(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/92 20060101AFI20230616BHJP
B63H 21/38 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
B01D53/92 213
B01D53/92 335
B63H21/38 B
(21)【出願番号】P 2022520252
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 KR2020012548
(87)【国際公開番号】W WO2021091076
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2019-0139979
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521358202
【氏名又は名称】ローカーボン・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チョル・イ
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1836047(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0005852(KR,A)
【文献】特開2013-208588(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0106331(KR,A)
【文献】特開2016-164071(JP,A)
【文献】特開2013-203802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00-53/96
B63H21/38
F02M37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、TiO
2、MgO、MnO、CaO、Na
2O、K
2O及びP
2O
3
を含む酸化物;
(b)Li、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Cd及びPb
を含む金属;及び
(c)四ホウ酸ナトリウム(Na
2B
4O
7・10H
2O)、水酸化ナトリウム(NaOH)、ケイ酸ナトリウム(Na
2SiO
3)及び過酸化水素(H
2O
2)
を含む液状組成物;を含む前処理脱硫剤を製造し、
前記前処理脱硫剤を、船舶燃料油が供給される船舶用エンジンの燃料供給ラインに一定の割合で投入して、前記船舶燃料油と前処理脱硫剤が混合された状態で船舶用エンジンに供給されることにより、前記
船舶燃料油と前記前処理脱硫剤が混合された流体の燃焼過程で硫黄酸化物を吸着及び除去
し、
前記前処理脱硫剤は、船舶燃料油100重量部に対して3.5~6重量部の割合で混合され、前記船舶用エンジンの排ガス中のSO
2
濃度を最小69%から最大100%まで低減させる、前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法。
【請求項2】
前記酸化物は、SiO
215~90重量部、Al
2O
315~100重量部、Fe
2O
310~50重量部、TiO
25~15重量部、MgO20~150重量部、MnO10~20重量部、CaO20~200重量部、Na
2O15~45重量部、K
2O20~50重量部及びP
2O
35~20重量部で含まれ、
前記金属は、Li0.0035~0.009重量部、Cr0.005~0.01重量部、Co0.001~0.005重量部、Ni0.006~0.015重量部、Cu0.018~0.03重量部、Zn0.035~0.05重量部、Ga0.04~0.08重量部、Sr0.02~0.05重量部、Cd0.002~0.01重量部、及びPb0.003~0.005重量部で含まれる、請求項1に記載の前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法。
【請求項3】
前記酸化物及び金属粒子の大きさは1~2μmであり、比重は2.5~3.0である、請求項1に記載の前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法。
【請求項4】
四ホウ酸ナトリウム(Na
2B
4O
7・10H
2O)20~130重量部、水酸化ナトリウム(NaOH)15~120重量部、ケイ酸ナトリウム(Na
2SiO
3)50~250重量部及び過酸化水素(H
2O
