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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】魚類および魚類の生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20230619BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230619BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/09 110
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019545186
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2018036522
(87)【国際公開番号】W WO2019066052
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017187374
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】木下 政人
(72)【発明者】
【氏名】吉浦 康寿
(72)【発明者】
【氏名】吉川 廣幸
(72)【発明者】
【氏名】家戸 敬太郎
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-335974(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106191114(CN,A)
【文献】FEI, Fei, et al.,Acta Physiologica Sinica,2017年02月,Vol.69 (1),p.61-69
【文献】LOGAN, Darren W. et al.,Genomics,2003年,Vol.81,p.184-191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子について、機能喪失し、かつ性成熟が促進していることを特徴とする、フグ科の魚類。
【請求項2】
成長が促進している、請求項1記載の魚類。
【請求項3】
MC4R遺伝子を部分欠失または完全欠失している、請求項1または2に記載の魚類。
【請求項4】
養殖用である、請求項1からのいずれか一項に記載の魚類。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の魚類の可食部。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載の魚類と、他の魚類とを交配する交配工程を含むことを特徴とする、フグ科の魚類の生産方法。
【請求項7】
前記交配工程で得られた魚類を生育する生育工程を含む、請求項記載の生産方法。
【請求項8】
前記交配工程に先立って、
被検魚類の生体試料における4型メラノコルチン受容体(MC4R)の発現量を測定する測定工程、および
前記被検魚類から、請求項1からのいずれか一項に記載の魚類を選抜する被検魚類選抜工程を含み、
前記被検魚類選抜工程において、前記被検魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、基準値とに基づき、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している被検魚類を選抜する、請求項または記載の生産方法。
【請求項9】
前記交配工程に先立って、対象魚類から、請求項1からのいずれか一項に記載の魚類を作出する作出工程を含み、
前記作出工程は、前記対象魚類のMC4R遺伝子に、機能喪失変異を導入する変異工程を含む、請求項または記載の生産方法。
【請求項10】
4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子について、機能喪失させて、性成熟を促進させる工程を含む、フグ科の魚類の性成熟の促進方法。
【請求項11】
魚類であって、
4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子について、機能喪失し、かつ成長が促進しており、
前記魚類はトラフグである、魚類。
【請求項12】
魚類の成長促進方法あって、
4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子について、機能喪失させて、成長を促進させる工程を含み、
前記魚類は、トラフグである、魚類の成長促進方法。
【請求項13】
請求項1から、および11のいずれか一項に記載の魚類を生育する生育工程を含む、フグ科の魚類の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類および魚類の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラフグ等の魚類の一部は、養殖により供給されている。ただし、養殖でトラフグを生育する場合、性成熟した成魚を得るまでに、例えば、雄では2年、雌では3年という長期間の飼育が必要となる。このため、魚類の養殖にあたり、魚類の飼育期間の短縮化が求められている(非特許文献1)。
【0003】
また、養殖したトラフグの成魚等の養殖された魚類の成魚は、天然の成魚より小型である。このため、成魚の収量(重量)の増加が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Shao Jun Du et.al, “Growth enhancement in transgenic atlantic salmon by the use of an “all fish” chimeric growth hormone gene construct”, 1992, Biotechnology, Vol. 10, pages 176-181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、成長が促進された魚類の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の魚類は、4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子について、機能喪失していることを特徴とする。
【0007】
本発明の魚類の生産方法(以下、「生産方法」ともいう)は、前記本発明の魚類と、他の魚類とを交配する交配工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、正常型のMC4R遺伝子を有する魚類と比較して、成長が促進された魚類を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1におけるMC4R遺伝子について機能喪失しているトラフグの体重を示すグラフである。
図2図2は、実施例2におけるMC4R遺伝子について機能喪失しているクサフグの体重を示すグラフである。
図3図3は、実施例4におけるMC4R遺伝子について機能喪失しているメダカの体重を示すグラフである。
図4図4は、実施例5におけるMC4R遺伝子について機能喪失しているメダカの接餌量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の魚類は、例えば、MC4R遺伝子を部分欠失または完全欠失している。
【0011】
本発明の魚類において、前記魚類は、例えば、フグ科、タイ科、ハタ科、およびメダカ科からなる群から選択された少なくとも一つの魚類である。
【0012】
本発明の魚類は、例えば、養殖用である。
【0013】
本発明の魚類は、例えば、正常型のMC4R遺伝子を含む対照魚類と比較して、成長が促進されている。
【0014】
本発明の魚類において、前記魚類は、例えば、前記魚類の可食部である。
【0015】
本発明の生産方法は、例えば、前記交配工程で得られた魚類を生育する生育工程を含む。
【0016】
本発明の生産方法は、例えば、前記交配工程に先立って、
被検魚類の生体試料における4型メラノコルチン受容体(MC4R)の発現量を測定する測定工程、および
