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特許7297206トンネル支保工の接続構造および接続工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】トンネル支保工の接続構造および接続工法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/40 20060101AFI20230619BHJP
【FI】
E21D11/40 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019038215
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020143426
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】505356491
【氏名又は名称】株式会社マシノ
(74)【代理人】
【識別番号】100090114
【弁理士】
【氏名又は名称】山名 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】稲田 匠吾
(72)【発明者】
【氏名】日向 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅行
(72)【発明者】
【氏名】土永 直毅
(72)【発明者】
【氏名】西原 直哉
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第6374050(JP,B1)
【文献】特開2018-178452(JP,A)
【文献】特開2017-115446(JP,A)
【文献】特開2018-131865(JP,A)
【文献】特許第6374051(JP,B1)
【文献】特開2000-045695(JP,A)
【文献】実開昭52-024729(JP,U)
【文献】実開昭58-045800(JP,U)
【文献】特開2018-112199(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108643923(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の支保部材が軸線方向に突き合わせ接続されてアーチ状に形成されるトンネル支保工の接続構造において、
隣り合う前記支保部材は、ウエブを縦向きとするH形鋼であり、前記H形鋼の突き合わせ接続する側の端部に継手板の背面接合され、前記継手板の正面同士が当接された状態で突き合わせ接続される構成であること
一方の前記継手板は、前記ウエブを境界として切羽側の前記背面に対し直角方向に突設された位置決めピンと、坑口側に形成された貫通孔とを備え、
他方の前記継手板は、前記一方の継手板の切羽側の前記背面へ回り込むように形成され、かつ前記位置決めピンを切羽側から受け入れる凹部を備えたガイド部材と、前記位置決めピンを前記凹部内に受け入れて位置決めしたとき前記坑口側に形成された貫通孔と芯が一致するように形成された貫通孔とを備え、
前記芯が一致した坑口側に形成された貫通孔にボルトを通しナットで締結することにより隣り合う前記支保部材同士が突き合わせ接続されることを特徴とする、トンネル支保工の接続構造。
【請求項2】
前記継手板は、前記支保部材として用いるH形鋼のウエブを境界線として、切羽側よりも坑口側の面積が大きくなるように偏倚させて前記支保部材に接合されていることを特徴とする、請求項1に記載したトンネル支保工の接続構造。
【請求項3】
前記継手板に設ける貫通孔は複数であることを特徴とする、請求項1又は2に記載したトンネル支保工の接続構造。
【請求項4】
前記ナットは、筒状のナット本体の内部に、前記ナット本体の貫通孔と芯が一致する貫通孔を備え内壁部にネジ部が形成されたネジ筒体が収納されてなる構造で、
前記ナット本体における前記ネジ筒体を収納する収納室は、その外周面に前記ナット本体のボルト挿入口側からボルト貫通口側へ向かって拡径するテーパー部を備え、
前記ネジ筒体は、その外周面に前記ナット本体の軸線方向に摺動可能なテーパー部を備え、前記収納室内に設けられた付勢部材によりボルト貫通口側からボルト挿入口側へ常時付勢されていることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載したトンネル支保工の接続構造。
