(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】樹脂シート、積層体、成形体及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230619BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20230619BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20230619BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
B32B27/32 C
C08L23/12
C08L57/02
C08K5/20
(21)【出願番号】P 2019570649
(86)(22)【出願日】2019-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2019001620
(87)【国際公開番号】W WO2019155857
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2018021035
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅面 里美
(72)【発明者】
【氏名】近藤 要
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-139826(JP,A)
【文献】特開平10-193442(JP,A)
【文献】特開2003-041072(JP,A)
【文献】特開2014-194010(JP,A)
【文献】特開2016-195250(JP,A)
【文献】特開2017-066299(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209295(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139648(WO,A1)
【文献】特開2014-214285(JP,A)
【文献】特開2005-280173(JP,A)
【文献】特開2013-256613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 5/00 - 5/59
C08J 5/18
B32B 27/00 - 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油樹脂と、ポリプロピレンとを含む樹脂シートであって、
130℃での結晶化速度が2.5min
-1以下であり、アイソタクチックペンタッド分率が95モル%以上99モル%以下である樹脂シートを第1の層として含み、
さらに第2の層を含み、
前記第1の層の厚さが75~220μmであり、
前記第2の層の厚さが100μm~199μmである、積層体。
【請求項2】
前記ポリプロピレンが、プロピレンホモポリマーである請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ポリプロピレンがスメチカ晶を含む請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ポリプロピレンが、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂シートが、β晶核剤をさらに含む、請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記β晶核剤が、アミド化合物である請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記樹脂シートが、前記β晶核剤を10,000質量ppm以上、100,000質量ppm以下の割合で含む請求項5又は6に記載の積層体。
【請求項8】
前記石油樹脂が、水素添加芳香族系石油樹脂である請求項1~7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
前記樹脂シートが、前記石油樹脂を10質量%以上、30質量%以下の割合で含む請求項1~8のいずれかに記載の積層体。
【請求項10】
前記樹脂シートが、分散剤をさらに含む請求項1~9のいずれかに記載の積層体。
【請求項11】
前記分散剤が、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、モノグリセリン脂肪酸エステル及びジグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上である請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
前記樹脂シートが、前記分散剤を10質量ppm以上、10000質量ppm以下の割合で含む請求項10又は11に記載の積層体。
【請求項13】
前記第2の層が、ポリプロピレン及び石油樹脂を含む請求項1~12のいずれかに記載の積層体。
【請求項14】
130℃での結晶化速度が2.5min
-1以下であり、アイソタクチックペンタッド分率が95モル%以上99モル%以下である請求項13に記載の積層体。
【請求項15】
前記第2の層の前記ポリプロピレンが、プロピレンホモポリマーである請求項13又は14に記載の積層体。
【請求項16】
前記第2の層の前記ポリプロピレンがスメチカ晶を含む請求項13~15のいずれかに記載の積層体。
【請求項17】
前記第2の層の前記ポリプロピレンが、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する請求項13~16のいずれかに記載の積層体。
【請求項18】
前記第2の層の前記石油樹脂が、水素添加芳香族系石油樹脂である請求項13~17のいずれかに記載の積層体。
【請求項19】
前記第2の層が前記石油樹脂を10質量%以上、30質量%以下の割合で含む請求項13~18のいずれかに記載の積層体。
【請求項20】
ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む第3の層をさらに含み、
前記第2の層、前記第1の層、及び前記第3の層をこの順に含む、又は前記第3の層、前記第2の層、及び前記第1の層をこの順に含む請求項1~19のいずれかに記載の積層体。
【請求項21】
ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む第3の層、並びに、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む層であって、前記第3の層が含む樹脂とは異なる樹脂を含む第4の層をさらに含み、
前記第2の層、前記第1の層、前記第3の層、及び前記第4の層をこの順に含む、又は前記第4の層、前記第3の層、前記第2の層、及び前記第1の層をこの順に含む請求項1~19のいずれかに記載の積層体。
【請求項22】
金属又は前記金属の酸化物を含む金属層を、前記第3の層の前記第1の層とは反対側の面に含む請求項20に記載の積層体。
【請求項23】
金属又は前記金属の酸化物を含む金属層を、前記第4の層の前記第3の層とは反対側の面に含む請求項21に記載の積層体。
【請求項24】
前記金属層に含まれる金属元素が、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛からなる群から選択される1種以上である請求項22又は23に記載の積層体。
【請求項25】
前記金属層に含まれる金属元素が、インジウム、アルミニウム及びクロムからなる群から選択される1種以上である請求項22~24のいずれかに記載の積層体。
【請求項26】
前記金属層の前記第3の層とは反対側の面の一部又は全面に印刷層を含む請求項22~25のいずれかに記載の積層体。
【請求項27】