2)10~50重量部で含まれる、請求項1に記載の前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法。
【請求項5】
前記前処理脱硫剤は、前記酸化物、前記金属、及び前記液状組成物が金属キレート化合物を形成する、請求項1に記載の前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法。
【請求項6】
前記前処理脱硫剤は、400~1200℃で硫黄酸化物(SO
x)の吸着効果が活性化される、請求項1に記載の前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法。
【請求項7】
前記船舶燃料油と前記前処理脱硫剤は、ラインミキシングを介して船舶用エンジンに混合及び供給される、請求項1に記載の前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法。
【請求項8】
前記船舶燃料油は、バンカーA油、バンカーB油、バンカーC油などの重油又はMGO、MDO、DDOなどの軽油のうちのいずれか一つである、請求項1に記載の前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法に係り、より詳細には、船舶用エンジンの燃料として用いられるバンカーC油などの船舶燃料油の硫黄酸化物(SOx)排出低減のために、前処理脱硫機能を有する脱硫剤を用いて、船舶燃料油の燃焼時に硫黄酸化物(SOx)を吸着及び低減させる、前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染を誘発する汚染源として、硫黄酸化物(SOx)と窒素酸化物(NOx)が指摘されており、特に、硫黄酸化物は、硫黄成分を含有する化石燃料の燃焼から放出される産業排ガスに含まれており、酸性雨を誘発するなどの多様な環境汚染を引き起こすなどの問題を示している。
【0003】
このような産業排ガスから硫黄酸化物を除去する脱硫方法は、持続的に研究されてきた。工場又は化石燃料を使用する発電所では、一般に、燃焼後処理方法である排煙脱硫方法を使用してきた。
【0004】
排煙脱硫方法は、硫黄ガスを含有する化石燃料を燃焼させた後、その排ガスを脱硫処理することを意味し、このような排煙脱硫方法は湿式法と乾式法に分けられる。湿式法は、排ガスをアンモニア水、水酸化ナトリウム溶液、石灰乳などを介して洗浄して硫黄酸化物を除去する方法であり、乾式法は、活性炭、炭酸塩などの粒子又は粉末を排ガスと接触させ、二酸化硫黄を吸着又は反応させることにより硫黄酸化物を除去する方法である。
【0005】
特に、船舶用エンジンに用いられるバンカーC油などの重油(MGO、MDO、DDO)の硫黄酸化物の含有量は、自動車燃料より少なくは1千倍から多くは3千倍まで高く、全世界の船舶が排出する硫黄酸化物が自動車の130倍と多いため、環境汚染の主犯として知られている。
【0006】
このため、従来は、船舶用エンジンから排出される硫黄酸化物の除去のために船舶用湿式脱硫システムを用いて後処理として排煙脱硫を行っているが、前記湿式脱硫システムは、一般にポンプを用いて洗浄水(NaOH)を冷却器を経てスクラバーに供給し、前記スクラバーで排ガスと洗浄水を接触させて後処理として硫黄酸化物を除去する方式である。
【0007】
このとき、前記湿式脱硫システムの硫黄酸化物除去能力を一定のレベルに維持するために、洗浄水のpHをモニタリングして自動的に洗浄水の供給量を制御するが、使用済みの洗浄水を再使用するために浄化する過程で膨大な量のスラッジが発生し、このようなスラッジはスラッジタンクに集めて保管した後、停泊後に処理する方式で、後処理脱硫が運用されている。
【0008】
上述したように、従来の後処理湿式脱硫技術は、洗浄水の水質浄化過程が複雑であって人手と費用が多くかかり、複雑な脱硫設備を別途構築しなければならないので、現在運行中の船舶にこのような従来の脱硫システムを適用することは、空間的、費用的な面で現実的に容易ではないという問題点があった。
【0009】
