(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】形鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230616BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20230616BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/00 B
(21)【出願番号】P 2021564649
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 KR2020007949
(87)【国際公開番号】W WO2021256587
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ジュンホ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ホンキ
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0012145(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0074841(KR,A)
【文献】特開2004-060001(JP,A)
【文献】特開2013-072118(JP,A)
【文献】特開2016-141834(JP,A)
【文献】特開2002-363644(JP,A)
【文献】特開2001-003136(JP,A)
【文献】特開2003-253331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00-8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素(C):0.08~0.17重量%、マンガン(Mn):0.50~1.60重量%、シリコン(Si):0.10~0.50重量%、クロム(Cr):0.10~0.70重量%、銅(Cu):0超過0.5重量%以下、モリブデン(Mo):0.30~0.70重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなり、
常温における引張強度が490~620MPaであり、降伏強度が355MPa以上であり、降伏比が0.8以下であり、600℃の高温降伏強度が273MPa以上であることを特徴とする、
形鋼。
【請求項2】
0℃の衝撃吸収エネルギーが200J以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の形鋼。
【請求項3】
最終微細組織は、ベイナイトを含むことを特徴とする、
請求項1に記載の形鋼。
【請求項4】
(a)炭素(C):0.08~0.17重量%、マンガン(Mn):0.50~1.60重量%、シリコン(Si):0.10~0.50重量%、クロム(Cr):0.10~0.70重量%、銅(Cu):0超過0.5重量%以下、モリブデン(Mo):0.30~0.70重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる鋼材を1200~1250℃に再加熱するステップと、
(b)前記鋼材を
、圧延開始温度1050~1100℃且つ圧延終了温度910~950℃となるように熱間圧延するステップと、
(c)前記熱間圧延された鋼材をQST(Quenching&Self-Tempering)処理するステップ
であって、水冷冷却終了温度およびセルフテンパリング温度が765~800℃であるステップと、を含み、
前記(c)ステップを行った形鋼の常温における引張強度は490~620MPaであり、降伏強度が355MPa以上であり、降伏比が0.8以下であり、600℃の高温降伏強度は273MPa以上である、
形鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形鋼およびその製造方法に関し、より詳しくは、耐火/耐震性能を有する高強度および高性能の形鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
形鋼は、一般的に断面形状が多角的に変化を有する鋼材を意味する。最近、形鋼は、大型建築物の柱のような構造用鋼材として適用されており、地下鉄、橋梁などの土木用仮設材と基礎用杭としても適用されている。形鋼は、連続鋳造で製造されたブルーム(Bloom)、ビレット(Billet)、ビームブランク(Beam blank)などの鋳片を熱間圧延することにより製造できる。
【0003】