前記第1の層の厚さの割合が前記積層体の全厚さに対して50%以上であり、かつ、シートの全厚さT(μm)と、シートの全厚さTに対する前記第1の層の厚さの割合H(%)とが3.4≦log(T×H)≦5.0で示される関係を満たすプレススルーパック包装用ポリプロピレン多層シートではない、請求項1~26のいずれかに記載の積層体。
【請求項28】
請求項1、2、4~15及び17~2
7のいずれかに記載の積層体の成形体。
【請求項29】
請求項1~2
7のいずれかに記載の積層体を成形し、成形体を得る成形体の製造方法。
【請求項30】
前記成形を、前記積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記積層体と一体化して行う請求項2
9に記載の成形体の製造方法。
【請求項31】
前記成形を、前記積層体を金型に合致するよう賦形し、前記賦形した積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記積層体と一体化して行う請求項2
9に記載の成形体の製造方法。
【請求項32】
前記成形を、チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に前記積層体を配置し、前記チャンバーボックス内を減圧し、前記積層体を加熱軟化し、前記加熱軟化させた前記積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、請求項2
9に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シート、積層体、成形体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成形品に意匠を付与する方法としては、塗装又はメッキが主な方法であった。しかしながら、塗装は大量の揮発性有機化合物(VOC)を排出し、メッキは大量の廃液と有害物質を発生させるため、いずれの方法も環境負荷が大きい問題があった。
近年、環境負荷低減を目的とする意匠の付与方法が盛んに検討されており、シートに印刷及び表面形状のいずれか一方又は両方を施し、このシートを成形品と一体化させる、新たな意匠の付与方法(加飾成形法)が開発されている。
【0003】
特許文献1では、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、ポリテルペン石油樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む化粧シートが開示されている。このシートは結晶融解熱が80~150J/gかつ、引張り弾性率が8000~20000kg/cm2であり、耐傷付き性に優れるが、合板や鋼板等の下地材に粘着剤又は接着剤を用いて積層するため、加飾成形には適さない。
【0004】
特許文献2では、プロピレン系樹脂及び石油樹脂を含有するフィルム又はシートと、オレフィン系樹脂組成物からなる基材から構成される積層構造体が開示されている。特許文献2のフィルム又はシートには熱エージング処理がされるが、表面硬度は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-336181号公報
【文献】特開2000-38459号公報
【発明の概要】
【0006】
加飾成形法に用いるシートとしては、ポリプロピレンからなるポリプロピレンシートが期待されている。ポリプロピレンシートは、成形性及び耐薬品性に優れ、軽量化を図ることができるが、表面硬度が十分ではないため耐傷性能に劣る問題があった。
【0007】
本発明の目的は、表面硬度に優れる樹脂シートを提供することである。
【0008】
本発明らは鋭意研究した結果、石油樹脂及びβ晶核剤からなる群から選択される1以上と、ポリプロピレンを含む樹脂シートが優れた表面硬度を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下の樹脂シート等が提供される。
1.β晶核剤及び石油樹脂からなる群から選択される1以上と、ポリプロピレンとを含む樹脂シートであって、
130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であり、アイソタクチックペンタッド分率が95モル%以上99モル%以下である樹脂シート。
2.前記ポリプロピレンが、プロピレンホモポリマーである1に記載の樹脂シート。
3.前記ポリプロピレンがスメチカ晶を含む1又は2に記載の樹脂シート。
4.前記ポリプロピレンが、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
5.前記β晶核剤が、アミド化合物である1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
6.前記β晶核剤を10,000質量ppm以上、100,000質量ppm以下の割合で含む1~5のいずれかに記載の樹脂シート。
7.前記石油樹脂が、水素添加芳香族系石油樹脂である1~6のいずれかに記載の樹脂シート。
8.前記石油樹脂を10質量%以上、30質量%以下の割合で含む1~7のいずれかに記載の樹脂シート。
9.分散剤をさらに含む1~8のいずれかに記載の樹脂シート。
10.前記分散剤が、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、モノグリセリン脂肪酸エステル及びジグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上である9に記載の樹脂シート。
11.前記分散剤を10質量ppm以上、10000質量ppm以下の割合で含む9又は10に記載の樹脂シート。
12.1~11のいずれかに記載の樹脂シートを第1の層として含む積層体。
13.ポリプロピレン及び石油樹脂を含む第2の層を含む12に記載の積層体。
14.130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であり、アイソタクチックペンタッド分率が95モル%以上99モル%以下である13に記載の積層体。
15.前記第2の層の前記ポリプロピレンが、プロピレンホモポリマーである13又は14に記載の積層体。
16.前記第2の層の前記ポリプロピレンがスメチカ晶を含む13~15のいずれかに記載の積層体。
17.前記第2の層の前記ポリプロピレンが、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する13~16のいずれかに記載の積層体。
18.前記第2の層の前記石油樹脂が、水素添加芳香族系石油樹脂である13~17のいずれかに記載の積層体。
19.前記第2の層が前記石油樹脂を10質量%以上、30質量%以下の割合で含む13~18のいずれかに記載の積層体。
20.ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む第3の層をさらに含み、
前記第2の層、前記第1の層、及び前記第3の層をこの順に含む、又は前記第3の層、前記第2の層、及び前記第1の層をこの順に含む13~19のいずれかに記載の積層体。
21.ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む第3の層、並びに、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む層であって、前記第3の層が含む樹脂とは異なる樹脂を含む第4の層をさらに含み、
前記第2の層、前記第1の層、前記第3の層、及び前記第4の層をこの順に含む、又は前記第4の層、前記第3の層、前記第2の層、及び前記第1の層をこの順に含む13~19のいずれかに記載の積層体。
22.金属又は前記金属の酸化物を含む金属層を、前記第3の層の前記第1の層とは反対側の面に含む20に記載の積層体。
23.金属又は前記金属の酸化物を含む金属層を、前記第4の層の前記第3の層とは反対側の面に含む21に記載の積層体。
24.前記金属層に含まれる金属元素が、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛からなる群から選択される1種以上である22又は23に記載の積層体。
