(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】蛍光化合物、その製造方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
C09B 23/01 20060101AFI20230616BHJP
【FI】
C09B23/01 CSP
(21)【出願番号】P 2021532396
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 CN2020073720
(87)【国際公開番号】W WO2020192271
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】201910230780.1
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515153495
【氏名又は名称】南京中硼▲聯▼康医▲療▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Neuboron Medtech Ltd.
【住所又は居所原語表記】3rd Floor, Block 6, NO. 568, Longmian Ave, Jiangning District, Nanjing, Jiangsu 211112 China
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】何静
(72)【発明者】
【氏名】李世紅
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼渊豪
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105001662(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0202941(US,A1)
【文献】Zhang, Peng; Zhu, Meng-Si; Luo, Hao; Zhang, Qian; Guo, Lin-E.; Li, Zhao; Jiang, Yun-Bao,Aggregation-Switching Strategy for Promoting Fluorescent Sensing of Biologically Relevant Species: A Simple Near-Infrared Cyanine Dye Highly Sensitive and Selective for ATP,Analytical Chemistry (Washington, DC, United States),2017年,89(11),,6210-6215及びSupporting Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 23/01
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造I-1
又は構造I-2を有する、ことを特徴とする、
【化1】
【化2】
蛍光化合物。
【請求項2】
Bは
10Bであることを特徴とする、請求項1に記載の蛍光化合物。
【請求項3】
式aの化合物及び式bの化合物を反応させて、式cの化合物を得るステップ(i)と、
【化3】
式cの化合物、式c-1の化合物及び式dの化合物を反応させて、式Iの化合物を得るか、
【化4】
又は、
式cの化合物及び式dの化合物を反応させて、式Iの化合物を得るステップ(ii)と、
【化5】
を含み、
式中、Xは、塩素であり、Y
1は、
【化6】
であり、Y
2は、Y
1
又はフェニル基であり、-BR
1R
2は、
ボロン酸基であり、mは、
1であり、nは、mと等しいことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光化合物を製造する方法。
【請求項4】
Bは
10Bであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の蛍光化合物の、蛍光染料としての用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学染料の分野に関し、特に、蛍光化合物、その製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
シアニン系染料は、モル吸光係数が大きく、蛍光性能が良好であり、マトリクスと結合した後に蛍光効率が増大し、最大吸収波長可変範囲が大きいため、分光増感、赤外レーザー染料、光ディスク記録媒体、LB膜、電子写真、光学非線形材料、太陽電池、微量金属イオン検出等に広く用いられている。
