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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】複合材料及び物質の供給方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230619BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230619BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20230619BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
C08L101/00
B32B9/00 A
C08K7/00
C23C26/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019166670
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021042333
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 里紗
(72)【発明者】
【氏名】太原 俊男
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴博
(72)【発明者】
【氏名】幡野 浩
(72)【発明者】
【氏名】中谷 祐二郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 大蔵
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056032(JP,A)
【文献】特開2002-308705(JP,A)
【文献】特開2001-192563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,B32B,C08K,C23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス材と、
少なくとも一端に開口部を有し、前記マトリクス材中に分散されたナノチューブと、
前記ナノチューブ内に担持され、周囲の環境の変化により、前記ナノチューブ外に放出される物質と、
を具備した複合材料であって、この複合材料の下方には、空間を設けて下側部材が設けられていることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
マトリクス材と、
少なくとも一端に開口部を有し、前記マトリクス材中に分散されたナノチューブと、
前記ナノチューブ内に担持され、周囲の環境の変化により、前記ナノチューブ外に放出される物質と、
を具備した複合材料であって、この複合材料の上方には、空間を設けて上側部材が設けられていることを特徴とする複合材料。
【請求項3】
前記空間は前記ナノチューブに担持された物質が放出され溶解する液体、または浸透するゲルを有することを特徴とする請求項1記載の複合材料。
【請求項4】
請求項1又は2記載の複合材料であって、
前記マトリクス材が多孔質材からなる
ことを特徴とする複合材料。
【請求項5】
請求項1又は2記載の複合材料であって、
前記ナノチューブの前記開口部が前記マトリクス材の表面に沿って配列されるよう前記ナノチューブの前記マトリクス材中の方向と位置とが揃えられている
ことを特徴とする複合材料。
【請求項6】
請求項記載の複合材料であって、
前記物質は、固体、ゲル或いはゾル状の状態で、前記ナノチューブの内部に担持されていることを特徴とする複合材料。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項記載の複合材料であって、
前記ナノチューブが、カーボンナノチューブ、セルロースナノチューブ、金属ナノチューブ、セラミクスナノチューブ、樹脂系ナノチューブ、グラスファイバーナノチューブのうちの一種以上である
ことを特徴とする複合材料。
【請求項8】
マトリクス材と、
少なくとも一端に開口部を有し、前記マトリクス材中に分散されたナノチューブと、
前記ナノチューブ内に担持され、周囲の環境の変化により、前記ナノチューブ外に放出される物質と、
を具備した請求項1または請求項2記載の複合材料を使用し、
前記周囲の環境の変化により前記物質を前記ナノチューブに隣接した空間に放出させて前記複合材料の周囲に供給する
ことを特徴とする物質の供給方法。
【請求項9】
請求項8記載の物質の供給方法であって、
前記周囲の環境の変化が、温度変化、圧力変化、電磁気場変化、光の波長変化、光の照射量変化、湿度の変化、気相と液相との変化のいずれかである