25.前記金属層に含まれる金属元素が、インジウム、アルミニウム及びクロムからなる群から選択される1種以上である22~24のいずれかに記載の積層体。
26.前記金属層の前記第3の層とは反対側の面の一部又は全面に印刷層を含む22~25のいずれかに記載の積層体。
27.3を引用しない場合の12~15及び17~26のいずれかに記載の積層体の成形体。
28.12~26のいずれかに記載の積層体を成形し、成形体を得る成形体の製造方法。
29.前記成形を、前記積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記積層体と一体化して行う28に記載の成形体の製造方法。
30.前記成形を、前記積層体を金型に合致するよう賦形し、前記賦形した積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記積層体と一体化して行う28に記載の成形体の製造方法。
31.前記成形を、チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に前記積層体を配置し、前記チャンバーボックス内を減圧し、前記積層体を加熱軟化し、前記加熱軟化させた前記積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、28に記載の成形体の製造方法。
【0010】
本発明によれば、表面硬度に優れる樹脂シートが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様に係る積層体の一実施形態を示す概略断面図である。
【
図2】実施例1において樹脂シートの製造に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[樹脂シート]
本発明の一態様に係る樹脂シートは、石油樹脂及びβ晶核剤からなる群から選択される1以上と、ポリプロピレンとを含み、130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であり、アイソタクチックペンタッド分率が95モル%以上99モル%以下である。
本態様に係る樹脂シートは、ポリプロピレンに石油樹脂を添加することで、ポリプロピレンの非晶相に石油樹脂が取り込まれ、樹脂シートの硬度が向上すると推測される。また、ポリプロピレンにβ晶核剤を添加することで、β晶核剤が補強材として機能し、樹脂シートの硬度が向上すると推測される。
【0013】
樹脂シートのアイソタクチックペンタッド分率は、95モル%以上99モル%以下であり、好ましくは96モル%以上99モル%以下、より好ましくは97モル%以上99モル%以下である。
樹脂シートのアイソタクチックペンタッド分率が95モル%未満の場合、樹脂シートの剛性が不足するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率が99モル%を超える場合、透明性が低下するおそれがある。
【0014】
樹脂シートのアイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂シートに含まれるポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率を意味するということができ、ポリプロピレン樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。樹脂シートのアイソタクチックペンタッド分率は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0015】
樹脂シートは、好ましくは130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であり、より好ましくは130℃での結晶化速度が2.0min-1以下である。ここで樹脂シートの結晶化速度とは、樹脂シートに含まれるポリプロピレンの結晶化速度を意味するということができる。
樹脂シートの130℃での結晶化速度が、2.5min-1以下であると、金型へ接触した部分が急速に硬化すること等を抑制でき、意匠性の低下を防止することができる。尚、樹脂シートの130℃での結晶化速度の下限は、特に限定されないが、例えば0.001min-1である。
樹脂シートの130℃での結晶化速度は実施例に記載の方法で測定できる。
【0016】
以下、樹脂シートが含む各成分について説明する。
ポリプロピレンは、少なくともプロピレンを含む重合体である。具体的には、ホモポリプロピレン(プロピレンホモポリマー)、プロピレンとオレフィンとの共重合体等が挙げられる。これらのうち、耐熱性、硬度の観点から、ホモポリプロピレンが好ましい。
上記プロピレンとオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体でも、ランダム共重合体でもよく、これらの混合物でもよい。オレフィンとしては、エチレン、ブチレン、シクロオレフィン等が挙げられる。
【0017】
ポリプロピレンのメルトフローレート(以下、「MFR」と言う場合がある。)は、0.5~10g/10分の範囲が好ましい。この範囲内であれば、フィルム形状又はシート形状への優れた成形性が得られる。ポリプロピレンのMFRは、JIS-K7210:2014に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定するとよい。
【0018】
ポリプロピレンは、好ましくは示差走査熱量測定曲線において最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上(より好ましくは1.5J/g以上)の発熱ピークを有する。上限値は特に限定されないが、通常10J/g以下である。
発熱ピークは、示差走査熱量測定器を用いて測定する。
【0019】
ポリプロピレンは、結晶構造としてスメチカ晶を含むことが好ましい。スメチカ晶は準安定状態の中間相であり、1つ1つのドメインサイズが小さいことから、透明性に優れるので好ましい。また、準安定状態であるため、結晶化が進んだα晶と比較して低い熱量でシートが軟化することから成形性に優れるため、好ましい。
ポリプロピレンの結晶構造としては、スメチカ晶の他に、β晶、γ晶、非晶部等の他の結晶形を含んでもよい。
樹脂シート中のポリプロピレンの30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上が、スメチカ晶でもよい。樹脂シート中のスメチカ晶の有無は実施例に記載の方法で確認できる。
【0020】
アイソタクチックペンタッド分率95モル%以上99モル%以下、かつ、結晶化速度2.5min-1以下で、透明性や光沢に優れた樹脂シートとするために、樹脂シートのポリプロピレン中にスメチカ晶を形成するとよい。
後述する成形体の製造において、加熱後の賦形によってポリプロピレンがスメチカ晶由来の微細構造を維持したままα晶に転移するが、成形後の樹脂シートが、アイソタクチックペンタッド分率95モル%以上99モル%以下であり、かつ結晶化速度2.5min-1以下であれば、スメチカ晶由来といえる。
【0021】
樹脂シートにおけるポリプロピレンの含有割合は、例えば50質量%以上99質量%以下であり、好ましくは85質量%以上99質量%以下である。
【0022】
β晶核剤は、ポリプロピレンの結晶構造のうち、β晶を選択的に生成させることができる核剤である。β晶は、ポリプロピレンの結晶構造のひとつであり、最も生成されやすいα晶よりも硬度を持った結晶構造である。
【0023】