【0003】
特に、近赤外ヘプタメチンシアニン染料は、最大吸収波長と発光波長が600~900nmの近赤外領域にあり、いくつかのサンプル分析において、顕著な優位性を有する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、蛍光化合物、その製造方法及びその用途を提供し、前記蛍光化合物は、蛍光染料として用いられてよく、励起波長が800nm程度の近赤外領域にある。
【0005】
本発明の第1の態様によれば、式Iの構造を有する、式Iで表される蛍光化合物、又はその塩、鏡像異性体、非鏡像異性体、互変異性体、溶媒和物又は結晶多形を提供する。
【化1】
式I:
(式中、m、nは、それぞれ独立に、0~10の整数であり、Y
1、Y
2は、それぞれ独立に、水素、フェニル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エステル基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、1つ以上のボロン酸基又はボロン酸エステル基で置換された3~7員環からなる群から選択され、Y
1及びY
2の少なくとも一方は、ホウ素含有基である。)
【0006】
別の好ましい例において、Y
1、Y
2は、それぞれ独立に、水素、フェニル基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、
【化2】
からなる群から選択され、
Y
1及びY
2は、同時に水素であることはなく、かつ同時にフェニル基であることはない。
【0007】
別の好ましい例において、m、nは、それぞれ独立に、0~5の整数である。
【0008】
別の好ましい例において、m=nであり、より好ましくは、m=n=0又はm=n=1である。
【0009】
別の好ましい例において、R1、R2は、それぞれ独立にヒドロキシ基であるか、又はそれらが結合するホウ素原子と共に、ホウ酸に加水分解可能な基を表し、好ましくは、R1、R2は、それぞれ独立にヒドロキシ基であるか、又はそれらが結合するホウ素原子と共に、ホウ酸に加水分解可能な5~8員環を形成する。
【0010】
別の好ましい例において、-BR1R2は、ボロン酸エステル基又はボロン酸基である。
【0011】
別の好ましい例において、その塩は、式IIの構造を有する。
【化3】
式II:
(式中、Mは、式IIにおけるNと共に塩を形成するアニオンを表す。)
【0012】
別の好ましい例において、Mは、ヨウ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、アルキルスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、又は過塩素酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、フェニルアラニンイオンを含み、好ましくは、Mは、ヨウ素アニオン、塩素アニオン、臭素アニオンを含む。
【0013】
別の好ましい例において、Y
1、Y
2は、それぞれ独立に、水素、フェニル基又は
【化4】
であり、Y
1及びY
2は、同時に水素であることはなく、かつ同時にフェニル基であることはない。
【0014】
別の好ましい例において、m、nは、それぞれ独立に、0~5の整数である。
【0015】
別の好ましい例において、m=nであり、より好ましくは、m=n=0又はm=n=1である。
【0016】
別の好ましい例において、R1、R2は、それぞれ独立にヒドロキシ基であるか、又はそれらが結合するホウ素原子と共に、ホウ酸に加水分解可能な基を表し、好ましくは、それらが結合するホウ素原子と共に、ホウ酸に加水分解可能な5~8員環を形成する。
【0017】
別の好ましい例において、-BR1R2は、ボロン酸エステル基又はボロン酸基である。
【0018】
別の好ましい例において、m=n=1であり、Y2はフェニル基である。
【0019】
別の好ましい例において、Y
1は、
【化5】
であり、
より好ましくは、
【化6】
である。
【0020】
別の好ましい例において、-BR1R2は、ボロン酸エステル基又はボロン酸基である。
【0021】
別の好ましい例において、Bは10Bである。
【0022】
別の好ましい例において、Bは、95%以上の10B純度を有する。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様に記載の化合物の製造方法を提供し、前記方法は、式cの化合物を用いるステップを含み、前記式cの化合物は、式cの構造を有する。