最近、全世界的に大型地震が発生しており、これによって多大な人命や財産の被害が発生している。朝鮮半島でも2016年と2017年に慶州と浦項で震度5.0以上の強震が相次いで発生するなど不安感が大きくなっている状況である。地震発生時、建物の破損による1次的な被害とともに2次的に発生しうる火災は構造物を支えている補強材の軟化を起こすことにより、地震による補強材の塑性変形とともに建物の崩壊を促進させる原因になりうる。これにより、最近、地震や高層ビルの火災といった災難状況でも建築物の崩壊を遅延させて人命や財産の被害を最小化するための建築物の設計基準が強化されている。このような建築物の安全性強化のためには、建築物デザインの耐震設計、スプリンクラーのような防護施設の設置とともに構造物の製作に用いられる建築構造用素材の耐震および耐火性能の向上が必須に要求される。このために、降伏比の制御により地震に耐えられる耐震性能を確保した耐震鋼と高温強度の改善により火災に耐えられる耐火鋼がそれぞれ開発されて使用されている。しかし、先に言及したように、地震発生時に建物の破損による火災発生が相次ぐ恐れがあるので、このような状況に備えられるように耐震性能と耐火性能を同時に有する490MPa級の耐火および耐震形鋼に対する要求が増大している。
【0004】
関連先行技術としては、特許文献1(2014.05.12公開、発明の名称:形鋼およびその製造方法)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】大韓民国公開特許公報第10-2014-0056765号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、耐火/耐震性能を有する高強度および高性能の形鋼およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための、本発明の一実施例による形鋼は、炭素(C):0.08~0.17重量%、マンガン(Mn):0.50~1.60重量%、シリコン(Si):0.10~0.50重量%、クロム(Cr):0.10~0.70重量%、銅(Cu):0超過0.5重量%以下、モリブデン(Mo):0.30~0.70重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなり、常温における引張強度が490~620MPaであり、降伏強度が355MPa以上であり、降伏比が0.8以下であり、600℃の高温降伏強度が273MPa以上であることを特徴とする。
【0008】
前記形鋼は、0℃の衝撃吸収エネルギーが200J以上であってもよい。
【0009】
前記形鋼の最終微細組織は、ベイナイトを含むことができる。
【0010】
上記の目的を達成するための、本発明の一実施例による形鋼の製造方法は、(a)炭素(C):0.08~0.17重量%、マンガン(Mn):0.50~1.60重量%、シリコン(Si):0.10~0.50重量%、クロム(Cr):0.10~0.70重量%、銅(Cu):0超過0.5重量%以下、モリブデン(Mo):0.30~0.70重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる鋼材を1200~1250℃に再加熱するステップと、(b)前記鋼材を圧延終了温度910~950℃となるように熱間圧延するステップと、(c)前記熱間圧延された鋼材をQST(Quenching&Self-Tempering)処理するステップと、を含む。
【0011】
前記形鋼の製造方法において、前記QST(Quenching&Self-Tempering)処理するステップは、水冷冷却終了温度およびセルフテンパリング温度が765~800℃であってもよい。
【0012】
前記形鋼の製造方法において、前記(c)ステップを行った形鋼の常温における引張強度は490~620MPaであり、降伏強度が355MPa以上であり、降伏比が0.8以下であり、600℃の高温降伏強度は273MPa以上であってもよい。
【0013】
前記形鋼の製造方法の前記(b)ステップは、圧延開始温度1050~1100℃となるように熱間圧延するステップを含むことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施例によれば、耐火/耐震性能を有する高強度および高性能の形鋼およびその製造方法を実現することができる。もちろん、このような効果によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例による形鋼の製造方法を図解するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施例による形鋼およびその製造方法を詳細に説明する。後述する用語は本発明における機能を考慮して適切に選択された用語であって、このような用語に対する定義は、本明細書全般にわたる内容に基づいて行われなければならない。
【0017】