【請求項5】
複数の支保部材を軸線方向に突き合わせ接続してアーチ状に形成してなるトンネル支保工の接続工法において、
隣り合う前記支保部材は、ウエブを縦向きとしたH形鋼とし、前記H形鋼の突き合わせ接続する側の端部に継手板の背面接合し、前記継手板の正面同士を当接させて突き合わせ接続するにあたり、
一方の前記継手板は、前記ウエブを境界として切羽側の前記背面に対し直角方向に突設された位置決めピンと、坑口側に形成された貫通孔とを備え、
他方の前記継手板は、前記一方の継手板の切羽側の前記背面へ回り込むように形成されかつ前記位置決めピンを切羽側から受け入れる凹部を備えたガイド部材と、前記位置決めピンを前記凹部内に受け入れて位置決めしたとき前記坑口側に形成された貫通孔と芯が一致するように形成した貫通孔とを有し、
前記一方の継手板の位置決めピン前記他方の継手板のガイド部材位置決めし、前記芯を一致させた坑口側に形成した貫通孔にボルトを通しナットで締結することにより双方の継手板の切羽側をボルト接合することなく隣り合う前記支保部材同士を突き合わせ接続することを特徴とする、トンネル支保工の接続工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル支保工の接続構造および接続工法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、山岳トンネルを構築する方法として、NATM工法(ナトム工法)が知られている。NATM工法は、吹付けコンクリート、ロックボルト、鋼製のトンネル支保工等を用いて行われる。
【0003】
前記トンネル支保工は、一般的に、弧状等に形成した複数の支保部材を軸線方向に突き合わせ接続してアーチ状に形成される。隣り合う前記支保部材は、接続する側の端部に設けた継手板同士を当接させ、前記継手板の切羽側及び坑口側に形成した貫通孔にボルトを通しナットで締結するボルト接合作業を行って接続している。
近年では、前記継手板の切羽側のボルト接合作業を省略可能とする発明も開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
ところで、前記隣り合う支保部材の接続作業は、通常、エレクターやドリルジャンボ等の重機により支保部材を支持させ、重機に搭載されたマンケージに配置された作業員により手作業で行われるが、作業員の手作業を回避して重機による自動作業で行う発明も開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
前記特許文献1に係る発明は、同文献1の図2図4に示したように、複数の支保部材41(42)を連結することにより形成されたトンネル支保工4であって、前記支保部材41の端部には継手板43、44が設けられており、前記支保部材41同士は、前記継手板43、44同士を突き合わせた状態で連結されており、一方の支保部材41の継手板43には、突起46が形成されていて、他方の支保部材41の継手板44には、前記突起46が挿入される穴47が形成されていることを特徴としたトンネル支保工が開示されている(請求項1等を参照)。
【0005】
この特許文献1に記載のトンネル支保工によれば、一方の継手板43の表面に形成された突起46を他方の継手板44の穴47に挿入するだけで、支保部材41(42)の位置合わせが完了する。そのため、重機を利用した支保部材41(42)同士の組み立て作業を簡易に行い得る等の効果がある旨の記載が認められる(段落[0021]参照)。
また、前記突起46及び穴47を継手板43、44の切羽側に設けて実施する場合、切羽側での作業を減らすことができる等の効果がある旨の記載も認められる(段落[0023]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-131865号公報
【文献】特許第6374050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載のトンネル支保工によれば、突起46と穴47との係合によりせん断を負担しなければならない構成であるが故に(段落[0023]参照)、図4(a)が分かりやすいように、突起46を穴47に、ずり動くことなく挿入する必要がある。
