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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】クレーンおよびクレーン制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/22 20060101AFI20230619BHJP
【FI】
B66C13/22 M
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019204401
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021075372
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桃井 康行
(72)【発明者】
【氏名】家重 孝二
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕吾
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-149986(JP,A)
【文献】特開昭60-153392(JP,A)
【文献】特開昭55-123882(JP,A)
【文献】特開平06-080387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/22
B66C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロープにより吊下げられる吊荷を水平方向に水平移動させる水平移動装置と、前記水平移動装置を制御するための速度指令を生成する速度指令生成部と、前記速度指令に従い前記水平移動装置の速度を制御するクレーン制御部とを有するクレーンであって、
前記速度指令生成部は、前記速度指令として、前記水平移動の速度変更開始の際における速度から所定の速度に変更する第1の速度パターンを生成し、前記速度変更開始の際の第1の荷振れと前記第1の速度パターンによる駆動で生じる第2の荷振れとを重ね合わせて生成される第3の荷振れを打消すような加減速を行う第2の速度パターンを生成し、
前記クレーン制御部は、前記速度変更開始の際から前記第1の速度パターンにより前記水平移動装置を制御し、前記第3の荷振れの荷振れ量が最大となる時刻と前記第2の速度パターンの中心時刻を一致させるように前記水平移動装置を制御することで、生成された前記第1の速度パターンと前記第2の速度パターンにより前記水平移動装置を制御することを特徴とするクレーン。
【請求項2】
請求項1記載のクレーンにおいて、
前記速度指令生成部は、前記第1の速度パターンとして、当該クレーンの前記水平移動を減速し、停止させる減速パターンを用いることを特徴とするクレーン。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のクレーンにおいて、
前記速度指令生成部は、前記第2の速度パターンにおける制御の開始時刻、時間幅および最大速度を、前記第3の荷振れの振幅、位相および前記ロープの長さに応じた角周波数、前記速度変更開始の際におけるクレーンの速度、前記第1の速度パターンの速度が変更される時間に基づいて算出して、前記第の速度パターンを生成することを特徴とするクレーン。
【請求項4】
請求項記載のクレーンにおいて、
前記速度指令生成部は、
前記第1の荷振れの振幅および位相を、前記第1の荷振れにおける荷振れ量、荷振れ速度および角周波数に基づき算出し、
算出された前記第1の荷振れの振幅、位相および角周波数と、前記第1の速度パターンである減速パターンの減速時間に基づいて、前記第3の荷振れの振幅および位相を算出することを特徴とするクレーン。
【請求項5】
請求項3または4のいずれかに記載のクレーンにおいて、
前記速度指令生成部は、前記第2の速度パターンとして、台形波を示す第2の速度パターンを生成することを特徴とするクレーン。
【請求項6】
請求項記載のクレーンにおいて、
前記速度指令生成部は、前記第1の速度パターンとして、前記水平移動の速度変更が一定割合での加速ないし減速を示す第1の速度パターンを生成し、
前記台形波は、開始時刻をTw、時間幅をT2、最高速度をVdmax、前記台形波の上底/下底をr、前記角周波数をwr、前記第3の荷振れの振幅をA01、前記位相をθ01とした場合(nは0もしくは1)、
θ01=(2*n+1/2)*π-Tw*wr-T2*wr/2
A01= -4*Vdmax*(cos(r*T2*wr/2)-cos(T2*wr/2))/((1-r)*T2*wr^2)
を満たすことを特徴とするクレーン。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれかに記載のクレーンにおいて、
さらに、前記吊荷の荷振れ量および荷振れ速度を取得する荷振れ取得部を有し、
前記速度指令生成部は、前記荷振れ量および前記荷振れ速度を用いて、前記速度指令を生成することを特徴とするクレーン。