β晶核剤としては、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノサイズの酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウム等のカルボン酸のアルカリ又はアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム等の芳香族スルホン酸化合物;二塩基又は三塩基カルボン酸のジ又はトリエステル類;フタロシアニンブルー等のフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分aと第2族元素金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分bとからなる2成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物等が挙げられる。これらのうち、アミド化合物が好ましい。
その他、特開2003-306585号公報、特開平8-144122号公報又は特開平9-194650号公報に具体的に記載されている物質を用いることもできる。
上記β晶核剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
β晶核剤の市販品としては、エヌジェスターNU-100(新日本理化株式会社)等が挙げられる。エヌジェスターNU-100は、ナフタレンがアミド結合を介してシクロヘキサンを持つ構造である。
【0025】
樹脂シートのβ晶核剤の含有量は、例えば3,000質量ppm以上、100,000質量ppm以下であり、10,000質量ppm以上、100,000質量ppm以下が好ましい。β晶核剤の含有量が3,000質量ppm未満であると、硬度の向上が見込めないおそれがある。一方、β晶核剤の含有量が100,000質量ppmを超えると、透明性が著しく悪化するおそれがある。
【0026】
樹脂シートがβ晶核剤を含む場合、分散剤をさらに含むと好ましい。
β晶核剤がアミド結合を有するアミド化合物である場合、β晶核剤同士で水素結合を形成するため、β晶核剤は一般に分散性が悪い。そこで、β晶核剤のアミド結合に選択的に結合し、β晶核剤の水素結合を阻害する分散剤を添加することで、β晶核剤の分散性を向上させることができる。
【0027】
分散剤としては、一般的に帯電防止剤として用いられる公知の低分子型分散剤又は高分子型分散剤を好適に用いることができる。
低分子型分散剤としては、例えば、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン型分散剤、テトラアルキルアンモニウム塩型のカチオン型分散剤、アルキルスルホン酸塩等のアニオン型分散剤、アルキルベタイン等の両性型分散剤等を挙げることができる。
高分子型分散剤としては、例えば、ポリエーテルエステルアミド等の非イオン型分散剤、ポリスチレンスルホン酸等のアニオン型分散剤、第四級アンモニウム塩含有重合体等のカチオン型分散剤等を挙げることができる。
上記のうち、分散剤は、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、モノグリセリン脂肪酸エステル及びジグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上であると好ましい。
上記分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
分散剤の市販品としては、ISU-200(竹本油脂株式会社製)、リケマスターPSR-300(理研ビタミン株式会社製)、アンステツクスSA-20(東邦化学工業株式会社製)、PPM AST-42AL(東京インキ株式会社製)、OGSOL MF-11(大阪ガスケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
樹脂シートの分散剤の含有量は、10質量ppm以上10000質量ppm以下であることが好ましく、1000質量ppm以上10000質量ppm以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が10質量ppm未満であると、β晶核剤が充分に分散しないおそれがある。一方、分散剤の含有量が10000質量ppmを超えると、分散剤がブリードアウトし、外観を損なうおそれがある。
【0030】
石油樹脂とは、例えば、石油ナフサを熱分解して必要な留分を採取した残りの留分のうち、主としてC5及びC9留分から不飽和炭化水素を単離することなく、酸性触媒により固化した樹脂をいう。
石油樹脂の軟化点は、好ましくは80℃以上170℃以下であり、より好ましくは110℃以上170℃以下である。石油樹脂の軟化点が80℃未満の場合、樹脂シートの耐熱性が低下し、高温雰囲気下で石油樹脂成分が表面にブリードアウトしやすくなるおそれがある。一方、石油樹脂の軟化点が170℃を超える場合、ポリプロピレンの融点を超えるため、成形体が白化しない成形温度領域では、樹脂シートを軟化できないおそれがある。
石油樹脂の軟化点は、JIS K2207:2006に準拠した方法によって測定することが可能である。
【0031】
石油樹脂の数平均分子量は、720以上1085以下であることが好ましい。
石油樹脂の数平均分子量が720未満の場合、樹脂シートの耐熱性が低下し、高温雰囲気下で石油樹脂成分が表面にブリードアウトしやすくなるおそれがある。一方、石油樹脂の数平均分子量が1085を超える場合、成形体が白化しない成形温度領域では、樹脂シートを軟化できないおそれがある。
尚、石油樹脂の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより確認できる。
【0032】
石油樹脂としては、例えば、芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族炭化水素樹脂系、脂環族飽和炭化水素樹脂系、共重合系石油樹脂、及びこれら石油樹脂の水素添加誘導体が挙げられる。これらの中でも、透明性と成形性という観点から、水素添加芳香族系石油樹脂、及び芳香族系石油樹脂を含む共重合系が好ましく、水素添加芳香族系石油樹脂、及び芳香族系石油樹脂とジシクロペンタジエンとの共重合系がより好ましい。
【0033】
石油樹脂の具体例としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、クマロン-インデン樹脂、アルキルフェノール樹脂、又はこれらの水素添加誘導体が挙げられる。
ロジン系樹脂とは、マツ類の樹脂等から得られるアビエチン酸又はその誘導体を主成分とする樹脂であって、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、水素化ロジン、アルコールでエステル化したエステル化ロジン、フェノールとロジンとを反応させたロジンフェノール樹脂等が挙げられる。
テルペン系樹脂とは、テレピン油を原料とした樹脂であって、例えば、α-ピネンやβ-ピネンが重合したテルペン樹脂、フェノールとテルペンを反応させたテルペンフェノール樹脂、スチレン等で極性を付与した芳香族変性テルペン樹脂、水素化テルペン樹脂等が挙げられる。
クマロン-インデン樹脂とは、クマロン及びインデンを主とする重合物からなる樹脂である。
アルキルフェノール樹脂とは、アルキルフェノールとアルデヒドとの反応により得られる樹脂である。
石油樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
石油樹脂の市販品の例としては、「アイマーブ」(出光興産(株)製)、「アルコン」(荒川化学工業(株))、「オペラ」及び「エスコレッツ」(いずれもエクソンモービル社製)、「ハイレッツ」及び「ペトロジン」(いずれも三井化学(株)製)、「スコレッツ」(コーロン社製)、「リガライト」、「イーストタック」及び「プラストリン」(いずれもイーストマン社製)、「クリアロン」(ヤスハラケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0035】
樹脂シートが石油樹脂を含む場合、樹脂シートの石油樹脂の含有量は、3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。石油樹脂の含有量が3質量%未満である場合、硬度が向上しないおそれがある。一方、石油樹脂の含有量が30質量%超の場合、石油樹脂がブリードアウトし、外観を損なうおそれがある。