ことを特徴とする物質の供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複合材料及び物質の供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械的衝撃の吸収や腐食等から基材を保護するために、基材の表面を覆うように樹脂材料からなる被膜が設けられている。しかし、従来の塗装を代表とする被膜においては、被膜に損傷が発生すると、この部分を起点にして、基材の腐食が連鎖的に進行する場合がある。例えば、塗装としての被膜が損傷すると、まず損傷部において露出した基材が腐食し、減肉もしくは酸化物の形成によりその周囲の被膜に作用して被膜の剥離や破壊を引き起こすと、この被膜剥離部あるいは被膜破壊部に被覆されていた基材がさらに腐食する。
【0003】
また、機械的衝撃の吸収を目的として配される樹脂皮膜には、金属材料よりも、経年劣化に対する材料としての性能或いは形状維持性が短い物があり、前記連鎖的な腐食の温床となる可能性がある。
【0004】
このような、塗装としての被膜損傷等による腐食を抑制する方法として、例えば、電気防食を併用する方法が挙げられる。しかし、電気防食を併用する場合、犠牲陽極材あるいは電気装置等の追加設備が必要となる。これに対し、カーボンナノチューブを塗料に分散させ、塗膜に導電性を持たせることで防食性能を発現する方法が知られており、コンクリートの中に配置される金属の電気防食に活用しているが、コンクリートの中の金属への限定的な範囲への有効性に留まっている。
【0005】
また、腐食を抑制するその他の手段として、被膜自体の性能を向上させる方法がある。被膜自体の性能を向上させる方法としては、例えば、被膜から薬品を放出させる方法がある。
【0006】
薬品を放出させる方法としては、例えば、被膜を構成する樹脂材料自体に薬品を保持させ、この樹脂材料の加水分解を利用して薬品を放出させる方法が挙げられる。また、直接薬品を樹脂材料に保持させるのではなく、マイクロカプセルの内部に薬品を保持させ、これを樹脂材料からなる被膜中に分散させる方法がある。マイクロカプセルの内部に薬品を保持させる方法では、薬品を樹脂材料に直接分散させずに樹脂材料内に薬品を保持させることができるため、薬品による樹脂材料の劣化等を抑制することが可能であるが、一方で、マイクロカプセルからの薬品の放出の確実性や放出の持続性には課題があるともいえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6141654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
機械的な衝撃の緩和や腐食の抑制を目的として塗装等による被膜を施し、被膜から薬品等の物質を放出させる場合、所定の効果を得るために物質を確実に放出させることが求められる。また、被膜から物質を放出させる場合、所定の効果を長期的に得るために物質を持続的に放出させることが求められる。加えて、濡れ環境、乾燥環境、乾湿繰り返し環境等、腐食環境の多様性や変化も視野に入れた上でも効果を得られることが望ましい。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、環境変化に応じて物質を確実にかつ持続的に放出することができる複合材料及び物質の供給方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の複合材料は、マトリクス材と、少なくとも一端に開口部を有し、前記マトリクス材中に分散されたナノチューブと、前記ナノチューブ内に担持され、周囲の環境の変化により、前記ナノチューブ外に放出される物質と、を具備した複合材料であって、この複合材料の下方には、空間を設けて下側部材が設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の複合材料の構成を模式的に示す図。
図2】新生面が形成された場合の物質放出メカニズムを説明するための図。
図3】温度変化により物質が放出される実施形態を説明するための図。
図4】温度変化により物質が放出される他の実施形態を説明するための図。
図5】温度変化により物質が放出される他の実施形態を説明するための図。
図6】気相と液相との変化により物質が放出される実施形態を説明するための図。
図7】光照射の変化により物質が放出される実施形態を説明するための図。
図8】光照射の変化と水により物質が放出される実施形態を説明するための図。
図9】圧力変化により物質が放出される実施形態を説明するための図。
図10】他部材との接触により物質が放出される実施形態を説明するための図。
図11】他部材との接触により物質が放出される他の実施形態を説明するための図。
図12】複合材料の施行方法の例を示す図。
図13】複合材料の施行方法の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、複合材料及び被覆構造物を示す模式図である。なお、図1~13において、対応する部位には、同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0013】