よって、突起46を穴47に挿入する前段階である継手板43、44同士の位置合わせ作業に難渋する等、手間がかかることが推測される。
加えて、前記突起46及び穴47を継手板43、44の切羽側に設けて実施する場合、支保部材41(42)により視界がほとんど遮られた状態での位置合わせ作業を強いられるので、さらに手間がかかることが推測される。
【0008】
また、前記特許文献2に記載の発明によれば、作業員の手作業を回避して重機による自動作業で実現できるとはいうものの、継手板同士(第1天端継手板121および第2天端継手板122)の位置を合わせて微調整を行いつつ両者を接続(合体)させるまでの一連の作業に手間がかかることが推測される。
さらに、前記継手板同士の接続状態を確認(視認)することができず確実性に欠けるほか、前記継手板が特殊な構造を呈し、費用が嵩む点が懸念される。
【0009】
そこで、本発明の目的は、継手板同士の位置合わせ作業をシンプルな構成で効率よく確実に行うことができ、しかも継手板同士の切羽側をボルト接合することなく隣り合う前記支保部材同士を確実に接続できる、経済性、施工性、確実性、及び安全性に優れたトンネル支保工の接続構造および接続工法を提供することにある。
本発明の次の目的は、前記継手板同士の坑口側のボルト接合作業を、主にナット構造に工夫を施すことによりほぼワンタッチ操作で締結作業を実現できる等、作業効率が飛躍的に高まるトンネル支保工の接続構造および接続工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係るトンネル支保工の接続構造は、複数の支保部材が軸線方向に突き合わせ接続されてアーチ状に形成されるトンネル支保工の接続構造において、
隣り合う前記支保部材は、ウエブを縦向きとするH形鋼であり、前記H形鋼の突き合わせ接続する側の端部に継手板の背面接合され、前記継手板の正面同士が当接された状態で突き合わせ接続される構成であること
一方の前記継手板は、前記ウエブを境界として切羽側の前記背面に対し直角方向に突設された位置決めピンと、坑口側に形成された貫通孔とを備え、
他方の前記継手板は、前記一方の継手板の切羽側の前記背面へ回り込むように形成され、かつ前記位置決めピンを切羽側から受け入れる凹部を備えたガイド部材と、前記位置決めピンを前記凹部内に受け入れて位置決めしたとき前記坑口側に形成された貫通孔と芯が一致するように形成された貫通孔とを備え、
前記芯が一致した坑口側に形成された貫通孔にボルトを通しナットで締結することにより隣り合う前記支保部材同士が突き合わせ接続されることを特徴とする。
【0012】
請求項に記載した発明は、請求項に記載したトンネル支保工の接続構造において、前記継手板は、前記支保部材として用いるH形鋼のウエブを境界線として、切羽側よりも坑口側の面積が大きくなるように偏倚させて前記支保部材に接合されていることを特徴とする。
【0014】
請求項に記載した発明は、請求項1又は2に記載したトンネル支保工の接続構造において、前記継手板に設ける貫通孔は複数であることを特徴とする。
【0015】
請求項に記載した発明は、請求項1~のいずれか1項に記載したトンネル支保工の接続構造において、
前記ナットは、筒状のナット本体の内部に、前記ナット本体の貫通孔と芯が一致する貫
通孔を備え内壁部にネジ部が形成されたネジ筒体が収納されてなる構造で、
前記ナット本体における前記ネジ筒体を収納する収納室は、その外周面に前記ナット本体のボルト挿入口側からボルト貫通口側へ向かって拡径するテーパー部を備え、
前記ネジ筒体は、その外周面に前記ナット本体の軸線方向に摺動可能なテーパー部を備え、前記収納室内に設けられた付勢部材によりボルト貫通口側からボルト挿入口側へ常時付勢されていることを特徴とする。
【0016】
請求項に記載した発明に係るトンネル支保工の接続工法は、複数の支保部材を軸線方向に突き合わせ接続してアーチ状に形成してなるトンネル支保工の接続工法において、
隣り合う前記支保部材は、ウエブを縦向きとしたH形鋼とし、前記H形鋼の突き合わせ接続する側の端部に継手板の背面接合し、前記継手板の正面同士を当接させて突き合わせ接続するにあたり、
一方の前記継手板は、前記ウエブを境界として切羽側の前記背面に対し直角方向に突設された位置決めピンと、坑口側に形成された貫通孔とを備え、
