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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】バブルシェルアンドチューブ装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/24 20060101AFI20230616BHJP
   C07C 2/08 20060101ALI20230616BHJP
   C07C 11/107 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
B01J19/24 Z
C07C2/08
C07C11/107
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021512743
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 RU2018000590
(87)【国際公開番号】W WO2020050738
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-04-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513322589
【氏名又は名称】パブリック・ジョイント・ストック・カンパニー・“シブール・ホールディング”
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オレーク・アレクサンドロヴィッチ・コンコフ
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ウラジミロヴィッチ・リプスキフ
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-128955(JP,A)
【文献】特表2015-535529(JP,A)
【文献】特開2007-153726(JP,A)
【文献】特表2009-504565(JP,A)
【文献】特表2014-533606(JP,A)
【文献】ソ連国特許発明第00129643(SU,A)
【文献】米国特許第02308786(US,A)
【文献】特開2000-254484(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/1266(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00、19/24
C07C 2/08
C07C 11/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンのオリゴマー化のためのバブルシェルアンドチューブ装置であって、前記バブルシェルアンドチューブ装置の下部における試薬供給デバイスおよび前記バブルシェルアンドチューブ装置の上部における反応生成物回収デバイスと、伝熱剤供給および回収デバイスと、上部チューブシートおよび下部チューブシートに固定された第1のチューブ群および第2のチューブ群とを有するハウジングとして形成された少なくとも一つの鉛直シェルアンドチューブユニットを備えるバブルシェルアンドチューブ装置において、前記第1のチューブ群のチューブが前記下部チューブシートを越えて延在し、前記第2のチューブ群のチューブは、それらの端部が前記下部チューブシートと実質的に面一となるように配置され、前記第1のチューブ群のチューブが前記下部チューブシートにわたって実質的に均一に分配されており、
前記第1のチューブ群のチューブが、前記鉛直シェルアンドチューブユニットの水平断面において、前記下部チューブシートの中心を通りかつ互いに直交する2つの線に対して対称に配置されていることを特徴とするバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項2】
単一のシェルアンドチューブユニットを備える、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項3】
1つより多くのシェルアンドチューブユニットを備える、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項4】
前記第1のチューブ群のチューブが、前記下部チューブシートを越えて10~150mm延在する、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項5】