【化7】
式c:
(式中、m、Y
1の定義は、第1の態様に記載のとおりである。)
【0024】
別の好ましい例において、mは、0~5の正整数であり、Y
1は、
【化8】
である。
【0025】
別の好ましい例において、Y
1は、
【化9】
である。
【0026】
別の好ましい例において、R1、R2は、それぞれ独立にヒドロキシ基であるか、又はそれらが結合するホウ素原子と共に、ホウ酸に加水分解可能な基を表し、好ましくは、それらが結合するホウ素原子と共に、ホウ酸に加水分解可能な5~8員環を形成する。
【0027】
別の好ましい例において、mは0又は1である。
【0028】
別の好ましい例において、前記ステップは、式aの化合物と式bの化合物を反応させて、式cの化合物を得るステップ(i)を含む。
【化10】
(式中、Xは、ハロゲンであり、m、Y
1の定義は、第1の態様に記載のとおりである。)
【0029】
別の好ましい例において、Xは、塩素、臭素又はヨウ素である。
【0030】
別の好ましい例において、前記ステップ(i)は、式aの化合物と式bの化合物を第1の不活性溶媒中で混合し、反応させて、式cの化合物を得るステップを含む。
【0031】
別の好ましい例において、前記ステップ(i)では、不活性ガスの保護下で反応する。
【0032】
別の好ましい例において、前記ステップ(i)では、還流温度で反応する。
【0033】
別の好ましい例において、前記式aの化合物と式bの化合物は、マイクロ波条件下で反応する。
【0034】
別の好ましい例において、前記ステップ(i)の後に、式cの化合物、式c-1の化合物及び式dの化合物を反応させて、式Iの化合物を得るか、
【化11】
(式中、Y
1、m、n、Y
2の定義は、第1の態様に記載のとおりである。)
又は、
式cの化合物及び式dの化合物を反応させて、式Iの化合物を得るステップ(ii)をさらに含む。
【化12】
【0035】
別の好ましい例において、前記式c-1の化合物と式cの化合物との合成方法は同様である。
【0036】
別の好ましい例において、式c-1の化合物は、式cの化合物と同様である。
【0037】
別の好ましい例において、Y
1、Y
2は、それぞれ独立に、水素、フェニル基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、
【化13】
からなる群から選択され、
Y
1及びY
2は、同時に水素であることはなく、かつ同時にフェニル基であることはない。
【0038】
別の好ましい例において、m、nは、それぞれ独立に、0~5の整数である。
【0039】
別の好ましい例において、m=nであり、より好ましくは、m=n=0又はm=n=1である。
【0040】
別の好ましい例において、R1、R2は、それぞれ独立にヒドロキシ基であるか、又はそれらが結合するホウ素原子と共に、ホウ酸に加水分解可能な基を表す。
【0041】
別の好ましい例において、-BR1R2は、ボロン酸エステル基又はボロン酸基である。
【0042】
別の好ましい例において、Y2=Y1である。
【0043】
別の好ましい例において、Y
1は、
【化14】
であり、Y
2=Y
1である。
【0044】
別の好ましい例において、Y
1は、
【化15】
であり、Y
2=Y
1である。
【0045】
別の好ましい例において、Y2はフェニル基である。
【0046】
別の好ましい例において、前記ステップ(ii)は、式cの化合物と式dの化合物を第2の不活性溶媒中で混合し、反応させて、式Iの化合物を得るステップをさらに含む。
【0047】
別の好ましい例において、前記ステップ(ii)では、不活性ガスの保護下で反応する。
【0048】
別の好ましい例において、前記ステップ(ii)では、30~100℃の温度で反応する。
【0049】
別の好ましい例において、前記ステップ(ii)は、第2の不活性溶媒中にアルカリを加えるステップをさらに含む。
【0050】
別の好ましい例において、前記アルカリは、アルカリ金属塩又はアルカリ金属水素化物であり、前記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びセシウムを含む。
【0051】
別の好ましい例において、前記アルカリ金属塩は、アルカリ金属の水酸化物とアルカリ金属の有機酸塩を含む。
【0052】
別の好ましい例において、前記第1の不活性溶媒と第2の不活性溶媒は、それぞれ独立に、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジオキサン、アミンエーテル、又はそれらの組成物からなる群から選択される。
【0053】