前記被検魚類から、前記本発明の魚類を選抜する被検魚類選抜工程を含み、
前記被検魚類選抜工程において、前記被検魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、基準値とに基づき、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している被検魚類を選抜する。
【0017】
本発明の生産方法は、例えば、前記交配工程に先立って、被検魚類から、前記本発明の魚類を選抜する被検魚類選抜工程を含む。
【0018】
本発明の生産方法は、例えば、前記被検魚類の生体試料における4型メラノコルチン受容体(MC4R)の発現量を測定する測定工程を含み、
前記被検魚類選抜工程において、前記被検魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、基準値とに基づき、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している被検魚類を選抜する。
【0019】
本発明の生産方法は、例えば、前記交配工程に先立って、対象魚類から、前記本発明の魚類を作出する作出工程を含み、
前記作出工程は、前記対象魚類のMC4R遺伝子に、機能喪失変異を導入する変異工程を含む。
【0020】
本発明の生産方法において、前記機能喪失変異は、例えば、前記MC4R遺伝子の部分欠失変異または完全欠失変異である。
【0021】
本発明の生産方法において、前記変異工程は、例えば、
前記対象魚類のMC4R遺伝子に変異を導入する変異導入工程、および
前記変異導入工程で得られた対象魚類のMC4R遺伝子について、機能喪失変異を有している対象魚類を選抜する変異選抜工程を含む。
【0022】
本発明の生産方法は、例えば、前記変異導入工程後の対象魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量を測定する測定工程を含み、
前記変異選抜工程において、前記対象魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、基準値とに基づき、MC4R遺伝子について、機能喪失変異を有している対象魚類を選抜する。
【0023】
本発明の生産方法において、前記MC4Rの発現量は、例えば、前記MC4R遺伝子のタンパク質の発現量である。
【0024】
本発明の生産方法において、前記生体試料は、例えば、脳である。
【0025】
<魚類>
本発明の魚類は、前述のように、4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子について、機能喪失していることを特徴とする。本発明の魚類は、MC4R遺伝子について、機能喪失していることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の魚類は、例えば、後述の本発明の生産方法、スクリーニング方法、成長促進方法、および変異MC4R遺伝子の説明を援用できる。
【0026】
本発明者らは、鋭意研究の結果、MC4R遺伝子が魚類の成長と関連していること、具体的には、MC4R遺伝子の機能喪失により、魚類の成長が促進されることを見出し、本発明を確立するに至った。本発明の魚類は、MC4R遺伝子について、機能喪失しているため、例えば、正常型のMC4R遺伝子(以下、「正常MC4R遺伝子」ともいう)を有し、かつMC4R遺伝子以外が同一である魚類(以下、「野生型の魚類」または「対照魚類」ともいう)と比較して、成長が促進されている。前記成長は、例えば、前記魚類の体長の伸長、体重の増加、体積の増加、および摂餌量の増加のいずれでもよい。このため、本発明の魚類によれば、前記野生型の魚類と比較して、例えば、目的の成長段階に達するまでの飼育期間を短縮でき、特に、養殖用の魚類としての使用に適している。また、本発明の魚類は、メカニズムは不明であるが、例えば、前記野生型の魚類と比較して、性成熟するまでの期間が短い。このため、本発明の魚類によれば、例えば、前記野生型の魚類と比較して、より短い期間で交配(例えば、採卵、採精)可能となるため、特に、養殖用の魚類としての使用に適している。
【0027】
本発明において、「魚類」は、例えば、脊椎動物亜門から四肢動物を除外した動物群に分類される動物を意味する。具体例として、前記魚類は、例えば、フグ科(Tetraodontidae:puffers)、ハコフグ科(Ostraciidae:boxfishes)、タイ科(Sparidae:sea breams and porgies)、ハタ科(Serranidae:sea basses)、メダカ科(Oryziidae:medakas)、ヒラメ科Paralichthys)等の魚類があげられる。前記フグ科の魚類は、例えば、トラフグ(Takifugu rubripes)、マフグ(Takifugu porphyreus)、クサフグ(Takifugu niphobles)等のトラフグ属(Takifugu)、シロサバフグ(Lagocephalus wheeleri)等のサバフグ属(Lagocephalus)等の魚類があげられる。前記ハコフグ科の魚類は、例えば、ハコフグ(Ostracion immaculatus)等のハコフグ属の魚類があげられる。前記タイ科の魚類は、例えば、マダイ(Pagrus major)、ゴウシュウマダイ(Pagrus auratus)等のマダイ属(Pagrus);クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、キチヌ(Acanthopagrus latus)等のAcanthopagrus属;キダイ(連子鯛)(Dentex tumifrons)等のキダイ属(Dentex)等の魚類があげられる。前記ハタ科の魚類は、例えば、マハタ(Epinephelus septemfasciatus)、クエ(Epinephelus bruneus)、キジハタ(Epinephelus akaara)、ヤイトハタ(Epinephelus malabaricus)等のマハタ属(Epinephelus);スジアラ(Plectropomus leopardus)等のスジアラ属(Plectropomus)等の魚類があげられる。前記メダカ科の魚類は、例えば、メダカ(Oryzias latipesOryzias sakaizumii)、ジャワメダカ(Oryzias javanicus)等のメダカ属(Oryzias)等の魚類があげられる。前記ヒラメ科の魚類は、例えば、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)等があげられる。本発明において、前記魚類は、例えば、養殖用の魚類であることが好ましい。
【0028】
本発明において、前記魚類は、前記魚類の全体でもよいし、その一部(部分)でもよい。前記魚類の全体である場合、前記魚類の成長段階は、特に制限されず、例えば、仔魚(幼生)、稚魚、未成魚(幼魚、若魚)、および成魚のいずれでもよい。前記魚類の一部は、特に制限されず、例えば、前記魚類の可食部があげられる。前記可食部は、例えば、筋肉、食道、胃、幽門垂、腸管、精巣、卵巣、肝臓、脾臓、心臓、浮き袋、表皮等があげられる。
【0029】
本発明において、4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子は、魚類のMC4R遺伝子であればよい。具体例として、前記魚類のMC4R遺伝子は、例えば、下記表1のMC4R遺伝子(正常MC4R遺伝子)が例示できる。下記表1におけるアクセッション番号は、GenBankにおけるアクセッション番号である。
【0030】
【表1】
【0031】
トラフグ由来のMC4R遺伝子のmRNA(配列番号1)
