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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】セラミック
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20230619BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20230619BHJP
   H10N 30/097 20230101ALI20230619BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20230619BHJP
   C04B 35/462 20060101ALI20230619BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20230619BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/097
H10N30/30
C04B35/462
C04B35/453
B41J2/14 301
B41J2/14 613
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019562571
(86)(22)【出願日】2018-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 GB2018051269
(87)【国際公開番号】W WO2018206969
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】1707686.0
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516154934
【氏名又は名称】ザール テクノロジー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】XAAR TECHNOLOGY LIMITED
(73)【特許権者】
【識別番号】515300778
【氏名又は名称】イオニクス アドバンスト テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IONIX ADVANCED TECHNOLOGIES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ワトソン
(72)【発明者】
【氏名】アンガス コンディー
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ポール コミン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ベル
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-537513(JP,A)
【文献】国際公開第2016/124941(WO,A1)
【文献】特開2015-138804(JP,A)
【文献】特開平10-053465(JP,A)
【文献】特開2015-128090(JP,A)
【文献】特開2001-048646(JP,A)
【文献】特開2015-122951(JP,A)
【文献】特開平04-295013(JP,A)
【文献】特開平11-170507(JP,A)
【文献】特開2004-122770(JP,A)
【文献】特開平07-132589(JP,A)
【文献】特開平07-214778(JP,A)
【文献】特開平02-150355(JP,A)
【文献】特表2008-513331(JP,A)
【文献】特開2008-069051(JP,A)
【文献】特開2008-156172(JP,A)
【文献】特開2008-056549(JP,A)
【文献】特開2007-145650(JP,A)
【文献】特開2007-261863(JP,A)
【文献】特開平10-139552(JP,A)
【文献】国際公開第2009/072370(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/072369(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/029574(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157023(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/099901(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/114148(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/049764(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105753467(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/20
H10N 30/097
H10N 30/30
C04B 35/462
C04B 35/453
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成を有する圧電セラミックであって、
a[PbTiO]-b[SrTiO]-c[BiFeO]-d[(KBi1-x)TiO
(式中、0.4≦x≦0.6、0.1≦a≦0.4、0.01≦b≦0.2、c≧0.05、d≧0.01、およびa+b+c+d=1である)
任意に、最大2原子%の量のAまたはBサイトの金属ドーパントを含む、圧電セラミック。
【請求項2】
0.3≦c≦0.7および0.05≦d≦0.25である、請求項1に記載の圧電セラミック。
【請求項3】
0.2≦a≦0.3である、請求項1に記載の圧電セラミック。
【請求項4】
xが0.5である、請求項1に記載の圧電セラミック。
【請求項5】
最大2原子%の、Ti、Zr、W、Nb、V、Ta、Mo、およびMnから選択されるドーパントを含む、請求項1に記載の圧電セラミック。
【請求項6】
最大2原子%の量のAまたはBサイトの金属ドーパントを含み、前記ドーパントが、Mnおよび/またはNbであり、かつ、置換AまたはBサイト当たり、0.25原子%~2原子%の量で存在する、請求項に記載の圧電セラミック。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックを含む圧電セラミックを調製するためのプロセスであって、(A)実質的に化学量論量の、Bi、K、Ti、Fe、Pb、Srのそれぞれの化合物と任意のドーパントとの混合物を調製する工程と、(B)前記混合物を粉末に変換する工程と、(C)前記粉末中に反応を誘発して混合金属酸化物を生成する工程と、(D)前記混合金属酸化物を焼結可能な形態に操作する工程と、(E)前記焼結可能な形態の混合酸化物を焼結してセラミックを生成する工程とを含む、プロセス。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の圧電セラミックを含む圧電素子を含むデバイス。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の圧電セラミックを含む圧電素子を備える圧電アクチュエータ。
【請求項10】
噴射チャンバと非噴射チャンバとを交互に備える、請求項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項11】
圧電アクチュエータを有する液滴堆積ヘッドであって、前記圧電アクチュエータは、請求項1~のいずれか一項に記載の圧電セラミックを含む圧電素子を備える、液滴堆積ヘッド。
【請求項12】
前記液滴堆積ヘッドは、インクジェットプリントヘッドである、請求項11に記載の液滴堆積ヘッド。
【請求項13】
前記圧電アクチュエータは、噴射チャンバと非噴射チャンバとを交互に備える、請求項11に記載の液滴堆積ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電挙動を示す、Bi、K、Ti、Pb、Fe、SrおよびOを含有する非ペロブスカイト相を実質的に含まない固溶体を含む(または本質的にそれからなる)セラミックに関する。本発明はまた、セラミックの製造のためのプロセス、ならびにセラミックが使用される圧電アクチュエータ、センサ、および環境発電装置などの製品にも関連する。
【0002】
本発明はさらに、該セラミックを含む圧電アクチュエータが使用されるインクジェットプリントヘッドなどの液滴堆積ヘッドに関する。
【0003】
圧電材料は、加えられた機械的ひずみに応じて電界を生成する。この効果は、材料内の分極密度の変化に起因する。圧電効果は、電界が材料に印加されると応力またはひずみが誘発されるという意味で可逆的である。圧電材料は、センサおよびアクチュエータなどのデバイスの範囲で使用される。圧電材料の使用の例には、医療用超音波およびソナー、音響、振動制御、火花発火器、センサ、環境発電装置、高温用途、液滴堆積ヘッド、例えば、インクジェットプリントヘッドおよびディーゼル燃料インジェクターなどのプリントヘッドが含まれる。