最近、建築構造物が高層化の傾向にある中、火災や地震などの災害に備えた構造物の安全設計が必須であり、耐火、耐震などの高機能性建設素材の開発が切実な状況である。一方、火災時、建築物の災難安全確保のための安全設計の要求も強化される傾向にある。英国をはじめとする欧州および米国、オーストラリアなどでは、超高層建築物の耐火設計に対する法規定の整備による安全設計の要求レベルが増加している。韓国国内と類似の建築法規定体系を整っている日本の場合も、建築基準法を改正して耐火構造に対する性能規定の導入および耐火性能に関する規定を適用している。韓国国内では、耐火厚板材が開発されたが、商用化まではたどり着いておらず、形状のある建築構造物鋼材(H形鋼など)に対する耐火鋼材の開発および性能評価は皆無であるのが現状である。以下、安定的な耐火/耐震性能を有する高強度高性能形鋼およびその製造方法を提供しようとする。
【0018】
形鋼
本発明の一実施例による形鋼は、炭素(C):0.08~0.17重量%、マンガン(Mn):0.50~1.60重量%、シリコン(Si):0.10~0.50重量%、クロム(Cr):0.10~0.70重量%、銅(Cu):0超過0.5重量%以下、モリブデン(Mo):0.30~0.70重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる。
【0019】
以下、本発明の一実施例による形鋼に含まれる各成分の役割および含有量について説明する。
【0020】
炭素(C)
炭素(C)は、強度を確保するために添加され、溶接性に最も大きな影響を及ぼす元素である。また、炭素は、Nb、Tiなどと反応して微細な炭化物の生成を促進させることにより、析出強化による強度の向上に効果的に寄与する一方、高温で電位移動を妨げることにより高温強度を向上させて耐火性能の確保に効果的である。前記炭素(C)は、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0.08~0.17重量%の含有量比で添加される。炭素の含有量が全重量の0.08重量%未満の場合には、十分な強度を確保するのに困難が伴うことがある。逆に、炭素の含有量が全重量の0.17重量%を超える場合には、粗大な炭化物が生成されて衝撃特性を低下させるだけでなく、不連続降伏挙動を発生させることにより降伏比を高めて耐震性能を低下させ、母材の衝撃靭性を低下させることがあり、電気抵抗溶接(ERW)時の溶接性の低下をもたらす問題点がありうる。
【0021】
マンガン(Mn)
マンガン(Mn)は、固溶強化元素として強度の確保に寄与するだけでなく、鋼の硬化能を向上させてベイナイト組織の生成に効果的な元素である。マンガンは、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0.50~1.60重量%の含有量比で添加される。マンガンの含有量が0.50重量%より小さい場合、固溶強化の効果を十分に発揮することができない。また、マンガンの含有量が1.60重量%を超える場合、Sと結合してMnS介在物を生成させたり、またはインゴットに中心偏析を発生させることができ、これにより、形鋼の延性が低下し、耐腐食性が低下しうる。
【0022】
シリコン(Si)
シリコン(Si)は、アルミニウムと共に製鋼工程で鋼中の酸素を除去するための脱酸剤として添加される。また、シリコンは、固溶強化の効果も有することができる。前記シリコンは、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0.10~0.50重量%の含有量比で添加される。シリコンの含有量が全重量の0.10重量%未満の場合には、シリコン添加効果をまともに発揮することができない。逆に、シリコンの含有量が全重量の0.50重量%超過で多量添加時、鋼の溶接性を低下させ、再加熱および熱間圧延時に赤スケール(red scale)を生成させることにより、表面品質に問題をきたすことがある。
【0023】
クロム(Cr)
クロム(Cr)は、鋼の硬化能を向上させてベイナイト微細組織の確保に寄与する元素であり、フェライト安定化元素としてC-Mn鋼に添加時、溶質妨害効果で炭素の拡散を遅延して粒度の微細化に影響を及ぼす。前記クロムは、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0.10~0.70重量%の含有量比で添加される。クロムの含有量が全重量の0.10重量%未満の場合には、クロム添加効果をまともに発揮することができない。逆に、クロムの含有量が全重量の0.70重量%超過で多量添加時、鋼の製造単価を上昇させ、粒界に粗大な炭化物を形成させて鋼の延性を低下させることがあり、靭性および硬化性の観点から鋼の特性が低下する問題をきたすことがある。
【0024】
銅(Cu)
銅(Cu)は、フェライトに固溶して固溶強化の効果を示す元素である。また、ベイナイト変態において析出せずに過飽和した銅が常温では組織中に固溶し、耐火鋼としての使用温度600℃の加熱時にベイナイト変態によって導入された電位上に銅相を析出し、その析出硬化によって母材の耐力を増加させる。前記銅は、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0超過0.5重量%以下の含有量比で添加される。銅の含有量が全重量の0.5重量%超過で多量添加時、熱間加工が難しく、析出強化は飽和し、靭性を低下させ、赤熱脆性の原因になる問題点が発生する。