他方の前記継手板は、前記一方の継手板の切羽側の前記背面へ回り込むように形成されかつ前記位置決めピンを切羽側から受け入れる凹部を備えたガイド部材と、前記位置決めピンを前記凹部内に受け入れて位置決めしたとき前記坑口側に形成された貫通孔と芯が一致するように形成した貫通孔とを有し、
前記一方の継手板の位置決めピン前記他方の継手板のガイド部材位置決めし、前記芯を一致させた坑口側に形成した貫通孔にボルトを通しナットで締結することにより双方の継手板の切羽側をボルト接合することなく隣り合う前記支保部材同士を突き合わせ接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るトンネル支保工の接続構造および接続工法によれば以下の効果を奏する。
(1)相対峙する支保部材の継手板同士の位置合わせ作業をシンプルな構成で効率よく確実に行うことができるので、経済性、施工性、及び確実性に優れたトンネル支保工の接続構造および接続工法を実現できる。
(2)前記継手板同士の切羽側をボルト接合することなく隣り合う前記支保部材同士を接続できるので、作業スペースが狭くなりがちな切羽側へ手指を入れる(回り込ませる)ことなく接続作業を行うことができる。よって、安全性にも優れたトンネル支保工の接続構造および接続工法を実現できる。
(3)実施例2に記載したナットで実施する場合は、前記継手板同士のボルト接合作業をほぼワンタッチ操作で実現できるので、前記(1)、(2)の効果に加え、ボルト接続作業を飛躍的に早く行うことができる。よって、作業時間、ひいては工期を大幅に短縮できる等、作業効率性に非常に優れたトンネル支保工の接続構造および接続工法を実現できる。ちなみに本出願人が行った実験によれば、従来のナットによるねじ込み作業と比し、作業時間を1/10程度に短縮できることが分かっている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るトンネル支保工の接続構造の実施例を示した立面図である。
図2】(a)は、図1のトンネル支保工の頂部の接続構造を拡大して示した立面図であり、(b)は、(a)のA-A線矢視断面図であり、(c)は、(a)のB-B線矢視断面図である。
図3】(a)は、図2(a)の平面図であり、(b)は、(a)のC矢視図である。
図4】(a)は、図2(a)の右方の支持部材を示した立面図であり、(b)は、(a)の平面図であり、(c)は、(a)を左方側からみた継手板を示す図であり、(d)は、(a)のD-D線矢視断面図である。
図5】(a)は、図2(a)の左方の支持部材を示した立面図であり、(b)は、(a)の平面図であり、(c)は、(a)のE-E線矢視断面図であり、(d)は、(a)を右方側からみた継手板を示す図である。
図6】(a)~(c)は、本発明に係るトンネル支保工の接続工法の実施例を段階的に示した平面図である。
図7】(a)は、実施例2で用いるナットの半面を断面とした部分断面図であり、(b)は、(a)の左側面図である。
図8】(a)~(b)は、実施例2で用いるナットによるトンネル支保工の接続工法を段階的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係るトンネル支保工の接続構造および接続工法の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明に係るトンネル支保工の接続構造は、図1に示したように、複数(図示例では2つ)の支保部材1、2が軸線方向に突き合わせ接続されてアーチ状に形成されるトンネル支保工10の接続構造である。
隣り合う前記支保部材1、2は、図2図3等に示したように、ウエブを縦向きとするH形鋼であり、前記H形鋼の突き合わせ接続する側の端部に継手板11、21の背面接合され、前記継手板11、21の正面同士が当接された状態で突き合わせ接続される構成である。
一方の前記継手板11は、図4等に示したように、前記ウエブを境界として切羽側の前記背面に対し直角方向に突設された位置決めピン12と、坑口側に形成された貫通孔13、13とを備えている。
他方の前記継手板21は、図5図6等に示したように、前記一方の継手板11の切羽側の前記背面へ回り込むように形成され、かつ前記位置決めピン12を切羽側から受け入れる凹部を備えたガイド部材22と、前記位置決めピン12を前記凹部内に受け入れて位置決めしたとき前記坑口側に形成された貫通孔13、13と芯が一致するように形成された貫通孔23、23とを備えている。