【0036】
本態様に係る樹脂シートは、その他任意成分として、顔料、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤からなる群から選択される1以上を含んでもよい。また、その他任意成分として、オレフィンを、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、アクリル酸、メタクリル酸、テトラヒドロフタル酸、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタクリレート等の変性用化合物で変性して得られる変性ポリオレフィン樹脂を含んでもよい。
【0037】
本態様に係る樹脂シートは、本質的にβ晶核剤及び石油樹脂からなる群から選択される1以上、ポリプロピレン、及び任意成分からなってもよい(consisting essentially of)。本態様に係る樹脂シートの、例えば、80%質量以上、90質量%以上、又は95質量%以上が、β晶核剤及び石油樹脂からなる群から選択される1以上、ポリプロピレン、及び任意成分であってもよい。また、本態様に係る樹脂シートは、β晶核剤及び石油樹脂からなる群から選択される1以上、ポリプロピレン、及び任意成分のみからなってもよい(consisting of)。この場合、不可避不純物を含んでもよい。
【0038】
本態様に係る樹脂シートの形成方法としては、押出法等が挙げられる。
上記押出法では溶融樹脂の冷却を含み、当該冷却は、好ましくは80℃/秒以上で行い、樹脂シートの内部温度が結晶化温度以下となるまで行う。これにより、樹脂シートに含まれるポリプロピレンの結晶構造をスメチカ晶とすることができる。冷却は、90℃/秒以上がより好ましく、150℃/秒以上がさらに好ましい。
【0039】
小角X線散乱解析法により散乱強度分布と長周期を算出することにより、樹脂シートが80℃/秒以上で冷却して得られたものか、そうでないかを判断することができる。すなわち、上記解析により樹脂シートがスメチカ晶由来の微細構造を有しているか否かを判断することが可能である。
ここで、樹脂シートの長周期とは、樹脂シートが含む結晶性ポリプロピレンのラメラ間距離を示す。ポリプロピレンの結晶構造が微細になると、ラメラ間距離も短くなり、長周期の値も小さくなる。よって、長周期を測定することで、樹脂シートがスメチカ晶由来の微細構造を有するか、判断することができる。
【0040】
樹脂シートの形成に用いる原料ポリプロピレンとしては、アイソタクチックペンタッド分率95モル%以上99モル%以下、かつ、結晶化速度2.5min-1以下であるポリプロピレンを用いるとよい。
原料ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率及び結晶化速度の測定は、樹脂シートのアイソタクチックペンタッド分率及び結晶化速度の測定と同じ方法で測定でき、測定サンプルを樹脂シートから原料プロピレンに変えるだけでよい。
【0041】
樹脂シートは、1層単独でもよく、又は、2層以上の積層構造でもよい。樹脂シートが2層以上の積層体である場合、2以上の層が含む成分は互いに同じでもよく、異なってもよい。例えば、樹脂シートが2層の積層構造である場合、ポリプロピレン、β晶核剤、分散剤及び石油樹脂を含む第1の樹脂シートと、ポリプロピレン及び石油樹脂を含む第2の樹脂シートの積層体とできる。
樹脂シートの厚さは、通常、10~1000μmであり、15~500μm、60~250μm又は75~220μmとしてもよい。
【0042】
[積層体]
本発明の一態様に係る積層体は、本発明の樹脂シートを第1の層として含む。
本態様に係る積層体は、好ましくはポリプロピレン及び石油樹脂を含む第2の層をさらに含む。第2の層は、基材シートとして機能し、本発明の樹脂シートの表面硬度をさらに向上させることができる。
【0043】
本態様に係る第1の層及び第2の層を含む積層体は、好ましくは130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であり、アイソタクチックペンタッド分率が95モル%以上99モル%以下である。
積層体の結晶化速度及びアイソタクチックペンタッド分率の測定方法は、本発明の樹脂シートの結晶化速度及びアイソタクチックペンタッド分率の測定方法と同じであり、評価対象を樹脂シートから積層体に変えるだけでよい。
【0044】
本態様に係る積層体の第2の層が含むポリプロピレン及び石油樹脂は、本発明の樹脂シートが含むポリプロピレン及び石油樹脂と同じものを用いることができる。
また、第2の層のポリプロピレン及び石油樹脂のそれぞれの好ましい含有量も、本発明の樹脂シートのポリプロピレン及び石油樹脂のそれぞれの好ましい含有量と同じである。
【0045】
第2の層は、β晶核剤を含んでもよいが、β晶核剤を含まないほうが好ましい。
尚、第2の層がβ晶核剤を含む場合、第2の層が含むβ晶核剤は、本発明の樹脂シートが含むβ晶核剤と同じものを用いることができる。また、第2の層のβ晶核剤の好ましい含有量も、本発明の樹脂シートがβ晶核剤を含む場合の好ましい含有量と同じである。
【0046】
第2の層の、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、ポリプロピレン及び石油樹脂からなってもよい。
【0047】
第2の層は、1層単独でもよく、又は、2層以上の積層構造でもよい。
第2の層の厚さは、10μm~199μmが好ましく、50μm~199μmがより好ましく、100μm~199μmがさらに好ましい。
【0048】
第2の層は、樹脂シートと同様に押出法で形成することができ、例えば第1の層の材料と第2の層の材料とを用いて共押出しすることで、第1の層及び第2の層からなる積層体の一部として第2の層を形成できる。
【0049】
本態様に係る積層体は、好ましくはウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む第3の層をさらに含む。
本態様に係る積層体が第3の層を含む場合、第2の層、第1の層、及び第3の層をこの順に含むとよく、又は第3の層、第2の層、及び第1の層をこの順に含むとよい。本態様に係る積層体は、第2の層、第1の層、及び第3の層をこの順に含むと好ましい。
ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む第3の層(密着層)を設けることで、積層体が複雑な非平面状に成形された場合であっても、第3の層が第1層及び第2の層の積層体に追従して良好に層構成を形成でき、第1の層及び第2の層にひび割れや剥離が生じる不都合を防止することができる。
【0050】
第3の層が含むウレタン系樹脂は、ジイソシアネート、高分子量ポリオール及び鎖延長剤を反応させて得られるウレタン系樹脂が好ましい。高分子量ポリオールは、ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールとしてもよい。ウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドランWLS-202(DIC株式会社製)等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、アクリット8UA-366(大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂としては、アローベースDA-1010(ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
第3の層は、上述した材料を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
第3の層が含むウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂のうち、後述する第4の層、金属層及び印刷層への密着性や成形性を考慮すると、ウレタン系樹脂が好ましい。
