(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】自動変速機のオイル交換表示装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20230619BHJP
【FI】
F16H61/12
(21)【出願番号】P 2019211302
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高村 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】荒川 慶江
(72)【発明者】
【氏名】石神 和訓
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214932(JP,A)
【文献】特開2003-056324(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0082931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
61/16-61/24
61/66-61/70
63/40-63/50
F16N 29/00
F01M 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパンに溜められている変速機オイルを用いて油圧系制御を行う変速機コントロールユニットを備える自動変速機であって、
前記変速機コントロールユニットに、油温と時間に基づいて前記変速機オイルのオイル劣化度推定値を算出するオイル劣化推定コントローラを有し、
前記オイル劣化推定コントローラからのオイル劣化度推定値を入力し、オイル交換情報を表示するオイル交換表示コントローラを設け、
前記オイル交換表示コントローラは、オイル劣化判定閾値として、オイル交換必要閾値に到達する前のオイル劣化度によるオイル交換表示開始閾値を設定し、
前記オイル劣化度推定値が前記オイル交換表示開始閾値に到達すると、前記オイル交換必要閾値に至るまでに走行可能な走行可能距離の表示を開始し、
前記走行可能距離の表示を開始してからは、前記オイル劣化度推定値によらず、表示開始後の実走行距離に応じて減ってゆく走行可能距離を表示
し、
前記オイル劣化推定コントローラは、前記オイル劣化度推定値を、前記変速機オイルの油温に基づく油温熱劣化進行値と、前記自動変速機の変速用クラッチ部の推定温度に基づくクラッチ部熱劣化進行値とを合算した累積熱劣化進行値とする
ことを特徴とする自動変速機のオイル交換表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機のオイル交換表示装置において、
前記オイル劣化推定コントローラは、前記油温熱劣化進行値を、油温が第1設定値以上になった時間と油温で決まる熱カウント係数により算出した油温熱カウント値とし、
前記クラッチ部熱劣化進行値を、前記変速用クラッチ部の推定温度が前記第1設定値より高い第2設定値以上になった時間と定数により算出したクラッチ部熱カウント値とし、
前記累積熱劣化進行値を、前記油温熱カウント値と前記クラッチ部熱カウント値を合算した劣化カウント値とする
ことを特徴とする自動変速機のオイル交換表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載された自動変速機のオイル交換表示装置において、
前記オイル交換表示コントローラは、前記劣化カウント値が前記オイル交換表示開始閾値に到達すると、前記オイル交換必要閾値に至るまでに走行可能な走行可能距離初期値を、これまでの実走行距離に対する前記劣化カウント値の上昇勾配が継続すると仮定して推定算出する
ことを特徴とする自動変速機のオイル交換表示装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載された自動変速機のオイル交換表示装置において、
前記オイル交換表示コントローラは、イグニッションオン中、表示ディスプレイに対して前記走行可能距離を表示する
ことを特徴とする自動変速機のオイル交換表示装置。
【請求項5】
請求項4に記載された自動変速機のオイル交換表示装置において、
前記オイル交換表示コントローラは、ユーザーがオイル交換を行い、かつ、イグニッションオン中に表示解除操作を開始すると、前記オイル劣化推定コントローラに対して前記オイル劣化度推定値をゼロにするリセット信号を出力し、
イグニッションオン中に表示解除操作を終了すると、前記表示ディスプレイへの表示を消去する
ことを特徴とする自動変速機のオイル交換表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機のオイル交換表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の車速と、トランスミッション内のオイルの温度を測定し、測定した車速およびオイルの温度に応じたオイルレベルマップを検索し、オイル劣化判定しきい値を設定する。次に、現在のオイル劣化レベルを検出し、現在のオイル劣化レベルを、上記オイル判定しきい値と比較してオイルの劣化判定を行う。オイルの劣化を検出した場合には、オイルの交換を促す表示を行うオイル劣化検出装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来装置にあっては、変速機オイルの劣化を検出すると、オイル交換を促す表示を行うようにしている。しかし、オイル劣化の検出タイミングにて単に交換警告が表示されるだけでは、ユーザーが変速機オイルの交換行動に移行するまでの切迫度合が伝わらず、ユーザーの受け取り方によっては交換時期がずれてしまい、オイル劣化が進んでしまう場合がある。また、これを防ぐため、早い段階から警告を出してしまうと、ユーザーにオイル交換の頻度が高いと誤解されるおそれがある、という課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、変速機オイルの劣化が進行した際、オイル交換時期の看過やオイル交換頻度を高くするのを抑えながら、ユーザーに違和感を与えないオイル交換情報を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、オイルパンに溜められている変速機オイルを用いて油圧系制御を行う変速機コントロールユニットを備える車載の自動変速機であって、
変速機コントロールユニットに、油温と時間に基づいて前記変速機オイルのオイル劣化度推定値を算出するオイル劣化推定コントローラを有する。
オイル劣化推定コントローラからのオイル劣化度推定値を入力し、オイル交換情報を表示するオイル交換表示コントローラを設ける。
オイル交換表示コントローラは、オイル劣化判定閾値として、オイル交換必要閾値に到達する前のオイル劣化度によるオイル交換表示開始閾値を設定する。
オイル劣化度推定値がオイル交換表示開始閾値に到達すると、オイル交換必要閾値に至るまでに走行可能な走行可能距離の表示を開始する。
走行可能距離の表示を開始してからは、オイル劣化度推定値によらず、表示開始後の実走行距離に応じて減ってゆく走行可能距離を表示する。
オイル劣化推定コントローラは、オイル劣化度推定値を、変速機オイルの油温に基づく油温熱劣化進行値と、自動変速機の変速用クラッチ部の推定温度に基づくクラッチ部熱劣化進行値とを合算した累積熱劣化進行値とする。
【発明の効果】
【0007】
このように、走行可能距離の表示を開始してからは、オイル劣化度推定値によらず、表示開始後の実走行距離に応じて減ってゆく走行可能距離がオイル交換残距離として表示されることになる。この結果、変速機オイルの劣化が進行した際、オイル交換時期の看過やオイル交換頻度を高くするのを抑えながら、ユーザーに違和感を与えないオイル交換情報を提示することができる。加えて、累積熱劣化進行値を計算する際、2つの異なる変速機オイルの熱劣化原因が反映され、ユーザータイプによるバラツキを小さく抑えた精度の良い累積熱劣化進行値を計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1のオイル交換表示装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。