【請求項8】
請求項記載のクレーンにおいて、
前記荷振れ取得部は、前記荷振れの角周波数もしくは前記ロープの長さから求めた前記角周波数と、前記クレーンの前記速度指令から、前記荷振れ量および前記荷振れ速度を推定することを特徴とするクレーン。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれかに記載のクレーンにおいて、
前記吊荷および前記クレーンに対する障害物を検出する障害物検出部と、
前記障害物検出部で検出された前記障害物と前記吊荷および前記クレーンの少なくとも一方とが衝突する危険の有無を判定し、前記衝突の危険がある場合に前記速度指令生成部に停止動作を開始する停止動作開始信号を出力する衝突判定部とをさらに有することを特徴とするクレーン。
【請求項10】
ロープにより吊下げられる吊荷を水平方向に水平移動させる水平移動装置と、前記水平移動装置を制御するための速度指令を生成する速度指令生成部と、前記速度指令に従い前記水平移動装置の速度を制御するクレーン制御部とを有するクレーンを制御するクレーン制御方法であって、
前記速度指令生成部により、前記速度指令として、前記水平移動の速度変更開始の際における速度から所定の速度に変更する第1の速度パターンを生成し、前記速度変更開始の際の第1の荷振れと前記第1の速度パターンによる駆動で生じる第2の荷振れとを重ね合わせて生成される第3の荷振れを打消すような加減速を行う第2の速度パターンを生成し、
前記クレーン制御部により、前記速度変更開始の際から前記第1の速度パターンにより前記水平移動装置を制御し、前記第3の荷振れの荷振れ量が最大となる時刻と前記第2の速度パターンの中心時刻を一致させるように前記水平移動装置を制御することで、生成された前記第1の速度パターンと前記第2の速度パターンにより前記水平移動装置を制御することを特徴とするクレーン制御方法。
【請求項11】
請求項10記載のクレーン制御方法において、
前記速度指令生成部により、前記第1の速度パターンとして、当該クレーンの前記水平移動を減速し、停止させる減速パターンを用いることを特徴とするクレーン制御方法。
【請求項12】
請求項10または11のいずれかに記載のクレーン制御方法において、
前記速度指令生成部により、前記第2の速度パターンにおける制御の開始時刻、時間幅および最大速度を、前記第3の荷振れの振幅、位相および前記ロープの長さに応じた角周波数、前記速度変更開始の際におけるクレーンの速度、前記第1の速度パターンの速度が変更される時間に基づいて算出して、前記第の速度パターンを生成することを特徴とするクレーン制御方法。
【請求項13】
請求項12記載のクレーン制御方法において、
前記速度指令生成部により、
前記第1の荷振れの振幅および位相を、前記第1の荷振れにおける荷振れ量、荷振れ速度および角周波数に基づき算出し、
算出された前記第1の荷振れの振幅、位相および角周波数と、前記第1の速度パターン
である減速パターンの減速時間に基づいて、前記第3の荷振れの振幅および位相を算出することを特徴とするクレーン制御方法。
【請求項14】
請求項12または13のいずれかに記載のクレーン制御方法において、
前記速度指令生成部により、前記第2の速度パターンとして、台形波を示す第2の速度パターンを生成することを特徴とするクレーン制御方法。
【請求項15】
請求項14記載のクレーン制御方法において、
前記速度指令生成部により、前記第1の速度パターンとして、前記水平移動の速度変更が一定割合での加速ないし減速を示す第1の速度パターンを生成し、
前記台形波は、開始時刻をTw、時間幅をT2、最高速度をVdmax、前記台形波の上底/下底をr、前記角周波数をwr、前記第3の荷振れの振幅をA01、前記位相をθ01とした場合(nは0もしくは1)、
θ01=(2*n+1/2)*π-Tw*wr-T2*wr/2
A01= -4*Vdmax*(cos(r*T2*wr/2)-cos(T2*wr/2))/((1-r)*T2*wr^2)
を満たすことを特徴とするクレーン制御方法。
【請求項16】
請求項10乃至15のいずれかに記載のクレーン制御方法において、
さらに、前記吊荷の荷振れ量および荷振れ速度を取得する荷振れ取得部を有し、
前記速度指令生成部は、前記荷振れ量および前記荷振れ速度を用いて、前記速度指令を生成することを特徴とするクレーン制御方法。
【請求項17】
請求項16記載のクレーン制御方法において、
前記荷振れ取得部は、前記荷振れの角周波数もしくは前記ロープの長さから求めた前記角周波数と、前記クレーンの前記速度指令から、前記荷振れ量および前記荷振れ速度を推定することを特徴とするクレーン制御方法。
【請求項18】
請求項10乃至17のいずれかに記載のクレーン制御方法において、
前記クレーンは、障害物検出部および衝突判定部をさらに有し、
前記障害物検出部により、前記吊荷および前記クレーンに対する障害物を検出し、