別の好ましい例において、式cの化合物の構造は、
【化16】
である。
【0054】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様に記載の蛍光化合物、又はその塩、鏡像異性体、非鏡像異性体、互変異性体、溶媒和物又は結晶多形の、蛍光染料としての用途を提供する。
【0055】
本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に記載される各技術的特徴を互いに組み合わせて、新しい、又は好ましい技術方案を構成できることを理解されたい。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】実施例4における化合物I-1の室温での蛍光スペクトルである。
【
図2】実施例4における化合物I-2の室温での蛍光スペクトルである。
【
図3】実施例4における化合物I-1、I-2のエタノール溶液中での近赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
特に定義されない限り、本明細書の全ての科学技術用語の意味は、特許請求の範囲の主題が属する分野の当業者に一般的に理解される意味と同じである。特に明記しない限り、本明細書の全文に引用された全ての特許、特許出願、開示材料は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0058】
上記概要説明及び後文の詳細な説明は、例示的なものであり、かつ解釈するためのものに過ぎず、本発明の主題に何ら制限もないことを理解されたい。本明細書において、特に明記しない限り、単数形は複数形も含む。本明細書において、別段の明確な記載がない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される単数形は、言及されるものの複数形を含むことに留意されたい。特に明記しない限り、用語「又は」、「或いは」は、「及び/又は」を意味することにも留意されたい。また、用語「含む」及びその他の形、例えば「包含」、「含み」、「含有」は、限定するものではない。
【0059】
本明細書で用いられる節の表題は、ただ文章を組み立てる目的で用いられ、上記主題を制限するものとして解釈されるべきではない。本願に引用される全ての文献又は文献の一部は、特許、特許出願、文章、本、マニュアル、及び論文を含むが、これらに限定されず、いずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0060】
前記以外には、本願の明細書及び特許請求の範囲に用いられる際に、特に明記しない限り、下記の用語は、以下のとおりの意味を有する。
【0061】
本願において、「B」は、ホウ素元素を指し、放射性を有するホウ素元素と非放射性を有するホウ素元素を含み、好ましくは10Bであり、「ボロン酸基」は、-B(OH)2基を指す。「3~7員環」は、炭素数3~7の飽和又は不飽和の炭素環又はヘテロ原子含有環であり、好ましくは芳香環である。「ホウ素含有基」は、本明細書に記載のB原子含有基を指す。
【0062】
本願において、「任意」又は「任意に」は、後述するイベントや状況が発生する可能性と発生しない可能性の両方があることを意味し、かつ該記述は、該イベントや状況が発生する場合と発生しない場合を同時に含む。例えば、「任意に置換されたアリール基」は、アリール基が置換されたか又は置換されていないことを意味し、かつ該記述は、置換されたアリール基と置換されていないアリール基を同時に含む。
【0063】
「立体異性体」は、同じ原子からなり、同じ結合で結合しているが、異なる三次元構造を有する化合物を意味する。本発明は、様々な立体異性体及びその混合物をカバーする。
【0064】
本発明の化合物にオレフィン二重結合を含有する場合に、特に明記しない限り、本発明の化合物は、E-及びZ-幾何異性体を含むことを意図する。
【0065】
「互変異性体」とは、プロトンが分子の1つの原子から同一分子の別の原子に移行して形成された異性体を指す。本発明の化合物の全ての互変異性形態も本発明の範囲に含まれる。
【0066】
本発明の化合物又はその塩は、1つ以上のキラル炭素原子を含む可能性があるため、鏡像異性体、非鏡像異性体及び他の立体異性体を生成することができる。各キラル炭素原子は、立体化学に基づいて(R)-又は(S)-と定義することができる。本発明は、全ての可能な異性体、それらのラセミ体及び光学的に純粋な形態を含むことを意図している。本発明の化合物の製造において、ラセミ体、非鏡像異性体又は鏡像異性体を原料又は中間体として選択することができる。光学的に活性な異性体は、キラルシントン又はキラル試薬を用いて製造されてもよく、結晶化やキラルクロマトグラフィーなどの従来の技術を用いて分割されてもよい。