したがって、このような船舶燃料油の燃焼及び硫黄酸化物の排出による環境汚染問題を画期的に改善するためには、単純で適用が容易である、硫黄酸化物の排出量が大幅に低減できる効果的な前処理脱硫方法に関する研究が至急必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、その目的は、高硫黄船舶燃料油の燃焼過程で生成された硫黄酸化物が大気中に排出されることを事前に防止することができるうえ、単純で適用が容易であり、脱硫効果にも優れる、前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、一実施形態によれば、(a)SiO2、Al2O3、Fe2O3、TiO2、MgO、MnO、CaO、Na2O、K2O及びP2O3よりなる群から選択された1種以上の酸化物;(b)Li、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Cd及びPbよりなる群から選択された1種以上の金属;及び(c)四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)、水酸化ナトリウム(NaOH)、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)及び過酸化水素(H2O2)よりなる群から選択された1種以上の液状組成物;を含む前処理脱硫剤を製造し、前記前処理脱硫剤を、船舶燃料油が供給される船舶用エンジンの燃料供給ラインに一定の割合で投入して、前記船舶燃料油と前処理脱硫剤が混合された状態で船舶用エンジンに供給されることにより、前記混合流体の燃焼過程で硫黄酸化物を吸着及び除去する。
【0012】
また、一実施形態によれば、前記酸化物は、SiO215~90重量部、Al2O315~100重量部、Fe2O310~50重量部、TiO25~15重量部、MgO20~150重量部、MnO10~20重量部、CaO20~200重量部、Na2O15~45重量部、K2O20~50重量部及びP2O35~20重量部で含まれ、前記金属は、Li0.0035~0.009重量部、Cr0.005~0.01重量部、Co0.001~0.005重量部、Ni0.006~0.015重量部、Cu0.018~0.03重量部、Zn0.035~0.05重量部、Ga0.04~0.08重量部、Sr0.02~0.05重量部、Cd0.002~0.01重量部、及びPb0.003~0.005重量部で含まれる。
【0013】
また、一実施形態によれば、前記酸化物及び金属粒子の大きさは1~2μmであり、比重は2.5~3.0である。
【0014】
また、一実施形態によれば、四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)20~130重量部、水酸化ナトリウム(NaOH)15~120重量部、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)50~250重量部及び過酸化水素(H2O2)10~50重量部で含まれる。
【0015】
また、一実施形態によれば、前記前処理脱硫剤は、前記酸化物、前記金属及び前記液状組成物が金属キレート化合物を形成する。
【0016】
また、一実施形態によれば、前記前処理脱硫剤は、400~1200℃で硫黄酸化物(SOx)の吸着効果が活性化される。
【0017】
また、一実施形態によれば、前記前処理脱硫剤は、船舶燃料油100重量部に対して0.1~10重量部の割合で混合される。
【0018】
また、一実施形態によれば、前記前処理脱硫剤は、船舶燃料油100重量部に対して6重量部の割合で混合される。
【0019】
また、一実施形態によれば、前記船舶燃料油と前処理脱硫剤は、ラインミキシングを介して船舶用エンジンに混合及び供給される。
【0020】
また、一実施形態によれば、前記船舶燃料油は、バンカーA油、バンカーB油、バンカーC油などの重油又はMGO、MDO、DDOなどの軽油のうちのいずれか一つである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の前処理脱硫剤を用いた船舶燃料油の前処理脱硫方法は、高硫黄船舶用燃料油の燃焼過程で生成された多量の硫黄酸化物が大気中に排出されることを未然に防止することができるため、硫黄酸化物による大気汚染問題の解消に大きく寄与することができるという効果がある。
【0022】
また、本発明に係る前処理脱硫方法は、燃料の燃焼後に排ガスを脱硫していた従来の方法とは異なり、船舶燃料油を燃焼させる前に前処理脱硫剤と混合して船舶エンジンで船舶燃料油と共に燃焼させることにより追加の脱硫施設の投資なしで既存の船舶用エンジンの燃料供給系統に連結さえすればよいので、単純で適用が容易であるうえ、脱硫効果にも優れるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る前処理脱硫システムの構成を示す例示図である。
【
図3】試験例1の全区間硫黄酸化物(SO
2)の濃度分析結果である。
【
図4】試験例2の全区間硫黄酸化物(SO