前記衝突判定部により、前記障害物検出部で検出された前記障害物と前記吊荷および前記クレーンの少なくとも一方とが衝突する危険の有無を判定し、前記衝突の危険がある場合に前記速度指令生成部に停止動作を開始する停止動作開始信号を出力するとことを特徴とするクレーン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷を吊下げて搬送するクレーンの動作を制御する技術に関する。具体的には、クレーン、クレーン制御装置、クレーン制御方法およびクレーンを制御するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クレーンの熟練作業者の高齢化や、クレーン設置台数の増加による人手不足に伴い、経験の浅い非熟練作業者がクレーンを運転(操作)する場合が増加している。非熟練作業者によるクレーン操作においては、障害物の位置や高さの見誤りや、周辺障害物の見落し、吊荷の荷振れなどのクレーンの挙動予測の未熟さ、クレーン操作に不慣れなための誤操作などが生じるリスクがある。このため、非熟練作業者によるクレーン操作では、熟練作業者のクレーン操作に比べ、吊荷と障害物の衝突や挟まれ等の事故発生が高くなりがちである。
【0003】
事故を防ぐ対策の一つとして、特許文献1に開示の技術がある。特許文献1には、荷振れを抑制しつつ、クレーンを停止する制御方法として、クレーンを停止動作開始時に、一度ノッチの投入あるいは機械的制動を行った後、その振れ周期の1/2後のタイミングで1回又は複数回の逆ノッチの投入又は機械的制動を行うか、その振れ周期の1/4後のタイミングで1回又は複数回の逆ノッチ投入又は機械的制動を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-324960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の方法ではノッチもしくは機械的制動による減速後に1回以上のノッチ(三角波速度パターン)を入れて荷振れを抑制しているが、1回の操作で確実に停止させるものではなく、結果、制動距離の低減を期待できるものではない。これに対して、クレーンを速やかに安全に停止させること、すなわち、停止など即変化が発生する場合の荷振れを抑制しつつ、制動距離が短いことが望ましい。
【0006】
ここで、クレーン速度を変化させると、目標速度に達するまでの時間ないし速度変化が一定範囲内までの時間や移動距離と、荷振れの大きさがトレードオフの関係となる。つまり、クレーン速度の変化の割合を大きくすると、上記の時間ないし移動距離は短くなるが、荷振れが大きくなってしまう。特に、急峻に速度を変化させるとこの問題がより顕著になる。例えば、速度変化の一例としてクレーンを停止させると、停止するまでにトロリが移動する制動距離は短いものの、大きな荷振れが発生する。荷振れを低減させるには速度変化時間(例えば、減速時間)を長くしたり、荷振れを抑制するための制御を加えればよいが、この場合、荷振れを抑制できるものの、制動距離が長くなるという問題がある。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、荷振れを抑制しながらも制御による距離や時間を短くすることが可能な、より安全性の高いクレーンの動作を制御する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、クレーンの制御開始の際における荷振れと、クレーン制御による第1の速度パターンにより生じる荷振れを重ね合わせた「重複荷振れ」(制御とは、目標速度ないし速度変化が一定範囲内となる制御)を打消す第2の速度パターンを生成し、この加減速パターンを用いてクレーンの動作を制御する。その一例を挙げると、ロープにより吊下げられる吊荷を水平方向に移動させる水平移動装置と、該水平移動装置を制御するための速度指令を生成する速度指令生成部と、前記速度指令に従い前記水平移動装置の速度を制御するクレーン制御部とを有するクレーンであって、前記速度指令生成部は、前記速度指令として、前記水平移動の速度変更開始の際における速度から所定の速度に変更する第1の速度パターンを生成し、前記速度変更開始の際の第1の荷振れと前記第1の速度パターンによる駆動で生じる第2の荷振れとを重ね合わせて生成される第3の荷振れを打消すような加減速を行う第2の速度パターンを生成し、前記クレーン制御部は、前記速度変更開始の際から前記第1の速度パターンにより前記水平移動装置を制御し、前記第3の荷振れの荷振れ量が最大となる時刻と前記第2の速度パターンの中心時刻を一致させるように前記水平移動装置を制御することで、生成された前記第1の速度パターンと前記第2の速度パターンにより前記水平移動装置を制御するクレーンである。
【0009】
また、本発明には、上記クレーンでの制御方法、本制御方法を実行し、クレーンを制御するためのプログラムも含まれる。
【0010】
なお、ここで、上記の「ロープ」という用語は、ロープだけでなく、チェーン、紐、縄、ベルト、ケーブル等、荷物の吊下げに用いることができる道具全般を表すものとして定義する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、速度変化による荷振れをより少ないか数の加減速で打消すないし減少することができるので、荷振れを抑制しつつ目標速度までの距離を低減することが可能となり、クレーンの安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の対象とするクレーンの一例における機構を示す図である。