5’-ATGAACGCCACCGATCCCCCTGGGAGGGTGCAGGACTTCAGCAACGGGAGCCAAACCCCGGAGACGGACTTTCCAAACGAGGAGAAGGAATCGTCTACGGGATGCTACGAGCAGATGCTGATCTCCACGGAGGTGTTCCTGACTCTGGGAATCATCAGCCTGCTGGAGAACATCCTGGTGGTCGCCGCTATAGTGAAGAACAAGAATCTCCACTCGCCCATGTACTTTTTCATCTGCAGCCTGGCCGTGGCCGACATGCTCGTGAGCGTCTCCAACGCCTCCGAGACGATCGTCATAGCGCTCATCAACAGCGGCACGCTGACCATCCCCGCCACGCTGATCAAGAGCATGGACAACGTGTTTGACTCCATGATCTGCAGCTCTTTGCTGGCGTCCATCTGCAGCCTGCTCGCCATCGCCGTCGACCGCTACATCACCATCTTCTACGCCCTGCGCTACCACAACATCGTCACCCTGCGGAGAGCCTCGCTGGTCATCAGCAGCATCTGGACGTGCTGCACCGTGTCCGGCGTGCTCTTCATCGTCTACTCGGAGAGCACCACCGTGCTCATCTGCCTCATCACCATGTTCTTCACCATGCTGGTGCTCATGGCCTCCCTCTACGTCCACATGTTCCTGCTGGCGCGCCTGCACATGAAGCGGATCGCGGCGATGCCGGGCAACGCGCCCATCCACCAGAGAGCCAACCTGAAGGGCGCCATCACCCTCACCATCCTCCTGGGAGTGTTTGTGGTCTGCTGGGCGCCTTTCTTCCTTCACCTCATCCTCATGATCACCTGCCCCAAGAACCCATACTGCACGTGCTTCATGTCCCACTTCAACATGTACCTCATCCTCATCATGTGCAACTCCGTCATCGACCCCATCATCTACGCCTTTCGCAGCCAGGAGATGAGAAAAACCTTCAAGGAGATCTTCTGCTGCTCCCAAATGCTGGTGTGCATGTGA-3’
【0032】
マダイ由来のMC4R遺伝子のmRNA(配列番号2)
5’-ATGAACAGCACAGATCTCCATGGATTGATCCAGGGCTACCACAACAGGAGCCAAACGTCAGTTTTGCCTCTGAACAAAGACTTACCAGCCGAGGAGAAGGACTCATCGGCAGGATGCTACGAACAGCTGCTGATTTCTACAGAGGTGTTCCTCACTCTGGGCATCATCAGCCTGCTGGAGAACATCCTGGTTGTTGCTGCAATCGTCAAGAACAAGAACCTTCACTCGCCCATGTACTTCTTCATCTGTAGCCTCGCTGTTGCTGACATGCTCGTGAGCGTCTCCAACGCCTCCGAGACCATCGTCATAGCGCTCATCGATGGAGGCAACCTGACCATCCCCGCCACGCTGATCAAGAACATGGACAATGTATTTGACTCTATGATCTGTAGCTCTCTGTTAGCGTCTATCTGCAGCTTGCTCGCCATCGCCATCGATCGCTACATCACCATCTTCTACGCGCTGCGGTACCACAACATTGTCACCCTGCGGAGAGCCATATTGGTCATCAGCAGCATCTGGACGTGCTGCACCGTCTCTGGCATCCTCTTCATCATCTACTCAGAGAGCACCACGGTGCTCATCTGCCTCATCACCATGTTCTTCACCATGCTCGTTCTCATGGCGTCGCTCTACGTGCACATGTTCCTTCTGGCGCGCTTGCACATGAAGCGGATCGCCGCTCTGCCGGGCAACGCGCCCATCCACCAGCGGGCCAACATGAAGGGCGCCATCACCCTCACCATCCTCCTCGGGGTGTTCGTGGTGTGCTGGGCGCCCTTCTTCCTCCACCTCATCCTCATGATCACCTGCCCCAGGAACCCCTACTGCACCTGCTTCATGTCCCACTTCAACATGTACCTCATCCTCATCATGTGCAACTCCGTCATCGACCCCATCATCTACGCTTTCCGCAGCCAGGAGATGAGGAAGACCTTCAAGGAGATTTTCTGCTGCTCTCACACTTTCCTGTGCGTGtga-3’
【0033】
クサフグ由来のMC4R遺伝子のmRNAの部分配列(配列番号3)
5’-GGAGGTGTTCCTGACTCTGGGAATCATCAGCCTGCTGGAGAACATCCTGGTGGTCGCCGCTATAGTGAAGAACAAGAATCTCCACTCGCCCATGTACTTTTTCATCTGCAGCCTGGCCGTGGCCGACATGCTCGTGAGCGTCTCCAACGCCTCCGAGACGATCGTCATAGCGCTCATCAACAGCGGCACGCTCACCATCCCCGCCACGCTGATCAAGAGCATGGACAACGTGTTTGACTCCATGATCTGCAGCTCCTTGCTGGCGTCCATCTGCAGCCTGCTCGCCATCGCCGTCGACCGCTACATCACCATCTTCTACGCCCTGCGCTACCACAACATCGTCACCCTGCGGAGAGCCTCGCTGGTCATCAGCAGCATCTGGACGTGCTGCACCGTGTCCGGCGTGCTCTTCATCGTCTACTCGGAGAGCACCACCGTGCTCATCTGCCTCATCACCATGTTCTTCACCATGCTGGTGCTCATGGCCTCCCTCTACGTCCACATGTTCCTGCTGGCGCGCCTGCACATGAAGCGGATCGCGGCGATGCCGGGCAACGCGCCCATCCACCAGAGAGCCAACCTGAAGGGCGCCATCACCCTCACCATCCTCCTGGGAGTGTTTGTGGTCTGCTGGGCGCCTTTCTTCCTTCACCTCATCCTCATGATCACCTGCCCCAAGAACCCATACTGCACGTGCTTCATGTCCCACTTCAACATGTACCTCATCCTCATCATGTGCAACTCCGTCATCGACCCCATCATCTACGCCTTTCGCAGCCAGGAGATGA-3’
【0034】
メダカ由来のMC4R遺伝子のmRNA(配列番号4)
5’-ATGAACTCCACTCTGCCTTATGGGTCGGTCCCCAACAGAAGCCTCTCCTCGGCCACTCTCCCTCCTGACCTGGGAGGACAGAAAGACTCGTCGGCGGGATGCTACGAGCAGCTTCTGATCTCCACTGAGGTCTTCCTCACTTTGGGCATCATCAGCCTGCTGGAGAACATCCTGGTTGTTGCTGCGATCGTTAAAAACAAGAACCTCCACTCCCCCATGTACTTTTTCATCTGCAGCCTCGCAGTAGCCGATATGTTGGTCAGCGTCTCCAACGCGTCTGAGACCATCGTCATAGCGCTCATTAACGGAGGCAACCTGAGCATTCCTGTCAGGCTCATCAAGAGCATGGACAATGTGTTTGACTCCATGATCTGCAGCTCTCTGCTGGCCTCCATCTGCAGCTTGCTGGCCATTGCCGTTGACCGCTACATCACCATCTTCTACGCTCTGCGATACCACAACATCGTGACGCTGCGGCGAGCAGCCGTGGTCATCAGCAGCATCTGGACGTGCTGCATTGTGTCGGGTATCCTCTTCATCATCTACTCGGAGAGTACCACGGTGCTCATCTGTCTCATCACCATGTTCTTCACCATGCTGGTGCTCATGGCCTCCCTCTATGTCCACATGTTCCTGCTGGCACGTCTGCACATGAAGCGGATCGCGGCGCTGCCGGGCAACGCGCCCATCCACCAGCGGGCGAACATGAAGGGCGCCATCACCCTCACCATCCTCCTCGGGGTGTTTGTGGTGTGCTGGGCGCCGTTCTTCCTCCACCTCATCCTCATGATCACCTGCCCCAGGAACCCTTACTGCACCTGCTTCATGTCGCACTTCAACATGTACCTCATTCTCATCATGTGCAACTCCGTCATCGACCCCATCATCTACGCTTTCCGGAGCCAGGAGATGAGGAAAACCTTCAAGGAGATCTTCTGCTGCTCCAACGCTCTCCTGTGTGTGTGA-3’
【0035】