【0025】
モリブデン(Mo)
モリブデン(Mo)は、鋼の硬化能を向上させてベイナイト微細組織の確保に寄与することができ、高温強度の確保に非常に効果的な元素であり、母材強度および高温強度の確保に有効な元素である。前記モリブデンは、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0.30~0.70重量%以下の含有量比で添加される。モリブデンの含有量が全重量の0.30重量%未満であれば、上述した効果を実現することができず、モリブデンの含有量が全重量の0.70重量%超過で多量添加時、鋼の製造単価を上昇させ、粒界炭化物の生成を促進させて鋼の延性を低下させることがあり、クエンチング性が過度に上昇して母材および溶接熱影響部の靭性が劣化する問題点が発生する。
【0026】
リン(P)
リン(P)は、固溶強化によって鋼の強度を高め、炭化物の形成を抑制する機能を行うことができる。前記リンは、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0超過0.020重量%以下の含有量比で添加される。リンの含有量が0.020重量%を超える場合には、トランプ元素(Tramp element)として介在物などを生成して鋼の延性を低下させることがあり、析出挙動によって低温衝撃値が低下する問題がある。
【0027】
硫黄(S)
硫黄(S)は、微細MnSの析出物を形成して加工性を向上させることができる。前記硫黄は、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0超過0.01重量%以下の含有量比で添加される。硫黄の含有量が0.01重量%を超える場合、トランプ元素(Tramp element)として介在物などを生成して鋼の延性を低下させることがあり、靭性および溶接性を阻害し、低温衝撃値を低下させることがある。
【0028】
窒素(N)
窒素(N)は、AlNなどの窒化物系析出物を形成して結晶粒の微細化に寄与し、高温強度を確保するのに寄与することができる。前記窒素は、本発明の一実施例による形鋼の全重量の0超過0.012重量%以下の含有量比で添加される。前記窒素の含有量が0.012重量%を超えると、溶接部の靭性が低下し、衝撃値が低下しうる。
【0029】
ホウ素(B)
ホウ素(B)は、強力な焼入性元素として鋼の強度の向上に寄与する。本発明の一実施例による形鋼において、ホウ素は、選択的に0超過0.003重量%以下で添加することができる。万一、ホウ素の含有量が本発明の一実施例による形鋼の全重量の0.003重量%を超える場合には、粒界偏析による材質偏差を発生させる問題点がある。
【0030】
ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)
ニッケル(Ni)は、硬化能を増大させ、靭性を向上させる元素であり、バナジウム(V)は、圧延中に析出物を形成して強度を増加させる効果があり、特に、窒素の添加量に応じて析出量を制御できる元素であり、ニオブ(Nb)は、NbCまたはNb(C、N)の形態で析出して母材および溶接部の強度を向上させる元素であり、チタン(Ti)は、高温TiNの形成によりAlNの形成を抑制し、Ti(C、N)などの形成により結晶粒の大きさの微細化効果を有する元素である。本発明の一実施例による形鋼は、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくとも1種以上を含有し、その含有量の合計が形鋼の全重量の0.01~0.5重量%の含有量比で添加される。本発明の一実施例による形鋼に含有されたニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくとも1種以上の含有量の合計が0.01重量%より低い場合、上述した添加効果を期待することができず、0.5重量%より高い場合、部品の製造コストが高くなり、脆性クラックが発生し、母相中の炭素含有量が減少して鋼の特性が低下する問題が発生しうる。
【0031】
上述のような、合金元素の組成を有する本発明の一実施例による形鋼は、常温における引張強度が490~620MPaであり、降伏強度が355MPa以上であり、降伏比が0.8以下であり、600℃の高温降伏強度が273MPa以上であってもよい。また、0℃の衝撃吸収エネルギーが200J以上であってもよい。
【0032】
また、上述のような合金元素の組成を有する本発明の一実施例による形鋼において、最終微細組織は、ベイナイトを含むことができる。
【0033】
以下、上述した合金元素の組成を有する本発明の一実施例による形鋼の製造方法を説明する。
【0034】
形鋼の製造方法