【0067】
本願において、用語「塩」は、酸付加塩及び塩基付加塩を含む。「酸付加塩」は、遊離塩基の生物学的有効性を保持することができ、他の副作用がなく、無機酸又は有機酸と共に形成された塩を指す。無機酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等を含むが、これらに限定されず、有機酸塩は、ギ酸塩、酢酸塩、2,2-ジクロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ウンデシレン酸塩、グリコール酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩、セバシン酸塩、アジピン酸塩、グルタル酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、ケイヒ酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、グルタミン酸塩、ピログルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、サリチル酸塩、4-アミノサリチル酸塩、ナフタレンジスルホン酸塩等を含むが、これらに限定されない。「塩基付加塩」は、無機塩基又は有機塩基と共に形成された塩を指す。無機塩基から誘導される塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、マンガン塩、アルミニウム塩等を含むが、これらに限定されない。好ましい無機塩は、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩である。有機塩基から誘導される塩は、一級、二級及び三級アミン類、自然に生じる置換アミン類を含む置換アミン類、環状アミン類、塩基性イオン交換樹脂、例えば、アンモニア、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルコサミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂を含むが、これらに限定されない。好ましい有機塩基は、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン及びカフェインを含む。
【0068】
「結晶多形」は、本発明のいくつかの化合物が固体状態で2つ以上の異なる分子配列を有することにより生成される異なる固体結晶相を指す。本発明のいくつかの化合物は、複数の結晶形が存在してよく、本発明は、様々な結晶形及びそれらの混合物を含むことを意図する。一般的には、結晶化作用は、本発明の化合物の溶媒和物を生成する。本発明で用いられる用語「溶媒和物」は、1つ以上の本発明の化合物分子と1つ以上の溶媒分子を含む凝集体を指す。溶媒は水であってよく、この場合の溶媒和物は水和物である。或いは、溶媒は有機溶媒であってよい。したがって、本発明の化合物は、一水和物、二水和物、半水和物、セスキ水和物、三水和物、四水和物などを含む水和物の形態、及び対応する溶媒和形態として存在してもよい。本発明の化合物は、真の溶媒和物を形成することができるが、いくつかの場合に、不確定な水のみ、又は水と不確定な溶媒の一部との混合物を保持することもできる。本発明の化合物は、溶媒中で反応するか、又は溶媒から沈殿又は結晶化することができる。本発明の化合物の溶媒和物も、本発明の範囲に含まれる。
【0069】
式Iの化合物の製造方法
【0070】
本発明に係る、式I、式IIの化合物の製造方法は、式cの化合物を用いるステップを含み、上記式cの化合物は、式cの構造を有する。
【化17】
式c:
(式中、m、Y
1の定義は、本発明の第1の態様に記載のとおりであり、好ましくは、0~5の整数であり、より好ましくは、0又は1であり、好ましくは、Y
1は、
【化18】
であり、より好ましくは、
【化19】
である。)
【0071】
上記ステップは、式aの化合物と式bの化合物を反応させて、式cの化合物を得るステップ(i)を含む。
【化20】
(式中、Xは、ハロゲンであり、好ましいXは、塩素、臭素又はヨウ素である。)
【0072】
1つの好ましい実施形態において、上記ステップ(i)は、式aの化合物と式bの化合物を第1の不活性溶媒中で混合し、反応させて、式cの化合物を得るステップを含む。好ましくは、上記ステップ(i)では、不活性ガス保護下で反応する。好ましくは、上記ステップ(i)では、還流温度で反応する。上記第1の不活性溶媒は、特に限定されないが、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジオキサン、アミンエーテル、又はそれらの組成物からなる群から選択される。