本発明において、「機能喪失」は、例えば、当該遺伝子の本来有する機能が低下または失われた状態を意味する。前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記野生型の魚類と比較して、本発明の魚類の成長が促進される程度に、前記MC4R遺伝子の機能が低下または失われた状態を意味する。また、前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、MC4Rを介するシグナル伝達が低下する、または前記シグナル伝達に欠陥が生じることを意味する。前記MC4R遺伝子の機能喪失は、具体的には、例えば、前記MC4R遺伝子のmRNAもしくはMC4Rタンパク質の発現量が低下している状態、または前記MC4R遺伝子のmRNAもしくはMC4Rタンパク質が完全に発現していない状態を意味してもよいし、機能的なMC4R遺伝子のmRNAもしくはMC4Rタンパク質の発現量が低下している状態または機能的なMC4R遺伝子のmRNAもしくはMC4Rタンパク質が完全に発現していない状態を意味してもよい。
【0036】
前記魚類は、例えば、一対の常染色体のそれぞれに、前記MC4R遺伝子を有する。また、前記MC4R遺伝子の機能喪失により得られる、魚類の成長促進形質は、例えば、優性形質である。このため、本発明の魚類は、例えば、一対の常染色体のMC4R遺伝子のうち、いずれか一方の常染色体のMC4R遺伝子について、機能喪失してもよいし、両方の常染色体のMC4R遺伝子について、機能喪失してもよい。
【0037】
前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記正常MC4R遺伝子に対し、突然変異、より具体的には、機能喪失変異を導入することにより、引き起こすことができる。前記突然変異の種類は、特に制限されず、例えば、点突然変異、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、フレームシフト突然変異、広範囲における塩基の欠失(ラージデリーション)等があげられる。具体例として、前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記正常MC4R遺伝子の塩基配列に対し、1塩基以上の挿入、欠失、および/または置換等の変異を導入することにより引き起こすことができる。前記MC4R遺伝子における変異の位置は、特に制限されず、前記正常MC4R遺伝子に関連する任意の領域とすることができるが、例えば、前記正常MC4R遺伝子のプロモーター領域等の発現制御領域、前記MC4Rタンパク質の膜貫通領域、リガンド結合領域等のMC4Rタンパク質をコードするコーディング領域、前記MC4Rタンパク質をコードしない非コード領域(例えば、イントロン、エンハンサー領域等)等があげられる。前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記魚類の成長をより促進できることから、前記MC4R遺伝子の部分欠失または完全欠失により、引き起こされていることが好ましい。前記部分欠失は、例えば、前記MC4R遺伝子における一部の塩基配列が欠失していること意味する。前記MC4R遺伝子における部分欠失の位置は、特に制限されず、例えば、前記MC4R遺伝子における変異の位置の説明を援用できる。また、前記完全欠失は、例えば、前記MC4R遺伝子における全ての塩基配列が欠失していること、すなわち、MC4Rタンパク質をコードする遺伝子が存在しないことを意味する。この場合、本発明の魚類は、例えば、前記MC4R遺伝子を完全欠失している。
【0038】
前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、対象の魚類のゲノムにおけるMC4R遺伝子に対し、常法により、変異を導入することにより引き起こすことができる。前記変異の導入方法は、例えば、相同組換え、ZFN、TALEN、CRISPR-CAS9、CRISPR-CPF1等を用いたゲノム編集技術等により、実施できる。前記変異の導入方法は、例えば、部位特異的突然変異誘発法等の変異導入法により、実施してもよい。また、前記変異の導入方法は、例えば、ランダム突然変異誘発法により、実施してもよい。前記ランダム突然変異誘発法は、例えば、α線、β線、γ線、X線等の放射線照射、メタンスルホン酸エチル(EMS)、エチニルニトロソウレア(ENU)等の変異誘発剤による処理、重イオンビーム等があげられる。なお、上述の各変異の導入方法は、例えば、市販のキット等を用いて実施してもよい。
【0039】
本発明の魚類は、例えば、後述の本発明の生産方法、スクリーニング方法、および成長促進方法により生産することもできる。
【0040】
<魚類の生産方法>
本発明の魚類の生産方法は、前述のように、前記本発明の魚類と、他の魚類とを交配する交配工程を含むことを特徴とする。本発明の生産方法は、前記交配工程において、前記本発明の魚類を用いることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の生産方法によれば、例えば、前記野生型の魚類と比較して、成長が促進された魚類を生産することができる。前記機能喪失変異を有するMC4R遺伝子は、本発明の魚類の生殖細胞を介して、後代の魚類に受け継がせることが可能である。このため、本発明の生産方法によれば、例えば、本発明の魚類と、他の魚類とを交配することにより、前記機能喪失変異を有するMC4R遺伝子および前記機能喪失変異を有するMC4R遺伝子に起因する形質を受け継ぐ後代の魚類を簡易に生産できる。本発明の生産方法は、例えば、前記本発明の魚類、後述のスクリーニング方法、成長促進方法、および変異MC4R遺伝子の説明を援用できる。
【0041】
前記交配工程において、第一の親として使用する魚類は、前記本発明の魚類であればよい。前述のように、前記本発明の魚類は、例えば、後述の前記本発明のスクリーニング方法および成長促進方法により得ることもできる。このため、前記本発明の魚類は、例えば、前記交配工程に先立って、被検魚類から、選抜することで準備してもよい。また、前記本発明の魚類は、例えば、対象魚類のMC4R遺伝子に、機能喪失変異を導入することで準備してもよい。
【0042】
前記被検魚類から選抜する場合、本発明の生産方法は、例えば、前記被検魚類から、前記本発明の魚類を選抜する被検魚類選抜工程を含む。前記被検魚類選抜工程において、前記本発明の魚類の選抜は、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している被検魚類の選抜ということができる。前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記被検魚類のMC4R遺伝子の塩基配列を解読し、前記正常MC4R遺伝子の塩基配列と比較することにより、実施してもよい。そして、例えば、前記被検魚類のMC4R遺伝子の塩基配列が、前記正常MC4R遺伝子の塩基配列に対して、機能喪失変異が導入されている場合、前記被検魚類を本発明の魚類として選抜する。前記塩基配列の比較は、例えば、公知の塩基配列の解析ソフトにより実施できる。また、前記MC4R遺伝子の機能喪失が、前記正常MC4R遺伝子の塩基配列に対し、1塩基以上の挿入、欠失、および/または置換等の変異を導入することにより引き起こされる場合、例えば、少なくとも1つの変異を検出可能なプライマーセット、プローブ、またはこれらの組合せを用いて、実施してもよい。前記プライマーセットおよびプローブは、例えば、前記変異の種類に基づき、公知の設計方法を用いて設計できる。また、前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記被検魚類のMC4R遺伝子のmRNAまたはMC4Rタンパク質の機能に基づき、判断することで、実施してもよい。さらに、前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記被検魚類におけるMC4Rの発現の有無またはMC4Rの発現量に基づき、判断することで、実施してもよい。
【0043】