そして、前記芯が一致した坑口側に形成された貫通孔13、23にボルト3を通しナット4で締結することにより前記継手板11、12同士、ひいては隣り合う前記支保部材1、2同士が突き合わせ接続される。
以下、具体的に説明する。
【0021】
前記トンネル支保工10は、鋼製支保工とも呼ばれ、NATM工法によりトンネル周囲の掘削地盤の安定化処理を行いつつトンネルを構築するために好適に用いられる。通常、図1に示したようなアーチ状に形成され、図示は省略するが、トンネル延長方向に所定の間隔をあけて設置され、その後に行うコンクリートの吹き付け作業、ロックボルト打設作業に供される。
本実施例に係るトンネル支保工10は、H形鋼を所要の曲率に湾曲させて弧状に形成した一対の支保部材1、2を頂部(トンネル天端部)の1箇所で突き合わせ接続する構成で実施されている。前記突き合わせ接続作業は、高所作業ということもあり、エレクターやドリルジャンボ等の重機により支保部材を支持させつつ、重機に搭載されたマンケージに配置された作業員の手作業で行われる。
本実施例に係るトンネル支保工10は、2つの部材(支保部材1、2)でアーチ状に形成する構成で実施しているがこれに限定されない。3つ以上(例えば4つ)の部材でアーチ状に形成する構成のトンネル支保工もある。この場合、前記頂部(トンネル天端部)の接続箇所は本発明に係る接続構造を実施し、その他の接続箇所は適宜、本発明に係る接続構造を実施してトンネル支保工を構築する。
なお、前記トンネル支保工10の大きさや設置ピッチは地山の性状等を勘案した構造設計に応じて適宜設計変更可能である。これに伴い前記支保部材1、2の大きさも適宜設計変更可能である。また、前記支柱部材1、2は、H形鋼で実施している。
【0022】
前記トンネル支保工10を構成する前記支保部材1、2はそれぞれ、接続する側の端部に継手板11、21が溶接等の接合手段により一体的に設けられている。
本実施例に係る継手板11、21は、同形同大の矩形状の平鋼板で実施されている。ちなみに、本実施例に係る継手板11、21の大きさは、一例として、縦寸が155mm、横寸が180mm、板厚が9mmで実施されている。
なお、図示例の継手板11、21は、図2(b)、(c)等に示したように、前記支保部材1、2の軸線(ウエブ)を含む垂直面を境界線として、切羽側よりも坑口側の面積が大きくなるように偏倚させて前記支保部材1、2に溶接接合されている。ボルト3を止め付ける坑口側のスペースを十分に確保するためである。
【0023】
一方(図示例では右方)の前記継手板11は、図4等に示したように、支保部材1を形成するH形鋼の軸線(ウエブ)よりも切羽側の背面に位置決めピン12が溶接等の接合手段で突設され、坑口側には2つの貫通孔13、13が形成されている。
本実施例に係る位置決めピン12は、一例として、径(φ)が21mm、高さ(突出寸法)が25mmの丸鋼を、前記継手板11の切羽側の縦辺寄りの高さ方向中央部に設けて実施されている。
前記2つの貫通孔13、13は、一例として、ともに孔径(φ)が25mmに穿設され、前記継手板11の坑口側においてバランスよく、上下に50mm、左右に35mmの間隔をあけた斜め配置で実施されている。
【0024】
他方(図示例では左方)の前記継手板21は、図5等に示したように、支保部材2を形成するH形鋼の軸線(ウエブ)よりも切羽側に、前記一方の継手板11の背面側へ回り込むように、かつ前記位置決めピン12を位置決め可能に形成されたガイド部材22が溶接等の接合手段で設けられ、坑口側には、前記位置決めピン12をガイド部材22に位置決めしたとき前記貫通孔13、13と芯が一致する貫通孔23、23が穿設されている。
本実施例に係るガイド部材22は、図5(b)に示したように、掛け止め部22aと突き出し部22bと回り込み部22cとからなる平面視フック状(鉤状)に折り曲げ成形された鋼材で実施され、その掛け止め部22aを前記継手板21の切羽側の縦辺寄りの背面部に溶接することにより取り付けられている。前記突き出し部22bの突出寸法(内法寸法)は、板厚が9mmの2枚の継手板21、22を収容可能な22mmで実施される。また、前記回り込み部22cは、図5(d)に示したように、右方から左方に向けて末広がりとなるテーパー状に形成され、その中央部(基端部)が前記位置決めピン12を位置決め(受け入れ)可能な半円弧状の凹溝(孔径(φ)21mm)に形成されている。