【
図2】自動変速機の一例を示すスケルトン図である。
【
図3】自動変速機での変速用の摩擦締結要素の各ギア段での締結状態を示す締結表図である。
【
図4】自動変速機での変速マップの一例を示す変速マップ図である。
【
図5】自動変速機のコントロールバルブユニットの詳細構成を示す図である。
【
図6】自動変速機のオイル交換表示制御系の構成を示す制御ブロック図である。
【
図7】変速機コントロールユニットのオイル劣化推定コントローラにて実行されるオイル劣化推定判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】油温に対する熱カウント係数の関係を示す関係特性図である。
【
図9】熱カウント値とオイル劣化指標である塩基価(BN)の関係を示す関係特性図である。
【
図10】走行可能距離とオイル交換表示開始閾値及びオイル交換必要閾値との関係を示す関係特性図である。
【
図11】オイル劣化推定コントローラに接続されているオイル交換表示コントローラで実行されるオイル交換表示処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】オイル劣化判定を走行距離で行う場合のユーザーのタイプによるバラツキ幅を示す特性図である。
【
図13】オイル劣化判定を劣化カウント値で行う場合のユーザーのタイプによるバラツキ幅を示す特性図である。
【
図14】自動変速機のオイル劣化が進行してオイル交換までの走行可能距離を表示するときの各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の自動変速機のオイル交換表示装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
実施例1におけるオイル交換表示装置は、前進9速・後退1速のギア段を有する自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「油圧制御系の詳細構成」、「オイル交換表示制御系の詳細構成」、「オイル劣化推定処理構成」、「オイル交換表示処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は実施例1のオイル交換表示装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。以下、
図1に基づいて全体システム構成を説明する。
【0012】
エンジン車の駆動系には、
図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。トルクコンバータ2は、締結によりエンジン1のクランク軸と自動変速機3の入力軸INを直結するロックアップクラッチ2aを内蔵する。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧制御回路や油圧ソレノイドバルブ(以下、「油圧ソレノイド」という。)等により構成され、オイルパン6aを有するコントロールバルブユニット6が取り付けられている。
【0013】
コントロールバルブユニット6は、油圧ソレノイドとして、摩擦締結要素毎に6個設けられるクラッチソレノイド20と、それぞれ1個設けられるライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23を有する。即ち、合計9個の油圧ソレノイドを有する。これらの油圧ソレノイドは、何れも3方向リニアソレノイド構造であり、変速機コントロールユニット10からの制御指令を受けて作動する。
【0014】
エンジン車の電子制御系には、
図1に示すように、変速機コントロールユニット10(略称:「ATCU」という。)と、エンジンコントロールユニット11(略称:「ECU」という。)と、CAN通信線12と、を備える。
【0015】
ここで、変速機コントロールユニット10は、コントロールバルブユニット6の上面位置に機電一体に設けられる。変速機コントロールユニット10には、ユニット基板の温度を検出する基板温度センサとして、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32を冗長系により備える。メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32とは、互いに独立性が担保されている。即ち、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32は、メイン温度センサ値とサブ温度センサ値を変速機コントロールユニット10に送出するが、周知の自動変速機ユニットとは異なり、オイルパン内で変速機作動油(ATF)に直接接触していない温度情報を送出する。なお、変速機作動油(ATF)を以下、「変速機オイル」といい、オイル劣化判定においては、メイン温度センサ値(又はサブ温度センサ値)をオイル温度情報として用いる。
【0016】
自動変速機3を制御する変速機コントロールユニット10は、タービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、イグニッションスイッチ15、インヒビタースイッチ18、中間軸回転センサ19、等からの信号を入力する。
【0017】
タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転数(=変速機入力軸回転数)を検出し、タービン回転数NTの信号を変速機コントロールユニット10に送出する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の出力軸回転数を検出し、出力軸回転数No(=車速VSP)の信号を変速機コントロールユニット10に送出する。イグニッションスイッチ15は、イグニッションスイッチ信号(オン/オフ)を変速機コントロールユニット10に送出する。インヒビタースイッチ18は、ユーザーによるセレクトレバーやセレクトボタン等へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を検出し、レンジ位置信号を変速機コントロールユニット10に送出する。中間軸回転センサ19は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転数を検出し、中間軸回転数Nintの信号を変速機コントロールユニット10に送出する。
【0018】
変速機コントロールユニット10では、変速マップ(
図4参照)上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。
【0019】
エンジンコントロールユニット11は、アクセル開度センサ16、エンジン回転センサ17、等からの信号を入力する。
【0020】
アクセル開度センサ16は、ドライバのアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOの信号をエンジンコントロールユニット11に送出する。エンジン回転センサ17は、エンジン1の回転数を検出し、エンジン回転数Neの信号をエンジンコントロールユニット11に送出する。
【0021】
エンジンコントロールユニット11では、エンジン単体の様々な制御に加え、変速機コントロールユニット10での制御との協調制御によりエンジントルク制限制御等を行う。変速機コントロールユニット10とエンジンコントロールユニット11は、双方向に情報交換可能なCAN通信線12を介して接続されている。よって、エンジンコントロールユニット11は、変速機コントロールユニット10から情報リクエストが入力されると、リクエストに応じてアクセル開度APOやエンジン回転数NeやエンジントルクTeやタービントルクTTの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。また、変速機コントロールユニット10から上限トルクによるエンジントルク制限要求が入力されると、エンジントルクを所定の上限トルクにより制限したトルクとするエンジントルク制限制御が実行される。