図2】本発明における実施例1のクレーンの構成を示す図である。
図3】実施例1で生成される速度パターンを示す図である。
図4】実施例1のクレーンの速度指令生成部の処理フローを示す図である。
図5】実施例1の動作例を説明する図である。
図6】本発明における実施例2のクレーンの構成を示す図である。
図7】本発明における実施例3のクレーンの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明におけるクレーンのいくつかの実施例を、図面を用いて説明する。
【0014】
ここで、本発明は、吊荷を水平方向に移動可能なクレーン全般に有効である。すなわち、トロリにより吊荷を横行および走行させるクレーン(例えば、天井クレーン)はもちろん、横行又は走行のみを行うクレーン(例えば、アンローダ)やいわゆるクレーン車においても適用できる技術である。つまり、本明細書において、「クレーン」という用語は、吊荷を水平方向に移動可能なすべての種類のクレーンを含む。なお、水平とは、クレーン車のアームなどによる曲線移動も含む。つまり、移動により吊荷に対して荷振を発生しうる移動を含む。
【0015】
また、クレーンで搬送する荷物(吊荷)は、ロープやチェーン等により吊下げられて搬送されるが、本発明においては荷物の吊下げに用いることができる道具であればなんでも良く、材質や形状等にも無関係である。そのため、上述したように、本明細書において「ロープ」という用語は、荷物の吊下げに用いる道具を総称する用語として記載している。すなわち、「ロープ」には、いわゆるロープだけでなく、チェーン、ベルト、ワイヤー、ケーブル、紐、縄、等が含まれる。
【0016】
<実施例1>
図1から図5を用いて、本発明における実施例1のクレーンを説明する。なお、各図において、同一機器(装置)には同一符号を付し、後の図の説明では既出の機器の説明は省略する場合がある。
【0017】
図1は、天井クレーンの機構の概略を示す図である。なお、本発明が天井クレーンに限定されないことは上述したとおりである。
【0018】
図1において、クレーン1は、建屋(図示せず)の両側の壁に沿って設けられたランウェイ2と、このランウェイ2の上面を移動するガーダ3と、ガーダ3の下面に沿って移動するトロリ4から構成される。トロリ4の下部には図示しない巻上機(ホイスト)が設けられており、これを用いてロープ5を巻上げ、または、巻下げることにより、ロープ5の先端のフック6を昇降させる。このフック6に直接ないしはワイヤー7を介して吊荷8を吊下げており、フック6の昇降に伴い、吊荷8が昇降する。すなわち、クレーン1は、ガーダ3の水平方向の移動(以下、単に「走行」と称する)とトロリ4の水平方向の移動(以下、単に「横行」と称する)により吊荷8を水平方向に移動させ、巻上機により吊荷8を垂直方向(上下方向)に昇降させることができる。
【0019】
本実施例では、このトロリ4による横行、ガーダ3による走行により、水平方向移動が行われる。この図1では、トロリ4とガーダ3が水平移動装置に該当する。本発明は吊荷を水平方向に移動する動作に関係するので、本発明の実施例1に関する以下の説明は横行と走行による水平方向移動の動作を中心に説明する。したがって、以下の実施例の説明において、吊荷の移動とは、トロリ4を駆動した移動(横行)、ガーダ3を駆動した移動(走行)のいずれか、あるいは両方を示す。
【0020】
図2は、本発明の実施例1におけるクレーンの構成を示す図である。図2では、説明を簡単にするためにトロリ4により横行するクレーン1を示しており、ガーダ3による走行は図では省略している。また、トロリ4とガーダ3を移動するためのモータ等の駆動部は省略している。
【0021】
図2において、10は、吊荷8を目的位置まで移動するために水平移動装置(ガーダ3とトロリ4)を制御する速度パターン等を生成する速度指令生成部であり、ここでは汎用の計算機を使用した例を示している。101は、内蔵しているプログラムやデータ等を用いて、速度パターンを生成するなどの演算処理を実行するMPU(マイクロプロセッシングユニット)である。102は、そのプログラムやデータ等を記憶するメモリである。103は、外部からのデータや信号の入力やMPUが演算処理した信号等を外部に出力するための入出力制御部である。104は、速度指令生成部10内の各構成機器の相互の信号やデータの授受を行うためのバスである。12はクレーン制御部であり、速度指令生成部10から出力される速度パターンを入力し、トロリ4の水平方向移動(横行)速度を制御する。クレーン制御部12は、入力された速度パターンに応じた制御信号をトロリ4に巣出力する。また、クレーン制御部12は、速度指令生成部10にその機能を持たせ、速度指令生成部10から制御信号を出力してもよい。
【0022】