【0004】
ペロブスカイト構造またはタングステンブロンズ構造を有する多くのセラミックは、圧電挙動を示すことが知られている。特に、ABOペロブスカイト構造(AおよびBは金属イオンである)を有する圧電セラミックは周知である。ペロブスカイト圧電材料の注目すべき例は、次式のチタン酸ジルコン酸鉛であり(Pb[ZrTi1-x]O)、一般に、PZTとして知られており、顕著な圧電活性を示し、今日使用されている最も一般的な種類の圧電セラミックである。
【0005】
あらゆる用途に使用できる圧電材料の種類を検討する際には、念頭に置いておく必要がある多くの要因がある。それゆえ、材料を高温で操作する必要がある場合、その操作温度を超えるキュリー温度が必要であり、そうでなければ、圧電素子は操作条件下で減極する可能性があり、その圧電活性が失われてしまうことになる。考慮すべきもう1つの要因は、材料の保磁場である。特定の外部場で圧電材料を実際に適用できるようにするには、保磁場が外部場を超えている必要があり、そうでなければ、電界ベクトルと分極ベクトルとが整列していない場合に圧電場の分極が低下する可能性がある。理想的な圧電材料はまた、デバイスの製造および操作中に適用されるひずみおよび応力に対して耐性があり、製造における高収率を可能にし、かつ、デバイスの操作/長寿命における低い故障率を可能にするものである。機械的強度は、より薄いデバイスアーキテクチャも可能にする一方で、剛性はアクチュエータなどの用途にとって重要な特性であり、そうでなければ、圧電素子の効率的な変位は、クロストーク現象によって損なわれてしまう。
【0006】
したがって、当然のことながら、材料に対してだけでなく、それらが良好な圧電活性を示すものであり、当技術分野で利用可能なデバイスによって改善される高い保磁場、高い保磁応力、優れた被削性、破壊抵抗、高いキュリー温度などのその他の特性の範囲を示すことに対する必要性も存在することを理解されたい。例えば、強度が改善された材料は、操作中の信頼性が向上し、多くの場合、例えば、ソーイング(sawing)による成形により良好に耐えることができ、一方、キュリー温度がより高い材料は、高温での操作または処理できるデバイスの利用を可能にする。
【0007】
圧電アクチュエータが幅広い用途に見出される液滴堆積ヘッド業界では、より高い解像度のデバイスに対する需要が高まっている。液滴堆積ヘッドのための圧電アクチュエータは、一般に、圧電材料シート中にソーイングされた複数の相互に整列した流体チャンバを特徴とする。その中の各チャンバは、流体の液滴を受容媒体上に噴射する少なくとも1つのノズルを備えている。各流体チャンバの垂直壁の表面に配置された電極は、適切な大きさの電界が圧電材料全体の電極に印加されたときに垂直壁の駆動(すなわち、収縮/膨張/変形)を可能にするために設けられる。より詳細には、外部の印加電界により、流体チャンバの圧電垂直壁が変形し、流体チャンバの体積の変化、ひいては流体チャンバ内の圧力の変化が生じる。圧力が十分に上昇すると、流体の小滴がノズルを介して受容媒体上へ噴射される。ソーイングされたPZTをベースとする最先端のアクチュエータは、180~200dpi(インチ当たりのドット数)の範囲の解像度を有する。例えば、400dpi以上に解像度を高めることは有利であるが、そのような高解像度の液滴堆積ヘッドの実現は、適切な特性を備えた圧電材料の入手可能性により今日まで妨げられてきた。
【0008】
圧電アクチュエータを備えた高解像度の液滴堆積ヘッドを実現する1つの方法は、より薄い壁を備えた流体チャンバを製造することを含む。標準のPZTベースのアクチュエータの場合、流体チャンバの壁は、通常、少なくとも60~70μmの厚さであり、解像度を高めるには、約30μm以下の厚さに機械加工でき、駆動に耐える十分な強度を有する新規の圧電材料を特定することが望ましい。薄壁を備えた圧電液滴堆積ヘッドは、通常、当該技術分野のより低い解像度、より厚い壁のアクチュエータに相当する液滴吐出性能(吐出される液滴の体積)を達成するためにより高い電界で駆動する必要がある。これにより、薄壁のデバイスの(例えば、ソーイングによる)製造に適したいずれの材料も高保磁場を有しなければならないことを必要とし、そうでなければ、アクチュエータが高い電界下で駆動されると、アクチュエータの壁中の圧電活性が失われるからである。現在、液滴堆積ヘッドで一般に使用されている圧電アクチュエータは、450V/mm(厚さ66μmの壁にわたって29.7V)の最大駆動電界で駆動可能なPZT材料をベースとしている。このようなPZT材料の保磁場は、より高い場では、アクチュエータの圧電特性の劣化が起こるため、より高い駆動場での運転を可能するのに十分高いものではない(保磁場、Ec約1.5kV/mm)。薄壁のデバイスのアーキテクチャはまた、総仕事量が圧電活性、印加電圧、剛性の複合であるため、薄壁は十分に剛性であることが要求される。したがって、剛性の低い壁では、流体チャンバから流体液滴を信頼できる方法で排出することができない。
【0009】
それゆえ、薄壁の流体チャンバデバイスのアーキテクチャを備えた高解像度の液滴堆積ヘッドを製造するには、マニホールド特性を備えた材料が必要であることを容易に理解できる。十分なデバイスの寿命および信頼性を確保するには、ソーイングに耐えることができる高強度と高保磁場のプロファイルを有する材料が必要であり、一方で、良好な圧電作用により、適切な壁変形が確保され、その結果、流体チャンバ内で十分な圧力が生成される。また、壁は十分な剛性を備えて、適切な流体液滴の吐出を確保する必要があるが、高電界駆動条件下での脱分極に対する耐性を提供するには、高保磁場/応力特性が必要である。高保磁場/応力特性に加えて、高いキュリー温度は、温度の上昇と組み合わせて、そうでなければ機械加工または応力の結果として発生する可能性のある活性の損失を低減するのに重要である。キュリー温度が高い材料を使用すると、例えば、不動態化層の組み込みのような高温製造工程を実行でき、かつ、噴射に適した流体の一貫性を達成するために高温が必要な材料の使用に固有の動作温度と互換性を有する。
【0010】
WO2012/013956A1には、式x(Bi0.50.5)TiO-yBiFeO-zPbTiOの固溶体が記載されており、PZTに対してキュリー温度が高い圧電材料であることが示されている。しかしながら、組成物x(Bi0.50.5)TiO-yBiFeO-zPbTiOの固溶体は、多くの用途で十分に高くない圧電活性(最大175pC/Nのd33)を有することが判明した。
【0011】
上記の問題に照らして、本発明の目的は、高い圧電活性(すなわち、250pm/V以上のベルリンコートd33値、高いキュリー温度(T、300℃以上)、および3MPa×m1/2以上の高い破壊靭性(K1C(×10)の組み合わせを有する圧電セラミック材料を提供することである。好ましい場合、圧電セラミックはまた、モジュール│1.75│kV/mm以上の保磁場Ec、および/または3.5kgf/mm以上のビッカーズ硬度(H(×10)、および/または100MPa以上の曲げ強度σを示す。
【0012】
本発明の圧電セラミックの高い圧電活性、高い保磁場、高い保磁場応力、高強度、高剛性、良好な機械加工性、および高いキュリー温度などの特性のバランスを調節して、意図された用途に利用できる。本発明のさらなる目的は、高解像度の液滴堆積ヘッド、環境発電装置、センサなどの新規の改善された装置の利用を可能にする特性の組み合わせを示す新規の圧電材料を提供することである。また本発明のさらなる目的は、そのような新規の材料の製造方法を提供することである。
【0013】
第1の態様では、本発明は、250pm/V以上のベルリンコートd33値、300℃以上のキュリー温度T、および3MPa×m1/2以上の破壊靱性K1C(×10)を示す圧電セラミックを提供する。破壊靱性K1C(×10)は、例えば、3.5MPa×m1/2以上、5MPa×m1/2以上または7MPa×m1/2以上であってよい。
【0014】
好ましい実施形態において、圧電セラミックはさらに、│1.75│kV/mm以上の保磁場Ec、または3.5kgf/mm以上のビッカーズ硬度H(×10)、100Mpa以上の曲げ強度σを示す。曲げ強度は、例えば、120MPa以上、または130MPa以上、または140MPa以上であってよい。
【0015】
ベルリンコートd33値は、PZTバー対照試料(例えば、寸法が1mm×1mm×3.5mmの最長寸法に沿って分極された寸法)の値によって調整されたベルリンコート法を使用して、ペレット(例えば、直径10mm、厚さ1mm)で取得できる値であり、そのd33値は、CENELAC EN 50324-2:2002年(Piezoelectric Properties of Ceramic Materials and Components - Part 2:Methods of Measurement and Properties - Low Power)に準拠して共鳴によって計算されているということに留意されたい。該方法は、例えば、Wide Range d33Meter(米国APC Internationalから)のようなメーターによって慣習的に行うことができる。