【0022】
[自動変速機の詳細構成]
図2は自動変速機3の一例を示すスケルトン図であり、
図3は自動変速機3での締結表であり、
図4は自動変速機3での変速マップの一例を示す。以下、
図2~
図4に基づいて自動変速機3の詳細構成を説明する。
【0023】
自動変速機3は、下記の点を特徴とする。
(a) 変速要素として、機械的に係合/空転するワンウェイクラッチを用いていない。
(b) 摩擦締結要素である第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチK1、第2クラッチK2、第3クラッチK3は、変速時にクラッチソレノイド20によってそれぞれ独立に締結/解放状態が制御される。
(c) 第2クラッチK2と第3クラッチK3は、クラッチピストン油室に作用する遠心力による遠心圧を相殺する遠心キャンセル室を有する。
【0024】
自動変速機3は、
図2に示すように、ギアトレーンを構成する遊星歯車として、入力軸INから出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0025】
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギアS1と、第1サンギアS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギアR1と、を有する。
【0026】
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギアS2と、第2サンギアS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギアR2と、を有する。
【0027】
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギアS3と、第3サンギアS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギアR3と、を有する。
【0028】
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギアS4と、第4サンギアS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギアR4と、を有する。
【0029】
自動変速機3は、
図2に示すように、入力軸INと、出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦締結要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
【0030】
入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギアS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0031】
出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギア等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギアR4に断接可能に連結している。
【0032】
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギアR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦締結要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギアR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギアS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギアS4を、摩擦締結要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0033】
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギアR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギアS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。
【0034】
第1クラッチK1は、第4リングギアR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦締結要素である。第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦締結要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦締結要素である。
【0035】
図3は、自動変速機3において6つの摩擦締結要素のうち三つの同時締結の組み合わせによりDレンジにて前進9速後退1速を達成する締結表を示す。以下、
図3に基づいて、各ギア段を成立させる変速構成を説明する。
【0036】
1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段~5速段が、ギア比が1を超えている減速ギア比によるアンダードライブギア段である。
【0037】
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギア比=1の直結段である。
【0038】
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段~9速段は、ギア比が1未満の増速ギア比によるオーバードライブギア段である。
【0039】
さらに、1速段から9速段までのギア段のうち、隣接するギア段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、
図3に示すように、掛け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接するギア段への変速は、三つの摩擦締結要素のうち、二つの摩擦締結要素の締結は維持したままで、一つの摩擦締結要素の解放と一つの摩擦締結要素の締結を行うことで達成される。
【0040】
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、6つの摩擦締結要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
【0041】
そして、変速機コントロールユニット10には、
図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の1速段から9速段までのギア段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が
図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が
図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
【0042】
[油圧制御系の詳細構成]
図5はコントロールバルブユニット6の詳細構成を示す。以下、
図5に基づいて油圧制御系の詳細構成を説明する。
【0043】
コントロールバルブユニット6は、油圧源としてメカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62を備える。メカオイルポンプ61は、エンジン1によりポンプ駆動され、電動オイルポンプ62は、電動モータ63によりポンプ駆動される。
【0044】
コントロールバルブユニット6は、油圧制御回路に設けられる弁として、ライン圧ソレノイド21とライン圧調圧弁64とクラッチソレノイド20とロックアップソレノイド23とを備える。さらに、潤滑ソレノイド22と潤滑調圧弁65とブースト切換弁66とP-nP切換弁67とクーラー68を備える。