前記第1のチューブ群のチューブが、前記下部チューブシートを越えて50~100mm延在する、請求項4に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項6】
前記第1のチューブ群のチューブの数と前記第2のチューブ群のチューブの数との比が1:1.25~1:5である、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項7】
前記鉛直シェルアンドチューブユニットの水平断面において、前記第1のチューブ群のチューブのそれぞれが、前記第2のチューブ群のチューブによって周囲が囲まれている、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項8】
前記鉛直シェルアンドチューブユニットの水平断面において、前記第1のチューブ群の少なくとも1つのチューブが、前記第2のチューブ群の各チューブと隣接している、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項9】
前記第1のチューブ群のチューブが同じ長さか、または異なる長さを有する、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項10】
前記第1のチューブ群のチューブと前記第2のチューブ群のチューブが同じ直径を有する、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項11】
前記第1のチューブ群のチューブの直径が前記第2のチューブ群のチューブの直径より大きい、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項12】
前記第2のチューブ群のチューブの直径が前記第1のチューブ群のチューブの直径より大きい、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項13】
バブルシェルアンドチューブ反応器を備える、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項14】
前記第1のチューブ群のチューブが循環チューブであり、前記第2のチューブ群のチューブがバブルチューブである、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【請求項15】
前記試薬供給デバイスが液相供給デバイスとガス相供給デバイスとを含み、前記反応生成物回収デバイスが液相回収デバイスとガス相回収デバイスとを含む、請求項1に記載のバブルシェルアンドチューブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス-液体プロセス用の生産機器に関し、本発明は、化学、石油化学、および他の産業において使用することができる。
【背景技術】
【0002】
ほとんどのガス-液体プロセスでは、最初の試薬の1つまたは複数はガス相であり、反応が起こると、試薬は液相または2相の領域に変換されるが、これには高い物質移動速度が必要である。さらに、液相とガス相において行われるプロセスはしばしば、高い熱発生または熱吸収を伴い、それは、混合物と伝熱剤との間の効率的な熱交換を必要とする。
【0003】
また、重要性が高いことは、反応混合物の温度、または試薬の濃度の局所的な増減は、プロセスの選択率および変換、および反応速度を下げ得るので、装置全体にわたって熱および質量移動を進めるための状態の均一性である。反応状態の均一性は、チューブの均一な容積分布、すなわち、装置全体にわたって液相流れの速度を一様にしてよどみ域をなくするチューブの分布を有する機器を用いて達成することができる。
【0004】
発熱ガス-液体プロセス(反応)を行う従来のシェルアンドチューブ装置は特許文献1(1998年12月8日公開)に開示されている。この装置は、内部に中空のドラフトチューブを備える。チューブにはインペラ手段が入っており、液体がチューブを下向きに通って底部の混合チャンバに入って再循環する。液体の流れは供給ラインを通って装置に導入され、ガスはそのラインを経て液体のレベルの上方に導入される。装置は、インペラ手段によって生成される強制循環を使用するため、改善された伝熱、高い生産性および選択率を示す。しかしながら、単一の支持点(上方位置にのみある)で高速回転構造体を取り付けることは、回転中、接線力がかかってインペラが回転軸から位置ずれし得るので、技術的に問題がある。したがって、高圧でインペラ軸を動作させるためには特別なシールが必要となる。さらに、中央チューブを通るガス-液体の下降流を生成するためには液体を高速にする必要があり、これはインペラの回転に追加のエネルギー損失を生じさせる。インペラの回転速度が高くても装置の長さは厳しく制限される。
