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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】毛髪観察方法及び位相差顕微鏡システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20230619BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20230619BHJP
   G02B 21/10 20060101ALI20230619BHJP
   G02B 21/14 20060101ALI20230619BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20230619BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/06
G02B21/10
G02B21/14
G01N21/359
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019514427
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2018016028
(87)【国際公開番号】W WO2018198908
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2017085621
(32)【優先日】2017-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】508253111
【氏名又は名称】株式会社オーガンテック
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 隆慶
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝
(72)【発明者】
【氏名】豊島 公栄
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 良人
(72)【発明者】
【氏名】五月女 翔
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-038335(JP,A)
【文献】特開2009-186455(JP,A)
【文献】特開2015-190989(JP,A)
【文献】特開2015-173920(JP,A)
【文献】国際公開第2005/038438(WO,A1)
【文献】特開2014-043403(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047315(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/038408(WO,A1)
【文献】特開2017-072700(JP,A)
【文献】特開2015-072303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G01N 21/359
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪の内部を観察する毛髪観察方法であって、
前記毛髪に赤外線照射光源により赤外線を照射して位相差観察を行い、
前記毛髪に可視光線照射光源により可視光線を照射して明視野観察を行い、
赤外線を検出可能な撮像素子により前記毛髪の赤外線による像を撮像し、
前記撮像素子の撮像画像を表示装置に表示して前記毛髪の内部を観察し、
前記可視光線照射光源は、前記赤外線の光路に沿って前記赤外線照射光源の下流側に配置され、
前記可視光線照射光源および前記赤外線照射光源は、前記毛髪が配置されたステージに対し、前記ステージに垂直な方向の一方側に配置されていることを特徴とする毛髪観察方法。
【請求項2】
可視光線を検出可能な撮像素子により前記毛髪の可視光線による像を撮像し、
前記毛髪に赤外線を照射して位相差観察を行うことで得た第1の撮像画像と前記毛髪に可視光線を照射して明視野観察を行うことで得た第2の撮像画像とを用いて前記毛髪の内部を観察する、請求項1に記載の毛髪観察方法。
【請求項3】
前記第1の撮像画像と前記第2の撮像画像とを前記表示装置に比較可能に表示する、請求項2に記載の毛髪観察方法。
【請求項4】
前記第1の撮像画像の輝度情報に前記第2の撮像画像の色情報を加算して前記第1の撮像画像をカラー化し、カラー化された前記第1の撮像画像を前記表示装置に表示する、請求項2に記載の毛髪観察方法。
【請求項5】
前記毛髪の赤外線による像を撮像する撮像素子と前記毛髪の可視光線による像を撮像する撮像素子として同一の撮像素子を用いる、請求項2~4の何れか1項に記載の毛髪観察方法。
【請求項6】
前記毛髪に照射する赤外線として、0.70~1.45μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線を用いる、請求項1~5の何れか1項に記載の毛髪観察方法。
【請求項7】
試料を位相差観察する位相差顕微鏡システムであって、
試料が配置されるステージと、
前記ステージに配置された前記試料に赤外線を照射する赤外線照射光源と、
前記ステージに配置された前記試料に可視光線を照射する可視光線照射光源と、
赤外線を検出可能であり、前記試料の赤外線による像を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子の撮像画像を表示する表示装置と、を有し、
前記可視光線照射光源は、前記赤外線の光路に沿って前記赤外線照射光源の下流側に配置され、
前記可視光線照射光源および前記赤外線照射光源は、前記ステージに対し、前記ステージに垂直な方向の一方側に配置されていることを特徴とする位相差顕微鏡システム。
【請求項8】
可視光線を検出可能であり、前記試料の可視光線による像を撮像する撮像素子をさらに有することにより、前記試料に赤外線を照射して位相差観察を行う位相差観察モードと前記試料に可視光線を照射して明視野観察を行う明視野観察モードとに切替え可能に構成されており、
前記位相差観察モードで得た第1の撮像画像と前記明視野観察モードで得た第2の撮像画像とを前記表示装置に表示可能である、請求項7に記載の位相差顕微鏡システム。