【0045】
ライン圧調圧弁64は、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62の少なくとも一方からの吐出油を、ライン圧ソレノイド21からのバルブ作動信号圧に基づいてライン圧PLに調圧する。
【0046】
クラッチソレノイド20は、ライン圧PLを元圧とし、摩擦締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に締結圧や解放圧を制御する変速系ソレノイドである。なお、
図5ではクラッチソレノイド20が1個であるように記載しているが、摩擦締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に6個のソレノイドを有する。6個のクラッチソレノイド20は、第1ブレーキソレノイド、第2ブレーキソレノイド、第3ブレーキソレノイド、第1クラッチソレノイド、第2クラッチソレノイド、第3クラッチソレノイドである。
【0047】
ロックアップソレノイド23は、ライン圧調圧弁64によるライン圧PLの調圧時における余剰油を用いてロックアップクラッチ2aの差圧を制御する。
【0048】
潤滑ソレノイド22は、潤滑調圧弁65へのバルブ作動信号圧と、ブースト切換弁66への切換圧と、P-nP切換弁67への切換圧とを作り出し、摩擦締結要素へ供給する潤滑流量を、発熱を抑える適正な流量に調圧する機能を有する。そして、連続変速プロテクション以外のときに摩擦締結要素の発熱を抑える最低潤滑流量をメカ保証し、最低潤滑流量に上乗せされる潤滑流量分を調整するソレノイドである。
【0049】
潤滑調圧弁65は、潤滑ソレノイド22からのバルブ作動信号圧によって、摩擦締結要素とギアトレーンを含むパワートレーン(PT)へクーラー68を介して供給する潤滑流量をコントロールすることができる。そして、潤滑調圧弁65によってPT供給潤滑流量を適正化することでフリクションを低減する。
【0050】
ブースト切換弁66は、潤滑ソレノイド22からの切換圧によって、第2クラッチK2と第3クラッチK3の遠心キャンセル室の供給油量を増加する。このブースト切換弁66は、遠心キャンセル室の油量が不足しているシーンで一時的に供給油量を増やすときに使用する。
【0051】
P-nP切換弁67は、潤滑ソレノイド22からの切換圧によって、パーキングモジュールへ供給するライン圧の油路を切り換え、パークロックを行う。
【0052】
このように、コントロールバルブユニット6は、潤滑ソレノイド22と、潤滑調圧弁65と、ブースト切換弁66と、P-nP切換弁67とを備え、Dレンジ圧油路やRレンジ圧油路等を切り替えるマニュアルバルブを廃止していること特徴とする。
【0053】
[オイル交換表示制御系の詳細構成]
図6は、自動変速機3のオイル交換表示制御系の構成を示す。以下、
図6に基づいてオイル交換表示制御系の詳細構成を説明する。
【0054】
自動変速機3のオイル交換表示制御系は、
図6に示すように、変速コントローラ100と、オイル劣化推定コントローラ110と、オイル交換表示コントローラ40と、メインディスプレイ41と、サブディスプレイ42と、を備える。
【0055】
変速コントローラ100は、オイルパン6aに溜められている変速機オイルを用いて油圧系制御を行う変速機コントロールユニット10に有する。変速コントローラ100からは、変速用クラッチ部(=摩擦締結要素部)の温度推定に必要な変速情報(解放→締結に移行する摩擦締結要素や締結→解放に移行する摩擦締結要素の情報など)をオイル劣化推定コントローラ110へ出力する。
【0056】
オイル劣化推定コントローラ110は、変速機コントロールユニット10に有し、油温と時間に基づいてオイル劣化度推定値を算出する。オイル劣化推定コントローラ110では、変速コントローラ100からの変速情報と、メイン基板温度センサ31からのメイン温度センサ値と、サブ基板温度センサ32からのサブ温度センサ値とを入力する。
【0057】
オイル劣化推定コントローラ110においては、下記のオイル劣化度推定値の算出処理を行う。
(a) オイル劣化度推定値を、変速機オイルの油温に基づく油温熱劣化進行値と、自動変速機3の変速用クラッチ部の推定温度に基づくクラッチ部熱劣化進行値とを合算した累積熱劣化進行値とする。
(b) 油温熱劣化進行値を、油温が第1設定値以上になった時間t1と油温により決まる熱カウント係数k1により算出した油温熱カウント値Ncoとする。クラッチ部熱劣化進行値を、クラッチ部の推定温度が第1設定値より高い第2設定値以上になった時間t2と定数k2により算出したクラッチ部熱カウント値Nccとする。そして、累積熱劣化進行値を、油温熱カウント値Ncoとクラッチ部熱カウント値Nccを合算した劣化カウント値ΣNc(オイル劣化度推定値)とする。
【0058】
オイル交換表示コントローラ40は、オイル劣化推定コントローラ110からの劣化カウント値ΣNcを入力し、オイル交換情報を表示するコントローラである。このオイル交換表示コントローラ40では、オイル劣化推定コントローラ110からCAN通信線50を介して劣化カウント値ΣNcの情報を入力する。そして、走行可能距離情報以外に、イグニッションスイッチ15からのスイッチ信号と、リセットスイッチ43からのスイッチ信号と、オドメータ44(走行距離計)からの距離情報を入力する。
【0059】
オイル交換表示コントローラ40においては、下記のオイル交換表示処理を行う。
(a) オイル劣化判定閾値として、オイル交換必要閾値Rthに到達する前のオイル劣化度によるオイル交換表示開始閾値Dthを設定する。
(b) 劣化カウント値ΣNcがオイル交換表示開始閾値Dthに到達すると、オイル交換必要閾値Rthに至るまでに走行可能な走行可能距離初期値Me0を算出し、走行可能距離Meの表示を開始する。ここで、オイル交換必要閾値Rthに至るまでに走行可能な走行可能距離初期値Me0は、これまでの実走行距離に対する劣化カウント値ΣNcの上昇勾配が継続すると仮定して推定算出する。
(c) 表示開始時の走行可能距離初期値Me0を記憶すると共に、表示開始時のオドメータ44の距離を記憶する。
(d) 走行可能距離Meの表示を開始してからは、劣化カウント値ΣNcによらず、表示開始後の実走行距離に応じて減ってゆく走行可能距離Meを表示する。
(e) イグニッションオン中、メインディスプレイ41(表示ディスプレイ)に対して走行可能距離Meを表示する。
(f) ユーザーがオイル交換を行い、かつ、イグニッションオン中にリセットスイッチ43への表示解除操作を開始すると、オイル劣化推定コントローラ110に対してCAN通信線50を介して劣化カウント値ΣNcをゼロにするリセット信号の出力を開始する。そして、イグニッションオン中にリセットスイッチ43への表示解除操作を終了すると、メインディスプレイ41とサブディスプレイ42への表示を消去すると共に、リセット信号の出力も終了する。
【0060】
メインディスプレイ41は、ユーザーから視認可能なインストルメントパネルの計器メータ部等に配置される文字表示ディスプレイである。メインディスプレイ41には、走行可能距離情報が入力され、かつ、イグニッションスイッチ15がオンであると、オイル交換してリセット操作が終了するまで「走行可能距離Me」を含むメッセージが文字表示される。ここで、メッセージ例としては「AT Fluid Service due in 1250miles Exchange ATF at dealer(1250マイル走行したらディーラーにてオイル交換して下さい。)」と表示する。この視覚表示に加え、例えば、イグニッションスイッチ15がオンになる毎に「走行可能距離Me」を含むメッセージを音声によりアナウンスしても良い。
【0061】
サブディスプレイ42は、ユーザーから視認可能なインストルメントパネルの計器メータ部等に配置される警告表示ディスプレイである。サブディスプレイ42には、走行可能距離情報が入力されると、イグニッションスイッチがオン/オフにかかわらず、オイル交換してリセット操作が終了するまでオイル交換を促す表示がなされる。例えば、オイル交換をあらわすアイコン表示やオイル交換表示灯の点灯表示や点滅表示を行う。