前記MC4Rの発現量に基づき、判断する場合、本発明の生産方法は、例えば、前記被検魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量を測定する測定工程を含み、前記被検魚類選抜工程において、前記被検魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、基準値とに基づき、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している被検魚類を選抜することにより実施できる。具体的に、前記機能喪失している被検魚類の選抜は、例えば、前記被検魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、前記基準値とを比較することにより実施できる。
【0044】
前記被検魚類の生体試料は、特に制限されず、例えば、前記被検魚類の全身のいずれの臓器でもよいし、前記臓器由来の細胞でもよい。前記被検魚類の生体試料は、例えば、鰭、脳等があげられる。前記測定工程で使用する生体試料の種類は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0045】
前記測定工程において測定するMC4Rの発現量は、例えば、前記MC4Rタンパク質の発現量があげられる。前記MC4Rタンパク質の発現量は、例えば、紫外吸収法、ビシンコニン酸法等の分光光度計を用いた方法、ELISA、ウエスタンブロッティング等の公知のタンパク質の定量方法により、実施できる。
【0046】
前記基準値は、例えば、前記野生型の魚類におけるMC4Rの発現量、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している魚類(例えば、MC4R遺伝子の完全欠失魚類)におけるMC4Rの発現量等があげられる。前記基準値として前記機能喪失している魚類におけるMC4R遺伝子の発現量を用いる場合、前記機能喪失している魚類は、例えば、一対の染色体上のそれぞれに座乗する2つのMC4R遺伝子のうち、いずれか一方のMC4R遺伝子について、機能喪失している魚類でもよいし、両方のMC4R遺伝子について、機能喪失している魚類でもよい。前記基準値とするMC4Rの発現量は、例えば、前記被検魚類の生体試料と同じ条件で採取した生体試料におけるMC4Rの発現量を、前記被検魚類の生体試料と同様の方法で測定することにより、得ることができる。前記基準値は、例えば、予め測定してもよいし、前記被検魚類の生体試料と同時に測定してもよい。
【0047】
この場合、前記被検魚類選抜工程において、前記被検魚類におけるMC4R遺伝子について、機能喪失しているかの評価方法は、特に制限されず、前記基準値の種類によって、適宜決定できる。具体例として、前記被検魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量が、前記野生型の魚類におけるMC4Rの発現量より低い場合、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している魚類におけるMC4Rの発現量と同じ場合(有意差がない場合)、および/または機能喪失している魚類におけるMC4Rの発現量より低い場合、前記被検魚類は、前記MC4R遺伝子について、機能喪失していると評価できる。そして、前記MC4R遺伝子について、機能喪失していると評価された被検魚類を、例えば、前記本発明の魚類として選抜する。
【0048】
前記対象魚類のMC4R遺伝子に、機能喪失変異を導入する場合、本発明の生産方法は、例えば、前記交配工程に先立って、前記対象魚類から、前記本発明の魚類を作出する作出工程を含む。前記作出工程は、例えば、前記対象魚類のMC4R遺伝子に、機能喪失変異を導入する変異工程を含む。前記MC4R遺伝子に対する機能喪失変異の導入は、例えば、前記正常MC4R遺伝子に対し、突然変異を導入することにより、実施できる。具体例として、前記MC4R遺伝子に対する機能喪失変異の導入は、例えば、前記正常MC4R遺伝子の塩基配列に対し、1塩基以上の挿入、欠失、および/または置換等の変異を導入することにより、実施できる。前記変異工程において、前記機能喪失変異は、例えば、前記MC4R遺伝子の部分欠失変異または完全欠失変異である。前記対象魚類は、例えば、前記野生型の魚類があげられる。前記突然変異の種類、変異の位置等は、前述の本発明の魚類における前記突然変異の種類、変異の位置等の説明を援用できる。
【0049】
前記変異工程は、前記対象魚類のMC4R遺伝子に変異を導入する変異導入工程、および前記変異導入工程で得られた対象魚類のMC4R遺伝子について、機能喪失変異を有している対象魚類を選抜する変異選抜工程を含むことが好ましい。前記変異工程における機能喪失変異の導入方法および前記変異導入工程における変異の導入方法は、例えば、前述の変異の導入方法の説明を援用できる。
【0050】
前記変異選抜工程において、前記MC4R遺伝子における機能喪失変異の有無は、例えば、前記MC4R遺伝子の機能が喪失しているかを評価することにより実施できる。前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記対象魚類のMC4R遺伝子の塩基配列を解読し、前記正常MC4R遺伝子の塩基配列と比較することにより、実施してもよい。また、前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記対象魚類のMC4R遺伝子のmRNAまたはMC4Rタンパク質の機能に基づき、判断することで、実施してもよい。さらに、前記MC4R遺伝子の機能喪失は、例えば、前記対象魚類におけるMC4Rの発現の有無またはMC4Rの発現量に基づき、判断することで、実施してもよい。
【0051】
前記MC4Rの発現量に基づき、判断する場合、本発明の生産方法は、例えば、前記変異導入後の対象魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量を測定する測定工程を含み、前記変異選抜工程において、前記対象魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、基準値とに基づき、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している対象魚類を選抜することにより実施できる。前記測定工程および前記変異選抜工程は、例えば、前記被検魚類から選抜する場合における前記測定工程および前記被検魚類選抜工程と同様に実施でき、「被検魚類」を「対象魚類」に、「被検魚類選抜工程」を「変異選抜工程」と読み替えて、その説明を援用できる。そして、前記機能喪失しているかの評価後において、例えば、前記MC4R遺伝子について、機能喪失していると評価された対象魚類を、前記対象魚類のMC4R遺伝子について、機能喪失変異を有している対象魚類、すなわち、前記本発明の魚類として選抜する。
【0052】
前記交配工程は、前述のように、前記本発明の魚類と、他の魚類とを交配する工程である。交配に使用する前記本発明の魚類は、例えば、他の魚類と同種の魚類である。前記他の魚類は、本発明の魚類と交配可能な魚類であればよく、例えば、前記正常MC4R遺伝子を有する魚類でもよいし、機能喪失しているMC4R遺伝子を有する魚類でもよい。前記「交配可能」は、例えば、自然または人工的に交配可能なことを意味する。前記交配工程において、前記本発明の魚類と、他の魚類との交配方法は、特に制限されず、雄の魚類と雌の魚類とによる自然繁殖でもよいし、雄の魚類の配偶子(精子)および雌の魚類の配偶子(卵)を用いた人工繁殖でもよい。前記人工繁殖により交配を実施する場合、例えば、性成熟した本発明の魚類および他の魚類から配偶子を採取する。そして、例えば、一方の魚類に由来する卵と、他方の魚類に由来する精子とを受精させることにより、交配させる、すなわち、受精卵を作製する。また、前記交配工程では、例えば、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している魚類から採取した生殖細胞等を別の魚類に移植し、移植された魚類と、他の魚類とを交配することにより、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している魚類等を取得してもよい。
【0053】