尚、第3の層がポリプロピレン系樹脂を含む場合、第3の層が含むポリプロピレン系樹脂は、第1の層が含むポリプロピレン及び第2の層が含むポリプロピレンとは、通常、異なる。
【0052】
第3の層の、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂からなってもよい。例えば第3の層は、ウレタン樹脂のみからなる層でもよい。
【0053】
第3の層のガラス転移温度は、-100℃以上100℃以下が好ましい。ガラス転移温度が-100℃以上であると、第3の層の歪みが後述する金属層の追従性を超えないため、長期間使用してもひび割れによる不良が発生しない。ガラス転移温度が100℃以下であると、軟化温度が適度であるため予備賦形時の伸びが良好であり、延伸部の伸びムラや金属層のひび割れを抑制することができる。
【0054】
第3の層のガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン株式会社製「DSC-7」)により、以下の条件で示差走査熱分析曲線を測定することで求めることができる。
測定開始温度:-90℃
測定終了温度:220℃
昇温温度:10℃/分
【0055】
第3の層の引張破断伸度は、例えば150%以上900%以下であり、好ましくは200%以上850%であり、より好ましくは300%以上750%以下である。
第3の層の引張破断伸度が150%以上であると、熱成形の際の第1の層及び第2層の伸びに第3の層が問題なく追従できるため、第3の層のひび割れ、及び金属層のひび割れや剥離を抑制することができる。引張破断伸度が900%以下であると耐水性が良好である。
【0056】
第3の層の引張破断伸度は、例えば、ガラス基板上に、第3の層となる樹脂(例えばウレタン樹脂)をバーコーターにて塗布し、80℃にて1分間乾燥し、その後分離して厚み150μmの試料を作成し、JIS K7311:1995に準拠した方法で測定することにより評価できる。
【0057】
第3の層の軟化温度は、例えば50℃以上180℃以下であり、好ましくは90℃以上170℃以下であり、より好ましくは100℃以上165℃以下である。
軟化温度が50℃以上であると、第3の層は常温での強度に優れ、金属層のひび割れや剥離を抑制することができる。軟化温度が180℃以下であると、熱成形時に第3の層が十分軟化するため、第3の層のひび割れ、及び金属層のひび割れや剥離を抑制することができる。
【0058】
第3層の軟化温度は、例えば、ガラス基板上に、第3の層となる樹脂(例えばウレタン樹脂)をバーコーターにて塗布し、80℃にて1分間乾燥し、その後分離して厚み150μmの試料を作成し、第3の層の軟化温度を高化式フローテスター(島津製作所社製「定試験力押出形細管式レオメータフローテスター CFT-500EX」)による流動開始温度を測定することにより評価できる。
【0059】
第3の層は、1層単独でもよく、又は、2層以上の積層構造でもよい。
第3の層の厚さは、35nm以上3000nm以下としてもよく、50nm以上2000nm以下としてもよく、50nm以上1000nm以下としてもよい。
【0060】
第3の層は、例えば、上述した樹脂をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、40~100℃にて10秒~10分間乾燥することで形成することができる。
【0061】
本態様に係る積層体は、好ましくはウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含む層であって、第3の層が含む樹脂とは異なる樹脂を含む第4の層をさらに含む。
本態様に係る積層体が、第4の層を含む場合、第2の層、第1の層、第3の層、及び第4の層をこの順に含むとよく、又は第4の層、第3の層、第2の層、及び第1の層をこの順に含むとよい。本態様に係る積層体は、第2の層、第1の層、第3の層、及び第4の層をこの順に含むと好ましい。
第4の層は、第3の層と金属層とをより密着させることができる層(アンダーコート層)である。第4の層を設けることにより、熱成形時に応力が加わった場合でも、金属層に極めて微細なクラックを無数に生じさせることができ、レインボー現象の発生を無くし、又は低減することができる。
【0062】
第4の層のウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂は、第3の層のものと同じものを使用でき、成形時の耐白化性(白化現象の起こりにくさ)及び金属層との密着性の観点から、アクリル系樹脂を含むと好ましい。
上記アクリル系樹脂としては、例えば荒川化学工業株式会社製「DA-105」を用いることができる。
【0063】
第4の層は、硬化剤を含んでもよい。硬化剤としては、アジリジン系化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ系化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられ、例えば荒川化学工業株式会社製「CL102H」を用いることができる。
【0064】
第4の層が硬化剤を含む場合、第4の層における主剤(ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上)と硬化剤の含有割合は、固形分の質量比で、例えば35:4~35:40であり、好ましくは35:4~35:32であり、より好ましくは35:12~35:32である。また、35:12~35:20としてもよい。
硬化剤の配合量が主剤35に対して4以上であると、硬化反応が問題なく進行し、耐白化性を維持することができる。40以下であると、第4の層の伸び性が良好であり、成形時のひび割れを抑制することができる。
【0065】
第4の層の、例えば、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、上記の樹脂成分(ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1種以上)及び任意に含まれる硬化剤からなってもよい。
【0066】
第4の層は、1層単独でもよく、又は、2層以上の積層構造でもよい。
第4の層の厚さは、0.05μm~50μmとしてもよく、0.1μm~10μmとしてもよく、0.5μm~5μmとしてもよい。
【0067】
第4の層の形成方法としては、例えば、上述した材料をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、50~100℃にて10秒~10分間乾燥し、40~100℃にて10~200時間エージングすることで形成することができる。
【0068】
本態様に係る積層体は、好ましくは金属又は前記金属の酸化物を含む金属層を含む。
金属層は、好ましくは第3の層の上(第3の層の、第1の層とは反対側)又は第4の層の上(第4の層の、第3の層とは反対側)に積層される。
【0069】
金属層を形成する金属としては、積層体に金属調の意匠を付与できる金属であれば特に限定されないが、例えば、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。
金属層を形成する上記金属のうち、インジウム、アルミニウム及びクロムは伸展性と色調に特に優れるため好ましい。金属層が伸展性に優れると、積層体を三次元成形した際にひび割れが発生しにくい。
【0070】
金属層の形成方法は特に制限されないが、質感が高く高級感のある金属調の意匠を積層体に付与する観点から、例えば、上記の金属を用いた、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着法等を用いることができる。特に、真空蒸着法は低コストであり、かつ、被蒸着体へのダメージを少なくすることができる。真空蒸着法の条件は、用いる金属の溶融温度又は蒸発温度に応じて適宜設定すればよい。
上記方法の他、上記の金属又は金属酸化物を含むペーストを塗工する方法、上記の金属を用いためっき法等を用いることもできる。
