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特許7297335布地、衣服、布地の製造方法および衣服の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】布地、衣服、布地の製造方法および衣服の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 31/00 20190101AFI20230619BHJP
   A41H 42/00 20060101ALI20230619BHJP
   A41H 43/00 20060101ALI20230619BHJP
   A41B 1/00 20060101ALI20230619BHJP
   A41D 31/06 20190101ALN20230619BHJP
【FI】
A41D31/00 502K
A41D31/00 503C
A41D31/00 503G
A41H42/00
A41H43/00 C
A41B1/00 D
A41D31/06 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022013774
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2022-02-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年7月31日に株式会社しまむらに納品
(73)【特許権者】
【識別番号】522043703
【氏名又は名称】老三ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128886
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】姚 鋒
(72)【発明者】
【氏名】清水 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高田 邦茂
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-046660(JP,A)
【文献】特開平10-131000(JP,A)
【文献】特開2015-061958(JP,A)
【文献】特開2001-336014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 31/00
A41H 42/00
A41H 43/00
A41B 1/00
A41D 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の糸と第2の糸とを用いたポンチローマ編みによって形成される布地であって、
前記第1の糸は、綿であり、前記布地が使用される際に外側となる当該布地の第1面を形成し、
前記第2の糸は、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステルであり、前記布地が使用される際に肌に対向する側となる当該布地の第2面を形成し、
前記第2面において、ポンチローマ編みにより前記第2の糸が形成するループに起毛加工が施されている、ことを特徴とする布地。
【請求項2】
前記第1の糸と前記第2の糸とを繋ぐ第3の糸を備え、
前記第3の糸は、前記第2の糸よりもデニールが小さい、ことを特徴とする請求項に記載の布地。
【請求項3】
起毛加工による起毛は、前記第2の糸を構成する複数の繊維の40%以上かつ60%以下が部分的に切断されることで形成されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の布地。
【請求項4】
前記第1面には、起毛加工が施されていない、ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の布地。
【請求項5】
第1の糸と第2の糸とを用いたポンチローマ編みによって形成される衣服であって、
前記第1の糸は、綿であり、前記衣服において外側となる外面を形成し、
前記第2の糸は、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステルであり、前記衣服において肌に対向する内面を形成し、
前記内面において、ポンチローマ編みにより前記第2の糸が形成するループに起毛加工が施されている、ことを特徴とする衣服。
【請求項6】
第1の糸、第2の糸および第3の糸を用いたポンチローマ編みによって形成される衣服であって、
前記第1の糸は、綿であり、前記衣服において外側となる外面を形成し、