【0005】
特許文献2(1995年8月9日公開)には、高い熱的効果でガス-液体化学ならびに熱および質量移動プロセスを行うための装置が開示されている。この装置は、作業域を通る多数の経路を設けることによって、装置内の液体試薬の滞留時間のばらつき(すなわち、実際の流れの滞留時間の定格値からのずれ)を減らすことができる。この装置は、バブルチューブの束(ガス-液体混合物は底部からこれらを通って上向きに流れる)と循環チューブ(液体はこれらを通って装置の下部に戻る(循環する))を備え、これらのチューブは、チューブシートに固定され、円筒状の鉛直ハウジングに収容され、装置はまた、鉛直板を有する上部チャンバ、およびガス分配デバイスを備える下部チャンバを備える。ハウジングは伝熱剤供給および回収ノズルを備え、下部チャンバはガス供給ノズルおよび排出ノズルを有する。この装置は、下部チャンバ内の鉛直の仕切りと、バブルチューブの軸線に沿って穴を有する水平の仕切りの形態のガス分配デバイスとを設けることによって特徴付けられている。さらに、これらの仕切りは、供給ノズルから回収ノズルへの液体流れのためのマルチパスチャネルを生成するように上部チャンバのプレートに対してずらされている。上記の要素は、液体の個々の部分の滞留時間のばらつきを減らす。上部チャンバのプレートおよび下部チャンバの仕切りの数と配置を変えることによって、チューブスペースを通る所望の数の通路(2個から6~10個まで変えることができる)を有する装置を生成することができる。しかしながら、このような装置は、多量の液体が下部ガスチャンバに入ることを防ぐために大流量のガスを必要とする。しかし、大流量のガスで動作させても、液体が下部チャンバに入ることを完全に避けることはできず、それは試薬の損失をもたらすことがある。したがって、特許文献2に開示されている装置は、ガスによって占められる不活動領域を含む。さらに、穴の閉塞の可能性により、樹脂およびポリマーを含む固体析出物、高分子化合物、および/または高粘度化合物の析出を伴う可能性のあるプロセス、ならびに反応混合物成分の1つの結晶化を伴うプロセスにこの装置を用いることは望ましくない。
【0006】
下記の従来の装置では、装置断面にわたる均一なガス分布(すなわち、装置の水平断面においてチューブのいかなる箇所でもガス濃度が同じ)が、下部チューブシートの下に配置されたチューブの壁が、チューブシートの下に形成されたガスブラケットからチューブに入るガスの移行のための穴を有するという事実のため達成される。しかしながら、チューブ壁に穴を有する装置の使用は、穴の閉塞、および装置の水力学的パラメータの乱れのため、結晶化および析出化反応生成物の形成または触媒を伴うプロセスにおいては問題がある。下部チューブシートの下のガス空間に爆発性のガス混合物および液体蒸気を形成しそうなこともまた装置の適用可能性を制限する。
【0007】
特許文献3(1986年2月23日公開)に開示されたガスリフト装置は、鉛直の循環およびバブルチューブの束を固定するために上部および下部チューブシートを収容する鉛直の円筒状ハウジングを備える。バブルチューブの上端は、循環チューブの端部より高い位置に配置される。装置の反応領域および相接触面を増大させ、安定した循環を生成することによって生産性を改善するために、装置は、ガスチャンバが間に形成されるように、上部チューブシートの上方に取り付けられた補助チューブシートをさらに備える。バブルチューブの端部はガス相に配置されるが、循環チューブの端部は液相に配置され、ガスチャンバに配置された循環チューブ部に穴が設けられる。この装置は、液滴除去装置、ならびに両相および伝熱剤用の供給および回収ノズルを有する分離チャンバを備える。開示された装置の構造は、液体が循環チューブから上部ガスチャンバに入るのを拒まず、それはその動作を損ない得る。さらに、上部ガスチャンバから来る、循環チューブ内のガスの流れは、液相の影響を受けて装置の下部へ移動するとき、妨げられかねない。
【0008】