【0016】
さらに、ベルリンコート法で測定されたd33値が、共鳴法を使用して測定された値よりも平均で11%高いことに留意されたい。差は、ランダム誤差と系統誤差、および測定値、周波数、応力、電圧の差の複合である。
【0017】
また、ビッカーズ硬度および破壊靭性K1C(×10)は、試験機器(例えば、BuehlerからのWilson Hardness Tukon 1202テスター)を使用したビッカーズ押し込み試験により、研磨された(1μmダイヤモンドを使用)ペレット(例えば、直径10mm、厚さ1mm)でDIN EN ISO 6507-2に準拠して測定できることに留意されたい。
【0018】
さらに、曲げ強度σは、ISO 7500-1:2004に適合した疲労試験装置(例えば、UKAS認定のInstron Calibration Laboratoryによる)を使用して(寸法25mm×3mm×0.5mmの)研磨(1μmダイヤモンドを使用)バーで測定できることに留意されたい。
【0019】
本発明による圧電セラミックの強化された機械的特性は、セラミック材料に固有のものであり、すなわち、強化剤または添加剤の添加または意図的に導入された多孔度からは生じない。したがって、セラミックは、PZTセラミックを強化するために使用されるような、例えば、ZrO、Al、SiC、繊維、ウィスカなどの強化剤または添加剤を実質的に含まない。
【0020】
圧電セラミックは、焼結プロセスから残留する固有の気孔率が10μm以下、好ましくは5μm以下(<=5[g1]μ[/g1]m)の平均細孔径である場合がある。また、領域ごとのポリセクションの走査型電子顕微鏡を使用して測定されるように、5%未満、好ましくは4%未満、例えば3%、2%または1%の多孔度を有してもよい。
【0021】
本発明による圧電セラミックは、PbTiO、SrTiO、BiFeO、および(KBi1-x)TiOを含む非ペロブスカイト相を実質的に含まない固溶体であることができる。
【0022】
好ましい実施形態では、圧電セラミックは、次式の非ペロブスカイト相を実質的に含まない固溶体を含む。
a[PbTiO]-b[SrTiO]-c[BiFeO]-d[(KBi1-x)TiO
(式中、0.4≦x≦0.6、0.1≦a≦0.4、0.01≦b≦0.2、c≧0.05;d≧0.01、およびa+b+c+d=1である)。
【0023】
典型的に、本発明のセラミック四元組成物は、高いキュリー温度、良好な圧電活性、高い保磁場、高い保磁場応力、および高強度を示す圧電材料である。
【0024】
本発明は、次式の非ペロブスカイト相を実質的に含まない、固溶体を含むセラミックも提供する。
a[PbTiO]-b[SrTiO]-c[BiFeO]-d[(KBi1-x)TiO
(式中、0.4≦x≦0.6、0.1≦a≦0.4、0.01≦b≦0.2、c≧0.05、d≧0.01、およびa+b+c+d=1であり、Aサイトの原子および/またはBサイトの原子、例えばMn、Nb、Laなどのいずれかに対して2原子%までの量のドーパントをさらに含む。)AサイトまたはBサイトの金属ドーパントは、AサイトまたはBサイトそれぞれにおける等電量または最大2原子%のPbTiO、SrTiO、BiFeO、(KBi1-x)TiOの金属に対応する量で置換するように導入される。例示的な金属ドーパントは、Ti、Zr、W、Nb、V、Ta、MoおよびMnである。ドーパントが存在する好ましい実施形態では、ドーパントはNbまたはMnから選択される。
【0025】
さらなる態様では、本発明は、(A)実質的に化学量論量のBi、K、Ti、Fe、Pb、Srのそれぞれの化合物と任意のドーパントとの密な混合物を調製する工程と、(B)該密な混合物を密な粉末に変換する工程と、(C)該密な粉末中に反応を誘発して混合金属酸化物を生成する工程と、(D)該混合金属酸化物を焼結可能な形態に操作する工程と、(E)該焼結可能な形態の混合酸化物を焼結してセラミックを生成する工程とを含むプロセスによって得ることができる、上記および本明細書に記載される、四元成分固溶体を含むセラミックを提供する。この態様では、該プロセスは、ホットプレス工程をさらに含んでもよい。
【0026】
さらなる態様において、本発明は、上記および本明細書に記載される四元組成物を含むセラミックを調製するためのプロセスを提供し、以下の工程を含む。(A)実質的に化学量論量のBi、K、Ti、Fe、PbおよびSrのそれぞれの化合物の密な混合物を調製する工程と、(B)該密な混合物を密な粉末に変換する工程と、(C)該密な粉末中に反応を誘発して、混合金属酸化物を生成する工程と、(D)該混合金属酸化物を焼結可能な形態に操作する工程と、(E)該焼結可能な形態の混合酸化物を焼結してセラミックを生成する工程と、任意に、ホットプレスする工程。
【0027】
さらなる態様では、本発明は、上記および本明細書に記載される圧電セラミック組成物を含む圧電デバイス、例えばアクチュエータを提供する。
【0028】
さらなる態様において、本発明は、上記および本明細書に記載される材料から形成された本明細書に記載されるアクチュエータを含む液滴堆積ヘッド、例えば、インクジェットプリントヘッドを提供する。
【0029】
本発明の材料によって示される圧電係数d33は、WO2012/013956A1に記載されているストロンチウムを含まない三元組成物によって示されるものよりも特徴的に高く、通常、対応するストロンチウムを含まない三元材料が示すd33圧電係数よりも30%高く、多くの場合50%以上高くなる。
【0030】
新規の四元組成物が有する特性の組み合わせにより、高温で操作または製造されるデバイスでの用途に特に適している。例えば、原子層堆積を使用して、当技術分野の材料が部分的または完全に減極する温度で、これらの圧電材料に不動態化層を導入することができる。さらに、高強度ならびに高い保磁場および保磁場応力の組み合わせにより、これらの材料は薄壁または他の機能アーキテクチャを備えたデバイスの製造に適したものとなり、これは、結果として生じる薄壁または他の特徴は、高電界条件下で駆動され、そうでなければ機械的故障につながる破壊に耐えることができるからである。
【0031】
好ましくは、セラミックは本質的に固溶体からなる。例えば、固溶体は、50重量%以上(例えば、50~99重量%以上の範囲)、好ましくは75重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上の量でセラミック中に存在し得る。
【0032】
非ペロブスカイト相は、Bi、K、Ti、Fe、またはPbの2つ以上(例えば3つ)の混合金属相である。例には、Bi、KO、SrO、BiFeおよびBiTiOi12が包含される。
【0033】
セラミック中に存在する非ペロブスカイト相の量は、X線回折パターンで相が識別できないようなものであり得る。セラミック中に存在する非ペロブスカイト相の量は、微量であってもよい。
【0034】
好ましくは、セラミック中に存在する非ペロブスカイト相の総量は、10重量%未満、特に好ましくは8重量%未満、より好ましくは5重量%未満、さらにより好ましくは2重量%未満、さらにより好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満である。
【0035】
固溶体は部分固溶体であってもよい。好ましくは、固溶体は完全な固溶体である。
【0036】
固溶体は実質的に単相性であってもよい。
【0037】
固溶体は二相性であってもよい。好ましくは、固溶体は、菱面体晶相、単斜晶相、斜方晶相および正方晶相からなる群から選択される少なくとも2つの相を有する。固溶体は、菱面体晶相および単斜晶相を含み得る。固溶体は、菱面体晶相および斜方晶相を含み得る。好ましくは、固溶体は、正方晶相および菱面体晶相を含む。
【0038】
固溶体は三相性であるか、3つを超える結晶相を有する場合があってよい。
【0039】
固体セラミックの成分は、キュリー温度、圧電活性、保磁場、保磁場応力、および強度などの材料の特性を、用途に必要な値に合わせるように、一般式内で変更できる。
【0040】
好ましくは、cは0.3以上かつ0.7以下および/またはdは0.05以上かつ0.25以下である。例えば、一般式(a[PbTiO]-b[SrTiO]-c[BiFeO]-d[(KBi1-x)TiO])は、パラメータ、0.1≦a≦0.4、0.01≦b≦0.2、0.3≦c≦0.7、0.05≦d≦0.25、およびa+b+c+d=1を有する。好ましく、cは、0.4~0.6であり、特に好ましくは0.46~0.58である。c、すなわち、BiFeOの量が0.3以上である組成物は、一般に、改善された強度を示し、それゆえ、これらの組成物は、製造および/または動作の失敗に対する改善された耐性を有する組成物によって、ソーイングを採用して、液滴堆積ヘッドの流体チャンバの壁などの薄い構造を製造し、デバイスの寿命を改善することが可能となる。cの値、つまりBiFeOの量が0.7より大きい場合、材料の圧電活性は低下する傾向を有する、すなわち、一般に、材料はより低い圧電係数d33を有する。理解されるように、個々のセラミック組成物は、所望の用途に合わせて調整することができ、場合によっては、最終的な圧電活性よりも高い強度と高いキュリー温度が重要になり、一方、最大キュリー温度値よりも高い強度と高い圧電活性が優先される場合もある。