なお、図2では省略しているが、速度指令生成部10は、トロリ4だけでなく、走行制御する場合にはガーダ3の水平方向移動(走行)速度を制御する速度パターンを出力する。ガーダ3側ではこの速度パターンにより吊荷の水平方向移動(走行)速度が制御される。また、速度指令生成部10には、図示しないロープ長検出器の出力であるロープ長さL0と、同じく図示しない速度検出器から停止動作開始時点の速度Vsが入力される。なお、ロープ長L0および速度Vsが変動しない場合には、それらのデータをメモリ102に記憶しておけばよい。なお、9は障害物を示す。この障害物9は吊荷の搬送経路途中に常に存在するわけではないが、存在する可能性がある場合を想定したものである。
【0023】
なお、本明細書では、クレーンの減速、停止を例に説明するが、各実施例では加速や停止まではされない速度までの減速などの目標速度までの制御へも適用可能である。この場合、減速開始時点の速度は、制御開始の際における速度を用いる。また、減速開始時点とは、速度検出器で入力される他、制御に基づく予測値であっても構わない。
【0024】
次に、図2のクレーンの制御内容の詳細について説明する。図2において、操作者が操作入力装置100により吊荷の移動方向を指示すると、速度指令生成部10は指示された移動方向に対応した方向にガーダ3、トロリ4を移動させる速度指令を生成する。クレーン制御部は生成された速度指令に従いガーダ3、トロリ4を駆動して、吊荷8を水平方向に移動(この場合、横行)させる。
【0025】
水平方向の移動(横行、走行)を停止させる場合、操作者は操作入力装置100を使い停止動作開始信号11を速度指令生成部10に指示する。例えば、操作入力装置100に移動方向に対応した押しボタンが配置される。そして、移動を開始するときは移動したい方向に対応するボタンを押し、停止させたい時はそのボタンを離すことにより操作する場合、押しボタンが離されたときに停止動作開始のトリガーとなる停止動作開始信号11が速度指令生成部10に入力される。または、別途設けられた停止ボタンや、外部機器から停止動作開始信号11が入力されるようにしてもよい。
【0026】
図3は、停止動作開始信号11が入力されたときに速度指令生成部10が生成する速度パターンの図である。停止動作開始信号11が入力されると、まず、ガーダ・トロリ速度を停止動作開始時のVsから時間幅T1で減速する第1の速度パターンv1で駆動する。そして、停止動作開始時の荷振れとv1による駆動により生じる荷振れを打ち消すように、停止動作開始からTw後に時間幅T2、最高速度Vdmaxで加減速を行う第2の速度パターンv2で駆動する。これらの速度パターンは、次のような関係式により求められる。なお、速度パターンとは、速度の変動を示すパターンであればよい。
【0027】
まず、クレーンの速度指令から荷振れ量までの伝達関数P(s)は次式で与えられる。
P(s)=-s/(s^2+wr^2)・・・(数1)
ここで、wrは荷振れの角周波数であり、吊荷の荷振れ周期Tcからwr=2*π/Tcで求められる。または、ロープの回転中心から吊荷の重心までの距離Lから、wr=sqrt(g/L)(g:重力加速度)で求められる。なお、Lは、ロープの長さL0に、フック位置からとワイヤーにより吊り下げられている吊荷の重心までの距離△Lを加算して求められる。△Lは吊荷や使用するワイヤーにより変化するが、トロリに取り付けた距離センサなどにより計測したり、あるいは、操作者が入力して、予めメモリ102に記憶しておく。
【0028】
停止動作開始時の荷振れx0(t)は次式のように与えられる。
x0(t)=A0*sin(wr*t+θ0)・・・(数2)
ここで、停止動作開始時の荷振れ量をx0(0)、荷振れ速度v0(0)とすると、A0とθ0は、以下のとおりである。
A0=sqrt(x0(0)^2+(v0(0)/wr)^2)・・・(数3)
θ0=atan((v0(0)/wr)/x0(0))・・・(数4)
第1の速度パターンv1が時間tに関する関数v1(t)で与えられると、v1(t)でトロリを駆動したときに発生する荷振れx1(t)は、v1(t)をラプラス変換してV1(s)を求め、X1(s)=P(s)*V1(s)を逆ラプラス変換することにより求めることができ、次式のように与えられる。
x1(t)=A1*sin(wr*t+θ1)・・・(数5)
ここで、v1(t)が一定の減速度での減速とすると、A1とθ1は、以下のとおりである。
A1=2*Vs*sin(T1*wr/2)/(T1*wr^2)・・・(数6)
θ1=-T1*wr/2・・・(数7)
ここで、Vsは停止動作開始時のトロリの速度、T1は減速時間である。
【0029】
第2の速度パターンv2が時間tに関する関数v2(t)で与えられると、v2(t)でトロリを駆動したときに発生する荷振れx2(t)は、v2(t)をラプラス変換してV2(s)を求め、X2(s)=P(s)*V2(s)を逆ラプラス変換することにより求めることができ、次式のように与えられる。
x2(t)=A2*sin(wr*t+θ2)・・・(数8)
ここで、v2(t)が台形波とすると、A2とθ2は、以下のとおりである。
