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特許7297655スキャニングコイル、スキャニング磁石およびスキャニングコイルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】スキャニングコイル、スキャニング磁石およびスキャニングコイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/093 20060101AFI20230619BHJP
   H01F 5/02 20060101ALI20230619BHJP
   H01F 7/06 20060101ALI20230619BHJP
   H01F 7/20 20060101ALN20230619BHJP
【FI】
G21K1/093 S
H01F5/02 B
H01F5/02 F
H01F5/02 H
H01F7/06 L
H01F7/06 C
H01F7/20 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019225104
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021097062
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮 玄
(72)【発明者】
【氏名】中野 俊之
(72)【発明者】
【氏名】折笠 朝文
(72)【発明者】
【氏名】藤井 寿朗
(72)【発明者】
【氏名】小野田 裕子
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-010824(JP,A)
【文献】特開2020-041971(JP,A)
【文献】特開2006-135060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/093
H01F 5/02
H01F 7/06
H01F 7/20
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体または組み立てた状態において外形が円錐台状で筒状の電気的絶縁材からなる本体部と、前記本体部の外側から内側に貫通するように形成された布設路と、前記本体部の内周面側に前記布設路に沿って軸方向に互いに間隔をおいて形成されて前記布設路によって切断された前記本体部の各部分の相対的な位置関係を保持する複数の保持部と、を有する巻き枠と、
前記布設路に装着された電導線と、
前記電導線を前記布設路内に固定する樹脂と、
を備えることを特徴とするスキャニングコイル。
【請求項2】
前記電導線の前記布設路に占める占有率は、50%ないし95%であることを特徴とする請求項1に記載のスキャニングコイル。
【請求項3】
前記巻き枠は、繊維強化プラスチック材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスキャニングコイル。
【請求項4】
前記巻き枠は、当該巻き枠を2つ対向するように一体化することにより、回転体を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のスキャニングコイル。
【請求項6】
ビームダクトと、
前記ビームダクトの径方向外側に配されて当該ビームダクトの径方向外側を包囲する請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のスキャニングコイルと、
を備えることを特徴とするスキャニング磁石。
【請求項7】
電導線を装着するための布設路の形成された巻き枠を製作する巻き枠製作ステップと、
前記布設路に前記電導線を装着する電導線装着ステップと、
樹脂注入用組み立て体を構成し前記布設路に樹脂を注入し硬化させ樹脂部を形成する樹脂注入ステップと、
前記巻き枠、前記電導線および前記樹脂部を有するスキャニングコイルを前記樹脂注入用組み立て体から離型させる離型ステップと、
を有し、
前記巻き枠は、一体または組み立てた状態において外形が円錐台状で筒状の電気的絶縁材からなる本体部と、前記本体部に形成された前記布設路と、前記本体部の内周面側に前記布設路に沿って軸方向に互いに間隔をおいて形成された複数の保持部と、を有することを特徴とするスキャニングコイルの製作方法。
【請求項8】
前記巻き枠製作ステップは、
前記本体部を製作する本体部製作ステップと、
前記本体部に、前記布設路および前記保持部を形成する布設路形成ステップと、
を有することを特徴とする請求項7に記載のスキャニングコイルの製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、スキャニングコイル、これを用いたスキャニング磁石、およびスキャニングコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重粒子線治療施設では、患部のスポットを塗りつぶすように高いエネルギーレベルまで加速したビームを照射し、がん組織を死滅させる治療を行う。たとえば照射用の炭素ビームを細く絞ったまま照射するために、高度の制御を行う必要がある。このため、ビームの線路に対して水平・垂直方向にスキャニング磁石が配置されている。このスキャニング磁石を構成するスキャニングコイルにより高磁場を形成するために、スキャニングコイルに大電流を通電する必要がある。また、ビームを高度に制御するため、コイル内の導体は精度よく設計通りに配置されることが求められる。
【0003】
このような背景から、巻き枠の表面にフェノキシ樹脂などからなる接着剤を予め塗布し、融着させながら超電導線を配置した後、フィラー入りのエポキシ樹脂で超電導線の外周を固定する方法が提案されている。このように超電導状態を利用することで、コンパクトで高磁場を実現するコイルを提供することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-135060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなスキャニングコイルの製造方法には、次のような問題がある。