図1は、本発明の一実施例による形鋼の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図1を参照すれば、本発明の一実施例による優れた耐火特性を有する形鋼の製造方法は、再加熱ステップS100と、熱間圧延ステップS200と、QST(Quenching&Self-Tempering)ステップS300とを含む。形鋼圧延工程は、再加熱過程、熱間変形工程、冷却工程により製造される。再加熱過程では、半製品状態であるビームブランクを1200~1250℃まで再加熱する。次に、熱間圧延工程は、各圧延ロール(RM、IM、FM)を経て、910~950℃で最終仕上げ圧延を圧延完了後、表面加速冷却装置であるQST(Quenching and Self Tempering)設備によりSTT765~800℃を確保することを特徴とする。
【0035】
まず、再加熱ステップS100では、上述した所定の組成の鋼材を再加熱する。前記鋼材は、製鋼工程により所望する組成の溶鋼を得た後に、連続鋳造工程により製造できる。前記鋼材は、一例として、ビレット(Billet)またはビームブランク(Beam Blank)であってもよい。
【0036】
前記鋼材は、炭素(C):0.08~0.17重量%、マンガン(Mn):0.50~1.60重量%、シリコン(Si):0.10~0.50重量%、クロム(Cr):0.10~0.70重量%、銅(Cu):0超過0.5重量%以下、モリブデン(Mo):0.30~0.70重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)とその他の不可避不純物からなる。
【0037】
一実施例において、前記鋼材は、1200~1250℃の温度に再加熱できる。前記鋼材は、上述した温度に再加熱される時、連続鋳造工程時に偏析した成分が再固溶できる。再加熱温度が1200℃より低い場合、各種炭化物の固溶が十分でないことがあり、連続鋳造工程時に偏析した成分が十分に均一に分布しない問題がありうる。再加熱温度が1250℃を超える場合、非常に粗大なオーステナイト結晶粒が形成されて強度の確保が難しいことがある。また、1250℃を超える場合、加熱費用が増加し、工程時間が追加されて、製造費用の上昇および生産性の低下をもたらすことがある。
【0038】
熱間圧延ステップS200において、再加熱された前記鋼材を熱間圧延する。前記熱間圧延は、圧延終了温度が910~950℃となるように制御できる。前記圧延終了温度が910℃未満であれば、未再結晶領域での圧延が進行することにより、圧延負荷が大きくなり、圧延結果物である形鋼の降伏比が高くなりうる。また、前記圧延終了温度が950℃を超えると、目標とする強度および靭性の確保が難しいことがある。一方、前記熱間圧延は、圧延開始温度1050~1100℃となるように制御できる。
【0039】
QST(Quenching&Self-Tempering)ステップS300において、前記熱間圧延された形鋼を冷却および自己テンパリング処理する。前記冷却は、前記形鋼に対して冷却水を噴射するクエンチング(quenching)方法を適用する。また、前記QSTステップは、前記形鋼の搬送速度、または噴射される冷却水の水量を制御することにより、水冷冷却終了温度およびセルフテンパリング温度が765~800℃に制御された状態で行われる。
【0040】
上述した鋼材の製造工程をまとめると、再加熱過程、熱間変形工程、冷却工程により製造される。再加熱過程では、半製品状態であるビレット(Billet)およびビームブランク(Beam Blank)を1200~1250℃に再加熱する。次に、再加熱された前記素材を熱間圧延し、最終仕上げ圧延を910~950℃で変形完了後、水冷冷却終了温度およびセルフテンパリング温度が765~800℃に制御された状態でQST(Quenching&Self-Tempering)処理を行うことができる。すなわち、圧延板材を製造するために、先にインゴットを1200~1250℃に再加熱した後、熱間圧延を実施してH形鋼を製造し、この時、仕上げ圧延温度は910~950℃の範囲に制御した。H形鋼のフランジ(Flange)部を基準として厚さ15mmまで熱間圧延後、冷却を実施した。熱間圧延後に水冷を実施し、この時、水冷冷却終了温度を765~800℃に変更して水冷を実施した。
【0041】
本発明の実施例では、通常活用される高価な析出硬化型合金元素であるニオブ(Nb)やチタン(Ti)を使用しなかったり、少量だけ使用しながらも、強度と靭性が同時に向上できるように、クロム(Cr)および一部の合金元素を添加した鋼種設計および工程条件を適用する。また、低温靭性の確保は、前記冷却時のセルフテンパリング温度の制御により進行させることができる。
【0042】
上述した製造方法により、本発明の一実施例による形鋼を製造することができる。前記製造された形鋼は、常温における引張強度は490~620MPaであり、降伏強度が355MPa以上であり、降伏比が0.8以下であり、600℃の高温降伏強度は273MPa以上であってもよい。また、本発明の一実施例による形鋼において、最終微細組織は、ベイナイトを含むことができる。
【実施例】
【0043】
実験例