【0071】
金属層の厚さは、5nm以上80nm以下としてもよい。5nm以上であると所望の金属光沢が問題なく得られ、80nm以下であるとひび割れが発生しにくい。
【0072】
本態様に係る積層体は、好ましくは印刷層を含む。
印刷層は、好ましくは金属層の一方の面(金属層の第3の層側の面、又は金属層の第3の層とは反対側の面)に設けられる。
印刷層は金属層の面のうち一部に設けてもよいし全部に設けてもよい。印刷層の形状としては、特に制限されないが、例えばベタ状、カーボン調、木目調等の様々な形状が挙げられる。
【0073】
印刷の方法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、スプレーコート法等の一般的な印刷方法が利用できる。特に、スクリーン印刷法はインキの膜厚が厚くできるため、複雑な形状に成形した際にインキ割れが発生しにくい。
例えば、スクリーン印刷の場合、成形時の伸びに優れたインキが好ましく、十条ケミカル株式会社製の「FM3107高濃度白」や「SIM3207高濃度白」等が例示できるが、この限りではない。
【0074】
本態様に係る積層体の一実施形態を示す概略断面図を
図1に示す。尚、
図1は、単に本態様に係る積層体の層構成を説明するためのものであり、縦横比や膜厚比は必ずしも正確ではない。
図1の積層体1は、第2の層(基材シート)20、第1の層(樹脂シート)10、第3の層(密着層)30、第4の層(アンダーコート層)40、金属層50及び印刷層60がこの順に積層した積層体である。
【0075】
本態様に係る積層体は、本発明の樹脂シートである第1の層10を含めばよく、第2の層20、第3の層30、第4の層40、金属層50及び印刷層60から選択される1以上は任意に設ければよい。また、積層順序も
図1の積層体1の積層順序に限定されない。例えば、本態様に係る積層体は、第1の層(樹脂シート)10、第2の層(基材シート)20、第3の層(密着層)30、第4の層(アンダーコート層)40、金属層50及び印刷層60がこの順に積層した積層体でもよい。
本態様に係る積層体は、第3の層の上(第1の層とは反対側)にインキやハードコート、反射防止コート、遮熱コート等の各種コーティングを積層できる。
また、第2の層の第1の層とは反対側の面に第3の層(密着層)をもう1層設けてもよい(第2の密着層)。このようにすることで、成形体の表面となる第2の層に、表面処理やハードコーティング等の機能性を付与することができる。
【0076】
[積層体の製造方法]
本発明の一態様に係る積層体の製造方法は特に制限されないが、例えば、実施例に記載の方法によって樹脂シート(第1の層)、又は樹脂シート(第1の層)及び基材シート(第2の層)の積層体を形成し、上述した方法によって他の層を任意に設けることで積層体とすることができる。
【0077】
[成形体]
本発明の積層体を用いて成形体を作製することができる。
本発明の一態様に係る成形体において、第1の層のポリプロピレンは、アイソタクチックペンダット分率が95モル%以上98モル%以下であると好ましい。また、当該ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であると好ましく、2.0min-1以下がより好ましい。
成形体とした後でも位相顕微鏡等を用いることで、積層体の第1の層に対応する部分を特定することが可能である。
【0078】
本発明の一態様に係る成形体の光沢度は、金属層にインジウム又は酸化インジウムを用いた場合、例えば、250%以上、300%以上、400%以上、500%以上又は600%以上とすることができる。成形体の光沢度が250%以上であれば、十分な金属光沢を発現し、優れた金属調の意匠を成形体へ付与できる。
【0079】
本発明の一態様に係る成形体の光沢度は、金属層にアルミニウム又は酸化アルミニウムを用いた場合、例えば、460%以上、480%以上、500%以上又は520%以上とすることができる。成形体の光沢度が460%以上であれば、金属光沢を十分発現し、優れた金属調の意匠を成形体へ付与できる。
【0080】
本発明の一態様に係る成形体の光沢度は、金属層にクロム又は酸化クロムを用いた場合、例えば、150%以上、180%以上、200%以上又は220%以上とすることができる。成形体の光沢度が150%以上であれば、金属光沢を十分発現し、優れた金属調の意匠を成形体へ付与できる。
【0081】
成形体の光沢度は、以下の方法で評価できる。
成形体について、JIS Z8741:1997の60度鏡面光沢の測定方法に準拠し、自動式測色色差計(AUD-CH-2型-45,60、スガ試験機株式会社製)を使用し、第1の層(樹脂シート)の、第3の層(密着層)と接する面と反対の面から光を入射角60度で照射し、同じく60度で反射光を受光したときの反射光束ψsを測定し、屈折率1.567のガラス表面からの反射光束ψ0sとの比により、下記式(1)により光沢度を算出できる。
光沢度(Gs)=(ψs/ψ0s)*100・・・(1)
【0082】
[成形体の製造方法]
本発明の一態様に係る成形体の製造方法としては、インモールド成形、インサート成形、被覆成形等が挙げられる。
【0083】
インモールド成形は、金型内に積層体を設置して、金型内に供給される成形用樹脂の圧力で所望の形状に成形して成形体を得る方法である。
インモールド成形として、積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して一体化して行うことが好ましい。
【0084】
インサート成形では、金型内に設置する賦形体を予備賦形しておき、その形状に成形用樹脂を充填することで、成形体を得る方法である。より複雑な形状を形成することができる。
インサート成形として、積層体を金型に合致するよう賦形し、賦形した積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して一体化して行うことができる。
金型に合致するように行う賦形(予備賦形)は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形、プラグアシスト成形等で行うことができる。
【0085】
成形用樹脂は、成形可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、アセチレン-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル重合体等が例示できるが、この限りではない。ファイバーやタルク等の無機フィラーを添加してもよい。
供給は、射出で行うことが好ましく、圧力5MPa以上120MPa以下が好ましい。金型温度は20℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0086】
被覆成形として、チャンバーボックス内に芯材を配設し、芯材の上方に、積層体を配置し、チャンバーボックス内を減圧し、積層体を加熱軟化し、芯材の上面に、積層体を接触し、加熱軟化させた積層体を芯材に押圧して被覆させることができる。
加熱軟化後、芯材の上面に積層体を接触させてもよい。押圧は、チャンバーボックス内において、積層体の芯材と接する側を減圧したまま、積層体の芯材の反対側を加圧して行うことができる。
【0087】
芯材は、凸状でも凹状であってもよく、例えば三次元曲面を有する樹脂、金属、セラミック等が挙げられる。樹脂は、上述の成形に用いる樹脂と同様のものが挙げられる。
【0088】
上記方法として、具体的には、互いに分離可能な上下2つの成形室から構成されるチャンバーボックスを用いることができる。
まず、下成形室内のテーブル上へ芯材を載せ、セットする。被成形物である本発明の積層体を下成形室上面にクランプで固定する。この際、上・下成形室内は大気圧である。
次に上成形室を降下させ、上・下成形室を接合させ、チャンバーボックス内を閉塞状態にする。上・下成形室内の両方を大気圧状態から、真空タンクによって真空吸引状態とする。