前記第2の糸は、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステルであり、前記衣服において肌に対向する内面を形成し、
前記第3の糸は、前記第2の糸よりもデニールが小さいポリエステルであり、前記第1の糸と前記第2の糸とを繋ぎ、
前記外面には、起毛加工が施されず、前記内面には、ポンチローマ編みにおけるループを形成する前記第2の糸を構成する複数の繊維の40%以上かつ60%以下の繊維が部分的に切断される起毛加工が施されている、ことを特徴とする衣服。
【請求項7】
ポンチローマ編みによる布地の製造方法であって、
綿糸を用いて前記布地が使用される際に外側となる当該布地の第1面を形成する工程と、
デニールが75であってフィラメントが144のポリエステル糸を用いて、前記布地が使用される際に肌に対向する側となる当該布地の第2面を形成する工程と、
前記布地の前記第2面にてポンチローマ編みにより前記ポリエステル糸が形成するループに対して起毛加工を施す工程と、
を備えることを特徴とする布地の製造方法。
【請求項8】
ポンチローマ編みによる布地を用いた衣服の製造方法であって、
綿糸を用いて前記布地が衣服として使用される際に外側となる当該布地の第1面を形成する工程と、
デニールが75であってフィラメントが144のポリエステル糸を用いて、前記布地が衣服として使用される際に肌に対向する側となる当該布地の第2面を形成する工程と、
前記布地の前記第2面にてポンチローマ編みにより前記ポリエステル糸が形成するループに対して起毛加工を施す工程と、
前記起毛加工が施された前記布地を裁断する工程と、
裁断された前記布地を用いて衣服を縫製する工程と、
を備えることを特徴とする衣服の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布地、衣服、布地の製造方法および衣服の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表生地と羽毛繊維層及び裏生地とが積層されてなり、裏生地の上面に熱可塑性樹脂層が積層され、その上面に上方に向かって順にエアロゲル混合体層、蜘蛛の巣状の樹脂層、羽毛繊維層が積層され、羽毛繊維層の上面に、裏面に起毛組織を備えた表生地が積層されてなり、裏生地と、表生地が、熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂材料を介して接着され、羽毛繊維層が表生地及び裏生地と一体化してなる高保温性衣服品用積層生地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-014652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば冬物の衣服などにおいて保温性をもたせたい場合がある。また、例えば衣服を手に取ったときの感触や着心地をより良くするために、衣服の肌触りが良いことが好ましい。
本発明は、保温性が高く肌触りの良い衣服および布地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、第1の糸と第2の糸とを用いて形成される布地であって、前記第1の糸は、前記布地の第1面を形成し、前記第2の糸は、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステルであり、前記布地の第2面を形成し、前記第2面には、起毛加工が施されている、ことを特徴とする布地である。
【0006】
ここで、前記第1の糸は、綿であるとよい。
また、前記第1の糸と前記第2の糸とを繋ぐ第3の糸を備え、前記第3の糸は、前記第1の糸よりもデニールが小さいとよい。
また、起毛加工による起毛は、前記第2の糸を構成する複数の繊維の40%以上かつ60%以下が部分的に切断されることで形成されているとよい。
また、前記第1面には、起毛加工が施されていないとよい。
【0007】
また、かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、第1の糸と第2の糸とを用いて形成される衣服であって、前記第1の糸は、前記衣服において外側となる外面を形成し、前記第2の糸は、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステルであり、前記衣服において肌に対向する内面を形成し、前記内面には、起毛加工が施されている、ことを特徴とする衣服である。
【0008】