以下、本発明の理解のために好ましい実験例を提示する。ただし、下記の実験例は本発明の理解のためのものに過ぎず、本発明が下記の実験例によって限定されるものではない。
【0044】
表1は、本実験例の主要合金元素の組成(単位:重量%)を示したものであり、表2は、本実験例の試験片を製造する工程条件とこれにより実現された試験片の機械的物性を測定した結果を示したものである。表1の組成を有するビームブランクを電気炉を用いて製造した後、熱間圧延を経てフランジ(Flange)部の厚さ15mmのH形鋼を製造した。
【0045】
【0046】
【0047】
表1を参照すれば、本発明の組成係2の成分は、炭素(C):0.08~0.17重量%、マンガン(Mn):0.50~1.60重量%、シリコン(Si):0.10~0.50重量%、クロム(Cr):0.10~0.70重量%、銅(Cu):0超過0.5重量%以下、モリブデン(Mo):0.30~0.70重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)からなる組成を満足する。これに対し、本発明の組成係1の成分は、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下の組成を満足することができない。
【0048】
表2を参照すれば、本実験例の実施例1による試験片は、炭素(C):0.08~0.17重量%、マンガン(Mn):0.50~1.60重量%、シリコン(Si):0.10~0.50重量%、クロム(Cr):0.10~0.70重量%、銅(Cu):0超過0.5重量%以下、モリブデン(Mo):0.30~0.70重量%、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、窒素(N):0超過0.012重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)およびチタン(Ti)の少なくともいずれか1つ以上の合計:0.01~0.5重量%および残部鉄(Fe)からなる組成を満足し、工程条件は、再加熱温度が1200~1250℃の範囲を満足し、圧延開始温度が1050~1100℃の範囲を満足し、圧延終了温度が910~950℃の範囲を満足し、QST(Quenching&Self-Tempering)処理においてセルフテンパリング温度である復熱温度が765~800℃の範囲を満足する。このような組成と工程条件を満足する実施例1は、常温における引張強度が490~620MPaであり、降伏強度が355MPa以上であり、降伏比が0.8以下であり、600℃の高温降伏強度が273MPa以上であるという要求事項をすべて満足する。
【0049】
本実験例の比較例1による試験片は、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下の組成範囲を満足することができず、QST(Quenching&Self-Tempering)処理においてセルフテンパリング温度である復熱温度が765~800℃の範囲を満足することができない。これによる比較例1は、常温引張強度が490~620MPaの範囲を満足することができず、600℃の高温降伏強度が273MPa以上を満足することができない。
【0050】
本実験例の比較例2による試験片は、リン(P):0超過0.02重量%以下、硫黄(S):0超過0.01重量%以下、ホウ素(B):0超過0.003重量%以下の組成範囲を満足することができず、QST(Quenching&Self-Tempering)処理においてセルフテンパリング温度である復熱温度が765~800℃の範囲を満足することができない。これによる比較例2は、常温引張強度が490~620MPaの範囲を満足することができず、600℃の高温降伏強度が273MPa以上を満足することができない。
【0051】
本実験例の比較例3、比較例4、比較例5、比較例6による試験片は、QST(Quenching&Self-Tempering)処理においてセルフテンパリング温度である復熱温度が765~800℃の範囲を満足することができない。これによる試験片は、600℃の高温降伏強度が273MPa以上を満足することができない。
【0052】
本実験例の比較例7による試験片は、QST(Quenching&Self-Tempering)処理においてセルフテンパリング温度である復熱温度が765~800℃の範囲を満足することができない。これによる試験片は、常温降伏強度が355MPa以上を満足することができず、600℃の高温降伏強度が273MPa以上を満足することができない。
【0053】
以上、本発明の実施例を中心に説明したが、当業者のレベルで多様な変更や変形を加えることができる。このような変更と変形が本発明の範囲を逸脱しない限り、本発明に属するといえる。したがって、本発明の権利範囲は以下に記載される特許請求の範囲によって判断されなければならない。
【0054】
この発明は、産業通商資源部の研究プロジェクト(認可番号20010453)の下で、韓国政府の支援を受けて行われたものである。