前記2つの貫通孔23、23は、一例として、ともに孔径(φ)が25mmに穿設され、前記貫通孔13、13と芯が一致するように、前記継手板21の坑口側においてバランスよく、上下に50mm、左右に35mmの間隔をあけた斜め配置で実施されている。
【0025】
かくして、前記継手板11、21同士の位置合わせ作業によって、前記継手板11側の位置決めピン12が前記継手板21側のガイド部材22(回り込み部22c)の半円弧状の凹溝に位置決めされると自動的に、各継手板11、21同士の坑口側に配設された貫通孔13、23同士の芯が一致して連通する構造を呈する(図6(b)参照)。
そして、前記芯が一致した貫通孔13、23にボルト3を通しナット4で締結することにより隣り合う継手板11、21同士、ひいては前記支保部材1、2同士が接続される。
なお、本実施例では、前記坑口側に設ける貫通孔13、23の個数を2つで実施しているがこれに限定されず、所要の突き合わせ接続強度の実現等を勘案した構造設計に応じて適宜設計変更可能である。これに応じて継手板11、21の大きさ、形状も適宜設計変更可能である。
【0026】
次に、上記構成のトンネル支保工10の接続構造を実現するためのトンネル支保工の接続工法について説明する。
このトンネル支保工の接続工法は、隣り合う前記支保部材1、2は、ウエブを縦向きとしたH形鋼とし、前記H形鋼の突き合わせ接続する側の端部継手板11、21の背面接合し、前記継手板11、21の正面同士を当接させて突き合わせ接続するにあたり、一方の前記継手板11は、前記位置決めピン12と前記貫通孔13、13とを有し、他方の前記継手板21は前記ガイド部材22と前記貫通孔23、23とを有しており、前記一方の継手板11の位置決めピン12を前記他方の継手板21のガイド部材22に位置決めし、前記芯を一致させた貫通孔13、23にボルト(頭付きボルト)3を通しナット4で締結することにより、双方の継手板11、21の切羽側をボルト接合することなく隣り合う前記支保部材1、2同士を突き合わせ接続する。
【0027】
具体的に、上記構成の継手板11、21は、図6(a)~(c)に段階的に示したように、図示を省略したエレクターやドリルジャンボ等の重機を操作して左右の支保部材21、11を支持した状態で、前記継手板11を切羽側の奥行方向(横方向)へスライドさせて前記継手板21のガイド部材22内に挿入させつつ、前記位置決めピン(丸鋼)12を前記ガイド部材22に形成した半円弧状の凹溝内へ嵌め込んで位置決めする。そうすると、前記継手板11の2つの貫通孔13、13はそれぞれ、前記継手板21の対応する2つの貫通孔23、23と芯が一致して連通する構造を呈する(図6(b)参照)。
前記継手板11をスライドさせながらの位置決め作業は、前記位置決めピン12を、前記ガイド部材22(回り込み部22c)に形成したテーパー効果によりスムーズに、かつ確実に凹溝内へ誘導(案内)させることができるので、前記重機による操作であっても迅速でストレスのない位置決め作業を行うことができる。
しかる後、重機に搭載されたマンケージに配置された作業員の手作業により、前記芯が一致した貫通孔13、23にボルト(頭付きボルト)3を通しナット4で締結することにより隣り合う継手板11、21同士、ひいては前記支保部材1、2同士が接続される。
【0028】
したがって、上述した実施例1に係るトンネル支保工10の接続構造および接続工法によれば、前記継手板11、21同士の位置合わせ作業をシンプルな構成で効率よく確実に行うことができるので、経済性、施工性、及び確実性に優れたトンネル支保工10の接続構造および接続工法を実現できる。
また、前記継手板11、21同士の切羽側をボルト接合することなく隣り合う前記支保部材1、2同士を接続することができるので、作業スペースが狭くなりがちな切羽側へ手指を入れることなく接続作業を行うことができる。よって、安全性にも優れたトンネル支保工10の接続構造および接続工法を実現できる。
【実施例2】
【0029】