【0006】
スキャニング磁石では、電導線に大電流を通電して磁場を形成する必要がある。前述の例のように超電導状態を利用することで、コンパクトなコイルで高磁場を得られる。しかしながら、スキャニングコイルを超電導状態に励磁するためには、高価な超電導線や、特殊な冷凍機が必要となる。一方で、常電導線によるスキャニングコイルの場合、線径が太くなるため剛性が高くなり、従来の製造方法では高精度の導線の配置が困難となるといった課題があった。
【0007】
そこで、本発明の実施形態は、スキャニングコイルの電導線の高精度の配置を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本実施形態に係るスキャニングコイルは、一体または組み立てた状態において外形が円錐台状で筒状の電気的絶縁材からなる本体部と、前記本体部の外側から内側に貫通するように形成された布設路と、前記本体部の内周面側に前記布設路に沿って軸方向に互いに間隔をおいて形成されて前記布設路によって切断された前記本体部の各部分の相対的な位置関係を保持する複数の保持部と、を有する巻き枠と、前記布設路に装着された電導線と、前記電導線を前記布設路内に固定する樹脂と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法は、電導線を装着するための布設路の形成された巻き枠を製作する巻き枠製作ステップと、前記布設路に前記電導線を装着する電導線装着ステップと、樹脂注入用組み立て体を構成し前記布設路に樹脂を注入し硬化させ樹脂部を形成する樹脂注入ステップと、前記巻き枠、前記電導線および前記樹脂部を有するスキャニングコイルを前記樹脂注入用組み立て体から離型させる離型ステップと、を有し、前記巻き枠は、一体または組み立てた状態において外形が円錐台状で筒状の電気的絶縁材からなる本体部と、前記本体部に形成された前記布設路と、前記本体部の内周面側に前記布設路に沿って軸方向に互いに間隔をおいて形成された複数の保持部と、を有することを特徴とする。

【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係るスキャニング磁石を示す縦断面図である。
図2】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法の手順を示すフロー図である。
図3】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における巻き枠の製作の詳細な手順を示すフロー図である。
図4】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法において製作される巻き枠用部材の構成を示す図5のIV-IV線矢視断面図である。
図5】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法において製作される巻き枠用部材の構成を示す図4のV-V線矢視断面図である。
図6】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法において製作される巻き枠の構成を示す図8のVI-VI線矢視断面図である。
図7】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法において製作される巻き枠の構成を示す図8のVII-VII線矢視断面図である。
図8】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法において製作される巻き枠の構成を示す図6のVIII-VIII線矢視断面図である。
図9】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法において製作される巻き枠の大径側の端部近傍を示す斜視図である。
図10】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における巻き枠への電導線120の装着の状態を示す第1の部分横断面図である。
図11】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における巻き枠への電導線120の装着の状態を示す第2の部分横断面図である。
図12】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入装置を構成する中子を示す縦断面図である。
図13】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入装置を構成する小径側端部閉止部材を示す縦断面図である。
図14】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入装置を構成する大径側端部閉止部材を示す縦断面図である。
図15】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入装置を構成する外筒を示す縦断面図である。
図16】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入時の電導線を装着した巻き枠の状態を示す縦断面図である。
図17】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入時の樹脂注入用組み立て体の状態を示す縦断面図である。
図18】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入後の状態を示す第1の部分横断面図である。