【請求項9】
前記第1の撮像画像と前記第2の撮像画像とを記憶する記憶部を有し、前記表示装置に前記第1の撮像画像と前記第2の撮像画像とを比較可能に表示する、請求項8に記載の位相差顕微鏡システム。
【請求項10】
前記第1の撮像画像の輝度情報に前記第2の撮像画像の色情報を加算して前記第1の撮像画像をカラー化する画像処理部を有し、前記画像処理部によりカラー化された前記第1の撮像画像を前記表示装置に表示する、請求項8に記載の位相差顕微鏡システム。
【請求項11】
前記試料の赤外線による像を撮像する撮像素子と前記試料の可視光線による像を撮像する撮像素子とが同一の撮像素子である、請求項8~10の何れか1項に記載の位相差顕微鏡システム。
【請求項12】
前記赤外線照射光源が、0.70~1.45μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線を照射する、請求項7~11の何れか1項に記載の位相差顕微鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の内部を観察するための毛髪観察方法及び位相差顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪を光学的に観察し、その観察結果から当該毛髪ないし人体の健康状態を診断する診断方法が知られている。このような毛髪の診断を行う際には、従来、毛髪を横断面方向に切断し、超薄切して電子顕微鏡を用いてその切断面を観察することによって、毛髪の表面部分である毛小皮(キューティクル)に加えて毛皮質(コルテックス)、毛髄質(メデュラ)といった毛髪の内部構造を観察するようにしていた。
【0003】
しかし、この方法では、毛髪の切断などの多くの準備作業が必要であり、その観察を容易に行うことは困難であった。
【0004】
これに対し、位相差顕微鏡を用いることで、毛髪を切断することなく当該毛髪の内部を観察する方法が提案されている。例えは特許文献1には、光源として高輝度LEDを備えた位相差顕微鏡を用いて毛髪の内部を観察する毛髪観察方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-43403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の毛髪観察方法では、毛髪の内部を明瞭に可視化することができず、そのため、毛髪の内部構造を詳細に観察することができないという問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、毛髪の内部を容易かつ詳細に観察することができる毛髪観察方法及び位相差顕微鏡システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の毛髪観察方法は、毛髪の内部を観察する毛髪観察方法であって、前記毛髪に赤外線照射光源により赤外線を照射して位相差観察を行い、前記毛髪に可視光線照射光源により可視光線を照射して明視野観察を行い、赤外線を検出可能な撮像素子により前記毛髪の赤外線による像を撮像し、前記撮像素子の撮像画像を表示装置に表示して前記毛髪の内部を観察し、前記可視光線照射光源は、前記赤外線の光路に沿って前記赤外線照射源の下流側に配置され、前記可視光線照射光源および前記赤外線照射光源は、前記毛髪が配置されたステージに対し、前記ステージに垂直な方向の一方側に配置されていることを特徴とする毛髪観察方法。
【0009】
本発明の毛髪観察方法は、上記構成において、可視光線を検出可能な撮像素子により前記毛髪の可視光線による像を撮像し、前記毛髪に赤外線を照射して位相差観察を行うことで得た第1の撮像画像と前記毛髪に可視光線を照射して明視野観察を行うことで得た第2の撮像画像とを用いて前記毛髪の内部を観察することを特徴とする。
【0010】
本発明の毛髪観察方法は、上記構成において、前記第1の撮像画像と前記第2の撮像画像とを前記表示装置に比較可能に表示することを特徴とする。
【0011】
本発明の毛髪観察方法は、上記構成において、前記第1の撮像画像の輝度情報に前記第2の撮像画像の色情報を加算して前記第1の撮像画像をカラー化し、カラー化された前記第1の撮像画像を前記表示装置に表示することを特徴とする。
【0012】
本発明の毛髪観察方法は、上記構成において、前記毛髪の赤外線による像を撮像する撮像素子と前記毛髪の可視光線による像を撮像する撮像素子として同一の撮像素子を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明の毛髪観察方法は、上記構成において、前記毛髪に照射する赤外線として、0.70~1.45μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線を用いることを特徴とする。
【0014】
本発明の位相差顕微鏡システムは、試料を位相差観察する位相差顕微鏡システムであって、試料が配置されるステージと、前記ステージに配置された前記試料に赤外線を照射する赤外線照射光源と、前記ステージに配置された前記試料に可視光線を照射する可視光線照射光源と、赤外線を検出可能であり、前記試料の赤外線による像を撮像する撮像素子と、前記撮像素子の撮像画像を表示する表示装置と、を有し、前記可視光線照射光源は、前記赤外線の光路に沿って前記赤外線照射源の下流側に配置され、前記可視光線照射光源および前記赤外線照射光源は、前記ステージに対し、前記ステージに垂直な方向の一方側に配置されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の位相差顕微鏡システムは、上記構成において、可視光線を検出可能であり、前記試料の可視光線による像を撮像する撮像素子をさらに有することにより、前記試料に赤外線を照射して位相差観察を行う位相差観察モードと前記試料に可視光線を照射して明視野観察を行う明視野観察モードとに切替え可能に構成されており、前記位相差観察モードで得た第1の撮像画像と前記明視野観察モードで得た第2の撮像画像とを前記表示装置に表示可能であることを特徴とする。
【0016】
本発明の位相差顕微鏡システムは、上記構成において、前記第1の撮像画像と前記第2の撮像画像とを記憶する記憶部を有し、前記表示装置に前記第1の撮像画像と前記第2の撮像画像とを比較可能に表示することを特徴とする。
【0017】