A2=-4*Vdmax*(cos(r*T2*wr/2)-cos(T2*wr/2))/((1-r)*T2*wr^2)・・・(数9)
θ2=π/2-Tw*wr-T2*wr/2・・・(数10)
ここで、rは台形波の上底/下底である。
【0030】
停止後の荷振れを抑制するためには、x0(t)とx1(t)とを重ね合わせた荷振れx01(t)を、x2(t)で打ち消すようにすればよい。
【0031】
x01(t)は次式で与えられる。
x01(t)=A01*sin(wr*t+θ01)・・・(数11)
ここで、数11で用いられるA01とθ01は、以下のとおりであある。
A01=sqrt(2*Vs^2+A0^2*T1^2*wr^4-2*Vs^2*cos(T1*wr)-2*A0*T1*Vs*wr^2*sin(θ0)+2*A0*T1*Vs*wr^2*sin(θ0+T1*wr))/(T1*wr^2)・・・(数12)
θ01=atan((-Vs+Vs*cos(T1*wr)+A0*T1*wr^2*sin(θ0))/(A0*T1*wr^2*cos(θ0)+Vs*sin(T1*wr)))・・・(数13)
x01(t)をx2(t)で打ち消すには、x01(t)とx2(t)の位相を一致させ、振幅を打消し合うようにすればよい。したがって、θ01=θ2、A01=-A2とすればよい。
θ01=θ2より、次式が得られる。
Tw+T2/2=(π/2-θ01)/wr・・・(数14)
これより、v2(t)の中心時刻(t=Tw+T2/2)でのx01(t)は次式のようになる。
x01(Tw+T2/2)=A01*sin(π/2)・・・(数15)
これは、x01(t)が最大となる時刻とv2(t)の中心時刻を一致させればよいことを示している。
【0032】
A01=-A2より、次式が得られる。
Vdmax=1/4*A01*(1-r)*T2*wr^2/(cos(r*T2*wr/2)-cos(T2*wr/2))・・・(数16)
この式から、T2、Vdmax、rは次のように求めることができる。
【0033】
まず、T2の設定時間T、Vdmaxの設定速度Vが与えられた場合、rは次のように決定する。T2*wr/2が微小と仮定すれば、Vdmaxは次式のように近似できる。
Vdmax=2*A01/(1+r)/T2・・・(数17)
これから、rは次式のように決定する。
r=2*A01/T/(k*V)・・・(数18)
ここで、kは近似の影響を考慮した補正係数である。決定したrから数16によりVdmaxの厳密解を計算する。
【0034】
また、Vdmaxの設定速度V、台形波の加速度の設定加速度αが与えられた場合には次のようにT2、rを決定してもよい。T2*wr/2が微小と仮定すれば、加速度は次式のように求めることができる。
α=Vdmax/((1-r)*T2/2)
=4*A01/(1-r^2)/T2^2・・・(数19)
これより、T2、rは次式のように決定する。
T2=A01/(k*V)+(k*V)/α・・・(数20)
r=2*α*A01/(α*A01+(k*V)^2)-1・・・(数21)
決定したT2、rから数16によりVdmaxの厳密解を計算する。
【0035】
さらには、rを0、すなわち、三角波として、Vdmaxの設定速度Vが与えられた場合には、次のようにT2を決定する。r=0とすると、Vdmaxは次式のようになる。
Vdmax=1/8*A01*T2*wr^2/sin(T2*wr/4)^2・・・(数22)
T2*wr/4が微小と仮定すれば、Vdmaxは次式のように近似できる。
Vdmax=2*A01/T2・・・(数23)
これから、T2は次式のように決定する。
T2=2*A01/(k*V)・・・(数24)
ここで、kは近似の影響を考慮した補正係数である。決定したT2から数22によりVdmaxの厳密解を計算する。
【0036】
また、rを0で、台形波の加速度の設定加速度αが与えられた場合には、次のようにT2、Vdmaxを決定してもよい。加速度は次式のように求めることができる。
α=Vdmax/(T2/2)
=1/4*A01*wr^2/sin(T2*wr/4)^2・・・(数25)
これより、T2は次式のように決定する。
T2=4/wr*asin(1/2*sqrt(A01*wr^2/α))・・・(数26)
Vdmaxは、決定したT2から数22により計算する。
【0037】
v2(t)の開始時刻Twは次式により求められる。
Tw=(π/2-θ01)/wr-T2/2・・・(数27)
この式でTw<0となる場合、停止動作開始前にv2(t)による駆動を開始しなくてはならなくなるため、これを実現することはできない。この場合はx01(t)が角周期2πの周期関数であることから、1周期後に荷振れ量が最大となる時刻とv2(t)の中心時刻を一致させるようにすればよい。よって、Twは次式による決定する。
Tw=((2*n+1/2)*π-θ01)/wr-T2/2・・・(数28)
ここで、nは0もしくは1である。
【0038】
以上のようにすれば、第2の速度パターンv2の開始時刻Twと時間幅T2、最高速度Vdmax、台形波の上底/下底rを決定することができる。
【0039】