【0062】
[オイル劣化推定処理構成]
図7は、変速機コントロールユニット10のオイル劣化推定コントローラ110にて実行されるオイル劣化推定処理の流れを示す。以下、
図7~
図9に基づいてオイル劣化推定処理構成を説明する。なお、
図7のフローチャートによる処理は、所定の制御周期により繰り返し実行される。
【0063】
ステップS1では、スタートに続き、油温が第1設定値以上であるか否かを判断する。YES(油温≧第1設定値)の場合はステップS2へ進み、NO(油温<第1設定値)の場合はステップS3へ進む。
【0064】
ここで、「油温」は、メイン基板温度センサ31(又はサブ基板温度センサ32)が変速機オイルに直接浸漬していないことを考慮し、メイン温度センサ値(又はサブ温度センサ値)を少し嵩上げした温度とされる。「第1設定値」は、これ以上油温が上昇するとオイル劣化の進行速度が速くなる温度(例えば、50℃程度)に設定される。
【0065】
ステップS2では、S1での油温≧第1設定値であるとの判断に続き、油温が第1設定値以上になった時間t1と熱カウント係数k1により油温熱カウント値Ncoを算出し、ステップS3へ進む。
【0066】
ここで、「油温熱カウント値Nco」とは、油温を10msec(時間t1)に1回測定し、1minの平均温度の熱カウント係数k1を累積{Σ(k1×t1)}して算出される値である。なお、熱カウント係数k1は、
図8に示すように、油温が高くなるにしたがって累進的に高くなる可変値により与えられる。
【0067】
ステップS3では、S1での油温<第1設定値であるとの判断、或いは、S2での油温熱カウント値Ncoの算出に続き、クラッチ部推定温度が第2設定値(>第1設定値)以上であるか否かを判断する。YES(クラッチ部推定温度≧第2設定値)の場合はステップS4へ進み、NO(クラッチ部推定温度<第2設定値)の場合はステップS5へ進む。
【0068】
ここで、「クラッチ部推定温度」は、例えば、クラッチ部初期温度を油温とし、伝達トルクの大きさとクラッチ滑り回転数の大きさに応じた発熱量と、完全締結や完全解放による放熱量とに基づいて、摩擦締結要素(6個)のそれぞれについて算出される。「第2設定値」は、連続変速時等であって、クラッチ部温度がこれ以上温度上昇するとオイル劣化の進行速度が速くなる温度(例えば、250℃程度)に設定される。
【0069】
ステップS4では、S3でのクラッチ部推定温度≧第2設定値であるとの判断に続き、クラッチ部推定温度が第2設定値以上になった時間t2と定数k2によりクラッチ部熱カウント値Nccを算出し、ステップS5へ進む。
【0070】
ここで、「クラッチ部熱カウント値Ncc」とは、クラッチ部推定温度を10msecに1回測定し、クラッチ部推定温度が第2設定値以上になった時間t2(1秒単位)と定数k2を掛け合わせたものを累積{Σ(k2×t2)}して算出される値である。なお、定数k2は、
図9に示すように、クラッチ部熱カウント値とオイル劣化指標であるBN(塩基価)の関係が勾配γによるほぼ比例関係になることで、実験等により求めた固定値により与えられる。また、クラッチ部推定温度が第2設定値以上になった摩擦締結要素が複数個である場合は、個数分加算した値をクラッチ部熱カウント値Nccとする。
【0071】
ステップS5では、S3でのクラッチ部推定温度<第2設定値であるとの判断、或いは、S4でのクラッチ部熱カウント値Nccの算出に続き、油温熱カウント値Ncoとクラッチ部熱カウント値Nccを足し合わせることで劣化カウント値ΣNcを算出し、ステップS6へ進む。
【0072】
ステップS6では、S5での劣化カウント値ΣNcの算出に続き、算出された劣化カウント値ΣNcの情報をオイル交換表示コントローラ40へ出力し、エンドへ進む。
【0073】
[オイル交換表示処理構成]
図11は、オイル交換表示コントローラ40にて実行されるオイル交換表示処理の流れを示す。以下、
図10及び
図11に基づいてオイル交換表示処理構成を説明する。なお、
図11のフローチャートによる処理は、所定の制御周期により繰り返し実行される。
【0074】
ステップS11では、イグニッションスイッチ15がオンであるか否かを判断する。YES(IGN ON)の場合はステップS13へ進み、NO(IGN OFF)の場合はステップS12へ進む。
【0075】
ステップS12では、S11でのIGN OFFであるとの判断に続き、メインディスプレイ41に対して走行可能距離Meによるオイル交換表示が行われている場合はオイル交換表示を消去し、エンドへ進む。なお、サブディスプレイ42に対するオイル交換表示については表示を維持する。
【0076】
ステップS13では、S11でのIGN ONであるとの判断に続き、オイル劣化推定コントローラ110から入力された劣化カウント値ΣNcが、オイル交換表示開始閾値Dth(<オイル交換必要閾値Rth)以上であるか否かを判断する。YES(ΣNc≧Dth)の場合はステップS14へ進み、NO(ΣNc<Dth)の場合はエンドへ進む。
【0077】
ここで、「オイル交換必要閾値Rth」は、劣化カウント値ΣNcとオイル劣化の進行度合いの実験をし、実験結果によって先に決めておく。そして、「オイル交換表示開始閾値Dth」は、
図10に示すように、オイル交換必要閾値Rthに対応する走行距離Xrから表示区間ΔXだけ前の走行距離Xdを決め、走行距離Xdに対応する劣化カウント値ΣNcとされる。なお、表示区間ΔXは、オイル交換行動を促す余裕時間を作る距離やオイル交換の意思決定をしてからディーラーへ行くのに必要距離等を考慮し、例えば、約2000km程度に設定される。
【0078】
ステップS14では、S13でのΣNc≧Dthであるとの判断に続き、ΣNc≧Dthであると判断経験の初回であるか否かを判断する。YES(初回である)の場合はステップS15へ進み、NO(初回でない)の場合はステップS17へ進む。
【0079】
ステップS15では、S14での初回であるとの判断に続き、ΣNc≧Dthであると最初に判断された時点の走行可能距離初期値Me0を算出し、ステップS16へ進む。
【0080】
ここで、「走行可能距離初期値Me0」は、オイル交換表示開始閾値Dthからオイル交換必要閾値Rthに至るまでの走行可能距離を、これまでの実走行距離に対する劣化カウント値ΣNcの上昇勾配が継続すると仮定して推定算出する。
【0081】
ステップS16では、S15での走行可能距離初期値Me0の算出に続き、算出された走行可能距離初期値Me0と、ΣNc≧Dthであると最初に判断されたときのオドメータ44による距離を記憶し、ステップS18へ進む。
【0082】
ステップS17では、S14での初回でないとの判断に続き、メインディスプレイ41へ表示する走行可能距離Meを算出し、ステップS18へ進む。
【0083】
ここで、表示する走行可能距離Meは、
表示する走行可能距離Me=走行可能距離初期値Me0-(現在のオドメータ44の距離-S13にて記憶されたオドメータ44の距離)
の式を用いて算出される。なお、(現在のオドメータ44の距離-S13にて記憶されたオドメータ44の距離)は、表示開始後の実走行距離に相当する。
【0084】
ステップS18では、S15又はS17での表示する走行可能距離Meの算出に続き、メインディスプレイ41とサブディスプレイ42に対して走行可能距離Meの表示と、オイル交換を示唆するオイル交換表示を行い、ステップS19へ進む。ここで、S15にて走行可能距離初期値Me0が算出された場合は、走行可能距離初期値Me0を表示する走行可能距離Meとする。
【0085】
ステップS19では、S18でのオイル交換表示の指令に続き、ユーザーがオイル交換を行った後、リセットスイッチ43への長押しによるリセット操作を開始したか否かを判断する。YES(リセット操作を開始した)の場合はステップS20へ進み、NO(リセット操作を開始していない)の場合はエンドへ進む。
【0086】
ステップS20では、S19でのリセット操作を開始したとの判断に続き、オイル劣化推定コントローラ110に対して劣化カウント値ΣNcをゼロに戻すリセット情報を出力し、ステップS21へ進む。
【0087】