本発明の位相差顕微鏡システムは、上記構成において、前記第1の撮像画像の輝度情報に前記第2の撮像画像の色情報を加算して前記第1の撮像画像をカラー化する画像処理部を有し、前記画像処理部によりカラー化された前記第1の撮像画像を前記表示装置に表示することを特徴とする。
【0018】
本発明の位相差顕微鏡システムは、上記構成において、前記試料の赤外線による像を撮像する撮像素子と前記試料の可視光線による像を撮像する撮像素子とが同一の撮像素子であることを特徴とする。
【0019】
本発明の位相差顕微鏡システムは、上記構成において、前記赤外線照射光源が、0.70~1.45μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、毛髪の内部を容易かつ詳細に観察することができる毛髪観察方法及び位相差顕微鏡システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施の形態である位相差顕微鏡システムの斜視図である。
図2図1に示す位相差顕微鏡の側面カバーを取り外した側面図である。
図3図1に示す位相差顕微鏡の光学系を模式的に示す説明図である。
図4図1に示す位相差顕微鏡システムによる毛髪の撮像画像の一例を示す図である。
図5】(a)は図1に示すプレパラートの平面図であり、(b)は同側面図である。
図6図3に示す光学系の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳細に例示説明する。
【0027】
本実施の形態に係る毛髪観察方法は、毛髪の内部を観察する毛髪観察方法であって、毛髪に赤外線を照射して位相差観察を行い、赤外線を検出可能な撮像素子により毛髪の赤外線による像を撮像し、撮像素子の撮像画像を表示装置に表示して毛髪の内部を観察することを特徴とする毛髪観察方法である。
【0028】
本実施の形態に係る毛髪観察方法は、例えば、毛髪を光学的に観察し、その観察結果から当該毛髪ないし人体の健康状態を診断する診断方法において用いることができる。
【0029】
本実施の形態に係る毛髪観察方法によれば、可視光線よりも波長の長い赤外線を毛髪に照射して毛髪を透過または毛髪表面に反射した光により当該毛髪の位相差観察を行うようにしたので、毛髪を横断面方向に切断するなどの作業を行うことなくそのままの状態で、当該毛髪の毛小皮(キューティクル)に加えて、毛皮質(コルテックス)、毛髄質(メデュラ)といった毛髪の内部の位相差観察による像を詳細に得ることができる。位相差観察により得た毛髪の赤外線による像は、直接視認することはできないが、赤外線を検出可能な撮像素子により当該像を撮像し、その撮像画像を液晶ディスプレイ等の表示装置に表示するようにしたので、位相差観察により得た毛髪の像を明瞭に可視化することができる。したがって、本実施の形態に係る毛髪観察方法によれば、毛髪の内部を容易かつ詳細に観察することができる。また、本実施の形態に係る毛髪観察方法により得た毛髪の撮像画像に基づき、毛髪ないし人体の健康状態を容易に診断することができるとともに、当該診断の精度を高めることができる。
【0030】
また、本実施の形態に係る毛髪観察方法によれば、位相差観察を行うに際して、毛髪に対するピント位置を、例えば毛小皮と毛髄質との中間等に調整することにより、毛髪の内部構造と毛髪の表面構造とを表示装置に同時に明瞭に表示することができる。すなわち、毛髪の毛髄質と毛小皮とを同時に明瞭に可視化することができる。従来の毛髪観察方法では、毛髪の毛髄質及び毛小皮の何れか一方を選択的に観察することはできても、これらを同時に観察することはできなかったが、本実施の形態に係る毛髪観察方法によれば、上記の通り、毛髪の毛髄質と毛小皮とを同時に詳細に観察することが可能である。これにより、毛髪ないし毛髪を用いた人体の健康状態の診断を、より容易かつ確実に行うことが可能となる。
【0031】
上記位相差観察において毛髪に照射する赤外線は、0.70μm~1.45μmの範囲内にある単一の波長のみを有するものであるのが好ましいが、上記範囲内の波長にピーク強度を有するものであれば、可視光線、紫外線等の赤外線以外の光線を含んでいてもよい。本実施の形態においては、赤外線のピーク波長は860nmである。
【0032】
また、上記位相差観察において毛髪に照射する赤外線は、0.70μm~1.45μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線とするのが好ましい。この場合、0.70μm~1.45μmの範囲内にピーク発光波長を有するLED光源を使用して赤外線を照射するのが好ましい。さらに、上記位相差観察において毛髪に照射する赤外線は、0.80μm~1.00μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線とするのがより好ましく、LED光源の入手の容易性を鑑みると、0.85μm~0.95μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線とするのがさらに好ましい。これにより、毛髪の内部構造を位相差観察によって、さらに明瞭に可視化することができる。
【0033】
上記位相差観察において毛髪に照射する赤外線を0.70μm~1.45μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線とした場合には、特に、毛髪に対するピント位置を毛小皮と毛髄質との中間に調整することで、これら毛髄質と毛小皮とをより明瞭に可視化することができる。このような知見は、赤外線を照射した毛髪の位相差観察を行うことによって初めて得られるものであり、従来の毛髪観察方法では生じ得ない新規な課題を解決することができるものである。
【0034】
上記した本実施の形態に係る毛髪観察方法においては、毛髪に赤外線を照射して行う位相差観察に加えて、同一の毛髪に可視光線を照射して明視野観察を行い、可視光線を検出可能な撮像素子により毛髪の可視光線による像を撮像し、毛髪に赤外線を照射して位相差観察を行うことで得た第1の撮像画像と毛髪に可視光線を照射して明視野観察を行うことで得た第2の撮像画像とを用いて毛髪の内部を観察する構成とすることもできる。
【0035】
上記のように同一の毛髪に対して赤外線を用いた位相差観察と可視光線を用いた明視野観察とを交互に行うことにより、毛髪の内部を詳細に観察しつつ、毛髪の表面の状態、色等を観察することができる。したがって、毛髪ないし毛髪を用いた人体の健康状態の診断を、より容易かつ確実に行うことが可能となる。