また、かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、第1の糸、第2の糸および第3の糸を用いて形成される衣服であって、前記第1の糸は、綿であり、前記衣服において外側となる外面を形成し、前記第2の糸は、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステルであり、前記衣服において肌に対向する内面を形成し、前記第3の糸は、前記第1の糸よりもデニールが小さいポリエステルであり、前記第1の糸と前記第2の糸とを繋ぎ、前記外面には、起毛加工が施されず、前記内面には、前記第2の糸を構成する複数の繊維の40%以上かつ60%以下の繊維が部分的に切断される起毛加工が施されている、ことを特徴とする衣服である。
【0009】
また、かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、予め定められた糸を用いて布地の第1面を形成する工程と、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステル糸を用いて、前記布地の第2面を形成する工程と、前記布地の前記第2面に対して起毛加工を施す工程と、を備えることを特徴とする布地の製造方法である。
【0010】
また、かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、予め定められた糸を用いて布地の第1面を形成する工程と、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステル糸を用いて、前記布地の第2面を形成する工程と、前記布地の前記第2面に対して起毛加工を施す工程と、前記起毛加工が施された前記布地を裁断する工程と、裁断された前記布地を用いて衣服を縫製する工程と、を備えることを特徴とする衣服の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保温性が高く肌触りの良い衣服および布地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の衣服の全体図である。
図2】本実施形態の布地の概略図である。
図3】本実施形態の布地の断面の概略図である。
図4】本実施形態の裏糸の概略図である。
図5】本実施形態の布地の評価試験の評価結果を表示する。
図6】本実施形態の衣服の製造工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の衣服1の全体図である。
【0014】
〔衣服1〕
図1に示すように、本実施形態の衣服1は、長袖のTシャツである。衣服1は、気温が比較的低い時期にユーザが着用する冬物である。なお、本実施形態の衣服1は、冬物であるため、ユーザが着用した際に暖かいと感じられる保温性が求められる。
【0015】
衣服1は、本体部2と、袖部3とを有している。さらに、衣服1は、本体部2の上側に襟部4を有し、本体部2の下側に裾部5を有する。また、衣服1は、袖部3における本体部2とは逆側の端部に袖口部6を有する。
そして、本実施形態の衣服1において、本体部2、袖部3および裾部5は、それぞれ同じ布地10を用いて構成されている。一方、襟部4および袖口部6は、本体部2等とは別の布地で構成されている。襟部4および袖口部6は、それぞれ同じ布地で構成されている。
【0016】
そして、本実施形態の衣服1において、本体部2、袖部3および裾部5は、綿(コットン)55%かつポリエステル45%の組成で構成されている。また、襟部4および袖口部6は、綿70%かつポリエステル30%の組成で構成されている。
【0017】
なお、図1に示す衣服1の形状は、本実施形態に限定されない。例えば、袖部3の長さがより短かったり、襟部4がV字形状であったりするなど、それぞれ他の形状であっても構わない。
【0018】
図2は、本実施形態の布地10の概略図である。
【0019】
布地10は、衣服1における本体部2、袖部3および裾部5の材料となるものである。
図2に示すように、布地10は、表(おもて)面10Aと、裏面10Bとを有する。このうち、裏面10Bは、ユーザが衣服1を着用した状態で、ユーザの肌に対向する面である。一方、表面10Aは、ユーザが衣服1を着用した状態で、ユーザの肌とは反対側になる面である。
【0020】
また、布地10は、ポンチローマ(ポンチデローマ)という編み方により構成されている。そして、布地10は、針が向かい合わせで2列に並んだ編機を用いて、表面10Aと裏面10Bとが一度に編まれることで作られる。ポンチローマは、両面編みと袋編みとを交互に繰り返す組織と捉えることができる。