本発明の生産方法は、例えば、前記交配工程で得られた魚類を生育する生育工程を含んでもよい。前記魚類の生育条件および生育方法は、例えば、前記魚類の成長段階および前記魚類の種類に応じて適宜決定できる。前記生育工程では、例えば、前記魚類の任意の成長段階まで生育してよい。
【0054】
<成長が促進された魚類のスクリーニング方法>
本発明の成長が促進された魚類のスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法」ともいう)は、被検魚類から、4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子について、機能喪失している被検魚類を選抜する被検魚類選抜工程を含むことを特徴とする。本発明のスクリーニング方法は、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している被検魚類を選抜することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明のスクリーニング方法によれば、例えば、特に養殖に適した成長が促進された魚類を簡便にスクリーニングできる。このため、本発明のスクリーニング方法は、例えば、成長が促進された魚類の生産方法ということもできる。本発明のスクリーニング方法は、例えば、前記本発明の魚類、生産方法、後述の成長促進方法、および変異MC4R遺伝子の説明を援用できる。
【0055】
本発明のスクリーニング方法における被検魚類選抜工程は、例えば、前記本発明の生産方法における被検魚類選抜工程と同様に実施でき、その説明を援用できる。
【0056】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、前記被検魚類の生体試料における4型メラノコルチン受容体(MC4R)の発現量を測定する測定工程を含み、前記被検魚類選抜工程において、前記被検魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、基準値とに基づき、前記MC4R遺伝子について、機能喪失している被検魚類を選抜する。
【0057】
本発明のスクリーニング方法において、前記MC4Rの発現量は、例えば、前記MC4R遺伝子のタンパク質の発現量である。
【0058】
本発明のスクリーニング方法において、前記生体試料は、例えば、鰭、脳等があげられる。
【0059】
<魚類の成長促進方法>
本発明の魚類の成長促進方法(以下、「成長促進方法」ともいう)は、前述のように、対象魚類の4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子に、機能喪失変異を導入する変異工程を含むことを特徴とする。本発明の成長促進方法は、MC4R遺伝子に、機能喪失変異を導入することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の成長促進方法によれば、例えば、前記対象魚類の成長を促進できる。このため、本発明のスクリーニング方法は、例えば、成長が促進された魚類の生産方法ということもできる。本発明の成長促進方法は、例えば、前記本発明の魚類、生産方法、スクリーニング方法、および後述の変異MC4R遺伝子の説明を援用できる。
【0060】
本発明の成長促進方法における変異工程は、例えば、前記本発明の生産方法における変異工程と同様に実施でき、その説明を援用できる。
【0061】
本発明の成長促進方法において、前記機能喪失変異は、例えば、前記MC4R遺伝子の部分欠失変異または完全欠失変異である。
【0062】
本発明の成長促進方法において、前記変異工程は、例えば、前記対象魚類のMC4R遺伝子に変異を導入する変異導入工程、および前記変異導入工程で得られた対象魚類のMC4R遺伝子について、機能喪失変異を有している対象魚類を選抜する変異選抜工程を含む。
【0063】
本発明の成長促進方法は、例えば、前記変異導入工程後の対象魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量を測定する測定工程を含み、前記変異選抜工程において、前記対象魚類の生体試料におけるMC4Rの発現量と、基準値とに基づき、MC4R遺伝子について、機能喪失変異を有している対象魚類を選抜する。
【0064】
本発明の成長促進方法において、前記MC4Rの発現量は、例えば、前記MC4R遺伝子のタンパク質の発現量である。
【0065】
本発明の成長促進方法において、前記生体試料は、例えば、鰭、脳等があげられる。
【0066】
<魚類の変異型の4型メラノコルチン受容体遺伝子>
本発明の魚類の変異型の4型メラノコルチン受容体(MC4R)遺伝子(以下、「変異MC4R遺伝子」ともいう)は、前述のように、魚類のMC4R遺伝子において、機能喪失変異を有していることを特徴とする。本発明の変異MC4R遺伝子は、魚類のMC4R遺伝子において、機能喪失変異を有していることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の変異MC4R遺伝子によれば、例えば、魚類の成長を促進することができる。本発明の変異MC4R遺伝子は、例えば、前記本発明の魚類、生産方法、スクリーニング方法、および成長促進方法の説明を援用できる。
【0067】
前記魚類のMC4R遺伝子は、前記魚類の正常MC4R遺伝子である。前記機能喪失変異の種類は、特に制限されず、例えば、前述の突然変異の説明を援用できる。本発明の変異MC4R遺伝子において、前記機能喪失変異は、例えば、前記MC4R遺伝子の部分欠失変異である。
【0068】
本発明の変異MC4R遺伝子は、例えば、前記正常MC4R遺伝子に対して、機能喪失変異を導入することにより製造できる。前記機能喪失変異の導入は、例えば、前述の変異の導入方法があげられる。
【実施例
【0069】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
MC4R遺伝子について機能喪失しているトラフグを作出し、それぞれ、野生型のトラフグと比較して、成長が促進されていることを確認した。
【0071】
(1)受精卵の作製
性成熟した雌雄のトラフグに対して、性ホルモン(雌:des Gly10 [D-Ala6]-LHRH, 400 μg/kg 体重、雄:des Gly10 [D-Ala6]-LHRH, 200 μg/kg 体重または、Human chorionic gonadotropin, 500IU/kg 体重)を筋肉内投与することにより、性ホルモン処理を実施した。性ホルモン処理後、3-6日において、腹部を圧迫することにより、雌雄のトラフグから、それぞれ、卵(未受精卵)および精子を採取した。得られた卵および精子について、人工授精させ、受精卵を取得した。
【0072】
(2)機能喪失トラフグの作出
変異の導入は、下記参考文献1を参照し、CRISPR-Cas9を用いて実施した。まず、SP6 in vitro転写用のCas9発現ベクター(pCS2+hSpCas9)を以下の手順で作製した。ヒト用にコドン最適化したS. pyogenesのCas9ヌクレアーゼをコードするDNA配列は、下記Cas9用プライマーセットとpX330(Addgene Plasmid 42230)とを用いて、PCRにより増幅した。得られたPCR産物を、pCS2+MTベクターの制限酵素サイト(BamHI/XbaI)にクローニングすることで、Cas9発現ベクターを取得した。なお、前記Cas9発現ベクターは、Addgene(http://www.addgene.org)から入手可能である。
参考文献1:Satoshi Ansai et.al, “Targeted mutagenesis using CRISPR/Cas system in medaka”, Biology Open, 2014, vol.3, pages 362-371
参考文献2:Turner, D. L. and Weintraub, H. “Expression of achaete-scute homolog 3 in Xenopus embryos converts ectodermal cells to a neural fate.”, 1994, Genes Dev, vol. 8, pages 1434-1447.