【0041】
好ましくは、dは0.05以上、および0.25以下である。この範囲において、dの値、すなわち、[(KBi1-x)TiO]の量は、強度と圧電特性の適切な組み合わせに有利に働く。いくつかの場合、xの値が0.5、すなわち、[(KBi1-x)TiO]が[(K0.5Bi10.5)TiO]であることが好ましい。特に好ましい場合、dは、0.08~0.21の範囲内、例えば、0.1475+/-0.05、0.16+/-0.05または0.13+/-0.05である。dが、0.08~0.21である材料は、例えば、アクチュエータの製造のための強度、圧電特性、およびキュリー温度などの特性の特に望ましい組み合わせを有することが実証されている。
【0042】
好ましくは、aは、0.2以上かつ0.3以下である。0.2以上のaの値、すなわち、PbTiOの量は、固溶体中のこの量のPbTiOが、セラミックの長距離秩序を改善し、良好な強誘電特性、例えば、圧電係数(d33およびd15など)によって、電場とひずみとの間の直線性が向上し、温度安定性が向上したことが実証されたため、好ましい。0.3以上のaの値、すなわち、PbtiOは、自発的なひずみを増加させる働きをし、それにより保磁場をさらに改善するが、これは、圧電係数の低下に反映される(例えば、d33およびd15)、圧電活性の低下を犠牲にする。0.3超のaの値はまた、圧電材料のポーリングもより困難にする。好ましい場合、aは、0.22~0.28であり、最も好ましくは0.24~0.26であり、例えば、0.25625である。
【0043】
好ましくは、bは0.02以上かつ0.15以下である。0.15超、特に0.2のbの値、すなわち、SrTiOの含有量は、キュリー温度の低い材料をもたらす一方で、bの値が0.01未満、特に0.02の場合、圧電活性の低い材料がもたらされる。好ましい場合、bは、0.25~0.125、最も好ましくは0.05~0.10、例えば、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09または0.10である。
【0044】
例えば、一般式による好ましいセラミックは、0.2≦a≦0.3、0.02≦b≦0.15、0.3≦c≦0.7、0.05≦d≦0.25、およびa+b+c+d=1の組成を有する。この範囲内の組成物は、有利に、高キュリー温度、良好な圧電活性、高強度および高保磁場の好都合な組み合わせを示す。好ましい組成物は、i)0.2≦a≦0.3、0.025≦b≦0.125、0.4≦c≦0.6、0.05≦d≦0.25、およびa+b+c+d=1、ii)0.23≦a≦0.27、0.025≦b≦0.10、0.45≦c≦0.6、0.05≦d≦0.25、およびa+b+c+d=1またはiii)0.24≦a≦0.26、0.05≦b≦0.10、0.46≦c≦0.58、0.08≦d≦0.21、およびa+b+c+d=1を有する式を有する。
【0045】
これらの好ましい範囲内に入る組成物の例は、それらの有利な特性と同様に本明細書に記載されている。以下で明らかなように、aの値を、0.25625に設定し、bの値を0.075に設定(パラメータ、a0.25625、b0.075、c=0.52125、d=0.1475)することで、強度、圧電活性、キュリー温度の優れた組み合わせを備えた材料が得られる。aの値を一定に保つことで、例えば、圧電係数d15値でわかるように、より高い圧電活性が必要な場合、これはSrTiOの量を0.10に増大することで達成できる。cおよびdの値を調整して、材料特性を微調整できる。したがって、セラミックの他の好ましい特性を実質的に保持し、さらに改善された圧電活性を備えた材料を実現することが可能である(パラメータ、a0.25625、b0.10、c0.5096、d0.13415)。上記の0.075SrTiOセラミックと比較して、少し高いキュリー温度が必要な場合は、SrTiOの量を0.05に低減することで、耐温度が高く、強度も圧電活性も良好なセラミックを得ることができる(パラメータ、a0.25625、b0.05、c0.5329、d0.16085)。本発明は、当業者が所望の用途のための特性を有するセラミックを得るよう作業できる一連の組成物を提供する。
【0046】
本発明は、非ペロブスカイト相を実質的に含まない、次式の固溶体を含むセラミックも提供する。
a[PbTiO]-b[SrTiO]-c[BiFeO]-d[(KBi1-x)TiO
(式中、0.4≦x≦0.6、0.1≦a≦0.4、0.01≦b≦0.2、c≧0.05、d≧0.01、およびa+b+c+d=1であり、AサイトおよびBサイトの原子の1つ以上を、最大2原子%のドーパントで置換し得る)。
【0047】
好ましい実施形態では、FeおよびTiの1つ以上は、Ti、Zr、W、Nb、V、Ta、MoおよびMnから選択される最大2原子%のドーパントで置換され得る。個々のペロブスカイト相は一般に、得られたドープ相のペロブスカイト構造を損なうことなく、ある程度のドーピングを許容する。
【0048】
本発明の組成物において、ペロブスカイトのドーピングは、金属のBサイト、すなわち、PbTiO、SrTiO、および(KBi1-x)TiOおよびBiFeOのFeサイトであり得る。これらの場合、金属ドーパントの量は、金属のBサイトごとに最大2原子%である。組成物の各成分中のBサイトの金属の最大2原子%の割合は、例えば、MnまたはNbなどのドーパントで置き換えることができる。ドーパントがMnまたはNbである場合、MnまたはNbは、金属サイトあたり2原子%以下の量で存在するが、ドーパントのレベルは0.25原子%~1原子%であることが好ましい。ドーパント金属は、除去されたAサイトまたはBサイトの金属の量に等しい量、または等電量で導入することができる。例えば、BiFeOのBサイトがMn(4+酸化状態)でドープされている本発明によるドープされた組成物は、
a[PbTiO]-b[SrTiO]-c[BiMnFe1-y(3+y/2)]-d[(KBi1-x)TiO
(式中、y≦0.02、0.4≦x≦0.6、0.1≦a≦0.4、0.01≦b≦0.2、c≧0.05、d≧0.01、およびa+b+c+d=1である)として表され得る。ドーピングのための好ましい組成物は上記のものである。したがって、BiFeOのBサイトでFeの代わりに1原子%のMnが添加される好ましい組成物では、組成物は以下のパラメータを有することとなる。y=0.01、0.4≦x≦0.6、0.24≦a≦0.26、0.05≦b≦0.10、0.46≦c≦0.58、0.08≦d≦0.21、およびa+b+c+d=1。
【0049】
特に好ましい実施形態では、Bサイトの金属ドーパントはMnである。この量でMnを導入する利点は、Mnがある範囲の酸化状態に適合できるという意味でバッファーとして挙動でき、これがMnフリー材料に比べてセラミックの抵抗率を改善できることである。
【0050】
特に好ましい実施形態では、Bサイトの金属ドーパントはNbであり、Feサイト、Tiサイト、またはFeサイトおよびTiサイトの両方で置換するのに使用できる。Feサイト、Tiサイト、またはTiおよびNbサイトの両方で置換するために使用されるNbの量は、金属サイト当たり、合計2原子%まで、好ましくは金属サイト当たり最大1原子%であり得る。
【0051】
セラミックは、テクスチャードセラミック、単結晶、薄膜、または複合材(例えば、セラミック/ガラスまたはセラミック/ポリマー複合材)の形態を採り得る。
【0052】
好ましくは、セラミックのキュリー温度は300℃以上、例えば320℃以上、340℃以上、好ましくは350℃以上、最も好ましくは400℃以上である。
【0053】
セラミックは、Bi、K、Fe、Sr、Pb、Tiおよび任意にドーパントを含む焼結可能な形態の混合金属酸化物を焼結してセラミックを生成することにより得ることができる。
【0054】
上記で特定した範囲内で作業することで、望ましい材料特性の組み合わせを備えた新規の圧電セラミックを実現できる。本発明のセラミックの好ましい例は、d33≧250pm/Vおよびd15≧400pm/Vの圧電係数を有し、これは、例えば、PZT-5Hよりも低くなるが、より高い保磁場によって補償される。例えば、以下に見られるように、2.2kV/mmの保磁場(IEEE Ultrasonics Symposium、2005年(Volume:1)、p227-230、ISBN 0-7803-9382-1のPZT-5H 0.87kV/mmを参照)および4.0kV/mmで431pm/Vの高電界d33を有する材料である。保磁場は、単位セル内の原子が中心対称位置に戻るフィールドとして定義され、分極がゼロに等しい点として分極フィールドループ上に示される。
【0055】
