明細書では説明されることに留意されたい。ただし、プロセス220は、モデル、例えば、モデル224a~nが反復ごとに作成されるのではなく、代わりに、最終モデル224nのみが作成され、コンピュータメモリに保存されるように変更することができる。このような代替実装では、各反復のステップ1が、モデルテンプレートの領域が選択する。ただし、この代替の実施のステップ2において、提案されたモデル、すなわち、まだ作成されていないモデルの物理的特性は、テンプレート、例えば、単位222a、および選択されたテンプレート領域、例えば、領域223a~cに基づいて推定される。推定された物理的特性が要件を満たしている場合、反復は終了し、モデルは、固体材料領域(選択されたテンプレート領域に対応する)を固体ビーズで満たし、モデルの残りの部分(対応する選択されたテンプレート領域を含まないモデルの容積)を、流体を表すビーズで満たすことによって作成または生成される。
【0040】
説明するために、方法220において、テンプレート、例えば、それらの選択された領域(一般に参照される223)を有する単位222a~nがすべて作成され、これらのテンプレートの特性が決定される。反復221a~cのテンプレートの特性は要件を満たしておらず、よって、モデル224a~cは構築されない。ただし、反復221nのテンプレートは要件を満たし、モデル224nは本明細書で説明されるように作成される。
【0041】
図3は、コーティングを備えた多孔質微細構造材料のモデルを構築するための反復法330のステップを示す。方法330は、粒子を機械的に結合し、導電性を提供し、および/または固体の電気的中間相(すなわち、材料の全相)を提供するコーティングを有する材料をシミュレートするために使用することができる。プロセス330は、ビーズタイプのシミュレーション(メソスケールモデル、またはサブモデル)を使用し、各ビーズが原子のグループを表す。プロセス330によって構築されたモデル、例えば334a~nでは、ビーズを接続して材料の固体部分をシミュレートすることができる。方法330は、モデルが表す材料のユーザの所望の物理的特性などの、ユーザ要件に適合するモデル表現が生成されるまで、反復的に実行される。
【0042】
方法330は、モデルテンプレート332a、332b、332c、および332n(一般に332として参照される)を利用する。方法330の実施形態では、方法330の反復プロセスを開始する前に、モデルテンプレート332のサイズが選択される。別の実施形態では、テンプレート332はデフォルトサイズである。一実施形態では、テンプレートサイズは、反復331a~nの間維持される。ただし、方法330は、異なるサイズのテンプレートを使用して繰り返すことができる。一実施形態によれば、テンプレート332は、材料を表す3次元(3D)繰り返し単位ボックスである。
【0043】
第1の反復331aのステップ1は、固体材料で満たされるモデルテンプレート332aの1つまたは複数の新しい領域333a~cを選択することから始まる。
図3では、領域333a~cは、第1の反復331aの間に選択される。領域333a~cを選択することに加えて、反復331aのステップ1で、最初に選択された領域333a~cを取り囲むかまたは包む追加の領域336a~c(緑色で示される)が作成される。追加の領域336a~cは、「コーティング」または第2の材料タイプを含むだろう。
図3では、領域333a~cは球形であるとして示されているが、本発明の実施形態はそのように限定されないことに留意されたい。選択された領域333a~cは、円柱、楕円体、または立方体などの任意の閉鎖容積であり得る。反復のステップ1で選択される領域333a~cのサイズおよび位置は、ランダムに選択され得るか、もしくはユーザ選択またはデフォルト設定に基づき得ることにも留意されたい。
【0044】