2)の濃度分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態に提示される特定の構造ないし機能的説明は、本発明の概念による実施形態を説明するための目的で例示されたものであり、本発明の概念による実施形態は、様々な形態で実施できる。また、本明細書に説明された実施形態に限定されるものと解釈されてはならず、本発明の思想及び技術範囲に含まれるすべての変更物、均等物ないし代替物を含むものと理解されるべきである。以下、図面と共に本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明は、(a)SiO2、Al2O3、Fe2O3、TiO2、MgO、MnO、CaO、Na2O、K2O及びP2O3よりなる群から選択された1種以上の酸化物、(b)Li、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Cd及びPbよりなる群から選択された1種以上の金属、及び(c)四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)、水酸化ナトリウム(NaOH)、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)及び過酸化水素(H2O2)よりなる群から選択された1種以上の液状組成物;を含む脱硫用触媒(以下、「前処理脱硫剤」という)を用いる。
【0026】
本発明による前処理脱硫剤は、SiO2、Al2O3、Fe2O3、TiO2、MgO、MnO、CaO、Na2O、K2O及びP2O3よりなる群から選択された1種以上の酸化物を含むことができ、下記の一実施形態のように、SiO2、Al2O3、Fe2O3、TiO2、MgO、MnO、CaO、Na2O、K2O及びP2O3の酸化物を全て含んで使用することが好ましい。
【0027】
SiO2、Al2O3、Fe2O3、TiO2、MgO、MnO、CaO、Na2O、K2O及びP2O3を全て含むときの基本化学式は、K0.8~0.9(Al,Fe,Mg)2(Si,Al)4O10(OH)2であって、一般にイライト(illite)と呼ばれる鉱物であり、イライトは、基本的に2つの四面体層の間に1つの八面体層が入って結合する2:1の構造を有し、八面体層は、結合構造内の陽イオンサイト3個のうち、2個だけ陽イオンで満たされる2八面体(dioctahedral)構造が特徴であって、陽イオンの不足により全体的に負(-)電荷を帯びており、これにより脱硫用触媒と混合された燃焼物が燃焼するときに硫黄酸化物(SOx)を吸着することができる。
【0028】
各酸化物は、前処理脱硫剤にSiO215~90重量部、Al2O315~100重量部、Fe2O310~50重量部、TiO25~15重量部、MgO20~150重量部、MnO10~20重量部、CaO20~200重量部、Na2O15~45重量部、K2O20~50重量部、及びP2O35~20重量部で含まれることができる。
【0029】
また、酸化物は、脱硫用触媒として形成される前に、微粉器によって粒子サイズ1~2μmの微粒子に混合及び微粉でき、2.5~3.0の比重を有し、条痕色及び銀白色を呈する粉末状に使用される。
【0030】
本発明による前処理脱硫剤は、Li、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Cd及びPbよりなる群から選択された1種以上の金属を含むことができ、下記の一実施形態のようにLi、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Cd及びPbの金属を全て含んで使用することが好ましい。
【0031】
各金属は、前処理脱硫剤にLi0.0035~0.009重量部、Cr0.005~0.01重量部、Co0.001~0.005重量部、Ni0.006~0.015重量部、Cu0.018~0.03重量部、Zn0.035~0.05重量部、Ga0.04~0.08重量部、Sr0.02~0.05重量部、Cd0.002~0.01重量部、及びPb0.003~0.005重量部で含まれることができる。
【0032】
また、前記酸化物のように、金属も微分器によって粒子サイズ1~2μmの微粒子に混合及び微粉でき、2.5~3.0の比重を有し、条痕色及び銀白色を呈する粉末状に使用される。
【0033】
本発明による前処理脱硫剤は、四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)、水酸化ナトリウム(NaOH)、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)及び過酸化水素(H2O2)よりなる群から選択された1種以上の液状組成物を含むことができ、下記の一実施形態のように、四ホウ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム及び過酸化水素の液状組成物を全て含んで使用することが好ましい。