図1に示すように、被覆構造物10は、基材11及び複合材料12を有する。複合材料12は、基材11を被覆するように皮膜として設けられ、樹脂材料、無機材料、これらの混合材料又は積層材料のいずれかからなるマトリクス材13と、このマトリクス材13中に分散され、薬品等の物質を内部に担持させたナノチューブ(以下、物質担持ナノチューブという。)14と、を有する。物質担持ナノチューブ14は、少なくとも一端に開口部15aを有するナノチューブ15と、このナノチューブ15に担持させた薬品等の物質16と、を有する。なお、マトリクス材13中には、物質16を担持していないナノチューブ15が含まれていてもよい。
【0014】
なお、ナノチューブ15としては、例えば物質担持の容易性の観点から、比較的内径の大きい物が望ましい。また、ナノチューブ15の材質としては、その剛性と弾性のバランスを代表とする機械的特性の観点から、カーボンナノチューブが好適であるが、これに限定されるものではない。例えば、セルロースナノチューブ、金属ナノチューブ、セラミクスナノチューブ、樹脂系ナノチューブ、グラスファイバーナノチューブ等も使用することができる。これらのナノチューブは、その使用目的等によって、適宜選択することが好ましい。このように、ナノチューブ15の内部に物質16を担持させることにより、物質16を確実にかつ持続的に放出させることができる。
【0015】
ナノチューブ15への物質16の担持方法としては、公知の担持方法を採用することができる。このような担持方法としては、例えば、物質16を含む溶液中にナノチューブ15を浸漬する方法等が挙げられる。なお、必要に応じて加熱を行ってもよい。物質16は、例えば、固体、ゲル或いはゾル状の状態でナノチューブ15に担持されていてもよい。
【0016】
上記方法を採用した場合、ナノチューブ15の内部及び外部に薬品が担持される。ナノチューブ15の外部に担持された物質16は、例えば、物質16に対して溶解性を有する溶液中に、外部に物質16が担持されたナノチューブ15を浸漬して洗浄することにより除去することができる。
【0017】
基材11の形状は、特に制限されるものではないが、板状、シート状、箔状、筒状、球状等が挙げられる。また、基材11の構成材料は、特に制限されるものではないが、金属材料等が挙げられる。金属材料としては、鉄系金属材料、アルミニウム系金属材料、亜鉛系金属材料、錫系金属材料等が挙げられる。なお、基材11は、各種の表面処理が行われたものでもよい。
【0018】
例えば、図2に示すように、複合材料12の一部が損傷した場合、基材11の一部が露出するとともに、複合材料12に新たな表面である新生面12aが形成される。このとき、新生面12aには、物質担持ナノチューブ14の端部が露出する。物質担持ナノチューブ14は、少なくとも一端に開口部15aを有することから、この開口部15aから物質16が放出され、基材11の露出部分に物質16が供給される。この物質16が防錆剤の場合、基材11の腐食が抑制される。
【0019】
上記のように、複合材料12に新生面12aが形成されると、物質16が放出されるが、新生面12aの形成がない場合においても、複合材料12が置かれた環境の変化に応じて物質16を放出させることができる。図3に示す実施形態では、物質16が放出されるトリガーとなるのは、環境温度Tの変化である。
【0020】
図3に示すように、基材11に接触して複合材料12が配設され、これらの側方には部材17が設けられている。複合材料12は、環境温度の上昇(T1→T2、T1<T2)を受け膨張し、形状変化する。複合材料12の側面は部材17によって伸長が制限されるため、複合材料12と基材11との界面に間隙18が形成される。そして、基材11と複合材料12との間に生じた間隙18に、複合材料12中の物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が放出される。すなわちこの場合、環境温度の上昇が複合材料12の膨張による変形を生じさせ、この結果物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が放出される。
【0021】
この場合、環境変化(環境温度の上昇)によって、物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が放出されるとともに、環境変化(環境温度の上昇)によって、放出された物質16が複合材料12の外部に流出するためのパスが形成される。このように、環境変化によって放出された物質16が複合材料12の外部に導出させるためのパスが形成される例としては、例えば、温度上昇によるマトリクス材13の膨張によって物質担持ナノチューブ14の周囲に形成された間隙等がある。
【0022】