選択された領域がボックス332aの境界を横切る場合(例えば、領域333b)、それは反対側から反映すると想定される。言い換えれば、方法330は、周期境界条件規則を適用する。そのため、選択された領域がテンプレートの境界を横切る場合、周期的な連続性を確保するために必要な数のコピーが作成される。説明のために、テンプレートボックス332aの外側に延びる領域333bを検討する。動作中、テンプレートボックス332は繰り返し単位であり、したがって、任意の数のボックスが組み合わされ、すなわち、互いに隣接して接続され、シミュレートされている材料およびオブジェクト全体を表す。周期的な連続性を確保するために、各ボックスは、境界を横切る選択された領域を反映するように更新される。したがって、この例では、テンプレートボックス332aの境界の外側にある選択された領域333bの部分は、他のすべてのテンプレートボックスの内側に配置される。このように、テンプレートボックスが接続されて、シミュレートされているオブジェクト全体のモデルを作成する場合、ボックス332aの外側にある領域333bの部分は、ボックス332aに隣接する(接続される)テンプレートボックスの内側にある。
【0045】
続いて、(プロセス330の反復331aのステップ2)は、最初に固体材料領域(選択された領域333a~cに対応する)を固体ビーズ(例えば、
図3の黄色の領域335)で満たすことによってモデル334aを作成する。次に、領域333a~cを取り囲む領域336a~cに対応するモデル領域は、コーティングを表すビーズで満たされる。これらのコーティングビーズは、ピンク色で、例えば、
図3の領域337で示されている。このようにして、方法330では、内側球333aが最初に満たされ、次に、内側球333a~cと外側球336a~cとの間の領域が、コーティングを表すビーズで満たされる。さらに、反復331aのステップ2で、モデル334aの残りの部分(選択された領域333a~cおよび作成されたコーティング領域336a~cを含まないテンプレート単位332aの容積に対応する)は、溶媒ビーズ(例えば、
図3に示される紫色の領域338)で満たされる。この時点(ステップ2)で、モデル334aは、モデル化されている対象材料の完全な表現になる。
【0046】
プロセス330は、任意選択で、距離基準に従ってビーズを架橋するステップ(ステップ2a)を含み得る。そのような架橋は、固体活物質を表す連続的な固体粒子を作成する。
【0047】
次に(反復331aのステップ3)、モデル334aの特性、例えば、物理的および/または化学的特性が計算され、要件と比較される。物理的特性が要件を満たしている場合、プロセス330は終了し、そうでない場合、プロセス330は、要件を満たすモデルが生成されるまで反復される。要件を満たすモデルがコンピュータメモリに保存され、次いで、シミュレーションで使用され、モデルが表す材料の実世界の使用をシミュレートすることができる。モデルを保存することは、コンピュータメモリ内のデータ構造に保存することを含み得、他の例の中でもとりわけ、(a)選択された各領域333の座標、(b)モデルを満たすために使用されるビーズのタイプのインジケーション(たとえば、バインダー、固体、流体)、(c)ビーズ間の情報のリンク、(d)モデルの物理的または化学的特性、たとえば多孔度のインジケーションおよび/または測定値、並びに(e)テンプレート(ボックス)のサイズを含む。
【0048】
図3に示されるように、プロセス330は、反復331aの後、反復331b~nを実行する。各反復331b~nにおいて、テンプレート332b~nの新しい領域、例えば、領域333d~f(他の中でもとりわけ)が選択され、選択された領域を囲む領域、例えば、領域336d~f(他の中でもとりわけ)が作成される。各反復331b~nのステップ2において、モデル334b~nは、
図3に黄色で示される固体ビーズで、固体材料領域(選択されたテンプレート領域に対応する)を満たし、コーティングを表すビーズで、選択された領域を取り囲む、例えば、領域336d~fに対応するモデル領域を満たすことによって、作成される。さらに、モデル334の残りの部分は、溶媒ビーズ(
図3に示される紫色)で満たされる。反復331b~nのこの時点(ステップ2)で、モデル334a~nは、モデル化されている材料の完全な表現である。各反復331b~nのステップ3で、モデル334b~nの物理的特性が計算され、要件と比較される。反復331bおよび331cでは、モデル334bおよび334cは要件を満たさず、プロセス330は次の反復に移る。ただし、反復331nにおいて、モデル334nの物理的特性および化学的特性は要件を満たし、プロセス330は終了する。
【0049】