PZTの場合、破壊は一般的な故障モードであり、PZTベースのアクチュエータでは確実である。PZTは通常、破壊靭性パラメータを有する(0.7~1.8×10MPa×m1/2のオーダーのK1C)(Sun and Park、Ferroelectrics、vol.248、no.1、pp.79~95、2000年)。本発明による材料は、典型的に、4~8×10MPa×m1/2のK1C値を有する、つまり、PZTより2~10倍高い破壊靭性を有する。従来のPZTでは、二次非圧電相を追加することにより破壊靭性を改善しようとする試みは、強度の漸進的改善のみに関連し、圧電活性の実質的な低下を伴う。
【0056】
本明細書に記載される四元組成物はまた、(kgf/mm)で)PZTよりも約1.5~2倍大きいビッカーズ硬度を有することを特徴とする。本明細書に記載される四元組成物の靱性および硬度は、材料を優れた強度で得る可能性を可能にする。そのような材料により、従来のデバイスよりも薄いという特徴を備えたデバイスを製造できる。
【0057】
ペロブスカイトの一般構造はABOで、AとBはそれぞれAサイトおよびBサイトを占有する金属である。本発明のいくつかの好ましい組成物では、ペロブスカイトのドーピングは、金属のBサイトに限定される、すなわち、PbTiO、SrTiO、および(KBi1-x)TiOのTiサイトおよびBiFeOのFeサイト。これらの好ましい組成物では、金属のBサイトあたりの金属ドーパントの量は最大2原子%である。
【0058】
ペロブスカイト固溶体は一般に、追加のペロブスカイトとの置換に耐性があり、これは本明細書に記載される組成物の場合であることが証明されているが、これを当然とみなすことはできない。したがって、本研究まで、本発明の四元組成物がセラミック固溶体を形成するかどうか、または形成された場合、そのような溶液の特性は何であるかを知ることはできなかった。例えば、二元の高温圧電zBiScO-(1-z)PbTiOは、zのすべての値に対して可溶性ではない。さらに、他の競合する非ペロブスカイト材料、例えば、チタン酸ビスマス(BiTi12)を形成できることは、当技術分野で知られている。他の二次相、特にパイロクロア型相はペロブスカイトから形成できる。この潜在的に重要な問題を説明するために、純粋なBiFeOを形成することは非常に難しく、BiFeは非ペロブスカイト構造で容易に形成できることが当技術分野で知られている。そのような二次的な相の形成は、他の効果において、圧電性能の有意な低下、および強度の低下につながり得る。
【0059】
本開示は、上述の材料で製造された液滴堆積ヘッドを含む液滴堆積装置、ならびに液滴堆積ヘッドおよび液滴堆積装置の製造方法にも関する。
【0060】
様々な代替流体が、液滴堆積ヘッドによって堆積され得る。例えば、液滴堆積ヘッドは、一枚の紙もしくはカード、または他の受容媒体、例えば、セラミックタイルもしくは成形物品(例えば、缶、ボトルなど)に移動させることができるインクの液滴を吐出して、(液滴堆積ヘッドが、インクジェットプリントヘッドであってもよく、より具体的には、ドロップオンデマンドのインクジェットプリントヘッドであってもよい)インクジェット印刷用途の場合のように画像を形成することができる。
【0061】
あるいは、流体の液滴を使用して構造体を構築することができ、例えば電気的に活性な流体を受容媒体、例えば回路基板上に堆積させて電気デバイスのプロトタイピングを可能にすることができる。
【0062】
別の例では、(3D印刷の場合のように)物体のプロトタイプモデルを生成するように、ポリマー含有流体または溶融ポリマーを、連続した層で堆積し得る。
【0063】
更に他の用途では、液滴堆積ヘッドは、生体物質または化学物質を含有する溶液の液滴をマイクロアレイなどの受容媒体上に堆積させるように適合され得る。
【0064】
問題の特定の流体を扱えるようにいくつかの改造を行うと、このような別の流体に好適な液滴堆積ヘッドは、プリントヘッドと概して構造が同様であることができる。
【0065】
本発明に記載されているような高キュリー温度の圧電材料がアクチュエータの生成に使用される場合にのみ達成可能な液滴堆積ヘッドの高温用途には、例えば、ホットメルトの堆積、例えば、標準ワックスおよびハイブリッドワックス、すなわち、UV硬化性ホットメルト、高粘度UVレジストなど、例えば、エッチングマスク、点字印刷、薄型ディスプレイ技術のスペーサー、投影用途用の、高解像度、高透明基材上への高不透明度印刷、生産プロセスで除去可能なより高解像度のマーキング、3D印刷、低コストの診断などのための流体チャネルを作製するために、ワックスを紙構造にリフローするペーパーマイクロ流体学(paper micro-fluidics)が含まれる。通常、これらの材料は、噴射に適した粘度を達成するために、60~140℃に保持する必要がある。
【0066】
以下の開示に記載される液滴堆積ヘッドは、ドロップオンデマンド液滴堆積ヘッドであり得る。かかるヘッドにおいて、吐出された液滴のパターンは、ヘッドに提供される入力データによって異なる。
【0067】
ドロップオンデマンドヘッドアクチュエータは、個々の流体チャンバに作用して液滴の吐出を行うように構成されたアクチュエータ素子を備えている。アクチュエータ素子は、例えば、熱素子または圧電素子であってもよい。いずれの場合においても、アクチュエータ材料は電極によって対処され、熱アクチュエータ素子の場合には抵抗型アクチュエータ素子を急速に加熱し、圧電アクチュエータ素子の場合には機械的変形を引き起こす。
【0068】
圧電アクチュエータ素子の異なる構成が使用されてもよい。1つの構成では、圧電材料の連続シートから形成されたアクチュエータ素子を使用し、その中に平行な溝が切断されて長手方向の流体チャンバを形成する。
【0069】
そのような構成の1つは、「サイドシューター」液滴堆積ヘッドを提供することであり、EP0364136B1およびその中の参考文献に記載されており、図1に示されている。
【0070】
液滴堆積ヘッド(図1)は、アレイ状に並んで配置された複数の流体チャンバ110を含む。この配列は、図1の左から右に延在している。各流体チャンバ110は、チャンバの長手方向に延在し、アレイ方向に垂直である。隣接するチャンバ110は、圧電材料で形成されたチャンバ壁130によって分離されている。流体チャンバ110のそれぞれには、ノズル172が設けられており、ノズル172から、流体チャンバ110内に含まれる流体を吐出することができる。流体チャンバ110の各々の一方の長手方向側は、ノズルプレート170によって(少なくとも部分的に)境界を定められ、ノズルプレート170は、各チャンバ110にノズル172を提供する。他のアプローチも同様にこれを達成することができること、つまり各ノズル172が噴射チャンバ110の対応する1つの長手方向の一側面に設けられるために、別個のノズルプレート170の構成要素は必要ではないことが理解されよう。
【0071】
各壁130には、対向する側面に第1の電極151および第2の電極152が設けられている。適切な電極材料は、銅、ニッケルおよび金を含み、単独でまたは組み合わせて使用することができる。堆積は、電気めっきプロセス、無電解プロセス(例えば、完全性を有する層を提供し、圧電材料への接着性を改善するためにパラジウム触媒を利用する)、または物理蒸着プロセスによって行うことができる。
【0072】
第1の電極151および第2の電極152は、駆動電圧波形を壁130に印加するように構成される。各壁130は、第1の部分131および第2の部分132を含み、それぞれの圧電材料は、互いに反対方向に分極する。第1の部分131および第2の部分132のそれぞれの分極方向は、アレイ方向およびチャンバの長手方向に垂直である。第1の部分131および第2の部分132は、アレイ方向およびチャンバの長手方向によって画定する平面によって分離する。
【0073】
駆動電圧波形が第1の電極151と第2の電極152によって壁130に印加されると、壁130は山形構成に変形し、これにより、図1の破線で示すように、第1の部分131と第2の部分132はせん断モードで反対方向に変形する。
【0074】
そのような変形は、2つの流体チャンバ110のうちの1つの内部の流体の圧力の増加、および2つの流体チャンバ110のうちの他の1つの圧力の対応する減少を引き起こす。逆極性の駆動波形により、壁130が反対方向に変形し、したがって、壁130によって分離された2つのチャンバ110内の流体の圧力に対して実質的に反対の影響を及ぼすことが理解されよう。圧力の大きさがあるレベルを超える場合、流体105の液滴は、チャンバ110のノズル172から吐出させてもよい。壁130は、それが分離する2つの流体チャンバ110のうちの一方に向かって、および他方に向かって交互に変形するように駆動させてもよい。そのような周期的変形は決して必須ではないことは理解されよう。駆動波形が代わりに壁の非周期的変形を引き起こす可能性がある。
【0075】
当然ながら、壁130と第1の駆動電極151および第2の駆動電極152の異なる配置で山形構成の変形を達成できることを理解されたい。例えば、壁の圧電材料は、壁の高さ方向の一方向にのみ実質的に分極してもよい。第1の電極151および第2の電極152は、この高さ方向に、壁130の高さの一部分だけにわたって延在するように配置してもよい(より詳細には、この高さ方向に、壁130の高さの実質的に同じ部分にわたって延在させてもよい)。