【0036】
上記のように同一の毛髪に対して位相差観察と明視野観察とを交互に行う場合には、毛髪に赤外線を照射して位相差観察を行うことで得た第1の撮像画像と、毛髪に可視光線を照射して明視野観察を行うことで得た第2の撮像画像とを、表示装置に比較可能に表示する構成とすることができる。これにより、毛髪に赤外線を照射して位相差観察を行うことで得た毛髪の内部構造と、毛髪に可視光線を照射して明視野観察を行うことで得た毛髪の表面の状態、色等とを見比べながら、毛髪の観察ないし診断を、より容易かつ確実に行うことが可能となる。
【0037】
第1の撮像画像と第2の撮像画像とを表示装置に比較可能に表示する方法としては、例えば、表示装置に第1の撮像画像と第2の撮像画像とを左右ないし上下に並べて同時に表示する方法の他、表示装置に第1の撮像画像と第2の撮像画像とを交互に表示する方法などを採用することができるが、第1の撮像画像と第2の撮像画像とを比較可能に表示する構成であれば他の構成も採用可能である。
【0038】
また、上記のように同一の毛髪に対して位相差観察と明視野観察とを行う場合には、毛髪に赤外線を照射して位相差観察を行うことで得た第1の撮像画像の輝度情報に、毛髪に可視光線を照射して明視野観察を行うことで得た第2の撮像画像の色情報を加算して第1の撮像画像をカラー化し、カラー化された第1の撮像画像を表示装置に表示して毛髪の観察を行う構成とすることもできる。すなわち、位相差観察においては毛髪の像は明暗のコントラストとして表現されるので、毛髪の所定部位のコントラストにおける輝度情報に、当該毛髪の所定部位の第2の撮像画像で得られた色情報を加算することにより、毛髪の所定部位の表面及び内部構造をカラー化して表現することができる。このような構成によれば、例えば、上記のように毛髪に対するピント位置を調整して毛髪の毛髄質と毛小皮とを同時に観察するようにした場合において、毛髄質と毛小皮とをより明瞭に可視化することができるので、毛髪の観察ないし診断を、より容易かつ確実に行うことが可能となる。
【0039】
上記のように同一の毛髪に対して位相差観察と明視野観察とを行う場合には、毛髪の赤外線による像を撮像する撮像素子と毛髪の可視光線による像を撮像する撮像素子として同一の撮像素子を用いるのが好ましい。これにより、1つの撮像素子によって第1の撮像画像と第2の撮像画像との両方の画像を得ることができるので、当該毛髪観察方法を低コストかつ容易に行うことが可能となる。
【0040】
上記した本実施の形態の毛髪観察方法は、例えば、図1図3に示す位相差顕微鏡システムを用いて実施することができる。
【0041】
図1図3に示す本発明の一実施の形態である位相差顕微鏡システムは、光学式の位相差顕微鏡1により毛髪等の試料を視覚的に拡大して位相差観察するものである。この位相差顕微鏡1は、プラスチック等の樹脂材料ないし金属板等により形成されるケース(筐体)2を有し、このケース2の内部に光学系を収容して1つのユニットとされている。
【0042】
位相差顕微鏡1は1つのユニットに構成されることでケース2ごと持ち運びが可能な可搬タイプとなっている。したがって、診断現場ないし店頭等の様々な場所に位相差顕微鏡1を持ち込むことで、当該場所において毛髪の観察ないし診断を行うことができる。
【0043】
なお、位相差顕微鏡1は可搬対応に限らず、据置きタイプに構成することも可能である。
【0044】
ケース2の側面カバー2aには試料差込口3が設けられている。この試料差込口3にはプレパラート4が差し込まれる。位相差顕微鏡1には表示装置5が接続され、プレパラート4が差し込まれると、位相差顕微鏡1は、プレパラート4に配置されている試料の像を拡大し、試料の拡大画像をモニタ等の表示装置5に表示する。このように、この位相差顕微鏡システムは、表示装置5上に試料の拡大画像を表示して観察を行うモニタタイプとなっている。
【0045】
なお、位相差顕微鏡1は、側面カバー2aが垂直となり、試料差込口3に差し込まれたプレパラート4が水平となる正立姿勢で用いられる。以下の説明においては、位相差顕微鏡1が正立姿勢とされているものとする。
【0046】
図2に示すように、位相差顕微鏡1は、ステージ装置6、赤外線照射装置7、観察光学装置8、撮像素子9および制御基板10を備えている。
【0047】
ステージ装置6は、ケース2に固定された支持枠体11と、支持枠体11に収容されたステージ12とを備えている。支持枠体11の側面にはケース2の試料差込口3に連なる開口11aが設けられており、ケース2の試料差込口3から差し込まれたプレパラート4は、この開口11aを通ってステージ12に配置される。つまり、試料差込口3からプレパラート4を差し込むことで、試料がステージ12に配置される。位相差顕微鏡1の正立姿勢においては、ステージ12つまりステージ12のプレパラート4が配置される面は水平である。
【0048】
支持枠体11には駆動ユニット13が取り付けられている。ステージ12は、この駆動ユニット13により駆動されて、水平方向(XY方向)と垂直方向(Z軸方向)とに移動することができる。ステージ12が移動すると、当該ステージ12に載せられたプレパラート4もステージ12とともに水平方向(XY方向)と垂直方向(Z軸方向)とに移動する。駆動ユニット13としては、例えば、XYZの各方向に対応した3つの電動モータ(不図示)を備え、これらの電動モータの回転運動をねじ機構により各方向の直線運動に変換してステージ12に伝達する構成のものを用いることができるが、他の構造の駆動ユニットを用いてもよい。
【0049】
赤外線照射装置7は、ステージ12に配置された試料に赤外線を照射するものであり、赤外線照射光源14と照射光学系15とを備えてステージ12の上方に配置されている。本実施の形態においては、赤外線照射装置7つまり赤外線照射光源14と照射光学系15は、試料に向けて均一に赤外線を照射するケーラー照明の形態に構成されている。
【0050】
赤外線照射光源14は、例えば基板14aに搭載された赤外線LED14bとして構成され、照射用ケース16の上側ミラーユニット18とは反対側となる端部に取り付けられている。赤外線照射光源14は、赤外線(波長が0.7μm~1.45μmの電磁波)を照射することができる。
【0051】