【0073】
1つの好ましい実施形態において、上記ステップは、式cの化合物、式c-1の化合物及び式dの化合物を反応させて、式Iの化合物又は式IIの化合物を得るか、
【化21】
又は、
式cの化合物及び式dの化合物を反応させて、式Iの化合物を得るステップ(ii)をさらに含む。
【化22】
【0074】
上記式c-1の化合物の合成方法は、式cの化合物の合成方法と同様であり、式IIの化合物の合成方法は、式Iの化合物の合成方法を含み、m、n、Y
1、Y
2の定義は、本発明の第1の態様に記載のとおりである。式c-1の化合物と式cの化合物は、構造が同じであっても異なっていてもよい。上記各製造方法において、好ましいY
1は、
【化23】
であり、Y
2=Y
1であり、より好ましくは、Y
1は、
【化24】
であり、Y
2=Y
1である。1つの好ましい実施形態において、好ましくは、m=n=0~5の整数であり、より好ましくは、m=n=0又は1である。1つの好ましい実施形態において、Y
1は、
【化25】
であり、Y
2は、フェニル基であり、より好ましくは、Y
1は、
【化26】
であり、Y
2は、フェニル基である。ここで、R
1、R
2は、それぞれ独立にヒドロキシ基であるか、又はそれらが結合するホウ素原子と共に、ホウ酸に加水分解可能な基を表し、好ましくは、-BR
1R
2は、ボロン酸エステル基又はボロン酸基である。
【0075】
上記ステップ(ii)では、第2の不活性溶媒中で反応し、好ましくは、不活性ガス保護下で反応する。上記ステップ(ii)の反応条件は、特に限定されないが、好ましくは、上記ステップ(ii)では、30~100℃の温度で反応する。1つの好ましい実施形態において、上記ステップ(ii)は、第2の不活性溶媒中にアルカリを加えるステップをさらに含む。上記アルカリは、特に限定されないが、好ましくは、上記アルカリは、アルカリ金属塩又はアルカリ金属水素化物であり、上記アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びセシウムを含む。好ましくは、上記アルカリ金属塩は、アルカリ金属の水酸化物とアルカリ金属の有機酸塩を含む。上記第2の不活性溶媒は、特に限定されないが、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジオキサン、アミンエーテル、又はそれらの組成物からなる群から選択される。
【0076】
なお、本発明に係る式I、式IIの化合物を製造する方法によれば、いくつかの実施形態において、上記ステップ(ii)では、式c-1の化合物と式cの化合物の構造が同じである場合に、構造が異なる2つ又は3つの式I、式IIの化合物を同時に得ることも可能であり、このような状況も本願の技術手段に含まれるべきである。例えば、本願の実施例4では、化合物I-1及びI-2が同時に得られた。
【0077】
各ステップの反応について、反応温度は、溶媒、出発原料、試薬等により適宜選択することができ、反応時間は、反応温度、溶媒、出発原料、試薬等により適宜選択することができる。各ステップの反応終了後、目的化合物に対して、濾過、抽出、再結晶、洗浄、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の従来の方法に従って、反応系から分離、精製等のステップを行うことができる。次の反応に影響を与えない場合に、目的化合物は、分離、精製を行わずに、そのまま次の反応に入ることもできる。
【0078】
N-置換基の側鎖が染料分子構造の重要な構成部分であり、異なる置換基を用いて得られる染料分子の光安定性及び蛍光活性に大きな差があるため、適切な置換基の側鎖を選択することが非常に重要である。本発明者らは、鋭意検討した結果、式I、式IIの構造を有する蛍光化合物を見出し、上記化合物は、高い蛍光強度、高い感度を有し、これに基づいて、本発明を完了した。
【0079】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに説明する。以下の説明は、本発明の最も好ましい実施形態に過ぎず、本発明の保護範囲の制限と見なされるべきではないことを理解されたい。本発明を十分に理解したうえで、以下の実施例において具体的な条件を明示していない実験方法は、通常、一般的な条件に従って、又は製造業者が提案した条件に従って行われ、当業者は、本発明の技術手段に対して本質的でない変更を行うことができ、このような変更が本発明の保護範囲に含まれると見なされるべきである。特に明記しない限り、百分率及び部数は、重量百分率及び重量部数である。