ステップS21では、S20でのリセット情報の出力に続き、リセットスイッチ43へのリセット操作を終了したか否かを判断する。YES(リセット操作を終了した)の場合はステップS22へ進み、NO(リセット操作を終了していない)の場合はステップS20へ戻る。
【0088】
ステップS22では、S21でのリセット操作を終了したとの判断に続き、メインディスプレイ41とサブディスプレイ42に対して表示しているオイル交換表示を消去し、エンドへ進む。
【0089】
次に、「背景技術の課題と課題解決方策」を説明する。そして、実施例1の作用を、「オイル劣化推定作用」、「オイル交換表示作用」に分けて説明する。
【0090】
[背景技術の課題と課題解決方策]
自動変速機の変速機作動油(ATF)である変速機オイルは、長期間の使用により劣化が進行し、劣化が進行したままでオイル交換を行わないと、自動変速機の摩擦締結要素であるクラッチやブレーキにて振動(ジャダー)が発生する可能性がある。このため、オイル劣化の進行が振動(ジャダー)の発生を抑制可能な限界域に到達する前に、新しい変速機オイルに交換することを促す表示によりオイル交換時期を知らせる必要がある。
【0091】
これに対し、背景技術では、オイル交換表示によるオイル交換時期を、
図12に示すように、シビアユーザーを基準としてオイル劣化度(=ATF degradation)のクライテリアを決め、走行距離(=Mileage)を指定する。そして、走行距離が指定距離に到達すると、オイル交換表示によりオイル交換時期になったことを知らせるようにしている。
【0092】
しかし、オイル交換時期を距離指定とした場合、下記に列挙するような課題がある。
(a) 市場フリートデータが少なく、走行距離での予測が困難である。
(b) オイルの熱劣化パラメータは油温と時間であるため、走行距離を指定した場合はオイル劣化のばらつきが大きくなる。例えば、シビアユーザーの場合に走行距離M1に指定されるのに対し、ノミナルユーザーの場合はオイル劣化度のクライテリアに到達する距離が走行距離M2になる。さらに、マイルドユーザーの場合はオイル劣化度のクライテリアに到達する距離が走行距離M3(>M2>M1)になる。つまり、
図12のハッチングにて示す部分が、オイル劣化のばらつき領域になる。
(c) 指定された走行距離M1に到達すると、オイル劣化度がクライテリアに到達していなく、オイル交換が不要なユーザーに対してもオイル交換を強いることになるため、ユーザーへの負担が大きい。
【0093】
上記背景技術に対し、現在のオイル劣化レベルを検出し、現在のオイル劣化レベルを、測定した車速およびオイルの温度に応じたオイル判定しきい値と比較してオイルの劣化判定を行う。オイルの劣化を検出した場合には、変速機オイルの交換を促す表示を行うオイル劣化検出装置(特開2009-138852号公報)が提案されている。
【0094】
しかし、上記先行技術にあっては、オイル劣化の検出タイミングにて単にオイル交換警告が表示されるだけである。このため、ユーザーが変速機オイルの交換行動に移行するまでの切迫度合が伝わらず、ユーザーの受け取り方によっては交換時期がずれてしまい、オイル劣化が進んでしまう場合がある。また、これを防ぐため、早い段階から警告を出してしまうと、ユーザーにオイル交換の頻度が高いと誤解されるおそれがある、という課題があった。
【0095】
本発明者等は、現状分析と課題を検討した結果、第一に、油温と時間に基づいて算出されるオイル劣化推定値指定とした場合、距離指定とした場合よりもオイル劣化のバラツキが小さくなる。第二に、オイル交換時期に到達する前になるとオイル交換までの走行可能距離を表示させることが、ユーザーに変速機オイルを交換するまでの切迫度合を認識させることに有効である、という点に着目した。
【0096】
上記着目点に基づいて、本発明は、オイルパン6aに溜められている変速機オイルを用いて油圧系制御を行う変速機コントロールユニット10を備える車載の自動変速機3である。変速機コントロールユニット10に、油温と時間に基づいて変速機オイルの劣化カウント値ΣNcを算出するオイル劣化推定コントローラ110を有する。オイル劣化推定コントローラ110からの劣化カウント値ΣNcを入力し、オイル交換情報を表示するオイル交換表示コントローラ40を設ける。オイル交換表示コントローラ40は、オイル劣化判定閾値として、オイル交換必要閾値Rthに到達する前のオイル劣化度によるオイル交換表示開始閾値Dthを設定する。劣化カウント値ΣNcがオイル交換表示開始閾値Dthに到達すると、オイル交換必要閾値Rthに至るまでに走行可能な走行可能距離Meの表示を開始する。走行可能距離Meの表示を開始してからは、劣化カウント値ΣNcによらず、表示開始後の実走行距離に応じて減ってゆく走行可能距離Meを表示する、という課題解決方策を採用した。
【0097】
即ち、変速機オイルの熱劣化パラメータである油温と時間に基づいて算出される劣化カウント値指定とした場合、距離指定とした場合よりもユーザータイプによるオイル劣化のバラツキを小さく抑えることができる。
【0098】
そして、オイル交換時期に到達する前になるとオイル交換までの走行可能距離Meを表示すると、実際にオイル交換を要する時期よりも早期タイミングからユーザーに走行可能距離Meを認識させることができる。言い換えると、オイル交換までの走行可能距離Meが短くなる表示をユーザーが認識することによって、変速機オイルを交換するまでの切迫度合がユーザーに伝わることになる。そして、変速機オイルの交換時期を走行可能距離Meで把握することができるので、適切なタイミングでユーザーが変速機オイルを交換することになる。このため、オイル交換までに時間がかかり変速機オイルの劣化が進んだり、オイル交換頻度が高いとユーザーに誤認されたりするのを抑制することができる。
【0099】
さらに、劣化カウント値ΣNcによらず、表示開始後の実走行距離に応じて減ってゆく走行可能距離Meを表示するため、運転者などのユーザーに違和感を与えるのが防止される。例えば、表示開始後の走行可能距離Meを劣化カウント値ΣNcによって減らしてゆくと、実走行距離にかかわらず、急に減少したり逆に減少しなかったりし、走行可能距離Meの減少量がばらばらになる。この減少量の違いがユーザーに違和感を与える。
【0100】
この結果、変速機オイルの劣化が進行した際、オイル交換時期の看過やオイル交換頻度を高くするのを抑えながら、ユーザーに違和感を与えないオイル交換情報を提示することができることになる。加えて、オイル交換までの走行可能距離Meを表示するため、オイル交換を必要とするタイミングになって急にオイル交換の警告表示を行う場合に比べ、ユーザーに与える負担を軽減することができる。
【0101】
[オイル劣化推定作用]
まず、
図7に示すフローチャートに基づいてオイル交換判定処理作用を説明する。例えば、長時間の走行によりオイルパン内の変速機オイルの油温が第1設定値以上になった場合、S1からS2へと進む。S2では、油温が第1設定値以上になった時間t1と熱カウント係数k1により油温熱カウント値Ncoが算出される。なお、油温が第1設定値未満である場合には、S1からS3へ進み、油温熱カウント値Ncoは算出されない。
【0102】
例えば、連続変速により締結/解放が繰り返される摩擦締結要素のクラッチ部推定温度が第2設定値(>第1設定値)以上になった場合、S3からS4へと進む。S4では、クラッチ部推定温度が第2設定値以上になった時間t2と定数k2によりクラッチ部熱カウント値Nccが算出される。なお、全ての摩擦締結要素でのクラッチ部推定温度が第2設定値未満の場合には、S3からS5へ進み、クラッチ部熱カウント値Nccは算出されない。
【0103】
次に、S3又はS4からS5→S6へ進むと、S5では、油温熱カウント値Ncoとクラッチ部熱カウント値Nccを足し合わせることで劣化カウント値ΣNcが算出され、S6では、劣化カウント値ΣNcがオイル交換表示コントローラ40へ出力される。
【0104】
このように、変速機オイルの劣化度を推定するオイル劣化度推定値は、変速機オイルの油温と時間に基づく油温熱劣化進行値と、自動変速機3の変速用クラッチ部の推定温度と時間に基づくクラッチ部熱劣化進行値とを合算した累積熱劣化進行値としている。