特許文献4(1960年1月1日公開)に開示された装置は、中央循環チューブを有する鉛直ハウジングとして設計されている。装置の各チューブは、穴を有する下部チューブシートを通って延在する細長い端部を有する。循環チューブの下部部分はチューブ切り口の下方である。ガスが枝管を通って装置に供給されると、チューブシートの下の空洞を満たす液体は下向きに押され、チューブシートの下にガスブラケットが形成され、ガスはすべてのチューブの穴を泡の状態で通って、それにより装置部分にわたって均一に分配される。チューブを通って上がりながら、ガスバブルは液体を巻き込んで、強い循環を生成し、それが伝熱を改善する。しかしながら、この文書は、装置が装置全体での安定した熱交換(すなわち、装置の温度勾配が経時的に変化しない)を提供すると開示していない。中央循環チューブのすぐ隣の、この装置のバブルチューブ内のガス-液体流れは、他のチューブ内より高速であるので、装置の異なる部分では異なる熱および質量移動状態が観察され、その結果、反応選択率が低い。装置内で生じるプロセスは、循環およびバブルチューブ両方がチューブシートを越えて延在し、それによって装置の下部にガス相の蓄積を生じさせるので、循環チューブが多くても安定していない。
【0009】
特許文献5(1967年1月1日公開)に開示された別の従来のシェルアンドチューブガスリフト装置は、ジャケットを有する上部チャンバおよび下部チャンバと、チューブシート、これらを通過する循環チューブ、およびバブルチューブ(上部チャンバにある端部が異なる高さに配置されている)と、液相供給ノズルおよびガス相供給ノズルとを備える。ガスを供給すると、ガス層がチューブシートの下に形成し、ガスはそこから穴を通ってバブルチューブに入る。循環チューブの中の液相とバブルチューブの中のガス-液体混合物の密度の違いのため、強い相循環が起き、ガス-液体混合物はバブルチューブを通って上方に動き、液相は循環チューブを通って下方に動く。チューブ端部が異なる高さに配置されているため、上部チャンバでは、液相は、成分の比重に従って層を形成する。しかしながら、特許文献5は流れの循環安定性については言及していない。装置の上部チューブシートの上のチューブの延在量の液体循環への影響は、この特許の記述の特定の例によって裏付けられていない。さらに、爆発性のガス混合物がこの空間に形成される可能性がある。
【0010】
したがって、高い熱的効果、すなわち結晶析出物、高分子化合物、および/または高粘度化合物の形成を伴い、あるいは爆発性ガスの形成を伴い、高効率で、特に、所望の生成物の高い選択率および高い収量を有する、化学反応のガス-液体プロセスを行うことができる装置は今のところ当該技術において知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第5,846,498号明細書
【文献】ロシア特許第2040940号明細書
【文献】旧ソ連特許第1212550号明細書
【文献】旧ソ連特許第129643号明細書
【文献】旧ソ連特許第199087号明細書
【文献】米国特許第5,846,498号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、装置全体で安定し均一な熱および質量移動、ならびに定常的な性能を示す、ガス-液体プロセスを行うためのバブルシェルアンドチューブガスリフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の技術的効果は、反応領域での液体の滞留時間のばらつきを減らし、水力学的効率を改善し、装置において行われる(化学反応を含む)プロセスの選択率も向上させるバブルシェルアンドチューブガスリフト装置を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる技術的効果は、高い熱的効果を有するプロセス、樹脂およびポリマーを含む固体析出物、高分子化合物、および/または高粘度化合物の形成を伴うプロセス、ならびにまた反応混合物成分の1つの結晶化を伴うプロセスを可能にするバブルシェルアンドチューブガスリフト装置を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる技術的効果は、装置内のガス空間容積を減らして液相と反応しないようにすることによってガスと液体蒸気の爆発性混合物を形成する確率を減らすことである。
【0016】
さらに、本装置はガスによって占められる不活動領域がない。
【0017】
さらに、装置の容積効率が向上し反応領域が増えるため装置の生産性は向上する。
【0018】
本発明の文脈では、装置の熱および質量移動の安定性とは、各流れ箇所での特性(組成、温度、流量など)がずっと変わらないこととして解釈されるものとする。