図19】第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入後の状態を示す第2の部分横断面図である。
図20】第2の実施形態に係るスキャニングコイルの本体部に形成された拡幅部を含む布設路を示す部分的な平面図である。
図21】第2の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入時の拡幅部の周辺を示す部分的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るスキャニングコイル、スキャニング磁石およびスキャニングコイルの製造方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るスキャニング磁石を示す縦断面図、すなわち、長手方向に沿った断面図である。
【0013】
スキャニング磁石200は、ビームダクト210および2つのスキャニングコイル100を有する。
【0014】
ビームダクト210は、照射対象に向けてビームが飛行する空間を形成するダクトであり、スキャニング磁石200の部分では、ビームを照射対象においてスキャニングするために、ビームの飛行方向に、小径部210aから大径部210bに向けて拡がっており、ビームの角度の変化をカバーできる形状となっている。
【0015】
2つのスキャニングコイル100は、ビームダクト210を、径方向外側から挟むように互いに一体に形成され、ビームの方向を変化可能に構成されている。なお、図1で示すのは、垂直方向(図1の上下方向)にビームの向きを変化させるコイルである。通常、この径方向の外側に、水平方向(図1の手前と奥行き方向)にビームの向きを変化させるスキャニングコイルが設けられており、照射対象に対して2次元的にスキャニングを可能としている。図1では、水平方向のスキャニングコイルの図示を省略している。以下、垂直方向のスキャニングコイルについて説明するが、水平方向のスキャニングコイルについても同様である。
【0016】
スキャニングコイル100は、巻き枠110、電導線120、および樹脂部130を有する。それぞれの詳細は、後に説明する。スキャニングコイル100は、個別に製造され、最後に2つのスキャニングコイル100が一体に組み立てられることから、以下、一つのスキャニングコイル100について、その構成および製造方法を順次、説明する。
【0017】
図2は、第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法の手順を示すフロー図である。
【0018】
まず、巻き枠の製作を行う(ステップS01)。
【0019】
図3は、第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における巻き枠の製作の詳細な手順を示すフロー図である。
【0020】
巻き枠の製作としては、まず、巻き枠用部材110a(図4図5)の製作を行う(ステップS01a)。
【0021】
図4は、第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法において製作される巻き枠用部材110aの構成を示す図5のIV-IV線矢視断面図であり、図5は、図4のV-V線矢視断面図である。
【0022】
巻き枠用部材110aは、たとえば、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)などの電気的絶縁材からなり、通常は、注入型により形成される。巻き枠用部材110aは、断面が半円形で、長手方向にテーパが形成された、すなわち、長手方向に断面が連続的に拡がった本体部111を有する。
【0023】
本体部111は、言い換えれば、長手方向に延びた中心軸Cを中心に、180度回転した形状である。したがって、2つの巻き枠用部材110aを互いに対向する状態で一体化することによって、360度回転した回転体の形状が形成される。よって、以下の説明においては、360度の回転体(以下、回転体という)について説明する場合がある。本実施形態における巻き枠用部材110aは、この回転体を、周方向に等分に2分割したものである。いいかえれば、中心軸Cを含む平面によって分割されたものである。
【0024】
巻き枠用部材110aの本体部111は、2つが一体化した状態では、外形が円錐台状で筒状である。すなわち、小径側端部111aから長手方向に大径側端部111bまで、直線的に拡がっており、その内面が、円錐台状の仮想曲面Sと接するように形成されている。
【0025】
巻き枠の製作として、次に、布設路113(図6ないし図8)の形成加工を行う(ステップS01b)。具体的には、本体部111に布設路113すなわち電導線120(図10)を布設する通路を形成する。
【0026】
なお、放熱の観点から、布設路113の断面積に対する電導線120の占有率は、50~95%であることが好ましい。占有率が50%未満であると磁場の配置精度が低下する。また95%を超えると電導線120の配置形状をゆがめ、同様に磁場の配置精度が下がるためである。
【0027】
図6は、第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法において製作される巻き枠の構成を示す図8のVI-VI線矢視断面図、図7は、図8のVII-VII線矢視断面図、図8は、図6のVIII-VIII線矢視断面図である。また、図9は、巻き枠の大径側の端部近傍を示す斜視図である。図6ないし図9は、本体部111に布設路113が形成された後の、巻き枠110の状態を示している。
【0028】
図6ないし図8に示すように、布設路113は、長手方向に形成された複数の長手部113a、複数の小径部113b、および複数の大径部113cを有する。なお、図8および図9では、長手部113aが8つ、小径部113bおよび大径部113cが4つの場合を例にとって示しているが、それぞれの個数は、単なる例示であって、スキャニングコイル100の巻き数により決まるものである。