【0105】
即ち、本発明者等は、連続変速等によって変速用クラッチ部の温度が高温レベルまで上昇し、高温時間が長く続くと、変速機オイルの熱劣化の一因になることを知見した。よって、例えば、オイル劣化度推定値を、変速機オイルの油温と時間に基づいて計算される油温熱劣化進行値のみとした場合、連続変速等によって変速用クラッチ部の温度が高温レベルまで上昇することを原因とする変速機オイルの熱劣化に対応することができない。
【0106】
これに対し、オイル劣化度推定値を、油温熱劣化進行値とクラッチ部熱劣化進行値とを合算した累積熱劣化進行値にすると、オイルパン6a内の変速機オイルの油温上昇と変速用クラッチ部の温度上昇の両方を原因とする変速機オイルの熱劣化に対応することができる。よって、累積熱劣化進行値を計算する際、2つの異なる変速機オイルの熱劣化原因が反映され、ユーザータイプによるバラツキを小さく抑えた値を計算できることになる。
【0107】
さらに、「油温熱劣化進行値」は、油温が第1設定値以上になった時間t1と油温で決まる熱カウント係数k1により算出した油温熱カウント値Ncoとしている。「クラッチ部熱劣化進行値」は、変速用クラッチ部の推定温度が第1設定値より高い第2設定値以上になった時間t2と定数k2により算出したクラッチ部熱カウント値Nccとしている。そして、「累積熱劣化進行値」は、油温熱カウント値Ncoとクラッチ部熱カウント値Nccを合算した劣化カウント値ΣNcとしている。
【0108】
即ち、本発明者等は、オイルパン内の変速機オイルの油温が上昇するほど、変速機オイルの熱劣化は高次関数的に進行する関係(
図8参照)にあることを知見した。また、変速用クラッチ部の温度上昇時間が長くなるほど、変速機オイルの熱劣化は比例的に進行する関係(
図9参照)にあることを知見した。
【0109】
上記知見内容を反映し、油温熱カウント値Ncoは、油温が第1設定値以上になった時間t1と油温で決まる熱カウント係数k1により算出するようにした。一方、クラッチ部熱カウント値Nccは、変速用クラッチ部の推定温度が第2設定値以上になった時間t2と定数k2により算出するようにした。よって、劣化カウント値ΣNcを計算する際、2つの異なる変速機オイルの熱劣化進行特性が反映され、ユーザータイプによるバラツキを小さく抑えた値を計算できることになる。
【0110】
例えば、オイル交換表示によるオイル交換時期を、
図13に示すように、シビアユーザーを基準としてオイル劣化度(=ATF degradation)のクライテリアを決め、劣化カウント値(=Cumulative heat count value)を指定する。そして、走行距離が指定劣化カウント値に到達すると、オイル交換表示によりオイル交換時期になったことを知らせるとする。この場合、下記に列挙するメリットがある。
(a) オイルの熱劣化パラメータは油温と時間であるため、劣化カウント値を指定した場合はオイル劣化のばらつきが小さく抑えられる。例えば、シビアユーザーの場合に劣化カウント値C1に指定されるのに対し、ノミナルユーザーの場合は劣化カウント値C2に指定され、マイルドユーザーの場合は劣化カウント値C3に指定される。つまり、
図13のハッチングにて示す部分が、オイル劣化のばらつき領域になり、
図12のハッチングにて示す部分に比べて遥かに小さい領域に抑えられる。
(b) 指定された劣化カウント値C1に到達すると、ユーザーに対してオイル交換時期を知らせるため、不要といえるユーザーに対してオイル交換を強いることにならず、ユーザーへの負担が軽減される。
【0111】
加えて、劣化カウント値ΣNcがオイル交換表示開始閾値Dthに到達すると、オイル交換必要閾値Rthに至るまでに走行可能な走行可能距離を、実走行距離に対する劣化カウント値ΣNcの上昇勾配が継続すると仮定して推定算出するようにしている。
【0112】
即ち、実走行距離に対する劣化カウント値ΣNcの上昇勾配は、ユーザータイプがシビアユーザーであるかマイルドユーザーであるか等を反映するものである。よって、実走行距離に対する劣化カウント値ΣNcの上昇勾配が継続すると仮定して走行可能距離Meを算出すると、ユーザータイプの違いがそのまま反映された精度の良い走行可能距離Meを算出することができる。
【0113】
[オイル交換表示作用]
まず、
図11に示すフローチャートに基づいてオイル交換表示処理作用を説明する。イグニッションオン中、劣化カウント値ΣNcがオイル交換表示開始閾値Dth以上と判断され、且つ、ΣNc≧Dthとの判断を初めて経験すると、S11→S13→S14→S15→S16→S18へと進む。S15では、ΣNc≧Dthであると最初に判断された時点の走行可能距離初期値Me0が算出される。S16では、算出された走行可能距離初期値Me0と、ΣNc≧Dthであると最初に判断されたときのオドメータ44による距離が記憶される。S18では、メインディスプレイ41とサブディスプレイ42に対して走行可能距離Me(-=走行可能距離初期値Me0)によるオイル交換表示が行われる。
【0114】
イグニッションオン中、劣化カウント値ΣNcがオイル交換表示開始閾値Dth以上と判断され、且つ、ΣNc≧Dthとの判断を複数回経験すると、S11→S13→S14→S17→S18へと進む。S17では、メインディスプレイ41へ表示する走行可能距離Meが、走行可能距離初期値Me0から表示開始後の実走行距離を差し引いて計算される。S18では、メインディスプレイ41とサブディスプレイ42に対してS16で算出された走行可能距離Meによるオイル交換表示が行われる。
【0115】
S18にてメインディスプレイ41とサブディスプレイ42に対して走行可能距離Meによるオイル交換表示された後、ユーザーがリセット操作を開始しないと、S18からS19→エンドへと進み、走行可能距離Meによるオイル交換表示が継続される。しかし、走行可能距離Meを確認したユーザーがオイル交換を行った後、リセットスイッチ43へのリセット操作を開始すると、S19からS20→S21へと進む。S20では、オイル劣化推定コントローラ110に対して劣化カウント値ΣNcをゼロに戻すリセット情報が出力される。S21では、リセット操作を終了したか否かが判断される。S21にてリセット操作を終了したと判断されるとS22へ進み、S22では、メインディスプレイ41とサブディスプレイ42に対して表示している走行可能距離Meによるオイル交換表示が消去される。
【0116】
次に、オイル交換表示作用を、
図14に示すタイムチャートに基づいて説明する。時刻T1、時刻T2、時刻T3は、オイル劣化推定コントローラ110からオイル交換表示開始閾値Dth以上となる劣化カウント値ΣNcを入力していない間でのイグニッションオン/オフ時刻である。
【0117】
時刻T4はオイル劣化推定コントローラ110からオイル交換表示開始閾値Dth以上となる劣化カウント値ΣNcを入力した時刻である。時刻T4にてオイル交換表示開始閾値Dth以上となる劣化カウント値ΣNcを入力し、走行可能距離Meを算出すると、メインディスプレイ41に対して走行可能距離Meによるオイル交換表示が開始され、イグニッションオンからイグニッションオフに切り替えられる時刻T5まで表示が継続される。そして、時刻T4からサブディスプレイ42に対するオイル交換表示が開始される。
【0118】
その後は、イグニッションオン中刻T6からオフ時刻T7まで、イグニッションオン中刻T8からオフ時刻T9まで、イグニッションオン中刻T10からオフ時刻T11まで、メインディスプレイ41に対して走行可能距離Meによりオイル交換表示される。
【0119】
そして、時刻T12にてユーザーによるオイル交換が行われ、時刻T13にてイグニッションオンになったとする。このとき、ユーザーによるオイル交換とイグニッションスイッチ15へのオン操作を条件として、オイル交換表示のリセット操作が許容される。そして、時刻T14にてリセット操作が開始されると、オイル劣化推定コントローラ110に対して劣化カウント値ΣNcをゼロに戻すリセット情報が出力される。時刻T15にてリセット操作を終了すると、メインディスプレイ41とサブディスプレイ42に対して表示しているオイル交換表示が消去される。