赤外線照射光源14は、赤外線を照射することができるものであれば、例えば赤外線電球などの他の構成のものを用いることもできる。また、赤外線照射光源14は、0.7μm~1.45μmの範囲内にある単一の波長の赤外性のみを照射するものであるのが好ましいが、上記範囲内の波長にピーク強度を有する赤外線を照射するものであれば、可視光線、紫外線等の赤外線以外の光線を含んだ赤外線を照射するものであってもよい。
【0052】
また、赤外線照射光源14は、0.70μm~1.45μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線を照射するものであるのが好ましい。さらに、赤外線照射光源14は、0.80μm~1.00μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線を照射するものであるのがより好ましく、LED光源の入手の容易性を鑑みると、0.85μm~0.95μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線を照射するものであるのがさらに好ましい。本実施の形態においては、赤外線照射光源14として、波長が860nmの近赤外線を照射するものが用いられている。
【0053】
照射光学系15は、軸方向を水平にして配置される円筒状の照射用ケース16を備えている。支持枠体11の上方には接続アダプタ17と上側ミラーユニット18とが固定され、照射用ケース16は、その一端において上側ミラーユニット18に固定されている。
【0054】
照射用ケース16の内部には、赤外線照射光源14に隣接する光源レンズ19とフィールドレンズ20とが配置され、光源レンズ19とフィールドレンズ20との間には板状の視野絞り21が配置されている。また、ステージ12の上方には、軸方向を垂直つまり照射用ケース16の軸方向と直交するようにコンデンサレンズ22が配置されている。このコンデンサレンズ22は接続アダプタ17に固定されている。
【0055】
上側ミラーユニット18には、ステージ12に垂直な方向と照射用ケース16の軸方向との双方に対して45度傾けられた上側ミラー23が設けられている。赤外線照射光源14から照射用ケース16内に向けて水平に照射された赤外線は、赤外線照射光源14とステージ12との間で、上側ミラー23により反射されて、下方に向けて90度曲げられる。したがって、赤外線照射光源14から照射された赤外線は、上側ミラー23で反射されてステージ12に配置された試料に垂直に照射される。
【0056】
図2図3に示すように、観察光学系である観察光学装置8は、対物レンズ24と倍率変更機能を有する結像レンズ25とを備え、ステージ12の下方に配置されている。
【0057】
対物レンズ24は、ステージ12の下方側にコンデンサレンズ22と同軸に配置されている。対物レンズ24は支持枠体11に固定され、コンデンサレンズ22との距離が一定とされている。
【0058】
結像レンズ25は、撮像素子9が固定され、変倍操作に応じて可動する円筒状の鏡枠25aと、この鏡枠25aに同じく変倍操作に応じて軸方向に移動自在に組み合わされた円筒状の可動鏡枠25bと、ケース2に固定された固定鏡枠25cとを備えている。
【0059】
支持枠体11の下方には下側ミラーユニット26が固定され、結像レンズ25は、軸方向を水平として、その一端において下側ミラーユニット26に固定されている。
【0060】
下側ミラーユニット26には、ステージ12に垂直な方向と結像レンズ25の軸方向との双方に対して45度傾けられた下側ミラー27が配置されている。対物レンズ24を通過した赤外線は、この下側ミラー27により反射されて、対物レンズ24と結像レンズ25との間で90度曲げられ、結像レンズ25の軸方向に沿った方向に向けられる。
【0061】
固定鏡枠25cには固定レンズ系28が設けられ、可動鏡枠25bには可動レンズ系29が設けられている。また、詳細は図示しないが、一対の鏡枠25a,25bは互いにカム機構を介して連結されており、カム機構が図示しない電動モータにより駆動されると、双方の鏡枠25aと25bとが軸方向に相対移動して観察光学装置8の倍率が変化するようになっている。
【0062】
撮像素子9は、結像レンズ25の端部、すなわち鏡枠25aの末端(下側ミラーユニット26とは反対側となる端部)に固定されている。本実施の形態においては、撮像素子9は、赤外線及び可視光線を検出可能な広帯域のものとなっており、ステージ12に配置された試料の赤外線による像及び可視光線による像の両方を撮像することができる。すなわち、本実施の形態では、試料の赤外線による像を撮像する撮像素子と、試料の可視光線による像を撮像する撮像素子として同一の撮像素子9を用いるようにしている。このような撮像素子9としては、例えば、基板30に搭載されたCCDイメージセンサ(Charge Coupled Device Image Sensor)、CMOSイメージセンサ(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)等を用いることができるが、他の撮像素子を用いてもよい。
【0063】
なお、撮像素子9は、結像レンズ25の端部に固定する構成に限らず、対物レンズ24に対して、光軸に沿った距離が一定となるように、ケース2の内面等に固定することもできる。
【0064】
結像レンズ25は対物レンズ24を通過した試料の像を撮像素子9に結像させる。また、結像レンズ25は、カム機構の作動により、固定レンズ系28と可動レンズ系29の間隔及び撮像素子9との位置関係を変化させることで、撮像素子9に結像させる像の倍率を変更することができる。
【0065】
照射光学系15にはリング絞り31が配置され、観察光学装置8には位相板32が配置されている。リング絞り31は上側ミラー23とコンデンサレンズ22との間の、コンデンサレンズ22の焦点と一致する位置に配置されている。一方、位相板32は、対物レンズ24の下端に固定されており、当該対物レンズ24と下側ミラー27との間の、リング絞り31に対して光学的に共役となる位置に配置されている。
【0066】
位相差顕微鏡1は、上記の通り、ケーラー照明に構成された赤外線照射装置7、リング絞り31及び位相板32を有することにより、ステージ12に配置された試料を、赤外線を光源として位相差観察することができる。つまり、位相差顕微鏡1を、光源として赤外線を用いた位相差観察モードで使用することができる。位相差顕微鏡1を、光源として赤外線を用いた位相差観察モードで使用することにより、毛髪を試料としたときに、当該毛髪の内部を詳細に観察することができる。
【0067】