また、マトリクス材13の表面に沿って大部分の物質担持ナノチューブ14の開口部15aが配列されるように、物質担持ナノチューブ14の方向と位置とを揃えることによって、開口部15aから複合材料12の外部に直接物質16を導出できる構成とすることができる。この場合、マトリクス材13の膜厚、使用するナノチューブ15の長さ等を調整すること、複合材料12の表面を削ったり溶媒で溶かすこと、等によってナノチューブ15の一方の開口部15aを、マトリクス材13の表面に沿って配列させることができる。例えば、複合材料12を、基材11の表面を覆う被膜(塗膜)等として使用する場合、マトリクス材13の膜厚は、例えば数十μm程度とする場合が多い。この場合に、例えば長さが100μm程度の物質担持ナノチューブ14等を用いれば、マトリクス材13の表面に沿って大部分の物質担持ナノチューブ14の開口部15aが配列されるようにすることも可能である。なお、図1乃至13では、ナノチューブ15を真っ直ぐな直線状のものとして示してあるが、実際のナノチューブ15は、直線状のものに限らず、不規則に曲がったものも含まれている。
【0023】
複合材料12中の物質担持ナノチューブ14から、担持された物質16が放出されるトリガーとしては、例えば、温度変化、圧力変化、電磁気場変化、変形、機械的接触、振動、摩擦、照射される光の波長変化あるいは光の照射量変化等がある。なお、環境変化によって、複合材料12に新生面12aが形成される場合もある。
【0024】
図4に示す実施形態は、複合材料12の内外部に、物質担持ナノチューブ14から物質16が放出される構成の一例である。物質担持ナノチューブ14から物質16を放出させるトリガーは、この場合は複合材料12に隣接して配される基材11の温度変化である。なお、図4に示す例では、複合材料12の下方には、空間20を設けて下側部材19が設けられている。
【0025】
複合材料12の上面は、上面に隣接して配設された基材11の温度Tの影響を受ける。そして、基材11の温度Tの上昇(T01→T02、T01<T02)に伴い、複合材料12の下面に位置する空間20に、物質担持ナノチューブ14から物質16が放出される。この場合、基材11の温度の上昇により、物質16の温度が上昇し、物質16の膨張や三態変化(融解、気化など)が生じ、その結果物質担持ナノチューブ14から物質16が放出される。
【0026】
このように、例えば加熱等の温度変化により、物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が、複合材料12の内部或いは外部に放出される。放出量は、例えば温度や変形量に依存し、トリガーのパラメータをコントロールすることで放出量や放出持続時間をコントロールすることも可能である。
【0027】
上記のように複合材料12内にて物質担持ナノチューブ14から放出された物質16を、マトリクス材13内を通って複合材料12の外表面にまで導出させるためには、マトリクス材13として、例えば多孔質系の樹脂材料、セラミックスや発泡金属等の無機物からなる多孔質材料等を用いるとよい。また、物質担持ナノチューブ14から放出され、多孔質材料からなるマトリクス材13内に担持された物質16は、別のトリガー、例えば結露等に起因する濡れや噴霧等による水をトリガーとし、通常では多孔質内で溶液となり、流動性が高くなる。
【0028】
図5は、物質担持ナノチューブ14から放出された物質16が、気体23中に拡散する場合の実施形態を示している。図5に示すように、複合材料12の上方には、気体23が存在する空間を設けて上側部材22が設けられている。物質担持ナノチューブ14から物質16を放出させるトリガーは、この場合は複合材料12の温度Tの変化である。温度Tの上昇(T11→T12、T11<T12)によって、物質担持ナノチューブ14から物質16が放出され、環境に存在する気体23中に拡散する。
【0029】
本実施形態において、例えば、環境としての空間に存在する気体23を多湿空気とし、物質担持ナノチューブ14に湿分の作用によりゲル化する物質16を担持させておく。これによって、上記の温度変化によって放出された物質16が、多湿空気と接触することによりゲル化する。ゲル化した物質16は体積が膨張し、環境としての空間に作用する。
【0030】
本実施形態は、例えば、空間の封止や、気液、固体の流出の防止に適用される他、組み立工程における位置出し等にも適用できる。加えて、過加熱や液体の漏洩を検知するセンサとしての応用も可能である。
【0031】
図6は、物質担持ナノチューブ14から放出された物質16が、液体21に溶解する場合の実施形態を示している。複合材料12を液体21に接触させることにより、複合材料12内の物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が液体21中に放出され溶解する。この場合、物質担持ナノチューブ14からの物質16の放出を誘起するトリガーは、液体21との接触であり、複合材料12に接触する環境の気相と液相との変化、換言すれば液体存在率の急激な上昇である。この場合、液体21中に複合材料12を浸漬する場合の他、周囲の環境の湿度変化により物質16が放出されるようにしてもよい。
【0032】
本実施形態では、例えば、液体21中に溶解する物質16を、液体21のpHを変化させるものとして、液体21のpHを制御する目的等で使用することができる。すなわち、複合材料12が液体21に接触することにより、物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が液体21中に放出されて溶解し、液体21と反応して、液体のpHを、例えば高pH側へと制御する。この場合のpHの変化は、例えばpH:X1<pH:X2となる。