なお、停止動作開始時の速度Vsが極低速の場合には、T1はほぼ0となる。この場合には停止動作開始時の荷振れx0(t)と第1の速度パターンによる荷振れx1(t)を重ね合わせた荷振れx01(t)はx0(t)のみとなることから、x01(t)の振幅A01、位相θ01は、x0(t)の振幅A0、位相θ0と見なせばよい。
制動距離を短くするためには、第1の速度パターンv1(t)の時間幅T1と第2の速度パターンv2(t)の時間幅T2を小さくすることが望ましい。そのためには、ガーダ・トロリの性能から、v1(t)の減速度、v2(t)の最高速度の設定値V、加速度の設定値αをできるだけ大きく取ることが望ましい。
【0040】
図4は速度指令生成部10の処理フローの図である。以下に処理の詳細を説明する。
S01では、停止動作開始時の荷振れ量x0(0)、荷振れ速度v0(0)から数3、数4により停止動作開始時の荷振れx0(t)の振幅A0、位相θ0を推定する。なお、停止動作開始時のガーダ・トロリ速度Vsが極低速で、かつ、A0が荷振れ量の許容値より小さければ、以降の計算は行わず、停止させてよい。
S02では、A0、θ0、Vs、第1の速度パターンv1の時間幅T1、荷振れの角周波数wrから、数12、数13によりx0とv1による駆動により生じる荷振れx1とを重ね合わせた荷振れx01の振幅A01、θ01を求める。このとき、Vsが極低速の場合は、v1による駆動は行わず(T1=0)とし、A01=A0、θ01=θ0とする。
S03では、A01とwr、台形波の上底/下底rを0、すなわち、三角波とした第2の速度パターンv2の最高速度の設定値Vから、数24、数22によりv2の時間幅T2、最高速度Vdmaxを求める。
S04では、S03で得られたT2を閾値T2s=2*((π/2-θ01)/wr-T1)と比較する。T2>T2sならば、r>0とすることでT2を短縮できる可能性があるので、最高速度、時間幅を規定したパラメータ計算を行う。
S05では、VdmaxをV、T2をT2sとして、数17、数18によりVdmax、rを求める。得られた台形波の加速度が最大加速度以下の場合には、駆動可能な台形波が決定されたとしてS10へ進む。
【0041】
S06では、加速度が最大加速度αmaxを超えるかを判定し、超える場合には加速度がαmax以下になるように加速度を規定したパラメータ計算を行う。
S07では、加速度の設定値をαmaxとして、数26、数22によりT2、Vdmaxを求める。
【0042】
S08では、三角波の加速度が許容値(最低許容加速度αmin)以下か判定する。許容値以下の場合には、r>0とすることでT2を短縮できる可能性があるので、最高速度、加速度を規定したパラメータ計算を行う。
【0043】
S09では、VdmaxをV、加速度のαminとして、数20、数21、数16によりT2、r、Vdmaxを求める。
S10では、数28により開始時間Twを計算する。まず、n=0として計算し、Tw<0となるときはn=1として再計算する。
【0044】
以上のように速度パターンのパラメータを計算すると、三角波では時間幅が大きくなる場合には台形波として時間幅を短縮するので、荷振れを抑制し停止するまでの時間と制動距離を短くすることが可能となる。
【0045】
図5は本実施例1の動作を説明する図であり、上からトロリ速度、荷振れ量の時間的な推移を示している。図5より、停止動作開始信号11が入力された停止動作開始時から第1の速度パターンに従い減速を開始する。その後、第2の速度パターンである台形波速度指令により駆動させることにより、停止動作開始時及び減速により生じた荷振れが台形波速度指令により打消され、トロリが停止して以降の荷振れが抑制できていることが分かる。また、1回の台形波により停止できるので、複数回の操作を行う方法に比べ制動距離も短くすることができる。
【0046】
以上のように、この実施例1によれば、減速による荷振れを1回の加減速で打消すことができ、荷振れを抑制しつつ制動距離を低減することが可能となり、クレーンの安全性を高めることができる。
【0047】
なお、以上の実施例ではクレーンを停止させる場合について説明したが、任意の速度に変更する場合も同様にして荷振れを抑制することは可能である。また、第1の速度パターンと第2の速度パターンが重なり合う、すわなち、Tw<T1であってもよい。
【0048】
<実施例2>
次に、本発明の実施例2のクレーンを説明する。なお、上述の実施例との共通点についての重複説明は省略する。図6は実施例2におけるクレーンの構成を示す図である。実施例2において、図2に示す実施例1と大きく異なる点は、図6では吊荷の荷振れ量と荷振れ速度を取得する荷振れ量取得装置を有している点である。これまでの実施例の速度指令生成では、停止動作開始時の荷振れx0の振幅A0、位相θ0を使用しており、これらは荷振れ量取得装置により取得された停止開始時の荷振れ量x0(0)、荷振れ速度v0(0)より、数3、数4により求めることができる。
【0049】