なお、布地10は、編物でも織物でもよいが、編物であることが好ましい。
【0021】
さらに、図2の拡大図で示すように、本実施形態の布地10の裏面10Bは、起毛加工が施されている。本実施形態の布地10の裏面10Bは、桃の地肌のような肌触り(風合い)である所謂ピーチ起毛になっている。
【0022】
図3は、本実施形態の布地10の断面の概略図である。
図4は、本実施形態の裏糸13の概略図である。
【0023】
図3に示すように、布地10は、表面10Aを構成する糸である表糸11と、裏面10Bを構成する裏糸13と、表糸11と裏糸13とを繋ぐ繋ぎ糸15とを備えて構成されている。さらに、布地10は、裏面10Bを構成する裏糸13に起毛17が形成されている。
【0024】
(表糸11)
表糸11は、綿(コットン)の糸である。また、表糸11は、40番手である。
ここで、番手は、例えば綿のように繊維が比較的短い短繊維を紡績した糸の太さを表す単位である。例えば、番手には、英国式番手を用いることができる。そして、番手は、数値が小さくなるほど1本の糸が太くなり、数値が大きくなるほど1本の糸が細くなる。
【0025】
図3に示すように、表糸11は、複数のループを形成するように編み込まれる。表糸11の複数のループは、布地10における縦方向および横方向にそれぞれ並ぶように形成される。そして、表糸11は、複数のループによって布地10の表面10Aを形成する。また、表糸11は、裏面10B側にて繋ぎ糸15に接続する。
【0026】
本実施形態では、表面10Aの表糸11として綿糸を用いることで、ユーザが衣服1を手にとったときの手触りを良くしたり、暖かい外観に見せたりしている。また、表糸11は、ユーザの汗を吸収することで吸着熱が発生する。これによって、ユーザの肌側となる裏面10Bにおける保温性をさらに高めることができる。
【0027】
(裏糸13)
裏糸13は、ポリエステルの糸である。また、図4に示すように、裏糸13は、一方向に長く延びる長繊維130の束によって構成されたフィラメント糸である。そして、本実施形態の裏糸13は、デニールDの数値が「75」であって、フィラメントFの数値が「144」である。
【0028】
ここで、デニールDは、1本の糸の太さを表す単位である。デニールの数値が大きいほど1本の糸が太くなり、デニールの数値が小さいほど1本の糸が細くなる。なお、ある糸を9000メートルとして計量した場合のグラム数がデニールの値になる。
また、フィラメントFは、1本の糸を構成する長繊維の数を表す単位である。すなわち、フィラメントFは、1本の糸が何本の長繊維を束ねて構成されているかを表す。例えば、デニールDの値が同じ1本の糸の場合、フィラメントFの数値が小さいほど個々の長繊維が太くなり、フィラメントFの数値が大きいほど個々の長繊維が細くなる。
【0029】
そして、図3に示すように、裏糸13は、複数のループを形成するように編み込まれる。裏糸13の複数のループは、布地10における縦方向および横方向にそれぞれ並ぶように形成される。そして、裏糸13は、複数のループによって布地10の裏面10Bを形成する。また、裏糸13は、表面10A側にて繋ぎ糸15に接続する。
さらに、本実施形態の裏糸13は、裏面10B側の一部となるループの頂上側に起毛17が設けられる。起毛17は、裏面10Bを構成する裏糸13に対して起毛加工を施すことにより形成される。
【0030】
図4に示すように、起毛17は、1本の裏糸13を構成する長繊維130が部分的に切断されることで形成される。具体的には、起毛17は、裏糸13において毛羽立った複数の長繊維130によって形成される。
【0031】
そして、本実施形態において、裏糸13を構成する複数の長繊維130うち、約半数の長繊維が起毛17として形成されるようになっている。具体的には、本実施形態の起毛17は、裏糸13を構成する複数の長繊維の40%以上かつ60%以下が部分的に切断されることで形成されている。このように、本実施形態では、裏糸13を構成する長繊維130の約半数が起毛17として形成されることで、布地10の「肌触り」および「保温性」を良くしている。
【0032】
なお、起毛17が裏糸13を構成する複数の長繊維の40%未満で形成される場合には、布地10の肌触りが低下する可能性が高くなる。また、起毛17が裏糸13を構成する複数の長繊維の60%以上で形成される場合には、起毛17にて逆に空気が留まりにくくなり保温性が低下する可能性が高くなる。
【0033】
また、本実施形態の布地10では、表面10A(表糸11)に対して起毛加工が施されていない。本実施形態では、表面10Aの表糸11に起毛を形成しないことによって、例えば衣服1の外面に埃などが付着しにくくしている。