【0019】
装置の定常的な性能とは、乱れが取り除かれた後に特性が初期状態に戻る動作モードとして解釈されるものとする。
【0020】
さらに、反応領域での液体の滞留時間のばらつきとは、実際の流れの滞留時間の定格値からのずれとして解釈されるものとし、水力学的効率とは、実際の装置のプラグ流装置へ近づく特性として解釈されるものとする。
【0021】
本発明の文脈では、用語「実質的に」は、当業者によって決定される特定の値に対する許容誤差範囲内のずれを意味する。
【0022】
この目的および技術的効果は、試薬供給デバイスおよび反応生成物回収デバイス、ならびに伝熱剤供給および回収デバイスを有するハウジングであって、2つのチューブ群が、ハウジングの上部および下部のチューブシートによって固定され、1つのチューブ群が下部チューブシートを越えて延在し、第2のチューブ群が、下部チューブシートと実質的に面一となるチューブ端部を有し、第1のチューブ群のチューブがチューブシートにわたって実質的に均一に分配されている、ハウジングとして形成された1つまたは複数の鉛直シェルアンドチューブユニットを備える装置を用いて達成される。
【0023】
本発明者らは、本発明の第1および第2のチューブ群の構造および構成は、チューブ内の流れ方向を一定に保ち、それは、装置全体での安定した均一な熱および質量移動、ならびに装置の定常的な性能を与え、それによって特許請求される技術的効果を確実にすることを思いがけず見出した。
【0024】
本発明の様々な態様および実施形態の詳細な説明は下記の通りである。
【0025】
第1のチューブ群のチューブは下部チューブシートを越えて10~150mm、好ましくは50~100mm延在する。下部チューブシートに対して第1のチューブ群のチューブが延在する長さが10mmより短い場合、ガスが循環回路に入り込む確率が上がり、それは水力学を乱し、その結果、装置の熱および質量移動を乱す。第1のチューブ群のチューブを下部チューブシートに対して150mmより長くすることは、装置の幾何学的寸法を増大させかねず、したがって、装置効率を改善することなく金属量を増加させるので得策ではない。第1群のチューブの延在部は、同じ長さか、または異なる長さにすることができる。第1のチューブ群のチューブの延在部が同じ長さであることは、装置の動作にとって必要条件ではない。決定条件は、ガスが入ることを防ぐのに十分な長さである10mmより長いことである。
【0026】
第1のチューブ群と第2のチューブ群のチューブの直径は同じでもよいし、異なっていてもよいが、ガス/液体接触領域を大きくするためには、第1のチューブ群のチューブよりも直径が大きい第2のチューブ群のチューブを使用することが好ましい。
【0027】
装置の動作のための必須条件は、装置全体にわたる第1のチューブ群のチューブの均一な分布、すなわち、装置全体にわたって液相の速度を等しくして、よどみ域をなくするチューブの分布である。
【0028】
第1のチューブ群のチューブの数と第2のチューブ群のチューブの数との比は1:1.25~1:5である。ユニットの水平断面において、第1のチューブ群のチューブの少なくとも1つが、第2のチューブ群のチューブのそれぞれと隣接していることが好ましい。ユニットの水平断面において、第1のチューブ群のチューブのそれぞれが、第2のチューブ群のチューブによって周囲が囲まれていることがより好ましい。このチューブの配置は約1:2の比で達成される。
【0029】
一実施形態では、第1のチューブ群のチューブは循環チューブであり、第2のチューブ群のチューブはバブルチューブである。
【0030】
デバイスの全体寸法、シェルアンドチューブユニットの数、ユニット内のチューブの数、および装置内のチューブの全数は、デバイスの特定の用途の要件に基づいて選ばれる。
【0031】
試薬供給デバイスは液相供給デバイスとガス相供給デバイスとを含み、反応生成物回収デバイスは液相回収デバイスとガス相回収デバイスとを含む。
【0032】
本装置は、様々な液相反応、例えば、炭化水素酸化、オレフィンオリゴマー化、カルボン酸の合成、エチレン塩素化、ヒドロホルミル化を行うための反応器として、また、微生物学的プロセスなどのための装置として使用することができる。
【0033】
本発明によるバブルシェルアンドチューブ装置において化学反応を行うための方法は、
- 装置のチューブ部分の全自由容積を満たすために液相を供給するステップと、
- 第2のチューブ群のチューブがバブルチューブとして働くように、ガスを下部チューブシートに上げて、第2のチューブ群のチューブに入れるためにガス相を装置の下部に供給するステップと、