【0029】
本体部111に形成された布設路113の長手部113a、小径部113bおよび大径部113cのいずれも、本体部111の外側表面から内側表面に達している。すなわち、本体部111は、布設路113によって切断されているが、軸方向に互いに間隔をおいて本体部111の内側表面に設けられた保持部112、および長手方向保持部112a、112bによって、全体の形状が維持されている。
【0030】
図8および図9に示すように、複数の長手部113aのそれぞれは、周方向に互いに間隔をおいて、長手方向に延びており、小径部113bと大径部113cとを接続している。なお、図9では示していないが、長手部113aと、小径部113bおよび大径部113cのそれぞれとの接続部では、電導線120(図10)を布設するに必要な曲率半径以上の半径を有する形状に形成されている。
【0031】
複数の長手部113aは、互いに平行に形成されてもよい。あるいは、それぞれが、中心軸Cを含む仮想平面と本体部111との交線に沿って形成されてもよい。
【0032】
布設路113は、電導線120が、布設路113に沿って装着されることにより、コイルを形成可能なように、一つの連続した通路として形成されている。なお、図示は省略しているが、電導線120の装着の始点および終点は、それぞれ小径部113bの内側あるいは大径部113cの内側となる。
【0033】
布設路113は、本体部111の外側から内側に貫通して延びている。ただし、図7および図9に示すように、長手方向に間隔をおいて保持部112が形成されている。保持部112は、布設路113が、本体部111の外側から内側に貫通していない部分である。保持部112が、形成されていることによって、布設路113によって切断されてなる本体部111の各部分が、相対的な位置関係を保持することができる。なお、保持部112以外に、保持機能を有する部分として、図9に示すように、大径側端部111b側に長手方向保持部112bが設けられている。また、図示していないが、小径側端部111aにも同様の保持部が形成されている。
【0034】
次に、ステップS01において製作した巻き枠110に電導線120を装着する(ステップS02)。
【0035】
ここで、電導線120は、樹脂の含浸性を容易にするため、撚り線とすることが好ましい。
【0036】
図10は、第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における巻き枠への電導線120の装着の状態を示す第1の横断面図であり、図11は、第2の横断面図である。図10は、布設路113の長手部113aで保持部112が形成されていない部分に電導線120が装着されている状態を示す。また、図11は、布設路113の長手部113aで保持部112が形成されている部分に電導線120が装着されている状態を示す。
【0037】
電導線120は、巻き枠110の布設路113の中に押し込むように装着される。布設路113は、本体部111の内部側に開放されているが、互いに間隔をおいて保持部112が配されており、また、電導線120がある程度の剛性を有することから、本体部111の内部側に電導線120が突出することはない。したがって、布設路113に沿って、布設路113の内部に、電導線120を安定した状態で装着することができる。
【0038】
次に、テープ等で電導線120を仮固定する(ステップS03)。電導線120は、長さが長いこと、スキャニングコイル100が鞍形コイルであることから、同一平面内にはなく3次元的な配置となることから、以降の樹脂注入等によっても電導線120の配置が乱れることの無いように、たとえば、ピールプライなどのテープ等によって電導線120を仮固定する。
【0039】
この際、ピールプライ等の一部に、予め樹脂が通過することが可能な0.5mmないし10mm径程度の孔を設けることにより、後の工程における樹脂の注入時の浸透が確実となり、より信頼性の高い電導線の固定が可能となる。なお、孔径については、0.5mm未満であると目詰まりが起こり樹脂の通過を妨げ、10mmを超えると導線の固定ができなくなることから、0.5mmないし10mm径程度が好ましい。
【0040】
次に、樹脂注入用組み立て体10(図17)を構成する(ステップS04)。
【0041】
図12は、第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入装置を構成する中子11を示す縦断面図、図13は、小径側端部閉止部材13を示す縦断面図、図14は、大径側端部閉止部材14を示す縦断面図、図15は、外筒12を示す縦断面図である。また、図16は、樹脂注入時の電導線120を装着した2つの巻き枠110の状態を示す縦断面図である。なお、図16では電導線120の表示は省略している。
【0042】
中子11は、その外表面が、図4で示した巻き枠110の内面に対応する円錐台形状を有する。外筒12は、その内表面が、図16に示す状態の2つの巻き枠110の外側表面の形状に対応し2つの巻き枠110の外側表面と接するように形成されている。小径側端部閉止部材13および大径側端部閉止部材14は、それぞれ、外筒12の小径側および大径側と、嵌合するように形成されている。なお、この部分の外筒12の内側表面におねじを、また、小径側端部閉止部材13および大径側端部閉止部材14の外側表面にめねじを形成し、それぞれが螺合するように形成することでもよい。
【0043】
図17は、第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入時の状態を示す縦断面図である。
【0044】
以上のそれぞれを一体に組み立てることにより、図17に示すような樹脂注入用組み立て体10を構成する。なお、図17では、図示していないが、外筒12、小径側端部閉止部材13および大径側端部閉止部材14のいずれかの部分に、樹脂注入用の注入口を形成する。また、同様に、外筒12、小径側端部閉止部材13および大径側端部閉止部材14のいずれかの部分に、排気用の排気口を形成する。排気口は、真空引き用の真空ポンプに接続してもよい。