【0034】
(繋ぎ糸15)
繋ぎ糸15は、ポリエステルの糸である。また、繋ぎ糸15は、裏糸13と同様に、一方向に長く延びる長繊維の束によって構成されたフィラメント糸である。そして、繋ぎ糸15は、デニールDの数値が「50」であって、フィラメントFの数値が「72」である。
【0035】
そして、図3に示すように、繋ぎ糸15は、複数のループを形成する表糸11と、複数のループを形成する裏糸13とをつなぐ。このとき、繋ぎ糸15は、予め定められた間隔をもって表糸11と裏糸13とを接続する。
また、本実施形態の繋ぎ糸15は、例えば裏糸13よりもデニールDの数値が小さくなっている。繋ぎ糸15と裏糸13は、同じポリエステルの糸を用いている。したがって、繋ぎ糸15は、裏糸13と比較して細くなっている。このように、繋ぎ糸15を細くすることで、表糸11と裏糸13との間の空気が動きやすくなる。これによって、布地10や衣服1に柔らかさをもたせることができる。
【0036】
続いて、布地10についての評価試験について説明する。
図5は、本実施形態の布地10の評価試験の評価結果を表示する。
【0037】
本試験では、条件を異ならせた複数の布地10について比較を行った。
評価項目は、「起毛」、「重さ」、「肌触り」および「保温性」である。
「起毛」は、布地10に起毛加工を施した際に起毛の状態である。起毛の状態は、例えば拡大鏡などを用いて確認することができる。
「重さ」は、布地10の重さである。重さは、スケールを用いて計量することで特定可能である。
「肌触り」は、布地10の裏面10B側の肌触りである。肌触りは、布地10の裏面10Bに実際に手で触れることで評価できる。
「保温性」は、熱の逃がしにくさである。保温性は、例えばJIS L 1096 保温性 A法(恒温法)によって特定可能である。
【0038】
また、評価は、優良(二重丸:◎)、良好(丸:〇)、やや不十分(三角:△)、不適(バツ:×)の4段階とした。
【0039】
本試験では、布地10について、表糸11および繋ぎ糸15の条件を同じとし、裏糸13の条件を異ならせた。具体的には、表糸11は、40番手の綿(コットン)糸を用いた。繋ぎ糸15は、デニールDが「50」であってフィラメントFが「72」のポリエステル糸を用いた。そして、裏糸13について、デニールDの数値およびフィラメントFの数値が異なる複数の組合せを準備した。また、布地10の裏面10B(裏糸13側)には、起毛加工を施した。
【0040】
続いて、評価結果について説明する。
図5に示すように、裏糸13のデニールDが「50」であってフィラメントFが「48」または「72」の場合、「重さ」の評価は優良であったが、「保温性」が不十分であった。デニールDの数値が比較的小さい場合には、裏糸13を構成する長繊維が太くなる。その結果、形成される個々の起毛が太くなって、保温性が低下したものと考える。
【0041】
一方、裏糸13のデニールDが「150」であってフィラメントFが「144」、「192」または「288」の場合、「重さ」の評価が不適となった。さらに、裏糸13のデニールDが「150」であってフィラメントFが「144」、「192」または「288」の場合、「肌触り」の評価も不適となった。これは、裏糸13が太くなって、裏面10Bが粗くなったことが理由と考える。
【0042】
さらに、裏糸13のデニールDが「100」であってフィラメントFが「72」、「144」または「192」の場合、「重さ」の評価が不十分であった。更に、裏糸13のデニールDが「100」であってフィラメントFが「72」または「192」の場合、「肌触り」も不十分であった。また、裏糸13のデニールDが「100」であってフィラメントFが「192」の場合、起毛が形成されず「起毛」が不適となった。これは、長繊維が細すぎて起毛加工に耐えられなかったものと考える。そして、裏糸13のデニールDが「100」であってフィラメントFが「192」の場合は、「保温性」も不適となった。
【0043】
そして、裏糸13のデニールDが「75」であってフィラメントFが「192」の場合、起毛が形成されず「起毛」が不適となった。これは、長繊維が細すぎて起毛加工に耐えられなかったものと考える。そして、裏糸13のデニールDが「75」であってフィラメントFが「192」の場合、「保温性」も不適となった。
一方、裏糸13のデニールDが「75」であってフィラメントFが「72」または「144」の場合、「起毛」、「重さ」、「肌触り」および「保温性」についてそれぞれ良好以上の評価となった。