- バブルチューブの中を上るガスの影響を受けて液体を動かすステップと、
- ガス-液体混合物が装置の上部に達すると分離するステップと、
- 装置からガス相を回収するステップと、
- 液相の大きな部分が重力を受けて、循環チューブとして働く第1のチューブ群のチューブを通って下方に移動し始める間、液相の小さな部分を回収するステップと
を含む。
【0034】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図を参照してより詳細に説明される本発明の好ましい実施形態によりさらに明らかとなろう。これらの実施形態は、単なる例として本発明を説明するために提供され、したがって、本発明の技術的範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】米国特許第5,846,498号明細書による、発熱ガス-液体反応を行うための装置の図である。
図2】ロシア特許第2040940号明細書による、ガス-液体化学ならびに熱および質量交換プロセスを行うための装置の図である。
図3】旧ソ連特許第1212550号明細書によるガスリフト装置の図である。
図4】旧ソ連特許129643号明細書による装置の図である。
図5】旧ソ連特許第199087号明細書による装置の図である。
図6】本発明による装置の構造の概略図である。
図7】比較実施例2による装置のチューブ配置の概略図である。
図8】比較実施例3による装置のチューブ配置の概略図である。
図9】実施例4による装置のチューブ配置の概略図である。
図10】実施例5による装置のチューブ配置の概略図である。
図11】本発明による装置のユニットの図である。
図12】比較実施例6による、同じ長さのチューブを有するガラス装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図6に概略的に示された本発明による装置は、チューブシート2に固定された循環チューブ3およびバブルチューブ4を有する単一の鉛直シェルアンドチューブユニット1を備える。装置の下部は、液体供給デバイス5およびガス供給デバイス6を備える。装置の上部は、ガス相回収デバイス7および液相回収デバイス8を備える。装置の管間空間は、伝熱剤循環ノズル9および10を備える。以下、供給および回収デバイスは、流れを供給および回収するための任意の従来の手段、例えばノズル、インジェクタなどを指す。
【0037】
プロセスは、以下の態様で本発明の装置において行われる。
1. 液相は、液体供給装置5を通って供給されて、装置のチューブ部分の全自由容積を完全に満たす。
2. 次いで、ガス相は、ガス供給デバイス6を通って装置の下部に供給される。
3. ガスはチューブシート2まで上がり、次いで、バブルチューブ4に入る。
4. 液体は、ガスの影響を受けて、バブルチューブの中を上方に移動し始める。
5. ガス-液体混合物は、装置の上部に達すると分離される。
6. ガス相は、ガス回収デバイス7を通って装置から回収される。
7. 液相の小さな部分は液体回収デバイス8を通って回収され、液相の大きな部分は、重力を受けて、循環チューブ3の中を下方に移動し始める。
【0038】
循環チューブを均一に分配すると、確実に、すべてのバブルチューブを通る液体の速度が等しくなり、その結果、装置全体で行われる熱および質量移動プロセスに対する状態が等しくなる。装置の管間空間における伝熱を確実にするために、伝熱剤はノズル9および10を通って循環される。
【0039】
[実施例]
(比較実施例1. 同じ長さのチューブを備える装置の使用)
試験は、チューブシートに固定された、長さが725mmで直径が13x1.4mmのチューブ19本を有する直径が80mmの鉛直シェルアンドチューブユニットを備える鋼製装置で行われた。装置の下部は液体およびガス供給ノズルを備える。装置の上部はガスおよび液相回収ノズルを備える。装置の管間空間は伝熱剤循環ノズルを備える(図2参照)。
【0040】
試験は大気圧で行われた。液相としてシクロヘキサンが用いられ、ガス相として窒素が用いられた。バブリングモードのチューブの数は、出てくるガスの泡によって毎分目視で決定された。次いで、結果は30分の時間間隔で平均化され、各チューブのモードと活動について結論が下された。
【0041】