対物レンズ24は、出射光が平衡となるアフォーカル光学系となっており、出射側には位相板32に加えて位相差リング33が設けられ、結像レンズ25は位相差リング33の存在が撮像面に結像される像に影響を与えないように設計されている。また、結像レンズ25の入射瞳位置P1は下側ミラー27に対して対物レンズ24の側に位置付けられており、位相板32の共役点P2は撮像素子9の撮像面よりも図中右側、つまり結像レンズ25とは反対側に位置付けられている。
【0068】
コンデンサレンズ22とリング絞り31との間には、一対の可視光線照射光源34が設けられている。一対の可視光線照射光源34は、ステージ12に配置された試料に可視光線を照射することができる。位相差顕微鏡1は、光源を、赤外線照射装置7から可視光線照射光源34に切り替えることで、試料に可視光線を照射して明視野観察を行うことができる。このように、位相差顕微鏡1は、ステージ12に配置された試料に赤外線を照射して位相差観察を行う位相差観察モードと、ステージ12に配置された試料に可視光線を照射して明視野観察を行う明視野観察モードとに切替え可能に構成されている。
【0069】
制御基板10は、位相差顕微鏡1を構成する各装置等を制御するものであり、ケース2の内面に沿って縦に配置されている。制御基板10には、赤外線照射装置7の赤外線照射光源14、ステージ12を駆動する駆動ユニット13、結像レンズ25を駆動する電動モータおよび撮像素子9等が接続されている。また、制御基板10は、図示しない配線により、商用電源等の外部電源に接続可能となっている。なお、制御基板10に電力を供給するためのバッテリ等の電源をケース2内に設けるようにしてもよい。
【0070】
制御基板10にはコネクタユニット36が設けられ、コネクタユニット36に接続されたUSBケーブル等のケーブル37により表示装置5が制御基板10に接続されている。撮像素子9が撮像した試料の拡大画像は、制御基板10とケーブル37とを介して表示装置5に出力される。なお、位相差顕微鏡システムは、位相差顕微鏡1に表示装置5が一体に組み込まれた構成とすることもできる。
【0071】
本実施の形態では、表示装置5は、CPU(中央演算処理装置)と、メモリないしハードディスク等の記憶部5bとを備えてコンピュータとしての機能を有するタブレット端末(タブレットコンピュータ)に構成されている。表示装置5は液晶パネル等の表示部5aを有し、撮像素子9により撮像した撮像画像を表示部5aに表示することができる。
【0072】
表示装置5に設けられた記憶部5bは、撮像素子9により撮像された撮像画像を記憶することができる。例えば、表示装置5は、試料を位相差観察モードで観察することにより得た第1の撮像画像と、同一の試料を明視野観察モードで観察することにより得た第2の撮像画像とを、記憶部5bに記憶しておくことができる。また、表示装置5は、記憶部5bに記憶した第1の撮像画像と第2の撮像画像とを、表示装置5の表示部5aに表示することができる。
【0073】
このとき、表示装置5は、記憶部5bに記憶した第1の撮像画像と第2の撮像画像とを、表示装置5の表示部5aに比較可能に表示することができる。第1の撮像画像と第2の撮像画像とを表示部5aに比較可能に表示する方法として、表示装置5は、第1の撮像画像と第2の撮像画像とを左右ないし上下に並べて同時に表示部5aに表示することができる。あるいは、表示装置5は、表示部5aに第1の撮像画像と第2の撮像画像とを交互に表示することができる。なお、第1の撮像画像と第2の撮像画像とを表示部5aに比較可能に表示する方法としては、上記に限らず、種々の方法を採用することができる。
【0074】
また、表示装置5は画像処理部5cを有している。画像処理部5cは、試料を位相差観察モードで観察することにより得た第1の撮像画像の輝度情報に、同一の試料を明視野観察モードで観察することにより得た第2の撮像画像の色情報を加算して、第1の撮像画像をカラー化することができる。そして、表示装置5は、画像処理部5cによりカラー化された第1の撮像画像を表示部5aに表示することができる。
【0075】
表示装置5の表示部5aはタッチパネル(タッチスクリーン、タッチ画面などとも呼ばれる)となっており、表示部5aに表示された各種操作キーを操作することで、観察モードの切り替え、倍率の変更、試料の視野位置の調整、ピンとの調整等の位相差顕微鏡1の操作ないし調整を行うことができる。
【0076】
次に、上記した位相差顕微鏡システムを用いて毛髪の観察を行う手順について説明する。
【0077】
まず、観察対象となる毛髪を、位相差顕微鏡1により観察可能なプレパラート4に構成し、当該プレパラート4を試料差込口3から差し込んでステージ12に試料である毛髪を配置する。このとき、毛髪を横断面方向に切断することなく、そのままの状態でプレパラート4に構成すればよい。
【0078】
次に、赤外線照射光源14により、ステージ12に配置された毛髪に赤外線を照射して位相差観察モードによる毛髪の位相差観察を行う。ステージ12に配置された毛髪に赤外線が照射されると、試料である毛髪の赤外線による像が、観察光学装置8により拡大されて撮像素子9に結像し、当該像が撮像素子9により撮像される。撮像素子9により撮像された撮像画像は、第1の撮像画像として表示装置5の表示部5aに表示される。これにより、表示部5aには毛髪の毛小皮に加えて、毛皮質、毛髄質といった毛髪の内部の構造が拡大されて詳細に表示される。
【0079】
このように、本実施の形態の位相差顕微鏡システムでは、赤外線照射光源14によって試料である毛髪に可視光線よりも波長の長い赤外線を照射して位相差観察を行い、赤外線を検出可能な撮像素子9により当該像を撮像し、その第1の撮像画像を表示装置5の表示部5aに表示するようにしたので、毛髪を横断面方向に切断するなどの作業を行うことなくそのままの状態で、当該毛髪の毛小皮に加えて、毛皮質、毛髄質といった毛髪の内部の構造を表示装置5に明瞭に表示することができる。したがって、毛髪の観察ないし診断を行う使用者は、表示部5aに表示された第1の撮像画像を視認することで、毛髪の内部構造を詳細に観察することができる。このように、位相差顕微鏡1を位相差観察モードで使用することで、試料である毛髪の内部を容易かつ詳細に観察することができる。また、表示部5aに表示された毛髪の第1の撮像画像に基づき、毛髪ないし人体の健康状態を容易に診断することができるとともに、当該診断の精度を高めることができる。
【0080】