【0034】
本発明による前処理脱硫剤は、前述した酸化物、液状組成物の混合及び反応を行いながらキレート剤の役目をして、金属と配位結合を介してキレート化された金属キレート化合物を形成する。
【0035】
また、液状組成物は、燃焼物が燃焼するときに発生する灰分(ash)に吸着して、灰分中に存在する硫黄酸化物と反応して除去することができる。四ホウ酸ナトリウムであるNa2B4O7からNaBO2が誘導され、水素化を経てNaBH4が生成され、生成されたNaBH4が酸素と硫黄酸化物に出会って硫酸ナトリウム(Na2SO4)として反応して硫黄酸化物を除去し、反応過程は、下記の反応式1及び2のとおりである。
【0036】
[反応式1]
【0037】
NaBH4+O3→Na2O2+H2O+B
【0038】
[反応式2]
【0039】
1)Na2O2+SO3→Na2SO4+O
【0040】
2)Na2O2+SO2→Na2SO4
【0041】
3)Na2O2+SO→Na2SO3
【0042】
また、各液状組成物は、前処理脱硫剤に四ホウ酸ナトリウム20~130重量部、水酸化ナトリウム15~120重量部、ケイ酸ナトリウム50~250重量部及び過酸化水素10~50重量部で含まれることができる。
【0043】
本発明による前処理脱硫剤を400~1200℃の温度範囲で燃焼物と混合して燃焼させるときに硫黄酸化物の吸着効果が活性化できるが、600~900℃の温度範囲で燃焼させることが高い効率を示すことができる。
【0044】
以下、本発明による前処理脱硫剤の製造方法を説明する。
【0045】
本発明による前処理脱硫剤は、(a)SiO2、Al2O3、Fe2O3、TiO2、MgO、MnO、CaO、Na2O、K2O及びP2O3よりなる群から選択された1種以上の酸化物粉末を混合及び微粉するステップ;(b)Li、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Cd及びPbよりなる群から選択された1種以上の金属粉末を混合及び微粉するステップと;及び(c)前記ステップ(a)の前記酸化物及び前記ステップ(b)の前記金属を、四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)、水酸化ナトリウム(NaOH)、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)及び過酸化水素(H2O2)よりなる群から選択された1種以上の液状組成物と混合して前処理脱硫剤を形成するステップ;を含んで製造される。
【0046】
前記ステップ(a)では、SiO2、Al2O3、Fe2O3、TiO2、MgO、MnO、CaO、Na2O、K2O及びP2O3よりなる群から選択された1種以上の酸化物粉末を混合して微分器を介して微分するステップである。
【0047】
本ステップにおいて、酸化物粉末は、SiO215~90重量部、Al2O315~100重量部、Fe2O310~50重量部、TiO25~15重量部、MgO20~150重量部、MnO10~20重量部、CaO20~200重量部、Na2O15~45重量部、K2O20~50重量部、及びP2O35~20重量部で含まれることができる。
【0048】
また、本ステップで微粉された酸化物粉末は、1~2μmの粒子サイズに微分されるように繰り返し微粉することができる。
【0049】
前記ステップ(b)では、Li、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Cd及びPbよりなる群から選択された1種以上の金属粉末を混合して微分器を介して微分するステップである。
【0050】
本ステップにおいて、金属粉末は、Li0.0035~0.009重量部、Cr0.005~0.01重量部、Co0.001~0.005重量部、Ni0.006~0.015重量部、Cu0.018~0.03重量部、Zn0.035~0.05重量部、Ga0.04~0.08重量部、Sr0.02~0.05重量部、Cd0.002~0.01重量部、及びPb0.003~0.005重量部で含まれることができる。
【0051】
また、本ステップで微粉された金属粉末は、1~2μmの粒子サイズに微分されるように繰り返し微粉することができる。
【0052】
前記ステップ(c)では、前記ステップ(a)及び前記ステップ(b)で混合及び微粉した酸化物粉末及び金属粉末を四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)、水酸化ナトリウム(NaOH)、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)及び過酸化水素(H2O2)よりなる群から選択された1種以上の液状組成物と混合して脱硫用触媒を形成するステップである。