【0120】
即ち、走行可能距離Meが算出されると、イグニッションオン中、メインディスプレイ41に対して走行可能距離Meが表示される。このため、ユーザーがメインディスプレイ41への表示を視認するだけで、オイル交換を要することなく走行することが可能な走行可能距離Meの変化情報を、イグニッションオン操作を行う毎に取得できることになる。
【0121】
また、オイル交換表示コントローラ40は、ユーザーがオイル交換を行い、かつ、イグニッションオン中に表示解除操作を開始すると、オイル劣化推定コントローラ110に対して劣化カウント値ΣNcをゼロにするリセット信号を出力する。そして、イグニッションオン中に表示解除操作を終了すると、メインディスプレイ41とサブディスプレイ42への表示を消去するようにしている。
【0122】
即ち、イグニッションオン中に表示解除操作を開始すると、劣化カウント値ΣNcがゼロリセットされ、イグニッションオン中に表示解除操作を終了すると、両ディスプレイ41,42への表示が消去される。このため、ユーザーがオイル交換を行った後、表示解除操作を行うだけで、交換した新たな変速機オイルでのオイル交換判定とオイル交換表示の初期状態に復帰できることになる。
【0123】
以上述べたように、実施例1の自動変速機3のオイル交換表示装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0124】
(1) オイルパン6aに溜められている変速機オイルを用いて油圧系制御を行う変速機コントロールユニット10を備える自動変速機3であって、
変速機コントロールユニット10に、油温と時間に基づいて変速機オイルのオイル劣化度推定値(劣化カウント値ΣNc)を算出するオイル劣化推定コントローラ110を有し、
オイル劣化推定コントローラ110からのオイル劣化度推定値(劣化カウント値ΣNc)を入力し、オイル交換情報を表示するオイル交換表示コントローラ40を設け、
オイル交換表示コントローラ40は、オイル劣化判定閾値として、オイル交換必要閾値Rthに到達する前のオイル劣化度によるオイル交換表示開始閾値Dthを設定し、
オイル劣化度推定値(劣化カウント値ΣNc)がオイル交換表示開始閾値Dthに到達すると、オイル交換必要閾値Rthに至るまでに走行可能な走行可能距離Meの表示を開始し、
走行可能距離Meの表示を開始してからは、オイル劣化度推定値(劣化カウント値ΣNc)によらず、表示開始後の実走行距離に応じて減ってゆく走行可能距離Meを表示する。
このため、変速機オイルの劣化が進行した際、オイル交換時期の看過やオイル交換頻度を高くするのを抑えながら、ユーザーに違和感を与えないオイル交換情報を提示することができる。
【0125】
(2) オイル劣化推定コントローラ110は、オイル劣化度推定値を、変速機オイルの油温に基づく油温熱劣化進行値(油温熱カウント値Nco)と、自動変速機3の変速用クラッチ部の推定温度に基づくクラッチ部熱劣化進行値(クラッチ部熱カウント値Ncc)とを合算した累積熱劣化進行値(劣化カウント値ΣNc)とする。
このため、累積熱劣化進行値(劣化カウント値ΣNc)を計算する際、2つの異なる変速機オイルの熱劣化原因が反映され、ユーザータイプによるバラツキを小さく抑えた精度の良い累積熱劣化進行値(劣化カウント値ΣNc)を計算することができる。
【0126】
(3) オイル劣化推定コントローラ110は、油温熱劣化進行値を、油温が第1設定値以上になった時間t1と油温で決まる熱カウント係数k1により算出した油温熱カウント値Ncoとし、
クラッチ部熱劣化進行値を、変速用クラッチ部の推定温度が第1設定値より高い第2設定値以上になった時間t2と定数k2により算出したクラッチ部熱カウント値Nccとし、
累積熱劣化進行値を、油温熱カウント値Ncoとクラッチ部熱カウント値Nccを合算した劣化カウント値ΣNcとする。
このため、劣化カウント値ΣNcを計算する際、2つの異なる変速機オイルの熱劣化進行特性までも反映され、ユーザータイプによるバラツキを小さく抑えた高精度の劣化カウント値ΣNcを計算することができる。
【0127】
(4) オイル交換表示コントローラ40は、劣化カウント値ΣNcがオイル交換表示開始閾値Dthに到達すると、オイル交換必要閾値Rthに至るまでに走行可能な走行可能距離初期値Me0を、これまでの実走行距離に対する劣化カウント値ΣNcの上昇勾配が継続すると仮定して推定算出する。
このため、劣化カウント値ΣNcがオイル交換表示開始閾値Dthに到達してから減ってゆく走行可能距離Meを逐次算出する際、ユーザータイプの違いが反映された精度の良い走行可能距離Meを算出することができる。
【0128】
(5) オイル交換表示コントローラ40は、イグニッションオン中、表示ディスプレイ(メインディスプレイ41)に対して走行可能距離Meを表示する。
このため、ユーザーが表示ディスプレイ(メインディスプレイ41)への表示を視認するだけで、オイル交換を要することなく走行することが可能な走行可能距離の変化情報を、イグニッションオン操作を行う毎に取得することができる。
【0129】
(6) オイル交換表示コントローラ40は、ユーザーがオイル交換を行い、かつ、イグニッションオン中に表示解除操作を開始すると、オイル劣化推定コントローラ110に対してオイル劣化度推定値(劣化カウント値ΣNc)をゼロにするリセット信号を出力し、
イグニッションオン中に表示解除操作を終了すると、表示ディスプレイ(メインディスプレイ41、サブディスプレイ42)への表示を消去する。
このため、ユーザーがオイル交換を行った後、表示解除操作を行うだけで、交換した新たな変速機オイルでのオイル交換判定とオイル交換表示の初期状態に復帰することができる。
【0130】
以上、本発明の自動変速機のオイル交換表示装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0131】
実施例1では、オイル劣化度推定値として、変速機オイルの油温に基づく油温熱カウント値Ncoと、自動変速機3の変速用クラッチ部の推定温度に基づくクラッチ部熱カウント値Nccとを合算した劣化カウント値ΣNcとする例を示した。しかし、オイル劣化度推定値としては、変速機オイルの油温に基づく油温熱カウント値のみとする例としても良い。さらに、温度による熱カウント値に、変速機オイルの成分変化等による補正を加えて劣化カウント値を決める例としても良い。
【0132】
実施例1では、自動変速機として、前進9速後退1速の自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段ギア段を持つ自動変速機の例としても良いし、無段変速機としても良いし、ベルト式無段変速機と有段変速機とを組み合わせた副変速機付き無段変速機としても良い。
【0133】
実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機3のオイル交換表示装置の例を示した。しかし、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車等に搭載される自動変速機のオイル交換表示装置としても適用することが可能である。
【符号の説明】
【0134】
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 自動変速機
B1 第1ブレーキ(変速用クラッチ部)
B2 第2ブレーキ(変速用クラッチ部)
B3 第3ブレーキ(変速用クラッチ部)
K1 第1クラッチ(変速用クラッチ部)
K2 第2クラッチ(変速用クラッチ部)
K3 第3クラッチ(変速用クラッチ部)
10 変速機コントロールユニット
100 変速コントローラ
110 オイル劣化推定コントローラ
15 イグニッションスイッチ
31 メイン基板温度センサ
32 サブ基板温度センサ
40 オイル交換表示コントローラ
41 メインディスプレイ(表示ディスプレイ)
42 サブディスプレイ(表示ディスプレイ)
43 リセットスイッチ
44 オドメータ
50 CAN通信線
6 コントロールバルブユニット
6a オイルパン