【0073】
CAS9用プライマーセット
フォワードプライマー(hSpCas9FW、配列番号5)
5’-GCAGGATCCGCCACCATGGACTATAAGGAC-3’
リバースプライマー(hSpCas9RV、配列番号6)
5’-AGTTCTAGATTACTTTTTCTTTTTTGCCTGGC-3’
【0074】
シングルガイドRNA(sgRNA)の発現ベクターを以下の手順で作製した。sgRNA発現ベクターの作製には、部分ガイドRNA配列の上流に、T7プロモーターが配置されているpDR274ベクター(Addgene Plasmid 42250)を用いた。各sgRNA作製用オリゴDNAの1ペアーを合成し、アニーリングした後に、それらをpDR274ベクターに挿入した。T7 RNAポリメラーゼを用いてsgRNA1およびsgRNA2を合成後、RNA精製カートリッジを用いて、前記sgRNA1およびsgRNA2を精製した。前記sgRNA作製用オリゴDNAの1ペアーの合成は、Operon Biotechnologies社が実施した。前記sgRNA1およびsgRNA2のゲノム上のターゲットサイトは、下記表2の通りである。なお、前記配列番号1の塩基配列において、1つ目の下線で示す塩基配列が、sgRNA1のターゲット配列であり、2つ目の下線で示す塩基配列が、sgRNA2のターゲット配列に相補的な塩基配列である。
【0075】
【表2】
【0076】
前記sgRNA1作製用オリゴDNAの1ペアー(1Sおよび1AS)を、それぞれの終濃度が、10mmol/Lとなるように、アニーリングバッファーに添加し、前記sgRNA1と相補鎖とをアニーリングした。前記アニーリングバッファーの組成は、40mmol/L Tris-HCl(pH8.0)、20mmol/L MgClおよび50mmol/L NaClとした。前記アニーリングは、95℃で2分間加熱処理後、1時間かけて25℃までゆっくり冷却することにより、実施した。また、前記sgRNA2についても、同様にしてアニーリングした。pDR274ベクターを、制限酵素(BsaI-HF、New England Biolabs)で処理し、アニーリング後のsgRNA1およびsgRNA2のそれぞれとライゲーションすることで、sgRNA発現ベクターを取得した。
【0077】
つぎに、前記Cas9発現ベクターを制限酵素(NotI)処理することにより、直線化した。そして、直線化されたCas9発現ベクターおよびRNA合成キット(mMessage mMachine SP6 Kit、Life Technologies)を用いて、Cas9をコードするキャップRNA(Cas9RNA)を合成した。得られたキャップRNAは、RNA精製キット(RNeasy Mini Kit 、Qiagen)を用いて、精製した。
【0078】
前記sgRNA発現ベクターを、制限酵素(DraI)処理することにより、直線化した。そして、直線化されたsgRNA発現ベクターおよびRNA合成キット(AmpliScribe(商標)T7-Flash(商標)Transcription Kit、Epicentre)を用いて、sgRNA1およびsgRNA2を合成した。得られたsgRNA1およびsgRNA2を、それぞれ、RNA精製キット(RNeasy Mini Kit 、Qiagen)を用いて、精製した。
【0079】
前記(1)で得られた1細胞期の受精卵の細胞質に、2~10pg Cas9RNA、および1~5pg sgRNA1またはsgRNA2を、顕微注入法より導入することにより、MC4R遺伝子に変異を導入した。この結果、下記配列番号13~15の塩基配列(sgRNA1のターゲット配列)において、下線で示す5、7、または13塩基が欠失した個体(トラフグ系統1~3)、および下記配列番号16~17の塩基配列(sgRNA2のターゲット配列)において、下線で示す4または5塩基が欠失した個体(トラフグ系統4~5)、すなわち、機能喪失変異(機能欠失変異)が導入された個体が得られた。
トラフグ系統1
5’-CAGCAACGGGAGCCAAACCCCGG-3’(配列番号13)
トラフグ系統2
5’-CAGCAACGGGAGCCAAACCCCGG-3’(配列番号14)
トラフグ系統3
5’-CAGCAACGGGAGCCAAACCCCGG-3’(配列番号15)
トラフグ系統4
5’-CATGCTCTTGATCAGCGTGGCGG-3’(配列番号16)
トラフグ系統5
5’-CATGCTCTTGATCAGCGTGGCGG-3’(配列番号17)
【0080】
前記導入後の受精卵を培養し、孵化させた後、通常の養殖方法により飼育した。また、飼育開始後7、8、12、15、20、および24ヶ月における各個体(n=49、49、48、48、45、17)の体重を測定した。コントロールは、無処理とした以外は同様にして、各個体(各月:n=30)の体重を測定した。なお、コントロールは、株式会社ヒガシマルで飼育されたものである。この結果を、下記表3および図1に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
図1は、MC4R遺伝子について機能喪失しているトラフグの体重を示すグラフである。図1において、横軸は、飼育期間を示し、縦軸は、体重を示す。図1および前記表3に示すように、いずれの飼育期間においても、実施例1のトラフグは、コントロールのトラフグ(野生型のトラフグ)と比較して、体重が有意に増加していた。また、食用として出荷される野生型のトラフグの体重は1kgであることが知られている。前記表3および図1から明らかなように、コントロールのトラフグは、体重1kgに達するためには、20ヶ月以上の飼育期間が必要であった。これに対し、実施例1のトラフグは、12ヶ月で体重1kgに達した。すなわち、実施例1のトラフグは、コントロールのトラフグと比較して、約2倍の成長速度で成長した。
【0083】
以上のことから、本発明の魚類は、野生型の魚類と比較して、成長が促進されているため、例えば、飼育期間を短縮できることが分かった。
【0084】
[実施例2]
MC4R遺伝子について機能喪失しているクサフグを作出し、それぞれ、野生型のクサフグと比較して、成長が促進されていることを確認した。
【0085】
雌雄のトラフグに代えて、雌雄のクサフグを用い、前記sgRNA2のみを用いた以外は、同様にして、MC4R遺伝子に変異を導入した。この結果、下記塩基配列(sgRNA1のターゲット配列)において、下線で示す5または7塩基が欠失した個体(クサフグ系統1~2)すなわち、機能欠失変異が導入された個体が得られた。なお、前記配列番号3の塩基配列における下線で示す塩基配列が、sgRNA2のターゲット配列に相補的な塩基配列である。
クサフグ系統1
5’-CATGCTCTTGATCAGCGTGGCGG-3’(配列番号16)
クサフグ系統2
5’-CATGCTCTTGATCAGCGTGGCGG-3’(配列番号17)
【0086】
つぎに、前記導入後のクサフグの受精卵を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、飼育開始後1、2、3、4、5、6、7、および8ヶ月における各個体(n=17)の体重を測定した。また、コントロールは、無処理とした以外は同様にして、各個体(n=7)の体重を測定した。この結果を下記表4および図2に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
図2は、MC4R遺伝子について機能喪失しているクサフグの体重を示すグラフである。図2において、横軸は、飼育期間を示し、縦軸は、体重を示す。図2および前記表4に示すように、いずれの飼育期間においても、実施例2のクサフグは、コントロールのクサフグ(野生型のクサフグ)と比較して、体重が有意に増加していた。また、飼育期間8ヶ月において、実施例2のクサフグは、野生型のクサフグと比較して、体重が1.23倍であり、1.23倍の成長速度を示した。
【0089】
以上のことから、本発明の魚類は、野生型の魚類と比較して、成長が促進されているため、例えば、飼育期間を短縮できることが分かった。
【0090】
[実施例3]
MC4R遺伝子について機能喪失しているトラフグおよびクサフグについて、性成熟が促進されていることを確認した。
【0091】