上・下成形室内を真空吸引状態にした後、ヒータを点けて加飾シートの加熱を行なう。次に上・下成形室内は真空状態のまま下成形室内のテーブルを上昇させる。
次に、上成形室内の真空を開放し大気圧を入れることによって、被成形物である本発明の積層体は芯材へ押し付けられてオーバーレイ(成形)される。尚、上成形室内に圧縮空気を供給することで、より大きな力で被成形物である本発明の積層体を芯材へ密着させることも可能である。
オーバーレイが完了した後、ヒータを消灯し、下成形室内の真空も開放して大気圧状態へ戻し、上成形室を上昇させ、加飾印刷された積層体が表皮材として被覆された製品を取り出す。
【0089】
[成形体等の用途]
本発明の積層体及び成形体は、鞍乗型車両の外装部品又は四輪車両の外装部品に用いることができる。
また、本発明の積層体及び成形体は、車両の内装材、外装材、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、情報通信機器の筐体等に用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は下記実施例に限定されない。
実施例及び比較例で用いた成分を以下に示す。
・ポリプロピレン:商品名「プライムポリプロF-133A」(株式会社プライムポリマー製、MFR:3g/10分、ホモポリプロピレン)
・石油樹脂:商品名「アイマーブP-140」(芳香族系水添石油樹脂、出光興産株式会社製、軟化点140℃、平均分子量900)
・β晶核剤:商品名「エヌジェスターNU-100」(N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド、新日本理化株式会社製)
・分散剤 :商品名「ISU-200」(竹本油脂株式会社製)
【0091】
[樹脂シートの製造と評価]
実施例1
図2に示す装置を用いて、樹脂シートを製造した。
当該装置の動作を説明する。押出機のTダイ52より押し出された表1に示す組成を有するポリプロピレン及び石油樹脂の溶融樹脂を第1冷却ロール53上で金属製エンドレスベルト57と第4冷却ロール56との間に挟み込む。この状態で、溶融樹脂を第1、第4冷却ロール53、56で圧接するとともに急冷する。
樹脂シートは、続いて、第4冷却ロール56の略下半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト57と第4冷却ロール56とに挟まれて面状圧接される。第4冷却ロール56で面状圧接及び冷却された後、金属製エンドレスベルト57に密着した樹脂シートは、金属製エンドレスベルト57の回動とともに第2冷却ロール54上に移動される。樹脂シートは、前述同様、第2冷却ロール54の略上半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト57により面状圧接され、再び冷却される。第2冷却ロール54上で冷却された樹脂シート51は、その後金属製エンドレスベルト57から剥離される。なお、第1、第2冷却ロール53、54の表面には、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材62が被覆されている。また、第3冷却ロール55は、金属製エンドレスベルト57を下部で支えて回転する機能を果たしている。
【0092】
樹脂シートの製造条件は以下の通りである。
・押出機の直径:75mm
・Tダイ52の幅:900mm
・厚さ:200μm
・樹脂シート51の引き取り速度:4.5m/分
・第4冷却ロール56及び金属製エンドレスベルト57の表面温度:20℃
・冷却速度:8,100℃/分
【0093】
得られた樹脂シートについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(結晶化速度)
示差走査熱量測定器(DSC)(パーキンエルマー社製「Diamond DSC」)を用いて樹脂シートの結晶化速度を測定した。具体的には、樹脂シートを10℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始からピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始及び終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
【0094】
(アイソタクチックペンダット分率)
13C-NMRスペクトルを評価することで、樹脂シートのアイソタクチックペンダット分率を測定した。具体的には、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案されたピークの帰属に従い、下記の装置、条件及び計算式を用いて行った。その結果、樹脂シートのアイソタクチックペンダット分率は98モル%であった。
(装置・条件)
装置:13C-NMR装置(日本電子株式会社製「JNM-EX400」型)
方法:プロトン完全デカップリング法(濃度:220mg/ml)
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
(計算式)
アイソタクチックペンダット分率[mmmm]=m/S×100
(式中、Sは全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度を示し、mはメソペンダット連鎖を示す(21.7~22.5ppm)。)
【0095】
得られた樹脂シートについて、以下の評価も行った。結果を表1に示す。
(厚み)
樹脂シートの厚さは、位相差顕微鏡(株式会社ニコン製「ECLIPSE80i」)を用いて、断面観察により測定した。
【0096】
(鉛筆硬度)
樹脂シートの鉛筆硬度は、JIS-K5600-5-4引っかき硬度(鉛筆法)に基づき測定した。
【0097】
(マルテンス硬さ)
樹脂シートのマルテンス硬さは、微小硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製「FischerScope HM2000Xyp」)を用いて測定した。測定条件を以下に示す。
・圧子:ビッカーズ四角錐圧子
・荷重:0~96mN
・試験時間:30秒
・試験温度:室温(24℃制御環境)
【0098】
(スメチカ晶)
樹脂シート中のポリプロピレンの結晶構造を、X線発生装置(株式会社リガク製「model ultra X 18HB」)を用いて、広角X線の散乱パターンを下記測定条件で測定し、同定した。その結果、ピーク分離してもスメチカ晶型のピークが見られたため、得られた樹脂シート中にスメチカ晶が存在することを確認した。
(測定条件)
・線源出力:50kV
・X線:300mAのCuKα線(波長=1.54Å)の単色光
【0099】
実施例2-6及び比較例1-2
樹脂シートの製造に用いる溶融樹脂として、表1に示す組成の溶融樹脂を用いた他は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0100】
【0101】
[積層体の製造と評価]
実施例7-10
押出機から表2に示す組成を有する樹脂シート製造用の溶融樹脂と、表2に示す組成を有する基材シート製造用の溶融樹脂とを、表2に示す層比(樹脂シート/基材シート)となるように下記押出機を用いて共押出しした他は、実施例1の樹脂シートの製造と同じ装置を用いて同じ操作をし、樹脂シート及び基材シートからなる積層体を製造し、評価した。結果を表2に示す。
・第1の層(樹脂シート)の押出機の直径:50mm
・第2の層(基材シート)の押出機の直径:75mm
尚、表2の積層体のアイソタクチックペンダット分率、結晶化速度、鉛筆硬度、及びマルテンス硬さの評価方法は、評価対象を樹脂シートから積層体に変更したほかは実施例1と同じである。
また、表2の樹脂シートのアイソタクチックペンダット分率及び結晶化速度の評価結果は、表2に示す組成を有する樹脂シートを実施例1と同様にして別途製造し、評価した結果である。
【0102】
【0103】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。