チューブの延長がないと、循環チューブとバブルチューブとが無秩序に交代することが観察された。また、動作中、循環チューブはバブリングすることがあり、またその逆もある。さらに、バブルチューブの数は時により異なっていた。これらすべてのことは、ガス-液体混合物の流れ状態がずっと不安定であることを示している。これは、溶解したガスの濃度と温度が局所的に急変することにつながり、これは目視でも観察された。この装置では、約60%のチューブにガスが通らず、これは、これらのチューブの部分では液体は動かず、よどみ域が形成されることを意味することに留意すべきである。
【0042】
(比較実施例2. 単一の延長チューブを備える装置の使用)
試験は実施例1で説明した装置で行われたが、それとの違いは、装置の中央に配置されたチューブがチューブシートの下方に50mm延在していることである(図7参照)。
【0043】
1本の中央チューブが延在していることは、このチューブが循環チューブであることを厳密に定める。しかしながら、このチューブの処理能力は、装置ユニット全体の液体を安定して循環させるには不十分である。さらに、バブルチューブの一部は、無秩序な液体の循環の状態になる、すなわち、それらは交互に循環チューブになったり、バブルチューブになったりし、そのことは、実施例1のように、溶解したガスの濃度と温度が局所的に急変することにつながる。
【0044】
(比較実施例3. 3本の延長チューブを備える装置の使用)
試験は実施例1で説明した装置で行われたが、それとの違いは、中央のチューブの周りに1本おきに配置された3本のチューブがチューブシートを越えて下方に50mm延在していることである(図8参照)。
【0045】
循環チューブの数が3本に増えて、それらが装置にわたって分配されたことによって、流れがかなり安定した。すべてのバブルチューブがバブルチューブとしてのみ働いた。しかしながら、バブルチューブのガスの処理速度、したがって液体の処理速度はかなり異なり、それは、装置のチューブ空間内の熱および質量移動状態の不安定化につながった。
【0046】
(実施例4. 中央のチューブの近くに3本の循環チューブが配置され、外側の列の3本のチューブが塞がれた装置の使用)
試験は実施例1で説明した装置で行われたが、それとの違いは、中央のチューブの周りに1本おきに配置された3本のチューブがチューブシートを越えて50mm延在しており、外側の列の3本のチューブが塞がれていることである(図9参照)。
【0047】
循環チューブをこのように分配すると、装置全体にわたって液体の平均循環速度を有するユニットの定常的な性能が確実になる(すなわち、平均液体循環速度は、装置全体でずっと実質的に定常的である)。この結果、装置全体で均一な熱および質量移動状態になる。
【0048】
(実施例5. 中央のチューブの近くに配置された3本の循環チューブ、および外側の列の3本の循環チューブを備える装置の使用)
試験は実施例1で説明した装置で行われたが、それとの違いは、中央のチューブの周りに1本おきに配置された3本のチューブがチューブシートを越えて50mm延在していることである(図9参照)。
【0049】
循環チューブの数が6本に増えることは、液体の循環率をかなり増大させることにつながる。さらに、流れの構造が定常的であり、すなわち、装置の作業域の流れの各箇所での媒体の成分、局所的な速度、および物理特性が実質的にずっと一定に保たれている。この結果、装置全体で均一な熱および質量移動状態になる。実施例4と比較すると、液相速度は上昇し、それによって、装置表面からの熱除去効率が上昇する。
【0050】
(比較実施例6. 同じ長さのチューブを備えるガラス装置における質量移動に関する試験)
試験は、直径100mmの2つの金属チューブシートと、これらのチューブシートに固定された、長さが800mmで直径が10x1.5mmのガラスチューブ19本とを有する鉛直ユニットを備える2リットルの容積のガラス装置で行われた。すべてのチューブはチューブシートを越えて延在していた。装置の下部は液体およびガス供給ノズルを備える。装置の上部はガスおよび液相回収ノズルを備える(図2参照)。
【0051】
試験は大気圧で行われた。液相としてNaOHの水溶液が用いられ、ガス相として二酸化炭素が用いられた。液体の速度はポンプによって設定され、出口での液体の濃度はpH計によって測定された。ガスは流量計を通ってシリンダから供給された。
【0052】
中和反応はそれぞれ高速で進み、プロセス制限要因は、二酸化炭素の液体への移行である。炭酸の強アルカリとの中和反応のこの実施例によって、装置内でのガス相と液相との間の質量移動の有効度を評価することができる。
【0053】