―実施例1―
【0080】
乾燥した三口フラスコを用意し、窒素置換を行い、各溶媒及び原料に水がないことを保証した。180mlのアミンエーテルを順に加え、3.3gのNaH及び30gの3-メチルヨードベンゼンを撹拌しながら加え、反応系がほとんどバブリングしないまで撹拌した。反応系内に101gのホウ酸n-ブチルを加え、窒素ガスで保護し、0℃以下に降温した。375mlのt-ブチルマグネシウムクロリドを反応系内に徐々に滴下し、反応系の温度が15℃を超えないように維持した。滴下終了後、室温まで自然昇温し、3h反応させた後、TLCで反応終了をモニターした。反応系内に1800mlのt-ブチルエーテル:酢酸エチル(1:1)の混合溶媒を加えて希釈し、水を加えてクエンチし、クエンチ中の温度は30℃以下であった。反応系内に6mol/Lの塩酸を滴下して、pHを3~4に調節し、分液して有機相を得て、有機相を4回水洗し、最後に塩水で洗浄し、スピンドライして粗生成物を得た。石油エーテル:酢酸エチル=8:1の溶媒で洗浄し、ろ過し、乾燥させて、15.7gの3-メチルベンゼンボロン酸を得て、収率が83.92%であり、純度が99.02%である。
―実施例2―
【0081】
200mlの乾燥したCCl4、9gの3-メチルベンゼンボロン酸、1.6gの過酸化ベンゾイルを三口フラスコに加え、窒素保護下で撹拌しながら65℃に昇温し、5min恒温し、過酸化ベンゾイルの反応を開始した。11.64gのN-ブロモスクシンイミドを数回に分けて加え、一晩還流反応させた後、室温に降温し、しばらく撹拌した後にろ過し、石油エーテル:酢酸エチル=8:1の混合溶媒で製品を洗浄して、13.5gの3-ブロモメチルフェニルボロン酸を得て、収率が95.32%であり、純度が91.33%である。
―実施例3―
【0082】
100mlの乾燥したトルエン、9.07gの2,3,3-ジメチル-トリヒドロインドール、13.5gの3-ブロモメチルフェニルボロン酸を単口フラスコ内に加え、窒素保護下で、一晩還流反応させ、室温に降温した後、ろ過して赤紫色固体を得て、酢酸エチルで不純物を洗い流し、乾燥させて15gの3-ブロモメチルフェニルボロン酸インドール4級アンモニウム塩を得て、収率が89.44%であり、純度が97.33%である。
―実施例4―
【0083】
300mlの無水エタノール、6.47gの3-ブロモメチルフェニルボロン酸インドール4級アンモニウム塩、2-クロロ-3-ヒドロキシメチンシクロヘキセンアルデヒド及び0.15gの酢酸ナトリウムを単口フラスコ内に加え、70℃で1h反応させ、溶媒をスピンドライし、カラムクロマトグラフィーにより分離して、蛍光化合物I-1及びI-2を得た。蛍光化合物I-1の励起波長790nmでの最大蛍光発光ピークは808nmであり、エタノール溶液中の近赤外吸収ピークは785nmであった。蛍光化合物I-2の励起波長790nmでの最大蛍光発光ピークは811nmであり、エタノール溶液中の近赤外吸収ピークは788nmであった。
【0084】
化合物I-1 1H NMR (500 MHz, DMSO-D6):
δ=1.72-1.74 (14H, 4CH3, CH2, m), 2.53-2.54 (4H, 2CH2, m), 3.17 (4H, s), 4.04 (2H, s, br), 5.54 (4H, s, br), 6.38 (2H, CH, d=14.0), 7.26-7.36(6H, m, ArCH), 7.39(2H, ArCH, d=2.8), 7.66-7.73 (6H, ArCH, m), 8.01 (2H, ArCH ,s), 8.24(2H, CH, d=14.0)。
【0085】
化合物I-2
1H NMR (500 MHz, DMSO-D6):
δ =1.66-1.73(14H, 4 CH
3, CH2, m), 2.52-2.56 (4H, 2CH
2, m), 3.12 (2H, s), 3.61 (2H, s), 5.50 (4H, s, br), 6.41 (2H, m, CH), 7.31-7.41 (13H, m, ArCH), 7.62-7.73 (4H, ArCH, m), 8.24-8.28(2H, CH, m)。
【化27】
【0086】
本発明で言及される全ての文献は、各文献が参照として単独で引用されるように、本出願において参照として引用される。また、本発明の上記教示内容を読み終わった後、当業者が本発明を様々な変動や修正を行うことができ、これらの等価形態は、同様に、本願の特許請求の範囲によって限定される範囲に含まれることを理解されたい。