【0053】
本ステップにおいて、液状組成物は、四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)20~130重量部、水酸化ナトリウム(NaOH)15~120重量部、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)50~250重量部及び過酸化水素(H2O2)10~50重量部で含まれることができる。
【0054】
また、本ステップにおいて、前記ステップ(a)及び前記ステップ(b)で混合及び微粉した酸化物粉末及び金属粉末と混合して反応させるとき、酸化物粉末及び液状組成物がキレート剤の役目をして、金属粉末とキレート化されて金属キレート化合物を形成させることができる。
【0055】
また、本ステップで形成された前処理脱硫剤は、24~72時間沈殿させて安定化させ、沈殿した前処理脱硫剤を分離して自然乾燥させることにより粉末状の脱硫用粉末触媒として使用することができ、沈殿した脱硫用触媒を分離して残った液状の組成物を脱硫用液状触媒として使用することができる。
【0056】
また、本発明に係る前処理脱硫剤を用いた脱硫方法は、上述した脱硫用触媒を燃焼物と混合して燃焼させることにより脱硫機能が活性化できる。
【0057】
従来の脱硫方法は、燃焼物の燃焼後、生成された排ガスに含まれた硫黄酸化物(SOx)を除去する方式であって、この過程を行うための脱硫設備とこれを運用するための人手及び費用が多くかかるという欠点を持っていたが、本発明による前処理脱硫剤を用いた脱硫方法は、前処理脱硫剤を燃焼物と混合して燃焼させることにより、前処理脱硫剤が燃焼物の燃焼と共に発生する硫黄酸化物を吸着して除去し、結果として硫黄酸化物の排出を低減させる脱硫効果を示すことができる。
【0058】
また、本発明による前処理脱硫剤を適用することができる燃焼物は、石炭、石油、廃棄物及びバイオガスなど、燃焼を介して熱量を発生させる燃焼物に適用できる。
【0059】
また、上述したように前処理脱硫剤を脱硫用粉末触媒及び脱硫用液状触媒で分離して燃焼する燃焼物のC、H、N、Sの含有量に応じて、別々に又は一緒に混合して燃焼させることにより、単純かつ簡単な方法によって優れた脱硫効果を示すことができる。
【0060】
以下、
図1を参照して、本発明によって船舶用エンジンに適用された前処理脱硫システムの構成を一実施形態によって説明する。
【0061】
本発明による前処理脱硫システムは、船舶用エンジン70の燃料供給ライン30に連結され、燃料と共に前処理脱硫剤(脱硫用液状触媒)を一定の割合で供給する。
【0062】
通常、このような船舶用エンジン70の燃料としては、バンカーA油、バンカーB油、バンカーC油等の重油又はMGO、MDO、DDO等の軽油等の船舶燃料油が用いられるが、この中でも特に、バンカーC油は、高硫黄油であって、燃焼時に相当量の硫黄酸化物が発生するので、大気汚染問題により使用が規制されている。
【0063】
図1に示されている符号10は燃料タンク、20は燃料供給ポンプ、30は燃料供給ライン、40は燃料濾過器、50は噴射ポンプ、60は噴射ノズルをそれぞれ示し、前記構成についての詳細な説明は省略する。
【0064】
このために、本発明に係る前処理脱硫システムは、前処理脱硫剤を貯蔵するための一定容積の脱硫剤貯蔵タンク110が備えられ、前記脱硫剤貯蔵タンク110の一端には、前処理脱硫剤を定量供給するための定量ポンプ130が備えられる。
【0065】
また、前記定量ポンプ130と船舶用エンジン70の燃料供給ライン30との間には、前処理脱硫剤の投入流量をチェックするための流量計120、投入流量を調節するためのチェック弁140、及び圧力計150が備えられることにより、船舶用エンジン70の燃料供給量を常時チェックし、前記燃料供給量に比例して一定の割合で前処理脱硫剤が投入できるように制御する。
【0066】
このとき、前記前処理脱硫剤の投入量は、船舶燃料油100wt%を基準とするとき、0.1~10wt%の範囲で前処理脱硫剤が投入及び混合できるようにすることが好ましい。
【0067】
また、
図2を参照すると、前記前処理脱硫剤は、船舶燃料油の燃料供給ライン30に備えられたラインミキサー160に接続され、前記ラインミキサー160で船舶燃料油と側面に投入された前処理脱硫剤が均一に混ぜられる過程(ラインミキシング)を経た後、船舶燃料油と前処理脱硫剤の混合流体がエンジンに供給される。