前記実施例1で得られたMC4R遺伝子について機能喪失している雌のトラフグ(n=3)について、飼育期間24ヶ月において、前述の性ホルモン処理を実施した。そして、性処理ホルモン後、3~6日において、腹部を圧迫し、排卵を確認したところ、全ての雌のトラフグで排卵が確認された。一般的に、雌の野生型のトラフグの性成熟は、最低3年必要であることが知られている。これに対し、雌のMC4R遺伝子について機能喪失しているトラフグは、2年で性成熟しており、性成熟が促進されていることが分かった。
【0092】
つぎに、実施例2で得られた雄のクサフグについて、排精を確認した。この結果、飼育期間6ヶ月で排精する雄のクサフグが現れ、7ヶ月では、4個体、8ヶ月では5個体の雄で排精が確認された(全19個体、雌雄混合)。一般的に、雄の野生型のクサフグの性成熟は、それぞれ、1年必要であることが知られている。これに対し、雄のMC4R遺伝子について機能喪失しているクサフグは、最も早い個体において6ヶ月で性成熟しており、性成熟が促進されていることが分かった。
【0093】
以上のことから、本発明の魚類は、野生型の魚類と比較して、性成熟が促進されていることが分かった。
【0094】
[実施例4]
MC4R遺伝子について機能喪失しているメダカを作出し、それぞれ、野生型のメダカと比較して、成長が促進されていることを確認した。
【0095】
TALENは、下記参考文献3に記載された方法で作製した。すなわち、各標的配列に対して、特異的に結合する2種のTALEN(Left armおよびRight arm)RNAを合成するためのプラスミドを、ゴールデンゲイト法により作製した。このプラスミドは、SP6プライマーを有する。TALEN-RNAは、前記RNA合成キット(mMessage mMachine SP6 kit、Ambion/Life Technologies)を用いて合成し、RNA精製カラム(Qiagen RNeasy mini(Qiagen社製)のスピンカラム)により精製した。
参考文献3:Satoshi Ansai et.al., “Efficient Targeted Mutagenesis in Medaka Using Custom-Designed Transcription Activator-Like Effector Nucleases”, 2013, vol. 193, No. 3, pages 739-749
【0096】
【表5】
【0097】
得られたTALEN-RNAについて、171個のメダカ受精卵にマイクロインジェクション法により導入した。導入したRNA量は、5~15pgとした。得られた受精卵について、成魚まで飼育した。前記成魚から得られた第2世代(F2世代)のうち、144個体におけるMC4R遺伝子の塩基配列を解読した結果、前記TALEN1のターゲット配列において、下線で示す7塩基が欠失した個体、および前記TALEN2のターゲット配列において、下線で示す11塩基が欠失した個体、すなわち、機能欠失変異が導入された個体が得られた。これらの個体から得られる子孫を継代し、MC4R遺伝子について、機能喪失しているメダカ系統を確立した。以下、7塩基が欠失した個体の子孫をメダカ系統1、11塩基が欠失した個体の子孫をメダカ系統2ともいう。
【0098】
つぎに、10個体のメダカ系統1および2由来のメダカについて、孵化後2週齢での体重を測定した。また、コントロールは、無処理とした以外は同様にして、体重を測定した。この結果を下記表6および図3に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
図3は、MC4R遺伝子について機能喪失しているメダカの体重を示すグラフである。図3において、横軸は、メダカの種類を示し、縦軸は、体重を示す。図3および前記表6に示すように、実施例4のメダカは、コントロールのメダカ(野生型のメダカ)と比較して、体重が有意に増加していた。
【0101】
以上のことから、本発明の魚類は、野生型の魚類と比較して、成長が促進されているため、例えば、飼育期間を短縮できることが分かった。
【0102】
[実施例5]
MC4R遺伝子について機能喪失しているメダカが、野生型のメダカと比較して、接餌量が増加していることを確認した。
【0103】
前記メダカ系統1および2、ならびにコントロールのメダカ(野生型のメダカ)を、それぞれ、6尾ずつ水槽に入れ、個体数を計測したアルテミアを、餌として与えた。前記投餌後4時間目に残存するアルテミア数を計測し、投与時との差分により、メダカの摂餌数を計測した。接餌量は、メダカの体重100mgあたりの摂餌されたアルテミア数として算出した。同様の試験を、さらに2回実施し、3回の試験の平均値を算出した。この結果を、下記表7および図4に示す。
【0104】
【表7】
【0105】
図4は、MC4R遺伝子について機能喪失しているメダカの接餌量を示すグラフである。図4において、横軸は、メダカの種類を示し、縦軸は、接餌量を示す。図4および前記表7に示すように、実施例4のメダカは、コントロールのメダカ(野生型のメダカ)と比較して、接餌量が有意に増加していた。
【0106】
以上のことから、本発明の魚類は、野生型の魚類と比較して、接餌量が増加しているため、成長が促進されていると推定された。ただし、この推定は、本発明を何ら制限しない。
【0107】
[実施例6]
MC4R遺伝子の機能喪失が、生殖細胞を介して、次世代の個体に受け継がれること、および次世代個体において成長が促進されていることを確認した。
【0108】
前記実施例1のトラフグ系統3のトラフグ(雄:3尾、雌:3尾)を性成熟するまで飼育した。性成熟後の各個体から精子または未受精卵を採取し、野生型のトラフグから採取した未受精卵または精子と人工授精を行った。得られた受精卵を5日間、20℃で培養した。得られた胚からゲノムDNAを抽出し、前記ゲノムDNAにおけるMC4R遺伝子の塩基配列を解析することで、各トラフグの生殖細胞のゲノムDNAにMC4R遺伝子の機能欠失変異が受け継がれているかを検討した。この結果、雄3尾中、1個体の生殖細胞の20%で、配列番号15において下線で示す13塩基が欠失された変異を有していることが分かった。また、雌3尾中、1個体の生殖細胞の18%に、配列番号15において下線で示す13塩基が欠失された変異を有していることが分かった。
【0109】
つぎに、生殖細胞にMC4R遺伝子の機能欠失変異が受け継がれている雄個体および雌個体を交配し、第2世代(F2世代)を得た。得られたF2世代の50個体を14ヶ月飼育した。前記飼育後の各個体から、ゲノムDNAを抽出し、前記ゲノムDNAにおけるMC4R遺伝子の塩基配列を解析した。この結果、F2世代の個体のうち、10%の個体(5個体)が、配列番号15において下線で示す13塩基が欠失された変異をホモで有していた、すなわち、変異MC4R遺伝子をホモで有していた。そして、前記変異をホモで有する各個体(n=5)について、飼育14ヶ月目における体重を測定した。なお、コントロールは、実施例1と同様の無処理のトラフグを用いた以外は、同様にして各個体(n=5)の体重を測定した。この結果、変異MC4R遺伝子をホモで有する第2世代のトラフグは、コントロールのトラフグ(野生型のトラフグ)と比較して、体重が有意に増加していた。
【0110】
以上のことから、MC4R遺伝子の機能喪失が、生殖細胞を介して、次世代の個体に受け継がれること、および次世代個体において成長が促進されていることが分かった。
【0111】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0112】
この出願は、2017年9月28日に出願された日本出願特願2017―187374を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上のように、本発明の魚類は、MC4R遺伝子について、機能喪失しているため、例えば、前記野生型の魚類と比較して、成長が促進されている。このため、本発明の魚類によれば、前記野生型の魚類と比較して、例えば、目的の成長段階に達するまでの飼育期間を短縮でき、特に、養殖用の魚類としての使用に適している。また、本発明の魚類は、メカニズムは不明であるが、例えば、前記野生型の魚類と比較して、性成熟するまでの期間が短い。このため、本発明の魚類によれば、例えば、前記野生型の魚類と比較して、より短い期間で交配(例えば、採卵、採精)可能となるため、特に、養殖用の魚類としての使用に適している。したがって、本発明は、例えば、養殖等の水産分野において極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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