【0045】
次に、熱硬化性樹脂を注入し、含浸させる(ステップS05)。この際、注入口から樹脂を注入し、排気口から内気を排出する方法でもよい。あるいは、まず、排気口から真空引きを行った後に、注入口から樹脂を注入する方法でもよい。
【0046】
この熱硬化性樹脂としては、酸無水物硬化エポキシ樹脂を用いると、樹脂がゲル化するまでの時間的・粘度的な有効性から、巻き枠110と電導線120間への含浸が良好となる。また、溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、酸化マグネシウムを、体積充填率で30体積%以上充填することで、エポキシ樹脂の熱伝導率が向上し、スキャニングコイル100への通電による電導体の発熱を効率よく放熱することが可能となる。
【0047】
次に、加熱により熱硬化性樹脂を硬化させる(ステップS06)。
【0048】
樹脂が硬化した後に、スキャニングコイル100を離型する(ステップS07)。この際、ステップS03において仮固定に用いたテープ等も除去する。
【0049】
図18は、第1の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入後の状態を示す第1の部分横断面図であり、図19は、第2の横断面図である。図18は、布設路113の長手部113aで保持部112が形成されていない部分、また、図19は、布設路113の長手部113aで保持部112が形成されている部分を示す。
【0050】
布設路113内には、電導線120を囲むように、熱硬化性樹脂が硬化した後の樹脂部130が形成されている。
【0051】
次に、スキャニング磁石200(図1)に組み立てる。具体的には、ビームダクト210の径方向外側に、ビームダクト210を囲むように、2つの巻き枠110を互いに対向するように一体化する。なお、ビームダクト210と巻き枠110との相対位置関係を維持するため、図示しないスペーサ等を設けてもよい。
【0052】
以上のように、本実施形態により、電導線を高い精度で配置することができる。
【0053】
[第2の実施形態]
図20は、第2の実施形態に係るスキャニングコイルの本体部111に形成された拡幅部113wを含む布設路113を示す部分的な平面図である。
【0054】
本第2の実施形態は、第1の実施形態の変形であり、布設路113の一部に拡幅部113wが形成されている。その他の点では第1の実施形態と同様である。
【0055】
拡幅部113wは、本体部111に保持部が配置されている位置に形成されている。拡幅部113wにおいては、布設路113の幅が拡がっている。言い換えれば、拡幅部113wは、布設路113に形成された切れ込みである。拡幅部113wの平面的な形状は、図20および図21では、半楕円形の場合を例にとって示しているがこれに限定されない。たとえば、長方形あるいは多角形であってもよい。また、保持部112は、図20図21に示すように、その平面は拡幅部113wの一部に配置する例で示したが、拡幅部113wの長手方向の幅の全てに広げる形であってもよい。
【0056】
図21は、第2の実施形態に係るスキャニングコイルの製造方法における樹脂注入時の拡幅部113wの周辺を示す部分的な斜視図である。なお、電導線120および外筒12は図示を省略している。図21で、樹脂の流れの方向を白抜きの矢印で示している。
【0057】
拡幅部113wが存在することにより、拡幅部113w内の空間は、上流側の通路と開口S1を通じて連通する。また、拡幅部113w内の空間は、下流側の通路と開口S2を通じて連通する。すなわち、上流側の通路と下流側の通路とが、開口S1から拡幅部113w、拡幅部113wから開口S2を経由して連通し、樹脂は、図21の矢印F1および矢印F2のように、上流側から下流側に流れる。
【0058】
このような構成により、樹脂の注入により、確実に充填することができる。
【0059】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。たとえば、実施形態においては、2つの半割れの巻き枠を一体にすることによりスキャニングコイルを組み立てる場合を例にとって示したが、これに限定されない。たとえば、接続先のビームダクトとは別に、スキャニング磁石として、ビームダクトを含めて、一体に形成する場合には、半割れではなく、当初から一体の形状で製作することでもよい。
【0060】
また、実施形態では、樹脂注入用組み立て体10を構成して、樹脂の注入を行う場合を例にとって示したが、これに限定されない。たとえば、布設路113内に電導線120を装着し仮固定を施した後に、刷毛等を用いて、樹脂を塗布する方法を用いることでもよい。
【0061】
また、これらの各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。
【0062】
また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0063】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
10…樹脂注入用組み立て体、11…中子、12…外筒、13…小径側端部閉止部材、14…大径側端部閉止部材、100…スキャニングコイル、110…巻き枠、110a…巻き枠用部材、111…本体部、111a…小径側端部、111b…大径側端部、112…保持部、112a、112b…長手方向保持部、113…布設路、113a…長手部、113b…小径部、113c…大径部、113w…拡幅部、120…電導線、130…樹脂部、200…スキャニング磁石、210…ビームダクト、210a…小径部、210b…大径部
図1
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