【0068】
その後、前記混合流体は、船舶用エンジンの内部で燃焼することにより、前記燃焼過程で発生した硫黄酸化物が外部へ排気される前に前処理脱硫剤によって燃焼物に吸着及び除去される。
【0069】
このような過程を介して、特にバンカーC油などの高硫黄船舶燃料油を燃料として使用しても、燃焼過程で硫黄酸化物がほとんど除去された状態で排気されるので、硫黄酸化物による大気汚染問題を解消することができるものと期待される。
【0070】
以下、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0071】
提示された実施例及び試験例は、本発明の具体的な例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0072】
<実施例>前処理脱硫剤の製造
【0073】
酸化物であるSiO2150kg、Al2O3150kg、Fe2O3100kg、TiO250kg、MgO200kg、MnO100kg、CaO200kg、Na2O150kg、K2O200kg、P2O350kgを混合し、微分器で微分して酸化物微粉体を形成する。
【0074】
金属であるLi35g、Cr50g、Co10g、Ni60g、Cu180g、Zn350g、Ga400g、Sr200g、Cd20g、Pb30gを混合し、微分器で微粉化して金属微粉体を形成する。
【0075】
酸化物微粉体及び金属微粉体は、粒子サイズが1~2μmとなるように繰り返し微分する。
【0076】
反応炉に3000kgの水を投入し、50~60℃を維持した状態で四ホウ酸ナトリウム(Na2B4O7・10H2O)50kgを投入する。30分間攪拌した後、水酸化ナトリウム(NaOH)100kgを投入して攪拌し、10分後に上記で微粉した酸化物微粉体を100kg単位、5分間隔で分配して投入し、2時間以上攪拌させる。撹拌を行い続けながら温度を60~80℃に上げ、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)を100kg投入する。30分間攪拌した後、上記で微粉した金属微粉体を20g単位、3分間隔で投入して攪拌する。1時間攪拌後、過酸化水素(H2O2)30kgを投入し、さらに30分間攪拌した後、1時間自然冷却を行う。
【0077】
冷却後48時間安定化した後、液状組成物と沈殿した粉末組成物を分離する。
【0078】
沈殿した粉末組成物は、自然乾燥させて脱硫用粉末触媒(GTS-P)と命名した。
【0079】
また、沈殿した粉末組成物を分離した液状組成物を別途の容器に移動させ、脱硫用液状触媒(GTS-W)と命名した。
【0080】
<試験例1>船舶用エンジン排気ガス中の硫黄酸化物低減性能試験
【0081】
(1)試験条件
【0082】
上述したように製造された前処理脱硫剤(脱硫用液状触媒)の脱硫効率を検証するために、船舶用エンジンの燃料供給ラインに前処理脱硫剤を燃料の100wt%に対してそれぞれ3.5wt%、6.0wt%混合供給して燃焼後排気ガス中の硫黄酸化物の濃度を分析及び比較する硫黄酸化物低減性能試験を行った。
【0083】
試験対象として用いられた船舶用エンジンの諸元は、下記表1のとおりである。
【0084】
【0085】
○使用燃料:バンカーC油
【0086】
○運転条件:無負荷運転
【0087】
○前処理脱硫剤の供給量及び供給方法:燃料流量に対して前処理脱硫剤3.5wt%、6.0wt%を定量ポンプで燃料供給ラインに混合供給
【0088】
○排気ガス分析装備:ドイツVarioPlus Ind.MRU Emission Monitoring System
【0089】
○排気ガス分析方法:エンジンの排気管から排気ガスをサンプリングして、分析装備を介して分析(基準酸素濃度17%)
【0090】
※エンジンの無負荷運転状態で排気ガス中の酸素濃度は17~18%を維持したので、基準酸素濃度による補正濃度と測定濃度で過度な差が発生することを防止するために、基準酸素濃度を17%に設定した。
【0091】
(2)試験方法及び手順
【0092】
1)エンジン運転及び正常状態維持
【0093】
2)排気ガス分析装備の予熱及びゼロ設定(zero setting)
【0094】
3)前処理脱硫剤非投入状態の測定(30分)
【0095】
4)前処理脱硫剤6.0wt%投入状態の測定(1時間)
【0096】
5)前記3~4過程を1回繰り返し行う
【0097】
6)前処理脱硫剤非投入状態の測定(30分)
【0098】
7)前処理脱硫剤3.5wt%投入状態の測定(1時間)
【0099】
8)前処理脱硫剤非投入状態の測定(30分)
【0100】
9)前処理脱硫剤6.0wt%投入状態の測定(1時間)