プロセス330は、3つのステップ、すなわち、(ステップ1)モデルテンプレート332の領域333を選択し、選択された領域を取り囲む領域336を作成すること、(ステップ2)選択されたテンプレート領域に対応する領域を、固体材料を表すビーズで満たし、選択された領域を取り囲む作成されたコーティング領域を、コーティングを表すビーズで満たし、残りの部分を、流体を表すビーズで満たすことによって、モデルを作成または生成すること、および(ステップ3)作成されたモデルの物理的特性および化学的特性を計算し、作成されたモデルが要件を満たしているかどうかを判断すること、を繰り返すものとして本明細書では説明されることに留意されたい。ただし、プロセス330は、モデル、例えば、モデル334a~nが反復ごとに作成されるのではなく、代わりに、最終モデル334nのみが作成され、コンピュータメモリに保存されるように変更することができる。このような代替実装では、各反復のステップ1でモデルテンプレートの領域が選択され、選択された領域を囲む領域が作成される。ただし、この代替実装のステップ2において、提案されたモデル、すなわち、まだ作成されていないモデルの物理的特性は、テンプレート、例えば、単位332a、選択されたテンプレート領域、例えば、領域333a~c、および周辺地域336a~cに基づいて推定される。一実施形態では、テンプレートベースの推定は、上記のように実行される。たとえば、多孔度は、材料の1つのセクションを別のセクションから分割する「容積表面」を計算することによって計算され、屈曲度τは、バルク流体(D
0)および実際の構造(D
e)におけるビーズの拡散係数を多孔度εとともに計算することによって取得される。一実施形態では、テンプレートは、特定の量の固体容積を定義し、例えば、固体容積は、選択された領域によって定義され、多孔度および屈曲度は、固体容積の定義された量をテンプレートの総容積と比較することによって計算される。推定された特性(テンプレートを使用して推定された物理的および/または化学的特性)が要件を満たしている場合、反復は終了し、最初に固体材料領域(選択されたテンプレート領域に対応する)を固体ビーズ(例えば、
図3の黄色の領域)で満たし、第2に、選択されたテンプレート領域を取り囲む作成されたコーティング領域に対応する領域を満たし(例えば、
図3のピンクの領域)、第3に、モデル334の残りの部分(選択された領域および作成された領域を含まないモデルの容積)を溶媒ビーズで満たすことによって、モデルが作成される。
【0050】
この代替実装を説明するために、方法330において、テンプレート、例えば、選択された領域(例えば、一般に333)、および選択された領域を取り囲む作成された領域(例えば、一般に336)を有する単位332a~nがすべて生成され、これらのテンプレートの特性が決定される。反復331a~cでは、テンプレート332の特性は要件を満たさず、そのため、モデル334a~cは構築されない。ただし、反復331nにおいて、選択された領域および作成された領域(例えば、333fおよび336f)を有するテンプレート332nは要件を満たし、モデル334nが、本明細書で説明されるように作成される。
【0051】
本発明の別の実施形態は、多孔質微細構造のCADモデルを作成するためのコンピュータ実装プロセスに関する。そのような実施形態は、最初に、標的多孔質微細構造材料の所望の多孔度を識別する。次に、モデル化される材料の空の3D繰り返し単位が、CADプログラム内で作成され、空の繰り返し単位の小さな部分が選択される。次に、空の繰り返し単位の選択された小さな部分が固体ビーズのモデルで満たされ、繰り返し単位の残りの部分が溶媒ビーズのモデルで満たされる。満たされた繰り返し単位の多孔度が計算され、満たされた繰り返し単位の計算された多孔度が、標的多孔質微細構造材料の必要な多孔度と比較される。このプロセスは、繰り返し単位に必要な多孔度に達するまで繰り返される。
【0052】
図4は、本明細書に記載の本発明の任意の様々な実施形態による、主題の材料(または対象の材料)のモデルを構築するために使用され得るコンピュータベースのシステム440の簡略化されたブロック図である。システム440は、バス443を備える。バス443は、システム440の様々な構成要素間の相互接続として機能する。バス443に接続されているのは、キーボード、マウス、タッチスクリーン、ディスプレイ、スピーカーなどの様々な入力および出力デバイスをシステム440に接続するための入力/出力デバイスインターフェース446である。中央処理装置(CPU)442は、バス443に接続され、コンピュータ命令の実行を提供する。メモリ445は、コンピュータ命令を実行するために使用されるデータのための揮発性ストレージを提供する。記憶装置444は、オペレーティングシステム(図示せず)などのソフトウェア命令のための不揮発性ストレージを提供する。システム440はまた、ワイドエリアネットワーク(WAN)およびローカルエリアネットワーク(LAN)を含む、当技術分野で知られている任意の様々なネットワークに接続するためのネットワークインターフェース441を備える。