【0033】
上記実施形態におけるpHの制御は、例えば、隙間腐食などを生じる低pHの空間において、pHを高pH化する手段として適用でき、腐食の発生・進行を抑制することができる。
【0034】
図7は、複合材料12に含まれる物質担持ナノチューブ14から放出された物質16が、固体(ゲル)24に浸透する場合の実施形態を示している。物質担持ナノチューブ14から物質16を放出させるトリガーは、この場合は光25の照射である。複合材料12の上面から光25が照射されると、ゲル24と接触する複合材料12の下面から、物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が放出され、ゲル24の中に浸透する。光25の照射は、自然光等の一般的な光の照射(照射量の変化)により物質16が放出されるようにしてもよいし、特定の波長域の光の照射(波長の変化)により物質16が放出されるようにしてもよい。さらに、光以外の電磁波の照射や電磁気場の変化により物質16が放出されるようにしてもよい。
【0035】
本実施形態によれば、例えば、組み付け工程後の製品において、外部から光25の照射等を用いることで、ゲル24内に物質16の濃度勾配がついた特殊材にすることができる。この他、樹脂等の硬化制御にも適用できる。
【0036】
なお、光25を物質担持ナノチューブ14に担持された物質16に照射する必要がある場合、物質担持ナノチューブ14の材質は光25を透過し易い物を使用することが好ましい。したがって、黒色のカーボンナノチューブ以外のナノチューブ、例えば、セルロースナノチューブ、グラスファイバーナノチューブ等を使用することが好ましい。
【0037】
図8は、複合材料12が光の照射量変化の影響を受ける場合の他の実施形態を示している。本実施形態では、配管90に塗布施工された複合材料12が屋外に置かれ、晴天と雨天とによる光の照射量変化、及び降雨による水との接触状態の変化の影響を受ける場合の例を示す。日光の照射時には、複合材料12の内部で、物質担持ナノチューブ14から物質16が微量に放出・拡散して複合材料12を強化し、雨天時には複合材料12内で強化に寄与していた物質が浸潤水に溶解し、水膜90aとして配管90表面の環境を制御する。
【0038】
本実施形態では、例えば、環境変化を想定して、ナノチューブに担持する物質を選定することで、環境による劣化を低減、抑制することができる。なお、屋外での単独使用時等では、ナノチューブとして例えば、セルロースナノチューブ、グラスファイバーナノチューブ等を使用することが好ましい。複合材料中にカーボンナノチューブを混入すると、一般的には黒色を呈する。この場合、複合材料を塗料や被覆樹脂として使用する際に、屋外では紫外線の影響等を受ける可能性がある。このため、一般的には無色あるいは薄色であるセルロースナノチューブやグラスファイバーナノチューブを使用することが好ましい。但し、紫外線遮蔽構造がある場合、あるいは非黒色の上塗り塗装や、UV遮蔽樹脂等が重ねて施されるような多層構造をとる場合には、カーボンナノチューブも適する。
【0039】
図9は、複合材料12が存在する環境が、圧力変化を受ける場合の実施形態を示している。テープ状に成形した複合材料12、或いはテープ状で弾性と粘着力を有する部材と物質担持ナノチューブ14を含む複合材料12が積層されてなるテープを、配管91に巻きつける形で接触させた被覆配管92が、減圧された環境93に曝される場合の例を示す。
【0040】
被覆配管92が、減圧された環境93に置かれることで、物質担持ナノチューブ14から物質16が放出され、環境93内に拡散し、被覆配管92が存在する環境93の状態を制御することができる。本実施形態の場合、例えば、減圧と加圧とが断続的に繰り返される環境93の制御を行うことで、閉鎖された環境93下に配された被覆配管92の周りの空間内に、外部から物質を添加することなく、物質16を拡散させることが可能となる。
【0041】
図10は、部材30に固定された複合材料12内の物質担持ナノチューブ14から放出された物質16が、近接して配設された部品31に付着する場合の実施形態を示している。部品31は、図中に示す矢印のように回転可能とされており、複合材料12は、部品31の外周面に近接して配設されている。なお、図10中、複合材料12が配置された部分の構成を、右上の円内に拡大して示してある。
【0042】
部品31が回転している際に、複合材料12が、部品31の外周面に接触すると摺動により複合材料12に擦過傷が形成され、物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が放出される。放出された物質16は、併せて擦過熱を受け、部品31に付着する。物質16が潤滑を促進するものの場合は、部品同士の接触による破損を回避し、摺動性を制御ないし改善する。