試験は以下のようにして行われた。装置は、ポンプによって液体で完全に満たされた。次いで、液相の必要な一定の流量(200ml/分)が設定され、ガス注入が開始された(500ml/分)。pH値は2分毎に検出された。10分間、装置出口でpH値の変化がないとき、定常状態動作が確立したと決定された。
【0054】
上記のパラメータでは、pH値=10.2で安定した定常状態動作までの時間は40分であった。さらに、実施例1のように二相流の無秩序な動きが観察された。
【0055】
(実施例7. 中央のチューブの近くに配置された3本の循環チューブ、および外側の列の3本の循環チューブを備えるガラス装置における質量移動に関する試験)
試験は、直径100mmの2つの金属チューブシートと、これらのチューブシートに固定された、長さが800mmで直径が10x1.5mmのガラスチューブ19本とを有する鉛直ユニットを備える2リットルの容積のガラス装置で行われた。実施例5のように、チューブの一部は下部チューブシートを越えて延在していた。装置の下部は液体およびガス供給ノズルを備えていた。装置の上部はガスおよび液相回収ノズルを備えていた(図9参照)。
【0056】
試験は大気圧で行われた。液相としてNaOHの水溶液が用いられ、ガス相として二酸化炭素が用いられた。液体の速度はポンプによって設定され、出口での液体の濃度はpH計によって測定された。ガスは流量計を通ってシリンダから供給された。
【0057】
試験は以下のようにして行われた。装置は、ポンプによって液体で完全に満たされた。次いで、液相の必要な一定の流量(200ml/分)が設定され、ガス注入(500ml/分)が開始された。pH値は2分毎に検出された。10分間、装置出口でpH値の変化がないとき、定常状態条件が確立したと決定された。
【0058】
上記のパラメータでは、pH値=9.4で安定した定常状態動作までの時間は30分であった。
【0059】
実施例6および実施例7から分かるように、本発明の装置では、安定するpH値がより低いので質量移動プロセスはより効率的である。pHが小さいことは、質量交換プロセス(反応)がガス-液体システムにおいてより速くより完全に進むことを示している。さらに、平衡に達するまでの時間が25%短縮され、これは、液相の濃度の顕著な急変を起こし得るよどみ域がないこと、および、液相での効果的な質量移動を可能にする均一な速度場を装置が備えることを示す。
【0060】
(比較実施例8. エチレンの三量化用の反応器として、同じ長さのチューブを備える装置の使用)
試験は、チューブシートに固定された、長さが725mmで直径が13x1.4mmのチューブ19本を有する、直径80mmの鉛直シェルアンドチューブユニットを備える鋼製反応器で行われた。反応器の下部は液体およびガス供給ノズルを備える。反応器の上部はガスおよび液相回収ノズルを備える。反応器の管間空間は伝熱剤循環ノズルを備える(図2参照)。
【0061】
エチレンの三量化反応は14バールの圧力の下で行われた。液相として、均質な触媒錯体に加えてシクロヘキサンが用いられ、ガス相としてエチレンが用いられた。反応生成物ヘキセン-1および副産物の濃度が、反応器出口での定期的なサンプリングによって測定された。分析制御法としてガスクロマトグラフが用いられた。
【0062】
反応器出口でのヘキセン-1の濃度は、選択率96~97%で、6~7重量%の範囲内で変化した。
【0063】
(実施例9. エチレンの三量化用の反応器として、中央のチューブの近くに配置された3本の循環チューブ、および外側の列の3本の循環チューブを備える装置の使用)
試験は実施例8で説明した装置で行われたが、それとの違いは、中央のチューブの周りに1本おきに配置された3本のチューブがチューブシートを越えて50mm延在していることである(実施例5参照)。
【0064】
反応器出口でのヘキセン-1の濃度は、実施例8のように、選択率96~97%で、6~7重量%の範囲内で変化した。
【0065】
実施例8と実施例9との間の違いは、試験での全反応量の約60%である、比較的小さな反応器チューブ容量によりほとんどわからないほどである。
【符号の説明】
【0066】
1 鉛直シェルアンドチューブユニット
2 チューブシート
3 循環チューブ
4 バブルチューブ
5 液体供給デバイス
6 ガス供給デバイス
7 ガス相回収デバイス、ガス回収デバイス
8 液相回収デバイス、液体回収デバイス
9 伝熱剤循環ノズル
10 伝熱剤循環ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12