【0076】
「エンドシューター」液滴堆積ヘッドを提供する別のそのような構成は、EP1885561B1およびその参照文献に記載されており、図2に示されている。この配置において、各ノズル272は、液滴吐出のために噴射チャンバ210の長手方向端部に設けられている。上述のように、壁230を作動させて、第1の電極251および第2の電極252による液滴吐出を引き起こすことができる。
【0077】
本開示に記載される材料の高い靭性の結果、壁に裂け目を生じさせることなく、より薄い壁130および230(例えば20~60μm)を得るように圧電シートを機械加工して、アクチュエータの解像度を高めることができる。
【0078】
本出願に記載されている材料の高い保磁場により、より薄い壁は、より低い駆動電界を必要とするより厚い壁を備えたアクチュエータに関して性能を低下させることなく、より高い電界で駆動することができる。
【0079】
これらの液滴堆積ヘッドの金属電極は流体と直接接触しているため、電気分解および気泡の形成または腐食の影響を受けやすくなっている。これは、特に流体が水性である場合、電極の層間剥離および/または液滴堆積ヘッドの短い動作寿命を招く可能性がある。
【0080】
したがって、通常、電極上、および流体と接触する圧電セラミック体の表面上、特に、各チャンバのチャンバ壁上に、不動態化コーティングが提供される。電極上に不動態化層を堆積するための当該技術分野で知られている方法の1つは、原子層堆積(ALD)である。ALD不動態化層は、チャンバの体積とノズルサイズに大きな影響を与えないほど十分に薄いため、液滴堆積ヘッド用途の電極の不動態化に非常に適している。また、信頼性の高い薄い不動態化層により、液滴堆積ヘッドのアクチュエータが水性適合性となる。低キュリー温度材料は、それより低い温度、例えば200℃以上で脱分極し、この温度で、ALDを使用して高品質で高密度の不動態化層を形成できる。例えば、PZTは120℃で分極を開始できる。したがって、本出願に記載されているような高キュリー温度材料は、電極上で信頼できる不動態化を得るのに望ましく、したがって、アクチュエータを水性および他のイオン性流体と適合させることができる。ALDによって堆積させることができる有用な不動態化材料は、アルミナ、チタニア、ハフニアなどであり、典型的な厚さの値は、例えば、10~100nmの範囲にある。
【0081】
さらなる改善として、該材料で製造されたアクチュエータは、顕著に劣化することなく有意の高温で操作できる。この材料特性により、噴射を可能にする流体の一貫性を得るために高温を必要とする材料の液滴堆積プロセスと互換性のあるアクチュエータ構造を利用することができる。これらは、ホットメルト、例えば、標準ワックスおよびハイブリッドワックス、すなわち、UV硬化性ホットメルト、高粘度UVレジストなど、例えば、エッチングマスク、点字印刷、薄型ディスプレイ技術のスペーサー、投影用途用の、高解像度、高透明基材、生産プロセスで除去可能なより高解像度のマーキング、3D印刷、低コストの診断などのための流体チャネルを作製するために、ワックスを紙構造にリフローするペーパーマイクロ流体学を含み得る。通常、これらの材料は、噴射に適した粘度を達成するために、60~140℃に保持する必要がある。
【0082】
いくつかの実施形態では、そのうちの1つが図3に示されているが、アクチュエータは、流体はノズル372から噴射される噴射チャンバ310と、液滴を吐出できないように構成された非噴射チャンバ320とを含む。噴射チャンバと非噴射チャンバは一般に交互であり、非噴射チャンバにはインクもノズルも含まれていない。代わりに、それらは、このようにしてインクとの接触から物理的に隔離された駆動電極351および354を含む。このタイプの構成には、いくつかの利点がある。例えば、この構成は、駆動電極を非噴射チャンバに配置することにより水性インクを噴射できるようにするのに使用できる。異なる電位の電極は流体と接触していないため、流体中のイオン種の存在によって引き起こされる故障のリスクは取り除かれ、電極は不動態化を必要としない。機械的クロストークを低減するためにも使用できる。しかしながら、不利な点は、隣接するノズル間の距離を2倍にすると解像度が低下することである。制限は、音響作動特性を保持するために噴射チャンバの寸法を同じに保ちながら、より薄い壁を作製するための圧電材料の機械加工性である。したがって、材料が薄い壁の機械加工を可能にし、従来のPZTで作られたデバイスで失われた解像度の一部を回復できるため、噴射チャンバおよび非噴射チャンバを交互に含むアクチュエータは、それらの解像度を高めるために、本明細書で説明される材料で製造されることから特に利益を得ることができる。
【0083】
そのうちの1つが図4に示されているいくつかのさらなる実施形態では、液滴堆積ヘッドは、「ルーフモード」で動作するものとして特徴付けられる。
【0084】
複数の流体チャンバ610がアレイにおいて並んで提供される。各流体チャンバには、ノズル層670に形成されたノズル672が設けられており、ノズル層670から、以下に説明する方法で、チャンバ610内に含まれる流体を排出することができる。流体チャンバ610のそれぞれは、チャンバの長手方向に細長く、図4のページに入る。ノズル層670に対する各チャンバ610の対向する側面上に、振動プレート660が提供されている。振動プレート660は、流体がノズル672を介して流体チャンバ610から噴出され得るように、流体チャンバ610内に圧力変動を生成するように変形可能である。振動プレート660は、任意の好適な材料、例えば、金属、合金、誘電材料、および/または半導体材料などを含み得る。好適な材料の例としては、窒化ケイ素(Si)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化チタン(TiO)、ケイ素(Si)、または炭化ケイ素(SiC)が挙げられる。さらに、あるいは代替的に、振動プレート660は、複数の層を備え得る。
【0085】
液滴堆積ヘッドは、振動プレート660上に設けられた多数の圧電アクチュエータ素子630をさらに含む。振動プレート660を変形させるように構成された圧電アクチュエータ素子630を備えた各圧電アクチュエータ素子630が各流体チャンバ610に設けられている。圧電アクチュエータ素子630は、本発明によるセラミックを含むことができる。
【0086】
各圧電アクチュエータ素子630には、第1の作動電極651および第2の作動電極652が設けられている。第2の作動電極652は、圧電アクチュエータ素子630と振動プレート660との間の圧電アクチュエータ素子630の一方の側面上に提供されている。第1の作動電極651は、圧電アクチュエータ素子630の対向する側面上に提供されている。
【0087】
第1および第2の作動電極651、652は、任意の適切な材料を含み得る。第1および第2の作動電極651、652は、任意の適切な技術を使用して形成され得る。
【0088】
第1の作動電極651及び第2の作動電極652ならびに圧電アクチュエータ素子630は、別個に、または同じ加工工程でパターン化され得る。
【0089】
圧電アクチュエータ素子630を形成する圧電材料は、印加電界と同じ方向に分極され、作動素子630は横方向モードで作動する。駆動波形が第1および第2の作動電極651、652によって圧電アクチュエータ素子630に印加されると、圧電アクチュエータ素子630に応力が発生し、振動プレート660上で変形する。この変形は、流体チャンバ610内の体積を変化させ、流体液滴がノズル672から放出され得る。選択された圧電アクチュエータ素子630は、適切な駆動波形で駆動され得る。この選択は、液滴堆積ヘッドによって受信された入力データに応じて異なる場合がある。
【0090】
電気接続を含む配線層(図示せず)も振動プレート660上に提供されてもよく、これにより、配線層は、例えば、第1および第2の作動電極651、652を電圧信号または接地に接続するために、2つ以上の電気トラックを備えてもよい。
【0091】
図4から分かるように、隣接する噴射チャンバ610は、圧電材料または他の適切な材料であり得る壁640によって分離されている。
【0092】
本発明は、上述の材料を含むセラミックを含む他のデバイスにも関する。
【0093】
本発明の材料の強化された強度は、アクチュエータの利点に加えて、材料の強度が最重要であるセンサ、トランスデューサ、および環境発電装置に利点をもたらす。
【0094】
前述の説明は、当業者が本発明の態様を理解するのを助け、本発明がどのように実施され得るかを実証する非限定的な例を提供することを意図していることに留意されたい。他の例及び変形が、添付の特許請求の範囲内で企図される。
【0095】