また、表示部5aに表示される操作キーを操作することで、表示部5aに表示される第1の撮像画像のピントの調整及び倍率の変更等を適宜行うことができる。
【0081】
ここで、毛髪に対するピント位置を、試料である毛髪の毛小皮と毛髄質との中間に調整することにより、毛髪の内部と毛髪の表面とを表示装置5の表示部5aに同時に明瞭に表示することができる。図4に、毛髪に対するピント位置を、毛髪の毛小皮と毛髄質との中間に調整した場合に表示部5aに表示される毛髪の画像を示す。当該画像から、毛髪の内部構造である毛髄質と毛髪の表面構造である毛小皮とが、同一の画像に同時に明瞭に表示されていることが解る。このように、毛髪の毛髄質と毛小皮とを同時に詳細に観察することができることから、毛髪の観察を行う使用者は、毛髪ないし毛髪を用いた人体の健康状態の診断を、より容易かつ確実に行うことができる。
【0082】
さらに、本実施の形態の位相差顕微鏡システムでは、赤外線照射光源14が試料である毛髪に照射する赤外線を、0.70μm~1.45μmの範囲内の波長にピーク強度を有する近赤外線としたことにより、特に、毛髪に対するピント位置を毛小皮と毛髄質との中間に調整して毛髪の毛髄質と毛小皮とを同時に表示部5aに表示する際に、これら毛髄質と毛小皮とをより明瞭に表示することができる。
【0083】
さらに、本実施の形態の位相差顕微鏡システムは、試料である毛髪に照射する光を、赤外線照射光源14による赤外線から可視光線照射光源34による可視光線に切り替えることで、観察モードを位相差観察モードから明視野観察モードに切り替えることができる。そして、当該切替えにより、同一の試料つまり同一の毛髪の位相差観察による第1の撮像画像と明視野観察による第2の撮像画像とを比較可能に表示装置5の表示部5aに表示することができる。したがって、毛髪の観察ないし診断を行う使用者は、位相差観察を行うことで得た毛髪の内部構造と明視野観察を行うことで得た毛髪の表面の状態、色等とを見比べることで、毛髪の観察ないし診断を、より容易かつ確実に行うことができる。
【0084】
さらに、本実施の形態の位相差顕微鏡システムでは、画像処理部5cにより、位相差観察を行うことで得た第1の撮像画像の輝度情報に、明視野観察を行うことで得た第2の撮像画像の色情報を加算して第1の撮像画像をカラー化し、カラー化された第1の撮像画像を表示装置5の表示部5aに表示するようにしたので、例えば、毛髪に対するピント位置を調整して毛髪の毛髄質と毛小皮とを同時に表示部5aに表示するようにした場合において、毛髄質と毛小皮とをより明瞭に表示部5aに表示することができる。これにより、使用者は、毛髪の観察ないし診断を、より容易かつ確実に行うことができる。
【0085】
さらに、本実施の形態の位相差顕微鏡システムでは、毛髪の赤外線による像を撮像する撮像素子と毛髪の可視光線による像を撮像する撮像素子として同一の撮像素子9を用いることで、1つの撮像素子9によって第1の撮像画像と第2の撮像画像との両方の画像を得るようにしているので、この位相差顕微鏡システムの構成を簡素化して低コストとし、また、その操作を容易にすることができる。
【0086】
上記した本実施の形態に係る毛髪観察方法ないし位相差顕微鏡システムにおいて使用するプレパラート4としては、図5に示す構成のものを用いるのが好ましい。なお、本実施の形態に係る毛髪観察方法ないし位相差顕微鏡システムにおいて使用するプレパラートは、図5に示す構成のものには限られない。
【0087】
図5に示す本実施の形態に係るプレパラート4は、長方形状のスライドグラス4a上に、1本の毛髪を切断して得た複数の毛髪片4bが、一端から他端に向けた切断順に並列に並べて配置された構成とされている。図示する場合では、1本の毛髪を、一端から他端に向けて所定長さ毎に切断することで、各毛髪片4bの長さを、ほぼ一定の長さに揃えるようにしている。すなわち、本実施の形態に係るプレパラート4では、試料となる毛髪は、そのままスライドグラス4aに配置されるのではなく、所定長さ毎に切断されて複数の毛髪片4bに分けられ、これらの毛髪片4bを当該毛髪の先端側の部分から毛根側の部分に向けて順序づけてスライドグラス4aに並べて配置されている。なお、図5においては、便宜上、1つの毛髪片4bにのみ符号を付してあるが、スライドグラス4aには10本の毛髪片4bが配置されている。
【0088】
本実施の形態においては、毛髪片4bはそれぞれ10mmの長さとされており、スライドグラス4aの短辺に平行に配置されている。また、隣り合う毛髪片4bの間には所定の隙間が設けられるとともに、それぞれの毛髪片4bの両端の位置は、スライドグラス4aの長辺から所定距離離れるように略一定に揃えられている。
【0089】
なお、毛髪片4bの長さないし本数は任意に変更可能であり、また、毛髪片4bをスライドグラス4aの長辺に平行に配置することもできる。また、スライドグラス4a上に配置される複数の毛髪片4bは、より長さの短いものを含むなど、それぞれの長さが一定に揃えられていなくてもよい。
【0090】
スライドグラス4aの表面には正方形状のカバーグラス4cが配置され、複数の毛髪片4bはカバーグラス4cにより覆われている。スライドグラス4aとカバーグラス4cとの間には封入剤は封入されておらず、カバーグラス4cはスライド吸着の手法でスライドグラス4aに固定されている。カバーグラス4cがスライドグラス4aに固定されることで、毛髪片4bはスライドグラス4aとカバーグラス4cとの間に挟み込まれてスライドグラス4aに固定されている。
【0091】
スライドグラス4aには、目盛線4dが設けられている。目盛線4dは、スライドグラス4aの短辺に平行な方向に延びる基準線4d1と、基準線4d1に垂直な方向に延びる複数本(図示する場合には3本)の目盛4d2とを有している。基準線4d1はスライドグラス4aに配置される毛髪片4bと並列に配置され、各目盛4d2は所定の間隔で設けられている。これにより、毛髪片4bの長手方向位置を、目盛線4dによって判別することができるようになっている。
【0092】
目盛線4dは、スライドグラス4aの表面にインク等を用いて直接表示する形態とすることができるが、例えば、スライドグラス4aの表面を溝状に削って表示する形態としてもよく、また、目盛線4dが表示されたフィルムないしシール等をスライドグラス4aの表面に貼り付ける形態とすることもできる。
【0093】