【0043】
本実施形態は、例えば、摺動する部材30と、部品31との間に複合材料12を配することで、摺動動作の安定前等の変位が通常より大きい場合などに、部品同士の接触を緩和するだけでなく、接触時の摩擦を瞬時に低減することができる。また、例えば、回転軸の摩耗等によって部品31の振動やブレ等が大きくなり部品31と複合材料12とが接触した時に、物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が放出される構成とすることもできる。
【0044】
このように、摺動部等の動的な動きが含まれる箇所や、衝撃等により機械的な割れや破損が生じ易い箇所に適用する場合は、ナノチューブとして、カーボンナノチューブやセルロースナノチューブが適し、グラスファイバーナノチューブが適さない場合がある。塗料や樹脂とともに破損するナノチューブ類は、摺動箇所等で破損し、砥粒分のように振舞う可能性や、スラッジ状をとる可能性があるため、破断し難いカーボンナノチューブやセルロースナノチューブを使用した方が良い。但し、例えば塗料や樹脂の内部にナノチューブの繊維が概ね方向を整えて配列され、摺動面において機械的な損傷を引き起こしにくい状況が形成される場合は、グラスファイバーナノチューブの使用も可能である。
【0045】
図11は、複合材料12内の物質担持ナノチューブ14から放出された物質16が、近接して配設された部材40と反応する場合の実施形態を示している。複合材料12は、図中矢印で示すように、近接して配設された部材40の表面に沿って摺動可能とされている。ここで、部材40の表面に亀裂41が生じた場合、複合材料12の物質担持ナノチューブ14に担持された物質16が、接触面の表面凹凸の変化をトリガーとして放出される。そして、部材40の亀裂41の部分の近傍の表面と反応し、保護被膜を形成することによって、亀裂41を修復する。
【0046】
本実施形態では、例えば、複合材料12に含まれる物質担持ナノチューブ14に担持する物質16を、硬化剤と溶媒としておく。一方、部材40を構成する樹脂材料内には未硬化剤を入れておく。そして、樹脂材料の表面に亀裂41が生じた場合、摺動部である複合材料12内に含まれる物質担持ナノチューブ14から物質16として硬化剤と溶媒を放出させることによって、未硬化剤と溶媒と硬化剤が反応し、亀裂41の修復を行うことができる。
【0047】
次に、複合材料12を配管等の基材に対して施行する方法について説明する。図12は、複合材料12が塗料として基材50を被覆する場合の実施形態である。複合材料12は、溶媒に可溶で混合液体51の形態を有し、スプレー52により基材50に塗装され、乾燥後は塗装皮膜に類する固体として基材50の表面を被覆することが可能である。なお、塗布方法としては、スプレーを用いる方法の他、他の一般的な塗布方法、例えば、刷毛、ローラー、ディッピング等を採用することができる。
【0048】
本実施形態では、例えば、通常の塗料同様、管状の基材50等の形状の複雑な、多様な基材に対して被覆することが可能であり、防錆塗装やUV劣化の抑止など、外部環境の遮断や利用により、非常に高い機能を発現することができる。
【0049】
図13は、複合材料12がシート状(テープ状)の構造を有し、管状の基材60の保護材等として用いられる場合の実施形態を示している。シート状(テープ状)に成形した複合材料12を、管状の基材60や角部を有する基材等に巻きつけたり接着したりする形で基材と接触状態にて配設する。これによって、管状の基材60のつなぎ目や溶接部など、材料として劣化の起点となりうる箇所を物理的に保護することができる。
【0050】
また、管状の基材60や角部を含む基材に対し、紫外線照射や雨天晴天等の天候変化による乾湿繰り返し等、劣化促進環境が生じた際、複合材料12に含まれる物質担持ナノチューブ14から物質16が放出され、配管等の表面に保護被膜を形成するほか、形成した水膜環境を制御することが可能である。
【0051】
本実施形態では、例えば、重力影響を受けやすい箇所等に対する複合材料12の施工が、塗料等の液体やゲル材を用いた場合よりも容易である他、経年劣化による複合材料12の交換等も比較的容易に実施することができる。
【0052】
以上の実施形態によれば、物質担持ナノチューブ14に担持された物質16を、温度変化、圧力変化、電磁気場変化、光の波長変化、光の照射量変化、湿度の変化、気相と液相との変化などの周囲の環境変化に応じて物質を確実にかつ持続的に放出することができ、所望の部位に供給することができる。
【0053】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10…被覆構造物、11…基材、12…複合材料、13…マトリクス材料、14…物質担持ナノチューブ、15…ナノチューブ、15a…開口部、16…物質。
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図11
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図13