図7図8は、実施例2に係るトンネル支保工の接続構造および接続工法を示している。この実施例2に係るトンネル支保工の接続構造および接続工法は、上記実施例1と比し、前記ナット4の構造が異なる点が相違する。その他の構成は上記実施例1と同一なので同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0030】
この実施例2に係るナット4は、図7に示したように、筒状のナット本体41の内部に、前記ナット本体41の貫通孔41aと芯が一致する貫通孔42aを備え内壁部にネジ部42bが形成されたネジ筒体42が収納されてなる構造である。
前記ナット本体41における前記ネジ筒体42を収納する収納室43は、その外周面43aに前記ナット本体41のボルト挿入口側(IN)からボルト貫通口側(OUT)へ向かって拡径するテーパー部を備えている。
また、前記ネジ筒体42は、その外周面42cに前記ナット本体41の軸線方向に摺動可能なテーパー部を備え、前記収納室43内に設けられた付勢部材44によりボルト貫通口側(OUT)からボルト挿入口側(IN)へ常時付勢されている。
【0031】
具体的に、前記ナット本体41は、外形が六角形に形成され、内部に収納室43が形成されている。外形は六角形のほか、円形や多角形など任意の形状でも実施できる。
前記収納室43は、軸線方向ほぼ中間部を境にボルト挿入口側(IN)に向かって漸次縮径するテーパー状に形成され、残る部分は円筒状に形成され、ボルト貫通口側(OUT)の端部は、中央部に貫通孔45aが形成された止め部材45がカシメ等により固設されている。前記止め部材45は、板状部材で鍔状に形成されている。
【0032】
前記収納室43の外周面43aには、摺動案内突条(図示省略)が、周方向に適宜間隔をあけて複数形成されている。前記ネジ筒体42は、前記摺動案内突条の相互間においてナット本体41の軸線方向に摺動可能に配設されている。本実施例に係るネジ筒体42は、図7(b)に示したように、3個で実施しているが数量は特に限定されず、構造設計に応じて適宜増減可能である。
前記ネジ筒体42の内壁部に形成されたネジ部(雌ネジ)42bは、螺旋状の係止山及び係止溝からなり、ナット本体41の軸芯を中心とする円弧でかつ軸線方向に沿って刻設されている。この螺旋状のネジ部42bは、螺旋状に形成されていればよく、その断面形状としては任意のネジ山を用いることができる。前記係止山間の間隔も任意に設定することができる。
【0033】
上記構成により、前記3個のネジ筒体42は、前記収納室43の外周面43aに沿ってボルト貫通口側(OUT)へ後退すると、前記3個のネジ筒体42が形成する中央部のネジ部42b(貫通孔42a)が拡径され、反対に、ボルト挿入口側(IN)へ前進すると、当該ネジ部42bが縮径する構造を呈する。
【0034】
なお、摺動案内突条は、任意に形成することができる、例えば、螺旋状に形成し、ネジ筒体42が後退すればするほど、ネジ部42bと前記ボルト(頭付きボルト)3に形成した後述する雄ネジ31との締結が緩むようにしてもよい。また、前記摺動案内突条を設けなくてもよいが、摺動案内突条を設けると、ボルト3とナット4との連結状態において、ボルト3をナットに対して回動させやすく、増し締めや連結状態の解除が容易に行える。
【0035】
前記収納室43内には、移動部材46がナット本体41の軸線方向に移動可能に設けられている。この移動部材46は、ネジ筒体42に共通して係合するとともに、中央部に貫通孔が形成された鍔部46aと鍔部46aの内周端からボルト貫通口側(OUT)へ向かって固設された円筒状の案内部46bで構成されている。前記案内部46bのボルト貫通口側(OUT)寄りの端部は、図7(a)に示したように、ボルト3とナット4との非連結状態において、止め部材45よりもボルト挿入口側(IN)に位置するように形成されている。
前記案内部46bの内径は、前記ボルト3の雄ネジ31の外径よりも大きく設定されている。また、前記案内部46bの外径は、止め部材45の貫通孔の内径よりも大きく設定されている。
なお、前記案内部46bは、本実施例においては、ナット本体41の軸線方向全体において略同じ内径で形成された円筒状に構成したが、ボルト挿入口側(IN)へ至るほど縮径又は拡径するように形成してもよい。なお、このように案内部46bを形成した場合、その最外径は、止め部材45の貫通孔の内径よりも大きく設定されている。
【0036】