なお、本実施の形態においては、目盛線4dには3本の目盛4d2のみが設けられるが、さらに多くの目盛4d2を設けるなど、目盛4d2の本数は任意に変更可能である。また、スライドグラス4aに、互いに直交する方向に延びる2本の目盛線4dを設けてもよい。
【0094】
上記構成のプレパラート4を用いることで、位相差顕微鏡1により1本の毛髪を観察する際に、当該毛髪の長手方向の各部位を効率良く観察することができる。また、毛髪の観察部位を変更する際には、ステージ12を目盛線4dに沿って移動させることで、当該毛髪の長手方向の各部位を効率良く観察することができる。
【0095】
また、上記構成のプレパラート4では、スライドグラス4aに目盛線4dが設けられているので、毛髪片4bの位相差顕微鏡1により観察されている部位の長手方向位置を、目盛線4dを目視することによって容易に把握することができる。ここで、複数の毛髪片4bは先端側から毛根側に向けて順序付けて並べて配置されているので、毛髪片4bの位相差顕微鏡1により観察されている部位の長手方向位置を目盛線4dにより把握することで、1本の毛髪の長手方向のどの部位を位相差顕微鏡1により観察しているかを容易に把握することができる。
【0096】
上記プレパラート4に構成された1本の毛髪を位相差顕微鏡1により観察し、当該毛髪の内部構造ないし表面構造が変化した部位を発見した場合には、当該部位の毛髪の長手方向位置に基づき、当該変化が発生した時期を分析することができる。例えば、毛髄質が途切れた部位ないし毛小皮が欠落した部位などを発見した場合には、当該部位の毛髪の毛根側からの長手方向位置に基づき、当該変化が起きた時期を特定することができる。これにより、毛髪ないし人体の健康状態の診断をより詳細かつ正確に行うことが可能となる。
【0097】
また、上記構成のプレパラート4では、スライドグラス4aとカバーグラス4cとの間に封入剤を封入することなく毛髪片4bを固定するようにしたことにより、スライドグラス4aとカバーグラス4cとの間に封入剤を封入した場合に比べて、位相差顕微鏡1により観察される毛髪の毛小皮を、毛髄質とともに表示装置5に明瞭に表示することができる。したがって、位相差顕微鏡1を用いて毛髪を観察することにより、毛髪ないし人体の健康状態の診断をより詳細かつ正確に行うことが可能となる。
【0098】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0099】
例えば、前記実施の形態では、位相差顕微鏡システムは毛髪を観察するものとされているが、毛髪以外の他の試料を観察する用途に用いることもできる。
【0100】
また、前記実施の形態では、位相差顕微鏡1は位相差観察による試料の像と明視野観察による試料の像とを1つの撮像素子9により撮像するようにしているが、例えば図6に示すように、位相差観察による試料の像を撮像する第1の撮像素子9と、明視野観察による試料の像を撮像する第2の撮像素子9‘とを有する構成とすることもできる。この場合、第1の撮像素子9は、観察光学装置8の軸線上に配置され、第2の撮像素子9‘は、観察光学装置8の軸方向に対して上方に90度曲がった軸線上に配置されており、これらの分岐点には光路を切り替え可能な光路切替えミラー40が配置されている。そして、位相差顕微鏡1が位相差観察モードとなったときには光路切替えミラー40により観察光学装置8の光路が第1の撮像素子9に向けられて第1の撮像素子9による位相差観察が行われ、位相差顕微鏡1が明視野観察モードとなったときには光路切替えミラー40により観察光学装置8の光路が第2の撮像素子9‘に向かう方向に切り替えられて第2の撮像素子9‘による明視野差観察が行われる。光路切替えミラー40により観察光学装置8の光路を第2の撮像素子9‘に向かう方向に切り替えて明視野観察を行う場合には、第2の撮像素子9‘による撮像画像が鏡像となるので、画像処理部5cなどにおいて当該撮像画像を鏡像から通常の画像に補正する。なお、位相差観察による試料の像を撮像する第1の撮像素子9としては赤外線を検知可能なモノクロセンサを用い、明視野観察による試料の像を撮像する第2の撮像素子9‘としてはRGBフィルタをベイヤ配列にて組み込んだカラー撮像素子などのカラーセンサを用いることができる。また、第2の撮像素子9‘を用いて、可視光線による位相差観察を行うようにしてもよい。
【0101】
さらに、前記実施の形態においては、撮像画像を記憶する記憶部5b及び画像処理部5cを表示装置5に設けるようにしているが、これに限らず、例えば位相差顕微鏡1の制御基板10に当該機能を設けるなど、他の部位等に設けたり、あるいは独立した装置として設けたりすることもできる。
【0102】
さらに、前記実施の形態に係る毛髪観察方法は、人間の毛髪に限らず、動物の毛を観測する用途に適用することができる。
【0103】
さらに、前記実施の形態に係るプレパラート4は、カバーグラス4cを用いて毛髪片4bをスライドグラス4aに固定するようにしているが、これに限らず、セロファンテープを用いて毛髪片4bをスライドグラス4aに固定する構成とすることもできる。
【0104】
さらに、前記実施の形態に係るプレパラート4は、前記実施の形態に係る毛髪観察方法ないし前記実施の形態に係る位相差顕微鏡システムに限らず、他の毛髪観察方法ないし位相差顕微鏡に用いることもできる。
【符号の説明】
【0105】
1 位相差顕微鏡
2 ケース
2a 側面カバー
3 試料差込口
4 プレパラート
4a スライドグラス
4b 毛髪片
4c カバーグラス
4d 目盛線
4d1 基準線
4d2 目盛
5 表示装置
5a 表示部
5b 記憶部
5c 画像処理部
6 ステージ装置
7 赤外線照射装置
8 観察光学装置
9 撮像素子
9‘ 撮像素子
10 制御基板
11 支持枠体
11a 開口
12 ステージ
13 駆動ユニット
14 赤外線照射光源
15 照射光学系
16 照射用ケース
17 接続アダプタ
18 上側ミラーユニット
19 光源レンズ
20 フィールドレンズ
21 視野絞り
22 コンデンサレンズ
23 上側ミラー
24 対物レンズ
25 結像レンズ
25a 鏡枠
25b 可動鏡枠
25c 固定鏡枠
26 下側ミラーユニット
27 下側ミラー
28 固定レンズ系
29 可動レンズ系
30 基板
31 リング絞り
32 位相板
33 位相差リング
34 可視光線照射光源
36 コネクタユニット
37 ケーブル
40 光路切替えミラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6