【0053】
本明細書で説明される例示的な実施形態は、多くの異なる方法で実施され得ることを理解されたい。場合によっては、本明細書で説明される様々な方法および機械はそれぞれ、コンピュータシステム440などの物理的、仮想、またはハイブリッドの汎用コンピュータ、または
図5に関連して以下に本明細書で説明されるコンピュータ環境550などの、コンピュータネットワーク環境によって実装され得る。コンピュータシステム440は、例えば、方法100を実装するソフトウェア命令を、CPU442による実行のためにメモリ445または不揮発性記憶装置444のいずれかにロードすることによって、本明細書で説明される方法を実行するマシンに変換され得る。当業者は、システム440およびその様々な構成要素が、本明細書で説明される本発明の任意の実施形態または実施形態の組み合わせを実行するように構成され得ることをさらに理解する必要がある。さらに、システム440は、システム440に内部的または外部的に動作可能に結合されたハードウェア、ソフトウェア、およびファームウェアモジュールの任意の組み合わせを利用して、本明細書で説明される様々な実施形態を実装し得る。
【0054】
図5は、本発明の実施形態が実施され得るコンピュータネットワーク環境550を示す。コンピュータネットワーク環境550では、サーバ551は、通信ネットワーク552を介してクライアント553a~nにリンクされている。環境550は、クライアント553a~nが、単独で、またはサーバ551と組み合わせて、本明細書で説明される実施形態のいずれかを実行することを可能にするために使用され得る。非限定的な例として、コンピュータネットワーク環境550は、クラウドコンピューティングの実施形態、サービスとしてのソフトウェア(SAAS)の実施形態などを提供する。
【0055】
実施形態またはその態様は、ハードウェア、ファームウェア、またはソフトウェアの形で実装され得る。ソフトウェアで実装されている場合、ソフトウェアは、プロセッサがソフトウェアまたはその命令のサブセットをロードできるように構成された、非一時的なコンピュータ可読媒体に格納され得る。次に、プロセッサは、命令を実行し、装置を操作するか、または本明細書で説明される方法で動作させるように構成される。
【0056】
さらに、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、または命令は、データプロセッサの特定のアクションおよび/または機能を実行するものとして本明細書で説明され得る。ただし、本明細書に含まれるそのような説明は単に便宜上のものであり、そのようなアクションは実際には、コンピューティングデバイス、プロセッサ、コントローラ、またはファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令などを実行する他のデバイスから生じることを理解されたい。
【0057】
フロー図、ブロック図、およびネットワーク図は、より多くのまたはより少ない要素を含み、異なって配置され、または異なって表され得ることを理解されたい。しかし、さらに、特定の実装は、ブロック図およびネットワーク図を指示することができ、実施形態の実行を示すブロック図およびネットワーク図の数は、特定の方法で実装されることを理解されたい。
【0058】
したがって、さらなる実施形態はまた、様々なコンピュータアーキテクチャ、物理的、仮想、クラウドコンピュータ、および/またはそれらのいくつかの組み合わせで実装され得、したがって、本明細書で説明されるデータプロセッサは、説明のみを目的としており、実施形態を限定するものではない。
【0059】
例示的な実施形態が特に示され、説明されているが、当業者には、添付の特許請求の範囲に含まれる実施形態の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更を行い得ることができることが理解されるだろう。