本発明のセラミックは、任意の適切な方法により調製される。使用できる適切な方法には、ホットプレス、ホットアイソスタティックプレス、パルスレーザー堆積(PLD)などの物理蒸着(PVD)、およびゾル-ゲル法などの化学溶液堆積(CSD)が含まれるが、これらに限定されない。本発明の一態様では、上記の四元組成物を製造する方法が提供され、該方法は次の、a)Bi、Fe、Pb、およびTi酸化物とKおよびSr炭酸塩を、望ましい化学量論に従って計量する工程と、b)粉末を、d50<1.5μmに減少する第1の均質化および粒子サイズ減少工程と、c)追加の二次非ペロブスカイト相を実質的に含まない単相または多相ペロブスカイト材料を送出するための粉末をか焼する工程と、d)d50<1.5μmの粉末を供給するための第2の均質化および粒子サイズ減少工程と、e)平均粒径が1.0μm~6.0μm、特に、1.0μm~4.0μm、1.0μm~3.0μm、例えば、1.4μmのセラミックを製造するために焼結する工程とを含む。
【0096】
1.0μm~6.0μmの平均粒径が、d33の高い値を提供すること(PZTセラミックでは、d33の値が大きい場合、1~2μmの最小粒径が必要であることが知られている。)、およびインクジェットプリントヘッド用に30μmの圧力チャンバ壁を有効にすること(粒のプルアウトと粒内破壊による破損を軽減するために、各壁の厚さにわたって直線的に広がるために最低5粒必要である。)を目的としていることに留意されたい。
【0097】
か焼工程は、700℃~900℃の温度で、必要に応じて2~8時間行うことが好ましい。粒子サイズの減少工程は、ビーズ粉砕またはボール粉砕によって任意に実行される。いくつかの好ましい場合、必要に応じて磨砕機を使用して、予備焼結粒子サイズをさらにd50<0.7μmに減少する。プロセスはまた、焼結する前に噴霧乾燥する工程を含んでもよい。さらに、焼結する前に試料を加圧することが好ましい。材料の焼結は、980℃~1080℃の温度で2~128時間実施することが好ましい。いくつかの好ましい場合では、この方法は、5kV/mmで、100℃で材料を分極する工程も含む。
【0098】
上記の方法で製造された分極ペレットのX線回折は、追加の二次相を実質的に含まない混合相菱面体晶-正方晶材料を示すことが好ましい。
【0099】
本発明はまた、上記のプロセスにより得ることができる本発明の組成物のセラミックに関する。
【0100】
本発明を完全に理解できるようにするために、以下の実施例および添付図面を参照して説明する。しかしながら、実施例および図面ならびに説明は必ずしも本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】EP0364136B1に記載されている「サイドシューター」液滴堆積ヘッドの断面を示している。
図2】EP1885561B1に記載されているような「エンドシューター」液滴堆積ヘッドの断面を示している。
図3】噴射および非噴射の流体チャンバを備えた「サイドシューター」液滴堆積ヘッドの断面を示している。
図4】「ルーフモード」液滴堆積ヘッドの断面を示している。
図5】本発明の実施形態によるセラミック製造方法のフローチャートである。
図6】10Hzおよび室温で収集される、0.25625[PbTiO]-0.075[SrTiO]-0.52125[BiFeO]-0.1475[(K0.5Bi0.5)TiO]の四元組成Cを含むセラミックの分極場ループ(以下の表2および3)を示している。
図7】10Hzおよび室温で収集された四元組成物Cを含むセラミックの双極ひずみ場ループである。
図8】1Hzおよび室温で収集された四元組成物Cを含むセラミックの単極ひずみ場ループである。
図9】四元組成物Cを含むセラミックのX線回折パターンである。このパターンは、四面体と菱面体の単位セルの体積の差を計算するために使用される。
【実施例
【0102】
実施例は、SrTiOの量を、0.256[PbTiO]、0.521[BiFeO]および0.188(K0.5Bi0.5)TiOの三元組成物(以下、組成物Xと呼ぶ)に添加することよって生成したセラミックに関する。
【0103】
組成Xは、設定量のPbTiO、およびある量のBiFeOおよび(K0.5Bi0.5)TiOを有する三元組成物の例であり、これは、結晶相境界領域にあるように最適化されている、つまり、組成範囲で最も高い圧電活性を示す領域である。
【0104】
実施例は、この三元組成物をSrTiOで置換すると、並外れた靭性などの非常に望ましい特性を有するセラミック固溶体を形成する四元組成物になることを示している。
【0105】
本発明によるセラミックの調製
前駆物質の水分含有量と強熱減量を実行し、水分と強熱減量の結果に応じて、所望の組成を得るための調整を行った。
【0106】
Bi、Fe、KCO、Pb、SrCOおよびTiOを、特定の組成に必要な化学量論に従って計量し、組み合わせた。次いで、得られた粉末を、ピンミルを使用して、粒径減少の前に平均粒径d50<1.5μmに配合した。得られた粉末を700℃~900℃で2~16時間か焼した。次に、第2の粒子サイズをd50<1.5μmに減少した。
【0107】
次に、さらに均質化し、磨砕ミルを使用して、0.2μm<d50<0.8μmに粒子サイズを減少した。得られたスラリーの噴霧乾燥の前に、バインダー軟化剤系(Zusoplast G63およびOptapix AC112、いずれもZschimmer&Schwarze GmbH&Co KGから)の添加が必要であった。
【0108】
セラミック材料は、粉末を一軸加圧し、その後25~100MPaで静水圧プレスし、続いて50MPa~200MPaで試料を等圧プレスすることにより製造した。試料からのバインダーの焼尽は、焼結する前に600℃まで行った。試料の焼結を980℃~1080℃で2~128時間行い、最終粒径が1.5μm~6μmのセラミック材料を得た。
【0109】
セラミック材料を、粉砕および切断することによりペレット(直径10mm、厚さ1mm)またはバー(寸法25mm×3mm×0.5mm)を形成し、圧電特性およびその他の特性の試験用に調製した。必要に応じて、ペレットまたはバーの反対側の面に銀製ターミネーションインク(Gwent Electronic Materialsの銀端子ペースト)を塗布し、製造元の推奨に従って焼成して電極を形成した。必要に応じて、5kV/mmで、100℃で分極を実行した。
【0110】
プロセスの工程は図5に概略的に示されており、一連の初期粉末処理工程と最終的な一連の試料処理工程を含むと考えることができる。
【0111】
本発明によるセラミックの特性
本発明による例示的な材料を、Xから開発し、Xと比較した。
【0112】
上記のように、対応する量のBiFeOの代わりにSrTiOの量を使用することにより、四元組成物のセラミック材料が得られる。
【0113】
セラミックの圧電特性を試験するために、次のように試料を調製した。焼結後、セラミック部品を粉砕し、直径10+/-0.5mm、厚さ1+/-0.1mmのペレットに成形した。電極は、銀電極フリット(Gwent Electronic Materialsの銀端子ペースト)をスクリーン印刷し、製造元の推奨に従って焼成することで調製した。
【0114】
圧電活動(d33)、キュリー温度(T)、および比誘電率εを、異なる量のSrTiOを含む四元組成物を含む4つの試料について以下に説明するように測定した。各四元組成物の結晶構造の粉末X線回折パターンも得た。
【0115】
ベルリンコートd33値と、室温(RT)およびキュリー温度(T)での比誘電率を表1に示す。
【0116】
図からわかるように、四元組成物中のSrTiOの量を増加すると、試料の圧電活性が増加する。試料のキュリー温度は、組成物中のSrTiOの量が増加するにつれて低下するが、375℃以上を維持する。
【表1】
【0117】
また、菱面体晶相の割合が大幅に減少することに留意されたい-結晶相境界領域からの合成結果のシフトを示す。
【0118】
上記のように、0.075(モル分率)のSrTiOを含む表1の組成物において、(K0.5Bi0.5)TiOの代わりに、ある量のBiFeOを再導入することにより、四元組成物のさらなるセラミック材料が得られる。これらの組成物は、結晶相境界に向かって位相図の位置を調整することにより、圧電活性について最適化されている。
【0119】
圧電活性d33、キュリー温度T、そのキュリー温度および保磁場Eでの比誘電率εを、異なる量のSrTiOを含む四元組成物を含む4つの試料A~Dについて、以下に詳細に説明するように測定した。
【0120】
表2に、ベルリンコートd33値、キュリー温度Tでの比誘電率ε、および各試料の保磁場Eを示す。図からわかるように、組成物は、高い保磁場と共に、試料中の良好な圧電活性と高いキュリー温度を提供する。
【表2】
【0121】
表1および2に示されているd33値は、Wide Range d33 Meter(米国APC International)から取得した。メーターは所定の応力を適用し、発生した電荷を計算し、その応力から「直接」圧電係数d33を計算する。試料中のd33を非常に迅速に測定できる。メーターの使用方法は、次のウェブアドレスで確認できる。https://www.americanpiezo.com/images/stories/d_tester/d33-Meter_InstructionManual-updated.pdf.