荷振れ量取得装置は、吊荷の荷振れ量及び荷振れ速度を求める装置である。この実施例における荷振れ量取得装置は、吊荷の荷振れ量を計測する荷振れ量検出器13と、計測された荷振れ量から荷振れ速度を演算する荷振れ速度演算装置とで構成している。荷振れ量検出器13は、例えばトロリに下向きに取付けたカメラや3次元レーザー距離センサによりフック6あるいは吊荷8の振れを観測(計測)することで実現できる。また、荷振れ速度演算装置は計測された荷振れ量に、例えば微分演算や疑似微分演算を行う。この実施例では、荷振れ速度演算装置は個別に設置するのではなく、速度指令生成部10の一つの機能として構成した。
【0050】
また、荷振れ量取得装置は、荷振れ量および荷振れ速度を推定する荷振れ量推定装置を設け、荷振れの角周波数wrとガーダ・トロリの速度指令から荷振れ量および荷振れ速度を推定することで求めることができる。このため、荷振れ量取得装置は、荷振れ量検出器13により直接荷振れ量を検出しなくてもよい。角周波数wrはロープ長L0から推定するようにしてもよい。荷振れ量推定装置の機能は、速度指令生成部10内で演算するように構成しても良い。
荷振れ量および荷振れ速度の推定は、ガーダ・トロリの速度指令をvt(t)、荷振れ量をx(t)とすると、こられをラプラス変換したVT(s)、X(s)は次式で計算することができる。
X(s)=P(s)*VT(s)・・・(数29)
したがって、荷振れ量推定装置はvt(t)に対して伝達関数がP(s)で与えられるフィルター演算を行うことで荷振れ量を推定でき、得られた荷振れ量を微分することで荷振れ速度を推定することができる。
【0051】
以上のように、この実施例2によれば、減速による荷振れを1回の加減速で打消すことができ、荷振れを抑制しつつ制動距離を低減することが可能となり、クレーンの安全性を高めることができる。
【0052】
<実施例3>
次に、本発明の実施例3のクレーンを説明する。なお、上述の実施例との共通内容についての重複説明を省略する。
【0053】
図7は、本発明における実施例6のクレーンの構成を示す図である。本実施例では、吊荷8やトロリ4、ガーダ3の周辺の障害物9を検出する障害物検出器14を有する。また、障害物検出器14の検出信号を入力し、障害物9と吊荷8、トロリ4、ガーダ3のいずれかが衝突する危険の有無を判定し、衝突する危険有と判定した場合に、速度指令生成部10に停止動作開始信号11を出力する衝突判定装置15を有する。
【0054】
障害物検出器14は、例えばトロリ4に下向きに取付けたカメラや3次元レーザー距離センサにより吊荷8周辺を観測することで、吊荷周辺の障害物を検出できる。衝突判定装置15は、検出された障害物と吊荷との衝突が予測された場合、速やかに停止動作開始信号11を出力する。速度指令生成部10は、この停止動作開始信号11を入力すると、上記した実施例と同様の速度パターンを生成する。すなわち、減速開始時の速度から第1の減速終了速度まで減速する第1速度パターンと、前記第1速度パターンにより前記水平移動装置を駆動した際に生じる荷振れを打消すような加減速を行う第2速度パターンとを生成する。そして、この生成された速度パターンをクレーン制御部12に出力し、クレーン制御部12によりガーダ3、トロリ4の速度を制御してクレーンを停止させる。この制御動作により、吊荷と障害物との衝突や挟まれ事故を防ぐことができる。
【0055】
また、例えばトロリ4、ガーダ3に取付けた測長センサを使って壁やストッパー、同一レール上を走行する別のクレーンまでの距離を測定することで、クレーンが壁やストッパー、別クレーンとの衝突が予測できる。これらは予測されたときに速やかに停止動作開始信号を出力してクレーンを停止させれば、クレーンと壁やストッパー、別クレーンとの衝突や挟まれ事故を防ぐことが可能となる。
【0056】
以上説明した本発明の実施例3のクレーンによれば、減速による荷振れを1回の加減速で打消すことができるので、荷振れを抑制しつつ制動距離を低減することが可能となり、クレーンの安全性を高めることができる。さらに、衝突や挟まれ事故を防ぐことが可能となり、クレーンの安全性をより一層高めることができる。
【0057】
また、停止制御を例とした各実施例によれば、減速による荷振れを1回の加減速で打消すまたは減少することができるので、荷振れを抑制しつつ制動距離を低減することが可能となり、クレーンの安全性を高めることができる。
【0058】
なお、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。特に、クレーンの制御は、停止に限定されるもものではなく、任意の速度(目標速度)までの減速や加速への適用が可能である。この場合、目標速度を所定の範囲内で一定に保つことが含まれる。また、制動距離は目標速度までの移動距離となる。
【符号の説明】
【0059】
1…クレーン、2…ランウェイ、3…ガーダ、4…トロリ、5…ロープ、6…フック、7…ワイヤー、8…吊荷、9…障害物、10…速度指令生成部、11…停止動作開始信号、12…クレーン制御部、13…荷振れ量検出器、14…障害物検出器、15…衝突判定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7