前記付勢部材44は、収納室43内における鍔部46aと止め部材45との間に介在されている。前記付勢部材44は、コイルバネ、ゴム、樹脂、ウレタン等の弾性部材が好適である。この実施例では、図7(a)に示したように、円錐状に形成されたコイルバネ44を使用して圧縮状態で収納されている。この付勢部材44の付勢力によるネジ筒体42と移動部材46は、ボルト挿入口側(IN)方向へ常時付勢されている。
【0037】
一方、前記ボルト3は、図8に示したように、棒状に形成され、その外周面には、軸芯を中心とする螺旋状の係止山及び係止溝からなる雄ネジ31が、ナット本体4の軸線方向に沿って刻設されている。この螺旋状に形成した雄ネジ31は、前記ネジ筒体42のネジ部42bに係合できることを条件に、任意の形状のネジ山で実施することができる。
【0038】
次に、上記構成のナット4を用いたボルト接合作業について説明する。
前記図6(b)に示したように、継手板11、21の位置合わせを行い、継手板11、21同士の坑口側に配設された貫通孔13、23同士の芯を一致させて連通する構造を呈する段階までは上記実施例1と同じ作業工程を行う。
その後、図8(a)に示したように、前記芯を一致させた貫通孔13、23内へボルト(頭付きボルト)3の雄ネジ31を挿入し、当該雄ネジ31の先端部を前記ナット本体41の収納室43内に相互に回転することなく挿入する。
このボルト3の挿入効果により前記ネジ筒体42がボルト貫通口側(OUT)へ押され、ネジ筒体42と移動部材46が付勢部材44の付勢力に抗して後退する。前記ボルト3は、ネジ筒体42で形成されるネジ部42b(貫通孔42a)を拡径させ、各ネジ筒体42のネジ部42bの係止山を乗り越えつつ貫通孔42a内に挿入される。そして、前記ボルト3の先端は、図8(b)に示したように、ナット本体41の外側へ突き出される。
【0039】
その後、前記3つのネジ筒体42と移動部材46は、前記付勢部材46の付勢力によってボルト挿入口側(IN)方向へ押し戻され、ネジ部42b(雌ネジ)の径が漸次縮径し、各ネジ筒体42のネジ部42bが前記ボルト3の雄ネジ31に噛み合い、その結果、ボルト3とナット4とは連結されて継手板11、21、ひいては支保部材1、2は接続される。また、必要に応じて増し締めを行う。
【0040】
このように、前記ボルト3とナット4は、相互に回転させることなく、ボルト3の先端部を、ナット4のネジ筒体42内へ挿入することでほぼワンタッチ操作で連結することができる。この相互の挿入の際におけるボルト3とナット4との位置合わせが容易であり、通常のナット(例えば実施例1のナット4)を用いたボルト接合作業と比し、容易で迅速に行うことができる。
また、前記摺動案内突条間にネジ筒体42を摺動可能に設けたことにより、前記継手板11、21(支保部材1、2)同士を接続した後にも、前記ボルト3とナット4のいずれかを回転させることにより、ネジ筒体42が供回りすることなく、前記ボルト3とナット4との接続状態を解除することができる。
【0041】
したがって、上述した実施例2に係るトンネル支保工10の接続構造および接続工法によれば、前記継手板同士のボルト接合作業をほぼワンタッチ操作で実現できるので、前記実施例1に係る作用効果(前記段落[0028]参照)に加え、ボルト接続作業を飛躍的に早く行うことができる。
よって、作業時間、ひいては工期を大幅に短縮できる等、作業効率性に非常に優れたトンネル支保工の接続構造および接続工法を実現できる。
【0042】
以上に実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例等の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【符号の説明】
【0043】
1 支保部材
11 継手板
12 位置決めピン
13 貫通孔
2 支保部材
21 継手板
22 ガイド部材
22a 掛け止め部
22b 突き出し部
22c 回り込み部
23 貫通孔
3 ボルト
31 雄ネジ
4 ナット
41 ナット本体
41a 貫通孔
42 ネジ筒体
42a 貫通孔
42b ネジ部
42c 外周面
43 収納室
43a 外周面
44 付勢部材(コイルバネ)
45 止め部材
45a 貫通孔
46 移動部材
46a 鍔部
46b 案内部
10 トンネル支保工
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8