【0122】
安定性を確保するために、メーターは少なくとも30分間オンにする。その後、メーターはゼロ調整され、その精度はメーカーが提供する圧電検証コンポーネントと照合される。試料を2つの金属接点の間に置き、振動が感じられなくなるまでネジを回して接触させる。電気接続の確立後、ねじをさらに1/4回転させる。振動力は250mNであった。
【0123】
結果は適用される応力、形状、周波数、応力に依存するため、そのようなメーターの較正と検証の基準はないことに留意されたい(例えば、National Physical Laboratory、英国、Good Practice Guide 44、ISSN 1368-6550を参照)。
【0124】
33値を、CENELEC EN 50324-2:2002(Piezoelectric Properties of Ceramic Materials and Components-Part 2:Methods of Measurement and Properties-Low Power.CENELEC(2002年))に従って共鳴によって測定されたPZTバーコントロールサンプルを使用して、ペレットから形成されたバー(寸法1mm×1mm×3.5mm)の値の比較によって検証した。これらのバーを長寸法に沿って分極した。
【0125】
前述のように、ベルリンコート法を使用して測定したd33は、共鳴法を使用して測定した値よりも平均で11%高くなっている。その差は、ランダム誤差と系統誤差の複合であり、測定値、周波数、応力、電圧における差である。
【0126】
表1および2に示したTおよび室温でのキュリー温度Tおよび比誘電率εは、通常の方法で測定した。(非分極)ペレットの静電容量は温度の関数として測定されました-キュリー温度は最大静電容量の温度として同定されている。
【0127】
Keysight 4299A Precision Impedance Analyserを使用して、キュリー温度を超える温度(550℃など)から2℃/秒の速度で試料を冷却中に1MHzで静電容量を測定する。
【0128】
銀線で終端する2メートルのケーブルを使用して、試料に接続した。銀線にわずかに張力を加えて、試料にばねで接触させ、安定した電気接続を確立した。
【0129】
小さなチューブ炉(Lenton LTF 12/38/250)を使用して試料の温度を制御し、試料に近接したK型熱電対を使用して温度を測定し、較正済みの熱電対および熱電対モニターに対して個別にチェックした。
【0130】
室温での静電容量を、CENELEC(2002年)に従って1Khzで測定した。
【0131】
キュリー温度および室温での(分極した)ペレットの相対誘電率は、測定された1MHzおよび1kHzの静電容量の各周波数でのジオメトリーから計算した。
【0132】
保磁場は、10Hzの周波数および5~6kV/mmの電界でAixAcct TF 2000強誘電性テスターを使用して分極電界ループ(PE)を記録することにより、20~25℃で測定した(少なくとも2倍の保磁場)。保磁場は、PEループに表示される分極がゼロになる場である。値Ecは、正および負の電界偏位中の平均抗電界として取得される。測定中の放電を防ぐために、ペレットをシリコンオイルに浸漬した。
【0133】
各四元組成物のビッカーズ硬度Hおよび破壊靭性K1Cを、1μmダイヤモンドを使用して研磨したペレットのビッカーズ圧痕によって測定した。Wilson Hardness Tukon 1202マシンを使用して0.3kgの荷重を加えた-製造元による試験の1年以内のDIN EN ISO 6507-2に対して較正および検証した。硬度値は、伝播する亀裂の長さ由来の刻み目の寸法と破壊靭性から計算した(d33共鳴データから推定された70GPaのモジュラスを使用)。試料ごとに10回の測定を各ケースで行い、平均値を計算した。
【0134】
曲げ強度σは、粉砕後の四元組成物から形成された研磨(1μmダイヤモンドを使用)バー(25mm×3mm×0.5mm)の測定値から計算した。Instron ElectroPuls E3000システムと250Nロードセルを使用した。システムはUKAS accredited Instron Calibration Laboratory (High Wycombe、英国)によりISO 7500-1:2004に較正されている。
【0135】
下部ヘッド間隔20mm、上部ヘッド間隔6.66mm、ヘッド速度2mm/分で4点曲げ試験を実施した。曲げ強度σは、方程式σ=FL/(bd)に従って、試料の下部ヘッドの長さLと幅bおよび厚さdを使用して、破損時の荷重Fから計算した。バーごとに6つの結果を収集し、平均値を計算した。
【0136】
組成物A~Dのそれぞれのベルリンコートd33値、ビッカーズ硬度、破壊靭性および曲げ強度を表3に示す。
【表3】
【0137】
表3は、組成物Xおよび当該技術分野で知られている2つの強誘電体硬質PZT材料の圧電活性も示す。これらの材料のビッカーズ硬度、破壊靭性または曲げ強度は、示された参考文献において報告されている([1]および[2])。これらの材料の圧電活性は、そうでなければ当業者が利用可能なデータにおいて見出される。
【0138】
破壊靭性、ビッカーズ硬度、曲げ強度は、わずかに異なる方法および機器と負荷におけるいくつかの変更が使用されているにもかかわらず、示された参照値と比較できることに留意されたい。これは、PZT-4およびPZT PIC 151について報告されている破壊靭性と曲げ強度の値は、幅広い荷重にわたる複数の試料で取得されているからである。
【0139】
表3からわかるように、本発明による四元組成物は、PZT-4およびPZT PIC 151(1MNm-3/2未満と比較して3MNm-3/2以上)と比較して著しく高い破壊靭性K1Cを示す。さらに、四元組成物は、PZTで観察されるよりも高いビッカーズ硬度および高い曲げ強度を示す(他の文献では、PZTの曲げ強度は50~86MPaで変化することが示唆されている)。
【0140】
図6は、10Hzおよび室温で収集された(表2および3の)四元組成物C0.25625[PbTiO]-0.075[SrTiO]-0.52125[BiFeO]-0.1475[(K0.5Bi0.5)TiO]を含むセラミックの分極場ループである。図示されるように、残留極性は、PZTで観察されたものと類似している。
【0141】
図7は、10Hzおよび室温で収集された四元組成物Cを含むセラミックの双極ひずみ場ループである。図示されているように、ピーク間のひずみの合計は0.49%である。
【0142】
図8は、1Hzおよび室温で収集された四元組成物Cを含むセラミックの単極ひずみ場ループである。図示されているように、4kV/mmにおける総ひずみは0.18%を超え、高電界d33(最大ひずみ/最大磁界)は431pm/Vである。
【0143】
図9は、四元組成物Cを含むセラミックの粉末X線結晶構造解析を示しており、つまり、良好な圧電活性、高いキュリー温度、破壊靭性、高い曲げ強度、およびビッカーズ硬度を備えたセラミックであることが示されている。
【0144】
分析は、(a)四面体相と菱面体晶相のそれぞれの相対的な比率、および(b)各単位セルタイプのサイズ/体積を定義することであった。正方晶相と菱面体晶相の原始単位セルサイズの違いは、強化された変換強化メカニズムの前提条件として(T.P.Comyn、T.Stevenson、S.A.Qaisar、A.J.Bell、“High performance piezoelectric materials”Actuator、2012年に記載されているように)知られており、これは、本発明のセラミックの非常に改善された破壊靭性の基礎となる。
【0145】
図9において、約44.6°および46.4°におけるピークは正方相に関連し、約46°におけるシングルピークは菱面体晶相に関連している。これらの位置から、菱面体晶相と正方晶相の体積の差は1.24%であると計算された。
【0146】
ここで詳細に説明した技術は、広く適用されることができ、また必ずしも本発明の範囲を限定することはできないことに留意すべきである。組成物Cの材料が実行されるプロセスのさらなる改良は、例えば、セラミックの材料特性のさらなる改善をもたらし得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9