【0101】
10)データの保存及び終了
【0102】
【0103】
(3)硫黄酸化物(SO2)の濃度分析結果(基準酸素濃度17%換算)
【0104】
図3は上記の試験条件、方法及び手順によって測定された試験例1の全区間硫黄酸化物(SO
2)の濃度分析結果を示し、下記表3は
図3の測定区間別SO
2濃度に対するデータ値をまとめた表である。(基準酸素濃度17%換算)
【0105】
【0106】
図3及び上記表3を見ると、原油の供給ラインに原油100wt%重量部に対して6.0wt%及び3.5wt%の前処理脱硫剤を投入した後、SO
2の濃度を測定する4回の測定区間別試験を行った。
【0107】
一番目の測定区間で、原油のみを燃焼させるとき(測定時間11:35~12:00)の排気ガス中のSO2の濃度は102.00ppmを示したが、原油100wt%に対して6.0wt%の前処理脱硫剤を投入するとき(測定時間12:23~13:00)のSO2の濃度は0.01ppmに急減した。
【0108】
二番目の測定区間で、原油のみを燃焼させるとき(測定時刻14:08)の排気ガス中のSO2の濃度は100.00ppmを示したが、原油100wt%に対して6.0wt%の前処理脱硫剤を投入するとき(測定時間14:26~15:15)のSO2の濃度は0.00ppmに急減した。
【0109】
三番目の測定区間で、原油のみを燃焼させるとき(測定時刻15:51)の排気ガス中のSO2の濃度は95.2ppmを示したが、原油100wt%に対して3.5wt%の前処理脱硫剤を投入するとき(測定時間16:22~16:52)のSO2の濃度は29.19ppmに急減した。
【0110】
四番目の測定区間で、原油のみを燃焼させるとき(測定時刻17:28)の排気ガス中のSO2の濃度は94.5ppmを示したが、原油100wt%に対して6.0wt%の前処理脱硫剤を投入するとき(測定時間17:50~18:25)のSO2の濃度は0.00ppmに急減した。
【0111】
測定結果、3.5wt%から6.0wt%へと前処理脱硫剤の混合量が増加するほど、SO2排出低減効果が大きくなることを確認することができた。
【0112】
<試験例2>船舶用エンジン排気ガス中の硫黄酸化物低減性能試験
【0113】
(1)試験条件
【0114】
試験例1と同様
【0115】
(2)試験方法及び手順
【0116】
試験例1と同様
【0117】
【0118】
(3)硫黄酸化物(SO2)の濃度分析結果(基準酸素濃度17%換算)
【0119】
図4は上記の試験条件、方法及び手順によって測定された試験例2の全区間硫黄酸化物(SO
2)の濃度分析結果を示し、下記表5は
図4の測定区間別SO
2濃度に対するデータ値をまとめた表である(基準酸素濃度17%換算)
【0120】
【0121】
図4及び上記表5を見ると、原油の燃料供給ラインに原油100wt%に対して3.5wt%及び6.0wt%の前処理脱硫剤を投入した後、SO
2の濃度を測定する2回の測定区間別試験を行った。
【0122】
一番目の測定区間で、原油のみを燃焼させるとき(測定時間09:12~09:40)の排気ガス中のSO2の濃度は96.43ppmを示したが、原油100wt%に対して3.5wt%の前処理脱硫剤を投入するとき(測定時間10:18~10:51)のSO2の濃度は29.54ppmに急減した。
【0123】
二番目の測定区間で、原油のみを燃焼させるとき(測定時間11:55~12:44)の排気ガス中のSO2の濃度は98.93ppmを示したが、原油100wt%に対して6.0wt%の前処理脱硫剤を投入するとき(測定時間12:57~13:06)のSO2の濃度は0.00ppmに急減した。
【0124】
測定結果、3.5wt%から6.0wt%へと前処理脱硫剤の混合量が増加するほどSO2排出低減効果が大きくなることを確認することができた。
【0125】
上述した試験例1及び2から分かるように、原油のみを燃焼させる場合に比べ、前処理脱硫剤を混合して燃焼させる場合、排気ガス中のSO2の濃度が最小69%から最大100%まで低減する効果を示しており、また3.5wt.%から6.0wt%へと前処理脱硫剤の混合量が増加するほどSO2排出低減効果が大きくなることを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、船舶燃料油の前処理脱硫方法に広範囲に使用できる。
【符号の説明】
【0127】
10 燃料タンク
20 燃料供給ポンプ
30 燃料供給ライン
40 燃料濾過器
50 噴射ポンプ
60 噴射ノズル
70 船舶用エンジン
110 脱硫剤貯蔵タンク
120 流量計
130 定量ポンプ
140 チェック弁
150 圧力計
160 ラインミキサー