特に、裏糸13のデニールDが「75」であってフィラメントFが「144」の場合、「肌触り」および「保温性」が優良になった。裏糸13の太さを示すデニールDと、長繊維の太さを示すフィラメントFとが、これらの数値になる場合、裏糸13そのものの太さと起毛17の太さとの相乗効果で、「肌触り」および「保温性」が優良になったものと推察する。
【0044】
次に、本実施形態の衣服1の製造について説明する。
図6は、本実施形態の衣服1の製造工程の一例を示す図である。
【0045】
図6に示すように、表糸11、裏糸13および繋ぎ糸15を用いて布地10を編む編み工程を行う(S601)。本実施形態の編み工程では、針が向かい合わせで2列に並んだ編機を用いる。また、表糸11は、40番手の綿糸である。裏糸13は、デニールDが「75」であってフィラメントFが「144」のポリエステル糸である。そして、繋ぎ糸15は、デニールDが「50」であってフィラメントFが「72」のポリエステル糸である。
【0046】
次に、布地10に対して起毛加工を施す起毛工程を行う(S602)。起毛工程では、布地10を一方向に移動させながら、布地10の移動方向とは逆回転する円筒形状のサンドペーパーを布地10の裏面10Bに接触させる。これによって、裏面10Bにおける裏糸13の長繊維130が部分的に切断され、更に立った状態になる。そして、裏糸13には、起毛17が形成される。
そして、本実施形態において、裏糸13を構成する144本の長繊維130うち、半数の約72本の長繊維が起毛17として形成されるようになっている。このように、裏糸13を構成する長繊維130の約半数が起毛17になることで、「肌触り」および「保温性」に優れた布地10が形成される。
【0047】
そして、起毛加工が施された布地10を予め定められた形状に裁断する裁断工程を行う(S603)。この裁断工程において、布地10は、衣服1を作るための形状に形成される。
さらに、裁断された布地10を縫う縫製工程を行う(S604)。この縫製工程によって、裁断された布地10は、衣服1(図1参照)の形に形成される。なお、衣服1を形成する際に、起毛工程(S602)にて起毛加工が施された裏面10Bが、衣服1における内面(ユーザの肌側)になるように縫製が行われる。
【0048】
以上のようにして、糸から布地10が製造され、さらに布地10から衣服1が作製される。この場合に、肌触りが良く保温性が高い布地10が製造されるため、ユーザが衣服1を着用した際にも着心地が良くなっている。また、ユーザが衣服1を着用した際の保温性も高まるようになっている。
【0049】
なお、表糸11は、本実施形態の綿糸に限定されない。表糸11に綿糸を用いる場合、40番手とは異なる番手の綿糸を用いても良い。また、例えば表糸11は、裏糸13と同じポリエステル糸を用いても良い。さらに、例えば表糸11は、綿とポリエステルとにより構成される混紡糸を用いても良い。この場合であっても、衣服1または布地10の保温性を高めたり、裏面10Bの肌触りを良くしたりすることができる。
【0050】
なお、本実施形態の布地10は、Tシャツ、ジャケット、ブルゾン、カバーオール、コート、スラックス、ジーンズ、スカート等の上着、またはタイツ、スパッツ、パンツ等の下着のほか、ユーザの身体に装着する身装品に用いることができる。さらに、布地10は、帽子、靴下、マフラー、手袋など種々のものに用いることができる。
【0051】
ここで、表糸11は、第1の糸の一例である。裏糸13は、第2の糸の一例である。長繊維130は、繊維の一例である。繋ぎ糸15は、第3の糸の一例である。表面10Aは、第1面および外面の一例である。裏面10Bは、第2面および内面の一例である。
【0052】
なお、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してもよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…衣服、2…本体部、3…袖部、4…襟部、5…裾部、6…袖口部、10…布地、10A…表面、10B…裏面、11…表糸、13…裏糸、15…繋ぎ糸、17…起毛、130…長繊維
【要約】
【課題】保温性が高く肌触りの良い衣服および布地を提供する。
【解決手段】本実施形態の布地は、第1の糸と第2の糸とを用いて形成される布地であって、前記第1の糸は、前記布地の第1面を形成し、前記第2の糸は、デニールが75であってフィラメントが144のポリエステルであり、前記布地の第2面を形成し、前記第2面には、起毛加工が施されていることを特徴とする。これによって、保温性が高く肌触りの良い衣服および布地を提供することができる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6